説明

真空断熱材,真空断熱材を用いた給湯機器及び電気式湯沸し機器

【課題】高温環境下においても高い断熱性能を維持可能な真空断熱材を提供する。また、高い断熱性能を有する給湯機器を提供する。
【解決手段】無機繊維集合体からなる芯材51と、表面保護層とガスバリヤ層と熱溶着層とを有する外包材52と、芯材51及び外包材52の水分やガス成分を吸着する吸着剤53とを備えた真空断熱材において、外包材52のガスバリヤ層が少なくとも2層の金属層の金属面が向かい合うように積層されて、第1のガスバリヤ層、第2のガスバリヤ層とし、熱溶着層として融点150℃以上の樹脂フィルムを使用したことにより、高温環境下においても長期にわたって断熱性能を維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空断熱材,真空断熱材を用いた給湯機器及び電気式湯沸し機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に対する観点から、家電機器において消費電力量削減の必要性が叫ばれている。例えば冷蔵庫は家電品の中で消費電力量を費やす製品であり、冷蔵庫の消費電力量削減は地球温暖化対策として必要不可欠な状況にある。このような状況の下、真空断熱材を採用した冷蔵庫が製品化され、外部との無駄な熱の授受を抑制して断熱効率を著しく向上させている。
【0003】
現在の真空断熱材の主な適用分野としては、冷蔵庫をはじめ、極低温フリーザー,輸送用保冷箱,保冷コンテナなどの比較的温度帯が低い製品が中心となっている。しかし、真空断熱材は断熱性能が良好なゆえ、最近は浴槽や自動販売機などの比較的温度帯の高い製品への適用も検討され始めている。
【0004】
このような比較的温度の高い製品分野への適用のためには、真空断熱材を構成する材料がその温度帯において十分耐えられることが求められる。真空断熱材に使用されている外包材の耐熱温度もその一例であり、従来例としては、特許文献1及び2に示すものがある。
【0005】
(従来技術1)
特許文献1に示される真空断熱材は、電気湯沸かし器に真空断熱材を適用した例であるが、芯材を配置した耐熱性のラミネートフィルムの間を真空に封止した真空断熱材のラミネートフィルムが、シール層とガスバリヤ層と保護層よりなり、ヒートシール部分を電気湯沸し器の外側近くになるように折って配置したものである。電気湯沸かし器は100℃程度まで温度が上がるため、従来からあるウレタンなどの有機系断熱材は劣化し、断熱性が非常に悪くなるという問題がある。特許文献1の真空断熱材はこれらを解決するために、上記構成の外包材でシール層に無延伸ポリプロピレンを用いている。これを用いることで耐熱性を有するように構成され、ヒートシール部分を湯沸かし器の外側近くなるようにしてヒートシール部からの劣化を抑制する構成としている。
【0006】
(従来技術2)
また、特許文献2に示される電気湯沸かし器の例は、貯水容器外周に真空断熱材を設けて保温電力を非常に少なくしたものである。これは、真空断熱材を構成する積層フィルム中のガスバリヤ層において、高温にさらされる側に金属箔を用い、低温側は蒸着層を用いるもので、高温側は100℃程度の温度において、ガスバリヤ性が良好で真空状態を保持することができ、断熱性が長期間保つことができる。また、低温側では蒸着層を用いることにより、金属箔を伝って流れ込む熱を抑え、真空断熱材全体の性能を向上させたもので、消費電力量を低くしている。
【0007】
【特許文献1】特開平11−309069号公報
【特許文献2】特開2001−8828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に示される真空断熱材は、ガスバリヤ性と耐熱性の向上のため、それぞれアルミ箔と無延伸ポロプロピレンを用いるが、6μm等の厚みが薄いアルミ箔にはピンホールが見られ、これによるガスバリヤ性の悪化が懸念される。また、無延伸ポロプロピレンを用いたことによるガスバリヤ性の悪化について具体的な対処方法の提示がなく、信頼性の面で問題がある構成となっている。
【0009】
また、特許文献2に示される真空断熱材は、高温側に金属箔層、低温側に蒸着層を用いることにより、蒸着層を伝って流れ込む熱(ヒートブリッジ)を抑えているが、蒸着層は金属箔に比較しガスバリヤ性に劣るため、低温側の蒸着層からのガス侵入量が大きくなってしまう。すなわち、信頼性の面で課題があった。
【0010】
また、高温環境下での使用における新たな問題として、ラミネートフィルムから発生する有機系ガスの影響がある。発明者らの実験によれば、2液硬化型のウレタン系などの接着剤を使用してラミネートされたフィルムは、80℃程度に昇温したあたりから、メチルアルコール,エチルアセテート,トルエン,スチレン等の溶剤系のガスが脱離することを確認した。これにより、成分や分解により生成される成分等の有機ガス成分が脱離する現象が起こる。アルミニウム箔などのガスバリヤ性が高い材料がある場合、内側層で発生したガスが外層側に抜けにくいため、内装側である熱溶着層を透過してしまう。冷蔵庫など、低温環境下で従来から一般に使用されている水分・ガス吸着剤はこれらの有機溶剤系ガスを吸着できないため、真空断熱材の真空度を維持することができない。したがって、結果的に断熱性能の劣化を招いてしまう。
【0011】
吸着剤については、特許文献1及び2に記載が無く、これらの問題に対しては考慮されていない。
【0012】
以下に従来の真空断熱材の一例を図9,図10により説明する。
【0013】
図9は真空断熱材を適用した製品の真空断熱材配置部の断面図で、図中では便宜上「高温側」と「低温側」の表現で温度差を記載している。図10,図11はそれぞれ高温側に配置するフィルム12aの構成断面、低温側に配置するフィルム12bの構成断面の一例を示す。
【0014】
図9に示すように、一般的に真空断熱材10は芯材11と外包材12から構成され、高温側の壁材20に接着剤(図示せず)等で貼付けられ、空間25を挟んで低温側の壁材
21とで断熱部分を構成している。また、内部の真空度の保持のため、吸着剤が用いられる。空間25は硬質ウレタンフォームや他の断熱材の場合もある。
【0015】
この中で外包材12の高温側に配置するフィルムの構成は、図10に示すように表面保護層14とガスバリヤ層15及び16と熱溶着層17とを備えて構成され、一般に高温環境下でガスバリヤ性が悪化しないようガスバリヤ層16にアルミ箔を用いるケースが多い。
【0016】
