説明

磁化が高く絶縁性のある軟磁性薄膜および該薄膜を生成するための方法および集積回路

【課題】本発明は、高い磁化と絶縁特性を兼ね備える軟磁性薄膜を生成するための方法に関する。
【解決手段】該方法は、アモルファス基板内に浸漬したFeリッチな強磁性ナノ粒子の窒化、および、該アモルファス基板の選択的酸化を含む。本発明はまた、該方法によって得られた、磁化の高い、絶縁性のある、軟磁性薄膜に関する。本発明はまた、該方法によって得られた薄膜を組み込んだメンブレンを使用するコンポーネントを備える集積回路を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒状で、絶縁性のある、磁化の高い軟磁性薄膜を生成する方法に関し、さらに、マイクロエレクトロニクスの分野、特に無線周波数(RF)の用途での該薄膜の可能性ある応用に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景において、「粒状の薄膜(granular film)」という用語は、第1の相が第2相内に広く分散される、2つの相から形成される薄膜を意味するよう理解される。ここで、第1の相は結晶であり、第2相はアモルファスである。
【0003】
「軟磁性薄膜(soft magnetic film)」という用語は、容易に反転可能であり、とりわけ、低い保磁力(H≦5Oe)により特徴づけられる、磁化された薄膜を意味するよう理解される。
【0004】
「高い磁化(high magnetization)」という用語は、高い飽和磁化(Ms>1T)を有する薄膜を意味するよう理解される。「絶縁性薄膜(insulating film)」という用語は、非常に低い導電率、すなわち、抵抗率ρ≧500μΩ.cmであり、たとえば、抵抗率ρ≧10μΩ.cmを有する薄膜を意味するよう理解される。
【0005】
「RF用途のための磁性薄膜(magnetic film for RF applications)」という用語は、異方性磁界(H>H)により特徴づけられる誘起された一軸磁気異方性(induced uniaxial magnetic anisotropy)の存在に基づき、有名なランド・リフシッツ・ギルバート(Landau−Lifshitz−Gilbert)モデルによって記述されるコヒーレントな磁化回転の従来の理論を満足する薄膜を意味するよう理解される。
【0006】
米国特許第5573863号は、実質的に立方晶系Feからなるナノ結晶相と、希土類元素またはTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、またはW、およびかなりの量の酸素を含むアモルファス相と、を有する軟磁性合金の薄膜を開示し、該2つの相は、混合物の形態である。鉄は、その高い磁化のために選択される。
【0007】
該米国特許で述べられている解決策は、FeX合金の既知のアモルファス化特性に依拠しており、ここでXは、重量で15%以上である。Xは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、またはWを表し、これらの元素は、スパッタリングによって堆積される。適切な磁気特性は、堆積後に、400℃での磁気熱処理によって化合物を部分的に結晶化させた後に、従来通りに得られる。
【0008】
これによって、アモルファス・マトリクス内に分散された比較的密なナノ結晶強磁性相を得ることができる。ナノの尺度で強く結合した強磁性粒子からなる微細構造を得ることによって、薄膜の軟磁性特性を得るための条件を達成することが容易になる。
【0009】
第1の困難さは、ナノ結晶(強磁性)相の体積率が、全体的に低い(80%未満)ことであり、これでは、高い磁化を達成することができない。また、該提案されている方法は、既知のプロセスに、酸素を使用した反応的な工程を付加する。当然ながら、これによって、薄膜の酸化および薄膜の抵抗率の増加がもたらされる。しかし、該酸化処理は、選択的でない(すなわち、強磁性粒子とアモルファス・マトリクスの両方に関連することとなる)。
【0010】
第2の困難さは、Feの強磁性結晶相が酸化するために、磁化がさらに大きく減少することである。このように、絶縁特性は、高い磁化と調和することが難しい。
【0011】
米国特許第5725685号は、特許第5573863号に記載されたものと同じ軟磁性合金の薄膜を開示し、唯一の違いは、アモルファス相が、酸素ではなく、かなりの量の窒素を含有することである。このプロセスによって、強磁性相の酸化およびより高い磁化の維持についての問題が回避されることができる。しかしながら、酸化が無いために、低効率のレベルは著しく低い。このように、やはり、絶縁(すなわち、大きな抵抗)特性と、高い磁化とを調和させることは、困難である。
