説明

紙に金属を適用するための方法

第1の金属を紙上に適用するための方法が開示される。この方法は、a)カルボキシル基を含み、かつ少なくとも1つの第2の金属のイオンを7を超えるpHで吸着させて含んでいるポリマーを、前記紙の表面に生成する工程、b)前記イオンを前記第2の金属に還元する工程、およびc)前記還元した前記第2の金属のイオンに前記第1の金属を堆積させる工程、を含んでいる。さらに本発明は、この方法に従って製造される物体を含む。本発明の利点として、金属コーティングの付着が改善されること、および多数のさまざまな材料をコーティングできることが挙げられる。このプロセスは、大規模かつ連続的な生産に適しており、材料の無駄を少なくする。本発明に従って製造される回路は、信号品位の改善を呈する。また、特徴的なパターンの複数の導体層によって順次に積層される回路の製造が可能である。さらに、きわめて小さな線幅を有する回路の製造が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙上に金属コーティングを生成するための方法に関する。さらに、本発明は、紙上に金属の特徴的なパターンを適用する方法に関する。さらに、本発明は、このような方法によって製造される物体に関する。
【背景技術】
【0002】
表面への金属コーティングの適用は、多数の目的の役に立つ。伝統的には、物体の外観の改善または表面の安定化のために、貴金属のコーティングが物体に適用されていた。導電性の金属のパターンを紙に適用することによって、安価で使い捨てが可能な回路を製造することができる。
【0003】
本技術分野では、紙又は他の材料上に導電性の材料のパターンを形成する試みがなされてきた。従来は、紙上に導電性ポリマーが所望のパターンで適用されている。この技術には、例えば、導電性ポリマーは金属と比較してそれほど良好な導電体ではないという、欠点がある。
【0004】
米国特許第6,303,278号が、金属の層を特徴的なパターンにて適用する方法に関する。基材の表面が変性され、モノマーに接触させられる方法が開示されている。モノマーがポリマーを作り上げ、導電材料がポリマーにもたらされ、さらなる工程において、追加の導電材料が加えられる。導電材料をポリマーに加える工程は、米国特許第6,303,278号の製造例1に述べられているように、HClにおいて低いpHで実行される。例えばアクリル酸など、いくつかの異なる種類のモノマーを使用することができる。基材の表面が第2級および/または第3級の炭化水素化合物を有することが重要であると述べられている。
【0005】
本技術分野において、紙上に導電性パターンとして金属を適用する試みもなされてきたが、金属層の接着性が未だ不十分である。
【0006】
この技術分野において、金属の基材への付着を改善するために、いくつかの手法が使用されている。例えば、Yang、Shen、Li、およびLuが、Journal of Electronic Materials、February 1997、26(2)、pp.78‐82において、銅のパリレンNへの付着を研究している。パリレンNが、蒸着重合法を使用してシリコンに堆積させられる。銅が、部分イオンビーム蒸着法を使用して、パリレンNの膜に堆積させられる。堆積の際に、高い堆積速度および高度のイオン化においてプラズマを生成することができる。この刊行物によれば、プラズマの生成によって、他の銅の堆積技法に比べて、付着の強度が大幅に高められる。
【発明の開示】
【0007】
金属でコーティングされる紙に関する技術水準の1つの課題は、金属コーティングの紙に対する付着をいかに改善するかにある。
【0008】
本発明の利点は、連続的な製造プロセスにおいて本発明を使用することが可能なことである。市販の設備を本発明の大規模使用に使用することができるため、従来技術と比べ、より経済的であって、大規模の製造により適している。紙上に回路を製造する場合、本方法は、きわめて薄い層をエッチングしてパターンを生成する方法を使用することができるため、エッチングされて除去される材料の無駄が少なくなる。したがって、さらなる金属が該パターンに追加される。
【0009】
本プロセスにおいては、伝統的な製造方法に比べ、使用される化学物質(いくつかの国々では規制の対象である)の量が少ない。
【0010】
本発明の他の利点として、本発明を使用して製造される回路の特性が挙げられる。本発明によれば、紙上の導体が、砂時計形状の断面を有することを防止でき、より矩形な断面を有する回路を製造することができる。したがって、高周波についてより良好な特性を有する回路を製造することが可能である。そのような回路における信号品位が、技術水準による回路に比べて改善される。
【0011】
さらなる利点は、例えば導体が紙上を片側から別の側に通じている場合にも、導体を実質的に同じ厚さで紙上に製造できる点にある。これにより、信号品位が改善する。
【0012】
さらに別の利点は、本方法が、特徴的なパターンの複数の導体層によって順次に積層される回路の製造を可能にする点にある。
【0013】
