説明

発振回路、発振器、電子機器及び発振回路の起動方法

【課題】起動時の異常発振を抑えるとともに負荷の大きさによらず電源電圧の低電圧化が可能な発振回路、発振器、電子機器及び発振回路の起動方法を提供すること。
【解決手段】発振回路1は、共振子(水晶振動子10)と、共振子の一端から他端への帰還経路を有する増幅回路20と、電圧供給回路30と、を含む。電圧供給回路30は、電源電圧Vccが入力される時定数回路(抵抗32とコンデンサー34によるRC積分回路)を有し、電源電圧Vccが入力されてから時定数回路の時定数に応じて立ち上がるとともに増幅回路20の負荷によらず一定電圧となる駆動電圧Vを発生させ、駆動電圧Vを増幅回路20に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振回路、発振器、電子機器及び発振回路の起動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発振器は一定周波数の発振信号を生成するものであり、ほとんどすべての電子機器に組み込まれている。従来より、発振起動時の様々な要因で、発振器が意図した周波数と異なる周波数で異常発振する現象が知られており、異常発振を防止するための様々な提案がなされている。
【0003】
例えば、発振起動後の初期状態では発振回路の発振が不安定のため、出力バッファが動作した際に発生する電源ノイズにより発振回路が影響を受けて異常発振する可能性がある。そこで、特許文献1では、発振回路とその他の回路を別の電源で駆動することで異常発振を防止する手法が提案されている。また、特許文献2では、出力CMOSインバーターに供給される主電源電圧を抵抗とコンデンサーによるローパスフィルターを介して発振回路に供給することで水晶振動子の励振電力を低減し、これにより異常発振を防止する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−60347号広報
【特許文献2】特開平3−167908号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の手法では、発振起動直後から発振回路には一定の電源電圧が供給されるので、発振回路の構成に起因して発生する異常発振を防止することができない場合がある。例えば、制御電圧に応じて発振周波数を変化させることができる電圧制御型水晶発振器(VCXO:Voltage Controlled X’tal Oscillator)や電圧制御型SAW発振器(VCSO:Voltage Controlled SAW Oscillator)では、水晶振動子やSAW共振子の一端に可変容量素子を接続することで、水晶振動子の直列共振周波数と並列共振周波数の間で可変容量素子の容量値に応じた周波数で発振させることができる。この直列共振周波数と並列共振周波数はほとんど差がなく、周波数の可変範囲が極めて狭いため、周波数の可変範囲を広げる目的で、水晶振動子やSAW共振子に直列にインダクタンス素子(伸長コイル)を挿入する場合がある。ところが、伸長コイルを挿入することで、本来の発振モード以外に、伸長コイルのインダクタンスLと回路の容量(可変容量素子の容量等)CによるLC発振モードも存在することになり、発振起動時の様々な条件によってはLC発振が選択されてしまい、異常発振が起こる場合がある。
【0006】
一方、特許文献2の手法は、発振回路にローパスフィルターを介して電圧を供給することで、電源起動後、発振回路に供給される電圧を徐々に上昇させることができるので、発振回路の構成に起因して発生する異常発振を防止することも可能である。しかしながら、ローパスフィルターを構成する抵抗を流れる電流により電圧降下が生じるため、発振回路の負荷の大きさに応じて、発振回路に供給される電圧が変化する。そのため、発振回路の負荷が大きい、あるいは、発振周波数を高くするために電流を増やすと、発振回路に十分な電圧が供給されなくなるため、電源電圧の低電圧化が難しいという問題がある。
【0007】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、起動時の異常発振を抑えるとともに負荷の大きさによらず電源電圧の低電圧化が可能な発振回路、発振器、電子機器及び発振回路の起動方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、共振子と、前記共振子の一端から他端への帰還経路を有する増幅回路と、電源電圧が入力される時定数回路を有し、前記電源電圧が入力されてから前記時定数回路の時定数に応じて立ち上がるとともに前記増幅回路に接続される負荷の大きさによらず一定電圧となる駆動電圧を発生させ、当該駆動電圧を前記増幅回路に供給する電圧供給回路と、を含む、発振回路である。
