膜形成用組成物、絶縁膜、半導体装置およびその製造方法
【課題】誘電特性および機械的強度に優れた有機シリコン酸化膜を形成することができる膜形成用組成物、およびこの膜形成用組成物を用いて形成された有機シリコン酸化膜を備えた絶縁膜、およびこの有機シリコン酸化膜を備えた半導体装置およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一の態様によれば、下記一般式(I)で表される化合物またはその加水分解脱水縮合物を含むことを特徴とする、膜形成用組成物が提供される。
X13−mR1mSiR2SiR3nX23−n (I)
(式中、R1およびR3は水素原子または1価の置換基であり、R2は炭素数4の脂環構造を含む2価の基あるいはその誘導体であり、X1およびX2は加水分解性基であり、mおよびnは0〜2の整数である。)
【解決手段】本発明の一の態様によれば、下記一般式(I)で表される化合物またはその加水分解脱水縮合物を含むことを特徴とする、膜形成用組成物が提供される。
X13−mR1mSiR2SiR3nX23−n (I)
(式中、R1およびR3は水素原子または1価の置換基であり、R2は炭素数4の脂環構造を含む2価の基あるいはその誘導体であり、X1およびX2は加水分解性基であり、mおよびnは0〜2の整数である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜形成用組成物、絶縁膜、半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体素子などにおける層間絶縁膜として、化学的気相成長(CVD)法などの真空プロセスで形成されたシリカ(SiO2)膜が多用されている。しかし、無機材料の膜の中で最も低い比誘電率を示すCVD−SiO2膜でも、比誘電率は約4程度である。また、低誘電率CVD膜として検討されていたSiOF膜の比誘電率は約3.3〜3.5であるが、この膜は吸湿性が高く、使用しているうちに比誘電率が上昇するという問題があった。
【0003】
近年、より均一な層間絶縁膜を形成することを目的として、SOG(Spin On Glass)膜と呼ばれるテトラアルコキシシランの加水分解脱水縮合生成物を主成分とする塗布型の絶縁膜も使用されつつある。
【0004】
また、半導体素子などの高集積化に伴い、有機SOGと呼ばれるポリオルガノシロキサンを主成分とする低誘電率の層間絶縁膜が開発されている。特に、MSQと呼ばれるポリメチルシルセスキオサン(Si8O12のサイコロ状シリカ同士が酸素によって架橋され、架橋の一部がメチル基に置換されている)を主成分とする低誘電率の層間絶縁膜も開発されている。
【0005】
このような有機シリコン酸化膜の構造上の特徴は2つある。1つは、架橋の一部がSi−CH3等の炭化水素終端に変化して架橋構造が途切れていることである。もう1つは、シリカにおけるSi−O−Si架橋構造の一部がSi−CH2−SiやSi−CH2−CH2−Si等の炭化水素架橋構造に置換されていることである。架橋構造が途切れることにより、絶縁膜中には架橋のない空隙、すなわち比誘電率1の空間、が形成されることになり、膜全体としての比誘電率は低減される。また、炭化水素架橋構造の割合が増えることによっても絶縁膜中の架橋のない空隙は増えていく。
【0006】
しかし、架橋のない空隙(空孔)が増えることは、半導体素子などの製造工程において外界から種々の物質、特に水分やエッチング用ガス、が吸収・保持されうるスペースが発生するという問題をもたらす。
【0007】
かかる状況下、絶縁性、耐熱性、耐久性に優れた絶縁膜材料として、オルガノポリシロキサンに高沸点溶剤や熱分解性化合物を添加して空孔を形成し、比誘電率を下げる方法が知られている。
【0008】
しかしながら、上記のような多孔質膜では、多孔質化することにより比誘電率が低下すると同時に機械的強度が低下してしまうこと、吸湿による比誘電率増加が起こることなどが問題になっていた。また、互いに連結した空孔が形成されるため、配線に用いられた銅が、絶縁膜中に拡散することなどが問題となっていた。つまり、比誘電率低減に有効な空孔ではあるが、個々の空孔容積は小さくかつ連結していないことが求められている。
【0009】
しかしながら、以上に示した有機シリコン酸化膜は、特に上層の層間絶縁膜のような厚膜(〜1μm厚)になると、膜自身のストレスによりクラックが発生したり、CMP(化学的機械的研磨)耐性が弱くなったりする問題がある。このクラックの発生と進行は、膜中に吸湿で取り込まれる水分によって加速されることが確認されている(応力腐食割れ)。しかしながら低誘電率絶縁膜形成後のすべての製造工程環境において外界の水分量を低く抑えるための管理を安価に行うことは非常に困難であるという問題があった。
【0010】
これらに鑑みて、低誘電率化と機械的強度向上を目的として、直鎖アルキル基でSi原子を架橋した化合物を用いて絶縁膜を製造する技術も開発されているが、これらの技術では、比誘電率、膜強度ならびに耐吸湿性への要求達成は不十分であった。
【0011】
また、芳香族等の脂環構造によって架橋した化合物を用いた有機シリコン酸化膜を用いる技術、あるいは架橋構造の一部に芳香族等の脂環構造を用いた有機シリコン酸化膜を用いる技術も開発されており(例えば特許文献1参照)、さらには架橋構造の一部にジシラシクロブタン構造(Si(−C−)2Si)を用いる技術も開発されているが(例えば特許文献2参照)、これらの技術であってもやはり、比誘電率、膜強度ならびに耐吸湿性への要求達成は不十分であった。
【0012】
これらの技術においては、Si…Si間の架橋構造部分に含まれる炭素数は、直鎖の場合には1ないし50個、環状の場合には5ないし40個(好ましくは5ないし13個)、と開示されている。このような炭素数の規定は、主に低誘電率化を目的としている。なぜなら、シリカ(SiO2)のシロキサン骨格に起因する比誘電率のほぼ2/3を担うのは酸素(酸素イオンの分極)であり、しかも酸素はSi間を架橋することにより膜密度をほぼSiO2結晶の多形と同程度に保持する作用をもっている。炭素(炭化水素)による架橋には、このような酸素を炭素で置換することにより、膜密度を減少させ、膜の分極率(電子分極率とイオン分極率の両方)を低下させる効果がある。
【0013】
しかしながら、炭素数1ないし50個程度の範囲から好適な炭素数、より詳しくはこれらの炭素原子の結合形態(すなわち架橋構造)を選択するための正当な理由に基づいた材料設計指針とそれによる材料限定は開示されていない。
【0014】
この点に関しては非特許文献1および2において報告がある。これらの文献では、直鎖アルキル基の炭素数1ないし4のポリメチレン基架橋、すなわちCH2架橋(メチレン架橋)、CH2CH2架橋(エチレン架橋)、CH2CH2CH2架橋(ノルマルプロピレン架橋)、CH2CH2CH2CH2架橋(ノルマルブタン架橋)の4つの場合について、架橋構造部分に掛かる外力に対する変形ポテンシャルの違いを計算シミュレーションによって調べている。その結果、比誘電率はCH2架橋数が多いほど低誘電率となるが、機械的強度(ヤング率)はCH2架橋が短いほど高い(硬い)ことを明らかにしている。その結果、CH2架橋数に対して両特性が相反することを理由に、CH2CH2架橋(エチレン架橋)が好適であるとしている。(CH2)n架橋が短いほど機械的強度が高い理由としては、架橋の両端のSiの位置関係を束縛する効果が高いとしている。つまり、(CH2)n架橋が短いほど外力に依存した変形に対して内部エネルギーが急激に増大する、すなわち硬いことを示した。しかしながら、非特許文献1および2で与えられる機械的強度改善に対する材料設計指針は膜の骨格強度向上(ヤング率の向上)という一方向の見方のみであった。
【0015】
以上をまとめると、従来の炭化水素基R(ポリメチレン基やフェニレン基等)による架橋は、Si−R−Si骨格を硬く(主鎖方向への引張り強度、主鎖垂直方向への曲げ強度、あるいは主鎖の周りのねじれ強度を増大)させることが主眼であった。その指導原理はSi−C−Si架橋がSi−O−Si架橋よりも硬いため、Si−(C)n−Siで炭素数を増やすか、またはベンゼン環の平面構造を利用する、というものであった。C架橋はCのsp3あるいはsp2で主鎖垂直方向への曲げあるいは主鎖の周りのねじれに対して固定され易い。一方、O架橋ではSi−O結合そのものは強い結合ではあるが、Oが2配位であるためにO周りの回転やねじれ変形の自由度が高くなり“しなやか”に見えるのである。
【0016】
さらに、既述したように炭化水素架橋構造の割合が増えると架橋のない空隙(空孔)が増え、耐吸湿性が劣化するという問題も生じる。加えて、炭化水素を多く含んだ有機シリコン酸化膜はある意味でレジスト材料にも類似しており、炭素含有量が増えるほど、レジスト加工やレジスト除去のための反応性イオンエッチング(RIE)やレジスト灰化処理(アッシング)に対する耐性も劣化するという問題もある。
【0017】
このため、従来のような酸素ガスを含んだRIEやアッシングに代わって、NやHを含んだガスを用いたプラズマ処理の適用も検討されている。この場合には、炭素はHCN等として除去される。このようなガスを用いた場合でも、炭素含有量が増えるほどプラズマ処理耐性が劣化することには変わりない。
【特許文献1】特開2006−241304号公報
【特許文献2】特開2006−111738号公報
【非特許文献1】IEEE International Interconnect Technology Conference,pp.122-124, 2006.
