説明

空圧緩衝器

【課題】内部温度変化による車高変化を抑制することができる空圧緩衝器を提供することであり、またさらには、円滑な伸縮を実現するとともにシール部材の劣化を抑制することができる空圧緩衝器を提供することである。
【解決手段】シリンダCと、シリンダC内に摺動自在に挿入したピストンPと、ピストンPに連結されるとともにシリンダC内に移動自在に挿入されるロッドRとを備え、車体と車軸との間に介装されて車体と車軸との相対振動を減衰する空圧緩衝器Dにおいて、シリンダC内に気体を供給する供給手段3と、供給手段3とは独立してシリンダC内から気体を排出する排気手段4とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空圧緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空圧緩衝器としては、シリンダと、シリンダ内に摺動自在に挿入されたピストンと、シリンダにピストンを介して移動自在に挿通されるロッドとを備えて、作動流体を気体としたものが知られている。
【0003】
このような空圧緩衝器は、作動流体が潤滑性に乏しい気体であるため、ロッドとロッドの外周をシールするシール部材との間の摺動抵抗が大きくなりがちで、頻繁に振動が入力される部位への適用が難しく、振動が頻繁に入力されることの無い部位、たとえば、自動車の後部ハッチと車体との間に介装されるなどして使用されるのが一般的であった。
【0004】
しかしながら、近年では、ロッドを軸支するロッドガイドにロッド外周とシール部材との摺動部に臨む貯油室を設け、当該貯油室内に少量の潤滑油を充填し、当該潤滑油でロッド外周に油膜を形成してシール部材の劣化を防止するようにして、ロッドとシール部材の摺動性やシール部材の耐久性の問題の解決が図られており、空圧緩衝器を車両の車体と車軸との間の振動入力が頻繁に行われる箇所にも適用することが可能となってきた(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−349138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、上述のような空圧緩衝器では、良好なシール性とロッドの摺動性を確保できる点で、有用な技術であるが、以下の問題があると指摘される可能性がある。
【0006】
すなわち、空圧緩衝器の作動流体は気体であり、気体は油に比較して圧縮性に富むため、充分な減衰力を発生させるためには、シリンダ内に封入される気体の圧力は油に比較して高圧となり、温度変化に対するシリンダ内の圧力変化量が大きく、温度変化によって車高が大きく変化してしまう。また、温度が上昇する場合、シリンダ内の圧力が上昇するので、シール部材にシリンダ内圧が作用してシール部材の緊迫力を高めてロッドの摺動性が犠牲になると共に、シール部材にも大きな負荷がかかり劣化を促進してしまう虞がある。
【0007】
なお、これを嫌って、空圧緩衝器を両ロッド型に設定することもできるが、車高変化を防ぐことはできるが、両ロッド型に設定する分、ストローク長が犠牲となって車両が要求するストローク長を確保しづらくなるという新たな問題が生じてしまう。
【0008】
そこで、本発明は、上記不具合を解消するために創案されたものであって、その目的とするところは、内部温度変化による車高変化を抑制することができる空圧緩衝器を提供することであり、またさらには、円滑な伸縮を実現するとともにシール部材の劣化を抑制することができる空圧緩衝器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の課題解決手段は、シリンダと、シリンダ内に摺動自在に挿入したピストンと、ピストンに連結されるとともにシリンダ内に移動自在に挿入されるロッドとを備え、車体と車軸との間に介装されて車体と車軸との相対振動を減衰する空圧緩衝器において、シリンダ内に気体を供給する供給手段と、供給手段とは独立してシリンダ内から気体を排出する排気手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の空圧緩衝器によれば、シリンダ内の気体の温度の上昇に対して、供給手段とは独立した排気手段によってシリンダ内から気体を排気し、供給手段によってシリンダ内に気体を供給することによって、シリンダ内の高温となった気体を外部から導入する低温の気体に入れ替えることができるので、シリンダ内の温度上昇による圧力上昇を速やかに解消して車高の上昇を防止でき、また、シリンダ内の圧力上昇を防止することができるため、シリンダ内の増圧によるシール部材の緊迫力の上昇を抑制してロッドの良好な摺動性を確保して円滑な伸縮を実現でき、さらには、シール部材の劣化を抑制することができる。
