説明

皮膚外用剤

【課題】外用塗布では角層透過性の低いトラネキサム酸に関して、現実的な少ない塗布量であってもトラネキサム酸の角層透過性が高く、塗布後の皮膚表面におけるトラネキサム酸の再結晶化を抑えることで角層透過の持続性に優れた高濃度トラネキサム酸を安定に溶解した皮膚外用剤を提供する。
【解決手段】トラネキサム酸またはその塩を含む水相と、油相と、界面活性剤を含有する乳化型皮膚外用剤であって、油相中に高級脂肪酸を含み、界面活性剤としてリン酸エステル系のアニオン界面活性剤および/またはHLBが6.0〜18.0の非イオン性界面活性剤の中から選ばれる1種または2種以上を用いるとともに、前記トラネキサム酸またはその塩を、pHを4.0〜6.0に調整した水相中に、皮膚外用剤全量に対し5.0〜12.0質量%の配合割合で溶解してなることを特徴とする、上記乳化型皮膚外用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性が高いために物質透過の障壁である角層を透過することが困難であるトラネキサム酸の外用塗布による皮膚症状の改善治療を目的とした皮膚外用剤に関する。特には、現実的に塗布される程度の少ない製剤塗布量においても十分な角層透過性とその透過の持続性を得ることが可能な乳化型皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
しみは現在多くの女性が持つ悩みの皮膚症状の一つであり、しみの改善に対しては多様な化粧品・医薬部外品が塗布され用いられている。しかし従来、それらは治療に至るものではなく、特に肝斑のような女性ホルモンが関連して発症するといわれている症状に対しては、外用剤での効果を得ることは難しかった。
【0003】
近年、医療用医薬品成分であったトラネキサム酸を有効成分とする経口医薬品製剤において、肝斑に対する有効性が見出され認可された。トラネキサム酸は日本薬局方にも収載された水溶性の高い薬物であるため(非特許文献1参照)、皮膚に適用した場合、物質透過の大きな障壁である角層を透過させることは難しく、皮膚内に浸透し難い。
【0004】
一般に皮膚外用剤からの薬物の皮膚透過過程においては、塗布後の皮膚上における薬物の熱力学的活動度を高めることや、角層を主とする皮膚障壁中の薬物溶解性を高めることが求められ、これらが達成されなくては透過速度の亢進は起こらない。トラネキサム酸においては、製剤中のトラネキサム酸濃度が5質量%未満と少ない場合では、十分な角層透過量が得られず、一方、5質量%以上配合した場合であっても、トラネキサム酸特有の塗布後の皮膚表面における高い再結晶性のために十分な角層への溶解性が得られず、製剤中の配合濃度を高めることのみの対応では期待するほどの角層透過性は得られなかった。また、トラネキサム酸は水溶性が高い薬物であるが、水への溶解性の上限は、非特許文献1によれば最大で16%程度であることから、製剤中に高濃度のトラネキサム酸を安定的に溶解させておくことが難しいことも一因となっている。このようなことから、角層への浸透性が低く、かつ塗布後の皮膚表面における再結晶性の高いトラネキサム酸においては、これまでに十分な角層透過性とそれを維持する機能を持った皮膚外用剤は得られなかった。
【0005】
多くの公知技術文献において、トラネキサム酸を含有する皮膚外用剤が示され、中には皮膚症状を改善する技術として示されているが、トラネキサム酸の角層透過性の向上、およびその維持についての検討を明記したものは見当たらない。本発明に対する先行技術文献情報は以下のとおりである。
【0006】
特許第2906269号公報(特許文献1)にはトラネキサム酸に亜硫酸水素ナトリウムを組合せ配合することでトラネキサム酸の着色を防止することを目的とした皮膚外用剤が記載され、特開平3−279314号公報(特許文献2)にはヨウ素価50以上の油にトラネキサム酸を組合せ配合することで油の酸敗・変臭を防止することを目的とした皮膚外用剤が記載され、特開平3−279316号公報(特許文献3)にはトラネキサム酸に特定のリン酸塩を組合せ配合することでトラネキサム酸の着色を防止することを目的とした皮膚外用剤が記載されている。そしてこれら特許文献1〜3にはトラネキサム酸を0.1〜30質量%配合し得ることが記載されている。しかし特許文献1〜3はトラネキサム酸を結晶化せずに高濃度配合することや、皮膚透過性を高めること、またその透過性を維持すること等についての検討は行っておらず、これらを目的とするものでない。トラネキサム酸の水への溶解性は上述したように16%で、それ以上は通常溶解しない。特許文献1〜3の実施例でもトラネキサム酸(塩)の配合量は1.0質量%のものが大半で、それ以外には0.1質量%、2.0質量%、6.0質量%のものが示され、15.0質量%の配合処方例が各1例ずつ開示されている。しかし、本発明者らが特許文献2の実施例15に示す15%トラネキサム酸含有化粧水を調製したところ、トラネキサム酸の結晶が分散した状態で配合されたものとなった。すなわち該特許文献2に示されるトラネキサム酸高濃度配合時は結晶が分散した製剤となり、使用時にはざらつきを感じ、使用感を非常に損なうものとなる。また皮膚透過性について試験を行った結果、透過速度は非常に低い結果となった(後掲の実施例欄の「比較例1」参照)。すなわち、トラネキサム酸の含有濃度を高めても、結晶化したトラネキサム酸の皮膚透過性は増大しないことが確認された。
【0007】
特開平7−215839号公報(特許文献4)には、エリスリトール、トラネキサム酸および皮膚被覆性成分(脂肪酸など)を含有する皮膚外用剤が記載され、トラネキサム酸の好適配合量が0.1〜15質量%であることが記載されている。後述するように、本発明者らはトラネキサム酸を溶解する水相のpHを低く調節することなしに高濃度配合することは不可能であることを見出した。しかし特許文献4には水相のpHについての記載・示唆はなく、特許文献4に記載の実施例のトラネキサム酸高濃度配合処方例では未溶解の結晶が分散した系となることは明らかである。したがって、特許文献4に開示される製剤を経皮投与しても水溶性薬物であるトラネキサム酸の角層透過性は非常に低いことが容易に類推される。
【0008】
