説明

磁界センサ

【課題】 調整可能なグラフェンを用いた磁界センサを提供する。
【解決手段】 グラフェンセンス層を採用する磁界センサであって、センス層内を移動する電荷キャリアに作用するローレンツ力が、グラフェン層内を移動する電荷キャリアの経路に変化をもたらす。磁界の存在を示すこの経路の変化を検出することができる。センサは、非磁性の電気的絶縁材料によってグラフェン層から分離される1つまたは複数のゲート電極を含む。ゲート電極へのゲート電圧の印加により、グラフェン層の電気抵抗が変化し、このゲート電圧の印加を用いて、センサの感度および速度を制御することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して磁界センサに関し、特に、グラフェン層を採用する調整可能な磁界センサに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気抵抗センサは、磁気ディスクドライブシステム等のデータ記録システムでの使用を含む、種々の応用で使用されてきた。従来、磁気ディスクドライブ等の応用で磁界を検出するために、巨大磁気抵抗センサ(GMR)、異方磁気抵抗センサ(AMR)およびトンネル接合センサ(TMR)等のセンサが使用されてきた。しかしながら、こうしたセンサには、磁気ディスクドライブシステムにおいてナノスケールの高密度ビットを読み取るため等、極めて小さいサイズでそれらを使用することを妨げる、固有の限界がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
AMR、GMRまたはTMR磁気抵抗センサに基づく現行の技術では、強磁性センス層における磁化方向の熱ゆらぎと、センササイズが低減するに従って増大するスピン・トルクの不安定性とが起こりやすく、その結果、信号対雑音比が低下する。さらに、測定されるべき磁気ビットのサイズが低減するに従い、高感度を維持するために、センサの厚さを低減し磁石から離れることが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、磁界センサ層としてグラフェン層を採用する調整可能な磁界センサを提供する。センス電流をグラフェン層内に注入し、外部磁界励起に応答して電圧の変化を検出することができるように、グラフェン層に複数の電極が接続される。ゲート電極が、グラフェン層から非磁性の電気的絶縁材料によって分離される。
【0005】
センサはローレンツ磁気抵抗センサであり、磁界の存在が、ローレンツ力を介してグラフェン層内を移動する電荷キャリアの経路を変化させる。ゲート電極にゲート電圧を印加することにより、グラフェン層の抵抗が変化し、センサが製造された後であっても、センサの速度および感度を調整することができる。これにより、有利に、製造偏差および変動によって、センサが所望の設計仕様外になった場合であっても、センサを設計パラメータ内に適合させることができる。
【0006】
センサは1つのゲート電極を有することができ、それは、グラフェン層の上部(すなわち、グラフェン層とセンサ表面との間)であってもよく、またはグラフェン層の下部(グラフェン層がゲート電極とセンサ表面との間であるように)であってもよい。センサはまた、一対のゲート電極を有することも可能であり、グラフェン層はそれらゲート電極の間にある。
【0007】
ゲート電極の存在は、有利な調整機構を提供するだけでなく、グラフェン層に対する静電遮蔽も提供する。この遮蔽は、特に、外部電界がセンサの応答に影響を与えないようにするために有益であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明による磁界センサを使用することができる磁気データ記録装置の概略図である。
【図2】センス層がセンサ面の0〜30nm下に位置する場合に、磁界が磁気抵抗デバイスの本体内でいかに低減するかと、いくつかの異なるセンス層における磁界とを示す図である。
【図3】本発明の実施形態による磁界センサを示す側断面図である。
【図4】本発明の別の実施形態による磁界センサを示す平面図である。
【図5】本発明のさらに別の実施形態による磁界センサを示す平面図である。
【図6】輸送が、電子によって支配されるか、正孔によって支配されるか、または両方が存在するディラックポイント近くの領域であるように、デバイスがゲート制御される場合の、本発明によるセンサの磁界に対する応答を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下は、本発明を実施するために目下考えられる最良の実施形態の説明である。この説明は、本発明の概略的な原理を説明することを目的とするものであり、特許請求の範囲に記載されている発明の概念を限定するように意図されてはいない。
