説明

繊維強化プラスチックの脱型方法、製造方法

【課題】FRPの成形において脱型時間を短縮して成形全体にかかる時間の短縮を図るほか、成形体が薄いものであったり、サンドイッチ構造を含むものであったりしても成形体の意匠面を傷つけずに、脱型装置およびFRPの成形方法を提供すること。
【解決手段】成形された繊維強化プラスチックを成形型から取り出す脱型方法であって、前記成形型もしくは該成形型に設置されたシリンダーに収納された稼動可能なエジェクターピンによって、前記繊維強化プラスチックを押し出して、該繊維強化プラスチックと成形型の間に隙間を設けながら、該隙間に気体を送りこんで、前記繊維強化プラスチックを前記成形型から取り出すことを特徴とする繊維強化プラスチックの脱型方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維強化プラスチック(FRP; Fiber Reinforced Plastics)部材を成形した後に成形型より脱型するにあたって、最適な条件を設けることによってFRP部材を短時間で高効率、そして得られたFRP部材を破損することなく得られる、FRP部材の脱型方法、およびこれを用いた製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のFRPの成形における成形品の脱型工程は、特に比較的大型で複雑な形状の場合において、作業者によっては時間がかかるものであった。また、離型性が悪い場合には、脱型する際に成形体に割れを生じさせたり、破壊してしまったりすることもあった。これらのことから、脱型工程におけるシステムの改善が成形サイクルを短縮する上でも成形体の破損を防ぐ上でも必要とされてきた。
【0003】
FRPの成形では、RTM成形、射出成形、RIM(Reaction Injection Molding)成形等が行われている。これらの成形方法ではエジェクターを用いて簡単に脱型する方法が採られている。これまでに、高圧空気流で入り口を有する通気孔と流出口を開閉する上下動可能な密栓とを具備し、流出口よりの高圧空気で成形体を押し上げて離型させる成形金型が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。しかし、樹脂を注入する時に圧力をかけることでエジェクターの摺動部に樹脂が進入し、エジェクターが作動しなくなる等の問題があった。その上、RTM成形で使用される樹脂の粘度は、射出成形やRIM成形で使用される樹脂の粘度に比べて低いため、特に、RTM成形にエジェクターを採用することは困難を極めていた。
【0004】
また、傘型頭部を有するエジェクターピンに、シール材として円錐孔部を有するリング状軟質シール部材を組み合わせることで、エジェクターを閉じる際の座りを気にすることなく、回り止めも必要のない成形金型のエジェクターが提案されている(例えば、特許文献2を参照)。しかし、頭部を傘状にした場合には、軸のわずかなぶれや樹脂の付着で締まりが悪くなる、もしくはリング状の軟質シールの経時劣化に伴う硬化による変形能の低下やひび割れの発生による密閉性の低下という欠点がある。
【0005】
さらに、エジェクターピンとシリンダーとの間に隙間を設け、当該隙間に予め熱可塑性の樹脂の層を形成したRTM成形向けの脱型装置が提案されている(例えば、特許文献3を参照)。しかし、前述の隙間の全体に樹脂層を形成させているものを用いて、複雑で大型の形状を成形しようとした場合には、成形体表面と型面との間のアンカー効果による、大気圧よりもはるかに強い力によって型面に張り付いている成形体をはがすために、エジェクターピンによって大きな力で押すことになる。この場合、成形体の表面を傷つけてしまうことが考えられ、エジェクターを意匠面側にも設けることには課題がある上、成形体が薄い場合や内部にコア材を介在するサンドイッチ構造を含む成形体を脱型する場合には、成形体を破壊したり、サンドイッチ構造においては内部のコア材もつぶしてしまったりすることがあると考えられる。
【特許文献1】実開昭63−39519号公報
【特許文献2】実開平6−3615号公報
【特許文献3】特開2006−205546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、FRPの製造において脱型時間を短縮して成形全体にかかる時間の短縮を図るほか、成形体が薄いものであったり、サンドイッチ構造を含むものであったりしても成形体の意匠面を傷つけずに、脱型装置およびFRPの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は下記の構成を採用する。すなわち、
