説明

結晶シリコン粒子の製造方法

【課題】高濃度の不純物を含む尖頭部がないことから、光電変換効率が高く、高性能の光電変換装置に用いるのに適し、また、多数個の結晶シリコン粒子を導電性基板上に効率的に配置して均一の接合力や接合深さで接合することができることから、高信頼性の光電変換装置に用いるのに適した結晶シリコン粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】結晶シリコン粒子101の製造方法は、坩堝のノズル部からシリコン融液を粒状に排出し、この粒状のシリコン融液を冷却して固化させることによって、不純物が偏析した尖頭部105を有する擬似単結晶化された結晶シリコン粒子101を製造し、次に結晶シリコン粒子101の尖頭部105を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光発電等に使用される光電変換装置に好適に用いられる結晶シリコン粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池等の光電変換装置は、光電変換効率(以下、変換効率ともいう)等の性能面での効率の良さ、資源の有限性への配慮、及び製造コストの低さ等といった市場ニーズを捉えて開発が進められている。太陽電池の材料としては、シリコンの単結晶または多結晶の大きなバルクを切断して結晶シリコン基板を作製して用いている。しかしながら、この方法では切断ロスが多いため、省資源の点で問題がある。このことから、省資源の点で今後の市場において有望な光電変換装置の一つとして、結晶シリコン粒子を用いた光電変換装置がある。
【0003】
結晶シリコン粒子を作製するための原料としては、例えば単結晶シリコンを粉砕した結果として発生するシリコンの微小粒子や、流動床法で気相合成された高純度シリコン等が用いられている。これらの原料から結晶シリコン粒子を作製するには、それらの原料をサイズあるいは重量によって分別した後に、赤外線や高周波を用いて容器内で溶融し、その後に自由落下させる方法(例えば特許文献1,2参照)や、同じく高周波プラズマを用いる方法(例えば特許文献3参照)によって球状化する。
【特許文献1】国際公開第99/22048号パンフレット
【特許文献2】米国特許第4188177号明細書
【特許文献3】特開平5−78115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、結晶シリコン粒子を用いた光電変換装置の光電変換特性は、結晶シリコン基板を用いた光電変換装置の光電変換特性より低いものしか得られていない。
【0005】
また、結晶シリコン粒子を製造する方法として、シリコン原料を容器内で溶融し、容器のノズル部から自由落下させて液滴状に固化させる方法、いわゆるジェット法(溶融落下法)があるが、この方法で粒状の結晶シリコン粒子を製造すると、以下のような問題が生じる。即ち、溶融した液滴状のシリコン粒子は自由落下中にシリコンの融点以下の温度において過冷却状態になると、ある温度領域で不均一核生成あるいは均一核生成により固化を生ずる。例えば不均一核生成した場合、最終固化時に体積膨張した際に、その一部が固化終端部表面から突出し、結晶シリコン粒子の表面に不純物が偏析した突起部が形成されることが多い。
【0006】
また、ジェット法で製造した結晶シリコン粒子は、そのままでは完全な単結晶となっていないことが多いため、単結晶化のための再溶融(リメルト)工程を付加することがある。再溶融工程は、結晶シリコン粒子が溶融する温度域(1415〜1450℃程度)まで昇温し、結晶シリコン粒子の下端側から上方に向かって固化させる工程である。この場合、結晶シリコン粒子には不純物が偏析した突起部が存在するため、シリコンの溶融時に溶融の不均一性のために形状を安定に保てなくなったり、炉内の部材やガス雰囲気からの汚染があった場合には不純物濃度がより高くなる。
【0007】
従って、本発明は上記従来の技術における問題点に鑑みて完成されたものであり、その目的は、変換効率が高く、高性能の光電変換装置に用いるのに適した結晶シリコン粒子の製造方法を提供することである。また、多数個の結晶シリコン粒子を導電性基板上に効率的に配置して均一の接合力や接合深さで接合することができることから、高信頼性の光電変換装置に用いるのに適した結晶シリコン粒子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の結晶シリコン粒子の製造方法は、坩堝のノズル部からシリコン融液を粒状に排出し、この粒状のシリコン融液を冷却して凝固させることによって、不純物が偏析した尖頭部を有する擬似単結晶化された結晶シリコン粒子を製造し、次に前記結晶シリコン粒子の前記尖頭部を除去するものである。
【0009】
また、本発明の結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、擬似単結晶化された前記結晶シリコン粒子を製造する際に、坩堝のノズル部から排出された粒状のシリコン融液の過冷却度を自然放冷時の過冷却度よりも小さい弱過冷却度とすることによって、擬似単結晶化された前記結晶シリコン粒子を製造するものである。
【0010】
また、本発明の結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、前記不純物として炭素及び窒素のうちの少なくとも一種を含むものである。
【0011】
また、本発明の結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、前記不純物として金属を含むものである。
【0012】
また、本発明の結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、前記結晶シリコン粒子の前記尖頭部を除去する際に、前記尖頭部の表面から深さ20μm以上の部位を除去するものである。
