説明

硬化性組成物、硬化膜、ポリシロキサンおよび光半導体装置

【課題】窒化ガリウムや窒化ケイ素などのLED基板や配線金属などとの接着性が高く、着色のない封止剤硬化性組成物を提供。
【解決手段】下記式(1)に示されるような水酸基を2個含有する構造を有する基を少なくとも1つ有するポリシロキサン(A)および架橋剤(B)を含有することを特徴とする硬化性組成物。


((1)式中、Xは、脂環式炭化水素基を表わす。(1)中、−[CH2]−OHおよび−OHは、前記脂環式炭化水素基を構成する異なる炭素原子に結合し、該2つの炭素原子は単結合で結合され、前記2つの炭素原子にはそれぞれ水素原子が結合している。nは0〜6の整数を示す。*は結合手を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物、硬化膜、ポリシロキサンおよび光半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体発光装置(LED)の封止剤などに使用されているヒドロシリル化反応硬化型のポリシロキサン組成物(以下、ヒドロシリル系ポリシロキサン組成物ともいう。)には、LEDパッケージなどに対する接着性を高める技術が求められている。
【0003】
ヒドロシリル系ポリシロキサン組成物の接着性の向上を図る技術として、ヒドロシリル系ポリシロキサン組成物にエポキシ基含有ポリシロキサンなどの接着促進剤を添加する技術が知られている。
【0004】
特許文献1には、接着促進剤であるアルケニル基を有するエポキシ基含有ポリシロキサンを、主剤であるオルガノポリシロキサン100重量部に対して0.01〜50重量部含有するヒドロシリル系ポリシロキサン組成物が記載されている。
【0005】
特許文献2には、接着促進剤であるエポキシ基含有ポリシロキサンを、主剤であるアルケニル基とフェニル基を含有するオルガノポリシロキサン樹脂100重量部に対して0.01〜20重量部含有するヒドロシリル系ポリシロキサン組成物が記載されている。
【0006】
特許文献3には、接着促進剤であるアルケニル基を有するエポキシ基含有ポリシロキサンを、主剤であるアルケニル基を含むオルガノポリシロキサン成分100質量部に対して0.01〜10質量部含有するヒドロシリル系ポリシロキサン組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−327019号公報
【特許文献2】特開2007−008996号公報
【特許文献3】特開2010−229402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のヒドロシリル系ポリシロキサン組成物から形成される硬化物は、窒化ガリウム(GaN)や窒化ケイ素(SiN)などからなるLED基板あるいは配線金属との接着性が不十分であるという問題があった。このため、接着性を高めるためにエポキシ基含有ポリシロキサンが用いられてきた。
【0009】
エポキシ基含有ポリシロキサンの合成において、エポキシ基をポリシロキサン中に導入する反応には通常塩基が使用される。しかしながら、この反応中に塩基によりポリシロキサンが変質するおそれがあり、変質したポリシロキサンを含有する硬化組成物から得られる硬化物は着色するという問題があった。
【0010】
本発明は、窒化ガリウムや窒化ケイ素などのLED基板や配線金属などとの接着性が高く、着色のない硬化物を形成できる硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成する本発明は以下のとおりである。
[1]下記式(1)に示される構造を有する基および下記式(2)に示される構造を有する基から選ばれる少なくとも1つの基(以下、「接着性基(A)」ともいう)を有するポリシロキサン(A)および架橋剤(B)を含有することを特徴とする硬化性組成物。
【0012】
【化1】

((1)式中、Xは、脂環式炭化水素基を表わす。(1)中、−[CH2]−OHおよび−OHは、前記脂環式炭化水素基を構成する異なる炭素原子に結合し、該2つの炭素原子は単結合で結合され、前記2つの炭素原子にはそれぞれ水素原子が結合している。nは0〜6の整数を示す。*は結合手を示す。)
【0013】
【化2】

