説明

組成分布を生じる光学部品用透明材料及びこれを利用する光学部品

【課題】レーザ照射により発生する組成分布が光学特性の変化を発生させうる、特定の成分を含有するガラス部材を提供する。
【解決手段】ガラス部材は、元素分布を有しない均一ガラス材料にパルスレーザを集光照射することにより、ガラス内部のレーザ照射領域及びその周辺領域に、他の領域とは異なる、ガラス組成の空間的な分布が存在する異質領域を有する。異質領域は、前記ガラス組成の空間的な分布により、他の領域とは異なる屈折率分布を有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に光情報処理、光通信システム等に使用される各種素子、導波路等の光学部品に用いる透明材料に関し、特に、時間幅が10−12秒以下の超短パルスレーザ光により局所選択的に異なる組成分布が発生したガラス部材、及び構造体、当該構造体を利用する光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、精密光学機器、光通信分野等において、微小光学材料の開発が活発に行われている。これらマイクロオプティックスの分野においては、微小領域における光制御が可能な光学素子が求められ、その屈折率制御等が重要な課題となる。
【0003】
このような、屈折率制御に関しては材料そのものの特性だけではなく、さらに特性を付与した光学材料が使われており、特に光通信分野ではイオン交換を行いて屈折率の異なる領域を形成したGRIN(GRadient INdex)レンズが広く使用されている(特許文献1)。GRINレンズは、一般的にイオン交換法によって作製され、LiO、NaO等を含有する母ガラスを溶融塩中に投入し、ガラス中にイオンの濃度勾配を生じさせ、半径方向に屈折率の分布を生じさせた平面レンズとしての機能を付与している。しかしながら、この方法であると、その屈折率変化は溶融塩によるイオン交換のために、表面近傍に限定され、より内部に屈折率分布領域を形成する事は出来ない。
【0004】
また、屈折率変化という点では、近年レーザ技術の発達により、ガラス等の透明媒質中に屈折率変化した領域を形成することによる光部品の開発が活発に行われている(特許文献2)。特にパルス幅がフェムト秒レベルのレーザ光はそのピークパワーの強さから多光子吸収過程を利用した透明材料内部の三次元的な加工が可能である事が知られており、特許文献2ではレーザ光照射によりガラス内部に高屈折率領域を形成し、光導波路を作製する方法が開示されている。この光導波路は、光誘起屈折率変化を起こすエネルギー量を持つレーザ光をガラス材料の内部に集光し、ガラス材料の内部で集光点を相対移動させ、連続した屈折率変化領域をガラス材料の内部に形成する事により製造される。特許文献2に開示された技法においては、パルスレーザ照射による屈折率変化現象は光誘起屈折率変化であり、酸素欠陥の一部が構造変化することに起因するものと考えており、この屈折率変化領域は、当初のガラスの屈折率より高い事から光導波路として利用できるとされている。
【特許文献1】特開平9−12334号公報
【特許文献2】特開平9−311237号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2に開示された技法又は従来技術の組み合わせにおいては、他の領域とは異なるガラス組成の空間的な分布を発生することにより局所的な屈折率分布、又は屈折率勾配を付与する手法を用い、所望の光学特性を得られるガラス材料を提供することには至らなかった。
【0006】
本発明は、レーザ照射により発生する組成分布が光学特性の変化を発生させうる、特定の成分を含有するガラス部材、並びにこのガラス部材を用いる構造体及び光学部品を提供することを目的とする。また、本発明は、ガラス材料に局所的組成分布を発生するための方法及び光学部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、フェムト秒パルスレーザ照射により発生する組成分布が光学特性の変化を発生させうる特定の成分を含有するガラス材料を見出し、このガラス材料に対して所定の条件下においてフェムト秒パルスレーザを照射して当該ガラス内部の局所領域に所望の組成分布を発生させる事に成功し、この組成分布を利用した構造体による光学素子への応用を見出したことにより、本発明を完成するに至った。該組成分布は、ガラス構成成分の分布、元素の分布、特定の元素の結合状態の変化等、使用波長の光の屈折率に空間分布を生じうるものを含む。本発明によるガラス内部に所望の組成分布を有する局所領域により、さらに当該組成分布を2次元又3次元的な構造を伴って作成することにより、従来に無かった微小領域における光制御が可能になる。
本発明においては、次のような手段を提供する。なお、本願明細書に記載の用語「照射領域」は、実際にレーザ光が当たる部分とその影響を受ける周囲部を含み、照射の結果組成の変化が起きた領域を指すものである。用語「構造体」はガラス部材を所望の形状に成形したもの及び該成形プロセスの前後に一部の組成を選択的にエッチング処理したものを含む概念である。用語「屈折率」は可視光、赤外光等の、本発明に係る光学ガラス部材又は光学部品等の利用光線に対する屈折率を意味する。また、「ガラス組成の空間的な分布」とは、本発明におけるガラスを構成する成分の空間的な移動により生じる、局所的な組成の配置変化及び濃度勾配を含む概念である。
【0008】
(1) 元素分布を有しない均一ガラス材料にパルスレーザを集光照射することにより、ガラス内部のレーザ照射領域及びその周辺領域に、他の領域とは異なる、ガラス組成の空間的な分布が存在する異質領域を有するガラス部材。
【0009】
(2) 前記異質領域は、前記ガラス組成の空間的な分布により、他の領域とは異なる屈折率分布を有する(1)に記載のガラス部材。
【0010】
(3) 前記均一ガラス材料が、SiO成分を含有しないことを特徴とする(1)又は(2)のいずれかに記載のガラス部材。
【0011】
(4) 前記均一ガラス材料が、高屈折率化に寄与する成分を含有し、該高屈折率化に寄与する成分がレーザ照射領域の中心に分布することを特徴とする(3)に記載のガラス部材。
【0012】
(5) 前記高屈折率化に寄与するガラス構成元素がSiを除く13族又は14族元素からなる酸化物から選ばれる1種以上であることを特徴とする(4)に記載のガラス部材。
【0013】
(6) 前記ガラス材料はP成分を含み、Siを除く13族又は14族元素からなる酸化物を1種類以上含み、前記レーザ照射領域の中心において、前記13族又は14族元素の濃度が照射前よりも増加する空間的な分布を形成する、(3)から(5)のいずれかに記載のガラス部材。
【0014】
(7) 酸化物基準の質量%で、P:10〜90%、RnO+RO+R’O:5〜60%、及びRm+Rm:1〜50%(RnOはアルカリ金属酸化物から選ばれる1種以上、ROはアルカリ土類及びZnの酸化物から選ばれる1種以上、R’OはSiを除く14族元素、Ti、及びZrの酸化物から選ばれる1種以上、Rm、Rmは13族又は15族元素、遷移元素、及び希土類元素の酸化物から選ばれる1種以上である。)を含む、(3)から(6)のいずれかに記載のガラス部材。
【0015】
(8) 前記均一ガラス材料はSiO、B及びGeOから選ばれる1種以上の成分を含み、前記異質領域において空間的な分布を形成する成分は、網目形成酸化物を形成するカチオン及び/又は中間酸化物を形成するカチオン及び/又は網目修飾酸化物を形成するカチオンである、(1)又は(2)に記載のガラス部材。
【0016】
(9) 酸化物基準の質量%で、SiO:0〜90%、RnO+RO+R’O:5〜60%、及びRm+Rm:1〜50%(RnOはアルカリ金属酸化物から選ばれる1種以上、ROはアルカリ土類及びZnの酸化物から選ばれる1種以上、R’OはSiを除く14族元素、Ti、及びZrの酸化物から選ばれる1種以上、Rm、Rmは13族又は15族元素、遷移元素、及び希土類元素の酸化物から選ばれる1種以上である。)を含む、(8)に記載のガラス部材。
【0017】
(10) 前記均一ガラス材料がSi成分を含有し、Si成分は、前記レーザ照射領域の集光点の中心において前記他の領域よりも高い濃度で分布する、(8)又は(9)に記載のガラス部材。
【0018】
(11) 前記均一ガラス材料がSi及びAl成分を含有し、Al成分は、前記レーザ照射領域の集光点の中心において前記他の領域よりも濃度が低下して分布する、(8)又は(9)に記載のガラス部材。
【0019】
(12) 前記ガラス組成の空間的な分布において、前記異質領域と前記他の領域とにおける、少なくとも一種類以上のガラスを構成する元素の濃度差が5mol%以上あることを特徴とする、(1)から(11)のいずれかに記載のガラス部材。
【0020】
(13) 前記集光照射前の母ガラスとは異なる、組成の空間的な分布を有する領域が、二次元又は三次元的に、周期的及び/又はランダムに形成されている、(1)から(12)のいずれかに記載のガラス部材。
【0021】
(14) (1)から(13)のいずれかに記載のガラス部材を選択的にエッチング処理した構造体。
【0022】
(15) (1)から(14)のいずれかに記載のガラス部材及び/又は構造体を含んでなる、屈折率分布型部品、光学ローパスフィルタ、回折光学部品、光拡散部品、光フィルタ、レンズ、マイクロレンズアレイ、及び光導波路からなる群から選択される光学部品。
【0023】
(16) 元素分布を有しない均一ガラス材料にパルスレーザを集光照射し、前記均一ガラス材料の内部のレーザ照射領域に、他の領域とは異なる、ガラス組成の空間的な分布が存在する異質領域を有するガラス部材を製造する方法。
【0024】
(17) 前記ガラス組成の空間的な分布により、他の領域とは異なる屈折率分布を形成する(1)に記載のガラス部材を製造する方法。
【0025】
(18) 前記均一ガラス材料として、SiO成分を含有しないガラスを用いることを特徴とする、(16)又は(17)に記載のガラス部材を製造する方法。
【0026】
