説明

積層シートおよび積層シートの製造方法

【課題】高強度繊維からなる織編物の上下面にポリマー層を積層した積層シートであって、軽量かつ表面の平滑性、耐衝撃性に優れた積層シートおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】高強度繊維からなる織編物の上下両面にポリマー層を有し、前記上面および下面のポリマー層が異なるガラス転移点を有する樹脂で構成されていることを特徴とする積層シート。この積層シートは、接着層の間に挟持された高強度繊維からなる織編物の上面および下面に、異なるガラス転移点を有する樹脂シートを積層して積層体と成し、該積層体を前記接着層および低ガラス転移点樹脂シートが軟化する温度まで加熱した後、賦形することにより製造しうるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度繊維からなる織編物の上下面にポリマー層を積層した積層シートおよびその製造方法に関し、詳しくは、軽量かつ表面の平滑性、耐衝撃性に優れた積層シートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鞄用材料としては、皮や布、樹脂が用いられており、例えば、特許文献1には、両側のシェルをポリプロピレン樹脂等の汎用樹脂製、中央フレームをガラス繊維強化ナイロン樹脂製とするスーツケースが提案されている。また、特許文献2には、熱可塑性樹脂を結合材として含む天然繊維からなる不織布状基体層と熱可塑性発泡体からなる中間層を有する鞄が提案されている。さらに、特許文献3には、耐切断性を有するシート材としてアラミド繊維とウールを混紡した布地を用いた運搬用ケースが提案されている。しかし、これらの鞄用材料は、いずれも衝撃強度が不十分であり、また、カッターナイフ等で切れやすく、収容物を抜き取られる危険性を有している。
【0003】
一方、繊維強化複合材料は、車両部品、構造材、家電製品の各種ハウジング、防護材等広い分野に使用されているが、軽量でありながら優れた機械的特性を有していることから、スーツケースやアタッシュケース等の鞄材料として注目されはじめており、強化繊維としてポリプロピレン繊維、マトリックス樹脂としてポリプロピレン樹脂を用いた複合材料が鞄用材料として開発されている。しかし、この鞄用材料も耐衝撃性、耐切創性は不十分である。
【0004】
従来、繊維強化複合材料においては、一般にマトリックス樹脂としてエポキシ樹脂など熱硬化性樹脂が多く用いられているが、成形加工が容易な熱可塑性樹脂を用いることも行われている。しかし、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする方法は、高温、高粘度における処理が必要な熱可塑性樹脂の場合には、複合材料の成形工程等で厚みが不均一になりやすく、このため、耐衝撃性等機械的特性の劣るものとなりやすい。
【0005】
そこで、特許文献4には、アラミド繊維織布または不織布と熱可塑性樹脂シートを、交互に接合一体化することにより耐衝撃性に優れた耐衝撃板を製造する方法が提案されている。この方法では、エチレンビニルアルコール共重合体シート9枚とアラミド繊維織布8枚を交互に重ね合わせ、ステンレス板間に挿入し、加熱温度150℃、圧力50kg/cmで30分保持した後、30分冷却することにより、厚さ3mmの板状成形品を得ている。
【特許文献1】特開平9−308515号公報(請求項2)
【特許文献2】特開2002−199921号公報
【特許文献3】特開2007−037809号公報
【特許文献4】特公平5−62592号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献4に記載された板状成形品の製造方法は、簡易形状の量産成形品に適した成形法とは言い難い。
【0007】
本発明は、高強度繊維からなる織編物の上下面にポリマー層を積層した積層シートであって、軽量かつ表面の平滑性、耐衝撃性に優れた積層シートおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、高強度繊維からなる織編物の両面に熱可塑性の接着層を介してポリマー層を形成した積層シートは、成形も容易で簡易形状の量産成形品に適しており、本発明の目的を効果的に達成し得ることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)高強度繊維からなる織編物の上下両面にポリマー層を有し、前記上面および下面のポリマー層が異なるガラス転移点(Tg)を有する樹脂で構成されていることを特徴とする積層シート、
(2)前記織編物とポリマー層の間の少なくとも片面に、接着層を有することを特徴とする、前記(1)に記載の積層シート、