【0010】
ここで図1を参照すると、本発明を具現化するディスクドライブ100が示されている。図1に示すように、少なくとも1つの回転可能な磁気ディスク112がスピンドル114の上に支持されており、ドライブモータ118によって回転する。各ディスクへの磁気記録は、磁気ディスク112上の同心データトラック(図示せず)の環状パターンの形態である。
【0011】
磁気ディスク112の近くに少なくとも1つのスライダ113が配置されており、各スライダ113は、1つまたは複数の磁気ヘッドアセンブリ121を支持している。磁気ディスク112が回転すると、スライダ113は、ディスク表面122の上で半径方向を内外に移動し、それにより、磁気ヘッドアセンブリ121が、所望のデータが書き込まれている磁気ディスク112の種々のトラックにアクセスすることができる。各スライダ113は、サスペンション115によってアクチュエータアーム119に取り付けられている。サスペンション115は、スライダ113をディスク表面122に付勢するわずかなばね力を提供する。各アクチュエータアーム119は、アクチュエータ手段127に取り付けられている。図1に示すアクチュエータ手段127は、ボイスコイルモータ(VCM)であってもよい。VCMは、固定磁界内で移動可能なコイルを備えており、コイル移動の方向および速度は、制御ユニット129によって提供されるモータ電流信号によって制御される。
【0012】
ディスク記憶システムの動作中、磁気ディスク112の回転により、スライダ113とディスク表面122との間に空気軸受が発生し、それはスライダ113に対して上方の力または揚力を加える。したがって、空気軸受は、サスペンション115のわずかなばね力と平衡し、通常動作中、スライダ113を、わずかな実質的に一定の間隔でディスク表面122から離れるようにかつわずか上方に支持する。
【0013】
ディスク記憶システムのさまざまな構成部品は、動作時、アクセス制御信号および内部クロック信号等、制御ユニット129が生成する制御信号によって制御される。通常、制御ユニット129は、論理制御回路、記憶手段およびマイクロプロセッサを備えている。制御ユニット129は、ライン123上のドライブモータ制御信号およびライン128上のヘッド位置およびシーク制御信号等、さまざまなシステム動作を制御する制御信号を生成する。ライン128上の制御信号は、スライダ113を磁気ディスク112上の所望のデータトラックに最適に移動させかつ位置決めするための所望の電流プロファイルを提供する。記録チャネル125により、書込み信号および読取り信号が、磁気ヘッドアセンブリ121にかつ磁気ヘッドアセンブリ121から通信される。
【0014】
上述した磁気データ記録システムは、本発明による磁界センサを採用することができる環境の実例を提供する。しかしながら、これは単に例としてのものであり、本発明による磁界センサを、種々の他の応用および環境のいずれにおいても同様に使用することができることは明らかなはずである。
【0015】
本発明によれば、ローレンツ力に基づく磁気センサにおいて、グラフェンの単一または複数のシートを伝導チャネルとして用いる。グラフェンの使用により、半導体に基づく量子井戸構造を採用するもの等、他の先に提案されているローレンツ磁界センサと比較して、明確な利点が提供される。これら従来技術による量子井戸構造では、デバイスが適切に動作するために必要な輸送特性を生成するために、磁気活性層(量子井戸)が、デバイスの表面からかなりの距離に配置されることが必要である。通常、従来技術によるデバイスは、分子線エピタキシー法により、エピタキシャル成長を採用する半導体へテロ構造で形成される2次元電子ガス(2DEG)に基づく。必要な高度なエピタキシーをもたらすためには、2DEGの下に絶縁材料からなる厚いバッファ層を形成する必要がある。これにより、2DEGの下のゲートの挿入が妨げられ、デバイスの制御がより困難になり、ゲートをデバイスの上方に配置することが必要になる。対照的に、後述するように、グラフェンセンス層の下方では、金属または他の導電層を容易に配置することができる。
【0016】
磁気走査および磁気記録の応用では、センサの横方向分解能が低下しないように、センス層を表面に十分に近接して配置しなければならない。解析されるべき磁気的特徴が横方向間隔dだけ離隔している場合、センス層は、特徴の位置を適切に解析するために約d/2を超えることはできない。したがって、ビットの横方向の間隔が約20nmである、1Tb/inを上回る将来の磁気記録応用では、センス層の表面からの距離は10nm以下である必要がある。図2において分かるように、通常の2DEG構造は、およそ>15nmのバリア層およびキャップ層を必要とし、したがって、約30nmより近い磁気的特徴を解析するのには適していない。