【0013】
また、本発明の結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、前記結晶シリコン粒子の前記尖頭部の表面から深さ20μmまでの部位における炭素濃度が前記結晶シリコン粒子の中心部の炭素濃度の30倍以上であるものである。
【0014】
また、本発明の結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、前記結晶シリコン粒子の前記尖頭部の表面から深さ20μmまでの部位における窒素濃度が前記結晶シリコン粒子の中心部の窒素濃度の200倍以上であるものである。
【0015】
また、本発明の結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、前記結晶シリコン粒子の前記尖頭部を除去した後に、前記結晶シリコン粒子を再溶融し固化させることによって単結晶化するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の結晶シリコン粒子の製造方法は、坩堝のノズル部からシリコン融液を粒状に排出し、この粒状のシリコン融液を冷却して固化させることによって、不純物が偏析した尖頭部を有する擬似単結晶化された結晶シリコン粒子を製造し、次に結晶シリコン粒子の尖頭部を除去することから、高濃度の不純物を含む尖頭部が除去された結晶シリコン粒子を得ることができる。その結果、多数個の結晶シリコン粒子を用いて光電変換装置を作製するに際して、結晶シリコン粒子の表面に形成されるpn接合部が、異常に不純物が偏析された尖頭部を除去した後に形成されるので、pn接合界面付近の濃度分布や形状が均一となる。また、結晶シリコン粒子が尖頭部に起因する割れや欠け等の機械的な破損も殆ど受けないものとなる。従って、高い変換効率を得ることができる。
【0017】
また、本発明の結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、擬似単結晶化された前記結晶シリコン粒子を製造する際に、坩堝のノズル部から排出された粒状のシリコン融液の過冷却度を自然放冷時の過冷却度よりも小さい弱過冷却度とすることによって、擬似単結晶化された前記結晶シリコン粒子を製造することから、擬似単結晶化された前記結晶シリコン粒子の製造歩留まりを飛躍的に高めることができる。即ち、坩堝のノズル部から排出された粒状のシリコン融液の過冷却度を自然放冷時の過冷却度(過冷却度=シリコンの融点(1414℃)−過冷却温度であり、自然放冷時の過冷却度は300℃程度以上である。)とすると、尖頭部を有する擬似単結晶化された涙滴形の結晶シリコン粒子、不純物が偏析した突起部を有する多結晶の結晶シリコン粒子、複数が合体した結晶シリコン粒子等の種々の結晶シリコン粒子が形成される。そこで、過冷却を40℃〜200℃程度と小さくすることにより、突起部の形成を抑制し、擬似単結晶化された尖頭部を有する涙滴形の結晶シリコン粒子を、95%を超える極めて高い個数割合で製造することができる。
【0018】
また、本発明の結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、不純物として炭素及び窒素のうちの少なくとも一種を含むことから、これらの不純物は結晶欠陥や再結合中心となる欠陥等を生成するものであり、従って不純物が起因となる結晶欠陥や再結合中心となる欠陥等を低減でき、より高い変換効率を得ることができる。
【0019】
また、本発明の結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、不純物として金属を含むことから、金属不純物は結晶欠陥や再結合中心となる欠陥等を生成するものであり、従って金属不純物が起因となる結晶欠陥や再結合中心となる欠陥等を低減でき、より高い変換効率を得ることができる。
【0020】
また、本発明の結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、結晶シリコン粒子の尖頭部を除去する際に、尖頭部の表面から深さ20μm以上の部位を除去することから、最も不純物濃度が高い部分を除去することができ、光電変換装置においてより高い変換効率を得ることができる。また、光電変換装置を製造する際に、多数個の結晶シリコン粒子を導電性基板上に効率的に配置して均一の高さ、接合力、接合深さで接合することができ、高い信頼性の光電変換装置を製造することができる。
【0021】
また、本発明の結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、結晶シリコン粒子の尖頭部の表面から深さ20μmまでの部位における炭素濃度が結晶シリコン粒子の中心部の炭素濃度の30倍以上であることから、高濃度に炭素が偏析した部分を効果的に除去することができる。従って、より高い変換効率及び高い信頼性を有する光電変換装置を製造することができる。
【0022】
また、本発明の結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、結晶シリコン粒子の尖頭部の表面から深さ20μmまでの部位における窒素濃度が結晶シリコン粒子の中心部の窒素濃度の200倍以上であることから、高濃度に窒素が偏析した部分を効果的に除去することができる。従って、より高い変換効率及び高い信頼性を有する光電変換装置を製造することができる。
【0023】
