説明

磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、磁気ディスクの製造方法、磁気ディスク、および磁気ディスク用ガラス基板の製造システム

【課題】 磁気ディスク用ガラス基板の内径寸法誤差を小さくする。
【解決手段】 ガラス基板102の内周端面を加工する内周加工工程と、ガラス基板102を化学強化処理液に接触させることにより、ガラス基板102中に含まれる一部のイオンを化学強化処理液中のイオンに置換しガラス基板102を化学強化する化学強化工程と、を含む本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、化学強化工程によるガラス基板102の内径の変形を把握する把握工程をさらに含み、内周加工工程では、把握工程の把握結果に基づいて、次の化学強化工程後の内径が所望の形状となるように、ガラス基板の内周端面を加工することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板の一部をイオン交換して化学強化を行う化学強化工程を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、磁気ディスクの製造方法、磁気ディスク、および磁気ディスク用ガラス基板の製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報化技術の高度化に伴い、情報記録技術、特に磁気記録技術は著しく進歩している。このような磁気記録媒体のひとつであるHDD(ハードディスクドライブ)等の磁気記録媒体用基板としては、アルミニウム基板が広く用いられてきた。しかし、磁気ディスクの小型化、薄板化、および高密度記録化に伴い、アルミニウム基板に比べ基板表面の平坦性及び基板強度に優れたガラス基板の需要が高まっている。
【0003】
また、磁気記録媒体の高密度化に伴い、磁気ヘッドも薄膜ヘッドから、磁気抵抗型ヘッド(MRヘッド)、大型磁気抵抗型ヘッド(GMRヘッド)へと推移してきており、磁気ヘッドの基板からの浮上量が小さくなってきている。このような磁気抵抗効果型素子を搭載した磁気ヘッドには固有の障害としてサーマルアスペリティ障害を引き起こす場合がある。サーマルアスペリティ障害は、磁気ディスク面上の微小な凸或いは凹形状上を磁気ヘッドが浮上飛行しながら通過するときに、空気の断熱圧縮または接触により磁気抵抗効果型素子が加熱され、読み出しエラーが生じる障害である。
【0004】
従って、磁気抵抗効果型素子を搭載した磁気ヘッドに対しては、磁気ディスク表面は極めて高度な平滑度および平坦度が求められる。また塵埃や異物が付着したまま磁性層を形成すると凸部が形成されてしまうため、ガラス基板には、塵埃や異物を完全に除去する高度な洗浄も求められている。
【0005】
また、磁気ディスク表面の平滑度および平坦度と共に、磁気ディスク中央に設けられた円孔における内径寸法誤差も厳しい精度管理が求められている。これは磁気ディスクの内周端面の寸法誤差が、磁気ディスクをHDDのスピンドルモータに嵌設する際の設置精度に直接影響するからである。また、内径寸法誤差が大きいと、HDD等の磁気ディスク装置に磁気ディスクが組み付けられる前に実施されるスタッキングサーボ(サーボ情報の磁気ディスクへの書き込み)における機械的な誤差を誘発する可能性や、ディスクスタッキング時のスピンドルとの嵌め合い不具合を誘発する可能性が生じる。磁気ディスクの内周端面は主表面に対して表面積が小さく、内径寸法誤差により磁気ディスクの回転中心がずれた場合には、HDDのヘッドをHDD上の正しい位置に配置することが困難となり、データの記録/再生ができなくなってしまう。
【0006】
また、磁気ディスクは高速に回転しながらデータの読み書きが行われるため、その高速回転においても磁気ディスク上のデータがぶれないようにする必要がある。従って、磁気ディスク用基板の内径寸法誤差の精度管理が特に重要となる。
【0007】
さらに、HDDのデータのアクセスに着目すると、HDDに組み込まれた磁気ディスクのデータを正確に記憶/再生するために、当該磁気ディスクには位置決めの指標となるサーボパターンが予め書き込まれる。このサーボパターンの書き込みは、サーボライターと呼ばれる装置に磁気ディスクを嵌設して実行される。そして、サーボパターンが書き込まれた磁気ディスクは、一旦サーボライターから離脱され、製品としてHDDのスピンドルモータに嵌設される。
【0008】
磁気ディスクの内径寸法誤差が大きい場合には、磁気ディスクをHDDに組み込む際にサーボパターンと、製品としてのHDDの記録/再生ヘッドとの位置がずれてしまうので、やはりデータの記録/再生が正常に行われないことになる。かかる位置関係を補正するためアライメントを調整する技術は開示されているが(例えば、特許文献1)、内径寸法誤差を抑制する抜本的な解決がなされるわけではない。
【0009】
このように、磁気ディスクの高記録密度化の要求は近年さらに高まりつつあり、磁気ディスク用のガラス基板に対する従来よりも一層厳しい内径寸法誤差の管理が求められている。
【特許文献1】特開2004−199841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような磁気ディスク用のガラス基板は、複数の工程を経由して形成される。まず、1枚のウェハを円盤状に切削し、さらに内孔を開けてガラス基板の形を形成する。その後、切削したガラス基板の外周端面および内周端面の面取りを行い、両端面を研磨する。続いて、ガラス基板の主表面も研磨され、最後に研磨が完了したガラス基板に化学強化処理を施す。かかる化学強化処理は、ガラス基板の耐衝撃性や耐振動性を向上させることができ、衝撃や振動によってガラス基板が破損するのを防止できる。
【0011】
この化学強化処理を施す化学強化工程は、例えば、アルカリ塩の溶融塩を加熱溶融し、処理対象のガラス基板をガラス基板ホルダに収納した状態で上記溶融塩(化学強化処理液)中に浸漬し、ガラス基板と溶融塩とをイオン交換させることによって行われる。
【0012】
このとき、化学強化工程の前後においてガラス基板の内径が変化する、即ち、ガラス基板が内径中心方向に膨張することで内径が変化する現象が生じる。これは、ガラス基板に化学強化処理を施すと、ガラス基板の表面に圧縮応力が生じ、この圧縮応力によって、ガラス基板の寸法が変化するからである。
【0013】
また、化学強化処理液は、経時変化によってその組成が変わってしまう。具体的には、化学強化処理において、化学強化処理液に含まれているイオンと、ガラス基板に含まれているイオンとがイオン交換されるため、化学強化処理が進行するに連れて、当該化学強化処理液には、イオン交換されたガラス基板に含まれていたイオンが増大することになる。この組成の変化は、化学強化においてガラス基板の内径寸法を変化させる一因となる。この内径寸法の変化量は、一段と厳しい要求がされているガラス基板の内径寸法誤差(基準寸法からの誤差)に対して無視できるものではないので、ガラス基板には、この化学強化処理における内径の変化量も含めた高い内径寸法精度が求められている。
【0014】