【0017】
局所的な磁界の検出に対するさらなる制約は、磁気媒体の表面上の磁界の低減であり、それをスペーシングロスと呼ぶ。磁気記録媒体上に書き込まれているビットからの磁界は、h=d/π(dは隣接するビットの間隔である)という固有長さでおよそ指数関数的に減衰する。したがって、媒体の表面における磁界の36%でも維持するためには、センサを表面からd/π以下、d=20nmである場合は表面から約7nm以下に配置する可能性がある。
【0018】
さらに、d/πの磁界の減衰が非常に急速であるため、チャネルが10〜12nm厚さであるために、典型的な2DEG自体の中で、磁界は著しく低減する。これにより、平均磁界が、2DEGの表面における磁界よりはるかに小さいため、デバイスの感度がさらに低下する。
【0019】
図2は、特定の例として、従来技術によるデバイスを使用する欠点と、代りにグラフェンを使用する利点とを示す。グラフは、20nm離隔したビットのアレイによってもたらされる磁界がセンサの表面からいかに減衰するかを示している。磁界強度は急速に減衰し、10nmの深さにおける磁界は、センサの表面の磁界のわずかに約20%である。また、3つの異なるセンス層を配置することができる深さと、各センス層に対するセンス層厚さ内の磁界および磁界の範囲とを示す、3つの矩形も示している。2DEG構造の場合、深さを確定するためにキャップ層、バリアおよびライナを含めなければならない。さらに、この例では、後述するように、各センサに対し2nmのトップゲートも含まれている。典型的な2DEG深さ(Nguyen,Cら、APL、60、1854、1992)である表面から20nmに位置するInAs2DEGセンス層の場合、センス層の頂部における磁界は、センサの表面の磁界のわずかに約3%まで低減し、センス層の底部では約1%まで低下する(図2のセンス層Aを参照)。これにより、センス層が表面により近いセンサと比較して性能が不十分であることが明らかである。2DEGの頂部を表面から8nmまで移動することにより、センス層の頂部の磁界が表面の約30%であるように状況が改善されるが、2DEG層が厚いため、底部における磁界は5%未満であり、そのため平均で磁界が、表面の値のわずか22%のままである(図2のセンス層Bを参照)。必要なのは、薄く、かつデバイス表面にまたはその近くに配置することができるセンス層である。第3センス層、すなわち図2において層Cとして示すグラフェンは、これら条件を満足させる。この所定の例では、3つのグラフェン層に対応する1nmの厚さがセンス層を構成する。ここではまた、センス層は、その頂面が表面から4nmであるように、センス層はトップゲートの2nm下であり絶縁体の2nm下であるものと仮定する。その頂部における磁界強度は表面の56%であり、その厚さにわたる変化は8%未満である。厚さがわずかに約0.3nmである単一グラフェンシートにわたり、磁界はごくわずかな量しか変化しない。さらに、センス層を表面により近接して、場合によっては表面に配置することができる。全体として、グラフェンの使用により、ナノスケールで変化する磁界の測定に必要な領域の多くにおいて、大幅な改善が可能となる。
【0020】
図3は、本発明のあり得る実施形態による断面図を示す。センサ200は、第1電極202および第2電極204と、nグラフェン層を形成し電極202、204の間にわたるグラフェンの1つまたは複数のシート206とを有している。nグラフェン層とは、単層グラフェンのn枚のシートを含む層を意味する。電極202、204およびnグラフェン層206を、輸送に有害な荷電不純物の影響を遮断するために絶縁層208、好ましくは高k誘電体の中に埋め込むことができる。これらには、限定されないが、HfO、Al、Si、Y、Pr、Gd、La、TiO、ZrO、AlN、BN、SiC、Ta、SrTiO、BaxSr1−xTiO、PbxZr1−xTiOがある。センサ200は、ボトムゲート電極210およびトップゲート電極212の一方または両方も含むことができ、それらの機能については後により詳細に説明する。センサ200を、基板214の上に形成することができ、基板214は、たとえば、図1を参照して説明したスライダ113のスライダ本体であってもよく、または他の応用によっては他の何らかの基板であってもよい。さらに、センサ200の層を損傷および腐食から保護するために、センサ200の頂部の上にアルミナまたは炭素等の保護層216を設けることができる。保護層216の上面は、磁界センサの上面であり、磁気データ記録システムで用いられるセンサの場合、磁気ディスク112(図1)に面する面である。第1電極および第2電極、ならびにトップゲート電極およびボトムゲート電極を、限定されないがCuまたはAuまたはPd、およびマイクロエレクトロニクス業界で採用される多層かつ合金コンタクト等、非磁性の導電性材料から構成することができる。
