説明

積層構造体およびガラス基板の加工方法

【課題】構造が単純であり、また、歩留まりを向上することができる積層構造体およびガラス基板の製造方法を提供する。
【解決手段】湿式エッチング処理により表面10Aに微細凹凸構造が形成されるガラス基板10と、ガラス基板10の表面10Aに積層配置され、湿式エッチング処理のエッチングマスク11が形成されるマスク材膜11Aと、を備えた積層構造体30において、マスク材膜11Aが、低応力で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMSなどの分野で微細な凹凸パターンを形成される積層構造体およびガラス基板の加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の分野では、シリコンウェハへ微細なパターン加工が中心であったが、DNA(deoxyribonucleic acid)チップに代表されるようなバイオ関係を中心にガラス基板への微細なパターン加工が要求されるようになってきた。
【0003】
ガラス基板に微細な凹部を形成するために、ガラス基板上にマスクを形成してエッチングすると、図6に示すように、凹部10bのエッジ部が欠けて欠陥部23が発生することがあった。その問題を解消するために、特許文献1のような技術を採用することが考えられる。
【0004】
特許文献1では、ガラス基板の表面の中心線平均粗さRaを0.4nm以下に制御し、その表面に耐食性膜(マスク)を形成して、微小凹部をエッチング法にて形成する方法が提案されている。
【0005】
また、所望の凹部を形成することを目的とした特許文献2では、ガラス基板に微細な凹部を形成する方法として、ガラス基板上に、主としてCrOで構成された第1の膜と、その第1の膜の内部応力を相殺または緩和する内部応力を有する主としてCrで構成された第2の膜とでマスクを形成し、第1の膜の平均厚さをX(nm)、第2の膜の平均厚さをY(nm)としたときに、0.01≦X/Y≦0.8の関係を満足するように構成して、凹部をエッチングする方法が提案されている。
【特許文献1】特開平8−220306号公報
【特許文献2】特許第3788800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述の特許文献1に記載された微小凹部付きガラス基板の製造方法は、ガラス基板の表面を平滑に仕上げた上で加工を行うものであるが、表面粗さを調整するだけでは、湿式ガラスエッチングを行う際に、ガラス基板表面の欠陥部の発生を無くすことができず、歩留まりが低下してしまうという問題があった。
【0007】
また、上述の特許文献2に記載されたガラス基板の加工方法は、ガラス基板上にマスクを少なくとも2層形成する必要があり、かつ、それぞれの膜でそれぞれの引張応力と圧縮応力とを相殺させ、それぞれの膜厚を調整する必要があるため、構造が複雑になるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、構造が単純であり、また、歩留まりを向上することができる積層構造体およびガラス基板の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の発明者は、ガラス基板に湿式エッチング処理をすることで、ガラス基板の表面に微細凹凸構造を形成する際に、湿式エッチングのエッチングが進行するとエッチングマスクの下方のガラスが無くなり、庇状になったエッチングマスク(図3参照)に割れが発生し、割れの先端部のエッチングがそれ以外の部分より速く進行することにより、凹部のエッジ部に欠けなどの欠陥を発生させることを見出した。本発明は、エッチングマスクの割れがエッチングマスクとして構成されるマスク材膜の膜応力に起因しているという知見に基づいてなされたものである。
【0010】
請求項1に記載した発明は、湿式エッチング処理により表面に微細凹凸構造が形成されるガラス基板と、該ガラス基板の表面に積層配置され、前記湿式エッチング処理のエッチングマスクが形成されるマスク材膜と、を備えた積層構造体において、前記マスク材膜が、低応力であることを特徴としている。
【0011】
このように構成することで、湿式エッチングによりガラス基板に微細凹凸構造を形成する際に、湿式エッチングが進行してもマスク材膜(エッチングマスク)に割れが発生することがなくなる。したがって、ガラス基板表面に形成される微細凹凸構造のエッジ部に欠けなどの欠陥が生じることなく所望の微細凹凸構造を形成することができる。つまり、ガラス基板に低応力のマスク材膜を形成するだけで実現することができるため、構造を単純にすることができる効果がある。また、ガラス基板表面に確実に微細凹凸構造を形成することができるため、歩留まりを向上することができる効果がある。
【0012】
