説明

移動体と搬送システム及び搬送方法

【課題】簡単な処理で、2次元あるいは3次元のスペースを移動する移動体間の干渉を防止する。
【解決手段】2次元方向に移動自在な搬送用の移動体2を複数設け、移動体2が移動する予定の軌跡を移動体2毎に算出する軌跡算出手段16と、他の移動体2が移動する予定の軌跡を把握する軌跡把握手段と、移動体2間の軌跡の重なりの有無を、軌跡が重なる箇所の通過時刻を無視して判定するための判定手段と、軌跡が重なると判定した際に、軌跡が重なる箇所を迂回するように迂回路を算出するための迂回路算出手段16、とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、干渉を自律的に回避する移動体とこの移動体を用いたシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(JP2005-301364A)は移動体が互いに位置を通知することにより、移動体間の干渉を回避することを開示している。特許文献1では、移動体は実質的に1次元の走行路を走行し、2次元以上の自由度のある走行スペースについては検討していない。
【0003】
発明者は、2次元以上の自由度のある走行スペースでの干渉の回避を検討した。例えば図2,図3に示す自動倉庫では、例えば2台のスタッカークレーン2が異なる走行レール31上を走行し、昇降台28は互いに干渉することがある。また図4の平置き倉庫では、複数台の移動体42が平面上の走行スペース40を走行する。図2〜図4において、移動体間の干渉を回避するには、例えば各移動体が走行位置と通過時刻とのデータを走行経路の各位置について互いに交換し、同じ時間に同じ位置を走行しないようにすればよい。しかしこのためには、位置と時間とのデータが必要なためデータ量が増し、また計画通りに走行できない場合干渉の危険性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】JP2005-301364A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の課題は、簡単な処理で2次元あるいは3次元のスペースを移動する移動体間の干渉を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、少なくとも2次元方向に移動自在な移動体であって、
移動体が移動する予定の軌跡を算出するための軌跡算出手段と、
他の移動体が移動する予定の軌跡を把握するための軌跡把握手段と、
他の移動体の軌跡と自己の前記予定の軌跡との重なりの有無を、軌跡が重なる箇所の通過時刻を無視して判定するための判定手段と、
軌跡が重なると判定した際に、軌跡が重なる箇所を迂回した迂回路を算出するための迂回路算出手段、とを備えたことを特徴とする。
【0007】
この発明はさらに、少なくとも2次元方向に移動自在な移動体を複数移動させることにより、物品を搬送する搬送方法であって、
軌跡算出手段により、移動体が移動する予定の軌跡を移動体毎に算出し、
判定手段により、移動体間の軌跡の重なりの有無を、軌跡が重なる箇所の通過時刻を無視して、し、
軌跡が重なると判定した際に、迂回路算出手段により、軌跡が重なる箇所を迂回した迂回路を算出する、ことを特徴とする。
【0008】
またこの発明は、少なくとも2次元方向に移動自在な搬送用の移動体を複数備えた搬送システムであって、
移動体が移動する予定の軌跡を移動体毎に算出するための軌跡算出手段と、
移動体間の軌跡の重なりの有無を、軌跡が重なる箇所の通過時刻を無視して判定するための判定手段と、
軌跡が重なると判定した際に、軌跡が重なる一対の移動体の内の少なくとも一方の移動体の軌跡を、軌跡が重なる箇所を迂回した迂回路を算出するための迂回路算出手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
この発明では、2次元以上の移動方向について軌跡を算出し、移動体間での軌跡の重なりの有無を、軌跡が重なる箇所の通過時刻を無視して判定し、軌跡が重なると迂回する。軌跡は通過予定時刻を含まないデータなので、移動体が通過する位置と時刻とを管理する場合よりも、簡単に移動体間の干渉を防止できる。ただし他の移動体が走行済みの軌跡は、原則として重なりの判定対象から除く。なお軌跡が重なるとは、2次元以上の各次元について軌跡が重なることで、1つの次元についてのみ軌跡が重なっても迂回路を算出する必要はない。軌跡の算出、重なりの判定、迂回路の算出等は、個別の移動体で実行しても、システムコントローラなどの移動体よりも上位のコントローラで処理しても良い。