【0021】
上述したように、保護層206はnグラフェンから構成される。グラフェンは、ハニカム格子に配置されるグラファイト炭素原子の単一原子シートである。それを、巨大な2次元フラーレン原子、展開された単層カーボンナノチューブ、または単に単層の層状グラファイト結晶として見ることができる。室温で200,000cm/Vsほどに高い電荷キャリア移動度値が達成可能である(Morozovら、PRL10、016602、2008)。グラフェンはまた、電気抵抗(または電荷キャリアの移動度)を、ゲート電極210、212の一方または両方からの電圧等、ゲート電圧の印加によって制御することができるという有利な特性も有している。この特徴については、図4〜図6を参照して説明する磁界センサのさまざまなあり得る実施形態の概略的な動作をさらに説明した後に、より詳細に後述する。
【0022】
ここで図4を参照すると、本発明を、ホールクロス(Hall cross)構造として形成された磁界センサ500で具現化することも可能である。したがって、このセンサ500は、磁気活性層として作用する、中心に配置されたnグラフェン層502を含む。nグラフェン層502を、図示するようにクロスとして形成することができるが、読み出される磁気ビットまたは磁界の形状に応じて、円形、楕円形等、他の形状でもあり得る。構造はまた、第1電流リード電極504、第2電流リード電極506も含み、それらは、nグラフェン層の対向する縁に接続されかつそこから延在している。したがって、電流リード電極504、506は、nグラフェン層502を横切って互いに対向している。センサ500はまた、第1電圧リード電極512および第2電圧リード電極514も含み、それらは、nグラフェン層502の電流リード電極504および506の間に接続されかつそこから延在しており、互いに対向する位置にある。層502、504、506、514、512を、輸送に有害な荷電不純物の影響を遮蔽するために、高k誘電体等の非磁性の電気的絶縁材料520に埋め込むことができる。これらには、限定されないが、HfO、Al、Si、Y、Pr、Gd、La、TiO、ZrO、AlN、BN、SiC、Ta、SrTiO、BaxSr1−xTiO、PbxZr1−xTiOがある。
【0023】
電流リード電極504、506を用いて、nグラフェン層502に電荷キャリアを注入することができる。上述したように、これら電荷キャリアは電子または正孔であり得る。磁界がない場合、電荷キャリアは、nグラフェン層502を通って、一方の電流リード電極504から他方の電流リード電極506まで主に直線状に移動する。しかしながら、層502、504、506、512、514の面に対して垂直に向いた磁界Hがある場合、電荷キャリアは、上述したようなローレンツ力によって偏向される。電荷キャリアは、概して、電圧リード電極の一方512に向かってかつ対向する電圧リード電極514から離れる方向に偏向される。電荷キャリアのすべてが一方の電圧リード電極512に偏向されるとは限らないが、磁界の存在により、電圧リード電極の一方512に他方514より正味より大量の電荷キャリアが入る。これにより、電圧リード電極512、514の相対的な電位に正味の差があることになる。この正味の電圧差を検出することにより、磁界Hの存在を確定することができる。
【0024】
ここで図5を参照して、異常磁気抵抗センサ(T.D.Booneら、IEEE Electron Device Let.30、117(2009)参照)と呼ばれる磁界センサ600のさらに別の実施形態について説明する。磁界センサ600は、対向する第1縁604および第2縁606を有するnグラフェン層602を含む。第1電流リード608および第2電流リード610が、nグラフェン層602の第1縁604に接続されている。さらに、第1電圧リード612および第2電圧リード614もまた、nグラフェン層602の第1側に接続されている。第1電流リード608および第2電流リード610と第1電圧リード612および第2電圧リード614を、AuまたはCuまたはPd、およびマイクロエレクトロニクス業界で採用される多層かつ合金コンタクト等、導電性材料から構成することができる。図5に示す実施形態では、リード608、612、610および614は、IVIV配置で配置されており、電圧リードが電流リードの一方のいずれかの側に位置している。しかしながら、リードの他の配置および数が同様に可能であり、本発明は、図示するリードの数および配置に限定される必要はない。