請求項2に記載した発明は、前記マスク材膜が、低応力の単層膜で構成されていることを特徴としている。
このように構成することで、湿式エッチングによりガラス基板に微細凹凸構造を形成する際に、湿式エッチングが進行してもマスク材膜(エッチングマスク)に割れが発生することがなくなる。したがって、ガラス基板表面に形成される微細凹凸構造のエッジ部に欠けなどの欠陥が生じることなく所望の微細凹凸構造を形成することができる。つまり、ガラス基板に低応力で単層膜のマスク材膜を形成するだけで実現することができるため、構造をより単純にすることができる効果がある。また、ガラス基板表面に確実に微細凹凸構造を形成することができるため、歩留まりを向上することができる効果がある。
【0013】
請求項3に記載した発明は、前記マスク材膜の膜応力が、800MPa以下であることを特徴としている。
このように構成することで、マスク材膜(エッチングマスク)に割れが発生することをより確実に防止することができるため、ガラス基板表面に欠けなどの欠陥が生じることなく所望の微細凹凸構造をより確実に形成することができる効果がある。
【0014】
請求項4に記載した発明は、前記マスク材膜が、クロムを主成分とする酸化膜、窒化膜もしくは炭化膜、またはそれらの複合化合物で構成されていることを特徴としている。
このように、マスク材膜を、クロムを主成分とすることで、ガラス基板への密着性を高めることができるとともに、微細凹凸構造に対応するパターンを形成し易くすることができる。また、マスク材膜に酸素、窒素または炭素などの軽元素を含有させることで、マスク材膜の膜応力を調整しやすくすることができる。したがって、ガラス基板表面に確実に微細凹凸構造を形成することができるため、歩留まりを向上することができる効果がある。
【0015】
請求項5に記載した発明は、ガラス基板表面への微細凹凸構造の形成に適用できるガラス基板の加工方法において、ガラス基板の被加工面にマスク材膜を形成するマスク材膜形成工程と、該マスク材膜に前記微細凹凸構造に対応したマスクパターンを形成してエッチングマスクを形成するエッチングマスク形成工程と、前記エッチングマスクを用いた湿式エッチング処理により前記ガラス基板の被加工面に前記微細凹凸構造をパターン形成するガラスエッチング工程と、を有し、前記マスク材膜が、低応力であることを特徴としている。
【0016】
このように構成することで、湿式エッチングによりガラス基板に微細凹凸構造を形成する際に、湿式エッチングが進行してもマスク材膜(エッチングマスク)に割れが発生することがなくなる。したがって、ガラス基板表面に形成される微細凹凸構造のエッジ部に欠けなどの欠陥が生じることなく所望の微細凹凸構造を形成することができる。つまり、ガラス基板に低応力のマスク材膜を形成するだけで実現することができるため、加工方法を単純にすることができる効果がある。また、ガラス基板表面に確実に微細凹凸構造を形成することができるため、歩留まりを向上することができる効果がある。
【0017】
請求項6に記載した発明は、前記マスク材膜が、低応力の単層膜で形成されていることを特徴としている。
【0018】
このように構成することで、湿式エッチングによりガラス基板に微細凹凸構造を形成する際に、湿式エッチングが進行してもマスク材膜(エッチングマスク)に割れが発生することがなくなる。したがって、ガラス基板表面に形成される微細凹凸構造のエッジ部に欠けなどの欠陥が生じることなく所望の微細凹凸構造を形成することができる。つまり、ガラス基板に低応力で単層膜のマスク材膜を形成するだけで実現することができるため、加工方法をより単純にすることができる効果がある。また、ガラス基板表面に確実に微細凹凸構造を形成することができるため、歩留まりを向上することができる効果がある。
【0019】
請求項7に記載した発明は、前記エッチングマスク形成工程は、前記微細凹凸構造に対応したパターンのレジスト膜を前記マスク材膜の表面に形成する工程と、前記レジスト膜を用いて前記マスク材膜をエッチングしてエッチングマスクを形成する工程と、を有し、前記ガラスエッチング工程では、前記マスク材膜の表面に前記レジスト膜を残した状態で、前記湿式エッチング処理を行うことを特徴としている。