本願発明者らは、上記の課題について鋭意検討した結果、化学強化工程内の内径制御の代わりに、ガラス基板の内周端面を加工する内周加工工程(内周端面研削工程や内周端面研磨工程)といった他の工程を管理する、即ち、化学強化工程における内径寸法誤差を、内周加工工程に対して逐次フィードバックすることで、化学強化処理条件の煩雑な調整を行うことなしに内径寸法誤差を小さくすることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明は、従来のガラス基板が有する上記問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、磁気ディスク用ガラス基板の内径寸法誤差を小さくすることが可能な、新規かつ改良された磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、磁気ディスクの製造方法、磁気ディスク、および磁気ディスク用ガラス基板の製造システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、中心に円孔が形成された円板状のガラス基板の内周端面を加工する内周加工工程と、ガラス基板を化学強化処理液に接触させることにより、ガラス基板中に含まれる一部のイオンを化学強化処理液中のイオンに置換してガラス基板を化学強化する化学強化工程と、を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、化学強化工程によるガラス基板の内径の変形を把握する把握工程をさらに含み、内周加工工程では、把握工程の把握結果に基づいて、次の化学強化工程後の内径が所望の形状となるように、ガラス基板の内周端面を加工することを特徴とする、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法が提供される。
【0017】
本発明では、化学強化工程におけるガラス基板の内径の変化量を把握し、次からもこのような変化が起きるという推測の下、ガラス基板の内径が最終的に所望する値となるように、化学強化工程の前段階において内周端面の加工を行う。かかる構成により、化学強化処理条件の煩雑な調整を行うことなく、磁気ディスク用ガラス基板の内径寸法誤差を小さくすることが可能となる。
【0018】
上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、中心に円孔が形成された円板状のガラス基板の内周端面を加工する内周加工工程と、ガラス基板を化学強化処理液に接触させることにより、ガラス基板中に含まれる一部のイオンを化学強化処理液中のイオンに置換してガラス基板を化学強化する化学強化工程と、を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、化学強化工程によって変形するガラス基板の内径の変化量を把握する把握工程と、把握工程の把握結果に基づいて、次の化学強化工程後のガラス基板の内径が所望の値となるように、ガラス基板の内径の加工量を決定する加工量決定工程と、をさらに含み、内周加工工程では、加工量に基づいてガラス基板の内周端面を加工することを特徴とする、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法が提供される。
【0019】
本発明では、化学強化工程におけるガラス基板の内径の変化量を把握し、次からもこのような変化が起きるという推測の下、ガラス基板の内径が最終的に所望する値となるように、化学強化工程の前段階において内周端面の加工を行う。かかる変化量を踏まえて内周加工工程に加工量としてフィードバックする上記閉ループ構成により、化学強化工程における内径寸法誤差を前段の工程で吸収することが可能となり、化学強化処理条件の煩雑な調整を行うことなく、結果的に内径(ID)寸法誤差の小さい磁気ディスク用ガラス基板を製造することが可能となる。
【0020】
内周加工工程には、内周端面を研削加工する内周端面研削工程と、内周端面を研磨加工する内周端面研磨工程とが含まれ、把握工程の把握結果の反映は、内周端面研削工程および内周端面研磨工程のいずれか一方または両方で実行されてもよい。
【0021】
かかる構成により変化量を見越した加工量を当該ガラス基板の内径加工に確実に反映することができる。また、当該内周端面研削工程は、内周端面研磨工程と比較して取代を大きくとることができ、単位時間当たりの切削量も大きいため制御し易く、内周端面研磨工程と比較したさらなる製造工程の効率化を図ることが可能となる。
【0022】
把握工程は、化学強化工程の前後におけるガラス基板の内径の差分から変化量を把握してもよい。
【0023】
把握工程における変化量の把握方法としては、(1)ガラス基板の内径の変化量を実際に測定する方法と、(2)化学強化処理液の状態から変化量を推測する方法とが存在する。本発明は、化学強化工程の前後におけるガラス基板の内径を実測し、その内径の差分を計算することで変化量を把握する。かかる構成により、現実の変化量を実測に基づいて正確に把握することができ、それに伴って正確な加工量をフィードバックすることが可能となる。
【0024】
把握工程は、化学強化処理液に含まれる特定の成分の濃度、化学強化処理液を用いて化学強化処理を実行し終えたガラス基板の累積枚数、化学強化処理液を用いて化学強化処理を実行し終えたガラス基板の累積時間、のいずれかまたは複数に基づいて変化量を把握してもよい。
【0025】
変化量の把握方法の(2)化学強化処理液の状態から変化量を推測する方法は、さらに同一浸漬時間、同一温度の下で、(a)特定の成分の濃度、(b)ガラス基板の処理済み累積枚数、(c)ガラス基板の処理済み累積時間によって変化量を推測することが可能である。かかる構成により、変化量を容易に把握することが可能となり、特に(b)、(c)に至ってはガラス基板や化学強化処理液への直接の測定を必要とせず、間接的に累積枚数または累積時間をカウントするだけで、変化量を推測することができる。従って、特別な測定機器を用いなくとも、ガラス基板の変化量を把握することができ、コスト削減および製造工程の効率化を図りつつ、磁気ディスク用ガラス基板の内径寸法誤差を小さくすることが可能となる。
【0026】
また、(a)特定の成分の濃度について、ガラス基板が、Liイオンを含むアルミノシリケートガラスで形成されている場合に、特定の成分をLiイオンとすることができる。
【0027】
把握工程では、特定の成分の濃度と変化量とが対応付けられた変化量テーブルを用いて変化量を把握することができる。
【0028】
かかる構成により、特定の成分の濃度と変化量との多次元の関係式をリアルタイムに計算しなくても、予め準備された変化量テーブルを参照するだけで、濃度から変化量を容易に導出することができる。従って、処理負荷を低減することができ、さらに多次元の関数を導出する際の丸め誤差による変化量のずれを回避することが可能となる。
【0029】
また、上記の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法を遂行する磁気ディスク用ガラス基板の製造システム、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により得られたガラス基板の表面に少なくとも磁性層を形成する工程を含む磁気ディスクの製造方法、および、そのように製造され、磁気記録媒体として用いられる磁気ディスクも提供される。
【0030】
かかる磁気記録媒体は、磁気ディスク平面に対して記録層が垂直方向に磁化された垂直磁気記録媒体であってもよい。垂直磁気記録媒体は、水平(面内)磁気記録媒体に対して記録密度が一層高められているため、水平磁気記録媒体で許容された内径寸法誤差も垂直磁気記録媒体では許容できなくなっている。従って、内径寸法誤差を小さくできる本発明による磁気記録媒体は垂直磁気記録媒体においても有効である。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したように本発明によれば、化学強化処理による内径寸法誤差を前段の内周加工工程で吸収することができ、磁気ディスク用ガラス基板の内径寸法誤差を小さくすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0033】
(内周加工工程の加工量の調整)
磁気ディスクの小型化、薄板化、および高密度記録化に伴い、ガラス基板内周端面の高度な平滑度および平坦度が求められる。本実施形態では、ガラス基板の内周端面、特に、化学強化工程における変化量に着目し、ガラス基板の最終的な内径寸法誤差を小さくすることを目的としている。以下、化学強化工程を含む一連の工程を実行可能な磁気ディスク用ガラス基板の製造システム100を説明する。
