説明

管継手用シール体

【課題】摺動面に工夫を凝らすことにより、フランジ面と環状シール体との摺動面に付加される潤滑材が早期に減ってしまわないようにして、異常摩耗音等が生ぜず耐久性が改善される管継手用シール体を開発して提供する。
【解決手段】互いに対向配備される第1及び第2流体移送用管1,2のフランジ面5a,9aどうしの間に介装されて、それら両流体移送用管1,2を密封接合する管継手部Tを構成すべく環状に形成される管継手用シール体Aにおいて、第1流体移送用管1の凹球面状のフランジ面5aに当接する略凸球面状の摺動面10に耐熱性潤滑材17を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の排気管継手部等に用いられる管継手用シール体に係り、詳しくは、互いに対向配備される第1及び第2流体移送用管のフランジ面どうしの間に介装されて、それら両流体移送用管を密封接合する管継手部を構成すべく環状に形成される管継手用シール体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の管継手用シール体としては、特許文献1(図2〜図5を参照)において開示されるように、集合管と排気管との接続部や排気管どうしの接続部といった管継手部において採用されていることが多い。例えば、特許文献1の図2のものでは、第1流体移送用管である集合管の一体フランジ(22)と第2流体移送用管である排気管(3)の浮動フランジ(9)との間に介装されている環状シールリング(4)が管継手用シール体である。
【0003】
前記管継手部においては、両フランジに亘って架設されるコイルスプリング(11)を伴うセットボルト(10)により、排気管(3)において凸球面状に形成されている先端部分の外周シール座(3a)と管継手用シール体(4)の内周シール面(4b)とが圧接される構造とされている。そして、圧接による外周シール座(3a)との気密性を良好に維持させるために、環状シールリング(4)の内周シール面(4b)に二硫化モリブデン等の潤滑材を塗布させる工夫が為されている(特許文献1の段落番号「0017」を参照)。
【0004】
ところが、振動等による外周シール座(3a)と内周シール面(4b)との球面接触による排気管(3)の揺動(相対角度変位)が繰返し行われることにより、摺動部に形成されている前述の潤滑材による皮膜が早期に摩耗したり脱落したりし易いことが分ってきた。このような不都合が生じると、管継手部での異常摩耗音(騒音)が発生するようになるため、良好な耐久性を発揮できるようにするには改善の余地がある。
【特許文献1】特開2000−291862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、摺動面に工夫を凝らすことにより、フランジ面と環状シール体との摺動面に付加される潤滑材が早期に減ってしまわないようにして、異常摩耗音等が生ぜず耐久性が改善される管継手用シール体を開発して提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、互いに対向配備される第1及び第2流体移送用管1,2のフランジ面5a,9aどうしの間に介装されて、それら両流体移送用管1,2を密封接合する管継手部Tを構成すべく環状に形成される管継手用シール体において、
前記フランジ面5a,9aに当接する摺動面10に耐熱性潤滑材17を有していることを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の管継手用シール体において、前記フランジ面5a,9aどうしを互いに圧接させて前記第1流体移送用管1と前記第2流体移送用管2との相対角度変位を可能とすべく、前記摺動面10が球面状の面に形成されていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の管継手用シール体Aにおいて、前記耐熱性潤滑材17が、フッ素樹脂と窒化ホウ素との混合物で成るものであることを特徴とするものである。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の管継手用シール体において、前記混合物における窒化ホウ素の重量比が60〜90%で、かつ、フッ素樹脂の重量比が10〜40%に設定されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4の何れか一項に記載の管継手用シール体において、前記第1及び第2流体移送用管1,2が排気管に構成されて排気用の前記管継手部Tに用いられるものであることを特徴とするものである。
