説明

膜形成のための前駆体およびルテニウム含有膜を形成するための方法

少なくとも1種の不燃性溶媒、好ましくは一般式CxHyFzOtNu(式中、2x+2y<=y+zであり、2<=x<=15であり、z>yであり、t+u>=1(t+uは好ましくは1である)であり、x、y、z、tおよびuは自然数である)を有するフッ素化された溶媒中に溶解させた四酸化ルテニウムを含む、ルテニウム膜堆積のための前駆体。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
技術分野
本発明は、基板上へのルテニウム含有膜形成または膜堆積のための前駆体(これ以降は、ルテニウム含有膜形成前駆体と呼ぶ)、およびルテニウム含有膜を形成するための方法に関する。
【0002】
発明の背景
ルテニウム、および酸化ルテニウムのようなルテニウム化合物は、次世代のDRAMのキャパシタ電極材料として最も期待されると考えられる材料である。アルミナ、五酸化タンタル、酸化ハフニウム、およびチタン酸バリウム−ストロンチウム(BST)のような高誘電率の材料が、現在のところこれらのキャパシタ電極に使われている。しかしながらこれらの材料は600℃ほどの高い温度を用いて製造され、これはポリシリコン、シリコンおよびアルミニウムの酸化をもたらし、キャパシタンスの損失を引き起こす。一方でルテニウムおよび酸化ルテニウムの双方は高い耐酸化性と高い伝導性とを示し、キャパシタ電極材料としての用途に適している。これらはまた、酸素拡散バリアとして有効に機能する。ルテニウムは、また、酸化ランタニドのためのゲート金属についても提案されている。加えて、ルテニウムは、白金および他の貴金属化合物と比べて、オゾンおよび酸素を用いるプラズマによってより容易にエッチングされる。low−k材料を銅めっきから分離するためのバリア層としての、およびシード層としてのルテニウムの使用は近年注目されている。
【0003】
本発明者等は、ルテニウムおよび酸化ルテニウム(RuO)の高品質な膜を、高純度の四酸化ルテニウム(RuO)の前駆体から適切な条件化で堆積することができるということを発見した。この前駆体は酸化ストロンチウムルテニウムのようなペロブスカイトタイプの材料の堆積(膜形成)にも用いることもでき、これはチタン酸バリウム−ストロンチウムや酸化ストロンチウムチタンのものと極めて同程度の優れた伝導性と3次元構造を示す。
【0004】
しかしながら、強い酸化剤である高純度の四酸化ルテニウムは高い毒性を有すると考えられる。加えて、高純度の四酸化ルテニウムは約130℃の沸点を有し、高温(約108℃以上)においては爆発の危険性を示す。従って、純粋な四酸化ルテニウムはその分解(爆発)の危険性を回避するために低い温度で貯蔵されることが推奨される。
【0005】
反応剤として用いる場合に、四酸化ルテニウム(RuO)のこれらの性質(特に保持中の爆発の危険性)を考えると、これは適切な溶媒中で希釈されて保持される。例えば水、四塩化炭素およびアルカンがこの溶媒としての使用について知られている。
【0006】
しかしながら水の場合に、RuOの保持中の反応および分解を避けるためにNaIOのような安定剤を添加することが必要である。目下の課題の膜の製造についての膜形成前駆体としての水溶性RuOのようなものの使用は、膜およびツール(例えば反応チャンバ)への不純物の導入をもたらす。
【0007】
エレクトロニクス産業はその高い毒性のために四塩化炭素は採用しない。
【0008】
ペンタンおよびオクタンのようなアルカンはRuOの良溶媒であるが、溶解したRuOを含むアルカンが膜製造において膜形成前駆体として用いられる際に、溶媒(例えばペンタン)とRuOとの間の反応が炭素の取り込みを引き起こす。炭素はルテニウムタイプの膜の抵抗の上昇を引き起こし、結果として膜製造中の炭素の存在は重大な問題となる。
【0009】
発明の要約
本発明は、ルテニウム含有膜の製造に非常に有用であり、貯蔵または保持中に爆発の危険性を示さず、かつ安定剤の不存在下でも分解を起こさない膜形成前駆体を提供する。
【0010】
本発明は、また、安全で単純な方法により基板上へのルテニウム含有膜(例えばルテニウム膜、酸化ルテニウム膜、ルテニウム酸塩(ruthenate)膜))の非常に再現性のよい堆積を達成する膜形成方法であって、少なくとも上記した膜形成前駆体は、ガス状の形態で基板を保持している反応チャンバ中に導入される膜形成方法を提供する。
【0011】
本発明によれば、少なくとも1種の不燃性溶媒、好ましくは一般式C(式中、2x+2≦y+zであり、2≦x≦15であり、z>yであり、かつt+u≧1であり、x、y、z、tおよびuは1か、1よりも大きい自然数である)を有するフッ素化された溶媒中に溶解させた四酸化ルテニウムを含む、ルテニウム含有膜の形成のための前駆体が提供される。好ましくは、不燃性のフッ素化された溶媒は、3−エトキシペルフルオロ(2−メチルヘキサン)およびトリス(ヘプタフルオロプロピル)アミンを含む群から選択される。
【0012】
本発明によれば、ルテニウム含有膜を形成するための方法が提供され、当該方法は
少なくとも1つの基板を含む反応チャンバ中に上記した少なくとも1種の膜形成のための前駆体を導入することにより、基板上にルテニウム含有膜を堆積する工程であって、ここで上記前駆体をガス状態で導入する工程
を含む。
【0013】
好ましくは、この方法はまた、
上記反応チャンバ中にガス状の還元剤を導入し、これによって、上記ガス状の前駆体と上記ガス状の還元剤とを反応させることにより少なくとも1つの基板上にルテニウムを堆積する工程
を含む。
【0014】
上記還元剤は、好ましくは水素である。
【0015】
反応チャンバ中の圧力は、好ましくは0.01torr〜1000torrに維持されるべきであると同時に、膜堆積工程を50℃〜800℃の基板温度において行う。
【0016】
好ましくは、還元剤およびルテニウム前駆体を、反応チャンバ中に同時に導入する。
【0017】
