説明

繊維強化複合材料成形システム、繊維強化複合材料成形方法及び繊維強化複合材料

【課題】繊維強化複合材料システムにおいて、繊維強化複合材料の繊維体積含有率を、より精度よく制御することである。
【解決手段】繊維束14に樹脂を含浸して成形する繊維強化複合材料成形システム10であって、繊維束14に第1樹脂を含浸する樹脂含浸装置22と、第1樹脂が含浸された繊維束14に第2樹脂を被覆する樹脂被覆装置34とを備え、第2樹脂には、第1樹脂よりも樹脂粘度が高い樹脂を用いる。そして、第1樹脂と第2樹脂とには、熱硬化性樹脂を使用することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料成形システム、繊維強化複合材料成形方法及び繊維強化複合材料に係り、特に、繊維に樹脂を含浸して成形する繊維強化複合材料成形システム、繊維強化複合材料成形方法及び繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮水素ガスや圧縮天然ガス(CNG)等を貯蔵する、例えば、車両用の高圧タンク等には、軽量化のために、繊維強化複合材料が用いられている。このような繊維強化複合材料には、例えば、強化繊維としての炭素繊維等に、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂等を含浸させて成形した繊維強化複合材料が用いられる。繊維強化複合材料を成形するための繊維強化複合材料成形システムには、例えば、フィラメントワインディング(Filament Winding:FW)法等が使用される。フィラメントワインディング法は、樹脂含浸した繊維をマンドレル等に連続して巻き付けて積層することにより繊維強化複合材料を成形するシステムである。
【0003】
特許文献1には、耐衝撃性、耐疲労特性に優れた繊維強化複合材料をフィラメントワインディング法などの成形法で容易に与えうる中間素材であるヤーンプリプレグ、およびかかる優れた特性を有する繊維強化複合材料を提供するため、強化繊維に熱硬化性樹脂が含浸され、かつ、エラストマーまたは熱可塑性樹脂を主体としてなる樹脂が表面近傍に存在することを特徴とするヤーンプリプレグ等が示されている。
【0004】
特許文献2には、マンドレルの表面に光硬化剤と熱硬化剤を含有する硬化性樹脂液を塗布し、これに光を照射して硬化性樹脂液をゲル化させ、その外周に熱硬化性樹脂液を含浸させたロービング繊維材を巻付けて積層し、これを常温でまたは加熱して全部の樹脂を硬化させて、繊維強化樹脂成形品を製造することが示されている。
【0005】
特許文献3には、巻線に繊維補強材を巻き付ける作業を行う際に、補強材に含浸された樹脂が未硬化の状態にあって流動性を有するため作業性が悪いだけでなく、樹脂が垂れ落ちて無駄になる欠点を解決するため、樹脂含浸繊維補強材に含浸させた樹脂を予め半硬化の状態に処理しておき、樹脂含浸繊維補強材を加熱して樹脂を溶融させつつ巻線を被覆する作業を行うことが示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平08−283435号公報
【特許文献2】特開平05−457号公報
【特許文献3】特開昭54−156077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、繊維強化複合材料を、例えばフィラメントワインディング法で成形する場合には、繊維束に樹脂を含浸した後、樹脂含浸された繊維束はマンドレル等に巻き付けられて積層される。繊維束に含浸される樹脂には、樹脂含浸性を向上させるため、一般的に、樹脂粘度がより小さい樹脂が使用される。そのため、加熱硬化時に、樹脂含浸された繊維束を積層した積層体から含浸された樹脂が流動して流れ出す可能性がある。それにより、積層体を硬化して成形された繊維強化複合材料における繊維体積含有率の制御が困難な場合がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、繊維強化複合材料の繊維体積含有率を、より精度よく制御することができる繊維強化複合材料システム、繊維強化複合材料成形方法及び繊維強化複合材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る繊維強化複合材料成形システムは、繊維束に樹脂を含浸して成形する繊維強化複合材料成形システムであって、繊維束に第1樹脂を含浸する樹脂含浸装置と、第1樹脂が含浸された繊維束に、第2樹脂を被覆する樹脂被覆装置と、を備え、第2樹脂は、第1樹脂よりも樹脂粘度が高いことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