説明

細菌の形質転換剤

細菌株または前記細菌株の進化上の原株が感受性を有し、細胞壁活性を有する抗菌剤に対する前記細菌株の感受性を高める方法が開示される。前記方法は、前記細菌株を以下の式(I)を有する形質転換剤に暴露する工程を含む。前記式中、成分R1およびR2は各々別個に、アルキル、アルキルオキシ、アルキルオキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アルケニル、アルケニルオキシ、アルケニルオキシカルボニル、アルケニルカルボニルオキシ、アルキニル、アルキニルオキシ、アルキニルオキシカルボニル、アルキニルカルボニルオキシ(その各々は置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝または環式でもよい);アリール、アリールオキシ、アリールオキシカルボニル、アリールカルボニルオキシ(その各々は置換されていてもまたは置換されてなくてもよい);およびカルバモイルから選択され、成分R3はアルキル、アルキルオキシ、アルキルカルボニルオキシ、アルケニル、アルケニルオキシ、アルケニルカルボニルオキシ、アルキニル、アルキニルオキシ、アルキニルカルボニルオキシ(その各々は置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝または環式でもよい);アリール、アリールオキシ、アリールカルボニルオキシ(その各々は置換されていてもまたは置換されてなくてもよい);およびカルボキシルから選択され、R1、R2およびR3以外は全てHであるということはなく、さらにYは天然のアミノ酸側鎖から選択される。患者によって感染、コロニー形成および保菌される細菌株の細胞壁活性抗菌剤に対する感受性を高める医薬の製造における上記の式を有する形質転換剤の使用もまた開示される。
【化1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌剤に対する細菌の感受性を高める薬剤に関し、特に、限定する訳ではないが、抗菌剤に対して耐性を有する細菌を前記抗菌剤に対して感受性が増した細菌に形質転換する薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
抗生物質および抗菌物質に耐性を有する細菌および他の微生物の世界的な出現は一般的に人類にとり大きな脅威となっている。過去60年の間、人間の生理圏内での大量の抗菌剤の使用によって、抗菌剤耐性病原菌の出現および蔓延をもたらす強力な選択圧が導入された。疫学的に特別に重要な耐性菌(これら病源体の多くが病院および他の医療施設で交差感染を起すことによる)には以下が含まれる:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcis aureus)(MRSA)および他のグラム陽性細菌[例えばバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)およびクロストリジウム=デフィシル(Clostridium difficile)]、並びに肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)(β−ラクタムおよび他の抗菌剤にだんだんと耐性になっている)の他にグラム陰性杆菌(広大されたβ−ラクタマーゼスペクトルを生じる)。特に最近の流行性MRSA(EMRSA)株では臨床的に利用可能な全ての抗生物質に対して耐性が存在するので、従来の抗菌剤が有効でないポスト抗生物質時代が予想される。
【0003】
[黄色ブドウ球菌]
黄色ブドウ球菌(S. aureus)は、重要な地域内および院内感染の原因であり、大腸菌(Escherichia coli)後敗血症の第二の重要原因であり、さらにチューブ類附随感染および持続的な通院型腹膜透析による腹膜炎のもっとも一般的な原因である。黄色ブドウ球菌はまた、骨、関節および皮膚感染の主要原因でもある。結局、黄色ブドウ球菌は、現代の病院および地域におけるもっとも普遍的な細菌病源体である。前記はまた、もっとも抗菌剤に対する耐性が強く、さらに容易に伝播される病源体の1つである(前記は健常人集団の約1/3が保有し、したがって流行株の世界的拡散が容易である)。
コロニー形成は保菌および感染の前提条件であり、ブドウ球菌は皮膚、創傷および埋め込み可能装置のコロニー形成菌であることはよく知られている。保菌は通常はアポクリン腺に組織学的に附随する特定の皮膚部位、主に外鼻孔(鼻をかむ領域)および第二に腋窩および会陰で発生する。黄色ブドウ球菌は、鼻から手さらに他の身体部位へと広がり、その場所で皮膚表面が裂けたとき(血管への挿管または外科的切開によって)感染が生じると説明されてきた。鼻内ムピロシンは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の鼻内保菌の根絶に対する頼みの綱であるが、院内発生の間に抗生物質耐性を自然と増幅させる。黄色ブドウ球菌感染についての高まる懸念を考えると、黄色ブドウ球菌保菌の排除に向けた新規で信頼できる処置を探索することは必須である。
【0004】
1950年代初頭までにペニシリン耐性は、伝達性プラスミドの保持するペニシリナーゼ(=β−ラクタマーゼ)によって付与されるものであり、これは、病院で獲得された黄色ブドウ球菌で一般的であった。また別の抗菌剤、すなわちテトラサイクリン、ストレプトマイシンおよびマクロライド系が導入されたが急速に耐性が生じた。β−ラクタムの化学的理解によって、メチシリン(ペニシリナーゼに対して安定な半合成イソキサゾリルペニシリン)の開発が可能になった。メチシリンおよび他の半合成イソキサゾリル剤、例えばフルクロキサシリンおよびオキサシリンのその後の開発は、黄色ブドウ球菌感染の治療に革命をもたらした。
【0005】
MRSAは最初イングランドで1960年に検出され、それ以来、世界的な院内感染の周知の原因となった。MRSAは全ての臨床的に利用可能なβ−ラクタムおよびセファロスポリンに対して耐性を有し、病院の治療薬で用いられる他の抗菌物質に対して容易に耐性を獲得する。選択的圧力のためにMRSAの発生および世界的流行は確実となった。英国での“現代”の流行性MRSA(EMRSA)によってひき起こされた大流行は、1980年代初頭に、その後EMRSA−1の性状をもつことが判明した株から始まった。今や英国には確認された17の流行型が存在し、これらはイングランドおよびウェールズ地方で1989−92年に報告された血液およびCSF単離物の1−2%から1997年には31.1%へと着実に流行してきた。この発生は、流行株15および16型の支配が増していることを反映している。EMRSAは非常に伝染性が強く、メチシリンおよびβ−ラクタム環と関係がある抗菌剤の他に全ての抗菌剤に対して様々に耐性を獲得している。EMRSAの他に、地域性MRSA(C−MRSA)に附随する重篤な皮膚感染を示すものが存在する。これは急速に発生した現象であり、米国、英国および欧州大陸で最近報告された。気道感染が少ないこともまた報告された。これらC−MRSAの多くはPVLと称される毒素を産生し、これは高い死亡率を伴うロイコチジンである。MRSAの皮膚および鼻の保菌に由来する重篤な感染、例えば地域性肺炎は適切な抗ブドウ球菌局所抗菌剤の使用によって防止することができる。
【0006】
[バンコマイシン耐性]
黄色ブドウ球菌/MRSA
