説明

繊維強化複合材の製造方法

【課題】積層繊維層が厚さ方向糸で結合された平板状の一次構造体に曲げ加工を行って形成しても、曲げ部における皺や歪みの発生が抑制された状態で三次元繊維構造体を製造可能な曲げ工程を備えた繊維強化複合材の製造方法を提供する。
【解決手段】連続繊維配列工程と、厚さ方向糸挿入工程と、曲げ工程と、樹脂含浸硬化工程とを備えている。曲げ工程において、一次構造体20を第1保持部材21と第2保持部材22とで保持するとともに一次構造体20に張力をかける。その状態で一次構造体20に押圧部材23で曲げ力を作用させつつ、第1保持部材21、第2保持部材22及び押圧部材23を相対移動させる。そして、相対移動する第2保持部材22及び押圧部材23に挟まれた部分と、押圧部材23及び第1保持部材21に挟まれた部分との両端部に曲げ方向の異なる曲げ部14a,14bを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材の製造方法に係り、詳しくは曲げ部を有する繊維強化複合材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材(以下、単に複合材と言う場合もある。)は軽量の構造材として広く使用されている。複合材用の強化材として三次元織物等の三次元繊維構造体がある。三次元繊維構造体を複合材の強化材として広い用途に使用可能とするためには、単純な平板状ではなく曲げ部を有する三次元繊維構造体が必要となる。
【0003】
曲げ部を有する三次元繊維構造体の製造方法として枠体を使用する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この方法では、複数の板状部が接続部において屈曲状態で連続する形状の三次元繊維構造体の形状に対応した形状に形成されるとともに規制部材が所定ピッチで配置された枠体を使用する。そして、枠体上の規制部材間に糸を折り返し状に配列した糸層を積層して積層糸群を形成した後、積層糸群を枠体に保持した状態で厚さ方向糸を挿入する。
【特許文献1】特開平9−137336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1の製造方法では、三次元繊維構造体の形状に対応した枠体をその都度準備する必要があり、屈曲状態で枠体上に配列された積層糸群に厚さ方向糸を挿入する作業工数が大きくなり、装置も複雑になる。また、特許文献1の製造方法のように、規制部材が設けられた枠体を使用して、規制部材と係合する状態で連続繊維を配列する方法では、異なる方向に曲がった屈曲部を有する三次元繊維構造体を製造することはできない。
【0005】
そこで、連続繊維からなる繊維層が積層されて形成された積層繊維層が、厚さ方向糸で結合された三次元繊維構造体を形成した後、その三次元繊維構造体を曲げて、最終的に曲げ部を有する三次元繊維構造体を形成する場合がある。
【0006】
例えば、図8に示すように、断面略ハット状の三次元繊維構造体61を製造する際、連続繊維からなる繊維層が積層されて形成された少なくとも2軸配向となる積層繊維層62を厚さ方向糸63で結合した平板状の三次元繊維構造体を折り曲げて形成することが考えられる。しかし、三次元繊維構造体に使用される連続繊維は一般に伸びが非常に小さいため、曲げ部における外側に配列された連続繊維が伸びることができず、結果として内側に皺64や歪みが発生した三次元繊維構造体61となる。この皺64や歪みは三次元繊維構造体61を強化材として樹脂をマトリックスとした複合材(FRP)を形成した場合、物性低下(例えば、強度低下)の原因となるとともに、外観品質を低下させる。
【0007】
本発明は、前記従来の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、積層繊維層が厚さ方向糸で結合された平板状の一次構造体に曲げ加工を行って形成しても、曲げ部における皺や歪みの発生が抑制された状態で三次元繊維構造体を製造可能な曲げ工程を備えた繊維強化複合材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため請求項1に記載の発明は、連続繊維からなる繊維層が積層された少なくとも2軸配向となる積層繊維層が、曲げ方向の異なる曲げ部が平面部を間にして隣り合う状態で隣接して存在する部分を有する立体的な板状に形成されるとともに、前記積層繊維層の各繊維層と交差する状態で厚さ方向糸が配列された三次元繊維構造体を強化材とした繊維強化複合材の製造方法である。そして、規制部材が所定ピッチで配置された治具上に、前記規制部材と係合して折り返すように連続繊維を前記規制部材間に配列して形成した繊維層を積層して少なくとも2軸配向となる積層繊維層を形成する連続繊維配列工程と、前記積層繊維層に厚さ方向糸が前記積層繊維層を貫通するように挿入して平板状の一次構造体を形成する厚さ方向糸挿入工程とを備えている。また、前記厚さ方向糸が挿入された平板状の一次構造体の所定位置に曲げ部を形成する曲げ工程と、前記曲げ工程で曲げ加工が行われた後の一次構造体を成形型内に配置して、樹脂の含浸、硬化を行う樹脂含浸硬化工程とを備えている。そして、前記曲げ工程において、前記一次構造体の一部を少なくとも2個の保持部材で保持するとともに前記一次構造体に張力をかけつつ前記一次構造体に曲げ力を作用させるように前記保持部材を相対移動させ、相対移動する前記保持部材に挟まれた前記一次構造体の両端部に曲げ方向の異なる曲げ部を形成する。
【0009】