【0012】
欧州特許出願第1361586号は、高い磁化と絶縁特性を有する磁性薄膜を生成する方法を述べる。この薄膜は、それぞれ磁性合金および誘電体からなる2つのターゲットを使用して、無反応性同時パッタリング技術を使用して作成される。この方法の利点は、この方法が、非反応性プロセス(中性イオン種によるボンバード(bombardment))に依拠しており、強磁性粒子が酸化されることを防止し、高い磁化を維持することを理論的には可能にすることである。ここで述べられている方法は、順次的(複数の層を交互に堆積する)でもよいし、同時的(同時の堆積)でもよい。
【0013】
ここで述べられている薄膜は、たとえば、AlまたはSiOからなる、誘電体マトリクス内にカプセル化されたナノサイズのCoFe強磁性粒子(CoFeは、磁化が高いために選択される)から形成される。この場合の困難さは、本質的に軟磁性ではないCoFe合金の選択から生じる。薄膜の軟磁性特性は、CoFe粒子のサイズ(通常、10nm未満)が十分に小さくされ、かつ強い粒子間結合が維持され、該結合が、比較的短い粒子間距離(通常、5nm未満)をとるという条件下でのみ、実現されることができる。
【0014】
しかし、絶縁特性は、浸透率を高くし過ぎることを回避するために、強磁性粒子をカプセル化する所定量の誘電体材料を必要とする。この点につき、プロセスにおける該調整(2つの相の各体積率)は、相反するものとなる。したがって、非常に高い固有の磁化によってCoFe合金の使用が最初は正当化されたとしても、該方法は困難であり、制限が課せられることとなる。このように、絶縁特性を、高い磁化と調和させることは困難である。
【0015】
マイクロエレクトロニクスのコンポーネントの分野では、集積回路内のコンポーネントの個々の寸法をますます減少させる傾向がある。このことは、コンポーネントによっては問題となる。
【0016】
現在、これらのRF回路内での、実質的に平面幾何形状のインダクタの使用は、インダクタンスの占有面積に対する比という観点から制限される。
【0017】
高い透磁率(μ’)を有する強磁性層を導入することによって、この比を大幅に増加することが可能になる。該強磁性層は、該コンポーネントの高いQ値(quality factor)に準拠するよう、特に損失という観点から、高周波で使用されるという制約を満たさなければならない。
【0018】
したがって、それらの集積化においては、その原因が、主に、磁気的(μ”)および容量的(C)である、付加的な損失を最小にしなければならない。容量性損失は、コンポーネントを作成するのに必要とされる誘電体によって分離されたいくつかの金属レベルの並置から生ずる。
【0019】
上記の磁気的損失は、特に、高い飽和磁化を有する層を使用するおかげで、高い強磁性共振周波数(FRF)を確立することによって最小にされることができる。場合によっては、これに反して、電磁スクリーニング機能のために、強磁性共振(最大μ”)での吸収性(absorptivity)を使用することを目的とすることもできる。上記の容量性損失は、現行の従来技術では、克服することがより制限的で難しい。従来技術では、磁気の観点から適した薄い強磁性層は、特性上導電性を有している。
【0020】
現在、高い磁化を有する、既知の軟磁性材料は、FeXN類を形成し、ここでXは、Al、Si、Ta、Zr、Hf、Rh、またはTiである。米国特許第5725685号と違って、これらの材料は、窒素流下での反応性スパッタリングによって、アモルファス・マトリクスを備えたナノ結晶化状態で直接得られる。
【0021】
薄膜の成長中に窒素原子を組み込むことによって、粒子サイズが、(5nmまで)漸進的に減少することが可能になり、また、関連する体積率も、制御されることが可能になり、高いまま維持される(≧90%)。これらの材料は、一般に、高い磁化(1.8〜2T)を持ち、数GHzまで優れた軟磁性特性を呈する。
【0022】
一方、これらの材料は、RF誘導性コイル(自己インダクタ)における集積化の点で、最適な結果を達成することが難しい。この理由は、これらの材料の抵抗率(ρ)が、低過ぎる、すなわち約150μΩ.cmのままであるためである。抵抗性アモルファス・マトリクス内に導電性FeXN結晶相を分散させるにもかかわらず、材料全体の特性は、実質的に導電性のままである。
【0023】
このタイプの用途にこのような導電性材料を使用することは、磁性面と誘導性コイルの間の容量性結合に関する問題があり、大幅に負荷を劣化させ、十分高いQ値(通常、Q≧30)を得ることができない。また、文献で述べられている絶縁特性のFeXOタイプの材料は、それ自体、適した磁気特性を有さない(磁化が低過ぎる)。
【0024】
