説明

窒化アルミニウム焼結体およびそれを用いた静電チャック

【課題】 電圧が印加された場合に放電が生じる等の不都合が生じず、かつ高い熱伝導率を維持しつつ、低い体積抵抗率を有する窒化アルミニウム焼結体およびそれを用いた静電チャックを提供すること。
【解決手段】 SmおよびLaの少なくとも1種を酸化物換算の含有量で、0.5質量%以上、7質量%以下含有し、さらに液相成分の排出を抑制するために窒化チタンを28質量%以下含有し、残部実質的に窒化アルミニウムからなり、常温での体積抵抗率が1×10〜1×1014Ω・cmであり、電圧を印加した場合に放電が生じ難い窒化アルミニウム焼結体を得る。この窒化アルミニウム焼結体を被吸着体を吸着する誘電体層2として用い、その下に設けられた電極3に電圧を印加することにより被吸着体10を吸着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低い体積抵抗率を有する窒化アルミニウム焼結体、およびそれを用いた静電チャックに関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスは金属と比較して、耐薬品や耐ガス性などの耐食性に優れることから、厳しい環境で用いられることが多い。なかでも、半導体製造装置、液晶およびプラズマディスプレイをはじめとするフラットパネルディスプレイ製造装置、化学薬品処理装置には、激しい腐食環境の工程があり、そのような工程で使用される装置の部品としてセラミックスが多用されている。特に、腐食環境下で処理物に加熱を行う際には、セラミックスに電極を埋め込んだセラミックヒーター等の部品が使用されている。
【0003】
近年、このような環境下で使用されるセラミック部品として、熱伝導性に優れ、耐食性にも優れる窒化アルミニウム製部品が注目されており、特に半導体製造装置においては、窒化アルミニウム焼結体中に電極を埋設した静電チャック、サセプタ、ヒーターが使用されるようになってきている。
【0004】
このような窒化アルミニウム焼結体としては、熱伝導率を向上させるために酸化イットリウムを焼結助剤に用いた窒化アルミニウムや、焼結助剤を用いない窒化アルミニウムを使用することが一般的であり、その室温での体積抵抗率は1×1015Ω・cm前後であることが知られている。
【0005】
このような体積抵抗率を有する窒化アルミニウム焼結体を静電チャックの誘電体層に適用する場合、300℃以上の高温雰囲気下においては高い吸着力が得られる。
【0006】
しかしながら、200℃付近の温度雰囲気下で行われる成膜工程や室温雰囲気下(25℃程度)で行われる露光処理工程、あるいは−30〜0℃程度の低温雰囲気下で行われるエッチング工程などのように200℃以下の温度雰囲気下においては、誘電体層として室温で1×10〜1×1014Ω・cmの体積抵抗率を有するセラミックスが適していることが知られており、このような環境下で用いる静電チャックに窒化アルミニウム焼結体を適用する場合には体積抵抗率が高すぎて十分な吸着力が得られないという課題がある。
【0007】
窒化アルミニウムの体積抵抗率を低下させる手段として、窒化アルミニウムに導電性物質を添加することが提案されている(特許文献1〜3)。しかしながら、このように導電性物質を添加した焼結体は、体積抵抗率が低くなるほど導電性粒子間の距離が短くなっており、これを用いた静電チャックの電極に電圧を印加すると、窒化アルミニウム中の導電性物質同士が放電し易くなり、その結果局所発熱を生じ、部分的に体積抵抗率の低下を引き起こし、吸着力が不安定になるといった問題点が生じるおそれがある。
【0008】
一方、化学気相合成法により、窒化アルミニウム結晶中にIIb、IVb、VIb族の元素または酸素を固溶させることで、体積抵抗率を低下させようとすることも提案されている(特許文献4〜8)。しかしながら、この技術は、窒化アルミニウム結晶中に欠陥や歪を導入するため熱伝導率の低下は免れ得ず、窒化アルミニウムを使用する意味が薄れてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−297265号公報
【特許文献2】特開平10−189698号公報
【特許文献3】特開平11−354620号公報
【特許文献4】特開平7−326655号公報
【特許文献5】特開平8−51001号公報
【特許文献6】特開平8−78202号公報
【特許文献7】特開平8−153603号公報