ここで、「立体的な板状」とは、全体として平面状ではなく平板が屈曲されて立体形状となっていることを意味する。また、「連続繊維」とは、単繊維(モノフィラメント)に限らず、単繊維が複数本束ねられた繊維束を含む。また、「糸」とは、撚りが掛かった糸のみを意味するのではなく、多数本の繊維が束となって撚りが実質掛かっていない繊維束(所謂ロービング)をも含む。また、「保持部材」とは、曲げ加工を行う際に、一次構造体と接触している部分が一次構造体と相対移動しない状態に保持される部材を意味する。以下、この明細書では同様の意味で使用する。
【0010】
この発明では、三次元繊維構造体を構成する積層繊維層を結合する厚さ方向糸は、積層繊維層が平板状の状態において積層繊維層を貫通するように挿入されるため、曲げ部を有する積層繊維層に挿入する場合に比較して簡単に挿入できる。また、曲げ工程においては、平板状の一次構造体を単に押圧(プレス)して曲げるのではなく、一次構造体を少なくとも2個の保持部材で保持する。そして、一次構造体に張力をかけつつ一次構造体に曲げ力を作用させるように保持部材を相対移動させることにより、一次構造体には相対移動する保持部材に挟まれた部分(平面部)の両端部に曲げ方向の異なる曲げ部が形成される。平面部の両端部に形成される曲げ部の曲げ方向が異なるため、曲げ加工完了後の三次元繊維構造体は、曲げ部の曲率中心線と直交する仮想平面による断面形状が、厚さ方向の一方の側における外形線の長さと、他方の側における外形線の長さとが等しい形状となり、曲げ部における皺や歪みの発生が抑制された状態で製造が可能になる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記曲げ工程において、前記一次構造体を保持する保持部材の1つを固定した状態で曲げ加工を行う。この発明では、固定した1つの保持部材の位置を基準に他の保持部材の移動を制御することにより、各保持部材をそれぞれ移動させて曲げ加工を行うより制御が簡単になる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記一次構造体を保持する保持部材は奇数個設けられ、中央の保持部材を固定した状態で曲げ加工を行う。従って、この発明では、固定された中央の保持部材を挟んで両側に位置する保持部材を対称に移動させることで曲げ加工を行うことができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記樹脂の含浸、硬化はレジントランスファーモールディング(RTM)法により行われる。この発明では、他の含浸、硬化法に比較して、三次元繊維構造体に樹脂を生産性良く均一に含浸、硬化せることができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記曲げ加工は、スプリングバックを考慮して繊維強化複合材における曲げ部の曲率より大きな曲率となるように曲げ部を形成する。曲げ工程において曲げ部の曲率が繊維強化複合材における曲げ部の曲率と同じに成るように曲げ加工を行うと、得られた三次元繊維構造体はスプリングバックのため、曲げ部の曲率が小さくなる。しかし、この発明では、スプリングバックを考慮して曲げ加工が行われるため、得られた三次元繊維構造体の曲げ部の曲率が繊維強化複合材における曲げ部の曲率と同等のものが得られる。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の発明において、前記連続繊維及び厚さ方向糸の少なくとも一方は、伸び率が2.4%以下である。10%以上伸びる繊維(ナイロン、アクリル)と比較して、炭素繊維の破断伸び率は、一般に0.5%〜2.4%と小さく、弛みのない連続繊維を伸ばして曲げを行うことは難しい。しかし、この発明では連続繊維に炭素繊維を使用しても無理なく曲げ部を形成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、積層繊維層が厚さ方向糸で結合された平板状の一次構造体に曲げ加工を行って形成しても、曲げ部における皺や歪みの発生が抑制された状態で三次元繊維構造体を製造可能な曲げ工程を備えた繊維強化複合材の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図5にしたがって説明する。
図1(a)に示すように、繊維強化複合材の強化材としての三次元繊維構造体11は、連続繊維が少なくとも2軸配向となるように配列された積層繊維層12が偶数個の曲げ部を有する状態に屈曲されている。積層繊維層12は、曲げ方向の異なる曲げ部14a,14bと、一端が自由端の平面部15aと、曲げ方向の異なる曲げ部14a,14bに挟まれた平面部15bと、曲げ方向が同じ曲げ部14aあるいは曲げ部14bに挟まれた平面部15cとからなる立体的な板状に形成されている。具体的には、積層繊維層12は、断面形状として2個の所謂ハット形状が鍔部で連続した形状に形成され、曲げ部14aは、ハット形状の鍔の部分に対応する位置に設けられ、曲げ部14bは、ハット形状の頂部に対応する位置に設けられている。即ち、積層繊維層12は、曲げ方向の異なる曲げ部14a,14bが平面部15bを間にして隣り合う状態で隣接して存在する部分を有する立体的な板状に形成されている。積層繊維層12は、曲げ部14a,14bの曲率中心線と直交する面における断面形状が同一ではなく、積層繊維層12の一端側(図1(a)では手前側)から他端側に向かって次第にハット部の高さが高くなるように形成されている。なお、図1(a)では、三次元繊維構造体11をハット部の頂部が下側となる状態で図示している。
