説明

研磨装置、研磨装置の制御方法、研磨装置の制御プログラム

【課題】補正研磨等を別途必要とすることなく、理想的な加工軌跡による研磨加工を行うことが可能な研磨技術を提供する。
【解決手段】サーボコントローラ30の制御論理31が不揮発メモリ32に格納された加工データ33に基づいて、横軸8および上軸6によって駆動されるワークホルダ2に支持された研磨対象物1に対して、揺動軸4に支持された研磨砥石3を相対的に変位させることで研磨対象物1の研磨加工を行う研磨装置100において、横軸サーボ指令9a、上軸サーボ指令7a、揺動軸サーボ指令5aに対して各軸で発生する誤差を、横軸補正量10、上軸補正量13、揺動軸補正量16として予め計測して不揮発メモリ32に格納しておき、当該各補正量に基づいて研磨加工時に各サーボ指令を補正し、研磨砥石3の研磨対象物1に対する理想的な加工軌跡を実現し、加工精度を向上させつつ、別途の補正加工を不要にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨技術に関し、たとえば、多軸制御によって被加工物と研磨工具との相対的な加工軌跡を実現する研磨技術等に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、特許文献1に開示されているように、曲面等の被加工面を有するレンズ等の光学素子の研磨では、光学素子を支持する複数の縦軸および横軸と、砥石を支持する揺動軸により、光学素子と砥石の相対運動を実現して研磨加工を行う技術が知られている。
【0003】
すなわち、特許文献1の場合には、レンズ素材を所定の曲率半径と厚さに研摩加工する装置において、所定のプログラムの指示に従ってレンズ素材を研摩加工する荒研摩、中研摩、仕上研摩の各種 砥石を変換する砥石交換手段と、所定のプログラムの指示に従って、前記レンズ素材の曲率半径、厚さを測定、演算処理する計測手段と、前記計測手段の計測演 算結果に基づいて、前記レンズ素材の研摩補正、砥石交換等を指示する制御手段とを有する構成が開示されている。
【0004】
しかし、横軸と縦軸と揺動軸の構成で所望の曲率で研磨動作をさせた場合には、機械構成的に横軸と縦軸と揺動軸の負荷バランスが悪いため、揺動軸は、横軸や縦軸に比べ、指令位置に対する実位置の遅れが大きくなり、所望の理想軌跡に対してズレが生じる懸念がある。
【0005】
通常は、サーボモータのゲイン調整等を行い、理想軌跡(指令位置)に対する実位置の乖離を小さくする方法がとられるが、調整しきれない場合もある。
このため、上述の特許文献1の場合には、粗研磨、中研磨、仕上げ研磨の各段階で、加工後に加工対象物であるレンズ素材の曲率半径等の計測を行って、研磨補正を行っているが、実際の研磨作業とは別に研磨補正の作業が必要になり、作業時間が長くなる等の技術的課題がある。
【特許文献1】特開平7−24716号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、補正研磨等を別途必要とすることなく、理想的な加工軌跡による研磨加工を行うことが可能な研磨技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点は、互いに直交する複数の第1および第2直線駆動軸と揺動軸によって、被加工物に対する研磨工具の相対運動を行わせる研磨装置であって、
前記第1および第2直線駆動軸と前記揺動軸の各々を制御する制御部と、
前記制御部から前記第1および第2直線駆動軸と前記揺動軸の各々に発行される指令位置と、前記第1および第2直線駆動軸と前記揺動軸の各々の実位置との差である補正量が格納された記憶手段と、
前記制御部に備えられ、前記補正量に基づいて前記指令位置を補正する補正手段と、
を含む研磨装置を提供する。
【0008】
本発明の第2の観点は、互いに直交する複数の第1および第2直線駆動軸と揺動軸によって、被加工物に対する研磨工具の相対運動を行わせる研磨装置であって、
前記第1および第2直線駆動軸と前記揺動軸の各々を制御する制御部と、