本発明による方法は、さらに、
ガス状の前駆体を反応チャンバに導入する工程、
反応チャンバをこの中に不活性ガスを注入することによりパージする工程、
その後、ガス状の還元剤を反応チャンバ中に導入する工程、
反応チャンバをこの中に不活性ガスを注入することによりパージする工程、
その結果、基板上で酸化ルテニウムを還元する工程
を含んでいてもよい。
【0018】
本発明による方法は、さらに、
ガス状の前駆体の導入工程を、所望の膜厚が得られるまで繰り返す工程
を含んでいてもよい。
【0019】
好ましくは、基板温度を100℃〜600℃に維持しながら基板へのルテニウムの堆積を行うものとする。
【0020】
他の態様によれば、本発明はガス状の前駆体を熱的に分解することにより基板上に酸化ルテニウム膜を堆積する工程を含んでいてもよい。
【0021】
反応チャンバ内の全圧は好ましくは0.01〜1000torrに維持されるべきであると同時に、基板温度は好ましくは少なくとも150℃よりも高く維持されるべきである。
【0022】
本発明の他の実施形態によれば、ルテニウム酸塩(ruthenate)膜を形成するための方法がさらに提供され、この方法は、
ガス状の前駆体、ガス状の有機金属化合物、および酸素含有ガスを同時に、または別個のパルスで、基板を保持している反応チャンバ中に導入する工程と、
上記前駆体、有機金属化合物、および上記酸素含有ガスを反応させることにより基板の表面上にルテニウム酸塩膜を堆積する工程
とを含む。
【0023】
本発明によれば、不燃性溶媒が好ましくは用いられる。というのは、混合物を室温以上の雰囲気中で用いる場合には、不燃性溶媒が好ましいためである。しかしながら、プロセスが比較的低温で行われる場合であって、通常非常に可燃性である溶媒でなく、弱く可燃性である溶媒であれば可燃性溶媒が許容され得る場合におけるこれらの前駆体の使用も存在する。
【0024】
本発明によれば、不燃性溶媒は、少なくとも40℃の、好ましくは少なくとも80℃の引火点を有する溶媒である。いくつかの用途について、フッ素化されていない溶媒も、これらが不燃性である限りは適切であり得る。
【0025】
溶媒の選択は、特に生成物の供給をバブリングを通じて行う場合には、(必ずしもでないが)本発明の鍵となり得る。
【0026】
好ましくは、基板上に堆積される膜中に炭素を導入するいかなる危険も回避するために、用いる溶媒は不燃性であるべきである。このことが何故好ましくはフッ素化された溶媒が用いられるのかという理由である。というのは、分子中のフッ素の存在は、通常これを不燃性にすると同時に、多くの用途においてフッ素の負の効果に直面しないためである。
【0027】
不燃性に加えて、特に液体状態にある前駆体とその溶媒を、これに「エレクトロニクス」純度の不活性ドライガス、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム、または同種のものをバブリングすることにより反応器に供給する場合には、用いられる溶媒は、前駆体、すなわちルテニウム前駆体の蒸気圧と実質的に等しい蒸気圧を有し、従って不活性ガスに前駆体および溶媒を程度の差はあるが飽和させる。これらの2つの液体の蒸気圧があまりにも異なると、より揮発性である成分の連続的な減少を引き起こすことがあり、よって時間中の前駆体/溶媒比が変化してしまう。
【0028】
「実質的に等しい」とは、0〜80℃、好ましくは0〜50℃の温度範囲において前駆体と溶媒との間の蒸気圧の差が20%を超えない、好ましくは5%を超えないことを意味する。理想的には、これらの蒸気圧は同一である。
【0029】
ルテニウム膜、または酸化ルテニウム膜、またはルテニウム酸塩膜を堆積することができる基板に関しては、これらは異なる性質と形であってよい。
【0030】
これらは半導体基板(半導体製造中に現在行われているように、様々な層の材料により既に被覆されているか否かを問わない)、セラミック基板(二酸化ケイ素等のようなもの)、金属基板、ポリマー基板等であってよい。
【0031】
これらは、平らな表面(ウエハ、ハイブリッド回路のためのセラミック基板等)、並びに/またはナノ粒子および大きい比表面積により特徴付けられるあらゆるタイプの材料を含む隆起した表面および/若しくはボール型表面のような様々な形を有していてもよい。
【0032】
本発明による膜形成前駆体を、ルテニウム含有膜(例えばルテニウム膜、酸化ルテニウム膜、またはルテニウム酸塩膜)を形成するための方法と共に以下に詳細に記載する。
【0033】
1)膜形成前駆体
膜形成前駆体は、不燃性溶媒、好ましくは一般式C(式中2x+2y≦y+zであり、2≦x≦15であり、z>yであり、t+u≧1であり、x、y、z、tおよびuは自然数である)を有するフッ素化された溶媒中に溶解した四酸化ルテニウム(RuO)である。
【0034】
不燃性溶媒、好ましくは上記した一般式を有するフッ素化された溶媒は、3−エトキシペルフルオロ(2−メチルヘキサン)により典型的に示され得る。このフッ素化された溶媒の特に好ましいものは、3−エトキシ−1,1,1,2,3,4,4,5,5,6,6,6−ドデカフルオロ−2−トリフルオロメチルヘキサン(CCF(OC)CF(CF)である。この特殊なフッ素化された溶媒であるフルオロエーテルは、例えば、3M社から商品名Novec HFE−7500で市販されている。この3−エトキシ−1,1,1,2,3,4,4,5,5,6,6,6−ドデカフルオロ−2−トリフルオロメチルヘキサンは、オゾン層を減少させず、スモッグ形成の一因ともならないために好ましい。
【0035】
不燃性溶媒、好ましくは上記の一般式を有するフッ素化された溶媒は、トリス(ヘプタフルオロプロピル)アミンにより典型的に示され得る。このフッ素化された溶媒の特に好ましいものは、トリス(ヘプタフルオロピロピル)アミン(CNである。この特殊なフッ素化された溶媒は、商品名Fluorinert FC−3283で、3M社から市販されており、環境に対する悪影響が非常に限られている。