【0018】
図1(b)に示すように、積層繊維層12は、積層繊維層12の厚さ方向に配列された厚さ方向糸13により結合されている。積層繊維層12は、曲げ部14a,14bの曲率中心線と直交する仮想平面による断面における曲げ部14a、平面部15b及び曲げ部14bで形成される部分の形状、例えば、図1(b)においてABCDEを結ぶ線で形成される形状で、厚さ方向の一方の側の外形線LG1と、他方の側の外形線LG2の長さが等しく形成されている。即ち、積層繊維層12は、曲げ部14a,14bの曲率中心線と直交する仮想平面による断面形状が、厚さ方向の一方の側の外形線LG1と、他方の側の外形線LG2の長さとが等しい形状に形成されている。
【0019】
図1(c)に示すように、積層繊維層12は、配列角度0°の連続繊維16aから成る繊維層としての0度繊維層12aと、配列角度90°の連続繊維16bから成る繊維層としての90度繊維層12bとで構成されている。この明細書では、配列角度0°とは、連続繊維が曲げ部14a,14bの曲率中心線と平行に配列される状態を意味し、配列角度90°とは連続繊維が曲げ部14a,14bの曲率中心線と直交するように配列される状態を意味する。0度繊維層12aと90度繊維層12bが交互に複数積層されて、2軸配向の積層繊維層12が形成されている。そして、積層繊維層12の厚さ方向に配列された厚さ方向糸13が抜け止め糸19で折り返して各繊維層が結合されている。連続繊維及び厚さ方向糸13としては、例えば、炭素繊維が使用される。炭素繊維はフィラメント数が3000〜24000本程度である。
【0020】
次に前記のように構成された三次元繊維構造体11を強化材とした繊維強化複合材の製造方法を説明する。
繊維強化複合材の製造方法は、連続繊維配列工程と、厚さ方向糸挿入工程と、曲げ工程と、樹脂含浸硬化工程とを備えている。
【0021】
連続繊維配列工程では、図2(a),(b)に示すように、規制部材としてのピン17a,17bが所定ピッチで配置された治具18を使用する。治具18は矩形の枠状に形成され、ピン17a,17bは着脱可能に立設されている。ピン17aのピッチは、治具18の長手方向と直交する方向、即ち配列角度0°に配列される連続繊維16aの配列ピッチに合わせて設定され、ピン17bのピッチは、治具18の長手方向と平行に、即ち配列角度90°に配列される連続繊維16bの配列ピッチに合わせて設定されている。
【0022】
そして、図2(b)に示すように、治具18上に、ピン17aと係合して折り返すように連続繊維16aがピン17a間に配列されて、配列角度0°の繊維層としての0度繊維層12aが形成される。また、図2(a)に示すように、ピン17bと係合して折り返すように連続繊維16bがピン17b間に配列されて、配列角度90°の繊維層としての90度繊維層12bが形成される。そして、90度繊維層12b及び0度繊維層12aが交互に複数積層されて、2軸配向となる積層繊維層12が形成される。図2(a),(b)では、連続繊維16a,16bの配列間隔が広く図示されているが、連続繊維16a,16bは、隣接する連続繊維16a,16b同士が接触する状態で配列される。
【0023】
連続繊維配列工程終了後、積層繊維層12が治具18に保持されている状態で厚さ方向糸挿入工程が行われる。厚さ方向糸13の挿入は、例えば、特許文献1に開示されている方法と同様に行われる。詳述すれば、積層繊維層12の厚さ方向に、先端に孔を備え該孔に厚さ方向糸13を掛止した図示しない挿入針を挿入する。挿入針は厚さ方向糸13が掛止された孔が積層繊維層12を貫通するまで前進する。その後、挿入針はわずかに後退される。その結果、厚さ方向糸13はU字状のループを形成した状態となる。
【0024】
次に図示しない抜け止め糸針が前記U字状のループ内を通過し、積層繊維層12の端部まで到達した時点で停止する。この時抜け止め糸19(図1(c)に図示)が抜け止め糸針の先端に掛止される。そして、抜け止め糸針が引き戻され、抜け止め糸19が厚さ方向糸13のU字状ループ内に挿通された状態になる。その状態で挿入針が引き戻され、厚さ方向糸13により抜け止め糸19が締め付けられて積層繊維層12が結合される。積層繊維層12への厚さ方向糸13の挿入が完了すると、0度繊維層12a及び90度繊維層12bが厚さ方向糸13で結合された平板状の一次構造体(プリフォーム)20が形成される。厚さ方向糸13は、積層繊維層12が平板状の状態において積層繊維層12にその厚さ方向と平行に、即ち積層繊維層12と直交するように挿入されるため、曲げ部を有する積層繊維層に挿入する場合に比較して簡単に挿入できる。
【0025】
次に厚さ方向糸13が挿入された平板状の一次構造体20の所定位置に曲げ部14a,14bを形成する曲げ工程が行われる。三次元繊維構造体11は、ハット部の断面形状が、一端側(図1(a)では手前側)から他端側に向かって次第にハット部の高さが高くなるように形成されているため、展開した状態では平面矩形状ではなく平面扇状となる。そのため、一次構造体20としては、矩形状の一次構造体20の周縁が切断されて図2(c)に示すように扇状に形成された一次構造体20を使用して曲げ加工を行う。
【0026】
曲げ工程においては、一次構造体20の一部を少なくとも2個の保持部材で保持するとともに、一次構造体20に張力をかけつつ曲げ力を作用させるように保持部材を相対移動させ、相対移動する保持部材に挟まれた一次構造体20の両端部に曲げ方向の異なる曲げ部14a,14bを形成する。