((2)式中、R1は炭素数1〜8のアルキル基または水素原子を示す。mは0〜6の整数を示す。*は結合手を示す。)
[2]前記ポリシロキサン(A)が、前記式(1)に示される構造を有する基を有する前記[1]に記載の硬化性組成物。
[3]前記ポリシロキサン(A)が、1分子中に少なくとも2つのアルケニル基を有するポリシロキサン(A1)である前記[1]または[2]に記載の硬化性組成物。
[4]前記架橋剤(B)が、1分子中に少なくとも2つのケイ素原子結合水素原子を有する化合物(B1)であって、さらに、ヒドロシリル化反応用触媒(C)を含有する前記[3]に記載の硬化性組成物。
【0014】
[5]ポリシロキサン(A)中に含まれる全Si原子の含有割合を100モル%とするとき、前記式(1)に示される構造を有する基および前記式(2)に示される構造を有する基から選ばれる少なくとも1つの基の含有割合が、0.1〜10モル%である前記[1]〜[4]のいずれかに記載の硬化性組成物。
[6]前記式(1)に示される構造を有する基および前記式(2)に示される構造を有する基から選ばれる少なくとも1つの基ならびにアルケニル基を有するポリシロキサン。
[7]前記式(1)に示される構造を有する基およびアルケニル基を有するポリシロキサン。
[8]前記[1]〜[5]のいずれかに記載の硬化性組成物を硬化させることにより得られることを特徴とする硬化物。
[9]半導体発光素子と、該半導体発光素子を被覆する、前記[8]に記載の硬化物とを有することを特徴とする光半導体装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明の硬化性組成物は、窒化ガリウムや窒化ケイ素などのLED基板や配線金属などとの接着性が高く、着色のない硬化物を形成することができるので、窒化ガリウムや窒化ケイ素などのLED基板を有するLEDの封止剤として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、光半導体装置の一具体例を示す模式図である。
【図2】図2は、実施例1で得られたポリシロキサン(A−1)の1H NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<硬化性組成物>
本発明の硬化性組成物は、下記式(1)に示される構造を有する基および下記式(2)に示される構造を有する基から選ばれる少なくとも1つの基を有するポリシロキサン(A)および架橋剤(B)を含有することを特徴とする。
【0018】
【化1】

((1)式中、Xは、脂環式炭化水素基を表わす。(1)中、−[CH2]−OHおよび−OHは、前記脂環式炭化水素基を構成する異なる炭素原子に結合し、該2つの炭素原子は単結合で結合され、前記2つの炭素原子にはそれぞれ水素原子が結合している。nは0〜6の整数を示す。*は結合手を示す。)
【0019】
【化2】

((2)式中、R1は炭素数1〜8のアルキル基または水素原子を示す。mは0〜6の整数を示す。*は結合手を示す。)
なお、本発明において「ポリシロキサン」とは、シロキサン単位 (Si−O)が2個以上結合した分子骨格を有するシロキサンを意味する。
ポリシロキサン(A)
ポリシロキサン(A)は、上記式(1)に示される構造を有する基および上記式(2)に示される構造を有する基から選ばれる少なくとも1つの基を有するポリシロキサンである。ポリシロキサン(A)は本組成物の主剤であり、架橋剤(B)の作用により架橋して硬化し、硬化物の主体となる。
【0020】
上記(1)式において、Xは脂環式炭化水素基を表わす。(1)中の−[CH2]−OHおよび−OHは、前記脂環式炭化水素基を構成する異なる炭素原子に結合し、該2つの炭素原子は単結合で結合され、前記2つの炭素原子にはそれぞれ水素原子が結合している。ポリシロキサン(A)は、たとえば下記式(3)で表わすこともできる。
【0021】
【化3】

(3)式において、点線および単結合を示す実線とこれらによって結ばれる3つの炭素原子とで表わされる環状部分は脂環式炭化水素基を表わし、Zは、該脂環式炭化水素基を前記3つの炭素原子とともに形成する、前記脂環式炭化水素基を完成するのに必要な個数の炭素原子を示す。nは0〜6の整数を示す。*は結合手を示す。
【0022】
前記脂環式炭化水素基を構成する炭素の数は通常3〜30個、好ましくは4〜20個、より好ましくは4〜10個である。
たとえば、前記脂環式炭化水素基を構成する炭素の数が6個である場合、上記式(1)および(3)は下記式(4)で表わすことができる。
【0023】
【化4】