【0009】
本発明によれば、電源電圧が立ち上がってから共振子による本来の発振が成長して安定するまでは、時定数回路によって増幅回路の駆動電圧のランプアップを緩慢にすることで、増幅回路の負性抵抗を緩やかに発生させることができるので、起動時の異常発振を抑えることができる。
【0010】
また、本発明によれば、増幅回路には、負荷の大きさによらず一定電圧となる駆動電圧が供給されるので、負荷の大きさによらず電源電圧の低電圧化が可能である。
【0011】
(2)この発振回路において、前記電圧供給回路は、前記時定数回路の出力電圧に基づいて、前記時定数回路の入力端子と出力端子との間を短絡するスイッチング素子を有するようにしてもよい。
【0012】
このようにすれば、電源電圧が立ち上がってから時定数回路の時定数に応じた所定時間の経過後は、電源から直接的に増幅回路に電流が流れるようになるので、時定数回路による電圧降下が無くなり、増幅回路に一定の駆動電圧を供給することができる。
【0013】
(3)この発振回路において、前記電圧供給回路は、コレクター端子が前記時定数回路の入力端子と接続され、ベース端子が前記時定数回路の出力端子と接続されたバイポーラトランジスターを有し、当該バイポーラトランジスターのエミッター端子の電圧を前記駆動電圧として前記増幅回路に供給するようにしてもよい。
【0014】
このようにすれば、電源電圧が立ち上がってから時定数回路の時定数に応じてベース電圧が上昇してバイポーラトランジスターが増幅動作を開始し、ベース電圧とエミッター電圧の間の電位差が一定になる。従って、バイポーラトランジスターのベース電圧が電源電圧まで上昇した後はエミッター電圧が一定になるので、増幅回路に一定の駆動電圧を供給することができる。
【0015】
(4)この発振回路において、前記増幅回路は、前記帰還経路に設けられたインダクタンス素子と、前記帰還経路に設けられ、前記インダクタンス素子と直列に接続された可変容量素子と、を含むようにしてもよい。
【0016】
(5)本発明は、上記のいずれかの発振回路を含む、発振器である。
【0017】
(6)本発明は、上記のいずれかの発振回路を含む、電子機器である。
【0018】
(7)本発明は、共振子と、前記共振子の一端から他端への帰還経路を有する増幅回路と、を含む発振回路の起動方法であって、電源電圧が入力されてから所定の時定数に応じて立ち上がるとともに前記増幅回路に接続される負荷の大きさによらず一定電圧となる駆動電圧を発生させ、当該駆動電圧を前記増幅回路に供給する、発振回路の起動方法である。
【0019】
本発明によれば、電源電圧が立ち上がってから共振子による本来の発振が成長して安定するまでは、所定の時定数に応じて増幅回路の駆動電圧のランプアップを緩慢にすることで、増幅回路の負性抵抗を緩やかに発生させることができるので、起動時の異常発振を抑えることができる。
【0020】
また、本発明によれば、増幅回路には、負荷の大きさによらず一定電圧となる駆動電圧が供給されるので、負荷の大きさによらず電源電圧の低電圧化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1実施形態の発振回路の構成例を示す図。
【図2】第1実施形態の発振回路の起動時の波形の一例を示す図。
【図3】第2実施形態の発振回路の構成例を示す図。
【図4】第2実施形態の発振回路の起動時の波形の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0023】
1.第1実施形態
図1は、第1実施形態の発振回路の構成例を示す図である。第1実施形態の発振回路1は、水晶振動子10、増幅回路20、電圧供給回路30を含んで構成されている。
【0024】
増幅回路20は、水晶振動子10(共振子の一例)の出力端子から入力端子に至る発振ループ(帰還経路)を有し、水晶振動子10の出力信号を増幅して当該発振ループを介して水晶振動子10の入力にフィードバックすることで、水晶振動子10の発振を継続させる。
【0025】
本実施形態では、増幅回路20は、伸長コイル200、可変容量ダイオード202、抵抗204,212,214、コンデンサー206,208,216、NPNトランジスター210を含んで構成されている。ただし、増幅回路20は、これらの要素の一部を省略したり、他の要素を追加した構成としてもよい。
【0026】