(1)成形された繊維強化プラスチックを成形型から取り出す脱型方法であって、前記成形型もしくは該成形型に設置されたシリンダーに収納された稼動可能なエジェクターピンによって、前記繊維強化プラスチックを押し出して、該繊維強化プラスチックと成形型の間に隙間を設けながら、該隙間に気体を送りこんで、前記繊維強化プラスチックを前記成形型から取り出すことを特徴とする繊維強化プラスチックの脱型方法。
【0008】
(2)前記エジェクターピンと前記成形型との間、または、前記エジェクターピンと前記シリンダーとの間に、少なくとも1つのシール機構を有している、前記(1)に記載の繊維強化プラスチックの脱型方法。
【0009】
(3)前記成形型もしくは前記シリンダーが、前記成形型内の圧力を大気圧よりも低い状態に維持できる構造を備えている、前記(1)または(2)のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの脱型方法。
【0010】
(4)前記成形型内の圧力を大気圧よりも低い状態に維持する手段が、前記エジェクターピンの下面に、前記少なくとも1つのシール機構を接触させることである、前記(3)に記載の繊維強化プラスチックの脱型方法。
【0011】
(5)前記気体の温度が、前記繊維強化プラスチックを前記成形型から取り出す時の該繊維強化プラスチックの温度よりも低い、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの脱型方法。
【0012】
(6)前記気体を前記繊維強化プラスチックと成形型の間の隙間に送り込む際に、前記成形型もしくは前記シリンダー、または、前記エジェクターピンより該気体を吐出する、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの脱型方法。
【0013】
(7)前記繊維強化プラスチックが、コア材が介在されたサンドイッチ構造を含む成形体である、前記(1)〜(6)のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの脱型方法。
【0014】
(8)前記繊維強化プラスチックの補強繊維が炭素繊維である、前記(1)〜(7)のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの脱型方法。
【0015】
(9)前記成形型のキャビティ部に、強化繊維基材を配設した後に、樹脂を注入して成形するRTM成形方法において、(A)閉鎖された前記成形型内に前記樹脂を注入し、該成形型内に滞在するときの最低樹脂粘度が0.001〜0.5Pa・sであること、(B)注入される前記樹脂により前記成形型の内部の圧力が0.1〜3MPaであることの2つの条件のうち、少なくともどちらか1つの条件を満たして成形された繊維強化プラスチックを、前記(1)〜(8)のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの脱型方法を用いて脱型することを特徴とする、繊維強化プラスチックの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によって、成形体を成形型から取り出す脱型工程において、成形体に負荷をかけずに脱型できるようになるため、時間がかかり、きれいに脱型する事が困難であった脱型工程を、短時間に、かつ成形体に傷をつけることなく行うことができる。従って、成形される繊維強化プラスチックが薄かったり、サンドイッチ構造を含むようなFRP部材であったりしても、大量生産を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
まず、本発明に係る脱型方法に用いられる脱型装置が配置された成形型の実施形態の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1は、本発明に用いられる脱型装置が配置されたRTM成形装置の概略全体図である。また、図2は、本発明に用いられる脱型装置が配置されているRTM成形型の一例を示す断面図である。成形型1は上型2と下型3からなり、油圧シリンダー4によって型締めされる。下型3に直接補強繊維基材を、もしくは事前に成形型1に収まりやすいように補強繊維基材を製品形状に賦形したプリフォーム基材を設置し、型を閉じる。次に、成形型1に取り付けられた樹脂排出口(真空吸引管)5bから減圧し、型内圧力が0.01MPa以下である状態で、樹脂注入口5aから樹脂を注入する。一定時間樹脂を硬化させた後、成形体(繊維強化プラスチック)を脱型する。
【0019】