また、本発明の結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、結晶シリコン粒子の尖頭部を除去した後に、結晶シリコン粒子を再溶融(リメルト)し固化させることによって単結晶化することから、結晶品質がより高い単結晶化された結晶シリコン粒子を得ることができる。即ち、上面に尖頭部を除去した結晶シリコン粒子を載置した台板を加熱炉内に導入し、結晶シリコン粒子を加熱して溶融させた後に降温して、溶融した結晶シリコン粒子を台板側から上方に向けて固化させる再溶融(リメルト)法によって、結晶品質が高い単結晶化された結晶シリコン粒子を得る。この場合、擬似単結晶化された結晶シリコン粒子の不純物が偏析した尖頭部は除去されているため、再溶融法により得られる結晶シリコン粒子全体の不純物濃度は更に低減する。その結果、多数個の結晶シリコン粒子を用いて光電変換装置を作製するに際して、pn接合部でのリークを大幅に抑制して、より高い変換効率を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の結晶シリコン粒子の製造方法の実施の形態について図を参照にしつつ以下に詳細に説明する。
【0025】
図1および図2は、本発明の結晶シリコン粒子の製造方法における尖頭部除去の工程を示す断面図である。図3は、本発明の結晶シリコン粒子の製造方法によって得られた結晶シリコン粒子を用いた光電変換装置の実施の形態の1例を示す断面図である。
【0026】
図3に示すように、光電変換装置は、導電性基板107と、導電性基板107の一主面に接合された多数個の結晶シリコン粒子101と、結晶シリコン粒子101の隣接するもの同士の間に、結晶シリコン粒子101の上部を露出させるように形成された絶縁体109と、結晶シリコン粒子101の上部に形成された透光性導体層111とを有する。
【0027】
また、第1導電型(例えばp型)の結晶シリコン粒子101は、表面に第2導電型(例えばn型)の半導体部(半導体層)110が熱拡散法等により形成されており、結晶シリコン粒子101の半導体部110上に透光性導体層111が設けられている。
【0028】
結晶シリコン粒子101は、シリコン原料を石英製の坩堝内で溶融させ、シリコン融液の液面をアルゴンガスなどで加圧して、坩堝の下端部に形成されたノズル部のノズル孔から押し出すことにより、多数のシリコン融液の液滴を噴出させ自由落下中に固化させて、単結晶または多結晶の結晶シリコン粒子となって容器に収容されたもの、いわゆるジェット法によって製造されたものを用いている。
【0029】
このとき、結晶シリコン粒子は過冷却状態から固化する際に、ある温度領域によって不均一核生成あるいは均一核生成して固化を生ずるが、例えば不均一核生成した場合には液滴状のシリコン粒子の下部の表面から上部に向かって冷却され固化するが、上部の一部が溶融状態である場合には最終固化時に体積膨張した際に、その一部が固化終端部表面から突出し、結晶シリコン粒子の表面に突起部(以下、突起部jともいう)が形成される。この突起部jは、結晶シリコン粒子において最後に固化するため、偏析効果により炭素,窒素及び金属などの不純物の濃度が高くなり、突起部jの結晶品質はよくない。
【0030】
本実施の形態の結晶シリコン粒子の製造方法は、坩堝のノズル部からシリコン融液を粒状に排出し、この粒状のシリコン融液を冷却して固化させることによって、不純物が偏析した尖頭部を有する擬似単結晶化された結晶シリコン粒子を製造し、次に結晶シリコン粒子の尖頭部を除去する。
【0031】
従来、坩堝のノズル部から排出された粒状のシリコン融液は、表面温度が急激に低下する過冷却状態(1214℃以下の温度状態)となり、その後粒状のシリコン融液の内部温度の影響で一旦シリコンの融点(1414℃)付近まで表面温度が高くなり、その後徐々に温度が低下し固化する。この際、過冷却状態の過冷却度(シリコンの融点(1414℃)−過冷却温度)が300℃程度以上と大きいために、粒状のシリコン融液の表面に多数の結晶核が発生し、多結晶の結晶シリコン粒子となる。また、殆どの結晶シリコン粒子の表面には、固化時の内部の体積膨張によって突起部jが形成される。
【0032】
本実施の形態においては好ましくは、過冷却度を40℃〜200℃程度と小さくすることにより、突起部jの形成を抑制し、尖頭部を有する涙滴形の結晶シリコン粒子を製造する。涙滴形の結晶シリコン粒子には、最終固化部に尖頭部(尖った部分)が形成される。また、涙滴形の結晶シリコン粒子は、粒界が数個しかない単結晶に近い結晶品質を有する擬似単結晶粒子である。
【0033】
過冷却度を小さくする手段としては、粒状のシリコン融液が落下する落下経路に過冷却度を制御するヒーターを設ける構成、坩堝から排出された直後の落下中の粒状のシリコン融液に酸化シリコン等の微粒子から成る結晶核を衝突させる方法等がある。
【0034】
また、尖頭部は、結晶シリコン粒子の尖頭部の先端点を含む領域であって、結晶シリコン粒子の体積の0.01〜16体積%程度の領域である。
【0035】
なお、尖頭部、従来の突起部jに含まれる炭素や窒素の不純物の濃度はSIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy:2次イオン質量分析)で結晶シリコン粒子の断面分析を行うことによって、確認することができる。
【0036】
Fe,Ni,Cu等の金属不純物については、SIMSの検出下限以下の濃度であるためSIMSでは分析はできないが、偏析係数が炭素,窒素に比べ二桁以上小さいため、炭素,窒素のSIMS分析の結果から予想は可能である。それらの不純物の偏析状態については、結晶シリコン粒子の研磨断面をJIS規格Bエッチング液(HF:HNO:CHCOOH:HO=1:12.7:3:5.7(容積比))によりエッチングして、表面のエッチピットを観察することにより確認することができる。
【0037】
また、本実施の形態における結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、不純物として炭素及び窒素のうちの少なくとも一種を含むことがよい。また好ましくは、不純物として金属を含むことがよい。これらの不純物は結晶欠陥や再結合中心となる欠陥等を生成するものであり、従って不純物が起因となる結晶欠陥や再結合中心となる欠陥等を低減でき、より高い変換効率を得ることができる。