【0011】
さらに、温度上昇によってシリンダ内の圧力が上昇すると、空圧緩衝器の減衰特性(空圧緩衝器のピストン速度に対する発生減衰力の性質)がハードへ変化して減衰力が大きくなる傾向となるが、この空圧緩衝器にあっては、シリンダ内の温度上昇を抑制できるから、減衰特性が車両走行中に変化してしまうことを防止することも可能となり、車両に最適な減衰特性を維持することができる。
【0012】
また、この空圧緩衝器は、シリンダ内へ気体を供給する供給手段とは独立して機能する排気手段を備えているので、シリンダから気体を排気しつつ気体を供給することができるため、車高の変化を最低限度に抑えつつシリンダ内の温度を調節することができ、シリンダ内の温度調節時に車両搭乗者への違和感や不安感を抱かせる虞がない。
【0013】
さらに、空圧緩衝器を両ロッド型に設定する必要も無いので、空圧緩衝器のストローク長が犠牲となって車両が要求するストローク長を確保しづらくなるという心配もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、この発明の一実施の形態のおける空圧緩衝器を示した図である。
【0015】
以下、図に示した実施の形態に基づいて本発明の空圧緩衝器Dを説明する。一実施の形態における空圧緩衝器Dは、図1に示すように、気体が充填されるシリンダCと、シリンダC内に摺動自在に挿入したピストンPと、ピストンPに連結されるとともにシリンダC内に移動自在に挿入されるロッドRとを備えたダンパ本体1と、シリンダC内に気体を供給する供給手段3と、供給手段3とは独立してシリンダC内から気体を排気する排気手段4とを備えており、ダンパ本体1は、図示しない車両の車体と車軸との間に介装されて車体と車軸との相対振動を減衰するものである。
【0016】
さらに、このダンパ本体1は、車両の四箇所の車輪と車体との間のそれぞれに図示しない懸架バネと並列されて介装されており、この実施の形態の場合、ロッドRが車両の車体に連結されるとともに、シリンダCが車軸に連結されて、この空圧緩衝器Dのダンパ本体1の場合、正立型の緩衝器に設定されている。なお、懸架バネは、気体バネでもコイルバネでもどちらでもよい。また、図1中では、図が複雑となるため、空圧緩衝器Dにおけるダンパ本体1を一つ記載し、他の三つについては記載を省略している。
【0017】
以下、各部について詳細に説明すると、ピストンPは、シリンダC内を上室r1と、下室r2とに区画するとともに、上室r1と下室r2とを連通する通路2を備え、当該通路2は、上室r1と下室r2とを行き来する気体の流れに対し抵抗を与えるようになっている。
【0018】
すなわち、この空圧緩衝器Dにあっては、シリンダCに対してピストンPが図1中上方あるいは下方へ移動して、気体が圧縮される上室r1あるいは下室r2の一方から拡大する上室r1あるいは下室r2の他方へ移動する際に、当該気体の流れに通路2で抵抗を与えて車体と車軸との相対振動を減衰する減衰力を発生するようになっている。
【0019】
そして、供給手段3は、コンプレッサ5と、コンプレッサ5の吐出側となる吐出口5aとシリンダC内とを結ぶ供給ライン6と、供給ライン6の途中に設けられて供給ライン6を開閉する切換弁7とを備えて構成されている。そして、供給手段3は、コンプレッサ5を駆動して大気を吸込んで圧縮し、切換弁7で供給ライン6を開放することでシリンダC内に気体を供給することができるようになっている。
【0020】
他方、排気手段4は、シリンダC内から気体を大気開放する排気ライン8と、排気ライン8の途中に設けた絞り弁9と、同じく排気ライン8の途中に設けられて排気ラインを開閉する排気弁10とを備えて構成され、排気弁10で排気ライン8を開放することでシリンダC内から気体を大気へ開放することができるようになっている。
【0021】
なお、この実施の形態の場合、一つのコンプレッサ5で車両の四箇所の車輪と車体との間のそれぞれに介装される各ダンパ本体1へ気体を供給可能なように、供給ライン6が切換弁7の手前で四つに分岐されており、図示はしないが、上記分岐された供給ライン6の途中であって各ダンパ本体1の手前に切換弁7がそれぞれ設置され、排気手段4についても各ダンパ本体1毎に設置されている。