成形型1には任意に複数の樹脂注入口5aにつながる樹脂注入流路6、樹脂排出口5bにつながる樹脂排出流路7が設けられている。樹脂注入流路6、樹脂排出流路7はそれぞれカプラ等を介して樹脂注入口5a、樹脂排出口5bに接続する。樹脂注入流路6には樹脂注入装置8が接続されている。この樹脂注入装置8は主剤タンク9、および硬化剤タンク10にそれぞれ主剤、硬化剤を収容し、それぞれのタンクは加温・真空脱泡ができるようになっている。樹脂注入時にはそれぞれのタンクから主剤側加圧装置11、硬化剤側加圧装置12により樹脂を樹脂注入流路6に向かって押し流す。加圧装置11、12はこの例ではシリンジポンプを用いており、シリンジを同時に押し出すことで定量性も確保することが2液混合により硬化する樹脂には好ましい。主剤と硬化剤とは混合ユニット13で混合され、樹脂注入流路6に至る。樹脂排出流路7は真空ポンプ(または加圧ポンプ)14への樹脂の流入を防ぐために、樹脂トラップ15に接続される。
【0020】
なお、樹脂注入口5aの数や位置は成形型1の形状や寸法、成形型1内で同時に成形する成形体の数量などによって異なるが、樹脂注入口5aはできるだけ少ないことが好ましい。これは樹脂注入装置8からの樹脂注入用流路6を樹脂注入口5aに接続する箇所が増えて注入作業が繁雑になることを防ぐためである。
【0021】
樹脂注入流路6の材料は十分な流量の確保と樹脂との適合性(温度や耐溶剤性、耐圧)を考慮することが重要である。チューブには口径5〜30mmのものを用い、樹脂の注入圧力に耐えるために1.0 MPa以上の耐圧性、そして、樹脂硬化時の温度に耐えるために100℃以上の耐熱性を要し、厚みが2mm程度の、例えば“テフロン(登録商標)”などのフッ素樹脂製チューブやナイロンチューブが好適である。スチール、アルミ等の金属管であってもよい。また、樹脂排出口5bの数や位置についても樹脂注入口5aの場合と同様に、排出口もできるだけ少ないことが好ましい。また、樹脂排出口5bは、型内に残留する気体が抜けやすいように樹脂注入口5aよりも気体が浮動しやすい方向である、高い位置に設置されることが好ましい。
【0022】
樹脂排出流路7の材料は、樹脂注入流路6と同様に十分な流量の確保と樹脂との適合性(温度や耐溶剤性、耐圧)を考慮することが重要である。樹脂排出流路7としてはスチール、アルミ等の金属管、あるいはポリエチレン、“テフロン(登録商標)”などのフッ素樹脂等のプラスチック製のチューブが挙げられるが、直径5〜30mm、厚み1〜2mmのナイロンチューブがより好適である。
【0023】
樹脂注入時の樹脂注入流路6、樹脂排出流路7の途中に設置する注入バルブ16aや排出バルブ16bは、図3に示すようなバイスグリップ等により、直接作業者により流路を挟むことで全域開閉や口径を変化させることができる。また、バイスグリップのハンドル部分にアクチュエータを設置して自動化することや、またバイスグリップの代わりに電磁バルブやエアーオペレーションバルブを用いる等したバルブ開閉装置を適用することができる。さらに、排出バルブ16bは、単なる開閉の2値ではなく、流路の径を変化(ボールバルブの開度調節)させることも可能である。
【0024】
樹脂の加圧は、シリンジポンプなどによる加圧方法によれば定量性も得られる。樹脂の注入圧Piは0.1〜1.0 MPaの範囲で用いるのが好ましい。ここで樹脂の注入圧Piとは、真空ポンプまたは加圧装置17により加圧される最大圧力を指し、図1の注入圧力計18で表示させる圧力を表す。最終的に樹脂が型内の基材に完全に含浸され樹脂排出流路7まで到達したら樹脂排出流路7を閉じ、その後しばらくしてから樹脂注入用流路6も閉じて樹脂注入を終了する。成形型は温調機19によって加温されており、これにより樹脂を硬化させる。なお、型内樹脂圧Pmとは、型内注入圧力計18の圧力を表す。
【0025】
次に、図4に本発明の一例(拡大断面図)を示す。図4(A)がエジェクターピンを収納しているとき、図4(B)はエジェクターピンを押し出しているときの図である。本発明は、成形されたFRPを成形型から取り出す脱型方法であって、成形型もしくは成形型に設置されたシリンダーに収納された稼動可能なエジェクターピンによってFRPを押し出し、このFRPと成形型の間に隙間を設けながら、この隙間に気体を送りこんで、FRPを成形型から取り出すことを特徴とするFRPの脱型方法である。
【0026】
ここで、本発明においてエジェクターピンとは、成形型もしくは成形型に設置されたシリンダーに収納されていて、成形型に貼りついている成形体であるFRPを成形型から取り出すときに、前述の収納部分から押し出して用いるものである。
【0027】
図4のように、エジェクターピン20で成形体であるFRP23を、エジェクターピン20を押し上げながらつくられた空間へ、隙間34より気体を送り込むことで、成形体表面と型面との間のアンカー効果による力によって型面に張り付いているFRP23を、エジェクターピン付近より放射状に逐次はがしていくことができる。