(4)式において、nは0〜6の整数を示す。
【0024】
前記脂環式炭化水素基は、炭素−炭素不飽和結合を有してもよい。
前記脂環式炭化水素基を構成する炭素には鎖状炭化水素基等が結合していてもよい。
(1)式および(3)式において、nは0〜6の整数を示し、好ましくは0である。
【0025】
(2)式において、R1は炭素数1〜8のアルキル基または水素原子であり、好ましくは水素原子または炭素数1のアルキル基(メチル基)である。(2)式において、mは0〜6の整数を示し、好ましくは0である。
【0026】
上記式(1)に示される構造を有する基および式(2)に示される構造を有する基は、ポリシロキサン(A)分子において、ポリシロキサン鎖を構成するケイ素原子に直接結合していてもよいし、メチレン基やアルキレン基などの炭化水素基やオキシカルボニル基等の連結基を介して前記ケイ素原子に結合していてもよい。
【0027】
ポリシロキサン(A)は、式(1)に示される構造を有する基および式(2)に示される構造を有する基から選ばれる少なくとも1つの基を有することから、ジオール基を有する。本硬化性組成物から得られる硬化物においては、ポリシロキサン(A)が有するこのジオール基が接着性基として機能して、窒化ガリウムや窒化ケイ素などのLED基板や配線金属などとの接着性が向上するものと考えられる。接着性基とは、半導体装置等の基材等の材料となる金属または有機樹脂等対して接着性を有する基を意味する。
【0028】
ポリシロキサン(A)は、式(1)に示される構造を有する基のみを有していてもよく、式(2)に示される構造を有する基のみを有していてもよく、前記2つの基の両方を有していてもよい。ポリシロキサン(A)は、式(1)に示される構造を有する基を有することが好ましい。ポリシロキサン(A)が式(1)に示される構造を有する基を有すると、得られる硬化膜が、窒化ガリウムや窒化ケイ素などのLED基板や配線金属などと高い接着性を有するという効果がある。
ポリシロキサン(A)において、式(1)に示される構造を有する基および式(2)に示される構造を有する基から選ばれる少なくとも1つの基の含有割合は、ポリシロキサン(A)中に含まれる全Si原子の含有割合を100モル%とするとき、0.1〜10モル%であることが好ましく、0.5〜8モル%であることがより好ましく、1〜5モル%であることがさらに好ましい。式(1)に示される構造を有する基および式(2)に示される構造を有する基から選ばれる少なくとも1つの基の含有割合が前記範囲内であると、得られる硬化膜が、窒化ガリウムや窒化ケイ素などのLED基板や配線金属などと高い接着性を有するという効果がある。
【0029】
ポリシロキサン(A)は、前記接着性基(A)以外にも他の基を有していてもよい。他の基としては、水素原子;シラノール基;ハロゲン原子、ニトロ基、カルボキシル基、カルボニル基などの極性基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘプテニル基、ヘキセニル基およびシクロヘキセニル基等のアルケニル基を有する基;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ボルニル基、ノルボルニル基、アダマンチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;環状エーテル基、チオニル基、イソシアネート基及びトリアリルイソシアネート基等の他の接着性基;および前記極性基や接着性基を有する基;等を挙げることができる。
【0030】
ポリシロキサン(A)は、1分子中に少なくとも2つのアルケニル基を有するポリシロキサン(A1)であることが好ましい。ポリシロキサン(A)が少なくとも2つのアルケニル基を有すると、後述する1分子中に少なくとも2つの珪素原子結合水素原子を有する架橋剤(B1)とのヒドロシリル化反応が可能になり、強度の高い硬化物が得られる。
【0031】
ポリシロキサン(A)が有するアルケニル基としては、上述の基が挙げられる。これらの中でも、ビニル基、アリル基およびヘキセニル基が好ましい。
ポリシロキサン(A)におけるアルケニル基の含有量は、ポリシロキサン(A)中に含まれる全Si原子の数を100モル%とするとき、3〜50モル%であることが好ましく、より好ましくは5〜40モル%であり、さらに好ましくは10〜30モル%である。アルケニル基の含有量が前記範囲内であると、ポリシロキサン(A)と少なくとも2つの珪素原子結合水素原子を有する架橋剤(B1)とのヒドロシリル化反応が好適範囲で起こり、強度の高い硬化物が得られる。
【0032】
ポリシロキサン(A)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量が100〜50000の範囲にあることが好ましく、500〜5000の範囲にあることがより好ましい。ポリシロキサン(A)の重量平均分子量が前記範囲内にあると、本組成物を用いて封止材を製造する際に取扱いやすく、また本組成物から得られる硬化物は光半導体封止材として十分な材料強度および特性を有する。
[ポリシロキサン(A)の製造方法]
接着性基(A)を有するポリシロキサン(A)は環状エーテル基を開環することにより製造することができる。環状エーテル基を開環する方法としては、環状エーテル基を水の存在下、強酸で処理する方法が挙げられる。例えば、環状エーテル基を有するポリシロキサンを水の存在下、強酸で処理することにより(方法1)、または、ポリシロキサンを合成する際の各単位源となる環状エーテル基を有するクロロシランやアルコキシシランを、水の存在下、強酸で処理することにより(方法2)、製造することができる。これらの中でも、方法2:ポリシロキサンを合成する際の各単位源となる環状エーテル基を有するクロロシランやアルコキシシランを、水の存在下、強酸で処理することにより製造する方法が、ポリシロキサン中に含まれる接着性基(A)の含有割合を制御しやすいことから好ましい。
【0033】
前記環状エーテル基としては、たとえば、エポキシ基(エチレンオキシド基)、トリメチレンオキシド基(オキセタン基)、テトラメチレンオキシド基(テトラヒドロフラン基)等を挙げることができる。環状エーテル基がエポキシ基であると、上記式(2)においてm=0の構造を有する基を有するポリシロキサン(A)を製造することができる。環状エーテル基がトリメチレンオキシド基であると、上記式(2)においてm=1の構造を有する基を有するポリシロキサン(A)を製造することができる。環状エーテル基がテトラメチレンオキシド基であると、上記式(2)においてm=2の構造を有する基を有するポリシロキサン(A)を製造することができる。
【0034】
また、前記環状エーテル基としては、たとえば、脂環式炭化水素基を構成する相互に隣接する2つの炭素原子と、該2つの炭素原子の少なくともいずれか一方に結合する酸素原子とを含んで環状に構成される原子団を含む基を挙げることができる。このような環状エーテル基としては、たとえば、下記式(5)に示される基(エポキシシクロヘキシル基)、下記式(6)に示される基および下記式(7)に示される基等を挙げることができる。
【0035】
【化5】