さらに不幸な進展は、いくつかの株のグリコペプチドに対する低いまたは中等度耐性の獲得能力である。特にグリコペプチド系抗生物質であるバンコマイシンは選りぬかれた薬剤であり、多くの場合、MRSAおよび他のグラム陽性耐性菌(例えば腸球菌)の感染の治療に唯一の活性な薬剤であった。入院患者の創傷および血流感染数の増加のためにMRSAを制御できない場合は、バンコマイシンまたはテイコプラニンが臨床的に使用される。ヒラマツ(Lancet 1997, 350:1670-3)が日本におけるバンコマイシン中等度耐性MRSAを報告してまもなく、糖尿病患者の足の潰瘍から得られたいくつかの臨床単離菌でEMRSA−16はバンコマイシンに対するその感受性を低下させ始めた。新規な流行株、EMRSA−17はイングランドの南海岸で出現し、バンコマイシンに対する感受性が強く低下する。この株はEMRSA−5から発達し、より強い耐性すら有し、さらに重篤な疾患をひき起こしやすい流行株が持続的に生み出されつつあると今では考えられている。もっとも重大な進展は、バンコマイシンに対して高レベルの耐性をもつMRSA(VRSA)のそれである。これらは米国で報告され、前記株はVREのバンコマイシン耐性遺伝子と同一の遺伝子を保有する。VRSAの伝播は避けられないように思われ、保菌および創傷感染の制御に適切な抗菌剤が存在しない場合、汚染施設での日常的な外科手術の維持すらおそらく困難であろう。
【0007】
腸球菌:
腸球菌、特にエンテロコッカス=フェシウム(Enterococcus faecium、E. faecalis)は主として腸の共生生物であるが、免疫減弱ホスト(例えば肝臓移植患者)ではコロニーを形成し感染する日和見病原体となるであろう。バンコマイシン耐性E.フェシウム(VREF)が出現し、爾来、重要な院内感染病源体となった。1987年にバンコマイシン耐性腸球菌が南ロンドンおよびパリに初めて出現して以来、多様な抗菌剤耐性腸球菌が多くの国々で頻度を増しながら報告されてきた。実際、ゲンタマイシン、バンコマイシンおよび他の薬剤に耐性をもつE.フェシウムが、英国では利用可能な治療薬がなかった感染をひき起こしたが、キヌプリスチン/ダルフォプリスチン(86%のE.フェシウム単離菌に活性を示す(MIC≦2mg/L))が今では承認されている。米国では、血液培養から単離される腸球菌に対するVREFの割合は1989年の0%から1999年では25.9%に増加した。家禽の生肉が主要なVREF源のようである。
抗菌剤に対する耐性は世界的な懸念であるが、耐性を制御しこれを減少させるために提唱された唯一の方法は抗菌剤の適切な使用を推し進めるものである。しかしながら、慎重な抗生物質の使用は耐性傾向を反転させるであろうという期待は、慎重に考慮した場合にのみ受け入れられるべきであろう。引き続いて耐性が生じであろう新規な薬剤を開発するのではなく以前に確立された抗菌剤の使用を再開することを目的としながら、耐性株を感受性株に形質転換させるという考え方は未だ探求されてはいない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、抗菌剤に対する細菌細胞の耐性を逆転させる細菌の形質転換剤(BTA)を提供することである。
細菌の形質転換剤は既知であり、以下の特徴を有する:
−微生物が細胞壁に対して活性を有する抗菌剤に対して耐性を有する細胞壁をもち、前記耐性が細胞壁間架橋に依存している場合は、BTAは、前記細胞壁活性物質に対して前記耐性微生物をその耐性状態から感受性状態に形質転換する。
−BTAの存在は形質転換発生のために必須である。
−BTAは、BTAとして使用される濃度で、それら自身、治療薬剤ではない。
−標的微生物に対するBTAの作用は、BTAが取除かれたとき逆転する。
−BTAは、β−ラクタマーゼ、外向きフラックスポンプまたは抗生物質破壊酵素のような特定の耐性メカニズムの阻害剤ではない。
【0009】
本発明は、細菌株または前記細菌株の進化上の原株が感受性を有し、細胞壁に対して活性を有する抗菌剤に対する細菌株の感受性を高める方法において、前記方法は以下の式(I)を有する形質転換剤に前記細菌株を暴露する工程を含む:
【0010】
【化1】

【0011】
式中、
成分R1およびR2は各々別個に、アルキル、アルキルオキシ、アルキルオキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アルケニル、アルケニルオキシ、アルケニルオキシカルボニル、アルケニルカルボニルオキシ、アルキニル、アルキニルオキシ、アルキニルオキシカルボニル、アルキニルカルボニルオキシ(その各々は置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝または環式でもよい);アリール、アリールオキシ、アリールオキシカルボニル、アリールカルボニルオキシ(その各々は置換されていてもまたは置換されてなくてもよい);およびカルバモイルから選択され、
成分R3はアルキル、アルキルオキシ、アルキルカルボニルオキシ、アルケニル、アルケニルオキシ、アルケニルカルボニルオキシ、アルキニル、アルキニルオキシ、アルキニルカルボニルオキシ(その各々は置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝または環式でもよい);アリール、アリールオキシ、アリールカルボニルオキシ(その各々は置換されていてもまたは置換されてなくてもよい);およびカルボキシルから選択され、
1、R2およびR3以外のものが全てHであるということはなく、
Yは、天然のアミノ酸側鎖から選択される。
【0012】
酸素含有置換基の硫黄アナローグもまた本発明の範囲内にある。環式化合物には1つ以上のN、SまたはO原子をその環系に有する複素環式化合物が含まれる。
前記R1、R2およびR3成分のいずれかの適切な置換基には、ハロゲン(例えばFおよびCl)、ヒドロキシル(−OH)、カルボキシル(−CO2H)、アミンおよびアミドが含まれる。
好ましくは、Yは−H2(すなわちグリシンの“側鎖”)である。
好ましくは、R1およびR2の1つはHである。
好ましくは、R1およびR2の1つはアルキルカルボニル(より好ましくはC1−C6アルキルカルボニル)、アルケニルカルボニル(より好ましくはC2−C6アルケニルカルボニル)、アルキニルカルボニル(より好ましくはC2−C6アルキニルカルボニル)である。さらに好ましくは、R1およびR2の1つはC1−C6アルキルカルボニルであり、もっとも好ましくはメチルカルボニル(アセチル)である。
好ましくは、R3はアルキルオキシ(より好ましくはC1−C6アルキルオキシ)、アルケニルオキシ(より好ましくはC2−C6アルケニルオキシ)、アルキニルオキシ(より好ましくはC2−C6アルキニルオキシ)またはアリールオキシ(より好ましくはフェニルオキシカルボニル)である。さらにより好ましくは、R3はベンジルオキシである。
【0013】
特に好ましい形質転換剤は、式中R1がHであり、R2がアセチルであり、R3がカルボキシル(N−アセチルグリシン)またはベンジルオキシ(N−アセチルグリシンベンジルエステル)である場合と、R1およびR2がHであり、R3がベンジルオキシ(グリシンベンジルエステル)である場合である。特に好ましい形質転換剤にはグリシンベンジルエステル、グリシルグリシンエチルエステル、馬尿酸、p−アミノ馬尿酸およびプロパルギルグリシンが含まれる。
【0014】
本発明の方法は、抗菌剤、例えばペニシリンおよびその誘導体並びにアナローグに対する細菌株、特にブドウ球菌のβ−ラクタマーゼおよび類似のβ−ラクタマーゼ(例えばオキサシリン)並びにグリコペプチド(例えばバンコマイシン)に対して安定な細菌株の感受性を高めるために特に適切である。
疑問が生じないように、本発明の方法で有用な形質転換剤には、生理学的条件下で式(I)の化合物に変換される、式(I)の上記化合物の生理学的に許容される塩および他の誘導体が含まれる。
前記形質転換剤は一般的には“形質転換”レベル(すなわち抗菌剤の活性を単に高める濃度)ではそれ自体抗菌特性をもたない。上記に述べた化合物のいくつかは高レベルでは抗菌活性をもつかもしれない(例えばプロパルギルグリシンおよび馬尿酸)。
【0015】
上記の式およびその変種に附随する特徴
1.“形質転換”という用語は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌のメチシリン感受性ブドウ球菌への形質転換によって例示される。
