説明

真空バルブ用電気接点およびそれを用いた真空開閉機器

【課題】遮断性能の良い真空バルブ用電気接点、及び大容量化に対応可能な真空開閉機器を提供する。
【解決手段】本発明の電気接点は、接点層と、前記接点層に対し導体に接続する側に設けられた高導電層の少なくとも2つの層を有する電気接点であって、前記接点層はCrとCuとTeを含む焼結体よりなり、前記高導電層はCuと炭素繊維を含む焼結体からなり、前記接点層と前記高導電層の間にCr炭化物が存在することを特徴とする。炭素繊維により高導電層の導電性を向上させるとともに、導電層と接点層との間にCr炭化物が存在することにより、層間の剥離を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空遮断器,真空スイッチギヤ等に用いられる新規な真空バルブ用電気接点に関する。
【背景技術】
【0002】
真空遮断器等,真空を媒体とした電流開閉機器は、環境への影響が小さいことから、ガス遮断器等への代替が進められている。その場合、真空遮断器等では大容量化(大電流の遮断性能)が求められている。
【0003】
一般の真空開閉機器では、Cr−Cu系の電気接点が用いられる。大電流遮断のための電気接点部材は、通電容量を大きくし、良好な熱伝導を保つため、高密度であることが必要である。また、通電ジュール熱により接点同士が溶着した際の引離し力を小さくするため、接点部材強度は小さいことが望ましい。例えば特開2005−135778号公報(特許文献1),特開2006−140073号公報(特許文献2),特開2009−076218号公報(特許文献3)では、Cr−Cu系の高密度成形体を不活性雰囲気中で焼結するとともに、Teなどの低融点金属を添加することにより、高密度化と低強度化の両立を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−135778号公報
【特許文献2】特開2006−140073号公報
【特許文献3】特開2009−076218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気接点の接点面と反対の側にCuを主成分とする高導電層を設けると、高電気伝導化を図ることが可能となる。電気抵抗は小さくなり、通電容量を更に大きくし、発生ジュール熱量を抑えるために有効である。
【0006】
電気接点を焼結製法により製造した場合、ニアネット成形により後加工を不要とすることができ、製造の容易化が可能であり、量産がしやすい。しかしながら、焼結製法で製造された高導電層には少なからず気孔等の欠陥が存在するため、Cuインゴット(溶製材)並みの導電率は得られにくい。また、接点層と高導電層の界面の剥離を抑制するために、熱変形を吸収するための溝を設けるなどの形状上の対策が必要で、生産性が低下する恐れがある。
【0007】
したがって本発明の目的は、二層以上からなる電気接点において、従来よりも電気・熱伝導性に優れた高導電層とするとともに、二層間の剥離を抑制し、大容量化に対応可能な電気接点を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
通常、電気接点は円盤形状を有する。本発明の電気接点は厚さ方向に少なくとも2つの層、具体的には接点層と、前記接点層に対し導体に接続する側に設けられた高導電層からなるものである。前記接点層はCrとCuとTeを含む。また、前記高導電層はCuと炭素繊維を含む。高導電層は、焼結により接点層側にCr炭化物を生成している。
【0009】
炭素繊維は、アスペクト比(繊維長さ/繊維径)が50〜150で、かつ、繊維径は300nm以下のものが好ましい。また、高導電層に含まれる炭素繊維の量は、0.1〜1.5重量%であることが好ましい。
【0010】
接点層と高導電層の間には、接点層と高導電層の中間的な組成よりなる層(CrとCuとTeを含む層)を設けてもよい。接点層と中間層との間に、前記Cr炭化物が存在する。
【0011】
上記の電気接点は、固定側,可動側のいずれの電極として使用してもよい。接点層側が相対する電極に近接して配置され、高導電層は、導体に接続される。
【0012】
上記の電気接点は、接点層をなす成分の粉末を所望の組成に配合し、接点層の混合粉末とし、同様に中間層をなす成分の混合粉末,高導電層をなす成分の混合粉末を用意し、これらを層状に成型容器内に入れて一体に加圧成型し、成型体を銅の融点以下で加熱焼結することにより提供される。加熱焼結は還元雰囲気中あるいは不活性雰囲気中で行う。
