説明

積層チップ

【課題】 積層型のマイクロチップを用いて化学反応を行わせるに際して、その温度制御を精度高く行うことができるようにする。
【解決手段】 シリコン基板10の表裏両面に、化学物質を通す1mm以下の幅の流路を形成する。前記流路は、前記シリコン基板10を貫通する孔により連絡されている。積層チップは、前記シリコン基板10の表裏両面に接合して積層された第1および第2のガラス板20,30を有し、前記第1および第2のガラス板20,30の少なくとも一方には、加熱手段としてのITO膜と、白金及び電極よりなる温度検知手段とが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン基板上に化学物質を通す流路が1mm以下のμmレベルの幅で形成されるマイクロチップ等のチップ技術に関し、特に、精度の高い温度制御が必要とされる酵素活性等の評価に適用して有効な技術である。
【背景技術】
【0002】
以下に説明する技術は、本発明を完成するに際し、本発明者によって検討されたものであり、その概要は次のとおりである。
【0003】
近年、基板上に幅1mm以下のμmオーターの流路を形成し、かかる流路に化学物質を流すことで、マクロスケールで行う場合とは異なり、微量試料で、多種類の反応を、同時並行で、短時間で効率的に行う技術が提案されている。
【0004】
かかる技術の中には、化学物質を通す流路が形成された基板を複数枚積層し、各層の流路を連絡することで、3次元的に流路の拡大を行う技術も提案されている。非特許文献1には、複数枚の積層構成とすることで、流路内で生成する化学反応物質の収量拡大も容易に行えることが示されている。
【0005】
かかるマイクロチップを用いた反応でも当然に温度制御が求められ、従来の一般的な温度制御は、恒温槽内にマイクロチップごと所要時間放置して、マイクロチップ自体の温度が恒温槽内の温度と平衡して設定温度になるのを待つ方法であった。しかし、かかる手法では、反応温度を制御するのに時間と手間がかかり、反応状況に応じて温度を適宜に変更してその状況確認をするという温度制御は実質的に不可能に近かった。
【0006】
温度制御に関しては、特許文献1に、ITO膜をパターニングして加熱手段を形成し、さらに、別途蛇行線状にITO膜をパターニングして温度センサとして構成する技術も提案されている。
【非特許文献1】Y.Kikutani、”Pile-up glass microreactor”Lab Chip、2002、2、p193-196
【特許文献1】特開平2002−85961号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の如く、マイクロチップの温度制御はとして恒温槽に所定時間放置したり、あるいはガラス基板上にITO膜を成膜して加熱手段、センサ手段として構成する等、種々の提案がなされている。しかし、いまだ十分に温度制御が行えないのが現状である。特に、生体内の酵素反応を調べるような場合には、酵素反応が極めて温度に鋭敏であるためより精度の高い温度制御が求められ、これまでの提案技術では十分とは言えなかった。
【0008】
本発明者は、生体内の酵素反応が、環境汚染物質でどのような影響を受けるか試験を行うに当たって、微量試料で、多数の環境物質の影響を、同時並行的に短時間で調査すべく、複数積層型のマイクロチップの使用を考えた。しかし、これまでの提案の技術ではかかる複数積層型の構成では十分に精緻な温度制御が行えないことに気づいた。
【0009】
本発明の目的は、積層型のマイクロチップを用いて化学反応を行わせるに際して、その温度制御を精度高く行うことにある。
【0010】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0012】
すなわち、本発明は、その表裏両面に、化学物質を通す1mm以下の幅の流路が形成された基板であって、前記流路は、前記基板を貫通する孔により連絡されている基板と、前記基板の表裏両面に接合して積層された第1および第2の板状体とからなり、前記第1および第2の板状体の少なくとも一方には、加熱手段と、温度検知手段とが設けられていることを特徴とする。
【0013】