特開2001−97815号公報(特許文献5)には、アミノ酸の皮膚浸透透過力を高める油中水型乳化組成物が記載され、イソステアリン酸に代表される脂肪酸の配合が記載されている。しかしアミノ酸の具体例としてトラネキサム酸の例示はなく、トラネキサム酸は任意添加成分として配合し得ることが1行記載されている([0022])。該特許文献5にはトラネキサム酸に関する皮膚浸透性データについての記載はなく、水相のpH調整はなされていないことから、十分なトラネキサム酸の皮膚透過性は期待できないことは明らかである。
【0009】
特開2002−128646号公報(特許文献6)には、美白剤(トラネキサム酸など)と脂肪酸(塩)を配合した日焼け止め用皮膚外用剤が記載され、美白剤(トラネキサム酸など)の配合量として0.001〜10質量%が記載されている。しかし特許文献6では水相のpH調整についての記載はない。pH調整がされていない水相中にトラネキサム酸のみを溶解した場合、水相のpHは6以下にはならないため5質量%以上の配合では結晶が析出することは明らかである。そのため当然のことながら角質透過性の向上は期待できない。
【0010】
特開2003−160465号公報(特許文献7)には、水溶性薬剤(トラネキサム酸など)と炭素数8〜24の脂肪酸(塩)を配合した経皮吸収促進用プレトリートメント剤が記載されている。該特許文献7に美白剤としてトラネキサム酸を配合した処方例が実施例9に示されているが、その配合量は1.0質量%に過ぎない。特許文献7は薬物投与前のプレトリートメント剤であり、またpH7〜10が好ましいと記載されていることから([0010])、本発明とアプローチが全く異なる。
【0011】
特開2003−160468号公報(特許文献8)には、美白剤(トラネキサム酸など)と炭素数8〜24の脂肪酸(塩)を配合した洗浄剤組成物が記載されている。該特許文献8に美白剤としてトラネキサム酸を配合した処方例が実施例4に示されているが、その配合量は1.0質量%に過ぎない。特許文献8の洗浄剤組成物はpH7〜10が好ましいと記載されていることから([0018])、本発明とアプローチが全く異なる。
【0012】
特開2004−161623号公報(特許文献9)には、プロテアーゼ阻害剤(トラネキサム酸など)と高級脂肪酸塩を配合する水性スティック状抗アクネ用組成物が記載され、上記プロテアーゼ阻害剤(トラネキサム酸など)の配合量として0.01〜10質量%が記載されている。しかし該特許文献9にはトラネキサム酸を配合した具体的な処方例の記載はなく、またpH調整とトラネキサム酸配合量との関係についての記載・示唆がない。
【0013】
特開2004−307353号公報(特許文献10)には、HLB7〜9の非イオン性界面活性剤と塩型薬剤成分(トラネキサム酸塩など)を含有する水中油型乳化組成物が記載され、塩型薬剤成分の好適配合量が0.1〜30質量%であることが記載されている。しかし該特許文献9には脂肪酸の配合についての記載がなく、トラネキサム酸を配合しても高い角質透過性は得られないと容易に類推できる。当該文献にはトラネキサム酸を配合した具体的処方例もない。また該文献に記載の発明の目的は乳化安定性、使用性(肌へののび、べたつき、さっぱりさ、浸透感)であり、前記「浸透感」は官能評価によるものに過ぎず、薬剤の皮膚への透過性向上および透過性維持等についての検討や客観的評価検討は行っておらず、これらを目的とする本発明とは目的が異なる。
【0014】
特開2005−255667号公報(特許文献11)には、イソステアリン酸を全油分中34質量%以上含む油分を0.01〜2質量%、特定の親水性界面活性剤および親油性界面活性剤を含有する液状化粧料が記載され、任意添加成分としてトラネキサム酸(塩)が記載されている([0026])。該文献にはトラネキサム酸の高濃度配合についての記載はなく、トラネキサム酸1.0質量%を配合した処方例が実施例18に示されているに過ぎない。
【0015】
特開2006−282632号公報(特許文献12)には、美白成分(トラネキサム酸等)を含有する固形状油中水型乳化化粧料が記載され、上記美白成分を0.01〜20重量%配合し得ることが記載されているが、水相のpH調整についての記載はない。また該文献にはトラネキサム酸を配合した具体的な処方例の記載がない。
【0016】
特開2006−312603号公報(特許文献13)には水溶性薬剤(トラネキサム酸など)と親水性非イオン界面活性剤を配合した水中油型乳化組成物をシート上基材に含浸させるシート状皮膚外用剤が記載されている。しかし該文献の皮膚外用剤はpHを酸性側に調節していないため、高濃度のトラネキサム酸は安定に溶解しないと推察できる。実際、該文献の実施例ではトラネキサム酸の配合量は2.0質量%の低配合のもののみである。
【0017】
特開2007−161612号公報(特許文献14)には分岐脂肪酸(イソステアリン酸など)とトラネキサム酸等を配合した皮膚外用剤が記載されているが、トラネキサム酸の好適配合量は0.001〜0.1質量%であり低配合である。このような低配合では期待する角層透過性は得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特許第2906269号公報
【特許文献2】特開平3−279314公報
【特許文献3】特開平3−279316公報
【特許文献4】特開平7−215839公報
【特許文献5】特開2001−97815公報
【特許文献6】特開2002−128646公報
【特許文献7】特開2003−160465公報
【特許文献8】特開2003−160468公報
【特許文献9】特開2004−161623公報
【特許文献10】特開2004−307353公報
【特許文献11】特開2005−255667公報
【特許文献12】特開2006−282632公報
【特許文献13】特開2006−312603公報
【特許文献14】特開2007−161612公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】「第十五改正日本薬局方解説書 医薬品各条」、C−2743−2749、廣川書店、2006年7月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
トラネキサム酸は白色の結晶または結晶性の粉末で、上述したように、高濃度で安定に溶解させて製剤に配合することが難しく、たとえ高濃度で配合しても、皮膚への塗布により皮膚上で結晶が再結晶し、ざらつき感など使用感が悪化するという問題があった。またこの再結晶性のため、一般的な外用剤中に高濃度配合しても皮膚透過性が高まらないという問題があった。