【0034】
図1は、本実施形態による磁気ディスク用ガラス基板の製造システム100を示した機能ブロック図である。ここで太線の矢印はガラス基板102の処理の流れを、細線の矢印は情報の流れを示している。図1の磁気ディスク用ガラス基板102の製造システム100は、内周端面研削装置110と、内周端面研磨装置120と、化学強化処理槽130と、把握装置140と、メモリ150と、研削量決定装置160と、研磨量決定装置170と、を含んで構成されている。ここでは、理解を容易にするため、特にガラス基板102の内周端面に関する製造工程を挙げて当該磁気ディスク用ガラス基板の製造システム100を説明しているが、実際の工程でガラス基板102の表面や外周端面の製造工程をも含んでいるのは言うまでもない。
【0035】
上記内周端面研削装置110は、内周加工装置として機能し、例えば多成分系ガラスからなる円盤状のガラス基板102の中心に形成された円孔における内周端面を、研削量分だけ研削加工する。かかる内周端面研削装置110は、ガラス基板102の内周端面を研削できれば、様々な形態で構成することができ、例えば、内周端面の面取りと同時に内周端面を研削する面取り(チャンファ:chamfer)装置によっても構成することが可能である。また、上記研削量は、研削工程における所望する研削量に、後述する研削量決定装置160が決定した研削量を追加した値となる。
【0036】
図2は、内周端面研削装置110の研削工程を説明するための説明図である。ここでは、図2の(a)に示すように円盤状のガラス基板102の円孔112により形成される内周端面114の研削および面取り加工がなされる。
【0037】
内周端面研削装置110では、図2(b)に示すように、円孔112に研削用の内径研削砥石116が挿通される。また、円筒状に積層した複数のガラス基板102は、挟持部材によって上下2つの底面が狭持されている。内径研削砥石116は、プーリー状の回転砥石であって外周が研削面となっている。
【0038】
ガラス基板102と内径研削砥石116とはそれぞれが固定された駆動手段(図示せず)によって回転駆動され、この円筒状のガラス基板102の内周端面114に内径研削砥石116を当接して各ガラス基板102に均一な内径加工を施している。その回転方向はそれぞれの接触点で相対する方向となるように設定される。このような内周端面の研削工程により図2(c)に示すような内周端面114および面取り114aが形成される。また、内周端面114の研削と同時に、外周端面も研削することも可能である。
【0039】
上記内周端面研磨装置120は、内周端面研削装置110同様内周加工装置として機能し、内周端面研削装置110によって研削されたガラス基板102の内周端面114をさらに研磨量分だけ研磨加工する。この研磨量は、研磨工程において所望する研磨値に、後述する研磨量決定装置170が決定した研磨量を追加した値となる。
【0040】
図3は、内周端面研磨装置120の構成を説明するための縦断面図である。円筒状に積層された複数のガラス基板102は、当該内周端面研磨装置120の固定部122に固定される。かかるガラス基板102は、ガラス基板102の円盤中心軸を回転中心として、ガラス基板102とガラス基板102の円孔に挿入された研磨体124とが相対的に摩擦するように、いずれか一方もしくは両方を回動することで、ガラス基板102の内周端面を研磨する。
【0041】
かかる研磨体124は、スウェード、ベロアを素材とする軟質ポリシャや、硬質ベロア、発泡樹脂、ピッチ含浸スウェード等の硬質ポリシャ等で形成される研磨布126を円筒形状の一部をなすように配してもよい。また、研磨体124は、ガラス基板102に対して、円孔内で回転軸方向に低速揺動(ストローク運動)してガラス基板102の内周端面114全体を研磨してもよい。
【0042】
また、内周端面研磨装置120のノズル128は、研磨体124とガラス基板102との間に研磨砥粒を含む研磨液を供給する。この研磨砥粒としては、目標とする端面の形状にもよるが、例えば、アルミナや酸化セリウム、コロイダルシリカ等の通常の研磨砥粒を用いることができる。また、研磨砥粒を分散させている分散媒としては、特に限定されるものではなく、コストの面からは水が好ましいが、通常の研磨に使用されている分散媒であれば好適に使用することができる。
【0043】
上記化学強化処理槽130は、化学強化処理液を収容する処理槽と、その制御部とを含んで構成される。化学強化処理槽130は、化学強化工程において、化学強化塩を加熱溶解した化学強化処理液にガラス基板102を浸漬し、ガラス基板(Liイオンを含むアルミノシリケートガラス)の一部のイオン、例えば、LiイオンおよびNaイオン等の一価の金属イオンを化学強化処理液中の上記イオンより大きなイオン径を有する一価のイオン、例えば、Naイオン、Kイオンに置換する。かかるイオン交換法によりガラス基板表面には圧縮応力層が形成され、割れやクラックが生じにくい大きな機械的強度を得ることができる。
【0044】
このようなNaイオン、Kイオンを含む上記化学強化処理液(処理溶融塩)としては、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸リチウムおよびその混合溶融塩を用いるのが好ましいが、硝酸塩に限定されるものではなく、硫酸塩、重硫酸塩、炭酸塩、ハロゲン化物などを用いてもよい。
【0045】
図4は、ガラス基板102の化学強化処理液への浸漬を説明するための説明図である。ここでは、金属材料からなるガラス基板ホルダ132と、化学強化処理液が収容された処理槽134とが示されている。ガラス基板ホルダ132には、板状の薄板を湾曲させ、膨出側の表面には突部が長手方向に波状に複数形成された保持部136が設けられ、その保持部136の膨出側の突部間に形成されたV字溝部にはそれぞれ1枚ずつガラス基板102が保持される。そして、1回の化学強化で処理すべき全てのガラス基板102が配置された後、そのガラス基板ホルダ132と共にガラス基板102が処理槽134に所定時間浸漬される。
【0046】
かかる化学強化処理液の温度は、ガラス基板102の材質の歪点よりも好ましくは50〜150°C程度低く設定し、より好ましくは化学強化処理液自体の温度が350〜400°C程度に設定される。これは、ガラス基板102の材質の歪点よりも150°Cより低く設定すると、化学強化処理が十分に行われず、50°Cより高く設定すると、化学強化処理においてガラス基板に歪みが生じやすくなるからである。
【0047】
このような化学強化処理によってガラス基板102の表面および端面には圧縮応力層が形成される。端面、特に内周端面に形成される圧縮応力層が内周端面の変形を招き、その膨張(伸び)量が変化量として把握される。この圧縮応力層の厚みは、その化学強化の化学強化処理条件を調整して20〜150μmとするのが好ましい。これは、20μm未満では、ガラス基板102の強度が低下する恐れがあり、150μmを超える場合、その製造効率が不必要に悪くなるからである。
【0048】
図5は、化学強化処理による内径寸法誤差の変化例を示した説明図である。内周端面研磨装置120による内周端面研磨工程を終えたガラス基板102は、図5(a)に示すように円孔112の内径、即ち円孔112の中心を挟んで対向する内周端面114の距離d1は、研磨体124の直径および研磨液の濃度、研磨時間によって所定範囲内の内径寸法誤差に仕上がっている。しかし、当該化学強化工程においては、図5(b)に示すように、圧縮応力層118が形成され、ガラス基板102の内周端面114が内径を小さくする方向に膨張変化し、内径寸法誤差に影響を及ぼす。従って、内径はd1からd2に小さくなる。
【0049】