(19) 前記均一ガラス材料として、酸化物基準の質量%で、P:10〜90%、RnO+RO+R’O:5〜60%、及びRm+Rm:1〜50%(RnOはアルカリ金属酸化物から選ばれる1種以上、ROはアルカリ土類及びZnの酸化物から選ばれる1種以上、R’OはSiを除く14族元素、Ti、及びZrの酸化物から選ばれる1種以上、Rm、Rmは13族又は15族元素、遷移元素、及び希土類元素の酸化物から選ばれる1種以上である。)を含むガラスを用いる、(18)に記載のガラス部材の製造方法。
【0027】
(20) 前記均一ガラス材料として、酸化物基準の質量%で、SiO:0〜90%、RnO+RO+R’O:5〜60%、及びRm+Rm:1〜50%(RnOはアルカリ金属酸化物から選ばれる1種以上、ROはアルカリ土類及びZnの酸化物から選ばれる1種以上、R’OはSiを除く14族元素、Ti、及びZrの酸化物から選ばれる1種以上、Rm、Rmは13族又は15族元素、遷移元素、及び希土類元素の酸化物から選ばれる1種以上である。)を含むガラスを用いる、(16)又は(17)のいずれかに記載のガラス部材の製造方法。
【0028】
(21) 前記ガラス組成の空間的な分布において、前記異質領域と前記他の領域とにおける、少なくとも1種以上のガラスを構成する元素の濃度差を5mol%以上にする、(16)から(20)のいずれかに記載のガラス部材を製造する方法。
【0029】
(22) 前記パルスレーザの集光照射を、以下の条件(a)から(c)を満たすレーザを用いて行う、(16)から(21)のいずれかに記載の方法。(a)パルス幅:10フェムト(10×10−15)秒〜10ピコ(10×10−12)秒、(b)繰り返し周波数:50kHz以上、(c)レーザ平均出力:0.2W以上。
【0030】
(23) 前記パルスレーザの集光照射において、繰り返し周波数を連続的に変化させる、(22)に記載のガラス部材の製造方法。
【0031】
(24) 前記空間的な分布の変更を、二次元又は三次元的に、周期的及び/又はランダムに形成する、(16)から(23)のいずれかに記載のガラス部材の製造方法。
【0032】
本願明細書に開示するガラス材料の加工法は、加工波長で透明な材料であれば、多光子吸収過程により、材料を内部から加工可能であり、従来の加工方法では困難であった材料内部における複雑なパターン設計の場合でも照射光学系の変更等により可能である。また、レーザの照射条件を変更する事により、照射部位に所望の組成分布を与え、これによる様々な光学特性の付与、物理的・化学的特性を付与する事が可能である。
【0033】
なお、ガラス母材への局所的な集光照射は、通常は集光レンズ等を用いてパルスレーザ光を集光することにより、多光子吸収を引き起こすのに十分な光子密度を実現させるが、これに限定せず、集光照射して高い光子密度を実現する手段として、回折格子やCGH(計算機合成ホログラム)等の波面制御素子や反射型の集光光学素子を利用してもよい。さらに、ガラス母材への局所的な集光照射においては、走査機構によって焦点を移動してもよい。その際、10mm/秒以下の走査速度が好ましい。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、母材の他の領域とは異なるガラス組成の空間的な分布を発生することにより局所的に屈折率を分布させる手法を用い、所望の光学特性を得られるガラス材料を提供しうる。これにより、本発明は、レーザ照射により発生する組成分布が光学特性の変化を発生させうる、特定の成分を含有するガラス部材、並びにこのガラス部材を用いる構造体及び光学部品を提供しうる。これらは材料内部におけるきめ細かい屈折率の制御が要求される光学部品、例えば光ファイバ又はレンズの形態を含む屈折率分布型部品、光学ローパスフィルタ、回折光学部品、光拡散部品、光フィルタ、レンズ、マイクロレンズアレイ等の光学部品に好適である。また、本発明は、ガラス材料に局所的組成分布を発生するための方法及び光学部品の製造方法を提供しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、これはあくまでも例示であって、本発明の技術的範囲はこれに限られるものではない。なお、以下において特に明記しない場合、%は質量%を意味する。
【0036】
<光学部品用ガラス組成物>
パルスレーザ照射により内部に照射前とは異なる組成分布を生じる光学部品用ガラス部材(以下、単にガラスともいう)には、SiO系ガラス、B系、P系ガラス等のいわゆる多成分系ガラスが挙げられる。本発明に係る実施形態として、SiO以外の網目形成酸化物からなるガラス及びSiO、B及びGeOから選ばれる1種以上の成分が網目形成酸化物として機能するガラスを例示し、これらの組成について説明する。
【0037】
<実施形態1:SiO以外の網目形成酸化物からなる材料を用いる実施形態>
本発明の一実施形態は、光学部品用ガラス組成物としてSiO以外の網目形成酸化物からなる材料を用いることに関する。本発明者らは、P系ガラス等の、SiO成分を含有しないガラスにレーザを集光照射することで、ガラスの高屈折率化に寄与する成分を照射領域の中心部に分布させることが可能であることを見出した。高屈折率に寄与する成分としては、Siを除く13族又は14族元素からなる酸化物から選ばれる成分(例えばAl、Ga、Ge等)を挙げられる。また、TiO、Nbも高屈折率化に寄与することが期待される成分である。
【0038】
前記ガラスは好ましくはP系ガラスである。本発明者らは、鋭意研究の結果、SiOを含有しないガラス、特にP系ガラスにおいて、レーザ照射領域の中心に高屈折率領域を形成することが容易であることを見出した。該レーザ照射領域は、例えば光軸に垂直な面内の断面形状として直径約10〜50μm、典型的には直径約30μmの略円形の領域であるが、照射条件等により適宜設定しうる。該中心はこの略円形の領域の中心を含み、略円形の領域内の任意の部分でありうる。好ましくは、該中心はこの略円形の領域と中心が一致して直径がより小さい略円形の部分でありうる。このとき、前記ガラスの組成は、酸化物基準の質量%で、P:10〜90%、RnO+RO+R’O:5〜60%、及びRm+Rm:1〜50%を含み、RnOはアルカリ金属酸化物から選ばれる1種以上、ROはアルカリ土類及びZnの酸化物から選ばれる1種以上、R’OはSiを除く14族元素、Ti、及びZrの酸化物から選ばれる1種以上、Rm、Rmは13族又は15族元素、遷移元素、及び希土類元素の酸化物から選ばれる1種以上である。
【0039】
前記成分のうち特にPはガラス組成物の網目形成酸化物として作用するガラス形成酸化物である。Pの含有率は共存させる成分及びその量によって最適な量が異なるが、少なすぎるとガラスの安定性が悪くなるので、含有率を10%以上とすることが好ましく、15%以上がより好ましく、20%以上が最も好ましい。また含有量が多すぎてもガラス化し難い、ガラスが不安定になる等の問題があり、その上限を90%とすることが好ましく、80%とすることがより好ましく、70%とするのが最も好ましい。
【0040】
前記成分のうち、RnOとしてはLiO、NaO、KOが挙げられる。これらのアルカリ金属酸化物は溶融温度を低下させ、ガラスを安定化する作用を有する。これらのアルカリ金属酸化物の含有率が少なすぎると溶融温度が上昇し、含有率が多すぎると化学的耐久性が低下し、いずれにおいてもガラスの安定性が低下する。
LiOの含有率は0〜15%が好ましく、0〜12%がより好ましく、0〜10%が最も好ましい。NaOの含有率は0〜30%が好ましく、0〜25%がより好ましく、0〜20%が最も好ましい。KOの含有率は0〜30%が好ましく、0〜25%がより好ましく、0〜20%が最も好ましい。
RnO成分は必須ではないが、1%以上含有することが好ましく、3%以上がより好ましい。また含有率の上限は、30%とすることが好ましく、25%とすることがより好ましく、20%とすることが最も好ましい。
【0041】
前記成分のうち、ROとしては、MgO、SrO、CaO、BaO、ZnOが挙げられる。これらのアルカリ土類金属酸化物もまた、溶融温度を低下させ、ガラスを安定化する作用を有する。これらのアルカリ土類金属酸化物の含有率は少なすぎても多すぎてもいずれもガラスの安定性が低下し、少なすぎる場合は溶融温度が上昇する。
MgOの含有率は0〜10%が好ましく、0〜7%がより好ましく、0〜5%が最も好ましい。SrOの含有率は0〜10%が好ましく、0〜7%がより好ましく、0〜5%が最も好ましい。CaOの含有率は0〜30%が好ましく、0〜25%がより好ましく、0〜20%が最も好ましい。BaOの含有率は0〜30%が好ましく、0〜25%がより好ましく、0〜20%が最も好ましい。ZnOの含有率は0〜40%が好ましく、0〜30%がより好ましく、0〜20%が最も好ましい。
RO成分は必須ではないが、1%以上含有することが好ましく、3%以上がより好ましい。また含有率の上限は、40%とすることが好ましく、30%とすることがより好ましく、20%とすることが最も好ましい。
【0042】
前記成分のうち、R’Oの例としては、Siを除く14族元素の酸化物であるGeO、SnO等、TiO、又はZrOが挙げられる。これらの成分は母ガラスの化学的耐久性を向上する作用があり、TiOはさらに高屈折率化に寄与しうる。いずれも含有率が少なすぎると化学的耐久性が低下し、多すぎると失透性が大きく溶融温度が上昇する。
Siを除く14族元素の含有率は0〜30%が好ましく、0〜25%がより好ましく、0〜20%が最も好ましい。ZrOの含有率は0〜10%が好ましく、0〜5%がより好ましく、0〜3%が最も好ましい。TiOの含有率は0〜40%が好ましく、0〜30%がより好ましく、0〜20%が最も好ましい。
R’O成分は必須ではないが、1%以上含有することが好ましく、3%以上がより好ましい。含有率の上限は、40%とすることが好ましく、30%とすることがより好ましく、20%とすることが最も好ましい。
【0043】
RnO+RO+R’Oとしての含有率は5%以上が好ましく、7%以上がより好ましく、10%以上が最も好ましい。含有率の上限は60%とすることが好ましく、55%とすることがより好ましく、50%とすることが最も好ましい。これらが少なすぎるとガラス溶融性の悪化を招き、多すぎるとガラス安定性が低下する。
【0044】