NPNトランジスター210は、ベース端子がコンデンサー206を介してグランドに接続されており、コレクター端子には抵抗220(コレクター抵抗)を介して電圧供給回路30の出力電圧V(増幅回路20の駆動電圧)が供給され、エミッター端子はグランドに接続されている。
【0027】
抵抗212と抵抗214は、電圧供給回路30の出力ノードとグランドの間に直列に接続されており、抵抗212と抵抗214の接続点がNPNトランジスター210のベース端子に接続されている。この抵抗212と抵抗214により電圧供給回路30の出力電圧Vが抵抗分割されてNPNトランジスター210の直流バイアス電圧が設定されている。
【0028】
コンデンサー208は、NPNトランジスター210のコレクター端子とグランドの間に接続されている。
【0029】
水晶振動子10の出力端子とNPNトランジスター210のベース端子との間に、可変容量ダイオード202(可変容量素子の一例)とコンデンサー206が直列に接続されており、NPNトランジスター210のコレクター端子と水晶振動子10の入力端子との間に伸長コイル200(インダクタンス素子の一例)が接続されている。
【0030】
このような構成により、水晶振動子10の出力信号は、可変容量ダイオード202とコンデンサー216を通ってNPNトランジスター210で増幅され、NPNトランジスター210のコレクター端子から伸長コイル200を通って水晶振動子の入力端子に入力される。すなわち、水晶振動子10の出力信号は、この発振ループを伝播して水晶振動子10の入力端子に入力され、水晶振動子10がインダクタンス素子として振舞うことで、いわゆるピアース発振回路が形成されている。
【0031】
また、可変容量ダイオード202のアノードは抵抗218を介してグランドに接続されており、可変容量ダイオード202のカソードには抵抗204を介して制御電圧Vcが供給される。この制御電圧Vcの値に応じて可変容量ダイオード202の容量値が変化することで発振周波数が変化する。すなわち、この発振回路1は、電圧制御型水晶発振回路として機能する。伸長コイル200は、この発振周波数の可変範囲を広げる役割を果たす。伸長コイル200のインダクタンス値が大きいほど、周波数の可変範囲が広くなるため望ましいが、伸長コイル200のインダクタンス値が大きいほど、この伸長コイル200と回路容量によるLC発振周波数が低くなる。すると、増幅回路20の負性抵抗は周波数の2乗に反比例し、LC発振周波数が低いほど負性抵抗が大きくなるので、起動時(電源投入時)にLC発振しやすくなる。つまり、水晶振動子10と回路容量による本来の発振周波数の可変範囲を広げるほど、起動時に異常発振しやすくなるという問題がある。
【0032】
この問題を解決するために、本実施形態では、電圧供給回路30が設けられている。電圧供給回路30は、抵抗32とコンデンサー34によるRC積分回路、NMOSスイッチ36、コンパレーター38を含んで構成されている。抵抗32とコンデンサー34によるRC積分回路(時定数回路)は電源端子に接続されており、当該電源端子から電源電圧Vccが供給される。NMOSスイッチ36(スイッチング素子の一例)のソース端子とドレイン端子は、抵抗32の両端に接続されている。そして、NPNトランジスター210のコレクター端子には、抵抗220(コレクター抵抗)を介して、電圧供給回路30の出力ノードであるRC積分回路の出力ノード(抵抗32とコンデンサー34の接続点)の電圧Vが供給される。
【0033】
コンパレーター38は、非反転入力端子(+入力端子)にRC積分回路の出力電圧Vが供給され、反転入力端子(−入力端子)に一定電圧Vstaが供給され、出力端子はNMOSスイッチ36のゲート端子に接続されている。
【0034】
図2は、本実施形態の発振回路1の起動時の波形の一例を示す図である。図2に示すように、時刻0で電源電圧Vccが供給されると、コンパレーター38の非反転入力端子(+入力端子)の電圧Vがコンパレーター38の反転入力端子(−入力端子)の電圧Vstaよりも低いため、コンパレーター38の出力レベルはローレベルである。従って、NMOSスイッチ36がオフしており、抵抗32とコンデンサー34によるRC積分回路の時定数に応じて電圧Vが徐々に上昇する。そして、RC積分回路の時定数に応じて決まる所定時間tが経過すると、電圧Vが一定電圧Vstaよりも高くなり、コンパレーター38の出力レベルがハイレベルになる。すると、NMOSスイッチ36がオンして抵抗32の両端がショートされるので、抵抗32に流れる電流による電圧降下がなくなり、電圧Vは電源電圧Vccと一致する。
【0035】