【0022】
そして、この空圧緩衝器Dにあっては、ダンパ本体1の伸縮が継続して行われるなどしてシリンダC内の温度が上昇すると、排気手段4によって高温の気体をシリンダC内から排気しつつ、排気手段4とは独立した別系統の供給手段3によって大気をシリンダC内に供給して、シリンダC内の温度を下降させることができるものである。
【0023】
上記供給手段3について詳細に説明すると、コンプレッサ5は、モータMによって駆動されると、吸込口5bから気体を吸込んで吐出口5aから大気側から吸込んだ気体を圧縮して供給ライン6に送り出すようになっている。なお、コンプレッサ5の駆動については、モータMによる以外にも、車両に搭載されるエンジンから動力を取り出して駆動させることもでき、さらに、車両が油圧ポンプを備えている場合には、モータMを電動モータではなく油圧モータとしてもよい。
【0024】
また、コンプレッサ5は、この実施の形態の場合、吸込口5bから大気を吸込んでシリンダCへ供給するので、吸込口5bの上流側にはエアフィルタ11が設けられ、シリンダC内への埃や塵の侵入を防止している。
【0025】
そして、供給ライン6の途中には、コンプレッサ5における吐出側となる上流から順に、コンプレッサ5から送り出される気体を乾燥させるドライヤ12、気体の流れに抵抗を与える絞り13および当該絞り13と並列に配置される上流側から下流へ向かう流れのみを許容する逆止弁14がそれぞれ配置されて設けられている。
【0026】
ドライヤ12は、この場合、吸着式を採用しており、内部に、シリカゲルや活性アルミナ等の水分を吸着する乾燥剤を収容しており、内部を通過する圧縮気体の水分を乾燥剤で吸着して当該圧縮気体を乾燥させることができるものである。
【0027】
また、ドライヤ12より下流であって絞り13と並列配置される逆止弁14は、コンプレッサ5が圧縮気体を供給する場合に、絞り13に優先して積極的に気体の通過を許容して、圧縮気体供給時に絞り13によるエネルギ損失を生じさせないように設けられる。
【0028】
さらに、この実施の形態の場合、供給手段3にあっても、排気手段4による排気とは別系統でシリンダCから気体を排気することができるように、供給ライン6の途中であってコンプレッサ5とドライヤ12との間から分岐する乾燥ライン15を備えており、この乾燥ライン15の途中には当該乾燥ライン15を開閉する開閉弁16が設けられている。
【0029】
そして、この乾燥ライン15は、上記切換弁7と開閉弁16を開放状態とすると、シリンダCが大気に通じてシリンダC内の気体を大気開放できるようになっており、この乾燥ライン15による排気時にシリンダC内の乾燥した気体にドライヤ12を通過させるようにして、ドライヤ12を乾燥できるようにしている。
【0030】
そして、絞り13は、排気時の気体の流れに抵抗を与えてシリンダCから排気される気体を急減圧して乾燥させる機能を果たすとともに、ドライヤ12にゆっくり気体を通過させるため、ドライヤ12を充分に燥効させることができる。
【0031】
なお、ドライヤ12の乾燥剤の乾燥には、上記したように乾燥気体の通過によっているが、これとは別に、乾燥剤を加熱する方法を採用するようにしてもよく、この場合には、乾燥ライン15を設けることを要しないが、乾燥剤を加熱しなくとも乾燥剤を乾燥させることができるので、省エネルギとなる。このように、乾燥ライン15は、シリンダC内の温度を下降させるために設けられるものではないが、この乾燥ライン15からもシリンダC内から気体を排気させることができることから、排気手段4に異常が見られるような場合には、代替的に乾燥ライン15から排気することも可能である。
【0032】
また、この実施の形態の場合、ロッドRの上端に供給ライン6を連結してロッドR内を介してシリンダCに連通するようにしているので、供給ライン6を含む供給手段3の各部を車両の車体内方に配置することができ、供給ライン6を含む供給手段3の各部を保護することができるとともに、供給ライン6の取り回しが複雑とならない利点がある。
【0033】
つづいて、分岐された供給ライン6の途中にはそれぞれ切換弁7が設けられており、この切換弁7は、供給ライン6を開放する連通ポジション7aと、供給ライン6を遮断する遮断ポジション7bとを有し、一端に設けられて遮断ポジション7bを採るように附勢するバネ7cと、他端に設けられてバネ7cに対向するソレノイド7dとを備えており、このソレノイド7dを励磁すると、遮断ポジション7bから連通ポジション7aに切換わる、2ポート2位置の電磁切換式の開閉弁として構成されている。