【非特許文献2】Jpn. J. Appl. Phys., Vol.46, No.9A,pp.5970-5974, 2007.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものである。すなわち、誘電特性および機械的強度に優れた有機シリコン酸化膜を形成することができる膜形成用組成物、およびこの膜形成用組成物を用いて形成された有機シリコン酸化膜からなる絶縁膜、この有機シリコン酸化膜を備えた半導体装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の一の態様によれば、下記一般式(I)で表される化合物またはその加水分解脱水縮合物を含むことを特徴とする、膜形成用組成物が提供される。
X13−mR1mSiR2SiR3nX23−n (I)
(式中、R1およびR3は水素原子または1価の置換基であり、R2は炭素数4の脂環構造を含む2価の基あるいはその誘導体であり、X1およびX2は加水分解性基であり、mおよびnは0〜2の整数であり、R2の2価の基は、シクロブタン、シクロフロロブタン(−C4H6−XFX−)、シクロポリメチルブタン(−C4H6−X(CH3)X−)、シクロポリメチルフロロブタン(−C4H6−Y−Z(FY(CH3)Z)−)、シクロクロロブタン(−C4H6−XClX−)、シクロポリメチルクロロブタン(−C4H6−Y−Z(ClY(CH3)Z)−)である(式中、Xは1〜6の整数であり、YおよびZは1〜5の整数であり、かつ2≦Y+Z≦6の関係を満たす)。
【0020】
本発明の他の態様によれば、前記膜形成用組成物を用いて製造された単独組成または混合組成の有機シリコン酸化膜からなることを特徴とする、絶縁膜が提供される。
【0021】
本発明の他の態様によれば、前記有機シリコン酸化膜を備えることを特徴とする、半導体装置が提供される。
【0022】
本発明の他の態様によれば、前記有機シリコン酸化膜を備えた半導体装置の製造方法であって、前記有機シリコン酸化膜の形成は、前記膜形成用組成物を用いて、塗布法またはプラズマ化学的気相成長法により膜を形成する工程と、形成された前記膜に酸化性雰囲気で熱処理を施す工程と、前記熱処理が施された膜に非酸化性雰囲気で熱処理を施す工程とを含む工程により行われることを特徴とする、半導体装置の製造方法が提供される。
【0023】
本発明の他の態様によれば、前記有機シリコン酸化膜を備えた半導体装置の製造方法であって、前記有機シリコン酸化膜の形成は、前記膜形成用組成物を用いて、塗布法またはプラズマ化学的気相成長法により膜を形成する工程と、形成された前記膜に減圧下において熱処理を施しつつ、形成された前記膜にエネルギー線を照射する工程とを含む工程により行われることを特徴とする、半導体装置の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明の一の態様によれば、誘電特性および機械的強度に優れた有機シリコン酸化膜を形成することができる膜形成用組成物を提供することができる。また、本発明の他の態様によれば、誘電特性および機械的強度に優れた絶縁膜を提供することができる。本発明の他の態様によれば、誘電特性および機械的強度に優れた有機シリコン酸化膜を備えた半導体装置およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の第1の実施の形態について説明する。本実施の形態の膜形成用組成物は、下記一般式(I)で表されるシラン化合物またはその加水分解脱水縮合物を含む。
【0026】
上記の「加水分解脱水縮合物」とは、化合物が加水分解の後に発生したシラノール基の脱水縮合生成物をいう。ただし、脱水縮合生成物において、前記シラノール基がすべて脱水縮合している必要はなく、一部が脱水縮合したもの、脱水縮合の程度が異なっているものの混合物などを包含した概念である。しかしながら、比誘電率低減の観点および耐吸湿性ならびに吸湿による応力腐食割れの観点からは、前記残留シラノール基は少ないほど好ましい。
【0027】
X13−mR1mSiR2SiR3nX23−n (I)
式中、R1およびR3は水素原子または1価の置換基であり、非加水分解性基である。R1およびR3は、水素原子、アルキル基またはアリール基が好ましく、水素原子、メチル基またはフェニル基がより好ましく、メチル基が最も好ましい。
【0028】
R2は炭素数4の脂環構造を含む2価の基あるいはその誘導体である。脂環の例としては、シクロブタン(−C4H6−)、シクロフロロブタン(−C4H6−XFX−)、シクロポリメチルブタン(−C4H6−X(CH3)X−)、シクロポリメチルフロロブタン(−C4H6−Y−Z(FY(CH3)Z)−)、シクロクロロブタン(−C4H6−XClX−)、シクロポリメチルクロロブタン(−C4H6−Y−Z(ClY(CH3)Z)−)が挙げられる。ここで、式中、Xは1〜6の整数であり、YおよびZは1〜5の整数であり、かつ2≦Y+Z≦6の関係を満たすものである。
【0029】
これらの脂環は、置換基を有していてもよく、その場合の置換基の例としては、アルキル基、フッ素原子などが挙げられ、置換基の炭素数は一般的には10以下である。
【0030】
R2としての脂環構造を含む2価の基は、脂環構造自体の2価の基であっても、脂環構造とともに、アルキレン基など他の2価の基を含有してもよい。R2としての脂環構造を含む2価の基の炭素数は、5〜20が好ましく、特に5〜8がより好ましい。なお、この炭素数は、脂環構造を構成する炭素数4を含んだ数である。ただし、脂環構造部分そのものが、例えばシクロブテン(−C4H4−)にように不飽和脂環になると、主骨格(−C4−)部分において、飽和脂環に特有のゼロでない二面角が、置換基にも依存するがほぼゼロになってしまうので、脂環構造部分そのものが不飽和脂環構造のものよりも飽和脂環構造のものの方が好ましい。
【0031】
X1およびX2は加水分解性基を表すが、好ましくはアルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基またはハロゲン原子であり、メトキシ基、エトキシ基またはフッ素原子、塩素原子がより好ましい。比誘電率の観点からは塩素原子よりもフッ素原子がより好ましい。臭素より重いハロゲン元素は、合成の観点からは好ましいものの、分極率を増大させるため比誘電率の観点から排除される。
【0032】
mおよびnは0〜2の整数であるが、m=n=0である場合、絶縁膜形成時に未縮合のシラノール基が残存しやすいので、m+n≧1であることが好ましく、m=n=1であることが最も好ましい。また、架橋基R2の個数とSiの個数の比であるR2/Siは、0.5以上2以下であることが好ましい。これは、1個のSi原子あたりの結合手4つのうち、少なくとも1つには架橋基R2が結合していることが好ましいためである。この条件は、架橋基が2個のSiを架橋することを考慮すると、R2に注目した示性式で表した場合、Si(R21/2)x(R´1/2)4−x、4≧x≧1と書ける。
【0033】
以下に、一般式(I)で表わされるシラン化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【0034】
本実施の形態の膜形成用組成物は、一般式(I)で表されるシラン化合物または加水分解物に加えて、下記一般式(II)で表されるシラン化合物またはその加水分解物を含んでいても良い。
【0035】
R4pSiX34−p (II)
式中、R4は水素原子または置換基であり、非加水分解性基であるが、メチル基、フェニル基またはシクロアルキル基が好ましい。
【0036】
X3は加水分解性基を表す。X3としては、アルコキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン原子、アシル基などを挙げることができる。塗布液安定性等の観点から、X3としてはアルコキシ基が好ましい。ここで、アルコキシキ基としては、好ましくは炭素数1〜5の低級アルコキシ基であり、これらのアルコキシ基は鎖状でも、分岐していてもよく、さらにアルコキシ基内の水素原子がフッ素原子などに置換されていてもよい。X3として最も好ましいのはメトキシ基およびエトキシ基である。pは0〜3の整数であるが、膜強度の観点から0〜2が好ましい。
【0037】
一般式(II)で表されるシラン化合物の具体例としては、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、テトラエトキシシランが挙げられる。
【0038】
一般式(II)で表されるシラン化合物の添加量は、一般式(I)で表されるシラン化合物に対して、1〜1000モル%が好ましく、5〜500モル%がより好ましい。
【0039】
一般式(I)または(II)で表されるシラン化合物を加水分解、脱水縮合させる際には、化合物1モル当たり0.5〜150モルの水を用いることが好ましく、1〜100モルの水を加えることが特に好ましい。添加する水の量が0.5モル未満であると膜の耐クラック性が劣る場合があり、150モルを越えると加水分解および脱水縮合反応中のポリマーの析出やゲル化が生じる場合があるからである。
【0040】
