説明

移動体検出方法及びレーザ距離測定装置

【課題】横断歩道を一団で移動する複数の歩行者の個々の動きを認識でき、横断歩道での歩行者の流れや通行量を把握できる移動体検出方法及びレーザ距離測定装置を提供する。
【解決手段】レーザ光LTを投光する投光部1と、レーザ光LTを走査する走査部と、測定範囲内の歩行者で反射して戻った反射レーザ光LRを受ける受光部2と、受光部2からの受光信号Srにより歩行者の計測データDを作成して発信する信号処理部3と、計測データDを受信して測定結果を出力する制御部6を備え、信号処理部3では、連続して取得する歩行者の計測データDを距離条件でグループ化する処理と、計測データDを複数の高さの閾値で選別する処理と、高さの閾値による高さデータに基づいて歩行者を認識する処理と、歩行者を認識する毎にそれ以前に認識した歩行者との同一性を判定する処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、横断歩道上や踏切内における人の動きを検出するのに利用される移動体検出方法及びレーザ距離測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上記した移動体検出方法としては、例えば、特許文献1に開示される人数検出方法が知られている。この検出方法では、レーザ光を所定の監視領域内、例えば横断歩道内に走査すると共に反射して戻るレーザ光を検出して横断歩道内の各位置における距離情報を取得する。そして、横断歩道内の各位置における距離情報に基づいて歩行者の高さを判定し、この歩行者の高さと、標準的な体格を有する人(いわゆる成人)の首から頭までの高さ範囲に相当する閾値とを比較することにより、横断歩道内に存在する歩行者の人数を判定するようにしている。
【0003】
また、この人数検出方法に類似する移動体検出方法として、例えば、特許文献2に開示される人数検出方法があり、この検出方法では、所定の監視領域内、例えば横断歩道内の各位置における距離情報に基づいて歩行者の存在領域を判定すると共にこの存在領域における歩行者の検出面積を判定し、この歩行者の検出面積と、標準的な成人一人当たりの標準人物面積と、歩行者が集団を形成している場合の密集度を示す密度係数に基づいて、横断歩道内に存在する歩行者の人数を判定するようにしている。
【0004】
さらに、上記した方法とは別の移動体検出方法としては、例えば、特許文献3に開示される横断歩行者検出方法がある。この検出方法は、レーザ光を横断歩道内に走査して、このレーザ光の投光タイミング及び横断歩道内に存在する歩行者で反射して戻った反射レーザ光の受光タイミングにより飛光時間を計測して歩行者を検出する方法である。
【0005】
この方法では、レーザ光の走査により計測して一の移動体として認識したデータのうちの距離の近い移動体同士のデータをグループ化することによって、歩行者や車両の検出を行っている都合上、例えば、一団を成して移動する歩行者は、一塊にグループ化されてしまう。このような場合、一団を構成する歩行者の人数を割り出すには、グループ化した計測データに対して、成人の頭部位に相当する高さで閾値処理を行い、この閾値処理で得られる頭部の数に基づいて、塊から歩行者を個々に分離するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-209318号
【特許文献2】特開2006-208076号
【特許文献3】特許3472815号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した従来の移動体検出方法にあっては、集団で移動する歩行者の人数を認識するための閾値を成人の頭部程度の高さに設定して人数を判定したり、歩行者の検出面積と標準的な成人一人当たりの標準人物面積と集団の密集度とに基づいて歩行者の人数を判定したりしているので、子供などの背が低く且つ検出面積が小さい歩行者を検出することができないという問題を有しており、この問題を解決することが従来の課題となっていた。
【0008】