【特許文献8】特開平8−157263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、電圧が印加された場合に放電が生じる等の不都合が生じず、かつ高い熱伝導率を維持しつつ、低い体積抵抗率を有する窒化アルミニウム焼結体およびそれを用いた静電チャックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記目的を達成するため鋭意研究した結果、以下のような知見を得た。
(1)窒化アルミニウムに適量のランタノイド元素を添加することにより、上述のような不都合を生じさせることなく、常温での体積抵抗率が1×10〜1×1014Ω・cmとなること。
(2)上記ランタノイド元素としてSmおよびLaの少なくとも1種を用い、さらに適量の窒化チタンを含有させることにより、上述のような不都合を生じさせることなく、より安定して常温での体積抵抗率を1×10〜1×1014Ω・cmとすることができること。
【0012】
本発明はこのような知見に基づいて完成されたものであり、以下の(1)、(2)を提供するものである。
【0013】
(1)SmおよびLaの少なくとも1種を酸化物換算の含有量で、0.5質量%以上、7質量%以下を含有し、さらに液相成分の排出を抑制するために窒化チタンを28質量%以下含有し、残部実質的に窒化アルミニウムからなり、常温での体積抵抗率が1×10〜1×1014Ω・cmであり、電圧を印加した場合に放電が生じ難いことを特徴とする窒化アルミニウム焼結体。
【0014】
(2)電極と、その上に設けられ、該電極に電圧を印加することにより被吸着体を吸着する誘電体層とを有する静電チャックであって、前記誘電体層として、上記(1)に記載の窒化アルミニウム焼結体を用いることを特徴とする静電チャック。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、窒化アルミニウムに適量のランタノイド元素を添加することにより、また、ランタノイド元素としてSmおよびLaの少なくとも1種を用い、さらに適量の窒化チタンを含有させることにより、電圧が印加された場合に放電が生じる等の不都合が生じず、かつ高い熱伝導率を維持しつつ、低い体積抵抗率を有する窒化アルミニウム焼結体を得ることができる。また、本発明の窒化アルミニウム焼結体を誘電体層として用いた静電チャックは、従来の窒化アルミニウム製静電チャックよりも低い温度範囲で良好な吸着力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明が適用される単極型の静電チャックを示す断面図。
【図2】本発明が適用される双極型の静電チャックを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の第1の実施形態に係る窒化アルミニウム焼結体は、ランタノイド元素を酸化物換算の含有量で、0.5質量%以上、7質量%以下含有し、残部実質的に窒化アルミニウムからなり、窒化アルミニウム結晶の粒界にランタノイド元素とアルミニウムとの複合酸化物が形成され、常温での体積抵抗率が1×10〜1×1014Ω・cmである。
【0018】
このようにランタノイド元素を添加することにより、ランタノイド元素が窒化アルミニウム結晶の粒界相に存在するようになり、このランタノイド元素とアルミニウムの複合酸化物が粒界に存在することとなるので、これが窒化アルミニウム焼結体の体積抵抗率の低下に寄与し、常温での体積抵抗率を1×10〜1×1014Ω・cmとすることができる。
【0019】
このようにランタノイド元素を添加して焼結した窒化アルミニウム焼結体についてその結晶相をX線回折により同定したところ、窒化アルミニウムのピークと、ランタノイド元素とアルミニウムとの複合酸化物のピークが得られた。つまり、窒化アルミニウムにランタノイド元素を添加することで、窒化アルミニウム焼結体の粒界相にランタノイド元素とアルミニウムとの複合酸化物が形成され、その複合酸化物が窒化アルミニウム焼結体の体積抵抗率の低下に寄与することが判明した。具体的な組成は、RAlO、RAl2236、RAl22(Rはランタノイド元素)で表されるものである。
【0020】
同様の原料を使用して、焼成温度の保持時間終了後、液相成分が結晶化しない(つまりX線回折でRAlO、RAl2236、RAl22のピークが得られない)速度で降温した焼結体を作製したところ、1×1015Ω・cmの窒化アルミニウム焼結体が得られた。このことからも、これら複合酸化物の結晶が、窒化アルミニウム焼結体の低抵抗化に寄与していることが確認された。