【0036】
本発明による膜形成前駆体のうちのRuO濃度は、膜形成条件および膜を形成しようとする基板の材料に応じて適宜選択される。
【0037】
本発明による膜形成前駆体は以下の利点を提供する。
【0038】
(a)純粋な形態のRuOは爆発の危険性、またはフッ素化された溶媒中でのRuOの溶解を示し、本発明の前駆体はRuOを安定な形態で、貯蔵または保持中の爆発の危険性を伴うことなく取り扱うことができる。
【0039】
(b)本発明における膜形成前駆体中の不燃性溶媒、好ましくはフッ素化された溶媒はRuOとは反応せず、従って水を用いると起こるRuOの分解を回避することができる。これは、膜形成前駆体の長期の保持(貯蔵)を可能にする。
【0040】
加えて、膜形成前駆体はUV可視領域における吸収スペクトルを示さないために、RuO濃度は、視覚的にまたは吸光光度分析により容易に見積もることができる。
【0041】
(c)本発明の膜形成前駆体中の不燃性溶媒、好ましくはフッ素化された溶媒(例えば、3−エトキシ−1,1,1,2,3,4,4,5,5,6,6,6−ドデカフルオロ−2−トリフルオロメチルヘキサン(Novec HFE−7500の商品名で3M社から入手できる)、またはトリス(ヘプタフルオロプロピル)アミン(商品名はFluorinert FC−3283である))は、図1に示されるように、幅広い温度範囲にわたってRuOと非常に近い蒸気圧を有する。このことは、膜厚においてロット間変動のない均一の厚さのルテニウム含有膜を、本発明の膜形成前駆体をガス状の形態へと変換し、熱CVDまたはALDによる膜形成を行うことにより形成することができるということを意味する。
【0042】
言い換えると、溶媒とRuOとの間の蒸気圧において著しい差異が、溶媒にRuOを溶解させることにより形成される膜形成前駆体に存在する場合に(例えば、RuOの蒸気圧が溶媒の蒸気圧よりも低い場合に)、および前駆体がキャリアガスを用いるバブリングによりガス状の形態で特定の反応チャンバに運ばれるような状況下の場合に、前駆体のガス化の初期段階において、溶媒(より揮発性)は優先的に蒸発し、キャリアガスの送出は低い濃度のRuOを含むであろう。後の段階においては、より高い濃度のRuOガスを含有するキャリアガスが送出され得る。例えばルテニウム含有膜が一定の熱CVD処理時間を用いる枚葉処理により複数の処理基板上に形成される場合に、この状況は初期段階においては基板上に薄めのルテニウム含有膜を生じ、後の段階においては基板表面上により厚いルテニウム含有膜を生じ、よって膜厚の値におけるロット間の散らばりを生じる。
【0043】
本発明の膜形成前駆体の場合のように幅広い温度範囲に渡って非常に近い蒸気圧を示すRuOおよび不燃性溶媒、好ましくはフッ素化された溶媒を含有することにより、キャリアガスを用いるバブリングによる反応チャンバへのこの前駆体の供給は、初期から後の段階まで一定の濃度のRuOガスを含有するキャリアガスの反応チャンバへの送出をもたらす。結果として、上記したように膜形成が枚葉処理によって、複数の処理基板上で行われた場合であっても、ルテニウム含有膜の厚さはロット間で均一であり得る。加えて、RuOガスを含有するキャリアガスの輸送は、前駆体濃度管理における手間のかかる努力をもはや必要としない。
【0044】
(d)本発明の膜形成前駆体における不燃性溶媒、好ましくはフッ素化された溶媒はRuOと、この前駆体が熱CVDにより膜を製造するためにガス状の形態で用いられ場合に反応しないため、所望のルテニウム含有膜を実際に製造することができる。
【0045】
つまり、膜形成前駆体が水へのRuOの溶解により形成され、かつ熱CVDによる膜形成がこのような前駆体をガス状の形態で反応チャンバへと送出することにより行われる場合には、RuOは活性なRuの生成に伴う分解を被り、かつこの活性なRuは水と反応し、望まない酸化物を生成する。このことは、所望のルテニウム含有膜を製造することを極めて困難にする。
【0046】
本発明の膜形成前駆体の場合には、不燃性溶媒は、RuOが反応チャンバ中で分解した際に生成する活性Ru化合物と反応せず、未反応ガスと共に反応チャンバから放出される。このことは、酸化物のような望まない化合物で改変されていない所望のルテニウム含有膜を得ることを可能にする。
【0047】
(e)本発明の膜形成前駆体中の不燃性溶媒は、好ましくは毒性がない。このことは、ルテニウム含有膜がガス状態の本発明の膜形成前駆体を用いる熱CVDにより製造される場合に、安全な環境下で膜製造を行うことを可能にする。
【0048】
(f)本発明の膜形成前駆体中のフッ素化された溶媒は、好ましくは不燃性であり、高い熱的安定性を示し、これはこの膜形成前駆体が熱CVDによるルテニウム含有膜の製造のためにガス状の形態で用いられる場合に、膜への炭素の取り込み、溶媒による分解、燃焼、または爆発を回避することを可能にする。
【0049】
保持(貯蔵)中の本発明の膜形成前駆体の安定性は以下の試験により確認される。
【0050】
8倍のモル濃度のRuを与えるようにRuCl・nHO溶液とCe(NO・2NHNOを混合し、反応させた。これを続いて室温で、3−エトキシ−1,1,1,2,3,4,4,5,5,6,6,6−ドデカフルオロ−2−トリフルオロメチルヘキサン(Novec HFE−7500、3M社の商品名)により分離漏斗を用いて抽出した。水とHFE−7500相の分離後、HFE−7500溶液を40℃の遮光下である試験温度に保ち、RuO濃度をUV可視分光分析により定期的に測定した。UV可視分光分析(590nm)を、定期的なサンプリングにより提供されるHFE−7500溶液中に1モル/LのNaSCNを混合することにより行った。結果を図2に示す。図2はRuO濃度と、溶解したRuOを含有するHFE−7500溶液の貯蔵時間(遮光下40℃)との間の関係を示す。
【0051】
