説明

直接通電デバイス

【課題】直接通電デバイスを提供する。
【解決手段】金属細管の両端に交流電圧を印加して、細管自身に流れる電流によるジュール熱を利用して細管内部を流通する流体を加熱する直接通電方式の加熱デバイスにおいて、電圧を印加する電極が上記金属細管の上流部、中間部、及び下流部の3ヶ所に設置されており、中間電極部に高圧電圧を、上流電極部及び下流電極部にコモン電圧(0ボルト)を印加する方式とすることにより漏電対策機能を付したことを特徴とする直接通電加熱デバイス。
【効果】本発明の直接通電加熱デバイスにより、従来材では対応が困難であった漏電の問題と熱膨張の問題を確実に解消することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な高圧流路内の作動流体からなる高温高圧場において、例えば、化学反応を行わせるための高温高圧流体反応装置及び高温高圧流体製造装置の予熱器に使用する金属細管からなる直接通電加熱デバイスに関するものであり、更に詳しくは、作動流体を急速に、加熱・冷却することができる、予熱器、反応器及び冷却器を有する高温高圧流体反応装置において、予熱器内の金属細管を、直接通電方式により発熱させることにより、金属細管内の作動流体を間接加熱する高温高圧流体反応装置に関するものである。本発明は、化学プロセス技術、エネルギー化技術及び廃棄物分解技術等の分野で広く利用されている、高温高圧プロセスに関する技術分野において、新しい高温高圧流体反応装置を提供するものであり、迅速な加熱と、冷却を達成することができるとともに、マイクロスケールの高温高圧反応を実行することができる反応装置(マイクロリアクタ)及び高温高圧流体製造装置(マイクロ熱交換器)の予熱器を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、化学合成、生化学分析等の技術分野において、微小な流路や反応室を、薄い金属板もしくはガラスや樹脂基板上に形成・積層して化学反応を行わせるマイクロリアクタと呼ばれる反応装置の開発と利用が進みつつある。このマイクロリアクタは、装置全体の寸法をコンパクトにでき、内部流体の一定体積あたりの表面積(比表面積)が極めて大きいことから、反応物質界面での反応・混合が効率的に行なわれ、また、熱移動が効率的かつ迅速なものにできるという化学反応装置として望ましい特性を持っている、しかし、これら既存の装置・システムは、高温高圧に耐える構造とはなっておらず、常温常圧近傍での利用が主体となっている(特許文献1、2参照)。
【0003】
一方、純水や二酸化炭素を、それぞれの物性固有値である熱力学的臨界点を超えた超臨界状態とし、それを化学反応場として高度に利用しようとする、超臨界流体を利用した反応技術の開発が活発化している。その応用範囲は、例えば、ファインケミカルからナノマテリアル合成、自動車用の新型燃料生産、半導体製造、廃棄物処理、化粧品生産、PCB等の有毒物質の無害化処理、酸化分解処理等、きわめて幅広い産業分野に広がっており、低環境負荷型の流体反応技術としての利用範囲はますます広がると期待されている。特に、水を利用する場合の超臨界水を利用した反応技術では、その熱力学的臨界点(22.1MPa、374℃)が高温高圧であることから、それ以上の圧力・温度条件での化学反応装置には、高温条件下での耐圧性能を高くする工夫が必須である。
【0004】
前述のマイクロリアクタは、微小な流路空間を利用するために、受圧面積が小さくなることから、耐圧性能を高くすることができる可能性を持ち、更に、化学反応面では、反応物質界面での反応・混合が効率的に行われる等、好ましい特性を持っている。例えば、超臨界水とマイクロリアクタを利用した低環境負荷型の新しい化学原料生産方法が報告されている(特許文献3参照)。この方法は、小さな内径を持ち、耐圧性を有する細い金属管の内部空間をそのままマイクロリアクタとして利用し、常温の反応溶液に対して、超臨界状態の高温高圧水を直接混合することによって溶液温度を上昇させて反応を開始させ、外部保温器によって温度を保つ方式の化学反応装置を利用している。
【0005】