このように構成することで、エッチングマスクにピンホールまたはピンホールになる異物などの欠陥があった場合にも、それらに起因するガラス基板の微細凹凸構造への欠陥の発生をレジスト膜により防止することができる効果がある。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、微細凹凸構造が形成されるガラス基板の被加工面の表面に、低応力のマスク材膜を形成することで、湿式エッチングによりガラス基板に微細凹凸構造を形成する際に、湿式エッチングが進行してもマスク材膜(エッチングマスク)に割れが発生することがなくなる。したがって、ガラス基板表面に形成される微細凹凸構造のエッジ部に欠けなどの欠陥が生じることなく所望の微細凹凸構造を形成することができる。つまり、ガラス基板に低応力のマスク材膜を形成するだけで実現することができるため、加工方法を単純にすることができる。なお、低応力で単層膜のマスク材膜でも実現することができるため、構造をより単純にすることができる。そして、ガラス基板表面に確実に微細凹凸構造を形成することができるため、歩留まりを向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明の実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0022】
図1は、本実施形態におけるガラス基板の加工方法を示すフローチャートである。図2は、図1に示す各工程に概略対応させた断面工程図である。
図1、図2に示すように、微細凹凸構造が形成されるガラス基板10の被加工面10Aを研磨して、研磨後のガラス基板10を洗浄する第1工程S1と、ガラス基板10上にエッチングマスク11となるマスク材膜11Aを形成する第2工程S2(マスク材膜形成工程)と、マスク材膜11A上にレジストパターン12をパターン形成し、マスクとしてのレジストパターン12を介してマスク材膜11Aを部分的に除去してエッチングマスク11を得る第3工程S3(エッチングマスク形成工程)と、レジストパターン12およびエッチングマスク11をマスクとして用いた湿式エッチング処理によりガラス基板10に凹部10bを形成する第4工程S4(ガラスエッチング工程)と、ガラス基板10上のエッチングマスク11を除去する第5工程S5と、を有している。
【0023】
第1工程S1では、まず、ボロシリケートガラス、合成石英ガラス、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、無アルカリガラスなどからなるガラス基板10を用意する。次いで、図2(a)に示すように、例えば、研磨パッド50と、酸化セリウムを主成分とする研磨液とを用いてガラス基板10の被加工面10Aを研磨する。なお、この研磨工程は複数回行ってもよいし、また、行わなくてもよい。
【0024】
さらに、研磨処理後のガラス基板10を公知の洗浄方法を用いて洗浄し、基板面に付着した研磨液などを除去する。ガラス基板10の洗浄方法としては、洗剤を用いて洗浄した後、純水洗浄を施すのが一般的である。
【0025】
第2工程S2では、図2(b)に示すように、ガラス基板10上にエッチングマスクとなるマスク材膜11Aを形成する。このようにガラス基板10とマスク材膜11Aとで積層構造体30を構成する。マスク材膜11Aとしては、クロムを主成分とする酸化膜、窒化膜もしくは炭化膜、またはそれらの複合化合物のいずれかで構成されている。なお、マスク材膜11Aは、例えば、Ni,Mo,Ti,Al,Cu,Au,Ptなどの金属または合金を主成分とする酸化膜、窒化膜または酸窒化膜を使用してもよい。
【0026】
第3工程S3では、まず、積層構造体30のマスク材膜11Aにレジストを塗布し、これを露光、現像処理することで、図2(c)に示すように、開口部12aを有するレジストパターン12を形成する。次いで、図2(d)に示すように、レジストパターン12をマスクとする湿式エッチング処理によりマスク材膜11Aを部分的に除去することで、レジストパターン12の開口部12aに通じる開口部11aをマスク材膜11Aに形成する。これにより、所定形状の平面パターンを有するエッチングマスク11を得る。
【0027】
第4工程S4では、ガラス基板10上に形成されたエッチングマスク11およびレジストパターン12をマスクとし、フッ酸を用いた湿式エッチング処理を行う。この湿式エッチング処理では、レジストパターン12の開口部12aに連続するエッチングマスク11の開口部11aから等方的にガラス基板10のエッチングを進行させ、図2(e)に示すように、開口部11aに対応する位置に断面半円型の凹部10bを形成する。ガラス基板10のエッチング処理にはフッ酸を用いるのが一般的であるが、他のエッチング液を用いた湿式エッチング処理によりガラス基板10を加工してもよい。
【0028】
第5工程S5では、図2(f)に示すように、ガラス基板10上のエッチングマスク11およびレジストパターン12を、公知の剥離方法を用いて剥離すれば、一面側に微細凹凸構造を構成する凹部10bが形成された基板を得ることができる。
【0029】