本実施の形態の膜形成用組成物は、さらに溶媒を含んでいてもよい。その際に使用できる溶媒としては、エチレンジクロライド、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2−ヘプタノン、メチルイソブチルケトン、γ−ブチロラクトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、ジメチルイミダゾリジノン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、2−メトキシエチルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、イソプロパノール、エチレンカーボネート、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸プロピル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等が好ましく、これらの溶剤を単独あるいは混合して使用する。
上記の中でも、好ましい溶媒としてはプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、2−ヘプタノン、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレンカーボネート、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、メチルイソブチルケトン、キシレン、メシチレン、ジイソプロピルベンゼンを挙げることができる。
【0041】
次に、この膜形成用組成物を用いた低誘電率絶縁膜の形成方法について説明する。ここで、「低誘電率絶縁膜」とは、ULSIの高集積化に伴う多層配線に起因する配線遅延を防止するために配線間に埋め込まれる絶縁膜を言い、具体的には、比誘電率が2.6以下である膜を言う。本実施の形態では、比誘電率が1.0以上2.6以下の有機シリコン酸化膜を得ることができる。なお、膜形成用組成物に熱分解性化合物等を添加すること等によって多孔質化することにより、さらに比誘電率を低下させることも可能である。
【0042】
まず、膜形成用組成物を用意する。具体的には、一般式(I)で表わされるシラン化合物および必要に応じて一般式(II)で表わされるシラン化合物を用意する。一般式(I)で表わされるシラン化合物は以下の方法により得ることができる。
【0043】
一般式(I)で表わされるシラン化合物は、例えばシクロアルキルジエン化合物とハイドライドシラン化合物によるハイドロシリレーション反応や、ジハロゲン化シクロアルカンから合成したグリニヤール試薬とアルコキシシラン化合物との反応などを用いて合成することができる。
【0044】
また、3個の炭素原子間を二重結合で直鎖連結したアレン(C=C=C)を熱的反応により二量化してジメチレンシクロブタンを得る方法は古くから知られているが、この合成方法は反応条件が厳しい上、生成物が様々な異性体の混合物となるため、合成上の有用性は低かった。この方法に限らず、炭素少員環構造の中では4員環構造は最も作りにくく、天然物質においてもテルペン類と呼ばれる化合物等わずかしか存在しない。
【0045】
これに関して、1つの方法として、いわゆるメタラサイクルと呼ばれる前周期遷移金属錯体(金属キレート化合物)を触媒に用いた選択的な炭素骨格変換反応を用いる合成法が開発されている。例えば、特許第3718709号公報においては、下記一般式(III)で表される新規なシクロブタン誘導体を緩和な条件下において高収率で合成出来る方法が開示されている。すなわち、前周期遷移金属錯体触媒存在下で、室温あるいはそれ以下の温度において、極めて短時間(好ましくは30分〜3時間)攪拌するだけで容易に合成出来ることが開示されている。
【0046】
【化7】
式中、Rは炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基(例えば、C6F13)、炭素数6〜20のパーフルオロアリール基(例えば、C6F5)、CON(CH3)C6H5、COC2H5、COC6H5、またはSO2C6H5を表す。2個あるRは同一でも異なっていてもよい。
【0047】
一般式(III)で表される新規なシクロブタン誘導体は、下記一般式(IV)で表されるアレン誘導体を二量化することによって合成することが可能である。
【0048】
【化8】
式中、Rは炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基(例えば、C6F13)、炭素数6〜20のパーフルオロアリール基(例えば、C6F5)、CON(CH3)C6H5、COC2H5、COC6H5、またはSO2C6H5を表す。
【0049】
また、J.Org.Chem.,Vol.64,pp8706−8708.,1999.においては、ジアリールアルキン(R−C≡C−R)に対し、ジルコノセンジエチル触媒とヨウ素および塩化銅(I)を順次反応させることにより二量化し、下記一般式(V)で表されるジアリールシクロブテンを合成する方法が開示されている。2個あるRは同一でも異なっていてもよい。この公知の合成法の段階では不飽和脂環が生成される。この不飽和脂環ジアリールシクロブテンの環構造部分は平面構造になっているため、後述する本発明の効果を有さない。そのため、この公知の合成法に引き続いて、水素付加反応あるいはハロゲン化水素付加反応等を適用して飽和脂環構造を得る必要がある。
【化9】
【0050】
一般式(I)または(II)で表される本発明の膜形成用組成物であるシラン化合物を製造するために加水分解、脱水縮合させる際には、塩基触媒、金属キレート化合物、酸触媒を使用することが好ましい。
【0051】
塩基触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、ピリジン、ピロール、ピペラジン、ピロリジン、ピペリジン、ピコリン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルモノエタノールアミン、モノメチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジアザビシクロオクタン、ジアザビシクロノナン、ジアザビシクロウンデセン、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラエチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラブチルアンモニウムハイドロオキサイド、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ペンチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、N,N−ジメチルアミン、N,N−ジエチルアミン、N,N−ジプロピルアミン、N,N−ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、シクロヘキシルアミン、トリメチルイミジン、1−アミノ−3−メチルブタン、ジメチルグリシン、3−アミノ−3−メチルアミンなどを挙げることができ、アミンあるいはアミン塩が好ましく、有機アミンあるいは有機アミン塩が特に好ましく、アルキルアミン、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイドが最も好ましい。これらのアルカリ触媒は1種あるいは2種以上を同時に使用しても良い。
【0052】
金属キレート化合物としては、例えば、ビス(シクロオクタジエン)・モノ(トリフェニルホスフィノ)ニッケル、ビス(トリフェニルホスフィノ)・ジクロロニッケル、ビス(トリフェニルホスフィノ)・ジブロモニッケル、[1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン]・ジクロロニッケル、[1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン]・ジブロモニッケル、[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]・ジクロロニッケル、[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]・ジブロモニッケル、などのニッケルキレート化合物;トリエトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−n−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−i−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−n−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−sec−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−t−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、ジエトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−n−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−n−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−sec−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−t−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、モノエトