説明

糸条の走行監視装置

【課題】本発明の目的は、目飛びなどの糸条の走行異常の検出用閾値を作業者の負担なく設定できる糸条の走行監視装置を提供することにある。
【解決手段】糸条の走行異常を判断する判断手段が、閾値検索をおこなう期間を設定する閾値検索時間設定部と、設定された閾値検索時間内に検出した糸条の一定送り量ごとのパルス数を閾値設定用パルス数として記憶する閾値設定パルス数記憶手段と、前記閾値設定用パルス数に基づいて走行異常を判断する閾値を設定する閾値設定手段と、を含む糸条の走行監視装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンなどの繊維機械の稼働中に糸条の走行を監視する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ミシンによる縫製中に、走行する糸条の監視が行われている。シャツやパンツ等の衣類をミシンによって縫製する際に発生する目飛び発生の有無を監視することによって、製造歩留まりを改善でき、また不良品の提供が減ることで消費者の製造業者への信頼向上に役立つ。
【0003】
糸条の走行監視装置としては、糸条をローラに巻きつける方法や空間フィルタを用いたものがあり、空間フィルタ方式は糸条と非接触である点で有利である。
差動型空間フィルタ素子を使用した糸条の走行監視装置は特許文献1、特許文献2で開示され、特許文献3で出願されている。これは、走行する糸条の毛羽や、糸条の微細凹凸の影を差動型空間フィルタ素子上に投影し、差動型空間フィルタ素子で光電変換された光電流を信号処理することにより糸条の走行状況を監視している。
そして、目飛び発生時は上糸と下糸が絡み合わないので、正常に縫製される時と比較して、糸の消費量が減ることとなる。これを利用し、あらかじめ設定した閾値と比較して目とびを判断している。
【0004】
ここで図2に従来手法の一実施形態に係る糸条の走行監視装置の電気的構成を示す。図2に示すように、従来手法では入力閾値記憶手段41において閾値をあらかじめ作業者が入力する必要があった。よって従来手法は、作業者によるばらつきや、また設定値の調整に時間がかかるという問題があった。さらに、生地や糸が変化すると検出する信号が変化するため、製品切り替え時には設定を変更する必要があり、作業者の負担となっていた。
【特許文献1】特公平05−026516 図1
【特許文献2】特開2008−214030 段落番号0007、図8
【特許文献3】特願2008−017422 段落番号0009、図1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、作業者によるばらつきなく糸条の走行異常を判断する閾値が設定でき、作業者が負担なく閾値を設定する手段を備えた糸条の走行監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために
請求項1に記載の糸条の走行監視装置は、糸条に光を照射する光源と、前記糸条に対して光源とは反対方向に配置され、2系列の受光素子が糸条の走行方向に同じピッチで交互に並べられ、光が照射された糸条の影の変化に応じた光電流を出力する差動型空間フィルタ素子と、前記光電流を電流電圧変換し、前記電流電圧変換した電圧を波形整形した後パルスに変換するアンプ回路と、前記パルスの数を計数する手段と、前記パルス数を用いて糸条の走行異常を判断する判断手段と、を含む繊維機械における糸条の走行監視装置であって、前記判断手段が、閾値検索をおこなう期間を設定する閾値検索時間設定部と、設定された閾値検索時間内に検出した糸条の一定送り量ごとのパルス数を閾値設定用パルス数として記憶する閾値設定パルス数記憶手段と、前記閾値設定用パルス数に基づいて走行異常を判断する閾値を設定する閾値設定手段と、を含むことを特徴としている。
【0007】
請求項2に記載の糸条の走行監視装置は、請求項1の糸条の走行監視装置であって、前記閾値検索時間設定部がタイマ又は前記繊維機械における運針数により、閾値検索を行なう時間を設定することを特徴としている。
【0008】
請求項3に記載の糸条の走行監視装置は、請求項1の糸条の走行監視装置であって、前記閾値検索時間設定部が、閾値設定の際に手動で閾値検索の開始と停止を設定することを特徴としている。
【0009】
請求項4に記載の糸条の走行監視装置は、請求項2乃至請求項3の糸条の走行監視装置であって、前記閾値検索時間設定部が、閾値検索待機時間を設定できることを特徴としている。
【0010】