【0021】
本発明では、このように窒化アルミニウム焼結体の粒界相にランタノイド元素とアルミニウムとの複合酸化物を形成して体積抵抗率を低下させるものであるから窒化アルミニウムの高熱伝導性は維持される。また、電圧を印加した場合の放電も生じ難い。
【0022】
ランタノイド元素は、このように体積抵抗率を低下させる機能を有している他、焼結助剤としても機能する。このようなランタノイド元素としては、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)のいずれでもよい。含有する各ランタノイド元素によって窒化アルミニウム焼結体の体積抵抗率が異なるため、所望の体積抵抗率を発現するものを用いればよい。これらの中ではLaおよびSmが好ましい。これらは、焼結助剤としての効果に優れるほか、Smは温度上昇にともなう抵抗率の低下を少なくすることができるといった効果を奏する。したがって、ランタノイド元素としては、LaおよびSmの少なくとも1種を用いることが好ましく、中でもSm単独添加が特に好ましい。
【0023】
ランタノイド元素の含有量は酸化物換算で0.5質量%以上、7質量%以下とする。7質量%より多くなるとランタノイド元素が過剰になるため、体積抵抗率が1×1015Ω・cm程度になる。逆に0.5質量%より少ないと、ランタノイド元素とアルミニウムの複合酸化物の量が少なすぎるため、体積抵抗率がやはり1×1015Ω・cm程度になる。
【0024】
次に、上記窒化アルミニウム焼結体の製造方法について説明する。
上記窒化アルミニウム焼結体は、ランタノイド元素を含有させる必要があるため、出発原料として窒化アルミニウム粉末とランタノイド元素の酸化物とを用い、これらを混合する。成形性を向上させるために出発原料にPVA(ポリビニルアルコール)等の有機バインダーを添加してもよいが、その場合には成形後に有機バインダーの脱脂工程が必要になる。
【0025】
このようにして混合した原料を成形して成形体を作製し、得られた成形体を1600〜1950℃の非酸化雰囲気で焼成する事で所望の体積抵抗率を有する窒化アルミニウム焼結体を得ることができる。もちろん、同様の条件でさらにプレスを加えながら焼結するホットプレス焼成法を用いてもよい。
【0026】
焼結助剤を添加しない窒化アルミニウムは難焼結性であるが、このランタノイド元素の酸化物、またはランタノイド元素とアルミニウムの複合酸化物粉末は、窒化アルミニウムの焼結助剤として作用する(米屋ら、窯業協会誌、1981)ため、2000℃以下で、さらにはホットプレス焼成法も用いなくても焼成が可能になる。さらには、窒化アルミニウム粒子表面に存在する酸素とランタノイド元素がアルミニウムと反応して、ランタノイド元素とアルミニウムの複合酸化物を生成し液相成分となることによって、窒化アルミニウム結晶の高純度化、熱伝導率の向上といった効果が得られる。
【0027】
窒化アルミニウム粉末は、還元窒化法、直接窒化法によって製造されるが、どちらの製造方法のものでも使用できる。得られた窒化アルミニウム焼結体を静電チャック、サセプタ、ヒーター等半導体製造装置の部品として使用する場合には、不純物が半導体汚染の原因になるため、窒化アルミニウム粉末は高純度であることが望ましい。
【0028】
焼成温度は1650〜1950℃であることが望ましく、1650〜1850℃の焼成温度が特に好ましい。1650℃より低いと、液相成分が生成されないため緻密化が促進されず、不十分な焼結体密度、具体的には相対密度で95%以下の窒化アルミニウム焼結体しか得られないからである。このような焼結が不十分な焼結体は、体積抵抗率が1×1015Ω・cm程度であることが多く、強度も不十分である。逆に1950℃より高いと、液相成分であるランタノイド元素とアルミニウムの複合酸化物の大半が排出されるから好ましくない。
【0029】
1650℃〜1850℃の範囲が特に好ましいのは、この範囲であれば、十分に緻密化が促進され、かつランタノイド元素が窒化アルミニウム焼結体からほとんど排出されず、粉末原料調製時の添加量がそのまま焼結体に含有されるため、含有量の制御が容易になるからである。
【0030】
窒化アルミニウム焼結体の焼結助剤として多用されている酸化イットリウムを添加した窒化アルミニウム粉末をこのような温度範囲で焼成すると、ランタノイド元素の場合と同様にイットリウムとアルミニウムとが複合酸化物を形成するが、この複合酸化物は窒化アルミニウム焼結体から排出されやすく、焼結体に存在するイットリウムは初めの添加量よりかなり少ないものとなってしまう。しかし、ランタノイド元素を添加した場合にはこのような現象が生じにくい。これは、ランタノイド元素とアルミニウムとの複合酸化物であるRAlO、RAl2236、RAl22の融点が、イットリウムとアルミニウムとの複合酸化物の融点よりも約200℃高いためである。