なお、所定時間tが、発振回路1の発振(NPNトランジスター210のコレクター端子から出力される発振信号)が安定するのに十分な時間(例えば、200μs以上)になるように、一定電圧Vstaが設定される。
【0036】
このように、第1実施形態の発振回路1によれば、電源投入後、水晶振動子10と回路容量による発振が成長して安定するまでは、増幅回路20の駆動電圧Vのランプアップを緩慢にして増幅回路20の負性抵抗を緩やかに発生させることで、起動時に異常発振(伸長コイル200と回路容量によるLC発振)しにくくなる。
【0037】
一方、所定時間経過後は、抵抗32の両端をショートすることで、抵抗32に流れる電流による電圧降下を無くし、増幅回路200に接続される負荷の大きさによらず、増幅回路の駆動電圧Vを一定電圧Vccに安定化することができる。
【0038】
なお、伸長コイル200と回路容量によるLC発振が起こらないように、電源投入からNMOSスイッチ36がオンするまでの時間を十分に長く(例えば、200μs以上)するためには、現実的には抵抗32の抵抗値をある程度大きくする必要がある。そして、発振周波数が高いほど、NPNトランジスター210に流す電流を大きくする必要があるので、仮に抵抗32の両端をショートしなければ、増幅回路20の駆動電圧Vは、電源電圧Vccよりも相当低い電圧になってしまう。従って、発振周波数を高くし、あるいは、電源電圧Vccを低くすると、増幅回路200を駆動できなくなる場合もある。これに対して、本実施形態の発振回路1では、電源投入から所定時間経過後に抵抗32の両端をショートすることで、増幅回路20の駆動電圧Vを一定電圧Vccに安定化するので、発振周波数の高周波数化や電源電圧の低電圧化にも対応することができる。
【0039】
2.第2実施形態
図3は、第2実施形態の発振回路の構成例を示す図である。第2実施形態の発振回路1は、SAW共振子50、増幅回路60、電圧供給回路70を含んで構成されている。
【0040】
増幅回路60は、SAW共振子50(共振子の一例)の出力端子から入力端子に至る発振ループ(帰還経路)を有し、SAW共振子50の出力信号を増幅して当該発振ループを介してSAW共振子50の入力にフィードバックすることで、SAW共振子50の発振を継続させる。
【0041】
本実施形態では、増幅回路60は、伸長コイル61、可変容量コンデンサー62、抵抗63,67,68、コンデンサー64,65、NPNトランジスター66を含んで構成されている。ただし、増幅回路60は、これらの要素の一部を省略したり、他の要素を追加した構成としてもよい。
【0042】
NPNトランジスター66(バイポーラトランジスターの一例)は、ベース端子がSAW共振子50の出力端子に接続されており、コレクター端子には電圧供給回路70の出力電圧(増幅回路60の駆動電圧)が供給され、エミッター端子は抵抗67を介してグランドに接続されている。
【0043】
抵抗63と抵抗68は、電源端子とグランドの間に直列に接続されており、抵抗63と抵抗68の接続点がNPNトランジスター66のベース端子に接続されている。この抵抗63と抵抗68により電源電圧Vccが抵抗分割されてNPNトランジスター66の直流バイアス電圧が設定されている。
【0044】
コンデンサー64とコンデンサー65は、NPNトランジスター66のベース端子とグランドの間に直列に接続されており、コンデンサー64とコンデンサー65の接続点は、NPNトランジスター66のエミッター端子と接続されている。
【0045】
伸長コイル61(インダクタンス素子の一例)と可変容量コンデンサー62(可変容量素子の一例)は、SAW共振子50の入力端子とグランドとの間に直列に接続されている。そして、可変容量コンデンサー62には制御電圧Vcが供給され、この制御電圧Vcの値に応じて可変容量コンデンサー62の容量値が変化することで発振周波数が変化する。すなわち、この発振回路1は、電圧制御型SAW発振回路として機能する。伸長コイル61は、この発振周波数の可変範囲を広げる役割を果たす。
【0046】
このような構成により、SAW共振子50の出力信号は、NPNトランジスター66によって増幅され、NPNトランジスター66のエミッター端子、抵抗67、グランド、可変容量コンデンサー62、伸長コイル61を介した発振ループを伝播してSAW共振子50の入力端子に入力される。そして、SAW共振子50がインダクタンス素子として振舞うことで、いわゆるコルピッツ発振回路が形成されている。
【0047】