【0025】
導電性分路構造616が、nグラフェン層602の第2縁606に接している。分路構造を、CuまたはAuまたはPd、およびマイクロエレクトロニクス業界で採用される多層かつ合金コンタクト等、非磁性の導電性材料から構成することができ、そのページの面に入る厚さは、必要に応じて、nグラフェン層602(上述したように1個または数個の原子分の厚さでしかない)の厚さよりはるかに大きいことが可能である。したがって、分路構造616は、グラフェン層602より電気抵抗がはるかに低い。層602、616およびリード608、610、612、614を、輸送に有害な荷電不純物の影響を遮断するために、高k誘電体等の非磁性の電気的絶縁層618の中に埋め込むことができる。これらには、限定されないが、HfO、Al、Si、Y、Pr、Gd、La、TiO、ZrO、AlN、BN、SiC、Ta、SrTiO、BaxSr−xTiO、PbxZr−xTiOがある。
【0026】
動作中、電流は、電流リード608、610によってグラフェン層602内に注入される。磁界がない場合、電荷キャリア(電子または正孔)の大部分は、破線620によって示す経路を辿って、nグラフェン層602を通ってより抵抗の低い分路構造616に入る。しかしながら、層602、616の面に対して垂直に向いた磁界Hが存在する場合、電荷の多くが、ローレンツ力の結果としてnグラフェン層602内にかつ分路から離れる方向に偏向される。そして、電荷キャリアの一部が、線622によって表される経路を辿る。
【0027】
分路構造616と比較してnグラフェン層602の抵抗が高いため、電荷キャリアが経路622を辿る場合、電荷キャリアが経路620を辿る場合の抵抗に比較して、電荷キャリアの経路の電荷により、電圧リード612、614における電気抵抗が高くなる。リード614および612によって確定される領域内の外部磁界励起の存在を確定するために、電圧リード612、614においてこの電気抵抗の変化を測定することができる。米国特許第7,295,406号明細書に記載されているように、前記間隔が磁気センサデバイスの分解能を確定する。
【0028】
センサの磁気活性層としてnグラフェン層を使用して磁界抵抗器を構成するさまざまな構造について、図4〜図6を参照して上述した。再び図3を参照して、図4〜図6を参照して説明したもののような構造において磁気活性層としてグラフェン層を使用して、センサの性能を最適化する、新規な制御機能について説明する。図3を参照すると、センサ200が、下部すなわちボトムゲート電極210および上部すなわちトップゲート電極212を有することが分かり、それらを各々、上述したようにCuまたはAuまたはPd、およびマイクロエレクトロニクス業界で採用される多層かつ合金コンタクト等、非磁性の導電性材料から構成することができる。センサ200を、ゲート電極210、212の両方を有するように構成することができるが、ボトムゲート電極210のみ、またはトップゲート電極212のみを有するように構成することも可能であることが指摘されるべきである。
【0029】
ボトムゲート電極210のみを含むべきか、トップゲート電極212のみを含むべきか、または両ゲート電極を含むべきかの選択は、性能係数の平衡化を含む設計選択の問題である。たとえば、トップゲート電極212の存在により、グラフェン層と検出されるべき磁界源(データ記録システムの磁気媒体等)との間の間隔が増大する。一方で、トップゲート電極212の存在は、迷走電界(磁気媒体の表面から等)がnグラフェン層206に影響を与えないようにする遮蔽として作用することができる。
【0030】
ゲート電極210、212の1つまたは複数の使用を用いることにより、磁界センサ200の感度および抵抗を調整することができる。上述した磁界センサ実施形態等の極めて小さいナノスケールセンサでは、製造変動および偏差により、製造されたセンサの性能および抵抗が変動する。このセンサの調整機能により、製造されたすべてのセンサが、これら製造変動にも関わらず所望の設計感度および抵抗値を維持することができることが確実になる。
【0031】
グラフェンは、ゲート電圧を印加することにより、その抵抗または電荷キャリア移動度を制御可能に変更することができるという有利な特性を有している。ゲート電圧は、グラフェン層に接続されていないが、図3の層208等の誘電材料によってグラフェン層に隣接しかつグラフェン層から分離されている電極によって印加される。ゲート電極210、212の一方または両方に電圧を印加することにより、nグラフェン層206における電荷キャリア面密度の制御が可能になり、それは、検知回路の速度を確定するデバイス抵抗に影響を与える。ゲート電極210、212を用いることにより、サブミクロンサイズでデバイス毎に再現不可能である可能性のあるデバイス感度の制御も可能になる。