【0021】
発明はこれら従来の問題を解決することを目的とするもので、外用塗布では角層透過性の低いトラネキサム酸に関して、現実的な少ない塗布量であってもトラネキサム酸の角層透過性が高く、塗布後の皮膚表面におけるトラネキサム酸の再結晶化を抑えることで、角層透過の持続性に優れた高濃度トラネキサム酸を安定に溶解した皮膚外用剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、乳化型製剤を調製する場合の水相(油相および界面活性剤を除く成分)に、アミノ基とカルボキシル基を分子構造に持つ両性イオンであるトラネキサム酸を溶解させる際に、水相のpHを4.0〜6.0に調整し、かかる条件下で水相に溶解させることにより、トラネキサム酸の溶解性が顕著に向上することを見出した。これによりトラネキサム酸を乳化型製剤中に高濃度に溶解させることができ、さらに静電気的に対になる高級脂肪酸を含有することにより、トラネキサム酸の角層透過性が非常に増大することを確認した。さらには特定のアニオン性界面活性剤および/またはHLB6.0〜18.0のノニオン性界面活性剤を配合することにより、安定性に優れた乳化型皮膚外用剤の調製が可能であった。その結果、現実的な塗布量においても塗布後の皮膚表面におけるトラネキサム酸の再結晶化を抑え、トラネキサム酸の高い角層透過性とその維持が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0023】
すなわち本発明は、トラネキサム酸またはその塩を含む水相と、油相と、界面活性剤を含有する乳化型皮膚外用剤であって、油相中に高級脂肪酸を含み、界面活性剤としてリン酸エステル系のアニオン界面活性剤および/またはHLBが6.0〜18.0の非イオン性界面活性剤の中から選ばれる1種または2種以上を用いるとともに、前記トラネキサム酸またはその塩がpHを4.0〜6.0に調整した水相中に皮膚外用剤全量に対し5.0〜12.0質量%の配合割合で溶解してなることを特徴とする、上記乳化型皮膚外用剤を提供する。
【0024】
また本発明は、高級脂肪酸がステアリン酸、イソステアリン酸、およびオレイン酸の中から選ばれる1種または2種以上である、上記乳化型皮膚外用剤を提供する。
【0025】
また本発明は、リン酸エステル系のアニオン界面活性剤が、ポリオキシエチレンセチルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸、またはそれらの塩の中から選ばれる1種または2種以上である、上記乳化型皮膚外用剤を提供する。
【0026】
また本発明は、HLBが6.0〜18.0の非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンモノステアリン酸グリセリン、ポリオキシエチレンモノステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンモノオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、およびポリオキシエチレンベヘニルエーテルの中から選ばれる1種または2種以上である、上記乳化型皮膚外用剤を提供する。
【0027】
また本発明は、しみ(肝斑)改善治療用製剤である、上記乳化型皮膚外用剤を提供する。
【0028】
また本発明は、トラネキサム酸またはその塩を、皮膚外用剤全量に対し5.0〜12.0質量%の配合割合となるよう水相に添加した後、該水相のpHを4.0〜6.0に調整することでトラネキサム酸またはその塩を水相中に溶解させ、次いで該トラネキサム酸またはその塩が溶解したpH4.0〜6.0の水相と油相とをリン酸エステル系のアニオン界面活性剤および/またはHLBが6.0〜18.0の非イオン性界面活性剤で乳化することからなる、上記乳化型皮膚外用剤の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、高濃度にトラネキサム酸を安定に溶解した製剤が得られ、開放塗布後のトラネキサム酸の高い角層透過性を持続することにより、外用塗布においても十分な量のトラネキサム酸を患部へ供給することが可能となる乳化型皮膚外用剤が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例におけるトラネキサム酸の透過速度を示すグラフである。
【図2】実施例3の製剤を皮膚塗布後、イン・ビトロ皮膚透過性試験終了後に回収した皮膚の角層側の状態(皮膚上に残存する製剤の状態)を観察した顕微鏡写真(図面代用写真)である。
【図3】比較例2の製剤を皮膚塗布後、イン・ビトロ皮膚透過性試験終了後に回収した皮膚の角層側の状態(皮膚上に残存する製剤の状態)を観察した顕微鏡写真(図面代用写真)である。
【図4】比較例4の製剤を皮膚塗布後、イン・ビトロ皮膚透過性試験終了後に回収した皮膚の角層側の状態(皮膚上に残存する製剤の状態)を観察した顕微鏡写真(図面代用写真)である。
【図5】実施例3、比較例3の製剤の、イン・ビボ単回投与経皮吸収試験における、投与後の時間と血漿中トラネキサム酸濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明について詳述する。なお以下において「POE」はポリオキシエチレンを意味する。
【0032】
本発明に係る乳化型皮膚外用剤は、有効成分としてのトラネキサム酸またはその塩を含む水相と、油相と、界面活性剤を含有する。
【0033】
トラネキサム酸(C815NO2)はフリー体および塩の形にて配合される。塩としては特に限定されないが、例えばナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩のほか、アンモニウム塩、アミン塩(トリエタノールアミン塩など)、アミノ酸塩等の塩が挙げられる。
【0034】