当該磁気ディスク用ガラス基板の製造システム100で最終的に所望する内径が決まっているのなら、化学強化工程における変化量を調整して、内周端面研磨工程後の内径d1を所望する値にすればよいのだが、化学強化工程における化学強化処理条件の変更は大掛かりな処理を伴うことが多い。そこで、本発明者らは、かかる化学強化工程内の内径制御の代わりに、ガラス基板102の内周端面を加工する内周加工工程(内周端面研削工程や内周端面研磨工程)といった他の工程を調整することで、化学強化処理条件の煩雑な調整を行うことなしに内径寸法誤差を小さくすることを見出した。
【0050】
従って、ここでは、化学強化処理槽130による化学強化工程におけるガラス基板102の内径の変化量を把握し、次からもこのような変化が起きるという推測の下、ガラス基板102の内径が最終的に所望する値となるように、化学強化工程の前段階において内周端面の加工を行う。これは、内周加工工程による内径d1と、化学強化処理後の内径d2に相関関係があることを利用したものである。
【0051】
上記把握装置140は、化学強化処理槽130の化学強化工程により変形するガラス基板102の内径の変化量を把握(計算、算出)する。把握装置140は、(1)ガラス基板102の内径の変化量を実際に測定する方法、または(2)化学強化処理液の状態から変化量を推測する方法によって変化量を把握する。
【0052】
図6は、把握装置140が(1)ガラス基板102の内径の変化量を実際に測定する方法によって変化量を把握する場合の概略を示した機能ブロック図である。把握装置140は、化学強化工程の前段階でガラス基板102の内径を測定し、さらに、化学強化工程の後段階における同一のガラス基板102の内径を測定する。そして、その内径の差分を求めることで変化量を導出している。かかる構成により、現実の変化量を正確に把握することができ、それに伴って正確なフィードバック値(研削量または研磨量)を設定することが可能となる。
【0053】
変化量の把握方法の(2)化学強化処理液の状態から変化量を推測する方法は、化学強化処理液の状態と変化量とが相関関係を有していることに基づいている。例えば、同一浸漬時間、同一温度における、(a)特定の成分の濃度、(b)ガラス基板102の処理済み累積枚数、(c)ガラス基板102の処理済み累積時間と、変化量とは、一定の相関関係を有するので、上述した(a)、(b)、(c)のいずれかまたは複数の化学強化処理液の状態によって変化量を把握または推測することが可能である。
【0054】
また、当該磁気ディスク用ガラス基板の製造システム100の初回遂行時には、内周端面研削装置110や内周端面研磨装置120の最初の研削量および研磨量を定めなくてはならないので、その前段階で上記把握装置140による変化量の推測が行われる。
【0055】
図7は、(a)Liイオンの濃度(ppm)と変化量(μm)との相関を示した相関図である。このような相関を例えば、多次元の関係式に表すことにより、Liイオンの濃度を測定することのみによって変化量を推測することが可能となる。
【0056】
このような関係式は、化学強化処理の回数を重ねると、溶融塩中のLiイオン濃度が増大するため、化学強化処理能力が落ち、同一浸漬時間、同一温度では、変化量が減少することに起因する。即ち、化学強化処理において、Liイオンの濃度が低いときには、イオン交換の速度も高く、それに伴って変化量も大きくなるが、化学強化処理の時間および回数が経過するに連れガラス基板102からのLiイオンが溶融塩中に蓄積されるのでLiイオンの濃度が増大し、イオン交換の速度が低下すると共に変化量が小さくなる。
【0057】
また、(b)累積枚数、(c)累積時間に至ってはガラス基板102や化学強化処理液への直接の測定を必要とせず、間接的に累積枚数または累積時間を測定(計数、計時)するだけで、変化量を推測している。従って、特別な測定機器を用いなくとも、ガラス基板102の変化量を把握することができ、コスト削減および製造工程の効率化を図りつつ、磁気ディスク用ガラス基板の内径寸法誤差を小さくすることが可能となる。
【0058】
把握装置140は、(a)濃度、(b)累積枚数、(c)累計時間等の参照値と変化量との関係式により変化量を把握してもよいが、1対1に対応付けられた変化量テーブルを用いて変化量を把握してもよい。尚、変化量テーブルに記載された数値間の補間は、線形補間を用いてもよい。
【0059】
図8は、図7のLiイオンの濃度(ppm)と変化量(μm)との相関をテーブル化した変化量テーブルの例を示した説明図である。ここでは、Liイオンの濃度と変化量との図7に示すような多次元の関係式をリアルタイムに計算しなくても、図8のような予め準備された変化量テーブルを参照するだけで、Liイオンの濃度から変化量を導出することができる。かかる構成により、処理負荷を低減することができ、さらに多次元の関数を導出する際の丸め誤差による変化量のずれを回避することが可能となる。
【0060】
上記メモリ150は、このような変化量テーブルや後述する加工量テーブル、強化条件テーブル等を記憶し、把握装置140等の要求に応じて変化量テーブル等の内容を参照させる。
【0061】
上記研削量決定装置160および研磨量決定装置170は、加工量決定装置として機能し、把握された変化量に基づいて、次回の化学強化工程後のガラス基板102の内径が所望する値になるように、内周端面研削工程の研削量および内周端面研磨工程の研磨量を決定する。そして、次回から、設定された研削量および研磨量をそれまでの研削量および研磨量に反映(追加)してガラス基板102を加工する。即ち、内周端面研削工程、内周端面研磨工程のいずれか一方または両方で、変化量分だけ内径をフィードバックすることとなる。かかるフィードバックは1バッチ毎に行ってもよいし、1日毎に行うとしてもよい。これにより、大量に磁気ディスク用ガラス基板を製造した場合においても、複数のガラス基板102間の内径寸法誤差を従来と比べて少なくすることができる。
【0062】
図9は、変化量を内周端面研削工程および内周端面研磨工程の両工程に分担してフィードバックする場合の加工量(研削量と研磨量)を示したテーブルである。例えば、把握装置140が変化量は15.00μmであると把握した場合、内径を所望の値にするための加工量の総計が15.00μmとなる。従って、図9の加工量テーブルを参照して、研削量決定装置160は、研削量を13.00μm分追加し(+13.00μm)、研磨量決定装置170は研磨量を2.00μm分追加(+2.00μm)する。そして、内周端面研削装置110および内周端面研磨装置120はそれぞれ、設定された研削量および研磨量を反映(追加)して加工を行う。
【0063】
また、当該内周端面研削工程は、後述する内周端面研磨工程と比較して取代を大きくとることができ、単位時間当たりの切削量も大きいため制御し易く内周端面研磨工程と比較したさらなる製造工程の効率化を図ることが可能となる。
【0064】
また、変化量は内周端面研削工程および内周端面研磨工程のいずれか一方のみでフィードバックすることもできる。
【0065】
図10は、変化量を内周端面研削工程の研削量のみでフィードバックする場合の加工量テーブルである。ここでは、内周端面研磨工程の追加研磨が行われないので、研削量のみによって変化量との調整が遂行される。従って、化学強化工程後に所望する内径の値が一定であれば、研削量は変化量に比例した値となる。内周端面研磨工程のみでフィードバックする場合も同様の加工量テーブルを用いることができる。
【0066】
図11は、変化量テーブルと加工量テーブルを合わせたテーブルである。かかるテーブルを参照すると、計算の基礎となる参照値、ここでは、Liイオンの濃度から直接研削量や研磨量を導き出すことができ、処理負担を軽減することが可能となる。
【0067】
変化量を把握し、内周加工工程に加工量をフィードバックする上記閉ループ構成により、化学強化工程における内径寸法誤差を前段の工程で吸収することが可能となり、化学強化処理条件の煩雑な調整を行うことなく、結果的に内径(ID)寸法誤差の小さい磁気ディスク用ガラス基板を製造することが可能となる。
【0068】