【0028】
なお、本発明に用いられるエジェクターピン20と、それを納める成形型もしくはシリンダーの作動関係については、例えば、実開平6−3615号公報などに記載されているように、エジェクターピンに油圧シリンダー等を取り付けて押し出させる方法を用いることができる。
【0029】
また、本発明において、エジェクターピンと成形型との間、またはエジェクターピンとシリンダーとの間に、少なくとも1つのシール機構を有していることが望ましい。図4においては、パッキン33、O−リング24、エジェクターピンのシール35がそれに相当する。このシール機構は、(A)エジェクターピンを収納する成形型またはシリンダー内部へ樹脂の侵入を防ぐため、(B)成形型内を減圧状態にすることにも耐えられる構造にするため、(C)FRPを成形型から取り出すとき以外に成形型内へ気体を送り込まないようにするための、主に3つの理由から設置する。特に、理由(B)については、成形体への気泡残りを防ぐために、FRPの成形中に型内を減圧状態にすることが多いので、成形型内を減圧状態にすることに耐えられるシール機構を設置することが特に好ましい。その手段として、図4に示すように、エジェクターピンの下面を少なくとも1つのシール機構に接触させることが好ましい。エジェクターピンの下面に接触させるシール機構とは、エジェクターピンが成形型内もしくはシリンダーに収まる際にエジェクターピン20の底面、または成形型(シリンダー)に段差を設け、そこへシール部材を配置するものをいう。例えば、図4においては、O−リング24が該当する。エジェクターピンの下面であれば、エジェクターピンの摺動部に取り付けた場合に比べてシール機構の磨耗が少なく、交換する手間を少なくすることができる。なお、図4においては、成形型(シリンダー)側にO−リングを設けた例について図示し、説明したが、エジェクターピン20の底部にシール機構を有していても構わない。さらには、成形型(シリンダー)側、およびエジェクターピンの底部の両方にO−リングが設置されていても構わない。加えて、例えば成形型(シリンダー)側に2つO−リングを設置するというように、そのシール機構が複数個設置されていても構わない。
【0030】
例えば、図4において、エジェクターピン20の構造は、まず、先端部の摺動面にパッキン33が設置されている。これは、主にエジェクターピンを収納する成形型内部への樹脂の侵入を防ぐためのものである。また、型内を減圧状態の維持にも効果を発揮する。さらに、別のシール機構として、O−リング24を設置している。これによって、パッキン33が破損した場合にも型内の減圧状態を維持することができる。ただし、これらのシール機構について、図4(B)が示すように、エジェクターピン20が押し出されているときに、隙間34、すなわち気体吐出口22のある部分から成形型表面まで気体の流路を塞いでしまうことのないように設置することが重要である。また、エジェクターピンのシール35を設置することで、気体吐出口22から吐出される気体が成形型内から漏れてしまうことがなくなる。
【0031】
FRPを効果的に脱型するためには、図2に示すように、型の中でもより抜きにくい位置に対し、ある程度の間隔をおいて必要数エジェクターピンを配置することが好ましい。ここで言う抜きにくい位置とは、例えば箱型形状の角部等のような部分のことを言う。また、ある程度の間隔とは、例えば2つのエジェクター同士が設置される間隔が5〜50cm程度で設置されるような状態を言う。ここで、この間隔が5cmを下回るような場合、それだけエジェクターピンを作動させる機構も増やさなければならず、また小型のエジェクターピンを設置しなければならなくなるため、エジェクターピンそのものの構造も複雑となり、好ましい状態とはいえない。逆に、50cmを上回るような場合、2つのエジェクターピンの中間の位置において、エジェクターピンによるFRPの取り外しの効果が十分に発揮されず、成形型に貼りついたままの状態を維持してしまい、結果的にFRPが割れてしまうことが考えられる。
【0032】
また、本発明において、エジェクターピンによってFRPを押し出し、このFRPと成形型の間に隙間を設けながら、この隙間に気体を送りこむ際に、FRPを成形型から取り出す時のFRPの温度よりも、送り込む気体の温度の方が低いことが好ましい。これは、気体の温度を、FRPを成形型から取り出す時のFRPの温度に比べて低くすることで、エジェクターピン付近におけるFRPと型との間の線膨張係数の差を利用し、より効果的に脱型することができるからである。さらに、本発明で使用する気体としては、圧縮空気ガス、もしくは圧縮窒素ガスであることが望ましい。これは、これらの気体がFRPを生産する現場で容易に得られるものであることに加え、可燃性のガスでないことから、火災等の危険性が小さいことによる。