る繊維強化複合材料成形システムにおいて、第2樹脂が被覆された繊維束を間隙に通すことにより、余分に被覆された第2樹脂を除去して第2樹脂の被覆量を調整する被覆量調整手段を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る繊維強化複合材料成形システムにおいて、第1樹脂と第2樹脂とは、熱硬化性樹脂であることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る繊維強化複合材料成形方法は、繊維束に樹脂を含浸して成形する繊維強化複合材料成形方法であって、繊維束に第1樹脂を含浸する樹脂含浸工程と、第1樹脂が含浸された繊維束に、第2樹脂を被覆する樹脂被覆工程と、を備え、第2樹脂は、第1樹脂よりも樹脂粘度が高いことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る繊維強化複合材料は、繊維束に樹脂を含浸して成形される繊維強化複合材料であって、繊維束に第1樹脂を含浸し、第1樹脂が含浸された繊維束に、第1樹脂よりも樹脂粘度が高い第2樹脂を被覆して成形されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上記のように本発明に係る繊維強化複合材料成形システム、繊維強化複合材料成形方法及び繊維強化複合材料によれば、樹脂含浸された繊維束が積層された積層体からの樹脂の流出が抑制されるので、繊維強化複合材料の繊維体積含有率を、より精度よく制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。図1は、繊維強化複合材料成形システム10の構成を示す図である。
【0016】
繊維供給装置12は、繊維束14を送り出す機能を有している。繊維供給装置12には、例えば、クリールスタンド(Creel Stand)等を用いることができる。繊維供給装置12は、繊維束14を巻き付けるための複数のボビン16と、複数の繊維束14に負荷される張力を調整するための複数の繊維張力調整装置18とを有している。それにより、ボビン16等から送り出された複数の繊維束14からなる繊維束を、繊維張力調整装置18で所定の張力に調整して供給することができる。勿論、他の条件次第では、繊維束14の本数は、複数本に限定されることはなく、1本でもよい。
【0017】
繊維束14には、高強度繊維または高弾性繊維である炭素繊維等を使用することができる。そして、炭素繊維には、レーヨン系炭素繊維、ポリアクリロニトリル(Polyacrylonitrile:PAN)系炭素繊維またはピッチ系炭素繊維等が用いられる。勿論、繊維束14には、炭素繊維に限定されることはなく、ガラス繊維またはアラミド繊維等を用いることができる。
【0018】
繊維束14には、繊維径が、例えば、1μmから5μmの単繊維であるフィラメントを束ねたヤーン、ストランド、ロービング等を用いることができる。繊維束14として、例えば、炭素繊維を用いた場合には、炭素繊維フィラメントを1万本〜5万本束ねた炭素繊維ストランド等を用いることができる。また、繊維束14には、一方向材だけでなく、平織や朱子織等で織られた織物材の繊維シート等を使用してもよい。勿論、他の条件次第では、繊維束14は、これらの形態に限定されることはない。
【0019】
繊維張力測定装置20は、繊維供給装置12から送り出された複数の繊維束14に負荷された張力を測定する機能を有している。繊維張力測定装置20には、一般的に、炭素繊維等の張力測定に用いられている張力測定装置を使用することができる。
【0020】
樹脂含浸装置22は、繊維張力測定装置20で張力測定された繊維束14に、第1樹脂を含浸する機能を有している。樹脂含浸装置22は、繊維束14に含浸する第1樹脂を溜める樹脂槽24と、繊維束14に第1樹脂を付着させる樹脂含浸ローラ26と、第1テンションローラ28と、第2テンションローラ30と、を備えている。また、樹脂含浸装置22は、樹脂粘度を調整するために樹脂温度を測定する樹脂温度計(図示せず)と、樹脂含浸量を調整するために繊維束14に付着した樹脂膜厚を測定する樹脂膜厚計32と、を有している。
【0021】
第1樹脂の樹脂含浸は、樹脂含浸ローラ26を回転させて、ローラ面を樹脂槽24に溜めた第1樹脂に浸漬した後、第1樹脂が付着したローラ面を繊維束14に接触させることで樹脂含浸することができる。繊維束14に含浸される第1樹脂には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂または不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂を使用することができる。勿論、第1樹脂は、上記合成樹脂に限定されることなない。