また、このような超臨界流体反応技術とマイクロリアクタ技術を融合させた手法により、触媒を使用せずに水のみを利用した、効率的かつ環境負荷の小さい化学反応手法が実証されている。超臨界反応装置のマイクロ化の実用化にあたり、急速熱交換により、急速昇温、短時間反応、及び急速冷却を実施することにより、装置のコスト低減、省エネルギー化、副次反応の抑制、高収率、高選択性が実現可能である。しかしながら、直接熱交換方式、例えば、超臨界水、又は冷却水の直接注入により反応溶液の急速加熱又は冷却を行うと、反応溶液及び回収したい反応生成物が、大量の加熱用の超臨界水等で希釈されるために、被処理流体量が必然的に大きくなり、経済的に不利となる問題がある。
【0006】
また、ジュール熱加熱による直接通電加熱装置において、通電する電極を2ヶ所とすると、例えば、裏ループが存在すれば、加熱したい部分と同時に裏ループも加熱されてしまい、計測機器類などの誤操作や故障、更には、漏電事故を引き起こす可能性が高くなる。通常の場合、本装置は、金属製の架台に設置されることが一般的であり、この場合、架台を通して漏電事故が起こる。
【0007】
上記の漏電トラブルに対処するために、電気的な絶縁継ぎ手を電極の両端、或いは高圧側電極の近傍に設置することが行われるが、市販されている電気絶縁継手(例えば、Sewagelok社製)は、耐圧が40MPa程度であり、樹脂による絶縁構造のため、高温での使用は不可能である。一方、高温下での使用のため、セラミックスを金属フランジの間に挟みこんだ構造の電気絶縁継手も採用し得るが、締め具である金属ボルト等の絶縁も行わなければならず、構造的に複雑となる。また、この構造では、金属とセラミックスとの高圧シールが必要であり、耐圧は実用上20〜30MPa程度が限界である。
【0008】
ジュール熱加熱による直接通電加熱装置においては、通電する電極間の加熱細管が直管で構成されており、しかも、各電極がブスバーなどにより固定されている場合を考えると、加熱細管は、電極で拘束されていることとなり、熱膨張の逃げ場がなくなる。その結果、熱応力が非常に大きくなり、細管の割れ、破損につながる可能性が大である。管の外径が十分に小さければ、直管が湾曲することにより熱膨張分を吸収することが可能であるが、配管外径が大きい場合には、湾曲することができず応力集中が起こる。この場合、あらかじめ伸縮部を直管の途中に設けて熱膨張分を吸収する対策や電極自身がスライドする構成とすることができるが、構造が複雑となり設置上の制約となる。
【0009】
【特許文献1】特開2004−195433号公報
【特許文献2】特開2003−119497号公報
【特許文献3】特開2003−201277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、ジュール熱加熱による直接通電加熱装置における上述の問題、特に、漏電問題に対する対策として有用な技術を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、金属細管に設置する電極の配置構造を改善することによって所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、金属細管から構成される直接通電方式の加熱デバイスにおいて、漏電及び熱膨張を抑制してそれらの問題を解決することを可能にした金属細管からなる直接通電加熱デバイスを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)金属細管の両端に交流電圧を印加して、細管自身に流れる電流によるジュール熱を利用して細管内部を流通する流体を加熱する直接通電方式の加熱デバイスにおいて、電圧を印加する電極が上記金属細管の上流部、中間部、及び下流部の3ヶ所に設置されており、中間電極部に高圧電圧を、上流電極部及び下流電極部にコモン電圧(0ボルト)を印加する方式とすることにより漏電対策機能を付したことを特徴とする直接通電加熱デバイス。
(2)上記金属細管が、ダブルU字形状の金属細管であり、通電加熱による熱膨張分をU字形状のボトム方向へ逃すことにより細管の熱膨張対策を行う機構を付した、前記(1)記載の直接通電加熱デバイス。
(3)上記金属細管が、該金属細管に設置した電極をスライドさせる電極スライド方式の機構を有する、前記(1)記載の直接通電加熱デバイス。
(4)上記金属細管が、超高温高圧超臨界水反応装置における予熱部における直接通電方式の加熱デバイスである、前記(1)記載の直接通電加熱デバイス。
(5)上記金属細管が、超臨界水製造装置における加熱管である、前記(1)記載の直接通電加熱デバイス。
