説明

粒子径測定装置および測定方法

【課題】測定のための受光量を簡単な装置構成で増やすとともに迅速な測定が可能にする。
【解決手段】偏光板に挟まれたサンプル11中の測定対象粒子に光を照射する照明手段13と、サンプル11の光照射側とは反対側に配置され照明手段13の照明光により発生する測定対象粒子からの散乱光を測定する光測定手段15と、測定された散乱光の情報から測定対象粒子の粒子径を求める粒子径算出手段17とを備えた。この照明手段13は、サンプル11の被測定領域に対する光照射角度の範囲を変更する機能を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプル中の測定対象粒子に光を照射して生じた散乱光を用いて、測定対象粒子の粒子径を求める粒子径測定装置および測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微粒子の粒子径測定手段としては、光測定、顕微鏡観察等の手段がある。光測定法のうち、静的光散乱測定は、粒子の光散乱角度分布が粒子の粒子サイズ、屈折率(粒子、媒質)、測定波長に依存する(例えば非特許文献1参照)ことを利用し、サンプルの光散乱角度分布を測定することで行われる。
液体/固体/気体中に分散された微粒子の粒子径測定においては、従来、図11に示すように、一方向からサンプル1に一定波長の光を偏光素子2を介して照射し、検出器3の受光角度を変更することで測定する構成(例えば特許文献1参照)、または、図12に示すように、各受光角度にそれぞれ検出器3を配置してサンプル1からの散乱光を受光する構成(例えば特許文献2参照)がある。
【特許文献1】特開平10−122827号公報
【特許文献2】特開2004−184134号公報
【非特許文献1】G.Mie : Ann.Physik,4(1908)377
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、これら構成においては測定スポットを微小領域にした場合に光源からの光の光量が制限され、その結果、受光される光量が微弱となり、測定精度が必ずしも十分に得られなかった。また、検出器を逐次移動させて測定するために多大な測定時間を要したり、多数の検出器を配置するため装置構成が複雑になる問題があった。
【0004】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、測定のための受光量を簡単な装置構成で増やすことができ、しかも迅速な測定が可能な粒子径測定装置および測定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 偏光板に挟まれたサンプル中の測定対象粒子に光を照射する照明手段と、前記サンプルの光照射側とは反対側に配置され前記照明手段の照明光により発生する前記測定対象粒子からの散乱光を測定する光測定手段と、測定された前記散乱光の情報から前記測定対象粒子の粒子径を求める粒子径算出手段とを備えた粒子径測定装置であって、
前記照明手段は、前記サンプルの被測定領域に対する光照射角度の範囲を変更する機能を有する粒子径測定装置。
【0006】
この粒子径測定装置によれば、照明手段がサンプルの被測定領域に対する光照射角度の範囲を変更できるので、特定の光照射角度に逐次変更して測定する方式と比較して、十分な光量で測定を行うことができ、粒子径の測定精度が向上する。
【0007】
(2) (1)記載の粒子径測定装置であって、
前記照明手段を前記サンプルに対して相対的に接近または離反方向に移動させ、前記照明手段による前記被測定領域への光照射角度の範囲を変更する照明移動手段を備えた粒子径測定装置。
【0008】
この粒子径測定装置によれば、照明移動手段により、照明手段をサンプルに対して相対的に接近または離反方向に移動させることで、照明手段によるサンプルの被測定領域への光照射角度の範囲を容易にかつ高精度で変更することができる。
【0009】
(3) (1)または(2)記載の粒子径測定装置であって、
前記偏光板がクロスニコル配置で前記サンプルを挟んでいる粒子径測定装置。
【0010】
この粒子径測定装置によれば、サンプルをクロスニコル配置された偏光板で挟むことで、散乱光でない直進透過光をカットし、散乱光のみを受光することができ、測定精度を向上できる。
【0011】