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−n−プロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−i−プロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−n−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−sec−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−t−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、テトラキス(アセチルアセトナート)チタン、トリエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−n−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−i−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−n−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−sec−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−t−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、ジエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−n−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−i−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−sec−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−t−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、モノエトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−n−プロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−i−プロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−n−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−sec−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−t−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、テトラキス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ(アセチルアセトナート)トリス(エチルアセトアセテート)チタン、ビス(アセチルアセトナート)ビス(エチルアセトアセテート)チタン、トリス(アセチルアセトナート)モノ(エチルアセトアセテート)チタンなどのチタンキレート化合物;トリエトキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリ−n−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリ−i−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリ−n−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリ−sec−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリ−t−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジエトキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジ−n−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジ−n−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジ−sec−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジ−t−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノエトキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノ−n−プロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノ−i−プロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノ−n−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノ−sec−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノ−t−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、テトラキス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリ−n−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリ−i−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリ−n−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリ−sec−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリ−t−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジ−n−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジ−sec−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジ−t−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノエトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ−n−プロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ−i−プロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ−n−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ−sec−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ−t−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ(アセチルアセトナート)トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ビス(アセチルアセトナート)ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリス(アセチルアセトナート)モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウムなどのジルコニウムキレート化合物;トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウムなどのアルミニウムキレート化合物などを挙げることができ、好ましくは前周期遷移金属錯体(金属キレート化合物)である、ニッケル錯体触媒、チタン錯体触媒、ジルコニウム錯体触媒が好適で、いわゆるジルコノセンジエチル等のジルコニウム錯体触媒がより好適である。これらの金属キレート化合物は、1種あるいは2種以上を同時に使用しても良い。
【0053】
酸触媒としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸、リン酸、ホウ酸、シュウ酸などの無機酸;酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、シュウ酸、マレイン酸、メチルマロン酸、アジピン酸、セバシン酸、没食子酸、酪酸、メリット酸、アラキドン酸、シキミ酸、2−エチルヘキサン酸、オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレイン酸、サリチル酸、安息香酸、p−アミノ安息香酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、ギ酸、マロン酸、スルホン酸、フタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、コハク酸、フマル酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、リンゴ酸、グルタル酸の加水分解物、無水マレイン酸の加水分解物、無水フタル酸の加水分解物などの有機酸を挙げることができ、有機カルボン酸をより好ましい例として挙げることができる。これらの酸触媒は、1種あるいは2種以上を同時に使用してもよい。