また、外包材12の低温側に配置するフィルムの構成としては、図11に示すように、ガスバリヤ層18として樹脂フィルムを基材にアルミニウム蒸着をする場合がある他は図10の高温側と同じ構成である。
【0017】
高温側においては、アルミニウム箔のピンホールの影響が懸念され、低温側においてはアルミニウム蒸着層が元来アルミニウム箔よりもガスバリヤ性が劣り、いずれの構成においてもガスバリヤ性が低下しやすいものであった。また、高温側の影響により、外包材
12のラミネート部分から接着剤や溶剤等から有機ガス成分が発生するが、これを考慮したものではなかった。
【0018】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、高温環境下においても高い断熱性能を維持可能な真空断熱材を提供すること、または、高い断熱性能を有する給湯機器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
従って、本発明はこのような従来の構成が有していた問題と、高温下で起こる新たな問題について解決しようとするものであり、少なくとも無機繊維重合体からなる芯材と、表面保護層とガスバリヤ層と熱溶着層を有する外包材と、前記芯材及び前記外包材の水分やガス成分を吸着する吸着剤とを備えた真空断熱材において、前記外包材のガスバリヤ層が少なくとも2層の金属層の金属面が向かい合うようにラミネートされ、熱溶着層として融点150℃以上の樹脂フィルムをラミネートしたことを特徴とする真空断熱材としたことで、外包材のガスバリヤ層を構成する金属層が互いのピンホールによるガスバリヤ性悪化要因を補う構成と、熱溶着層の高融点化により、110℃程度までの高温下で使用が可能で、使用温度域とガスバリヤ性を大幅に改善することができる。
【0020】
また、本発明の真空断熱材は、無機繊維重合体からなる芯材と、表面保護層とガスバリヤ層及び熱溶着層を有する外包材と、前記芯材を厚み方向に圧縮状態に保持する内包材と、前記芯材や外包材及び内包材の水分やガス成分を吸着する吸着剤とを備えた真空断熱材において、前記外包材のガスバリヤ層が、接着層を挟み少なくとも2層の金属部を有する第1及び第2のガスバリヤ層を有し、前記第1のガスバリヤ層が樹脂フィルム基材の片面に金属膜を成膜したフィルムからなり、前記第2のガスバリヤ層が金属箔か、樹脂フィルム基材の片面に金属膜を成膜したフィルムに、金属膜上にガスバリヤ性の樹脂をコーティングしたフィルムとし、それぞれ、樹脂フィルム層/金属膜/接着層/金属箔、樹脂フィルム層/金属膜/ガスバリヤ性樹脂コーティング層/接着層/金属膜/樹脂フィルム層の組合せでラミネートしたもので、前記ガスバリヤ層の最内層となる側に熱溶着層として融点150℃以上の樹脂フィルムを、前記ガスバリヤ層の外層となる側に前記熱溶着層よりも融点が高い樹脂フィルムを表面保護層としてラミネートしたものを外包材とし、且つ、前記芯材がバインダーを含まず厚み方向に復元性を有し、前記吸着剤が芯材の表面又は厚み方向に対して斜めに切り込まれて設けた収納部に収納され、前記収納部の開口が重ね合わされて狭められることを特徴としているので、外部からのガスや水分の浸入を防止できる。
【0021】
また、前記吸着剤として少なくとも疎水性吸着剤を用いたことで、高温雰囲気下においても有機系ガスを吸着できるため、断熱性能の劣化を抑え、長期に亘り真空度を維持できる。
【0022】
また、本発明の真空断熱材は、上記いずれかの構成を備えた真空断熱材において、前記外包材が、第1及び第2のガスバリヤ層からなり、前記第1のガスバリヤ層として、ポリアミド樹脂フィルム(PA),エチレンビニルアルコール共重合体樹脂フィルム(EVOH),ポリビニルアルコール樹脂フィルム(PVA),ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム(PET)のいずれかの樹脂フィルムを基材として、その片面にアルミニウム(AL),ステンレス(SUS)のいずれかの金属を成膜したものを、前記第2のガスバリヤ層として、アルミニウム箔(AL),ステンレス箔(SUS),鉄箔(Fe)のいずれかの金属箔を用い、前記第1及び第2のガスバリヤ層の金属層同士が互いに向かい合うように貼り合せたラミネートフィルムと、熱溶着層として無延伸ポリプロピレン樹脂フィルム
(CPP)やポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム(PBT)のいずれかを用い、且つ、表面保護層が熱溶着層よりも融点が高い樹脂フィルムとした多層ラミネート構成としたことで、金属箔特有のピンホールを金属膜が直接塞ぐ構成としたため、ガスバリヤ性が高く、外部からのガスや水分の侵入を抑制することができる。
【0023】
また、本発明の真空断熱材は、上記いずれかの構成を備えた真空断熱材において、前記外包材が、第1及び第2のガスバリヤ層からなり、前記第1のガスバリヤ層として、ポリアミド樹脂フィルム(PA),エチレンビニルアルコール共重合体樹脂フィルム(EVOH),ポリビニルアルコール樹脂フィルム(PVA),ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム(PET)のいずれかの樹脂フィルムを基材として、その片面にアルミニウム(AL),ステンレス(SUS)のいずれかの金属を成膜したものを、前記第2のガスバリヤ層として、エチレンビニルアルコール共重合体樹脂フィルム(EVOH),ポリビニルアルコール樹脂フィルム(PVA),ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム(PET)のいずれかの樹脂フィルムを基材として、その片面にアルミニウム(AL),ステンレス
(SUS)のいずれかの金属を成膜した上に樹脂系のコーティング層を設け、この樹脂系コーティング層を挟んで2層の金属膜が互いに向かい合うように貼り合せたラミネートフィルムであり、熱溶着層として無延伸ポリプロピレン樹脂フィルム(CPP),ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム(PBT)のいずれかを用い、且つ、表面保護層が熱溶着層よりも融点が高い樹脂フィルムとした多層ラミネート構成としたことで、外包材のヒートブリッジの低減と、樹脂コーティング層を2つの金属膜でサンドイッチした構成によるガスバリヤ性の向上と、高性能と長期信頼性を両立できる。
【0024】