【0013】
本願でいう電極とは、電気接点の高導電層の面に一体に接合された電極棒を有する部材である。本願でいう真空バルブとは、真空容器内に一対の電極(固定側電極および可動側電極)を備えたものである。さらに、本願でいう真空遮断器は、真空容器内に一対の電極(固定側電極および可動側電極)を備えた真空バルブを有し、真空バルブ内の固定側電極および可動側電極の各々に接続され、バルブ外に引き出された導体端子と、前記可動側電極を駆動する開閉手段とを備えたものである。本願でいう真空開閉機器とは、真空バルブを導体によって複数接続し、可動側電極を駆動する開閉手段を備えたものである。上記の一対の電極のうち、少なくともいずれか一方を上述の炭素繊維を含む電極とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
上記の本発明によれば、容易、安価に製造可能、かつ、大容量化の可能な電気接点を提供することができ、真空バルブ,真空遮断器等に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】電気接点および電極の構造を示す図。
【図2】真空バルブの構造を示す図。
【図3】真空遮断器の構造を表す図。
【図4】路肩設置変圧器用負荷開閉器の構造を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の電気接点のさらに細部を説明する。電気接点は一般的に略円盤形状を有し、本発明は少なくとも厚さ方向に2つの層からなる電気接点部材を想定している。接点層をCr−Cu系の合金とすることで、優れた遮断性能,耐電圧性能を有し、電気接点として必要な性能を満足することができる。接点面と反対の側に高導電層を設けることによって、電気接点全体の熱および電気の伝導性を向上させ、通電時のジュール熱の発生を抑制し、耐溶着性および通電性能に優れた電気接点とすることができる。
【0017】
接点層と高導電層の間に、それらの中間的な組成からなる一または複数の中間層を設けてもよい。この場合、電気接点は厚さ方向に複数の層からなる。中間層を設けることで、製造過程における接点層と高導電層の収縮差から生ずる応力を緩和し、反りや層間剥離などの不具合の発生を防止できるとともに、通電時における熱膨張差を緩和し、反りによる接触抵抗増加を抑えることができる。
【0018】
上記の接点層はCrとCuとTeからなる。一方、導体に接続する側の高導電層はCuと炭素繊維からなる。接点層にTeを含むことによって、Cr粒子とCuマトリックスとの界面結合を弱めることができ、接点層の強度低下に伴う溶着引離し力の低減が可能となる。なお、実施例で後述する溶浸製法においては、加熱温度が比較的高いためにTeの揮散減少が生じ、上記効果が期待できないため、Teの添加は特に焼結法において有効である。
【0019】
接点層(もしくは接点層と高導電層の間に設けられた中間層)にCrを含み、高導電層に炭素繊維を含むことにより、接点層(もしく中間層)のCrと高導電層の炭素繊維との反応により界面にCr炭化物が生成する。Cr炭化物により、接点層(もしく中間層)と高導電層の結合が強固になり、層間剥離などの不具合を抑制できる。
【0020】
上記の炭素繊維は、高い導電率・熱伝導率を有し、電気接点全体の熱・電気伝導率の向上に寄与する。特に、繊維長さ/繊維径で表わされるアスペクト比が50〜150で、かつ、繊維径は300nm以下のものが望ましい。アスペクト比がこの範囲であると、導電率、および熱伝導率の向上が十分であるとともに、繊維の屈折などが生じにくい。アスペクト比が小さすぎると、導電率、および熱伝導率の向上が小さい。またアスペクト比が大きすぎると、繊維の屈折などにより熱・電気伝導性の改善効果が小さくなる場合がある。なお、炭素繊維を特定方向(例えば電気接点の厚さ方向など)に配向させると、より効率的な熱・電気伝導性の改善が可能となる。
【0021】
高導電層に混合する炭素繊維の量は、炭素繊維を0.1〜1.5重量%が好ましい。この程度の混合により充分に熱伝導性・電気伝導性の改善効果を発現する。炭素繊維が0.1重量%以下では、量が少ないため、熱・電気伝導性の改善効果が小さい。1.5重量%以上添加すると、炭素繊維がCuマトリックスの緻密化を阻害する場合があり、電気接点全体の熱伝導性・電気伝導性が低下する。
【0022】
