説明

皮膚バリア機能向上のための皮膚外用剤

【課題】一度亢進したTEWLが、皮膚に対して悪循環を形成しないように、速やかにこれを低下せしめる技術を提供する。
【解決手段】 1)ウルソール酸、その塩及びそのエステルから選択される1種以上と、2)キンポウゲ科オウレン(Coptis japonica Makino)の抽出物とを、皮膚外用剤に含有させる。前記ウルソール酸、その塩及びそのエステルから選択される1種以上として、少なくともウルソール酸ベンジルを含有することが好ましく、前記キンポウゲ科オウレンの抽出物としては、コプチシン(Coptisine)を0.05〜1質量%含有するものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚外用剤に関し、更に詳細には経皮的水分散逸(TEWL)が亢進した人も使用するのに適した皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ウルソール酸はトリテルペン酸の1種であり、ウルソール酸或いはそのメチルエステル、ステアリルエステル、オレイルエステル、ベンジルエステルなどのウルソール酸誘導体は、皮膚に対して種々の作用を有するため、有用な化粧品原料となっている。前記皮膚に対する作用としては、例えば、頭皮の乾燥に対する作用(例えば、特許文献1を参照)、育毛作用(例えば、特許文献2を参照)、シワに対する改善効果(例えば、特許文献3を参照)、ストレス性の皮膚疾患に対する作用(例えば、特許文献4を参照)等が知られている。
【0003】
又、キンポウゲ科オウレン(Coptis japonica Makino)の抽出物は、化粧料用の原料として既に知られており、コラーゲン合成を促進する作用(例えば、特許文献5を参照)、外部刺激より皮膚を防護する作用(例えば、特許文献6、特許文献7を参照)などを有することが知られている。
【0004】
一方、1)ウルソール酸、その塩及びそのエステルから選択される1種以上と、2)キンポウゲ科オウレン(Coptis japonica Makino)の抽出物とを含有する、皮膚外用剤は全く知られていないし、かかる構成の皮膚外用剤が、経皮的水分散逸(TEWL)が亢進した人の皮膚バリア機能を再構築する作用に優れ、TEWLの亢進と、これによる皮膚バリア機能の損傷の悪循環を絶ちきり、この様な人の皮膚の状態を改善する作用を有することも全く知られていなかった。
【0005】
他方、TEWLの著しい亢進を伴う皮膚の不調は近年急激に増加しつつある現象の一つであり、TEWLの著しい亢進に伴い、皮膚バリア機能が著しく低下し、これにより皮膚自体が更に過敏さを増すという現象である。近年増加している敏感肌、化学物質過敏症野中には、前記のバリア機能の低下を発端に、これが悪循環を繰り返して症状が重篤になったものが少なくないと言われている。又、この発端となる皮膚バリア機能の低下の原因の一つに過剰に負荷されたストレスに対する生体側の交感神経の著しい亢進があるとも言われている。TEWLの亢進は、更なる交感神経の亢進も招くので、この悪循環を絶ちきることが皮膚改善に肝要であり、この様な技術の開発が望まれていた。
【0006】
【特許文献1】特開2004−277406号公報
【特許文献2】特開2004−182627号公報
【特許文献3】特開2002−255781号公報
【特許文献4】特開2002−97135号公報
【特許文献5】特開2005−281284号公報
【特許文献6】特開2005−206573号公報
【特許文献7】特開平11−29460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、この様な状況下為されたものであり、一度亢進したTEWLが、皮膚に対して悪循環を形成しないように、速やかにこれを低下せしめる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この様な状況に鑑みて、本発明者らは、一度亢進したTEWLが、皮膚に対して悪循環を形成しないように、速やかにこれを低下せしめる技術を求めて、鋭意研究努力を重ねた結果、1)ウルソール酸、その塩及びそのエステルから選択される1種以上と、2)キンポウゲ科オウレン(Coptis japonica Makino)の抽出物とを含有する皮膚外用剤が、この様な特性を備えていることを見出し、発明を完成させるに至った。即ち、本発明は、以下に示すとおりである。
