説明

粘着剤、粘着シート及び電子部品の製造方法。

【課題】
粘着シートとダイアタッチフィルムを積層した粘着シートでは、粘着剤に含有される低分子量成分である光重合開始剤がダイアタッチフィルム側にマイグレーションし、半導体製造工程においてチップとリードフレームとの接着不良が発生する場合があった。
【解決手段】
本発明は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体と、紫外線重合性化合物と、多官能イソシアネート硬化剤と、光重合開始剤とを有し、光重合開始剤の23℃から500℃まで10℃/分の昇温速度で昇温したときの質量減少率10%となる温度が250℃以上である粘着剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤、粘着シート及び電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2に、粘着シートにダイアタッチフィルムを積層して、ダイシング用の粘着シートの機能と、半導体チップをリードフレームに固定する接着剤の機能を兼ね備えた技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−049509号公報
【特許文献2】特開2007−246633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、粘着シートとダイアタッチフィルムを積層した粘着シートでは、粘着剤に含有される低分子量成分である光重合開始剤がダイアタッチフィルム側にマイグレーションし、半導体製造工程においてチップとリードフレームとの接着不良が発生する場合があった。この接着不良は、半導体製造工程でのダイシング工程、ピックアップ工程後に得られたダイアタッチフィルム付きのチップをリードフレームに接着し、封止樹脂でモールディング後の260℃前後での加温工程において、リードフレームとダイアタッチフィルム間で剥離が生じる現象である。この接着不良は、半導体製造工程時の歩留まりを低下させる原因となっている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体と、紫外線重合性化合物と、多官能イソシアネート硬化剤と、光重合開始剤とを有し、光重合開始剤の23℃から500℃まで10℃/分の昇温速度で昇温したときの質量減少率10%となる温度が250℃以上である粘着剤である。
【0006】
光重合開始剤は、エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム)、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、及び、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オンであるのが好ましい。
【0007】
粘着剤は、(メタ)アクリル酸エステル重合体100質量部と、紫外線重合性化合物5質量部以上200質量部以下と、多官能イソシアネート硬化剤0.5質量部以上20質量部以下と、光重合開始剤0.1質量部以上20質量部以下とを有するのが好ましい。
【0008】
フィルム状の基材と、基材の一方の面に積層された請求項1乃至3のいずれか一項に記載の粘着剤とを有する粘着シート。
【0009】
前述の粘着剤を用いた粘着シートとしては、前述の粘着剤の露出面にダイアタッチフィルムを積層させた粘着シートが好ましい。
【0010】
本発明の他の観点からの電子部品の製造方法に係る発明は、前述の粘着シートをシリコンウエハとリングフレームに貼り付ける貼付工程と、貼り付けられたシリコンウエハをダイシングブレードでダイシングして半導体チップにするダイシング工程と、粘着シートの粘着剤の光重合開始剤の重合開始を行う機能を有する光を照射して粘着剤の粘着力を低下させて半導体チップをダイアタッチフィルムごと粘着剤層からピックアップするピックアップ工程とを含む電子部品の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る粘着剤及び粘着シートは、半導体チップのチップ保持性、ピックアップ性に優れ、ピックアップされたチップに付着しているダイアタッチフィルムのチップとリードフレームとの接着不良を抑制することができた。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<用語の説明>
単量体単位とは単量体に由来する構造単位を意味する。「部」及び「%」は質量基準である。(メタ)アクリレートとはアクリレート及びメタアクリレートの総称である。(メタ)アクリル酸等の(メタ)を含む化合物等も同様に、名称中に「メタ」を有する化合物と「メタ」を有さない化合物の総称である。
【0013】
<実施形態の概要>
本発明は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体と、紫外線重合性化合物と、多官能イソシアネート硬化剤と、光重合開始剤とを有し、光重合開始剤の23℃から500℃まで10℃/分の昇温速度で昇温したときの質量減少率10%となる温度が250℃以上である粘着剤である。