上記の電気接点は、以下に示す焼結法により製造することができる。すなわち、接点層をなす成分の粉末を所望の組成に配合した混合粉末と、中間層をなす成分の粉末と炭素繊維を所望の組成に配合した混合粉末と、高導電層をなすCu粉末と炭素繊維を所望の組成に配合した混合粉末とを、層状に一体に加圧成形した後、Cuの融点以下で加熱焼結する。それぞれの層を構成する混合粉末を層状にし、一体に成形することにより、焼結時の層間剥離を防止できる。また、焼結法で製造することにより、接点層の硬さは比較的低く、また、CuマトリクスにCrの固溶がなく高導電性を有するため、相手側接点との接触抵抗を低減し、ジュール熱の発生を抑制することができる。この焼結は、還元雰囲気中あるいは不活性雰囲気中で行うことにより、Cuマトリクスの緻密化を促進し、健全な焼結組織と優れた熱的・電気的特性を有する電気接点が得られる。
【0023】
真空遮断器等に使用される電極は、略円盤形状を有する電気接点の高導電層側の面に、通電部材である電極棒が一体に接合されている。このような構成にすることにより、良好な通電性能を有するとともに、接点部で発生したジュール熱を速やかに真空バルブ外へ導くことができる。円盤状の電気接点は、その円中心に中央孔を設け、さらに曲線形状をもつスパイラル型のスリット溝によって羽根型に分離された形状とすることが望ましい。中央孔を設けることにより、電流遮断時に発生するアークが接点面の中央で発生し、停滞するのを防ぐことができる。また、スリット溝を設けることにより、発生したアークを電気接点の外周側へ移動させ、速やかに電流を遮断することができる。
【0024】
また、円盤状の電気接点の高導電層側に、Cuからなるカップ形状をなすコイル電極を一体に接合し、コイル電極の底部に電極棒を一体に接合した構造の電極としてもよい。このような構造によれば、電流遮断時に発生する磁界を利用してアークを消滅させ、優れた遮断性能を得ることができる。
【0025】
真空バルブは、真空容器内に一対の電極を備える。少なくとも一方の電極を動かして切断/接続を切り替えるものである。一般的には一方の電極のみを可動とし(可動側電極)、他方は固定されている(固定側電極)。
【0026】
真空遮断器は、真空バルブと、真空バルブ内の電極と接続された導体端子と、可動側電極を駆動する開閉手段を備える。真空開閉機器は、真空バルブを導体によって直列に複数接続し、可動側電極を駆動する開閉手段を備えたものである。これらの機器は、上述の電気接点を使用することにより通電時に接点部で発生するジュール熱を抑え、電気接点同士の溶着が発生しにくく、通電性能および耐溶着性能に優れる。
【0027】
以下、発明を実施するための最良の形態を実施例によって詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
図1は上記電気接点を用いた電極の構造を示す図で、(a)は電気接点が接点層と高導電層の2層からなる場合、(b)は中間層を有する場合である。図1において、1は電気接点、2はアークに駆動力を与えるためのスリット溝、3は電流遮断時に溶融した電気接点1の成分がスリット溝2を通って裏面を汚損するのを防ぐためのステンレス製の汚損防止板、4は電極棒、5はろう材、44は中央孔、45は接点層、46は高導電層、47は中間層である。
【0029】
表1に示す組成を有する電気接点を作製し、これを用いて電極を作製した。
【0030】
【表1】

【0031】
電気接点1の作製方法は、次の通りである。
【0032】
接点層の原料粉を、粒径75μm以下のCr粉末とCu粉末、および60μm以下のTe粉末とを使用し、表1に示す接点層の組成となるような配合比でV型混合器により混合し、作製した。
【0033】
また、高導電層の原料粉を、粒径75μm以下のCu粉末と、径が150nmで長さ約4.5〜45μmのカーボンナノファイバーを用い、これらを表1に示す高導電層の組成となるような配合比で乳鉢混合し、作製した。比較のための炭素粉末を用いた供試材No.8用として粒径300nmの炭素粉末を使用し、同様の方法で混合し、この高導電層用の粉末とした。
【0034】
中間層を設けた例として、供試材14(炭素繊維有り),供試材15(炭素繊維なし)とを作製した。中間層の原料粉は、上記の粉末を用いて、表1に示す中間層の組成となるような配合比で乳鉢およびV型混合器により混合して作製した。
【0035】