【0034】
また、開閉弁16にあっても、切換弁7と同様に、乾燥ライン15を開放する連通ポジション16aと、乾燥ライン15を遮断する遮断ポジション16bとを有し、一端に設けられて遮断ポジション16bを採るように附勢するバネ16cと、他端に設けられてバネ16cに対向するソレノイド16dとを備えており、このソレノイド16dを励磁すると、遮断ポジション16bから連通ポジション16aに切換わる、2ポート2位置の電磁切換式の開閉弁として構成されている。
【0035】
他方、排気手段4は、排気弁10を開くと、シリンダC内が外部へ連通され、シリンダC内の気体を大気開放することができ、この排気手段4は、供給手段3と独立しており、単独で、シリンダC内から気体を排気することが可能であるため、供給手段3を駆動しつつ、シリンダC内から気体を排気することができるようになっている。
【0036】
従って、この空圧緩衝器Dにあっては、供給手段3とこれに独立した排気手段4を備えているので、シリンダC内の気体を入れ替えてシリンダC内の温度を管理することができるようになっているのである。また、排気手段4は、排気ライン8の途中に絞り弁9を備えているので、シリンダC内から気体を排気する際に、急激に車高が下降するような事態を防止することができ、車両搭乗者に不安感や違和感を与えることが無いようになっている。
【0037】
そして、排気弁10は、切換弁7と同様に、排気ライン8を開放する連通ポジション10aと、排気ライン8を遮断する遮断ポジション10bとを有し、一端に設けられて遮断ポジション10bを採るように附勢するバネ10cと、他端に設けられてバネ10cに対向するソレノイド10dとを備えており、このソレノイド10dを励磁すると、遮断ポジション10bから連通ポジション10aに切換わる、2ポート2位置の電磁切換式の開閉弁として構成されている。
【0038】
また、排気ライン8は、図1に示したところでは、シリンダCの下室r2と外方とを連通するようになっているが、これを上室r1と外方とを連通するようにしてもよいし、また、ロッドRを貫通してシリンダC内に連通されるようにしてもよく、排気ライン8がロッドR内を通じてシリンダCに連通される場合には、排気手段4の各部を車両の車体内方に配置することができ、当該各部を保護することができ、排気ライン8の取り回しが複雑とならない利点がある。
【0039】
なお、上記した切換弁7、排気弁10および開閉弁16には、スプール弁の使用も可能であるが、図示はしないが、環状の弁座と、当該弁座を塞ぐように離着座する円錐面や球面さらには上記弁座の軸方向端部を密閉可能な弾性体等を備えた弁体とで構成されるポペット弁を採用するとよく、ポペット弁とすることで、密封性が高く、気体漏れの心配がなく、また、コンタミにも強く、応答速度に優れる利点を享受することができる。
【0040】
空圧緩衝器は、伸縮時に振動エネルギを熱エネルギに変換することで車体振動を減衰するため、車両走行中の継続的な車体振動により伸縮を繰り返してシリンダC内の気体温度が上昇する傾向となり、気体の温度上昇によってシリンダC内の圧力が上昇してロッド反力(シリンダC内の圧力にピストンPの受圧面積差(ピストンPの下室r2に面する面積から上室r1に面する面積を減算して得られる面積差)を乗じたダンパ本体1を伸長させる力)が増え、車高を上昇させてしまうことがあるが、上記の如く構成された空圧緩衝器Dにあっては、シリンダC内の気体の温度が上昇すると、排気手段4によってシリンダC内から気体を排気し、供給手段3によってシリンダC内に気体を供給することによって、シリンダC内の高温となった気体を外部から導入する低温の気体に入れ替えることができるので、シリンダC内の温度上昇による圧力上昇を速やかに解消して車高の上昇を防止でき、また、シリンダC内の圧力上昇を防止することができるため、シリンダC内の増圧によるシール部材の緊迫力の上昇を抑制してロッドの良好な摺動性を確保して円滑な伸縮を実現でき、さらには、シール部材の劣化を抑制することができる。
【0041】
さらに、温度上昇によってシリンダC内の圧力が上昇すると、空圧緩衝器Dの減衰特性がハードへ変化して減衰力が大きくなる傾向となるが、この空圧緩衝器Dにあっては、シリンダC内の温度上昇を抑制できるから、減衰特性が車両走行中に変化してしまうことを防止することも可能となり、車両に最適な減衰特性を維持することができる。