前記制御部から前記第1および第2直線駆動軸と前記揺動軸の各々に発行される指令位置と、前記第1および第2直線駆動軸と前記揺動軸の各々の実位置との差分を計測する計測手段と、
前記制御部に備えられ、前記差分に基づいて前記指令位置を補正する補正手段と、
を含む研磨装置を提供する。
【0009】
本発明の第3の観点は、互いに直交する複数の第1および第2直線駆動軸と揺動軸によって、被加工物に対する研磨工具の相対運動を行わせる研磨装置の制御方法であって、
前記第1および第2直線駆動軸と前記揺動軸の各々に発行される指令位置と、前記第1および第2直線駆動軸と前記揺動軸の各々の実位置との差である補正量が格納された記憶手段を準備するステップと、
前記補正量に基づいて前記指令位置を補正するステップと、
を含む研磨装置の制御方法を提供する。
【0010】
本発明の第4の観点は、互いに直交する複数の第1および第2直線駆動軸と揺動軸によって、被加工物に対する研磨工具の相対運動を行わせる研磨装置の制御方法であって、
前記第1および第2直線駆動軸と前記揺動軸の各々に指令位置を発行するステップと、
前記指令位置と、前記第1および第2直線駆動軸と前記揺動軸の各々の実位置との差分を計測するステップと、
前記差分に基づいて前記指令位置を補正するステップと、
を含む研磨装置の制御方法を提供する。
【0011】
本発明の第5の観点は、互いに直交する複数の第1および第2直線駆動軸と揺動軸によって、被加工物に対する研磨工具の相対運動を行わせる研磨装置の制御プログラムであって、
前記第1および第2直線駆動軸と前記揺動軸の各々に発行される指令位置と、前記第1および第2直線駆動軸と前記揺動軸の各々の実位置との差である補正量が格納された記憶手段から前記補正量を読み出すステップと、
前記補正量に基づいて前記指令位置を補正するステップと、
をコンピュータに実行させる研磨装置の制御プログラムを提供する。
【0012】
本発明の第6の観点は、互いに直交する複数の第1および第2直線駆動軸と揺動軸によって、被加工物に対する研磨工具の相対運動を行わせる研磨装置の制御プログラムであって、
前記第1および第2直線駆動軸と前記揺動軸の各々に指令位置を発行するステップと、
前記指令位置と、前記第1および第2直線駆動軸と前記揺動軸の各々の実位置との差分を計測するステップと、
前記差分に基づいて前記指令位置を補正するステップと、
をコンピュータに実行させる研磨装置の制御プログラムを提供する。
【0013】
すなわち、本発明は、研磨加工における被加工物と研磨工具との相対的な変位の制御において、たとえば、指令位置に対して実位置のズレをなくすために、指令位置に対するズレ量を事前に把握しておき、そのズレ量を指令する際に、補正してから指令を与えるように制御する。これにより、指令位置に対する実位置の差を少なくすることができ、研磨工具の被加工物に対する理想的な加工軌跡による研磨加工が可能になり、別途の補正加工等が不要になる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、補正研磨等を別途必要とすることなく、理想的な加工軌跡による研磨加工を行うことが可能な研磨技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
最初に本実施の形態の研磨技術の概要を説明する。
本実施の形態の研磨技術の一態様では、研磨機の軌跡制御を達成すべく、サーボコントローラの指令位置に対するサーボモータのエンコーダの実位置のズレ量を算出し一連の動作補正量を事前に把握しておく。このズレ量をサーボコントローラの補正指令として実行する。
【0016】
また、本実施の形態の研磨技術の他の態様では、研磨機の軌跡制御を達成するべく、サーボコントローラの指令位置に対するサーボモータのエンコーダの実位置のズレ量を指令周期毎に算出し、サーボコントローラの補正指令として実行する。
【0017】
研磨加工の軌跡制御において、従来のサーボモータのゲイン調整によっては実現できなかった上軸と揺動軸の理想軌跡に対する乖離の抑止に関して、上述の各態様によれば、サーボコントローラ側で補正指令を与えることで、より理想軌跡に近い形の制御を行うことができるようになる。この結果、時間のかかる別途の補正加工が不要ないしは最小限度に止めることができる。
