説明

背圧弁制御装置

【課題】ダイアフラムに過大な負荷を加えて破損させることなく耐久性を向上させて長寿命化を図る。
【解決手段】背圧弁制御装置1は、一次側の被制御ガスを所定圧力に制御するダイアフラム式背圧弁2を用いたもので、設定器3、加算器5、セレクタ6、電空変換器8を具備する。設定器3は、ユーザの入力操作により圧力を設定する。加算器5は、一次側のプロセス制御圧力と予め指定された固定圧力とを加算する。セレクタ6は、設定器3で設定された設定圧力と、加算器5で加算された加算圧力とを比較し、圧力の低い方を選択圧力とする。電空変換器8は、セレクタ6は、選択圧力に応じた空気圧をダイアフラム式背圧弁2のダイアフラムに印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次側の被制御ガスを所定圧力に制御するダイアフラム式背圧弁を用いた背圧弁制御装置に関し、例えば燃料電池から排出される未反応の燃料と空気による背圧を制御するのに適した背圧弁制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、触媒を含む燃料極(負極)及び空気極(正極)と、これらの間に設けられ、所定のイオンの移動を許容する電解質層とからなる発電部を具備した構造を有している。この燃料電池においては、負極に燃料ないし水素を供給するとともに、正極に空気ないし酸素を供給すると、電極に含まれる触媒の作用により各電極において電気化学的な反応が起こり、燃料を供給源として電子による直流電流を取り出すことができる。このようなメカニズムで発電する燃料電池においては、負極に燃料を補給するとともに正極に酸素を補給することにより、長時間にわたって連続発電が可能となり、二次電池と同様に使用することができ、携帯型電子機器類の電源への応用が期待されている。
【0003】
そして、特に固体高分子型燃料電池では、排出される未反応の燃料と空気による背圧の制御が重要な問題であり、固体高分子型燃料電池から排出される排出燃料等に対して背圧制御弁が設けられているのが一般的である。これにより、固体高分子型燃料電池のカソード側に対するアノード側の圧力を所定圧に設定して所定の発電効率を確保するとともに、固体高分子型燃料電池に供給される燃料の流量を制御することで所定の出力が得られるようになっている。
【0004】
ところで、上記背圧制御弁としては、一次側の被制御ガスを所定圧力に制御するダイアフラム式背圧弁が知られている。そして、この種のダイアフラム式背圧弁を用いた従来の背圧弁制御装置としては、例えば下記特許文献1に開示される燃料電池の背圧弁制御装置が知られている。この背圧弁制御装置に用いられるダイアフラム式背圧弁は、例えばステンレス、ニッケルーコバルト合金などからなるダイアフラム(金属円板)の屈曲により開閉を行うバルブで構成される。
【0005】
さらに、ダイアフラム式背圧弁の構成について図3を参照しながら説明する。図3はダイアフラム式背圧弁の概略構成の一例を示す断面図である。このダイアフラム式背圧弁2は、図3に示すように、一対の管体21(21A,21B)に形成された一次側流路(背圧弁の入口側流路)22と二次側流路(背圧弁の出口側流路)23に臨むようにして弁24が配置されている。弁24は、上部が可動中心軸25を介して金属円板からなるダイアフラム26の中心と連結されている。ダイアフラム26の上部には、付勢手段としてのコイルスプリング27が介挿された筒体28が設けられている。筒体28は、外周部が一対の管体21A,21Bに固定され、調整手段として外周部分にネジ29aが切られたボルト29が上部に取り付けられている。このダイアフラム式背圧弁2では、ネジ29aが切られたボルト29を手動により上下移動させることにより、コイルスプリング27を介してダイアフラム26に上から加わる圧力(設定圧力)が調整できるようになっている。そして、上記構成によるダイアフラム式背圧弁2では、ダイアフラム26を境界面として、設定圧力がダイアフラム26の上から印加され、一次側流路22の制御プロセス圧力がダイアフラム26の下から印加されるようになっている。
【特許文献1】特開2006−92855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したダイアフラム式背圧弁2を燃料電池の背圧制御に用いるにあたっては、ダイアフラム26として、通常よりも厚さの薄い0.1〜0.2mm程度のものを使用することで背圧制御時の応答性の向上を図っている。