現在の研究は、これらのコンポーネントのコンパクトさおよび性能を全体的に改善するために、磁性面と誘導性コイルの間の接触、さらに、誘導性コイルのカプセル化を可能にする、高い透磁率の絶縁磁性材料に焦点が合わせられたままである。
【特許文献1】米国特許第5573863号
【特許文献2】米国特許第5725685号
【特許文献3】欧州特許出願第1361586号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明の目的は、絶縁性があり、さらに、意図する磁気特性の観点から最適である、という両方の利点を有する新規な材料を提供することである。「最適な磁気特性」という用語は、高い磁化(≧1.5T)、低い保磁力(H≦5Oe)、および一軸異方性磁界(Hk≧10Oe)、の組み合わせを意味するよう理解される。絶縁特性は、磁気平面と誘導性コイルの間の容量性結合の問題を回避し、誘導性コイルの値において最大利得(≧100%)を得ることを可能にし、よって、そのQ値を改善することを可能にする。絶縁性薄膜は非常に低い導電率を有しており、RFデバイスに集積化されても容量性効果を生成することはない。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は、高い磁化の、絶縁性のある、軟磁性薄膜を生成する方法に関する。該方法は、アモルファス基板に浸漬されたFeリッチ(Fe-rich)な強磁性ナノ粒子の窒化、および、該アモルファス基板の選択的酸化を含む。
【0027】
本発明は、ナノ粒子の窒化と、結晶間マトリクスを構成するアモルファス基板の選択的酸化と、を組み合わせて提供する。これによって、FeXNOタイプ(したがって、酸素と窒素の両方を含有する)の材料を得ることが可能になり、飽和磁化の減少の原因となるFeリッチの強磁性相の酸化の問題が回避される。
【0028】
本発明の一実施形態によれば、強磁性ナノ粒子は、主に、FeXNから形成され、ここでXは、好ましくは、以下の元素、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Hf、Ta、W、Ir、およびPtから選択される。この一覧は、希土類(ランタニド)の元素、および、以下の元素、すなわち、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、およびCuに拡張されてもよい。
【0029】
窒化は、窒素の存在下で、一軸磁界が基板面に印加された状態で、FeXターゲットを使用した反応性スパッタリングによって行われることができる。
【0030】
酸化は、酸素の存在下で、反応性スパッタリングによって行われることができる。このプロセスは、窒化プロセスと同時に、連続して、または順次に実施されてもよい。
【0031】
酸化は、XOターゲットからの同時スパッタリングによって行われてもよく、ここでXは、上記のように規定される。このプロセスは、窒化プロセスと同時に行われてもよく、結果として、FeXNおよびXO材料の凝集体(aggregate)からなる異種薄膜(heterogeneous film)が生成される。このプロセスはまた、窒化プロセスと順次的に行われてもよく、この場合、FeXNとXOの交互の積層からなる異種薄膜が生成される。
【0032】
後者の実施形態は、堆積後の熱処理による、XO凝集体または層からの、FeXN凝集体または層のアモルファス・マトリクスへの、酸素の選択的拡散に依拠する。
【0033】
本発明はまた、高い磁化の、絶縁性のある軟磁性薄膜に関し、該薄膜は、窒化されたFeリッチの強磁性ナノ粒子が浸漬された、酸化したアモルファス基板を有する。
【0034】
ナノ粒子は、たとえば、FeXN結晶相からなり、アモルファス基板は、XまたはXNから構成されることができ、ここでXは、上記で規定されたものである。ナノ粒子は、好ましくは、10nm未満の径を有し、体心立方(bcc(body-centered cubic))構造または体心四方(bct(body-centered tetragonal))構造を有する。
【0035】
一実施形態によれば、アモルファス相は、薄膜の総体積の20%未満に相当する。
【0036】
たとえば、Feでは、各元素は、以下の原子パーセント(at%)の比率で薄膜に存在し、ここで、a+b+c+d=100%である。
【0037】
45%≦a≦90%、
1%≦b≦5%、
5%≦c≦20%、
5%≦d≦30%である。
【0038】
本発明はまた、上記の薄膜を組み込んだメンブレン(membrane)を用いた少なくとも1つのコンポーネントを備える集積回路を提案する。
【0039】
コンポーネントは、たとえば誘導性であり、誘導性コンポーネントのメンブレンは、固定されることができ、または可動であってもよい。
【0040】