図2における結果は、0.12重量%(0.3モル%)の濃度で溶解したRuO含有HFE−7500溶液、すなわち、本発明による膜形成前駆体に相当する溶液は、遮光下40℃での安定な長期の貯蔵が可能であることを確証している。
【0052】
加えて、HFE−7500溶液中に溶解させたRuOを含有する膜形成前駆体の使用の間、様々な日数(例えば8日、18日、24日、39日および45日)でバブラから室温、85torrで、窒素キャリアガスを用いて放出されるRuOガスからのUVシグナルを測定した。同様の紫外線シグナル強度が測定日に関らず得られ、これはこの膜形成前駆体は、安定な長期の供給の能力があることを確証している。
【0053】
(2)ルテニウム含有膜を形成する方法
ルテニウム含有膜は、少なくとも本発明の膜形成前駆体をガス状の形態で、基板を保持している反応チャンバ中に導入することにより、基板上にルテニウム含有膜を堆積することにより形成される。
【0054】
考えられるルテニウム含有膜の中で、以下を本明細書中に具体的に記載する。
2−1)ルテニウム膜を形成するための方法
2−2)酸化ルテニウム膜(RuO膜)を形成するための方法、および
2−3)ルテニウム酸塩膜を形成するための方法。
【0055】
2−1)ルテニウム膜を形成するための方法
ルテニウム膜を、ガス状の形態の本発明の膜形成前駆体とガス状の還元剤とを基板を保持している反応チャンバ中に導入すること、および上記前駆体と還元剤を反応させることにより基板上にルテニウムを堆積することにより形成する。
【0056】
本発明の膜形成前駆体を反応チャンバ中にバブラシステムを用いて導入することができる。すなわち、上記した通り液体である本発明の膜形成前駆体を容器内に保持することができ、不活性ガス(例えば窒素、アルゴン、ヘリウム等)を不活性ガスバブリングチューブを用いてこの(場合により温度制御された)容器中にバブリングすることができ、不活性ガスに同伴された本発明の前駆体の反応チャンバ中への送出をもたらす。本発明はバブラ系に限定されるものではなく、液体マスフローコントローラ/エバポレータの組み合わせも用いることもできる。
【0057】
検討される還元剤は酸化ルテニウムをルテニウム金属へと還元する。この還元剤としては具体的には水素(H)を例示することができるが、これに限定されるものではない。単一の還元剤、または2種以上の還元剤の組み合わせを用いることができる。水素が還元剤として特に好ましい。
【0058】
化学気相堆積(CVD)および原子層堆積(ALD)をルテニウム膜を形成するために用いることができる。
【0059】
CVDを用いる場合には、ガス状の還元剤および本発明によるガス状の膜形成前駆体を反応チャンバ中に同時に導入する。この場合において、還元剤と前駆体中のRuOとはガス相において反応し、RuOのルテニウムへの還元をもたらし、これが基板上に堆積する。ガス状の前駆体中のRuOを伴う上記した不燃性溶媒、好ましくはフッ素化された溶媒は、このルテニウム堆積中に分解を被ることなく、従って、ルテニウム膜中へのその取り込みは回避される。
【0060】
この膜製造中の反応チャンバ中の全圧を、好ましくは0.01torr〜1000torrに保ち、より好ましくは0.1torr〜10torrに保つ。基板を好ましくは50℃〜800℃に加熱し、より好ましくは100℃〜400℃に加熱する。還元剤を十分な量で反応チャンバ中に導入し、前駆体中のRuOをルテニウム金属へと還元する。例えば水素を還元剤として用いる場合には、少なくとも4モルの水素を前駆体中の1モルのRuOにつき用いる。この場合における副生成物はHOである。
【0061】
ALDの場合には、ガス状の膜形成前駆体(含まれる反応性の化合物という意味で、すなわち前駆体中のRuOおよび還元剤)のみを反応チャンバ中に最初は導入し、酸化ルテニウムの非常に薄い層(単原子層)を、前駆体の吸着および分解により基板上に形成する。その後、未反応(未吸着)の膜形成前駆体、すなわちガス状の前駆体中のRuOを伴う上記した不燃性溶媒、好ましくはフッ素化された溶媒を含むものを除去するために、反応チャンバの内部を不活性ガス(例えば窒素、ヘリウム)でパージする。このパージの後に、反応チャンバ中へのガス状の還元剤のみの導入が続く。導入した還元剤は基板上に形成される酸化ルテニウムの単原子層と反応し、酸化ルテニウムをルテニウム金属に還元する。これは、基板上へのルテニウムの単原子層の形成をもたらす。緻密なより厚いルテニウム膜が所望される場合には、未反応の還元剤および還元剤により生じるガス状反応生成物を反応チャンバからパージした後に以下の手順を繰り返すことができる。すなわち、本発明によるガス状膜形成前駆体の導入、残留した膜形成前駆体のパージ/除去、還元剤の導入、還元剤およびガス状の反応生成物のパージ/除去である。
【0062】
ガス状の膜形成前駆体および還元剤の導入を、ALDの場合にはパルス供給により行うことができる。ガス状の膜形成前駆体を、例えば、0.1sccm〜10sccmの流量で0.01秒〜10秒間導入することができ、かつ還元剤を、例えば0.5sccm〜100sccmの流量で0.01秒間導入することができる。パージガスを、例えば、100sccm〜5000sccmの流量で0.01秒〜10秒間導入することができる。
【0063】
ALD中の反応チャンバ中の全圧を好ましくは0.1torr〜10torrに保ち、一方で基板温度を好ましくは100℃〜600℃に保つ。
【0064】
2−2)酸化ルテニウム膜(RuO膜)の形成のための方法
本発明の膜形成前駆体をガス状の形態で、基板を保持する反応チャンバ中に導入する。この膜形成前駆体を、上記したバブラ系によりガス状の形態で反応チャンバ中に導入することができる。この場合において、基板を、前駆体中のRuOが分解され、固体の酸化ルテニウム(二酸化ルテニウム)が生じる温度にまで加熱する。RuOの分解により生じる固体の酸化ルテニウムが基板上に堆積する。ガス状の前駆体中のRuOを伴う上記したフッ素化された溶媒は、酸化ルテニウムのこの堆積中には分解せず、従って、酸化ルテニウム膜中へのその取り込みは回避される。固体の酸化ルテニウム(RuO)は、ガス状のRuOの分解触媒として機能する。結果として、一度ガス状のRuOが加熱により分解し、この分解により生じる固体の酸化ルテニウムが基板上に堆積すると、ガス状のRuOを、加熱温度が低下した場合においても十分に分解することができる。