【0018】
このように、理想軌跡に近い制御を行うことで、サーボモータの負荷バランスが悪い装置でも、レンズの面精度や形状精度の向上につながり品質が安定する。
以下、本発明の実施の形態を図面に従って詳細に説明する。
(第1実施の形態)
図1は、本発明の一実施の形態である研磨装置の制御方法を実施する研磨装置の構成の一例を示す概念図であり、図2および図3は、その作用の一例を示す線図である。
【0019】
本実施の形態の研磨装置100は、ワークホルダ2、研磨砥石3、揺動軸4、揺動軸サーボモータ5、上軸6(第1の直線駆動軸)、上軸サーボモータ7、横軸8(第2の直線駆動軸)、横軸サーボモータ9、サーボコントローラ30、不揮発メモリ32を備えている。
【0020】
横軸8および上軸6は互いに直交する方向に変位し、その変位は、横軸サーボモータ9および上軸サーボモータ7によって行われる。
上軸6の下端には、光学素子等の研磨対象物1を保持するワークホルダ2が固定されており、上軸6と横軸8の変位の組合せにより、ワークホルダ2は、図1の紙面内で二次元的な変位が可能になっている。
【0021】
また、揺動軸4は、ワークホルダ2を支持する上軸6の回りにおける揺動変位を行い、この揺動変位は、揺動軸サーボモータ5によって行われる。
この揺動軸4の先端には、研磨砥石3が固定されており、揺動軸4の変位により、この研磨砥石3は、ワークホルダ2に保持された研磨対象物1に対する揺動変位を行う。
【0022】
このように、横軸8および上軸6と、揺動軸4の相対的な位置関係の制御により、研磨対象物1に対する研磨砥石3による所望の曲率による研磨を実現している。
また、横軸8と上軸6と揺動軸4で補間をしながらワークホルダ2で研磨対象物1を保持し、研磨砥石3にて研磨対象物1を研磨する。
【0023】
すなわち、本実施の形態の場合、コンピュータ等で構成されるサーボコントローラ30には、プログラムやハードウェア回路等で実現される制御論理31(補正手段)(制御プログラム)が設けられており、この制御論理31が、不揮発メモリ32に格納された加工データ33を読み出して、上軸サーボ指令7a、揺動軸サーボ指令5a、横軸サーボ指令9aを生成して、上軸サーボモータ7、横軸サーボモータ9、揺動軸サーボモータ5にそれぞれ出力することで、上軸6、横軸8、揺動軸4の変位の制御を行う。
【0024】
図2は、本実施の形態における各軸の補正量算出の概念図である。この図2では、簡単のため各軸の変位を時間軸に整合させるために纏めて示してあるが、各指令の原点は、それぞれ異なる。
【0025】
図2の上段は、制御論理31からの横軸サーボ指令9aである横軸指令11で指令したときの、横軸実動作12と本来あるべき位置に持っていくための横軸補正量10を示している。
【0026】
図2の中段は、制御論理31からの上軸サーボ指令7aである上軸指令14で指令したときの、上軸実動作15と本来あるべき位置に持っていくための上軸補正量13を示している。
【0027】
図2の下段は、制御論理31からの揺動軸サーボ指令5aである揺動軸指令17で指令したときの、揺動軸実動作18と本来あるべき位置に持っていくための揺動軸補正量16を示している。
【0028】
本実施の形態では、この横軸補正量10、上軸補正量13、揺動軸補正量16が予め測定されて不揮発メモリ32に格納されている。
この横軸補正量10、上軸補正量13、揺動軸補正量16の測定(決定)は、たとえば、ダミーの研磨対象物1を加工した後に当該ダミーの研磨対象物1の外形寸法等を計測することで行われる。
【0029】
そして、制御論理31は、加工データ33によって決定される、横軸8、上軸6、揺動軸4の各軸の横軸指令11、上軸指令14、揺動軸指令17に対して、横軸補正量10、上軸補正量13、揺動軸補正量16を加えて得られる指令値を各軸に出力する。
【0030】
図3は、本実施の形態のサーボコントローラ30の制御論理31による補正動作の概念図を示している。
