説明

絶縁劣化検知装置及び車載高電圧系統

【課題】簡易な構成により、絶縁劣化の発生検知及び絶縁劣化箇所の特定を容易に行うこと。
【解決手段】電力ラインL上に設けられ、インピーダンス成分を有するコイル11と、電力ラインL上において、コイル11よりも車載コンポーネント2側に設けられた接続点P1と車体アースとの間に直列的に接続されたコンデンサ12および電圧検出用抵抗13と、コンデンサ12および電圧検出用抵抗13と直列に接続されるとともに、コンデンサ12およびコイル11とで決定される共振周波数よりも高い周波数の電圧を印加する発振源14と、電圧検出用抵抗13の両端電圧を検出する電圧検出部15と、電圧検出部15によって検出された両端電圧に基づいて、車載コンポーネント2の絶縁劣化を判定する判定部16とを具備する絶縁劣化検知装置3を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁劣化を検知する絶縁劣化検知装置及び車載高電圧系統に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、150V系統、300V系統等の高電圧で駆動される車両用電動コンプレッサや車両用インバータは、車両シャーシに対して絶縁されたバッテリや電源回路等により駆動される。また、一般的な車両用電装品は、12V系統または24V系統のバッテリで駆動され、そのN極側は車両シャーシに接続されている。
高電圧のP極またはN極に何らかの不具合等が発生することにより、車両シャーシとの絶縁劣化が発生した場合、車両乗客員が感電する可能性がある。そのため、高電圧系統に接続されているコンポーネント類や車両全体を取りまとめているシステム系統における絶縁劣化監視が提案されている。
従来の絶縁劣化検出方法や漏電検出方法として、抵抗分圧による検出方法(例えば、特許文献1参照)、コンデンサカップリング方式またはインピーダンス方式(例えば、特許文献2参照)等が提案されている。しかしながら、このような方法では、絶縁劣化が発生している箇所を特定できないというという問題があった。
また、上記問題を解消する方法として、例えば、車両高電圧システムの上位側で各コンポーネントにリレーまたはコンタクタ等のスイッチング素子を接続し、このスイッチング素子を順番にオン/オフすることで、絶縁劣化が発生しているコンポーネントを特定する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−320352号公報
【特許文献2】特開平11−122702号公報
【特許文献3】特開2007−157631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献3の方法では、絶縁劣化の検知およびその発生源の特定が可能となるが、それを実現するための装置構成が煩雑であり、部品点数の増大、重量増加、コストアップ、システムソフトウェアの煩雑化等が懸念される。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、簡易な構成により、絶縁劣化の発生検知及び絶縁劣化箇所の特定を容易に行うことのできる絶縁劣化検知装置及び車載高電圧系統を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、車両に搭載され、該車両の車体アースから絶縁された車載電源システムと、前記車載電源システムから電力ラインを介して電力が供給されるとともに、前記車体アースから絶縁された少なくとも1つの車載コンポーネントとを備える車載高電圧系統に適用される絶縁劣化検知装置であって、前記電力ライン上に設けられ、インピーダンス成分を有する第1素子と、前記電力ライン上において、前記第1素子よりも前記車載コンポーネント側に設けられた接続点と前記車体アースとの間に直列的に接続されたコンデンサおよび電圧検出用抵抗と、前記コンデンサおよび前記電圧検出用抵抗と直列に接続されるとともに、前記コンデンサおよび前記第1素子とで決定される共振周波数よりも高い周波数の電圧を印加する発振源と、前記電圧検出用抵抗の両端電圧を検出する電圧検出部と、前記電圧検出部によって検出された前記電圧検出用抵抗の両端電圧に基づいて、前記車載コンポーネントの絶縁劣化を判定する判定部とを具備する絶縁劣化検知装置を提供する。
【0007】