本発明では、上記トラネキサム酸またはその塩を、pHを4.0〜6.0、好ましくは5.0〜5.5に調整した水相中に含有する。水相のpHを上記範囲とすることによりトラネキサム酸の水への溶解性が顕著に向上するという格段に優れた効果を奏する。そのため皮膚外用剤中におけるトラネキサム酸(塩)を皮膚外用剤中に水相中に溶解した状態で高濃度で配合することができ、また、皮膚への塗布後、トラネキサム酸(塩)の再結晶化を防止することができる。このためトラネキサム酸(塩)の角層透過性を高めることができるとともに、塗布後皮膚上での再結晶化の防止により角層透過の維持性にも優れる。また塗布後、再結晶によるざらざら感を生じることがなく使用性にも優れる。
なおここで「水相のpH4.0〜6.0」とは、本発明乳化型皮膚外用剤中、油相含有成分および界面活性剤を除く、水性成分(例えば、精製水、トラネキサム酸またはその塩、有機酸、無機酸、無機塩、多価アルコールなど)を含む相(=水相)のpHが4.0〜6.0であることをいう。
【0035】
水相のpHを4.0〜6.0に調整するために有機酸が好ましく用いられる。有機酸としては、通常医薬品・外用剤に用いられるものであれば特に限定されるものでなく、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、グルコン酸、酒石酸等が挙げられ、中でもpHの維持という観点から、特にリンゴ酸、クエン酸、酒石酸が好ましい。有機酸は1種または2種以上を用いることができる。なお水相のpHを4.0〜6.0に調整するには、有機酸に限らず、無機酸(例えばリン酸等)などを用いてもよい。
【0036】
有機酸の配合量は、一般に水相のpHを4.0〜6.0に調整し得る量であれば特に限定されるものでないが、本発明乳化型皮膚外用剤全量中に概ね0.5〜2.0質量%程度配合するのが好ましい。水相のpHが4.0未満では、製剤塗布における皮膚への安全性の面で好ましくなく、一方、水相のpHが6.0を超えると高濃度のトラネキサム酸を安定に溶解することができない。
【0037】
本発明乳化型皮膚外用剤中におけるトラキサム酸またはその塩の配合量は5.0〜12.0質量%であり、好ましくは7.0〜10.0質量%である。5.0質量%未満では明確な角層透過性およびその持続性が得られず、一方、12.0質量%を超える量では、製剤に溶解させることが難しい、あるいは塗布後の皮膚表面における再結晶化のために皮膚への塗擦行為における不快感や刺激の原因となり、高い角層透過性も望めないため好ましくない。
【0038】
本発明では油相中に高級脂肪酸を含有する。高級脂肪酸は、通常医薬品・外用剤に用いられるものであれば特に限定されるものでなく、炭素原子数12〜24程度のものが用いられ、具体的には、例えば、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、カプリン酸、ミリスチン酸等が挙げられる。これら高級脂肪酸を配合することにより、塗布時の使用感なども調整できるものであるが、中でもステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸が好ましい。
【0039】
高級脂肪酸の配合量は、本発明乳化型皮膚外用剤全量中に1.0〜6.0質量%が好ましい。1.0質量%未満ではトラネキサム酸の高い角層透過性を得ることが難しく、一方、6.0質量%を超えると皮膚に対する安全性の面から好ましくない。
【0040】
本発明乳化型皮膚外用剤には、さらにリン酸エステル系のアニオン界面活性剤および/またはHLBが6.0〜18.0の非イオン性界面活性剤を含有する。これら界面活性剤を含有することにより、より安定に高い角層透過性を維持する乳化型組成物が得られる。これらはそれぞれ用いても、両者を同時に用いても、高い角層透過性を損なうものではない。またこれらを適宜使い分けることにより水中油型、油中水型のいずれの乳化型も採り得る。
【0041】
リン酸エステル系のアニオン界面活性剤として、本発明ではポリオキシアルキレンリン酸エステル塩が好ましく用いられる。具体的にはPOEセチルエーテルリン酸またはその塩、POEラウリルエーテルリン酸またはその塩が好ましく用いられる。なおポリアルキレンの好適付加モル数は2〜10であり、より好ましくは4〜8である。塩としては特に限定されないが、例えばナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩のほか、アンモニウム塩、アミン塩(トリエタノールアミン塩など)、アミノ酸塩等の塩が挙げられる。リン酸エステル系のアニオン界面活性剤を含有させることにより、油中水型乳化型の皮膚外用剤を得ることができ、トラネキサム酸角層透過性の増大と製剤の安定化向上を図ることができる。リン酸エステル系のアニオン界面活性剤を配合する場合、上記効果を十分に発揮させるためには、その配合量は皮膚外用剤全量中に0.5〜5.0質量%とするのが好ましい。
【0042】
HLBが6.0〜18.0の非イオン性界面活性剤としては、POE硬化ヒマシ油、POEモノステアリン酸グリセリン、POEモノステアリン酸ソルビタン、POEモノオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、POEセチルエーテル、POEステアリルエーテル、POEオレイルエーテル、POEベヘニルエーテル等が好適に用いられる。HLBが6.0〜14.0の非イオン性界面活性剤を配合することで、所望の乳化型の皮膚外用剤を調製することができる。これら非イオン性界面活性剤を配合する場合、その配合量は本発明皮膚外用剤中に0.5〜5.0質量%が好ましい。配合量が少な過ぎると角層透過性を高く維持できない場合があり、一方、配合量が多すぎると塗布時の使用感や安定性に問題を生じることがあるため好ましくない。
【0043】
本発明皮膚外用剤は、配合成分等を適宜選択することにより、油中水型、水中油型のいずれの乳化のタイプも採り得る。油中水型乳化型とするには、非イオン界面活性剤を配合しない場合(=リン酸系アニオン界面活性剤のみを配合する場合)、若しくは、HLBが6.0以上、14.0以下の非イオン性界面活性剤を、好ましくは5.0質量%以下配合する場合等が挙げられる。一方、水中油型乳化型とするには、例えば、HLBが14.0より大きく、18.0以下の非イオン性界面活性剤を、好ましくは0.5〜5.0質量%配合する場合等が挙げられる。
【0044】