【0031】
焼成温度が1850〜1900℃では、ランタノイド元素とアルミニウムの複合酸化物の排出が若干生じるが、その場合には目的の含有量より多少多めに添加することにより容易に対応することができる。
【0032】
焼成は還元雰囲気、例えば窒素やアルゴン雰囲気で行うことができる。本発明ではランタノイド元素の酸化物を添加しており、これが焼結助剤として作用するため、常圧焼成が可能であるが、ホットプレス焼成を用いることも可能である。ホットプレス焼成を用いると、常圧焼成と比較してより低い温度、短時間で焼成することが可能となる。
【0033】
上記窒化アルミニウム焼結体の平均結晶粒径は、2〜10μm程度であることが望ましい。平均結晶粒径が10μmより大きくなると粒界相に存在するランタノイド元素とアルミニウムの複合酸化物が偏在し、窒化アルミニウム焼結体中で体積抵抗率のばらつきが発生しやすくなるばかりか、焼結体加工時にチッピング等の欠けが生じやすくなるといった製造上の問題が発生する。逆に平均結晶粒径を2μmより小さくするのは製造上難しい。
【0034】
本発明の第2の実施形態に係る窒化アルミニウム焼結体は、SmおよびLaの少なくとも1種を酸化物換算の含有量で、0.5質量%以上、7質量%以下含有し、さらに液相成分の排出を抑制するために、窒化チタンを28質量%以下含有し、残部実質的に窒化アルミニウムからなり、常温での体積抵抗率が1×10〜1×1014Ω・cmであり、電圧を印加した場合に放電が生じ難いものである。
【0035】
このように窒化アルミニウム焼結体に窒化チタンを含有させることにより、液相成分の排出が抑制され、ランタノイド元素の含有量の制御が容易になり、かつ窒化チタンは導電性粒子であるためさらなる体積抵抗率の低下に寄与する。
【0036】
窒化チタンの添加量を28質量%以下としたのは、28質量%を超えてしまうと、粒界相に存在する窒化チタン粒子が近接しすぎてしまうからである。このような窒化アルミニウム焼結体を用いて静電チャックを作製した場合、電極に電圧を印加すると窒化チタン粒子同士が放電する箇所が生じ、発熱することでさらに体積抵抗率が低下し、窒化アルミニウム焼結体中で体積抵抗率が不均一になるため好ましくない。さらに、添加量を30質量%以上にした場合は、粒界相の窒化チタンが三次元ネットワークを構成するため、窒化アルミニウム焼結体が導体となってしまう。窒化チタンの好ましい添加量は10質量%以下である。さらに好ましくは1〜6質量%である。
【0037】
ランタノイド元素として、SmおよびLaの少なくとも1種を用いることにより、窒化チタンを添加しても安定した体積固有抵抗を得ることができ、電圧を印加した場合に放電を生じ難くすることができる。
【0038】
第2の実施形態の窒化アルミニウム焼結体は、ランタノイド元素であるLaおよびSmの少なくとも1種および窒化チタンを含有させる必要があるため、出発原料として窒化アルミニウム粉末とランタノイド元素の酸化物と窒化チタンとを用い、これらを混合する。その後の手順は第1の実施形態と同様である。
【0039】
以上のような本発明の窒化アルミニウム焼結体を静電チャックに用いることで、従来の窒化アルミニウム製静電チャックよりも低い温度範囲で良好な吸着力を得ることができる。特に室温付近の吸着特性に着目すると、吸着力の向上はもちろんであるが、シリコンウェハの吸着と離脱時間が大幅に短縮される。
【0040】
次に、上記窒化アルミニウム焼結体を用いた静電チャックの例について説明する。図1および図2は、本発明の窒化アルミニウム焼結体を用いた静電チャックを示す断面図であり、図1は単極型のものを示し、図2は双極型のものを示す。
【0041】
図1の単極型の静電チャック1は、アルミニウム等からなる基台5の上に固定されて設けられており、吸着面を有し、本発明の窒化アルミニウム焼結体で構成された誘電体層2と、その下に設けられた電極3と、電極3と基台5との間に設けられた絶縁層4とを有しており、電極3には直流電源6が接続されており、この直流電源6から電極3に給電されることにより、誘電体層2の上に載置された被吸着体であるシリコンウエハ10が静電吸着される。
【0042】