【0038】
また、本実施の形態における結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、結晶シリコン粒子の尖頭部を除去する際に、尖頭部の表面から深さ20μm以上の部位を除去することがよい。尖頭部の表面から深さ20μm未満の部位を除去した場合、不純物の偏析部が残存する傾向がある。尖頭部の表面から深さ50μm以上の部位を除去した場合、尖頭部以外の結晶シリコン粒子の表面に損傷が生じる傾向がある。従って、尖頭部の表面から深さ20μm〜50μmの部位を除去することがよく、その場合、不純物を除去するとともに結晶欠陥の発生、金属不純物等の汚染を有効に低減することができる。
【0039】
尖頭部を除去する方法としては、機械的な研磨法によって除去する方法、エッチング液を用いたエッチング法によって除去する方法、ドライエッチング法等がある。
【0040】
また、本実施の形態における結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、結晶シリコン粒子の尖頭部の表面から深さ20μmまでの部位における炭素濃度が結晶シリコン粒子の中心部の炭素濃度の30倍以上であることがよい。この場合、高濃度に炭素が偏析した部分を研磨加工によって効果的に除去することができる。従って、より高い変換効率及び高い信頼性を有する光電変換装置を製造することができる。
【0041】
また、本実施の形態における結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、結晶シリコン粒子の尖頭部の表面から深さ20μmまでの部位における窒素濃度が結晶シリコン粒子の中心部の窒素濃度の200倍以上であることがよい。この場合、高濃度に窒素が偏析した部分を研磨加工によって効果的に除去することができる。従って、より高い変換効率及び高い信頼性を有する光電変換装置を製造することができる。
【0042】
結晶シリコン粒子の中心部に含まれる炭素や窒素の不純物の濃度は、上記のSIMS法で結晶シリコン粒子の断面分析を行うことによって、確認することができる。
【0043】
結晶シリコン粒子の中心部は、結晶シリコン粒子に内接する最大球の中心点を中心とする領域であって、結晶シリコン粒子の体積の84〜99.99体積%程度の領域である。
【0044】
また、結晶シリコン粒子の結晶品質をさらに向上させるために、即ち結晶シリコン粒子を単結晶化するために、再溶融工程を付加することが好ましい。この場合、尖頭部は研磨加工によって前処理として除去することがよい。
【0045】
再溶融工程は、結晶シリコン粒子を溶融炉内の石英製等の台板上に載置して単結晶化させる工程であり、このとき溶融した結晶シリコン粒子が凝固する際に台板と溶融した結晶シリコン粒子との接点を基点として不均一核生成を生じ台板側(結晶シリコン粒子の下端側)から上方向に向かってゆっくりと凝固する。その結果、一方向凝固された結晶品質が高い結晶シリコン粒子が得られる。また、予め涙滴形の擬似単結晶化された結晶シリコン粒子の不純物が偏析した尖頭部は研磨加工によって除去されているため、再溶融により得られた結晶シリコン粒子の不純物濃度が更に低減する。
【0046】
また、最後に固まる上端部に小さな突起部が形成される場合があるが、予め涙滴形の擬似単結晶化された結晶シリコン粒子の不純物が偏析した尖頭部は研磨加工によって除去されているため、再溶融工程において形成される小さな突起部(以下、突起部r1ともいう)は、金属等の不純物の偏析は大幅に低減化されている。従って、突起部r1の断面をJIS規格Bエッチング液(HF:HNO:CHCOOH:HO=1:12.7:3:5.7(容積比))によりエッチングしても、表面のエッチピットはほとんど観察されない。
【0047】
しかし、従来の突起部jが残存したまま再溶融工程で単結晶化された結晶シリコン粒子に形成される小さな突起部(以下、突起部r2ともいう)は、断面をJIS規格Bエッチング液(HF:HNO:CHCOOH:HO=1:12.7:3:5.7(容積比))によりエッチングすると、表面のエッチピットが観察されることが多い。
【0048】
従来の結晶シリコン粒子を用いた光電変換装置は、突起部j及び突起部r2が残存したままの結晶シリコン粒子を用いているため、多結晶バルクから切り出したウエハを用いたシリコン基板型(バルク型)の光電変換装置に比べて、リーク電流(pn接合の欠陥による光電変換装置の並列抵抗を流れるために漏洩する電流)が大きい。そのため、バルク型の光電変換装置に匹敵する変換効率を得ることは困難であった。
【0049】
結晶シリコン粒子のpn接合部に悪影響を及ぼすリーク電流が生じている個所を特定していくと、突起部j及び突起部r2が破損することにより、pn接合部が崩れていたり、突起部j及び突起部r2が破損していなくても、突起部j及び突起部r2に偏析した不純物によりpn接合部内部にリーク電流が発生していることがわかった。これを回避するためには、結晶シリコン粒子の表面の全面を研磨するような研磨加工を実施すればよいが、その場合、時間的及び経費的に大きなロスが発生し、効率的及び低コストに突起部j、突起部rを除去することは困難である。
【0050】