このような構成によれば、電力ラインにはインピーダンス成分を有する第1素子が設けられ、更に、電力ラインにおいて第1素子よりも車載コンポーネント側の接続点と車両アースとの間にはコンデンサ、電圧検出用抵抗、及び発振源が直列的に接続されている。このため、発振源から共振周波数よりも高い周波数の電圧が印加されると、第1素子の作用により、車載コンポーネント側と車載電源システム側とが電気的に分離され、車載コンポーネント側における絶縁状態に依存する電流のみが電圧検出用抵抗に流れることとなる。従って、電圧検出用抵抗の両端電圧を検出することにより、車載コンポーネント側の絶縁劣化を車載電源システム側から独立した形で検知することが可能となる。よって、簡易な構成により、車載コンポーネントの絶縁劣化を検知することができるとともに、絶縁劣化箇所の特定を容易に行うことが可能となる。
【0008】
上記絶縁劣化検知装置において、前記発振源は、前記共振周波数よりも高い周波数の電圧と、該共振周波数よりも低い周波数の電圧とを切り替えて印加し、前記判定部は、前記発振源から印加される電圧の周波数が共振周波数よりも高い場合に前記車載コンポーネント側の絶縁劣化を検知し、前記共振周波数よりも低い場合に前記車載電源システム側の絶縁劣化を検知することとしてもよい。
【0009】
上記発振源から共振周波数よりも低い周波数の電圧が印加された場合には、車載コンポーネント側だけでなく、車載電源システム側の絶縁状態にも依存する電流が流れることとなる。ここで、上述したように、車載コンポーネント側における絶縁劣化については、共振周波数よりも高い周波数の電圧を印加すれば検知できるため、車載コンポーネント側における絶縁劣化の判定結果も加味することにより、車載電源システムの絶縁劣化についても判定することが可能となる。
このように、上記構成によれば、発振源から出力する周波数を切り替えるだけで、車載電源システム側と車載コンポーネント側の両方における絶縁劣化を容易に判定することができる。
【0010】
上記絶縁劣化検知装置において、前記判定部は、前記車載コンポーネント側の絶縁劣化を検知するための第1の電圧閾値と、車載電源システム側の絶縁劣化を検知するための第2の電圧閾値とを保有しており、前記発振源から印加される電圧の周波数に応じて上記電圧閾値を切り替え、切り替えた電圧閾値と前記電圧検出部によって検出された両端電圧とを比較することにより、絶縁劣化を検知することとしてもよい。
【0011】
このように、発振源から印加される電圧の周波数に応じて、電圧閾値を切り替えることにより、車載電源システム側と車載コンポーネント側の両方における絶縁劣化を簡易な処理でかつ正確に判定することができる。
【0012】
上記絶縁劣化検知装置において、前記第1素子はコイルであることが好ましい。
第1素子としてコイルを採用することにより、第1素子として抵抗を使用する場合と比べて、電力損失を大幅に低減することができる。
【0013】
上記車載コンポーネントが、三相交流モータと、前記車載電源システムからの直流電力を3相交流電力に変換して前記三相交流モータに供給するインバータと、前記インバータを駆動制御するインバータ制御回路とを備える車載空調装置のインバータ一体型電動コンプレッサである場合において、上記絶縁劣化検知装置における前記判定部は、前記インバータ一体型電動コンプレッサ側における絶縁劣化の判定結果を前記インバータ制御回路に出力することとしてもよい。
【0014】
このように、インバータ制御回路に対してインバータ一体型電動コンプレッサの絶縁劣化を通知することにより、漏電防止のための適切な対処を迅速に実施させることが可能となる。
【0015】
また、前記インバータ一体型電動コンプレッサが、前記インバータよりも前記車載電源システム側の電力ラインに設けられたコイルを備える場合において、前記コイルを絶縁劣化検知装置の前記第1素子として使用することとしてもよい。
【0016】
このように、インバータ一体型電動コンプレッサがもともと備える構成を絶縁劣化検知装置にも流用することにより、部品点数を削減することができ、コストダウンを図ることができる。
【0017】
本発明は、上記いずれかの絶縁劣化検知装置を備える車載高電圧系統を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、簡易な構成により絶縁劣化の発生検知及び絶縁劣化箇所の特定を行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る車載高電圧系統の概略構成を示した図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る絶縁劣化検知装置の電圧検出部及び判定部の具体的な回路構成の一例を示した図である。