(4) (1)〜(3)のいずれか1項記載の粒子径測定装置であって、
前記照明手段の光出射側に発光面の全面にわたって設けられ、前記サンプルの被測定領域へ光照射するための円形開口部を有する遮光手段を備えた粒子径測定装置。
【0012】
この粒子径測定装置によれば、測定結果の解析モデルが単純化され計算負担が軽減される。
【0013】
(5) (4)記載の粒子径測定装置であって、
前記遮光手段が、前記円形開口部のサイズを調整する開口サイズ調整手段を備えた粒子径測定装置。
【0014】
この粒子径測定装置によれば、円形開口部のサイズを変更することで、照明手段による被測定領域への光照射角度の範囲を変更することができる。
【0015】
(6) (1)〜(4)のいずれか1項記載の粒子径測定装置であって、
前記拡散光照明器が、直線レールに移動自在に支持されたスライダに固設された粒子径測定装置。
【0016】
この粒子径測定装置によれば、スライダに固設された拡散光照明器が直線レールに沿って移動することで、高い直進性で連続移動でき、高精度に測定が行える。
【0017】
(7) (1)〜(6)のいずれか1項記載の粒子径測定装置であって、
予め種々の粒子径に対して、前記光照射角度の範囲と前記光照射角度の各範囲に対する散乱光光量との関係を求めた粒子径依存性データベースを備え、
前記粒子径算出手段が、前記光測定手段により測定された前記散乱光の情報を、前記粒子径依存性データベースに照合して前記測定対象粒子の粒子径を求める粒子径測定装置。
【0018】
この粒子径測定装置によれば、測定された前記散乱光の情報を、予め作成された粒子径依存性データベースに照合することで、測定対象粒子の粒子径を推定して求めることができる。
【0019】
(8) 偏光板に挟まれたサンプル中の測定対象粒子に光を照射して、発生した前記測定対象粒子からの散乱光を測定し、この測定された散乱光の情報から前記測定対象粒子の粒子径を求める粒子径測定方法であって、
種々の粒子径に対し、前記サンプルの被測定領域に対する光照射角度の範囲と前記光照射角度の各範囲に対する散乱光光量との関係を求めて粒子径依存性データベースを作成するデータベース作成ステップと、
前記光照射角度の範囲を変更し、該光照射角度の各範囲に対する前記サンプルからの散乱光を測定することで、光照射角度の範囲と散乱光光量との関係を求める測定ステップと、
前記測定ステップにより求めた光照射角度の範囲と散乱光光量との関係を、前記粒子径依存性データベースに照合して前記測定対象粒子の粒子径を求める粒子径決定ステップと、を含む粒子径測定方法。
【0020】
この粒子径測定方法によれば、特定の光照射角度に逐次変更して測定する方式と比較して、十分な光量で測定を行うことができ、粒子径の測定精度が向上する。
【0021】
(9) (8)記載の粒子径測定方法であって、
前記サンプルの光照射側とは反対側に配置された光測定手段により前記測定対象粒子からの散乱光を測定する光学系で、平面発光型の拡散光照明器を前記サンプルに対して相対的に接近または離反方向に移動することで、前記光照射角度の範囲を変更する粒子径測定方法。
【0022】
この粒子径測定方法によれば、拡散光照明器を相対移動することで光照射角度の範囲を容易にかつ高精度で変更することができる。
【0023】
(10) (8)または(9)記載の粒子径測定方法であって、
前記粒子径依存性データベースを、種々の粒子径に対して、前記光照射角度の範囲と前記光照射角度の各範囲に対する散乱光光量との関係を予め解析的に求めて作成する粒子径測定方法。
【0024】
この粒子径測定方法によれば、粒子径依存性データベースを解析的に求めることにより、実測する必要なく計算処理によってデータベースを作成できる。
【0025】
(11) (8)または(9)記載の粒子径測定方法であって、
前記粒子径依存性データベースを、サイズが既知である種々の粒子径を有するサンプルに対して、前記光照射角度の範囲と前記光照射角度の各範囲に対する散乱光光量との関係を予め測定して作成する粒子径測定方法。
【0026】