次に、直径60mmの円盤状の金型に接点層,中間層,高導電層の順でそれぞれの原料粉を層状に充填し、油圧プレスにより400MPaの圧力で一体で加圧成形した。この際、各層の厚さが表1に示す値となるように、原料粉の充填量を調整した。比較のため、供試材No.7については、各粉末を別個に金型に充填し、それぞれの層ごとに成形した。以上の方法で得られた成形体の相対密度は、およそ68〜73%であった。これらを真空中で、1060℃×2時間加熱して焼結し、電気接点1の素材となる焼結体を作製した。この際、層ごとに別個に成形した供試材No.7の成形体については、接点層,中間層,高導電層の順で積層載置し、同様に焼結した。この結果、相対密度が85〜97%の焼結体が得られた。
【0036】
さらに、本実施例では比較のために、従来製法の一つである溶浸法によっても電気接点1を作製した(No.1)。原料には上記のCr,Cu,Te粉末およびカーボンナノファイバーを用い、Cr粉末を39.9重量%、Cu粉末を60重量%、Te粉末を0.1重量%の割合でV型混合器により混合し、これを円盤状の金型に充填し、油圧プレスにより145MPaの圧力で加圧成形してスケルトン(低密度成形体)を作製した。このスケルトンを黒鉛るつぼに入れ、その上にカーボンナノファイバーおよびCuインゴットを載置し、真空中において1200℃×2時間加熱し、スケルトンにCuを溶融含浸させることによって、表1のNo.1の接点層組成を有し、高導電層と一体化した溶浸体を作製した。
【0037】
【表2】

【0038】
表2に、表1の組成,方法により得られた焼結体および溶浸体を観察した結果を示す。
【0039】
高導電層に炭素繊維を加えた場合には、焼結体の剥離は生じなかった。一方、炭素繊維を含まない供試材No.2の場合には、円盤状焼結体の外周部において剥離が生じた。このことから、高導電層に含まれる炭素繊維は、層間剥離を抑制する効果を有することが確認された。剥離は、接点層と高導電層の焼結過程における収縮差によるもので、高導電層に炭素を含まない場合には接点層との界面でCr炭化物が生成されず、層間の結合が不足したためと考えられる。
【0040】
また、層ごとに成形し、それらを積層して焼結した供試材No.7の場合には、層間で剥離が生じた。従って、炭素繊維や炭素粉末を混合し、かつそれぞれの層を別個に成形する方法ではなく、一体で成型して焼結することにより、層間の剥離を生じさせず、電気接点を製造することが可能である。
【0041】
それぞれの焼結体および溶浸体の高導電層における導電率を測定した。導電率は、渦電流法により高導電層の表面を測定したもので、「IACS」値は焼きなまし純銅の導電率を100%とした相対値である。溶浸法で得られた供試材No.1の場合には、高導電層が緻密な溶解組織を有するため、比較的高い導電率を示すが、接点層からのCrの固溶が生じるため、十分な導電率は得られなかった。また、溶浸過程で炭素繊維(カーボンナノファイバー)はCuとの比重差により分離し、高導電層にはCの偏在が見られた。炭素繊維を含まない供試材No.2の場合、銅よりなる(Cu100%)高導電層を有するが、導電率は81%と低い値を示した。これは、製法が焼結法であるために、気孔などの欠陥が存在するためと考えられる。また、層ごとに成形したNo.7では、高導電層は十分な導電率を示したが、前述のように層間剥離が生じたため適切ではない。
【0042】
炭素繊維を添加した供試材No.3では、炭素繊維を含まない供試材No.2に比べて導電率が向上した。特に、0.1重量%以上の炭素繊維を加えたNo.9〜No.15の高導電層においては、いずれも顕著な導電率の改善効果が確認された。また、3.0重量%の炭素繊維を加えた供試材No.4では、高い導電率を示すものの、炭素繊維が多すぎるために焼結性が低下し、緻密化が不足したために導電率が低下した。従って、炭素繊維の添加量は0.1〜1.5重量%とすることが好ましい。
【0043】
次に、炭素繊維のアスペクト比を変更したものを比較したところ、アスペクト比(繊維長さ)が30の供試材No.5,アスペクト比が300の供試材No.6は、少量しか炭素繊維を加えていない供試材No.3よりも高い導電率を示すが、アスペクト比が小さいNo.5は相互の導通が少なく導電率の改善効果が生じにくいと推察される。また、No.6はアスペクト比が大きく炭素繊維が屈折または凝集し、あるいはそれに伴い焼結性が低下するため、導電率の改善効果が小さいと思われる。従って、炭素繊維のアスペクト比は50〜150程度とすることが好ましい。なお、比較のために炭素粉末を添加したNo.8では、No.2に比べて導電率が向上していた。これは焼結された高導電層に残存する酸素等のガス成分を、C粉末が反応等により吸収したゲッター作用によるものと推測される。しかしながら、粒子状の炭素の添加では、アスペクト比が小さいNo.5よりも導電率が低く、導電率の向上効果は小さいものであり、大きな高導電率化効果が望めないと思われる。