また、上述した変化量テーブルは、磁気ディスク用ガラス基板の製造システム100のフィードバックを切り、開ループ制御における参照値((a)濃度、(b)累積枚数、(c)累計時間等)と変化量との相関を導出することで求めることができる。
【0069】
即ち、Liイオンの濃度と変化量との変化量テーブルを作成する場合、化学強化工程の前後段階における内径と、化学処理工程中のLiイオンの濃度とを同タイミングで測定し、内径の差分を変化量として、Liイオンの濃度に対応付ける。このような対応処理をLiイオンの複数の濃度で測定することで、Liイオン濃度と変化量との関係式や変化量テーブルが例えば、図7や図8の如く導出される。
【0070】
他の参照値である(b)累積枚数、(c)累計時間も上記同様、化学強化工程の前後段階における内径と同タイミングで測定し、その対応付けによって関係式が導出される。このとき、Liイオンの濃度以外の例えば、浸漬時間や温度といった他の化学強化処理条件は測定中および実際の製造工程中等しくするのが望ましい。
【0071】
(磁気ディスク用ガラス基板の製造方法)
また、上述した磁気ディスク用ガラス基板の製造システムを用いて磁気ディスク用ガラス基板の製造方法も提供される。かかる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、中心に円孔が形成された円板状のガラス基板102の内周端面を加工する内周加工工程と、ガラス基板102を化学強化処理液に接触させることにより、ガラス基板102中に含まれる一部のイオンを化学強化処理液中のイオンに置換しガラス基板102を化学強化する化学強化工程と、化学強化工程によって変形するガラス基板102の内径の変化量を把握する把握工程と、把握工程の把握結果に基づいて、次の化学強化工程後のガラス基板102の内径が所望の値となるように、ガラス基板102の内径の加工量を決定する加工量決定工程と、を含み、内周加工工程では、加工量に基づいてガラス基板102の内周端面を加工する。
【0072】
上述したような実施形態では、変化量を把握し、その変化量を内周端面研削工程や内周端面研磨工程の研削量または研磨量としてフィードバックする上記閉ループ構成により、化学強化工程による変化量を見越した研削量を設定し、化学強化工程の多数のパラメータに基づく内径寸法誤差の変化を内周端面研削工程で吸収することができ、結果的に内径(ID)寸法誤差の小さい磁気ディスク用ガラス基板を製造することが可能となる。
【0073】
上述した実施形態においては、化学強化処理による変化量に基づいて内周加工工程への加工量を調整し磁気ディスク用ガラス基板の内径寸法誤差を小さくした。かかる工程を踏まえることで十分な加工精度を得ることができるが、このようなフィードバックによる内周加工に、以下に示す(A)化学強化工程における化学強化処理条件の調整、(B)ガラス基板と化学強化処理槽との組合せ調整、といった工程を加えることで、さらに内径寸法誤差を小さくすることができる。以下、このような調整工程を加えた実施形態を説明する。
【0074】
((A)化学強化工程における化学強化処理条件の調整)
図12は、化学強化工程における化学強化処理条件の調整を示す磁気ディスク用ガラス基板の製造システム200を示した機能ブロック図である。ここでは、理解を容易にするため、既に詳細に説明した内周加工工程の加工量の調整を省略し、化学強化処理条件の調整のみに着目して説明する。かかる図12の磁気ディスク用ガラス基板の製造システム200は、上述した磁気ディスク用ガラス基板の製造システム100にさらに、内径測定装置210と、強化条件決定装置220と、を含んで構成される。また、上述した内周端面研削装置110と、内周端面研磨装置120と、化学強化処理槽130と、メモリ150とは、実質的に機能が同一なので重複説明を省略し、ここでは、構成が相違する内径測定装置210と、強化条件決定装置220とを主に説明する。
【0075】
上記内径測定装置210は、化学強化処理槽130で化学強化を行う前のガラス基板102の内径を測定する。ガラス基板102の内径は、ここでは実測によって求められているが、例えば内周端面研磨工程における内径設定値(内径予測値)であってもよい。
【0076】
上記強化条件決定装置220は、内径測定装置210が測定した内径と化学強化工程後に所望する内径との差分に基づいて、化学強化処理槽130における化学強化処理条件を決定する。ここでは、まず、内径測定装置210によってガラス基板102の内径が測定され、最終的に所望する内径との差分が導出される。そして、その後の化学強化工程における変化量が導出された差分に追従するように化学強化処理条件が決定される。かかる構成により、化学強化処理前のガラス基板102の内径が予め決められている設計値よりもずれていたとしても、変化量を調整することで最終的なガラス基板102の内径を所望の値に形成でき、さらに内径寸法誤差の小さい磁気ディスク用ガラス基板を製造することが可能となる。
【0077】
ここで、化学強化処理条件は、(a)化学強化処理液に含まれる特定の成分の濃度、(b)化学強化処理液へのガラス基板102の浸漬時間、(c)化学強化処理液の温度、の群から選択された1または2以上の条件であってもよい。
【0078】
化学強化処理槽130による化学強化工程では、主として(a)化学強化処理液に含まれる特定の成分の濃度、(b)化学強化処理液へのガラス基板102の浸漬時間、(c)化学強化処理液の温度と、ガラス基板102の内径の変化量とが相関関係を有する。従ってかかる化学強化処理条件の1または2以上を固定して化学強化工程を行ったとしても、他の1または2以上の化学強化処理条件を変えることで変化量を調整することができ、化学強化工程におけるガラス基板102の最終的な内径寸法誤差を小さくすることができる。
【0079】
また、(a)特定の成分の濃度について、ガラス基板102がLiイオンを含むアルミノシリケートガラスで形成されている場合に、特定の成分をLiイオンとすることができる。
【0080】
強化条件決定装置220は、例えば、化学強化処理条件としてのLiイオンの濃度を、化学強化処理塩の寿命に影響を与えたくないことを理由に、調整したくない、もしくはできないとき、浸漬時間または温度のいずれか一方または両方を調整することで、ガラス基板102の内径を所望の値にすることができる。
【0081】
同様に、複数の化学強化処理槽130を用いて化学強化処理を行う場合に1つの化学強化処理槽130の加熱時間を変えることで他の化学強化処理槽との仕上がり時間が変わることになり、製造現場全体の時間コントロールが複雑化する等の理由により浸漬時間を調整したくない、もしくはできないときには、濃度または温度のいずれか一方または両方を調整する。また、加熱温度を例えば予め決められている温度よりも高温にした場合、化学強化処理槽130が過剰に過熱され、FeやSUS等のパーティクルの発生の原因となる等の理由により、温度を調整したくない、もしくはできないときには、濃度または浸漬時間のいずれか一方または両方を調整する。
【0082】
強化条件決定装置220では、内径測定装置210が測定した内径と化学強化工程後に所望する内径との差分と、化学強化処理条件とが対応付けられた強化条件テーブルを用いて化学強化処理条件を決定してもよい。
【0083】
図13は、差分(μm)とLiイオンの濃度(ppm)との相関をテーブル化した強化条件テーブルの例を示した説明図である。かかる図13の強化条件テーブルでは、浸漬時間が180min、温度が350℃と一定であり、変更可能な化学強化処理条件がLiイオンの濃度(ppm)のみとなる。従って、内径測定装置210によって測定された内径に基づき所望の内径に達するために必要な差分を導出し、かかる差分だけ内径を変化させるためLi濃度を調整する。例えば、所望の内径に5μm足りない場合、Li濃度を150ppmに変更することで、後の化学強化工程において内径寸法誤差の小さいガラス基板を得ることができる。かかるLi濃度の変更は、化学強化処理液の所定量の廃棄と、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸リチウムまたはその混合溶融塩の継ぎ足しによって実行される。