【0011】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の管継手用シール体において、ステンレス製糸状体16bと膨張黒鉛テープ16aとを有する材料16によって形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、フランジ面に当接する摺動面に耐熱性潤滑材を有する構成とされているから、フランジ面と圧接される状態での揺動移動による摩耗が繰返し行われても、摺動面に存在する耐熱性潤滑材がフランジ面と摺動面との間に浸透して存在する状態を維持可能となる。その結果、フランジ面と環状シール体との摺動面に付加される潤滑材が早期に減ってしまわないようにして、異常摩耗音等が生ぜず耐久性が改善される管継手用シール体を提供することができる。
【0013】
請求項2の発明によれば、摺動面を球面状の面に形成することで第1流体移送用管と第2流体移送用管とが相対角度変位可能に構成されており、自動車の排気系等のように、振動を伴う使用状況でも請求項1の発明による前記効果を良好発揮できる利点がある。
【0014】
請求項3の発明によれば、フッ素樹脂と窒化ホウ素との混合物で耐熱性潤滑材が形成されているので、次のような作用や効果が得られる。即ち、フッ素樹脂は摩擦係数が小さく、皮膜の摩耗に対する耐久性に優れるため、管継手部での異常摩耗音の発生を抑えることができる。そして、フッ素樹脂より耐熱性に優れる窒化ホウ素をフッ素樹脂に混合させることにより、見かけの耐熱性をより向上させることが可能となる。
【0015】
請求項4の発明によれば、窒化ホウ素の重量比が60〜90%で、かつ、フッ素樹脂の重量比が10〜40%に設定されているので、耐熱性に優れ、かつ、摺動面に潤滑材が保持される利点が得られる。即ち、窒化ホウ素の重量比が90%を超えると、摺動面に潤滑材が保持され難く、フッ素樹脂の重量比が40%を超えると、両者を混合することによる見かけの耐熱性が向上し難いからである。また、窒化ホウ素の重量比が60%を下回ると高温摺動時の摩擦力が増大し、フッ素樹脂の重量比が10%を下回ると摺動面に潤滑材が保持され難いのである。
【0016】
請求項5の発明によれば、シール対象流体が比較的高温で、かつ、振動を伴う排気系に用いられる場合でも本発明のシール体は良好な耐久性を発揮するとともに、請求項6のように、膨張黒鉛とステンレス線材とから成る材料でシール体を構成すれば、線材どうしの間に潤滑材が入り込むことによる潤滑性の良さが発揮可能になり、高温かつ振動を伴う排気管の管継手用シール体として好適なものとなる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明による管継手用シール体の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は管継手部の構造を示す断面図、図2,3は実施例1による管継手用シール体の製造方法を示す作用図、図4は実施例と比較例との耐久テスト結果を示す図である。
【0018】
本発明による管継手用シール体(以下、単に「シール体」と略称する)Aは、図1に示すように、自動車の排気系における管継手部Tに用いられているものである。管継手部Tは、鋼管製の第1排気管(「第1流体移送用管」の一例)1に形成される第1フランジ1Fと、鋼管製の第2排気管(「第2流体移送用管」の一例)2に形成される第2フランジ2Fと、第1フランジ1Fと第2フランジ2Fとをこれら両フランジ1F,2F間に環状のシール体Aが介装される状態で圧接させる圧接機構3とを有して構成されており、第1排気管1とこれに対向配備される第2排気管2とが相対角度変位可能に気密接合(封接合)されている。
【0019】
板金材製の第1フランジ部1Fは、第1排気管1の先端部に溶着等で気密状に外嵌固定される基端筒部4と、基端筒部4に続く拡径湾曲部5、拡径湾曲部5から径外側に屈曲されて形成されるフランジ部6とを有して形成されている。第2排気管2は直管丸パイプで成り、その基端部に第2フランジ2Fが固着されている。板金材製の第2フランジ2Fは、第2排気管2の先端部に溶着等によって気密状に外嵌固定される胴部7と、胴部7から径外側にて第1排気管1側に凸となるように湾曲形成される当接周部9と、当接周部9から立ち上がり形成されるフランジ部8とを有して形成されている。
【0020】
拡径湾曲部5は、その内周面(フランジ面の一例)5aが管軸心Pにおける第2排気管2側に入り込んだ位置に配される第1点Xを中心とする半径Rの球面(凹球面)となるように形成されており、組付状態(図1に示す状態)においては第2排気管2側に侵入配置されるように設定されている。内周面5aは、シール体A(後述)との当接面として機能する箇所であり、また、当接周部9の外周面(フランジ面の一例)9aも、シール体A(後述)との当接面として機能する箇所に設定されている。第1排気管1の管軸心Pと第2排気管2の管軸心Zとは、両排気管1,2が一直線上に並ぶ図1に示す状態では一致している(P=Z)ので、以後、基本的には管軸心Pを代表として用いることとする。