請求項5に記載の糸条の走行監視装置は、請求項2乃至請求項4の糸条の走行監視装置であって、前記閾値設定手段が、前記閾値設定パルス数記憶手段で記憶したパルス数における最小値を検索する最小値検索手段と、前記最小値を閾値設定参考値として前記閾値設定参考値に基づき閾値を設定する閾値設定手段と、から成ることを特徴としている。
【0011】
請求項6に記載の糸条の走行監視装置は、請求項5の糸条の走行監視装置であって、前記最小値検索手段が、前記閾値設定パルス数記憶手段で記憶したパルス数に置ける最小値とその次に小さい値を比較し、あらかじめ設定した値より差が大きい時、前期最小値は異常値として削除し、2番目に小さい値を閾値設定参考値とする操作を閾値設定参考値の変更が成立しなくなるまで繰り返し、閾値設定参考値を得る閾値設定参考値検索手段であることを特徴としている。
【0012】
請求項7に記載の糸条の走行監視装置は、請求項6糸条の走行監視装置であって、前記閾値設定参考値に基づいた閾値設定手段が、前記閾値設定参考値から所定の値を引いた値を閾値とする閾値設定手段であることを特徴としている。
【0013】
請求項8に記載の糸条の走行監視装置は、請求項2乃至請求項4における糸条の走行監視装置であって、前記閾値設定手段が前記閾値設定パルス数記憶手段で記憶されたパルス数における平均値と標準偏差を求める手段と、前記平均値と標準偏差を用いて閾値を決定する手段を備えたことを特徴としている。
【0014】
請求項9に記載の糸条の走行監視装置は、請求項1乃至請求項8の糸条の走行監視装置であって、前記閾値検索時間設定部が前記繊維機械の動きに合わせて閾値検索の開始と停止を行い、前記閾値設定手段が、検出した閾値設定用パルス数の平均値または最小値の移り変わりを監視して、閾値を再設定するか否かを判断する手段を備えたことを特徴としている。
【0015】
請求項10に記載の糸条の走行監視装置は、請求項1乃至請求項9の糸条の走行監視装置であって前記繊維機械に設けられた1針縫製する動作に応じて縫製パルスを発する手段と、前記差動空間フィルタ素子の出力によるパルスおよび縫製パルスのタイミングを比較し、前記繊維機械が1針縫製する動作に応じて糸条の走行異常を判断する手段と、を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、実際に検出したパルスに基づいて走行異常を判断する閾値を設定するため、作業者が経験的な判断で閾値を設定する必要がなく、作業者によるばらつきなく閾値が設定できる。また、閾値設定の際の作業者の負担なく閾値設定ができる。これにより生産効率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の糸条の走行監視装置について図面を使用して説明する。図3に本発明の一実施形態に係る糸条の走行監視装置の構成を示す。図3に示すように、本発明の走行監視装置10は繊維機械12の糸条14の走行経路の途中に取り付けられる。
【0018】
繊維機械12としてはミシンが挙げられる。糸条14は毛羽の有無を問わず、毛羽のある紡績糸、毛羽の無いフィラメント糸のどちらを用いてもよい。以下、フィラメント糸を使用して説明をおこなう。フィラメント糸は、天然糸としては絹糸、化学合成糸としてはナイロン糸やポリエステル糸などが挙げられる。以下の説明に使用するフィラメント糸は主として化学合成糸とする。
【0019】
糸条(フィラメント糸)は、複数の長繊維がより合わさっている。図4に毛羽の無い糸条の拡大図を示す。図4に示すように、長繊維の表面15は、目視観察では凹凸がなく滑らかな表面のように見えるが、顕微鏡等によって拡大観察すると、その表面に微細凹凸32を持っている。微細凹凸32は、長繊維15が紡糸される際の製造条件や環境条件や原料の物性等によって、ある一定の大きさの範囲で存在している。すなわち、糸条14の表面には、長繊維15が持つ微細凹凸32がある一定の大きさの範囲で存在している。
【0020】
図3に示す本発明の走行監視装置10は、繊維機械12で使用される糸条14の走行を監視する。センサ16には、光源18と差動型空間フィルタ素子20と差動増幅回路24とが含まれる。図5にセンサ16の構成を示す図を示す。
【0021】
光源18は、走行する糸条14に光Lを照射する。光源18は、発光ダイオードやレーザダイオードを使用する。光源18が発光する光Lは、差動型空間フィルタ素子20の上に糸条14の微細凹凸32による影の明暗を投影させることができる輝度である。例えば、発光出力が10mW以上の高出力が良い。
【0022】