また、結晶シリコン粒子101の平均粒径は、太陽電池等を構成するために使用されるため、1mm以上の大きさでは、例えば200μm厚みのバルク型の太陽電池と比較して、シリコン原料の大幅な節約とはならない。即ち、100mm角の200μm厚みの多結晶シリコン基板におけるシリコンの重量は4.66gであるのに対して、直径1mmの結晶シリコン粒子を100mm角のアルミニウム基板上に最密構造で配設した場合のシリコンの重量は5.23gとなり、200μm厚みの多結晶シリコン基板よりもシリコンの量が多くなる。また、多結晶シリコン基板の場合、シリコンの塊(インゴット)からウエハ状に切断するための切断ロスがあるので、必要なシリコン原料は4.66gの約1.5倍の約7gが必要であるが、結晶シリコン粒子の平均粒径が1mm以上では、結晶シリコン粒子を用いることによるシリコン量の大幅な節約とはならない。よって、シリコン量の節約の点で結晶シリコン粒子の平均粒径は500μm以下が好ましい。
【0051】
結晶シリコン粒子の粒径が小さいため、大量の結晶シリコン粒子を精度よく簡便に研磨して尖頭部を除去することがよい。即ち、結晶シリコン粒子の表面の全面を研磨せずとも尖頭部を重点的に研磨し除去することがよい。
【0052】
以上より、本実施の形態の製造方法は、坩堝のノズル部からシリコン融液を粒状に排出し、この粒状のシリコン融液を冷却して固化させる方法、いわゆる溶融落下法(ジェット法)によって製造された結晶シリコン粒子の結晶品質が、粒界が数個程度しかない擬似単結晶であるという良好な場合に適用される。ジェット法で製造された結晶シリコン粒子の結晶品質がそのままで良好であるようにする手段としては、上述したように過冷却度を小さくする方法、または粒状のシリコン融液の落下中に一旦凝固して形成されたシリコン粒子を、落下経路において再溶融等して結晶品質を向上させる方法がある。落下経路において再溶融するには、シリコン粒子を磁場や気流によって浮遊させた状態で、電磁誘導法等によって行うことができる。
【0053】
そして、結晶シリコン粒子の結晶品質をさらに向上させるために、即ち結晶シリコン粒子をほとんど単結晶化するために、再溶融工程を付加することができる。この場合、涙滴形の擬似単結晶化された結晶シリコン粒子の尖頭部を研磨加工等によって除去した後に、再溶融工程を実施することがよい。再溶融工程は、結晶シリコン粒子を溶融炉内の石英等から成る台板上に載置して単結晶化させる工程である。このとき、溶融した結晶シリコン粒子が凝固する際に台板と溶融した結晶シリコン粒子との接点を基点として不均一核生成を生じ、台板側(結晶シリコン粒子の下端側)から上方向に向かってゆっくりと凝固するため、一方向凝固された結晶品質が高い結晶シリコン粒子が得られる。また、涙滴形の擬似単結晶化された結晶シリコン粒子における不純物が偏析した尖頭部は、研磨加工等によって除去されているため、再溶融により得られた結晶シリコン粒子の不純物濃度は更に低減される。
【0054】
次に、光電変換装置を製造する場合、図3に示すように、導電性基板107の一主面に多数個の結晶シリコン粒子101を接合して結晶シリコン粒子101の隣接するもの同士の間に絶縁体109を介在させるとともに結晶シリコン粒子101の上部を絶縁体109から露出させて配置し、次にこれら結晶シリコン粒子101に透光性導体層111を設ける。
【0055】
本実施の形態の結晶シリコン粒子の製造方法において、結晶シリコン粒子の尖頭部を研磨加工法等によって除去する。好ましい研磨加工法は、結晶シリコン粒子の表面から尖頭部を研磨加工によって選択的に除去する際に、結晶シリコン粒子を下側基板の上面に載置するとともに結晶シリコン粒子の上端に下面が接するように上側基板を下側基板に対向配置し、下側基板を主面の面内で回転させるとともに下側基板に対して上側基板を逆回転方向に回転させるものである。また、より好ましくは、下側基板を主面の面内で回転させるとともに下側基板に対して上側基板を逆回転方向に回転させながら、上側基板を下側基板に対して横方向に揺動させるものである。さらに好ましくは、上側基板は、下面に結晶シリコン粒子に接して弾性変形する研磨布が設けられているものである。
【0056】
本発明の研磨加工方法の構成の概略を図1に示す。この研磨加工方法は、研磨砥石からなる下側基板102と研磨砥石からなる上側基板103が互いに逆回転方向に回転し、両基板間に配置された結晶シリコン粒子101が両基板間で回転しながら研磨される。結晶シリコン粒子101に対する荷重を大きくして長時間研磨しなくとも、尖頭部105を荷重を軽くして短時間で除去することができる。
【0057】
この場合、例えば、下側基板102の回転速度を10〜20rpm.とし、上側基板103の回転速度を3〜10rpm.とすることがよい。これらの基板の研磨の相対的な回転速度が上記範囲内とすることにより、結晶シリコン粒子101に回転しないものがでてくることを低減するとともに、結晶シリコン粒子101を研磨布でしっかりと保持してすべりが発生することを低減することができる。
【0058】
結晶シリコン粒子101に対する荷重は、研磨布の厚みや硬さに依存するが、0.1N/cm程度がよく、その場合、先頭部を効率的に研磨除去することができるとともに、結晶シリコン粒子101が俵状に研磨されることを抑制することができる。
【0059】
また、研磨加工にかかる時間は10分程度の時間である。
【0060】
また、下側基板102を主面の面内で回転させるとともに下側基板102に対して上側基板103を逆回転方向に回転させながら、上側基板103を下側基板102に対して横方向に揺動させる場合には、結晶シリコン粒子101の真球度が高まり、楕円体球に研磨されることを防ぐことができる。この場合、上側基板103の横方向の揺動(往復運動)は、その主面の面内で主面に平行な一方向において行うが、揺動の振幅は5cm程度、揺動の振動数は4Hz程度がよい。
【0061】
また、上側基板103は、下面に結晶シリコン粒子101に接して弾性変形する研磨布が設けられている場合には、結晶シリコン粒子101の一部を研磨布によって包み込みつつ回転させることにより、結晶シリコン粒子101を滑りを防止して回転させることができる。その結果、結晶シリコン粒子101から速やかに尖頭部105のみを除去できる。
【0062】
結晶シリコン粒子101に接して弾性変形する研磨布は、硬質スポンジ等の材料からなり、その厚みは1〜2mm程度である。