【0065】
この酸化ルテニウム堆積中の反応チャンバ内の全圧を、好ましくは0.01torr〜1000torrに設定し、より好ましくは0.1〜5torrに設定する。基板を好ましくは少なくとも150℃に加熱し、より好ましくは350℃〜400℃に加熱する。
【0066】
2−1)および2−2)で上記した膜形成方法に用いる基板としては、シリコン基板のような半導体基板を例示することができる。以下が、例えば、この半導体基板上に形成され得る:low−k膜、high−k膜、C−ドープ二酸化ケイ素膜、窒化チタン膜、銅膜、窒化タンタル膜、モリブデン膜、タングステン膜、および強誘電性膜。本発明により提供されるルテニウム膜および酸化ルテニウム膜は、これらの膜に対して優れた接着性を示し、化学機械研磨(CMP)を受けた場合においてさえも剥離しない。さらに、炭素や、フッ素のようなハロゲンのような不純物の取り込みは、これらのルテニウム膜、酸化ルテニウム含有膜またはルテニウム酸塩含有膜には全く無縁である。加えて、インキュベーション時間は本発明においては不要であるか、または非常に短時間のいずれかであり、これは相応してより短い時間(ALDの場合には開始初期段階から,CVDについては数分)におけるルテニウム膜および酸化ルテニウム膜の堆積(成長)を可能にする。
【0067】
図3は、CVDによる方法2−1)および2−2)を実行するために用いることができる装置の例を示す模式図を含む。
【0068】
図3に示される装置には、反応チャンバ11、膜形成前駆体の供給源12、還元剤ガスの供給源13、およびキャリアガスおよび/または希釈ガスとして典型的には用いられる不活性ガスの供給源14が設けられている。枚葉式ツールの場合において、サセプタ(図示せず)が反応チャンバ11に設けられており、およびシリコン基板のような1つの半導体基材(図示せず)がサセプタ上に載せられている。サセプタの内部には、所定の反応温度にまで半導体基板を加熱するためのヒータが設けられている。バッチツールの場合には、5〜200の半導体基板が反応チャンバ11中に保持される。バッチツールにおけるヒータは、枚葉式ツールにおけるヒータのものと異なる構造を有することがある。
【0069】
膜形成前駆体の供給源12は、既に上記したバブラ系を用いて反応チャンバ11中に膜形成前駆体を導入し、かつラインL1により不活性ガス供給源14に接続されている。ラインL1には遮断弁V1が設けられており、およびこの下流には流量制御装置、例えばマスフローコントローラMFC1が設けられている。膜形成前駆体を、供給源12からラインL2を通して反応チャンバ11中に導入する。以下のものが、ラインL2中に上流側からみて設けられている:UV分光計UVS、圧力計PG1、遮断弁V2、および遮断弁V3。UV分光計UVSは、ラインL2中の前駆体(特にRuO)の存在を確認し、かつ前駆体の濃度を検出する働きをする。
【0070】
還元剤ガス供給源13は、ガス状の形態の還元剤を収容する容器を含む。還元剤ガスを、この供給源13からラインL3を通して反応チャンバ11中に導入する。ラインL3はラインL2に接続されている。
【0071】
不活性ガス供給源14は、ガス状の形態にある不活性ガスを収容する容器を含む。不活性ガスをこの供給源から反応チャンバ11中にラインL4を通して導入することができる。以下のものがラインL4に上流からみて設けられている:遮断弁V6、マスフローコントローラMFC3、および圧力計PG2。ラインL4は、遮断弁V4よりも上流でラインL3と接続している。ラインL1は、遮断弁V6よりも上流でラインL4に分枝している。
【0072】
ラインL5は、遮断弁V1よりも上流でラインL1から分枝している。ラインL5は、遮断弁V2およびV3との間でラインL2と接続している。遮断弁V7およびマスフローコントローラMFC4は、上流側から所定の順序でラインL5に配置されている。
【0073】
反応チャンバ11に到達するラインL6は、遮断弁V3およびV4との間で分枝している。遮断弁V8はこのラインL6に備えられている。
【0074】
ポンプPMPに到達するラインL7が反応チャンバ11の底部に設けられており、以下のものがこのラインL7に上流側からみて設けられている:圧力計PG3、背圧を調節するための蝶形弁BV、およびホットトラップ15。ホットトラップ15はその外周に渡ってヒータが設けられているチューブを含む。ガス状前駆体中のRuOは熱分解により固体の酸化ルテニウムに変換されるために、このホットトラップ15中に導入されるRuOを、固体の酸化ルテニウムへの変換によりガス流から除去することができ、これはチューブの内壁上に堆積する。
【0075】
図3に示す装置を用いてルテニウム膜を製造するために、遮断弁V1、V2およびV5を最初は閉じておき、遮断弁V6、V7、V3、V4およびV8を開ける。ポンプPMPを作動する間中、不活性ガス供給源14からの不活性ガスを、ラインL4およびL5を通して、ラインL6を介して反応チャンバ11中に導入する。
【0076】
その後遮断弁V5を開け、還元剤ガスを、還元剤ガス供給源13から反応チャンバ11中に導入し、即座に続いて遮断弁V1およびV2を開け、不活性ガス供給源14からラインL1を通して、膜形成前駆体の供給源12中に不活性ガスを導入する。このことはラインL2およびラインL6を介して反応チャンバ11中へのガス状前駆体(RuO、および上記した不燃性溶媒、好ましくはフッ素化された溶媒)の導入をもたらす。還元剤ガスおよびRuOは反応チャンバ11中で反応し、半導体基板上へのルテニウム金属の堆積をもたらす。
【0077】