差動型空間フィルタ素子20は、糸条14に対して光源18とは反対方向に配置される。差動型空間フィルタ素子20は、複数の受光素子22a、22bを有する。受光素子22a、22bとしては、pnフォトダイオードやpinフォトダイオード等が挙げられるが、これに限定されない。複数の受光素子22a、22bは2系列A、Bに分かれており、各系列A、Bごとに複数の受光素子22a、22bを有する。
【0023】
図6は受光素子22a、22bが同じピッチで並んでいる様子を表す図である。図6に示すように、2系列A、Bの受光素子22a、22bは糸条14の走行方向zに同じピッチd1で交互に並べられている。また、系列Aの受光素子22aと系列Bの受光素子22bとのピッチはd1/2である。
【0024】
図7に差動型空間フィルタ素子20の等価回路を示す。図7に示すように、各系列A、Bごとに受光素子22a、22bのカソードは全て短絡されて櫛歯型になっている。
図5で、差動型空間フィルタ素子20は、両系列A、Bのアノードから光電流が系列A出力と系列B出力として出力され、差動増幅回路24に送られる。差動増幅回路24では、系列A出力と系列B出力とを差動出力し、信号処理回路26に送る。差動増幅回路24は、差動出力を必要に応じて適宜増幅する。
【0025】
また糸条14の走行を監視するために、受光素子22a、22bのピッチd1を針糸14aの表面の微細凹凸32の大きさと略同じとしている。このことについて以下説明する。
【0026】
(1)差動型空間フィルタ素子20は、2系列A、Bの受光素子22a、22bが交互に等ピッチd1で並んでいる。
(2)差動型空間フィルタ素子20の出力は、受光素子22a、22bに投影される糸条14の微細凹凸32の影に影響される。
(3)差動増幅回路24の出力は差動出力である。
以上の(1)〜(3)より、系列Aと系列Bの両方の受光素子22a、22bが同一の受光量であれば、受光素子22a、22bの出力はキャンセルされる。系列Aと系列Bの受光素子22a、22bが異なる受光量となれば、差動出力が生じる。なお、各系列A,Bでの受光量は平均あるいは全て加算されたものである。
【0027】
糸条14の微細凹凸32が、ピッチd1に対して異なる大きさであれば、両系列A、Bの受光素子22a、22bの受光量が同じかほぼ同じになってしまう。具体的には、隣り合う受光素子22a、22bで異なる受光量であっても、系列A、Bごとに受光素子22a、22bの受光量を加算すると同じかほぼ同じになる。両系列A、Bの出力は同じかほぼ同じになり、差動増幅回路24の差動出力は0かほぼ0となる。
【0028】
微細凹凸32の凹部同士または凸部同士の間隔が、ピッチd1と同じか略同じであれば、系列Aの受光素子22aと系列Bの受光素子22bで受光される光量の位相が180度ずれることとなる。例えば、受光素子22aに針糸14aの凹による影が投影されたとき、受光素子22bに糸条14の凸による影が投影され、それに応じた受光量が受光される。例えば、微細凹凸32の形状がほぼ均一なものであれば、系列Aと系列Bとで、交互にほぼ同じ受光量となる。したがって、差動増幅回路24は、系列Aまたは系列Bの受光素子22a、22bの光電流のほぼ倍に対応した差動出力をおこなう。
【0029】
また、微細凹凸32の形状が多少不均一であったとしても、それぞれの系列A、Bに複数の受光素子22a、22bがあるため、系列A、Bごとの総受光量は交互にほぼ同じになる。したがって、この場合も差動増幅回路24は、系列Aまたは系列Bの受光素子22a、22bの光電流のほぼ倍に対応した差動出力をおこなう。
【0030】
以上のように、糸条14の微細凹凸32の影によって生じる受光素子22a、22bの光電流を差動出力させるためには、各受光素子22a、22bのピッチd1を糸条14の微細凹凸32の大きさと略同じとし、受光素子22aと22bを交互に等間隔に並べれば良い。そこで、ピッチd1が糸条14の表面にある微細凹凸32の凹から凹までの距離d2または凸から凸までの距離d3と略同じにする。例えば、ピッチd1は50〜500μmであり、その中でも50〜300μmが好ましい。距離d2,d3は、後述するように平均値などを使用してもよい。
【0031】
図1は本発明の一実施形態に係る糸条の走行監視装置の電気的構成を示す図である。
図に示すように差動増幅回路24からの差動出力は、信号処理回路26に送られる。
信号処理回路26は、差動型空間フィルタ素子20の光電流の値に対応したパルスに変換するアンプ回路28と、パルスを使用して糸条14の走行の異常を判断する制御回路30とを備える。制御回路30は、パルスの数を計数するパルス計数手段36と、前記パルス数により糸条14の走行異常を判断する判断手段37とを備える。信号処理回路26は、オペアンプや抵抗、コンデンサなどの回路素子で構成される。