前記成分のうち、Rm及びRmとしては、B、Al、Ga、In、Bi及び他の希土類酸化物が挙げられる。Bはガラス形成酸化物であり、ガラスの安定形成に寄与する。Bの含有量が少なすぎるとガラス溶融性の悪化を生じ、多すぎると化学的耐久性の悪化、分相が生じる。Alはガラス形成酸化物であり、ガラス組成物の化学的耐久性を向上し、高屈折率化に寄与する性質を有する。Alの含有率は少なすぎるとガラスの安定性が低下し、多すぎると失透性が大きく溶融温度が上昇する。Ga、In、Bi及び他の希土類酸化物は、高屈折率化に寄与しうる。これらは少なすぎるとガラスの屈折率が低下し、多すぎると失透性が大きく溶融温度が上昇する。
の含有率は0〜30%が好ましく、0〜25%がより好ましく、0〜20%が最も好ましい。Alの含有率は0〜30%が好ましく、0〜20%がより好ましく、0〜10%が最も好ましい。Gaの含有率は0〜30%が好ましく、0〜20%がより好ましく、0〜10%が最も好ましい。Inの含有率は0〜30%が好ましく、0〜25%がより好ましく、0〜15%が最も好ましい。Biの含有率は0〜40%が好ましく、0〜20%がより好ましく、0〜10%が最も好ましい。希土類酸化物の含有量は0〜30%が好ましく、0〜20%がより好ましく、0〜10%が最も好ましい。
Rm及びRmとしての含有率は1%以上が好ましく、3%以上がより好ましく、5%以上が最も好ましい。含有率の上限は50%とすることが好ましく、45%とすることがより好ましく、40%とすることが最も好ましい。これら成分はガラス形成酸化物・中間酸化物としての面もあり、導入する事によるガラスの安定化及び高屈折率化に寄与する。少なすぎるとガラス安定性の欠如、屈折率の低下が生じ、多すぎると失透性が悪化する。
【0045】
<実施形態2:SiO、B及びGeOから選ばれる1種以上の成分が網目形成酸化物として機能する材料を用いる実施形態>
本発明の別の実施形態は、光学部品用ガラス組成物としてSiO、B及びGeOから選ばれる1種以上の成分を含む材料を用いることに関する。本発明者らはSiO、B及びGeOから選ばれる1種以上の成分が網目形成酸化物として機能するガラスにおいては、レーザ照射により網目形成酸化物を形成するカチオン、中間酸化物を形成するカチオン、網目修飾酸化物を形成するカチオンの三つのグループに分かれて組成分布が生じる傾向があることを見出した。ここで中間酸化物とはTiO、Alを含み、網目修飾酸化物とはZrO、CaO、MgO、SrO、BaO、ZnO、LiO、KO、NaOを含む。
【0046】
SiO、B及びGeOから選ばれる1種以上を含有する一実施形態において、これらの成分が網目形成酸化物として機能するガラスにおいて該成分は、レーザ照射領域の中心側に分布する傾向を有し、成分に応じた所望の屈折率特性を照射領域の中心に分布させることが可能である。そして前記照射領域の中心の外側に前記中間酸化物又は前記網目修飾酸化物が分布し、ガラスが中間酸化物及び網目酸化物両方を含有する場合は、中心から中間酸化物、網目修飾酸化物の順に組成が分布する。これらの傾向を利用して、レーザ照射領域に成分の分布に応じた屈折率勾配を与えることが可能になる。
【0047】
前記成分のうち特にSiOはレーザ照射領域の中心部に分布する傾向が最も顕著であり、Siは低屈折率化に寄与する成分であるため、照射領域の屈折率を周囲に比べて低くする場合には、SiOを含有させることが好ましい。さらにAlを共存させると、高屈折率化に寄与するAl成分がレーザ照射領域の集光点の中心において照射前よりも濃度が低下し、Si濃度が高い領域の周辺に分布するので、隣り合う又は囲う領域との屈折率差が大きい低屈折率領域を得ることができる。一方、SiOを含有させない場合は、B及びGeOから選ばれる1種以上の成分がレーザ照射の中心に分布するので、共存させる中間酸化物又は網目修飾酸化物の種類によって、中心部の屈折率を周囲に比べて高くすることも、低くすることも可能になる。
【0048】
このとき、前記ガラスの組成は酸化物基準の質量%で、SiO:0〜90%、RnO+RO+R’O:5〜60%、及びRm+Rm:1〜50%を含み、RnOはアルカリ金属酸化物から選ばれる1種以上、ROはアルカリ土類及びZnの酸化物から選ばれる1種以上、R’Oは14族元素、Ti、及びZrの酸化物から選ばれる1種以上、Rm、Rmは13族又は15族元素、遷移元素、及び希土類元素の酸化物から選ばれる1種以上である。
【0049】
SiO、B及びGeOから選ばれる1種以上の成分は、ガラス形成酸化物であり、本発明においてレーザ照射領域の中心部に分布する特徴を有し、屈折率分布を制御可能にする有用な成分である。その含有量が少なすぎるとガラス化しないので、その合量で20%以上含有することが好ましく、より好ましくは40%以上、最も好ましくは60%以上含有させる。一方、その量が多すぎると、溶融性が悪化する、分相が生じる、ガラスの安定性が悪くなる等の問題が生じるので、好ましくは90%以下、より好ましくは85%以下、最も好ましくは80%以下含有させる。
【0050】
この3成分のうち、SiOは、最も中心部に分布する傾向が顕著であり、ガラスの低屈折率化に寄与する成分であるので、レーザ照射領域を低屈折化する場合には20%以上含有することが好ましく、40%以上含有することがより好ましく、50%以上含有することが最も好ましい。一方その含有量が多すぎると溶融性が悪化するので、含有量の上限を90%以下とすることが好ましく、85%とすることがより好ましく、80%とすることが最も好ましい。
【0051】
ただし、レーザ照射領域の中心部を低屈折率化しない場合は、SiO成分を含有させないことが好ましい。
【0052】
前記成分のうち、RnOとしては、LiO、NaO、KOが挙げられる。これらのアルカリ金属酸化物は溶融温度を低下させ、ガラスを安定化する作用を有する。これらのアルカリ金属酸化物の含有率が少なすぎると溶融温度が上昇し、含有率が多すぎると化学的耐久性が低下し、いずれにおいてもガラスの安定性が低下する。
LiOの含有率は0〜15%が好ましく、0〜12%がより好ましく、0〜10%が最も好ましい。NaOの含有率は0〜30%が好ましく、0〜25%がより好ましく、0〜20%が最も好ましい。KOの含有率は0〜30%が好ましく、0〜25%がより好ましく、0〜20%が最も好ましい。
RnO成分は必須ではないが、1%以上含有することが好ましく、3%以上がより好ましい。また含有率の上限は、30%とすることが好ましく、25%とすることがより好ましく、20%とすることが最も好ましい。
【0053】
前記成分のうち、ROとしては、MgO、SrO、CaO、BaO、ZnOが挙げられる。これらのアルカリ土類金属酸化物もまた、溶融温度を低下させ、ガラスを安定化する作用を有する。これらのアルカリ土類金属酸化物の含有率は少なすぎても多すぎてもいずれもガラスの安定性が低下し、少なすぎる場合は溶融温度が上昇する。
MgOの含有率は0〜10%が好ましく、0〜7%がより好ましく、0〜5%が最も好ましい。SrOの含有率は0〜10%が好ましく、0〜7%がより好ましく、0〜5%が最も好ましい。CaOの含有率は0〜30%が好ましく、0〜25%がより好ましく、0〜20%が最も好ましい。BaOの含有率は0〜30%が好ましく、0〜25%がより好ましく、0〜20%が最も好ましい。ZnOの含有率は0〜20%が好ましく、0〜10%がより好ましく、0〜5%が最も好ましい。
RO成分は必須ではないが、1%以上含有することが好ましく、3%以上がより好ましい。また含有率の上限は、30%とすることが好ましく、25%とすることがより好ましく、20%とすることが最も好ましい。
【0054】
前記成分のうち、R’Oとしては、前述の実施形態1と同様に、Siを除く14族元素の酸化物であるGeO、SnO等、TiO、又はZrOが挙げられる。これらの成分は母ガラスの化学的耐久性を向上する作用があり、TiOはさらに高屈折率化に寄与しうる。いずれも含有率が少なすぎると化学的耐久性が低下し、多すぎると失透性が大きく溶融温度が上昇する。
Siを除く14族元素の含有率は0〜30%が好ましく、0〜25%がより好ましく、0〜20%が最も好ましい。ZrOの含有率は0〜10%が好ましく、0〜5%がより好ましく、0〜3%が最も好ましい。TiOの含有率は0〜40%が好ましく、0〜30%がより好ましく、0〜20%が最も好ましい。
R’O成分は必須ではないが、1%以上含有することが好ましく、3%以上がより好ましい。含有率の上限は、40%とすることが好ましく、30%とすることがより好ましく、20%とすることが最も好ましい。
【0055】
RnO+RO+R’Oとしての含有率は5%以上が好ましく、7%以上がより好ましく、10%以上が最も好ましい。含有率の上限は60%とすることが好ましく、55%とすることがより好ましく、50%とすることが最も好ましい。これらが少なすぎるとガラス溶融性の悪化を招き、多すぎるとガラス安定性が低下する。
【0056】
前記成分のうち、Rm及びRmとしては、前述の実施形態1と同様に、B、Al、Ga、In、Bi及び他の希土類酸化物が挙げられる。Bはガラス形成酸化物であり、ガラスの安定形成に寄与する。Bの含有量が少なすぎるとガラス溶融性の悪化を生じ、多すぎると化学的耐久性の悪化、分相が生じる。Alはガラス形成酸化物であり、ガラス組成物の化学的耐久性を向上し、高屈折率化に寄与する性質を有する。Alの含有率は少なすぎるとガラスの安定性が低下し、多すぎると失透性が大きく溶融温度が上昇する。Ga、In、Bi及び他の希土類酸化物は、高屈折率化に寄与しうる。これらは少なすぎるとガラスの屈折率が低下し、多すぎると失透性が大きく溶融温度が上昇する。
の含有率は0〜30%が好ましく、0〜25%がより好ましく、0〜20%が最も好ましい。Alの含有率は0〜30%が好ましく、0〜20%がより好ましく、0〜15%が最も好ましい。Gaの含有率は0〜30%が好ましく、0〜20%がより好ましく、0〜10%が最も好ましい。Inの含有率は0〜30%が好ましく、0〜20%がより好ましく、0〜10%が最も好ましい。Biの含有率は0〜40%が好ましく、0〜20%がより好ましく、0〜10%が最も好ましい。希土類酸化物の含有量は0〜30%が好ましく、0〜20%がより好ましく、0〜10%が最も好ましい。