【0063】
なお、粒径が600μm程度と大きい結晶シリコン粒子101の場合、そのほぼ全面が研磨加工されるが、尖頭部105を選択的かつ効率的に研磨除去できることに変わりはない。
【0064】
更に、本実施の形態の結晶シリコン粒子の製造方法における好ましい研磨加工法は、結晶シリコン粒子の表面から尖頭部を研磨加工によって選択的に除去する際に、結晶シリコン粒子を容器内に入れるとともに研磨石を入れて回転させることによって、研磨石を結晶シリコン粒子に衝突させ研磨加工を施すものである。
【0065】
より好ましくは、研磨加工時の温度上昇を抑えるために、及び結晶シリコン粒子の尖頭部以外の部分の破壊を防止するために、水を加えることがよい。アルカリ成分や金属イオン等による結晶シリコン粒子の汚染を防止するために、純水を加えることが好ましい。
【0066】
また、研磨石は金属メディア,セラミックメディア,樹脂メディア等から成ることが好ましいが、特に金属不純物による汚染防止、及び研磨に適した硬度の点から、セラミックメディアがよい。セラミックメディアとしては、アルミナ,ムライト,シリカ,アルミナとシリカの混合物,炭化珪素,窒化珪素,ジルコニア等のセラミックスであればいずれでもよい。
【0067】
なお、メディアのサイズは、基本的には結晶シリコン粒子よりも大きいのがよいが、例えば平均粒径数mmのムライトから成るメディアに、平均粒径40μm程度の炭化珪素等から成るメディアを混合すると、研磨レートが速くなるので、好ましい。メディアの形状は、球、円柱状、円筒状、三角錐状、立方体、直方体等の種々の形状とすることができる。
【0068】
上記の研磨加工法の構成の概略を図2に示す。この研磨加工法は、結晶シリコン粒子101と研磨石202と純水203を円筒状等の容器204内に収容して、容器204をその中心軸204a周りに回転させる。そうすることによって、結晶シリコン粒子101が回転しながら純水203中で研磨石202と衝突を繰り返し、研磨される。結晶シリコン粒子101の尖頭部105は固化終端部で不純物の偏析部でもありサブグレインや結晶欠陥等の発生により結晶性の劣化を生じているので、結晶シリコン粒子101に対する荷重を大きくして長時間研磨しなくとも短時間で除去することができる。
【0069】
この場合、例えば、容器204の回転速度を50〜250rpm.とすることがよい。容器204の回転速度を上記範囲内とすることによって、尖頭部105を効率良く除去でき、また研磨石202の衝突加重を適度なものとして尖頭部105の除去のバラツキを小さくすることができ、また尖頭部以外の結晶シリコン粒子101の表面に研磨石202により欠け、割れ等が生じることを低減することができる。
【0070】
また、研磨加工にかかる時間は、尖頭部105のサイズ、容器204内における結晶シリコン粒子101、研磨石202及び純水203の各々の量によるが、5分から180分程度である。
【0071】
なお、粒径が600μm程度と大きい結晶シリコン粒子101の場合であっても、尖頭部105を選択的かつ効率的に研磨除去できる。
【0072】
結晶シリコン粒子101から尖頭部105を除去した後に、結晶シリコン粒子101の表面に付着した異物、金属イオン、及び結晶シリコン粒子101の表面に形成された微小なクラック、酸化膜等を除去するために、結晶シリコン粒子101の表面をフッ酸、フッ硝酸、苛性ソーダ等により洗浄エッチングする。次に、結晶シリコン粒子101の導電性基板107への接合に先立って、結晶シリコン粒子101の表面に第2導電型(n型)の半導体層110を、熱拡散法により形成する。n型のドーパントとしては、V族のP,As,Sb、III族のB,Al,Ga等を用い、石英からなる拡散炉にドーパントを導入しながら結晶シリコン粒子101の表面に第2導電型の半導体層110を形成する。本実施の形態においては、拡散されてn型となるV族のPを加熱した石英管に導入する熱拡散法が好適であるが、結晶シリコン粒子101をアルミニウムを含む導電性基板107上に接合した後に、結晶シリコン粒子101上に、半導体層110としてn型の非晶質シリコン層を形成してもよい。
【0073】
導電性基板107としては、アルミニウム等からなる金属基板、またはガラス,セラミック等からなる絶縁性基板等の基板の表面に導電層(金属層)を形成したものが良い。基板表面に導電層を形成する場合に、その導電層としては、好ましくは、銀,アルミニウム,銅,錫等の金属からなるものがよい。より好ましくは、表面がアルミニウム層となっている基板がよい。
【0074】
なお、以下、導電性基板107がアルミニウム基板である場合について説明する。
【0075】
導電性基板107の一主面に結晶シリコン粒子101を接合するに際して、接合部においてアルミニウムとシリコンの共晶の形成を促進させるように、結晶シリコン粒子101の上に荷重をかけて導電性基板107に押し付けながら、Al−Siの共晶温度577℃以上の温度で、窒素から成る雰囲気ガスまたは窒素及び水素から成る還元性雰囲気ガスを有する加熱炉内を通過させることによって接合する。このとき、アルミニウム基板と結晶シリコン粒子101との界面には、Al−Si共晶の接合層108が形成される。接合層108が形成されることにより、結晶シリコン粒子101とアルミニウム基板との接合強度を強いものとすることができる。
【0076】
このとき、導電性基板107の一主面への結晶シリコン粒子101の接合に先立ち、板状の治具の主面に結晶シリコン粒子101の接合位置に対応する多数の凸部を形成しておき、それらの凸部にアルミニウム−シリコン共晶粉を含むペーストを塗布し、導電性基板107の一主面の結晶シリコン粒子101の位置する箇所に、上記凸部のペーストを塗布印刷しておいてもよい。そして、結晶シリコン粒子101をアルミニウム−シリコン共晶粉のペーストに押し付けることにより、結晶シリコン粒子101の下部のみが共晶点近くで先に溶融し、アルミニウム−シリコン共晶化が開始され、アルミニウム−シリコン共晶からなる接合層108の形成領域が結晶シリコン粒子101の直下及びその近傍周囲に限定されることとなる。