2.メチシリン耐性はβ−ラクタマーゼによって付与されない。ブドウ球菌がβ−ラクタマーゼ産生菌である場合、前記形質転換剤は、β−ラクタマーゼに対して感受性をもつ抗生物質に対する感受性に影響を与えないであろう。
3.前記形質転換剤の作用は、β−ラクタマーゼ耐性β−ラクタム抗生物質(セファロスポリンを含む)に対して耐性をもつ全てのブドウ球菌に及ぶ。
4.バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対抗する活性もまた存在するが、ただしその作用は強力ではない。VREにおけるBTA活性は、これら微生物の細胞壁架橋内の1つ以上のグリシン分子によるものと考えられる。
5.前記形質転換剤の作用はVRSAにも及ぶはずである。
【0016】
本発明はまた、患者によって感染、コロニー形成または保菌される細菌株の抗菌剤に対する感受性を高める医薬の製造における式(I)の薬剤の使用に関する。好ましくは、前記細菌株(すなわち形質転換の標的)は、前記BTAと同時に製剤化される抗菌剤に対して耐性を有する。
本発明はさらに、保菌されている細菌株による患者の感染を予防および/または治療する方法に関し、前記方法は、前記株を抗菌剤に対してより感受性にするために十分な量の式(I)の形質転換剤を、治療的に有効な量の前記抗菌剤とともに前記患者に投与することを含む。
前記患者は前記細菌株の無症状保菌者であっても、または臨床的症状を示す感染を被っている者でもよいことは理解されよう。
前記形質転換剤(BTA)の投与は前記抗菌剤の投与前、投与後または前記投与と同時であろう。しかしながら、前記形質転換剤は、好ましくは前記抗菌剤と一緒にまたは前記抗菌剤の投与前に投与される。同時投与の場合には、前記形質転換剤および抗菌剤は、単一の医薬としてまたは別個の医薬として組み合わせて投与することができる。好ましくは、前記形質転換剤および抗菌剤は単一の医薬として組み合わせて投与される(すなわち同時投与)。同時投与される抗菌剤は、標的微生物が属する種に対して十分な固有活性を有するべきであることは留意されねばならない(すなわち、前記抗菌剤は耐性を示す前記標的細菌の天然の感受性変種に対して良好な活性を有しなければならない)。
【0017】
投与は既知の投与ルートのいずれでもよく、例えば、静脈内、筋肉内、鞘内(脊髄内)注射;軟膏、膏薬、クリームまたはチンキ剤としての鼻内、局所投与;錠剤、カプセル、懸濁剤または液体としての経口投与;およびスプレー(例えばエーロゾル)としての鼻内投与による。投与ルートの選択は選択されるBTAの特性にしたがって選択されるであろう。
各々の場合において、前記形質転換剤または転換剤の組合せは、1つ以上の賦形剤、担体、乳化剤、溶媒、緩衝剤、pH調節剤、香料、着色剤、保存料または投与の態様に適するように製薬分野で一般的に使用される他の添加物とともに混合されてあってもよい。
好ましくは、前記形質転換剤は、黄色ブドウ球菌、コアギュラーゼ陰性ブドウ球菌、腸球菌、クロストリジウム=デフィシル、肺炎連鎖球菌から選択される少なくとも1つの細菌株の、細胞壁に対する活性を有する適切な抗菌剤に対する感受性を高めることができる。より好ましくは、前記転換剤は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌およびバンコマイシン耐性腸球菌の少なくとも1つの抗菌剤感受性を、特に前記細菌株が前記抗菌剤(例えばメチシリン、オキサシリン、フルクロキサシリン、バンコマイシン)に耐性である場合に高めることができる。特に、前記転換剤は、好ましくは、β−ラクタム系(および類似の)抗生物質/抗菌剤に対するEMSRA−15、−16および/または−17または他のEMRSAの感受性を高めることができ、および/またはバンコマイシン、テイコプラニンまたは他のグリコペプチドに対する感受性が低下したEMSRAの感受性を高めることができ、または上述の抗菌剤に対するVRSAの感受性を高めることができる
【0018】
各々の事例で、感受性は、標準的な抗生物質感受性検査(好ましくはE−試験)で測定したとき、薬剤濃度が0.02Mまたはそれ未満、より好ましくは0.002Mまたはそれ未満、もっとも好ましくは0.001Mまたはそれ未満で対応する非耐性細菌株レベルに高められる。
前記転換剤はまた、黄色ブドウ球菌、コアギュラーゼ陰性ブドウ球菌、腸球菌、クロストリジウム=デフィシル、肺炎連鎖球菌、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)および他の連鎖球菌並びにグラム陽性病原体から選択される既に感受性を有する細菌株の感受性を、ペニシリンまたはそのアナローグもしくは誘導体に対して“ハイパーセンシティビティー”に高めることができる。前記転換剤はしたがって、前記細菌株が(特に衰弱ホストで)急速に致死的な感染をひき起こす場合に、適切な抗菌剤とともに同時処方し、または同時投与もしくは同時製剤化して前記感染者の前記抗菌剤に対する“ハイパーセンシティビティー”を作り出すことができる。
【0019】
好ましくは感受性が高められる抗菌剤は、β−ラクタム系(および類似の)抗生物質[例えばメチシリン、ピペラシリン(piperacillin)、フルクロキサシリン(flucloxacillin)、クロキサシリン(cloxacillin)、オキサシリン(oxacillin)、オーグメンチン(Augmentin)、オフロキサシリン(ofloxacillin)、イミペナム(imipenam)およびメルペナム(merpenam)]、セファロスポリン[例えばセフタジジム(ceftazidime)およびセフロキシム(cefuroxime)]およびグリコペプチド[例えばバンコマイシン、テイコプラニン(teicoplanin)、ゲンタマイシンおよびオリタバンシン(oritavancin)]から成る群から選択される。
2つ以上の抗菌剤(同じ種類または好ましくは異なる種類)を用いることができることは理解されよう。
【0020】
ブドウ球菌におけるメチシリン耐性
ブドウ球菌の細胞壁は病原性および感染治療に重要な役割を果す。グラム陽性細菌では、前記細胞壁はペプチド結合によって架橋されているペプチドグリカン層から成る。グラム陰性細菌は、細胞外膜によって被包された薄いペプチドグリカン層を有する。このペプチドグリカンはまた、下記に概略する一般原則によって同定されるように、BTAが標的とすることができる架橋およびムロペプチドテールを含む。ペプチドグリカンの構造およびアッセンブリーの固有さゆえに、いくつかの微生物タイプによって天然に産生される抗生物質を含む抗菌剤の好ましい標的の1つである。黄色ブドウ球菌のペプチドグリカンは、N−アセチルグルコサミンとペンタペプチド(L−Ala−D−Glu−L−Lys−D−Ala−D−Ala)で置換されたN−アセチルムラミン酸とのユニットが交互に入る直鎖状糖鎖から成る。黄色ブドウ球菌の細胞壁の特徴は、近傍にあるユニットのペンタペプチド上のD−AlaにL−Lysを連結させるペンタグリシン架橋である(末端のD−Alaはペプチド転移によって取除かれる)。この可撓性ペンタグリシン架橋はペプチドグリカンユニットの90%までの架橋を可能にし、したがって実質的な細胞壁の安定性を促進することができる。さらにまた、ペンタグリシン結合は、ブドウ球菌の表面タンパク質(トランスペプチダーゼ様反応により前記表面に共有結合によって固着される)のための受け手として機能する。表面タンパク質は、ホストのマトリックスタンパク質との相互反応により付着および病原性に重要な役割を果す。
【0021】