この粒子径測定方法によれば、粒子径依存性データベースを実測により求めることにより、種々の誤差要因が排除され、より現実に即した高精度なデータベースを作成できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る粒子径測定装置によれば、簡単な装置構成で受光量を増やすことで精度良く粒子径を求めることができ、また、迅速な測定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係る粒子径測定装置の好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
本発明に係る粒子径測定装置は、粒子に光を照射した際に生じる散乱光が、粒子径によって異なる分布となることを利用して、発生する散乱光を測定することで、粒子径、あるいは粒子径の分布を測定するものである。
【0029】
まず、微粒子による光散乱角度分布の一例を説明する。微粒子の光散乱角度分布は、粒子径によって異なる。
図1に直径の異なる粒子による光散乱角度分布(a)〜(f)を示した。
いずれの分布も等方的屈折率を持つ粒子により、光が1回散乱した場合の解析結果であり、(a)は粒子径dが1nm、(b)は10nm、(c)は100nm、(d)は1μm、(e)は10μm、(f)は100μmのものである。それぞれの解析結果は、サンプルに対して光を方位角φ=180°の方向から入射することを想定している。なお、各図における散乱光強度のスケールは、それぞれの分布がわかるように適宜変更している。
【0030】
図1(a)〜(f)に示すように、粒子径dが小さいと側方散乱性が高く、光の入射方向によらずに略等方的に散乱光が生じるが、粒子径dが大きくなるにつれ、前方散乱性が高くなる。このように、粒子径dによって散乱光の分布が変化する。また、換言すれば、直径の大きな粒子ほど、光源とサンプルとの距離を離しても背面からの垂直照射量は変わらないので、光漏れ量が落ちにくい。一方、直径の小さな粒子ほど、光源とサンプルとの距離を離したときに、側方からの照明が無くなることから光漏れ量が低減する。
本実施形態の粒子径測定装置は、このような粒子径依存性を利用してサンプルの粒子径を推定により求めるものである。
【0031】
以下、本実施形態の粒子径測定装置の構成を説明する。
図2に粒子径測定装置100の一例としての全体構成図を示した。
粒子径測定装置100は、主に、サンプル11中の測定対象粒子に光を照射する照明手段としての光源13と、サンプル11の光源13とは反対側に配置され光源13により発生する測定対象粒子からの散乱光を測定する光測定手段としての輝度計15と、測定された散乱光の情報から測定対象粒子の粒子径を求める粒子径算出手段としての制御装置17とを備えている。
【0032】
サンプル11は、クロスニコル配置された2枚の偏光板(不図示)に挟んだ状態で照明ボックス19のサンプルホルダ21に取り付けられ、一方の面を輝度計15に向け、他方の面を光源13に向けている。
【0033】
照明ボックス19内に配置される光源13は、平面発光型の拡散光照明器が利用でき、例えば液晶ディスプレイのバックライト装置を用いることができる。バックライト装置は、冷陰極線やLED等の発光体と、該発光体からの光を拡散する拡散板とを備えた拡散光照明器である。その他にも、光出射開口が所定サイズ(例えば1cm程度)以上の積分球を用いることもできる。いずれにせよ、発光面から拡散光が発せられる光源であればよい。この光源13は、サンプル11に対して近接および離反方向に移動可能に支持される。ここでは、照明移動手段である電動スライダ23の直線レール25上に移動自在に支持されたスライダ27に光源13が配置され、直線スライダコントローラ29によりスライダ27を移動させ、サンプル11と光源13との距離Lを可変にしている。直線レール25に沿って光源13が移動するので、高い直進性で連続移動でき、高精度に測定できる。なお、光源13を移動させる代わりにサンプル11を移動させる構成としてもよい。
【0034】
光源13の発光面は、図3に示すように、中央部に円形状の開口30aを有した遮光シート(遮光手段)30が貼着され、光源13の平面発光領域を開口30aの直径Dの円形領域内に限定している。開口30aの直径Dは、測定対象に応じて適宜設定される(例えばD=100mm)。この平面発光領域を円形状の開口30aにすることで、後述する解析の計算を単純化し、計算負担を軽減している。開口30aは、遮光シート30の開口孔径で調整する他にも、例えば、任意の円形開口部のサイズが得られるように、開口サイズが可変なレンズシャッターや適宜な遮光部材の組み合わせ構造を配置してもよい。その場合には、条件に応じて適切な開口サイズを簡単に設定できる。