【図3】発振源から共振周波数よりも大きい周波数の電圧が印加された場合に、電流が流れるループを示した図である。
【図4】絶縁劣化検知装置を車載空調装置のインバータ一体型電動コンプレッサに適用した場合の車載高電圧系統を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係る絶縁劣化検知装置及び車載高電圧系統の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る車載高電圧系統の概略構成を示した図である。図1に示されるように、車両には車体アース(本実施形態では、車両シャーシ)から絶縁された車載電源システム1と、車載電源システム1から電力ラインLを介して電力が供給されるとともに、車体アースから絶縁された少なくとも1つの車載コンポーネント2とが搭載されている。
【0021】
車載電源システム1は、例えば、少なくとも50V以上の高電圧を車載の所定のコンポーネントに供給する直流電源であり、例えば、150V系統や300V系統における電源システムをいう。この車載電源システム1は、例えば、上位側絶縁抵抗21を介して車体アースに接続されている。
【0022】
車載コンポーネント2は、車載電源システム1からの高電圧の供給を受けて作動する電子機器である。車載コンポーネント2は、例えば、コンポーネント側絶縁抵抗20を介して車体アースに接続されている。
また、実際には、車載電源システム1から高電圧の供給を受けて作動する電子機器は複数存在するが、ここでは、絶縁劣化検知の対象となる一の電子機器を車載コンポーネント2として定義し、その他の電子機器については車載コンポーネント2よりも上位側にあるといえることから上位コンポーネントと定義する。
【0023】
車載電源システム1から車載コンポーネント2への電力供給は、電力ラインLを通じて行われる。図1では、電力ラインLは、1本しか図示されていないが、実際はP極側電力ラインLpとN極側電力ラインLn(例えば、図4参照)の2本が存在している。
【0024】
本実施形態に係る絶縁劣化検知装置3は、車載コンポーネント2自身の絶縁劣化と車載コンポーネント2よりも電気的に上位に存在する上位システム(ここでは、車載電源システム1および車載電源システム1に接続される他のコンポーネントをいう。)に発生した絶縁劣化とをそれぞれ独立して検知できることを特徴としている。
【0025】
具体的には、絶縁劣化検知装置3は、電力ラインL上に設けられたコイル(第1素子)11、電力ラインL上において、コイル11よりも車載コンポーネント2側に設けられた接続点P1と車体アースとの間に直列的に接続されたコンデンサ12、電圧検出用抵抗13、及び発振源14を備えている。
ここで、コイル11は、P極側電力ライン及びN極側電力ラインのいずれに設けられていてもよいが、ここでは、コイル11が設けられている方の電力ラインを電力ラインLとしている。
【0026】
上記電圧検出用抵抗13の両端には、電圧検出用抵抗13の両端電圧を検出するための電圧検出部15が設けられている。さらに、電圧検出部15には、電圧検出部15によって検出された電圧検出用抵抗13の両端電圧並びに発振源14から印加される電圧の周波数に基づいて、車載コンポーネント2側の絶縁劣化及び車載電源システム1側、換言すると、コンポーネント上位側の絶縁劣化をそれぞれ独立して判定する判定部16が接続されている。
【0027】
このような構成を備える車載高電圧系統において、発振源14からみた図1の系統全体のインピーダンスZallは、以下の(1)式で表わされる。
【0028】
Zall=Zs+Z1・(Z2+Zpn)/(Z1+Z2+Zpn) (1)
Zs=Rs+1/(2π・fs・Cs)
【0029】
上記(1)式において、Z1はコンポーネント側絶縁抵抗20のインピーダンス、Z2は上位側絶縁抵抗21のインピーダンス、Zpnはコイル11のインピーダンスである。Rsは、電圧検出用抵抗の抵抗値、fsは発振源14の電圧周波数、Csはコンデンサ12の静電容量である。なお、コイルのインピーダンスは、Zpn=2π・fs・Lpnで表わされ、コイル11のインダクタンスLpn及び周波数fsを調整することで可変とすることができる。
【0030】