図2の双極型の静電チャック1’は、誘電体層2と絶縁層4との間に一対の電極3a、3bが設けられており、これらに直流電源6が接続されており、直流電源6からこれらの電極にそれぞれ逆極性の電荷が供給されて誘電体層2の上に載置されたシリコンウエハ10が静電吸着される。
【0043】
なお、静電チャックの構造は特に限定されるものではなく、図1、図2に示す構造の他に、一方の面に電極が形成された誘電体層をセラミックス板あるいはアルミニウム台座に接着剤により貼り付けた構造など、種々の構造を採用することができる。また、電極構造は特に限定されず、上述のように単極型電極でも双極型電極でもよく、その形状も限定されるものではない。
【0044】
また、本発明の窒化アルミニウム焼結体は、静電チャックの誘電体層として好適であるが、それに限定されず、サセプタやヒーターに使用しても何等問題はない。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の実施例について説明する。
還元窒化法で製造された窒化アルミニウム粉末に、表1に示すようにランタノイド元素の酸化物を添加した(No.1〜23)。その一部のNo.2,6,7,8,11,23については、ランタノイド元素としてLaまたはSmを用いさらに窒化チタン粉末を添加した。これら原料粉末を、樹脂ボールを混合媒体とし、適量のIPA(イソプロピルアルコール)を溶媒として加え、24時間混合した。得られたスラリーを乾燥し、メッシュパスして原料粉末を作製した。
【0046】
得られた原料粉末を焼成温度1800℃、焼成時間3時間、プレス圧5MPaでホットプレス焼成し、φ50×10mmの焼結体を得た。この焼結体を加工し、JIS C2141「電気絶縁用セラミック材料試験方法」に従って抵抗率を測定した。窒化アルミニウム焼結体中のランタノイド元素量はICP発光法により測定した。なお、No.2、6、7、8、11は本発明の範囲内である。
【0047】
【表1】

【0048】
表1から、ランタノイド元素量が0.5質量%以上、7.0質量%以下のNo.1〜20の試料は、1×10〜1×1014Ω・cmを満たす低抵抗な窒化アルミニウム焼結体となった。これらの中で窒化チタンを28質量%以下の範囲で添加した本発明の範囲内であるNo.2,6,7,8,11は、ランタノイド元素のみを添加したものに比較して、より低抵抗な焼結体となる傾向にあることが確認された。すなわち、LaとTiNを添加したNo.2はLaのみを添加したNo.1よりも体積抵抗率が小さく、SmとTiNを添加したもののうち、No.6,7,8は、Smのみを添加したNo.9,10よりも体積抵抗率が小さく、No.11は同じ量でSmのみを添加したNo.10よりも体積抵抗率が小さかった。また、これらは熱伝導率の大幅な低下や、電圧を印加した際の放電が生じなかった。なお、No.21〜23は体積抵抗率が上記範囲を満たさなかった。
【符号の説明】
【0049】
1,1’……静電チャック
2……誘電体層
3,3a,3b……電極
4……絶縁層
5……基台
6……直流電源
10……シリコンウエハ(被吸着体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SmおよびLaの少なくとも1種を酸化物換算の含有量で、0.5質量%以上、7質量%以下含有し、さらに液相成分の排出を抑制するために窒化チタンを28質量%以下含有し、残部実質的に窒化アルミニウムからなり、常温での体積抵抗率が1×10〜1×1014Ω・cmであり、電圧を印加した場合に放電が生じ難いことを特徴とする窒化アルミニウム焼結体。
【請求項2】
電極と、その上に設けられ、該電極に電圧を印加することにより被吸着体を吸着する誘電体層とを有する静電チャックであって、前記誘電体層として、請求項1に記載の窒化アルミニウム焼結体を用いることを特徴とする静電チャック。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−140437(P2011−140437A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26808(P2011−26808)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【分割の表示】特願2007−272217(P2007−272217)の分割
【原出願日】平成14年3月11日(2002.3.11)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】