(6)上記金属細管が、マイクロ熱交換器における直接通電方式による加熱用細管である、前記(1)記載の直接通電加熱デバイス。
(7)上記金属細管が、その内部を流通する作動流体を直接通電方式により急速に加熱する予熱器である、前記(1)記載の直接通電加熱デバイス。
(8)上記金属細管が、円形の細管構造を有し、水の熱力学的臨界点を超えた高温高圧条件を迅速に作り、温度制御と化学反応を行わせることが可能な内径が大きくても1mmの微細な流路構造を有する、前記(1)記載の直接通電加熱デバイス。
【0012】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、金属細管から構成される直接通電加熱デバイスであって、金属細管の両端に交流電圧を印加して、細管自身に流れる電流によるジュール熱を利用して細管内部を流通する流体を加熱する直接通電方式の加熱デバイス装置において、電圧を印加する電極が上記金属細管の上流部、中間部、及び下流部の3ヶ所に設置されており、中間電極部に高圧電圧を、上流電極部及び下流電極部にコモン電圧(0ボルト)を印加する方式とすることにより漏電対策行うことを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明では、上記金属細管が、ダブルU字形状の金属細管であり、通電加熱による熱膨張分をU字形状のボトム方向へ逃すことにより細管の熱膨張対策を行う機構を有すること、を好ましい実施の態様としている。更に、本発明では、上記金属細管が、円形の細管構造を有し、水の熱力学的臨界点を超えた高温高圧条件を迅速に作り、温度制御と化学反応を行わせることが可能な内径が大きくても1mmの微細な流路構造を有すること、を好ましい実施の態様としている。
【0014】
本発明は、その基本的な構成例である、予熱器を構成する金属細管を例に説明すると、この金属細管の入口部近傍と細管中央部近傍及び出口部近傍の3ヶ所に電極を設置し、入口部と及び出口部に0Vを、また、細管中央部に高電圧を印加するように構成する。この場合、上記入口部と中央部及び出口部における電極の設置位置は、各近傍であれば多少の位置変更は適宜可能であり、また、高圧細管の熱膨張対策として、例えば、電極をスライドさせる電極スライド方式等を採用することが可能である。
【0015】
また、本発明では、予熱器を構成する金属細管からなる加熱管の形状を、ダブルU字形状にして、電極位置を入口部、中間部、出口部の3ヶ所とし、入口部と及び出口部に0Vを、また、中間部に高電圧を印加するように構成することで、漏電対策とともに、熱膨張対策を同時に行うことが可能である。この場合、ダブルU字形状の具体的な形状及び構造に関する構成は任意に設計することができる。また、本発明では、上述の基本的な構成の余の細部の構造は、金属細管の形状及び構造に合わせて任意に設計することができる。
【0016】
本発明者らは、マイクロ熱交換器による間接熱交換方式で、超臨界流体反応装置を開発するにあたり、間接熱交換方式による短時間昇温の可能性を検討した。内径0.25mm、od/id=3のモノチューブ中を流れる高圧水の軸方向昇温過程を求めた。管の表面温度を400℃とし、管内部を流れる27℃の高圧水の温度上昇を、軸方向に対して概算した結果、高圧水を、27℃から400℃に加熱するには、約0.01〜0.05秒の昇温時間で十分実施できることが判明し、間接熱交換方式が、高温高圧流体の製造に有用であることが分かった。
【0017】
本発明では、こうした検討の結果に基づいて、マイクロ熱交換器による間接熱交換方式で高温高圧流体反応装置及びその製造装置を構築することを可能とするものであり、本発明の反応装置は、直接通電方式により、金属細管を発熱させ、その内部の作動流体を間接熱交換により加熱して、急速に高温高圧状態となして、反応を進行させ、次いで、高速に冷却して反応を停止させる、マイクロスケールで反応を遂行することを実施可能とする反応装置である。また、本発明は、高温高圧技術とマイクロリアクタ技術を融合させた新しい反応装置であり、金属細管の内径を1mm以下にすることにより、管内部における熱及び物質の拡散を短距離で終了させ、作動流体を所定温度に昇温するための昇温時間を1秒以下とすることを可能とし、また、温度の均一化及び複数種の物質の混合を効率的に行なうことを可能とする。
【0018】