【0035】
照明ボックス19の内面には、反射防止塗料などを塗布した反射防止膜が形成されており、想定外の角度から光がサンプル11に照射されることを防いでいる。また、サンプル11の近傍位置には反射防止板31をボックス内面から突設させて光源13周囲からの不要光やサンプル11からの反射光がサンプル11に照射されないようにしている。
【0036】
輝度計15は、サンプル11の所定領域の輝度を測定し、その測定結果を制御装置17に出力する。本実施形態で測定する領域は、輝度計15とサンプル11とを結ぶ直線から±0.5°広がった範囲(測定角=1°)としている。この測定する領域は測定対象・測定目的によって適宜変更する。輝度計15とサンプル11との距離は、所定の一定距離W(W=0〜500mm)に設定されている。輝度計15の光路手前側には必要に応じて干渉フィルタ33を設置して、測定する光の波長成分をフィルタリングしている。なお、光源13の発光が単色光であればこの干渉フィルタ33を省略することができる。
【0037】
制御部17は、直線スライダコントローラ29、輝度計15の制御と、光源13の制御や後述する粒子径依存性データベース35に接続されている。
【0038】
上記構成の粒子径測定装置100によれば、図4に測定原理の説明図を示すように、光源13を電動スライダ23によりサンプル11に接近または離反方向に移動させ、光源13とサンプル11との距離LをL1→L2→L3と変化させることで、サンプル11の被測定領域Pにおける光照射角度を広く→狭く変更できる。つまり、被測定領域Pでは、距離Lが短いほど広い角度範囲から光が照射され、距離Lが長いほど狭い角度範囲から光が照射されることになる。よって、光源13の移動動作により、サンプル11の被測定領域Pに対する光照射角度の範囲を広くまたは狭くすることができる。
上記のように、サンプルへ11の光照射角度範囲を狭くあるいは広く変化させ、ある一方位から散乱光を観察した場合の受光量変化は、サンプル11内の粒子径によって変化する。
【0039】
ここで、光照射角度の範囲が変更自在となることは、特定方向から照射される光成分が所定角度範囲で積分される、その積分範囲が変更自在となることを意味している。サンプル11には、一度に多方向からの光成分がサンプル11に照射され、これにより、受光光量が増大して光量の検出精度を向上できる。つまり、単一方向からの光照射でなく、様々な方向から光を照射することで光量を稼ぐことで、精度を高められる。また、このとき2枚のクロスニコル配置の偏光板37,39(図4参照)を使用することで、散乱光でない直進透過光をカットし、散乱光のみを受光することで測定精度をさらに高めている。
偏光板37,39は、偏光板表面は光拡散処理等を行っていないものを使用し、その偏光度は99%以上であることが望ましい。
【0040】
次に、上記構成の粒子径測定装置100により、サンプルの粒子径を測定する手順を説明する。
図5にサンプルの粒子径を測定するフローチャートを示した。
まず、サンプル11をクロスニコル配置された偏光板に狭持させてサンプルホルダ21にセットする(S1)。そして、電動スライダ23により光源13のサンプル11からの距離Lを変化させ、光源13の各位値において輝度計15によりサンプル11の被検査領域に対する正面輝度、すなわち、偏光板からの漏れ光量を測定する(S2)。例えば、光源13をサンプル11に対して至近距離に配置しておき、その位置から段階的にスライダ27を離反方向に移動させ、スライダ27の各停止位置で輝度計15により正面輝度の測定を行う。
【0041】
上記の測定で得られた距離Lと輝度Iとの関係を、予め用意された粒子径依存性データベース35のデータと照合して、測定結果と最も適合度の高い粒子径を求めることで、サンプル11の粒子径を推定する(S3)。
【0042】
ここで、予め用意する粒子径依存性データベース35について説明する。
粒子径依存性データベースは、複数種の異なる粒子径に対する光散乱角度分布と偏光板の光学特性とを解析的に求め、光源13とサンプル11との距離に対する漏れ光量の分布を各粒子径に対して求めた解析データベースと、サイズが既知である粒子をサンプルとして、実測により求めた実測データベースとのいずれであってもよく、また双方を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