【0027】
この実施形態では、図3(a)〜(c)に示すように、保持部材として一次構造体20の中央を保持する第1保持部材21と、一次構造体20の両端部を保持する第2保持部材22と、一次構造体20を保持しつつ押圧力を加えるための押圧部材23とが設けられる。即ち、一次構造体20を保持する保持部材は奇数個設けられる。第1保持部材21は一次構造体20の中央に固定され、第2保持部材22は一次構造体20の両端部に固定され、押圧部材23は第1保持部材21及び第2保持部材22の間における一次構造体20の中間部(中央部)に固定される。
【0028】
第1保持部材21、第2保持部材22及び押圧部材23は、一次構造体20の上面に対して、例えば、ピン等を介して取り外し可能に固定される。曲げ工程において曲げ加工を行う際に、第1保持部材21、第2保持部材22及び押圧部材23は、一次構造体20との間で滑りが生じないように一次構造体20との接触面が、それぞれ摩擦抵抗が大きく形成されているのが好ましい。摩擦抵抗を大きくする構成として、例えば、ゴム等の摩擦抵抗が大きな材料によるライニングがある。
【0029】
そして図3(b)に示すように、第1保持部材21が固定され、第2保持部材22が第1保持部材21と同一平面内で一次構造体20に張力を加えている状態で、押圧部材23が一次構造体20に対して下方へ押圧力を付与するように下降移動されて曲げ加工が行われる。第2保持部材22は一次構造体20に張力を加えた状態で、曲げ加工の開始から終了まで同一平面内を移動する。
【0030】
図3(c)及び図4に鎖線で示すように、押圧部材23は、曲げ加工開始時においては第1保持部材21及び第2保持部材22の位置する平面と同一平面上に存在する。しかし、曲げ加工開始、即ち押圧開始後は、第1保持部材21及び第2保持部材22の位置する平面に対して傾斜、この実施形態では一端側から他端側に向かって下降傾斜するように移動される。そして、押圧部材23はその押圧面が、曲げ加工完了時には第1保持部材21及び第2保持部材22の位置する平面と所定角度を成す平面上に位置するように移動される。また、押圧部材23は、曲げ加工開始時においては鎖線で示すように、第1保持部材21に対して平行ではなく所定の角度を成す状態に位置する。しかし、曲げ加工開始後は、徐々に第1保持部材21に対して平行に近づくように移動され、曲げ加工完了時には、図3(c)及び図4に実線で示すように、第1保持部材21と平行な状態に配置される。
【0031】
一方、第2保持部材22は、図3(c)及び図4に鎖線で示すように、曲げ加工開始時においては第1保持部材21に対して平行ではなく所定の角度を成す状態に位置する。そして、曲げ加工開始後は、押圧部材23の移動に伴って徐々に第1保持部材21に対して平行に近づくように移動され、曲げ加工完了時には、図3(c)及び図4に実線で示すように、第1保持部材21と平行な状態に配置される。
【0032】
詳述すると、第1保持部材21及び第2保持部材22の高さを一定に保持した状態で、一次構造体20に対して第1保持部材21及び第2保持部材22の中間部において押圧力を付与可能な賦形装置を用いて曲げ加工が行われる。
【0033】
曲げ加工に使用する賦形装置は、図5(a),(b)に示すように、一次構造体20の端部を第1保持部材21とともに把持可能な一組のクランプ装置24,25備えている。クランプ装置24,25は、水平に配置されたエアシリンダ26と、そのピストンロッド26aの先端に設けられた把持部27とを備えている。クランプ装置24,25は、一次構造体(プリフォーム)20の端部を把持部27で把持した状態において、エアシリンダ26により一次構造体20を所定範囲の張力で引っ張ることが可能に構成されている。
【0034】
賦形装置は、第1保持部材21を第2保持部材22と同じ高さに固定する固定部28を備えている。エアシリンダ29の作動により、第1保持部材21を固定部28に固定する状態と、第1保持部材21を解放可能な状態とに切り換え可能に構成されている。
【0035】
また、賦形装置は、把持部27及び固定部28により保持された一次構造体20に対して、押圧部材23を介して押圧力を付与可能な機構を備えている。押圧力を付与する機構は、図4に示すように、平面内で回動可能な支持軸30と、支持軸30に対して回動可能に支持されたアーム31とを備えるとともに、アーム31に固定された押圧部材23に対して押圧力を付与するシリンダ32(図5(a),(b)に図示)を備えている。シリンダ32は、ピストンロッド32aを介して押圧部材23を押圧するとともに、支持軸30が平面内で回動されるのに同期して水平方向に移動され、押圧部材23が回動されても支障無く押圧力を付与可能に構成されている。押圧部材23は、シリンダ32の作動により、待機位置とクランプ装置24,25により所定範囲の張力が加えられて保持される一次構造体20を押圧する作用位置とに移動されるようになっている。なお、図4においては、一方の押圧部材23用の支持軸30及びアーム31のみを図示している。
【0036】
賦形装置は、形成すべき三次元繊維構造体11のハット部の頂部における曲げ部14bの外側の形状に対応した型面33aを有する固定型33を備えている。