図3の上段は、制御論理31からの横軸サーボ指令9aとして、横軸補正量10を横軸指令11に加えた横軸補正指令20で研磨加工を実行したときの、横軸補正後の実動作21を示している。
【0031】
図3の中段は、制御論理31からの上軸サーボ指令7aとして、上軸補正量13を上軸指令14に加えた上軸補正指令22で研磨加工を実行したときの、上軸補正後の実動作23を示している。
【0032】
図3の下段は、制御論理31からの揺動軸サーボ指令5aとして、揺動軸補正量16を揺動軸指令17に加えた揺動軸補正指令24で研磨加工を実行したときの、揺動軸補正後の実動作25を示している。
【0033】
いずれの軸の場合も、横軸補正後の実動作21、上軸補正後の実動作23、揺動軸補正後の実動作25は、理想である横軸指令11、上軸指令14、揺動軸指令17の各々からの乖離が小さくなっていることが分かる。
【0034】
次に、本実施の形態の研磨装置100の軌跡制御の作用について説明する。
図4は、本実施の形態の研磨装置100の作用を示すフローチャートである。
まず、横軸補正量10として、横軸指令11に対する横軸実動作12の差分をあらかじめ計算しておく。同様に、上軸補正量13として、上軸指令14に対する上軸実動作15の差分をあらかじめ計算しておく。同様に、揺動軸補正量16として、揺動軸指令17に対する揺動軸実動作18の差分をあらかじめ計算しておく。
【0035】
そして、これらの、横軸補正量10、上軸補正量13、揺動軸補正量16は、不揮発メモリ32に格納される。
その後、実際の研磨対象物1の研磨加工では、サーボコントローラ30の制御論理31は、加工データ33に基づく研磨加工の実行に際して、サーボ周期の到来毎に(ステップ201)、横軸8、上軸6、揺動軸4の各々の変位の制御動作を並行して行う。
【0036】
すなわち、横軸8の制御では、横軸補正量10を使用して横軸指令11を補正して得られた横軸補正指令20を横軸サーボ指令9aとして横軸サーボモータ9に出力して横軸8を動作させる。
【0037】
同様に、上軸補正量13を使用して上軸指令14を補正して得られた上軸補正指令22を上軸サーボ指令7aとして上軸サーボモータ7に出力して上軸6を動作させる。
同様に、揺動軸補正量16を使用して揺動軸指令17を補正した得られた揺動軸補正指令24を、揺動軸サーボ指令5aとして揺動軸サーボモータ5に出力して揺動軸4を動作させる。
【0038】
すなわち、サーボコントローラ30の制御論理31は、加工データ33に基づく研磨加工の実行に際して、サーボ周期の到来毎に(ステップ201)、横軸8、上軸6、揺動軸4の各々において、指令値(横軸指令11、上軸指令14、揺動軸指令17)の演算を実行し(ステップ211、ステップ221、ステップ231)、各指令値に対応した横軸補正量10、上軸補正量13、揺動軸補正量16を不揮発メモリ32から読み出し(ステップ212、ステップ222、ステップ232)、これらの各補正値を用いて補正後の横軸補正指令20、上軸補正指令22、揺動軸補正指令24を決定し(ステップ213、ステップ223、ステップ233)、横軸サーボ指令9a、上軸サーボ指令7a、揺動軸サーボ指令5aとして、対応する横軸サーボモータ9、上軸サーボモータ7、揺動軸サーボモータ5に出力することで、横軸8、上軸6、揺動軸4の各軸を変位させる(ステップ214、ステップ224、ステップ234)。
【0039】
この動作を、加工データ33の終了まで反復する(ステップ202)。
これにより、図3に例示されるように、横軸補正後の実動作21が本来の理想的な横軸指令11に近似した波形を示すように制御することができる。また、上軸補正後の実動作23が本来の理想的な上軸指令14に近似した波形を示すように制御することができる。また、揺動軸補正後の実動作25が本来の理想的な揺動軸指令17に近似した波形を示すように制御することができる。
【0040】
すなわち、横軸8、上軸6、揺動軸4の各軸の変位による研磨対象物1と研磨砥石3の相対変位が理想軌跡に近い形で実現された状態で、研磨砥石3による研磨対象物1の研磨動作が可能となる。
【0041】