(3)前記織編物を構成する高強度繊維が、アラミド繊維、高強度ポリエチレン繊維、ポリケトン繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール(PBO)繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、耐炎化繊維および炭素繊維よりなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維であることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の積層シート、
(4)前記織編物が、長繊維フィラメント糸を用いた編物であることを特徴とする、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の積層シート、
(5)前記樹脂が、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ABS樹脂、アイオノマー樹脂、ポリウレタン樹脂、メタクリル系樹脂、アクリル系樹脂およびこれらの重合体の構成単位の2種以上からなる共重合体ならびに熱可塑性エラストマーよりなる群から選ばれる樹脂であることを特徴とする、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の積層シート、
(6)前記接着層を構成する接着剤が、ポリアミド系およびエチレン−酢酸ビニル共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂であることを特徴とする、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の積層シート、
(7)前記ポリマー層のうち、下面(または上面)を構成する樹脂が、ABS樹脂、ポリエステル系樹脂またはポリアミド系樹脂であり、上面(または下面)を構成する樹脂が、メタクリル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性エラストマーまたはアイオノマー樹脂であることを特徴とする、前記(1)〜(6)のいずれかに記載の積層シート、
(8)鞄用材料として用いられることを特徴とする、前記(1)〜(7)のいずれかに記載の積層シート、
(9)接着層の間に挟持された高強度繊維からなる織編物の上面および下面に、異なるガラス転移点を有する樹脂からなる2枚の樹脂シートを積層して積層体と成し、該積層体を前記接着層および低ガラス転移点樹脂シートが軟化する温度まで加熱した後、賦形することを特徴とする積層シートの製造方法、
(10)前記積層体を、低ガラス転移点樹脂シートが下面になるように雄型上に配置し、真空成形により賦形することを特徴とする、前記(9)に記載の積層シートの製造方法、
(11)前記低がラス転移点樹脂シートに、真空吸引のための小孔が設けられていることを特徴とする、前記(10)に記載の積層シートの製造方法、
(12)前記加熱温度が、低ガラス転移点樹脂シートのガラス転移点以上、高ガラス転移点樹脂シートの融点未満の温度範囲である、前記(9)〜(11)のいずれかに記載の積層シートの製造方法、
(13)前記加熱温度が150〜220℃であることを特徴とする、前記(9)〜(12)のいずれかに記載の積層シートの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の積層シートは、高強度繊維からなる織編物基材の上下両面にガラス転移点の異なるポリマー層を有するため、真空成形が容易であると共に、表面が平滑なため美観も良好であり、耐衝撃性に優れているため空輸時や落下時の衝撃、特に寒冷地や低温条件下における衝撃に耐えるものとなる。
【0011】
本発明の積層シートを材料とした鞄は、カッターナイフ等で切れにくいため、収容物を抜き取られる危険性が極めて低く、しかも表面が平滑で耐衝撃性にも優れているため、アタッシュケース、スーツケース等として好適である。特に、アラミド繊維を使用した材料は耐火性および難燃性を有するため、火災から鞄の収容物を護ることができる。また、剛性が高い(硬い)ため、長期間の使用や衝撃によって変形したり、壊れたりすることが無い。
【0012】
本発明の積層シートの製造方法によれば、オートクレーブ成形等に比べて冷却時間を極端に短くすることが可能となるため、耐衝撃性に優れる積層シートを比較的短時間で製造することができ、特に真空成形で賦形することによって表面の平滑性に優れた積層シートを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る積層シートは、高強度繊維からなる織編物の上下両面にポリマー層を有し、前記上面および下面のポリマー層が異なるガラス転移点を有する樹脂で構成されていることを特徴とするものである。
【0014】