【0042】
なお、この空圧緩衝器Dは、シリンダC内の温度を調節することができるので、シリンダC内の圧力を調節することで減衰特性を一定に保つことができるのみならず、ハードへもソフトへも調節することができる。また、当然であるが、シリンダC内へ気体の供給と排気が可能であるから、車高を調節することも可能である。
【0043】
また、この空圧緩衝器Dは、シリンダC内へ気体を供給する供給手段3とは独立して機能する排気手段4を備えているので、シリンダCから気体を排気しつつ気体を供給することができるため、車高の変化を最低限度に抑えつつシリンダC内の温度を調節することができ、シリンダC内の温度調節時に車両搭乗者への違和感や不安感を抱かせる虞がない。
【0044】
単にシリンダC内の圧力上昇時に気体を排気させるのみによって車高を調整する場合、長時間駐車後の再発進や乗り始めの際にシリンダC内の気体が冷えて車高が著しく低下した状態となって車高調整が必要となる場合があるが、本実施の形態における空圧緩衝器Dにあっては、シリンダC内の気体を入れ替えて温度上昇を抑えるので、シリンダC内の気体が冷えても車高を低下させる虞が無く、乗り始め時等に車高調整を行わずに済む。
【0045】
さらに、空圧緩衝器Dを両ロッド型に設定する必要も無いので、空圧緩衝器Dのストローク長が犠牲となって車両が要求するストローク長を確保しづらくなるという心配もない。
【0046】
なお、上記したところでは、供給手段3は、大気を吸込んでシリンダC内に気体を供給するようになっているので、タンクの設置が不要であり、車両への搭載性も向上するが、不活性ガス等の空圧緩衝器Dに特に向く気体をシリンダCへ供給する場合には気体を貯留するタンクからシリンダC内へ供給するようにしてもよい。また、その場合には、排気手段4によってシリンダC外へ排気された気体を冷却して上記タンクに戻すようにすれば、気体をシステム外部へ排出せずに還流させて使用することができる。
【0047】
そしてまた、本実施の形態の場合、切換弁7および排気弁10が、それぞれ、非通電時には供給ライン6および排気ライン8を閉じて通電によって各ライン6,8を開放するように設定されているので、万が一、供給手段3および排気手段4におけるシステムに通電不能となる事態が発生しても、供給ライン6および排気ライン8が自動的に閉鎖されるので、シリンダCをロックして車高を維持し、確実にフェールセーフモードに移行することが可能である。
【0048】
なお、上記した実施の形態の供給手段3では、シリンダCへ気体供給時にはコンプレッサ5を駆動するようにしているが、供給ライン6の途中にアキュムレータを設置して、アキュムレータを蓄圧しておき、アキュムレータからシリンダCへ気体供給するようにしてもよい。
【0049】
このように、上記した供給手段3および排気手段4を備えた空圧緩衝器Dは、シリンダC内の温度を調節することができるのであるが、この実施の形態の空圧緩衝器Dにあっては、シリンダC内の温度の調節を行うに当たり、コンプレッサ5、切換弁7および排気弁10を制御する制御部20を備えている。
【0050】
以下、この制御部20について詳細に説明すると、制御部20は、温度検知手段としての温度センサ17と、車高検知手段としての車高センサ18を備えて、これらのセンサ17,18の検出する車高および温度に基づいて、コンプレッサ5、切換弁7および排気弁10を制御するようになっている。
【0051】
制御部20は、具体的にはたとえば、温度センサ17が検出した温度が所定の温度閾値αを超えているか否かを判断する温度判断部21と、車高センサ18が出力する車高センサ信号に含まれる高周波成分を除去するローパスフィルタ22と、高周波成分を除去した車高センサ信号から得られる車高Xと車高目標値X*との偏差εを演算する車高偏差演算部23と、車高偏差演算部23で演算した偏差εの絶対値が車高閾値βを超えているか否かを判断する車高判断部24と、温度判断部21および車高判断部24からの指令によってコンプレッサ5のモータM、切換弁7のソレノイド7dおよび排気弁10のソレノイド10dを駆動する駆動部25とを備えて構成されている。
【0052】