【0033】
そして、前述の気体をFRPと成形型の間の隙間に送り込む際に、成形型もしくはシリンダー、または、エジェクターピンそのものより該気体を吐出することが望ましい。これは、気体の吐出部分が成形型面にある場合、樹脂が進入してこれを塞いでしまうこと、そして、なにより、エジェクターピンから離れた位置に気体の吐出口が設けられていても、エジェクターピンを押し上げることで設けた隙間に気体を送り込まなければ、FRPの脱型に十分な気体を送り込めないことから、効果を発揮することができないためである。
【0034】
従って、脱型の際には図4に示すように、まず図4(A)の状態からエジェクターピン20を押し出して成形体23を少し浮かせながら、図4(B)の状態にし、このときのFRPの温度よりも低い温度の気体を気体ライン30のような流路を経由して気体吐出口22から吐出させる。こうすることによって、成形体と成形型との間にはたらくアンカー効果による強い接着力に対して、少ない力で効果的に、さらに成形体には大きな傷を与えることなく脱型することができる。
【0035】
ここで、図5は本発明の別の一実施例を示す拡大断面図である。図5(A)がエジェクターピンを収納しているとき、図5(B)はエジェクターピンを押し出しているときの図である。この場合においても、3つのシール機構、すなわちエジェクターピン20の先端部の摺動面に設置されたパッキン33、O−リング24、エジェクターピンのシール35については、図4で示した実施例のものと同様である。しかし、この構造においては、気体ライン30をエジェクターピン20の内部まで延長し、パッキン33の手前でこのエジェクターピンの中心から外周方向に設けた気体吐出口22へ向かって気体ラインを設けている。この構造をとる場合、成形型に貼りついてしまっている成形体の間に向かって、くさびを打ちこむように直接気体を送り込むことができるため、図4の場合に比べてより有効な脱型を行うことができる。
【0036】
なお、図4、5においては、エジェクターピンが成形型(すなわち、上型2もしくは下型3、またはその両方)に収納されている場合を示しており、成形型外に設置される、エジェクターピンを作動させる機構については図示を省略した。
【0037】
本発明に係る脱型方法を用いるFRPの製造においては、FRPの成形サイクルの短縮と製造コストの低減の両方を達成できるRTM成形法によって成形されることが望ましい。このRTM成形法を用いる場合、閉鎖された型内に樹脂を注入し、型内に滞在するときの最低樹脂粘度が0.5Pa・s以下である成形、すなわち、常温での樹脂粘度が比較的高いものであっても、樹脂注入が行われる際、たとえば成形型温度が高い場合に樹脂の粘度が下がり、0.5Pa・s以下になる成形が好ましい。もちろん、使用される樹脂が常温で0.5Pa・s以下である場合にも適用される。なお、樹脂粘度の下限としては、0.001Pa・s以上であることが、低粘度樹脂のシール性の観点から好ましい。
【0038】
加えて、RTM成形法においては、注入される樹脂により型内部の圧力が3MPa以下である成形、すなわちRTM成形において樹脂を圧入する際、脱泡操作・気泡をつぶすための操作においても型内部圧力が3MPa以下であることをいう。なお、樹脂圧力の下限としては、0.1MPa以上であることが、本シール構造の必要性の観点から好ましい。
【0039】
本発明に係るRTM成形法で使用する樹脂としては、粘度が低く補強繊維への含浸が容易な熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を形成するRIM用モノマーが好適であり、その中でもFRP構造体の熱収縮を低減させ、クラックの発生を抑えるという点から、エポキシ樹脂または熱可塑性樹脂やゴム成分などを配合した変性エポキシ樹脂、ナイロン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂がより適している。
【0040】
FRPの補強繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維等の無機繊維、あるいはアラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリアミド繊維などの有機繊維からなる補強繊維が挙げられる。FRPのマトリックス樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられ、さらには、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱可塑性樹脂も使用可能である。