まず、解析データベースについて説明する。
粒子径依存性は、本実施形態の粒子径測定装置100の構成おいては光漏れ量の光源距離依存性に相当する。この光源距離依存性の理論値は、下記のように算出する。
【0044】
サンプル11に斜めから入射した光がサンプル11内で光散乱するときには、散乱方向により強度と偏光状態が変化する。本構成ではクロスニコル配置された2枚の偏光板でサンプル11を挟んでいるが、この光学系による光漏れ量を計算するために、光の偏光、強度を扱うことのできるストークスベクトル(4行1列)、ミュラーマトリクス(4行4列)を使用する。
【0045】
ミュラーマトリクスを用いることにより、任意の強度と偏光状態を持つ光に対し、出射光の強度と偏光状態を解析的に求めることができる。具体的には、入射光のストークスベクトルを、サンプルのミュラーマトリクスに乗ずることで、出射光のストークスベクトルを求めることができる。構成部材が複数(本実施形態では、サンプル11の他に2枚の偏光板37,39)ある場合は、それぞれのミュラーマトリクスを求め、すべてを乗算することで、全体のミュラーマトリクスが求まる。
【0046】
本実施形態では、サンプル11に対して拡散光照明を行っており、様々な方向から光を入射させ、サンプル11の正面から輝度測定を行っている。したがって、ある特定の方向からの光入射に対し、正面方向への光散乱のミュラーマトリクスを求め、入射側、出射側の偏光板のミュラーマトリクスを乗じた上で入射光のストークスベクトルを乗ずれば、この特定方向からの光入射に対する光漏れ量が算出できる。これを、拡散光照明光源からの全入射角に対して積算すれば、全体の光漏れ量が計算できる。
【0047】
上記の光漏れ量の演算式は、(1)式のようになる。ただし、本実施形態では、干渉フィルタ33を使用して特定波長成分のみを透過させて受光していたが、干渉フィルタ33を用いず、広い波長域を分光せず受光する場合には、(1)式を波長積分すればよい。なお、図6に入射光および出射光の光学系を示した。
【0048】
【数1】

【0049】
ここで、
λ:波長
OUT(λ):波長λにおける、光漏れ量
in(λ,θ,φ):波長λにおける、入射光のストークスベクトル(4行1列)
Polin(λ,θ,φ):波長λにおける、偏光板のミュラーマトリクス(4行4列)
Polout(λ,θ,φ):波長λにおける、偏光板のミュラーマトリクス(4行4列)
S(λ,θ,0;θ,φ):波長λにおける、(θ,φ)方向から(θ,0)方向への散乱光の偏光変化を表すミュラー行列(4行4列)
α:サンプルへの光入射角度範囲(バックライトの距離によって変化する)
P(λ):受光器の分光感度特性
[ ]1:4行1列のマトリクスの1行目の要素(1要素)
【0050】
(1)式におけるサンプル11の光散乱のミュラーマトリクスは、例えばDDA((Discrete Dipole Approximation)法を用いて計算することができる。このときのサンプル11の粒子(その他、バインダ等)の屈折率は、既知の値を使用して求めることができる。
【0051】
また、入射光のストークスベクトルは、計算を簡単化するため、全角度から均一強度、無偏光と仮定した。また、偏光板のミュラーマトリクスは、実際に使用する偏光板37,37が理想的な偏光板ではないが、解析結果に与える誤差は小さいものと考え、ここでは理想的偏光板として計算する。
【0052】
サンプル11と光源13との距離を変化させた場合、サンプル11に対する光入射角度の範囲θも変化するため、(1)式の積分範囲(θ:−α〜α)を変化させつつ光漏れ量を算出することで、光漏れ量のバックライト距離依存性の理論値を計算する。その結果を、サンプル11と光源13と距離が0のときの光漏れ量で規格化する。
即ち、
規格化漏れ光量=漏れ光量(L)/漏れ光量(0)
L:サンプル11と光源13との距離
【0053】
一例として図7に複数の粒子径に対するサンプルと光源との距離Lと規格化した光漏れ量との関係を示した。
図7に示すように、粒子径が小さくなるほど、距離Lに対する漏れ光量の変化が大きくなり、光散乱成分が多くなっていることがわかる。
【0054】