本発明で使用される高強度繊維としては、引張強度が約13cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは約15cN/dtex以上である。具体的に、高強度繊維としては、アラミド繊維、高強度ポリエチレン繊維、ポリケトン繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール(PBO)繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、耐炎化繊維および炭素繊維よりなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維を挙げることができる。本発明に係る高強度繊維は、上記繊維を単独で使用してもよく、2種以上を併用して使用してもよい。
【0015】
上記の高強度繊維の中でも、織編物への加工のし易さの点から、アラミド繊維、高強度ポリエチレン繊維、ポリケトン繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール(PBO)繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維が好ましく、特に、高耐熱性かつ高弾性率である点からパラ系アラミド繊維が好ましい。
【0016】
上記の高強度繊維は、公知またはそれに準ずる方法で製造したもの、あるいは、市販の繊維を使用することができる。例えば、メタ系アラミド繊維としては、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(デュポン社製「ノーメックス」)、パラ系アラミド繊維としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン株式会社製「ケブラー」)もしくはコポリパラフェニレン−3,4'−ジフェニルエーテルテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ株式会社製「テクノーラ」)、高強度ポリエチレン繊維としては、東洋紡績株式会社製「ダイニーマ」、全芳香族ポリエステル繊維としては、クラレ株式会社製「ベクトラン」、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維としては、東洋紡績株式会社製「ザイロン」等が挙げられる。ポリケトン繊維としては、繰り返し単位の95質量%以上が1−オキソトリメチレンにより構成されるポリケトン(PK)繊維、ポリエーテルケトン(PEK)繊維、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)繊維、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)繊維などが挙げられる。
【0017】
高強度繊維の繊度は特に限定されないが、通常、50〜10,000dtex、好ましくは200〜6,500dtex、より好ましくは750〜3,500dtexのものを用いる。繊維の繊度が小さくなる程薄い織編物となり、繊度が大きくなる程厚い織編物となる。
【0018】
織編物としては、短繊維加工糸または長繊維フィラメント糸を製織または製編した織物または編物を用いることができる。織物としては、高強度繊維を一方向に配列させたいわゆるトウシートや、前記繊維糸状を一方向または二方向に配列させた一方向性織物や二方向性織物、三方向に配列させた三軸織物等が挙げられる。トウシートにおいては、基材への樹脂含浸性を向上させるためにストランド間に適度の隙間を確保するように前記繊維を配列するとよい。編物としては、丸編機等のよこ編機、トリコット編機、ラッセル編機、ミラニーズ編機等のたて編機で製編したものが挙げられる。
【0019】
各種織編物の形態の中でも、織物は積層シートとして賦形した際に伸縮性を欠くため衝撃吸収能が比較的小さいのに対し、編物は伸縮性が有り繊維が移動することにより衝撃を吸収する作用が有る。従って、織物よりも編物が好ましい。また、高強度という点では、短繊維加工糸よりも長繊維フィラメント糸が好ましく、かかる長繊維フィラメント糸にタスラン加工やインターレース加工等を施したエアー交絡糸;加撚−熱固定−解撚糸(捲縮糸);仮撚加工糸;押込加工糸等であってもよい。
【0020】
織編物の目付は、50〜500g/mが好ましく、より好ましくは50〜450g/m、更に好ましくは75〜400g/mの範囲内である。目付が大きすぎると、溶融した熱可塑性樹脂を短時間で含浸させることが困難となるため、接着性が不良になるおそれがある。一方、目付が小さすぎると、得られる積層シートの衝撃吸収性が不十分になるおそれがある。織編物は、通常1枚で使用すれがよいが、2枚以上を重ね合わせて使用してもよい。
【0021】