【0036】
【化6】

【0037】
【化7】

環状エーテル基が式(5)に示される基であると、上記式(3)においてn=0の構造を有する基を有するポリシロキサン(A)を製造することができる。環状エーテル基が式(6)に示される基であると、上記式(3)においてn=1の構造を有する基を有するポリシロキサン(A)を製造することができる。環状エーテル基が式(5)に示される基であると、上記式(3)においてn=2の構造を有する基を有するポリシロキサン(A)を製造することができる。
【0038】
ポリシロキサン(A)は公知の方法を1種または2種以上組み合わせることにより製造することができる。前記公知の方法としては、特開平6−9659号公報、特開2003−183582号公報、特開2007−008996号公報、特開2007−106798号公報、特開2007−169427号公報および特開2010−059359号公報等に記載された方法、たとえば、各単位源となるクロロシランやアルコキシシランを共加水分解する方法や、共加水分解物をアルカリ金属触媒などにより平衡化反応する方法などが挙げられる。
【0039】
前記各単位源となるクロロシランやアルコキシシランとしては以下のものが挙げられる。環状エーテル基を有する単位源としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、(γ−グリシドキシプロピル)(メチル)ジメトキシシラン、(γ−グリシドキシプロピル)(エチル)ジメトキシシラン、(γ−グリシドキシプロピル)(メチル)ジエトキシシラン、(γ−グリシドキシプロピル)(エチル)ジエトキシシラン、〔2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル〕(メチル)ジメトキシシラン、〔2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル〕(エチル)ジメトキシシラン、〔2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル〕(メチル)ジエトキシシラン、〔2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル〕(エチル)ジエトキシシラン、(γ−グリシドキシプロピル)(メトキシ)ジメチルシラン、(γ−グリシドキシプロピル)(メトキシ)ジエチルシラン、(γ−グリシドキシプロピル)(エトキシ)ジメチルシラン、(γ−グリシドキシプロピル)(エトキシ)ジエチルシラン、〔2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル〕(メトキシ)ジメチルシラン、〔2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル〕(メトキシ)ジエチルシラン、〔2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル〕(エトキシ)ジメチルシラン、〔2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル〕(エトキシ)ジエチルシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン;γ−グリシドキシプロピルトリクロロシラン、(γ−グリシドキシプロピル)(メチル)ジクロロシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリクロロシラン等のエポキシ基含有クロロシラン;3−オキセタニルプロピルトリメトキシシラン等のオキセタニル基含有アルコキシシラン;3−オキセタニルプロピルトリクロロシラン等のオキセタニル基含有クロロシラン;等が挙げられる。これらの中でも反応制御が容易であるため、得られる硬化膜の着色が抑えられることから、エポキシ基含有アルコキシシランが好ましく、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン等の脂環式炭化水素基を有するエポキシ基含有アルコキシシランがより好ましい。
【0040】
アルケニル基を有する単位源としては、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン、これらのアルケニルシロキサンのメチル基の一部をエチル基、フェニル基等の基で置換したアルケニルシロキサン、これらのアルケニルシロキサンのビニル基をアリル基、ヘキセニル基等の基で置換したアルケニルシロキサン等が挙げられる。
【0041】
その他の単位源としては、テトラクロロシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、トリクロロシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリ−n−プロポキシシラン、トリ−i−プロポキシシラン、トリ−n−ブトキシシラン、トリ−sec−ブトキシシランや、特開2007−106798号公報や、特開2009−24077号公報、特開2009−215377号公報等に記載された単位源等が挙げられる。