一次構造体20の曲げ加工は、図5(a)に示すように、クランプ装置24,25の把持部27で一次構造体20の両端部を把持し、固定部28で一次構造体20の中央部を固定した状態で、一次構造体20に対して水平方向に所定範囲の張力を加えた状態とする。また、シリンダ32を各押圧部材23と対向する曲げ開始位置に配置させるとともに、ピストンロッド32aの先端が押圧部材23と当接する状態に配置する。その状態からシリンダ32を作動させて、押圧部材23を下方へ回動させる。押圧部材23の下方への回動に伴って一次構造体20に対して押圧部材23により押圧力が加えられる。押圧部材23は下方への回動とともに、押圧部材23の存在する面内での回動も行われる。
【0037】
一次構造体20の第1保持部材21及び第2保持部材22の中間部が押圧部材23により下方へ押圧されて移動するのに伴って、エアシリンダ26のピストンロッド26aの突出量が大きくなり、両把持部27の間隔が小さくなる。即ち、一定の高さ位置において一次構造体20に水平方向の張力を加えている両第2保持部材22は、第1保持部材21に近づくように同一平面内を移動する。エアシリンダ26は積極的に第2保持部材22(把持部27)を移動させるのではなく、押圧部材23の下降移動により一次構造体20に無理な力が作用しないように把持部27の位置が移動される。
【0038】
第1保持部材21及び第2保持部材22が一定の高さ位置において一次構造体20に水平方向の張力を加えている状態で、その中間部が押圧部材23により下方へ押圧されて下降移動する。そして、一次構造体20には、第2保持部材22及び押圧部材23に挟まれた部分と、押圧部材23及び第1保持部材21に挟まれた部分の両端部に曲げ方向の異なる曲げ部14a,14bが形成される。一次構造体20が曲げられると、当該曲げ部だけで見ると、内経路と外経路で長さが異なる状態となる。この経路差を吸収するように、0度繊維層12a及び90度繊維層12bにずれが発生すれば、曲げ部14a,14bの内側に皺や歪みが発生せずに曲げ加工が行われることになる。一次構造体20は、第1保持部材21及び第2保持部材22に保持されて水平方向に一定範囲の張力が加えられた状態で押圧部材23により垂直方向へ押圧力を受けるため、0度繊維層12a及び90度繊維層12bに無理なくずれが発生する。また、一次構造体20は、曲げ方向が異なる曲げ部14a,14bが第2保持部材22及び押圧部材23に挟まれた部分と、押圧部材23及び第1保持部材21に挟まれた部分の両端部に形成されるように変形するため、一方の曲げ部14aの内側のずれに対応する分が、他方の曲げ部14bの外側のずれで吸収されるように無理なく変形する。
【0039】
前記のように構成された三次元繊維構造体11に、樹脂含浸硬化工程で樹脂の含浸、硬化が行われて繊維強化複合材(繊維強化樹脂)が形成される。樹脂の含浸、硬化には、例えば、レジントランスファーモールディング(RTM)法が採用される。RTM法では、樹脂含浸用金型(成形型)内に三次元繊維構造体11を配置し、その状態で樹脂含浸用金型内に熱硬化性のマトリック樹脂を注入して三次元繊維構造体11に含浸させた後、加熱硬化させることにより、繊維強化複合材が製造される。熱硬化性樹脂として、例えばエポキシ樹脂が使用される。曲げ加工完了後の三次元繊維構造体11を、第1保持部材21、第2保持部材22及び押圧部材23を取り外さずに成形型内まで搬送した後、第1保持部材21、第2保持部材22及び押圧部材23を三次元繊維構造体11から取り外す。三次元繊維構造体11を成形型内に収容した状態では、スプリングバックにより曲げ部14a,14bの曲率が曲げ加工された状態のときより小さくなるが、型閉じすることにより所望の曲率状態になる。
【0040】
一次構造体20としてほぼ150mmの長さで、積層繊維層が30層のものを使用して曲げ加工を行ったところ、曲げ部の内側に皺や歪みが抑制された状態で三次元繊維構造体11が得られた。
【0041】
なお、図1〜図5は、三次元繊維構造体11、一次構造体20あるいは賦形装置等の構成を模式的に示したものであり、図示の都合上、一部の寸法を誇張して分かり易くするために、それぞれの部分の幅、長さ、厚さ等の寸法の比は実際の比と異なっている。また、図によってもそれぞれの部分の幅、長さ、厚さ等の寸法の比が異なっているものもある。
【0042】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)繊維強化複合材の製造方法は、連続繊維配列工程、厚さ方向糸挿入工程、曲げ工程及び樹脂含浸硬化工程を備えている。曲げ工程においては、第1保持部材21と第2保持部材22で一次構造体20に張力をかけつつ保持するとともに、第1保持部材21と第2保持部材22の中間部において押圧部材23で曲げ力を作用させるように第1保持部材21、第2保持部材22及び押圧部材23を相対移動させる。そして、一次構造体20の第2保持部材22及び押圧部材23に挟まれた部分と、押圧部材23及び第1保持部材21に挟まれた部分の両端部に曲げ方向の異なる曲げ部14a,14bを形成する。従って、平板状の一次構造体20を単に押圧(プレス)して曲げる場合と異なり、曲げ部14a,14bにおける皺や歪みの発生が抑制された三次元繊維構造体11の製造が可能になり、そのような三次元繊維構造体11を強化材とした繊維強化複合材の製造が可能になる。
【0043】
(2)曲げ工程において、一次構造体20を保持する保持部材の1つ(第1保持部材21)を固定した状態で曲げ加工を行う。従って、固定した1つの保持部材(第1保持部材21)の位置を基準に他の保持部材(第2保持部材22及び押圧部材23)の移動を制御することにより、各保持部材をそれぞれ移動させて曲げ加工を行うより制御が簡単になる。
【0044】