【0032】
パルスへの変換は、差動増幅回路24からの出力信号を入力し、バンドパスフィルタを通して波形整形し、更に増幅して予め記憶しておいた値以上の波形をパルス列に変換する。パルスの計数は、パルス列のパルス数を計数する。
【0033】
繊維機械であるミシンによる縫製は、針糸と下糸が絡み合うことによって縫われていく。糸条の走行異常があれば、針糸と下糸が絡みあうことがないので、正常に縫われるときに比べ、針糸と下糸の消費量が減る。走行異常発生の有無は、この糸条の消費量の差を用いて判断する。
【0034】
次にパルス数を計数する時間について説明する。糸条14はミシン針の動きにあわせて消費される。したがって、ミシン針やミシン針を動作させる手段の付近に近接スイッチ34やフォトマイクロスイッチなどを取り付ける。例えば、一定のタイミングで動作するミシン針の柄やその柄を動かす機構などの付近に近接スイッチ34を取り付ける。近接スイッチ34はミシン針の柄などの動作に応じてオン・オフの信号を発する。信号処理回路26がオン・オフ信号にあわせて縫製パルスを生成すれば、縫製パルスがオンまたはオフになっているときに、糸条の走行パルスが生成される。したがって、パルスを計数する所定時間は縫製パルスがオンまたはオフになっているときである。
【0035】
また、信号処理回路26は、糸条の走行パルス、および縫製パルスのタイミングを比較し、糸条14を走行させる手段の動作に応じて糸条14の走行異常を判定する回路を含む。パルスのタイミングが一致しているか否かをチェックするだけで、糸条14の走行と繊維機械12の動作とが一致しているか否かをチェックすることができる。図8に信号処理回路26でのパルスを示す例図を示す。正常に糸条14が走行していれば、図8の時間T1,T2のように近接スイッチ34のオン・オフによる縫製パルスと差動型空間フィルタ素子のパルス列とが略同時間で且つ同じ時間間隔で出力している。
【0036】
なお、ミシン針の柄を動かす機構の動作に対して一定の遅れで糸条14が走行する場合もある。そのような場合でも、近接スイッチ34のオン・オフによる縫製パルスが1つ生成されれば、差動型空間フィルタ素子の出力によるパルス列が生成される。信号処理回路26は、縫製パルスと糸条の走行パルスの一定のタイミングのズレを考慮して判定する。
【0037】
糸条14に目飛びが発生すると、図8の時間T3のようにパルスの数が減少する。パルス数が閾値よりも少なくなり、制御回路30が糸条14の走行異常と判定する。糸条14の走行異常と判定されれば、信号処理回路26から警報装置に信号を送り、警報を発するようにしても良い。例えば、図8のように、警報装置への信号を変化させ、警報装置が警報を発するようにする。また、信号処理回路26から繊維機械12の動作を制御するシーケンサに信号を送り、繊維機械12の動作を停止させても良い。
【0038】
信号処理回路26は、繊維機械12の運転時間中の各パルスの総数から糸条14の走行糸長、単位時間当たりの各パルスの数から糸速を算出する回路を含むようにしてもよい。算出された糸条14の走行糸長、糸速のデータを繊維機械12の動作を制御するシーケンサにフィードバックするようにしても良い。フィードバックされたデータから、シーケンサが繊維機械12の動作を修正することができる。
【0039】
次に糸条の走行異常を判断する閾値について説明する。例えば閾値設定は繊維機械12の運転開始時に行なわれる。また生地や糸条が変化すると検出する信号が変化するため、製品切り替え時にも閾値設定を行なう必要がある。
【0040】
また、図1に示す本発明の信号処理回路26は、図2の従来例の信号処理回路27と異なり、閾値検索時間設定部39、閾値設定パルス数記憶手段38、閾値設定手段40を有する。閾値検索時間設定部39により閾値検索時間とされた間に検出するパルス数を閾値設定用パルス数として閾値設定パルス数記憶手段38に記憶し、それらのパルス数を用いて閾値設定手段40で閾値を設定する。
【0041】
ここで 閾値検索時間設定部39について説明する。閾値検索時間設定部39の例の一つとして手動で閾値検索の開始、停止の時間操作を行なうものがある。例えば閾値設定を行ないたい時に、製品1枚を縫製する間のみ閾値検索中にし、閾値を設定した後閾値検索停止を操作するものである。
【0042】
また、手動ではなくタイマを用いて閾値検索時間を一定期間保つようにしてもよい。例えば、繊維機械12の電源が入り運転開始された後の5秒間を閾値検索時間となるようにし、閾値を設定するものである。
【0043】