【0044】
上記の焼結体および溶浸体を機械加工し、図1の形状をなす電気接点1を作製した。直径が55mmで、各層の厚さは表1に示す寸法を有する。なお、焼結後に層間剥離が生じたNo.2およびNo.7については、電気接点1の作製並びにその後の電気的性能評価には供さなかった。
【0045】
なお、上記のように焼結体の形状を加工する方法の他、スリット溝2を有する最終形状を形作ることのできる金型に原料粉末を充填し、焼結する方法によっても電気接点1を得ることができる。この方法では機械加工などの後加工が不要であるため、容易に製作が可能である。
【0046】
次に、電気接点1を用いて、次の通り電極を作製した。電極棒4を無酸素銅で、また、汚損防止板3をSUS304であらかじめ機械加工により作製しておき、電気接点1,汚損防止板3,電極棒4それぞれの間にろう材5を載置し、これを8.2×10-4Pa以下の真空中で970℃×10分間加熱し、図1に示す電極を作製した。この電極は定格電圧24kV,定格電流1250A,定格遮断電流25kA用の真空バルブに用いられる電極である。なお、汚損防止板3は、開閉動作による電気接点1の過度な変形を防ぐための補強板の役目もするが、電気接点1の強度が十分であれば汚損防止板3は省いてもよい。
【0047】
続いて、真空バルブ(定格電圧24kV,定格電流1250A,定格遮断電流25kA)を作製した。図2は、真空バルブの構造を示す図である。図2において、1a,1bはそれぞれ固定側電気接点,可動側電気接点、3a,3bは汚損防止板、4a,4bはそれぞれ固定側電極棒,可動側電極棒で、これらをもってそれぞれ固定側電極6a,可動側電極6bを構成する。なお、本実施例では、固定側と可動側の電気接点の溝が接触面において一致するように設置した。可動側電極6bは、遮断時の金属蒸気等の飛散を防ぐ可動側シールド8を介して可動側ホルダー12にろう付け接合される。これらは、固定側端板9a,可動側端板9b、及び絶縁筒13によって高真空にろう付け封止され、固定側電極6a及び可動側ホルダー12のネジ部をもって外部導体と接続される。絶縁筒13の内面には、遮断時の金属蒸気等の飛散を防ぐシールド7が設けられ、また、可動側端板9bと可動側ホルダー12の間には摺動部分を支えるためのガイド11が設けられる。可動側シールド8と可動側端板9bの間にはベローズ10が設けられ、真空バルブ内を真空に保ったまま可動側ホルダー12を上下させ、固定側電極6aと可動側電極6bを開閉させることができる。
【0048】
さらに、上記の真空バルブを搭載した真空遮断器を作製した。図3は、本実施例の真空バルブ14とその操作機構を示す真空遮断器の構成図である。真空遮断器は、操作機構部を前面に配置し、背面に真空バルブ14を支持する三相一括型の3組のエポキシ筒15を配置した構造である。真空バルブ14は、絶縁操作ロッド16を介して、操作機構によって開閉される。
【0049】
遮断器が閉路状態の場合、電流は上部端子17,電気接点1,集電子18,下部端子19を流れる。電極間の接触力は、絶縁操作ロッド16に装着された接触バネ20によって保たれている。電極間の接触力および短絡電流による電磁力は、支えレバー21およびプロップ22で保持されている。投入コイル30を励磁すると開路状態からプランジャ23がノッキングロッド24を介してローラ25を押し上げ、主レバー26を回して電極間を閉じたあと、支えレバー21で保持している。
【0050】
遮断器が引き外し自由状態では、引き外しコイル27が励磁され、引き外しレバー28がプロップ22の係合を外し、主レバー26が回って電極間が開かれる。遮断器が開路状態では、電極間が開かれたあと、リセットバネ29によってリンクが復帰し、同時にプロップ22が係合する。この状態で投入コイル30を励磁すると閉路状態になる。なお、31は排気筒である。
【0051】
以上のように、本実施例の電気接点1を用いて真空バルブ14を作製し、それを搭載した定格電圧24kV,定格電流1250A,定格遮断電流25kA仕様の真空遮断器を作製した。
【実施例2】
【0052】