さらに別の利点は、本発明によるプロセスが、きわめて小さな線幅を有する回路の製造を可能にする点にある。
【0014】
本発明は、特許請求の範囲にしたがって紙上に第1の金属を適用する新規な方法に関する。また、本発明は本発明による方法にしたがって製造される物体をも包含する。本発明は、金属被覆を優れた接着性で紙に適用でき、多種類の紙及び紙状材料に適用できる方法を提供する。
【0015】
定義
紙上に金属コーティングを生成するための方法を詳細に開示および説明する前に、本発明が、本明細書に開示される特定の構成、プロセス工程、および材料に限定されるわけではなく、そのような構成、プロセス工程、および材料が或る程度さまざまであってよいことを、理解すべきである。また、本明細書において使用される用語が、あくまで特定の実施の形態を説明するという目的のためだけに使用されていて、本発明を限定しようとするものではなく、本発明の技術的範囲が、添付の特許請求の範囲およびその均等物によってのみ限定されることを、理解すべきである。
【0016】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用する単数形の「a」、「an」、および「the」は、そのようでないことが文脈から明らかでない限り、対象が複数である場合も含むことに注意しなければならない。
【0017】
本発明を説明し、特許請求の範囲に記載するうえで、以下の用語が使用される。
【0018】
本明細書および特許請求の範囲の全体で使用する用語「開始剤」は、モノマー間の重合反応を開始させることができる物質を指す。
【0019】
本明細書および特許請求の範囲の全体で使用する用語「モノマー」は、重合反応においてポリマーを形成することが可能な物質を指す。
【0020】
本明細書および特許請求の範囲の全体で使用する用語「パリレン」は、置換または非置換のポリパラキシリレンを指す。パリレンの例として、パリレンN、パリレンC、およびパリレンDが挙げられる。パリレンNは、ポリパラキシリレンを指し、パリレンCは、芳香環に追加の塩素原子を有しているパリレンを指す。パリレンDは、芳香環に2つの追加の塩素原子を有しているパリレンを指す。
【0021】
本明細書および特許請求の範囲の全体で使用する用語「光開始剤」は、光および/または紫外線に曝露されたときに重合反応を開始させることができる開始剤を指す。
【0022】
本明細書および特許請求の範囲の全体で使用する用語「ポリマー」は、同一または異なる構造単位の繰り返しで形成された化合物を指す。
【0023】
本明細書および特許請求の範囲の全体で使用する用語「重合」は、同一または異なるモノマーがポリマーを形成する反応を指す。
【0024】
本明細書および特許請求の範囲の全体で使用する用語「潜在的カルボキシル基」は、カルボキシル基への変換が可能な化学基を指す。
【0025】
本明細書および特許請求の範囲の全体で使用する用語「紙」は、セルロースに基づく全ての基材を指す。
【0026】
発明の簡単な説明
第1の態様において、本発明は、第1の金属を紙上に適用するための方法であって、a)カルボキシル基を含み、かつ少なくとも1つの第2の金属のイオンを7を超えるpHで吸着させて含んでいるポリマーを、前記紙の表面に生成する工程、b)前記イオンを前記第2の金属に還元する工程、および
c)前記還元した前記第2の金属のイオンに前記第1の金属を堆積させる工程、を含んでいる方法に関する。
【0027】
一実施の形態においては、前記表面が、前記ポリマーの生成に先立って、プラズマを使用して処理される。これに代え、あるいはこれに加えて、前記表面が、アルカリ溶液で処理される。随意に、前記表面が、別の洗浄液で洗浄される。
【0028】
一実施の形態においては、少なくとも1つのプライマーが、工程a)に先立って前記紙に塗布され、このプライマーは、ポリフェニレン、脂環式ポリオレフィン、およびポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)から成る群から選択される。
【0029】
一実施の形態においては、プライマーが、パリレンである。別の実施の形態においては、プライマーが、パリレンNである。
【0030】
一実施の形態においては、前記ポリマーが、前記表面をa)カルボキシル基を含んでいるモノマーを少なくとも1つ含む少なくとも1種類のモノマー、b)ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、および銅から成る群から選択される少なくとも1つの第2の金属のイオン、ならびにc)少なくとも1つの開始剤に接触させることによって該表面に生成され、前記pHが7を超える。上述の原料を混ぜ合わせる順序は、重要でない。
【0031】
別の実施の形態においては、前記ポリマーが、前記表面をa)カルボキシル基を含んでいるモノマーを少なくとも1つ含む少なくとも1種類のモノマー、および
b)少なくとも1つの開始剤に接触させ、その後に該表面を、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、および銅から成る群から選択される少なくとも1つの第2の金属のイオンを含んでいるpHが7を超える溶液に接触させることによって、該表面に生成される。