【0021】
シール体Aは、図1に示すように、第1排気管1側に向かって先細りとなる外周形状を有して第2排気管2の先端部2aに外嵌装備されるリング状のものであり、拡径湾曲部5の内周面5aに当接する湾曲外周面(摺動面の一例)10と、当接周部9の外周面9aに当接する環状の側周面11と、先端部2aに密外嵌される内周面12とを有している。湾曲外周面10は、第1点Xから距離aで第1排気管1側に寄り、かつ、第1点Xから距離bで管軸心Pの径外側に寄る第2点Yを中心とする半径rの管軸心Pに沿う方向の断面形状を、管軸心Pの回りに回転させて成る回転体としての球面状の面に形成されている。この場合、r<Rであって内周面5aと湾曲外周面10とは線接触(円線接触)するものとなっている。そして、平面状の側周面11と外周面9aとも線接触している。
【0022】
圧接機構3は、図1に示すように、第1及び第2フランジ1F,2Fに形成されている孔1k、2kに挿通される鍔13a、中間フランジ13b、及び根元大径部13cを有する段付ボルト13と、ナット14と、段付ボルト13に嵌装されるコイルバネ15とを図示のように組付けることにより構成されている。ナット14は第1フランジ部1Fに溶着されていても良い。コイルバネ15の弾性力によって第1及び第2フランジ1F,2Fを互いに接近する方向に常時押圧付勢することにより、第1排気管1と第2排気管2との相対角度変位が可能な管継手部Tを形成及び維持している。段付ボルト13とナット14との締付操作により、コイルバネ15のセット長を変えて第1及び第2フランジ1F,2Fの押圧付勢力を調節設定可能である。この圧接機構3は複数箇所、例えば、管軸心P,Zを中心とする円周上の均等角度毎の複数箇所(2〜4箇所等)に設けられる。
【0023】
つまり、シール体Aの湾曲外周面10と拡径湾曲部5の内周面5aとが互いに線接触しての気密状態を維持しながら角度変位可能であり、走行振動やエンジンの回転振動等によって第1及び第2排気管1,2どうしを相対角度変させるような応力が生じた場合には、管継手部Tにおける前述の相対角度変位によってその応力を吸収させることができるのである。このように、シール体Aの外周面がシール構造における摺動面となる構造を「外摺動タイプ」と定義する。
【0024】
〔実施例1〕
実施例1によるシール体A及びその製造方法について説明する。先ず、図2(a)に示すように、膨張黒鉛テープ(幅47mm、厚さt=0.38mm)16aの周りでステンレス線(ステンレス製糸状体の一例)16bでニット編みすることで複合テープ16〔図2(b)参照〕を作成し、例えば、長さ670mmに切断する複合テープ作成工程を行う。次に、図2(b)に示すように、複合テープ16の片面の一部(例:いずれかの端から所定長さ範囲)に耐熱性潤滑材17を塗布し、乾燥させる潤滑材塗布工程を行う。そして、図2(c)に示すように、別途作成されている膨張黒鉛シート(幅60mm、長さ310mm、厚さt=0.38mm)18と潤滑材塗布工程後の複合テープ16とを重ねて巻き、金型に投入して成形工程を行う。
【0025】
前述の成形工程により、図3(a)に示す筒状の環状元体19が作成され、その環状元体19をさらに圧縮成型することによって外摺動タイプのシール体Aの原型〔図3(b)参照〕を作成する環状元体作成工程を行う。そして、シール体原型の外周面に耐熱性潤滑材33を塗布することで摺動面(湾曲外周面)10を形成し、図3(b)に示す実施例1の外摺動タイプのシール体A(例:内径42.8mm、外径56.3mm、長さ15.5mm)が作成される。
【0026】
耐熱性潤滑材17としては、フッ素樹脂と窒化ホウ素との混合物で成るものを用いた。平均粒子径7μmの窒化ホウ素30重量%とイオン交換水70重量%をボールミルにて分散させ窒化ホウ素懸濁液を製作した。次に、固形分30重量%の四フッ化エチレン樹脂ディスパージョン30重量%に、前記窒化ホウ素懸濁液70重量%を少量ずつ分け加えながら、攪拌・混合を行い、耐熱性潤滑材とした。この耐熱性潤滑材の乾燥後の重量比は、窒化ホウ素の重量比が60〜90%で、かつ、フッ素樹脂の重量比が10〜40%の範囲に設定されるものであり、実施例1においては、窒化ホウ素70重量%及び四フッ化エチレン樹脂30重量%である。尚、シール体Aにおける耐熱性潤滑材17が塗布される摺動面10に階段状の周溝を複数形成して、潤滑材17の保持作用が長期に亘って発揮可能となる構成を採っても良い。