【0010】
好ましくは、前記判定手段は、軌跡が重なる位置で少なくとも一方の移動体が停止中の場合に、軌跡が重なる位置で双方の移動体が移動中の場合に比べて、重なりの程度をより高く評価すると共に、前記迂回路算出手段は、重なりの程度が所定値以上の場合にのみ前記迂回路を算出する。軌跡が重なる箇所で双方の移動体が移動中の場合、同時刻にその箇所を通過して干渉が生じる可能性は高くはない。そこでこのような場合に、軌跡を修正せずに、センサ等で他の移動体を検出して回避する。この結果、迂回路の算出を減らし、かつ迂回のないシンプルな軌跡を多用できる。
【0011】
好ましくは、自己の位置を基準として他の移動体の位置を検出するセンサと、他の移動体の位置が所定の範囲内に入ると、前記予定の軌跡とは異なる経路に沿って前記2次元方向に移動することにより、他の移動体との干渉を回避するための回避手段、とを設ける。このようにすると、迂回路の算出による干渉の回避をバックアップできる。
【0012】
好ましくは、移動体が移動を開始する前に、該移動体の軌跡の算出と重なりの判定と迂回路の算出とを行う。これによって移動中に、軌跡の算出から迂回路の算出までの処理を行う必要が無くなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例の搬送システムのブロック図
【図2】実施例の搬送システムを用いた自動倉庫の正面図
【図3】図2の自動倉庫の要部平面図
【図4】変形例の移動体が走行する平置き倉庫の平面図
【図5】実施例での干渉回避アルゴリズムを示すフローチャート
【図6】実施例での迂回が必要な軌跡を模式的に示す図
【図7】実施例での迂回が不要な軌跡を模式的に示す図
【図8】実施例での迂回時の軌跡を模式的に示す図
【図9】互いに異なる回避角θ1,θ2による回避を示す図
【図10】変形例の搬送システムのブロック図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。本発明の範囲は、特許請求の範囲に基づき、明細書とこの分野での周知技術とを参酌し、当業者の理解に従って定められるべきものである。
【実施例】
【0015】
図1〜図10に、実施例とその変形とを示す。図1は基本的な実施例を示し、1は搬送システムで、2は移動体のスタッカークレーンで、無人搬送車などの他の移動体でも良い。スタッカークレーン2は、水平方向に沿って走行するための走行駆動部4と、昇降台を昇降させるための昇降駆動部6、及び昇降台上の移載装置を制御するための移載制御部8を備え、昇降台は走行方向と昇降方向との2次元方向に移動でき、昇降方向に走行方向にも昇降台の位置が重なる際に、スタッカークレーン2間の干渉が生じる。スタッカークレーン2は、走行方向と昇降方向とに沿った走行路を、レイアウトマップ記憶部10に記憶している。
【0016】
12は通信ユニットで、例えばスタッカークレーン2,2間で互いに通信し、あるいは図10に示すように地上側のコントローラ92などを介して他のスタッカークレーン2と通信しても良い。14はセンサで、他のスタッカークレーン2の位置を監視し、実施例ではスタッカークレーン2の昇降台が互いに干渉するので、他のスタッカークレーンの昇降台の位置を監視する。センサ14の種類は任意で、例えば光電センサ、超音波センサ、レーザ距離計などを用いる。
【0017】
軌跡算出及び迂回路算出部16は、走行路内での昇降台の移動予定軌跡を算出し、算出した軌跡が他のスタッカークレーンの軌跡と干渉する場合、干渉を回避するための迂回路を算出する。軌跡は例えば出発位置と目的位置並びにその間に走行する位置の列のデータであり、時間を含んでいない。スタッカークレーン2は通信ユニット12を介して互いに軌跡を交換し、迂回判定部18は、算出部16で算出した軌跡が他のスタッカークレーンの軌跡と干渉するかどうかから、迂回の必要性を判定する。そして迂回が必要な場合、算出部16で迂回路を算出する。軌跡記憶部20は自己の移動予定軌跡と、他のスタッカークレーンの移動予定軌跡とを記憶する。
【0018】
回避角記憶部22は、各スタッカークレーン2に固有のパラメータとして、固有の回避角θiを記憶し、iはスタッカークレーンの号機番号である。回避判定部24は、センサ14からのデータなどに基づき、回避が必要かどうかと、停止せずに回避し得るかを判定し、停止せずに回避し得る場合には、回避角θiに基づき移動経路を変更する。回避用のパラメータは回避角θiに限らず、奇跡の修正に用いるパラメータであればよい。停止再起動部25は、干渉を避けるために停止が必要な場合の停止制御と停止後の再起動を行う。再起動では、互いに近接した一対のスタッカークレーン2,2が所定のルールに従って再起動し、例えば一方のスタッカークレーンが最初に動作し、干渉範囲から脱出した後に、他方のスタッカークレーンも再起動する。