メンブレンが固定された場合、メンブレンを誘導性コンポーネントから分離する距離は、最小に低減されることができる。磁性薄膜は、好ましくは、高い透磁率μ’と低い磁気損失μ”を有し、それによって、インダクタンスの値を最大にすることが可能になり、Q値が増加する。たとえば、同じ性能のより小さいコイルを得ることもまた可能になる。
【0041】
誘導性コンポーネントのメンブレンが固定されると、メンブレンは、該誘導性コンポーネントのためのスクリーニング・カバーを形成することができる。この場合、メンブレンの磁性薄膜は、好ましくは、コンポーネントのインダクタンスに対して影響することなく、真の電磁スクリーンを形成するために、低い透磁率μ’および高い磁気損失μ”を有する。
【0042】
メンブレンが可動である場合、磁性薄膜は、好ましくは、高い透磁率μ’および低い磁気損失μ”を有する。これによって、コンポーネントのインダクタンスが、巻き(turns)に対するメンブレンの位置に従って制御されることが可能になる。
【0043】
本発明による集積回路の他の例では、たとえば、メンブレンが、コンポーネントをカプセル化するためのカバー、または、別のコンポーネントのための支持体を形成する回路を含む。コンポーネントはまた、容量性コンポーネントであってもよく、その場合、メンブレンは、該容量性コンポーネントの誘電体を形成することができる。
【0044】
集積回路はまた、同じメンブレンの2つの異なる部分を使用して、2つまたは3つ以上の異なるコンポーネントを備えてもよい。
【0045】
この点につき、本発明は、同じウェハサイズのメンブレンを使用して、集積回路上にいくつかのコンポーネントを同時に集積化することを可能にするのに特に有利である。
【0046】
本発明の他の利点および特徴は、制限されることはないが、以下の実施形態についての詳細な説明および図面から明らかである。該図面において、図1から図5は、本発明による薄膜を使用したコンポーネントを有する様々な集積回路を概略的に示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
本発明は、アモルファス基板内に浸漬したFeリッチの強磁性ナノ粒子から、磁化が高く、絶縁性のある、軟磁性薄膜を得ることを可能にし、インサイチューで(in situ)該ナノ粒子を窒化するステップ、およびインサイチューで該アモルファス・マトリクスを選択的に酸化するステップを含む。
【0048】
本発明において、「Feリッチなナノ粒子(Fe-rich nanograins)」という用語は、重量で85%より大きな鉄含有物を有するナノ粒子を意味するよう理解される。
【0049】
このような薄膜を得るプロセスは、たとえば、2つの実施形態に従って行われることができる。第1の形態は、窒素と酸素のストリーム(流れ)下における、FeX層の反応性陰極スパッタリングを含み、第2の形態は、FeXN/XOの凝集体(aggregate)または2層構造から形成される異種化合物における選択的酸素拡散を含む。
【0050】
第1の形態は、窒素と酸素のストリーム下における、FeX層の反応性陰極スパッタリングを含む。
【0051】
これらの薄膜は、既知の手法、たとえば、室温での、アルゴンの主流と、窒素および酸素の二次的な流れの下で、イオン・ボンバード(RF/DC、ダイオード、マグネトロン、またはイオンビーム)によって生成される。
【0052】
層の成長は、基板面に印加された約100〜200Oeの一軸磁界内で起こる。最適な堆積条件は、3×10−3〜5×10−3mbarの圧力、50〜100sccmの平均ガス流量、および室温において達成される。
【0053】
窒化および酸化プロセスは、それぞれ、チャンバ内に注入される二次的な(反応性)ガスによる濃縮の程度によって制御される。窒素による相対的な濃縮の程度は、比N/(Ar+N+O)によって規定され、酸素による濃縮の程度は、比O/(Ar+N+O)によって規定される。これらの比は、通常、0.1%〜10%の範囲内で変わることができる。形成される薄膜の厚みは、500Å〜5000Åである。
【0054】
得られる材料の微細構造は、以下のように規定される。5原子パーセント未満の窒素含有量の場合、微細構造は、FeXN粒子からなる、単一のbccまたはbct(体心立方または体心四方)の結晶相からなる。
【0055】
粒子の平均径は、約100〜10nmのオーダーであり、軟磁性特性(H>10 Oe)を得るための条件を満足しない。これらの薄膜は、誘起された磁気異方性を提示しない。これらの薄膜は、生来、高い飽和磁化を有する(M≧1.9T)。
【0056】
5原子パーセント〜20原子パーセントの窒素含有量の場合、薄膜は、Xリッチなアモルファス・マトリクス内にランダムに分布したbccまたはbctのFeXNナノ粒子を含む微細ナノ構造からなる。