本発明は、上述した従来の課題に着目してなされたもので、例えば、一団を成して横断歩道上を移動する背丈の低い人を含めた複数の歩行者の個々の動きを認識することができ、その結果、横断歩道における歩行者の流れや通行量の把握が可能となる移動体検出方法及びレーザ距離測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係る発明は、測定エリア面に向けて投光したレーザ光を走査し、このレーザ光の投光タイミング及び測定エリア面内に存在する移動体で反射して戻った反射レーザ光の受光タイミングにより飛光時間を計測して、前記測定エリア面を移動する複数の移動体を検出する移動体検出方法であって、レーザ光の走査毎に取得される各移動体の三次元データを測定エリア面上の距離に関連付けて、距離の近い移動体同士の三次元データをグループ化すると共に、該三次元データに対して複数の高さの閾値で選別する処理を行って複数の高さデータを得た後、前記一の閾値によって選別された高さデータから、この高さデータに含まれ、当該一の閾値より高い閾値によって選別された高さデータを削除することで分離データを抽出し、各閾値によって抽出されるそれぞれの分離データから各移動体の位置及び高さを関連付ける移動体認識処理を行い、続いて、今回走査時に実施した各移動体の移動体認識処理結果と、少なくとも前回走査時に実施した移動体認識処理結果に基づいて予測される各移動体の移動状態予測結果とから移動体の同一性判定を行って各移動体を認識する構成としたことを特徴としており、この移動体検出方法の構成を前述の従来の課題を解決するための手段としている。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る移動体検出方法において、前記同一性判定は、今回及び前回走査時に実施した移動体認識処理結果に基づいて、一の閾値によって抽出されたそれぞれの分離データに属する移動体同士を逐次比較して、移動体の予測される移動方向に見て、2つの移動体の位置が最も近接しているもの同士を同一移動体と認識する構成としている。
【0011】
さらに、本発明の請求項3に係る移動体検出方法において、前記同一性判定は、前回及び前回以前の走査時に実施した移動体認識処理結果に基づいて演算される動的変化から、認識された移動体の今回走査時における移動位置を予測し、今回走査時に実施した移動体認識処理によって関連付けた各移動体の位置と、予測した移動位置とを比較し、最も蓋然性が高い移動体同士を同一移動体と認識する構成としている。
【0012】
さらにまた、本発明の請求項4に係る移動体検出方法は、前記同一性判定において、同一と認識するべき移動体が存在しないとき、新規に検出した移動体と認識する構成としている。
【0013】
一方、本発明の請求項5に係るレーザ距離測定装置は、レーザ光を発する投光部と、この投光部から発したレーザ光を測定エリア面で走査する走査部と、前記測定エリア面内に存在する移動体で反射して戻った反射レーザ光を前記走査部を介して受ける受光部と、前記投光部にレーザ光の投光指令を発すると共に前記走査部による走査を制御する制御部と、この制御部から与えられるレーザ光の投光タイミング及び前記受光部から与えられる反射レーザ光の受光タイミングにより飛光時間を計測して、前記測定エリア面を移動する複数の移動体の三次元データを取得する信号処理部を備え、前記信号処理部では、レーザ光の走査毎に取得される各移動体の三次元データを測定エリア面上の距離に関連付けて、距離の近い移動体同士の三次元データをグループ化する処理と、該三次元データを複数の高さの閾値で選別する処理と、この処理で得た複数の高さデータのうちの前記一の閾値によって選別された高さデータから、この高さデータに含まれ、当該一の閾値より高い閾値によって選別された高さデータを削除することによって分離データを抽出し、各閾値によって抽出されるそれぞれの分離データから各移動体の位置及び高さを関連付けて前記移動体を認識する処理と、今回走査時に実施した各移動体の移動体認識処理結果、及び、少なくとも前回走査時に実施した移動体認識処理結果に基づいて予測される各移動体の移動状態予測結果から移動体の同一性判定を行って各移動体を認識する処理を行う構成としたことを特徴としており、このレーザ距離測定装置の構成を前述の従来の課題を解決するための手段としている。
【0014】
本発明において、投光するレーザ光としては、半導体レーザや固体レーザやガスレーザなどを用いることができ、信号波形がパルス状や位相変調した正弦波状を成すレーザ光が使用される。
【0015】
また、本発明において、レーザ光の走査毎に取得される各移動体の三次元データに対して高さの閾値で選別する処理を行う際の閾値には、群を成す移動体を正確に個々に分ける意味と、分離した移動体個々を識別し得るようにする意味があることから、追尾性の向上を図るうえで高さの閾値を多数設定することが望ましいが、追尾性の精度とデータの選別処理に要する時間との兼ね合いを考慮して、3〜5個の閾値を設定することが望ましい。
【0016】
