説明

積層電子部品用導体ペーストおよびそれを用いた積層電子部品

【課題】 セラミックグリーンシートに直接印刷した場合にも、シートアタックによりセラミックシートの変形や絶縁性不良を招くことなく、電気特性、信頼性に優れた積層電子部品の製造を可能とする、適度な粘度特性、長期安定性を備えた導体ペーストを提供する。
【解決手段】 セラミックグリーンシート上に直接印刷される導体ペーストであって、導電性粉末、樹脂および有機溶剤を含み、前記有機溶剤は、アルキレングリコールジアセテートおよびアルキレングリコールジプロピオネートから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする積層電子部品用導体ペースト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体ペースト、特に積層コンデンサ、積層インダクタ、積層アクチュエータ等の積層電子部品の電極を形成するのに好適な導体ペーストと、これを用いて製造された積層電子部品に関する。特に、積層電子部品の内部電極を形成するために、セラミックグリーンシート上に直接印刷される導体ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミック電子部品(以下「積層電子部品」ということもある。)は、一般に次のようにして製造される。誘電体、磁性体、圧電体等のセラミック原料粉末を樹脂バインダおよび溶剤を含むビヒクルに分散させ、シート化してなるセラミックグリーンシート(以下「グリーンシート」ということもある。)を準備する。このグリーンシート上に、貴金属やニッケル、銅等の導電性粉末を主成分とし、所望によりセラミック粉末等を含む無機粉末を、樹脂バインダおよび溶剤を含むビヒクルに分散させてなる内部電極用導体ペーストを、所定のパターンで印刷し、乾燥して溶剤を除去し、内部電極乾燥膜を形成する。得られた内部電極乾燥膜を有するグリーンシートを複数枚積み重ね、圧着してグリーンシートと内部電極ペースト層とを交互に積層した未焼成の積層体を得る。この積層体を、所定の形状に切断した後、高温で焼成することにより、セラミック層の焼結と内部電極層の形成を同時に行い、セラミック素体を得る。この後、素体の両端面に端子電極用導体ペーストを印刷法や浸漬法等で塗布し、焼き付けて、積層電子部品を得る。端子電極ペーストは、未焼成の積層体と同時に焼成される場合もある。
【0003】
近年、積層電子部品の小型化、高積層化の要求が強く、特に、導電性粉末としてニッケルを用いた積層セラミックコンデンサにおいては、セラミック層、内部電極層ともに薄層化が急速に進んでいる。このためより厚みの薄いセラミックグリーンシートが使用されるようになってきた。
【0004】
一般的に、セラミックグリーンシートのバインダ成分には、ブチラール樹脂やアクリル樹脂等の樹脂が使用される。一方、導体ペーストのバインダ成分には、主としてエチルセルロース等のセルロース系樹脂が使用される。このような材料構成において、導電ペーストに通常使用されるテルピネオール、ブチルカルビトール、オクタノール等の極性の高い有機溶剤が、印刷後にセラミックグリーンシートのバインダを溶解する、「シートアタック」と呼ばれる現象により、セラミック層の変形や絶縁性低下等、積層電子部品の特性に深刻な不具合を引き起こすことが問題となっている。特に、近年セラミックグリーンシートの薄層化が進み、シート厚みが5μmより薄いものも使用されるような状況下では、この問題はより一層深刻である。
【0005】
従来、このようなシートアタックを防止するために、導体ペーストの溶剤成分として、前記の極性の高い有機溶剤に、グリーンシート中の樹脂を溶解しにくい非極性の石油系炭化水素系溶剤を組み合わせた混合溶剤を使用することにより、極性溶剤の配合量を減らすことが試みられている(例えば特許文献1参照。)。しかしながら、シートアタックを抑制するために前記炭化水素系溶剤の比率を高めると、導体ペーストのバインダであるセルロース系樹脂の溶解性も低下し、ペーストの粘度が低下する。ペースト粘度を適正な値に保つためには、過剰の樹脂を配合する必要が生じ、ペースト塗布層の厚みが増して積層体が変形する等、特に高積層化する際障害となるほか、ペースト特性の長期安定性を損ない、ペースト設計上の問題が発生する。