【0054】
上記触媒の使用量は、一般式(I)または(II)で表される化合物などのシラン化合物1モルに対して、通常、0.00001〜10モル、好ましくは0.00005〜5モルである。触媒の使用量が上記範囲内であれば、反応中のポリマーの析出やゲル化の恐れが少ない。また、本発明において、シラン化合物を加水分解、脱水縮合するときの温度は通常0〜100℃、好ましくは10〜90℃である。時間は通常5分〜40時間、好ましくは10分〜20時間である。
【0055】
また、上記のメタラサイクルと呼ばれる前周期遷移金属錯体触媒を用いた炭素骨格変換反応を用いる合成法とは別に、特開2007−119488号公報においては、エノールエーテル化合物もしくは2-シロキシジエン化合物と1位にカルボニル基が置換したアルケンもしくはアルキン化合物にブレンステッド酸を、無溶媒または非水溶媒中で作用させることにより、多置換シクロブタン化合物、多置換シクロブテン化合物を効率的、立体選択的且つエコロジカルに合成できることが開示されている。
【0056】
多置換シクロブタン化合物を合成する場合を例示すると、下記一般式(VI)で表されるエノールエーテル化合物と、下記一般式(VII)で表わされるアルケン化合物とを、非水溶媒で、ブレンステッド酸触媒を作用させて反応させることにより、下記一般式(VIII)で表わされる多置換シクロブタン化合物を合成することができる。
【0057】
【化10】
式中、R1は置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基またはシリル基を表し、R2、R3及びR4はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよいシリル基、または置換基を有していてもよいアルキルアルコキシ基を表し、同一でも異なってもよく、R1〜R4の置換基は相互に結合してもよい。
【0058】
【化11】
式中、Xはエステルカルボニル基、アミドカルボニル基、ケトカルボニル基、アルデヒド基、パーフルオロアルキル基(例えば、C6F13)、パーフルオロアリール基(例えば、C6F5)、CON(CH3)C6H5、COC2H5、COC6H5、またはSO2C6H5を表し、R5、R6およびR7はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいシリル基、または置換基を有していてもよい複素環基を表し、同一でも異なってもよく、XおよびR5〜R7の置換基は相互に結合してもよい。
【0059】
【化12】
式中、XおよびR1〜R7の置換基は上記一般式(VI)および(VII)のものと同様である。
【0060】
なお、上記製造方法においては、4員環上の置換基Xと酸素置換基がトランスの関係にある下記一般式(IX)で示される立体異性体を選択的に合成することができる。
【0061】
【化13】
式中、XおよびR1〜R7の置換基は上記一般式(VI)および(VII)のものと同様である。この場合、原料となるアルケン化合物の置換基Xはエステルカルボニル基であることが望ましく、例えばアルコキシカルボニル基、ポリハロアルコキシカルボニル基が挙げられる。また、原料となるエノールエーテル化合物はシリルエノールエーテルであることが望ましく、例えばトリイソプロピルシリル基やtert−ブチルジメチルシリル基が置換したエノールエーテルが挙げられる。
【0062】
本実施の形態では、R1〜R7のうち、4員環の相異なる2つの炭素に結合する置換基としてシリル基を選択し、Xとしてはパーフルオロアルキル基(例えば、C6F13)、パーフルオロアリール基(例えば、C6F5)、CON(CH 3)C6H5、COC2H5、COC6H5、またはSO2C6H5を選択するのが好適である。
【0063】
ブレンステッド酸としては、トリフルオロメタンスルホン酸イミド、ペンタフルオロベンゼンスルホン酸イミド、ビス(ペンタフルオロエチル)リン酸、もしくは下記一般式(X)で表されるポリフルオロアルキルスルホン酸基の置換したような強い酸が望ましい。
【0064】
【化14】
式中、Aは化学的に許容される未置換もしくは複数の置換基を有する窒素原子、酸素原子、炭素原子、硫黄原子又はリン原子を表し、Rfは2個以上のフッ素原子の置換したアルキル基、アリール基または複素環基を表す。
【0065】
具体的には、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)イミド、ビス(ペンタフルオロエタンスルホン酸)イミド、ビス(ペンタフルオロベンゼンスルホン酸)イミド、N-ペンタフルオロベンゼンスルホニル-N-トリフルオロメタンスルホン酸イミド、N-トリフルオロメタンスルホニル-N-トリフルオロメタンスルホン酸イミド、トリフルオロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタン、トリス(ペンタフルオロベンゼンスルホニル)メタン、ビス(ペンタフルオロベンゼンスルホニル)トルフルオロメタンスルホニルメタンなどが挙げられる。
【0066】
本実施の形態においてもこれらの合成方法を適宜適用し、炭素数4の脂環構造に結合するRとしてSiを含有した官能基を用いることにより、Si−Si間を炭素数4の脂環構造を含む2価の基あるいはその誘導体で架橋した膜形成用組成物を合成することが可能である。
【0067】
このようにして得られる膜形成用組成物の全固形分濃度は、好ましくは、2〜30質量%であり、塗布形成あるいはCVD形成等の使用目的に応じて適宜調整される。膜形成組成物の全固形分濃度が2〜30質量%である理由は次の通りである。シリコンウエハ、SiO2ウエハ、SiNウエハなどの基材に塗布形成する際には、塗布膜の膜厚が適当な範囲となり、塗布液の保存安定性もより優れるものとなる。また、非酸化性希釈ガスや酸化性ガスとともに膜形成用組成物を基材上に供給して、熱CVD法やプラズマCVD法などにより、基材上に堆積させることにより膜を形成することができる。この場合においても、シラン化合物を上記溶媒で希釈安定化させることにより液体原料として準備することができるので、加熱蒸発あるいは担体ガスによるバブリング蒸発等によりCVD原料ガスとして供給することができる。
【0068】
以上に開示した合成方法で合成された本発明の膜形成用組成物を用意した後、例えば塗布法またはCVD法等により低誘電率絶縁膜を形成することができる。
【0069】
塗布法
塗布法により膜を形成するには、まず、膜形成用組成物を上記溶媒で希釈して、シリコンウエハ等の基材上に塗布する。塗布手段としては、スピンコート、浸漬法、ロールコート法、スプレー法などが用いられる。この際の膜厚は、乾燥後の膜厚として、1回塗りで厚さ0.05〜1.5μm程度、2回塗りでは厚さ0.1〜3μm程度の塗膜を形成することができる。その後、常温で残留溶媒を揮発乾燥するか、ホットプレート、オーブン、ファーネスなどを使用して加熱することによって、残留溶媒の乾燥と架橋反応を進行させることにより、ガラス質または巨大高分子、またはその混合物の膜を形成することができる。
【0070】
この際の加熱雰囲気としては、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、真空下、などで行うことができるが、熱処理温度の最高値が200℃以上600℃以下の条件で加熱処理することが好ましい。絶縁膜の収縮によるストレス発生とクラック発生抑制の観点から、熱処理温度の最高値が300℃以上430℃以下の条件で加熱処理することが特に好ましい。熱処理時間は通常1分〜20時間であるが、15分〜10時間が好ましい。
【0071】
この膜に追加の熱処理、紫外線照射、電子線照射等を施してもよい。なお、紫外線照射および電子線照射に関しては、これらエネルギー線によって直接的に不要な架橋構造の結合を励起し切断し再結合させる必要はない。溶存酸素あるいはOH基等の励起状態、溶剤あるいは溶存酸素あるいはOH基等を励起して生成された酸素原子、あるいはそれらの励起状態と溶存水素原子等との反応によって生成された酸素原子、などの活性酸素によって、不要な架橋構造の結合を酸化・切断し再結合させて所望の架橋構造を形成してもよい。
【0072】
具体的には、膜形成用組成物を、例えばスピンコート法により、基板(通常は金属配線を有する基板)上に塗布し、予備熱処理を行うことにより残留溶媒を揮発乾燥させるとともに、膜形成用組成物に含まれるシロキサンをある程度架橋させ、次いで300℃以上430℃以下の温度で熱処理(アニール)を行うことにより架橋を完結させることにより高強度の低誘電率絶縁膜を形成できる。
【0073】
CVD法
CVD法により膜を形成するには、まず、膜形成用組成物を上記溶媒で希釈安定化させることにより液体原料として準備する。この液体原料を加熱蒸発あるいは担体ガスによるバブリング蒸発等によりCVD原料ガスとして供給し、他の非酸化性希釈ガスや酸化性ガスとともに膜形成用組成物を基材上に供給し堆積させることにより、ガラス質または巨大高分子、またはその混合物である所望の低誘電率絶縁膜を形成することができる。
【0074】