【0032】
上述の少なくとも1種類のモノマーは、一実施の形態においては、アクリル酸およびメタクリル酸から成る群から選択される。
【0033】
別の実施の形態においては、前記ポリマーが、前記表面をa)潜在的カルボキシル基を含んでいるモノマーを少なくとも1つ含む少なくとも1種類のモノマー、およびb)少なくとも1つの開始剤に接触させ、その後に該表面を、前記潜在的カルボキシル基をカルボキシル基に変換するために適した条件に曝し、その後に該表面を、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、および銅から成る群から選択される少なくとも1つの第2の金属のイオンを含んでいるpHが7を超える溶液に接触させることによって、該表面に生成される。
【0034】
一実施の形態においては、前記潜在的カルボキシル基を含んでいるモノマーが、アクリル酸t‐ブチル、無水マレイン酸、無水メタクリル酸、および無水アクリル酸から成る群から選択される少なくとも1つの物質である。
【0035】
前記潜在的カルボキシル基をカルボキシル基に変換するために適した条件が、一実施の形態においては、前記表面を光誘起性ブレンステッド酸に接触させることによって達成される。
【0036】
前記ブレンステッド酸は、一実施の形態においては、スルホニウム塩およびヨードニウム塩から成る群から選択される。
【0037】
上述のように使用される開始剤は、一実施の形態においては、チオキサントン、カンファーキノン、ベンゾフェノン、4‐クロロベンゾフェノン、4,4’‐ジクロロベンゾフェノン、4‐ベンジルベンゾフェノン、ベンゾイルナフタレン、キサントン、アントラキノン、9‐フルオレノン、アセトフェノン、ベンゾイルジメチルケタール、ヒドロキシ‐シクロ‐ヘキシル‐アセトフェノン、ビ‐アセチル、3,4‐ヘキサン‐ジ‐オン、2,3‐ペンタン‐ジ‐オン、1‐フェニル‐1,2‐プロパン‐ジ‐オン、ベンゼン、ベンゾイルギ酸、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、2‐ペンタノン、3‐ペンタノン、シクロヘキサノン、ベンゾフェノンのメタノールスルホン酸エステル、およびこれらの混合物から成る群から選択される。
【0038】
一実施の形態においては、前記少なくとも1つの第2の金属のイオンが、パラジウムイオンであり、当該方法が、アンモニウムイオンをさらに含んでいる。アンモニウムイオンは、この特定の実施の形態においては、パラジウムイオンと同じ溶液中にある。
【0039】
一実施の形態においては、前記イオンが、10を超えるpHで吸着される。
【0040】
一実施の形態においては、前記第1の金属が、銅、銀、金、ニッケル、チタニウム、およびクロミウムから成る群から選択される。
【0041】
特定の実施の形態においては、前記表面に、d)第3の金属を該表面に特徴的なパターンにて選択的に堆積させる工程、およびe)前記第1および第2の金属を、前記第3の金属によって覆われていない部位について該表面から取り除く工程、がさらに加えられる。
【0042】
一特定の実施の形態においては、前記第3の金属が、銅である。
【0043】
別の実施の形態においては、前記金属が、前記紙上に特徴的なパターンにて適用される。これは、請求項1に記載の工程のうちの1つ以上を、前記紙上の所望の特徴的なパターンにおいて実行することによって達成される。
【0044】
またさらに別の実施の形態においては、前記金属が、紙の全体に適用される。この実施の形態においては、金属が、必ずしもではないが好ましくは、均一な層にて適用される。
【0045】
第2の態様において、本発明は、本明細書に記載の方法に従って製造される物体を包含する。
【0046】
一実施の形態においては、該物体において、前記第1の金属の層の厚さが約2μm〜約5μmである。
【0047】
一実施の形態においては、該物体が、電気回路を含んでいる。一実施の形態においては、該物体が、プリント配線板である。
【0048】
一実施の形態においては、該物体が、互いに電気的に絶縁された2つ以上の導体層を含んでいる。これは、SBUプロセスである。
【0049】
発明の詳細な説明
次に、本発明の方法によるこれらの工程を、さらに詳しく説明する。
【0050】
本発明は紙上に第1の金属を適用する新規な方法に関する。いずれかの部分が紙で造られている物体は本発明によって被覆することができる。
【0051】
セルロースを基本とする全ての基材は本発明の対象に含まれる。セルロースを基本とする基材の非限定的な例には、中性紙、全古紙、古文書紙、アート紙、紙幣紙、バライタ紙、複合材、書籍結合複合材、冊子カバー紙、ブラシ被覆紙、バブル被覆紙、カレンダー紙、被覆折り畳み箱複合材、被覆紙、波型繊維複合材、カーテン被覆紙、綿、綿ベース紙、カバー紙、ディップ被覆紙、両面波型繊維複合材、化粧材、フェルト複合材、繊維複合材、微細紙、光沢ミルボード、耐グリース紙、ホットメルト被覆紙、インデックス複合材、工作裏打ち紙、工作紙、工作袋紙、ランプの傘紙、皮革繊維複合材、皮革パルプ複合材、レター用紙、裏打ちボール紙、裏打ち紙、液体カートン複合材、機械艶出し紙、機械製造紙、紙、紙複合材、PE被覆紙、PET被覆紙、再利用紙、一重被覆紙、平滑化ロール被覆紙、固形繊維複合材、及び包装紙が挙げられる。