本発明における、「作動流体」とは、高温高圧反応場を形成することができる流体であり、例えば、水、二酸化炭素、アルコール類、炭化水素類、又はこれらの2以上からなる混合流体、もしくはこれらに反応基質を加えた混合流体である。また、本発明における、「高温高圧」とは、常温・常圧よりも高温度、及び高圧力である状態を意味し、それらの具体的な範囲は、作動流体の特性、反応基質に適した反応温度・圧力等により適宜選択されるものである。
【0019】
本発明の反応装置を構築するにあたり必要な技術的手段と要素機器としては、例えば、(1)内径が、1.0mm以下であり、高い耐圧性を有する単一の金属細管を、直接通電方式により発熱させて、その内部を流通する作動流体(純水、水溶液、二酸化炭素等)を急速に加熱して化学反応を開始させる予熱器、(2)予熱器によって所定の反応温度に達した流体の温度を一定に保ち、流体内部での反応を進行させる単一の流路と、その表面からの熱の放散を防ぐための断熱機構もしくは補助的な保温用加熱機構とを備える反応器、(3)急速に流体を冷却して反応を停止させるために、単一の金属細管、又は多方継手構造により複数の金属細管に流体を均等分散させ、再度集合させる流路構造を持ち、更に、その外側に冷媒を流すことができるジャケット構造を持つ熱交換器、(4)流体の圧力を下げて常圧に戻す減圧弁、(5)各部分における温度と圧力を計測する温度センサ・圧力センサ、(6)直接通電方式によって金属細管内部を通過する流体を加熱する予熱器に対して、電力を供給するための、例えば、トランス等の電源装置とその制御装置、及び(7)これら構成部分の相互の結合に使用される、高温高圧に耐える真空ブレージング(金属ロウ付け)、電子ビーム・レーザービーム溶接及び拡散接合等の金属接合技術や放電加工、マイクロミーリング等の金属微細加工技術、を挙げることができる。
【0020】
本発明の高温高圧流体反応装置により、作動流体を、加熱・反応・冷却して反応を行うには、最初、常温常圧状態の作動流体が、高圧ポンプによって所定の圧力まで昇圧され、所定の流量で予熱器に圧送され、予熱器を通過することで、作動流体は目標温度にまで急速に加熱されて化学反応が開始され、次に、流体は反応器に入り、その通過時間の間、反応温度が保たれて反応が進行し、反応器を通過した流体は、冷却を目的とした熱交換器に入り、急速に冷却されて反応を停止した後、減圧弁を通過して常温常圧状態に戻り、反応溶液が回収されることにより実施される。
【0021】
次に、本発明の高温高圧流体反応装置を構成する、各要素について説明する。予熱器については、所定の耐圧性能を満足するように選定された、内径/外径比、及び一定の長さを持つ単一の金属細管からなる。その長さは、反応温度、管材金属の電気抵抗値、内部を通過する流体の加熱に必要な電力と伝熱能力、及び内部を通過する流体による圧力損失等を検討することにより決定されるが、例えば、外径1.5〜6.4mm、内径0.2〜1.0mm、長さ200〜600mmの金属細管が好適である。
【0022】
この細管には、電極端子部分が接合された構造となっている。この電極端子は、導電性の良好な金属ブスバーによって電源装置と接続され、金属細管に直接通電して、金属細管をジュール加熱することにより、その内部の作動流体を所定の温度に昇温する。このとき、電極端子の接続部分では、金属同士の接触面に大きな電流が流れることから、導電性の良い金属端子、例えば、純銅のブロック等を利用して、接触面積が大きくなるように電極端子全体を挟み込むようにしてブスバーと接続される。
【0023】
通電された金属細管は、ジュール加熱によって電流量に応じて発熱し、内部を流れる作動流体と、内壁を通じた熱交換により流体の加熱が行われる。この場合の金属細管用材料としては、例えば、ステンレススチール、ニッケル合金が好適であり、ニッケル合金、特にインコネル625がより好適である。通電部分は、装置の他の構成部分からは電気的に絶縁されており、電流は予熱器部分に限定して流れる。
【0024】
なお、本発明の金属細管は、内部を高圧にした場合にそれに耐える耐圧性、内部を高温にした場合にそれに耐える耐熱性、及び内部で使用する物質あるいは反応後に生成する物質に対する耐食性を備えていなければならないが、それらの各観点を考慮して、金属細管の使用形態に応じてその材質が選択される。金属細管を耐圧にするには、例えば、金属細管の材質を強度の優れたものにするか、金属細管を耐圧性の材料で囲繞する。また、金属細管を耐熱性、耐食性にするには、例えば、金属細管の材質を耐熱性かつ耐食性のものとすることが好適であるが、積層あるいは表面処理により耐食性を付与してもよい。例えば、反応において塩酸、硫酸或いは硝酸などの腐食性物質が関与する場合には、例えば、ステンレススチールやニッケル合金製の高圧細管の内壁に耐腐食材としてタンタルやチタンをライニングすることも可能である。