この結果、たとえば、上軸6、横軸8、揺動軸4の各軸のサーボモータの負荷バランスが比較的悪く、各軸の変位誤差が大きくなる可能性のある研磨装置100の場合でも、研磨対象物1としてのレンズの面精度や形状精度が向上し、光学素子等の研磨製品の品質が安定する。
【0042】
また、研磨加工後において、研磨対象物1の形状補正のために、冗長な別途の補正加工も不要になり、研磨対象物1の研磨加工工程の所要時間も短縮される。
(第2実施の形態)
図5は、本発明の他の実施の形態にかかる研磨装置の構成例を示す概念図である。
【0043】
この第2実施の形態の研磨装置101では、横軸8、上軸6、揺動軸4の各軸の実際の変位を検出する横軸変位センサ41(計測手段)、上軸変位センサ42(計測手段)、揺動軸変位センサ43(計測手段)が設けられている。そして、上述の予め設定される横軸補正量10、上軸補正量13、揺動軸補正量16を用いる代わりに、加工中に実時間で、これらの変位センサから出力される横軸実変位量41a、上軸実変位量42a、揺動軸実変位量43aを用いて各軸の指令値を補正する機能を有する制御論理34(補正手段)(制御プログラム)が、サーボコントローラ30に設けられている点が、上述の研磨装置100と異なっており、他の構成は共通である。
【0044】
なお、本実施の形態の研磨装置101においても、各軸の実際の指令に対する誤差は、上述の図2に例示したものと同様の位置誤差の特性を有するものとする。
すなわち、横軸8(上軸6)(揺動軸4)では、横軸指令11(上軸指令14)(揺動軸指令17)に対して横軸実動作12(上軸実動作15)(揺動軸実動作18)のような誤差を含む変位が発生するものとする。
【0045】
したがって、本実施の形態の場合、後述の横軸8に関する横軸実変位量41aは、上述の横軸実動作12に相当する値として検出され、上軸6に関する上軸実変位量42aは、上述の上軸指令14に相当する値として検出され、揺動軸4に関する揺動軸実変位量43aは、上述の揺動軸実動作18に相当する値として検出されことになる。
【0046】
次に、図6のフローチャート等を参照して、本実施の形態の研磨装置101における軌跡制御の作用例について説明する。
サーボコントローラ30の制御論理34は、不揮発メモリ32に格納された加工データ33を読み出して横軸8、上軸6、揺動軸4の各軸の変位を並行して制御し、横軸8および上軸6に支持されたワークホルダ2に保持された研磨対象物1に対して、揺動軸4に支持された研磨砥石3の相対変位を発生させることで、研磨砥石3による研磨対象物1の研磨動作を行わせる。
【0047】
すなわち、横軸8の制御では、制御論理34は、サーボ周期にあわせて、横軸指令11に対する横軸実動作12の差分を、横軸変位センサ41によって横軸実変位量41aとして検出し、この上軸実変位量42aを補正するように、横軸サーボモータ9に対して横軸サーボ指令9aとして、図3の上段に例示されるように横軸補正指令20を出力して横軸8を動作させる。これにより、横軸補正後の実動作21は本来の理想的な横軸指令11に近似した波形を示す状態となる。
【0048】
同様に、上軸6の制御では、制御論理34は、サーボ周期にあわせて、上軸指令14に対する上軸実動作15の差分を、上軸変位センサ42から上軸実変位量42aとして検出し、この上軸実変位量42aを補正するような上軸補正指令22を上軸サーボ指令7aとして上軸サーボモータ7に出力する。これにより、上軸補正後の実動作23は本来の理想的な上軸指令14に近似した波形を示す状態となる。
【0049】
同様に、揺動軸4の制御では、制御論理34は、サーボ周期にあわせて揺動軸指令17に対する揺動軸実動作18の差分を、揺動軸変位センサ43から揺動軸実変位量43aとして検出し、この揺動軸実変位量43aを補正するように揺動軸補正指令24を揺動軸サーボ指令5aとして揺動軸サーボモータ5に出力する。これにより、揺動軸補正後の実動作25が本来の理想的な揺動軸指令17に近い形の波形を示す状態となる。
【0050】