【0052】
本発明の一実施形態では、被覆紙が基材として用いられる。他の実施形態ではポリマー被覆紙が基材として用いられる。一実施形態ではポリエチレン被覆紙が用いられる。別の実施形態では基材はポリエチレンテレフタレートで被覆された紙である。
【0053】
コーティングされる物体は、プロセスが開始されるときに清浄であることが好ましい。
【0054】
コーティングされる物体が、一実施の形態においては、最初にプラズマによって処理される。この処理により、そのような処理が行われないならば付着が困難である物体を、濡らすことが可能になる。また、プラズマ処理は、清浄化の効果も有している。プラズマ処理は、極性表面をもたらす任意の気体において、任意の適切な圧力で実行することができる。本発明の一実施の形態においては、プラズマ処理が、空気中で大気圧で行われる。本発明の発明者は、プラズマによる処理を、本明細書に記載される方法の他の部分と組み合わせることよって、優れた結果がもたらされることを発見した。最初のプラズマ処理が好ましいものの、一部の物体については、プラズマ処理が必須ではないことに注意すべきである。プラズマの代替として、いくつかの紙については、アルカリ溶液での清浄化で充分である。
【0055】
プラズマ処理の後、随意によりプライマーが、物体の表面の少なくとも一部分に塗布される。プライマーの例は、これらに限られるわけではないが、ポリフェニレンおよび脂環式ポリオレフィンである。脂環式ポリオレフィンの例として、エチレンおよびノルボルネンから作られる共重合体が挙げられる。プライマーのさらなる具体例として、ポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)、パリレンN、パリレンC、パリレンD、パリレンF、パリレンA、パリレンAM、およびパリレンHTが挙げられる。パリレンは、好ましくは気相から塗布される。パリレン用の塗布装置は、市販されており、当業者であれば、パリレンの層を塗布することが可能である。プライマー層の厚さは、幅広い限界のなかでさまざまであってよい。この層は、一実施の形態においては100μmよりも薄く、別の実施の形態においては約2〜約20μmである。
【0056】
プライマーの塗布の後で、金属がプライマーに適用される。金属をポリフェニレン上に適用するために、いくつかの手法が存在する。一実施の形態においては、金属を適用することが、表面にポリマーを適用することを含んでいる。本発明の発明者は、表面へのポリマーの適用を含む方法が、ポリフェニレン、脂環式ポリオレフィン、およびポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)から成る群から選択されるプライマーとの協働において、良好な結果をもたらすことを発見した。本発明の一実施の形態においては、ポリマーがそのプライマーにグラフトされる。
【0057】
表面上のポリマーは、カルボキシル基を含んでいる。ポリマー上にカルボキシル基を得るために、いくつかの手法が存在する。そのような手法の例を、以下でさらに詳しく説明する。
【0058】
本発明の一実施の形態においては、カルボキシル基を含んでいるモノマーが、重合反応のための開始剤を用いて、ポリマーを形成するために使用される。例えばカルボキシル基を含んでいるモノマーとカルボキシル基を含んでいないモノマーとを含む混合物など、異なるモノマーの混合物を使用することも可能である。
【0059】
本発明の別の実施の形態においては、潜在的カルボキシル基を有するモノマーが、物体上にポリマーを形成するときに取り入れられる。ポリマーの全体を、潜在的カルボキシル基を含んでいるモノマーで形成することができる。あるいは、ポリマーを、潜在的カルボキシル基を含んでいるモノマーおよび潜在的カルボキシル基を含んでいないモノマーの両者で形成することができる。次いで、物体上のポリマーが、ポリマー内の潜在的カルボキシル基をカルボキシル基に変換するような条件にさらされる。
【0060】
潜在的カルボキシル基の一例は、これに限られるわけではないが、無水マレイン酸である。モノマーとして無水マレイン酸が使用される場合、重合の際にポリマーに取り入れられ、次いでカルボキシル基に変換されるような条件にさらされる。本発明の別の実施の形態においては、アクリル酸t‐ブチルなどの潜在的カルボキシル基が、ポリマーを形成するために使用され、その後に適切な条件を用いてカルボキシル基に変換される。潜在的カルボキシル基の別の例は、保護されたカルボキシ基である。
【0061】