また、本発明は、上記いずれかの構成を備えた真空断熱材において、前記疎水性吸着剤として、SiO2/Al23 比が20以上で、不燃性であるハイシリカゼオライトを用いたことで、トルエン、メタノールなどの分子径が小さく、沸点が比較的低い有機溶剤系のガスを優先的に吸着できる。
【0025】
また、給湯機器における本発明は、上記いずれかの真空断熱材を、少なくとも貯湯タンクを備えた電気式、ヒートポンプ式等の給湯機器において、前記貯湯タンクの外周に沿うように円弧状に曲げて配設し、前記円弧端部の断熱が少なくとも2重に配置されたことを特徴としており、耐熱性とガスバリヤ性を向上させた真空断熱材を隙間無く配設することで熱漏洩量を低減し、長期間断熱性能を維持できる。
【0026】
また、少なくとも湯沸し機能と保温機能を持ち、外郭容器と貯水用容器及びフタ部で構成された電気式湯沸し機器における本発明は、上記いずれかの真空断熱材を、前記貯水用容器の外周に沿うように曲げて配設し、前記真空断熱材の曲げ方向の端部が2重に配置されたことを特徴とし、貯水容器からの熱漏洩を低減している。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、高温環境下においても高い断熱性能を維持可能な真空断熱材を提供することができる。また、高温環境下でも真空断熱材を用いることができるため、高い断熱性能を有する給湯機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の複数の実施例について以下、図1〜図3を用いて説明する。図1は本発明の実施例における真空断熱材の断面図であり、図2と図3は図1における外包材52のフィルム積層構成の違いを説明するための拡大断面図である。
【0029】
図1,図2において、真空断熱材50は、無機繊維重合体からなる芯材51と、表面保護層55,第1のガスバリヤ層56,第2のガスバリヤ層57及び熱溶着層58の4層を2液硬化型ウレタン系等の接着剤(図示せず)によりドライラミネートして構成された外包材52、吸着剤53及び芯材51と吸着剤53を内包する内包材54で構成するものである。
【0030】
ここで用いる無機繊維重合体からなる芯材51はガラス繊維(グラスウール,グラスファイバー),シリカ繊維,アルミナ繊維,シリカアルミナ繊維,セラミック繊維など、無機繊維重合体が好適であるが、特に限定するものではない。
【0031】
また、外包材52のガスバリヤ性は、ガスバリヤ層56、57を組み合わせて確保されるが、ここではガスバリヤ性を強化するために、第1のガスバリヤ層56と第2のガスバリヤ層57の両方に金属層を設けた。これらのガスバリヤ層の金属層は、金属箔や樹脂フィルムを基材に金属膜を成膜したものを用いている。金属箔はアルミニウム箔,ステンレス箔,鉄箔,銅箔,チタニウム箔等、特に限定するものではない。
【0032】
金属膜の成膜方法は、真空蒸着,スパッタリング,イオンプレーティング等、膜厚が
300〜1,000Å の範囲内であれば特に限定するものではない。また、接着剤(図示せず)についても特定の部位を除いて特に限定するものでなく、押出しラミネートや、熱ラミネート等の接着剤レスも使用できる。
【0033】
吸着剤53については、真空断熱材50が高温雰囲気で使用される場合は、疎水性吸着剤を用いることで、外包材52のラミネートフィルムやラミネート用接着剤及びラミネート時に使用した溶剤系の残留物などから発生する有機ガス成分を優先的に吸着できるため、より長期間断熱性能を維持できるものである。
【0034】
図3は、図2と異なる外包材の構成であり、第2のガスバリヤ層59の金属蒸着層の蒸着面上に樹脂材をコーティングしている。具体的には各実施例の記載において説明する。
【0035】
以下、本発明における実施例を詳細に説明するが、各実施例における同一符号は同一物または相当物を示し、各実施例の説明で述べる点以外については実施例1と基本的には同一であるので重複する説明を省略する。
【0036】
【表1】

【0037】
表1は、最初に説明する実施例1〜6と比較例1〜4の概要を示したものである。各例において、それぞれの外包材のフィルム構成及び吸着剤について初期の熱伝導率及び5年相当経過後の熱伝導率を測定し、また、外観等の変形状態について観察した。
【実施例1】
【0038】
第1の実施例は、図1に示す真空断熱材50において、外包材52のフィルム構成を図2に示すように構成したものである。芯材51には、平均繊維径4μmのバインダーを含まないグラスウール積層体を用いた。
【0039】
実施例1の外包材52の具体的構成を示す。最外層である表面保護層55にはポリアミドフィルム(ONY)を用い、表面保護層55より内側に設けられる第1のガスバリヤ層56は、樹脂フィルム56aとしてポリエチレンテレフタレート(PET),金属蒸着層56bとしてアルミニウムを400〜500Åの厚さで蒸着したものとした。また、第2のガスバリヤ層57は、厚さ6μmの鉄入りアルミニウム箔(AL)とした。そして、第1のガスバリヤ層56のアルミニウム蒸着面と第2のガスバリヤ層57のアルミニウム箔とを向かい合わせて貼り合せる構成とした。金属蒸着層と金属箔層との貼り合わせには、熱溶着層58よりも融点の高い接着剤を用いることとした。熱溶着層58には、無延伸ポリプロピレンフィルムを用い、外包材52全体としての耐熱温度を向上させた。
【0040】
芯材51の内部に収納される吸着剤53には、平均細孔径9Åの親水性合成ゼオライトを用いた。親水性合成ゼオライトは、物理吸着剤で細孔径よりも小さい分子径のガスを吸着する。また、外包材52と芯材51との間には内包材54を備え、外包材52より内側で芯材51を包んでいるが、内包材54は用いなくても差し支えない。外包材52は、芯材51と吸着剤53を内包材54に内包された状態で外側から覆っている。
【0041】
外包材52のガスバリヤ性は、アルミニウム箔による金属箔層とアルミニウム蒸着による金属蒸着層とを組み合わせて用いたことにより、金属蒸着層が金属箔に特有のピンホールを塞ぎ、結果としてガスバリヤ性を強化することができる。外包材52のフィルム各層間の接着は2液硬化タイプのポリエステル型ウレタン系接着剤を用いたが、蒸着層と箔層からなる2つの金属層間を接着するものを除き、特に限定するものではない。なお、接着剤については後に説明を加える。
【0042】
真空断熱材50は、グラスウール積層体からなる芯材51を230℃で一定時間乾燥させ、芯材51の厚み方向に対して斜めの切り込みを入れて吸着剤53を投入し、これを内包材54に入れ、内包材54と共に芯材51の厚み方向に圧縮して内部を脱気して一旦密封する。これを乾燥処理した外包材52に投入し、内包材54の一端を切断して開放した状態で、真空度2.2Pa以下に一定時間保持後、外包材52の一端を熱溶着して得ることができる。