【0057】
窒素は、FeXナノ粒子における固溶体(solid solution)の飽和まで、FeXナノ粒子の結晶格子の格子間位置に組み込まれる(約15〜20原子パーセントにおいて)。この組み込みは、FeX結晶格子の実質的な膨張(5%まで)によって達成され、その結果、平均粒子サイズが減少する。
【0058】
これらの条件下で、FeXN粒子は、約10〜2nmの平均径を有し、約5〜1nmの平均粒子間距離を有する。これによって、先に規定した軟磁性特性(H≦5Oe)を得ることが可能になる。該薄膜は、約10〜40Oeの異方性磁界により特徴付けられる、誘起された磁気異方性を呈示する。また、該薄膜は、高い飽和磁化、通常、約1.9〜1.5Tを維持する。薄膜の電気抵抗率は、窒素含有量の増加に伴って、通常、200μΩ.cmまで増加する。
【0059】
20原子パーセントを越えると、過剰の窒素が、アモルファス・マトリクス内に固定されようになる。この場合、アモルファス・マトリクスは、体積比率の点で主要な相になり、薄膜は、完全にアモルファスな微細構造に向かう傾向があり、もはや、軟磁性特性を示さない(H>20Oe)。
【0060】
窒化プロセスによって上述した微細構造がもたらされ、インサイチューの酸化プロセスによって、Xリッチなアモルファス・マトリクス内に酸素が優先的に組み込まれる。
【0061】
様々な酸素濃度について、また、5〜20原子パーセントの窒素濃度について、薄膜は、上述した対応する微細構造を有し、粒子は、約10〜2nmの径を有すると共に、粒子間は約5〜1nm離れ、XOまたはXNOタイプの相を多く含んだ非常に高い抵抗性のあるアモルファス・マトリクスによってカプセル化される。これによって、先に規定した軟磁性特性(H≦5Oe)を維持することが可能になり、巨視的な絶縁特性が得られるまでに、薄膜の電気抵抗が実質的に増加する。
【0062】
第2の実施形態は、FeXN+XOタイプの異種構造を介した酸素の選択的拡散を含む。
【0063】
この選択的拡散は、FeXターゲットおよびXOターゲットからの陰極スパッタリングによって生成されるFeXNおよびXOの積層を介して行われることができる。これらの薄膜は、反応性陰極スパッタリング(上記第1の形態)において、上述したものと同じ手法および条件によって得られることができる。
【0064】
窒化プロセスは、比N/(Ar+N)(これは、0.1%〜10%の範囲内で通常変わることがあるが)によって規定される、チャンバ内に注入される窒素による濃縮の程度によって制御される。ここで形成されるFeXN薄膜の厚みは、20Å〜500Åの範囲内にある。薄膜は、上述したように、5〜20原子パーセントの窒素含有量を有する薄膜に対応する。
【0065】
XO薄膜は、それ自体、既知の手法、たとえば、イオン・ボンバード(RF、ダイオード、マグネトロン、または、イオンビーム)によって生成される。形成されるXOの厚みは、20Å〜500Åの間で変わる。FeXN/XOの2層構造の数は、2〜100の間で変わることがある。
【0066】
堆積後のアニール処理(annealing, 焼きなまし)(磁界を伴うこともあれば、伴わないこともある)は、高真空オーブン(容器)内で行われる。アニール温度は、150℃〜400℃であり、アニール時間は、1時間〜8時間である。アニールによって、主にFeXN層を構成するXリッチなアモルファス・マトリクス内への酸素の選択的拡散が可能になる。アモルファス・マトリクスの酸化の程度および薄膜の抵抗率は、アニールの条件に応じて変わる。該薄膜の微細構造は、第1の形態、すなわち、上述した窒素と酸素の流れの中でのFeX層の陰極スパッタリングで得られるものと、同じである。
【0067】
選択的酸素拡散は、2つの成分FeXおよびXOを含むターゲットからの陰極同時スパッタリングによって生成される、FeXNおよびXOの凝集体からなる異種層を介して行われることもできる。これらの薄膜は、反応性陰極スパッタリング(第1の形態)と同じ手法および条件によって得られることができる。
【0068】
窒化プロセスは、比N/(Ar+N)(これは、0.1%〜10%の範囲内で通常変わる場合がある(によって規定される、チャンバ内に注入される窒素による濃縮の程度によって制御される。ここで形成されるFeXN薄膜の厚みは、500Å〜5000Åの範囲内にある。薄膜は、上述したように、5〜20原子パーセントの窒素含有量を有する薄膜に対応する。
【0069】
堆積後のアニール処理および薄膜の最終的な特性は、上で述べたものと同じである。
【0070】
一般に、本発明による、磁化が高く、絶縁性のある、軟磁性薄膜は、結晶層およびアモルファス相を含む。結晶相は、アモルファス相内に分散される。
【0071】