潜在的カルボキシル基をカルボキシル基に変換するために適した条件の例は、これに限られるわけではないが、ブレンステッド(Broensted)酸での処理である。本発明の一実施の形態においては、例えば光誘起性ブレンステッド酸など、ブレンステッド酸が光反応において生成される。ブレンステッド酸の例は、これらに限られるわけではないが、スルホニウム塩およびヨードニウム塩である。当業者であれば、潜在的カルボキシル基をカルボキシル基に変換するいくつかの手法が存在することが、理解できるであろう。例えば、無水マレイン酸を、熱処理によってマレイン酸に変換することができる。
【0062】
カルボキシル基を有するポリマーを生成するための上述の種々の手法の全てにおいて、少なくとも1つの開始剤が、重合反応を開始させるために使用される。開始剤は、光開始剤であっても、他の開始剤であってもよい。光開始剤が使用される場合、本方法が、適切な波長の光での照射をさらに含むことを、理解できるであろう。適切な光開始剤の例は、芳香族の化合物など、カルボニル基を含んでいる化合物である。芳香族ケトンおよび芳香族脂肪族ケトンは、とくには約200〜約500nmの範囲の電磁波を吸収し、このことにより、これらの化合物が本発明による開始剤として有用である。本発明の一実施の形態においては、本発明による開始剤が、チオキサントン(thioxantone)、カンファーキノン、ベンゾフェノン、4‐クロロベンゾフェノン、4,4’‐ジクロロベンゾフェノン、4‐ベンジルベンゾフェノン、ベンゾイルナフタレン、キサントン、アントラキノン、9‐フルオレノン、アセトフェノン、ベンゾイルジメチルケタール、ヒドロキシ‐シクロ‐ヘキシル‐アセトフェノン、ビ‐アセチル、3,4‐ヘキサン‐ジ‐オン、2,3‐ペンタン‐ジ‐オン、1‐フェニル‐1,2‐プロパン‐ジ‐オン、ベンゼン、ベンゾイルギ酸、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、2‐ペンタノン、3‐ペンタノン、シクロヘキサノン、ベンゾフェノンのメタノールスルホン酸エステル、およびこれらの混合物から成る群から選択される前記開始剤から成る群から選択される。
【0063】
ポリマーのカルボキシル基が、金属イオンを吸着させて有している。金属イオンは、常に、7を超えるpHにて吸着される。イオンをポリマーに吸着させるための手法の選択肢を、以下に提示する。
【0064】
第1の手法においては、前記第2の金属のイオンが、重合が行われる前にモノマーと混合される。第2の手法においては、イオンが、ポリマーがすでに表面に生成された後の後続の工程において付加される。第2の金属のイオンがモノマー溶液に加えられる第1の手法は、工程が1つ少ない。
【0065】
第1の手法において、モノマーの溶液は、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、および銅から成る群から選択される少なくとも1つの第2の金属のイオンを含んでいる。第2の金属のイオンの量は、幅広い範囲のなかでさまざまであってよい。適切なイオンの量は、−1の電荷を有するモノマー分子2個につき、+2の電荷を有する金属イオンが約1個であるが、これに限られるわけではない。
【0066】
第2の手法においては、物体の表面が、第2の金属のイオンを含んでいる溶液に接触させられる。第2の金属は、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、および銅から成る群から選択される少なくとも1つの金属である。第2の金属のイオンの別途の吸着工程を有している第2の手法について、本発明の発明者は、米国特許第6,303,278号に記載されている技術水準と対照的に、溶液が約7を超えるpH値を有するべきであることを発見した。公知の先行技術に比べてpH値が高くなるほど、金属層の付着が良好になる。本発明の一実施の形態においては、pH値が約11である。本発明の別の実施の形態においては、pH値が約11.5である。本発明の別の実施の形態においては、pH値が10を超える。本発明の別の実施の形態においては、pH値が9超である。本発明の別の実施の形態においては、pH値が8超である。
【0067】
本発明の別の実施の形態においては、第2の金属のイオンを含んでいる溶液が、アンモニウムイオンをさらに含んでいる。本発明の別の実施の形態においては、第2の金属のイオンを含んでいる溶液が、パラジウムイオンおよびアンモニウムイオンを含んでいる。当業者であれば、対イオンが存在しなければならないことを理解できるであろう。
【0068】
ポリマーに結び付けられた第2の金属のイオンが、前記第2の金属に還元される。この還元は、金属イオンをポリマーに適用するために用いた手法とは無関係に実行される。本発明の一実施の形態においては、還元は、例えば水素化ホウ素ナトリウムなどの還元液を使用して化学反応によって達成される。本発明の一実施の形態においては、還元は、光化学反応を含んでいる。本発明の別の実施の形態においては、還元は、熱処理を含んでいる。当業者であれば、本明細書に照らして、金属イオンを金属に還元するいくつかの手法を理解できるであろう。したがって、金属イオンを還元する他の方法も、本発明の範囲において使用可能である。