【0043】
吸着剤53は復元性を有する芯材51に設けられた斜めの切り込み内に収められることから、真空引き後は開口が重ね合わされて狭められ、芯材51内部で散乱等することがない。また、芯材51にバインダーを用いていないため、外包材52の内部のガス成分や水分を吸着する際に芯材51の存在が吸着の抵抗となることもない。
【0044】
接着剤について、さらに付け加える。本実施例では、熱溶着層58が溶着することで外包材52内部の真空度を保持しており、熱溶着層58の融点は、当然に真空断熱材が使用される温度(例えば、給湯器では110℃)よりも高い。また、熱溶着層58を溶着するための熱源の温度は、熱溶着層58の融点よりも当然に高い。
【0045】
金属層間を貼り合わせるための接着剤は、上述のように熱溶着層58の融点よりも高いだけではなく、溶着温度よりも高いものを用いることが必要となる。このとき、製造工程において熱溶着層58を熱溶着する際にも金属層間の接着が外れることはなく、高いガスバリヤ性を保持することができる。
【0046】
本実施例において、金属箔層と金属蒸着層との間の接着には、熱硬化性樹脂からなる接着剤を用いた。熱硬化性樹脂とは、加熱すると固まる樹脂であり、熱硬化性の材料は一度硬化すると再加熱しても柔らかくならず、高い温度環境で使用される場合に適している。具体的には、ポリエステルポリオール系/ポリイソシアネートのウレタン系接着剤である。この接着剤は、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートを反応させることでウレタン結合を生成して接着を行う。すなわち、生成された接着膜はウレタン結合が形成される。したがって、ポリウレタン系接着剤タイプポリエステル系の接着剤といえる。
【0047】
このような接着剤はある温度でウレタン結合が切れる場合がある。本実施例における接着剤は、微視的には200℃程度から一部のウレタン結合が切れ始めるとされているが、接着が剥がれるほどではない。実際の熱溶着に要する時間は1〜2秒程度であり、また、熱溶着層の融点は約160℃であるため、外包材52を熱溶着しても接着が剥がれることはない。
【0048】
実際、熱溶着時の熱源の温度を180〜200℃として外包材52を熱溶着した場合でも、接着が剥がれることはなかった。さらに、200℃以上の熱源温度に対して、1分間の熱溶着動作を実施した場合でも、接着層に劣化は観測されなかった。
【0049】
また、いわゆるヒートブリッジは、外包材52の各構成の中でも、特に金属層が有する高い熱伝導率に起因している。すなわち、実際の使用態様においては、金属層(実施例1ではアルミニウム箔とアルミニウム蒸着膜)の温度が高くなりやすい傾向にある。したがって、両金属層間の接着は、他層間の接着と比較して外れやすくなる。
【0050】
本実施例では上述の熱硬化性樹脂からなる接着剤を使用しているため、使用が長期にわたっても高いガスバリヤ性を保持することができる。また、熱硬化性樹脂からなる接着剤を用いなくとも、熱溶着層の融点及び熱溶着温度(熱源温度)よりも高い融点を有する接着剤を用いても同様の効果が期待できる。
【0051】
このようにして得られた真空断熱材50の断熱性能を示す熱伝導率は、英弘精機(株)製の熱伝導率測定装置AUTO−Λにて、平均温度24℃で測定した。測定対象の真空断熱材50について図4を用いて説明する。図4は熱伝導率を測定する真空断熱材50を示す断面図である。図1に示した例と同様に、芯材51を外包材52で覆い、内部を減圧した状態で密封したものとしている。破線で囲まれた部分は外包材52の耳部52aである。このように、外包材52の周縁部には耳部52aが存在しており、実際の使用態様においては折り曲げられて使用されることが多いが(図1参照)、図4に示すように耳部52aを折り曲げない状態で熱伝導率を測定した。
【0052】
熱伝導率を測定したところ、初期値で0.0022 (W/m・K)と良好な値を示した。また、高温環境下での使用における断熱性能の劣化については、最高使用温度を110℃として、一定の使用条件を考慮した5年相当経過後の熱伝導率値で比較した。本実施例における5年相当経過後の熱伝導率値は0.0064 (W/m・K)であり、十分な断熱性能が保持されることが確認できた。また、真空断熱材50の外観的変化は特に無かった。
【実施例2】
【0053】
第2の実施例は、吸着剤53を酸化カルシウムとした以外は実施例1と同じ条件で真空断熱材50を製作した。酸化カルシウムは親水性の化学吸着剤であり、水分を吸着して水酸化カルシウムとなるものである。
【0054】
このようにして得られた真空断熱材50の断熱性能を示す熱伝導率を、実施例1と同様に測定したところ、初期値で0.0021 (W/m・K)、5年相当経過後の熱伝導率値は0.0068 (W/m・K)であり、十分な断熱性能が保持されることが確認できた。また、真空断熱材50の外観的変化は特に無かった。
【実施例3】
【0055】
第3の実施例は、吸着剤53を平均細孔径6Å以上の疎水性合成ゼオライトと平均細孔径9Åの親水性合成ゼオライトを併用した以外は実施例1と同じ条件で真空断熱材50を製作した。疎水性合成ゼオライトは、物理吸着剤であり、SiO2/Al23 比が20以上で、かつ不燃性であるハイシリカゼオライトである。
【0056】
このようにして得られた真空断熱材50の断熱性を示す熱伝導率を、実施例1と同様に測定したところ、初期値で0.0022 (W/m・K)、5年相当経過後の熱伝導率値は
0.0059 (W/m・K)と良好であった。また、真空断熱材50の外観的変化は特に無かった。
【0057】
実施例3は、親水性吸着剤と疎水性吸着剤とを併用することで、親水性吸着剤が水分を優先的に吸着するとともに、疎水性吸着剤が外包材52のラミネートフィルムやラミネート用接着剤及びラミネート時に使用した溶剤系の残留物などから発生する有機ガス成分を優先的に吸着するため、実施例1と比較して長期間断熱性能を高く維持できると考えられる。特に、有機ガスが発生しやすい高温環境下では、両吸着剤を併用することが有効であることがわかった。
【実施例4】
【0058】
第4の実施例は、吸着剤53を平均細孔径6Å以上の疎水性合成ゼオライトと酸化カルシウムを併用した以外は実施例1と同じ条件で真空断熱材50を製作した。