【0006】
テルピネオールの誘導体であるジヒドロテルピネオール、テルピネオールアセテートまたはジヒドロテルピネオールアセテートを導体ペーストの溶剤成分として使用することにより、シートアタックを抑制することも知られている(例えば特許文献2、3参照。)。しかし、例えばジヒドロテルピネオールやテルピネオールアセテートでは効果が充分でなく、グリーンシートの厚みが極めて薄い場合、特にブチラール樹脂系のバインダを用いたシート厚が5μmより薄いグリーンシートの場合には、シートアタックを防止できない。またこれらの溶剤を用いると、ペースト粘度の経時変化が大きいため、印刷時均一な膜厚のペースト層が得られなくなり、このペーストを用いて製造した積層電子部品、特にグリーンシートの厚みが薄い高積層品においてはデラミネーションやクラックを生じ、電気特性の優れた高積層の積層部品が得られない。
【0007】
また、セラミックグリーンシート上に直接導体ペーストを印刷せず、転写法等により内部電極を形成させる方法も知られている。この方法は、導体ペーストをキャリアフィルム等に印刷して乾燥させ、溶剤を除去した後セラミックグリーンシートに転写する方法であり、この方法ではシートアタックを生じないが、技術的に難しい。
【特許文献1】特開平7−240340号公報
【特許文献2】特開平9−17687号公報
【特許文献3】特開平7ー21833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、セラミックグリーンシート上に直接印刷したときに、前述のようなシートアタックの問題がなく、しかも、印刷に適した適正な粘度特性を有し、安定性も優れた導体ペーストを提供することを目的とする。特に、シート厚が5μm以下の薄いグリーンシート、とりわけブチラール樹脂系のバインダを用いたグリーンシートに対しても、シートアタックを起こさず、従って高積層品においても、電気特性が優れ、信頼性の高い積層セラミック電子部品を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者者らは、鋭意検討した結果、積層電子部品用導体ペーストの溶剤として、アルキレングリコールジアセテートおよびアルキレングリコールジプロピオネートから選ばれる少なくとも1種を使用することにより、上記本発明の課題が解決されることを見出し、本発明に至った。
【0010】
即ち、本発明は、以下より構成されるものである。
【0011】
(1)セラミックグリーンシート上に直接印刷される導体ペーストであって、導電性粉末、樹脂および有機溶剤を含み、前記有機溶剤は、アルキレングリコールジアセテートおよびアルキレングリコールジプロピオネートから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする積層電子部品用導体ペースト。
【0012】
(2)前記アルキレングリコールジアセテートが炭素数2〜6のアルキレングリコールのジアセテートであり、前記アルキレングリコールジプロピオネートが炭素数2〜6のアルキレングリコールのジプロピオネートであることを特徴とする前記(1)に記載の積層電子部品用導体ペースト。
【0013】
(3)前記セラミックグリーンシートが厚さ5μm以下のセラミックグリーンシートであることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の積層電子部品用導体ペースト。
【0014】
(4)前記セラミックグリーンシートが、ブチラール樹脂を主成分とする樹脂バインダを含むものであることを特徴とする前記(1)ないし(3)のいずれかに記載の積層電子部品用導体ペースト。
【0015】
(5)導体ペーストに含まれる樹脂の主成分がセルロース系樹脂であることを特徴とする、前記(1)ないし(4)のいずれかに記載の積層電子部品用導体ペースト。
【0016】
(6)セラミックグリーンシートと内部電極ペースト層を交互に積層した未焼成の積層体を高温で焼成してなる積層電子部品であって、前記内部電極ペースト層を前記(1)ないし(5)のいずれかに記載の積層電子部品用導体ペーストを用いて形成してなることを特徴とする積層電子部品。
【0017】
(7)前記セラミックグリーンシートの厚さが5μm以下であることを特徴とする前記(6)に記載の積層電子部品。