【0069】
第2の金属のイオンが金属の形態に還元されたとき、随意による第2のプラズマ処理の後で、表面を第1の金属のイオンを含んでいる溶液に接触させることによって、第1の金属が表面に堆積する。本発明の一実施の形態においては、溶液が、第1の金属のイオン、錯化剤、および還元剤を含んでいる。本発明の一実施の形態においては、第1の金属を堆積させるための溶液が、市販されている標準液である。本発明の一実施の形態においては、第1の金属の層の厚さは、100μm未満である。この厚さは、本発明の別の実施の形態においては、0.25〜40μmの範囲にあり、本発明の別の実施の形態においては、0.5〜20μmの範囲にあり、本発明の別の実施の形態においては、1〜10μmの範囲にあり、本発明の別の実施の形態においては、2〜5μmの範囲にある。
【0070】
一実施の形態においては、紙が、プロセスの間に形成される望ましくない物質および気体を蒸発させるために、金属の適用後に加熱される。紙は過剰に加熱されることがあってはならない。一実施の形態においては、最大温度は130℃未満であり、別の実施の形態においては、100℃未満である。熱処理の時間は、重要ではない。時間の例は、数秒から数時間までの範囲にある。典型的には、熱処理の時間は、数分から約30分までの範囲にある。
【0071】
本発明に従って金属でコーティングされた物体を、多くの状況において使用することができる。金属でコーティングされた紙の本発明による1つの用途を、以下で説明する。
【0072】
本発明の一実施の形態においては、本発明に従ってパターンなしで金属層によってコーティングされた板材が、回路の製造に使用される。さらなる金属が、電気めっきによって所望のパターンで表面に堆積させられる。一実施の形態においては、表面がマスクで覆われ、さらなる金属が、マスクによって決定される特徴的なパターンにて堆積する。次いで、マスクが取り除かれる。これにより、金属の薄いコーティングを有し、その上により厚い金属のコーティングからなる特徴的なパターンを有している板材が生成される。次いで、板材に、薄いコーティングを除去するためには充分に長いが、厚いコーティングで構成されているパターンを残すためには充分に短い時間にわたって、エッチングが加えられる。当業者であれば、本明細書および特許請求の範囲に照らして、適切なエッチング時間を決定できるであろう。このようにして、紙上に金属の所望の特徴的なパターンを有しているプリント配線板がもたらされる。
【0073】
本発明によるプロセスは、多数の利点を有している。1つの利点は、付着が改善されることにある。別の利点は、金属化紙を製造するために必要となる金属が少ない点にある。結果として、製造の第1の工程において、エッチングによって取り除かなければならない金属が少なくなる。さらに、エッチング液が表面に作用するだけでなく導体の側面にも作用することに起因する「砂時計」形状の導体および「アンダー・エッチング」という問題が、解消される。これにより、より細い導体を生み出す。また、既存の技術および既存の製造ラインをわずかな変更を加えるだけで使用することが可能である。
【0074】
回路を製造するという本発明による紙の別の用途は、金属を紙上に特徴的なパターンにて適用することにある。これが、一実施の形態においては、試薬を所望のパターンに塗布することによって実現される。別の実施の形態においては、所望のパターンでの照射によって実現される。この実施の形態の具体的な一形態においては、光誘起性ブレンステッド酸を紙上で特徴的なパターンにて生成することによって実現される。
【0075】
本発明の一実施の形態においては、SBU手順が使用される。本発明は、順次積層(sequential build‐up(SBU))の使用を包含する。この実施の形態においては、導体の所望のパターンが紙上に適用され、その後に絶縁層が適用される。絶縁層の上に、導体の別の所望のパターンが適用される。このプロセスが、導体を有する所望の数の層が実現されるまで繰り返される。別個の層の導体の間の接触が、プリント配線板の当業者にとって公知の方法によって実現される。
【0076】
本発明の他の特徴およびそれらがもたらす利点が、本明細書および実施例を検討することによって、当業者にとって明らかになるであろう。
【0077】
本発明が、ここに示される特定の実施の形態に限定されるわけではないことを、理解すべきである。以下の実施例は、説明を目的として提示され、本発明の範囲を限定しようとするものではない。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲およびその均等物によってのみ定まる。
【実施例】
【0078】
実施例1