β−ラクタムの作用メカニズムの中核となる主要な理論は、前記β−ラクタムの構造とペプチドグリカンペンタペプチドのD−Ala−D−Alaのカルボキシ末端領域の類似性に関係がある。ペニシリン、セファロスポリンおよび他のβ−ラクタムは、細胞壁のトランスペプチダーゼの活性部位セリンをアシル化し、触媒活性を欠く安定なアシル酵素を生成する。β−ラクタムと細胞壁の合成酵素(ペニシリン結合タンパク質(PBP)として知られている)との共有結合によるペプチドグリカン合成の阻害は、内在性自己融解酵素によって仲介される黄色ブドウ球菌の自己融解をひき起こす。自己融解の可能性はMRSAでは低いが、llm遺伝子は351アミノ酸残基の親油性タンパク質をコードし、これは、自己融解の増加に関連するメチシリン耐性の低下と密接に関係する。メチシリン感受性黄色ブドウ球菌は、分子量がそれぞれ約85、81、75および45kDa(それぞれPBP1、2、3および4と称され、PBPは便利なように分子量の減少順に番号を付されている)の4つの主要なPBPを産生する。黄色ブドウ球菌のペニシリンに対する耐性は最初β−ラクタマーゼまたはペニシリナーゼの形で獲得されたが、今や臨床単離株の約90%が産生する。β−ラクタマーゼの構造遺伝子(blaZ)および2つの調節遺伝子(blaIおよびblaRI)は通常は転移性プラスミドに存在する(ただし染色体上の位置もまたいくつかの株で特定されている)。β−ラクタマーゼの誘発は、blaRIによってコードされるシグナルトランスデュースPBP(PBP3)の膜貫通ドメインにβ−ラクタマーゼが結合することによって開始し、リプレッサーの分解をもたらしてそのDNA結合特性の消失を引き起こし、blaZの転写が可能になると考えられている。BlaRI−ペニシリン複合体がリプレッサーの分解を惹起する手段は不明であるが、以下のいずれかの理由により生じるのであろうと考えられている: 1)β−ラクタムの結合により細胞質ドメインにおけるプロテアーゼ活性化によってもたらされるBlaRIの構造的変化、または 2)BlaRI−ペニシリン複合体が活性化または誘発を惹起する仮想的遺伝子blaR2によってコードされるリプレッサー不活化プロテアーゼ。β−ラクタマーゼは、β−ラクタム環と共有結合することによってペニシリンおよび他のβ−ラクタム(β−ラクタマーゼの種類による)の不活化を触媒する。これは、加水分解性ではなく可逆的ではない点を除いて、β−ラクタムがPBPの活性部位と結合するときに生じる反応と本質的に同じである。いくつかのPBP(黄色ブドウ球菌のPBP4を含む)は検出可能なβ−ラクタマーゼ活性を有する。しかしながら、高分子量PBP(例えば黄色ブドウ球菌のPBP1、2および3)はペプチドグリカンのペプチド転移反応に主として必要とされ、一方、低分子量PBPはカルボキシペプチダーゼ活性を示す。
【0022】
黄色ブドウ球菌およびコアギュラーゼ陰性ブドウ球菌のメチシリン耐性は、特異的なPBP、PBP2a(β−ラクタム化合物に対して低い親和性を有する)の産生によって決定される。低親和性PBP2aは、実質的に全てのβ−ラクタム抗菌剤(セファロスポリンを含む)に対する特異的な耐性を付与する。PBP2aは、高濃度のβ−ラクタム(前記は正常なPBP1−4の活性を阻害する)が存在するときはMRSAにおける細胞壁合成でトランスペプチダーゼとして機能する。PBP2aは、メチシリン耐性ブドウ球菌の染色体上に位置する構造遺伝子mecAによってコードされる。PBP2aの発現は、2つの調節遺伝子mecDNA(mecIおよびmecRI、前記はmecAの上流に位置し、それぞれmecAリプレッサータンパク質およびシグナルトランスデューサタンパク質をコードする)によって制御される。完全なmecIおよびmecRIをmecAと一緒に保有するMRSAは“プレ−MRSA”と称される。完全なmecI生成物はPBP2aの発現を強く抑制するので、プレ−MRSAは見かけはメチシリン感受性である。MecAに対するリプレッサー機能の除去は、mecDNAをもつ黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性の構成的発現に必須であるという仮説が提示されている。MecIとblaI、mecRIとblaRI並びにblaZおよびmecAのプロモーターとN−末端部分との間には相同性が存在する。この相同性は、黄色ブドウ球菌の単離菌に正常な誘発性表現型を回復させるために十分強力であり、これは、mecI遺伝子座が存在しないためまたはその欠損のために大量の構成的PBP2a産生をもたらす。PBP2aの産生増加はバンコマイシン耐性に附随するであろう(下記参照)。
【0023】
PBP2aの発見に続いて、メチシリン耐性表現型の発現は、PBP2aの発現量と相関しないことが見出された。1983年に、mecAとは別個にいくつかのまた別の遺伝子がMRSAにおける高レベルのメチシリン耐性の維持に必要であることが示された。これらの遺伝子は、メチシリン耐性に必須の因子を提供すると考えられたためにfemと称され、または補助的因子であると考えられたのでauxと称された。最初Femまたはaux因子は、mecAの獲得後メチシリン耐性およびその均質性をさらに改善し強固にするためにブドウ球菌によって召集された追加の遺伝子であると考えられたが、前記fem遺伝子は全てのブドウ球菌の天然の構成成分であり、ペンタペプチド架橋の形成および前記架橋またはムロペプチドの改変に必要であることが徐々に明らかになった。ペンタグリシン架橋の合成は膜結合脂質II前駆体NAG−(β−1,4)−NAM−(L−Ala−D−Glu−L−Lys−D−Ala−D−Ala)−ピロホスホリル−ウンデカプレノールで、ドナーとしてグリシル−tRNAを用いてリジンのΕ−アミノ基へのグリシンの連続付加によってリボソーム非依存性態様で生じる。6つのfem遺伝子(femA、femB、femC、femD、femE、femF)が報告された。femAおよびfemBは近縁であるが別個の2つの遺伝子で、オペロンの一部分を構成する。femAおよびfemBの両遺伝子はペンタグリシン架橋の形成に必要であることが示された。femAの生成物であるFemAは前記架橋にグリシン2および3を付加するために必要であり、一方、femBの生成物であるFemBはグリシン4および5を付加する。仮説のfemXは最初のグリシンを添加するタンパク質として必要であると提唱されている。
【0024】
他のFemA、B様因子がブドウ球菌で特定され、例えばブドウ球菌=シミュランス(Staphylococcus simulams)のLifおよびブドウ球菌=キャプチス(Staphylococcus capitis)のEprで、前記はこれら微生物をそれら自身のグリシルグリシンエンドペプチダーゼから防御する。3つの新規な遺伝子、fmhA、BおよびCが引き続き特定された。これらのfem様遺伝子は、コアギュラーゼ陰性ブドウ球菌で1−2セリン残基をペンタペプチド架橋に導入するために必要であり、ある種の条件下では黄色ブドウ球菌のいくつかの株でセリン残基を前記架橋の3または5位に取り込むことができる。その後、fmhBは前記仮説のfemXであることが示され、前記はペンタグリシンのペプチド間架橋の1位にグリシン残基を付加する。
ペンタグリシン架橋の形成の阻害はPBP2の合成に影響を与えることなくメチシリン耐性を低下させ、β−ラクタムに対するハイパーセンシティビティーを生じる。したがって、ペンタグリシン架橋は細胞壁の安定性(抗菌剤に対する耐性を含む)維持に重要な役割を有する。本出願もまた形質転換の標的として内在性エンドペプチダーゼの適切性を強調したい。なぜならば、これら酵素の天然の活性を制御して、メチシリン耐性株のメチシリン感受性株への転換によって示されるように、ある種の細胞壁活性を有する薬剤に対する細菌細胞の感受性を転換することができるからである。
【0025】
バンコマイシン耐性
グリコペプチド系抗生物質はペプチドグリカン合成の阻害剤である。β−ラクタムおよび関連抗菌物質とは異なり、グリコペプチドは細胞壁生合成酵素(PBP)と直接結合しないが、細胞壁前駆体ペンタペプチドの末端D−アラニンのカルボキシ部分と複合体を形成する。これによりペプチドグリカン合成におけるその後の糖転移反応工程への進行を阻害し、ペプチドグリカン複合体の定着(アンカリング)に必要な、D,D−トランスペプチダーゼおよびD,D−カルボキシペプチダーゼによって触媒される反応を妨げる。