(3)一次構造体20を保持する保持部材は奇数個設けられ、中央の保持部材(第1保持部材21)を固定した状態で曲げ加工を行う。従って、固定された中央の第1保持部材21を挟んで両側に位置する保持部材(第2保持部材22及び押圧部材23)を対称に移動させることで曲げ加工を容易に行うことができる。
【0045】
(4)曲げ工程では、一次構造体20の中央を保持する第1保持部材21と、一次構造体20の両端部を保持する第2保持部材22とが設けられ、第2保持部材22は一次構造体20に張力を加える状態で、曲げ加工の開始から終了まで同一平面内を移動可能に設けられる。そして、第1保持部材21及び第2保持部材22の中間部において一次構造体20に対して押圧部材23を介して、かつ押圧部材23の押圧面が一次構造体20に対して移動しない状態で押圧力を加えて曲げ加工を行う。従って、ハット形状が連続した断面形状のように複雑な断面形状の三次元繊維構造体11であっても、曲げ部14a,14bにおける皺や歪みの発生が抑制された状態で容易に製造が可能になる。
【0046】
(5)一次構造体20は平面略扇形に形成され、押圧部材23はその押圧面が、曲げ加工完了時には第1保持部材21及び第2保持部材22の位置する平面と所定角度を成す平面上に位置するように移動される。従って、曲げ部14a,14bの曲率中心線と直交する面における断面形状が同一ではなく、その一端から他端側に向かって次第にハット部の高さが高くなるようなより複雑な形状の三次元繊維構造体11であっても、容易に製造が可能になる。
【0047】
(6)樹脂含浸硬化工程における樹脂の含浸、硬化はレジントランスファーモールディング(RTM)法により行われる。従って、他の含浸、硬化法に比較して、三次元繊維構造体11に樹脂を生産性良く均一に含浸、硬化せることができる。
【0048】
(7)曲げ加工完了後の三次元繊維構造体11を、第1保持部材21、第2保持部材22及び押圧部材23を取り外さずに、第1保持部材21等に保持された状態においてRTM法で使用される成形型内まで搬送した後、第1保持部材21、第2保持部材22及び押圧部材23を三次元繊維構造体11から取り外す。従って、三次元繊維構造体11を曲げ加工の状態を保持したままで搬送し易くなる。
【0049】
(8)連続繊維16a,16bとして炭素繊維が使用されている。炭素繊維の伸び率は、一般に0.5〜2.4%であるため、一次構造体20の曲げ加工時に0度繊維層12a及び90度繊維層12bのずれが円滑に行われない場合は、曲げ部の内側に皺や歪みが発生し易くなるが、この実施形態では、連続繊維に炭素繊維を使用しても曲げ部を無理なく形成することができる。
【0050】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 平面扇状の一次構造体20は、矩形状の一次構造体20の周縁を切断して形成する代わりに、治具18を扇状の枠体を備えた形状として、連続繊維配列工程で積層繊維層12を扇状に形成してもよい。
【0051】
○ 曲げ加工は、スプリングバックを考慮して、繊維強化複合材における曲げ部の曲率より大きな曲率となるように三次元繊維構造体11の曲げ部14a,14bを形成してもよい。曲げ工程において曲げ部14a,14bの曲率が繊維強化複合材における曲げ部の曲率と同じに成るように曲げ加工を行うと、得られた三次元繊維構造体11はスプリングバックのため、曲げ部14a,14bの曲率が小さくなる。しかし、スプリングバックを考慮して繊維強化複合材の曲げ部の曲率より大きな曲率となるよう曲げ加工を行うと、得られた三次元繊維構造体11の曲げ部14a,14bの曲率が繊維強化複合材における曲げ部の曲率と同等のものが得られる。
【0052】
○ 三次元繊維構造体11は、その一端から他端側に向かって次第にハット部の高さが高くなるような形状に限らず、断面形状がその一端から他端側に向かって一定であってもよい。その場合は、一次構造体20として平面矩形状のものを使用し、押圧部材23は第1保持部材21及び第2保持部材22と平行な状態を維持して下降移動し、それに対応して第2保持部材22は第1保持部材21と平行な状態で第1保持部材21に近づくように移動する。
【0053】
○ 積層繊維層12は、0度繊維層12aと90度繊維層12bとが交互に積層された構成に限らず、連続繊維からなる繊維層が積層されて形成された少なくとも2軸配向となる構成であればよい。例えば、配列角度が0°の連続繊維16aからなる0度繊維層12aと、配列角度が90°の連続繊維16bからなる90度繊維層12bに加えて、配列角度が+45°及び−45°の連続繊維(バイアス繊維)からなるバイアス繊維層を有する4軸配向となる構成としてもよい。また、配列角度が0°の連続繊維16aと、バイアス繊維との組み合わせあるいは、配列角度が90°の連続繊維16bと、バイアス繊維との組み合わせにより3軸配向としてもよい。
【0054】
○ 積層繊維層12は、異なる配列角度の連続繊維からなる繊維層が交互に積層される構成に限らず、同じ配列角度の連続繊維からなる繊維層が複数層連続して積層された部分がある構成としてもよい。
【0055】