Rm及びRmとしての含有率は1%以上が好ましく、3%以上がより好ましく、5%以上が最も好ましい。含有率の上限は50%とすることが好ましく、45%とすることがより好ましく、40%とすることが最も好ましい。これら成分はガラス形成酸化物・中間酸化物として面もあり、導入する事によるガラスの安定化及び高屈折率化に寄与する。少なすぎるとガラス安定性の欠如・屈折率の低下が生じ、多すぎると失透性が悪化する。
【0057】
前記ガラスがSiO成分を含有しない場合、B及びGeO両成分のうち1種、又は2種の含有量は20〜90%であることが好ましく、25〜50%であることがより好ましく、30〜40%であることが最も好ましい。両者はガラス形成酸化物であり、少なすぎると、ガラス構造として不安定となり失透し易く、多すぎた場合は耐久性・ガラス安定性が悪化する。このうち、Bの含有量は5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、20%以上であることが最も好ましい。Bはガラス骨格を成すため、5%以下ではガラスが不安定となり、ガラスの溶融性も悪化する。GeOは必須ではないが、1%以上含有すると高屈折率化において効果がある。しかしGeOの原料は大変高価なので、その上限を30%とすることが好ましく、含有しなくてもよい。
【0058】
<その他の組成物>
Nbは、ガラス自身の屈折率を高めうる。Nbの上限は50%が好ましく、40%がより好ましく、30%が最も好ましい。
【0059】
Sbは必須成分ではないが、ガラス製造時の脱泡剤として用いうる。Sbの上限は0.4%が好ましい。フッ素は必須成分ではないが、ガラス自身の屈折率や分散を下げる効果やレーザ照射による屈折率差を小さくする効果がある。従って、ガラス自身の屈折率や分散を調整する目的で5%以下を含有させることが好ましい。
【0060】
他に、TeO成分を含有させてもよい。この上限は15%が好ましい。
【0061】
<含有させるべきでない成分について>
なお、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でも材料自体が着色してしまい、可視域の特定の波長に吸収を生じさせるため、可視の波長域において本発明の光学部品を使用する場合には、実質的に含まないことが好ましい。
【0062】
さらに、Be、Pb、Th、Cd、Tl、As、Os、S、Se、Br、Cl、I等の各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされるため、環境上の影響を重視する場合には実質的に含まないことが好ましい。
【0063】
<本発明により得られる異質領域の屈折率差について>
一般的に、酸化物ガラスの屈折率は、次の式(I)に示すLorentz−Lorenzの式に従うため、本発明に係るパルスレーザ照射を用いて局所的に組成分布を生じたガラス材料等、照射領域に生じた母材と屈折率が異なる局所的な異質領域を利用する光学部品を製造する際、該異質領域の屈折率は組成の分布に依存し、次式から算出することができる。そして多成分の組み合わせによる特定元素を含む成分の移動傾向を考慮し、所望の空間的濃度分布を生じさせることで、材料内部の屈折率制御が可能になる。
【数1】

式中、nは屈折率、Rは分子屈折、Vは分子容(すなわちM/ρであり、Mは分子量、ρは密度)、Nはアボガドロ数、ηは分極率である。
【0064】
一方、前記光学部品を製造する際、必要となるガラス内部に存在する該異質領域の厚みは、母材と異質領域との屈折率差Δnによって決定される。通常回折光学素子等の光学設計においては、部品を通過する光の位相波面が0から2πで計算され、その際、位相Φの変化量は下記の式1で与えられる。Φは位相(ラジアン)、Δnは母材と異質領域の屈折率差、dは異質領域の厚み、λは波長である。
【数2】

【0065】
上記の式(II)において、Φ=2πとなるのに必要な厚みは、設計波長をλ=0.632μmとしたとき、表1のようになる。すなわち屈折率差Δnが大きいほど同じ効果(例えば位相の変化)を得るために必要となるガラス内部の異質領域の厚みが小さくなる。
【表1】

【0066】
必要な異質領域の厚みが小さくなることは、母材と屈折率が異なる異質領域を利用する光学部品において、部品のコンパクト化に効果的である。また、形成すべき異質領域の全体量が少なくなるので、必要なエネルギーも少なくて済む。また、例えばガラス内部に異質領域が形成された既製品を作っておき、必要に応じて利用する場合、異質領域の厚みが薄ければ薄いほど、ガラスに対して自由に加工できる部分が多くなり、加工性・製造性の面で好ましい。
【0067】
従って、本発明におけるガラス部材をコンパクト化が要求される光学部品の材料として用いる場合は、イオン交換によって生じる組成分布の傾向に従って、大きい屈折率差を実現する組成の組み合わせを選ぶことが好ましく、その差を0.005以上とすることが好ましい。本発明のガラス部材は、例えばSiを含有しないP系ガラスにおいて、レーザ照射により中心部に移動し、かつ高屈折率化に寄与するAl、Ge、Ga成分を添加することで屈折率差を大きくすることが可能である。
【0068】
<パルスレーザ光の発生手段及び伝送手段>
本発明においては、パルス幅がピコ秒(10−12s)以下のパルスレーザが使用可能である。好適には、パルスレーザ光には、波長約780nm、[パルス幅200fs(2×10−13s)]、繰り返し周波数250kHz、パルスエネルギー:2.8〜3.6μJ程度のフェムト秒パルスレーザを用いうる。これを倍率20倍(開口率0.45)の対物レンズ等を介して、表面を研磨したガラス材料の内部に、スキャン深さ:300〜600μm、スキャン速度:5μm/秒程度の条件で集光照射することにより、ガラス材料の内部の局所を瞬間的に集光照射し、照射前と組成分布が異なることにより屈折率差の異なる異質領域を生成できる。
【0069】
本発明におけるレーザーの照射条件において重要なのはパルスレーザの繰り返し周波数とパルス幅である。本発明の組成分布は、ガラス組成の空間的移動の結果であり、移動を誘発するためにはガラス内部を局所的に融液状態にする必要がある。
【0070】
そのためには熱蓄積を利用する必要があり、1パルス照射による熱緩和にはマイクロ秒オーダーの時間が必要であることから、必要な繰り返し周波数は、50kHz以上が好ましく、100kHz以上がより好ましく、200kHz以上が最も好ましい。また、50kHz以上であれば、各集光される部位に対して、1パルス以上のレーザパルスが照射されるため、照射領域におけるレーザビームの強度及びポインティングのゆらぎが平均化され、その影響が低減されうる。また、より平滑な界面をもつ異質領域を形成し易く、走査速度を上げても平滑な面を保ち易いので好ましい。繰り返し周波数の上限は、少なくとも10ナノジュール、好ましくは1マイクロジュール以上のイオン移動が起こせるパルスエネルギーを確保できれば特に限定されるものではないが、100MHz以下であると、加工時の熱の蓄積による熱歪みやクラックの発生も抑制でき、また、ステージの速度を制御し易く、より精度の高い加工が可能となるので好ましい。
【0071】
しかし、適した繰り返し周波数やパルスエネルギーはガラスの熱拡散係数に依存することから必ずしも上記に限定されるものではない。
【0072】
一方、パルス幅はレーザ照射により圧力波(衝撃波)が発生できる程度に短い必要があり、1ps以下が好ましく、500fs以下がより好ましく、200fs以下が最も好ましい。しかしパルス幅が短すぎると、レンズや各種光学部品の分散材料を透過あるいは反射する過程で、パルス幅が容易に広がるため取り扱いが難しくなるという問題が生じるので、10fs以上が好ましく、50fs以上がより好ましく、100fs以上が最も好ましい。
【0073】
照射するレーザの波長は、本発明のガラスに吸収がなく透明な波長領域であることが好ましい。照射するガラスの透過率や特定波長の吸収の有無にも依るが、好ましくは、約200nm〜2100nm、より好ましくは、400〜1100nm、最も好ましくは、500〜900nmである。この範囲であれば、集光位置付近の光強度の高い部位のみで多光子吸収を起こし精密な加工ができるので好ましい。
【0074】
ステージは、位置再現性が100nm以下である電動やエアベアリングステージを用いるのが好ましく、走査速度は、10μm/秒〜10mm/秒が好ましい。この範囲であれば、重ね描き加工等も安定に行うことができる。
【0075】
集光レンズの開口数N.A.は次式で表される。
【数3】

式中、fはレンズの焦点距離、Φはレンズの有効開口径である。
開口数の下限は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、最も好ましくは0.1以上である。開口数の下限は、0.01以上であると、ガラス内部に組成分布による屈折率変化を起こし易くなり、厚みが薄いガラスの内部加工において、パワーを増加させてもガラスのレーザ入射面や出射面の破壊を伴わずに加工できるので好ましい。また、開口数の上限は、好ましくは0.85以下、より好ましくは0.6以下、最も好ましくは0.5以下である。開口数の上限は、0.85以下であると、比較的低い開口数の加工となり、パワー密度の増加に対してガラス内部に空洞を伴わずに屈折率変化を起こし易く、ガラス内部の比較的大体積に大きな屈折率差の異質領域を形成し易い。
【0076】
集光倍率は、下限は、好ましくは1倍(等倍)以上、より好ましくは5倍以上、最も好ましくは10倍以上である。集光倍率の下限は、1以上であれば、大きな屈折率変化が得られ易く、かつ異質領域の光軸方向の形状の制御がし易くなるので好ましい。一方、集光倍率の上限は、好ましくは、60倍以下、40倍以下、20倍以下である。集光倍率の上限は、60倍以下であれば、比較的低いパワーでも大きな屈折率変化を引き起こし易く、試料と対物レンズ間の距離を大きくとることができ、加工できる表面形状の選択範囲が広くなるので好ましい。
【0077】
本発明に係る光学ガラス部材の加工方法においては、パルスレーザビームの照射により材料内部に異質領域を形成するため、使用するパルスレーザビームのパワー密度が重要になる。レーザビームのパワー密度は通常、単位面積当り、単位時間にどれだけのエネルギーが投入されたかを示す量であり、連続発振レーザビームを一点に集光する場合は下記式で表される。