【0014】
<粘着剤>
〔(メタ)アクリル酸エステル共重合体〕
本発明で用いる(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体のみの共重合体、又は、(メタ)アクリル酸エステルの単量体とビニル化合物単量体との共重合体である。
【0015】
(メタ)アクリル酸エステルの単量体としては、例えばブチル(メタ)アクリレート、2−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシメチル(メタ)アクリレート及びエトキシ−n−プロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートがある。
【0016】
ビニル化合物単量体としては、カルボキシル基、エポキシ基、アミド基、アミノ基、メチロール基、スルホン酸基、スルファミン酸基又は(亜)リン酸エステル基といった官能基群の1種以上を有する官能基含有単量体がある。
【0017】
カルボキシル基を有する単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、フマール酸、アクリルアミドN−グリコール酸、及びケイ皮酸がある。
【0018】
エポキシ基を有する単量体としては、例えばアリルグリシジルエーテル及び(メタ)アクリル酸グリシジルエーテルがある。
【0019】
アミド基を有する単量体としては、例えば(メタ)アクリルアミドがある。
【0020】
アミノ基を有する単量体としては、例えばN,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートがある。
【0021】
メチロール基を有する単量体としては、例えばN−メチロールアクリルアミドがある。
【0022】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法としては、乳化重合、溶液重合がある。
【0023】
〔紫外線重合性化合物〕
紫外線重合性化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、シアヌル酸トリエチルアクリレート、市販のオリゴエステルアクリレートなどが用いられる。
【0024】
紫外線重合性化合物として、上記アクリレート系化合物の他に、ウレタンアクリレートオリゴマを用いることもできる。
ウレタンアクリレートオリゴマは、ポリエステル型又はポリエーテル型などのポリオール化合物と、多価イソシアネート化合物、例えば2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,3−キシレンジイソシアネート、1,4−キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタン4,4−ジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどを反応させて得られる末端イソシアネートウレタンプレポリマに、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレート、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、グリシドールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレートなどを反応させて得られる。
【0025】
紫外線重合性化合物としては、ビニル基を4個以上有するウレタンアクリレートオリゴマが紫外線照射後の紫外線硬化型粘着剤の硬化が十分であり、粘着シートとダイアタッチフィルムとが容易に剥離し、良好なピックアップ性を得られるので好ましい。
【0026】
紫外線重合性化合物の配合量は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体100質量部に対して5質量部以上200質量部以下とすることが好ましい。紫外線重合性化合物の配合量を少なくすると、放射線照射後の粘着シートのダイアタッチフィルムからの剥離が難しくなる傾向にあって半導体チップのピックアップ性の問題が生じやすくなる。紫外線重合性化合物の配合量を多くすると、ダイシング時に糊の掻き上げによりピックアップ不良が生じ易くなるとともに反応残渣による微小な糊残りの発生が生じ汚染防止性が損ない、ダイアタッチフィルムが付着した半導体チップをリードフレーム上に搭載した際の加温時の接着不良が生じ易くなる。
【0027】
〔多官能イソシアネート硬化剤〕
多官能イソシアネート硬化剤は、イソシアネート基を2個以上有するものであり、例えば芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネートがある。
【0028】