第1実施形態と同様に、第2実施形態の発振回路1でも、伸長コイル61のインダクタンス値が大きいほど、周波数の可変範囲が広くなるため望ましいが、伸長コイル61のインダクタンス値が大きいほど、この伸長コイル61と回路容量によるLC発振周波数が低くなる。すると、増幅回路60の負性抵抗は周波数の2乗に反比例し、LC発振周波数が低いほど負性抵抗が大きくなるので、起動時(電源投入時)にLC発振しやすくなる。つまり、SAW共振子50と回路容量による本来の発振周波数の可変範囲を広げるほど、起動時に異常発振しやすくなるという問題がある。
【0048】
この問題を解決するために、本実施形態では、電圧供給回路70が設けられている。電圧供給回路70は、抵抗72とコンデンサー74によるRC積分回路(時定数回路)とNPNトランジスター76を含んで構成されている。抵抗72とコンデンサー74によるRC積分回路は電源端子に接続されており、当該電源端子から電源電圧Vccが供給される。また、NPNトランジスター76は、ベース端子が、抵抗72とコンデンサー74の接続点に接続され、コレクター端子には電源電圧Vccが供給され、エミッター端子は、増幅回路60に含まれるNPNトランジスター66のコレクター端子に接続されている。
【0049】
図4は、本実施形態の発振回路1の起動時の波形の一例を示す図である。図4に示すように、時刻0で電源電圧Vccが供給されると、抵抗72とコンデンサー74によるRC積分回路の時定数に応じてNPNトランジスター76のベース電圧が徐々に上昇する。これにより、NPNトランジスター76に流れる電流が徐々に増えていく。そして、所定時間tが経過し、NPNトランジスター76のベース電圧がVBE(ベース−エミッター間電圧)を超えると、NPNトランジスター76のベース電圧の上昇に追従してエミッター電圧(NPNトランジスター66のコレクター電圧であり、増幅回路60の駆動電圧)が徐々に上昇する。そして、NPNトランジスター66のコレクター電圧(増幅回路60の駆動電圧)がベース電圧よりも高くなると発振が開始し、NPNトランジスター66のコレクター電圧(増幅回路60の駆動電圧)の上昇とともに発振が成長していく。
【0050】
このように、第2実施形態の発振回路1によれば、電源投入後、増幅回路60の駆動電圧のランプアップを緩慢にして増幅回路60の負性抵抗を緩やかに発生させることで、起動時に異常発振(伸長コイル61と回路容量によるLC発振)しにくくなる。
【0051】
また、NPNトランジスター76のベース電圧がVccまで上昇した後は、NPNトランジスター76のエミッター電圧はVcc−VBEに固定されるので、増幅回路60に接続される負荷の大きさによらず、増幅回路60の駆動電圧を一定電圧に安定化することができる。従って、発振周波数の高周波数化や電源電圧の低電圧化にも対応することができる。
【0052】
なお、本発明は本実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0053】
共振子としては、例えば、SAW共振子、ATカット水晶振動子、SCカット水晶振動子、音叉型水晶振動子などを用いることができる。
【0054】
共振子の基板材料としては、水晶、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム等の圧電単結晶や、ジルコン酸チタン酸鉛等の圧電セラミックス等の圧電材料、又はシリコン半導体材料等を用いることができる。
【0055】
共振子の励振手段としては、圧電効果によるものを用いてもよいし、クーロン力による静電駆動を用いてもよい。
【0056】
また、スイッチング素子としては、バイポーラトランジスター、電界効果トランジスター(FET:Field Effect Transistor)、金属酸化膜型電界効果トランジスター(MOSFET:Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、サイリスター等を用いることができる。
【0057】
また、本実施形態では、発振ループにインダクタンス素子と可変容量素子が設けられた電圧制御型水晶発振回路や電圧制御型SAW発振回路を例に挙げて説明したが、本発明は、発振ループにインダクタンス素子が無い電圧制御型発振回路や、発振ループにインダクタンス素子も可変容量素子もなく一定周波数で発振する単純な発振回路にも適用することができる。
【0058】
また、本発明は、発振回路を含む発振器に適用することができる。本発明の発振器としては、特に限定されないが、圧電発振器(水晶発振器等)、SAW発振器、電圧制御型発振器(VCXOやVCSO等)、温度補償型発振器(TCXO等)、恒温型発振器(OCXO等)、原子発振器等が挙げられる。
【0059】