【0018】
(8)前記セラミックグリーンシートが、ブチラール樹脂を主成分とする樹脂バインダを含むものであることを特徴とする前記(6)または(7)に記載の積層電子部品。
【発明の効果】
【0019】
本発明の導体ペーストにおいては、有機溶剤としてアルキレングリコールジアセテートおよびアルキレングリコールジプロピオネートから選ばれる少なくとも1種を使用することにより、セラミックグリーンシートに直接印刷した場合にもシートアタックを起こさない。特にシートの厚みが5μm以下になった場合でも、セラミックグリーンシートに悪影響を及ぼさず、セラミック層の変形や絶縁性不良を招くことがなく、電気特性、信頼性の優れた積層電子部品を得る。特に、セラミックグリーンシートの樹脂バインダがブチラール樹脂である場合、効果的にシートアタックが防止される。
【0020】
特に、導体ペーストの樹脂バインダの主成分がセルロース系樹脂、特にエチルセルロースである場合、アルキレングリコールジアセテートおよび/またはアルキレングリコールジプロピオネートはこれらの樹脂に対して熔解性が高いことから、過剰の樹脂を使用しなくても適正な粘度特性を得ることができ、また長期にわたって優れた安定性を有する。
【0021】
また、この導体ペーストを内部電極の形成に用いることにより、セラミックグリーンシートを損傷することなく、優れた積層電子部品を得ることができ、特にセラミック層、内部電極層の厚さが極めて薄い高積層品においても、信頼性の高い積層電子部品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(導電性粉末)
本発明において用いられる導電性粉末としては特に制限はなく、例えばニッケル、銅、コバルト、金、銀、パラジウム、白金等の金属粉末や、それらの合金粉末が挙げられる。導電性の金属酸化物や、ガラス、セラミック等の無機粉末に金属を被覆した複合粉末を用いることもできる。また、前記金属粉末や、前記合金粉末の表面に薄い酸化膜を有するものや、過焼結抑制の目的でガラス質や各種酸化物を表面に被着させたものを用いてもよい。これらの導電性粉末は、2種以上混合して用いてもよい。また必要に応じて、有機金属化合物や界面活性剤、脂肪酸類等で表面処理して用いてもよい。
【0023】
導電性粉末の粒径には特に制限はなく、通常内部電極用導体ペーストに用いられるような、平均粒径が3μm以下程度のものが好ましく使用される。緻密で平滑性が高く、薄い内部電極層を形成するためには、平均粒径が0.05〜1.0μm程度の分散性が良好な微粉末を用いることが好ましい。特に、平均粒径が0.5μm以下の極めて微細なニッケル等の導電性粉末を用いた、高積層の積層コンデンサの内部電極の形成に用いた場合、本発明は顕著な効果を奏する。
【0024】
(樹脂)
樹脂としては特に制限はないが、好ましくはエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂が使用される。特にエチルセルロースが好ましい。これらのセルロース系樹脂に、必要に応じて他の樹脂を併用してもよい。例えば特開2004−186339号公報に記載されているように、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ブチラール樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ロジン等の、セラミックグリーンシートとの接着性の良好な樹脂を混合して使用することもできる。樹脂の配合量は、特に限定されないが、通常導電性粉末100重量部に対して1〜15重量部程度である。
【0025】
(有機溶剤)
本発明の導体ペーストに有機溶剤として配合されるアルキレングリコールジアセテートは、好ましくはエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ブチレングリコールジアセテート、ペンチレングリコールジアセテート、ヘキシレングリコールジアセテートから選ばれる炭素数2〜6のアルキレングリコールのジアセテートである。またアルキレングリコールジプロピオネートは、好ましくはエチレングリコールジプロピオネート、プロピレングリコールジプロピオネート、ブチレングリコールジプロピオネート、ペンチレングリコールジプロピオネート、ヘキシレングリコールジプロピオネートから選ばれる炭素数2〜6のアルキレングリコールのジプロピオネートである。