すなわち、図6のフローチャートに例示されるように、本実施の形態の制御論理34は、横軸8、上軸6、揺動軸4の各軸の制御において、サーボ周期の到来毎に(ステップ201)、加工データ33に基づいて本来の横軸指令11、上軸指令14、揺動軸指令17を算出し(ステップ241、ステップ251、ステップ261)、各軸の横軸サーボモータ9、上軸サーボモータ7、揺動軸サーボモータ5に横軸サーボ指令9a、上軸サーボ指令7a、揺動軸サーボ指令5aとして出力する(ステップ242、ステップ252、ステップ262)。
【0051】
そして、この本来の指令に対して各軸で発生した変位(の誤差)を横軸変位センサ41、上軸変位センサ42、揺動軸変位センサ43の各々にて、横軸実変位量41a、上軸実変位量42a、揺動軸実変位量43aとして検出し(ステップ243、ステップ253、ステップ263)、各軸での補正量を演算し(ステップ244、ステップ254、ステップ264)、補正後の横軸補正指令20、上軸補正指令22、揺動軸補正指令24を、横軸サーボモータ9、上軸サーボモータ7、揺動軸サーボモータ5の各々に、横軸サーボ指令9a、上軸サーボ指令7a、揺動軸サーボ指令5aとして出力する(ステップ245、ステップ255、ステップ265)。
【0052】
この動作を、加工データ33の終了まで反復する(ステップ202)。
これにより、横軸8、上軸6、揺動軸4の各軸において、上述のように、本来の横軸指令11、上軸指令14、揺動軸指令17の各々に良好に近似した横軸補正後の実動作21、上軸補正後の実動作23、揺動軸補正後の実動作25を得ることができ、理想の加工軌跡に近い加工軌跡によって研磨砥石3による研磨対象物1の研磨動作が可能となる。
【0053】
この結果、上述の第1実施の形態と同様の効果を得ることができるとともに、予め横軸補正量10、上軸補正量13、揺動軸補正量16の決定する作業や、不揮発メモリ32における格納領域が不要となり、研磨加工全体の所要時間を短縮できるとともに、不揮発メモリ32の記憶容量の低減による研磨装置101の低コスト化を実現できる。
【0054】
以上説明したように、本発明の各実施の形態によれば、横軸8と上軸6と揺動軸4の各々の軌跡を、本来の理想的な軌跡に近づけて研磨対象物1および研磨砥石3の相対変位による研磨加工を実現でき、研磨対象物1としての光学素子や金型の表面の加工精度を向上させることができる。また、別作業の補正研磨等を不要にすることができる。
【0055】
なお、本発明は、上述の実施の形態に例示した構成に限らず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
たとえば、研磨対象物1としての光学素子や金型を加工する研磨装置100、研磨装置101だけでなく、複数の制御軸を駆動するサーボモータの負荷が不均衡な一般の加工装置等にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施の形態である研磨装置の制御方法を実施する研磨装置の構成の一例を示す概念図である。
【図2】本発明の一実施の形態である研磨装置の制御方法を実施する研磨装置における各軸の補正量算出の概念図である。
【図3】本発明の一実施の形態である研磨装置の制御方法および研磨装置の作用の一例を示す線図である。
【図4】本発明の一実施の形態である研磨方法および研磨装置の作用を示すフローチャートである。
【図5】本発明の他の実施の形態にかかる研磨装置の構成例を示す概念図である。
【図6】本発明の他の実施の形態にかかる研磨装置の作用の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0057】
1 研磨対象物
2 ワークホルダ
3 研磨砥石
4 揺動軸
5 揺動軸サーボモータ
5a 揺動軸サーボ指令
6 上軸
7 上軸サーボモータ
7a 上軸サーボ指令
8 横軸
9 横軸サーボモータ
9a 横軸サーボ指令
10 横軸補正量
11 横軸指令
12 横軸実動作
13 上軸補正量
14 上軸指令
15 上軸実動作
16 揺動軸補正量
17 揺動軸指令
18 揺動軸実動作
20 横軸補正指令
21 横軸補正後の実動作
22 上軸補正指令
23 上軸補正後の実動作
24 揺動軸補正指令
25 揺動軸補正後の実動作
30 サーボコントローラ
31 制御論理
32 不揮発メモリ