(1)1)ウルソール酸、その塩及びそのエステルから選択される1種以上と、2)キンポウゲ科オウレン(Coptis japonica Makino)の抽出物とを含有することを特徴とする、皮膚外用剤。
(2)前記ウルソール酸、その塩及びそのエステルから選択される1種以上として、少なくともウルソール酸ベンジルを含有することを特徴とする、(1)に記載の皮膚外用剤。
(3)前記キンポウゲ科オウレンの抽出物が、コプチシン(Coptisine)を0.05〜1質量%含有するものであることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の皮膚外用剤。
(4)前記キンポウゲ科オウレンの抽出物が次の工程を経て製造されたものであることを特徴とする、(1)〜(3)何れか1項に記載の皮膚外用剤。
工程1:キンポウゲ科オウレンの根茎部を乾燥させ、所望により粉砕乃至は細切する。
工程2:工程1のキンポウゲ科オウレンの加工物に、50%エタノール水溶液を1〜50質量倍加え、所望により攪拌を加えながら、室温であれば1〜7日、沸点付近の温度であれば1〜5時間浸漬する。浸漬後、処理液は室温に戻す。
工程3:工程2の処理液を濾過して不溶分を除き、エタノールを減圧除去し、しかる後凍結乾燥する。
工程4:工程3の凍結乾燥物中のコプチシンの含有量を定量し、0.1〜1質量%の範囲にあることを確認し、該確認が出来た抽出物を適性として採用する。
(5)更に、ダイマー酸のジエステルを含有することを特徴とする、(1)〜(4)何れか1項に記載の皮膚外用剤。
(6)水中油乳化剤形であることを特徴とする、(1)〜(5)何れか1項に記載の皮膚外用剤。
(7)経皮的水分散逸(TEWL)が亢進した人用の、化粧料であることを特徴とする、(1)〜(6)何れか1項に記載の皮膚外用剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、一度亢進したTEWLが、皮膚に対して悪循環を形成しないように、速やかにこれを低下せしめる技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(1)本発明の皮膚外用剤の必須成分であるウルソール酸乃至はその誘導体
本発明の皮膚外用剤は、必須成分として、ウルソール酸、その塩及びそのエステルから選択される1種以上を必須成分として含有することを特徴とする。ウルソール酸の塩としては、通常化粧料で知られているアルカリ塩であれば特段の限定無く使用することが出来、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、トリエタノールアミン塩、トリエチルアミン塩等の有機アミン塩類、リジン塩、アルギニン塩等の塩基性アミノ酸塩等が好ましく例示できる。又、ウルソール酸のエステルとしては、炭素数1〜30の脂肪族乃至は芳香族のエステルが好ましく例示でき、例えば、脂肪族のエステルであれば、メチルエステル、エチルエステル、ヘキシルエステル、2−エチルヘキシルエステル、ラウリルエステル、ステアリルエステル、ベヘニルエステル、イソステアリルエステル、オレイルエステルなどが好ましく例示でき、芳香族エステルであれば、ベンジルエステル、フェネチルエステル、シンナミルエステルなどが好適に例示できる。かかるエステルは、エステルを形成するアルコールに塩化チオニルなどのハロゲン化試薬を反応させ、ハライドに変換し、しかる後にアルカリ存在下ウルソール酸と縮合することにより製造することが出来る。以下に、製造例を示す。
【0011】
<製造例1>
ウルソール酸4.5gをジメチルホルムアミド100mlに溶解させ、これに炭酸カリウム1gを加え、80℃に昇温し、これにメチルアイオダイド1mlを滴下し、80℃で3時間反応させ、しかる後、減圧溜去し、残差をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;クロロホルム)で精製し、2.7gのウルソール酸メチルエステルを得た。
【0012】
<製造例2>