【0027】
〔比較例1〕
図示は省略するが、比較例1によるシール体は、実施例1のシール体Aと耐熱性潤滑材が異なるものである。その異なる耐熱性潤滑材は、平均粒径7μmの窒化ホウ素15重量%と、平均粒径0.6μmのアルミナ(酸化アルミニウム)13重量%と、平均粒径0.3μmのPTFE(フッ素樹脂の一例)2重量%と、水70重量%とを混合して耐熱性潤滑材とした。この実施例2の耐熱性潤滑材の乾燥後の重量比は、窒化ホウ素50%、アルミナ43%、PTFE7%である。
【0028】
各シール体を排気管の管継手部Tに装着し、排気管上流側(第1排気管1側)を固定し、下流側(第2排気管2側)を駆動装置に取付けて上下移動させることにより、管継手部Tに角度±3度、周波数12Hzの振動(揺動)を100万回付加する耐久テストを行った。そのテスト中は、排気管上流側(第1排気管1側)の開管部からガスバーナーにて加熱し、管継手部Tを温度500℃に維持した。そして、所定回数毎(例:25万回毎)に周波数を一時的に4Hzとし、そのときの摩擦音の有無を確認した。その耐久テスト結果を図4に示す。
【0029】
図4から、比較例1のものでは、25万回の時点から既に摩擦音(異音)が出始め、75万回からは3回出るという具合に芳しいものではなかった。これに対して実施例1のものでは、100万回の時点で僅か1回だけ摩擦音が出るに止まるものであり、明確に効果が表れていること(性能向上)が理解できる。
【0030】
〔別実施例〕
第1,2流体移送用管1,2としては、排気や空気、ガス等の気体を通す管のほか、洗浄液、薬液、水等の液体を通す管でも良い。本発明の管継手用シール体は、その摺動面が外周面となる外摺動タイプ(実施例1)でも、内周面となる内摺動タイプ(図示は省略するが、シール体Aの内周面12と、これと当接するフランジ面9aとの少なくとも何れか一方が球面状の面に構成される構造であり、特開2000−291862号等を参照)とのいずれでも良い。また、摺動面がテーパ周面で、かつ、摺動面に当接するフランジ面が凸球面状内周面又は凹球面状外周面となる組合せ構造のものでも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】排気管継手構造を示す断面図
【図2】管継手用シール体の製造方法を示し、(a)は複合テープ作成工程、(b)は潤滑材塗布工程、(c)は成形工程
【図3】管継手用シール体の製造方法を示し、(a)は環状元体作成工程、(b)は完成品
【図4】実施例と比較例との摩擦異音耐久テスト結果を示す図
【符号の説明】
【0032】
1 第1流体移送用管
2 第2流体移送用管
5a,9a フランジ面
10 摺動面
16 材料
16a 膨張黒鉛テープ
16b ステンレス製糸状体
17 耐熱性潤滑材
A 管継手用シール体
T 管継手部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向配備される第1及び第2流体移送用管のフランジ面どうしの間に介装されて、それら両流体移送用管を密封接合する管継手部を構成すべく環状に形成される管継手用シール体であって、
前記フランジ面に当接する摺動面に耐熱性潤滑材を有している管継手用シール体。
【請求項2】
前記フランジ面どうしを互いに圧接させて前記第1流体移送用管と前記第2流体移送用管との相対角度変位を可能とすべく、前記摺動面が球面状の面に形成されている請求項1に記載の管継手用シール体。
【請求項3】
前記耐熱性潤滑材が、フッ素樹脂と窒化ホウ素との混合物で成るものである請求項1又は2に記載の管継手用シール体。
【請求項4】
前記混合物における窒化ホウ素の重量比が60〜90%で、かつ、フッ素樹脂の重量比が10〜40%に設定されている請求項3に記載の管継手用シール体。
【請求項5】
前記第1及び第2流体移送用管が排気管に構成されて排気用の前記管継手部に用いられるものである請求項1〜4の何れか一項に記載の管継手用シール体。
【請求項6】
ステンレス製糸状体と膨張黒鉛テープとを有する材料によって形成されている請求項5に記載の管継手用シール体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−144884(P2009−144884A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325462(P2007−325462)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(000229737)日本ピラー工業株式会社 (337)
【Fターム(参考)】