【数4】

【0078】
これに対して、パルスレーザビームを1点に集光する場合は下記式で表される。
【数5】

【0079】
集光するパルスレーザのピークパワー密度は、焦点位置あるいは、集光位置、あるいは結像位置の最もエネルギーが高い個所において、下限は、好ましくは、0.5GW/cm以上、より好ましくは、20GW/cm以上、最も好ましくは、50GW/cm以上である。(G:ギガ=10、T:テラ=1012)ピークパワーの下限が0.5GW/cm以上であれば、ガラス内部に屈折率変化を起こすことが可能であるので好ましい。一方で、上限は、好ましくは、5TW/cm以下、より好ましくは、3TW/cm以下、最も好ましくは、1.2TW/cm以下である。ピークパワーの下限が、5TW/cm以下であると、ガラス内部の2次元又は3次元的に連続した領域をレーザ照射する場合の屈折率変化領域の形状が制御し易く、2次元又は3次元的に連続した屈折率変化領域の屈折率分布も比較的均一にできるので好ましい。
【0080】
一方で、照射されるガラスにおいて、照射するレーザ波長において吸収がないことが好ましく、照射するレーザの波長において、10cmの厚みで測定される内部透過率は95%以上であることが好ましい。
【0081】
照射条件は適宜設定可能であるが、好ましくは、以下の条件(a)から(c)を満たす条件である。上述のガラス組成とこの照射条件を組み合わせることで、本発明においては、低い照射強度で屈折率差を有する異質領域が得られる。
(a)パルス幅:10フェムト(10×10−15)秒〜10ピコ(10×10−12)秒
(b)繰り返し周波数:50kHz以上
(c)レーザ平均出力:0.2W以上
【0082】
本発明においては、照射領域には組成分布に従った屈折率変化を生じる異質領域を含む。しかしながら、ガラス材料の内部に空洞を発生することは含まない。好適には、本発明に係る異質領域の生成においては、金属コロイド析出及びこれによる光学部品用ガラスの着色、結晶析出及びこれによる異方性の発生は含まない。
【0083】
本発明の製造方法においては、パルスレーザ光を複数に分割する工程を有していてもよく、またそれらの複数のパルスレーザ光をそれぞれ複数位置に集光照射することにより、一括して複数の屈折率が異なる領域を材料内部に形成することも可能であり、それにより加工スループットを向上させることができる。前記ビームを複数に分割する工程はビームスプリッター、回折格子、マイクロレンズアレイ、ホログラム、位相変調素子等の光学部品を用いて行いうるが、これらに限定しない。
【0084】
また、一本又は分割された複数本のパルスレーザ光のそれぞれのパルスの位相、振幅、波長、偏光、パルス時間幅のいずれか又は1つ以上を変化させる工程を有していてもよく、それらの変化したパルスレーザ光を適宜組み合わせることにより、照射する材料の屈折率、屈折率分散、形状に依存しない自由度の高い加工が可能である。
また、前記光学部品用ガラス内部の所望の位置に一括で形成された屈折率変化領域をさらに、広範囲に形成するために、集光させたパルスレーザ光の集光点を、前記材料に対して相対移動させることも可能である。
【0085】
<異質領域の形成方法>
図1は、本発明の一実施形態に係る、ガラス内部に異質領域を生成する方法を例示する図である。母材40を水平面内に移動可能なステージ50に固定し、ステージ50を移動しながらパルスレーザ12を発振し、レーザ光を母材40の上方から照射する。レーザ照射する場所は、撮像手段22及び画像モニタ24を用いて適宜設定しうる。パルスレーザ12からのレーザ光は、ミラー(15−a、15−b、15−c、15−d、15−e)、ビームエクスパンダ(16−a、16−b)、絞り17、シャッター18、NDフィルタ19等を含む照射光学系を介し、集光レンズ14により集光され、母材40の内部の焦点近傍の局所領域を瞬間的に加熱する。これにより母材40の内部に、異質領域25が生成される。すなわち、異質領域25は他の領域と異なる母材と異なるガラス組成の空間的な分布が発生した領域であり、屈折率変化を生じうる。ステージ50の走査方向を適宜設定することにより、母材40の内部に生成する異質領域25の形状を略直線状等に制御することも可能である。
【0086】
なお、通常は、本発明に係る異質領域25の生成方法を用いて加工したガラスを光学部品等として使用する場合の透過光は、パルスレーザ12からのレーザ光と平行となるようにする。
【0087】
表2に、以下の実施形態に用いた、本発明に係る異質領域25の生成方法を用いて加工したガラスの組成を示す。数字はいずれも各元素を含む酸化物の質量%を表す。
【表2】

【0088】
<異質領域の成分観察−1>
図2は、本発明の一実施形態に係る、SiO系ガラス材料の内部に生成した異質領域25の組成分布を例示する図である。SiO系ガラス材料としては、表2に示した「試料1」を用いた。パルスレーザ照射後の母材40をレーザ集光点近傍が表面となるようにクロスセクションポリッシャ(CP)を用いて研磨し、観察領域におけるガラス構成元素の面マッピングを観察した。反射電子像及び成分観察には、日本電子製JSM−8000型電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いた。
【0089】
図2において、Si−Al−Mg−Oガラスの組成分布(200)は、パルスレーザ集光照射した照射領域を含む視野の範囲内に、Si分布(210)及びAl分布(220)を含む。これらの各元素の分布画像は、1辺50μmの正方形視野内に、略円状の濃淡の変化した領域を含み、それぞれの略円状の濃淡の変化した領域は、外側にそれぞれ濃淡が略一定の背景を含む。Si分布(210)及びAl分布(220)のいずれにおいても、各元素の濃度の高い領域はより明るく表示され、濃度の低い領域はより暗く表示される。
【0090】
Si分布(210)においては、略円状の照射領域の内側はその外側の正方形視野の背景よりも明るく表示され、略円周状の暗い領域がこれらの境界近傍に観察された。すなわち、パルスレーザ照射後は、照射領域の内側ではSi元素の濃度は非照射領域よりも高く、照射領域と非照射領域の境界近傍ではSi元素の濃度は非照射領域よりも低い。従って、Si分布(210)は、非照射領域と比較して照射領域の内側にSi成分がより高い濃度で分布し、照射領域と非照射領域との境界付近においてはSi成分がより低い濃度で分布することを表している。非照射領域は母ガラスと同等の組成分布を有すると見なせるので、Si成分は照射前と比較してレーザ照射領域の中心付近において濃度が上昇したと言える。
【0091】
一方、Al分布(220)においては、略円状の照射領域の内側はその外側の正方形視野の背景よりも暗く表示され、略円周状の明るい領域がこれらの境界近傍に観察された。すなわち、パルスレーザ照射後は、照射領域の内側ではAl元素の濃度は非照射領域よりも低く、照射領域と非照射領域の境界近傍ではAl元素の濃度は非照射領域よりも高い。これは、Al成分が、レーザ照射領域の集光点を中心にSi成分より外側に分布することを表している。非照射領域は母材と同等の組成分布を有すると見なせるので、Al成分は照射前と比較してレーザ照射領域の中心付近の濃度が低下したと言える。このようなAl成分の分布の変化には、母ガラスに含まれるMg等のAl以外の他の成分も関与しうると考えられる。
【0092】
また、網目構造物、中間構造物、修飾カチオン等の種類及び共存する成分に依存して、Si又はAl等の特定の成分の分布は変化する場合がある。本発明においては、これらの共存する成分の組み合わせや割合を制御することにより、パルスレーザ照射後の局所的な屈折率変化に寄与する元素の組成分布が異なる種々の光学ガラス部材を提供し、そのような光学ガラス部材を加工して得られる光学部品を提供することができる。
【0093】
他の構成成分を含むSiO系ガラス材料についても、網目構造物であるSiOはパルスレーザ照射後に照射領域の中心に集まるよう分布することが観察された。SiO系ガラス材料におけるこのようなSi元素の組成分布の挙動は、一般的に照射領域中心近傍の屈折率を、非照射領域よりも低下する作用があり、本発明に係る光学ガラス部品及びその製造方法を用いて、照射領域の中心付近の屈折率をより低くした異質領域を有する光学部品を製造しうる。
【0094】
<異質領域の成分観察−2>
図3は、本発明の一実施形態に係る、P系ガラス材料の内部に生成した異質領域25の組成分布を例示する図である。試料には、表2に示した「試料2」、すなわちP−Al−CaO−Tbガラスを用い、前述の図2を用いて示した成分観察と同様に、CPを用いて研磨した観察領域におけるガラス構成元素の面マッピングをEPMA装置で観察した。P−Al−CaO−Tbガラスの組成分布(230)の観測条件及び表示の様式等は、図2と同様である。
【0095】
Al分布(232)においては、略円状の照射領域の内側はその外側の正方形視野の背景よりも明るく表示され、略円周状の暗い領域がこれらの境界近傍に観察された。すなわち、P−Al−CaO−Tbガラス系においては、パルスレーザ照射後は、照射領域の内側ではAl元素の濃度は非照射領域よりも高く、照射領域と非照射領域の境界近傍ではAl元素の濃度は非照射領域よりも低い。これは、図2に示したSiO系ガラスにおけるAl分布(220)とは逆の傾向であり、Al成分がレーザ照射領域の集光点の中心近傍に照射前よりも高い濃度で分布することを表す。すなわち、本発明に係る光学ガラス材料においては、同一の元素であっても母材の構成成分に依存してパルスレーザ照射後の組成分布が変化しうる。従って、本発明においては、パルスレーザ照射後の屈折率分布等の所望の光学特性を得るために特定の構成成分を有する母材を提供しうる。
【0096】
Ca分布(234)においては、円状の照射領域の内側はその外側の正方形視野の背景よりも暗く表示され、略円周状の明るい領域がこれらの境界近傍に観察された。すなわち、パルスレーザ照射後は、照射領域の内側ではCa元素の濃度は非照射領域よりも低く、照射領域と非照射領域の境界近傍ではCa元素の濃度は非照射領域よりも高い。