これらのアルキレングリコールジアセテート、アルキレングリコールジプロピオネートは、ブチラール樹脂やアクリル樹脂をバインダとして用いたセラミックグリーンシートに対して、シートアタックを起こしにくく、特にブチラール樹脂を用いたセラミックグリーンシートに対しては、極めて優れたシートアタック防止効果を示す。従ってブチラール樹脂を主成分とする樹脂バインダを含む厚さ5μm以下のセラミックグリーンシートに印刷した場合にも、グリーンシートの溶解や膨潤がなく、シートアタックを防止しうるものである。しかも、導体ペーストの樹脂成分として使用されるエチルセルロース等のセルロース系樹脂の溶解性が高いので、適正な樹脂量で所望の粘度が確保できる。また、ペースト安定性が優れ、粘度の経時変化も小さい。
【0026】
本発明においては、前記アルキレングリコールジアセテート、アルキレングリコールジプロピオネート以外の溶剤を併用する必要は必ずしもない。しかし、その効果を損なわない範囲であれば、更に他の有機溶剤を配合することができ、これにより、所望のペースト特性を得ることができる。例えば導体ペーストの樹脂バインダとして、セルロース系樹脂と共に他の樹脂を使用する場合は、他の有機溶剤との混合溶媒を使用することにより、樹脂の溶解性を更に向上させることができ、ペースト設計の自由度を広げることができる。特にアクリル樹脂、メタクリル樹脂、ブチラール樹脂等のアルキレングリコールジアセテート、アルキレングリコールジプロピオネートに溶解しない樹脂をセルロース系樹脂と共に使用する導体ペーストの場合、これらの樹脂を溶解しうる溶剤を適宜配合することにより、樹脂量を増加させることなくペーストの粘度を適性に保つことができる。
【0027】
他の溶剤としては、特に制限はなく、パラフィン系炭化水素、オレフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、芳香族系炭化水素、これらの混合溶剤等の炭化水素系溶剤や、オクタノール、デカノール、テルピネオール、テルピネオールアセテート、ジヒドロテルピネオール、ジヒドロテルピネオールアセテート、ブチルカルビトール、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトールアセテート等のアルコール系、エーテル系、エステル系、ケトン系またはグリコール系の極性溶剤等が挙げられる。
【0028】
これら他の溶剤の配合量は特に限定されない。例えば、比較的シートアタックを起こしにくい溶剤であるジヒドロテルピネオール、ジヒドロテルピネオールアセテート等の一部を、アルキレングリコールジアセテートおよび/またはアルキレングリコールジプロピオネートで置換した混合溶剤を用いても良い。但し、炭化水素系溶剤を使用する場合は、全溶剤中の炭化水素系溶剤の比率が30重量%以下となるように配合することが望ましい。また、テルピネオール、オクタノール等、セラミックグリーンシート中の樹脂バインダの溶解性が高い極性溶剤の場合は、全溶剤中の前記極性溶剤の比率を40重量%以下とすることが望ましい。
【0029】
導体ペースト中の有機溶剤の合計量は、通常使用される量であれば制限はなく、導電性粉末の性状や樹脂の種類、塗布法、塗布膜厚等に応じて適宜配合される。通常は導電性粉末100重量部に対して40〜150重量部程度である。
【0030】
(その他の添加成分)
本発明の導体ペーストには、前記成分の他に、種々の添加剤を配合することができる。例えば、導電性粉末などの無機粉末の分散性を向上させ、導体ペーストの粘性の長期安定性や印刷における適正な流動特性を確保する目的で、好ましくは界面活性剤やキレート剤が、単独であるいは2種以上組み合わせて添加される。