ウルソール酸4.5gと、ステアリルアルコール3gと塩化チオニル2mlを反応させて得たステアリルクロリドとを製造例1と同様の手技で処理し、3.9gのウルソール酸ステアリルエステルを得た。
【0013】
<製造例3>
ウルソール酸4.5gと、オレイルアルコール3gと塩化チオニル2mlを反応させて得たオレイルクロリドとを製造例1と同様の手技で処理し、3.2gのウルソール酸オレイルエステルを得た。
【0014】
<製造例4>
ウルソール酸4.5gと、ベンジルクロリド1.5mlとを製造例1と同様の手技で処理し、2.4gのウルソール酸ベンジルエステルを得た。
【0015】
本発明の皮膚外用剤は、この様なウルソール酸、ウルソール酸の塩、ウルソール酸のエステルを唯一種含有させることも出来るし、二種以上組み合わせて含有させることも出来る。特に本発明の皮膚外用剤において好ましい形態は、ウルソール酸ベンジルエステルのみを含有する形態である。かかる成分は、TEWLの亢進した皮膚に対して、後記に示すダイマー酸のジエステルとともに働き、皮膚にバリア機構を再構築し、皮膚バリア機能の低下と、交感神経の亢進の悪循環を絶ちきる作用を奏する。この様な作用を奏するためには、ウルソール酸、その塩及びそのエステルから選択される1種以上は、皮膚外用剤総量に対して、0.01〜5質量%、より好ましくは、0.05〜1質量%含有することが好ましい。これは、配合量が多すぎても、溶解させて配合することが困難な場合が存し、少なすぎると効果を奏さない場合が存するからである。
【0016】
(2)本発明の皮膚外用剤の必須成分であるキンポウゲ科オウレンの抽出物
本発明の皮膚外用剤は、必須成分として、キンポウゲ科オウレンの抽出物を含有することを特徴とする。前記キンポウゲ科オウレンの抽出物としては、オウレンの根茎部の抽出物が好ましく、抽出物としては、水と水に任意の割合で混合可能な有機溶剤の混合溶剤による抽出が好ましく、具体的には水とメタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、ターシャリーブタノールなどのアルコールとの混合溶剤が好ましく、中でも水:エタノール=1:2〜2:1のエタノール水溶液が特に好ましい。かかる溶剤を用いて抽出物を作成するに際しては、できあがった抽出物がコプチシン(Coptisine)を0.05〜1質量%、より好ましくは0.1〜0.5質量%含有するような性質になることが好ましい。この様な要件を満たすことにより、ウルソール酸類とともに働いて、優れた皮膚バリア機能の再構築を促す成分を多く含んだ抽出物となる。この様な要件を満たす抽出物は、例えば、次に示す工程に沿って製造される。
【0017】
工程1:キンポウゲ科オウレンの根茎部を乾燥させ、所望により粉砕乃至は細切する。
工程2:工程1のキンポウゲ科オウレンの加工物に、50%エタノール水溶液を1〜50質量倍加え、所望により攪拌を加えながら、室温であれば1〜7日、沸点付近の温度であれば1〜5時間浸漬する。浸漬後、処理液は室温に戻す。
工程3:工程2の処理液を濾過して不溶分を除き、エタノールを減圧除去し、しかる後凍結乾燥する。
工程4:工程3の凍結乾燥物中のコプチシンの含有量を定量し、0.1〜1質量%の範囲にあることを確認し、該確認が出来た抽出物を適性として採用する。
【0018】
以下に、オウレンの抽出物の製造例を示す。
<製造例5>
オウレンの根茎の乾燥物をミキサーにかけて粉砕し、該粉砕物500gを5lのステンレス釜に移し、3lの50%エタノール水溶液を加え、加熱還流を4時間行い、室温まで冷却後、不溶物を濾過で取り除き、減圧濃縮し、エタノールを除去した後、凍結乾燥し、抽出物をアモルファスとして95g得た。このものをHPLC(NH2修飾シリカゲルカラム4.6mm×250mm、溶出溶媒;アセトニトリル:メタノール=100:0→90:10、検知;紫外部220nm、カラム温度;40℃、流速;1ml/分)で分析したところ、コプチシンの含有量は0.4質量%であった。
【0019】
本発明の皮膚外用剤においては、かかるオウレンの抽出物は、ウルソール酸類とともに働いて、優れた皮膚バリア機能の再構築作用を発現する。この様な作用を充分に発現させるためには、前記オウレンの抽出物は、皮膚外用剤全量に対して、0.01〜10質量%含有させることが好ましく、より好ましくは0.05〜1質量%である。少なすぎるとこの様な作用を発揮しない場合が存するし、多すぎても効果が頭打ちになり、徒に処方の自由度を損なう場合が存する。