温度判断部21は、温度センサ17が検出した温度が予め設定される所定の温度閾値αを超える場合、シリンダC内の気体の温度上昇によってシリンダC内の圧力が上昇しており、当該温度を下降させるべく、駆動部25へシリンダC内から高温の気体を排気させるとともに、シリンダC内へ外部から気体を供給するようにコンプレッサ5、切換弁7および排気弁10を駆動するよう制御指令出力する。他方、温度センサ17が検出した温度が温度閾値α以下である場合には、駆動部25へ制御指令を出力せず、コンプレッサ5、切換弁7および排気弁10を駆動しない。
【0053】
なお、温度センサ17が検知する温度信号に含まれる高周波成分を除去するために、ローパスフィルタを設けておくようにしてもよい。また、温度センサ17は、シリンダC内の温度を直接検知するほか、空圧緩衝器Dの外周に気体の温度が伝播するため、シリンダCや空圧緩衝器Dの外周の温度を計測することでシリンダC内の気体の温度を検知するようにしてもよい。また、空圧緩衝器Dの外周側の温度とシリンダC内の温度の関連性を予めマップ化しておくなどして空圧緩衝器Dの外周温度を温度センサ17で計測し、この外周温度を補正してシリンダC内の温度を推定するようにしてもよい。したがって、シリンダ内の温度を検知する温度検知手段にあっては、シリンダC内の温度を直接検知する他、空圧緩衝器Dの他の箇所の温度からシリンダC内の温度を推定によって求めるようしてもよい。
【0054】
温度判断部21は、温度センサ17で検知し続ける温度を継続してモニタして、上記判断を繰り返し行う。
【0055】
つづいて、ローパスフィルタ22は、車高センサ18が車高を検知して出力する車高センサ信号から高周波成分を除去する。このローパスフィルタ22のカットオフ周波数は、車体への積載重量変化のみを検知する程度、たとえば、0.1Hz以下程度といった周波数に設定してあり、車高は車体が走行中に振動しても変化するが、ローパスフィルタ22は、当該車体振動に起因する振動成分を車高センサ信号から除去するようになっている。
【0056】
なお、ローパスフィルタ22は、車両の四輪各輪部分の設置された四つの車高センサ18から出力される信号を濾過するようになっており、ローパスフィルタ22は、四輪各輪部分の車高Xn(n=1,2,3,4)を出力する。
【0057】
ここで、車高センサ18としては、路面に照射したレーザ光の反射光を検知して三角法で車高を求めるレーザ車高センサや、ダンパ本体1のストローク変位を検出して車高を得るストロークセンサや、サスペンションの車軸を保持すると共に車体に揺動可能なアームの車体に対する揺動角を検出して車高を求めるセンサ等といった各種センサを用いることができる。
【0058】
そして、車高偏差演算部23は、ローパスフィルタ22が出力した車高Xnと車高目標値X*との偏差εn(n=1,2,3,4)を演算し、車高判断部24は、偏差εnの絶対値が車高閾値βを超えているか判断し、超えている場合、車体の閾値超えしている部分の車高が車高目標値XとなるようにモータM、切換弁7および排気弁8を駆動すべく制御指令を駆動部25へ入力する。他方、超えていない場合には、コンプレッサ5、切換弁7および排気弁10を駆動しないので、駆動部25へ制御指令を入力しない。
【0059】
なお、この実施の形態においては、この車高判断部24における判断は、温度判断部21に劣後するようになっており、すなわち、温度判断部21の判断によるコンプレッサ5、切換弁7および排気弁10の駆動が車高判断部24によるこれらの駆動に優先して行われるようになっており、駆動部25への指令が競合することが無いようになっている。すなわち、この実施の形態では、シリンダC内の温度が温度閾値αを超えている場合には、シリンダC内の温度を低下させる制御を優先させ、シリンダC内の温度が温度閾値α以下となってから車高Xnを車高目標値Xにする制御を行うようになっている。供給手段3によってシリンダC内に供給される気体は、通常、伸縮を繰り返したダンパ本体1におけるシリンダC内の気体の温度より低いため、このように制御しても、車高を制御した後に繰り返し温度判断部21によるシリンダC内の温度調節が行われるというように調節が頻繁してしまうといった問題は生じない。
【0060】
また、車高目標値Xの設定については、たとえば、車両の走行速度(車速)から求めてもよいし、車速以外の情報を基に車高目標値X*を演算するようにしてもよく、また、制御部20は自身で車高目標値X*を求めるのではなく、上位の制御装置で演算した車高目標値X*の入力を受けてもよい。
【0061】