【0019】
図2,図3に、スタッカークレーン2を用いた自動倉庫26を示し、例えば一対のスタッカークレーン2,2が異なる走行レール31a,31b上を走行し、マスト27に沿って昇降台28が昇降する。なお29は昇降台28上の物品である。走行レール31a,31bに沿った方向をx方向、昇降方向をy方向とすると、干渉が生じ得るのは昇降台28のみで、昇降台のx方向位置とy方向位置とが充分近接した際に干渉が生じる。30はラックで、走行レール31a,31bの左右に例えば一対設け、32はステーションで、33は個別の間口である。
【0020】
図4の平置き倉庫では、スタッカークレーン2に対応する無人搬送車42が複数台走行し、無人搬送車42は昇降台の代わりに固定の荷台を備え、走行スペース40上を2次元に走行する。また44は棚で、棚44,44間には通路スペース41があり、通路スペース41内では迂回ができない。従って走行スペース40での軌跡の算出と軌跡の重なり判定、迂回路の算出、及び回避動作を実行する。
【0021】
図5〜図9に、実施例での干渉の回避アルゴリズムを示す。スタッカークレーン2あるいは無人搬送車42などの移動体は、走行を開始する前に移動予定軌跡を算出し、これを通信ユニット12を介して互いに交換する。移動予定軌跡を算出中で未送出の移動体が、図6,図7のアルゴリズムにより迂回の要否を判断する。図6,図7において、60〜63は軌跡で、64〜67は出発位置、68〜71は目的位置で、これらの間は停止せずに走行中とする。図6のように、軌跡60と軌跡61とが1箇所で重なり合うが、重なり合う位置でいずれの移動体も走行中の場合、迂回は不要とする。これに対し図7のように、一方の軌跡での停止位置を他方の軌跡が通過する場合、迂回が必要とする。迂回の要否判定のため、例えば軌跡が重なる箇所で移動体が共に移動中の場合、重みが1,少なくとも一方が停止中の場合重みが2とし、重みの合計が1を越えると、迂回が必要とする。
【0022】
実施例では軌跡は時間を含んでいないので、単に走行中の軌跡が重なり合う場合、実際には干渉を生じない確率が高い。これに対して停止位置で軌跡が重なり合う場合、停止時間が長いため、干渉する確率が高い。なお複雑な軌跡で、停止位置以外で2回以上軌跡が重なる場合も迂回が必要とする。また迂回による軌跡の修正は軌跡を未送出の側が行い、送出済みの側は行わない。さらに迂回路の算出までの処理は、移動開始までに完了する。また迂回を開始する位置は、軌跡が重なる箇所からx方向、y方向の各々について所定距離上流側とする。例えば図8で、80は第1の移動体がポイントAからポイントBへ移動するための軌跡で、送出済みである。ここで第2の移動体がポイントCからポイントDへ移動するために軌跡81を算出したとすると、2箇所で交差するので、軌跡82のように迂回する。
【0023】
移動体が軌跡に沿って移動を開始すると、通信ユニット12及びセンサ14を介して他の移動体の例えば位置と速度とを監視する。そして他の移動体が回避が必要な程度に接近すると、移動体は例えば図9のようにして回避する。ここにQ1,Q2は一対の移動体で、V1,V2はそれぞれの現在速度である。各移動体は固有の回避角θ1,θ2を記憶し、回避角θ1,θ2の範囲は0°〜360°である。軌跡から定まる目標速度に対し、移動体Q1は目標速度を (V1x・cosθ1,V1y・sinθ1) へと変更し、移動体Q2は目標速度を (V2x・cosθ2,V2y・sinθ2)へと変更する。この結果、移動体Q1,Q2は、図9の破線の軌跡から離れて実線のように移動し、移動した軌跡は途中で1回クロスしているものの、クロス点までの走行時間が著しく異なるので、干渉は生じない。
【0024】
回避角θiを記憶すると、相手方の移動体がどのように回避しようとしているかの情報無しに、回避できる。このような回避は、回避角θiを用いずに、例えば共に時計回りに回避するなどのルールでも実現可能である。なお干渉はx方向位置とy方向位置が共に重なることにより生じ、これ以外の場合回避は不要である。
【0025】
図10は図1を変形した搬送システム90を示し、2は図1と同様のスタッカークレーンなどの移動体で、92はコントローラで、スタッカークレーン2は、コントローラ92を介して、互いに移動予定軌跡と走行中の現在位置並びに速度などを互いに通知する。この場合に軌跡と迂回路との算出、迂回の要否の判定、並びに軌跡の記憶は、スタッカークレーン2が行っても良く、あるいはコントローラ92が行っても良い。