VREの最初の出現とともに、VREのタイプおよびグリコペプチド耐性レベルによって細菌株が分けられることが明らかになった。今やグリコペプチド耐性腸球菌の特徴には7種類の遺伝子型が存在する:E.フェシウムおよびE.フェカリス(faecalis)で主に見出されるvanA(バンコマイシン256mg/L以上に対しおよびテイコプラニン32mg/L以上に対して耐性を付与する);E.フェシウム、E.フェカリスおよびストレプトコッカス=ボービス(Streptocpccus bovis)で見出されるvanB(バンコマイシン4から1000mg/Lおよびテイコプラニン1.0mg/L以下に対して耐性を付与する);vanC1(E.ガリナリウム(gallinarium))、vanC2(E.カッセリフラブス(casseliflavus))、vanC3(E.フラヴィセンス(flavescens))(バンコマイシン2から32mg/Lおよびテイコプラニン1.0mg/L以下に対して耐性を付与する);vanD(E.ファシウムでバンコマイシン64から256mg/Lおよびテイコプラニン4から32mg/L以下に対して耐性を付与する);vanE(E.フェカリスでバンコマイシン16mg/Lおよびテイコプラニン0.5mg/Lに対して耐性を付与する)。VanAタイプのVREは抗レベルのバンコマイシン耐性を達成する主要モデルを提供する。すなわち、D−Ala−D−Alaテール(ここにバンコマイシンおよび他のグリコペプチドが結合する)をもつ細胞壁ユニットペンタペプチドを提供する代わりに、vanA遺伝子クラスターはグリコペプチドによって誘発されてD−Ala−D−Lacテールを産生し、これにはバンコマイシンおよびテイコプラニンは結合しない。vanA遺伝子クラスターは転移性エレメントTN1546に収納され、vanA遺伝子それ自体は細胞質膜に配置される39kDaのタンパク質を生成する。前記タンパク質は、主にD−Ala−D−Lacを合成するリガーゼである。vanAの他に、2つの他の遺伝子vanHおよびvanXが存在する。前者はピルベートからD−Lacを生成するデヒドロゲナーゼ酵素であり、後者はもっぱらD−Ala−D−Alaを加水分解するメタロ−ジペプチダーゼをコードする。VanHAXの転写活性化はVanRS二成分調節系(遺伝子vanS(シグナルセンサー)およびvanR(レスポンスレギュレーター)で構成される)によって調節される。vanA遺伝子クラスターの残余は、2つのまた別の遺伝子vanY(ペンタペプチド残基から末端のD−Alaを切断し、結合標的、すなわちD−Ala−DS−Alaを排除することによってグリコペプチド耐性レベルをさらに高めることができるD,D−カルボキシペプチダーゼ)と、vanZ(テイコプラニンに対する耐性強化を仲介する)を含む。
【0026】
VREのvanA遺伝子はリコンビナント−欠損ブドウ球菌に移転させることができることが実験的に示されたので、バンコマイシン耐性MRSAの究極の出現は予期されていた。しかしながら、この事態は黄色ブドウ球菌またはコアギュラーゼ陰性ブドウ球菌のどちらについても実際には発生しなかった。MRSAではバンコマイシン寛容はβ−ラクタム寛容無しには発生せず、心内膜炎をひき起こす黄色ブドウ球菌の寛容株は死亡率の増加を伴うようである。バンコマイシン寛容は肺炎連鎖球菌でも発生し、寛容株は高レベルの耐性により容易に転換する。これは、細胞壁形成に関連する遺伝子発現における変化を仲介する二成分センサー−レギュレーター系(VncS−VncR)におけるDNAの変化によって仲介されるようである。VncSおよびVncRのアミノ酸配列は、バンコマイシン耐性E.フェカリス(faecalis)(VREF)のグリコペプチド耐性に附随するVanSB−VanRB調節系と38%の相同性を示し、おそらくMRSAと相関する。実際のところ、VREFのVanHと類似するD−ラクテートデヒドロゲナーゼであると考えられる37kDの細胞質タンパク質の過剰産生は、黄色ブドウ球菌のバンコマイシン耐性に附随していた。このブドウ球菌D−ラクテートデヒドロゲナーゼはまた、肺炎連鎖球菌の前記二成分相同領域に類似するシグナル−トランスダクションコントロールメカニズムの制御下にある可能性があり、MRSAはおそらくVanSB−VanRB/VncR−VncSと相同な配列を有する。MRSAにおけるバンコマイシン耐性は、新規な遺伝エレメントの獲得ではなく他の手段によって、すなわち細胞壁組成の変更によって達成された。これは、古典的にはペニシリンに感受性の酵素(PBP)によって主として調節される。PBP2aの過剰産生、高グルタミン非アミド化成分を含む肥厚細胞壁および細胞壁合成の強化はいずれもメカニズムとして記載されている。腸球菌のVanHと相同な細胞膜デヒドロゲナーゼの出現は臨床株において重要であるとは未だ示されていないが、このタンパク質を使って高レベルのバンコマイシン耐性が進化する明白な可能性が存在する。これまでのところ、黄色ブドウ球菌で認められるバンコマイシン耐性の型は中間型または(感受性)低下型と記載されており、通常では日常的な診断方法で検出するのは困難である。主要な検出方法は、治療の失敗によるものである。しかしながら、VRSAの株が米国で検出され、これらは世界的に蔓延すると予想され、同様な株がいずれかの場所で出現すると予想される。
【0027】
テイコプラニンの治療的使用は、米国では承認されておらず、またバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌のために選択することができるので少し異論のあるところである。糖尿病患者の足の潰瘍から単離されたグリコペプチドに対して感受性が低下したMRSAにはテイコプラニンが使用されていて、治療の失敗はテイコプラニンのMICの増加と密接に結びついていた。
【0028】
高濃度の外因性グリシンは細胞壁の合成に影響を及ぼすことが知られている。さらに特に興味深いことは、グリシンはMRSAに対するメチシリンのMICを減少させるという発見である。De Jongeとその共同研究者ら(Antimaicrobial Agents and Chemotherapy 1996, 40:1498-1503)は増殖培地でグリシンの濃度を増加させた。これによってD−Ala−D−Ala末端をもつムロペプチドがD−Ala−グリシンで終わるムロペプチドに置換されたペプチドグリカンが生じ、このことはメチシリン耐性におけるD−Ala−D−Alaで終わる前駆体の中心的な役割を示唆している。式(I)のBTAの重要な作用によってブドウ球菌でムロペプチドの末端テールがD−Ala−BTAと成り、前記作用は(単独でまたは他の作用と組み合わされて)メチシリンおよびバンコマイシンに対して形質転換活性を有すると考えられる。
【0029】
1980年代にイギリスで広く実施されたMRSAに関する最初の実験では、2%のグリシンが全てのMRSAをメチシリン感受性株に変換することが見出された。これはグリシンの存在下でのみ発生し、細胞は永久的な影響を受けなかった。続いて、より強い活性をもつ薬剤、グリシンベンジルエステル(GBE)が0.1から1%のレベルで形質転換活性を生じることが確認された。GBEの存在下では、MRSAはまた、ブドウ球菌のβ−ラクタマーゼによって加水分解されないセファロスポリンおよび他のβ−ラクタム系薬剤に対して感受性を示した。すなわちペニシリン耐性はこの酵素の産生のために安定であった。上記で既に述べたように、メチシリン感受性株でテストしたとき、達成された感受性はこれらの薬剤によって達成された感受性と同等であった。本発明者らが知るかぎりでは、MRSAの治療のために形質転換剤としてGBEを使用することはこれまで押し進められなかったし、“非β−ラクタム系の細胞壁活性”抗菌剤(例えばグリコペプチド系抗菌剤)に耐性を有する株の形質転換にGBEの使用が研究されたこともなかった。