【0025】
また、本発明は、金属細管の過度の温度上昇を防ぐため、その表面温度を測定し、投入電力の制御を行う機構を備えている。発熱部分からの熱の放散を防ぐために、金属細管の外部は適当な断熱材もしくは断熱機構によって被覆される。断熱構造体は、金属細管の内部を加熱又は冷却する際にエネルギーの損失を防ぐためのものであって、様々の形態を採用することができる。断熱構造体は、熱伝導率が小さい物質であればよく、予熱部全体をシリカウール、ロックウールなどの断熱材で覆うことによって簡便な断熱構造体とすることができる。断熱構造体の材質は、ジャケットパイプ等として機能させる場合には、熱媒体に対し安定でなければならないものの、熱伝導率が小さい材質であればよく、耐久性からは、セラミックス、例えば、ジルコニアセラミックス、が好適である。更に、断熱構造体を高強度の材料等で覆う構造としてもよい。
【0026】
本直接通電加熱方式では、原理上極めて迅速な加熱が行われるが、このことは、加熱管内部に作動流体が流通していなければ、金属細管そのものが溶断する危険性を有しており、対策が必要となる。通常は、金属細管の過度の温度上昇を防ぐため、その表面温度を測定し、投入電力の制御を行う機構を備えている。更に、作動流体の予熱器直前での流体流れを検知し、流れが検知されない場合は、加熱を停止する機構の採用が望ましい。高圧下での流体流れ検知方法としては、差圧方式や回転羽根方式などがあるが、流れが検知できる方法であればよく、限定されない。
【0027】
本発明の反応器は、所望の耐圧性能を満足するように選定された内径/外径比及び一定の長さを持つ単一の流路からなり、その長さは、流体流量及び目標反応時間に応じて選定されるが、例えば、外径1.5〜6.4mm、内径0.2〜1.0mm、長さ200〜6000mmの金属細管が挙げられる。また、流体を所定の反応温度に保つことを目的として、様々な形態の断熱構造もしくは補助的な保温用加熱機構を備えるが、反応管全体にシリカウール等の断熱材を巻くことによって簡便な断熱構造とすることができる。また、反応時間を種々変える必要がある場合には、強制対流型の電気オーブン内に反応器を入れることも可能である。
【0028】
本発明の冷却器は、所定の耐圧性能を満足するように選定された内径/外径比及び一定の長さを持つ、単一金属細管、又は複数本の金属細管の集合体であり、通常、内径0.2〜1.0mm、長さ200〜2000mmの金属製の細管からなる。金属細管は、単一の細管から構成されていて、十分な冷却能力を有する。一方、多方継手構造により流体を複数の流路に均等に分割させて急速冷却を行い、再び多方継手構造により集合させる構造を持たせてもよい。こうした流路は、例えば、冷媒が流れる冷却ジャケット内に設置されており、全体として向流型熱交換器となっている。
【0029】
多方継手構造を採用すると、例えば、5本の金属細管を用い、その両端を、多方継手構造に嵌入して集合している多方継手は、内部中心軸に1本の微細穴が形成されており、5本の金属細管の内部流路は、この微細穴の一端に集束して内部の流路が流通している。冷却器入口で、5本の金属流路に均等に分割された高温高圧流体は、個々の金属細管内を流れる間に、金属細管の周囲を流れる冷媒(例えば、水等)と熱交換を行って常温程度の温度まで急速に冷却される。その後、出口側で再び合流して減圧弁に導かれる。
【0030】
本発明では、作動流体を所定の圧力に加圧して予熱器に送る加圧ポンプ、圧力温度監視装置、加熱電源及びそれらの制御装置としては、通常の超臨界反応技術分野等において使用される機器類が適宜選定して使用される。
【0031】