【0077】
次に、結晶シリコン粒子101の隣接するもの同士の間に介在するように、導電性基板107上に透光性を有する絶縁体109を、結晶シリコン粒子101間にムラ無くコーティングする。絶縁体109は、正極と負極の分離を行うための絶縁材料からなり、例えばポリイミドを主成分とする。この絶縁材料としては他に、酸化珪素(SiO),酸化アルミニウム(Al),酸化鉛(PbO),酸化硼素(B),酸化亜鉛(ZnO)等を任意成分として含むガラスも選択可能であるが、ポリイミドは、処理温度を低く抑えることができ、弾性係数も小さく、導電性基板107と絶縁体109との熱膨張差を吸収するので、好ましい。
【0078】
また、絶縁体109は、少なくとも結晶シリコン粒子101の上部を露出させるように形成されることにより、結晶シリコン粒子101上部に形成される透光性導体層111と結晶シリコン粒子101との有効な電気的接触を可能とする。
【0079】
さらに、結晶シリコン粒子101及び絶縁体109の上に透光性導体層111を形成し、それぞれの結晶シリコン粒子101で発生した光電流を、透光性導体層111で集電できるようにする。この透光性導体層111は、錫ドープ酸化インジウム層,酸化スズ層,酸化亜鉛層等からなり、厚みを850Å程度に設定することによって反射防止効果を有するようにできる。
【0080】
透光性導体層111は、量産に適した信頼性の高い膜質を得るには、スパッタリング法で形成するのが通常であるが、CVD法、ディップ法、電析法等により形成することでもできる。透光性導体層111は、第2導電型の半導体層110上に上部電極として形成されるとともに絶縁体109上にも形成され、個々の結晶シリコン粒子101から構成される光電変換素子を並列に接続することができる。
【0081】
その後、透光性導体層111とグリット電極(集電極)112との間の直列抵抗値を低くするために、透光性導体層111上に銀ペースト等をくし状に塗布してグリット電極(集電極)112とすることにより、光電変換素子が得られる。このようにして、導電性基板107を一方の電極にし、透光性導体層111をもう一方の電極とすることにより、多数の結晶シリコン粒子101(多数の光電変換素子)から構成される太陽電池等としての光電変換装置が得られる。
【0082】
以上より、上記の本発明の光電変換装置は、光電変換特性を低下させていた結晶シリコン粒子表面の尖頭部を選択的に低コストに除去することにより、高い変換効率を得ることができる。
【実施例】
【0083】
本発明の結晶シリコン粒子の製造方法及び光電変換装置の実施例を以下に説明する。
【0084】
Arガスから成る不活性雰囲気ガス中で、坩堝にシリコン原料を充填して昇温し溶解したシリコンの融液を、坩堝の下端部に形成されたノズル部のノズル孔より噴出させて固化させる方法、いわゆる溶融落下法(ジェット法)により、涙滴形の擬似単結晶から成るp型の結晶シリコン粒子を作製した。なお、p型のドーパントとして、結晶シリコン粒子にホウ素を含有させた。また、結晶シリコン粒子の球径は約500μmとした。
【0085】
涙滴形の擬似単結晶から成る結晶シリコン粒子を形成するために、粒状のシリコン融液が落下する石英製の落下管の途中に抵抗加熱式のヒーターを設けて、坩堝から排出された直後の粒状のシリコン融液の過冷却度が64℃程度(粒状のシリコン融液の温度が1350℃程度)となるように制御した。これにより、粒状のシリコン融液に結晶核が数個のみ発生し、粒界が数個しかない擬似単結晶粒子が得られた。
【0086】
図4(a)〜(d)に、結晶シリコン粒子の断面をJIS規格Bエッチング液(HF:HNO:CHCOOH:HO=1:12.7:3:5.7(容積比))によりエッチングした結果と、断面内の炭素と窒素の不純物濃度をSIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy:2次イオン質量分析)法で分析した結果を示す。図4より、固化終端部である尖頭部において偏析した不純物が変色部として観察できる。また、結晶シリコン粒子の尖頭部の表面から深さ20μm以上の部位を除去すれば、不純物が高濃度に偏析した不純物偏析部(変色部)が大幅に低減できることが判る。なお、図4において、(a),(b)は2個の結晶シリコン粒子のそれぞれについて炭素濃度を示す断面図であり、(c),(d)は2個の結晶シリコン粒子のそれぞれについて窒素濃度を示す断面図である。また、atoms/ccは、1cc(1cm3)当りの原子数を表す。
【0087】
次に、不純物が偏析した尖頭部を有する涙滴形の擬似単結晶化された結晶シリコン粒子とムライトメディアとしての研磨石と純水とを、円筒状の容器内に収容して、回転数200rpm.で60分間回転させることにより、結晶シリコン粒子の尖頭部の表面から深さ20μmまでの部位を研磨除去した。
【0088】
この後、結晶シリコン粒子の表面に付着した異物、金属イオン、及び結晶シリコン粒子の表面に形成された微小なクラック、酸化膜等を除去するために、結晶シリコン粒子の表面をフッ酸及びフッ硝酸により洗浄しエッチング処理を行った。エッチング処理による除去は、結晶シリコン粒子の表面から約5μm深さの部分まで行った。
【0089】
次に、結晶シリコン粒子を単結晶化させるために、再溶融工程(リメルト工程)を実施した。即ち、石英製の台板上に多数の結晶シリコン粒子を重層的に載置し、結晶シリコン粒子が完全に溶融する融点(1414℃)以上の約1440℃まで昇温し、融点未満の温度で台板側からゆっくりと結晶シリコン粒子を上方に向かって固化させるとともに、上下方向に隣接する結晶シリコン粒子を連鎖的に固化させることによって、単結晶化を行って結晶性を高めた。