かかる構成において、前記加熱手段は、前記表裏両面の一方の面に積層される前記ガラス板にのみ設けられ、前記温度検知手段は、前記表裏両面の他方の面に積層される前記ガラス板に設けられていることを特徴とする。以上いずれかの構成において、前記加熱手段は、前記ガラス板に成膜された発熱体と電極とで構成され、前記電極を介して前記発熱体に電流を流すことで前記発熱体を温度調節可能に発熱させる手段であることを特徴とする。以上いずれかの構成において、前記加熱手段が設けられた前記ガラス板は、その板厚が、積層する前記シリコン基板、前記加熱手段を設けない前記ガラス板よりも薄く形成されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明では、以上いずれかの構成において、前記流路は、ICP加工により形成されていることを特徴とする。マイクロチップ等のチップにおける流路形成に際しては、上記の如く、流路形成基板材料としてシリコン基板を用い、誘導結合プラズマ(ICP)を用いて加工することで、マイクロチップ内の流路構造の均一性を確保するようにした。
【0015】
かかる加工方法を特に採用することで、複数形成される流路間の構造の欣一成が確保でき、さらに、チップ間の流路構成に関しての均一性を確保して、積層チップを用いた実験等における再現性の向上を図ることができる。
【0016】
尚、本明細書では、流路の幅、深さがともに1mm以下のものを、特にマイクロチップと呼ぶこととし、単にチップと言う場合には、かかるマイクロチップをも含めて、マイクロチップサイズよりも大きなサイズのものも包含するものとする。
【発明の効果】
【0017】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0018】
本発明により、化学物質を通す1mm以下の幅の流路が形成されたシリコン基板を有する積層チップでの温度制御を精緻に行うことができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0020】
本発明は、反応の温度制御が精緻に行える積層チップに関する技術で、特に流路を熱伝導性の良好なシリコン等の材料よりなる基板に着目し、かかるシリコン等の基板にホウ珪酸ガラス等のガラス板よりなるガラス材を貼り合わせ、貼り合わせ手段を陽極接合や熱融着等の接合に着目し、このガラス板上に加熱手段と温度検知手段とを設けることで、精緻な温度制御を可能としたものである。
【0021】
図1は、本発明にかかる積層チップの積層構造を示す説明図である。図1に示すように、本発明の積層チップ100は、シリコン基板10を間に挟んで、上にガラス板20、下にガラス板30を積層した構成を有している。図1に示す場合には、ガラス板20と、シリコン基板10とは同じ厚さに形成され、例えば1mmに形成されている。ガラス板30は、シリコン基板10、ガラス板20よりもかなり薄く形成され、図1に示す場合には、0.2mmに形成されている。積層チップ自体の大きさも、例えば、30mm×24mm四方のマイクロチップサイズに形成されている。
【0022】
ガラス板20および30の材料としては、たとえばホウ珪酸ガラスや石英ガラスを利用することができ、具体的には、一般にパイレックス(登録商標)という商品名で市販されているものを使用することができる。
【0023】
シリコン基板10とその表面10a側に設けられるガラス板20とは、陽極接合により高強度に接合されている。同様に、シリコン基板10とその裏面10b側に設けられるガラス板30とは、陽極接合により高強度に接合されている。接合方法として種々の手段が提案されているが、本発明者は実験で、温度制御を精緻に行うとの観点から、現行の種々の貼り合わせ手段の中では、この陽極接合が最適であることを見出した。
【0024】
シリコン基板10では、図2(a)、(b)に示すように、その表面10a側、裏面10b側の両面に、流路11が形成されている。かかる流路11は、シリコン基板10に対してICP加工を適用することで、高精度に形成されている。かかる表裏両面に形成された流路11は、シリコン基板10を上下に貫通する孔h(図6参照)で連絡されている。
【0025】
かかるシリコン基板10への流路形成は、加工精度を重視した加工方法を採用して行った。例えば、図3に示すような作業手順で行われる。図3(a)は流路の形成手順を示しフロー図であり、(b)〜(f)は(a)に示す各ステップの内容を模式的に示す説明図である。
【0026】
シリコン基板10には、図3(a)のステップS100で、図3(b)に示すように、シリコン基板10上に、スパッタリング等の手段で所定層厚にCrを堆積させてCr膜41を形成する。その後、Cr膜41上に、感光性物質であるフォトレジストを所定層厚で塗布してフォトレジスト膜42を形成する。
【0027】