【0084】
かかる強化条件テーブルを用いることにより、差分と化学強化処理条件との複雑な関係式をリアルタイムに計算しなくても、予め準備された強化条件テーブルを参照するだけで、差分から化学強化処理条件を容易に導出することができる。従って、処理負荷を低減することができ、さらに多次元の関数を導出する際の丸め誤差による化学強化処理条件のずれを回避することが可能となる。
【0085】
このような強化条件テーブルは、磁気ディスク用ガラス基板の製造システム200のフィードバックを切り、開ループ制御におけるLiイオン濃度、浸漬時間、および温度と、その化学強化処理条件における変化量との相関を導出することで求めることができる。かかる変化量は、化学強化工程の前後における内径の差分を測定して得ることができる。
【0086】
図14は、Liイオン濃度、浸漬時間、温度と、その化学強化処理条件における変化量との相関関係を示した説明図である。最終的な強化条件テーブルを生成するため、Liイオン濃度、浸漬時間、温度を許容範囲内でシフトさせて可能な限り多くのサンプルをとることで、より精度の高い強化条件テーブルを生成できる。そして、強化条件テーブルとして利用するときには、まず、化学強化処理条件で一定のものを挙げ(図13においては浸漬時間と温度)、その化学強化処理条件に対応付けられたデータのみを抽出する。例えば、図14において浸漬時間180min、温度350℃の化学強化処理条件のみを抽出すると、図13の強化条件テーブルが生成される。他の化学強化処理条件を調整する場合も相関関係を示す図14のテーブルから同様の抽出処理によって強化条件テーブルを生成できる。
【0087】
(磁気ディスク用ガラス基板の製造方法)
また、上述した磁気ディスク用ガラス基板の製造システムを用いて磁気ディスク用ガラス基板の製造方法も提供される。かかる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、上述した内周加工工程の加工量を調整する工程に、ガラス基板102の内径を測定する内径測定工程と、測定された内径と化学強化工程後に所望する内径との差分に基づいて、化学強化工程の化学強化処理条件を決定する化学強化処理条件決定工程と、をさらに含み、化学強化工程では、決定された化学強化処理条件に基づいてガラス基板102を化学強化する。
【0088】
以上説明した、化学強化工程における化学強化処理条件の調整を内周加工工程の加工量の調整に加えると、化学強化処理前のガラス基板102の内径が予め決められている設計値よりもずれていたとしても、変化量を調整することで最終的なガラス基板102の内径を所望の値に形成でき、さらに内径寸法誤差の小さい磁気ディスク用ガラス基板を製造することが可能となる。
【0089】
((B)ガラス基板と化学強化処理槽との組合せ調整)
図15は、ガラス基板と化学強化処理槽との組合せ調整を示す磁気ディスク用ガラス基板の製造システム300を示した機能ブロック図である。ここでは、理解を容易にするため、既に詳細に説明した内周加工工程の加工量の調整を省略し、ガラス基板と化学強化処理槽との組合せ調整のみに着目して説明する。かかる図15の磁気ディスク用ガラス基板の製造システム300は、上述した磁気ディスク用ガラス基板の製造システム100にさらに、組合せ決定装置310を含んで構成されている。上述した内周端面研削装置110と、内周端面研磨装置120と、化学強化処理槽130と、把握装置140と、メモリ150と、内径測定装置210とは、実質的に機能が同一なので重複説明を省略し、ここでは、構成が相違する組合せ決定装置310を主に説明する。
【0090】
ここでは、化学強化工程を行う上での大きく3つの状況を想定する。即ち、(ア)ガラス基板1枚を化学強化するのに最適な化学強化処理槽130を複数の化学強化処理槽130から選択する状況、(イ)一つの化学強化処理槽130で化学強化工程を行うのに最適なガラス基板102を複数のガラス基板102から選択する状況、(ウ)複数のガラス基板102と複数の化学強化処理槽130とを組合せる状況である。ここで示すガラス基板1枚は、同時に化学強化される同一のガラス基板ホルダに収容される複数のガラス基板の概念を含む。従って、複数のガラス基板102は、同時に化学強化される複数枚のガラス基板のグループがさらに複数のラインに配されている状態を示している。
【0091】
上記組合せ決定装置310は、(ア)の状況において、把握装置140によって把握された変化量に基づいて、内径測定装置210で内径が測定されたガラス基板102の化学強化工程後の内径が所望する値になるように、化学強化を行う化学強化処理槽130を決定する。また、(イ)の状況においては、変化量に基づいて、化学強化工程後の内径が所望する値になるように、化学強化工程を実行するガラス基板102を決定し、(ウ)の状況において、変化量に基づいて、内径が測定された複数のガラス基板102の化学強化工程後の内径が所望する値になるように、化学強化を行う化学強化処理槽130をそれぞれ決定する。
【0092】
いずれの状況においても、最終的に所望する内径のガラス基板102を得るため、ガラス基板102と化学強化処理槽130との最適な組合せが選択される。従って、化学強化工程前におけるガラス基板102の内径が変化する場合においても、また、化学強化処理槽130内の化学強化処理液の化学強化処理条件が経時によって変化する場合においても、結果的に内径(ID)寸法誤差の小さい磁気ディスク用ガラス基板を製造することが可能となる。
【0093】
また、このような組合せにおいて、組合せ決定装置310は、ガラス基板102と化学強化処理槽130とを仮に組合せた場合の各組合せの最終予想内径と、内径の所望の値との差分の2乗和が最小になるように、化学強化を行う化学強化処理槽130をそれぞれ決定してもよい。測定された内径と変化量との各組合せと、内径の所望の値との差分の2乗和が最小になるように、化学強化を行う化学強化処理槽130をそれぞれ決定してもよい。
【0094】
図16は、組合せ決定装置310による組合せ決定工程を説明するための説明図である。例えば、内径測定装置210が3つのラインにおける3枚のガラス基板A、B、Cの内径を測定し、その内径がそれぞれ20.003mm、20.006mm、20.009mmであった場合に、把握装置140が3つの化学強化処理槽D、E、Fの変化量を10μm、7μm、3μmと推測したとする。最終的な内径の所望値が20.000mmの場合だと、ガラス基板と化学強化処理槽との組合せをA−F、B−E、C−Dとすると、差分の2乗和は最小値の2μmとなる。
【0095】
かかるガラス基板102と化学強化処理槽130との組合せは、一つの組合せがよかったとしても、その他の組合せを含む全体的な組合せが最適であるとは限らない。従って、最小2乗法を利用する上記の構成により、全体的な内径寸法誤差をさらに小さくすることが可能となる。
【0096】
(磁気ディスク用ガラス基板の製造方法)
また、上述した磁気ディスク用ガラス基板の製造システム300を用いて磁気ディスク用ガラス基板の製造方法も提供される。かかる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、上述した内周加工工程の加工量を調整する工程に、変化量に基づいて、内径が測定された複数のガラス基板102の化学強化工程後の内径が所望する値になるように、化学強化を行う化学強化処理槽130をそれぞれ決定する組合せ決定工程をさらに含み、化学強化工程では、複数のガラス基板102を決定されたそれぞれの化学強化処理槽130で化学強化する。
【0097】