織編物を挟持する接着層としては、低融点の熱可塑性樹脂シートが好ましく用いられる。このような樹脂素材としては、例えば、ポリアミド系樹脂、エチレン−酢酸ビニル(EVA)共重合体、アクリル系共重合体(エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体)等が挙げられる。これらの樹脂素材の中でも、ポリアミド系樹脂およびエチレン−酢酸ビニル(EVA)共重合体が好ましい。エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂の酢酸ビニル含有量は、10〜40重量%の範囲であることが好ましい。酢酸ビニル含有量が10重量%以上のEVA共重合体を使用することにより、織編物との接着性が良好となり、積層シートを製造する際に高温を必要としないため成形性も良好となる。また、酢酸ビニル含有量が40重量%以下のEVA共重合体を使用することにより、ブロッキングが生じにくく扱い易くなる。樹脂素材は、成形温度を考慮すると、融点が200℃以下の樹脂が好ましい。接着シートは、フィルム、シート、多孔質フィルム、メッシュ状シート、不織布など任意の形状であってよい。シート厚さとしては、0.05〜2mm程度のものが好適に用いられる。この接着シートは加熱、冷却後は接着層を構成する。
【0022】
ポリマー層を構成する樹脂としては、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂のいずれでもよいが、上面または下面(真空成形により賦形する場合は下面)に積層される樹脂のうち、少なくとも1つが、ガラス転移点を有する熱可塑性樹脂であることが好ましい。より好ましくは、上下両面が熱可塑性樹脂であることが望ましい。
【0023】
積層される熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリメチルメタクリレート樹脂等のメタクリル系樹脂;アクリル系樹脂;ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂等のポリスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、ポリ1,4−シクロヘキシルジメチレンテレフタレート(PCT)樹脂等のポリエステル系樹脂;6−ナイロン樹脂、6,6−ナイロン樹脂等のポリアミド(PA)系樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリフェニレンオキサイド(PPO)樹脂、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリスルホン(PSF)樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、ポリケトン樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、フッ素(F)樹脂、ポリウレタン樹脂;液晶ポリエステル樹脂等の液晶ポリマー樹脂;ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系またはフッ素系等の熱可塑性エラストマー;またはこれらの共重合体樹脂や変性樹脂;アイオノマー樹脂等を挙げることができる。これらの樹脂の中から、ガラス転移点の異なる2種類の樹脂を用いることができる。これらの樹脂の中でも、積層される熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ABS樹脂、アイオノマー樹脂、ポリウレタン樹脂、メタクリル系樹脂、アクリル系樹脂およびこれらの重合体の構成単位の2種以上からなる共重合体ならびに熱可塑性エラストマーよりなる群から選ばれる樹脂であることが好ましい。
【0024】
上記のアイオノマー樹脂としては、エチレン−不飽和カルボン酸共重合樹脂のカルボキシル基の一部を金属イオンで中和してなるエチレン系アイオノマー樹脂が挙げられる。通常、カルボキシル基の10モル%以上、好ましくは10〜90モル%を金属イオンで中和したものが使用される。金属イオンとしては、リチウム、ナトリウムなどのアルカリ金属、亜鉛、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属のような多価金属イオンを挙げることができる。
【0025】
これらの熱可塑性樹脂のなかでも、高強度繊維の融点よりも低融点の樹脂が、積層シートの製造時に織編物の形態を崩すことなく効率よく加工できるので好ましく、特に下面側に用いる樹脂は、接着シートとの接着性に優れた樹脂が好ましい。かかる樹脂としては、例えば、ABS樹脂、ポリエステル系樹脂(中でも、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂が好ましい)、ポリアミド系樹脂(中でも、6−ナイロン樹脂、6,6−ナイロン樹脂が好ましい)等を挙げることができる。
【0026】
本発明の積層シートを鞄用材料として用いる場合は、表面光沢が有り、見た目にも美しい外観を有すると共に、引掻き強度、耐衝撃強度にも優れる樹脂を、上面側に用いることが好ましい。かかる樹脂としては、例えば、メタクリル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性エラストマー、アイオノマー樹脂等を挙げることができる。なお、本発明の積層シートを用いて鞄を作製する場合は、上面側の樹脂が鞄の表側で下面側の樹脂が鞄の裏側になるようにするのがよい。