【0022】
第1樹脂には、樹脂硬化度が小さく、樹脂粘度の低い樹脂が使用される。樹脂粘度が低い状態の樹脂を使用することにより、繊維束14により均一に第1樹脂を樹脂含浸することができるからである。図2は、熱硬化性樹脂を25℃で曝露したときの経過時間と樹脂粘度との関係を示す図である。図2では、横軸には熱硬化性樹脂を25℃で曝露したときの経過時間を取り、縦軸には熱硬化性樹脂の樹脂粘度を取り、3種類の熱硬化性樹脂のデータを黒三角、黒四角、黒菱形で示した。なお、樹脂粘度は、JISやASTM等に規定される一般的な樹脂粘度測定方法により測定された。図2に示すように、熱硬化性樹脂は曝露時間が経過するに従って硬化反応が進行するため、樹脂粘度が高くなる。そのため、第1樹脂には、例えば、25℃での曝露時間が20時間以下で、25℃での樹脂粘度2000mPas以下である樹脂粘度が低い状態の樹脂が使用される。
【0023】
樹脂被覆装置34は、第1樹脂が含浸された繊維束14に、第2樹脂を被覆する機能を有している。第2樹脂には、第1樹脂よりも樹脂粘度の高い樹脂が使用される。第1樹脂が含浸された繊維束14に、第1樹脂よりも硬化反応が進み樹脂硬化度が大きく、樹脂粘度が高い状態の第2樹脂を被覆することにより、硬化時には、第1樹脂よりも硬化反応率が大きく樹脂硬化度が大きい第2樹脂から先に硬化が進行するため、繊維束14内に含浸された第1樹脂の流出を抑制することができるからである。
【0024】
第2樹脂には、第1樹脂よりもより硬化反応が進行して樹脂硬化度が大きく、ゲル化近傍の状態にある樹脂を使用することが好ましい。第2樹脂にゲル化近傍の状態にある樹脂を使用することにより、硬化時には、第2樹脂をより速く硬化させることができるからである。図2に示すように、第2樹脂には、例えば、25℃での曝露時間が72時間の近傍で、25℃での樹脂粘度9000mPasである樹脂粘度が高い状態の樹脂が使用される。
【0025】
第1樹脂と第2樹脂とは、同一種類の合成樹脂を用いることが好ましい。例えば、第1樹脂にエポキシ樹脂を用いた場合には、第2樹脂にもエポキシ樹脂を用いることが好ましい。勿論、他の条件次第では、第1樹脂と第2樹脂とは、異なる種類の合成樹脂を使用してもよい。
【0026】
樹脂被覆装置34には、合成樹脂を塗布等してコーティングする一般的なコーティング装置を使用することができる。勿論、樹脂被覆装置34は、上記装置に限定されることはなく、例えば、スプレー装置等を用いてもよい。
【0027】
被覆量調整器36は、余分に被覆された第2樹脂を除去して第2樹脂の被覆量を調整する機能を有している。図3は、被覆量調整器36を示す模式図である。被覆量調整器36は、所定幅の間隙38を有している。第2樹脂が被覆された繊維束14を間隙38に通すことにより、余分に被覆された第2樹脂が除去されて第2樹脂の被覆量を調整することができる。被覆量調整器36は、例えば、ステンレス鋼等の金属シートに、第1樹脂が含浸された繊維束14を通すスリットを穿孔加工等で設けることにより製造することができる。そして、第2樹脂の被覆量を測定するため、樹脂膜厚を測定する樹脂膜厚計40が設けられる。
【0028】
フィラメントワインディング装置42は、樹脂被覆装置34から送り出された第2樹脂が被覆された繊維束14を、型または心金であるマンドレル44(Mandrel)等に巻き付ける機能を有している。フィラメントワインディング装置42は、第2樹脂が被覆された繊維束14をマンドレル44等の円周方向や軸方向に巻き付けることができる。フィラメントワインディング装置42は、例えば、マンドレル44等の回転軸方向に対して略垂直に巻き付けるフープ巻き(Hoop Winding)や、マンドレル44等の回転軸方向に対して所定の角度で巻き付けるヘリカル巻き(Helical Winding)等により第2樹脂が被覆された繊維束14を巻き付けることができる。
【0029】
圧力容器、例えば、高圧タンク等を製造する場合には、マンドレル44の代わりにポリアミド樹脂等により成形された樹脂ライナまたはアルミニウム等により成形された金属ライナ等を使用することができる。そして、第2樹脂が被覆された繊維束14は、フィラメントワインディング装置42により、張力を与えつつ樹脂ライナまたは金属ライナに巻き付けられて積層される。
【0030】
制御装置46は、繊維張力測定装置20と、樹脂含浸装置22に配置される樹脂温度センサ(図示せず)と、樹脂膜厚計32、40等とにリード線とコネクタ等を用いて接続される。
【0031】