【0041】
また、本発明で使用する補強繊維基材とは、例えば樹脂の含浸されていない補強繊維を指し、その補強繊維の織物やチョップドファイバー、マット、ニット材料、さらにこれらとインサート部品との組み合わせ等が挙げられ、その用途により使い分けられる。前記インサート部品とは、例えばスチールやアルミニウムなどの金属板や、金属柱、金属ボルト、ナット、ヒンジなどの接合用の金属、アルミハニカムコア、あるいはポリウレタン、ポリスチレン、ポリイミド、塩化ビニル、フェノール、アクリルなどの高分子材料からなるフォーム材やゴム質材、木質材等が挙げられ、主として、釘が効くことや、ネジが立てられる等の接合を目的としたインサート部品、中空構造で軽量化を目的としたインサート部品、振動時の減衰を目的としたインサート部品などが多く用いられる。
【0042】
加えて、本発明においては、特にコア材が介在されたサンドイッチ構造を含む成形体に対して、効果的に脱型することができる。ここで言うサンドイッチ構造とは、前記インサート部品をFRPで挟み込んだ構造のことである。中でもフォーム材やゴム質材、木質材等の比較的強度の低い部材をコア材として用いる場合、本発明では弱い力でFRPを脱型することができるため、エジェクターピンで押し出す際にコア材を潰して変形させることがない。
【0043】
成形型の材質としてはFRP、鋳鋼、構造用炭素鋼、アルミニウム合金、亜鉛合金、ニッケル電鋳、銅電鋳があげられる。量産には、剛性、耐熱性、作業性の面から構造用炭素鋼が好適である。また、FRP成形体の意匠性、離型性を向上させるため#1000以上の磨き面または、めっきであることが好ましい。
【0044】
本発明は、好ましく用いられる態様である、エポキシ樹脂を用いたRTM成形方法に限らず、樹脂流動によるFRP成形法すべてに適用でき、効率よくかつ、安全に成形体を脱型することができ、成形サイクルタイムを短縮することができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明する。
【0046】
(実施例1)
本発明に係わるFRP成形装置の一例として実施したRTM成形装置の全体図を図1に、金型部分について図2に示す。注入口5aを1個、排出口5bをそれぞれ1個ずつ持つ図2に示したような形状の金属型(上型2、下型3)に、炭素繊維基材(CO6343B:T300−3K、組織:平織、目付:200g/m、東レ(株)製)を5枚積層したものに、コア材として厚さ5mmのウレタンフォームを、成形時図2の36の位置になるように重ね、さらに前記の炭素繊維基材を5枚積層し、下型3に載置する。そして、油圧シリンダー4にて上型2を閉じ密閉する。上型2、下型3とも温調機19によって100℃に一定に加温されている。
【0047】
エジェクターピンは成形型、下型3に約15cm間隔で計15本配置される。成形体と接する面の直径は30mm、突き出しストロークは20mmとした。各エジェクターピンは独立した油圧シリンダーをもっており、圧力差により、各ピンがそれぞれに突き出される。
【0048】
樹脂注入口5aには樹脂注入流路6を接続し、樹脂排出口5bには樹脂排出流路7を接続した。樹脂注入流路6、樹脂排出流路7ともに直径12mm、厚さ1.5mmのナイロンチューブを使用した。樹脂排出流路7には樹脂が真空ポンプ14まで流入するのを防ぐため、途中に樹脂トラップ15を設けた。
【0049】
型内の密閉を保つため、シール材32を型の外周に配置している。上型2を閉じることで、型の内部が樹脂注入用流路6と樹脂排出流路7以外に連通していないことが理想的である。エジェクターピンが設置されている部分も図4に示すように3つのシール機構、すなわちエジェクターピン20の先端部の摺動面に設置されたパッキン33、エジェクターピン20の底部に設置されたO−リング24、エジェクターピンのシール35によって密閉されていることが理想的である。ただし、実質的には完全な密閉は困難であり、樹脂注入流路6に配置される樹脂注入バルブ16aを閉じ、樹脂排出バルブ16bを開けた状態で真空圧力計18の圧力をモニターし、ここでは真空ポンプ14停止後10秒間0.01MPaを保持できた状態であれば、成形上問題が生じないとして、密閉の状態を確認することとした。
【0050】
樹脂排出口5bから真空ポンプ14で排出し、型内圧力を0.01MPa以下となったことを真空圧力計18により確認した後、加圧装置11、12により樹脂の注入を開始する。樹脂は主剤としてエピコート828(油化シェルエポキシ社製、エポキシ樹脂)、硬化剤は東レ(株)製のブレンドの酸無水物系硬化剤を混合して得た液状エポキシ樹脂を使用した。