かかるガラス基板と化学強化処理槽との組合せ調整を内周加工工程の加工量の調整に加え、ガラス基板102と化学強化処理槽130とを所定の内径となるように組合せることで、磁気ディスク用ガラス基板の内径寸法誤差をさらに小さくすることが可能となる。
【0098】
以下、上述した実施形態の具体的な実施例を説明する。本実施例においては、以下の工程を経て、磁気ディスク用ガラス基板および磁気ディスクを製造した。
【0099】
(1)形状加工工程及び第1ラッピング工程
まず、溶融させたアルミノシリケートガラスを上型、下型、胴型を用いたダイレクトプレスによりディスク形状に成型し、アモルファスの板状ガラスを得た。なお、アルミノシリケートガラスとしては、化学強化用のガラスを使用した。ダイレクトプレス以外に、フュージョン法、ダウンドロー法やフロート法で形成したシートガラスから研削砥石で切り出して円盤状の磁気ディスク用ガラス基板を得てもよい。なお、アルミノシリケートガラスとしては、SiO2:58〜75重量%、Al2O3:5〜23重量%、Li2O:3〜10重量%、Na2O:4〜13重量%を主成分として含有する化学強化ガラスを使用した。また、上記アルミノシリケートガラス以外にもソーダライムガラス等を用いることもできる。
【0100】
次に、この板状ガラスの両主表面をラッピング加工し、ディスク状のガラス母材とした。このラッピング加工は、遊星歯車機構を利用した両面ラッピング装置により、アルミナ系遊離砥粒を用いて行った。具体的には、板状ガラスの両面に上下からラップ定盤を押圧させ、遊離砥粒を含む研削液を板状ガラスの主表面上に供給し、これらを相対的に移動させてラッピング加工を行った。このラッピング加工により、平坦な主表面を有するガラス母材を得た。
【0101】
(2)切り出し工程(コアリング、フォーミング)
次に、ダイヤモンドカッタを用いてガラス母材を切断し、このガラス母材から、円盤状のガラス基板を切り出した。次に、円筒状のダイヤモンドドリルを用いて、このガラス基板の中心部に円孔を形成し、ドーナツ状のガラス基板とした(コアリング)。
【0102】
(3)端面研削工程
そして内周端面および外周端面をダイヤモンド砥石によって研削し、所定の面取り加工を施した(フォーミング)。
【0103】
(4)第2ラッピング工程
次に、得られたガラス基板の両主表面について、第1ラッピング工程と同様に、第2ラッピング加工を行った。この第2ラッピング工程を行うことにより、前工程である切り出し工程や端面研磨工程において主表面に形成された微細な凹凸形状を予め除去しておくことができ、後続の主表面に対する研磨工程を短時間で完了させることができるようになる。
【0104】
(5)端面研磨工程
次に、ガラス基板の端面について、ブラシ研磨方法により、鏡面研磨を行った。このとき、研磨砥粒としては、酸化セリウム砥粒を含むスラリー(遊離砥粒)を用いた。この端面研磨工程により、ガラス基板の端面は、パーティクル等の発塵を防止できる鏡面状態に加工された。
【0105】
(6)主表面研磨工程
主表面研磨工程として、まず第1研磨工程を施した。この第1研磨工程は、前述のラッピング工程において主表面に残留したキズや歪みの除去を主たる目的とするものである。この第1研磨工程においては、遊星歯車機構を有する両面研磨装置により、硬質樹脂ポリッシャを用いて、主表面の研磨を行った。研磨液としては、酸化セリウム砥粒を用いた。
【0106】
この第1研磨工程を終えたガラス基板を、中性洗剤、純水、IPA(イソプロピルアルコール)の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄した。
【0107】
次に、主表面研磨工程として、第2研磨工程を施した。この第2研磨工程は、主表面を鏡面状に仕上げることを目的とする。この第2研磨工程においては、遊星歯車機構を有する両面研磨装置により、軟質発泡樹脂ポリッシャを用いて、主表面の鏡面研磨を行った。研磨液としては、第1研磨工程で用いた酸化セリウム砥粒よりも微細な酸化セリウム砥粒を用いた。
【0108】
この第2研磨工程を終えたガラス基板を、中性洗剤、純水、IPA(イソプロピルアルコール)の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄した。なお、各洗浄槽には、超音波を印加した。
【0109】
(7)化学強化工程および冷却工程
次に、前述のラッピング工程及び研磨工程を終えたガラス基板に、化学強化を施した。化学強化工程を行うことにより、磁気ディスク基板の表層部に高い圧縮応力を生じさせることができ、耐衝撃性を向上させることができる。
【0110】
化学強化は、硝酸カリウム(60%)と硝酸ナトリウム(40%)を混合した化学強化溶液を準備し、この化学強化溶液を400°Cに加熱しておくとともに、洗浄済みのガラス基板を300°Cに予熱し、化学強化溶液中に約3時間浸漬することによって行った。
【0111】
このように、化学強化溶液に浸漬処理することによって、ガラス基板の表層のLiイオン及びナトリウムイオンが、化学強化溶液中のナトリウムイオン及びカリウムイオンにそれぞれ置換され、ガラス基板が強化される。このときのガラス基板の内径における圧縮応力層の厚さは、約100μm〜200μmであり、変化量は15μm以下であった。実施形態に記載した技術を当該実施例に採用して歩留まりを大きく向上することができた。
【0112】
[実施例]
化学強化工程における変化量を把握して、前段の端面研削工程や端面研磨工程(内周加工工程)にフィードバックすると、フィードバックしない場合と比較して、以下のような結果、即ち目標値に入っている割合を得ることができた。ただし、ガラス基板のサンプル数は10,000枚であり、表中の目標値は、内径20.0±0.05mmである。
【表1】

以上のように、歩留まりが著しく向上することが理解できる。
【0113】
続いて、化学強化工程を終えたガラス基板を、20°Cの水槽に浸漬して冷却し、約10分間維持した。そして、冷却を終えたガラス基板を、約40°Cに加熱した濃硫酸に浸漬して洗浄を行った。さらに、硫酸洗浄を終えたガラス基板を、純水、IPA(イソプロピルアルコール)の各洗浄槽に順次浸漬して洗浄した。なお、各洗浄槽には超音波を印加した。
【0114】
上記の如く、第1ラッピング工程、切り出し工程、第2ラッピング工程、端面研磨工程、主表面研磨工程、化学強化工程、冷却工程を施すことにより、平坦、かつ、平滑な、高剛性の磁気ディスク用ガラス基板を得た。
【0115】
(8)精密洗浄工程
次に、テクスチャーを形成した磁気ディスク用ガラス基板の精密洗浄を行った。これはヘッドクラッシュやサーマルアスペリティ障害の原因となる研磨剤残渣や外来の鉄系コンタミなどを除去し、表面が平滑で清浄なガラス基板を得るためのものである。精密洗浄工程としては、アルカリ性水溶液による洗浄の後に、水リンス洗浄、IPA洗浄工程を行った。
【0116】
(9)磁気ディスク製造工程
上述した工程を経て得られたガラス基板の両面に、ガラス基板の表面にCr合金からなる付着層、CoTaZr基合金からなる軟磁性層、Ruからなる下地層、CoCrPt基合金からなる垂直磁気記録層、水素化炭素からなる保護層、パーフルオロポリエーテルからなる潤滑層を順次成膜することにより、垂直磁気記録ディスクを製造した。なお、本構成は垂直磁気ディスクの構成の一例であるが、面内磁気ディスクとして磁性層等を構成してもよい。
【0117】
得られた磁気ディスクについて異物により磁性層等の膜に欠陥が発生していないことを確認した。また、グライドテストを実施したところ、ヒット(ヘッドが磁気ディスク表面の突起にかすること)やクラッシュ(ヘッドが磁気ディスク表面の突起に衝突すること)は認められなかった。さらに、磁気抵抗型ヘッドで再生試験を行ったところ、サーマルアスペリティによる再生の誤動作は認められなかった。