図8は図7に示す解析結果に対して横軸を規格化光漏れ量、縦軸を粒子径dとして表したグラフである。
図8に示すように、規格化光漏れ量が図5のS2に従って特定されると、その規格化光漏れ量に応じた粒子径を求めることができる。
これら図7および図8に示されるデータが、任意に参照可能な形態で解析データベースとして粒子径依存性データベース35(図2参照)に保存される。
【0055】
次に、粒子径依存性データベース35を実測データベースとした場合を説明する。
この場合では、粒子径依存性を予め実験的に求めておき、その結果を実測データベースとして粒子径依存性データベース35に保存しておく。
【0056】
具体的な実測方法は次の通りである。
サンプル11としては、図9に示すように、別途にガラス製セル43を準備する。ガラス製セル43は、ガラス板45A,45Bを2枚間隔を開けて対面配置させ、側低面を封止するとともに上面に蓋材47を嵌め込んだ構成であり、ガラス板45A,45B内に密閉空間49が形成されている。この密閉空間49に粒径が既知であるポリスチレン球標準粒子を水中に分散させた液体を注入する。ガラス板45A,45Bの外側面には、2枚の偏光板37,39がクロスニコル配置で貼着されている。
【0057】
このガラス製セル43をサンプルホルダ21にセットして、各種粒径の粒子に対して、光源との距離Lと規格化した光漏れ量との関係を測定して求める。得られたデータを、任意に参照可能な形態で実測データベースとして粒子径依存性データベース35(図2参照)に保存する。
【0058】
以上説明した粒子径測定装置100、およびその測定方法によれば、光源13がサンプル13の被測定領域に対する光照射角度の範囲を変更できる平面発光型の拡散光照明器からなることで、特定の光照射角度に逐次変更して測定する方式と比較して、十分な光量で測定を行うことができ、粒子径の測定精度が向上する。
【0059】
また、電動スライダ23により、光源13をサンプル11に対して相対的に接近または離反方向に移動させることで、光源13によるサンプル11の被測定領域への光照射角度の範囲を容易にかつ高精度で変更することができる。
【0060】
また、上記の粒子径測定技術は、例えば液晶パネル等に用いられるカラーフィルタ用顔料の粒子径測定に対して好適に利用できる。液晶パネルに用いられている顔料型カラーフィルタ(CF)は、高コントラスト化のため、微細な顔料粒子を凝集無く分散することが望ましいとされている。これは、CF内の顔料の粒子の屈折率が同じくCF内のバインダとの屈折率と異なるため光散乱を起こし、液晶パネルにおいて想定外の光漏れを起こすことにより、特に黒表示時の輝度を上昇させるからである。この光漏れ量は、粒子とバインダの屈折率差が一定、使用顔料量一定の条件では、粒子サイズが大きいほど多い。したがって、使用する顔料は、粒子径が微小であることが望ましい。
このような背景から、顔料粒子開発においては粒子径測定が重要となっている。本実施形態の粒子径測定装置方式では、顔料粒子の溶液状態での微粒子の粒子径測定の他、基板塗布後の凝集状態の解析にも使用が可能なものである。
【0061】
次に、本発明に係る粒子径測定装置の他の実施の形態について説明する。
図10は光源の発光面の種類を示す説明図である。
光源13を任意の映像の表示が可能な平面ディスプレイとし、その発光面51に、前述の遮光シート30の開口30a(図3参照)に相当する円形の高輝度領域53を形成する。つまり、この高輝度領域53は、平面ディスプレイに例えば白色高輝度の円形表示パターンのビデオ信号を入力することにより生成する。この高輝度領域53の直径D1〜Dnを変更することで、擬似的に第1実施形態による光源13の移動と同様の効果が得られる。この場合には、位置を変更する部材がなくなるため、測定効率がより高められる。

【実施例1】
【0062】
<測定>
前述した第1実施形態と同様の構成の粒子径測定装置により測定を行った。
光源には、平面型の拡散光照明装置(電通産業製フラットイルミネータHF-SL-A48LCG 発光面302×212mm)を用いた。発光部は、中央部の直径D=100mm以外を遮光した。これを電動式の直線動する電動スライダに載せ、サンプルとの距離が可変(0〜500mm)であるようにした。
【0063】