本発明に係る移動体検出方法及びレーザ距離測定装置では、例えば、横断歩道上における歩行者の動きを検出するのに用いた場合、レーザ光の走査毎に取得される各歩行者の三次元データにおいて、距離の近い歩行者同士の三次元データをグループ化することで、横断歩道上の歩行者や車両の検出がなされる。
【0017】
この際、一団を成して横断歩道上を移動する歩行者の人数を割り出すには、横断歩道上を1回計測してグループ化したデータを得る操作を1フレームと呼ぶことにすると、まず1フレーム毎のデータに対して複数の高さの閾値(例えば、地上30cm,80cm,130cm)による選別処理を行って、複数の高さデータを取得する。
【0018】
ここで、地上80cmの低い閾値による高さデータには、背丈が中位の人のデータ以外に、地上130cmの高い閾値による高さデータも当然含まれている。すなわち、背丈が成人程度の人や上背のある人のデータも当然含まれているので、低い閾値(一の閾値)によって選別された高さデータから、この高さデータに含まれ、当該一の閾値より高い閾値によって選別された高さデータを削除して、背丈の中位の人のデータのみが反映された分離データを抽出する。
【0019】
同じく、地上30cmの低い閾値による高さデータには、背丈の低い人のデータ以外に、地上80cmや130cmの閾値による高さデータが重複している。すなわち、背丈が中位以上の人のデータが重複しているので、低い閾値(一の閾値)によって選別された高さデータから、この高さデータに含まれ、当該一の閾値より高い閾値によって選別された高さデータを削除して、背丈の低い人のデータのみが反映された分離データを抽出する。
【0020】
そして、背丈の低い人のデータのみが反映された分離データと、背丈の中位の人のデータのみが反映された分離データと、背丈が成人程度以上の人のデータのみが反映された最も高い閾値によって選別された高さデータとから、各歩行者の位置及び高さを関連付けて歩行者を認識すれば、群を成す歩行者が個々に分けられて検出されることになるので、歩行者の人数が割り出されることとなる。
【0021】
このようにして1フレームで個々に分離して検出された複数の歩行者は、それぞれ背丈の違い(低,中,高)も認識されているので、今回フレームで実施した各歩行者の認識処理結果と、少なくとも前回フレームで実施した各歩行者の認識処理結果に基づいて予測される各歩行者の移動状態予測結果とを比較すれば、前後のフレーム間における歩行者の同一性が判定されることとなり、したがって、追尾性能が向上することとなる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る移動体検出方法及びレーザ距離測定装置では、上記した構成としたから、例えば、横断歩道において、一塊になって移動する背丈の低い人を含めた複数の歩行者を個々に分離して検出することができると共に、分離して検出した歩行者個々を識別することが可能であり、その結果、横断歩道における歩行者の流れや通行量を把握することができるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施例に係るレーザ距離測定装置を示すブロック図である。
【図2】図1におけるレーザ距離測定装置による計測要領を示す斜視説明図である。
【図3】図1におけるレーザ距離測定装置による計測状況を示す側面説明図(a)及び平面説明図(b)である。
【図4】図1に示したレーザ距離測定装置の信号処理部における高さの閾値による選別処理要領説明図(a)〜(d)である。
【図5】図1におけるレーザ距離測定装置による計測1フレーム分の移動体認識フローチャートである。
【図6】図5の移動体認識フローチャートで作成される移動体認識テーブル(a)及び図5の移動体認識フローチャートで作成記憶されるフレーム情報(b)である。
【図7】図5の移動体認識フローチャートにおける同一性判断プログラムのフローチャートである。
【図8】図5の移動体認識フローチャートにおける動的変化を考慮した同一性判断プログラムのフローチャートである。
【図9】図8の移動体認識フローチャートで作成される移動体位置予測テーブルである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る移動体検出方法及びレーザ距離測定装置を図面に基づいて説明する。
図1〜図9は、本発明に係る移動体検出方法及びレーザ距離測定装置の一実施例を示しており、この実施例では、本発明を横断歩道の監視兼通行量調査に適用した場合を例に挙げて説明する。
【0025】