【0030】
細胞壁を有する微生物の形質転換剤の特定には下記の一般原則に従う必要がある。
GBEは、他の化合物の能力を判定することができる有用な活性をもつ最初のBTAである。
成分を特定する方法は、標的(すなわち選択)生物の細胞壁内の架橋組成を確立し、細胞壁活性をもつ抗菌剤に対して個々の分子の形質転換能力を調べることである。任意の与えられた架橋内で繰り返される成分が、おそらくより有用な能力をもつ分子をおそらく示している。前記選択生物には、細胞壁架橋およびジペプチドムロペプチドテールをもつ感染性微生物、例えばグラム陰性およびグラム陽性細菌、クラミジアなどが含まれる。
細胞壁架橋内の複数のアミノ酸残基が、前記アミノ酸単独で達成できるものよりも高い能力をもつ分子内に含まれる同一または構造的に類似する成分によって標的とされる。細胞壁架橋内の1つ以上のアミノ酸の成分は構造的に、前記アミノ酸単独の形質転換活性を凌ぐ能力を示す。
MRSAの場合には、前記架橋は5つのグリシン分子で構成され、この分子に対して、N−アセチルグリシンおよびグリシンベンジルエステルが2つの基幹BTA化合物である。これら基本BTAが、グリシン成分を有する分子が、黄色ブドウ球菌のペンタグリシン架橋と結合したカルボキシル残基またはアミノ残基をどのようにして暴露することができるかを示す。
【0031】
さらにまた、例えばブドウ球菌のグリシルグリシンエンドペプチダーゼのようなエンドペプチダーゼもまた潜在的な形質転換剤である。なぜならば、メチシリン耐性株からメチシリン感受性株への形質転換によって具体的に示されたように、これら酵素の天然の活性を制御して、ある種の細胞壁活性剤に対して細菌細胞の感受性を転換することができるからである。本出願に記載されたBTAの正確な分子相互作用は明らかではないが、グリシルグリシンジペプチダーゼ並びに細胞壁架橋およびムロペプチドテールの形成およびリモデリングに必要な他の酵素による相互作用がもっとも蓋然性が高い。
【0032】
本出願の目的はまたバンコマイシン耐性に固有のBTAを特定する同様なアプローチを処方することである。VREおよびVRSAでのこのアプローチは、細胞壁のムロペプチドテールをD−Ala−D−AlaからD−Ala−D−Lacまたは他の変種に変更することを基本にしている。BTAはしたがってD−Ala−D−Lacまたは他の変種をもつ成分を含むか、または末端アミノ酸を直接置換してD−Ala−BTAテールを形成することができよう。形質転換活性についてのそのような化合物のスクリーニングでは本出願に記載した方法に従わなくてはならない。
したがって、本出願の目的はまた、医学的に重要な微生物の細胞壁に存在する架橋およびムロペプチドテールと、GBEによって確立されたものと同じ態様で直接的または間接的に相互作用し、その結果これら微生物が臨床的に適切な感受性(すなわち、BTAと一緒に同時処方または同時投与される適切な細胞壁活性を有する抗菌剤によって治療可能な感受性)に形質転換されるように全ての分子の開発にも向けられている。
【実施例】
【0033】
より高い能力をもつ可能性があるGBE関連物質を見出すために、追加グリシン成分およびベンジレートを含む種々の物質をスクリーニングした。スクリーニングはイソセンシテスト寒天(Isosensitest agar; Oxoid, UK)を用いて実施し、前記寒天に種々のレベルの潜在能力を有するBTAを0.01から1.0%のレベルで取り込ませた。続いて、取り込ませたBTAを含む前記寒天を用い、標準的抗生物質感受性試験の態様で10μgのメチシリンディスクを使用した。テスト生物は、30℃で18時間インキュベート後にコンフルエントな増殖を達成するために適した濃度で、寒天表面に接種した。インキュベーション後に得られたゾーンの直径をコントロールプレート(イソセンシテスト単独)と各テスト生物について比較した。
【0034】
【表1】

【0035】
上記全ての物質(グリシンそのものを含む)が、リファレンスのMRSA(標準株)、種々の選択MRSA(OMRSA)、EMRSA−1およびEMRSA−16を形質転換した。
ヒダントイン酸はバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対して低レベルの活性を有し、一方、GBEおよびグリシルグリシンエチルエステルはVREおよびMRSAに対してグリシルグリシンベンジルエステルよりも強い活性を有する。p−アミノ馬尿酸は馬尿酸およびGBEよりも改善された活性を有する。
種々の塩も、他のアナローグ(ペプチド、ベンジレート、アミノおよびアシレート変種および拡張化合物を含む)と同様に多様な活性および安定性を有することができるかもしれない。
【0036】
第1表は、患者から単離された種々のMRSA(Lシリーズ)およびリファレンス株に対するグリシンベンジルエステル(GBE)(実施例10)のメチシリン感受性改善作用を示す。単離時に、前記患者単離株は、臨床的に利用可能な全てのβ−ラクタム、セファロスポリン、マクロライドおよびゲンタマイシンに耐性であった。テトラサイクリン、トリメトプリム、クロラムフェニコール、フシジン酸およびリファンピシンに対する感受性は様々であった。
第1表から分かるように、グリシンベンジルエステルはグリシンよりもはるかに強くメチシリンに対する感受性を増進させた。0.001Mでさえも、0.2Mのグリシンよりも改善された作用が全ての株について観察された(テスト3とテスト1を比較されたい)。
【0037】
【表2】

【0038】
第1表では、形質転換のための目標MICはバンコマイシン感受性リファレンス株(バンコマイシン2mg/LのMICを有する)によってもたらされる。0.2Mグリシンはこの目標を被検株の50%で達成し、それと比較してグリシンベンジルエステルは0.02Mで被検株の100%で完全な形質転換を達成した。
重要なことには、本発明の形質転換剤の有用性はメチシリンに対する細菌の感受性増進に限定されない。グリシンベンジルエステルの2つのセファロスポリンに対する形質転換作用が第2表に示されている。
【0039】
【表3】

【0040】
グリシンベンジルエステルは被検MRSAをセフタジジムおよびセフロキシム感受性に転換し、したがってMRSAに対して全く有用な活性をもたなかったこれら2つの薬剤をMRSAに対して新たに活性にさせた。
有用な活性についてのin vivoにおける潜在能力は第3表に示されている。第3表は、リファレンスとしてグリシンベンジルエステルおよびグリシンを用い、19のMRSA患者単離菌についての1%ヒト血漿中でのメチシリンのMICを示している。5人の対象者の保存凍結血漿をプールした。
【0041】
【表4】

【0042】
ヒト血漿は外来物質と結合できるか、そうでなければ外来物質を不活化することができ、血漿中での良好な活性はin vivoでの良好な活性を示唆する。上記のデータから推定すれば、グリシンは活性が約75%、グリシンベンジルエステルは約75%から50%低下する。これは酵素の分解ではなくむしろタンパク質の結合によるものであり、前記化合物のin vivoにおける有用な安定性を示唆しているであろう。繰り返せば、メチシリンに対する感受性の増進は、グリシンと比較してグリシンベンジルエステルで顕著に高められる。
【0043】
第4表は、グリコペプチドに対して中等度の耐性をもつMRSAをグリコペプチド感受性株に形質転換するグリシンベンジルエステルおよびN−アセチルグリシン(NAGly)(実施例4)の能力を示す。
【0044】
【表5】

【0045】
このデータはグリシンベンジルエステルおよびN−アセチルグリシンは、非常に低い濃度(0.001M)で、認識されている耐性閾値8mg/L(中等度耐性を示す)よりも低くMICを減少させることによって、バンコマイシン中等度耐性MRSA(VISA)でバンコマイシンの活性を、またテイコプラニン中等度耐性MRSA(TISA)でテイコプラニンの活性を、回復させることができることを示している。