【0026】
実施例では以下の効果が得られる。
(1) 迂回の要否を、時間を含まない移動予定軌跡の重なりから判定するので、処理が容易である。
(2) 迂回の要否の判定では、走行中の位置で軌跡が重なるか、停止中の位置で軌跡が重なるかに応じて、重みを変更する。これによって時間概念を用いることなく、干渉の可能性をより正確に反映させることができる。
(3) 移動体毎に固有の回避角などの所定のルールに従って回避する。このため回避には最低限センサ14などで相手方の移動体の位置を認識できれば良く、回避が簡単である。
(4) 軌跡の重なりの判定による迂回、他の移動体との相対位置などによる回避、回避では干渉を防止できない際の停止、の3段階に干渉を防止する。このため極めて安全である。
(5) 以上のようにして、2次元以上の走行スペースでの干渉を簡単かつ確実に防止できる。

【符号の説明】
【0027】
1 搬送システム
2 スタッカークレーン
4 走行駆動部
6 昇降駆動部
8 移載制御部
10 レイアウトマップ記憶部
12 通信ユニット
14 センサ
16 軌跡算出及び迂回路算出部
18 迂回判定部
20 軌跡記憶部
22 回避角記憶部
24 回避判定部
25 停止再起動部
26 自動倉庫
27 マスト
28 昇降台
29 物品
30 ラック
31a,b 走行レール
32 ステーション
33 間口
38 平置き倉庫
40 走行スペース
41 通路スペース
42 無人搬送車
44 棚
60〜63 軌跡
64〜67 出発位置
68〜71 目的位置
80〜82 軌跡
90 搬送システム
92 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2次元方向に移動自在な移動体であって、
移動体が移動する予定の軌跡を算出するための軌跡算出手段と、
他の移動体が移動する予定の軌跡を把握するための軌跡把握手段と、
他の移動体の軌跡と自己の前記予定の軌跡との重なりの有無を、軌跡が重なる箇所の通過時刻を無視して判定するための判定手段と、
軌跡が重なると判定した際に、軌跡が重なる箇所を迂回した迂回路を算出するための迂回路算出手段、とを備えたことを特徴とする移動体。
【請求項2】
前記判定手段は、軌跡が重なる位置で少なくとも一方の移動体が停止中の場合に、軌跡が重なる位置で双方の移動体が移動中の場合に比べて、重なりの程度をより高く評価すると共に、
前記迂回路算出手段は、重なりの程度が所定値以上の場合にのみ前記迂回路を算出することを特徴とする請求項1に記載の移動体。
【請求項3】
自己の位置を基準として他の移動体の位置を検出するセンサと、
他の移動体の位置が所定の範囲内に入ると、前記予定の軌跡とは異なる経路に沿って前記2次元方向に移動することにより、他の移動体との干渉を回避するための回避手段、とを設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の移動体。
【請求項4】
少なくとも2次元方向に移動自在な搬送用の移動体を複数備えた搬送システムであって、
移動体が移動する予定の軌跡を移動体毎に算出するための軌跡算出手段と、
移動体間の軌跡の重なりの有無を、軌跡が重なる箇所の通過時刻を無視して判定するための判定手段と、
軌跡が重なると判定した際に、軌跡が重なる一対の移動体の内の少なくとも一方の移動体の軌跡を、軌跡が重なる箇所を迂回した迂回路を算出するための迂回路算出手段とを備えたことを特徴とする搬送システム。
【請求項5】
少なくとも2次元方向に移動自在な移動体を複数移動させることにより、物品を搬送する搬送方法であって、
軌跡算出手段により、移動体が移動する予定の軌跡を移動体毎に算出し、
判定手段により、移動体間の軌跡の重なりの有無を、軌跡が重なる箇所の通過時刻を無視して判定し、
軌跡が重なると判定した際に、迂回路算出手段により、軌跡が重なる箇所を迂回した迂回路を算出する、ことを特徴とする搬送方法。
【請求項6】
移動体が移動を開始する前に、該移動体の軌跡の算出と重なりの判定と迂回路の算出とを行うことを特徴とする請求項5に記載の搬送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−20848(P2011−20848A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170028(P2009−170028)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】