説明

真空容器のベーキング方法

【課題】真空容器のベーキング時間を短縮させたベーキング方法を提供することを目的とする。
【解決手段】真空容器の排気を行う工程と、真空容器に不活性ガスを導入する工程と、を繰り返すサイクルを有する真空容器のベーキング方法であって、
前記真空容器の排気は、前記真空容器に設けた排気コンダクタンス可変のスロー排気バルブを介して行い、前記スロー排気バルブの排気コンダクタンスを、前記サイクルの直前のサイクルにおける排気コンダクタンスより大きく設定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空容器のベーキング方法に関する。より詳しくは短時間で高真空度を達成するためのベーキング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超高真空装置に対して、スパッタ処理等の半導体処理の前に超高真空装置の真空容器のベーキングを行う事で、真空容器内壁に付着したH2Oや不純物ガスを脱着させて排出し、真空容器内に水分量や不純物ガスの少ない真空状態を作り出すことが行われている。
【0003】
ベーキング方法としては、真空容器を大気圧から真空状態まで急速に排気後、真空容器の排気を停止してから、不活性ガスを封止して真空容器をベーキングした後、不活性ガスを排気する方法が知られている(特許文献1、2)。
特許文献1には、第一圧力と第一圧力より低い第二圧力との間で、真空システムを循環させる段階と、第二圧力より低い第三圧力まで真空システムを排気する段階と、第三圧力で真空システムを排気する段階とから成る真空システムベークアウトを実施する方法が記載されている。
また、特許文献2には、チャンバを1Torrを下回る圧力とするステップと、4Torrを下回る圧力でチャンバに非反応性ガスを流すステップとを繰り返してチャンバから汚染物質を洗い流した後、チャンバ内の圧力を約50Torrを下回るように下げて、チャンバからほぼすべての非反応性ガスを除去するステップとを含む方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−156176号公報
【特許文献2】特表2002−513089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および特許文献2のベーキング方法を用いて真空容器の排気を行ったところ、真空容器を大気圧状態から急速に排気されるときに、真空容器内を密閉する際に混入していた大気中の水成分が結露してしまい、真空容器内の壁や部品表面に結露した水成分が吸着してしまう場合があった。

吸着した水成分は極めて脱着しにくいので、吸着した水成分を脱着させるために、真空容器内に不活性ガスを封止してベーキングを行った後、不活性ガスを排気してから再度不活性ガスを導入してベーキングを行う工程の繰り返し回数が増えてしまう。そのため、半導体処理の前に超高真空装置の真空容器を用意するまでに長い時間が掛かかってしまった。
【0006】
一方、半導体処理の前に超高真空装置の真空容器を早く用意することは、装置のダウンタイムを減らして生産効率をあげる事になるので、真空容器に行うベーキング時間のさらなる短縮が必要である。
そこで、本発明は、真空容器のベーキング時間を短縮させたベーキング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のベーキング方法は、
真空容器の排気を行う工程と、真空容器に不活性ガスを導入する工程と、を繰り返すサイクルを有する真空容器のベーキング方法であって、
前記真空容器の排気は、前記真空容器に設けた排気コンダクタンス可変のスロー排気バルブを介して行い、前記スロー排気バルブの排気コンダクタンスを、前記サイクルの直前のサイクルにおける排気コンダクタンスより大きく設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のベーキング方法によれば、真空容器と粗引きポンプをつなぐ配管に設置しているスロー排気バルブの排気コンダクタンスを調整し、真空容器内の気体の水成分を結露させないで排気させることで真空容器壁に水成分が吸着することを防ぎ、真空容器のベーキング時間を短縮することが出来る。また、ベーキングにより真空容器内の水成分や不純物を排出出来るため、本発明のベーキング方法を用いてベーク処理を行った真空容器内で成膜した場合、良質な特性を有する膜や膜の界面を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明を適用する真空容器の一例を示す模式図である。
【図2】本発明に係るベーキング方法の手順を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明を適用する超高真空装置の模式図である。