【0046】
本発明の形質転換剤はブドウ球菌での耐性の逆転に限定されない。第5表の被検株は、バンコマイシンおよびゲンタマイシン耐性エンテロコッカス=フェシウムの患者単離菌である。単離時に、前記単離菌は一般的な全ての臨床的に有用な抗菌剤に対して耐性であった。
【0047】
【表6】

【0048】
第5表では、形質転換のための目標MICはバンコマイシン感受性リファレンス株ATCC29212(バンコマイシン2mg/LのMICを有する)によって提供される。0.2Mグリシンはこの目標を被検株の50%で達成し、それと比較してGBEは、0.02Mで被検株の100%で完全な形質転換を達成した。
【0049】
以前に述べたように、自己感染の一般的原因は、外鼻孔に保持される黄色ブドウ球菌によるものである。第6表のデータは、グリシルベンジルエステルは、メチシリン(および例えばフルクロキサシリンのような他の関連抗生物質も意図される)に対して既に感受性を有する細菌の感受性を増進することを示している。本発明の形質転換剤はまた適切な抗菌剤と組み合わせて用い、心臓手術または自己感染の高いリスクを伴う他の侵襲性手段の前に鼻孔のMSSAの保菌を排除することができる。
【0050】
【表7】

【0051】
第7表は本発明の5つのBTA化合物の活性を示す。4つの臨床単離菌を2003年の初めの3ヶ月間に患者から単離した。もっとも最近の単離菌を用いた。なぜならばそれら単離菌は、特に流行性MRSAにおいてグリコペプチドに対する感受性の低下をもたらすより高い能力が具現された株の進化を示しているからである。メチシリン耐性はPBP2aの産生以外の手段によって達成されたので、中等度のMRSAを含めた。バンコマイシンに対するEMRSA−17の感受性低下は、セファレキシン(通常はブドウ球菌に対してきわめて低い活性しかもたない)に対する耐性のようにBTAによって形質転換される。
【0052】
【表8】

【0053】
臨床的な使用の場合、前記形質転換剤は、重篤な全身的感染(例えば敗血症)に対して全身的に(例えば静脈内に)投与することができる。しかしながら、前記形質転換剤の原則的使用の1つは、局所感染のその後の治療のための局所投与、または外科手術前に、例えば耐性菌が発生する前に感染の広がり防止のために保菌者から前記耐性菌を排除するためのプログラムの一部であろう。
【0054】
以下は、本発明の形質転換剤に含むことができる抗生物質および前記の好ましい投与経路の非包括的リストである:経口投与/フルクロキサシリン、クロキサシリン、オキサシリン、ピペラシリン;静脈内投与/バンコマイシン、メロペネム、フルクロキサシリン、クロキサシリン、オキサシリン、ピペラシリン、セフロキシム;筋肉内投与/フルクロキサシリン、セフロキシム、セフトリアキソン;局所投与/フルクロキサシリン、オキサシリン、セファレキシン。
【0055】
一般的な製剤についての配慮
全身投与に関する限り、形質転換剤と抗菌剤の半減期が類似する場合は同時製剤化が一般的に好ましい。例えばペニシリンは一般的には約1.5から2時間の半減期を有し、1日3から4回投与される。他方テイコプラニンは12時間の半減期を有し、通常1日1回投与される。したがって形質転換剤は対応する半減期をもつように選択するか、また別には別個の投与計画で別々に投与されねばならない。
一般的には、前記形質転換剤は、抗菌剤の半減期とほぼ同じ時間標的細菌を形質転換することができるin vivoレベルを達成するために十分な濃度で存在しなければならない。もちろん、形質転換剤の実際の濃度は製剤中の抗菌剤の濃度とは相関的ではないことは理解されよう。さらにまた、標的微生物がある原細菌から進化した細菌株である場合、同時製剤化または同時投与される抗生物質は、前記標的生物の原細菌株に対して明らかに有用な活性を有することが必須であることもまた理解されよう。前記は、形質転換剤が前記進化した標的生物の耐性を、感受性をもつ同じ株の耐性まで最大限完全にまたは部分的に低下させるので必須の要件である。
【0056】
医薬実施例1
グリシンベンジルエステル、グリシルグリシンエチルエステル、p−アミノ馬尿酸(またはプロパルギルグリシン)およびフルクロキサシリンまたはオキサシリンを、パラフィンワックス、ソフチサン(TM)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリグリセリル−4−カプレートおよびグリセリンと混合し、0.2重量%のBTAおよび1重量%のフルクロキサシリンまたはオキサシリンを含有する軟膏を得る。
治療計画
前記軟膏を感染領域に1日3から4回、感染が排除されるまで擦り込むか、または深部創傷に対しては包帯に適用する。この医薬はまた、カニューレまたはカテーテル関連感染のために血管内装置の挿入部位に予防的措置として適用してもよい。
【0057】
医薬実施例2
N−アセチルグリシンまたは第7表に挙げたBTAの1つおよびセフロキシムもしくはオキサシリンまたは他の適切な抗菌剤を不活性な担体液と混合して1%(w/v)の各活性物を得て、スプレーアプリケーターに1回分ずつ分ける。
治療計画
前記医薬を外科手術前(または院内感染発生時に)鼻内に1日3から4回5日間噴霧し、外鼻孔のブドウ球菌の保持を排除する。所望の場合または保菌部位の再感染がある場合は外科手術後治療を継続することができる。
前記スプレーはまた、感染予防のために縫合前に外科創傷に前記抗菌生成物を投与するために用いることができる(例えば胸骨創;骨および関節人工器具または移植物)。
前記スプレーはまた、包帯をする前に、または潰瘍が開放されたままである場合は、前記抗菌生成物を慢性潰瘍(例えば糖尿病性の足の潰瘍)に投与するために用いることができる。
医薬実施例3
BTA(例えば第7表に挙げたもの)+適切な抗菌剤(例えばオキサシリンまたはセフロキシム)の1.0%溶液を、例えば通常の食塩水のような溶液で作製する。
血管移植のための治療計画
血管移植物を移植前に前記溶液中に入れて染み込ませる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌株または該細菌株の進化上の原株が感受性を有し、細胞壁に対して活性を有する抗菌剤に対する前記細菌株の感受性を高める方法であって、前記方法が以下の式(I)を有する形質転換剤に前記細菌株を暴露する工程を含む方法:
【化1】

式中、
成分R1およびR2は各々別個に、アルキル、アルキルオキシ、アルキルオキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アルケニル、アルケニルオキシ、アルケニルオキシカルボニル、アルケニルカルボニルオキシ、アルキニル、アルキニルオキシ、アルキニルオキシカルボニル、アルキニルカルボニルオキシ(その各々は置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝または環式でもよい);アリール、アリールオキシ、アリールオキシカルボニル、アリールカルボニルオキシ(その各々は置換されていてもまたは置換されてなくてもよい);およびカルバモイルから選択され、
成分R3はアルキル、アルキルオキシ、アルキルカルボニルオキシ、アルケニル、アルケニルオキシ、アルケニルカルボニルオキシ、アルキニル、アルキニルオキシ、アルキニルカルボニルオキシ(その各々は置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝または環式でもよい);アリール、アリールオキシ、アリールカルボニルオキシ(その各々は置換されていてもまたは置換されてなくてもよい);およびカルボキシルから選択され、
1、R2およびR3以外のものが全てHであるということはなく、
Yは、天然のアミノ酸側鎖から選択される。
【請求項2】