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば1,3−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−トルイジンジイソシアネート、2,4,6−トリイソシアネートトルエン、1,3,5−トリイソシアネートベンゼン、ジアニシジンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4’,4”−トリフェニルメタントリイソシアネート、ω,ω’−ジイソシアネート−1,3−ジメチルベンゼン、ω,ω’−ジイソシアネート−1,4−ジメチルベンゼン、ω,ω’−ジイソシアネート−1,4−ジエチルベンゼン、1,4−テトラメチルキシリレンジイソシアネート及び1,3−テトラメチルキシリレンジイソシアネートがある。
【0029】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えばトリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート及び2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートがある。
【0030】
脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン及び1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンがある。
【0031】
上述のポリイソシアネートのうち、1,3−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−トルイジンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートが好ましい。
【0032】
多官能イソシアネート硬化剤の配合比は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体100質量部に対して0.5質量部以上20質量部以下が好ましく、下限としては1.0質量部以上、上限としては10質量部以下がより好ましい。多官能イソシアネート硬化剤が0.5質量部以上であれば、粘着力が強すぎないので、ピックアップ不良の発生を抑制することができる。多官能イソシアネート硬化剤が20質量部以下であれば、粘着力が低下せず、ダイシング時に半導体チップの保持性が維持される。
【0033】
〔光重合開始剤〕
光重合開始剤は、温度23℃から、10℃/分の昇温速度で500℃まで昇温し、質量減少率が10%の際の温度が250℃以上のものである。光重合開始剤としては、エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム)(BASFジャパン社製、製品名IRGACURE OXE02)、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(BASFジャパン社製、製品名LUCIRIN TPO)、及び2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン(BASFジャパン社製、製品名IRGACURE127)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1(BASFジャパン社製、製品名IRGACURE369)、2−ジメチルアミノ−2−(4−メチル−ベンジル)−1−(4−モルフォリンー4−イル−フェニル)−ブタン−1−オン(BASFジャパン社製、製品名IRGACURE379)、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(BASFジャパン社製、製品名IRGACURE819)等が挙げられる。特に、温度23℃から、10℃/分の昇温速度で500℃まで昇温し、質量減少率が10%の際の温度が270℃以上である、エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム)(BASFジャパン社製、製品名IRGACURE OXE02)、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(BASFジャパン社製、製品名LUCIRIN TPO)、及び2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン(BASFジャパン社製、製品名IRGACURE127)が好ましい。温度23℃から、10℃/分の昇温速度で500℃まで昇温し、質量減少率が10%の際の温度が250℃以上であることで、ダイシング、ピックアップ後に得られたダイアタッチフィルム付きのチップをリードフレームに接着し、封止樹脂でモールディング後の260℃前後での加温工程において、リードフレームとダイアタッチフィルム間での剥離による接着不良を抑制することができるためである。
【0034】
光重合開始剤の配合量は、好ましくは、(メタ)アクリル酸エステル重合体100質量部に対して0.1質量部以上20質量部以下である。この配合量が少なすぎると放射線照射後の粘着シートをダイアタッチフィルムから容易に剥離できなって半導体チップのピックアップ性の低下が生じる傾向にある。この割合が多くなると、粘着剤表面へのブリードアウトによる汚染防止性が抑制されなくなり、ダイアタッチフィルムが付着した半導体チップをリードフレーム上に搭載した際の加温時の接着不良が生じ易くなる傾向にある。