制御装置46は、繊維張力測定装置20から出力される繊維束14の張力データの電気信号を入力し、繊維束14の張力を制御することができる機能を有している。そして、制御装置46は、樹脂含浸装置22に配置された樹脂温度センサ(図示せず)から出力される樹脂温度データの電気信号を入力し、樹脂温度を制御することができる機能を有している。制御装置46は、樹脂膜厚計32から出力される第1樹脂の樹脂膜厚データの電気信号を入力して、基準となる所定の樹脂量が樹脂含浸ローラ26に付着されているか否かを検知することができる機能を有している。制御装置46は、樹脂膜厚計40から出力される樹脂膜厚データの電気信号を入力して、第2樹脂において基準となる所定の樹脂量が被覆されているか否かを検知することができる機能を有している。かかる制御装置46は、例えば、パーソナルコンピュータ(PC)で構成することができる。また、制御装置46と接続されたデータロガ48には、上述した繊維束14の張力データ、樹脂温度データ、第1樹脂及び第2樹脂の樹脂膜厚データ等が記憶されて保存される。
【0032】
次に、繊維強化複合材料成形システム10の動作について説明する。
【0033】
繊維供給装置12のボビン16から繊維束14が繰り出され、ボビン16から繰り出された繊維束14は、繊維張力調整装置18により所定の張力に調整されて繊維供給装置12から送り出される。
【0034】
繊維供給装置12から送り出された繊維束14は、繊維張力測定装置20により繊維束14に負荷されている張力が測定される。ここで、繊維張力測定装置20により測定された繊維束14の張力データは、繊維張力測定装置20から制御装置46へ出力され、データロガ48に記憶されて保存される。また、繊維束14に、例えば、基準となる所定の張力が負荷されていない場合には、制御装置46が、張力の異常を検知して異常信号等を出力する。それにより、例えば、繊維強化複合材料成形システム10が停止する。
【0035】
繊維張力測定装置20を通過した繊維束14は、樹脂含浸装置22に送り出される。樹脂含浸装置22における樹脂槽24の中には、例えば、エポキシ樹脂からなる液状の第1樹脂が溜められている。第1樹脂の樹脂温度は、熱電対等の樹脂温度センサ(図示せず)により測定される。そして、樹脂温度データは、樹脂温度センサ(図示せず)から制御装置46へ出力され、データロガ48に記憶されて保存される。また、第1樹脂の樹脂温度が、例えば、設定された樹脂温度でない場合には、制御装置46が樹脂温度の異常を検知して、異常信号等を出力する。それにより、例えば、繊維強化複合材料成形システム10が停止する。
【0036】
樹脂含浸ローラ26は、ローラが回転することにより樹脂槽24に溜められた第1樹脂と接触し、樹脂含浸ローラ26の表面に第1樹脂が付着する。そして、第1テンションローラ28と第2テンションローラ30とにより押さえられた繊維束14が樹脂含浸ローラ26と接触することにより、第1樹脂が繊維束14に含浸される。
【0037】
樹脂膜厚計32により測定された第1樹脂の樹脂膜厚データは、樹脂膜厚計32から制御装置46へ出力される。そして、出力された第1樹脂の樹脂膜厚データは、制御装置46により基準となる樹脂膜厚と比較されるとともにデータロガ48に記憶される。そして、第1樹脂の樹脂膜厚データが基準となる第1樹脂の樹脂膜厚よりも薄い場合には、制御装置46により繊維束14に適正な樹脂量の樹脂が含浸されていないと判断されて、異常信号等が出力される。それにより、例えば、繊維強化複合材料成形システム10が停止する。
【0038】
第1樹脂が含浸された繊維束14は、第2テンションローラ30を介した後、樹脂被覆装置34へ送り出される。第1樹脂が含浸された繊維束14は、樹脂被覆装置34により第2樹脂が塗布されて被覆される。第2樹脂が被覆された繊維束14は、被覆量調整器36に設けられた間隙38を通過することにより、余分に付着された第2樹脂が除去されて第2樹脂の被覆量が調整される。
【0039】
図4は、第2樹脂の被覆量が調整された後における第2樹脂が被覆された繊維束14を示す図である。繊維束14を構成する繊維50と繊維50との間には第1樹脂52が含浸され、第1樹脂52が含浸された繊維束14の表面には、所定の膜厚で第2樹脂54が被覆される。
【0040】
樹脂膜厚計40により測定された第2樹脂の樹脂膜厚データは、樹脂膜厚計40から制御装置46へ出力される。そして、出力された第2樹脂の樹脂膜厚データは、制御装置46により基準となる樹脂膜厚と比較されるとともにデータロガ48に記憶される。そして、第2樹脂の樹脂膜厚データが基準となる第2樹脂の樹脂膜厚よりも薄い場合には、制御装置46により第1樹脂が含浸された繊維束14に適正な樹脂量の第2樹脂が被覆されていないと判断されて、異常信号等が出力される。それにより、例えば、繊維強化複合材料成形システム10が停止する。