真空容器1には、排気手段として、ゲートバルブ10を介して、ターボ分子ポンプ、水吸着ポンプなどの主排気ポンプ7が接続され、主排気ポンプ7はドライポンプなどの粗引きポンプ6に接続されている。また、真空容器1には、コンダクタンス可変のスロー排気バルブ12と排気コンダクタンスが固定の粗引きバルブ11が設けられている。真空容器1と粗引きポンプ6とをつなぐ配管の間に、粗引きバルブ11およびスロー排気バルブ12からの配管が配置されており、真空容器1内のガスは、スロー排気バルブ12、粗引きバルブ11を介して粗引きポンプにて排気される。スロー排気バルブはチャンバ内の気体を徐々に排気する緩速排気機能を備えた排気バルブであり、粗引きバルブより口径が小さく設計されている。スロー排気バルブ12は、不図示の演算装置に接続されている。
【0011】
真空容器1には不活性ガスの導入手段として、ガスバルブ13、ガス流量を調整するマスフローコントローラ(MFC)5を介して、ガスボンベ(不図示)が接続されている。
【0012】
真空容器1内には、加熱手段として、ハロゲンランプ、白熱ランプなどのランプヒーター9が配置されている。ランプヒーター9の配置箇所は1箇所に固定されず、複数箇所設けられても良い。また、真空容器1の壁には、ベークヒーター8が設けられている。ベークヒーターとしては、発熱体としての炭素繊維をセラミックで覆ったカーボンヒーターや、炭素繊維の代わりにニクロム線を用いたニクロム線ヒータなどを用いることができる。
【0013】
また、真空容器1には、真空容器1内の圧力を測定する圧力計2、真空容器内の温度を測定する温度計3、真空容器内のH2O分圧を測定するイオン測定計が設けられている。
さらに、真空容器1には、スパッタリングなどの半導体処理手段が設けられている。
【0014】
また、本実施形態の真空容器には、上記したランプヒーター9や主排気ポンプ7、スロー排気バルブ12などの各構成要素の動作を制御するコントローラ(不図示)が備えられている。
なお、コントローラは、CPUやROM、RAM等の記憶部などからなるコンピュータを備えて構成されている。CPUは、プログラムにしたがって、上記各部の制御や各種の演算処理等を行う。記憶部は、予め各種プログラムやパラメータを格納しておくROM、作業領域として一時的にプログラムやデータを記憶するRAM等からなる。
【0015】
図2は、本発明に係るベーキング方法の手順を示すフローチャートである。なお、図2のフローチャートにより示されるアルゴリズムは、コントローラの記憶部に真空排気プログラムとして記憶されており、動作開始の際にCPUにより読み出されて実行される。
【0016】
まず、真空容器1を大気圧付近から所定圧力a1(例えば、大気圧の1/10となる10000Pa)までスロー排気バルブ12を開にして(S01)、粗引きポンプ6で真空容器1を排気する(S02)。所定圧力a1になったら(S04)、スロー排気バルブ12を閉にして排気を停止する(S05)。真空容器1内の圧力は、圧力計2で測定する。
【0017】
次に、流量調整可能なマスフローコントローラ5を開くとともに、ガスバルブ15を開き、水成分(HO)を実質的に含まない不活性ガスを真空容器1に導入する(S06)。不活性ガスとしては、窒素ガス(N2)、アルゴンガス(Ar)が好適に用いられる。不活性ガスに含まれるHO分圧が100万分の1以下であることが好ましい。
【0018】
真空容器1内の圧力が大気圧付近になったら(S07)、マスフローコントローラMFC5およびガスバルブ13を閉にして、不活性ガスの導入を停止する(S08)。
真空容器1内の圧力は、圧力計2にて計測する。
【0019】
S01〜S08で一サイクルとなる。
その後すぐにスロー排気バルブ12を開にして、2回目のサイクルの真空容器1内の排気を行う(S01)。このとき、真空容器1内の水分量は1回目のスロー排気を行う前よりも約1/10の量にまで減少している。そのため、スロー排気バルブの排気コンダクタンスは1回目に行った時より大きくして排気したとしても、真空容器1内の水成分は結露しにくくなる。
【0020】
そこで、2回目のスロー排気はスロー排気バルブ12の排気コンダクタンスを大きすることにより、1回目のスロー排気より排気速度を大きくして行う。このとき、スロー排気バルブ12は真空容器1の外部に設けた不図示の制御装置によって排気コンダクタンスの大きさをコントロールすることで、真空容器1内に含まれている水成分が結露しない最大の排気コンダクタンスでスロー排気を可能とすることができる。
【0021】
真空容器1に対して、大気圧からのスロー排気と、不活性ガスの導入のサイクル(S01〜S08)を3回以上繰り返すことで真空容器1内の水分量が約1/1000になる。そのため、主排気ポンプ7を使用して真空容器1内を急激に排気した場合でも、真空容器1内での水成分の結露が起きにくくなる。