【0020】
(3)本発明の皮膚外用剤
本発明の皮膚外用剤は、前記必須成分を含有することを特徴とする。本発明の皮膚外用剤としては、皮膚に外用で投与されるものであれば特段の限定はなく、例えば、化粧料、皮膚外用医薬、皮膚外用雑貨などが例示できる。又、その剤形も可溶化、マイクロエマルション、乳化系、分散系の何れでも、何れの組合せでも良い。特に好ましいものは乳化剤形の化粧料であり、中でも、水中油乳化剤形の化粧料である。これはウルソール酸類とオウレンの抽出物とをともに有効量、容易に皮膚内に投与できるためである。この様な乳化においては、水溶性高分子を用いた乳化が好ましく、前記水溶性高分子としてはアルギン酸、アルギン酸の多価アルコールエステル或いはこれらの塩が特に好ましく例示できる。又、油剤としてダイマー酸のジエステルを含有することも好ましい。
【0021】
前記ダイマー酸は、炭素数18の不飽和脂肪酸を2量化して得られる炭素数36の(二重結合を持った)脂肪族2塩基酸である。炭素数18の不飽和脂肪酸は、大豆等の植物から得られるオレイン酸、リノール酸を主体とするものが好ましく、ダイマー酸の構造としては、ダイマージオレイン酸、ダイマージリノール酸である。ダイマー酸は、「ダイマー酸」として市販されており、本発明では市販品を用いることができるが、市販品はかなり多くの化合物の混合物であるが、分子構造中に1個の環状構造を有した炭素数36の脂肪族2塩基酸を主成分としている。かかるダイマー酸は、そのままジエステルへ誘導することも出来るし、不飽和結合を一部乃至は全部の水素添加で飽和結合へ部分的或いは完全に誘導して水素添加物に変えた形で使用することも出来る。ダイマー酸のジエステルを構成するアルコール部分としては、通常化粧料で使用されている高級アルコール、ダイマー酸を還元して得られるダイマーアルコールなどが好適に例示できる。前記高級アルコールにはコレステロールや、フィトステロールなどの脂肪族環状アルコールも包含する。ダイマー酸とアルコールを縮合しジエステルへ誘導する方法としては、ダイマー酸を塩化チオニルなどでハロゲン化し、しかる後にアルカリ存在下縮合することにより製造できる。この様なダイマー酸のジエステルの内、好ましいものを例示すれば、例えば、ダイマージリノール酸ジイソステアリル、水添ダイマージリノール酸ジイソステアリル、ダイマージリノール酸ジフィトステリル、水添ダイマージリノール酸ジフィトステリル、ダイマージリノール酸ダイマージリノレイル、水添ダイマージリノール酸ジベヘニル、ダイマージリノール酸ダイマージリノレイル、水添ダイマージリノール酸ダイマージリノレイル等が例示できるし、混合アルコールエステル、例えば、ダイマージリノール酸ジ(フィトステリル・イソステアリル・セチル・ステアリル・ベヘニル)の様な形態を取ることも好ましい。この様なダイマー酸のジエステルには市販品も存し、かかる市販品を購入して使用することも出来る。この様な市販品としては、例えば、ダイマージリノール酸ジ(フィトステリル・イソステアリル・セチル・ステアリル・ベヘニル)である、プランドゥール(日本精化社製;Plandool−S、Plandool−H)、水添ダイマージリノール酸イソステアリル/フィトステリルであるラスプランPI−DA(LUSPLAN PI−DA;日本精化株式会社製)、水添ダイマージリノール酸ダイマージリノレイルであるラスプランDD−DA5(LUSPLAN DD−DA5;日本精化株式会社製)、水添ダイマージリノール酸ダイマージリノレイルである、ラスプランDD−DA7(LUSPLANDD−DA7;日本精化株式会社製)等が好適に例示できる。
【0022】
本発明の皮膚外用剤において、かかるダイマー酸のジエステルは、前記ウルソール酸、その塩、そのエステルとともに作用して、TEWLが亢進している皮膚の皮膚バリア機能を再構築して、速やかにTEWLを定常状態へと遷移させる働きをする。この様な作用を発揮するためには、かかるダイマー酸のジエステルは唯一種を含有させることも出来るし、二種以上を組み合わせて含有させることも出来る。この様な作用を発揮させるためには、かかるダイマー酸のジエステルは、皮膚外用剤全量に対して、総量で、0.1〜10質量%含有することが好ましく、より好ましくは0.2〜1質量%である。これは少なすぎると前記作用を発現しない場合が存し、多すぎるとべたついて使用感を損なったり、製剤安定性に影響を及ぼす場合が存するためである。