【0042】
例えば、前記方法1の場合、環状エーテル基を有する単位源を必須成分として用い、塩基触媒などを用いて環状エーテル基を有するポリシロキサンを合成し、その後、強酸と水を用いて、環状エーテル基を開環することによりポリシロキサン(A)を製造することができる。また、前記方法2の場合、環状エーテル基を有する単位源を必須成分として用い、強酸と水を用いて反応させることにより、ポリシロキサン(A)を製造することができる。
【0043】
前記、1分子中に少なくとも2つのアルケニル基を有するポリシロキサン(A1)を製造するには、環状エーテル基を有する単位源およびアルケニル基を有する単位源を必須成分として、上述の手法にてポリシロキサン(A1)を製造すればよい。 環状エーテル基を開環するのに用いられる、強酸としては、トリフルオロメタンスルホン酸、硫酸、硝酸、無水硫酸、トリフルオロ酢酸等を挙げることができる。また、モンモリロン石を主成分とする酸性白土を硫酸や塩酸で熱処理して得られる活性白土などの酸性粘土等も用いることができる。
【0044】
前記強酸の使用量は、環状エーテル基の量により適宜決められ、通常、環状エーテル基1モルあたり0.01g〜20gである。
強酸で処理するときに加える水の量は、環状エーテル基の量により適宜決められ、通常、環状エーテル基1モルあたり1g〜150gである。
【0045】
強酸で処理するときの温度は、通常、23℃〜100℃である。
強酸で処理するときの処理時間は、通常、0.2時間〜5時間である。
反応終了後、反応液から余剰の水を共沸脱水などにより除いたり、反応液を水酸化カリウムなどにより中和したりすることもできる。
架橋剤(B)
架橋剤(B)はポリシロキサン(A)に対する架橋剤であり、ポリシロキサン(A)との架橋反応により硬化物を形成する。
【0046】
架橋剤(B)としては、ポリシロキサン組成物に通常使用される架橋剤を挙げることができる。例えば、ポリシロキサン(A)が、アルケニル基を有するポリシロキサンの場合、架橋剤として、アルケニル基と作用する架橋剤:Si−H(ヒドロシリル基)を有する化合物や、特開2005−112925号公報に記載のアクリル基を複数有する多官能性単量体、等を用いることができる。また、ポリシロキサン(A)がエポキシ基を有するポリシロキサンの場合、架橋剤として、WO05/100445号公報に記載の酸無水物や、アミン化合物、メルカプト化合物、フェノール類、ジシアンジアミド類、アジピン酸ヒドラジッド、フタル酸ヒドラジド等の有機ヒドラジッド類、等を用いることができる。
【0047】
これらの中でも、架橋剤(B)は、1分子当たり少なくとも2つのケイ素原子結合水素原子、すなわち1分子当たり少なくとも2つのSi−H基(ヒドロシリル基)を有する化合物(B1)であることが好ましい。架橋剤(B)が少なくとも2つのケイ素原子結合水素原子を有すると、前述の1分子中に少なくとも2つのアルケニル基を有するポリシロキサン(A1)との間でヒドロシリル化反応による架橋を形成することができ、強度の高い硬化物が得られる。
【0048】
化合物(B1)としては、従来のヒドロシリル系ポリシロキサン組成物において架橋剤として使用されている、1分子当たり少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するポリシロキサンを挙げることができる。
【0049】
化合物(B1)の具体例としては、特許文献1〜3に記載されたオルガノハイドロジェンポリシロキサンなどを挙げることができる。
化合物(B1)は、たとえば、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシランなどのアルコキシシランと、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンなどのハイドロジェンシロキサンとを公知の方法により反応させることにより得ることができる。
【0050】
本発明の硬化性組成物における架橋剤(B)の含有量としては、通常、ポリシロキサン(A)100質量部に対して、1〜300質量部用いられる。
架橋剤(B)が化合物(B1)である場合、本発明の硬化性組成物における化合物(B1)の含有量としては、ポリシロキサン(A)中のアルケニル基量に対する化合物(B1)中のケイ素原子結合水素原子量のモル比が0.1〜5となる量であることが好ましく、より好ましくは0.5〜2、さらに好ましくは0.7〜1.4となる量である。化合物(B1)の含有量が前記範囲内であると、組成物の硬化が十分に進行し、また、得られる硬化物に十分な耐熱性が得られる。
ヒドロシリル化反応用触媒(C)
ヒドロシリル化反応用触媒(C)は、1分子中に少なくとも2つのアルケニル基を有するポリシロキサン(A1)とヒドロシリル基を有する化合物(B1)とのヒドロシリル化反応の触媒である。
【0051】
ヒドロシリル化反応用触媒(C)としては、従来のヒドロシリル系ポリシロキサン組成物においてヒドロシリル化反応用触媒として使用されている触媒であれば特に制限されることなく使用することができる。