図3に示す装置を用いて固体の酸化ルテニウム膜を製造するために、装置を遮断弁V5およびV4およびV6を閉じて準備し、還元剤は用いられないためにこれらの弁は閉じたままにしておく。ポンプPMPを起動させ、真空状態を作り出し、そして遮断弁V3、V7およびV8を反応チャンバに不活性ガスを流すために開く。この状態の間、遮断弁V1、V2は開いており、不活性ガスを不活性ガス供給源14からラインL4およびラインL1を通して膜形成前駆体の供給源12中に導入し、ガス状の前駆体(RuOおよび上記した不燃性溶媒、好ましくはフッ素化された溶媒)の、ラインL2およびラインL6を介した反応チャンバ11中への導入をもたらす。反応チャンバ11は加熱されているために、反応チャンバ11中に導入されたRuOは固体の酸化ルテニウムへの熱的分解を受け、これが基板上に堆積する。
【0078】
図4は、ALDによる方法2−1)(ルテニウム膜の形成)を実行するために用いることができる装置の例を示す模式図である。
【0079】
図4に示す装置は、図3に示される装置にラインL8を設けた構造を有する。ラインL8はそれ自体が遮断弁V2’を備えており、遮断弁V2’の下流にホットトラップ15と同じホットトラップ15’を備えている。従って、同一の参照記号は図3におけるものと同一である構成要素に割り当てられ、これらの構成要素を再び詳細に記載することはしない。取り付けられたラインL8の一端をラインL2に、紫外線分光計UVSと圧力計PG1との間で接続し、反対側の端をラインL7に、ホットトラップ15とポンプPMPとの間で接続する。
【0080】
図4に示す装置を用いてALDによりルテニウム膜を製造するために、遮断弁V2およびV5を最初は閉じておき、遮断弁V6、V7、V3、V4、V8およびV9を開き、また遮断弁V1およびV2’も開く。ポンプPMPを起動させると、不活性ガス供給源14からの不活性ガスがラインL4およびL5を通して、さらにラインL6を介して反応チャンバ11中に導入される種々のライン、ラインL1を通る不活性ガスの通路、膜形成前駆体の供給源12に真空状態が作り出され、不活性ガスと共にラインL2およびL8中のガス状前駆体(RuOおよび上記した不燃性溶媒、好ましくはフッ素化された溶媒)の通過流をもたらす。
【0081】
この初期設定を行った後に、遮断弁V2’を閉じて遮断弁V2を開き、ガス状前駆体を反応チャンバ11中にパルス送出する。この後に続いて同時に遮断弁V2を閉鎖し遮断弁V2’を開放すると不活性ガスを伴うガス状前駆体のラインL8を通る通過をもたらし、これはホットトラップ15’で分解される。ラインL4およびL5からL6を介する不活性ガスの反応チャンバ11中への導入による反応チャンバ内部のパージは、未反応の前駆体(不燃性溶媒、好ましくはフッ素化された溶媒を含む)の除去、および反応チャンバ11の内部からの生じた副生成物の除去をもたらす。その後遮断弁V5を開き、還元剤ガスを還元剤ガス供給源13から、不活性ガス供給源14からの不活性ガスと共に反応チャンバ11中にパルス送出する。この後に続いて遮断弁V5を閉鎖し、不活性ガスの反応チャンバ11中へのパルス送出、および反応チャンバ11からの反応副生成物、未反応の還元剤等の除去をもたらす。この処理サイクルを、所望の厚さを有するルテニウム膜が得られるまで繰り返すことができる。
【0082】
2−3)ルテニウム酸塩膜を形成する方法
ルテニウム酸塩膜を、上記したガス状の形態にある膜形成前駆体およびガス状の有機金属化合物を基板を保持している反応チャンバ中に導入し、含酸素ガスの存在下で前駆体と有機金属化合物とを反応させ、それにより基板の表面上にルテニウム酸塩を堆積することにより形成する。
【0083】
膜形成前駆体を反応チャンバ中に上記したバブラ系により導入することができる。
【0084】
例えば、強誘電性の膜であるBaRuOを製造する場合には、β−ジケトン/バリウム錯体であるBa(DMP)を有機金属化合物として用いることができる。強誘電性の膜であるSrRuOを製造する場合には、β−ジケトン/ストロンチウム錯体であるSr(DPM)を有機金属化合物として用いることができる。ここで、DPMとは、ジピバロイルメタナート、または2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート(TMHD)の略語である。
【0085】
含酸素ガスは例えば、酸素、オゾンまたはNOであり得る。
【0086】
CVDは、上記した強誘電性膜を形成するために用いることができるが、この場合においては、上記したガス状の形態にある膜形成前駆体およびガス状の形態にある有機金属金属を反応チャンバ中に導入する。その際、前駆体中のRuOおよび有機金属化合物は酸素の存在下でガス相において反応し、例えば、BaRuO(またはSrRuO)の形成および基板上へのその堆積をもたらす。しかしながら同時に、ガス状の前駆体中でRuOに随伴する上記した不燃性溶媒、好ましくはフッ素化された溶媒は、強誘電性膜の堆積中は分解を受けず、従って膜中への取り込みを回避する。
【0087】
反応チャンバ中の温度は好ましくは450℃〜800℃とされ、これはこれらのガスについての反応温度である。
【0088】
この方法により製造されるルテニウム酸塩膜(例えばBaRuOおよびSrRuO)は強誘電性を示し、例えばキャパシタにおいて用いることができる。さらに、薄い強誘電性膜をこの方法により製造することができるために、これらの膜をRu膜およびRuO膜と同様に電極材料として用いることができる。具体的な表現において、これらの強誘電性膜(特にSrRuO)を、分離した強誘電体のための上側の電極材料および下側の電極材料として(または強誘電体と電極材料との間の緩衝層として)用いることができる。酸化物であるこれらの強誘電性膜はランタン酸チタン酸鉛(lead lanthanate titanate)(PLT)およびジルコン酸チタン酸鉛(PZT)のような強誘電体に対する酸素およびPbOの拡散を防止することができると同時に、これらの強誘電体と同じペロブスカイト構造を採用することにより、電極材料とこれらの強誘電体との接触面における接着性を高めることができ、またとりわけこの接触面において起こり得る低誘電率層の生成を防ぐかまたは低下させることができ、また劣化を防止するか軽減することができる。