【0051】
樹脂注入装置8では事前に主剤9、硬化剤10を攪拌しながら40℃で加温し、所定の粘度まで降下させ、かつ真空ポンプ17で脱泡を行った。
【0052】
真空ポンプ17は200g/ストロークに設定した。樹脂注入用流路6に設置した注入圧力計18によって注入樹脂圧(今回;0.5MPa)を確認して樹脂注入バルブ16aを開け、型内に樹脂を注入する。注入開始時は、樹脂排出流路7は開の状態とした。このとき型内圧力Pm<供給圧力Piにより樹脂が型内に容易に注入される。そして、樹脂の強化繊維基材への含浸促進と、気泡を効率的に除去するための操作として樹脂排出流路の開閉をおこなった。
【0053】
樹脂が型内に充満し、なおかつ型内の気泡の流出作業が完了すると、樹脂排出流路7を閉じ樹脂注入は圧力計18によって型内部圧力が0.5MPaとなるように続ける。上記の操作のあと樹脂注入流路6を閉じこの状態で20分間放置し、硬化させる。
【0054】
樹脂の硬化後、油圧シリンダー4により上型2を開いた。その後、エジェクターピン20を作動させて突き出しながら、気体加圧ポンプ28と気体冷却装置29を備える気体加圧ユニット27によって気体ライン30から気体を送りこんで成形体を脱型する。今回は20℃に冷却し、0.5MPaに加圧した圧縮空気を用いて脱型を行ったが、十分に脱型可能であった。
【0055】
成形体を脱型した後、エジェクターピンの頭部周りに若干の樹脂付着が見られたが、エジェクターピンを収納する成形型内部への樹脂の浸入や成形型外への樹脂漏れは認められなかった。同様の成形を10回以上繰り返したが当該問題は発生せず、簡単に脱型し続けることが可能であった。
【0056】
また、成形体を切断し、断面を観察したが、脱型によるコア材の変形は認められなかった。もちろん、成形体の割れも見られなかった。
【0057】
本実施例では、各エジェクターピンは独立した油圧シリンダーを持っており、圧力差により、各ピンがそれぞれに突き出される。結果、ピンの曲がりも認められなかった。
【0058】
(実施例2)
エジェクターピンの機構を図5に示すものに替え、実施例1と同様のFRP成形体を同じ材料、条件で成形を行った。脱型する際に、20℃に冷却し、0.5MPaに加圧した圧縮空気を用い脱型を行ったが、十分に脱型可能であった。この場合においても、成形体を脱型した後、エジェクターピンの頭部周りに若干の樹脂付着が見られたが、エジェクターピンを収納する成形型内部への樹脂の浸入や成形型外への樹脂漏れは認められなかった。同様の成形を10回以上繰り返したが当該問題は発生せず、簡単に脱型し続けることが可能であった。
【0059】
また、成形体を切断し、断面を観察したが、脱型によるコア材の変形は認められなかった。もちろん、成形体の割れも見られなかった。
【0060】
本実施例でも、各エジェクターピンは独立した油圧シリンダーを持っており、圧力差により、各ピンがそれぞれに突き出される。結果、ピンの曲がりも認められなかった。
【0061】
(実施例3)
実施例2と同じエジェクターピンの機構を用い、FRP成形体を同じ材料、条件で成形を行った。ただし、この実施例においては、エジェクターピン20の先端部の摺動面に設置されたパッキン33を取り除いた。成形体を観察したところ、成形体そのものには割れや変形などの影響がなかったため、成形体と成形型の間の隙間へ気体を送り込むことの効果が確認された。
【0062】
なお、パッキン33がなかったことから、エジェクターピンを収納する成形型内部へ樹脂が浸入し、その樹脂が硬化していたため、この樹脂により、一度押し出したエジェクターピンを復帰が困難となり、何回も繰り返して用いることは難しかった。
【0063】
(比較例)
エジェクターピンの機構を実施例2と同様に図5に示すものとし、実施例2と同様のFRP成形体を同じ材料、条件で成形を行った。ただし、この比較例においては、成形後に気体を送り込むことなく脱型を行った。成形体を観察したところ、エジェクターピンで押し出したところの表面では、小さな割れが生じたり、コア材が潰れていたりするのが見られた。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に用いられる脱型装置が配置されたRTM成形装置の概略全体図である。
【図2】本発明に用いられる脱型装置が配置されたRTM成形型の一例を示す断面図である。
【図3】成形型における注入バルブ部および排出バルブ部の一例を示す斜視図である。
【図4】本発明の一実施例を示す拡大断面図であり、(A)がエジェクターピンを収納しているとき、(B)はエジェクターピンを押し出しているときの図である。