実施形態に応じて、結晶相は、格子間の窒素の固溶体を、溶解度の限界まで有する、FeリッチなFeXNのナノ粒子からなる。Xは、好ましくは、以下の元素、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Hf、Ta、W、Ir、およびPtから選択される。この一覧は、希土類系(ランタニド)の元素、および、以下の元素、すなわち、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、およびCuに拡張されてもよい。該粒子は、10nm未満の径を有し、bccおよびbctの構造を有し、酸化されない。
【0072】
実施形態(およびその変形)に応じて、アモルファス相は、X、N、およびOから主に形成され、ここで、Xは、リッチとされ、窒素および主に酸素を含有し、上記で規定される通りである。この相は、5nm未満の粒子間距離によって粒子をカプセル化する絶縁マトリクスを構成する。この相は、薄膜の総体積の20%未満に相当するのが有利である。
【0073】
例示のため、また、上述した第1の系列から得たXについて、Fe薄膜を考えると、原子パーセントでの、各元素についての含有量は、以下の範囲内、すなわち、a+b+c+d=100%の下で、45%≦a≦90%、1%≦b≦5%、5%≦c≦20%、5%≦d≦30%である。
【0074】
例示のため、また、上述した第1の系列から得たXについて、以下の表は、本発明に従って得られた薄膜のこれらの元素の比率に応じた、いくつかの有用な磁気的および電気的特性を与える(a、b、c、およびdは原子パーセントで与えられる)。
【表1】

【0075】
これらの薄膜の1つの有利な特性は、場合に応じて、約10〜10μΩ.cmのオーダーの抵抗率を有することである。さらに、強磁性のFeリッチな粒子ではなく、粒子間のXリッチなマトリクスを選択的に酸化するので、高い磁化を維持することが可能になる。
【0076】
さらに、Feリッチな結晶相の選択的窒化によって、軟磁性でかつ異方性の磁気特性を得ることができる。したがって、絶縁性と高い磁化の両方を有する軟磁性薄膜を得ることが可能になり、これは、無線周波数領域における用途の動作条件を満足する。本発明に従って得られる薄膜は、通常、5×102〜1μmの間の厚みを有する。
【0077】
集積回路は、本発明による、絶縁性のある軟磁性薄膜を使用して製作されることができる。該薄膜は、メンブレン(membrane)内に組み込まれ、該メンブレンは、集積回路の製作のためのコンポーネントの作成で使用される。
【0078】
図1は、コンポーネントCとして、誘導性コンポーネントCを備える、本発明による集積回路ICの例を概略的に示す。誘導性コンポーネントCは、基板SBに作成されたキャビティ1の下に配置された金属巻回部MTを備える。誘導性コンポーネントCはまた、軟磁性薄膜2からなる磁性メンブレンMBを含み、磁性薄膜2は、この特定の実施形態では、2つのパッシベーション層21および22の間に挟まれている。パッシベーション層は、ここでは、薄膜2の保護と、メンブレンのより良好な機械的特性の両方を提供する。
【0079】
パッシベーション層21および22は、シリコン酸化物およびシリコン窒化物をベースとする材料のような、既知の材料を使用して、既知の方法によって製作される。メンブレンは、好ましくは、FeHfNOタイプの磁性薄膜を備える。
【0080】
メンブレンMBは、固定されることができ(図1)、または、任意の既知の手段(熱膨張、機械的手段、圧電手段など)によって、巻回部の方向に可動であることもできる(図2)。メンブレンが可動である場合、誘導性コンポーネントCのインダクタンスLの値は、所定の制御された方法で変更されることができる。
【0081】
メンブレンが固定される場合、メンブレンをRF誘導性コンポーネントから分離する距離を、最小に低減することができる。メンブレンの磁性薄膜2は、好ましくは、高い透磁率μ’(通常、≧100)を有し、低い磁気損失μ”(通常、≦10)を有する。これによって、インダクタンスが、(通常、30%〜120%ほど)増加することが可能になり、高いQ値(通常、Q≧10)を実現することができる。たとえば、同等の性能を有するより小さいコイルを得ることが可能となる。
【0082】
誘導性コンポーネントのメンブレンMBが固定される場合、該メンブレンは、誘導性コンポーネントのためのスクリーニング・カバー(screening cover)を形成することもできる。この場合、メンブレンの磁性薄膜2は、好ましくは、低い透磁率μ’(通常、≦100)および高い磁気損失μ”(通常、≧500)を有する。この場合、能動コンポーネントの固定されたメンブレンは、誘導コンポーネントのためのスクリーニング・カバーを形成する。
【0083】