【0007】
そして、上記ダイアフラム式背圧弁2を用いた一般的に知られている背圧弁制御装置では、ダイアフラム26を境界面として、予めユーザによって設定される設定圧力(ダイアフラム26を押し下げる圧力)と、一次側流路22の制御プロセス圧力(ダイアフラム26を押し上げる圧力)とがダイアフラム26に印加される。
【0008】
ところが、燃料電池の背圧制御時に、設定圧力と一次側の制御プロセス圧力との圧力差が大きくになると、ダイアフラム26に過大な応力が加わってダイアフラム26が変形し、正常に動作しないおそれがあった。特に、一次側の制御プロセス圧力よりも設定圧力が高く、極端な差圧が発生した場合には、ダイアフラム26に必要以上の負荷が加わり、そのまま使用を続けると、ダイアフラム26に亀裂が生じて破損を招き、その破損部分から水素漏れ事故が発生するおそれがあった。
【0009】
さらに具体的数値を示して説明すると、例えば一次側の制御プロセス圧力を仮に400Kpaに設定したい場合には、直接ダイアフラム26に400Kpaが印加される。ところが、一次側の制御プロセス圧力が0Kpaの場合では、ダイアフラム26の片側にのみ400Kpaの圧力(ダイアフラム26を押し下げる圧力)が印加され、これにより過度な差圧が生じ、このような状況が長期に渡ると、ダイアフラム26が差圧に耐えられなくなって破損してしまう。
【0010】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、ダイアフラムに過大な負荷を加えて破損させることなく耐久性を向上させて長寿命化を図ることができる背圧弁制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係る請求項1の発明に記載された背圧弁制御装置は、一次側の被制御ガスを所定圧力に制御するダイアフラム式背圧弁を用いた背圧弁制御装置において、
圧力を設定する設定手段と、
前記一次側のプロセス制御圧力と、指定可能な固定圧力とを加算する加算手段と、
前記設定手段で設定された設定圧力と、前記加算手段で加算された加算圧力とを比較し、圧力の低い方を選択圧力とする圧力選択手段と、
前記圧力選択手段による選択圧力に応じた空気圧を前記ダイアフラム式背圧弁のダイアフラムに印加する電空変換器とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る背圧弁制御装置によれば、従来のようにダイアフラムに設定圧力を直接印加するのではなく、一次側の制御プロセス圧力と固定圧力(例えば100Kpa)との加算圧力と、設定圧力とを比較し、常に圧力の低い方を選択圧力としてダイアフラムに印加するので、ダイアフラムに必要以上の過大な負荷を加えることなく、背圧弁の耐久性を向上させて長寿命化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら具体的に説明する。図1は本発明に係る背圧弁制御装置の概略構成図、図2は本発明に係る背圧弁制御装置において設定圧力を400Kpaから100Kpaに変更した場合の一次側の制御プロセス圧力、加算圧力、電空変換器への制御出力の関係を示す図である。
【0014】
本発明に係る背圧弁制御装置は、例えば燃料電池から排出される未反応の燃料と空気による背圧を制御するもので、燃料電池の排出口に配管を介して接続される。
【0015】
図1に示すように、本例の背圧弁制御装置1は、ダイアフラム式背圧弁(以下、単に背圧弁とも言う)2、設定器3、圧力計4、加算器5、セレクタ6、空気圧源7、電空変換器8を備えて概略構成される。
【0016】
本例では、背圧弁2として、図3に示す構造のものを使用しており、筒体28には筒体28内に臨む貫通穴30が形成されている。そして、ダイアフラム26に上から印加される圧力を自動的に制御するため、セレクタ6によって選択される選択圧力の空気が、空気圧源7から電空変換器8を介して貫通穴30から出し入れされるようになっている。
【0017】
尚、背圧弁2としては、ダイアフラム26を上から所定の圧力(ダイアフラム26を押し下げる圧力)を自動的に可変して印加できる構造であれば良く、特に図3の構造に限定されるものではない。
【0018】
設定手段としての設定器3は、一次側流路22で所望のプロセス制御圧力が得られるようにユーザの手動操作によって設定圧力PAを入力設定しており、この設定圧力PAをセレクタ6に入力している。
【0019】