【0059】
このようにして得られた真空断熱材50の断熱性を示す熱伝導率を、実施例1と同様に測定したところ、初期値で0.0020 (W/m・K)、5年相当経過後の熱伝導率値は
0.0059 (W/m・K)と良好であった。また、真空断熱材50の外観的変化は特に無かった。
【0060】
実施例4は、実施例3と同様に親水性吸着剤と疎水性吸着剤とを併用することが有効であることを示している。この効果は、親水性吸着剤が化学吸着剤であっても有効であることがわかった。なお、酸化カルシウムは水分のみを吸着する化学吸着剤であり、一旦水分を吸着すると、通常の環境下で放出することはない。
【0061】
このような化学吸着剤を用いた場合でも、5年相当経過後で実施例3と同程度の断熱性能を保持している結果から、
(1)長期信頼性の確保に際しては有機ガスの吸着が必要であること
(2)有機ガスを長期にわたって吸着するには、有機ガスをも吸着可能な親水性吸着剤ではなく、有機ガスを吸着可能な疎水性吸着剤の使用が有効であること
の(1),(2)がわかった。
【実施例5】
【0062】
第5の実施例は、図1に示す真空断熱材50において、外包材52のフィルム構成を図3に示すように構成したもので、第2のガスバリヤ層59をエチレンビニルアルコール共重合体樹脂フィルム59aを基材に、アルミニウムを400〜500Åの厚さで蒸着して蒸着層を形成し、その蒸着面上に樹脂材をコーティングした(金属蒸着層と樹脂コーティング層からなる層59b)。吸着剤53は実施例3と同じく平均細孔径6Å以上の疎水性合成ゼオライトと平均細孔径9Åの親水性合成ゼオライトを使用した。他の条件は実施例1と同じ条件である。
【0063】
外包材52の第2のガスバリヤ層59をアルミニウム蒸着にしたのは、アルミニウム箔よりもヒートブリッジを低減させるためであり、また、ガスバリヤ性を補うべくアルミニウム箔に近いガスバリヤ性を実現するために樹脂材をコーティングしたものである。この樹脂材のコーティングに用いる材料は、柔軟性を有するものであればよく、例えば、ポリアクリル酸系、エポキシ系等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
このようにして得られた真空断熱材50の断熱性能を示す熱伝導率を、実施例1と同じ方法で測定したところ、初期値で0.0022 (W/m・K)、5年相当経過後の熱伝導率値は0.0079 (W/m・K)であった。また、真空断熱材50の外観的変化は特に無かった。
【実施例6】
【0065】
第6の実施例は、図2に示す外包材フィルム構成において、耐熱性の向上とガスバリヤ性の強化を目的として、熱溶着層58にポリブチレンテレフタレート(PBT)を用いた。ポリブチレンテレフタレート(PBT)は融点が無延伸ポリプロピレンフィルム(CPP)よりも高く、耐熱性の向上が図れる。また、それに合わせて、表面保護層55にもポリアミドフィルム(ONY)よりも融点の高いポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた。
【0066】
ポリブチレンテレフタレート(PBT)は、熱溶着部の溶着強度を確保するためには
200〜220℃程度に加熱する必要があるため、表面保護層55をポリエチレンテレフタレート(PET),第1のガスバリヤ層56をポリアミドフィルム(ONY)にアルミニウムを400〜500Åの厚さで蒸着したものとした。また、吸着剤53には、実施例3と同じく平均細孔径6Å以上の疎水性合成ゼオライトと平均細孔径9Åの親水性合成ゼオライトとを使用した。他の条件は実施例1と同じとした。
【0067】
このようにして得られた真空断熱材50の断熱性能を示す熱伝導率を、実施例1と同様に測定したところ、初期値で0.0023(W/m・K)、5年相当経過後の熱伝導率値は0.0053(W/m・K)と良好であった。また、真空断熱材50の外観的変化は特に無かった。
【0068】
(比較例1)
性能比較のため実施例1と同様の方法で真空断熱材50を作製した。図1に示す真空断熱材50において、外包材52のフィルムを一般に冷蔵庫用途で使用されている構成として比較した。図2において表面保護層55をポリアミドフィルム(ONY),第1のガスバリヤ層56をポリエチレンテレフタレート(PET),第2のガスバリヤ層57を厚さ6μmの鉄入りアルミニウム箔(AL)とし、熱溶着層58として高密度ポリエチレンを用いた外包材52とし、吸着剤53は親水性合成ゼオライトを用いた。その他の条件は実施例1と同じとした。
【0069】
このようにして得られた真空断熱材50の断熱性を示す熱伝導率を、実施例1と同様に測定したところ、初期値で0.0020 (W/m・K)、5年相当経過後の熱伝導率値は
0.0098 (W/m・K)で劣化度合いが大きい結果となった。また、真空断熱材50の外観的変化として、熱溶着層58が軽溶着している状態となっていることが観察された。
【0070】
(比較例2)
比較例2として比較例1と同様の方法で真空断熱材50を作製した。図1に示す真空断熱材50において、外包材52のガスバリヤ性の強化とヒートブリッジの低減をしたフィルムとして一般に冷蔵庫用途で使用されている構成を比較した。図2において表面保護層55をポリアミドフィルム(ONY),第1のガスバリヤ層56をポリエチレンテレフタレート(PET)を基材とし、アルミニウムを400〜500Åの厚さで蒸着したもの、第2のガスバリヤ層57をエチレンビニルアルコール共重合体樹脂フィルムを基材に、アルミニウムを400〜500Åの厚さで蒸着したものとし、熱溶着層58として高密度ポリエチレンを用いた。吸着剤53は親水性合成ゼオライトを用いた。その他の条件は実施例1と同じとした。
【0071】
このようにして得られた真空断熱材50の断熱性を示す熱伝導率を、実施例1と同様に測定したところ、初期値で0.0018 (W/m・K)、5年相当経過後の熱伝導率値は
0.0152 (W/m・K)で劣化度合いが大きい結果となった。また、真空断熱材50の外観的変化として、比較例1と同様、熱溶着層58が軽溶着している状態となっていることが観察された。
【0072】
(比較例3)
比較例3として、図1に示す真空断熱材50において、外包材52の熱溶着層58を無延伸ポリプロピレンフィルムとした以外は比較例1と同じとした。
【0073】
このようにして得られた真空断熱材50の断熱性を示す熱伝導率を、実施例1と同様に測定したところ、初期値で0.0026 (W/m・K)、5年相当経過後の熱伝導率値は