○ 三次元繊維構造体11は、連続繊維からなる繊維層が積層されて少なくとも2軸配向となる積層繊維層12が、曲げ方向の異なる曲げ部14a,14bが平面部15bを間にして隣り合う状態で隣接して存在する部分を有する立体的な板状に形成されるとともに、積層繊維層12の各繊維層と交差する状態で厚さ方向糸13が配列されていればよい。また、曲げ加工の際に使用する保持部材の数も形成すべき三次元繊維構造体11の形状によって異なり、一次構造体20に対して張力をかけつつ一次構造体20に曲げ力を作用させるように保持部材を相対移動させることができればよく、少なくとも2個の保持部材があればよい。例えば、図6(a)に示すように、断面ハット形状の三次元繊維構造体11や、図6(b)に示すように、2個の曲げ部14a,14bと3個の平面部15a,15bからなる断面クランク形状の三次元繊維構造体11であってもよい。断面ハット形状の三次元繊維構造体11は、ハット形状が連続する形状の三次元繊維構造体11を製造する際の賦形装置の片側分を使用したり、片側分と同じ構成の賦形装置を使用したりして製造することができる。また、断面クランク形状の三次元繊維構造体11は、一次構造体20の両端部を把持した状態で張力をかけつつ、両端部を相対移動させるようにして曲げ加工を行うことで形成される。これらの三次元繊維構造体11も樹脂を含浸、硬化させて複合材として使用される。
【0056】
○ 三次元繊維構造体11は、織物組織からなる繊維層が積層された少なくとも2軸配向となる積層繊維層12が、曲げ部と平面部とが連続する立体的な板状に形成されるとともに、積層繊維層12の各繊維層と交差する状態で厚さ方向糸13が配列された構成でもよい。即ち、三次元繊維構造体11は積層された織物が厚さ方向糸13で結合された構成であってもよい。この場合、三次元繊維構造体11を製造する際は、連続繊維配列工程に代えて織物を積層する織物積層工程が行われる。その他の工程、即ち厚さ方向糸挿入工程及び、厚さ方向糸13が挿入された平板状の一次構造体20の所定位置に曲げ部を形成する曲げ工程は前記実施形態と同様に行われる。織物としては、例えば、平織りの織物が使用されるが、二重織物、三重織物、風通織物等の多層織物を積層してもよい。この場合、連続繊維を配列した繊維層を積層して積層繊維層12を構成するより、積層繊維層12の形成を短時間で行うことができる。
【0057】
○ 一端が自由状態の平面部15aと、同じ曲げ方向の曲げ部14a又は曲げ部14bに挟まれた平面部15cとの高さが異なる形状の三次元繊維構造体11の製造に適用してもよい。その場合は、第1保持部材21及び第2保持部材22が同一平面上に存在する状態から曲げ加工を開始し、曲げ加工の途中で第2保持部材22を第1保持部材21と異なる高さとなるように移動させる。
【0058】
○ 押圧部材23は矩形状に限らない。例えば、図7に示すように、押圧部材23を台形状に形成してもよい。第1保持部材21、第2保持部材22は矩形状に形成される。この場合、三次元繊維構造体11は、その一端から他端側に向かって次第にハット部の高さが高くなるとともに、ハット部の幅が次第に狭くなるような形状になる。
【0059】
○ 積層繊維層12を構成する連続繊維は炭素繊維に限らず、三次元繊維構造体11に要求される物性に対応して、アラミド繊維、ガラス繊維等を使用してもよい。
○ 厚さ方向糸挿入工程においては、積層繊維層12に厚さ方向糸13が積層繊維層12を貫通するように挿入されればよく、必ずしも積層繊維層12と直交する状態に限らず多少傾いた状態で挿入してもよい。
【0060】
○ 三次元繊維構造体11を強化材とした複合材に使用される熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂に限らず、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等を使用してもよい。
○ 三次元繊維構造体11を強化材とした複合材を構成するマトリックス樹脂として熱硬化性樹脂に代えて、熱可塑性樹脂を使用してもよい。マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を使用する場合は、積層繊維群に溶融含浸成形法など一般の含浸法で熱可塑性樹脂が含浸された後、冷却されて複合材が形成される。熱可塑性樹脂としては、例えば、ナイロン、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネートなどが使用される。
【0061】
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
(1)請求項3に記載の発明において、前記曲げ工程では、前記保持部材として前記一次構造体の中央を保持する第1保持部材と、前記一次構造体の両端部を保持する第2保持部材とが設けられ、前記第2保持部材は前記一次構造体に張力を加える状態で、曲げ加工の開始から終了まで同一平面内を移動可能に設けられ、前記第1保持部材及び第2保持部材の中間部において前記一次構造体に対して押圧部材を介して、かつ押圧部材の押圧面が一次構造体に対して移動しない状態で押圧力を加えて曲げ加工を行う。
【0062】
(2)前記技術的思想(1)に記載の発明において、前記一次構造体は平面略扇形に形成され、前記押圧部材はその押圧面が、曲げ加工完了時には前記第2保持部材の位置する平面と所定角度を成す平面上に位置するように移動される。
【0063】
(3)請求項4に記載の発明において、請求項1〜請求項3及び前記技術的思想(1),(2)のいずれか一項に記載の発明において形成された前記三次元繊維構造体を、前記保持部材に保持された状態で成形型内まで搬送した後、前記保持部材を前記三次元繊維構造体から取り外す。
【0064】
(4)織物組織からなる繊維層が積層された少なくとも2軸配向となる積層繊維層が、曲げ方向の異なる曲げ部が平面部を間にして隣り合う状態で隣接して存在する部分を有する立体的な板状に形成されるとともに、前記積層繊維層の各繊維層と交差する状態で厚さ方向糸が配列された三次元繊維構造体を強化材とした繊維強化複合材の製造方法であって、