圧力計4は、一次側流路22の圧力を計測するもので、この計測した圧力を一次側のプロセス制御圧力PBとして加算器5に入力している。
【0020】
加算手段としての加算器5は、予め指定される固定圧力PCと、圧力計4から入力される一次側のプロセス制御圧力PBとを加算し、この加算圧力PDをセレクタ6に入力している。尚、プロセス制御圧力PBと加算される固定圧力PCは、所定範囲内で指定可能であり、例えばダイアフラム26が十分に耐え得る差圧(ダイアフラム26を押し下げる圧力と、ダイアフラム26を押し下げる圧力との差)をダイアフラム26の外径や厚さに応じて予め実験的に求めておき、実際に使用されるダイアフラム26の外径や厚さに応じて最適値が指定される。
【0021】
圧力選択手段としてのセレクタ6は、設定器3で設定された設定圧力PAと、加算器5で加算された加算圧力PDとを比較し、常に圧力の低い方を選択圧力PEとし、この選択圧力PEに応じた電気信号を電空変換器8に入力している。
【0022】
電空変換器8は、セレクタ6から入力される選択圧力PEに応じた電気信号を圧力信号に変換し、この変換された圧力信号による圧力がダイアフラム26に印加されるように、空気圧源7から貫通穴30を介して筒体28内に供給される空気圧を制御している。
【0023】
次に、上記構成による背圧弁制御装置の動作について図2を参照しながら説明する。ここでは、設定器による設定圧力PAを400Kpaから100Kpaに変更した場合を例にとって説明する。ここでは、加算器5でプロセス制御圧力PBと加算される固定圧力PCを100Kpaに指定している。
【0024】
まず、設定器3からセレクタ6に設定圧力PA=400Kpaが入力され、圧力計4が計測する一次側のプロセス制御圧力PBが0Kpaの状態(図2の(イ)の状態)では、この圧力計4が計測した圧力0Kpaがプロセス制御圧力PBとして加算器5に入力される。加算器5では、圧力計4からのプロセス制御圧力PB=0Kpaと固定圧力PC=100Kpaとを加算し、この加算した圧力100Kpaを加算圧力PDとしてセレクタ6に入力する。セレクタ6では、設定器3からの設定圧力PA=400Kpaと、加算器5からの加算圧力PD=100Kpaとを比較し、圧力の低い方、すなわち加算圧力PD=100Kpaを選択圧力PEとし、この選択圧力PEに応じた電気信号を電空変換器8に入力する。電空変換器8では、選択圧力PEに応じた電気信号を圧力信号(選択圧力PEに相当)に変換し、この変換した圧力信号による圧力(選択圧力PE)がダイアフラム26に印加されるように、空気圧源7から貫通穴30を介して筒体28内に供給される空気圧(供給空気圧)を制御する。
【0025】
そして、上記制御により一次側のプロセス制御圧力PBが0Kpaから上昇し、このプロセス制御圧力PBに固定圧力PC=100Kpaを加算した加算圧力PDが設定圧力PA=400Kpa以下の状態では、加算圧力PDを選択圧力PEとしてダイアフラム26に印加される圧力が制御される。そして、この制御により一次側のプロセス制御圧力PBが更に上昇し、加算圧力PDが設定圧力PA=400Kpaを超え、設定圧力PAよりも加算圧力PDが高い状態(図2の(ロ)の状態)になると、セレクタ6は、加算圧力PDより圧力が低い設定圧力PAを選択圧力PEとし、この選択圧力PEに応じた電気信号を電空変換器8に入力する。そして、電空変換器8は、上述したように、選択圧力PEに応じた圧力がダイアフラム26に印加されるように供給空気圧を制御する。
【0026】
その後、設定器2による設定圧力PAが400Kpaから100Kpaに変更されると(図2の(ハ)の状態)、セレクタ6は、プロセス制御圧力PBに固定圧力PC=100Kpaを加算した加算圧力PDより圧力が低い設定圧力PA=100Kpaを選択圧力PEとし、この選択圧力PEに応じた電気信号を電空変換器8に入力する。そして、電空変換器8は、上述したように、選択圧力PEに応じた圧力がダイアフラム26に印加されるように供給空気圧を制御する。
【0027】
尚、図1では、設定圧力PAが400Kpaに設定され、プロセス制御圧力PBが50Kpa、固定圧力PCが100Kpaの場合の動作を示しており、この場合、選択圧力PEとしては、設定圧力PA(=400Kpa)よりも圧力が低い加算圧力PD(プロセス制御圧力PB+固定圧力PC=150Kpa)が選択され、この選択圧力PEがダイアフラムに印加される。これにより、ダイアフラム26は、PE=150Kpaの圧力で押し下げられ、プロセス制御圧力PB=50Kpaの圧力で押し上げられる。したがって、ダイアフラム26に生じる差圧(ダイアフラムを押し下げる圧力と、ダイアフラムを押し上げる圧力との差)は100Kpaとなる。