0.0109 (W/m・K)で劣化度合いが大きい結果となった。なお、真空断熱材50の外観的変化は特に観察されなかった。
【0074】
(比較例4)
比較例4として、実施例1の構成において、第1のガスバリヤ層56の樹脂フィルム
56aと金属蒸着層56bを逆にして、金属蒸着層56bを表面保護55層側とした以外は実施例1と同じとした。
【0075】
このようにして得られた真空断熱材50の断熱性能を示す熱伝導率を、実施例1と同様に測定したところ、初期値で0.0021 (W/m・K)、5年相当経過後の熱伝導率値は0.0074 (W/m・K)で実施例1よりも劣化度合いが大きい結果となった。なお、真空断熱材50の外観的変化は特に観察されなかった。
【0076】
ここで、実施例5と比較例4との関係について考察する。既述したように、両例の熱伝導率は、それぞれ初期値で0.0022(W/m・K),0.0021(W/m・K)であり、5年相当経過後で0.0079(W/m・K),0.0074(W/m・K)となっている。すなわち、実施例5は比較例4よりも熱伝導率で劣る結果となった。
【0077】
ところで、真空断熱材における熱伝導の形態は大きく2つの態様があることが知られている。第1の態様は、外包材52内部の芯材51を介する熱伝導であり、第2の態様は、外包材52における主として金属層を介する熱伝導である。この第2の態様はヒートブリッジと呼ばれている。真空断熱材の熱伝導の全体においてヒートブリッジの影響が大きいことはよく知られている。したがって、ヒートブリッジを低減することによって、真空断熱材全体としての断熱性能の向上が図られる。
【0078】
また、ヒートブリッジの影響は、その性質上、外包材52内の金属層が厚いほど大きくなり、図1の破線で示すように外包材52の耳部が折り曲げられると、その部分に熱を持ちやすく、ヒートブリッジの影響が大きくなってしまう。
【0079】
実施例1〜6及び比較例1〜4において、熱伝導率の計測は、図4に示すように耳部
52aを折り曲げずに行った。実施例5と比較例4の構成を対比すると、アルミ箔による金属層を有する比較例4に対し、実施例5はアルミニウムの蒸着層間に樹脂層を介在させる構成である。すなわち、計測値としては、ほぼ同程度の熱伝導率となっているが、その中でヒートブリッジの影響(上記の第2の態様)の割合が大きく異なっていることが考えられる。
【0080】
一般に、金属箔層は厚みがマイクロメートルオーダーであるのに対し、金属蒸着層では厚みがオングストロームオーダーであり、ヒートブリッジによる熱伝導の影響は大きく異なる。これらの考察から、実施例5に挙げた構成の真空断熱材を耳部52aを折り曲げて使用する場合には、比較例4を含む各比較例の構成よりも有利である。
【0081】
したがって、実際の使用態様において、耳部を折り曲げて使用する場合、例えば、冷蔵庫の断熱箱体に用いる場合や後述する給湯機器(ヒートポンプ給湯器や電気ポット)に用いる場合には、実施例5の構成が比較例4の構成よりも有利となる。
【0082】
以上、説明した実施例1〜6と比較例1〜4とを対比すると、金属蒸着層と金属箔層を貼り合わせた外包材を用いれば、長期信頼性に優れた真空断熱材の提供が可能であることがわかった。また、金属蒸着層の間に樹脂コーティングを施した外包材を用いる場合は、耳部を折り曲げて使用する際に高い断熱性能を確保することができることがわかった。また、吸着剤として疎水性合成ゼオライトを併用することで、真空断熱材の長期信頼性の向上が図れることが判明した。また、両金属層間を貼り合わせる接着剤についても、劣化が認められなかった。
【0083】
次に、真空断熱材を用いた給湯機器について説明する。
【0084】
【表2】

【0085】
表2は、ヒートポンプ給湯器に真空断熱材を適用した実施例7〜9の概要を示したものである。各例においては同構成の真空断熱材を使用して、熱漏洩量を計測し、それぞれ比較、検討を行った。以下、詳述する。
【実施例7】
【0086】
真空断熱材のヒートポンプ給湯機への適用検討例として、図5,図6を用いて説明する。図5はヒートポンプ給湯機の貯湯タンク200と冷媒対熱交換器201を示している。また、図6は図5における断面A−A部を示したものである。
【0087】
第7の実施例は、図5に示す貯湯タンク200の外周と、凝縮器201aと給水伝熱管201bからなる冷媒対熱交換器201の外周に真空断熱材301,302を備えたものである。真空断熱材301,302は、実施例3と同じ仕様の真空断熱材を用いている。
【0088】
実施例7では、図6(a)に示すよう、真空断熱材301を貯湯タンク200の外周の円弧に沿わせて曲げて貼り付け、真空断熱材301の曲げ方向長さの端部310同士が重なり合うように配置した。また、真空断熱材302を冷媒対熱交換器201の外周の円弧に沿わせて曲げて貼り付け、真空断熱材301の曲げ方向長さの端部同士が重なり合うように配置した。このとき、端部310の形状は図6(d)に示すよう板厚方向に段付き形状として、端部310同士の重なり部の厚み分がでっぱらないようにしてもよい。
【0089】
本実施例における貯湯タンク部の熱漏洩量を、住宅等の建材に一般に用いられる断熱材(グラスウール単独、あるいはフェノールフォームなど;以下、「従来断熱材」という。)と比較した。その結果、29%の熱漏洩量低減効果が得られた。
【実施例8】
【0090】
本発明における第8の実施例は、図5に示す貯湯タンク200外周と凝縮器201aと給水伝熱管201bからなる冷媒対熱交換器201外周に実施例3と同じ仕様の真空断熱材301〜304を、図6(b)に示すよう、真空断熱材301を貯湯タンク200の外周の円弧に沿わせて曲げて貼り付け、前記真空断熱材301の曲げ方向長さの端部同士が重ならないように配置した。この真空断熱材301の上に別の真空断熱材303を真空断熱材301と円周方向に180°回転させた状態にして同様の方法で貼り付けた。
【0091】
また、真空断熱材302を冷媒対熱交換器201の外周の円弧に沿わせて曲げて貼り付け、前記真空断熱材301の曲げ方向長さの端部同士が重ならないように配置した。この真空断熱材302の上に別の真空断熱材304を真空断熱材302と円周方向に180°回転させた状態にして同様の方法で貼り付けた。このとき、各真空断熱材の端部310の形状は図6(d)に示すよう板厚方向に段付き形状として、端部310同士の重なり部の厚み分がでっぱらないようにしてもよい。
【0092】
本実施例における貯湯タンク部の熱漏洩量は、従来の断熱材を使用した場合と比較し、35%の低減効果が得られた。