Yが−H2(すなわちグリシンの“側鎖”)である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1およびR2の1つがHである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
1およびR2の1つがアルキルカルボニル(より好ましくはC1−C6アルキルカルボニル)、アルケニルカルボニル(より好ましくはC2−C6アルケニルカルボニル)、アルキニルカルボニル(より好ましくはC2−C6アルキニルカルボニル)である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
1およびR2の1つがC1−C6アルキルカルボニルであり、好ましくはメチルカルボニル(アセチル)である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
3がアルキルオキシ(より好ましくはC1−C6アルキルオキシ)、アルケニルオキシ(より好ましくはC2−C6アルケニルオキシ)、アルキニルオキシ(より好ましくはC2−C6アルキニルオキシ)またはアリールオキシ(より好ましくはフェニルオキシカルボニル)である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
3がベンジルオキシである請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記抗菌剤がペニシリンまたはその誘導体もしくはアナローグまたはグリコペプチドである請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記抗菌剤がβ−ラクタマーゼに対して安定なペニシリンまたはその誘導体もしくはアナローグである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記抗菌剤がオキサシリンまたはバンコマイシンである請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記形質転換剤がグリシンベンジルエステル、グリシルグリシンエチルエステル、馬尿酸、p−アミノ馬尿酸またはプロパルギルグリシンである請求項1に記載の方法。
【請求項12】
患者によって感染、コロニー形成または保菌される細菌株の、請求項1に記載の細胞壁に対して活性を有する抗菌剤に対する感受性を高める医薬の製造における請求項1に記載の式(I)を有する薬剤の使用。
【請求項13】
細菌株の保菌に関連する感染および交差感染を予防する方法であって、前記方法が、前記株を抗菌剤に対してより感受性にするために十分な量の請求項1に記載の式(I)の形質転換剤を前記患者の保菌部位に局所投与すること、および補助製剤および/または補助投与物質として治療的に有効な量の前記抗菌剤を前記患者に投与することを含む前記感染および交差感染を予防する方法。
【請求項14】
前記形質転換剤が、1つ以上の賦形剤、担体、乳化剤、溶媒、緩衝剤、pH調節剤、香料、着色剤、保存料または投与の態様に適するように製薬業界で一般的に使用される他の添加物との混合物であることができる請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記形質転換剤が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、コアギュラーゼ陰性ブドウ球菌および腸球菌、クロストリジウム=デフィシル(Clostridium difficile)、および肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)並びに他のグラム陽性病原体から選択される少なくとも1つの細菌株の前記抗菌剤に対する感受性を高めることができる請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記細菌株が前記抗菌剤に対して耐性である請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記形質転換剤が、メチシリンおよび/またはグリコペプチド耐性黄色ブドウ球菌並びにバンコマイシン耐性腸球菌のうちの少なくとも1つの細菌株の抗菌剤であって、この細菌株が耐性である抗菌剤に対する感受性を高めることができる請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記細菌株が、メチシリンおよびその誘導体または関連する抗菌剤;バンコマイシン、テイコプラニンまたは別の関連するグリコペプチドの少なくとも1つに対して耐性を有する請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記形質転換剤が、特に衰弱ホストで急速に致死的感染をひき起こす、黄色ブドウ球菌、コアギュラーゼ陰性ブドウ球菌、腸球菌、クロストリジウム=デフィシル、肺炎連鎖球菌、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)並びに他の連鎖球菌およびグラム陽性病原体から選択される少なくとも1つの細菌株の前記抗菌剤に対する感受性を高めて、前記抗菌剤に対して前記感染者の“ハイパーセンシティビティー”を作り出すことができる請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記形質転換剤が、β−ラクタム系(および類似の)抗生物質/抗菌剤に対するEMSRA−15、−16および/または−17または他のEMRSAの感受性を高めることができ、および/またはバンコマイシン、テイコプラニンまたは他のグリコペプチドに対する感受性が低下したEMSRAの感受性を高めることができ、または上述の抗菌剤に対するVRSAの感受性を高めることができる請求項13に記載の方法。
【請求項21】
標準的な抗生物質感受性検査で測定したとき、薬剤濃度が0.02M以下、より好ましくは0.002M以下、もっとも好ましくは0.001M以下で感受性が対応する非耐性細菌株のレベルに感受性が高められる請求項19に記載の方法。
【請求項22】
感受性が高められる前記抗菌剤が、β−ラクタム系(および類似の)抗生物質/抗菌剤(スタフィロコッカスβ−ラクタマーゼに対して安定)、セファロスポリンおよびグリコペプチドから成る群から選択される請求項13に記載の方法。
【請求項23】
感受性が高められる前記抗菌剤が、メチシリン、フルクロキサシリン、クロキサシリン、オキサシリン、イミペナム、メロペナム、セフタジジム、セフロキシム、バンコマイシン、テイコプラニンまたはオリダバンシンである請求項22に記載の方法。
【請求項24】
感受性が高められる前記抗菌剤が、β−ラクタマーゼに感受性を有するβ−ラクタム系(および類似の)抗生物質/抗菌剤から、β−ラクタマーゼ阻害剤またはその誘導体もしくはアナローグとともに選択される請求項13に記載の方法。
【請求項25】
ペニシリンおよび関連/類似抗菌剤並びにグリコペプチドが標的とするために適した構造の細胞壁をもつ医学的に重要な微生物において形質転換剤を特定する方法であって、標的生物の細胞壁の架橋およびムロペプチドテールの組成が完全にまたは部分的に確立される必要があり、また、対応する成分をもつ個々の分子の形質転換能力が検査のために選択されねばならない前記形質転換剤の特定方法。

【公表番号】特表2006−504404(P2006−504404A)
【公表日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−508843(P2004−508843)
【出願日】平成15年6月2日(2003.6.2)
【国際出願番号】PCT/GB2003/002402
【国際公開番号】WO2003/101488
【国際公開日】平成15年12月11日(2003.12.11)
【出願人】(504441130)ファーマシューティカ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】