しかし、メンブレンMBが可動である場合には、メンブレンの磁性薄膜2は、高い透磁率μ’(通常、≧100)および低い磁気損失μ”(通常、≦10)を有する。これによって、コンポーネントのインダクタンスが、巻回部に対するメンブレンの位置に応じて制御されることが可能になる(通常、0%〜100%の範囲にわたって変化する。すなわち、メンブレンに近くなるにつれ、インダクタンスは、公称値Xから、おそらく2Xまでになる)。
【0084】
コンポーネントCの性質がどうであろうとも、薄膜2を備えるメンブレンMBは、コンポーネントCをカプセル化するためのカバーを形成することができる。コンポーネントCは、たとえば、MEMS(MicroElectroMechanical System)であることができる(図4を参照されたい)。メンブレンMBはまた、図3に概略的に示すように、コンポーネントC(たとえば、BAW(バルクアコースティックウェイブ(Bulk Acoustic Wave)タイプの共振器であることができる)のための支持体を形成する。
【0085】
本発明による集積回路は、図5に示すように、メンブレンの2つの異なる部分を使用した、いくつかの、同じまたは異なるコンポーネントを備えてもよい。
【0086】
その根拠は、メンブレンが、「ウェハサイズ」のメンブレンとして形成される、すなわち、メンブレンが集積回路の表面全体を覆うからである。この図では、回路は、メンブレンの所定部分を使用した第1の誘導性コンポーネントCと、第2のコンポーネントとを有し、この例では、該第2のコンポーネントが、容量性コンポーネントCである。メンブレンMBの別の部分が、2つの金属層ML間に設置された、該容量性コンポーネントの誘電体を形成している。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明に従う薄膜を用いたコンポーネントを有する集積回路の一例を概略的に示す図。
【図2】本発明に従う薄膜を用いたコンポーネントを有する集積回路の一例を概略的に示す図。
【図3】本発明に従う薄膜を用いたコンポーネントを有する集積回路の一例を概略的に示す図。
【図4】本発明に従う薄膜を用いたコンポーネントを有する集積回路の一例を概略的に示す図。
【図5】本発明に従う薄膜を用いたコンポーネントを有する集積回路の一例を概略的に示す図。
【符号の説明】
【0088】
2 薄膜
C コンポーネント
容量性コンポーネント
誘導性コンポーネント
IC 集積回路
MB メンブレン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化の高い、絶縁性のある軟磁性薄膜を生成するための方法であって、
アモルファス基板内に浸漬したFeリッチな強磁性ナノ粒子の窒化と、
該アモルファス基板の選択的酸化と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記強磁性ナノ粒子は、FeXNから主に形成され、該Xは、好ましくは、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Hf、Ta、W、Ir、Pt、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Cu、およびランタニドの元素から選択される、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記窒化は、陰極スパッタリングまたはイオン反応性スパッタリングによって行われる、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記窒化は、磁界をかけて行われる、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記酸化は、陰極スパッタリングまたはイオン反応性スパッタリングによって行われる、
請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記酸化は、熱処理による酸素の選択的な拡散によって行われる、
請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記酸化は、FeXN/XOの積層の形成と、該積層の形成に続くアニール処理と、を含む、
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記酸化は、FeXNとXOの凝集体を含む薄膜の形成と、該形成に続くアニール処理と、を含む、
請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記ナノ粒子は、10nm未満の径を有する、
請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