ストーラエンソ(StoraEnso)社から得られた1枚の紙「PET140+40」を基材として用いた。これは片面がPET(ポリエチレンテレフタレート)で被覆された紙である。この紙片を接着テープでポリマー基材に取り付け、接着テープで端部を封止して紙の未被覆表面を液体から保護した。プラズマ反応器において、この紙に、1分間にわたって大気圧の空気中でプラズマ処理を加えた。プラズマ処理の後に、この紙を、アクリル酸1重量%及びチオキサントン0.01重量%を含む溶液と接触させた。この紙に10秒間にわたってUV光を照射し、4分間にわたって重合反応を進行させた。紙を、30秒にわたって流水で洗浄した。重合反応によって紙に対して共有結合した、すなわち紙に対してグラフトしたポリマーが生成した。次いで、この紙を、PdCl0.48重量%及び濃縮NH水溶液5.2重量%を含有する水溶液と接触させた。その結果、この溶液はアンモニウムイオン(NH)を含有する。NH水溶液を用いて、この溶液のpHを11.5に調節した。次いで、紙を、30秒にわたって流水で洗浄した。次いで、新たに作成したNaBHの1重量%の水溶液に紙を接触させることによって、ポリマーに吸着しているパラジウムイオンを還元した。その後に、紙を、流水で30秒にわたって洗浄した。この工程の後で、紙を、銅を堆積させるべく自己触媒槽に接触させた。この槽は、CuSO、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、HCHO、およびNaOHを含んでいる銅の堆積のための水性標準槽である。pH値は11.7であり、温度は35℃であった。銅を堆積させた後に、紙を流水中で30秒間にわたって洗浄し、乾燥させた。これにより、銅の厚さ2μmのコーティングを有するエポキシ樹脂が得られた。実施例2と同様の方法を用いた。これにより、銅の厚さ2μmのコーティングを有する紙が得られた。粘着テープを紙に貼り付け、素早く引き剥がすことによって付着を検査した。銅が剥がれることはなく、したがって付着は良好であると判断された。
【0079】
実施例2
コピー機用に調製された一片の普通紙を基材として用いた。この紙はポリマー被覆されていない。この紙を直接処理に用いた。実施例1と同様の方法を用いた。得られた紙は銅2μmの柔軟性被覆を有していた。これにより、銅の厚さ2μmのコーティングを有する紙が得られた。粘着テープを表面に貼り付け、素早く引き剥がすことによって付着を検査した。銅が剥がれることはなく、したがって付着は良好であると判断された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属を紙上に適用するための方法であって、
a)カルボキシル基を含み、かつ少なくとも1つの第2の金属のイオンを7を超えるpHで吸着させて含んでいるポリマーを、前記紙の表面に生成する工程、
b)前記イオンを前記第2の金属に還元する工程、および
c)前記還元した前記第2の金属のイオンに前記第1の金属を堆積させる工程
を含んでいる方法。
【請求項2】
前記表面が、前記ポリマーの生成に先立って、プラズマを使用して処理される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程a)に先立って少なくとも1つのプライマーが前記紙に塗布され、
該プライマーは、ポリフェニレン、脂環式ポリオレフィン、およびポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)から成る群から選択される請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記プライマーが、パリレンである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記プライマーが、パリレンNである請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリマーが、前記表面を
・カルボキシル基を含んでいるモノマーを少なくとも1つ含む少なくとも1種類のモノマー、
・ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、および銅から成る群から選択される少なくとも1つの第2の金属のイオン、ならびに
・少なくとも1つの開始剤
に接触させることによって該表面に生成され、
前記pHが7を超える請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマーが、前記表面を
・カルボキシル基を含んでいるモノマーを少なくとも1つ含む少なくとも1種類のモノマー、および
・少なくとも1つの開始剤
に接触させ、その後に該表面を、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、および銅から成る群から選択される少なくとも1つの第2の金属のイオンを含んでいるpHが7を超える溶液に接触させることによって該表面に生成される請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1種類のモノマーが、アクリル酸およびメタクリル酸から成る群から選択される請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリマーが、前記表面を
・潜在的カルボキシル基を含んでいるモノマーを少なくとも1つ含む少なくとも1種類のモノマー、および