【0035】
粘着剤には、他の素材に影響を与えない範囲で、シリコーン重合体に代表される剥離付与剤、軟化剤、老化防止剤、充填剤、紫外線吸収剤及び光安定剤等の添加剤を添加することができる。
【0036】
粘着層の厚みは、3μm以上100μmが好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。
【0037】
<基材フィルム>
本発明で用いられる基材フィルムの組成物としては、例えばポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸−アクリル酸エステルフィルム、エチレン−エチルアクリレート共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン系共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、及び、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体やエチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等を金属イオンで架橋したアイオノマ樹脂がある。基材フィルムは、これら樹脂の混合物、共重合体又はこれらの積層物であっても良い。
【0038】
基材フィルムはプロピレン系共重合体が好ましい。このプロピレン系共重合体を採用することにより、半導体ウエハを切断する際に発生する切り屑を抑制することができるためである。このプロピレン系共重合体としては、例えばプロピレンと他成分とのランダム共重合体、プロピレンと他成分とのブロック共重合体、プロピレンと他成分の交互共重合体がある。他成分としては、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン等のα−オレフィン、少なくとも2種以上のα−オレフィンからなる共重合体、スチレン−ジエン共重合体等がある。これらの中でも1−ブテンが好ましい。
【0039】
プロピレン系共重合体を重合する方法としては、例えば溶媒重合法、バルク重合法、気相重合法、逐次重合方法等が挙げられるが、一段目でプロピレン単独重合体又はプロピレンと少量のエチレン及び/又はα−オレフィンとのランダム共重合体を製造後、二段目以降でα−オレフィンの単独重合体又はプロピレンと少量のエチレン及び/又はα−オレフィンとのランダム共重合体を製造する、少なくとも二段以上の逐次重合方法が好ましい。
【0040】
基材フィルムには、帯電防止処理を施すのが好ましい。帯電防止処理をすることによって、ダイアタッチフィルム剥離時における帯電を防止することができる。帯電防止処理としては、(1)基材フィルムを構成する組成物に帯電防止剤を配合する処理、(2)基材フィルムのダイアタッチフィルム積層側の面に帯電防止剤を塗布する処理、(3)コロナ放電による帯電処理がある。帯電防止剤としては、四級アミン塩単量体等がある。
【0041】
四級アミン塩単量体としては、例えばジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級塩化物、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級塩化物、メチルエチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級塩化物、p−ジメチルアミノスチレン四級塩化物、及びp−ジエチルアミノスチレン四級塩化物があり、ジメチルアミノエチルメタクリレート四級塩化物が好ましい。
【0042】
<ダイアタッチフィルム>
粘着シートに用いられるダイアタッチフィルムは、接着剤をフィルム状に成形したものである。ダイアタッチフィルムの具体的な組成物としては、アクリル酸エステル共重合体、ポリアミド、ポリエチレン、ポリスルホン、エポキシ、ポリイミド、ポリアミド酸、シリコーン、フェノール、ゴム、フッ素ゴム及びフッ素樹脂の単体又はこれらの混合物、共重合体及び積層体があり、組成物としてはリードフレームとチップの接着信頼性の面からエポキシを含むことが好ましい。この組成物には、光重合開始剤、帯電防止剤、架橋剤、架橋促進剤、フィラーなどを添加してもよい。
【0043】
<粘着シート>
本発明に係る粘着シートは、基材フィルム上に粘着剤を塗布して粘着シートを作成した。粘着シートの粘着剤面にダイアタッチフィルムを貼り付けた粘着シートであっても良い。係る場合、ダイアタッチフィルムと粘着シートの間の粘着強度を調整する必要がある。この粘着強度は、ダイアタッチフィルムと粘着シートの間の粘着強度が大きいとピックアップ不良が発生する傾向にあり、粘着力が小さいとチップ保持が低下する傾向にあるため、0.05〜1.5N/20mmが好ましい。
【0044】
<電子部品の製造方法>
他の観点における発明は、上述の粘着シートを用いた電子部品の製造方法である。