運針数を用いて閾値検索時間を設定してもよい。例えば、繊維機械12の電源が入り運転開始された後の500針縫製する間、閾値検索を行うようにし閾値を設定するものである。さらに、繊維機械12が一旦運転を停止し、次ぎに運転するたびに閾値設定用パルス数における平均値を監視して、条件を満たせば閾値を変更するようにしてもよい。
【0044】
また、前期閾値検索時間設定部39に閾値検索待機時間を設定できるようにしてもよい。これは繊維機械12の稼動直後のデータでなく、それ以降のデータを参照したい場合に用いることが出来る。閾値検索待機時間は、時間、待機する運針の数、糸条の速度の範囲などで設定できる。
【0045】
閾値検索待機時間は信号処理回路26にタッチパネルを接続し、数値入力できるようにしてもよい。
【0046】
閾値設定パルス数記憶手段38は、設定された閾値検索時間内に検出した糸条の一定送り量ごとのパルス数を閾値設定用パルス数として記憶する。例えば前述のように、近接スイッチ34のオン時間毎に計数したパルス数が順次蓄積されていく。
【0047】
次に閾値設定手段40について説明する。一例としては、閾値設定用パルス数における最小値に基づき閾値設定をすることができる。
まず閾値設定パルス数記憶手段38により記憶された閾値設定用パルス数において最小値を検索し、前記最小値を閾値設定参考値とする。さらに、閾値設定用パルス数の中に走行異常時のパルス数が含まれている場合も考慮し、前記閾値設定用パルス数において最小値とその次に小さい値を比較し、差が所定数より大きい時は前記最小値が異常値であるとして削除し、その次に小さい値を閾値設定参考値とする。この作業を閾値設定参考値の変更が成立しなくなるまで繰り返し、閾値設定参考値を得て、閾値を設定してもよい。
【0048】
また、前記閾値設定参考値から所定の値を引いた値を閾値としてもよい。ここで所定の値とは、生地や糸条の材質などにより設定される値である。
【0049】
他の例として、閾値設定用パルス数における最小値に基づかずに、閾値設定用パルス数における平均値と標準偏差を用いて閾値を設定してもよい。
【0050】
以上のように、本発明は繊維機械12の糸条14からパルスを生成し、実際に検出したパルスにより設定した走行異常を判断する閾値を用いて糸条の走行異常を監視している。
よって作業者によるばらつきなく適切な閾値の設定ができ、糸条14における走行異常の検出精度を高めることができる。また、作業者の閾値設定の負担を軽減できるので、生産効率が向上する。
【0051】
以上、本発明の実施形態を上述したが本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。図4に示す毛羽の無い糸条14は、ある一定の範囲の大きさの微細凹凸32を有するが、実際の糸条14は必ずある一定の範囲の大きさの微細凹凸32ができるとは限らない。そこで、上述した距離d2,d3は、糸条14の表面にある複数の微細凹凸32の凹から凹までの距離の平均値、凸から凸までの距離の平均値、またはその両方の距離の平均値を含むようにする。また、平均値を使用せず、複数ある距離d2,d3の中から代表的な値を使用しても良い。
【0052】
複数の長繊維15がより合わさった糸条14を使用して説明したが、毛羽が無く表面に凹凸がある単線であっても良い。毛羽のある糸条14に対して適応できることは、前述したように特許文献1乃至2において明らかである。
【0053】
信号処理回路26は、オペアンプなどの回路素子だけではなく、必要に応じてソフトウェアを含めた回路であっても良い。糸条14を走行させる機構の動作に応じて電気信号を発するのであれば、近接スイッチ34以外の非接触センサを使用しても良い。
【0054】
閾値検索待機時間の入力手段は、タッチパネルだけではなく、パソコンやシーケンサーに直接入力するようにしてもよい。
【0055】
その他、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々の改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施形態に係る糸条の走行監視装置の電気的構成図
【図2】従来手法の一実施形態に係る糸条の走行監視装置の電気的構成図
【図3】本発明の一実施形態に係る糸条の走行監視装置の構成図
【図4】毛羽のない糸条の拡大図
【図5】センサの構成を示す図
【図6】受光素子が同じピッチで並んでいる様子を示す図
【図7】差動型空間フィルタ素子の等価回路
【図8】信号処理回路でのパルスを示す図
【符号の説明】
【0057】
10:糸条の走行監視装置
12:繊維機械
14:糸条
15:長繊維の表面
16:センサ
18:光源
20:差動型空間フィルタ素子