ちなみに、車速が高速となると、車高を下げて車両の重心を下げる方が走行が安定するため、車高目標値X*を下げる方向に誘導するとよく、車両に適するように車高目標値X*を決定するようにしておけばよい。
【0062】
さらに、駆動部25は、制御指令を受け取ると、制御指令通りにコンプレッサ5、切換弁7および排気弁10を駆動して、四輪各輪に設置されているダンパ本体1のうち、温度判断部21あるいは車高判断部24によってシリンダCへの気体の供給、排気を行う必要があると判断されたダンパ本体1に対して、シリンダCへ気体を給排する。なお、駆動部25は、別途、ローパスフィルタ22が出力する車高Xnをモニタしており、車高調節対象である車高Xnと車高目標値Xとを比較して車高調節対象である車高Xnが車高目標値Xとなるまで、コンプレッサ5、切換弁7および排気弁10を駆動する。
【0063】
なお、本実施の形態の制御部20は、ハードウェア資源としては、図示はしないが、温度センサ17および車高センサ18が出力するアナログの電圧でなる信号をデジタル信号に変換するA/D変換器と、これら信号を取り込み、上記各部の処理を実行するCPU(Central Processing Unit)と、上記CPUに記憶領域を提供するRAM(Synchronous Dynamic Random Access Memory)と、上記各部の処理を行うためCPUが実行するアプリケーションやオペレーティングシステム等のプログラムを格納するROM(Read Only Memory)と、コンプレッサ5のモータMおよび切換弁7および排気弁10におけるソレノイド7d,10dを駆動する駆動回路とを備えて構成されており、制御部20の各部における構成は、CPUが各部の処理を行うためアプリケーションプログラムを実行することで実現可能である。
【0064】
また、ローパスフィルタ22は、この場合、CPUによる処理で実現されるとしているが、ローパスフィルタ22が介装される手前までの処理がアナログ回路によって実行させるのであれば、ローパスフィルタ22はアナログ信号を処理するフィルタとされてもよい。
【0065】
このように、本実施の形態の空圧緩衝器Dは、温度センサ17に基づいて供給手段3および排気手段4を制御することで、シリンダC内の温度上昇を的確に捉えて、シリンダC内を温度上昇による圧力上昇を速やかに解消することができる。したがって、タイムリーにシリンダC内を温度上昇による圧力上昇を解消できるため、車高を狙った車高に維持することができ、また、シリンダC内の圧力上昇を防止することができるため、シリンダC内の増圧によるシール部材の緊迫力の上昇を抑制してロッドの良好な摺動性を確保して円滑な伸縮を実現でき、さらには、シール部材の劣化を抑制することができる。
【0066】
さらに、この実施の形態にあっては、車高を検知する車高センサ18を備えており、シリンダC内の温度調節によって車高が変化しても、車高センサ18で検知した車高Xと車高目標値X*との偏差εの絶対値が車高閾値βを超えると供給手段3および排気手段4によってシリンダC内に気体を給排して車高を車高目標値X*となるように調節することができるから、シリンダC内の温度調節と車高調節を高精度に両立できることになる。
【0067】
また、車高目標値X*と車高Xのズレが大きくなると車高を調節することができるので、車高調節が頻繁となって車高が頻繁に制御によって変化してしまうことがなく、車両搭乗者に違和感を抱かせず、また、タイムリーに車高調節を行うことができる。
【0068】
なお、この実施の形態の場合、四輪各輪において車高目標値X*を設定して、四輪における車高Xnと車高目標値Xとの偏差εnがそれぞれ車高閾値βを超える場合に、車高調節を行うようにしているが、四輪各輪における車高Xnの合計値Xallと四輪各輪における車高目標値Xallの合計値との偏差εallを求め、この偏差が閾値を超える場合に各輪の車高Xnを車高目標値Xとなるように車高調節を行うようにしてもよく、このようにすることによっても、車高目標値X*と車高Xのズレが大きくなると車高を調節することになるので、車高調節が頻繁となって車高が頻繁に制御によって変化してしまうことがなく、車両搭乗者に違和感を抱かせず、また、タイムリーに車高調節を行うことができる。さらに、四輪の車高Xnを加算するので車体が傾いた場合、たとえば、車両の右側車高が下降し左側車高が上昇するような場合、合計値Xallが変化しにくいので、車両が旋回や坂道を上り下りして車体が傾く状況となる場合に、これを車高変化として捉えて車高調節してしまうような事態を回避することができる。