【0052】
ヒドロシリル化反応用触媒(C)の具体例としては、白金系触媒、ロジウム系触媒、パラジウム系触媒を挙げることができる。これらの中で、本組成物の硬化促進の観点から白金系触媒が好ましい。白金系触媒としては、たとえば、白金−アルケニルシロキサン錯体等が挙げられる。アルケニルシロキサンとしては、たとえば、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン等が挙げられる。特に、錯体の安定性の観点から、1,3−ジビニル−1,1,3,3−トテラメチルジシロキサンが好ましい。
【0053】
本発明の硬化性組成物におけるヒドロシリル化反応用触媒(C)は、ポリシロキサン(A)とポリシロキサン(B)とのヒドロシリル化反応が現実的に進行する量を用いる。
本発明の硬化性組成物は、本発明の目的が達成されるかぎり、前記成分以外にも、必要に応じて、たとえば、ポリシロキサン(A)以外のポリシロキサン、フュームドシリカ、石英粉末等の微粒子状シリカ、酸化チタン、酸化亜鉛等の無機充填剤、シクロ−テトラメチルテトラビニルテトラシロキサン等の遅延剤、ジフェニルビス(ジメチルビニルシロキシ)シラン、フェニルトリス(ジメチルビニルシロキシ)シラン等の希釈剤、顔料、難燃剤、耐熱剤、酸化防止剤等を含有することができる。
【0054】
本発明の硬化性組成物は、前記各成分をミキサー等公知の方法により均一に混合することによって調製することができる。
本発明の硬化性組成物の25°における粘度としては、好ましくは1〜1000000mPa・sであり、より好ましくは10〜10000mPa・sである。粘度がこの範囲内であると、本組成物の操作性が向上する。
【0055】
本発明の硬化性組成物は、1液として調製することもできるし、2液に分けて調製し、使用時に2液を混合して使用することもできる。必要に応じて、アセチレンアルコール等の硬化抑制剤を少量添加してもよい。
<硬化物>
本発明の硬化性組成物を硬化させることにより硬化物が得られる。本発明の硬化性組成物により半導体素子を封止し、これを硬化させれば、封止材である硬化物が得られる。
【0056】
本発明の硬化性組成物を硬化させる方法としては、たとえば、硬化性組成物を基板上に塗布した後、100〜180℃で1〜13時間加熱する方法などが挙げられる。なお、上記硬化膜の製造は、段階的に昇温を行う過程(ステップキュア)で行ってもよい。
【0057】
前述のとおり、本発明の硬化性組成物を硬化して得られる硬化物は、窒化ガリウムや窒化ケイ素などのLED基板や金属配線などに対する接着性が高く、着色のない硬化膜である。
【0058】
<光半導体装置>
本発明の光半導体装置は、半導体発光素子と、該半導体発光素子を被覆する前記硬化物とを有する。本発明の光半導体装置は、半導体発光素子に前記硬化性組成物を被覆し、その組成物を硬化させることによって得られる。硬化性組成物を硬化させる方法は上述のとおりである。
【0059】
光半導体装置としては、LED(Light Emitting Diode、発光ダイオード)およびLD(Laser Diode)等が挙げられる。
図1は、本発明の光半導体装置の一具体例の模式図である。光半導体装置1は、電極6と、電極6上に設置され、ワイヤー7により電極6と電気的に接続された半導体発光素子2と、半導体発光素子2を収容するように配置されたリフレクター3と、リフレクター3内に充填され、半導体発光素子2を封止する封止材4を有する。封止材4は、本発明の硬化性組成物を硬化させて得られる。封止材4中には、シリカや蛍光体などの粒子5が分散されている。
【実施例】
【0060】
(1)ポリシロキサンの合成
(1−1)ポリシロキサンの合成
[実施例1] ポリシロキサン(A−1)の合成
攪拌機、還流冷却管、投入口、温度計付き四口フラスコに1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン20g、フェニルトリメトキシシラン120g、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン6g、水15g、トリフルオロメタンスルホン酸0.1gおよびトルエン500gを投入して混合し、1時間加熱還流した。冷却後、反応液に0.5重量%の水酸化カリウム水溶液2.5gを加え4時間加熱還流した後、余剰の水を共沸脱水で除いた。冷却後、反応液を酢酸で中和し、水洗した。反応液から溶剤を除去することによりポリシロキサン(A−1)を得た。
【0061】
1H NMR測定の結果からから、ポリシロキサン(A−1)は下記式(8)に示す基を有することが確認できた。1H NMRスペクトルを図2に示す。
1H NMR測定から、ポリシロキサン(A−1)は、ポリシロキサン(A−1)に含まれる全Si原子を100モル%とするとき、下記式(8)に示す基が3モル%含まれていることが確認された。
【0062】
リシロキサン(A−1)の重量平均分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したところ、ポリスチレン換算で 2000であった。
【0063】
【化8】