【0022】
上記サイクル(S01〜S08)をN回繰り返し、N回スロー排気を実施した後(S09)、スロー排気バルブ12を開とする(S10)。繰り返し数Nは、3回以上の数を適宜設定する。到達圧力が所定圧力a2(例えば、10000Pa)に到達したら(S11)、スロー排気バルブ12を閉、粗引きバルブ11を開にして(S12)、粗引きポンプ6にて排気を行う。次に、スロー排気バルブ12を閉にし(S13)、真空容器1に設置されたゲートバルブ10を開にし、ターボ分子ポンプ(TMP)などの主排気ポンプを使用して真空容器1内の圧力を所定圧力b1(例えば、1×10−4Pa)まで減少させる(S15)。
【0023】
真空容器1の圧力が所定圧力b1に到達したら、真空容器1の圧力がb2に達するまで、S16〜S23を一サイクルとして、サイクルを繰り返し行う。
(S16)ゲートバルブ10を閉じる。
(S17)マスフローコントローラ5、ガスバルブ13を開き、不活性ガスを真空容器1内に導入する。
(S18)ベークヒーター8、ランプヒーター9の電源をオン(ON)とし、ベーキングを開始する。
(S19、S20)真空容器1の圧力が所定圧力c(例えば1330Pa)に到達したら(S19)、マスフローコントローラ5およびガスバルブ13を閉じ、不活性ガス導入を停止する(S20)。
(S21)所定時間(例えば10分)その状態を保持し、ベーキングを行う。
(S22、S23)その後、ゲートバルブ10を開き、真空容器1内の圧力がb2(例えば1×10−5Pa)以下となったら、ベーキングを終了し、ベークヒーター8、ランプヒーター9の電源をオフ(OFF)とする。
ガスバルブ13を閉じてから(S25)、ゲートバルブを開き(S26)ベーキングを終了とする。
なお、上記の例では、排気は所定圧力b2まで行っているが、所定圧力に代えて、真空容器内の水分圧、繰り返し回数を排気開始の条件としても良い。
【0024】
その後、主排気ポンプ7を介して、粗引きポンプ6で排気しつつ、真空容器1を自然冷却させる。
真空容器1の冷却は、ゲートバルブを開かず真空容器1内に不活性ガスを封止した状態で所定圧力a1の状態を保持した状態で行うこともできる。これによれば、真空容器1内の部品の熱が早く真空容器外壁に伝わるため、この方法で真空容器1の冷却速度を上げることが出来る。
【0025】
他の態様として、上記ステップのS20に代えて、真空容器1内に不活性ガスを封止せずに、真空容器1内に自動圧力調整機を取り付けて、真空容器1内の圧力を一定の所定圧力c(例えば1330Pa)に保った状態で不活性ガスを連続して流しつづけながら真空容器1をベーキングすることも可能である。本方法においては、不活性ガスを流し続けるので、不純物が不活性ガスにより排出され真空容器1内の真空の質をより向上させることが出来る。
【符号の説明】
【0026】
1 真空容器
2 圧力計
3 温度計
4 イオン測定器
5 マスフローコントローラ(MFC)
6 粗引きポンプ
7 主排気ポンプ
8 ベークヒーター
9 ランプヒーター
10 ゲートバルブ
11 粗引きバルブ
12 スロー排気バルブ
13 ガスバルブ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器の排気を行う工程と、真空容器に不活性ガスを導入する工程と、を繰り返すサイクルを有する真空容器のベーキング方法であって、
前記真空容器の排気は、前記真空容器に設けた排気コンダクタンス可変のスロー排気バルブを介して行い、前記スロー排気バルブの排気コンダクタンスを、前記サイクルの直前のサイクルにおける排気コンダクタンスより大きく設定することを特徴とするベーキング方法。
【請求項2】
前記排気コンダクタンスの制御は、真空容器の外部に設けた制御装置によって行うことを特徴とする請求項1に記載のベーキング方法。
【請求項3】
前記サイクルを3回以上行った後、前記スロー排気バルブを介して前記真空容器内の排気を行う工程と、前記スロー排気バルブを閉じ、前記真空容器に設けた粗引きバルブを介して前記真空容器の排気を行う工程と、前記粗引きバルブを閉じゲートバルブを介して真空容器の排気を行う工程と、を有する請求項1または2に記載のベーキング方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−96797(P2011−96797A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248418(P2009−248418)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】