本発明ではさらに、製剤安定性やトラネキサム酸の角層透過性のより一層の向上等の点から、高級アルキル硫酸エステル塩を配合してもよい。高級アルキル硫酸エステル塩としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム、セチル硫酸ナトリウム、セチル硫酸カリウム等が挙げられるが、本発明ではセチル硫酸ナトリウムが特に好ましい。高級アルキル硫酸エステル塩を配合する場合、その配合量は0.01〜0.2質量%とする。配合量が少な過ぎると製剤の安定化やより一層の角層透過性の増大は得られない。また配合量が多すぎると皮膚に対する安全性の面で好ましくない。
【0045】
本発明の乳化型皮膚外用剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分の他に通常皮膚外用剤に配合し得る任意添加成分を、必要に応じて適宜配合することができる。これら成分として例えば、炭化水素類(ワセリン、流動パラフィン、スクワランなど)、脂肪酸エステル類(ミリスチン酸イソプロピル、セバシン酸ジエチルなど)、高級アルコール類、界面活性剤類、シリコーン油、有機溶剤(エタノール、炭酸プロピレン、ベンジルアルコール、)、粉体類(合成ケイ酸マグネシウムナトリウム、パルミチン酸デキストリンなど)、水溶性高分子類(カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシプロピルセルロース、キサンタンガム、ヒアルロン酸ナトリウムなど)、多価アルコール(グリセリン、1,3−ブチレングリコールなど)などが挙げられる。また、必要に応じて抗酸化剤、キレート剤、無機塩、防腐剤などを配合させることができる。
【0046】
本発明に係る乳化型皮膚外用剤の製法は、例えば、トラネキサム酸またはその塩を、皮膚外用剤全量に対し5.0〜12.0質量%の配合割合となるよう水相に添加した後、該水相のpHを4.0〜6.0に調整することでトラネキサム酸またはその塩を水相中に溶解させ、次いで該トラネキサム酸またはその塩が溶解したpH4.0〜6.0の水相と油相とをリン酸エステル系のアニオン界面活性剤および/またはHLBが6.0〜18.0の非イオン性界面活性剤で乳化する製法が好適例として挙げられる。乳化には機械的な処理が好ましい。また用いる成分に応じて均一化のための若干の加熱を行ってもよい。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、配合量はすべて質量%で示す。
【0048】
[実施例1〜13、比較例1〜4]
下記組成の皮膚外用剤を調製した。
【0049】
(実施例1:油中水型乳化皮膚外用剤)
(配 合 成 分) (質量%)
トラネキサム酸 5.0
DL−リンゴ酸 1.0
L−酒石酸 0.5
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
水酸化ナトリウム 0.4
精製水 70.1
スクワラン 5.0
イソステアリン酸 4.0
POE(5)セチルエーテルリン酸 4.0
実施例1の水相のpHは5.1であった。
【0050】
(実施例2:油中水型乳化皮膚外用剤)
(配 合 成 分) (質量%)
トラネキサム酸 7.0
DL−リンゴ酸 1.0
L−酒石酸 0.5
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
水酸化ナトリウム 0.15
精製水 68.35
スクワラン 5.0
イソステアリン酸 4.0
POE(5)セチルエーテルリン酸 4.0
実施例2の水相のpHは5.1であった。
【0051】
(実施例3:油中水型乳化皮膚外用剤)
(配 合 成 分) (質量%)
トラネキサム酸 10.0
DL−リンゴ酸 1.0
L−酒石酸 0.5
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
精製水 65.5
スクワラン 5.0
イソステアリン酸 4.0
POE(5)セチルエーテルリン酸 4.0
実施例3の水相のpHは5.1であった。
【0052】
(実施例4:油中水型乳化皮膚外用剤)
(配 合 成 分) (質量%)
トラネキサム酸 10.0
DL−リンゴ酸 1.0
L−酒石酸 0.5
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
精製水 67.5
スクワラン 5.0
イソステアリン酸 4.0
POE(20)硬化ヒマシ油(HLB=10.5) 2.0
実施例4の水相のpHは5.1であった。
【0053】
(実施例5:油中水型乳化皮膚外用剤)
(配 合 成 分) (質量%)
トラネキサム酸 10.0
DL−リンゴ酸 1.0
L−酒石酸 0.5
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
精製水 67.5
スクワラン 5.0
イソステアリン酸 4.0
POE(10)セチルエーテル(HLB=13.5) 2.0
実施例5の水相のpHは5.1であった。
【0054】
(実施例6:油中水型乳化皮膚外用剤)
(配 合 成 分) (質量%)
トラネキサム酸 10.0
DL−リンゴ酸 1.0
L−酒石酸 0.5
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
精製水 67.5
スクワラン 5.0
イソステアリン酸 4.0
POE(6)モノステアリン酸ソルビタン(HLB=9.5) 2.0
実施例6の水相のpHは5.1であった。
【0055】
(実施例7:油中水型乳化皮膚外用剤)
(配 合 成 分) (質量%)
トラネキサム酸 10.0
DL−リンゴ酸 1.0
L−酒石酸 0.5
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
精製水 67.5
スクワラン 5.0
イソステアリン酸 4.0
POE(10)ベヘニルエーテル(HLB=10.0) 2.0
実施例7の水相のpHは5.1であった。
【0056】
(実施例8:油中水型乳化皮膚外用剤)
(配 合 成 分) (質量%)
トラネキサム酸 10.0
DL−リンゴ酸 1.0
L−酒石酸 0.5
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
精製水 65.5
スクワラン 5.0
イソステアリン酸 4.0
POE(5)セチルエーテルリン酸 2.0
POE(10)セチルエーテル(HLB=13.5) 2.0
実施例8の水相のpHは5.1であった。
【0057】