図1に示すように、横断歩道監視兼通行量調査用のレーザ距離測定装置は、投光したレーザ光LTの反射光LRを受光して測定エリア内の物体までの距離を測定するレーザ距離測定装置であって、レーザ光LTを投光する投光部1と、反射光LRを受光して受光信号Srを発信する受光部2と、受光信号Srから物体の測定距離を含む計測データ(三次元データ)Dを作成して発信する信号処理部3と、投光部1、受光部2及び信号処理部3を収容するレーザレーダヘッド7と、このレーザレーダヘッド7と離隔して配置されるとともに計測データDを受信して測定結果を出力する制御部6と、を有している。投光部1、受光部2及び信号処理部3を収容するレーザレーダヘッド7は、図2に示すように、地面Eに立設した支柱8の上端部に配置される。
【0026】
前記投光部1は、測定エリア内の物体に対してレーザ光Lを発光して投光する機器である。かかる投光部1は、例えば、光源となるレーザダイオード1aと、レーザ光Lをコリメートする投光レンズ1bと、レーザダイオード1aを操作するLDドライバ1cとから構成される。LDドライバ1cは、信号処理部3からのトリガー信号Stに基づいてレーザ光Lを発光するようにレーザダイオード1aを操作し、レーザ光Lの投光と同時にパルス状の投光同期信号Ssを信号処理部3に発信する。なお、投光同期信号Ssは、トリガー信号Stにより代用するようにしてもよい。
【0027】
図1において、投光レンズ1bを透過したレーザ光LTは、回転駆動されるポリゴンミラー11と回動駆動される平面ミラー12とにより構成される走査部の光学系により、略水平方向及び略鉛直方向に走査されるようになっている。ポリゴンミラー11は、例えば、6面体の4側面が鏡面化されており、対峙する2面(上下面)の中心を回転軸としてモータ11aにより回転されるように構成されている。モータ11aは、モータドライバ11bにより操作される。平面ミラー12は、例えば、モータ12aにより回動される回動軸の側面に接続されている。モータ12aは、モータドライバ12bにより操作される。また、モータドライバ11b,12bは、信号処理部3からの制御信号Smにより制御されるとともに、スキャン角度やスイング角度等の投光条件信号Scを信号処理部3に発信する。なお、かかる光学系は単なる一例であり、図示した構成に限定されるものではない。
【0028】
前記受光部2は、物体に投光されたレーザ光LTの反射光LRを受光する機器である。ここでは、投光部1と受光部2と個別に設けて投光軸と受光軸とがずれるように構成しているが、投光軸と受光軸とが一致するように投光部1と受光部2が一体に形成されていてもよい。かかる受光部2は、例えば、反射光LRを集光する受光レンズ2aと、集光された反射光LRを受光して電圧に変換するフォトダイオード等の光電変換素子や増幅器等を有する受光部本体2bとから構成される。レーザレーダヘッド7の前面の投光窓Wを透過した反射光LRは、平面ミラー12及びポリゴンミラー11を介して受光レンズ2aに導かれる。そして、反射光LRを受光した受光部本体2bは、電圧値に変換された受光信号Srを信号処理部3に発信する。
【0029】
前記信号処理部3は、測定距離、受光強度、投光条件等のデータを含む計測データDを発信する機器である。信号処理部3は、主信号処理部31と時間計測部32とを有する。主信号処理部31は、トリガー信号Stの発信、モータドライバ11b,12bの制御信号Smの発信、スキャン角度やスイング角度等の投光条件信号Scの受信、時間計測部32からの信号(受光強度信号Sq及び飛光時間信号Sd)の受信、計測データDの発信等の処理を行う。また、時間計測部32は、投光同期信号Ssの受信により時間の計測を開始し、受光信号Srを受信した時間を把握する。したがって、時間計測部32では、投光されたレーザ光LTが、物体に反射して受光されるまでの飛光時間を計測することができる。
【0030】
また、時間計測部32は、受光信号Srから所望の受光強度を有する受光信号Srを選択する弁別機能や、受光信号Srのうち飛光時間の短いものを除外するゲート機能を有していてもよい。かかる弁別機能やゲート機能により、ノイズを効率よく排除することができる。そして、時間計測部32は、弁別機能やゲート機能を通過した受光信号Srの受光強度信号Sq及び飛光時間信号Sdを主信号処理部31に発信する。主信号処理部31は、飛光時間信号Sdを(光の速度)×(飛光時間)/2の計算式により距離データに変換し、受光強度信号Sq、スキャン角度やスイング角度等の投光条件信号Sc等と共に計測データDを作成し、制御部6に計測データDを発信する。
【0031】
この場合、主信号処理部31及び時間計測部32から成る信号処理部3は、時間計測部32でレーザ光LTの走査毎に取得される物体の計測データDにおいて、横断歩道上における距離の近い物体同士の計測データDをグループ化する処理を行う。