ここで、マスク材膜11Aの膜応力は800MPa以下に調整されて成膜されている。マスク材膜11Aの膜応力を調整するために、マスク材膜11Aに酸素、窒素または炭素などの軽元素を含有させる必要があるため、反応性スパッタリング法により成膜することが好ましい。この場合、マスク材膜11Aを成膜する際には、所定の組成(クロム)のターゲットを用い、スパッタリングガスとしてアルゴンなどの不活性ガスに酸素、窒素または各種酸化窒素、各種酸化炭素などの酸素、窒素若しくは炭素などを含むガスを適宜添加すればよい。また、マスク材膜11Aの膜応力は、スパッタガス割合およびスパッタパワーを制御することで調整する。
【0030】
なお、例えばエッチングマスク11の膜応力を1000MPa以上にすると、湿式エッチング処理の際に、エッチングマスク11に割れが発生する場合がある。図3(a)に示すように、エッチングが進むとエッチングマスク11が庇状になる。膜応力が低い(800MPa以下)と、図3(a)の状態でエッチングマスク11が保持されて、所望のエッチングを継続することができる。一方、膜応力が高い(1000MPa以上)と図3(b)に示すように、その応力により反りが発生する(応力の向きにより、上向きまたは下向きに反りが発生する)。エッチングマスク11は金属膜からなるが、この金属膜が硬く脆い場合、この変形に耐え切れず割れてしまうことがある。
【0031】
また、パターン形状によっては、エッチングマスク11が変形した方向に変形ができずに膜が割れることでその応力を開放することがある。つまり、エッチングマスク11は、湿式エッチング処理がある程度進み、膜応力と膜の強度のバランスが崩れた時点で割れが発生することになる。
【0032】
図4(a)に示すように、エッチングマスク11に割れ21が発生すると、図4(b)に示すように、割れ21の先端に対応する位置のガラス基板10において、凹部10bのエッジ部が余分にエッチングされ、欠陥部23が形成される。
【0033】
本実施形態によれば、湿式エッチング処理により被加工面10Aに微細凹凸構造(凹部10b)が形成されるガラス基板10と、ガラス基板10の被加工面10Aに積層配置され、湿式エッチング処理のエッチングマスク11が形成されるマスク材膜11Aと、を備えた積層構造体30において、マスク材膜11Aを、低応力の単層膜で構成した。
【0034】
このように構成したため、湿式エッチングによりガラス基板10に凹部10bを形成する際に、湿式エッチングが進行してもマスク材膜11A(エッチングマスク11)に割れ21が発生することがなくなる。したがって、ガラス基板10の被加工面10Aに形成される凹部10bのエッジ部に欠けなどの欠陥部23が生じることなく所望の凹部10bを形成することができる。つまり、ガラス基板10に低応力で単層膜のマスク材膜11A(エッチングマスク11)を形成するだけで実現することができるため、構造を単純にすることができる。また、ガラス基板10の被加工面10Aに確実に凹部10bを形成することができるため、歩留まりを向上することができる。
【0035】
また、マスク材膜11A(エッチングマスク11)の膜応力を、800MPa以下にした。
このように構成したため、マスク材膜11A(エッチングマスク11)に割れ21が発生することをより確実に防止することができる。したがって、ガラス基板10の被加工面10Aに欠けなどの欠陥部23が生じることなく所望の凹部10bをより確実に形成することができる。ここで、エッチングマスク11の膜応力を200MPa以下にすると、湿式エッチングの際に、エッチングマスク11の割れをほぼ完全に無くすことができるため、より好ましい。
【0036】
また、マスク材膜11A(エッチングマスク11)を、クロムを主成分とする酸化膜、窒化膜もしくは炭化膜、またはそれらの複合化合物のいずれかで構成するようにした。
このように、マスク材膜11Aを、クロムを主成分とすることで、ガラス基板10への密着性を高めることができるとともに、凹部10bに対応する開口部11aを形成し易くすることができる。また、マスク材膜11Aに酸素、窒素または炭素などの軽元素を含有させることで、マスク材膜11Aの膜応力を調整しやすくすることができる。したがって、ガラス基板10の被加工面10Aに確実に凹部10bを形成することができ、歩留まりを向上することができる。
【0037】
さらに、エッチングマスク11上に形成されているレジストパターン12を残置した状態で湿式エッチング処理を行うようにした。
このように構成したため、エッチングマスク11にピンホールまたはピンホールになる異物などの欠陥があった場合にも、それらに起因するガラス基板10の凹部10bへの欠陥の発生をレジストパターン12により防止することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例におけるガラス基板の加工方法は、上記実施形態に準ずるものであるので、必要に応じて図1および図2を参照しつつ説明することとする。
【0039】
(実施例1)