(実施例9:油中水型乳化皮膚外用剤)
(配 合 成 分) (質量%)
トラネキサム酸 10.0
DL−リンゴ酸 1.0
L−酒石酸 0.5
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
精製水 67.4
スクワラン 5.0
イソステアリン酸 4.0
POE(10)セチルエーテル(HLB=13.5) 2.0
セチル硫酸ナトリウム 0.1
実施例9の水相のpHは5.1であった。
【0058】
(実施例10:油中水型乳化皮膚外用剤)
(配 合 成 分) (質量%)
トラネキサム酸 10.0
DL−リンゴ酸 1.0
L−酒石酸 0.5
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
精製水 65.4
スクワラン 5.0
イソステアリン酸 4.0
POE(10)セチルエーテル(HLB=13.5) 2.0
セチル硫酸ナトリウム 0.1
POE(5)セチルエーテルリン酸 2.0
実施例10の水相のpHは5.1であった。
【0059】
(実施例11:水中油型乳化皮膚外用剤)
(配 合 成 分) (質量%)
トラネキサム酸 10.0
DL−リンゴ酸 1.0
L−酒石酸 0.5
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
精製水 67.5
スクワラン 5.0
イソステアリン酸 4.0
POE(20)セチルエーテル(HLB=17.0) 2.0
実施例11の水相のpHは5.1であった。
【0060】
(実施例12:水中油型乳化皮膚外用剤)
(配 合 成 分) (質量%)
トラネキサム酸 10.0
クエン酸 1.0
L−酒石酸 0.5
1,3−ブチレングリコール 5.0
精製水 58.9
ベヘニルアルコール 3.0
ステアリルアルコール 1.2
イソステアリン酸 4.0
白色ワセリン 4.0
軽質流動パラフィン 4.0
メチルポリシロキサン 2.0
ミリスチン酸イソプロピル 4.0
エチルパラベン 0.2
POE(20)ベヘニルエーテル(HLB=16.5) 0.7
モノステアリン酸グリセリン 1.5
実施例12の水相のpHは5.5であった。
【0061】
(実施例13:水中油型乳化皮膚外用剤)
(配 合 成 分) (質量%)
トラネキサム酸 10.0
クエン酸 1.0
L−酒石酸 0.5
1,3−ブチレングリコール 5.0
精製水 58.9
ベヘニルアルコール 3.0
ステアリルアルコール 1.2
ステアリン酸 4.0
白色ワセリン 4.0
軽質流動パラフィン 4.0
メチルポリシロキサン 2.0
ミリスチン酸イソプロピル 4.0
エチルパラベン 0.2
POE(20)ベヘニルエーテル(HLB=16.5) 0.7
モノステアリン酸グリセリン 1.5
実施例13の水相のpHは5.5であった。
【0062】
(比較例1:化粧水)
(配 合 成 分) (質量%)
トラネキサム酸 15.0
グリセリン 2.0
1,3−ブチレングリコール 2.0
カルボキシビニルポリマー 0.2
精製水 62.18
エタノール 15.0
精製レシチン 0.02
オレイルアルコール 0.5
POE(60)硬化ヒマシ油(HLB=14.0) 3.0
メチルパラベン 0.1
比較例1の水相のpHが7.4で、トラネキサム酸の結晶が分散した製剤となった。
【0063】
(比較例2:油中水型乳化皮膚外用剤)
(配 合 成 分) (質量%)
トラネキサム酸 10.0
DL−リンゴ酸 1.0
L−酒石酸 0.5
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
精製水 67.5
スクワラン 5.0
イソステアリン酸 4.0
トリオレイン酸ソルビタン(HLB=4.3) 2.0
比較例2の水相のpHは5.1であった。
【0064】
(比較例3:水中油型乳化皮膚外用剤)
(配 合 成 分) (質量%)
トラネキサム酸 10.0
グリセリン 3.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
ポリエチレングリコール1500 2.5
キサンタンガム 0.02
クエン酸 0.02
クエン酸ナトリウム 0.08
精製水 52.33
ベヘニルアルコール 3.0
ステアリルアルコール 1.8
白色ワセリン 4.0
マイクロクリスタリンワックス 1.0
ホホバ油 3.0
スクワラン 4.0
メチルポリシロキサン 2.0
テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリトリット 4.0
メチルパラベン 0.25
POE(60)イソステアリン酸グリセリン(HLB=16.0) 2.3
モノステアリン酸グリセリン 1.7
比較例3の水相のpHが7.2であり、トラネキサム酸の結晶が分散した製剤となった。
【0065】
(比較例4:水中油型乳化皮膚外用剤)
(配 合 成 分) (質量%)
トラネキサム酸 10.0
クエン酸 0.5
L−酒石酸 1.0
1,3−ブチレングリコール 10.0
精製水 57.8
ベヘニルアルコール 3.3
ステアリルアルコール 0.9
白色ワセリン 4.0
軽質流動パラフィン 4.0
メチルポリシロキサン 2.0
ミリスチン酸イソプロピル 4.0
エチルパラベン 0.2
POE(20)ベヘニルエーテル(HLB=16.5) 0.7
POE(50)硬化ヒマシ油(HLB=13.5) 0.1
モノステアリン酸グリセリン 1.5
比較例4の水相のpHは5.5であった。
【0066】
[皮膚外用剤中のトラネキサム酸溶解性]
上記実施例1〜13の皮膚外用剤においてすべてトラネキサム酸は溶解していた。また、比較例2、4では実施例と同様に溶解していたものの、比較例1、3ではトラネキサム酸の結晶が分散した製剤となり、塗擦時に異物感の刺激を感じるものであった。
【0067】
[イン・ビトロ(in vitro)皮膚透過性試験]
トラネキサム酸の角層透過性評価の指標として、実施例1〜13、比較例1〜4について、ラボスキンを用いた皮膚透過性試験を行った。方法は以下のとおりである。
(方法)