【0032】
さらに、信号処理部3は、計測データDに対する複数の高さの閾値による選別処理と、これらの高さの閾値によって選別された高さデータに基づいて物体を歩行者Hとして認識する処理と、これらの処理を行って歩行者Hを認識する毎に、それ以前の歩行者認識処理で認識した歩行者Hとの同一性を判定する処理を行うものとなっている。
なお、距離の近い物体同士の計測データDをグループ化する処理、及び、計測データDに対する複数の高さの閾値による選別処理は、いずれの処理を先に行っても構わない。
【0033】
前記制御部6は、画像処理や、故障診断や、誤差補正を行うコンピュータであり、計測データDを受信して測定結果をディスプレイ、プリンタ、警報機等の出力機器9に出力する。また、この制御部6は、ポリゴンミラー11のスキャン角度やスキャン速度、平面ミラー12のスイング角度やスイング速度、レーザ光Lのトリガー信号Stの発信タイミング等の条件設定を行い、これらの制御条件Shを信号処理部3に発信している。
【0034】
次に、このレーザ距離測定装置による移動体の検出要領を説明する。
横断歩道上にレーザ光LTを走査して1回計測することを1フレームと呼び、まず、図5の移動体認識フローチャートを用いて1フレームの情報作成要領を説明する。
【0035】
走査時点TがT=tであるフレームnにおいて、図3に示すように、投光部1から投光したレーザ光LTを横断歩道に走査し、このレーザ光LTの走査で取得される三次元データのうちの横断歩道上における距離の近い三次元データ同士をグループ化することで、横断歩道上における歩行者Hの二つの塊G1,G2が検出されることとなる(ステップS1,S2)。
【0036】
この際、横断歩道上を移動する複数の歩行者Hの人数を割り出すには、まず、1回の走査で得た塊G1,G2の各データに対して3つの高さ閾値(閾値A=地上130cm,閾値B=地上80cm,閾値C=地上30cm)による選別処理を行って、図4(a)〜(c)に示すように、最も高い閾値Aによる高さデータDaから最も低い閾値Cによる高さデータDcに至るまでの3つの高さデータDa〜Dcを取得する(ステップS3)。
なお、最も低い閾値C(地上30cm)は、歩けるようになった幼児の平均身長を基準にして設定し、最も高い閾値A(地上130cm)は、背丈が平均的な成人の肩口辺りの高さに設定し、閾値B(地上80cm)は、閾値A,Cの中間に設定する。
【0037】
ここで、ある閾値、例えば、閾値Bを例にとって説明すると、地上80cmの閾値Bによる高さデータDbには、背丈が中位の人H3のデータ以外に、閾値Bよりも一つ高い閾値A(地上130cm)による高さデータDa(図4(b)に破線で示す部分)も当然含まれている。このように、高さデータDbには、背丈が成人程度の人や上背のある人H1,H2,H4,H6のデータDaが含まれているので、閾値B(一の閾値)による高さデータDbから、この高さデータDbに含まれ、当該一の閾値より一つ高い閾値Aによる高さデータDaを削除して、背丈の中位の人H3のデータのみが反映された分離データDb1を抽出する。
【0038】
同じく、閾値Cを例にとって説明すると、地上30cmの閾値Cによる高さデータDcには、背丈の低い人H5のデータ以外に、閾値Cよりも高い閾値A,B(地上130cm,80cm)による高さデータDa,Db(図4(c)に破線で示す部分)が重複している。このように、高さデータDcには、背丈が中位以上の人H1〜H4,H6の各データDa,Dbが重複しているので、閾値C(一の閾値)による高さデータDcから、この高さデータDcに含まれ、当該一の閾値より一つ高い閾値Bによる高さデータDbを削除して、背丈の低い人H5のデータのみが反映された分離データDc1を抽出する(ステップS4)。
【0039】
そして、背丈の低い人H5のデータが反映された分離データDc1と、背丈の中位の人H3のデータが反映された分離データDb1と、背丈が成人程度以上の人H1,H2,H4,H6のデータが反映された最も高い閾値Aによる高さデータDaを組み合わせたものを検出結果とすれば、図4(d)に示すような1フレームの検出結果Ddが得られる。
【0040】
この検出結果Ddに基づいて、図6(a)に示すように、この走査時点(T=t)におけるフレームnに対応する移動体認識テーブルを作成して、各歩行者H1〜H6の認識位置及び閾値高さを関連付ければ、このフレームnにおける塊G1,G2を構成する歩行者H1〜H6の人数を認識し得ることとなる(ステップ5)。
【0041】