ガラス基板10としてボロシリケートガラス(ショット社製 テンパックス フロート)基板を用意した。ボロシリケートガラス基板に第1の研磨工程として酸化セリウムを主成分とする研磨剤と硬質ポリシャ(ウレタンパッド)の研磨パッドによる行った。次いで、第2の研磨工程として酸化セリウムを主成分とする研磨剤と軟質ポリシャ(スウェードタイプ)の研磨パッドによる研磨を行った。
研磨工程終了後、ボロシリケートガラス基板に対して洗剤、純水洗浄を行い、イソプロピルアルコール蒸気中で乾燥させた。
【0040】
乾燥処理後のボロシリケートガラス基板に、ターゲットにCrを用い、スパッタリングガスとしてAr、CO、Nの混合ガスを使用して反応性スパッタリング法にてマスク材膜11Aを成膜した。このとき、マスク材膜11Aの膜厚は0.1〜0.2μm程度とし、膜応力が200MPa以下となるように成膜した。なお、膜応力は膜の反り量を平面度測定装置により測定し、これを応力に換算した。マスク材膜11Aを成膜した後、マスク材膜11A上にレジストを塗布し、リソグラフィー法を用いてレジストパターン12を形成した。
【0041】
次に、レジストパターン12をマスクとする硝酸第2セリウムアンモニウム溶液を用いた湿式エッチング処理により、Cr膜をパターニングし、最終的なガラス基板エッチング用のエッチングマスク11を得た。
【0042】
次に、フッ酸を主成分とするエッチング液を用いた浸漬処理(湿式エッチング処理)を行った。このエッチング処理により、深さ60μm、開口幅150μmの溝状の凹部10bをエッチングマスク11の開口部11aに対応する位置のボロシリケートガラス基板表面に形成した。その後、エッチングマスク11およびレジストパターン12をボロシリケートガラス基板から剥離した。
【0043】
ここで図5は、実施例1で得られた凹部10bの形状を説明するための図である。図5に示すように、本実施例の加工方法によれば、形成した凹部10bのエッジ部において、欠けなどの欠陥や縁のギザ付きが無い溝形状を得ることができる。なお、本実施例によるエッチングされたパターンの単位長さ当たりに発生する欠陥の頻度は、数十ppm/mm以下となる。
【0044】
(実施例2)
上述の実施例1と同様のガラス基板に、ターゲットにCrを用い、スパッタリングガスとしてAr、CO、Nの混合ガスを使用して反応性スパッタリング法にてマスク材膜11Aを成膜した。このとき、マスク材膜11Aの膜応力が800MPa以下となるように成膜した。
その後、実施例1と同様の方法により、深さ60μm、開口幅150μmの溝状の凹部10bをエッチングマスク11の開口部11aに対応する位置のボロシリケートガラス基板表面に形成した。
【0045】
ここで図5は、実施例2で得られた凹部10bの形状を説明するための図である。図5に示すように、本実施例の加工方法によれば、形成した凹部10bのエッジ部において、欠けなどの欠陥や縁のギザ付きが無い溝形状を得ることができる。なお、本実施例によるエッチングされたパターンの単位長さ当たりに発生する欠陥の頻度は、数百ppm/mm以下となる。
【0046】
(比較例1)
上述の実施例1および実施例2と同様のガラス基板に、ターゲットにCrを用い、スパッタリングガスとしてAr、CO、Nの混合ガスを使用して反応性スパッタリング法にてマスク材膜11Aを成膜した。このとき、マスク材膜11Aの膜応力が1000MPa以上となるように成膜した。
その後、実施例1と同様の方法により、深さ60μm、開口幅150μmの溝状の凹部10bをエッチングマスク11の開口部11aに対応する位置のボロシリケートガラス基板表面に形成した。
【0047】
ここで図6は、比較例1で得られた凹部10bの形状を説明するための図である。図6に示すように、本実施例の加工方法によれば、形成した凹部10bのエッジ部において、欠けなどの欠陥部23や縁のギザ付きが形成された不規則な形状の溝形状が得られることがあった。なお、本実施例によるエッチングされたパターンの単位長さ当たりに発生する欠陥の頻度は、数千ppm/mm以上になる場合もある。
【0048】
実施例1および実施例2と、比較例1とを比較すれば明らかなように、本発明に係るガラス基板10の加工方法によれば、エッチングマスク11の膜応力を800MPa以下にして形成することで、ガラス基板10に欠陥などが無い所望の凹部10bを形成することができる。
【0049】
つまり、ガラス基板10に低応力で単層膜のマスク材膜11Aを形成するだけで所望の凹部10bを形成することができる。したがって、ガラス基板10に微細凹凸構造を形成するための構造を単純にすることができる。また、このようにすることで、ガラス基板10の被加工面10Aに欠けなどの欠陥のない凹部10bを形成することができるため、信頼性の高いガラス基板10を提供することができるとともに、歩留まりを向上することができる。
【0050】