界面活性剤としては、例えばポリエチレングリコールアリルエーテル、メトキシポリエチレングリコールアリルエーテルなどのアリルポリエーテル類およびその共重合体、ポリエチレングリコールラウリルアミン、ポリエチレングリコールステアリルアミンなどのポリアルキレングリコールアミン類、ポリエチレングリコールアルキルリン酸エステルなどのリン酸エステル類、ポリエチレングリコールノニルフェニルエーテルなどのポリアルキレングリコールフェノール類、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエートなどのソルビタンエステル類、ポリエチレングリコールソルビタンモノラウレート、ポリエチレングリコールソルビタンモノオレエートなどのソルビタンエステルエーテル類、オレイン酸、ラウリン酸などの脂肪酸類、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、ポリエチレングリコールアルキルアミドなどのアミド類などが使用される。これらの界面活性剤のうち、特にアリルポリエーテル共重合体、ポリエチレングリコールアルキルアミンが、分散性を向上させる効果が大きいので好ましい。
キレート剤としては、前記ポリアルキレングリコールアミン類、前記アミド類の他、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、アルキルアミン、3−ブトキシプロピルアミン、2−アミノプロパノールなどのアミン系溶剤などが挙げられる。特にトリエタノールアミン、3−ブトキシプロピルアミンが好ましい。
その他、本発明の導体ペーストには、通常配合されることのある成分、即ち、セラミックグリーンシートに含有されるセラミックと同一または組成が近似した成分を含むセラミックや、ガラス、アルミナ、シリカ、酸化銅、酸化マンガン、酸化チタン等の金属酸化物、モンモリロナイト等の無機粉末や、金属有機化合物、可塑剤、分散剤等を、目的に応じて適宜配合することができる。
【0031】
(導体ペーストの製造)
本発明の導体ペーストは、常法に従って、導電性粉末を、他の添加成分と共に、樹脂および溶剤を含むビヒクル中に均一に分散させることにより製造される。
【0032】
本発明の導体ペーストは、特に、積層コンデンサ、積層インダクタ、積層アクチュエータ等の、セラミックグリーンシートに直接印刷して使用する導体ペーストとして、積層セラミック電子部品の内部電極や端子電極を形成するのに適している。
【0033】
(積層電子部品の製造)
積層電子部品は、内部導体形成に本発明の導体ペーストを用いて製造される。一例として積層セラミックコンデンサの製造方法を述べる。
【0034】
まず、誘電体セラミック原料粉末を樹脂バインダ中に分散させ、ドクターブレード法等でシート成形し、セラミックグリーンシートを作製する。誘電体セラミック原料粉末としては、通常チタン酸バリウム系、ジルコン酸ストロンチウム系、ジルコン酸カルシウムストロンチウム系、チタン酸鉛系等のペロブスカイト型酸化物、または、これらを構成する金属元素の一部を他の金属元素で置換したものを主成分とする粉末が使用される。必要に応じて、これらの原料粉末に、コンデンサ特性を調整するための各種添加剤が配合される。樹脂バインダととしては、ブチラール樹脂やアクリル樹脂等を主成分とする樹脂が使用される。特にグリーンシートシートのシート厚を5μm以下にする場合、分散性がより良好でシート密度を高くすることができ、また可撓性も高いことから、ブチラール樹脂を主成分とする樹脂バインダを使用することが好ましい。
【0035】
得られたセラミックグリーンシート上に、本発明の導体ペーストを、スクリーン印刷等の通常の方法で塗布し、乾燥して溶剤を除去し、所定のパターンの内部電極ペースト乾燥膜を形成する。内部電極ペースト乾燥膜が形成されたセラミックグリーンシートを所定の枚数だけ積み重ね、加圧積層して、未焼成の積層体を作製する。この積層体を所定の形状に切断した後、不活性ガス雰囲気中または若干の酸素を含む不活性ガス雰囲気中で250〜350℃程度の温度で脱バインダを行ってビヒクル成分を分解、飛散させた後、非酸化性雰囲気中1100〜1350℃程度の高温で焼成し、誘電体層と電極層を同時に焼結し、必要によりさらに再酸化処理を行って、積層セラミックコンデンサ素体を得る。この後、素体の両端面に端子電極が焼付け形成される。なお、端子電極は、前記未焼成の積層体を切断したチップの両端面に本発明の導体ペーストを塗布し、その後、積層体と同時に焼成することによって形成してもよい。
【実施例】
【0036】
次に、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
実施例1