【0097】
他の構成成分を含むP系ガラス材料についても、網目構造物、中間構造物、修飾カチオン等の種類及び共存する成分に依存して、特定の成分の分布が変化することが観察された。特に、P系ガラス材料におけるAl元素の組成分布の挙動は、一般的に照射領域中心近傍の屈折率を、非照射領域よりも高める作用があり、本発明に係る光学ガラス部品及びその製造方法を用いて、照射領域の中心付近の屈折率をより高めた異質領域を有する光学部品を製造しうる。
【0098】
上述のP系ガラス材料とは対照的に、表2に示した「試料3」、すなわちSiO−B−Al−CaOガラスにおいては、集光照射後のAl元素の分布には「試料2」のような明瞭な照射領域中心付近へ向かっての濃度勾配が見られなかった。この実験結果は、Si成分を含むガラスにおいては、P系ガラスと比較して、レーザ照射領域の中心を高屈折率化することが困難であることを示唆した。しかしながら、比較的小さな屈折率変化を応用する場合等において、Si成分を含むガラスに対して本発明を用いてもよく、表2の「資料3」等のSi成分を含むガラスもまた本発明の範囲に含まれる。
【0099】
<異質領域の成分観察−3>
図4は、本発明の一実施形態に係る、P系ガラス材料の内部に生成した異質領域25の組成分布を例示する図である。試料には、表2に示した「試料4」、すなわちP−GeO−Ga−CaOガラスを用い、前述の図2及び図3を用いて示した成分観察と同様の手順で観察した。P−GeO−Ga−CaOガラスの組成分布(240)は、視野の中心を通る直線領域に含まれる各構成元素の1次元分布を示す。図4の横軸は当該直線領域の長さであり全体で約110μmである。縦軸はEPMA装置のカウント数であり任意単位である。
【0100】
図4(a)、(b)及び(c)は、それぞれレーザ集光照射後のGa、Ge及びCaの分布を示す。図示のように、Ga及びGeは照射領域の中心付近に集まる傾向が見られた。Caは照射中心では減少し、照射領域と非照射領域との境界において濃度が上昇した。これらの特定成分の分布の状況は、網目構造物、中間構造物、修飾カチオン等の種類及び共存する成分に依存して変化する場合が見られた。本発明においては、これらの共存する成分の割合を制御することにより、パルスレーザ照射後の組成分布特性の異なる種々の光学ガラス部材を提供することができ、さらにそのような光学ガラス部材を加工して得られる光学部品を提供することができる。
【0101】
発明者らは、さらに、SiOを含まないP系ガラス材料を用い、Siを含まない13族及び14族の元素について、パルスレーザ集光照射後の照射領域を含む範囲のCP研磨面の元素分布を調べた。13族としてはAl、Ga、及びInのそれぞれの酸化物を含むP系ガラスを用意した。14族としては前述の「試料4」を用い、図4に示したGeの酸化物を含むP系ガラスとして述べた通りである。
【0102】
図5は、本発明の一実施形態に係る、P系ガラス材料の内部に生成した異質領域25の組成分布を例示する図である。
図5(a)は、P系ガラスとして表2に示した「試料5」すなわちP−Al−CaOガラスを用い、集光照射から生じた異質領域を含む、Al分布(242)を表すEPMA観察画像である。
同様に、図5(b)は、表2に示した「試料6」すなわちP−Ga−CaOガラスにおける、集光照射後のGa分布(244)を表すEPMA観察画像である。
さらに、図5(c)は、表2に示した「試料7」すなわちP−In−CaOガラスにおける、集光照射後のIn分布(246)を表すEPMA観察画像である
画像の濃淡と各元素の濃度比の関係は、図2を用いて示した例と同様であり、各元素の濃度の高い領域はより明るく表示され、濃度の低い領域はより暗く表示される。
【0103】
これらのEPMA観察から、13族に関してはAl及びGaはより照射領域中心に向かって濃度が上昇する傾向が見られる一方、Inはより周辺に向かって濃度が上昇する傾向が見られた。14族のGeに関しては、より照射領域中心に向かって濃度が上昇する傾向が見られた。すなわち、本発明においては、ガラス構成元素としてAl、Ga、又はGeを含ませることにより、これらの元素が照射領域中心に向かって濃度が上昇する性質を利用して、照射領域中心付近を高屈折率化することが可能である。逆に、Inを含ませれば、照射領域中心付近の屈折率を低下させうる。従って、本発明においては、SiOを含まないP系ガラス材料に、13族及び/又は14族の元素を含む酸化物を共存させることにより、パルスレーザ集光照射後に生じる異質領域の屈折率分布を制御することが可能であり、照射後に所望の屈折率差を生じるガラス材料を提供しうる。
【0104】
また、Al元素及びGa元素を共に含むガラス試料として、表4に示した「試料8」、すなわちP−Al−Ga−CaOガラス用いた場合においても、上述と同様に、集光照射後のEPMA観測画像からAl元素及びGa元素はいずれも射領域中心に向かって濃度が上昇する結果が得られた。従って、本発明においては、P系ガラス材料に含ませる13族及び/又は14族の元素は、単独でもよく、2種類以上の組み合わせでもよい。いずれの場合でも、本発明においては、照射後に所望の屈折率差を生じるガラス材料を提供することが可能である。
【0105】
具体的な屈折率変化量の例としては、図4に示したP−GeO−Ga−CaOガラスに生じた異質領域の非照射領域に対する屈折率変化量は、計算から、Δn=0.05程度と見積もられた。
【0106】
他の構成成分を含むP系ガラス材料についても、修飾酸化物であるGa、Ge等はパルスレーザ照射後に照射領域の中心に集まるよう分布することが観察された。Ga、Ge等は高屈折率に寄与する成分であり、P系ガラス材料におけるこのようなGa、Ge元素の組成分布の挙動は、一般的に照射領域中心近傍の屈折率を非照射領域よりも高める作用となり、本発明に係る光学ガラス部品及びその製造方法を用いて、所望の領域をパルスレーザ照射して、周囲よりも屈折率を高めた異質領域を有する光学部品を製造することが可能である。
【0107】
<周波数変調の利用>
図6は、本発明の実施形態に係る、チャープ変調を用いてパルスレーザ照射したSiO系ガラス材料におけるSi元素の組成分布を示す図である。試料としては、表2に示した「試料4」、すなわちP−GeO−Ga−CaOガラスを用いた。図6(a)〜(c)のそれぞれは、図7(a)〜(c)に示すチャープ変調を含むパルスレーザ集光照射後の研磨ガラス材料表面の観察像に対応し、一辺が50μmの正方形視野の範囲内におけるSi元素の分布を平面画像及び画像を横切る直線上の1次元プロファイルとして示す。図7は、本発明の実施形態に係る、パルスレーザにおけるチャープ変調を模式的に示す図である。図7においては、横軸をパルスレーザ光の進行方向に沿った空間座標とし、縦軸をパルスレーザ光の光電場強度とする。図7(a)は、進行方向に沿った1つのパルスレーザ光の範囲内において、周波数が一定である無チャープパルスを表す。図7(b)は、1つのパルスレーザ光の範囲内において時間と共に周波数が上昇するアップチャープパルスを表す。すなわち、図7(b)のパルス波形において、横軸の進行方向の先端部(右側)はより早い時間に放出されたパルスレーザ光であり、一方、横軸の進行方向の後端部(左側)はより遅い時間に放出されたパルスレーザ光であり、先端部から後端部に向かって周波数が上昇することを表す。図7(c)は図7(b)とは逆に、1つのパルスレーザ光の範囲内において時間と共に周波数が低下するダウンチャープパルスを表し、先端部から後端部に向かって周波数は低下する。
【0108】
図6(a)は周波数変調を伴わない無チャープパルス(パルス幅70fs)照射によるSi元素の分布を、図6(b)はパルス先端部からパルス後端部に向かって周波数を上昇させたアップチャープパルス(パルス幅400fs)照射によるSi元素の分布を、図6(c)はパルス先端部からパルス後端部に向かって周波数を低下させたダウンチャープパルス(パルス幅400fs)照射によるSi元素の分布を、それぞれ表す。
図6(a)に示す無チャープパルス照射後のSi元素の分布と比較して、図6(b)に示すアップチャープパルス照射後のSi元素の分布においては、Si元素濃度が低下する同心円状の領域が2つ現れ、照射領域の中心付近のより狭い領域にSi元素が集まった。図6(c)に示すダウンチャープパルス照射に関しては、パルスレーザ照射エネルギーは図6(b)に示したアップチャープパルスと同等であるにも関わらず、照射領域付近のSi元素の分布する領域の大きさ及び濃度差には相違が見られた。すなわち、本発明に係るパルスレーザ照射により多成分系ガラスの局所領域に組成分布を生じる方法等においては、特定の周波数掃引を用いて、パルスレーザ照射後の特定の元素の分布を制御しうる。
【0109】
<集光照射により生じる濃度差>
本発明の一実施形態に係る、パルスレーザ光を集光照射したガラス部材は、加工前の均一な光学特性とは異なって、非照射領域と照射領域との間に特定の元素の濃度差を生じ、これにより照射領域には非照射領域(すなわち母材)と異なる屈折率の差が生じうる。具体的には、図2〜図5を用い、表2の試料のEPMA画像として、特定の元素の濃度差が発生したことを示した。これらの例のガラス材料について、EPMA装置により測定した特定の元素のX線強度マッピングの結果に基づいて次式(VI)で表される公知のZAF補正法を用いる計算により、非照射領域と照射領域との間に生じた濃度差は全て5mol%以上であった。すなわち、本発明に係るガラス部材又はガラス部材を製造する方法においては、上述のガラス組成の範囲内において適宜ガラス構成成分を選択し、上述のパルスレーザ集光照射の条件の範囲内でレーザ光を照射することにより、非照射領域と照射領域との間に、少なくとも一種類以上のガラスを構成する元素の濃度差を5mol%以上とすることが可能であり、光学部品用途において好適な屈折率変化量を得られる。
【数6】

式中、Cは特定の元素Aの質量濃度、Kは不感時間補正及びバックグラウンド補正を含む単位時間あたりの元素AのX線強度(単位はCPS、Count Per Second、毎秒カウント数)、Gは標準試料を用いる原子番号補正、Gは標準試料を用いる吸収補正、Gは標準試料を用いる蛍光補正である。すなわち、EPMA装置のカウント数としてのX線強度に基づいて、元素Aの質量濃度の定量分析が可能である。このようなZAF補正を用いて特定の元素の質量濃度を求める手法は、例えば上述のEPMA装置を用いて特定元素の定量分析を実施するための市販入手可能なアプリケーションソフトウェア等により利用しうる(非特許文献1)。