【0023】
前記アルギン酸、アルギン酸の多価アルコールエステル乃至はそれらの塩の内、アルギン 酸の多価アルコールのエステルを構成する多価アルコールとしては、皮膚外用剤などで使用されているものであれば特段の限定なく使用することが出来、炭素数2〜4のものが好ましく、エーテル結合を持たないものが好ましい。具体的には、プロピレングリコール、グリセリン、1,3−ブタンジオール、エチレングリコール等が好ましく例示でき、中でも親水性と親油性のバランスから、プロピレングリコールが特に好ましく例示できる。これらのアルギン 酸の多価アルコールのエステルは何れも既知化合物であり、その製造方法は既に知られている。かかるアルギン 酸の多価アルコールのエステルの製造法としては、アルギン 酸ナトリウム等のアルギン 酸の塩と、対応する多価アルコールのモノハロゲン化物を、アルカリ存在下反応させることが例示できる。例えば、アルギン 酸プロピレングリコールエステルであれば、アルギン 酸ナトリウムと1−クロル−2−プロパノールを含水アルコール中で炭酸カリウムなどを存在させて反応させればよいし、アルギン 酸グリセリルエステルであれば、前記の反応の1−クロル−ープロパノールを1−クロル−2,3−プロパンジオールに代えて同様に処理すれば製造することが出来る。又、この様なエステル類に既に市販されているものも存在し、その様な市販品を購入して利用することも出来る。好適な市販品としては、例えば、アルギン 酸プロピレングリコールエステルであれば、株式会社キミカから販売されている、「キミロイドLLV」、「キミロイドLV」、「キミロイドMV」、「キミロイHV」、「キミロイドBF」、「キミロイドNLSK」等が挙げられる。これらは、粘度とエステル化度がことなる。本発明の乳化組成物として使用する上で、特に好ましいものは、「キミロイドNLSK」である。本発明の乳化組成物に於いて、かかるアルギン 酸の多価アルコールのエステルは、油性成分を安定に乳化分散させる作用を有する。これらのアルギン 酸の多価アルコールのエステルは唯一種を含有させることも出来るし、二種以上組み合わせて含有させることも出来る。本発明の皮膚外用剤に於ける、かかるアルギン 酸の多価アルコールエステルの好ましい含有量は、皮膚外用剤全量に対して、総量で、0.1〜5重量%であり、更に好ましくは0.2〜2重量%である。又、アルギン酸の多価アルコールを含有させる場合には、アルギン酸及び/又はその塩を併用して含有させることがより好ましい。この様な場合におけるアルギン酸及び/又はその塩の好ましい含有量は0.1〜5質量%であり、より好ましくは0.3〜1質量%である。かかる成分は、所望により塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどの塩を加えて、架橋構造を部分的に構築させて使用することも出来る。これらを含有させることにより、乳化物や可溶化物のミセルを安定化させて皮膚に存在させることも出来る。
【0024】
本発明の皮膚外用剤においては、かかる成分以外に、通常皮膚外用剤で使用される任意成分を含有することが出来る。この様な任意成分としては、例えば、マカデミアナッツ油、アボガド油、トウモロコシ油、オリーブ油、ナタネ油、ゴマ油、ヒマシ油、サフラワー油、綿実油、ホホバ油、ヤシ油、パーム油、液状ラノリン、硬化ヤシ油、硬化油、モクロウ、硬化ヒマシ油、ミツロウ、キャンデリラロウ、カルナウバロウ、イボタロウ、ラノリン、還元ラノリン、硬質ラノリン、ホホバロウ等のオイル、ワックス類;流動パラフィン、スクワラン、プリスタン、オゾケライト、パラフィン、セレシン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックス等の炭化水素類;オレイン酸、イソステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