次に、今回のフレームnで実施した歩行者H1〜H6の移動体認識処理の結果(図4(d))と、それ以前のフレームn−1,フレームn−2,…,フレーム2,フレーム1で実施した移動体認識処理の結果に基づいて予測される歩行者H1〜H6の移動状態予測結果とから、歩行者H1〜H6の同一性判定を行って歩行者H1〜H6を認識する処理を行い(ステップ6)、図6(b)に示すフレーム情報を作成して(ステップ7)、走査時点(T=tn+1)において上記と同様の各処理を行う。
【0042】
上記ステップ6における同一性判定は、歩行者に後述する動的変化がない状態の認識プログラム初期(あるいは後述する動的変化を考慮しない簡易な同一性判定)において、今回のフレームn及び前回のフレームn−1で実施した移動体認識処理の結果に基づいて行われる。
【0043】
すなわち、一の閾値によって抽出された両フレームの各分離データに属する歩行者に対して、図7の同一性判定のフローチャートに示すように、ステップS11において歩行者の予測される移動方向を読み出し、続いて、ステップS12において走査時点(T=tn-1)での分離データに基づいて各歩行者Hの移動方向の演算を行った後、ステップS13において上記両フレームn,n−1の候補となる歩行者H同士を逐次比較して、ステップS14においてこれらの歩行者H同士が連続するフレーム間で重なっていて且つ高さが同じである(同一である蓋然性が大)とした場合(Yes)には、該当する歩行者Hに図6(a)の移動体認識テーブルで付していた仮認識番号IDをステップS15において正規の認識番号IDj,n−1にして図6(b)に示すフレーム情報の認識番号IDに書き込む。
【0044】
一方、ステップS14で両フレームn,n−1の候補となる歩行者H同士がフレーム間で重なっておらず高さも異なっているとした場合(No)には、該当する歩行者Hに図6(a)の移動体認識テーブルで付していた仮認識番号IDをステップS16ではそのままにして新規のフラグを設定して図6(b)に示すフレーム情報に書き込む。
【0045】
ここで、歩行者Hの動的変化(例えば、加速度を持って移動している場合や一定の規則性を持って移動している場合等)を考慮して同一性判定を行う場合には、図8の同一性判定のフローチャートに示すように、ステップS21において歩行者Hの前回・前回以前のフレームで得たデータを読み出し、続いて、ステップS22において各歩行者Hの速度・加速度・移動方向・移動軌跡等の動的特性の演算を行った後、ステップS23において、図9に示すように、歩行者Hの動的変化から走査時点(T=t)におけるフレームnでの移動体位置予測テーブルを作成して移動位置を予測し、ステップS24において今回フレームで実施した認識処理によって関連付けた各歩行者Hの位置と、予測した移動位置とを比較し、ステップS25において歩行者H同士が連続するフレーム間で重なっているないしは最も近接していてしかも高さが同じである(同一である蓋然性が大)と認識した場合(Yes)には、該当する歩行者Hに図6(a)の移動体認識テーブルで付していた仮認識番号IDをステップS26において正規の認識番号IDj,n−1にして図6(b)に示すフレーム情報の認識番号IDに書き込む。
【0046】
一方、ステップS25で候補となる歩行者H同士がフレーム間で重なっておらず高さも異なっていて同一の歩行者でないとした場合(No)には、該当する歩行者Hに図6(a)の移動体認識テーブルで付していた仮認識番号IDをステップS27ではそのままにして新規のフラグを設定して図6(b)に示すフレーム情報に書き込む。
【0047】
上記したように、この実施例に係る移動体検出方法及びレーザ距離測定装置では、横断歩道を一団になって移動する複数の歩行者H1〜H6を背丈の大小にかかわらず個々に分けて検出することが可能である。
加えて、分離して検出した歩行者個々を追尾することができ、したがって、横断歩道における歩行者の流れや通行量を把握し得ることとなる。
【0048】
なお、上記した実施例では、本発明を横断歩道の監視兼通行量調査に適用した場合を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、他の適用例として、例えば、本発明を踏切監視に適用してもよい。
また、データに対して閾値処理を行う際の閾値の数は、3つに限定されるものではなく、適宜増減が可能であり、その閾値も上記した地上130cm,80cm,30cmに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0049】
1 投光部
2 受光部
3 信号処理部