【0041】
第2樹脂が被覆された繊維束14は、フィラメントワインディング装置42へ送り出される。第2樹脂が被覆された繊維束14は、フィラメントワインディング装置42により、マンドレル44または高圧タンクのライナ等にフープ巻き等により巻き付けられて積層される。その後、マンドレル44またはライナ等に第2樹脂が被覆された繊維束14を巻き付けて積層した積層体を、図示されない樹脂硬化炉等で加熱することにより、樹脂を硬化して繊維強化複合材料が成形される。
【0042】
ここで、第2樹脂が被覆された繊維束14を積層した積層体の硬化時には、積層体が加熱されることにより、まず、第1樹脂より硬化反応が進行し樹脂硬化度が大きく、樹脂粘度が高い第2樹脂が先に硬化する。第1樹脂は、第2樹脂よりも硬化反応率が小さく樹脂硬化度が小さいため、第1樹脂の樹脂粘度は低い状態にある。しかし、第2樹脂は硬化して既に固化しているため、樹脂粘度が低い状態の第1樹脂の流れは、硬化した第2樹脂によって止められる。そのため、樹脂含浸された繊維束14から第1樹脂の流出が抑制され、より精度よく繊維体積含有率を制御することができる。
【0043】
次に、繊維束14の代わりにプリプレグを使用した繊維強化複合材料成形システムについて説明する。なお、同様な要素は同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0044】
図5は、プリプレグ62を使用した繊維強化複合材料成形システム60を示す図である。予め繊維に樹脂を含浸させたプリプレグ62を使用するため、樹脂含浸装置22は用いられない。プリプレグに含まれる第3樹脂には、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂または不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂を使用することができる。勿論、プリプレグに含まれる第3樹脂は、上記合成樹脂に限定されることはない。
【0045】
繊維供給装置12から送り出されたプリプレグ62は、繊維張力測定装置20によりプリプレグ62に負荷されている張力が測定される。張力測定されたプリプレグ62は、樹脂被覆装置34へ送られる。プリプレグ62は、樹脂被覆装置34により、プリプレグ62に含まれる第3樹脂よりも硬化反応が進行して樹脂硬化度が大きく、樹脂粘度の高い第4樹脂が塗布されてプリプレグ62に被覆される。第4樹脂が被覆されたプリプレグ62は、被覆量調整器36に設けられた間隙38を通過することにより、余分に付着された第4樹脂が除去されて第4樹脂の被覆量が調整される。
【0046】
第4樹脂が被覆されたプリプレグ62は、フィラメントワインディング装置42へ送り出される。第4樹脂が被覆されたプリプレグ62は、フィラメントワインディング装置42により、マンドレル44または高圧タンクのライナ等にフープ巻き等により巻き付けられて積層される。その後、マンドレル44またはライナ等に第4樹脂が被覆されたプリプレグ62を巻き付けて積層した積層体を、図示されない樹脂硬化炉等で加熱することにより、樹脂を硬化して繊維強化複合材料が成形される。
【0047】
ここで、第4樹脂が被覆されたプリプレグ62を積層した積層体の硬化時には、積層体が加熱されることにより、まず、プリプレグ62に含まれる第3樹脂より硬化反応が進行し樹脂硬化度が大きく、樹脂粘度が高い第4樹脂が先に硬化する。プリプレグ62に含まれる第3樹脂は、第4樹脂よりも硬化反応率が小さく樹脂硬化度が小さいので、第3樹脂の樹脂粘度は低い状態にある。しかし、第4樹脂は硬化して既に固化しているため、樹脂粘度が低い状態のプリプレグ62に含まれる第3樹脂の流れは、硬化した第4樹脂によって止められる。そのため、プリプレグ62から第3樹脂の流出が抑制されるので、より精度よく繊維体積含有率を制御することができる。
【0048】
なお、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施得ることは勿論である。例えば、上記の実施形態では、繊維強化複合材料成形方法にフィラメントワインディング法を用いる場合を示しているが、他の繊維強化複合材料成形方法、例えば、ハンドレイアップ法等を用いる場合にも、本発明は適用可能である。
【0049】
以上、上記構成によれば、硬化時に、繊維に含浸された第1樹脂よりも、第1樹脂が含浸された繊維に被覆される第2樹脂が先に硬化するため、繊維に含浸された第1樹脂の流出を抑制することができる。それにより、繊維強化複合材料の繊維体積含有率をより精度よく制御することができる。
【0050】