また、本発明は、発振回路を含む電子機器に適用することができる。本発明の電子機器としては、特に限定されないが、パーソナルコンピューター(例えば、モバイル型パーソナルコンピューター)、携帯電話機などの移動体端末、ディジタルスチールカメラ、インクジェット式吐出装置(例えば、インクジェットプリンター)、ラップトップ型パーソナルコンピューター、タブレット型パーソナルコンピューター、ルーターやスイッチなどのストレージエリアネットワーク機器、ローカルエリアネットワーク機器、テレビ、ビデオカメラ、ビデオテープレコーダー、カーナビゲーション装置、ページャー、電子手帳(通信機能付も含む)、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ゲーム用コントローラー、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニター、電子双眼鏡、POS端末、医療機器(例えば電子体温計、血圧計、血糖計、心電図計測装置、超音波診断装置、電子内視鏡)、魚群探知機、各種測定機器、計器類(例えば、車両、航空機、船舶の計器類)、フライトシュミレーター、ヘッドマウントディスプレイ、モーショントレース、モーショントラッキング、モーションコントローラー、PDR(歩行者位置方位計測)等が挙げられる。
【0060】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0061】
1 発振回路、10 水晶振動子、20 増幅回路、30 電圧供給回路、32 抵抗、34 コンデンサー、36 NMOSスイッチ、38 コンパレーター、50 SAW共振子、60 増幅回路、61 伸長コイル、62 可変容量コンデンサー、63 抵抗、64 コンデンサー、65 コンデンサー、66 NPNトランジスター、67 抵抗、68 抵抗、70 電圧供給回路、72 抵抗、74 コンデンサー、76 NPNトランジスター、200 伸長コイル、202 可変容量ダイオード、204 抵抗、206 コンデンサー、208 コンデンサー、210 NPNトランジスター、212 抵抗、214 抵抗、216 コンデンサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振子と、
前記共振子の一端から他端への帰還経路を有する増幅回路と、
電源電圧が入力される時定数回路を有し、前記電源電圧が入力されてから前記時定数回路の時定数に応じて立ち上がるとともに前記増幅回路に接続される負荷の大きさによらず一定電圧となる駆動電圧を発生させ、当該駆動電圧を前記増幅回路に供給する電圧供給回路と、を含む、発振回路。
【請求項2】
請求項1において、
前記電圧供給回路は、
前記時定数回路の出力電圧に基づいて、前記時定数回路の入力端子と出力端子との間を短絡するスイッチング素子を有する、発振回路。
【請求項3】
請求項1において、
前記電圧供給回路は、
コレクター端子が前記時定数回路の入力端子と接続され、ベース端子が前記時定数回路の出力端子と接続されたバイポーラトランジスターを有し、当該バイポーラトランジスターのエミッター端子の電圧を前記駆動電圧として前記増幅回路に供給する、発振回路。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項において、
前記増幅回路は、
前記帰還経路に設けられたインダクタンス素子と、
前記帰還経路に設けられ、前記インダクタンス素子と直列に接続された可変容量素子と、を含む、発振回路。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の発振回路を含む、発振器。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の発振回路を含む、電子機器。
【請求項7】
共振子と、前記共振子の一端から他端への帰還経路を有する増幅回路と、を含む発振回路の起動方法であって、
電源電圧が入力されてから所定の時定数に応じて立ち上がるとともに前記増幅回路に接続される負荷の大きさによらず一定電圧となる駆動電圧を発生させ、当該駆動電圧を前記増幅回路に供給する、発振回路の起動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−93785(P2013−93785A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235664(P2011−235664)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】