ステップS200で、フォトリソグラフィーにより、シリコン基板10上に流路11のパターンを形成するマスクを作成する。すなわち、先ず、流路形成用のマスクを用意し、ステップS100で形成したフォトレジスト膜42上に、所定波長の光を露光する。その後、現像処理してフォトレジスト膜42のパターニングを行う。かかるパターニングされたフォトレジスト膜42をマスクとして、Cr膜41をパターニングする。このようにして、図3(c)に示すように、シリコン基板10用のマスクを形成する。
【0028】
ステップS300で、ICPマルチビーム加工装置等を用いて、プラズマガスとしてSFを照射し、パターニングされたCr膜41を直接のマスクとして、シリコン基板10をドライエッチングし、図3(d)に示すように、流路11に相当する溝を形成する。
【0029】
ステップS400で、図3(e)に示すように、流路11のマスクとして使用したフォトレジスト膜42、Cr膜41を除去する。このようにして、シリコン基板10上に、流路間における実質的な不均一成がない流路を形成する。
【0030】
流路形成用の基板としてシリコン基板10を選択し、かかるシリコン基板10にICP加工で流路11を形成することで、高精度で、アスペクト比の高い流路11を、流路毎の不均一性が十分に抑制された状態で作成することが可能となった。ガラス基板にICP加工を適用する場合よりも、あるいはシリコン基板10に薬液でウエットエッチングする場合よりも、高精度に流路11が形成される。
【0031】
かかるステップS100からステップS400までの工程を、シリコン基板10の表面10a側、裏面10b側にそれぞれ適用することで、図2(a)、(b)に示すように、シリコン基板10の表裏両面にパターンの異なる流路11が形成されることとなる。
【0032】
このようにしてシリコン基板10の表裏両面に形成された流路11は、図2(a)、(b)に示すように、蛇行状に曲がりくねったパターンに形成されている流路部分を有するが、かかる流路部分が、流路11内に供給された化学物質が反応する反応部(図中、分かりやすいように実線の枠で囲って示した)である。かかる蛇行した反応部の流路長は、予め想定される化学反応に要する時間を、別途バッチ処理等により事前調査しておき、それに基づき設定すればよい。
【0033】
流路11の一部の端部には、図2(a)に示すように、円形部12(12a、12b、12c、12d)が形成され、かかる円形部12が後記する送液口に接続され、試料等が供給されることとなる。
【0034】
また、流路11とは独立して、孔13(13a、13b、13c、13d)が設けられている。孔13は、後記する裏面の流路11に試料等を供給するための送液口との連絡孔として機能することとなる。円形部12が設けられない流路11の端は流路端14(14a、14b、14c、14d、14e、14f)として、シリコン基板10の裏面10b側の他の流路端14と接続するようになっている。
【0035】
シリコン基板10の裏面10b側にも、図2(b)に示すように、流路11が所定のパターンで形成され、流路端12aa、12bb、12cc、12dd、13aa、13bb、13cc、13dd、14cc、14dd、14ee、14ffが形成されている。
【0036】
このように表裏両面に流路11等が形成されたシリコン基板10には、図1に示すように、その表面10a側には、ガラス板20が陽極接合で高強度に接合される。かかるガラス板20は、陽極接合する前に、図4に示すように、その表面20aに所定パターンで白金(Pt)21が成膜され、併せて、かかる白金成膜にかかるように電極22が成膜される。かかる白金21、電極22とで、温度検知手段としての温度センサが形成されることとなる。
【0037】
かかる白金21、電極22の成膜は、シリコン基板10の流路パターンの反応部として示した範囲上に位置するように設けられ、流路11内の反応時の温度がより精緻に検出できるように構成されている。かかる成膜後、さらに、ガラス板20の表面20aに、シリコン基板10の表面10a側の孔13、及び流路端14にそれぞれ符合した個所に、所定口径の孔23、24が設けられる。かかる孔23、24が開口された状態で、図3(a)のステップS500、(f)に示すように、ガラス板20は、シリコン基板10の表面10a側に陽極接合されることとなる。
【0038】
一方、ガラス板30には、図5に示すように、その表面30a側に、白金31、電極32用金属がそれぞれ成膜される。さらに、図5に示すように、発熱体としてのITO(Indium Tin Oxide)膜33が成膜される。かかるITO膜33は、シリコン基板10の裏面10b側に形成された流路11の図2(b)に示す反応部に対応した個所に積層時に位置するように符合させて成膜されている。ITO膜33には、図5に示すように、互い違いに所定間隔離してスリット33aが設けられている。また、白金31と電極32とで温度センサが形成されることとなる。