22a,22b:受光素子
24:差動増幅回路
26,27:信号処理回路
28:アンプ回路
30,31:制御回路
32:微細凹凸
34:近接スイッチ
36:パルス計数手段
37:判断手段
38:閾値設定パルス数記憶手段
39:閾値検索時間設定部
40:閾値設定手段
41:入力閾値記憶手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸条に光を照射する光源と、
前記糸条に対して光源とは反対方向に配置され、2系列の受光素子が糸条の走行方向に同じピッチで交互に並べられ、光が照射された糸条の影の変化に応じた光電流を出力する差動型空間フィルタ素子と、
前記光電流を電流電圧変換し、前記電流電圧変換した電圧を波形整形した後パルスに変換するアンプ回路と、
前記パルスの数を計数する手段と、
前記パルス数を用いて糸条の走行異常を判断する判断手段と、を含む繊維機械における糸条の走行監視装置であって、
前記判断手段が、
閾値検索をおこなう期間を設定する閾値検索時間設定部と、
設定された閾値検索時間内に検出した糸条の一定送り量ごとのパルス数を
閾値設定用パルス数として記憶する閾値設定パルス数記憶手段と、
前記閾値設定用パルス数に基づいて走行異常を判断する閾値を設定する閾値設定手段と、
を含む糸条の走行監視装置。
【請求項2】
請求項1の糸条の走行監視装置であって、
前記閾値検索時間設定部がタイマ又は前記繊維機械における運針数により、閾値検索を行なう時間を設定することを特徴とする糸条の走行監視装置。
【請求項3】
請求項1の糸条の走行監視装置であって、
前記閾値検索時間設定部が、閾値設定の際に手動で閾値検索の開始と停止を設定することを特徴とする糸条の走行監視装置。
【請求項4】
請求項2乃至請求項3の糸条の走行監視装置であって、
前記閾値検索時間設定部が、
閾値検索待機時間を設定できることを特徴とした糸条の走行監視装置。
【請求項5】
請求項2乃至請求項4の糸条の走行監視装置であって、
前記閾値設定手段が、前記閾値設定パルス数記憶手段で記憶したパルス数における最小値を検索する最小値検索手段と、
前記最小値を閾値設定参考値として前記閾値設定参考値に基づき閾値を設定する閾値設定手段と、から成ることを特徴とした糸条の走行監視装置。
【請求項6】
請求項5の糸条の走行監視装置であって、
前記最小値検索手段が、前記閾値設定パルス数記憶手段で記憶したパルス数に置ける最小値とその次に小さい値を比較し、あらかじめ設定した値より差が大きい時、前期最小値は異常値として削除し、2番目に小さい値を閾値設定参考値とする操作を閾値設定参考値の変更が成立しなくなるまで繰り返し、閾値設定参考値を得る閾値設定参考値検索手段であることを特徴とした糸条の走行監視装置。
【請求項7】
請求項6の糸条の走行監視装置であって、
前記閾値設定参考値に基づいた閾値設定手段が、前記閾値設定参考値から所定の値を引いた値を閾値とする閾値設定手段であることを特徴とした糸条の走行監視装置。
【請求項8】
請求項2乃至請求項4における糸条の走行監視装置であって、
前記閾値設定手段が前記閾値設定パルス数記憶手段で記憶されたパルス数における平均値と標準偏差を求める手段と、
前記平均値と標準偏差を用いて閾値を決定する手段を備えたことを特徴とした糸条の走行監視装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8の糸条の走行監視装置であって、
前記閾値検索時間設定部が前記繊維機械の動きに合わせて閾値検索の開始と停止を行い、
前記閾値設定手段が、検出した閾値設定用パルス数の平均値または最小値の移り変わりを監視して、閾値を再設定するか否かを判断する手段を備えたことを特徴とする糸条の走行監視装置。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9の糸条の走行監視装置であって
前記繊維機械に設けられた1針縫製する動作に応じて縫製パルスを発する手段と、
前記差動空間フィルタ素子の出力によるパルスおよび縫製パルスのタイミングを比較し、前記繊維機械が1針縫製する動作に応じて糸条の走行異常を判断する手段と、
を含む糸条の走行監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−132394(P2010−132394A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309213(P2008−309213)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】