【0045】
電子部品の製造方法は、次の工程を有する。
(1)粘着シートをシリコンウエハとリングフレームに貼り付ける貼付工程
(2)貼り付けられたシリコンウエハをダイシングブレードでダイシングして半導体チップにするダイシング工程
(3)粘着シートの粘着剤の光重合開始剤の重合開始を行う機能を有する光を照射して粘着剤の粘着力を低下させて半導体チップをダイアタッチフィルムごと粘着剤層からピックアップするピックアップ工程
【0046】
この電子部品の製造方法は、上述の粘着シートを用いているため、半導体チップのチップ保持性、ピックアップ性及び汚染防止性に優れたものである。
【実施例】
【0047】
以下、本発明に係る実施例を、表1を用いて説明する。
【0048】
実施例は、基材フィルムと、基材フィルムの一方の面に積層された粘着剤層と、粘着剤層に積層されたダイアタッチフィルムとを有する粘着シートである。その主な組成を表1に示す。
【0049】
【表1】



【0050】
基材フィルムは、表1には記載しなかったが、実施例・比較例の全てにおいて、サンアロマー社製プロピレン系共重合体(品番:X500F)を用いた。MFR(メルトフローレート)値が7.5g/10分、密度0.89g/cmの、厚さ80μmのものである。
【0051】
粘着剤層は、表1の配合比によって配合したものである。表中の数字は、質量部である。以下、表1に記載の内容について、具体的に説明する。
【0052】
<光重合開始剤の質量減少率の測定方法>
光重合開始剤の質量減少率は、25℃の環境下で光重合開始剤の質量(昇温前質量)を測定した後、光重合開始剤を、示差熱・熱重量同時測定装置[TG/DTA同時測定装置、セイコー製、TG/DTA220]を用いて、昇温速度10℃/分で、23℃から500℃に昇温し、各温度での光重合開始剤の質量(昇温後質量)を測定し、次式により算出し、質量減少率が10%の際の温度を算出した。
質量減少率={(昇温前質量−昇温後質量)/(昇温前質量)}×100(%)
【0053】
<粘着剤>
〔(メタ)アクリル酸エステル共重合体〕
A−1:綜研化学社製SKダイン1496;2−エチルヘキシルアクリレート96%、2−ヒドロキシエチルアクリレート4%の共重合体、溶液重合により得られる。
A−2:日本ゼオン社製アクリルゴムAR53L;エチルアクリレート54%、ブチルアクリレート19%、メトキシエチルアクリレート24%の共重合体、乳化重合により得られる。
〔紫外線重合性化合物〕
B−1:根上工業社製UN−3320HS;イソホロンジイソシアネートの三量体にジペタエリスリトールペンタアクリレートを反応させたものであり、ビニル基の数が15個。
B−2:新中村化学社製A−TMPT;トリメチロールプロパントリアクリレート、ビニル基の数が3個。
〔多官能イソシアネート硬化剤〕
C−1:日本ポリウレタン社製コロネートL−45E;2,4−トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体。
〔光重合開始剤〕
D−1:BASFジャパン社製IRGACURE OXE02;エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム)、質量減少率が10%の際の温度320℃。
D−2:BASFジャパン社製LUCIRIN TPO;2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、質量減少率が10%の際の温度270℃。
D−3:BASFジャパン社製IRGACURE127;2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン、質量減少率が10%の際の温度275℃。
D−4:BASFジャパン社製IRGACURE379;2−ジメチルアミノ−2−(4−メチル−ベンジル)−1−(4−モルフォリンー4−イル−フェニル)−ブタン−1−オン、質量減少率が10%の際の温度265℃。
D−5:BASFジャパン社製IRGACURE651;ベンジルジメチルケタール、質量減少率が10%の際の温度185℃。
【0054】
ダイアタッチフィルムは、表1には記載しなかったが、実施例・比較例の全てにおいて、
エポキシ系接着剤を主体とし、厚さ30μmのものである。
【0055】
表1における評価について、説明する。
<評価対象となる試料>
評価の対象となる粘着シートの試料は、次の要領によって製造された。
【0056】
〔粘着シート〕
実施例・比較例における配合の粘着剤を、ポリエチレンテレフタレート製のセパレーターフィルム上に塗布し、乾燥後の粘着層の厚みが10μmとなるように塗工する。この粘着層を上述の基材フィルムに積層し、40℃で7日間熟成し粘着シートを得た。表1にあるダイアタッチフィルムを8.2インチφの円形に切断し、粘着シートの粘着層上にラミネートし、23℃で1週間保管した。
【0057】
〔電子部品:半導体チップ〕
電子部品の製造には、ダミーの回路パターンを形成した直径8インチ×厚さ0.1mmのシリコンウエハを用いた。
【0058】
<電子部品の製造方法>
評価対象の試料を作成する方法でもある電子部品の製造方法について説明する。