表1に示す電気接点に関し、実施例1で作製した真空遮断器を用いて電気的性能試験を実施した。まず、通電試験により通電時における温度上昇を評価した。通電中の電気接点温度を直接測定することは困難なので、本実施例では2000Aの電流を10時間通電した後の真空バルブ端部の温度を測定した。真空バルブ端部の温度の測定は24℃の室温で行った。表2にその結果を示す。
【0053】
供試材No.1〜No.8ではいずれも65℃以上の端部温度を示した。一方、No.9〜No.15の供試材では63℃以下に抑えられた。これは、高導電層の導電率あるいは熱伝導性に依存するものと考えられる。高い導電率を有するNo.9〜No.15の電気接点は、通電ジュール熱の抑制に有効である。なお、中間層に炭素繊維(カーボンナノファイバー)を含むNo.14は、中間層に炭素繊維を含まないNo.15に比べて高い端部温度を示した。中間層でCrとCが共存することにより、Cr炭化物を生成し、カーボンナノファイバーによる導電率向上効果が低下したためと考えられる。従って、中間層には炭素繊維を含まないことがより好ましい。
【0054】
その後、25kAの電流遮断試験,25kA通電後の電極引離し(開離)の可否を評価した。表2に、その結果を併せて示す。溶浸法で得られたNo.1の場合には、25kA通電後の溶着が著しく、開離できなかった。これは、溶浸過程で低融点のTeが接点層から流出し、Teによる溶着抑制効果が低下したためと考えられる。従って、製法には焼結法が好適である。No.1以外の電気接点は、遮断性能および耐溶着性能(電極開離)ともに満足した。ただし、ジュール熱に伴う温度上昇が小さいNo.9〜No.15がより大電流通電に好適である。
【0055】
以上のように、ジュール熱による温度上昇を抑え、優れた通電性能,遮断性能および耐溶着性能を有する真空バルブおよび真空遮断器を製造できた。
【実施例3】
【0056】
実施例1で作製した真空バルブを、真空遮断器以外の真空開閉装置に搭載した。図4は、実施例1で作製した真空バルブ14を搭載した、路肩設置変圧器用の負荷開閉器を示す図である。
【0057】
この負荷開閉器は、主回路開閉部に相当する真空バルブ14が、真空封止された外側真空容器32内に複数対収納されたものである。外側真空容器32は、上部板材33と下部板材34及び側部板材35を備え、各板材の周囲(縁)が互いに溶接によって接合されているとともに、設備本体とともに設置されている。
【0058】
上部板材33には、上部貫通孔36が形成されており、各上部貫通孔36の縁には環状の絶縁性上部ベース37が各上部貫通孔36を覆うように固定されている。そして、各上部ベース37の中央に形成された円形空間部には、円柱状の可動側電極棒4bが往復動(上下動)自在に挿入されている。すなわち、各上部貫通孔36は上部ベース37と可動側電極棒4bによって閉塞されている。
【0059】
可動側電極棒4bの軸方向端部(上部側)は、外側真空容器32の外部に設置される操作器(電磁操作器)に連結されるようになっている。また、上部板材33の下部側には、各上部貫通孔36の縁に沿って外側ベローズ38が往復動(上下動)自在に配置されており、各外側ベローズ38は、軸方向の一端側が上部板材33の下部側に固定され、軸方向の他端側が各可動側電極棒4bの外周面に装着されている。すなわち、外側真空容器32を密閉構造とするために、各上部貫通孔36の縁には各可動側電極棒4bの軸方向に沿って外側ベローズ38が配置されている。また、上部板材33には排気管(図示省略)が連結され、この排気管を介して外側真空容器32内が真空排気されるようになっている。
【0060】
一方、下部板材34には下部貫通孔39が形成されており、各下部貫通孔39の縁には絶縁性ブッシング40が各下部貫通孔39を覆うように固定されている。各絶縁性ブッシング40の底部には、環状の絶縁性下部ベース41が固定されている。そして、各下部ベース41の中央の円形空間部には、円柱状の固定側電極棒4aが挿入されている。すなわち、下部板材34に形成された下部貫通孔39は、それぞれ絶縁性ブッシング40,下部ベース41、及び固定側電極棒4aによって閉塞されている。そして、固定側電極棒4aの軸方向の一端側(下部側)は、外側真空容器32の外部に配置されたケーブル(配電線)に連結されるようになっている。
【0061】
外側真空容器32の内部には、負荷開閉器の主回路開閉部に相当する真空バルブ14が収納されており、各可動側電極棒4bは、2つの湾曲部を有するフレキシブル導体(可撓性導体)42を介して互いに連結されている。このフレキシブル導体42は、軸方向において2つの湾曲部を有する導電性板材としての銅板とステンレス板を交互に複数枚積層して構成されている。フレキシブル導体42には貫通孔43が形成されており、各貫通孔43に各可動側電極棒4bを挿入して互いに連結される。