本発明は、間接熱交換器により、作動流体の急速加熱、及び急速冷却を実現した、高温高圧流体反応装置に関するものであり、従来の直接熱交換方式による、高温高圧流体又は冷却用流体を直接注入する方式と比較して、処理流体の量が最小となり、プロセスがシンプルでマイクロスケールの反応装置を構築することが実現可能になる。また、本発明の高温高圧流体反応装置では、モジュールとして、並列及び/又は直列に、複数を組み合わせることによりナンバリングアップ構成をした高温高圧流体反応装置を構築することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明の金属細管及び該金属細管を設置した高温高圧流体反応装置は、高い耐圧性を有する金属細管を直列的に結合させた構造を持ち、間接加熱による急速な熱交換により、流体の高速加熱・冷却を実現できるマイクロスケールの化学反応装置として、簡潔で汎用性の高い構造となっている。
(2)内径の小さな金属細管を用いることにより、内部流体の単位体積あたりの表面積を大きくすることができる。
(3)短時間の化学反応を行わせることができる。
(4)微細な流路構造により、水の熱力学的臨界点を超えた高温高圧条件を迅速に作り、効率よく温度制御と化学反応を行わせることが可能である。
(5)円形の金属細管は耐圧性能を実現するための必要最小限の構造体積と、熱の放散面積を持つ構造であることから、装置全体の立ち上げ時間を短縮することができる。
(6)被加熱流体のエネルギー増加量と投入電力の比で定義されるエネルギー利用効率を極めて高くすることができる。
(7)装置全体をコンパクト化できる。
(8)装置の内容積が小さいので安全性について優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
本実施例では、超高温高圧超臨界水反応装置(設計条件:600℃・300MPa)の予熱部として、直接通電方式を採用して、装置を構築した。本装置は、有機反応系と無機反応系の2ラインを有しており、有機反応系の予熱器は、外径1.6mm、内径0.25mm及び長さ200mmのインコネル625製細管を、一方、無機反応系の予熱器は、外径6mm、内径1mm及び長さ600mmのインコネル625製細管を用いた。
【0035】
両予熱器とも、入口部近傍と細管中央部及び出口部近傍の3ヶ所に電極を設置し、入口部と及び出口部に0Vを、中央部に高電圧を印加するように構成した。電源トランスは、交流200Vを15V×600A(最大)に変換して使用した。本装置では、高圧細管の熱膨張対策として、電極スライド方式を採用した。
【0036】
実験は、上記両予熱器の細管において、入口部近傍と及び出口部近傍に設置した電極に0Vを、また、細管中央部に設置した電極に15Vの高電圧を印加して、漏電及び熱膨張の有無を調べることで行った。その結果、本装置では、装置構成上、直接通電部と平行する、いわゆる裏ループ(架台経由で)があったにもかかわらず、実験中、漏電によるトラブルは一切起こらなかった。その際、予熱器の伝熱能力も評価したが、有機反応系及び無機反応系とも極めて高い熱効率(80〜90%)及び伝熱速度(1000〜10000kcal/m・h・℃)を確認した。
【実施例2】
【0037】
本実施例では、超臨界水製造装置(600℃・50MPa)の主要部(加熱部)として、直接通電方式を採用した。加熱管は、外径1.6mm、内径0.5mm及び長さ480mmとし、処理量100g/分に対応する超臨界水製造装置として構築した。本加熱管は、ダブルU字形状であり、電極位置も入口、中間、出口の3ヶ所とし、入口部と及び出口部に0Vを、中央部に高電圧を印加するように構成した。電源トランスは交流200Vを20V×160A(最大)に変換して使用した。
【0038】
実験は、上記加熱管の入口部と及び出口部に設置した電極に0Vを、また、加熱管の中央部に設置した電極に20Vの高電圧を印加して、漏電及び熱膨張の有無を調べることで行った。その結果、本装置においても漏電によるトラブルは一切起こらず、熱膨張トラブルも回避された。
【0039】
比較例
本比較例では、超臨界水製造装置(600℃・50MPa)の主要部(加熱部)として、直接通電方式を採用した。加熱管は、外径1.6mm、内径0.25mm及び長さ220mmとし、処理量50g/分に対応する超臨界水製造装置として構築した。電極位置は、入口及び出口の2ヶ所とした。また、熱膨張対策は特に行わなかった。
【0040】
実験は、上記加熱管の入口部と及び出口部に設置した電極に20Vの高圧を印加して、漏電及び熱膨張の有無を調べることで行った。
【0041】