周波数fsが、コイル11のインダクタンスLpnとコンデンサ12の静電容量(キャパシタンス)Csとで決まる共振周波数fよりも高い周波数の場合には、上記(1)式においてZpnの値が非常に大きくなることから、車載高電圧系統に流れる電流のループは、図3に示すように車載コンポーネント2側のみとなり、上記(1)式は、以下の(2)式で表わされる。なお、以降の式において、上記Z1,Z2は抵抗成分が主であるとし、それぞれをR1,R2とおく。
【0031】
fs>>fの場合
Zall_H=Rs+R1 (2)
【0032】
また、周波数fsが共振周波数fよりも低い周波数の場合には、上記(1)式においてZpnの値がほぼゼロになるとともに、また、この場合には、車載電源システム1側および車載コンポーネント2側の両方に絶縁状態に応じた電流が流れることから、上記(1)式は、以下の(3)式で表わされる。
【0033】
fs<<fの場合
Zall_L={Rs+1/(2π・fs・Cs)}+{R1・R2/(R1+R2)} (3)
【0034】
ここで、図1に示した系統において、コンポーネント側絶縁抵抗20または上位側絶縁抵抗21のいずれかに絶縁劣化が生じていた場合、電力系統内には発振源14から印加される電圧VsとインピーダンスZallに応じた電流が流れることとなるので、電圧検出用抵抗Rsの両端電圧Vrsを用いて、Zallは以下の(4)式のように表わされる。
【0035】
Vrs=Rs・Vs/Zall
Zall=Rs・Vs/Vrs (4)
【0036】
上記(4)式および(2)式からR1は、以下の(5)式で表わされる。
【0037】
R1=Rs(Vs/Vrs−1) (5)
また、上記R1を上記(3)式に代入すれば、R2についても容易に求められる。
【0038】
このように、R1、R2の値は、発振源14から出力される電圧Vsおよび絶縁劣化検知装置3を構成する各素子のパラメータ等から容易に求められる。
ここで、本実施形態に係る絶縁劣化検知装置3が目的とするところは、コンポーネント側絶縁抵抗20の抵抗値R1および上位側絶縁抵抗21の抵抗値R2を正確に求めることではなく、これらの抵抗値R1およびR2が規定の抵抗閾値(例えば、10MΩ)よりも低下しているか否か、つまり、絶縁劣化が生じているか否かを判定することである。
【0039】
従って、本実施形態では、抵抗値R1,R2を算出して、この抵抗値R1、R2を抵抗閾値と比較するのではなく、これよりも更に簡単に絶縁劣化を検知するために、絶縁劣化が生じていると判定される規定の抵抗閾値(例えば10MΩ)に相当する電圧閾値Vrefを上記演算式を用いて決定し、この電圧閾値Vrefと電圧検出部15によって検出された電圧Vrsとを比較することにより、絶縁劣化の判定を行うこととした。
このように、電圧閾値Vrefを用いることで、電圧検出部15によって検出された電圧Vrsをそのまま用いて絶縁劣化の判定が行えるので、簡素な回路構成あるいは簡易な演算処理によって絶縁劣化の判定を実現させることができる。
【0040】
例えば、上記コンポーネント側絶縁抵抗20が10MΩよりも小さくなった場合に、絶縁劣化が発生したと判定する場合、上記(5)式は以下の(6)式で表わされる。
【0041】
R1=Rs(Vs/Vrs−1)<10MΩ (6)
【0042】
上記(6)式からVrsの閾値は、以下の(7)式で表わされる。
Vrs>Vs・Rs/(Rs+10MΩ)=Vref_H (7)
【0043】
つまり、電圧検出用抵抗13の両端電圧Vrsが上記電圧閾値Vref_Hよりも大きい場合には、コンポーネント側絶縁抵抗20の抵抗値R1が抵抗閾値よりも小さいと判断できることから、判定部16は絶縁劣化を検知する。なお、上位側絶縁抵抗21についても同様に、電圧閾値Vref_Lの算出、比較が行われる。
【0044】
次に、図2を用いて、電圧検出部15および判定部16についてより詳しく説明する。図2は、電圧検出部15および判定部16の具体的な回路構成の一例を示した図である。
図2に示すように、電圧検出部15により電圧検出用抵抗13を流れる電流が電圧に変換され、更に、増幅およびノイズ低減が施された後に判定部16に出力される。
【0045】
判定部16は、例えば、上記(7)式の方法を用いて算出された車載コンポーネント側の絶縁劣化を検知するための第1電圧閾値Vref_Hと、車載電源システム側の絶縁劣化を検知するための第2電圧閾値Vref_Lとを有しており、発振源14から出力された電圧周波数fsが共振周波数fよりも高い場合に、第1電圧閾値Vref_Hを選択し、発振源14から出力された電圧周波数fsが共振周波数fよりも低い場合に、第2電圧閾値Vref_Lを選択する。