織物を積層して少なくとも2軸配向となる積層繊維層を形成する織物積層工程と、
前記積層繊維層に厚さ方向糸が前記積層繊維層を貫通するように挿入して平板状の一次構造体を形成する厚さ方向糸挿入工程と、
前記厚さ方向糸が挿入された平板状の一次構造体の所定位置に曲げ部を形成する曲げ工程と、
前記曲げ工程で曲げ加工が行われた後の一次構造体を成形型内に配置して樹脂の含浸、硬化を行う樹脂含浸硬化工程と
を備え、
前記曲げ工程において、前記一次構造体の一部を少なくとも2個の保持部材で保持するとともに前記一次構造体に張力をかけつつ前記一次構造体に曲げ力を作用させるように前記保持部材を相対移動させ、相対移動する前記保持部材に挟まれた前記一次構造体の両端部に曲げ方向の異なる曲げ部を形成することを特徴とする繊維強化複合材の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】(a)は一実施形態における三次元繊維構造体の模式斜視図、(b)は曲げ方向の異なる曲げ部と両曲げ部に挟まれた平面部の関係を示す模式図、(c)は一次構造体の積層繊維層と厚さ方向糸との関係を示す模式断面図。
【図2】(a),(b)は治具と連続繊維の配列状態を示す模式平面図、(c)は外形加工を施した一次構造体の斜視図。
【図3】(a)〜(c)は曲げ工程の手順を示す模式斜視図。
【図4】曲げ工程を説明する模式斜視図。
【図5】(a),(b)は賦形装置と一次構造体及び三次元繊維構造体との関係を示す模式図。
【図6】(a)は別の実施形態の三次元繊維構造体の模式斜視図、(b)は別の実施形態の三次元繊維構造体の模式図。
【図7】別の実施形態の一次構造体と押圧部材等を示す模式平面図。
【図8】従来技術を示す模式図。
【符号の説明】
【0066】
11…三次元繊維構造体、12…積層繊維層、12a…繊維層としての0度繊維層、12b…繊維層としての90度繊維層、13…厚さ方向糸、14a,14b…曲げ部、15a,15b,15c…平面部、16a,16b…連続繊維、17a,17b…規制部材としてのピン、18…治具、20…一次構造体、21…保持部材としての第1保持部材、22…保持部材としての第2保持部材、23…保持部材としての押圧部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続繊維からなる繊維層が積層された少なくとも2軸配向となる積層繊維層が、曲げ方向の異なる曲げ部が平面部を間にして隣り合う状態で隣接して存在する部分を有する立体的な板状に形成されるとともに、前記積層繊維層の各繊維層と交差する状態で厚さ方向糸が配列された三次元繊維構造体を強化材とした繊維強化複合材の製造方法であって、
規制部材が所定ピッチで配置された治具上に、前記規制部材と係合して折り返すように連続繊維を前記規制部材間に配列して形成した繊維層を積層して少なくとも2軸配向となる積層繊維層を形成する連続繊維配列工程と、
前記積層繊維層に厚さ方向糸が前記積層繊維層を貫通するように挿入して平板状の一次構造体を形成する厚さ方向糸挿入工程と、
前記厚さ方向糸が挿入された平板状の一次構造体の所定位置に曲げ部を形成する曲げ工程と、
前記曲げ工程で曲げ加工が行われた後の一次構造体を成形型内に配置して樹脂の含浸、硬化を行う樹脂含浸硬化工程と
を備え、
前記曲げ工程において、前記一次構造体の一部を少なくとも2個の保持部材で保持するとともに前記一次構造体に張力をかけつつ前記一次構造体に曲げ力を作用させるように前記保持部材を相対移動させ、相対移動する前記保持部材に挟まれた前記一次構造体の両端部に曲げ方向の異なる曲げ部を形成することを特徴とする繊維強化複合材の製造方法。
【請求項2】
前記曲げ工程において、前記一次構造体を保持する保持部材の1つを固定した状態で曲げ加工を行う請求項1に記載の繊維強化複合材の製造方法。
【請求項3】
前記一次構造体を保持する保持部材は奇数個設けられ、中央の保持部材を固定した状態で曲げ加工を行う請求項1に記載の繊維強化複合材の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂の含浸、硬化はレジントランスファーモールディング(RTM)法により行われる請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の繊維強化複合材の製造方法。
【請求項5】
前記曲げ加工は、スプリングバックを考慮して繊維強化複合材における曲げ部の曲率より大きな曲率となるように曲げ部を形成する請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の繊維強化複合材の製造方法。
【請求項6】
前記連続繊維及び厚さ方向糸の少なくとも一方は、伸び率が2.4%以下である請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の繊維強化複合材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−283586(P2007−283586A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−112088(P2006−112088)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】