【0069】
また、車高センサ18が出力する車高センサ信号を濾過して当該車高センサ信号に含まれる高周波成分を除去するローパスフィルタ22を備え、高周波成分を除去した車高センサ信号から得られる車高Xと車高目標値Xとの偏差εが車高閾値βを超えると、供給手段3および排気手段4によってシリンダC内に気体を給排して車高Xを車高目標値Xとなるように調節するので、車高センサ信号に重畳される車両走行時の振動による車高変化やノイズによって車高調節が行われることが阻止され、車高調節が頻繁に行われることを防止できる。
【0070】
なお、上記した供給手段3および排気手段4の構成は一例であり、他の構成を用いて、シリンダCへ気体の給排をしてもよいことは当然である。
【0071】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】この発明の一実施の形態のおける空圧緩衝器を示した図である。
【符号の説明】
【0073】
1 ダンパ本体
2 通路
3 供給手段
4 排気手段
5 コンプレッサ
5a コンプレッサにおける吐出口
5b コンプレッサにおける吸込口
6 供給ライン
7 切換弁
7a 切換弁における連通ポジション
7b 切換弁における遮断ポジション
7c 切換弁におけるバネ
7b 切換弁におけるソレノイド
8 排気ライン
9 絞り弁
10 排気弁
10a 排気弁における連通ポジション
10b 排気弁における遮断ポジション
10c 排気弁におけるバネ
10b 排気弁におけるソレノイド
11 エアフィルタ
12 ドライヤ
13 絞り
14 逆止弁
15 乾燥ライン
16 開閉弁
16a 開閉弁における連通ポジション
16b 開閉弁における遮断ポジション
16c 開閉弁におけるバネ
16b 開閉弁におけるソレノイド
17 温度検知手段たる温度センサ
18 車高検知手段たる車高センサ
20 制御部
21 温度判断部
22 ローパスフィルタ
23 車高偏差演算部
24 車高判断部
25 駆動部
C シリンダ
D 空圧緩衝器
P ピストン
M モータ
R ロッド
r1 シリンダ内の上室
r2 シリンダ内の下室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、シリンダ内に摺動自在に挿入したピストンと、ピストンに連結されるとともにシリンダ内に移動自在に挿入されるロッドとを備え、車体と車軸との間に介装されて車体と車軸との相対振動を減衰する空圧緩衝器において、シリンダ内に気体を供給する供給手段と、供給手段とは独立してシリンダ内から気体を排出する排気手段とを備えたことを特徴とする空圧緩衝器。
【請求項2】
シリンダ内の温度を検知する温度検知手段を備え、シリンダ内の温度に基づいてシリンダ内への気体の供給と排出を行うことを特徴とする請求項1に記載の空圧緩衝器。
【請求項3】
シリンダ内の温度を検知する温度検知手段を備え、シリンダ内の温度が所定の温度閾値を超えると、排気手段によりシリンダ内から気体を排出し、供給手段によってシリンダ内に気体を供給することを特徴とする請求項1または2に記載の空圧緩衝器。
【請求項4】
シリンダ内の温度を検知する温度検知手段と車高を検知する車高検知手段を備え、シリンダ内の温度と車高に基づいてシリンダ内への気体の供給と排出を行うことを特徴とする請求項1に記載の空圧緩衝器。
【請求項5】
供給手段は、大気を吸込んでシリンダ内に気体を供給することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の空圧緩衝器。
【請求項6】
排気手段は、シリンダ内から気体を大気開放する排気ラインと、排気ラインの途中に設けた絞り弁とを備えたことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の空圧緩衝器。

【図1】
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【公開番号】特開2009−197852(P2009−197852A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38310(P2008−38310)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】