、ウンデシレン酸等の高級脂肪酸類;セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、オクチルドデカノール、ミリスチルアルコール、セトステアリルアルコール等の高級アルコール等;イソオクタン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、イソステアリン酸ヘキシルデシル、アジピン酸ジイソプロピル、セバチン酸ジ−2−エチルヘキシル、乳酸セチル、リンゴ酸ジイソステアリル、ジ−2−エチルヘキサン酸エチレングリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、ジ−2−ヘプチルウンデカン酸グリセリン、トリ−2−エチルヘキサン酸グリセリン、トリ−2−エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、テトラ−2−エチルヘキサン酸ペンタンエリトリット等の合成エステル油類;ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン等の鎖状ポリシロキサン;オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサンシロキサン等の環状ポリシロキサン;アミノ変性ポリシロキサン、ポリエーテル変性ポリシロキサン、アルキル変性ポリシロキサン、フッ素変性ポリシロキサン等の変性ポリシロキサン等のシリコーン油等の油剤類;脂肪酸セッケン(ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム等)、ラウリル硫酸カリウム、アルキル硫酸トリエタノールアミンエーテル等のアニオン界面活性剤類;塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、ラウリルアミンオキサイド等のカチオン界面活性剤類;イミダゾリン系両性界面活性剤(2−ココイル−2−イミダゾリニウムヒドロキサイド−1−カルボキシエチロキシ2ナトリウム塩等)、ベタイン系界面活性剤(アルキルベタイン、アミドベタイン、スルホベタイン等)、アシルメチルタウリン等の両性界面活性剤類;ソルビタン脂肪酸エステル類(ソルビタンモノステアレート、セスキオレイン酸ソルビタン等)、グリセリン脂肪酸類(モノステアリン酸グリセリン等)、プロピレングリコール脂肪酸エステル類(モノステアリン酸プロピレングリコール等)、硬化ヒマシ油誘導体、グリセリンアルキルエーテル、POEソルビタン脂肪酸エステル類(POEソルビタンモノオレエート、モノステアリン酸ポリオキエチレンソルビタン等)、POEソルビット脂肪酸エステル類(POE−ソルビットモノラウレート等)、POEグリセリン脂肪酸エステル類(POE−グリセリンモノイソステアレート等)、POE脂肪酸エステル類(ポリエチレングリコールモノオレート、POEジステアレート等)、POEアルキルエーテル類(POE2−オクチルドデシルエーテル等)、POEアルキルフェニルエーテル類(POEノニルフェニルエーテル等)、プルロニック型類、POE・POPアルキルエーテル類(POE・POP2−デシルテトラデシルエーテル等)、テトロニック類、POEヒマシ油・硬化ヒマシ油誘導体(POEヒマシ油、POE硬化ヒマシ油等)、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグルコシド等の非イオン界面活性剤類;ポリエチレングリコール、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジグリセリン、イソプレングリコール、1,2−ペンタンジオール、2,4−ヘキサンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール等の多価アルコール類;ピロリドンカルボン酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム等の保湿成分類;表面を処理されていても良い、マイカ、タルク、カオリン、合成雲母、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、無水ケイ酸