サンプルはポリスチレン球標準粒子(表示サイズ100,200,300,400,500nm)を使用し、これを水中に分散させた液体をそれぞれ用意し、図9に示すガラス製セルに注入して合計5種類のサンプルを作成した。これらサンプルを照明ボックスのサンプルホルダに固定した。なお、ガラス製セルに貼着される偏光板は、シグマ光機製のプラスチックシート型偏光板、日東電工 偏光板"NPF"、サンリッツ製 スーパーハイコントラスト偏光板(いずれも偏光度99%以上)を用いた。
【0064】
輝度計はTOPCON社製 分光放射輝度計SR−3を用いて輝度測定を行った。なお、測定角は1°とし、照明ボックス外面に現れているサンプルからの距離が500mmとなる位置に設置した。輝度計の手前には干渉フィルタ(コーニング社製のガラス偏光子ポーラコア PolarcorTM(λ=630nm)を設置した。
制御装置としてパーソナルコンピュータを用い、電動スライダと接続することで、サンプルと光源との距離を変化させつつ輝度計による測定を行い、データを取得した。
【0065】
<粒子径算出>
上記で求まった光漏れ量のバックライト距離依存性を、理論値と比較し、最も実測値と理論値とが一致する粒子径を求めることで、測定サンプルの粒子径を算出した。
計算基データとしては、以下の通りである。
粒子(ポリスリレン球):屈折率n=1.57 (λ=630nm)
バインダ(水):屈折率n=1.33 (λ=630nm)
【0066】
<測定結果>
表1は光源をサンプルから200mm離したときの規格化光漏れ量から、粒子径を算出した結果である。即ち、求まった光漏れ量の光源距離依存性を、理論値(解析値または予め求めた実測値)と比較し、最も測定値と理論値とが一致する粒子径を求め、測定サンプルの粒子径を算出した結果である。
【0067】
【表1】

【0068】
表1に示す各サンプル1〜5に対して、測定粒子径が精度よく測定されている。また、測定に要する時間も平均20秒程度であり、受光器を逐次回転させる方式と比較して大幅に高速化されている。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、例えば液晶パネル等に用いられるカラーフィルタ用顔料の粒子径測定に対して利用できる他、医薬品、化粧品、工業材料、金属、セラミックス、塗料、食品、土壌、水中粒子、大気中浮遊粒子等の測定に対しても利用でき、さらに、粒子径が予め分かっている場合には、本測定により、屈折率を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】直径の異なる粒子による光散乱角度分布(a)〜(f)を示す説明図である。
【図2】粒子径測定装置一例としての全体構成図である。
【図3】中央部に円形状の開口を有した遮光シートを示す平面図である。
【図4】粒子径測定装置による測定原理の説明図である。
【図5】サンプルの粒子径を測定するフローチャートである。
【図6】入射光および出射光の光学系を示す説明図である。
【図7】複数の粒子径に対するサンプルと光源との距離と規格化した光漏れ量との関係を示すグラフである。
【図8】図7に示す解析結果に対して横軸を規格化光漏れ量、縦軸を粒子径として表したグラフである。
【図9】ガラス製セルの構成を示す断面図である。
【図10】光源の発光面の種類を示す説明図である。
【図11】従来の微粒子の粒子径測定装置の構成図である。
【図12】従来の他の微粒子の粒子径測定装置の構成図である。
【符号の説明】
【0071】
11 サンプル
13 光源(照明手段)
15 輝度計(光測定手段)
17 制御装置(粒子径算出手段)
19 照明ボックス
21 サンプルホルダ
23 電動スライダ(照明移動手段)
25 直線レール
27 スライダ
29 直線スライダコントローラ
30 遮光シート
30a 開口
31 反射防止板
33 干渉フィルタ
35 光源距離依存性データベース
37 偏光板
39 偏光板
43 ガラス製セル
45 ガラス板
47 蓋材
51 発光面
53 高輝度表示領域
100 粒子径測定装置
L 光源とサンプルとの距離
W サンプルと輝度計との距離
P サンプルの測定位置
d 粒子直径
D 開口の直径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光板に挟まれたサンプル中の測定対象粒子に光を照射する照明手段と、前記サンプルの光照射側とは反対側に配置され前記照明手段の照明光により発生する前記測定対象粒子からの散乱光を測定する光測定手段と、測定された前記散乱光の情報から前記測定対象粒子の粒子径を求める粒子径算出手段とを備えた粒子径測定装置であって、