尚、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な材料や構成等は一例にすぎず、適宜変更が可能である。
例えば、本実施形態のような微細な凹部を形成する際には、マスク材膜11Aの表面に低反射膜(若干酸化度を上げたクロム膜)を設けてもよい。低反射膜を設けることで、リソグラフィーで微細パターンを解像させやすくすることができる。ただし、低反射膜を設けた場合、合計の膜応力は800MPa以下でなければならない。
また、本実施形態では、湿式エッチングのみで凹部を形成する場合の説明をしたが、ドライエッチングをした後に、湿式エッチングを追加してもよい。このようにすることで、高アスペクト比の微細パターンを形成することができる。
さらに、本実施形態では、直線の溝形状を形成する場合で説明をしたが、曲線、屈曲部を有するもの、円や多角形の孤立パターンにおいても同様の効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態におけるガラス基板の加工方法を示すフローチャートである。
【図2】図1に対応する断面工程図である。
【図3】本発明の実施形態における凹部エッチング中の説明図であり、(a)はエッチングマスクが低応力膜の場合、(b)は高応力膜の場合を示す説明図である。
【図4】本発明の実施形態における凹部エッチング中の説明図であり、(a)はエッチングマスクに割れが発生した場合の平面図、(b)は凹部に欠陥が発生した場合の平面図である。
【図5】実施例1および実施例2に係る凹部の形状を示す説明図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図6】比較例1に係る凹部の形状を示す説明図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【符号の説明】
【0052】
10…ガラス基板 10A…被加工面(表面) 10b…凹部(微細凹凸構造) 11…エッチングマスク 11A…マスク材膜 12…レジストパターン(レジスト膜) 30…積層構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式エッチング処理により表面に微細凹凸構造が形成されるガラス基板と、
該ガラス基板の表面に積層配置され、前記湿式エッチング処理のエッチングマスクが形成されるマスク材膜と、を備えた積層構造体において、
前記マスク材膜が、低応力であることを特徴とする積層構造体。
【請求項2】
前記マスク材膜が、低応力の単層膜で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の積層構造体。
【請求項3】
前記マスク材膜の膜応力が、800MPa以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の積層構造体。
【請求項4】
前記マスク材膜が、クロムを主成分とする酸化膜、窒化膜もしくは炭化膜、またはそれらの複合化合物で構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の積層構造体。
【請求項5】
ガラス基板表面への微細凹凸構造の形成に適用できるガラス基板の加工方法において、
ガラス基板の被加工面にマスク材膜を形成するマスク材膜形成工程と、
該マスク材膜に前記微細凹凸構造に対応したマスクパターンを形成してエッチングマスクを形成するエッチングマスク形成工程と、
前記エッチングマスクを用いた湿式エッチング処理により前記ガラス基板の被加工面に前記微細凹凸構造をパターン形成するガラスエッチング工程と、を有し、
前記マスク材膜が、低応力であることを特徴とするガラス基板の加工方法。
【請求項6】
前記マスク材膜が、低応力の単層膜で形成されていることを特徴とする請求項5に記載のガラス基板の加工方法。
【請求項7】
前記エッチングマスク形成工程は、前記微細凹凸構造に対応したパターンのレジスト膜を前記マスク材膜の表面に形成する工程と、前記レジスト膜を用いて前記マスク材膜をエッチングしてエッチングマスクを形成する工程と、を有し、
前記ガラスエッチング工程では、前記マスク材膜の表面に前記レジスト膜を残した状態で、前記湿式エッチング処理を行うことを特徴とする請求項5または6に記載のガラス基板の加工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−307648(P2008−307648A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158706(P2007−158706)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000101710)アルバック成膜株式会社 (39)
【Fターム(参考)】