この膜に追加の熱処理、紫外線照射、電子線照射等を施すことにより架橋反応の進行度を最適化すると、ガラス質または巨大高分子またはその混合物を膜に変成することができる。得られる膜は、低誘電率、高強度、低吸湿性、高プラズマ処理耐性の絶縁体を形成することができる。なお、紫外線照射および電子線照射に関しては、これらエネルギー線によって直接的に不要な架橋構造の結合を励起し切断し再結合させる必要はない。溶存酸素あるいはOH基等の励起状態、溶剤あるいは溶存酸素あるいはOH基等を励起して生成された酸素原子、あるいはそれらの励起状態と溶存水素原子等との反応によって生成された酸素原子、などの活性酸素によって、不要な架橋構造の結合を酸化・切断し再結合させて所望の架橋構造を形成してもよい。
【0075】
また、この際の加熱雰囲気としては、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、真空下、などで行うことができるが、熱処理温度の最高値が200℃以上600℃以下の条件で加熱処理することが好ましい。絶縁膜の収縮によるストレス発生とクラック発生抑制の観点から、熱処理温度の最高値が300℃以上430℃以下の条件で加熱処理することが特に好ましい。熱処理時間は通常1分〜20時間であるが、15分〜10時間が好ましいことは、塗布形成の場合と変わらない。
【0076】
このようにして得られる低誘電率絶縁膜は、絶縁性および誘電特性に優れるのみならず、耐吸湿性、耐クラック性、および塗布形成した際の膜厚ならびに膜質の均一性、表面硬度に優れることから、LSI、システムLSI、DRAM、SDRAM、RDRAM、D−RDRAMなどの半導体素子用層間絶縁膜のみならず、半導体素子の表面コート膜などの保護膜、多層配線基板の層間絶縁膜、液晶表示素子用の保護膜や絶縁防止膜などの用途に有用である。特に、半導体素子用層間絶縁膜においては、引っ張り応力の大きく掛かる箇所への適用が好適である。
【0077】
本発明の原理は、従来例の炭化水素基R(ポリメチレン基やフェニレン基等)による架橋との差別化の点において極めて重要であるので、以下で詳細に説明する。
【0078】
従来においては、機械的強度向上にために、Si−R−Si骨格を硬く(主鎖方向への引張り強度、主鎖垂直方向への曲げ強度、あるいは主鎖の周りのねじれ強度を増大)させることが主眼であった。その指導原理はSi−C−Si架橋がSi−O−Si架橋よりも硬いため、Si−(C)n−Siで炭素数を増やすか、ベンゼン環の平面構造を利用するものである。炭素(C)架橋はCのsp3混成軌道あるいはsp2混成軌道によって主鎖垂直方向への曲げあるいは主鎖の周りのねじれに対して固定されやすい。
【0079】
一方、酸素(O)架橋においては、Si−O結合そのものは強い結合ではあるが、Oが2配位であるためにO周りの回転やねじれ変形の自由度が高いため“しなやか”に見えるのである。このしなやかさは、CMP工程等で急激な応力の印加/開放が繰り返される場合の応力の逃げをもたらす。不十分に硬いだけでは応力の変化に耐えられず破壊に至ってしまうが、適度にしなやかであると応力を逃がすことが可能となる。しなやかさのためには炭化水素基による架橋部分は長い方が適する。
【0080】
しかしながら、ポリメチレン基やフェニレン基等のような比較的大きな架橋基を用いて炭化水素架橋構造の割合が増えると、架橋のない空隙(空孔)が増えてしまう。空隙が増えると吸湿性が増大する。吸湿は、引っ張り応力の大きく掛かった箇所において応力腐食割れを誘発し膜の破壊を招く。すなわち、架橋構造に要求される項目として、硬さ、しなやかさ、および空隙形成の抑制、の3点が重要であることは明らかである。この3点を満足する架橋構造として、炭素数4の脂環構造を含む2価の基あるいはその誘導体による架橋構造が最適であることを以下で説明する。
【0081】
図7(a)および(b)は上記した非特許文献1のFig.3で開示されている、Si−Si間がモノメチレン(−CH2−)架橋の場合と酸素架橋の場合における、外部歪みに対するポテンシャルエネルギー変化の計算値を示したグラフである。外部歪みとしては、架橋部分Si−X−Siの結合角あるいはSi−X−Si−Xの二面角(ねじれ角)を採っている。ここでX=CまたはOである。縦軸は計算に用いたモデル分子の量子化学的全エネルギーの変化量である。曲線の曲率が大きいほど(尖っているほど)、同じ外部歪みが掛かった場合に内部エネルギーが上昇(不安定化)することを示しており、すなわち“硬い構造”であることに対応する。この図から、結合角や二面角の変形に対しては、メチレン架橋の方が酸素架橋よりも硬いことがわかる。特に、メチレン架橋では酸素架橋にみられる結合角が180°近くまで押し広げられるような変形に対して特に硬いことがわかる。酸素架橋の場合には、上述の酸素周りの変形自由度の高さから、安定構造では144°近傍であるSi−O−Si結合が、まさに逆方向に折れ曲がるような変形が可能であるため、広角側のポテンシャルエネルギー変化が極めて緩やかになるが、Si−C−Siではそのような変形は非常に起こり難いことを示している。また、二面角(ねじれ角)の変化に対するエネルギー変化(歪みエネルギーの蓄積量)は、結合角変化に対するそれに対して1桁小さい値であり、実際の変形に対しては、その差の影響は小さいこともわかる。非特許文献1およびそれに関連する非特許文献2では、この硬さのみを追求することを目指して最適架橋構造を調べている。
【0082】
しかしながら、この違いを非経験的分子軌道計算より詳細に調べてみることにより、本発明における最適架橋構造の指導原理が初めて明らかになった。図2〜図13を用いてこの指導原理を説明する。なお、非経験的分子軌道計算の手順としては、検討したい架橋構造を含むモデル分子を作成し、B3LYP/6−31G(d’,p’)の計算レベルによって、考慮すべき外部歪みの印加の下で構造最適化を行い、全エネルギーの変化を計算した。結合エネルギー計算の場合を除き、特に断らない限りは簡単のため、注目する架橋部分(Si―R―Si)に連結するSi酸化膜部分は各Siに対して3個の−O−SiH3基で終端したモデル分子を採用した。結合エネルギー計算では第二近接原子の効果が大きいため、種々の終端を行ったモデル分子を採用した。
【0083】
図8は、図7(a)に相当する結合角変化に対するポテンシャルエネルギー変化の計算値を示したグラフである。Si−O−SiとSi−C−Siの結果は、横軸の結合角を最安定構造での結合角からの変化量で示した以外図7(a)と同じである。最安定構造での結合角はグラフの右側に示しておいた。図8にはSi周りの結合角変化(O−Si−O)の場合も示してある。SiとCは一重結合を形成する場合はともにsp3混成軌道を採るので、Si−C−SiとO−Si−Oは同様の傾向を示すことが予想される。計算結果もこれを支持し、O−Si−OはSi−C−Siと同等かむしろやや硬いことが判る。この結果からだけでは、一般の有機シリコン酸化膜のヤング率が10GPaにも満たないのに対して、CVDシリコン酸化膜のヤング率が70GPaにも達することはやや理解しがたい。
【0084】
これを説明するのが、図10および表1である。図10は、結合角変化のような曲げ方向の外力ではなく、結合長変化をももたらす方向の外力を受けてSi…Si距離を変化させた場合のポテンシャルエネルギー変化を示したグラフである。図10中で横軸に垂直な点線群は、図右に示した各架橋構造の矢印で示したX…X(X=SiあるいはC)距離(dとする)を伸張させた場合に、Si−O結合長あるいはC−C結合長(rとする)が変化しないと仮定して結合角が180°に広がり切る時に相当する臨界的なX…X距離の変化量(2r−dに等しい)を示している。
【0085】
図10に示されるように酸素架橋(Si−O−Si)の場合は臨界量0.125A近傍に明らかな変曲点があり、これを超えて伸張させようとすると急激にエネルギーを要する、すなわち硬くなる。一方、炭素架橋の場合には、Si−C−Si、C−C−Cいずれにおいても変曲点は顕著に見えない。この理由は各X…Xの時の架橋部の結合角を調べることで明らかになった。すなわち、酸素架橋では図8に示したようにSi−O−Si結合角が180°まで容易に広げられてしまうために、180°に達した後はSi−O結合そのものが伸張せざるを得ないのである。つまり、X…X距離の伸張は、変化が小さい間は実は結合角の弾性変形ポテンシャル面に乗ってエネルギー変化しており、変化が大きくなると結合角の弾性変形ポテンシャル面から結合長の弾性変形ポテンシャル面へと乗り変わってエネルギー変化しているのである。
【0086】
一方、炭素架橋では図10に示されたようにCのsp3混成軌道の変角は容易ではないので、見掛け上の臨界点まで伸張させても架橋部の結合角は相変わらず180°にははるかに達せず、おおよそ130°(C−C−Cの場合)〜150°(Si−C−Siの場合)でしかないため、見掛け上の臨界点を超えても依然として結合角の弾性変形ポテンシャル面に乗ったエネルギー変化をしているに過ぎないのである。
【0087】
酸素架橋(Si−O−Si)の場合に、Si−O−Si結合角の弾性変形ポテンシャル面からSi−O結合長の弾性変形ポテンシャル面に乗り移ることで急激に硬くなることは、表1から判る。表1はSi−O結合およびSi−C結合の解離エンタルピー(つまりこれらの一重結合の強さ)を種々のモデル分子について計算した結果である。これはG2レベルの計算結果であり、極めて正確(誤差1kcal/mol程度)である。
【表1】
表1の注)数値は今回得られたG2レベルの解離エンタルピー、()内の数値はJ. Phys.Chem.,vol.97,p.8207(1993)に記載のG2レベルの解離エンタルピーである。