(式(8)中、「*」は結合手を示す)
[合成例1] ポリシロキサン(D−1)の合成
攪拌機、還流冷却管、投入口、温度計付き四口フラスコに1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン82g、フェニルトリメトキシシラン525g、水143g、トリフルオロメタンスルホン酸0.4gおよびトルエン500gを投入して混合し、1時間加熱還流した。冷却後、反応液の下層を分離除去し、上層であるトルエン溶液層を水洗した。水洗したトルエン溶液層に水酸化カリウム0.4gを加え、水分離管から水を除去しながら還流した。水の除去完了後、固形分濃度が75質量%となるまで濃縮し、さらに5時間還流した。冷却後、酢酸0.6gを投入して中和した後、トルエン溶液層を水洗した。その後、減圧濃縮してポリシロキサン(D−1)を得た。
【0064】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーでポリシロキサン(D−1)のポリスチレン換算重量平均分子量を測定したところ、2000であった。
[合成例2] ポリシロキサン(B−1)の合成
攪拌機、還流冷却管、投入口、温度計付き四口フラスコにフェニルトリメトキシシラン195gとトリフルオロメタンスルホン酸0.2gを投入して混合し、攪拌しつつ水13gを15分間で滴下し、滴下終了後、1時間加熱還流した。反応液を室温まで冷却した後、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン119gを加え、攪拌しつつ、酢酸88gを滴下した。滴下終了後、反応液を攪拌しつつ50℃に昇温し、3時間反応させた。反応液を室温まで冷却した後、トルエンおよび水を加え、良く混合して静置し、水層を分離除去した。上層であるトルエン溶液層を水洗した後、減圧濃縮して、ポリシロキサン(B−1)を得た。
【0065】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーでポリシロキサン(B−1)のポリスチレン換算重量平均分子量を測定したところ、330であった。
(2)硬化性組成物の調製
[実施例2、実施例3および比較例1]
下記表1に示す成分を、表1に示す配合量で混合し、実施例2、実施例3および比較例1の硬化性組成物を得た。表1中の「部」は質量部を示す。なお、表1中の各成分の詳細は以下の通りである。
【0066】
【表1】