【0027】
本発明で使用される熱可塑性樹脂は、本発明の目的を損なわない程度で、難燃剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、ワックス類、着色剤または結晶化促進剤等の添加剤を含有していてもよい。上記添加剤は、単独で用いても、複数の組合せで用いてもよい。
【0028】
本発明に係る積層シートの製造方法において、織編物は公知の方法で作製したものを使用することができる。織編物と樹脂シートを積層する前に、織編物および樹脂シートに対して前処理を予め施してもよい。前処理は、織編物および/または樹脂シートの全体に対して行ってもよいし、一部、好ましくは両者の積層面に対して行ってもよい。
【0029】
かかる前処理としては、織編物を予め加熱する処理、コロナ放電処理、電子照射処理、紫外線照射処理、フレームプラズマ処理、大気圧プラズマ処理または低圧プラズマ処理等が好適な処理として挙げられる。前処理は、公知の手段を使用してよく、例えばコロナ放電装置による処理、温風加熱、ヒーターによる加熱等が挙げられる。これらの手段は、単独で用いてもよいし、2以上の手段を組み合せてもよい。このような処理により、織編物の接着シートあるいは樹脂シートとの積層面に一定以上の活性化点を生成し、樹脂シートとの強固な接着が可能になる。
【0030】
本発明に係る積層シートの製造方法においては、最初に織編物を接着シートで挟持し、織編物の形態を保持するようにしながら、それをガラス転移点の異なる2枚の樹脂シートの間に配置して積層体を得る。織編物を挟持した接着シートと2枚の樹脂シートは、単に両者を重ね合せるだけでもよい。
【0031】
本発明では、織編物と接着シートと樹脂シートの多層積層体を、該積層体の接着シートおよび低ガラス転移点樹脂シートが軟化する温度まで加熱した後、賦形する。加熱によって接着シートが軟化するため、賦形後は織編物とポリマー層を構成する樹脂の間に少なくとも片面に接着層が形成される。ここで、「少なくとも片面に接着層が形成される」とは、加熱温度や賦形方法によって接着層が織編物の両面に形成される場合と片面に形成される場合とがあることを意味する。賦形方法としては、公知の手段を用いることができるが、真空成形により賦形することが、経済性の点から好ましい。この場合、前記積層体を、低ガラス転移点(Tg)樹脂シートが下面になるように雄型上に配置し、もう一方の高ガラス転移点(Tg)樹脂シートが上面になるように配置することが好ましい。
【0032】
真空成形において、加熱温度は使用する低ガラス転移点樹脂シートが軟化する温度以上とすることが好ましく、真空成形時に雄型に設けた小孔から真空吸引されることによって、高強度繊維織編物が低ガラス転移点樹脂シートの中に埋没し、織編物の形態が良好に保持されるようになる。加熱温度は、樹脂の素材によっても異なるため、低ガラス転移点樹脂シートを構成する樹脂のガラス転移点(Tg)以上、高ガラス転移点樹脂シートを構成する樹脂の融点未満とするのが好ましく、特に好ましくは、(Tg+約30℃)〜(Tg+約70℃)の温度範囲が好ましい。Tgよりも約30℃高い温度以上で加熱することで賦形が容易になり、Tgよりも約70℃高い温度以下で加熱することで高ガラス転移点樹脂が軟化して表面が凸凹になるのを防ぐことができる。好ましい樹脂シートの組合せを考慮すれば、加熱温度は150〜220℃の範囲が好ましく、より好ましくは150〜200℃の範囲である。
【0033】
また、賦形時の圧力は、特に限定するものではないが、上面側に配置した高ガラス転移点樹脂シートの波打ち現象を防ぐため、−10×10Pa以下に減圧することが好ましい。減圧が充分でないと、得られる成形品の中にボイドが残留してしまい、良好な成形品を得ることができない。減圧方法としては真空ポンプ等の一般的な装置を利用することができる。
【0034】
さらに、積層体を構成する材料中にボイドが残存することを防止すると共に、前記の波打ち現象を防止する点からは、織編物の下面側に配置した樹脂シートに、真空吸引のための小孔を設けることが好ましい。小孔の数は特に限定されるものではなく、樹脂シートの素材、厚みを考慮して適宜設ければよい。このような小孔は、鞄などに賦形した場合は裏側材料となるため、鞄の美観を害することもない。
【0035】
このようにして得られた積層シートは、耐衝撃性、耐切創性および剛性に優れ、スーツケースやアタッシュケースのような鞄用材料として好適なものとなる。特に、強化繊維としてアラミド繊維を用いると難燃性、耐火性にも優れ、表面にポリカーボネート樹脂層、アイオノマー樹脂層を有する積層シートは、耐摩耗性にも優れるものとなる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例および比較例を用いて更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例に用いた織編物は、次の通りである。