ラボスキン〔ヘアレスマウス(HR−1系)、(株)星野試験動物飼育所〕を、2−チャンバー型のFranz型拡散セル(有効透過面積3.14cm2、レシーバー側容積17mL)に角層が上面になるように装着した。ドナー側(角層側)には試験製剤を5mg/cm2となるように均一に塗布し、レシーバー側(真皮側)溶液にはpH7.4のリン酸緩衝液を用い、拡散セルのチャンバーに37℃の水を灌流することにより皮膚表面温度を30℃に保った。ドナー側は非閉塞状態とし、レシーバー溶液をマグネティックスターラーにて攪拌しながら、2、4、6、8、10、24時間目に1mLずつサンプリングした。サンプリングした溶液は高速液体クロマトグラフィーを用いることによりレシーバー溶液中のトラネキサム酸濃度を測定し、得られた定量値からトラネキサム酸の累積透過量を算出し、時間との関係からトラネキサム酸の単位面積あたりの定常状態透過速度を算出した。
(結果)
図1に実施例1〜13、比較例1〜4の経皮吸収製剤について得られた透過速度を示す(n=3、平均±S.D.)。図1より、本発明に係る実施例1〜13の皮膚外用剤からのトラネキサム酸の単位面積あたりの皮膚透過速度が高いことがわかる。
【0068】
なお、図1中、実施例8と実施例9との対比から明らかなように、実施例9の処方中のリン酸エステル系アニオン界面活性剤をセチル硫酸ナトリウムに変えることによって、実施例8での透過速度が若干上昇することが確認された。また実施例9と実施例5との対比において、実施例5の処方にセチル硫酸ナトリウムを加えたことでトラネキサム酸の製剤中への溶解性がさらに向上したため熱力学的活動度が低下した結果、得られる透過速度が低下したものと思われるが、明らかに本発明の製剤からの透過速度は比較例に対して高いことがわかる。
【0069】
[開放塗布後の皮膚上における再結晶性]
トラネキサム酸の開放塗布における皮膚上での再結晶性評価の指標として、実施例3、および製剤中にトラネキサム酸が溶解していた比較例2、4について、イン・ビトロ(in vitro)皮膚透過性試験の終了後に回収した皮膚の角層側に残存した製剤の状態を顕微鏡観察した。方法は以下のとおりである。
(方法)
イン・ビトロ(in vitro)皮膚透過性試験の終了後に皮膚をセルから慎重に取り外し、角層側表面にセロハンテープを貼付し剥離した。剥離したテープをスライドグラスに貼付し、皮膚表面に残存した製剤中のトラネキサム酸の再結晶性を顕微鏡(オリンパス AX80型)にて観察を行った。
(結果)
図2、3および4にそれぞれ実施例3、比較例2および比較例4の顕微鏡観察写真を示す。実施例3の状態に比べて、比較例2、4では製剤中にトラネキサム酸が溶解していたにもかかわらず大きなトラネキサム酸の結晶が析出していることがわかる。
【0070】
[イン・ビボ(in vivo)単回投与経皮吸収試験におけるトラネキサム酸の血漿中濃度推移]
トラネキサム酸の角層透過性評価の指標として、実施例3および比較例3の皮膚外用剤について、イン・ビボ(in vivo)単回投与経皮吸収試験を行った。方法は以下のとおりである。
(方法)
試験製剤を6週令の雄性ラット(HWY系、日本エスエルシー株式会社)の背部4×5cmの範囲に100mgを均一に塗布し、非閉塞状態において試験を実施した。試験開始後、2、4、6、8、24、48時間目に鎖骨下静脈より200μLずつ採血を行い、血漿50μLを定量に用いた。定量はLC/MS/MSにより行い、トラネキサム酸の血漿中濃度推移を得た。
(結果)
図5に実施例3および比較例3の皮膚外用剤について得られたトラネキサム酸の血漿中濃度推移を示す(n=4、平均±S.D.)。図5より、本発明に係る実施例3の皮膚外用剤からのトラネキサム酸の角層透過性は高く、また高い透過性が長時間に亘り持続していたことがわかる。
【0071】
以下にさらに処方例を示す。
【0072】
(実施例14:油中水型乳化皮膚外用剤)
(配 合 成 分) (質量%)
トラネキサム酸 10.0
DL−リンゴ酸 1.0
L−酒石酸 0.5
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
精製水 68.0
スクワラン 5.0
イソステアリン酸 4.0
POE(10)ラウリルエーテルリン酸 1.5
【0073】
(実施例15:油中水型皮膚外用剤)
(配 合 成 分) (質量%)
トラネキサム酸 10.0
DL−リンゴ酸 1.0
L−酒石酸 0.5
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
精製水 67.5
スクワラン 5.0
イソステアリン酸 4.0
POE(7)オレイルエーテル(HLB=10.5) 2.0
【0074】
(実施例16:油中水型皮膚外用剤)
(配 合 成 分) (質量%)
トラネキサム酸 10.0
DL−リンゴ酸 1.0
L−酒石酸 0.5
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
精製水 67.5
スクワラン 5.0
イソステアリン酸 4.0
モノステアリン酸ポリエチレングリコール(10EO)(HLB=11.0)2.0
【0075】
(実施例17:油中水型皮膚外用剤)
(配 合 成 分) (質量%)
トラネキサム酸 10.0
L−酒石酸 0.5
クエン酸 1.0
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
精製水 67.5
スクワラン 5.0
オレイン酸 2.0
POE(5)セチルエーテルリン酸 4.0
【0076】
(実施例18:油中水型皮膚外用剤)
(配 合 成 分) (質量%)
トラネキサム酸 12.0
DL−リンゴ酸 0.5
L−酒石酸 1.0
クエン酸 0.5
1,3−ブチレングリコール 3.0
精製水 70.0
スクワラン 5.0
イソステアリン酸 4.0
POE(5)セチルエーテルリン酸 4.0
【0077】
(実施例19:油中水型皮膚外用剤)
(配 合 成 分) (質量%)
トラネキサム酸 10.0
DL−リンゴ酸 1.0
L−酒石酸 0.5
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
精製水 67.5
スクワラン 5.0
イソステアリン酸 4.0
POE(5)モノステアリン酸グリセリン(HLB=9.5) 2.0
【0078】
(実施例20:油中水型皮膚外用剤)
(配 合 成 分) (質量%)
トラネキサム酸 10.0
DL−リンゴ酸 1.0
L−酒石酸 0.5