【実施例9】
【0093】
実施例9として、図5に示す貯湯タンク200外周と凝縮器201aと給水伝熱管201bからなる冷媒対熱交換器201外周に実施例3と同じ仕様の真空断熱材301,302を、図6(c)に示すように、真空断熱材301を貯湯タンク200の外周の円弧に沿わせて曲げて貼り付け、前記真空断熱材301の曲げ方向長さの端部同士が重ならないように配置した。また、真空断熱材302を冷媒対熱交換器201の外周の円弧に沿わせて曲げて貼り付け、前記真空断熱材301の曲げ方向長さの端部同士が重ならないように配置した。
【0094】
本実施例における貯湯タンク部の熱漏洩量は、従来の断熱材を使用した場合と比較し、22%の低減効果が得られた。
【0095】
上記の実施例7〜9を考察すると、いずれも、高温環境下においても十分に断熱性能を発揮できる結果が確認できた。また、実施例7,8に比べ、実施例9は熱漏洩量低減効果が低い結果となった。これらの結果から、
(1)本実施例の真空断熱材は80℃以上に達する高温環境下においても十分に使用に耐え得ること(実施例7〜9)
(2)断熱層を厚く形成すると断熱性能が向上すること(実施例8と実施例9との比較)
(3)使用する真空断熱材の端部同士を重なり合うように配設すると断熱性能が向上すること(実施例7と実施例9との比較)
(4)段付き形状の真空断熱材を用いることも有効であること(実施例8)
という(1)〜(4)がわかった。
【0096】
次に、真空断熱材を用いた給湯機器のさらなる一例について説明する。
【0097】
【表3】

【0098】
表3は、電気ポットに真空断熱材を適用した実施例10,11の概要を示したものである。各例においては同構成の真空断熱材を使用して、熱漏洩量を計測し、それぞれ比較、検討を行った。以下、詳述する。
【実施例10】
【0099】
本発明における真空断熱材の電気ポットへの適用検討例として、図7,図8を用いて説明する。図7は電気ポット400を示し、貯水容器401とフタ部402を備えている。また、図8は図7における断面B−B部を示したものである。本発明における第10の実施例は、図7において、貯水容器401の外周に実施例5と同じ仕様の真空断熱材501を、図8(a)に示すように貼り付けて、お湯が沸騰した後に電源を切り、その後湯温が80℃まで冷めるまでの時間で保温時間を比較した。真空断熱材501を貯水容器401の外周の円弧に沿わせて曲げて貼り付け、前記真空断熱材501の曲げ方向長さの端部同士が重なり合うように配置した。また、フタ部402の断熱強化として、適用できる真空断熱材503のサイズが小さいため、外包材のヒートブリッジ影響が大きくなることから、耳部を折らずに配置した。
【0100】
本実施例における保温時間は、真空断熱材が無い場合を100とした場合、217となり、断熱性能が良くなることを確認した。
【実施例11】
【0101】
実施例11として、図7において、貯水容器401の外周に実施例5と同じ仕様の真空断熱材501を、図8(b)に示すよう、真空断熱材501を貯水容器401の外周の円弧に沿わせて曲げて貼り付け、前記真空断熱材501の曲げ方向長さの端部同士が重ならないように配置した。
【0102】
本実施例における保温時間は、真空断熱材が無い場合を100とした場合、193となり、真空断熱材端部のヒートブリッジ影響によりその効果は実施例10よりも約11%低い結果となった。
【0103】
以上のように、本発明にかかる真空断熱材は、80℃以上の高温域においても断熱性能の劣化を抑制でき、長期に亘りその断熱性能を維持するものである。上記の各実施例から、少なくとも110℃程度の高温域までの使用が問題ないことを確認することができた。
【0104】
その結果、断熱効果を発揮可能な適用分野としては少なくとも上記の温度帯を上限として、実施例で述べた給湯機器に限らず、冷蔵庫,保冷箱はもちろん、浴槽,自動車や電車等の車両、住宅,住宅設備機器など、断熱を必要とする機器、設備等に広く適用することができる。
【0105】
また、第1のガスバリヤ層として、ポリアミド樹脂フィルム(PA),エチレンビニルアルコール共重合体樹脂フィルム(EVOH),ポリビニルアルコール樹脂フィルム
(PVA),ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム(PET)のいずれかの樹脂フィルムを基材として、その片面にアルミニウム(AL),ステンレス(SUS)のいずれかの金属を成膜したものを用い、第2のガスバリヤ層として、アルミニウム箔(AL),ステンレス箔(SUS),鉄箔(Fe)のいずれかの金属箔を用い、第1及び第2のガスバリヤ層の金属層同士が互いに向かい合うように貼り合せたラミネートフィルムと、熱溶着層として無延伸ポリプロピレン樹脂フィルム(CPP)やポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム(PBT)のいずれかを用い、かつ、表面保護層が熱溶着層よりも融点が高い樹脂フィルムとした多層ラミネート構成としたことで、金属箔特有のピンホールを金属膜が直接塞ぐ構成としたため、ガスバリヤ性が高く、外部からのガスや水分の侵入を抑制することができる。
【0106】
この効果は、樹脂コーティング層を2つの金属蒸着膜でサンドイッチした構成によっても保持でき、特に耳部を折り曲げて使用する真空断熱材においては、ガスバリヤ性の向上と、ヒートブリッジの低減による高い断熱性能とを長期にわたって維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】真空断熱材の断面図。
【図2】外包材フィルムの拡大説明図。
【図3】外包材フィルムの拡大説明図。
【図4】熱伝導率を測定する真空断熱材を示す断面図。
【図5】真空断熱材を備えたヒートポンプ給湯機の貯湯タンク部の説明図。
【図6】図5のA−A断面図。
【図7】真空断熱材を備えた電気ポットの説明図。
【図8】図7のB−B断面図。
【図9】従来の真空断熱材適用製品の真空断熱材配置部の断面図。
【図10】図9における高温側フィルムの一般的な構成を示す断面図。
【図11】図9における低温側フィルムの一般的な構成を示す断面図。
【符号の説明】
【0108】