【0037】
(1)アラミド繊維編物;ラッセル編編物、KEVLAR(R)29、3300dtex、目付260g/m
(2)アラミド繊維織物:平織物、KEVLAR(R)29、1500dtex、目付220g/m
【0038】
(実施例1)
直径0.7mmの小孔を1個/10cm程度設けた厚さ1.5mmのABS樹脂(Tg:120℃)シートの上に、アラミド繊維編物を2枚の、厚さ約0.2mmのポリアミド系樹脂(アロン エバーグリップ リミテッド社製テルメルト865、軟化点155℃)からなる接着シートの間に挟んだものを配置し、その上に、厚さ1mmのポリカーボネート樹脂(Tg:150℃)シートを配置して、積層体を得た。
【0039】
図1に示すように、得られた積層体1を180℃に加熱した後、図1に示す形状の雄型2上に配置し、真空ポンプにて9000(Pa)まで減圧し、この状態で約1分間保持した後、型から取り出し室温まで冷却し、積層シートを作製した。
【0040】
得られた積層シートの端をトリミングすることにより、鞄の外側ケースとして好適な積層体を得た。
【0041】
(実施例2)
小孔を設けていない厚さ1mmのABS樹脂シートの上に、実施例1同様、アラミド繊維編物を2枚のポリアミド系樹脂からなる接着シートの間に挟んだものを配置し、その上に、厚さ1mmのポリカーボネート樹脂シートを配置して、積層体を得た。得られた積層体を、実施例1と同様の条件で加熱成形し、積層シートを作製した。
【0042】
(実施例3)
アラミド繊維編物の替わりに、アラミド繊維織物を使用した以外は、実施例1と同様の条件にて積層シートを作製した。
【0043】
(比較例1)
2枚のポリアミド系樹脂からなる接着シートで挟んだアラミド繊維編物の上面と下面に、実施例1で用いた厚さ1.5mmのABS樹脂シート(上面)と厚さ1mmのABS樹脂シート(下面)を配置し、実施例1と同様の条件にて積層シートを作製した。
【0044】
(比較例2)
2枚のポリアミド系樹脂からなる接着シートで挟んだアラミド繊維編物の上面と下面に、実施例1で用いた厚さ1mmのポリカーボネート樹脂シート(下面)と厚さ1.5mmのポリカーボネート樹脂シート(上面)を配置し、実施例1と同様の条件にて積層シートを作製した。
【0045】
(ガラス転移点)
JIS K 7121:1987「プラスチックの転移温度測定方法」に準拠した。
【0046】
(耐衝撃性試験)
落錘衝撃試験(試験装置INSTORON Dynatup 9250HV)を用い、サンプルの耐衝撃性を試験した。試験条件は、φ12.7mm半球型のストライカを用い、サンプルに与える衝撃エネルギーを80Jとして実施し、衝撃吸収エネルギー特性を求めた。
【0047】
(表面平滑性)
JIS B 0601:2001「製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−用語,定義及び表面性状パラメータ」に準拠し、積層シートの中央部の縦・横各10mmの範囲における、横方向(Y)と縦方向(T)の、断面曲線パラメータ(Pz)を検査した。
カットオフ(Ls):2.5mm
フィルタ:プライマリ
フォーム:LSライン
【0048】
実施例および比較例で得た積層シートの評価結果を表1にまとめて示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1の結果から本発明の積層シートは、見た目も良好で、表面は平滑で波打ち現象が殆んど無く(図2〜3参照)、しかも、耐衝撃性に優れるものであった。
【0051】
これに対し、比較例の積層シートは、見た目にも表面が波打っているため商品価値が乏しく、平滑性に劣るものであった(図4〜7参照)。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の積層シートは、軽量で、表面平滑性、耐衝撃性、剛性、耐切創性(耐刃物性)を有し、使用する織編物や樹脂シートを選択することによって、耐火性、難燃性および耐摩耗性を有する材料となり得る。そのため、アタッシュケース、スーツケースなどの鞄用材料に好適に利用することができる。その他、車輌用内装材や構造材、産業用繊維資材、家電製品の各種ハウジング、インテリア材、防護材、家具、楽器、家庭用品等として使用される各種の成形品とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の積層シートの真空成形による製造工程を示す概略側面図である。
【図2】実施例1で作製した積層シートの断面曲線パラメータ(Y)を示す図である。
【図3】実施例1で作製した積層シートの断面曲線パラメータ(T)を示す図である。
【図4】比較例1で作製した積層シートの断面曲線パラメータ(Y)を示す図である。