6 制御部
11 ポリゴンミラー(走査部)
12 平面ミラー(走査部)
31 主信号処理部
32 時間計測部
A,B,C 高さ閾値
Da〜Dc 閾値により選別される高さデータ
Db1,Dc1 分離データ
G1,G2 塊(グループ化したデータ)
LR 反射レーザ光
LT 投光レーザ光
H1〜H6 歩行者(物体:移動体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定エリア面に向けて投光したレーザ光を走査し、このレーザ光の投光タイミング及び測定エリア面内に存在する移動体で反射して戻った反射レーザ光の受光タイミングにより飛光時間を計測して、前記測定エリア面を移動する複数の移動体を検出する移動体検出方法であって、
レーザ光の走査毎に取得される各移動体の三次元データを測定エリア面上の距離に関連付けて、距離の近い移動体同士の三次元データをグループ化すると共に、該三次元データに対して複数の高さの閾値で選別する処理を行って複数の高さデータを得た後、
前記一の閾値によって選別された高さデータから、この高さデータに含まれ、当該一の閾値より高い閾値によって選別された高さデータを削除することで分離データを抽出し、各閾値によって抽出されるそれぞれの分離データから各移動体の位置及び高さを関連付ける移動体認識処理を行い、
続いて、今回走査時に実施した各移動体の移動体認識処理結果と、少なくとも前回走査時に実施した移動体認識処理結果に基づいて予測される各移動体の移動状態予測結果とから移動体の同一性判定を行って各移動体を認識する
ことを特徴とする移動体検出方法。
【請求項2】
前記同一性判定は、今回及び前回走査時に実施した移動体認識処理結果に基づいて、一の閾値によって抽出されたそれぞれの分離データに属する移動体同士を逐次比較して、移動体の予測される移動方向に見て、2つの移動体の位置が最も近接しているもの同士を同一移動体と認識する
ことを特徴とする、請求項1に記載の移動体検出方法。
【請求項3】
前記同一性判定は、前回及び前回以前の走査時に実施した移動体認識処理結果に基づいて演算される動的変化から、認識された移動体の今回走査時における移動位置を予測し、今回走査時に実施した移動体認識処理によって関連付けた各移動体の位置と、予測した移動位置とを比較し、最も蓋然性が高い移動体同士を同一移動体と認識することを特徴とする、請求項1に記載の移動体検出方法。
【請求項4】
前記同一性判定において、同一と認識するべき移動体が存在しないとき、新規に検出した移動体と認識することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の移動体検出方法。
【請求項5】
レーザ光を発する投光部と、
この投光部から発したレーザ光を測定エリア面で走査する走査部と、
前記測定エリア面内に存在する移動体で反射して戻った反射レーザ光を前記走査部を介して受ける受光部と、
前記投光部にレーザ光の投光指令を発すると共に前記走査部による走査を制御する制御部と、
この制御部から与えられるレーザ光の投光タイミング及び前記受光部から与えられる反射レーザ光の受光タイミングにより飛光時間を計測して、前記測定エリア面を移動する複数の移動体の三次元データを取得する信号処理部を備え、
前記信号処理部では、レーザ光の走査毎に取得される各移動体の三次元データを測定エリア面上の距離に関連付けて、距離の近い移動体同士の三次元データをグループ化する処理と、該三次元データを複数の高さの閾値で選別する処理と、この処理で得た複数の高さデータのうちの前記一の閾値によって選別された高さデータから、この高さデータに含まれ、当該一の閾値より高い閾値によって選別された高さデータを削除することによって分離データを抽出し、各閾値によって抽出されるそれぞれの分離データから各移動体の位置及び高さを関連付けて前記移動体を認識する処理と、今回走査時に実施した各移動体の移動体認識処理結果、及び、少なくとも前回走査時に実施した移動体認識処理結果に基づいて予測される各移動体の移動状態予測結果から移動体の同一性判定を行って各移動体を認識する処理を行う
ことを特徴とするレーザ距離測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−106829(P2011−106829A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258968(P2009−258968)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】