【0028】
このように、本例の背圧弁制御装置1では、設定器3による設定圧力PAと、加算器5による加算圧力PD(一次側の制御プロセス圧力PBと固定圧力PCとを加算した圧力)とを比較し、常に圧力の低い方を選択圧力PEとし、この選択圧力PEにより電空変換器8を介してダイアフラム26に圧力を印加している。これにより、ダイアフラム26に過度な圧力が印加されず、ダイアフラム26を過度な圧力から保護することができる。
【0029】
具体的に、一次側の制御プロセス圧力PBを0Kpaから400Kpaに変更したい場合、特に一次側の制御プロセス圧力PBが0Kpaのとき、従来の構成ではダイアフラムに400Kpaの差圧を生じるが、本例の構成によればダイアフラムに生じる差圧を加算器5で加えられる固定圧力PC(例えば100Kpa)に抑えることができ、従来に比べてダイアフラムに加わる負荷を大幅に軽減できる。
【0030】
すなわち、本例の背圧弁制御装置1では、従来のようなダイアフラム式背圧弁に設定圧力を直接印加するのではなく、一次側の制御プロセス圧力PBと固定圧力PC(例えば100Kpa)との加算圧力PDと、設定圧力PAとを比較し、常に圧力の低い方を選択圧力PEとしてダイアフラム26に印加している。これにより、ダイアフラム26に必要以上の過大な負荷を加えることなく、背圧弁2の耐久性を向上させて長寿命化を図ることができる。しかも、背圧制御結果に影響を与えることなく、ダイアフラム26の保護が可能となる。
【0031】
ところで、上述した実施形態では、加算器5とセレクタ6とをハード構成として備え、単純なハード構成の追加によって背圧弁2の耐久性を向上させて長寿命化を図っているが、これら加算器5とセレクタ6の機能をソフトウェアによるプログラムで構成し、このプログラムをCPU(制御部)により実行して電空変換器8を制御することもできる。
【0032】
また、上述した実施形態では、燃料電池の排出口に接続し、燃料電池から排出される未反応の燃料と空気による背圧を制御するものとして説明したが、一次側の被制御ガスを所定圧力に制御するダイアフラム式背圧弁2を用いる構成であれば良く、特に燃料電池の背圧制御に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る背圧弁制御装置の概略構成図である。
【図2】本発明に係る背圧弁制御装置において設定圧力を400Kpaから100Kpaに変更した場合の一次側の制御プロセス圧力、加算圧力、電空変換器への制御出力の関係を示す図である。
【図3】ダイアフラム式背圧弁の概略構成の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 背圧弁制御装置
2 背圧弁(ダイアフラム式背圧弁)
3 設定器(設定手段)
4 圧力計
5 加算器(加算手段)
6 セレクタ(圧力選択手段)
7 空気圧源
8 電空変換器
21(21A,21B) 管体
22 一次側流路
23 二次側流路
24 弁
25 可動中心軸
26 ダイアフラム
27 コイルスプリング(付勢手段)
28 筒体
29 ボルト
29a ネジ
30 貫通穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次側の被制御ガスを所定圧力に制御するダイアフラム式背圧弁を用いた背圧弁制御装置において、
圧力を設定する設定手段と、
前記一次側のプロセス制御圧力と、指定可能な固定圧力とを加算する加算手段と、
前記設定手段で設定された設定圧力と、前記加算手段で加算された加算圧力とを比較し、圧力の低い方を選択圧力とする圧力選択手段と、
前記圧力選択手段による選択圧力に応じた空気圧を前記ダイアフラム式背圧弁のダイアフラムに印加する電空変換器とを備えたことを特徴とする背圧弁制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−84139(P2008−84139A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−265145(P2006−265145)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000133526)株式会社チノー (113)
【Fターム(参考)】