【0118】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、ガラス基板の一部をイオン交換して化学強化を行う化学強化工程を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、磁気ディスクの製造方法、磁気ディスク、および磁気ディスク用ガラス基板の製造システムに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】磁気ディスク用ガラス基板の製造システムを示した機能ブロック図である。
【図2】内周端面研削装置の研削工程を説明するための説明図である。
【図3】内周端面研磨装置の構成を説明するための縦断面図である。
【図4】ガラス基板の化学強化処理液への浸漬を説明するための説明図である。
【図5】化学強化処理による内径寸法誤差の変化例を示した説明図である。
【図6】把握装置がガラス基板の内径の変化量を実際に測定する方法によって変化量を把握する場合の概略を示した機能ブロック図である。
【図7】Liイオンの濃度(ppm)と変化量(μm)との相関を示した相関図である。
【図8】図7のLiイオンの濃度(ppm)と変化量(μm)との相関をテーブル化した変化量テーブルの例を示した説明図である。
【図9】変化量を内周端面研削工程および内周端面研磨工程の両工程に分担してフィードバックする場合の加工量(研削量と研磨量)を示したテーブルである。
【図10】変化量を内周端面研削工程の研削量のみでフィードバックする場合の加工量テーブルである。
【図11】変化量テーブルと加工量テーブルを合わせたテーブルである。
【図12】磁気ディスク用ガラス基板の製造システムを示した機能ブロック図である
【図13】差分(μm)とLiイオンの濃度(ppm)との相関をテーブル化した強化条件テーブルの例を示した説明図である。
【図14】Liイオン濃度、浸漬時間、温度と、その化学強化処理条件における変化量との相関関係を示した説明図である。
【図15】磁気ディスク用ガラス基板の製造システムを示した機能ブロック図である。
【図16】組合せ決定装置による組合せ決定工程を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0121】
100、200、300 磁気ディスク用ガラス基板の製造システム
102 ガラス基板
110 内周端面研削装置
112 円孔
114 内周端面
120 内周端面研磨装置
130 化学強化処理槽
140 把握装置
160 研削量決定装置
170 研磨量決定装置
210 内径測定装置
220 強化条件決定装置
310 組合せ決定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心に円孔が形成された円板状のガラス基板の内周端面を加工する内周加工工程と、
前記ガラス基板を化学強化処理液に接触させることにより、該ガラス基板中に含まれる一部のイオンを該化学強化処理液中のイオンに置換して該ガラス基板を化学強化する化学強化工程と、を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
前記化学強化工程によるガラス基板の内径の変形を把握する把握工程をさらに含み、
前記内周加工工程では、前記把握工程の把握結果に基づいて、次の化学強化工程後の内径が所望の形状となるように、ガラス基板の内周端面を加工することを特徴とする、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
中心に円孔が形成された円板状のガラス基板の内周端面を加工する内周加工工程と、
前記ガラス基板を化学強化処理液に接触させることにより、該ガラス基板中に含まれる一部のイオンを該化学強化処理液中のイオンに置換して該ガラス基板を化学強化する化学強化工程と、を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
前記化学強化工程によって変形するガラス基板の内径の変化量を把握する把握工程と、
前記把握工程の把握結果に基づいて、次の化学強化工程後のガラス基板の内径が所望の値となるように、ガラス基板の内径の加工量を決定する加工量決定工程と、をさらに含み、
前記内周加工工程では、前記加工量に基づいてガラス基板の内周端面を加工することを特徴とする、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記内周加工工程には、内周端面を研削加工する内周端面研削工程と、内周端面を研磨加工する内周端面研磨工程とが含まれ、前記把握工程の把握結果の反映は、該内周端面研削工程および該内周端面研磨工程のいずれか一方または両方で実行されることを特徴とする、請求項1または2に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記把握工程は、前記化学強化工程の前後における前記ガラス基板の内径の差分から変化量を把握することを特徴とする、請求項2に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記把握工程は、前記化学強化処理液に含まれる特定の成分の濃度に基づいて変化量を把握することを特徴とする、請求項2に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項6】
前記ガラス基板は、Liイオンを含むアルミノシリケートガラスで形成され、
前記特定の成分は、Liイオンであることを特徴とする、請求項5に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項7】
前記把握工程では、前記特定の成分の濃度と前記変化量とが対応付けられた変化量テーブルを用いて変化量を把握することを特徴とする、請求項5または6に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項8】
当該磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により得られたガラス基板の表面に、少なくとも磁性層を形成する工程を含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の磁気ディスクの製造方法。
【請求項9】
当該磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により得られたガラス基板の表面に、少なくとも磁性層を形成した磁気ディスクであって、磁気記録媒体として用いられることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の磁気ディスク。
【請求項10】
中心に円孔が形成された円板状のガラス基板の内周端面を加工する内周加工装置と、
前記ガラス基板を化学強化処理液に接触させることにより、該ガラス基板中に含まれる一部のイオンを該化学強化処理液中のイオンに置換して該ガラス基板を化学強化する化学強化処理槽と、を備える磁気ディスク用ガラス基板の製造システムであって、
前記化学強化処理槽によって変形するガラス基板の内径の変化量を把握する把握装置と、
前記把握装置による把握結果に基づいて、前記化学強化処理槽による次の化学強化後のガラス基板の内径が所望の値となるように、ガラス基板の内径の加工量を決定する加工量決定装置と、をさらに備え、
前記内周加工装置は、前記加工量に基づいてガラス基板の内周端面を加工することを特徴とする、磁気ディスク用ガラス基板の製造システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−189479(P2008−189479A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−22418(P2007−22418)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【出願人】(503069159)ホーヤ ガラスディスク タイランド リミテッド (85)
【Fターム(参考)】