50…真空断熱材、52…外包材、53…吸着剤、56…第1のガスバリヤ層、56a…樹脂フィルム、56b…金属蒸着層、57,59…第2のガスバリヤ層、58…熱溶着層、59a…樹脂フィルム、59b…金属蒸着層と樹脂コーティング層からなる層、200…貯湯タンク、201…熱交換器、301〜304,501,502…真空断熱材、310…真空断熱材端部、400…電気ポット、401…貯水容器、402…フタ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維集合体からなる芯材と、表面保護層とガスバリヤ層と熱溶着層とを有する外包材と、前記芯材及び前記外包材の水分やガス成分を吸着する吸着剤とを備えた真空断熱材において、
前記外包材のガスバリヤ層が少なくとも2層の金属層の金属面が向かい合うように積層されて、第1のガスバリヤ層、第2のガスバリヤ層とし、熱溶着層として融点150℃以上の樹脂フィルムを使用した真空断熱材。
【請求項2】
無機繊維集合体からなる芯材と、表面保護層とガスバリヤ層と熱溶着層を有する外包材と、前記芯材を厚み方向に圧縮状態に保持する内包材と、前記芯材、外包材及び内包材の水分やガス成分を吸着する吸着剤とを備えた真空断熱材において、
前記外包材のガスバリヤ層が、接着層を挟む2層の金属層を有する第1及び第2のガスバリヤ層を有し、
前記第1のガスバリヤ層は、樹脂フィルム基材の片面に金属膜を成膜したフィルムからなり、
前記第2のガスバリヤ層は、金属箔、または樹脂フィルム基材の片面に金属膜を成膜して、成膜された金属膜に樹脂をコーティングしたフィルムのいずれかであり、
前記外包材のガスバリヤ層は、樹脂フィルム層/金属膜/接着層/金属箔、または樹脂フィルム層/金属膜/樹脂コーティング層/接着層/金属膜/樹脂フィルム層の組合せで積層したもので、
前記ガスバリヤ層の最内層より前記芯材側に位置する熱溶着層として、融点150℃以上の樹脂フィルムを用い、前記ガスバリヤ層の最外層より外側に位置する表面保護層として、前記熱溶着層よりも融点が高い樹脂フィルムを用い、
前記芯材がバインダーを含まず厚み方向に復元性を有し、前記吸着剤が芯材の表面又は厚み方向に対して斜めに切り込まれて設けた収納部に収納され、前記収納部の開口が重ね合わされて狭められる構成とした真空断熱材。
【請求項3】
前記吸着剤として少なくとも疎水性吸着剤を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の真空断熱材。
【請求項4】
前記ガスバリヤ層が、前記第1のガスバリヤ層として、ポリアミド樹脂フィルム(ONY),エチレンビニルアルコール共重合体樹脂フィルム(EVOH),ポリビニルアルコール樹脂フィルム(PVA),ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム(PET)のいずれかの樹脂フィルムを基材として、その片面にアルミニウム(AL),ステンレス(SUS)のいずれかの金属膜を成膜したものを用い、前記第2のガスバリヤ層として、アルミニウム箔(AL),ステンレス箔(SUS),鉄箔(Fe)のいずれかの金属箔を用い、前記第1及び第2のガスバリヤ層の金属部同士が接着層を挟み、互いに向かい合わせて貼り合わせたラミネートフィルムとし、これに組合せる熱溶着層として無延伸ポリプロピレン樹脂フィルム(CPP)やポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム(PBT)のいずれかを用い、且つ、前記表面保護層が前記熱溶着層よりも融点が高い樹脂フィルムとした多層ラミネートフィルムからなる外包材を用いた請求項1〜3のいずれかに記載の真空断熱材。
【請求項5】
前記ガスバリヤ層が、第1及び第2のガスバリヤ層からなり、前記第1のガスバリヤ層として、ポリアミド樹脂フィルム(ONY),エチレンビニルアルコール共重合体樹脂フィルム(EVOH),ポリビニルアルコール樹脂フィルム(PVA),ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム(PET)のいずれかの樹脂フィルムを基材として、その片面にアルミニウム(AL),ステンレス(SUS)のいずれかの金属膜を成膜したものを用い、前記第2のガスバリヤ層として、エチレンビニルアルコール共重合体樹脂フィルム
(EVOH),ポリビニルアルコール樹脂フィルム(PVA),ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム(PET)のいずれかの樹脂フィルムを基材に、その片面にアルミニウム(AL),ステンレス(SUS)のいずれかの金属膜を成膜した上にガスバリヤ性の樹脂系コーティング層を設け、前記第1のガスバリヤ層の金属部と前記第2のガスバリヤ層の樹脂系コーティング層が接着層を挟み、互いを向かい合わせて貼り合わせたラミネートフィルムとしたもの、これに組合せる熱溶着層として、無延伸ポリプロピレン樹脂フィルム(CPP),ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム(PBT)のいずれかを用い、且つ、表面保護層が熱溶着層よりも融点が高い樹脂フィルムとした多層ラミネートフィルムからなる外包材を用いた請求項1〜3のいずれかに記載の真空断熱材。
【請求項6】
前記第1のガスバリヤ層と前記第2のガスバリヤ層との間を接着する接着剤として、熱硬化性樹脂、または前記熱溶着層よりも高い融点を有する接着剤を用いた請求項1〜5のいずれかに記載の真空断熱材。
【請求項7】
前記疎水性吸着剤がSiO2/Al23 比が20以上で、且つ不燃性であるハイシリカゼオライトとである請求項1〜6のいずれかに記載の真空断熱材。
【請求項8】
少なくとも貯湯タンクを備えたヒートポンプ式等の給湯機器において、請求項1〜7のいずれかに記載の真空断熱材を、前記貯湯タンクの外周に沿うように円弧状に曲げて配設し、前記円弧端部の断熱が2重に配置されたことを特徴とする給湯機器。
【請求項9】
少なくとも湯沸し機能と保温機能を持ち、外郭容器と貯水用容器及びフタ部で構成された電気式湯沸し機器において、請求項1〜7のいずれかに記載の真空断熱材を、前記貯水用容器の外周に沿うように曲げて配設し、前記真空断熱材の曲げ方向の端部が2重に配置されたことを特徴とする電気式湯沸し機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−263335(P2007−263335A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92748(P2006−92748)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】