上記構成によれば、繊維強化複合材料の繊維体積含有率をより精度よく調整することができるので、繊維強化複合材料の層方向で繊維体積含有率を変化させて成形する場合(例えば、樹脂体積含有率が繊維体積含有率より大きい層と、樹脂体積含有率が繊維体積含有率より小さい層との2層構造)においても、繊維体積含有率をより精度よく制御して成形することができる。
【0051】
上記構成によれば、繊維に含浸された第1樹脂の流出を抑制することができるので、ボイドやクラック等の形成を抑制することができる。
【0052】
上記構成によれば、繊維強化複合材料のフィラメントワインディング成形法において、繊維に含浸される第1樹脂の樹脂量と、第1樹脂が含浸された繊維に被覆される第2樹脂の樹脂量とを樹脂膜厚計等で管理することにより、繊維強化複合材料成形工程内で繊維体積含有率の管理を行うことができる。
【0053】
上記構成によれば、繊維の代わりにプリプレグを使用した場合においても、硬化時に、プリプレグに含まれる第3樹脂よりも、プリプレグに被覆される第4樹脂が先に硬化するため、プリプレグに含まれる第3樹脂の流出を抑制することができる。それにより、繊維強化複合材料の繊維体積含有率をより精度よく制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施の形態において、繊維強化複合材料成形システムの構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態において、熱硬化性樹脂を25℃で曝露したときの経過時間と樹脂粘度との関係を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態において、被覆量調整器を示す模式図である。
【図4】本発明の実施の形態において、第2樹脂の被覆量が調整された後における第2樹脂が被覆された繊維束を示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態において、プリプレグを使用した繊維強化複合材料成形システムを示す図である。
【符号の説明】
【0055】
10、60 繊維強化複合材料成形システム、12 繊維供給装置、14 繊維束、16 ボビン、18 繊維張力調整装置、20 繊維張力測定装置、22 樹脂含浸装置、24 樹脂槽、26 樹脂含浸ローラ、28 第1テンションローラ、30 第2テンションローラ、32,40 樹脂膜厚計、34 樹脂被覆装置、36 被覆量調整器、38 間隙、42 フィラメントワインディング装置、44 マンドレル、46 制御装置、48 データロガ、50 繊維、52 第1樹脂、54 第2樹脂、62 プリプレグ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束に樹脂を含浸して成形する繊維強化複合材料成形システムであって、
繊維束に第1樹脂を含浸する樹脂含浸装置と、
第1樹脂が含浸された繊維束に、第2樹脂を被覆する樹脂被覆装置と、
を備え、
第2樹脂は、第1樹脂よりも樹脂粘度が高いことを特徴とする繊維強化複合材料成形システム。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維強化複合材料成形システムであって、
第2樹脂が被覆された繊維束を間隙に通すことにより、余分に被覆された第2樹脂を除去して第2樹脂の被覆量を調整する被覆量調整手段を備えることを特徴とする繊維強化複合材料成形システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の繊維強化複合材料成形システムであって、
第1樹脂と第2樹脂とは、熱硬化性樹脂であることを特徴とする繊維強化複合材料成形システム。
【請求項4】
繊維束に樹脂を含浸して成形する繊維強化複合材料成形方法であって、
繊維束に第1樹脂を含浸する樹脂含浸工程と、
第1樹脂が含浸された繊維束に、第2樹脂を被覆する樹脂被覆工程と、
を備え、
第2樹脂は、第1樹脂よりも樹脂粘度が高いことを特徴とする繊維強化複合材料成形方法。
【請求項5】
繊維束に樹脂を含浸して成形される繊維強化複合材料であって、
繊維束に第1樹脂を含浸し、
第1樹脂が含浸された繊維束に、第1樹脂よりも樹脂粘度が高い第2樹脂を被覆して成形されることを特徴とする繊維強化複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−296494(P2008−296494A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146561(P2007−146561)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】