【0046】
判定部16は、電圧検出部15から出力された端子間電圧Vrsと選択した電圧閾値とを比較することで絶縁劣化を検知し、検知結果に応じた信号、例えば、絶縁劣化の場合にはH信号、絶縁劣化が生じてない場合にはL信号を出力する。判定部16から出力された信号は、例えば、アイソレータを介して車載コンポーネント2の制御回路や車載電源システム1の制御回路等へ送られ、絶縁劣化の有無が通知される。
【0047】
次に、本実施形態に係る絶縁劣化検知装置3の作用について説明する。
まず、発振源14により共振周波数fよりも大きい周波数の電圧が印加される。コンポーネント側絶縁抵抗20による絶縁が十分でない場合、コンポーネント側絶縁抵抗20の抵抗値R1に応じた電流が図3に示すようなループで流れ、電圧検出用抵抗13の両端電圧Vrsが電圧検出部15によって検出される。電圧検出部15により検出された両端電圧Vrsは、判定部16において電圧閾値Vref_Hと比較され、比較結果に応じた信号がアイソレータを介して車載コンポーネント2側の制御回路(図示略)に通知される。
【0048】
このようにして、車載コンポーネント側の絶縁劣化検知が終了すると、続いて、発振源14により共振周波数fよりも小さい周波数の電圧が印加される。いずれかの絶縁抵抗20,21による絶縁が十分でない場合等には系統内に電流が発生し、電圧検出用抵抗13の両端に電圧が発生する。電圧検出用抵抗13の両端電圧Vrsは電圧検出部15によって検出されて、判定部16に出力され、電圧閾値Vref_Lと比較され、比較結果に応じた信号がアイソレータを介して車載電源システム1側へ通知される。
【0049】
以上、説明してきたように、本実施形態に係る絶縁劣化検知装置3によれば、簡易な構成により、車載コンポーネント2側と車載電源システム1側とで発生した絶縁劣化をそれぞれ独立に検知することが可能となる。これにより、絶縁劣化の発生箇所を簡易な構成により容易に特定することができる。
【0050】
なお、上記実施形態において、コイル11に代えて抵抗を用いることとしてもよい。ただし、コイル11をインピーダンス成分として用いることで、以下のようなメリットがある。例えば、コイル11に代えて抵抗を電源ラインLに接続した場合、電源ラインLには直流成分の電流Ipnが流れているため、電圧降下と電力損失が発生する。流れる電流Ipnの値が大きいほど、これらの損失は顕著となる。これに対し、コイル11は、内部抵抗成分が抵抗に比べて非常に低いため、コイルをインピーダンス成分として用いることで、車載コンポーネント2の通常運転時における電圧低下、電力損失を抑制することが可能となる。また、発振源14の周波数fs、コイル11のインダクタンスLpnを大きくすることにより、コイル11におけるインピーダンス成分Zpnを大きくすることができるので、車載コンポーネント2側と車載電源システム1側とをより明確に電気的に分離することが可能となる。
Zpn=2π・fs・Lpn
【0051】
また、上述したように、本実施形態に係る絶縁劣化検知装置3は、あくまでも絶縁劣化が生じているか否かを判定することを目的としているため、それぞれの絶縁抵抗20、21の抵抗値R1,R2を正確に算出することを必要としないが、例えば、上述した電圧検出用抵抗13の端子間電圧Vrsと電圧閾値との比較による絶縁劣化の検知に代えて、車載電源システム1側における絶縁抵抗21の抵抗値R2および車載コンポーネント2側における絶縁抵抗20の抵抗値R1を算出するための演算式を判定部16が有しており、これら演算式を用いて抵抗値R1、R2をそれぞれ算出し、これらの算出結果と規定の抵抗閾値(例えば、10MΩ)とを比較することにより、絶縁劣化を検知することとしてもよい。
【0052】
なお、本実施形態においては、絶縁劣化検知装置3のコンデンサ12、電圧検出用抵抗13、及び発信源14の配置順序は、図4に示されるように接続点P1側から順に、コンデンサ12、電圧検出用抵抗13、発信源14として説明していたが、これに限定されない。例えば、接続点P1側から順に電圧検出用抵抗13、コンデンサ12、発信源14のように配置して構成する場合には、電圧検出用抵抗13は、コンデンサ12により車両シャーシに対して電気的に分離されていることとなるので、判定部16からは絶縁せずに、直接車載コンポーネント2に電気信号を送ることが可能となる。または、例えば、接続点P1側から順に電圧検出用抵抗13、発信源14、コンデンサ12のように配置して構成する場合には、発信源14も車両シャーシに対して電気的に分離されるので、発信源14及び判定部16を車載コンポーネント2と電気的に分離せずに回路を構成することができる。