前記照明手段は、前記サンプルの被測定領域に対する光照射角度の範囲を変更する機能を有する粒子径測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の粒子径測定装置であって、
前記照明手段を前記サンプルに対して相対的に接近または離反方向に移動させ、前記照明手段による前記被測定領域への光照射角度の範囲を変更する照明移動手段を備えた粒子径測定装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の粒子径測定装置であって、
前記偏光板がクロスニコル配置で前記サンプルを挟んでいる粒子径測定装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の粒子径測定装置であって、
前記照明手段の光出射側に発光面の全面にわたって設けられ、前記サンプルの被測定領域へ光照射するための円形開口部を有する遮光手段を備えた粒子径測定装置。
【請求項5】
請求項4記載の粒子径測定装置であって、
前記遮光手段が、前記円形開口部のサイズを調整する開口サイズ調整手段を備えた粒子径測定装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の粒子径測定装置であって、
前記照明手段が、直線レールに移動自在に支持されたスライダに固設されている粒子径測定装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項記載の粒子径測定装置であって、
予め種々の粒子径に対して、前記光照射角度の範囲と前記光照射角度の各範囲に対する散乱光光量との関係を求めた粒子径依存性データベースを備え、
前記粒子径算出手段が、前記光測定手段により測定された前記散乱光の情報を、前記粒子径依存性データベースに照合して前記測定対象粒子の粒子径を求める粒子径測定装置。
【請求項8】
偏光板に挟まれたサンプル中の測定対象粒子に光を照射して、発生した前記測定対象粒子からの散乱光を測定し、この測定された散乱光の情報から前記測定対象粒子の粒子径を求める粒子径測定方法であって、
種々の粒子径に対し、前記サンプルの被測定領域に対する光照射角度の範囲と前記光照射角度の各範囲に対する散乱光光量との関係を求めて粒子径依存性データベースを作成するデータベース作成ステップと、
前記光照射角度の範囲を変更し、該光照射角度の各範囲に対する前記サンプルからの散乱光を測定することで、光照射角度の範囲と散乱光光量との関係を求める測定ステップと、
前記測定ステップにより求めた光照射角度の範囲と散乱光光量との関係を、前記粒子径依存性データベースに照合して前記測定対象粒子の粒子径を求める粒子径決定ステップと、を含む粒子径測定方法。
【請求項9】
請求項8記載の粒子径測定方法であって、
前記サンプルの光照射側とは反対側に配置された光測定手段により前記測定対象粒子からの散乱光を測定する光学系で、平面発光型の拡散光照明器を前記サンプルに対して相対的に接近または離反方向に移動することで、前記光照射角度の範囲を変更する粒子径測定方法。
【請求項10】
請求項8または請求項9記載の粒子径測定方法であって、
前記粒子径依存性データベースを、種々の粒子径に対して、前記光照射角度の範囲と前記光照射角度の各範囲に対する散乱光光量との関係を予め解析的に求めて作成する粒子径測定方法。
【請求項11】
請求項8または請求項9記載の粒子径測定方法であって、
前記粒子径依存性データベースを、サイズが既知である種々の粒子径を有するサンプルに対して、前記光照射角度の範囲と前記光照射角度の各範囲に対する散乱光光量との関係を予め測定して作成する粒子径測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−229239(P2009−229239A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74731(P2008−74731)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】