C−1:白金と1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンとの錯体(白金金属量4質量%)
D−2:フェニルトリス(ジメチルビニルシロキシ)シラン
(3)硬化性組成物の評価
実施例2、実施例3および比較例1の硬化性組成物について、下記、(3−1)〜(3−3)の手法にて、評価した。評価結果を表1に示す。
【0067】
(3−1)硬度
硬化性組成物をテフロン(登録商標)の平板に2mm厚の枠をはめ、枠の高さになるように塗布して、150℃の熱風循環式オーブンで5時間加熱することにより50mm×50mm×1mmの硬化物を作製した。この硬化物の硬さをJIS K6253に規定されたタイプDデュロメータにより測定した。
【0068】
(3−2)接着力
4インチのSiN基板上に、スピンコート法にて、硬化性組成物を塗布し、170℃120分加熱して、厚さ100μmの硬化膜を形成した。硬化膜の接着力は、プルダウンブレイキングポイント試験(Quad Group社製引っ張り試験機)にて測定した。
【0069】
(3−3)透明性
4インチのSiN基板上に、スピンコート法にて、硬化性組成物を塗布し、170℃120分加熱して、厚さ100μmの硬化膜を形成した。150℃2000時間加熱した硬化膜を、波長400〜700nmの分光透過率を紫外可視分光光度計により測定した。この硬化膜の透明性につき、分光透過率が90%以上の場合を「A」(良好)、分光透過率が70%以上90%未満の場合を「B」(やや良好)、分光透過率が70%未満の場合を「C」(不良)と評価した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)に示される構造を有する基および下記式(2)に示される構造を有する基から選ばれる少なくとも1つの基を有するポリシロキサン(A)および架橋剤(B)を含有することを特徴とする硬化性組成物。
【化1】

((1)式中、Xは、脂環式炭化水素基を表わす。(1)中、−[CH2]−OHおよび−OHは、前記脂環式炭化水素基を構成する異なる炭素原子に結合し、該2つの炭素原子は単結合で結合され、前記2つの炭素原子にはそれぞれ水素原子が結合している。nは0〜6の整数を示す。*は結合手を示す。)
【化2】

((2)式中、R1は炭素数1〜8のアルキル基または水素原子を示す。mは0〜6の整数を示す。*は結合手を示す。)
【請求項2】
前記ポリシロキサン(A)が、前記式(1)に示される構造を有する基を有する請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記ポリシロキサン(A)が、1分子中に少なくとも2つのアルケニル基を有するポリシロキサン(A1)である請求項1または請求項2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
前記架橋剤(B)が、1分子中に少なくとも2つのケイ素原子結合水素原子を有する化合物(B1)であって、さらに、ヒドロシリル化反応用触媒(C)を含有する請求項3に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
ポリシロキサン(A)中に含まれる全Si原子の含有割合を100モル%とするとき、前記式(1)に示される構造を有する基および前記式(2)に示される構造を有する基から選ばれる少なくとも1つの基の含有割合が、0.1〜10モル%である請求項1〜請求項4のいずれかに記載の硬化性組成物。
【請求項6】
前記式(1)に示される構造を有する基および前記式(2)に示される構造を有する基から選ばれる少なくとも1つの基ならびにアルケニル基を有するポリシロキサン。
【請求項7】
前記式(1)に示される構造を有する基およびアルケニル基を有するポリシロキサン。
【請求項8】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の硬化性組成物を硬化させることにより得られることを特徴とする硬化物。
【請求項9】
半導体発光素子と、該半導体発光素子を被覆する、請求項8に記載の硬化物とを有することを特徴とする光半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−28709(P2013−28709A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165414(P2011−165414)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】