請求項2との組み合わせにおいて、前記アモルファス基板は、実質的に、XまたはXNからなる、
請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
磁化が高く絶縁性のある軟磁性薄膜であって、
窒化されたFeリッチな強磁性ナノ粒子が浸漬された酸化済みアモルファス基板を備える、軟磁性薄膜。
【請求項12】
前記ナノ粒子は、FeXNの結晶相を構成し、該Xは、好ましくは、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Hf、Ta、W、Ir、Pt、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Cu、およびランタニドの元素から選択される、
請求項11に記載の軟磁性薄膜。
【請求項13】
前記ナノ粒子は、10nm未満の径を有する、
請求項11または12に記載の軟磁性薄膜。
【請求項14】
前記ナノ粒子は、体心立方構造または体心四方構造を有する、
請求項11から13のいずれかに記載の軟磁性薄膜。
【請求項15】
請求項12との組み合わせにおいて、前記アモルファス基板は、実質的に、XOまたはXNOからなる、
請求項11から14のいずれかに記載の軟磁性薄膜。
【請求項16】
前記アモルファス相は、前記薄膜の総体積の20%未満に相当する、
請求項11から15のいずれかに記載の軟磁性薄膜。
【請求項17】
Feの前記薄膜において、それぞれの元素の原子パーセントの比率は、
a+b+c+d=100%の状態で、
45%≦a≦90%、
1%≦b≦5%、
5%≦c≦20%、
5%≦d≦30%
である、
請求項11から16のいずれかに記載の軟磁性薄膜。
【請求項18】
請求項1から17のいずれかに記載の軟磁性薄膜(2)を組み込んだメンブレン(MB)を使用する少なくとも1つのコンポーネント(C)を備える、
集積回路(IC)。
【請求項19】
前記コンポーネント(C)は、誘導性コンポーネント(C)である、
請求項18に記載の集積回路。
【請求項20】
前記誘導性コンポーネント(C)の前記メンブレン(MB)は、該コンポーネント(C)のインダクタンスを変えるよう可動である、
請求項19に記載の集積回路。
【請求項21】
前記メンブレン(MB)の前記磁性薄膜(2)は、高い透磁率μ’および低い磁気損失μ”を有する、
請求項20に記載の集積回路。
【請求項22】
前記誘導性コンポーネント(C)の前記メンブレン(MB)は、固定され、該誘導性コンポーネントのためのスクリーニング・カバーを形成する、
請求項19に記載の集積回路。
【請求項23】
前記メンブレン(MB)の前記磁性薄膜(2)は、低い透磁率μ’および高い磁気損失μ”を有する、
請求項22に記載の集積回路。
【請求項24】
前記誘導性コンポーネント(C)の前記メンブレン(MB)は、FeHfNOタイプの磁性薄膜(2)を組み込む、
請求項19から23のいずれかに記載の集積回路。
【請求項25】
前記メンブレン(MB)は、前記コンポーネント(C)をカプセル化するためのカバーを形成する、
請求項18に記載の集積回路。
【請求項26】
前記メンブレン(MB)は、前記コンポーネントのための支持体を形成する、
請求項18に記載の集積回路。
【請求項27】
前記コンポーネント(C)は、容量性コンポーネント(C)であり、前記メンブレン(MB)は、該容量性コンポーネント(C)の誘電体を形成する、
請求項18に記載の集積回路。
【請求項28】
同じ前記メンブレン(MB)の2つの異なる部分を使用して少なくとも2つの異なるコンポーネント(C)を備える、
請求項18から27のいずれかに記載の集積回路。
【請求項29】
前記メンブレン(MB)は、2つのパッシベーション層(21および22)の間に挟まれた前記磁性薄膜(2)を備える、
請求項18から28のいずれかに記載の集積回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−41527(P2006−41527A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−214403(P2005−214403)
【出願日】平成17年7月25日(2005.7.25)
【出願人】(398048925)エスティマイクロエレクトロニクス エスエー (14)
【出願人】(500539103)コミッサリア ア レネルジ アトミック (29)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE
【住所又は居所原語表記】31−33,rue de la Federation,F−75015 Paris FRANCE
【Fターム(参考)】