【0088】
これをみると、Si−O結合はSiのバックボンドの酸化が進んでいるほど強くなり、完全酸化ではほぼ6.6eV/Si−Oに達する。一方、Si−C結合はSi−O結合ほどにはSiのバックボンド酸化の影響を受けず、バックボンドが完全酸化されていてもせいぜい4.7eV/Si−Cと、Si−O結合に比べて2eV近くも弱いのである。つまり、図10に示した結果は、Si−O−Si変角のしなやかさとSi−O伸張の硬さで決まる酸素架橋構造の特性と、X−C−X変角の硬さとX−C伸張のやわらかさ(X=SiあるいはC)で決まる炭素架橋構造の特性の違いを示しているのである。比較のために、図8には最も硬いダイヤモンドに類似のC−C−Cのsp3混成一重結合の変角ポテンシャルの結果を示した。弾性変形範囲において最も尖ったポテンシャル面になっていることが分かる。
【0089】
図9は非特許文献2にも開示されているエチレン架橋(Si−CH2−CH2−Si)の変形ポテンシャルエネルギー変化を比較した結果を示すグラフである。エチレン架橋においては、Si…Si間の2つの等価な結合角Si−C−CおよびC−C−Siの両方を、メチレン架橋Si−C−Siと同じだけ変角するにはもちろん2倍近いエネルギーが必要であるが、実際には2つの結合角で全変角量を分配すれば良いので、変形ポテンシャルは広角側においてメチレン架橋よりもわずかに硬くなるに過ぎない。
【0090】
エチレン架橋の硬さはメチレン架橋と大差ないことが明らかになったが、一方で吸湿とそれに起因する応力腐食割れに係わる空隙には大きな差が生じる。図11(a)および(b)に、吸湿した水分が応力腐食割れ(クラックの進行)を促進するメカニズムを示す。
【0091】
一般に有機シリコン酸化膜には、成膜方法に依らず未架橋箇所が残存しているため、架橋反応を起こして自分自身を小さくしよう(収縮しよう)とする引っ張りストレスが作用している。大気中の水分は、有機シリコン酸化膜中のクラック先端に存在する歪んだSi−O−Si結合と加水分解反応を起こす(図11a)。Siは超原子価を採り易い元素であり、吸湿水分(H2O)のOが引っ張りストレスで歪んだSi−O結合になっている箇所のSiに選択的に求核反応を起こすためである。その結果、2つのSi−OH結合を形成し、元のSi−O−Si結合が2つに分断される(図11b)。この分断反応は大気中の水分によってクラック先端において連鎖的に進行する。そして、クラックが進行すると、有機シリコン酸化膜は細かく破壊され、この分断された有機シリコン酸化膜は局所的に縮み、膜自体に作用している引っ張りストレスを緩和する。形成されたSi−OH基は架橋構造の破壊のみならず、更なるH2O分子の水素結合吸着を促進するとともに配向分極成分を発生する極性基でもあるので比誘電率の上昇を招いてしまう。したがって、応力腐食割れを抑制するためには、元々のストレス緩和は勿論であるが、吸湿水分を抑制することが重要である。
【0092】
図12は、種々の架橋構造に起因する空隙サイズと吸湿水分の大きさを比較した図である。図12の(a)がメチレン架橋、(b)がエチレン架橋、(c)がフェニレン架橋、(d)および(e)が本実施の形態のシクロブタン架橋、(f)がH2Oモノマー、(g)がH2Oダイマーである。図12中の矢印と数値は、空隙サイズに関係する原子間の距離を示している。
【0093】
図12からメチレン架橋箇所ではH2Oダイマーほど大きな空隙は生じていないが、エチレン架橋箇所やフェニレン架橋箇所ではH2Oダイマーよりも大きな空隙を生じてしまうことが理解できる。すなわち、歪んだSi−X結合部分に少なくとも2個以上のH2O分子が作用しうる状況をもたらしうる。
【0094】
図13は、上述のメチレン架橋とエチレン架橋での空隙サイズの違いによる作用を模式的に示した図である。架橋を終端してしまうメチル基等では勿論のこと、空隙の大きなエチレン架橋においても空隙に吸湿水分が到達すると、この部分に引っ張りストレスが掛かっている場合にはクラック発生をもたらす。一方、メチレン架橋では元々空隙が小さいため吸湿自体が起こり難い。それに対して、本実施の形態のシクロブタン架橋を用いた場合、特に好適な1,2位置異性体(オルト異性体)を用いた場合にはエチレン架橋箇所よりも空隙が小さくできる。シクロブタン架橋部に疎水性のフッ素置換誘導体等を用いれば、吸湿をさらに抑制できる。
【0095】
では、次に本発明に含まれるシクロブタン架橋の変形ポテンシャルを調べた結果と比較してみる。まず最初に、シクロブタン架橋の効果を明快にするため、シクロブタン架橋のプロトタイプである孤立シクロブタン分子(c−C4H8)そのものの変形ポテンシャルエネルギー変化について、メチレン架橋と比較した結果を図1に、エチレン架橋と比較した結果を図2に示した。シクロブタンを構成するC原子はsp3型なので本来は109.5°あたりのC−C−C結合角が安定であるが、4員環を形成するには90°あたりにならざるを得ない。この歪みを少しでも緩和するため、シクロブタンは平面構造ではなく4員環のC…C対角線でくの字に折れ曲がった構造をとる。この折れ曲がり角を二面角で表すと約26°程度となる。シクロブタンの変角ポテンシャルの変数としては、この二面角の変化を採った。なお、図1、図2および図5において、二面角の変化量はSi−O−Siとの比較を容易にするため符号を変えてプロットしている。つまり、二面角が平衡値(例えば26°)より大きく(4員環の折れ曲がりが強くなる)なる場合を負、より小さくなる(4員環が平面に近づく方向)場合を正にとっている。
【0096】
図1および図2から、シクロブタンの変形ポテンシャルエネルギーは、メチレン架橋(Si−C−Si)やエチレン架橋(Si−C−C−Si)よりもむしろ酸素架橋(Si−O−Si)のそれに似ていることがわかる。酸素架橋においては、Si−O−Si結合角を180°あるいはそれ以上に変形させようとすると逆方向へ折れ曲がりうることに対応して、広角側のポテンシャル面がほとんどエネルギー損を示さない。これと同様に、シクロブタンでは二面角の26°だけ曲がってほぼ平面に達すれば、今度は逆方向に曲がり始めるだけに過ぎない。これを反映して、変形ポテンシャル面は26°あたりを対称軸にした変化を示す。二面角を大きくする方向の変化も考慮すれば(26°+10°)×2=72°程度の二面角変化の範囲において、ポテンシャルエネルギー変化は十分に小さい、すなわち容易に変形することが可能であり十分にしなやかな構造といえる。
【0097】
次に、シクロブタン架橋においても孤立シクロブタン分子そのものの変形ポテンシャルでの結果が保持されていることを示す。図3および図4は、計算に用いたシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜のモデル分子であり、構造緩和をさせた最安定構造を示してある。図3がオルト位置トランス型架橋であり、図4がパラ位置トランス型架橋である。図5から、これらはシクロブタン架橋部分のC−C−C結合角や二面角がほぼ等しく、かつ孤立シクロブタン分子自体ともほぼ等しいことがわかる。なお、図12(d)および(e)の空隙サイズの比較から、パラ位置トランス型架橋よりも空隙サイズが小さいオルト位置トランス型架橋の方が好ましい。
【0098】
図5は、エチレン架橋と本実施の形態のシクロブタン架橋との変形ポテンシャルエネルギー変化を比較したグラフであり、図6は本実施の形態のシクロブタン架橋の変形ポテンシャルエネルギー変化を、架橋部分の変形模式図とともに示したグラフである。シクロブタン架橋においても、孤立シクロブタン分子と同様に、二面角で26°(オルト位置トランス型架橋)ないし21°(パラ位置トランス型架橋)だけ曲がってほぼ平面に達すれば、今度は逆方向に曲がり始めるだけに過ぎない。これを反映して、変形ポテンシャル面も上記の変角量あたりを対称軸にした変化を示す(図6)。二面角を大きくする方向の変化も考慮すれば(26°+10°)×2=72°(オルト位置トランス型架橋)ないし(21°+10°)×2=62°(パラ位置トランス型架橋)程度の二面角変化の範囲において、ポテンシャルエネルギー変化は十分に小さい、すなわち、シクロブタン架橋においても容易に変形することが可能であり、十分にしなやかな構造が達成されている。図5に示されるようにこのしなやかさはエチレン架橋では全く見られない。
【0099】
以上のことから、本実施の形態の膜形成用組成物を用いれば、機械的強度に優れた、しかも比誘電率特性にも優れた有機シリコン酸化膜からなる低誘電率絶縁膜を形成することができると言える。
【0100】
(第2の実施の形態)
以下、本発明の第2の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本実施の形態では、第1の実施の形態で説明した膜形成用組成物を用いて半導体装置の層間絶縁膜を形成した例について説明する。図14(a)〜図14(c)は第2の実施の形態に係る半導体装置の模式的な製造工程図である。
【0101】
まず、図14(a)に示されるように、素子が集積形成された半導体基板1の表面に下地絶縁膜2を形成し、次に、加熱および電子線照射を用いて、下地絶縁膜2上に層間絶縁膜3を形成する。層間絶縁膜3の具体的な形成方法は後で詳説する。
【0102】
次に、図14(b)に示されるように、層間絶縁膜3の所定の箇所に、所望する大きさおよび形状からなる配線溝を形成し、配線溝内にバリアメタル4および金属配線5を形成するとともに、周知のCMPプロセスにより層間絶縁膜3、バリアメタル4および金属配線5の表面を平坦にする。ここでは、金属配線5として、Cuを主成分とするCu配線を使用する。