【0053】
〔適用例〕
次に、上述した絶縁劣化検知装置3を車載空調装置のインバータ一体型電動コンプレッサに適用した場合について説明する。
図4は、絶縁劣化検知装置3を車載空調装置のインバータ一体型電動コンプレッサ30に適用した場合の車載高電圧系統を示した図である。
【0054】
図4に示すように、車載空調装置のインバータ一体型電動コンプレッサ30は、3相交流モータ31、インバータ32、インバータ制御回路33、フィルタ部34、コモンモードコイル35等を備えている。このような構成において、車載電源システム1からの出力は、P極側電力ラインLpまたはN極側電力ラインLnを介して最終的に三相交流モータ3に供給される。具体的には、車載電源システム1からの出力は、コモンモードコイル35、フィルタ部34を介してインバータ32に供給される。インバータ32において直流電力は三相交流電力に変換され、三相交流モータ31に供給される。
【0055】
このようなシステムにおいて、絶縁劣化検知装置3は、N極側電力ラインLnに接続されている。ここで、コイル11として、インバータ一体型電動コンプレッサ30が備えるコモンモードコイル35を流用し、コモンモードコイル35よりも下流側、換言すると、三相交流モータ31側に接続点P1を設けて、この接続点P1と車両シャーシとの間にコンデンサ12、電圧検出用抵抗13、及び発振源14を直列的に接続する。このように、コイル11として、インバータ一体型電動コンプレッサ30がもともと備えている構成を流用することにより、部品点数を削減することができ、コストダウンを図ることができる。
【0056】
このような構成において、絶縁劣化検知装置3の作動時には、発振源14から所定の周波数の電圧が印加され、電圧検出部15により電圧検出用抵抗13の両端電圧Vrsが検出され、これに基づいて絶縁劣化の判定が判定部16によって行われる。
車載コンポーネント2(図1参照)である一体型電動コンプレッサ30側に絶縁劣化が発生していた場合、判定部16からの絶縁劣化検知信号は、インバータ32を駆動制御するインバータ制御回路33に出力される。インバータ制御回路33は、絶縁劣化が通知されると、インバータ32の運転モードを漏電保護モードに切り替える。漏電保護モードは、絶縁劣化が検知された場合に実行される運転モードであり、例えば、電動コンプレッサの停止、或いは漏電電流が規定値以下になるまで三相交流モータ31の回転数を下げる等の動作が実施される。
【0057】
絶縁劣化が検知された場合に、このような電動コンプレッサで実現可能な保護動作を実施することにより、絶縁劣化による被害を効果的に抑えることができる。
また、車載電源システム1側に絶縁劣化が生じていた場合には、判定部16から車載電源システム1側の制御装置(図示略)に絶縁劣化を通知する信号が出力される。これにより、車載電源システム1側の制御装置は、車載電源システム1から電力供給を受けている車載コンポーネント(上位コンポーネント)に対して運転停止信号を出力したり、安全確保運転の実施を指示する信号を出力したりする。また、車両全体の高電圧系統を遮断する制御を実施するとともに、車両乗務員に対して絶縁劣化を通知する。このような制御を行うことにより、漏電による被害を効果的に抑制することができる。
【0058】
また、車載コンポーネント2側における絶縁劣化が検知された場合に、判定部16が車載電源システム1側にもその絶縁劣化を通知してもよいし、逆に、車載電源システム1側における絶縁劣化が検知された場合に、判定部16がその絶縁劣化を車載コンポーネント2側に通知することとしてもよい。これにより、車載高電圧系統のどこかで絶縁劣化が生じた場合に、該車載高圧系統に接続されている各機器がその絶縁劣化に適切に対処することが可能となり、漏電による被害をさらに低減させることが可能となる。
【0059】
なお、絶縁劣化検知装置3による絶縁劣化検知は、例えば、周期的に所定の時間間隔で行われてもよいし、車載コンポーネント2の運転停止時に行われてもよい。また、車両のエンジンを停止する直前に行われてもよい。
特に、上述したインバータ一体型電動コンプレッサ30の絶縁劣化を検知する場合には、電動コンプレッサの停止時に絶縁劣化検知を行うことが好ましい。これにより、三相交流モータ31からの交流による誤動作を低減することができる。