【0039】
かかる構成のガラス板30は、シリコン基板10の裏面10b側に、図1に示すように、表面30aが外面側となるようにして陽極接合される。陽極接合後、電極32にそれぞれリード線34が半田接続される。かかるリード線34、電極32を介してITO膜33に電流を流すと、ITO膜33が発熱して、かかるITO膜33に対応して設けられているシリコン基板10の裏面10b側の反応部が加熱され、流路11が所定温度に温められることとなる。
【0040】
一方、白金31、電極32とで構成された温度センサで、ITO膜33の発熱による加熱温度がリアルタイムに検知され、リード線34で図示はしない温度制御盤に温度状況が電流値として送られ、予め設定した電流値を超えると、自動的にITO膜33への電流を低下させて温度制御を自動的に行うように構成されている。
【0041】
ガラス板30の上記構成のITO膜33による加熱手段でシリコン基板10は温められるが、シリコン基板10はガラス等に比べて比較的に熱伝導が良好で、ガラス板30により裏面10b側が温められると、まもなくシリコン基板10の表面10a側も同様に温められることとなる。かかるシリコン基板10の表面10a側の温度は、ガラス板20の表面20a側に形成した前述の白金21、電極22とからなる温度センサによりリアルタイムに検知される。
【0042】
検知されたシリコン基板10の表面10a側の温度は、電極22に半田接続されたリード線25で、図示はしない温度制御盤に温度状況が電流値として送られ、予め設定した電流値を超えると、自動的にITO膜33への電流を低下させて温度制御を自動的に行うように構成されている。
【0043】
このようにして、本発明に係る積層チップ100のシリコン基板10の表裏両面に形成された流路11の精緻な温度制御が、ガラス板30に設けたITO膜33等からなる加熱手段、白金21−電極22の組合せからなる温度検知手段等により、行われることとなる。
【0044】
次にシリコン基板10の表裏に形成された流路11の接続関係について、図2(a)、(b)、図4、6を参照して説明する。尚、図6では、流路11の立体的関係が分かりやすいように、ガラス板30の構成は省いてある。また、シリコン基板10と、ガラス板20との相対的厚みも図における流路関係の分かりやすさを優先しており正確な比率を示すものではない。
【0045】
図2(a)に示すシリコン基板10の表面10a側に形成された流路11の円形部12a、12b、12c、12dは、図6に示すように、シリコン基板10内を貫通する孔hにより裏面10b側の流路端12aa、12bb、12cc、12ddにそれぞれ連絡されている。
【0046】
図2(a)に示す表面10a側に形成された孔13a、13b、13c、13dは、図6に示すように、シリコン基板10内を貫通する孔hにより裏面10b側の流路端13aa、13bb、13cc、13ddにそれぞれ連絡されている。一方、図2(a)に示す孔13a、13b、13c、13d、及び流路端14a、14bは、図4に示すように、ガラス板20に設けた孔23a、23b、23c、23d、24a、24bに位置が符合し、孔23a、23b、23c、23d、24a、24bに設けるガラス管で形成される送液口に接続されることとなる。
【0047】
図2(a)に示す流路端14c、14d、14e、14fは、図6に示すように、裏面10b側の流路端14cc、14dd、14ee、14ffに、シリコン基板10内を貫通する孔hによりそれぞれ連絡されている。図2(a)に示す流路端14g、14h、14i、14jは、図4に示すガラス板20に設けた孔24c、24d、24e、24fに位置が符合し、孔24c、24d、24e、24fに設けるガラス管で形成される排出口に接続されることとなる。
【0048】
このようにシリコン基板10の表裏に形成した流路11は、シリコン基板10内を貫通する孔hにより3次元的に接続され、流路11のネットワークが形成されている。ガラス板20に形成された孔23a、23b、23c、23d、24a、24bには、ガラス管51が挿入接続されて、図1に示すように、送液口として試料供給口52が形成されることとなる。一方、孔24c、24d、24e、24fには、ガラス管53が挿入接続され、流路11内を流れて反応した反応生成物が排出される排出口54が形成されることとなる。
【0049】