導電性粉末としてSEM観察により算出された平均粒径が平均粒径0.2μm、比表面積3.5m/gのニッケル粉100重量部、樹脂バインダとしてエチルセルロース5重量部、溶剤としてエチレングリコールジアセテートを100重量部配合し、3本ロールミルを使って混練して、導体ペーストを作製した。
【0038】
このペーストを、樹脂バインダとしてブチラール樹脂、およびアクリル樹脂をそれぞれ用いた厚さ4μmの2種のチタン酸バリウム系セラミックグリーンシート上に、所定の内部電極形状で乾燥膜厚が2μmとなるように印刷したのち、90℃で5分間乾燥させ、導体ペースト乾燥膜を形成した。この導体ペースト乾燥膜に覆われたセラミックグリーンシート部分を裏面より目視にて観察し、ゆがみや破れの変形度合いと色の変化からシートアタックの程度を評価した。評価結果を、表1に示す。なお、評価基準は次のとおりである。
【0039】
○:ほぼ変化なし、△:膨潤、×:ゆがみや破れが発生。
【0040】
実施例2〜5
溶剤として、プロピレングリコールジアセテート(1,2−プロピレングリコールジアセテート)、ブチレングリコールジアセテート(1,3−ブチレングリコールジアセテート)、ペンチレングリコールジアセテート(ペンタメチレングリコールジアセテート)およびへキシレングリコールジアセテート(ヘキサメチレングリコールジアセテート)をそれぞれ用いる以外は実施例1と同様にして、導体ペーストを作製した。同様にシートアタックの評価を行った。結果を表1に併せて示す。
【0041】
実施例6、7
溶剤として、プロピレングリコールジプロピオネート(1,2−プロピレングリコールジプロピオネート)およびブチレングリコールジプロピオネート(1,3−ブチレングリコールジプロピオネート)をそれぞれ用いる以外は実施例1と同様にして、導体ペーストを作製した。同様にシートアタックの評価を行った。結果を表1に併せて示す。
【0042】
比較例1〜2
溶剤として、テルピネオールおよびテルピネオールアセテートを用いる以外は実施例1と同様にして、導体ペーストを作製した。同様にシートアタックの評価を行った。結果を、表1に併せて示す。
【0043】
【表1】


表1の結果より明らかなように、導体ペーストの溶剤としてアルキレングリコールジアセテート、アルキレングリコールジプロピオネートを配合することにより、厚みが4μmのセラミックグリーンシートには膨潤や変形が生じなかった。一方、従来のテルピネオールやテルピネオールアセテートを溶剤とした場合は、シートアタックが生じた。
また、これらのグリーンシートを電子顕微鏡を用いて詳細に観察したところ、特に実施例1〜3、および実施例6のペーストを塗布したブチラール樹脂系グリーンシートは、他のものに比較してシートの変化がほとんど見られず、優れたシートアタック防止効果を示した。
【0044】
実施例8〜10、比較例3、4
実施例1〜3および比較例1、2のペーストをそれぞれ用い、実施例1と同様の手法で、ブチラール樹脂またはアクリル樹脂を用いた、厚さが3μmのチタン酸バリウム系セラミックグリーンシートにてシートアタックの評価を行った。評価結果を、表2に示す。
【0045】
【表2】

表2より明らかなように、本発明の導体ペーストは、アクリル樹脂を用いた厚さ3μmのグリーンシートではやや膨潤が見られたが、ブチラール樹脂を用いたセラミックグリーンシートに印刷した場合には、厚さ3μmの極めて薄いシートであっても膨潤や変形を生じなかった。
【0046】
実施例11
導電性粉末として平均粒径0.2μm、比表面積3.5m/gのニッケル粉末100重量部、樹脂バインダとしてエチルセルロース3重量部およびブチラール樹脂2重量部、溶剤としてエチレングリコールジアセテート70重量部およびオクタノール(iso−オクタノール)30重量部を配合し、3本ロールミルを使って混練して、導体ペーストを作製した。オクタノールはブチラール樹脂を溶解するために配合したものである。
【0047】
このペーストを、実施例1と同様に、ブチラール樹脂あるいはアクリル樹脂をバインダとする厚み4μmのチタン酸バリウム系セラミックグリーンシート上に印刷し乾燥させた。得られた導体ペースト乾燥膜に覆われたセラミックグリーンシート部分を観察し、シートアタックの程度を評価した。評価結果を、表3に示す。
【0048】
実施例12〜14