また、絶縁劣化の有無の情報は、例えば、CAN(Controller Area Network)、LIN(Local Interconnect Network)、MOST(Media Oriented Systems Transport)、FlexRay等の通信プロトコルが使用され、上位システムに通知される。
【符号の説明】
【0060】
1 車載電源システム
2 車載コンポーネント
3 絶縁劣化検知装置
11 コイル
12 コンデンサ
13 電圧検出用抵抗
14 発振源
15 電圧検出部
16 判定部
20 コンポーネント側絶縁抵抗
21 上位側絶縁抵抗
30 インバータ一体型電動コンプレッサ
31 3相交流モータ
32 インバータ
33 インバータ制御回路
34 フィルタ部
35 コモンモードコイル
L 電力ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、該車両の車体アースから絶縁された車載電源システムと、前記車載電源システムから電力ラインを介して電力が供給されるとともに、前記車体アースから絶縁された少なくとも1つの車載コンポーネントとを備える車載高電圧系統に適用される絶縁劣化検知装置であって、
前記電力ライン上に設けられ、インピーダンス成分を有する第1素子と、
前記電力ライン上において、前記第1素子よりも前記車載コンポーネント側に設けられた接続点と前記車体アースとの間に直列的に接続されたコンデンサおよび電圧検出用抵抗と、
前記コンデンサおよび前記電圧検出用抵抗と直列に接続されるとともに、前記コンデンサおよび前記第1素子とで決定される共振周波数よりも高い周波数の電圧を印加する発振源と、
前記電圧検出用抵抗の両端電圧を検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部によって検出された前記電圧検出用抵抗の両端電圧に基づいて、前記車載コンポーネント側の絶縁劣化を判定する判定部と、
を具備する絶縁劣化検知装置。
【請求項2】
前記発振源は、前記共振周波数よりも高い周波数の電圧と、該共振周波数よりも低い周波数の電圧とを切り替えて印加し、
前記判定部は、前記発振源から印加される電圧の周波数が共振周波数よりも高い場合に前記車載コンポーネント側の絶縁劣化を検知し、前記共振周波数よりも低い場合に前記車載電源システム側の絶縁劣化を検知する請求項1に記載の絶縁劣化検知装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記車載コンポーネント側の絶縁劣化を検知するための第1の電圧閾値と、車載電源システム側の絶縁劣化を検知するための第2の電圧閾値とを保有しており、前記発振源から印加される電圧の周波数に応じて上記電圧閾値を切り替え、切り替えた電圧閾値と前記電圧検出部によって検出された両端電圧とを比較することにより、絶縁劣化を検知する請求項2に記載の絶縁劣化検知装置。
【請求項4】
前記第1素子はコイルである請求項1から請求項3のいずれかに記載の絶縁劣化検知装置。
【請求項5】
前記車載コンポーネントが、三相交流モータと、前記車載電源システムからの直流電力を3相交流電力に変換して前記三相交流モータに供給するインバータと、前記インバータを駆動制御するインバータ制御回路とを備える車載空調装置のインバータ一体型電動コンプレッサである場合において、前記判定部は、前記インバータ一体型電動コンプレッサ側における絶縁劣化の判定結果を前記インバータ制御回路に出力する請求項1から請求項4のいずれかに記載の絶縁劣化検知装置。
【請求項6】
前記インバータ一体型電動コンプレッサが、前記インバータよりも前記車載電源システム側の電力ラインに設けられたコイルを備える場合において、前記コイルを前記第1素子として使用する請求項1から請求項5のいずれかに記載の絶縁劣化検知装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の絶縁劣化検知装置を備える車載高電圧系統。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−145254(P2011−145254A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8176(P2010−8176)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】