【0032】
グラフェンには、一意のゲート電圧によるキャリアの制御に関する別の有利な特性がある。ディラックポイントの周囲の電圧範囲において、電子および正孔の両方が同時に存在することができ、それによりローレンツ磁気抵抗器の新規な動作がもたらされる。ディラックポイントは、グラフェンのバンド構造においてバンドコーンが一点でぶつかる位置である。図6に、主に電子キャリアによる、主に正孔キャリアによる、および主に両方が存在する領域での伝導に対応する、種々の印加ゲート電圧の影響下での、EMRデバイスの磁界に対する応答を示す。このデバイスにおいて電子が伝導を支配する場合、外部磁界に対する応答は線形である。伝導が主に正孔による場合、磁界への応答は、電子伝導で得られる勾配と反対の勾配で線形である。したがって、磁界に対する応答を確認する一方法は、その磁界を正孔で測定しかつ電子で再び測定し、その差を比較するというものである。重要なのは、ディアック点の近くでは、正孔および電子両方が同時に存在し得る、ということである。この領域では、磁界への応答は、磁界に対して二次である。この二次応答を、非線形応答を必要とするかまたは磁界の絶対値のみを必要とするセンサに使用することができる。さらに、それを、周波数逓倍器として使用することができる。周波数fでの交流磁界は、デバイスから周波数2fで信号を発生し、それは信号検出および処理において有利である。
【0033】
ホールセンサおよびEMRセンサに加えて、いわゆる幾何学的磁気抵抗器(geometric magnetoresistor)(J.Heremans、J.Phys.D.Appl.Phys.26、1149(1993))等、nグラフェンを有する他のローレンツ磁気抵抗器を作成することができる。これらデバイスでは、ホール効果は、電流が流れる幅をデバイスの長さよりはるかに小さくすることにより最小化され、それにより、誘発される電界が最小化する。磁界において、キャリアは、電界に対するホール角で流れ、したがってセンサを通してより長い距離を移動し、その抵抗が増大する。表面に近接して配置される薄いセンサ層の使用を含む、グラフェンが提供する利点は、幾何学的磁気抵抗デバイスを改善する。
【0034】
したがって、本発明は、従来技術による構造と比較していくつかの利点を提供する。第1に、検知層(nグラフェン層206)を、優れた電荷キャリア移動度を有する一方で、極めて薄く(単一炭素原子ほどに小さく)することができる。第2に、検知層を、表面に極めて近接して配置することができる。第3に、センサの抵抗および速度を、ゲート電極(たとえば212または210)を使用することによって調整することができる。第4に、ゲート電極210、214は、検知層(nグラフェン層206)に対して電磁遮蔽を提供することができる。第5に、ボトムゲートの実装は、製造の簡単な部分であり、センサ成長の一部である必要はない。第6に、グラフェンを使用するセンス層を、電子キャリアおよび正孔キャリアの両方が存在するようにゲート制御することができ、応答を磁界における線形から磁界における二次に変更することができる。
【0035】
さまざまな実施形態について上述したが、それらは単に例として提示されたものであって、限定するものとして提示されていないことが理解されるべきである。本発明の範囲内にある他の実施形態もまた、当業者には明らかとなり得る。したがって、本発明の広さおよび範囲は、上述した例示的な実施形態のいずれによっても限定されるべきではなく、以下の特許請求の範囲およびそれらの均等物にのみ従って定義されるべきである。
【符号の説明】
【0036】
100 ディスクドライブ
112 磁気ディスク
113 スライダ
114 スピンドル
115 サスペンション
118 ドライブモータ
119 アクチュエータアーム
121 磁気ヘッドアセンブリ
122 ディスク表面
123 ライン
125 記録チャネル
127 アクチュエータ手段
128 ライン
129 制御ユニット
200 センサ
202 第1電極
204 第2電極
206 nグラフェン層
208 絶縁層
210 ボトムゲート電極
212 トップゲート電極
214 基板
216 保護層
500 磁界センサ
502 nグラフェン層
504 第1電流リード電極
506 第2電流リード電極
512 第1電圧リード電極
514 第2電圧リード電極
520 非磁性の電気的絶縁材料
600 磁界センサ
602 nグラフェン層