このように、本発明に係る積層チップ100では、シリコン基板10に、流路11が立体的にネットワークを構成することで複数の反応チャンネルが形成されることとなり、複数の反応を一度に同時並行的に行わせることができる。かかる複数のチャンネルでの同時並行的な反応は、前述の如き精緻な温度制御により、所望の反応温度が保証された状態で行うことができる。さらに、ICP加工を使用することで、流路11間の構造上の不均一成が解消されて、流路11間での実験誤差等が実質的に十分に抑えられた状態で反応が行われるようになっている。
【0050】
本発明者は、生体内の酵素反応が、環境汚染物質によりどの程度の影響を受けるかを、本発明に係る積層チップ100を用いて検証した。
【0051】
酵素として、生化学工業株式会社から入手したキチナーゼspH−8(2000U/g)を使用し、基質として、図7に示す構造の構造多糖キチンであるp−ニトロロフェニル トリ−Nアセチル−β−キトトリオシド(生化学工業株式会社から入手)を用いた。キチナーゼが正常に働く場合には、上記基質が加水分解される。しかし、環境汚染物質の影響で酵素活性が低下すると、かかる加水分解効率が低下することとなる。かかる酵素の反応は、反応温度に極めて敏感であり、精緻な温度制御が必要となる。
【0052】
キチナーゼは、図8に模式的に示すように、植物やヒトを含む様々な生物が持っている酵素で、真菌類、昆虫等の主要な構造多糖であるキチンを加水分解する。そこで、キチナーゼが、体内に侵入した細菌等の細胞膜を溶解することで、細菌を殺し、感染防御ができることとなる。しかし、環境物質によりキチナーゼの酵素反応が阻害されると、かかる感染防御機能が十分に発揮できず、様々な疾病にかかる可能性が高くなる。
【0053】
そこで、本発明者は、上記基質に対してのキチナーゼの酵素反応が、環境物質の一つである多環芳香族炭化水素(例えばアントラセン、ベンゾ[a]ピレンなど)で、どのような影響を受けるか調べた。かかる実験に際しては、キチナーゼ酵素阻害剤CI−4、アロサミジン、及び環境物質として多環芳香族炭化水素を同時並行的に調べた。
【0054】
例えば、前記基質を試薬Aとし、酵素キチナーゼを試薬Bとし、サンプル1としてキチナーゼ阻害剤、サンプル2としてアロサミジン、サンプル3としてCI−4、サンプル4として多環芳香族炭化水素(ベンゾ[a]ピレン)を環境物質として、本発明に係る積層チップでその影響を調べた。
【0055】
すなわち、図6に示す流路構成で、図示はしない供給口を介してガラス板20の孔23a、23b、23c、23dからそれぞれ、サンプル1、2、3、4を供給した。併せて、図示はいない供給口を介して孔24a、24bから、試薬A、試薬Bをそれぞれ供給した。実験条件としては、反応温度を37±2℃に制御し、反応後、炭酸ナトリウムで反応を完了させた。この条件下で、キチナーゼの酵素反応を行わせた。
【0056】
ガラス板20の排出口に対応する孔24cからはサンプル1と試薬Aと試薬Bとの反応生成物が採取した。併せて、孔24dからはサンプル2と試薬Aと試薬Bとの反応生成物を採取した。孔24eからはサンプル3と試薬Aと試薬Bとの反応生成物を採取した。孔24fからはサンプル4と試薬Aと試薬Bとの反応生成物を採取した。このようにして、同時並行的に、複数の反応生成物が得られ、かかる反応生成物を質量分析することによって、サンプル1−4が試薬Aと試薬Bの反応をどれだけ阻害しているかが分かる。
【0057】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0058】
例えば、前記実施の形態の説明では、シリコン基板の両面に積層したガラス板の一方の面に加熱手段として発熱体を設けたが、両方の面に加熱手段を設けても構わない。
【0059】
本発明に係るチップは、前記実施の形態では、数センチ角の微小サイズのマイクロチップに構成した場合を例に挙げて説明したが、しかし、積層チップの大きさはかかるサイズにこだわることなく、大きなサイズの基板面に1mm以下の幅を有する本発明に係る構成を形成しても一向に構わない。
【0060】
また、上記説明では、本発明に係る積層チップを、キチナーゼの生体内での環境物質の影響に関する実験を例に挙げて説明したが、本発明の適用はかかる生体内の酵素反応に限定されるものではなく、精緻な温度制御が必要とされる反応であれば、例えば、合成反応等にも当然に適用しても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、温度制御を精緻に行う必要がある酵素反応等の反応分野で有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係る積層チップの側面図である。