【図5】比較例1で作製した積層シートの断面曲線パラメータ(T)を示す図である。
【図6】比較例2で作製した積層シートの断面曲線パラメータ(Y)を示す図である。
【図7】比較例2で作製した積層シートの断面曲線パラメータ(T)を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1:積層シート
2:雄型
3:成形台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強度繊維からなる織編物の上下両面にポリマー層を有し、前記上面および下面のポリマー層が異なるガラス転移点(Tg)を有する樹脂で構成されていることを特徴とする積層シート。
【請求項2】
前記織編物とポリマー層の間の少なくとも片面に、接着層を有することを特徴とする、請求項1に記載の積層シート。
【請求項3】
前記織編物を構成する高強度繊維が、アラミド繊維、高強度ポリエチレン繊維、ポリケトン繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール(PBO)繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、耐炎化繊維および炭素繊維よりなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維であることを特徴とする、請求項1または2に記載の積層シート。
【請求項4】
前記織編物が、長繊維フィラメント糸を用いた編物であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の積層シート。
【請求項5】
前記樹脂が、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ABS樹脂、アイオノマー樹脂、ポリウレタン樹脂、メタクリル系樹脂、アクリル系樹脂およびこれらの重合体の構成単位の2種以上からなる共重合体ならびに熱可塑性エラストマーよりなる群から選ばれる樹脂であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の積層シート。
【請求項6】
前記接着層を構成する接着剤が、ポリアミド系およびエチレン−酢酸ビニル共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の積層シート。
【請求項7】
前記ポリマー層のうち、下面(または上面)を構成する樹脂が、ABS樹脂、ポリエステル系樹脂またはポリアミド系樹脂であり、上面(または下面)を構成する樹脂が、メタクリル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性エラストマーまたはアイオノマー樹脂であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の積層シート。
【請求項8】
鞄用材料として用いられることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の積層シート。
【請求項9】
接着層の間に挟持された高強度繊維からなる織編物の上面および下面に、異なるガラス転移点を有する樹脂からなる2枚の樹脂シートを積層して積層体と成し、該積層体を前記接着層および低ガラス転移点樹脂シートが軟化する温度まで加熱した後、賦形することを特徴とする積層シートの製造方法。
【請求項10】
前記積層体を、低ガラス転移点樹脂シートが下面になるように雄型上に配置し、真空成形により賦形することを特徴とする、請求項9に記載の積層シートの製造方法。
【請求項11】
前記低ガラス転移点樹脂シートに、真空吸引のための小孔が設けられていることを特徴とする、請求項10に記載の積層シートの製造方法。
【請求項12】
前記加熱温度が、低ガラス転移点樹脂シートのガラス転移点以上、高ガラス転移点樹脂シートの融点未満の温度範囲である、請求項9〜11のいずれかに記載の積層シートの製造方法。
【請求項13】
前記加熱温度が150〜220℃であることを特徴とする、請求項9〜12のいずれかに記載の積層シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−279700(P2008−279700A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−127355(P2007−127355)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(399070044)株式会社ヤマニ (7)
【出願人】(500152267)丸八株式会社 (12)
【出願人】(507155203)有限会社エー・テック (8)
【出願人】(505084723)株式会社三興 (8)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】