604 第1縁
606 第2縁
608 第1電流リード
610 第2電流リード
612 第1電圧リード
614 第2電圧リード
616 分路構造
618 非磁性の電気的絶縁層
620 経路
622 経路
H 磁界

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1または複数のグラフェンのシートを含むnグラフェン層と、
前記nグラフェン層に接続され、前記nグラフェン層に電流を供給し、かつ磁界の存在に応じた電圧変化の測定に使用される複数の電極と、
前記nグラフェン層から非磁性の電気的絶縁材料によって分離されたゲート電極と、
を備える磁界センサ。
【請求項2】
表面を有し、
前記ゲート電極は、前記nグラフェン層と前記表面との間に配置される請求項1に記載の磁界センサ。
【請求項3】
表面を有し、
前記ゲート電極は、前記nグラフェン層が前記ゲート電極と前記表面との間に配置されるように配置される請求項1に記載の磁界センサ。
【請求項4】
前記ゲート電極は第1ゲート電極であり、
第2ゲート電極をさらに備え、
前記第1ゲート電極および前記第2ゲート電極は、前記nグラフェン層の両側に、前記nグラフェン層を挟むように配置される請求項1に記載の磁界センサ。
【請求項5】
前記nグラフェン層は、単一のグラフェン層からなる請求項1に記載の磁界センサ。
【請求項6】
前記nグラフェン層は、複数のグラフェン層を含む請求項1に記載の磁界センサ。
【請求項7】
前記nグラフェン層は、1〜5層のグラフェン層を含む請求項1に記載の磁界センサ。
【請求項8】
前記電圧変化は、前記nグラフェン層の電荷キャリアに働くローレンツ力により起こる請求項1に記載の磁界センサ。
【請求項9】
前記nグラフェン層は、電気的絶縁性の非磁性材料の層の間に配置される請求項1に記載の磁界センサ。
【請求項10】
前記nグラフェン層は、第1縁と、前記第1縁とは反対側に設けられた第2縁と、を有し、
前記nグラフェン層の前記第1縁に接続された第1コンタクト電極と、
前記nグラフェン層の前記第2縁に接続された第2コンタクト電極と、をさらに備える請求項1に記載の磁界センサ。
【請求項11】
前記第1コンタクト電極および前記第2コンタクト電極は、前記nグラフェン層に電流を注入し、前記nグラフェン層における電圧変化の測定に使用される請求項10に記載の磁界センサ。
【請求項12】
前記nグラフェン層は、検知されるべき磁気ビットを検出する請求項1に記載の磁界センサ。
【請求項13】
前記nグラフェン層の両側に配置され、各々が前記nグラフェン層に接続された第1電流リードおよび第2電流リードと、
前記nグラフェン層の両側に配置され、各々が前記nグラフェン層の前記第1電流リードと前記第2電流リードとの間の位置に接続された第1電圧リードおよび第2電圧リードと、を備える請求項1に記載の磁界センサ。
【請求項14】
前記nグラフェン層は、第1縁と、前記第1縁とは反対側に設けられた第2縁と、を有し、
前記nグラフェン層の前記第1縁に接続された複数の電極と、
前記nグラフェン層の前記第2縁に接続された導電性分路と、をさらに備える請求項1に記載の磁界センサ。
【請求項15】
前記nグラフェン層は、第1縁と、前記第1縁とは反対側に設けられた第2縁と、を有し、
前記nグラフェン層の前記第1縁に接続される第1電流リードおよび第2電流リードと、
前記nグラフェン層の前記第1縁に接続される第1電圧リードおよび第2電圧リードと、
前記nグラフェン層の前記第2縁に接続される導電性分路と、をさらに備える請求項1に記載の磁界センサ。
【請求項16】
前記第1電流リードおよび前記第2電流リードのうちの一方が、前記第1電圧リードと前記第2電圧リードとの間に配置される請求項15に記載の磁界センサ。
【請求項17】
表面を有し、
前記nグラフェン層が前記表面から20nm未満に配置される請求項1に記載の磁界センサ。
【請求項18】
前記電流が正孔キャリアを含む請求項1に記載の磁界センサ。
【請求項19】
前記電流が同時に存在する正孔キャリアおよび電子キャリアを含む請求項1に記載の磁界センサ。
【請求項20】
センサ応答の2f成分が磁界振幅および周波数の測定に使用される請求項19に記載の磁界センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−40750(P2011−40750A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179572(P2010−179572)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】