(シリカ)、酸化アルミニウム、硫酸バリウム等の粉体類、;表面を処理されていても良い、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄、酸化コバルト、群青、紺青、酸化チタン、酸化亜鉛の無機顔料類;表面を処理されていても良い、雲母チタン、魚燐箔、オキシ塩化ビスマス等のパール剤類;レーキ化されていても良い赤色202号、赤色228号、赤色226号、黄色4号、青色404号、黄色5号、赤色505号、赤色230号、赤色223号、橙色201号、赤色213号、黄色204号、黄色203号、青色1号、緑色201号、紫色201号、赤色204号等の有機色素類;ポリエチレン末、ポリメタクリル酸メチル、ナイロン粉末、オルガノポリシロキサンエラストマー等の有機粉体類;パラアミノ安息香酸系紫外線吸収剤;アントラニル酸系紫外線吸収剤;サリチル酸系紫外線吸収剤、;桂皮酸系紫外線吸収剤、;ベンゾフェノン系紫外線吸収剤;糖系紫外線吸収剤;2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、4−メトキシ−4’−t−ブチルジベンゾイルメタン等の紫外線吸収剤類;エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール類;ビタミンA又はその誘導体、ビタミンB6塩酸塩、ビタミンB6トリパルミテート、ビタミンB6ジオクタノエート、ビタミンB2又はその誘導体、ビタミンB12、ビタミンB15又はその誘導体等のビタミンB類;α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、ビタミンEアセテート等のビタミンE類、ビタミンD類、ビタミンH、パントテン酸、パンテチン、ピロロキノリンキノン等のビタミン類等;フェノキシエタノール等の抗菌剤などが好ましく例示できる。これらの成分を常法に従って処理することにより、本発明に皮膚外用剤は製造することが出来る。
【0025】
以下に、実施例を挙げて、本発明について、更に詳細に説明を加えるが、かかる実施例にのみ、本発明が限定されないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0026】
以下に示す表1の処方に従って、本発明の皮膚外用剤である、水中油乳化剤形の化粧料1を製造した。即ち、イ、ロ、ハの成分を80℃に加熱して、イに徐々にロを攪拌下加え、しかる後に、ハも加えて架橋を形成させ、攪拌冷却して化粧料1を得た。
【0027】
【表1】

【0028】
<試験例1>
ボランティアのパネラー(n=5)の前腕内側部に2cm×4cmの部位を4つ作成し、これらの部位を粘着テープで10回ストリッピングし、しかる後に2質量%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液を24時間貼付し、肌荒れ悪循環モデルを作成した。即ち、このモデルは皮膚のバリア層を除去した状態で、化学刺激物質に長時間曝露させて、皮膚に炎症ストレスを与えることにより、回復性の悪い肌荒れを作るモデルである。これは、肌荒れ作成後のTEWL値によって確認することが出来る。斯くの如く、テヴァメータ(インテグラル社製)でTEWLを計測し、部位差のないことを確認した上、しかる後に、1部位には化粧料1を塗布し、1部位には化粧料1のオウレンの抽出物を水に置換した比較例1の化粧料を塗布し、1部位には化粧料1のウルソール酸ベンジルエステルを水に置換した比較例2の化粧料を塗布した。残る1部位は何の処置も行わなかった。この処置を1日1回続けた後に、テヴァメータにて再度各部位のTEWLを計測した。結果を表2に示す。これより、化粧料1はプランドールHとウルソール酸ベンジルエステルの相乗作用により、優れた皮膚バリア機能再構築作用を発現していることが判る。
【0029】
【表2】

【実施例2】
【0030】
実施例1の化粧料1と同様に、下記の表3に示す処方に従って、本発明の皮膚外用剤である、化粧料2を製造した。このものは試験例1の方法の評価では、当初35.2であったTEWLが試験終了後19.2に変化し、本発明の効果が確認できた。
【0031】
【表3】

【実施例3】
【0032】