通電開始直後、直接通電部と平行する圧力計測ラインも同時に加熱されてしまい、圧力発信器が破損した。その後、圧力計測ラインを電気的に絶縁することで、通電部のみの加熱が実現できたが、2ヶ所の電極部により加熱管が拘束されているため、しなりを生じていた。また、流量の変動がある場合には、加熱管が上下に振動を起こした。短時間の運転では問題が起こらなかったが、長時間運転では、割れなどの破損トラブルを起こす可能性が大である可能性が高いことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上詳述したように、本発明は、例えば、水、二酸化炭素、アルコール等の熱力学的臨界点を超える高温高圧条件での化学反応を行わせることができる、高温高圧流体反応装置の予熱器に係るものであり、本発明により、例えば、直径1.0mm以下の内径を持ち、耐圧性を有する金属細管を、直線的もしくはその一部において並列的に接合して、簡素な構成を持つ汎用性の高い高温高圧流体反応装置を提供することができる。本発明の超臨界流体反応装置の予熱器は、内部を流通させる作動流体を水もしくは水溶液に限定するものでなく、その他の流体を用いた高温高圧反応装置として広く利用することが可能である。また、本発明は、超臨界流体反応による高温高圧条件下での化学プロセス技術、エネルギー化技術及び廃棄物分解技術等の分野で利用することができ、化学プラントへの適用が可能である。また、本発明の高温高圧流体反応装置の予熱器は、高温高圧の流体製造装置として各種の試験研究等に供することができる。また、本発明の高圧流体反応装置をモジュールとして、並列及び/又は直列に組み合わせることにより、処理量及び/又は機能を増大させた高温高圧マイクロリアクター装置を構成することが可能であるため、超臨界反応装置以外に、汎用の高温高圧マイクロリアクター装置として利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】電圧印加位置の特定方式の一例を示す。
【図2】電圧印加位置の特定方式とU字構造の一例を示す。
【図3】従来方式による裏ループの過熱の例を示す。
【図4】絶縁継手の設置の一例を示す。
【図5】金属細管の接合部の例と電極スライド構造の例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属細管の両端に交流電圧を印加して、細管自身に流れる電流によるジュール熱を利用して細管内部を流通する流体を加熱する直接通電方式の加熱デバイスにおいて、電圧を印加する電極が上記金属細管の上流部、中間部、及び下流部の3ヶ所に設置されており、中間電極部に高圧電圧を、上流電極部及び下流電極部にコモン電圧(0ボルト)を印加する方式とすることにより漏電対策機能を付したことを特徴とする直接通電加熱デバイス。
【請求項2】
上記金属細管が、ダブルU字形状の金属細管であり、通電加熱による熱膨張分をU字形状のボトム方向へ逃すことにより細管の熱膨張対策を行う機構を付した、請求項1記載の直接通電加熱デバイス。
【請求項3】
上記金属細管が、該金属細管に設置した電極をスライドさせる電極スライド方式の機構を有する、請求項1記載の直接通電加熱デバイス。
【請求項4】
上記金属細管が、超高温高圧超臨界水反応装置における予熱部における直接通電方式の加熱デバイスである、請求項1記載の直接通電加熱デバイス。
【請求項5】
上記金属細管が、超臨界水製造装置における加熱管である、請求項1記載の直接通電加熱デバイス。
【請求項6】
上記金属細管が、マイクロ熱交換器における直接通電方式による加熱用細管である、請求項1記載の直接通電加熱デバイス。
【請求項7】
上記金属細管が、その内部を流通する作動流体を直接通電方式により急速に加熱する予熱器である、請求項1記載の直接通電加熱デバイス。
【請求項8】
上記金属細管が、円形の細管構造を有し、水の熱力学的臨界点を超えた高温高圧条件を迅速に作り、温度制御と化学反応を行わせることが可能な内径が大きくても1mmの微細な流路構造を有する、請求項1記載の直接通電加熱デバイス。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−221093(P2008−221093A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61088(P2007−61088)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(591124363)鈴木商工株式会社 (2)
【Fターム(参考)】