【0089】

本発明を例を通じて以下にさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例により限定されない。
【0090】
例1
反応チャンバにシリコン基板と、またその表面に二酸化ケイ素膜を有するシリコン基板を入れた。コンテナに3−エトキシ−1,1,1,2,3,4,4,5,5,6,6,6−ドデカフルオロ−2−トリフルオロメチルヘキサン(Novec HFE−7500,3M社の商品名)中に0.12重量%の濃度で溶解させた四酸化ルテニウム(RuO)を含む膜形成前駆体を入れた。窒素に同伴されたRuOおよびHFE−7500を、コンテナ中で窒素をバブリングすることにより反応チャンバ中へと導入した。水素を窒素に対して0.5体積%の濃度で同じ反応チャンバ中に導入した。反応チャンバ中の全圧を10torrに設定し、基板温度を300℃とした。このように続けると、両方の基板上にルテニウム金属膜の堆積を生じた。ルテニウム金属堆積速度は、約9Å/分であった。
【0091】
得られたルテニウム金属膜は、シリコン基板、および他のシリコン基板上の二酸化ケイ素膜の両方にしっかりと接合されていた。
【0092】
このルテニウム金属堆積におけるインキュベーション時間(膜形成が始まるまでの反応の開始後から必要な時間)は、シリコン基板については5分であり、二酸化ケイ素膜表面をもつシリコン基板については7分であった。対照的に、前駆体として純粋なRuOを用いてルテニウム金属を堆積した場合にはインキュベーション時間はゼロであった。つまり、例1は、爆発の危険性を伴う純粋なRuOの使用よりも若干長いインキュベーション時間にも関らず、安全にかつ全体的な観点から考えると実用的な方法で膜形成を行うことが可能であった。
【0093】
ルテニウム金属膜でコーティングされた二酸化ケイ素膜表面をもつシリコン基板をオージェ電子分光法によるその表面組成の分析に供した。結果を図5に示す。図5はルテニウム金属膜表面からの深さの関数としての各々の元素の原子濃度プロファイルを示す。つまり、図5のx軸にプロットしたスパッタリング時間は、表面からの深さに相当する。
【0094】
図5から明らかであるように、非常に純粋なルテニウムフィルムが製造され、不純物であるO、CおよびFは検出されなかった。
【0095】
例2
ルテニウム金属膜を例1に記載したように、以下のものの上に形成した:アルミナ膜、low−k膜、酸化ハフニウム(HfO)膜、酸化ランタン(La)膜、窒化タンタル(TaN)膜、酸化タンタル(Ta)膜、窒化チタン(TiN)膜、BST膜、およびPZT膜。ルテニウム金属堆積速度は膜の性質に無関係であり、いずれの場合においても約9Å/分であった。加えて、ルテニウム金属は全ての場合において下地膜にしっかりと接合していた。
【0096】
例3
反応チャンバにシリコン基板およびその表面に二酸化ケイ素膜を有するシリコン基板を入れた。コンテナに例1におけるように0.12重量%濃度の同じ膜形成前駆体を入れた。窒素をコンテナ中に10sccmの流量でバブリングした。窒素に同伴されるRuOおよびHFE−7500を、RuOガス流量が0.07sccmとなるように0.5秒間反応チャンバ中に導入した。酸化ルテニウムの薄膜を各基板上に形成した。未反応のRuOと随伴するHFE−7500を、窒素を用いて反応チャンバ内部をパージングすることにより除去した後に、水素を1.2sccmの流量で反応チャンバ中に1秒間導入し、窒素を希釈剤として用いた。希釈剤として用いた窒素の総流量は174sccmであった。反応チャンバ内部の圧力を4torrに維持した。基板温度を300℃に設定した。
【0097】
その後反応チャンバ内部を窒素を用いてパージした後、上記したサイクルを、所望の厚さを有するルテニウム金属膜を得るまで繰り返した。ルテニウム金属堆積速度は、サイクルにつき約1.9Å/分であった。
【0098】
ALDによるこのルテニウム金属堆積におけるインキュベーションサイクルの数(膜形成が始まるまでの反応の開始後に必要とされるサイクルの数)は、シリコン基板についてはゼロであり、二酸化ケイ素表面をもつシリコン基板についてもゼロであり、これは効率的な膜製造が達成されたことを示した。ルテニウム金属膜を、前駆体として純粋なRuOを用いてALDにより堆積した場合には、75のインキュベーションサイクルが必要とされた。
【0099】
例4
ルテニウム金属膜を例3において記載したように、以下のものの上に形成した:アルミナ膜、low−k膜、酸化ハフニウム(HfO)膜、酸化ランタン(La)膜、窒化タンタル(TaN)膜、酸化タンタル(Ta)膜、窒化チタン(TiN)膜、BST膜およびPZT膜。ルテニウム金属堆積速度は膜の性質に無関係であり、いずれの場合においてもサイクルにつき約1.9Å/分であった。さらに、全ての場合においてルテニウム金属は下地膜にしっかりと接合していた。
【0100】
例5
反応チャンバにシリコン基板およびその表面に二酸化ケイ素膜を有するシリコン基板を入れた。コンテナに例1におけるように0.12重量%濃度の同じ膜形成前駆体を入れた。窒素をコンテナ中に20sccmの流量でバブリングした。窒素に同伴されるRuOおよびHFE−7500を反応チャンバ中に導入した。反応チャンバ中の全圧を10torrに設定し、基板温度は400℃であった。これらの条件下で、約1000Åの厚さを有する非常に均一な酸化ルテニウム膜が60分で各基板上に得られた(堆積速度=約17Å/分)。得られた酸化ルテニウム膜はシリコン基板および他のシリコン基板上の二酸化ケイ素膜の両方にしっかりと接合していた。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】RuO、HFE−7500おおよびFC−3283(本発明による膜形成前駆体の考えられる成分)についての温度に対する蒸気圧を示す図。