・少なくとも1つの開始剤
に接触させ、
その後に該表面を、前記潜在的カルボキシル基をカルボキシル基に変換するために適した条件に曝し、
その後に該表面を、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、および銅から成る群から選択される少なくとも1つの第2の金属のイオンを含んでいるpHが7を超える溶液に接触させることによって該表面に生成される請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記潜在的カルボキシル基を含んでいるモノマーが、アクリル酸t‐ブチル、無水マレイン酸、無水メタクリル酸、および無水アクリル酸から成る群から選択される少なくとも1つの物質である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記潜在的カルボキシル基をカルボキシル基に変換するために適した条件が、前記表面を光誘起性ブレンステッド酸に接触させることによって達成される請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記ブレンステッド酸が、スルホニウム塩およびヨードニウム塩から成る群から選択される請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記開始剤が、チオキサントン、カンファーキノン、ベンゾフェノン、4‐クロロベンゾフェノン、4,4’‐ジクロロベンゾフェノン、4‐ベンジルベンゾフェノン、ベンゾイルナフタレン、キサントン、アントラキノン、9‐フルオレノン、アセトフェノン、ベンゾイルジメチルケタール、ヒドロキシ‐シクロ‐ヘキシル‐アセトフェノン、ビ‐アセチル、3,4‐ヘキサン‐ジ‐オン、2,3‐ペンタン‐ジ‐オン、1‐フェニル‐1,2‐プロパン‐ジ‐オン、ベンゼン、ベンゾイルギ酸、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、2‐ペンタノン、3‐ペンタノン、シクロヘキサノン、ベンゾフェノンのメタノールスルホン酸エステル、およびこれらの混合物から成る群から選択される請求項6〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つの第2の金属のイオンが、パラジウムイオンであり、当該方法が、アンモニウムイオンをさらに含んでいる請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記イオンが、10を超えるpHにおいて吸着されている請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の金属が、銅、銀、金、ニッケル、チタニウム、およびクロミウムから成る群から選択される請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記表面に、
d)第3の金属を該表面に特徴的なパターンにて選択的に堆積させる工程、および
e)前記第1および第2の金属を、前記第3の金属によって覆われていない部位について該表面から取り除く工程
がさらに加えられる請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記金属が、前記紙上に特徴的なパターンにて適用される請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記金属が、紙の全体に適用される請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記第3の金属が、銅である請求項17に記載の方法。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれか一項に従って製造された紙を含んでいる物体。
【請求項22】
前記第1の金属の層の厚さが、約2μm〜約5μmである請求項21に記載の物体。
【請求項23】
前記物体が、回路を含んでいる請求項21または22に記載の物体。
【請求項24】
互いに電気的に絶縁された2つ以上の導体層を含んでいる請求項21〜23のいずれか一項に記載の物体。

【公表番号】特表2009−533567(P2009−533567A)
【公表日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−504721(P2009−504721)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【国際出願番号】PCT/EP2007/053462
【国際公開番号】WO2007/116056
【国際公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(508306358)リネア・テルジ・リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】Linea Tergi, Ltd.
【Fターム(参考)】