実施例1の化粧料1と同様に、下記の表4に示す処方に従って、本発明の皮膚外用剤である、化粧料3を製造した。このものは試験例1の方法の評価では、当初34.6であったTEWLが試験終了後18.5に変化し、本発明の効果が確認できた。
【0033】
【表4】

【実施例4】
【0034】
実施例1の化粧料1と同様に、下記の表5に示す処方に従って、本発明の皮膚外用剤である、化粧料4を製造した。このものは試験例1の方法の評価では、当初35.1であったTEWLが試験終了後17.5に変化し、本発明の効果が確認できた。
【0035】
【表5】

【実施例5】
【0036】
<製造例6>
オウレンの根茎の乾燥物をミキサーにかけて粉砕し、該粉砕物500gを5lのステンレス釜に移し、3lの水を加え、加熱還流を4時間行い、室温まで冷却後、不溶物を濾過で取り除き、凍結乾燥し、抽出物をアモルファスとして57g得た。このものをHPLC(NH2修飾シリカゲルカラム4.6mm×250mm、溶出溶媒;アセトニトリル:メタノール=100:0→90:10、検知;紫外部220nm、カラム温度;40℃、流速;1ml/分)で分析したところ、コプチシンの含有量は0.03質量%であった。
【0037】
実施例1の化粧料1と同様に、下記の表6に示す処方に従って、本発明の皮膚外用剤である、化粧料5を製造した。このものは試験例1の方法の評価では、当初35.9であったTEWLが試験終了後22.4に変化し、本発明の効果が確認できた。しかしながら、化粧料1に比してその効果は極めて低く、オウレンの抽出物中のコプチシンの量が0.05〜1質量%になるような抽出物をオウレンの抽出物として用いるのが好ましいことが判る。
【0038】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、化粧料などの皮膚外用剤に応用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)ウルソール酸、その塩及びそのエステルから選択される1種以上と、2)キンポウゲ科オウレン(Coptis japonica Makino)の抽出物とを含有することを特徴とする、皮膚外用剤。
【請求項2】
前記ウルソール酸、その塩及びそのエステルから選択される1種以上として、少なくともウルソール酸ベンジルを含有することを特徴とする、請求項1に記載の皮膚外用剤。
【請求項3】
前記キンポウゲ科オウレンの抽出物が、コプチシン(Coptisine)を0.05〜1質量%含有するものであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の皮膚外用剤。
【請求項4】
前記キンポウゲ科オウレンの抽出物が次の工程を経て製造されたものであることを特徴とする、請求項1〜3何れか1項に記載の皮膚外用剤。
工程1:キンポウゲ科オウレンの根茎部を乾燥させ、所望により粉砕乃至は細切する。
工程2:工程1のキンポウゲ科オウレンの加工物に、50%エタノール水溶液を1〜50質量倍加え、所望により攪拌を加えながら、室温であれば1〜7日、沸点付近の温度であれば1〜5時間浸漬する。浸漬後、処理液は室温に戻す。
工程3:工程2の処理液を濾過して不溶分を除き、エタノールを減圧除去し、しかる後凍結乾燥する。
工程4:工程3の凍結乾燥物中のコプチシンの含有量を定量し、0.1〜1質量%の範囲にあることを確認し、該確認が出来た抽出物を適性として採用する。
【請求項5】
更に、ダイマー酸のジエステルを含有することを特徴とする、請求項1〜4何れか1項に記載の皮膚外用剤。
【請求項6】
水中油乳化剤形であることを特徴とする、請求項1〜5何れか1項に記載の皮膚外用剤。
【請求項7】
経皮的水分散逸(TEWL)が亢進した人用の、化粧料であることを特徴とする、請求項1〜6何れか1項に記載の皮膚外用剤。

【公開番号】特開2007−161611(P2007−161611A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−357192(P2005−357192)
【出願日】平成17年12月12日(2005.12.12)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】