【0090】
次に、結晶シリコン粒子を石英ボートに載せて加熱することにより、結晶シリコン粒子の表層部にリン不純物を熱拡散させ、結晶シリコン粒子の表層部に約1μmの厚さのn型の半導体層(n型の半導体部)を形成した。
【0091】
次に、導電性基板として、厚み300μmの高純度(純度99.9重量%)のアルミニウム基板を用い、その一主面上に上記結晶シリコン粒子を多数載置した。
【0092】
次に、多数の結晶シリコン粒子を載置したアルミニウム基板を、窒素ガス及び水素ガスからなる還元性雰囲気ガスを用いた加熱炉中に設置し、アルミニウム基板上の結晶シリコン粒子上に載置した加圧ブロックを、アルミニウム−シリコンの共晶温度以上の600℃に加熱しつつ加圧した。このとき、アルミニウム基板の一主面の結晶シリコン粒子が載置される個所に予め塗布しておいたアルミニウム−シリコン共晶粉末が溶融し、アルミニウム基板と結晶シリコン粒子との間に共晶部(接合部)が形成され、結晶シリコン粒子をアルミニウム基板上に強固に接合した。これにより、結晶シリコン粒子はアルミニウム基板に、充分な接着強度を有する電気的にオーミックな接合部によって接合された。
【0093】
次に、結晶シリコン粒子が配設された導電性基板上に、結晶シリコン粒子の間にポリイミドからなる絶縁体を約100μmの厚みになるように塗布し、窒素ガスから成る雰囲気ガス中で200℃で30分乾燥させた後、350℃で1時間焼成し、絶縁体層を形成した。
【0094】
これらの結晶シリコン粒子上の全面に、透光性導体層としてのITO層を、スパッタリング法により、アルミニウム基板の温度を190℃として、85nmの厚みで形成した。
【0095】
最後に、透光性導電層上に、銀ペーストをディスペンサーでグリッド状にパターン形成して、大気中250℃で焼成することにより、上部電極としてのフィンガー電極及びバスバー電極を形成し、光電変換装置を作製した。
【0096】
この光電変換装置について、電気特性をAM1.5のソーラーシミュレーターで評価した結果、10.4%の光電変換効率を得ることができた。
【0097】
[比較例]
結晶シリコン粒子に尖頭部を除去するための研磨加工を施すことなく、その他の工程は上記実施例1と同様として製造した光電変換装置について、電気特性をAM1.5のソーラーシミュレーターで評価した。その結果、6.1%の光電変換効率しか得られなかった。結晶シリコン粒子に形成された不純物偏析部である尖頭部に起因するリーク電流が原因と考えられる曲線因子の低下が、その主な理由であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の結晶シリコン粒子の製造方法について実施の形態の一例を示し、研磨工程に用いる研磨装置の模式的な断面図である。
【図2】本発明の結晶シリコン粒子の製造方法について実施の形態の他例を示し、研磨工程に用いる研磨装置の模式的な断面図である。
【図3】本発明の光電変換装置について実施の形態の一例を示す断面図である。
【図4】(a)〜(d)はそれぞれ本発明の結晶シリコン粒子の製造方法の実施例を示し、結晶シリコン粒子の断面をエッチングした結果の断面図であり、数値は断面内の炭素(C)と窒素(N)の不純物濃度である。
【符号の説明】
【0099】
101:結晶シリコン粒子
102:下側基板
103:上側基板
104:研磨布
105:尖頭部
107:導電性基板
108:接合層
109:絶縁体
110:半導体層(半導体部)
111:透光性導体層
112:上部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
坩堝のノズル部からシリコン融液を粒状に排出し、この粒状のシリコン融液を冷却して凝固させることによって、不純物が偏析した尖頭部を有する擬似単結晶化された結晶シリコン粒子を製造し、次に前記結晶シリコン粒子の前記尖頭部を除去する結晶シリコン粒子の製造方法。
【請求項2】
擬似単結晶化された前記結晶シリコン粒子を製造する際に、坩堝のノズル部から排出された粒状のシリコン融液の過冷却度を自然放冷時の過冷却度よりも小さい弱過冷却度とすることによって、擬似単結晶化された前記結晶シリコン粒子を製造する請求項1記載の結晶シリコン粒子の製造方法。
【請求項3】
前記尖頭部は、前記不純物として炭素及び窒素のうちの少なくとも一種を含む請求項1または2記載の結晶シリコン粒子の製造方法。
【請求項4】
前記尖頭部は、前記不純物として金属を含む請求項1または2記載の結晶シリコン粒子の製造方法。
【請求項5】
前記結晶シリコン粒子の前記尖頭部を除去する際に、前記尖頭部の表面から深さ20μm以上の部位を除去する請求項1乃至4のいずれか記載の結晶シリコン粒子の製造方法。
【請求項6】
前記結晶シリコン粒子の前記尖頭部の表面から深さ20μmまでの部位における炭素濃度が前記結晶シリコン粒子の中心部の炭素濃度の30倍以上である請求項5記載の結晶シリコン粒子の製造方法。
【請求項7】
前記結晶シリコン粒子の前記尖頭部の表面から深さ20μmまでの部位における窒素濃度が前記結晶シリコン粒子の中心部の窒素濃度の200倍以上である請求項5記載の結晶シリコン粒子の製造方法。
【請求項8】
前記結晶シリコン粒子の前記尖頭部を除去した後に、前記結晶シリコン粒子を再溶融し固化させることによって単結晶化する請求項1乃至7のいずれか記載の結晶シリコン粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−126726(P2009−126726A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300890(P2007−300890)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】