【図2】(a)は積層チップを構成するシリコン基板の表面側の流路形成パターンを示す平面図であり、(b)はその裏面側の状況を示す平面図である。
【図3】(a)はシリコン基板への流路形成の手順を示すフロー図であり、(b)〜(f)は(a)に示す各ステップの内容を模式的に示す説明図である。
【図4】温度センサを有するガラス板の表面状況を示す平面図である。
【図5】加熱手段を有するガラス板の平面状況を示す平面図である。
【図6】シリコン基板の表裏両面に設けた流路の連絡関係を示す説明図である。
【図7】p−ニトロロフェニル トリ−Nアセチル−β−キトトリオシドの化学構造を示す説明図である。
【図8】キチナーゼの酵素機能を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0063】
10 シリコン基板
10a 表面
10b 裏面
11 流路
12(12a、12b、12c、12d) 円形部
13(13a、13b、13c、13d) 孔
14a、14b、14c、14d、14e、14f 流路端
14cc、14dd、14ee、14ff 流路端
20 ガラス板
20a 表面
21 白金
22 電極
23 孔
24 孔
30 ガラス板
31 白金
32 電極
33 ITO膜
41 Cr膜
42 フォトレジスト膜
100 積層チップ
h 孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その表裏両面に、化学物質を通す1mm以下の幅の流路が形成された基板であって、前記流路は、前記基板を貫通する孔により連絡されている基板と、
前記基板の表裏両面に接合して積層された第1および第2の板状体とからなり、
前記第1および第2の板状体の少なくとも一方には、加熱手段と、温度検知手段とが設けられていることを特徴とする積層チップ。
【請求項2】
請求項1記載の積層チップにおいて、
前記基板は、シリコン基板よりなることを特徴とする積層チップ。
【請求項3】
請求項1または2記載の積層チップにおいて、
前記第1および第2の板状体は、ホウ珪酸ガラスよりなることを特徴とする積層チップ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層チップにおいて、
前記第1および第2の板状体は、陽極接合により前記基板に接合して積層されていることを特徴とする積層チップ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層チップにおいて、
前記加熱手段は、前記表裏両面の一方の面に積層される前記板状体にのみ設けられ、
前記温度検知手段は、前記表裏両面の他方の面に積層される前記板状体に設けられていることを特徴とする積層チップ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層チップにおいて、
前記加熱手段は、前記板状体に成膜された発熱体と電極とで構成され、前記電極を介して前記発熱体に電流を流すことで前記発熱体を温度調節可能に発熱させる手段であることを特徴とする積層チップ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層チップにおいて、
前記加熱手段が設けられた前記板状体は、その板厚が、積層する前記基板、前記加熱手段を設けない前記板状体よりも薄く形成されていることを特徴とする積層チップ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の積層チップにおいて、
前記流路は、ICP加工により形成されていることを特徴とする積層チップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−326474(P2006−326474A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−152798(P2005−152798)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【出願人】(592187040)フォトプレシジョン株式会社 (2)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【出願人】(598160029)
【出願人】(505194273)
【Fターム(参考)】