【0059】
電子部品の製造方法は、次の工程を有する。
(1)粘着シートをシリコンウエハとリングフレームに貼り付ける貼付工程
(2)貼り付けられたシリコンウエハをダイシングブレードでダイシングして半導体チップにするダイシング工程
(3)粘着シートの粘着剤の光重合開始剤の重合開始を行う機能を有する光を照射して粘着剤の粘着力を低下させて半導体チップをダイアタッチフィルムごと粘着剤層からピックアップするピックアップ工程
【0060】
ダイシング工程での条件を以下に記載する。
粘着シートへの切り込み量:15μm
ダイシング装置:DISCO社製DAD341
ダイシングブレード:DISCO社製NBC−ZH205O−27HEEE
ダイシングブレード形状:外径55.56mm、刃幅35μm、内径19.05mm
ダイシングブレード回転数:40,000rpm。
ダイシングブレード送り速度:50mm/秒。
切削水温度:25℃。
切削水量:1.0リットル/分。
【0061】
ピックアップ工程の条件を以下に記載する。
主な設定は、以下の通りである。
紫外線照射:高圧水銀灯で照射量500mJ/cm
ピックアップ装置:キヤノンマシナリー社製CAP−300II
ニードルピン形状:250μmR
ニードルピン突き上げ高さ:0.5mm
エキスパンド量は、8mm
【0062】
<評価方法>
表1における評価について説明する。
【0063】
<チップ保持性>
チップ保持性は、ダイシング工程後において、半導体チップが粘着シートに保持されている半導体チップの残存率で評価した。
◎(優):チップ飛びが5%未満
○(良):チップ飛びが5%以上10%未満
×(不可):チップ飛びが10%以上
【0064】
<ピックアップ性>
ピックアップ性は、ピックアップ工程においてピックアップできた率で評価した。
◎(優):チップのピックアップ成功率が95%以上
○(良):チップのピックアップ成功率が80%以上95%未満
×(不可):チップのピックアップ成功率が80%未満
【0065】
<汚染防止性>
汚染防止性として、ダイアタッチフィルムのアウトガス量の測定を実施した。粘着シートの粘着剤面をダイアタッチフィルムに貼り付けて、2週間保管後、高圧水銀灯で紫外線を500mJ/cm照射した後、粘着シートを剥離した。この剥離したダイアタッチフィルムから発生する光重合性開始剤由来のアウトガス量を評価した。
アウトガス量は、剥離したダイアタッチフィルム3mgをアウトガス測定用のバイアルに封入し、ヘッドスペースサンプラーを用いて250℃で30分間保持したのち、GC−MSに導入して測定した。
◎(優):光重合性開始剤由来のアウトガス量200μg/g未満
○(良):光重合性開始剤由来のアウトガス量200μg/g以上800μg/g未満
×(不可):光重合性開始剤由来のアウトガス量800μg/g以上
【0066】
実施例・比較例が示すように、権利範囲を逸脱すると、チップ保持性か、ピックアップ性か、汚染防止性が悪かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体と、紫外線重合性化合物と、多官能イソシアネート硬化剤と、光重合開始剤とを有し、光重合開始剤の23℃から500℃まで10℃/分の昇温速度で昇温したときの質量減少率10%となる温度が250℃以上である粘着剤。
【請求項2】
光重合開始剤が、エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム)、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、及び、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オンである請求項1記載の粘着剤。
【請求項3】
(メタ)アクリル酸エステル重合体100質量部と、紫外線重合性化合物5質量部以上200質量部以下と、多官能イソシアネート硬化剤0.5質量部以上20質量部以下と、光重合開始剤0.1質量部以上20質量部以下とを有する請求項1又は2に記載の粘着剤。
【請求項4】
フィルム状の基材と、基材の一方の面に積層された請求項1乃至3のいずれか一項に記載の粘着剤とを有する粘着シート。
【請求項5】
請求項4記載の粘着剤の露出面にダイアタッチフィルムを積層させた粘着シート。
【請求項6】
請求項5記載の粘着シートをシリコンウエハとリングフレームに貼り付ける貼付工程と、貼り付けられたシリコンウエハをダイシングブレードでダイシングして半導体チップにするダイシング工程と、粘着シートの粘着剤の光重合開始剤の重合開始を行う機能を有する光を照射して粘着剤の粘着力を低下させて半導体チップをダイアタッチフィルムごと粘着剤層からピックアップするピックアップ工程とを含む電子部品の製造方法。

【公開番号】特開2012−102267(P2012−102267A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253073(P2010−253073)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】