33 加工データ
34 制御論理
41 横軸変位センサ
41a 横軸実変位量
42 上軸変位センサ
42a 上軸実変位量
43 揺動軸変位センサ
43a 揺動軸実変位量
100 研磨装置
101 研磨装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交する複数の第1および第2直線駆動軸と揺動軸によって、被加工物に対する研磨工具の相対運動を行わせる研磨装置であって、
前記第1および第2直線駆動軸と前記揺動軸の各々を制御する制御部と、
前記制御部から前記第1および第2直線駆動軸と前記揺動軸の各々に発行される指令位置と、前記第1および第2直線駆動軸と前記揺動軸の各々の実位置との差である補正量が格納された記憶手段と、
前記制御部に備えられ、前記補正量に基づいて前記指令位置を補正する補正手段と、
を含むことを特徴とする研磨装置。
【請求項2】
互いに直交する複数の第1および第2直線駆動軸と揺動軸によって、被加工物に対する研磨工具の相対運動を行わせる研磨装置であって、
前記第1および第2直線駆動軸と前記揺動軸の各々を制御する制御部と、
前記制御部から前記第1および第2直線駆動軸と前記揺動軸の各々に発行される指令位置と、前記第1および第2直線駆動軸と前記揺動軸の各々の実位置との差分を計測する計測手段と、
前記制御部に備えられ、前記差分に基づいて前記指令位置を補正する補正手段と、
を含むことを特徴とする研磨装置。
【請求項3】
互いに直交する複数の第1および第2直線駆動軸と揺動軸によって、被加工物に対する研磨工具の相対運動を行わせる研磨装置の制御方法であって、
前記第1および第2直線駆動軸と前記揺動軸の各々に発行される指令位置と、前記第1および第2直線駆動軸と前記揺動軸の各々の実位置との差である補正量が格納された記憶手段を準備するステップと、
前記補正量に基づいて前記指令位置を補正するステップと、
を含むことを特徴とする研磨装置の制御方法。
【請求項4】
互いに直交する複数の第1および第2直線駆動軸と揺動軸によって、被加工物に対する研磨工具の相対運動を行わせる研磨装置の制御方法であって、
前記第1および第2直線駆動軸と前記揺動軸の各々に指令位置を発行するステップと、
前記指令位置と、前記第1および第2直線駆動軸と前記揺動軸の各々の実位置との差分を計測するステップと、
前記差分に基づいて前記指令位置を補正するステップと、
を含むことを特徴とする研磨装置の制御方法。
【請求項5】
互いに直交する複数の第1および第2直線駆動軸と揺動軸によって、被加工物に対する研磨工具の相対運動を行わせる研磨装置の制御プログラムであって、
前記第1および第2直線駆動軸と前記揺動軸の各々に発行される指令位置と、前記第1および第2直線駆動軸と前記揺動軸の各々の実位置との差である補正量が格納された記憶手段から前記補正量を読み出すステップと、
前記補正量に基づいて前記指令位置を補正するステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とする研磨装置の制御プログラム。
【請求項6】
互いに直交する複数の第1および第2直線駆動軸と揺動軸によって、被加工物に対する研磨工具の相対運動を行わせる研磨装置の制御プログラムであって、
前記第1および第2直線駆動軸と前記揺動軸の各々に指令位置を発行するステップと、
前記指令位置と、前記第1および第2直線駆動軸と前記揺動軸の各々の実位置との差分を計測するステップと、
前記差分に基づいて前記指令位置を補正するステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とする研磨装置の制御プログラム。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−66671(P2009−66671A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234766(P2007−234766)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】