【0062】
以上のように、実施例1で作製した真空バルブは、路肩設置変圧器用の負荷開閉器にも適用可能であり、これ以外の真空スイッチギヤなどの各種真空開閉装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0063】
1 電気接点
1a 固定側電気接点
1b 可動側電気接点
2 スリット溝
3,3a,3b 汚損防止板
4,4a,4b 電極棒
5 ろう材
6a 固定側電極
6b 可動側電極
7 シールド
8 可動側シールド
9a 固定側端板
9b 可動側端板
10 ベローズ
11 ガイド
12 可動側ホルダー
13 絶縁筒
14 真空バルブ
15 エポキシ筒
16 絶縁操作ロッド
17 上部端子
18 集電子
19 下部端子
20 接触バネ
21 支えレバー
22 プロップ
23 プランジャ
24 ノッキングロッド
25 ローラ
26 主レバー
27 引き外しコイル
28 引き外しレバー
29 リセットバネ
30 投入コイル
31 排気筒
32 外側真空容器
33 上部板材
34 下部板材
35 側部板材
36 上部貫通孔
37 上部ベース
38 外側ベローズ
39 下部貫通孔
40 絶縁性ブッシング
41 下部ベース
42 フレキシブル導体
43 フレキシブル導体貫通孔
44 中央孔
45 接点層
46 高導電層
47 中間層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接点層と、前記接点層に対し導体に接続する側に設けられた高導電層の少なくとも2つの層を有する電気接点であって、前記接点層はCrとCuとTeを含む焼結体よりなり、前記高導電層はCuと炭素繊維を含む焼結体からなり、前記接点層と前記高導電層の間にCr炭化物が存在することを特徴とする電気接点。
【請求項2】
請求項1に記載された電気接点であって、
前記接点層および高導電層の間に中間層を有し、
前記中間層と前記接点層との間に前記Cr炭化物が存在することを特徴とする電気接点。
【請求項3】
請求項1に記載の電気接点であって、前記炭素繊維のアスペクト比(繊維長さ/繊維径)が50〜150で、かつ、繊維径は300nm以下であることを特徴とする電気接点。
【請求項4】
請求項1に記載の電気接点であって、
前記高導電層は、前記炭素繊維を0.1〜1.5重量%含むことを特徴とする電気接点。
【請求項5】
接点層と、前記接点層に対し導体に接続する側に設けられた高導電層の少なくとも2つの層を有する電気接点の製造方法であって、
成型容器中にCr,CuおよびTeの混合粉末,Cu粉末および炭素繊維の混合粉末をそれぞれ層状に充填し、加圧して一体成型し、Cuの融点以下で加熱焼結することを特徴とする電気接点の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の電気接点の製造方法であって、
前記焼結は、還元雰囲気中あるいは不活性雰囲気中で行うことを特徴とする電気接点の製造方法。
【請求項7】
真空容器内に一対の固定側電極および可動側電極を備えた真空バルブと、該真空バルブ内の前記固定側電極および可動側電極の各々に接続され、前記真空バルブ外へ引き出された導体端子と、
前記可動側電極を駆動する開閉手段とを備えた真空遮断器であって、
前記固定側電極および可動側電極は円盤状部材と、該円盤状部材の前記高導電層の面に一体に接合された電極棒とよりなり、
前記固定側電極および可動側電極の円盤状部材の少なくともいずれかが、接点層と、前記接点層に対し導体に接続する側に設けられた高導電層の少なくとも2つの層を有する焼結体よりなり、前記接点層はCrとCuとTeを含み、前記高導電層はCuと炭素繊維を含み、前記接点層と前記高導電層の間にCr炭化物が存在することを特徴とする真空遮断器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−14240(P2011−14240A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154512(P2009−154512)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】