【非特許文献1】日本電子(株)、「JXA-8100/8200の新機能」[online]、平成20年、[平成20年9月10日検索]、インターネット、<URL:http://www.jeol.co.jp/technical/eo/denshi-pro/epma004/epma004.htm>
【0110】
<屈折率変化の評価方法>
本発明により形成されるガラス内部の屈折率変化量は、組成の分布値から前述のLorentz−Lorenzの式を用いて試算することができ、あるいは試料を実測して求めることも可能である。図8は、本発明の一実施形態に係る、異質領域25の屈折率を評価するための定量位相顕微鏡の構成を示す図である。定量位相顕微鏡55は、光源60、スプリッター62、ミラー64、66、ハーフミラー70、集光光学系72、撮像素子74を有する。光源60は、好適にはレーザである。光学系のアライメントは、ハーフミラー70において、試料68を通過した物体光78と参照光76とが位相干渉を起こすよう調整される。物体光78及び参照光76の経路に介在できる光学系は適宜設計できる。特に、試料を透過した物体光78を拡大するための対物レンズ及び、参照光76を発散させる対物レンズを介在させることにより測定に使用する波長程度の面分解能で評価されることが好ましい。
【0111】
切開した母材を研磨して得られる試料68の厚みは典型的には20μmである。試料68は、試料中の屈折率の計測領域を、定量位相顕微鏡の物体光78の経路が通過するよう設置される。物体光78の経路が異質領域25を含まない母材40を通過する場合は、母材40のみの屈折率が物体光78の位相情報に反映される。物体光78の経路が異質領域25を通過する場合は、異質領域25の屈折率が物体光78の位相情報に反映される。
【0112】
前記位相干渉した光を撮像素子74を用いて計測し解析することにより、試料68の屈折率及び試料68が有する材質の不均一さに基づく屈折率差等を解析できる。試料68の断面内における屈折率及び屈折率差の1次元又は2次元分布を計測できる。好適な定量位相顕微鏡の例は、マッハツェンダー型顕微干渉計である。計測できる屈折率差の典型的な精度は、波長632.8nmにおいて0.0002である。
図8に示す定量位相顕微鏡を用いて、母材40及び母材40に含まれる異質領域25を通過する物体光78を解析することにより、母材40と異質領域25との屈折率差を計測できる。
【0113】
<光学部品>
本発明の光学部品用ガラス部材は、部材内部の異質領域の組成分布による屈折率の勾配に基づいて、光ファイバ又はレンズ等を含む屈折率分布型光学部品、透過型回折格子、フレネルレンズ、ホログラム素子、回折レンズ、カメラ用レンズ、球面収差補正や色収差補正を有するレンズ、CD/DVD用ピックアップレンズ、マイクロレンズ、マイクロレンズアレイ等に用いうる。
【0114】
本発明によると、レーザを集光照射した領域の内部において、組成の濃度分布に起因する屈折率分布を生じさせることができるので、照射の中心に移動する成分と外側に移動する成分の組み合わせ、その含有比などを調整することで、非常に微小な領域内部で、きめ細かな屈折率の制御が可能になる。また、組成の組み合わせによっては非常に大きな屈折率差を得ることも可能である。本発明によれば従来になかった機能性材料を提供できる。例えば、特定成分の空間分布を制御することで、透明ガラスの内部に目的とする成分で構成されたフォトニック結晶構造を作成できる可能性がある。また周波数を変調させることで、多層クラッド状の微細なチャネルなどを透明材料の内部に作製することも可能である。
【0115】
本発明の光学部品用ガラス部材が有する異質領域は1つに限らず、任意の個数の異質領域を2次元的又は3次元的に、周期的に又はランダムに配列しうる。このような配列は、図1に示したステージ50を用いる母材40の所定の場所への位置決めと、パルスレーザ照射による異質領域25の形成とを繰り返すことにより可能である。ステージ50の移動の態様は2次元的でも3次元的でもよく、形成される異質領域25の配列は周期的でもランダムでもよい。
【0116】
例えば、回折光学部品や光拡散部品として、固体撮像素子を有する撮像光学系に組み込み、適度に像をぼかすことでモアレを低減する光学ローパスフィルタに用いうる。光拡散素子としての利用には光拡散板等を含む。光フィルタとしての利用には、ビームスプリッター、偏光フィルタ、波長選択フィルタ、波長ローパスフィルタ、波長ハイパスフィルタ、光アッテネーター(光減衰器)等に用いうる。
【0117】
レンズとしての利用においては、光学部材自身一部又はその全体がレンズ形状、平面、球面、非球面、自由曲面であってもよく、部材の形状による機能と内部の異質領域25の機能が複合化された光学部品であってもよい。
【0118】
他の利用においては、記録用メモリ部品、映像表示部品等にも用いることができる。また、光情報通信に用いられる、光導波路構造、光分波器構造、リング共振器構造を有していてもよい。用途はこれらに限定されるものではない。これら光学機能を有する異質領域を集積化した光学部品としてもよい。
【0119】
本発明の光学部品は、パルスレーザ光の集光照射により前記材料内部に形成される屈折率変化領域を利用するものであり、レーザ光の集光照射時の材料形状はレーザ入射面が平面であることが好ましいが、必ずしも平面に限られる必要はなく、例えばレンズのようにある曲率の凹や凸曲面、高次の曲面を有していてもよい。
【0120】
本発明の光学部品は、レーザ光を集光照射して材料内部に加工を行ったものを、例えばその後の切削や研磨加工によって所望の材料形状に加工されたものでもよく、例えば、その形状がある曲率の凹や凸状の曲面や高次の曲面、多角形の段差や溝を有する構造でもよい。
【0121】
<エッチング処理>
本発明に係る、パルスレーザ集光照射により局所的に組成分布を生じることにより屈折率分布した異質領域を含むガラス材料に対しては、当技術分野に公知のガラス材料のエッチング処理を含む加工技術を用いうる。さらに、該エッチングはガラス材料を選択的にエッチングするものでもよい。具体的には、ガラス組成の一部を化学種選択的にエッチングしてもよく、適切なマスク剤を用いてガラス材料を局所選択的にエッチングしてもよい。
【0122】
一実施形態において、当業に公知のガラス加工方法として、ガラスの組成の一部を選択的に除去するアルカリ又は酸の溶液を用いてエッチング加工してもよい。あるいは、ガラス部材の一部に適宜マスク剤等を塗布して保護し、局所選択的にエッチング処理してもよい。本発明によればガラス部材の内部に局所選択的な組成分布領域を形成でき、かつ任意の個数の異質領域を2次元的又は3次元的に、周期的に又はランダムに配列しうるので、レーザ照射領域又はそれ以外の領域のうちいずれかを選択的に除去することで、従来の方法では製造が困難であった微小かつ複雑な形状や構造を有する光学部品を提供することが可能である。
【0123】
これらのように、本発明に係るガラス材料においては、適切な試薬、薬剤、加工機械等を用い、エッチング処理を含む形状加工技術を用いて所望の形状に加工することが可能であり、加工寸法、加工範囲、加工の態様等はそれぞれの加工方法に応じて選択しうる。
【実施例】
【0124】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
<実施例1:回折格子の例>
図9は、本発明の一実施形態に係る、光学部品用ガラス部材を回折格子として使用した概念図である。
図9(a)において、回折格子として機能する光学部品350は、内部に3次元的に周期配列された異質領域352を有する。すなわち、本発明に係る方法を用いて加工した光学ガラス部材において、内部に3次元的に周期配列された異質領域を有する光学ガラス部品は回折格子として機能しうる。具体的には、本発明に係る回折格子として機能する光学部品350に、入射光360を入射して得られる出射光362は、回折光を含んでなる。
図9(b)は、入射する点光源370を表す概念図である。例えば、入射する点光源370は、回折格子として機能する光学部品350への入射光360の一部の光路の、進行方向における断面でありうる。
図9(c)は、出射した点光源380を表す概念図である。一実施形態において、本発明に係る回折格子として機能する光学部品350に、入射する点光源370を入射することにより、出射した点光源380が得られる。
異質領域の周期やサイズ等は設計事項であり、これらにより回折光の強度比や分布は変化しうる。
【0125】
<実施例2:光導波路の例>
図10は、本発明の一実施形態に係る、光学部品用ガラス部材を光導波路として使用した概念図である。
図10において、光導波路を含む光学部品390は、内部に3次元的に連続的に加工された光導波路395を有する。この光導波路は、本発明に係る方法を用いて、集光照射する領域をガラス母材に対して相対的に移動することにより、ガラス母材の内部に連続的に屈折率を高めた領域を形成して作成することが可能である。光導波路としての機能は、光導波路395の一端面からHe−Neレーザ光を入射し、光導波路395の他端面から当該レーザ光が出射されることから確認しうる。
【0126】