【図2】RuOを溶解させたHFE−7500溶液についての、RuO濃度と暗所で40℃での貯蔵時間との間の関係を示す図。
【図3】本発明による方法を行うための装置の例を模式的に示す模式図。
【図4】本発明による方法を行うための装置の他の例を模式的に示す模式図。
【図5】本発明の例1に従ってルテニウム金属膜でコーティングされた二酸化ケイ素表面をもつシリコン基板を、オージェ電子分光法によりその表面組成の分析に供した際に得られた原子濃度プロファイルを示す図。
【符号の説明】
【0102】
11…反応チャンバ、12…膜製造のための前駆体の供給源、13…還元剤ガスの供給源、14…不活性ガスの供給源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式C(式中、2x+2y≦y+z、2≦x≦15、z>y、およびt+u≧1であり、x、y、z、tおよびuは自然数である)を有する不燃性のフッ素化された溶媒中に溶解させた四酸化ルテニウムを含む、ルテニウム含有膜形成のための前駆体。
【請求項2】
前記フッ素化された溶媒が、3−エトキシペルフルオロ(2−メチルヘキサン)およびトリス(ヘプタフルオロプロピル)アミンを含む群から選択される請求項1に記載の前駆体。
【請求項3】
少なくとも1枚の基板を含む反応チャンバ中に請求項1または2に記載の少なくとも1種の膜形成のための前駆体を導入することにより基板上にルテニウム含有膜を堆積する工程を含み、ここで前記前駆体はガス状の形態で導入されるルテニウム含有膜を形成する方法。
【請求項4】
前記反応チャンバ中にガス状の還元剤を導入し、これにより前記ガス状の前駆体と前記ガス状の還元剤とを反応させることにより少なくとも1枚の基板上にルテニウムを堆積する工程をさらに含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記還元剤が水素である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記反応チャンバ中の圧力を0.01torr〜1000torrに維持する請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記膜堆積工程を50℃〜800℃の基板温度で行う請求項4〜6のうちの一項に記載の方法。
【請求項8】
前記還元剤および前記ルテニウム前駆体を前記反応チャンバ中に同時に導入する請求項4〜7のうちの一項に記載の方法。
【請求項9】
前記反応チャンバ中に前記ガス状の前駆体を導入する工程と、
前記反応チャンバをこの中に不活性ガスを注入することによりパージする工程と、
その後、定めた時間の間前記反応チャンバ中に前記ガス状の還元剤を導入する工程(以後、還元剤パルスと呼ぶ)と、
前記反応チャンバの内部をこの中に不活性ガスを注入することによりパージし、よって前記基板上の前記酸化ルテニウムを還元する工程
とを含む請求項4〜7のうちの一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ガス状の前駆体の導入工程を、例えば所望の膜厚が得られるまで繰り返す工程をさらに含む請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記基板温度を100℃〜600℃に維持する工程を含む請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記ガス状の前駆体を熱的に分解する工程と、
それにより前記基板上に酸化ルテニウム膜を堆積する工程
とを含む請求項3に記載の方法。
【請求項13】
前記反応チャンバ中の全圧を0.01torr〜1000torrに維持する工程を含む請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記基板温度を少なくとも150℃以上に維持する工程を含む請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記基板が保持されている前記反応チャンバ中に前記ガス状の前駆体、ガス状の有機金属化合物、および酸素含有ガスを同時に、または別個のパルスで導入する工程と、
前記前駆体、有機金属化合物、および前記酸素含有ガスを反応させることにより前記基板の表面上にルテニウム酸塩膜を堆積する工程
とをさらに含む請求項3に記載の方法。
【請求項16】
前記基板が半導体製品のためのシリコンベースのウエハである請求項3〜15のうちの一項に記載の方法。
【請求項17】
前記基板がセラミックベースの材料である請求項3〜15のうちの一項に記載の方法。
【請求項18】
前記基板は平らな表面でなく、隆起のような少なくともいくつかの曲面を含む請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記基板がボール状の基板である請求項3〜15のうちの一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−514812(P2008−514812A)
【公表日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−532987(P2007−532987)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【国際出願番号】PCT/IB2005/002833
【国際公開番号】WO2006/035281
【国際公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(591036572)レール・リキード−ソシエテ・アノニム・プール・レテュード・エ・レクスプロワタシオン・デ・プロセデ・ジョルジュ・クロード (438)
【Fターム(参考)】