溶剤を、表3に示すとおりとする以外は実施例11と同様にして、導体ペーストを作製した。プロピレングリコールジアセテートは1,2−プロピレングリコールジアセテート、ブチレングリコールジアセテートは1,3−ブチレングリコールジアセテートである。実施例11と同様にシートアタックの評価を行い、結果を表3に併せて示した。
【0049】
比較例5〜7
溶剤を、表3に示すとおりとする以外は実施例11と同様にして、導体ペーストを作製した。同様にシートアタックの評価を行った。結果を、表3に併せて示す。
【0050】
【表3】


表3より明らかなように、溶剤としてテルピネオール、テルピネオールアセテート、オクタノールのみを使用した比較例ではシートアタックを起こすが、エチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ブチレングリコールジアセテートを使用することにより、オクタノールを混合した場合でも、厚みが4μmのセラミックグリーンシートには膨潤や変形が生じなかった。但し、ブチレングリコールジアセテートとオクタノールの溶剤比率を50/50にした場合、アクリル樹脂系グリーンシートに膨潤が見られた。
【0051】
上記において、本発明の導体ペーストは、セラミックグリーンシートの膨潤や変形を生じないことから、本発明の導体ペーストを用いてセラミックグリーンシート上に所定形状の内部電極ペースト乾燥膜を形成した上記のセラミックグリーンシートを所定枚数加圧積層してセラミックグリーンシートと内部電極ペースト層を交互に積層した未焼成の積層体を得、これを常法により焼成して得た積層電子部品も、シートアタックによるセラミック層の変形、デラミネーション、クラック等のないものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックグリーンシート上に直接印刷される導体ペーストであって、導電性粉末、樹脂および有機溶剤として、アルキレングリコールジアセテートおよびアルキレングリコールジプロピオネートから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする積層電子部品用導体ペースト。
【請求項2】
前記アルキレングリコールジアセテートが炭素数2〜6のアルキレングリコールのジアセテートであり、前記アルキレングリコールジプロピオネートが炭素数2〜6のアルキレングリコールのジプロピオネートであることを特徴とする請求項1に記載の積層電子部品用導体ペースト。
【請求項3】
前記セラミックグリーンシートが厚さ5μm以下のセラミックグリーンシートであることを特徴とする請求項1または2に記載の積層電子部品用導体ペースト。
【請求項4】
前記セラミックグリーンシートが、ブチラール樹脂を主成分とする樹脂バインダを含むものであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の積層電子部品用導体ペースト。
【請求項5】
導体ペーストに含まれる樹脂の主成分がセルロース系樹脂であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の積層電子部品用導体ペースト。
【請求項6】
セラミックグリーンシートと内部電極ペースト層を交互に積層した未焼成の積層体を高温で焼成してなる積層電子部品であって、前記内部電極ペースト層を請求項1ないし5のいずれかに記載の積層電子部品用導体ペーストを用いて形成してなることを特徴とする積層電子部品。
【請求項7】
前記セラミックグリーンシートの厚さが5μm以下であることを特徴とする請求項6に記載の積層電子部品。
【請求項8】
前記セラミックグリーンシートが、ブチラール樹脂を主成分とする樹脂バインダを含むものであることを特徴とする請求項6または7に記載の積層電子部品。

【公開番号】特開2007−43092(P2007−43092A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−149388(P2006−149388)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(000186762)昭栄化学工業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】