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
精製水 67.5
スクワラン 5.0
イソステアリン酸 4.0
POE(15)モノステアリン酸グリセリン(HLB=13.5) 2.0
【0079】
(実施例21:油中水型皮膚外用剤)
(配 合 成 分) (質量%)
トラネキサム酸 10.0
DL−リンゴ酸 1.0
L−酒石酸 0.5
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
精製水 67.5
スクワラン 5.0
イソステアリン酸 4.0
POE(6)モノオレイン酸ソルビタン(HLB=10.0) 2.0
【0080】
(実施例22:水中油型皮膚外用剤)
(配 合 成 分) (質量%)
トラネキサム酸 12.0
DL−リンゴ酸 1.0
L−酒石酸 0.5
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
精製水 51.8
ベヘニルアルコール 3.0
ステアリルアルコール 1.0
白色ワセリン 4.0
軽質流動パラフィン 2.0
メチルポリシロキサン 2.0
ミリスチン酸イソプロピル 4.0
エチルパラベン 0.2
イソステアリン酸 4.0
POE(20)モノオレイン酸ソルビタン(HLB=15.0) 3.0
モノステアリン酸グリセリン 1.5
【0081】
(実施例23:油中水型皮膚外用剤)
(配 合 成 分) (質量%)
トラネキサム酸 10.0
DL−リンゴ酸 1.0
L−酒石酸 0.5
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
精製水 65.5
流動パラフィン 4.0
ミリスチン酸イソプロピル 1.0
イソステアリン酸 4.0
POE(5)セチルエーテルリン酸 2.0
モノオレイン酸ポリエチレングリコール(6EO)(HLB=8.5)2.0
【0082】
(実施例24:油中水型皮膚外用剤)
(配 合 成 分) (質量%)
トラネキサム酸 10.0
DL−リンゴ酸 1.0
L−酒石酸 0.5
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
精製水 65.5
流動パラフィン 4.0
ミリスチン酸イソプロピル 1.0
イソステアリン酸 4.0
POE(5)セチルエーテルリン酸 2.0
モノオレイン酸ポリエチレングリコール(10EO)(HLB=11.0)2.0
【0083】
(実施例25:油中水型皮膚外用剤)
(配 合 成 分) (質量%)
トラネキサム酸 10.0
DL−リンゴ酸 1.0
L−酒石酸 0.5
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
精製水 67.5
スクワラン 5.0
イソステアリン酸 4.0
POE(8)ステアリルエーテル(HLB=10.0) 2.0
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明により、高濃度のトラネキサム酸を安定に溶解した乳化型皮膚外用剤を得ることができ、本来角層透過性が低いトラネキサム酸の開放塗布後における高い角層透過性を持続させることができ、特にしみ(肝斑)等の皮膚疾患治療のための優れた皮膚外用剤が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラネキサム酸またはその塩を含む水相と、油相と、界面活性剤を含有する乳化型皮膚外用剤であって、油相中に高級脂肪酸を含み、界面活性剤としてリン酸エステル系のアニオン界面活性剤および/またはHLBが6.0〜18.0の非イオン性界面活性剤の中から選ばれる1種または2種以上を用いるとともに、前記トラネキサム酸またはその塩が、pHを4.0〜6.0に調整した水相中に、皮膚外用剤全量に対し5.0〜12.0質量%の配合割合で溶解してなることを特徴とする、上記乳化型皮膚外用剤。
【請求項2】
高級脂肪酸がステアリン酸、イソステアリン酸、およびオレイン酸の中から選ばれる1種または2種以上である、請求項1記載の乳化型皮膚外用剤。
【請求項3】
リン酸エステル系のアニオン界面活性剤が、ポリオキシエチレンセチルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸、またはそれらの塩の中から選ばれる1種または2種以上である、請求項1または2記載の乳化型皮膚外用剤。
【請求項4】
HLBが6.0〜18.0の非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンモノステアリン酸グリセリン、ポリオキシエチレンモノステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンモノオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、およびポリオキシエチレンベヘニルエーテルの中から選ばれる1種または2種以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の乳化型皮膚外用剤。
【請求項5】
しみ(肝斑)改善治療用製剤である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の乳化型皮膚外用剤。
【請求項6】
トラネキサム酸またはその塩を、皮膚外用剤全量に対し5.0〜12.0質量%の配合割合となるよう水相に添加した後、該水相のpHを4.0〜6.0に調整することでトラネキサム酸またはその塩を水相中に溶解させ、次いで該トラネキサム酸またはその塩が溶解したpH4〜6の水相と油相とをリン酸エステル系のアニオン界面活性剤および/またはHLBが6.0〜18.0の非イオン性界面活性剤で乳化することからなる、請求項1〜5のいずれかに記載の乳化型皮膚外用剤の製造方法。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−229100(P2010−229100A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79780(P2009−79780)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】