【図5】本発明の別の一実施例を示す拡大断面図であり、(A)がエジェクターピンを収納しているとき、(B)はエジェクターピンを押し出しているときの図である。
【符号の説明】
【0065】
1: 成形型
2: 上型
3: 下型
4: 型締め用油圧シリンダー
5a: 樹脂注入口
5b: 樹脂排出口(真空吸引管)
6: 樹脂注入流路
7: 樹脂排出流路
8: 樹脂注入装置
9: 主剤タンク
10: 硬化剤タンク
11: 主剤側加圧装置
12: 硬化剤側加圧装置
13: 混合ユニット
14: 真空ポンプ(または加圧ポンプ)
15: 樹脂トラップ
16a: 注入バルブ
16b: 吸引バルブ
17: 真空ポンプまたは加圧装置
18: 圧力計
19: 金型温調機
20: エジェクターピン
21: シリンダー
22: 気体吐出口
23: 成形体
24: O−リング
25: 油圧ユニット
26: 油圧ポンプ
27: 気体加圧ユニット
28: 気体加圧ポンプ
29: 気体冷却装置
30: 気体ライン
31: 油圧配管用カプラ
32: 金型シール
33: パッキン
34: 隙間
35: エジェクターピンのシール
36: コア材設置部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形された繊維強化プラスチックを成形型から取り出す脱型方法であって、前記成形型もしくは該成形型に設置されたシリンダーに収納された稼動可能なエジェクターピンによって、前記繊維強化プラスチックを押し出して、該繊維強化プラスチックと成形型の間に隙間を設けながら、該隙間に気体を送りこんで、前記繊維強化プラスチックを前記成形型から取り出すことを特徴とする繊維強化プラスチックの脱型方法。
【請求項2】
前記エジェクターピンと前記成形型との間、または、前記エジェクターピンと前記シリンダーとの間に、少なくとも1つのシール機構を有している、請求項1に記載の繊維強化プラスチックの脱型方法。
【請求項3】
前記成形型もしくは前記シリンダーが、前記成形型内の圧力を大気圧よりも低い状態に維持できる構造を備えている、請求項1または2のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの脱型方法。
【請求項4】
前記成形型内の圧力を大気圧よりも低い状態に維持する手段が、前記エジェクターピンの下面に、前記少なくとも1つのシール機構を接触させることである、請求項3に記載の繊維強化プラスチックの脱型方法。
【請求項5】
前記気体の温度が、前記繊維強化プラスチックを前記成形型から取り出す時の該繊維強化プラスチックの温度よりも低い、請求項1〜4のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの脱型方法。
【請求項6】
前記気体を前記繊維強化プラスチックと成形型の間の隙間に送り込む際に、前記成形型もしくは前記シリンダー、または、前記エジェクターピンより該気体を吐出する、請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの脱型方法。
【請求項7】
前記繊維強化プラスチックが、コア材が介在されたサンドイッチ構造を含む成形体である、請求項1〜6のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの脱型方法。
【請求項8】
前記繊維強化プラスチックの補強繊維が炭素繊維である、請求項1〜7のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの脱型方法。
【請求項9】
前記成形型のキャビティ部に、強化繊維基材を配設した後に、樹脂を注入して成形するRTM成形方法において、(1)閉鎖された前記成形型内に前記樹脂を注入し、該成形型内に滞在するときの最低樹脂粘度が0.001〜0.5Pa・sであること、(2)注入される前記樹脂により前記成形型の内部の圧力が0.1〜3MPaであることの2つの条件のうち、少なくともどちらか1つの条件を満たして成形された繊維強化プラスチックを、請求項1〜8のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの脱型方法を用いて脱型することを特徴とする、繊維強化プラスチックの製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−202440(P2009−202440A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47357(P2008−47357)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】