以上、本発明の実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることができる。そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。例えば、光学ローパスフィルタ、種々の回折光学部品、光拡散部品、光フィルタ、レンズ及びレンズに関連する光学部品、局所的な屈折率勾配を利用した光導波路、マイクロレンズ、マイクロレンズアレイ等にも同様に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】本発明の一実施形態に係る、ガラス内部に組成分布した照射領域を生成する方法を例示する図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る、SiO系ガラス材料の内部に生成した異質領域25の組成分布を例示する図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る、P系ガラス材料の内部に生成した異質領域25の組成分布を例示する図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る、P系ガラス材料の内部に生成した異質領域25の組成分布を例示する図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る、P系ガラス材料の内部に生成した異質領域25の組成分布を例示する図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る、チャープ変調を用いてパルスレーザ照射したSiO系ガラス材料におけるSi元素の組成分布を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る、パルスレーザにおけるチャープ変調を模式的に示す図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る、異質領域25の屈折率を評価するための定量位相顕微鏡の構成を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る、光学部品用ガラス部材を回折格子として使用した概念図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る、光学部品用ガラス部材を光導波路として使用した概念図である。
【符号の説明】
【0128】
12 フェムト秒パルスレーザ
14 集光レンズ
15 ミラー
16 ビームエクスパンダ
17 絞り
18 シャッター
19 NDフィルター
22 撮像手段
24 画像モニタ
25 異質領域
40 母材
50 ステージ
55 定量位相顕微鏡
60 光源
62 スプリッター
68 試料
72 集光光学系
74 撮像素子
76 参照光
78 物体光
200 Si−Al−Mg−Oガラスの組成分布
210 Si分布
220 Al分布
230 P−Al−CaO−Tbガラスの組成分布
240 P−GeO−Ga−CaOガラスの組成分布
350 回折格子として機能する光学部品
352 内部に3次元的に周期配列された異質領域
360 入射光
362 出射光
370 入射する点光源
380 出射した点光源
390 光導波路を含む光学部品
395 光導波路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
元素分布を有しない均一ガラス材料にパルスレーザを集光照射することにより、ガラス内部のレーザ照射領域及びその周辺領域に、他の領域とは異なる、ガラス組成の空間的な分布が存在する異質領域を有するガラス部材。
【請求項2】
前記異質領域は、前記ガラス組成の空間的な分布により、他の領域とは異なる屈折率分布を有する請求項1に記載のガラス部材。
【請求項3】
前記均一ガラス材料が、SiO成分を含有しないことを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載のガラス部材。
【請求項4】
前記均一ガラス材料が、高屈折率化に寄与する成分を含有し、該高屈折率化に寄与する成分がレーザ照射領域の中心に分布することを特徴とする請求項3に記載のガラス部材。
【請求項5】
前記高屈折率化に寄与するガラス構成元素がSiを除く13族又は14族元素からなる酸化物から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項4に記載のガラス部材。
【請求項6】
前記均一ガラス材料はP成分を含み、Siを除く13族又は14族元素からなる酸化物を1種類以上含み、前記レーザ照射領域の中心において、前記13族又は14族元素の濃度が照射前よりも増加する空間的な分布を形成する、請求項3から5のいずれかに記載のガラス部材。
【請求項7】
酸化物基準の質量%で、
:10〜90%、
RnO+RO+R’O:5〜60%、及び
Rm+Rm:1〜50%
(RnOはアルカリ金属酸化物から選ばれる1種以上、ROはアルカリ土類及びZnの酸化物から選ばれる1種以上、R’OはSiを除く14族元素、Ti、及びZrの酸化物から選ばれる1種以上、Rm、Rmは13族又は15族元素、遷移元素、及び希土類元素の酸化物から選ばれる1種以上である。)
を含む、請求項3から6のいずれかに記載のガラス部材。
【請求項8】
前記均一ガラス材料はSiO、B及びGeOから選ばれる1種以上の成分を含み、前記異質領域において空間的な分布を形成する成分は、網目形成酸化物を形成するカチオン及び/又は中間酸化物を形成するカチオン及び/又は網目修飾酸化物を形成するカチオンである、請求項1又は2に記載のガラス部材。
【請求項9】
酸化物基準の質量%で、
SiO:0〜90%、
RnO+RO+R’O:5〜60%、及び
Rm+Rm:1〜50%
(RnOはアルカリ金属酸化物から選ばれる1種以上、ROはアルカリ土類及びZnの酸化物から選ばれる1種以上、R’OはSiを除く14族元素、Ti、及びZrの酸化物から選ばれる1種以上、Rm、Rmは13族又は15族元素、遷移元素、及び希土類元素の酸化物から選ばれる1種以上である。)
を含む、請求項8に記載のガラス部材。
【請求項10】
前記均一ガラス材料がSi成分を含有し、Si成分は、前記レーザ照射領域の集光点の中心において前記他の領域よりも高い濃度で分布する、請求項8又は9に記載のガラス部材。
【請求項11】
前記均一ガラス材料がSi及びAl成分を含有し、Al成分は、前記レーザ照射領域の集光点の中心において前記他の領域よりも濃度が低下して分布する、請求項8又は9に記載のガラス部材。
【請求項12】
前記ガラス組成の空間的な分布において、前記異質領域と前記他の領域とにおける、少なくとも一種類以上のガラスを構成する元素の濃度差が5mol%以上あることを特徴とする、請求項1から11のいずれかに記載のガラス部材。
【請求項13】
前記集光照射前の母ガラスとは異なる、組成の空間的な分布を有する領域が、二次元又は三次元的に、周期的及び/又はランダムに形成されている、請求項1から12のいずれかに記載のガラス部材。
【請求項14】
請求項1から13のいずれかに記載のガラス部材を選択的にエッチング処理した構造体。
【請求項15】
請求項1から14のいずれかに記載のガラス部材及び/又は構造体を含んでなる、屈折率分布型部品、光学ローパスフィルタ、回折光学部品、光拡散部品、光フィルタ、レンズ、マイクロレンズアレイ、及び光導波路からなる群から選択される光学部品。
【請求項16】
元素分布を有しない均一ガラス材料にパルスレーザを集光照射し、前記均一ガラス材料の内部のレーザ照射領域に、他の領域とは異なる、ガラス組成の空間的な分布が存在する異質領域を有するガラス部材を製造する方法。
【請求項17】
前記ガラス組成の空間的な分布により、他の領域とは異なる屈折率分布を形成する請求項1に記載のガラス部材を製造する方法。
【請求項18】
前記均一ガラス材料として、SiO成分を含有しないガラスを用いることを特徴とする、請求項16又は17に記載のガラス部材を製造する方法。
【請求項19】
前記均一ガラス材料として、
酸化物基準の質量%で、
:10〜90%、
RnO+RO+R’O:5〜60%、及び
Rm+Rm:1〜50%
(RnOはアルカリ金属酸化物から選ばれる1種以上、ROはアルカリ土類及びZnの酸化物から選ばれる1種以上、R’OはSiを除く14族元素、Ti、及びZrの酸化物から選ばれる1種以上、Rm、Rmは13族又は15族元素、遷移元素、及び希土類元素の酸化物から選ばれる1種以上である。)
を含むガラスを用いる、請求項18に記載のガラス部材の製造方法。
【請求項20】
前記均一ガラス材料として、
酸化物基準の質量%で、
SiO:0〜90%、
RnO+RO+R’O:5〜60%、及び
Rm+Rm:1〜50%
(RnOはアルカリ金属酸化物から選ばれる1種以上、ROはアルカリ土類及びZnの酸化物から選ばれる1種以上、R’OはSiを除く14族元素、Ti、及びZrの酸化物から選ばれる1種以上、Rm、Rmは13族又は15族元素、遷移元素、及び希土類元素の酸化物から選ばれる1種以上である。)
を含むガラスを用いる、請求項16又は17のいずれかに記載のガラス部材の製造方法。
【請求項21】
前記ガラス組成の空間的な分布において、前記異質領域と前記他の領域とにおける、少なくとも1種以上のガラスを構成する元素の濃度差を5mol%以上にする、請求項16から20のいずれかに記載のガラス部材を製造する方法。
【請求項22】
前記パルスレーザの集光照射を、以下の条件(a)から(c)を満たすレーザを用いて行う、請求項16から21のいずれかに記載の方法。
(a)パルス幅:10フェムト(10×10−15)秒〜10ピコ(10×10−12)秒
(b)繰り返し周波数:50kHz以上
(c)レーザ平均出力:0.2W以上
【請求項23】
前記パルスレーザの集光照射において、繰り返し周波数を連続的に変化させる、請求項22に記載のガラス部材の製造方法。
【請求項24】
前記空間的な分布の変更を、二次元又は三次元的に、周期的及び/又はランダムに形成する、請求項16から23のいずれかに記載のガラス部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−70399(P2010−70399A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237010(P2008−237010)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「三次元光デバイス高効率製造技術」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(505026723)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】