【0103】
その後、図14(c)に示されるように、表面が平坦にされた層間絶縁膜3、バリアメタル4および金属配線5の表面上に、SiNまたはSiCからなるバリア絶縁膜6を形成する。
【0104】
以下、層間絶縁膜3を形成する方法について具体的に説明する。層間絶縁膜3は以下の工程1〜工程4で形成される。
【0105】
工程1
まず、スピンコート法にてワニスを半導体基板1上に塗布する。詳細には、半導体基板1上の下地絶縁膜2の表面上に、溶媒に膜材料の前駆体としてのシクロブタン架橋組成物を溶解させたワニスと呼ばれる液状原料を、コーターを用いてスピンコート法により塗布し、塗布膜を形成する。溶媒としては、例えばPGPE(プロピレングリコールモノプロピルエーテル)を用いることができる。
【0106】
工程2
半導体基板1上に塗布膜を形成した後、半導体基板1に80℃で1分間熱処理を施す。詳細には、電子線照射処理を行う反応容器内に設置され、かつ80℃に保持されているホットプレート上に、塗布膜が形成された半導体基板1を載置する。この状態を1分間保持することにより、80℃、1分間の熱処理が上記塗布膜に施される。これにより塗布膜中の溶媒が除去される。
【0107】
工程3
上記熱処理を施した後、半導体基板1に200℃以上350℃以下で1分間熱処理を施す。詳細には、上記ホットプレート上に、半導体基板1を載置したまま、ホットプレートの温度を200℃に保持する。この状態を1分間保持することにより、電子線照射処理を行う反応容器内で、200℃、1分間の熱処理が上記塗布膜に施される。これにより塗布膜中の化合物が架橋するとともに塗布膜が半導体基板1上に固定される。この工程は、酸化されやすい金属配線が露出していない限り、酸化性雰囲気であることが好ましい。
【0108】
工程4
熱処理を施した後、減圧された雰囲気中で、半導体基板1を400℃以上600℃以下で加熱しつつ、電子線照射処理を行い、層間絶縁膜3を形成する。詳細には、反応容器内に窒素約20slmを導入し、減圧された窒素雰囲気中で半導体基板1を400℃に保持されたホットプレート上に載置した状態で、上記塗布膜に電子線を照射し、層間絶縁膜3を形成する。電子線が塗布膜に照射されると、塗布膜中の酸素分子、水分子、およびヒドロキシル基の結合が切断され、これにより生成された酸素原子で塗布膜が自動的かつ適度に酸化される。この工程は上記塗布膜の過剰な酸化を抑制するため、非酸化性雰囲気であることが好ましい。
【0109】
工程4における電子線照射の際、本実施の形態では、反応容器内の圧力を約5.5×103Pa(40Torr)と約8.0×103Pa(60Torr)の2段階に変動させることが好ましい。すなわち、電子線照射開始から約90秒間は、反応容器内の圧力を5.5×103Paとし、単位時間あたりの入射電子の量(以下、照射量という。)を約5μC/cm2・secとして電子線照射を行い、それ以降から電子線照射終了までの約30秒間は、反応容器内の圧力を8.0×103Paとし、照射量を約4μC/cm2・secとして電子線照射を行うことが好ましい。電子線のエネルギーは例えば1〜15keVとすることが好ましい。また、半導体基板に入射する電子の総量(以下、全照射量あるいはフルエンスという)は500μC/cm2とした。全照射量は上記値に限定されるものではなく、シクロブタン架橋有機シリコン酸化膜が変質しない値であれば良い。
【0110】
特記すべき点は、半導体基板1を加熱しながら、層間絶縁膜3に電子線を照射している間に、反応容器内の圧力等のパラメータを変動させることである。これによって、比誘電率が低く、かつ十分な機械的強度を有する層間絶縁膜3が得られる。
【0111】
なお、本実施形態では、工程4において圧力と照射量を変動させたが、どちらか一方だけを変動させても、機械的強度が高く、かつ比誘電率が低い絶縁膜を実現することも可能である。
【0112】
さらに、圧力、照射量以外のパラメータを一つだけ変動させても、機械的強度が高く、かつ比誘電率が低い絶縁膜を実現することは可能である。圧力、照射量以外のパラメータとは、半導体基板1の温度、半導体基板1が曝露されるガス種、前記反応容器内に導入される上記ガスの流量、半導体基板1の位置である。例えば、工程4において、温度を400℃から200℃に変化、ガス種を窒素からアルゴンに変化、ガス流量を25slmから3slmに変化、あるいは半導体基板1の位置を50mmから120mmに変化させても同様の効果が得られる。
【0113】
ただし、この場合、要求される機械的強度や比誘電率などによっては、実現できない場合もある。したがって、一般には、複数のパラメータを変動させることが好ましい。圧力と照射量以外の複数のパラメータを変動させても、あるいは圧力と照射量の一方と、圧力と照射量以外の少なくとも一つ以上のパラメータを変動させても、本実施形態と同様な効果を得ることは可能である。
【0114】
すなわち、反応容器内の圧力、半導体基板1の温度、半導体基板1が曝露されるガス種、反応容器内に導入される該ガスの流量、半導体基板1の位置および照射量のうちの少なくとも一つを変動させることにより、本実施の形態で示したような効果を得ることができる。
【0115】
(第3の実施の形態)
以下、本発明の第3の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本実施の形態では、第1の実施の形態で説明した膜形成用組成物を用いて半導体装置の層間絶縁膜を形成する際の電子線照射方法について説明する。本実施の形態は、第2の実施の形態で用いた電子線照射方法とは異なる電子線照射工程に特徴がある。そこで、本実施の形態の説明に先立ち、まず本実施の形態で用いた電子線照射装置について説明する。図15(a)および(b)は第3の実施の形態で用いる電子線照射装置の概略構成図である。
【0116】
図15(a)に示されるように、本実施の形態の電子線照射装置の反応容器21上部には、電子線発生部22が少なくとも1つ設置されている。なお、電子線照射部22は図15(b)に示されるように複数あってもよい。
【0117】
電子線発生部22は隔壁23により反応容器21と隔離され、電子線発生部22から発せられた電子線24は隔壁23を透過して反応容器21内に導入される。反応容器21内の下方には、電子線発生部22の下部と対向するようにホットプレート25が設置されている。
【0118】
ホットプレート25上には、塗布膜が形成された半導体基板10が載置されている。半導体基板10には電子線24が所望の条件で照射される。ここで、ホットプレート25は制御装置に接続され、その制御装置によって、ホットプレート25は所望な温度に維持される。ホットプレート25を使用することにより、その上に載置される半導体基板10は略均一な温度に保持され、処理の均一性が図られる。
【0119】
電子線照射装置としては、電子線源にプラズマが使用されているものが一般的である。プラズマ中で発生した電子はメッシュを介して反応容器内へ引き出され、電子線発生部と反応容器は常に同一雰囲気にある。そのため、電子線照射処理により被処理膜から有機成分を含有したガスが発生すると、放電領域の圧力が急変する。放電領域の圧力が急変すると、プラズマ放電が不安定となる結果電子線源が不安定になる。その結果、均一な電子線の照射が不可能となる。したがって、この装置を用いると、電子線照射を併用した焼成後の膜の特性、例えば、比誘電率、機械的強度等にばらつきが生じる等の問題が生ずるおそれがある。
【0120】
これに対して、本実施の形態で使用する電子線照射装置は、電子線源である電子線発生部22と被照射物(塗布膜が形成された半導体基板10)の間に隔壁23が設けられ、電子線24は隔壁23を介して被照射物を照射するようになっている。そのため、被照射物から発生するガスの電子線発生部22への影響は隔壁23によって抑えられる。その結果、空間的にも経時変化的にも均一な電子線24を被照射物に照射することが可能になり、電子線照射を併用した焼成後の膜の特性のばらつきを低減することができる。
【0121】
次に、上記の電子線照射装置を使用して半導体装置を製造する例について説明する。図16(a)〜図16(c)は第3の実施の形態に係る半導体装置の模式的な製造工程図である。
【0122】
まず、図16(a)に示されるように、半導体基板11の表面上に、下地絶縁膜12を形成する。ここでは、下地絶縁膜12としてTEOS膜あるいは第1の実施の形態の膜形成用組成物を用いて形成された有機シリコン酸化膜を用いる。続けて、下地絶縁膜12の表面側の所定の箇所に、所望する大きさおよび形状の配線溝を形成し、その後、周知のCMPプロセスにより、配線溝の内部にバリアメタル13およびCuを主成分とするCu配線14を形成するとともに、下地絶縁膜12、バリアメタル13およびCu配線14の表面を平坦にする。
【0123】
次に、図16(b)に示されるように、平坦化された下地絶縁膜12、バリアメタル13およびCu配線14の表面上に、バリア絶縁膜としてのシリコン窒化膜15を形成する。なお、以下、半導体基板11上にシリコン窒化膜15までを形成したものを、第1層半導体基板16と称することとする。
【0124】
シリコン窒化膜15を形成した後、図16(c)に示されるように、シリコン窒化膜15上に、第1の実施の形態で説明した膜形成用組成物を用いて、シクロブタン架橋有機シリコン酸化膜からなる低誘電率の層間絶縁膜17を形成する。
【0125】
以下、層間絶縁膜17を形成する方法について具体的に説明する。層間絶縁膜17は以下の工程1〜工程4で形成される。
【0126】
工程1
まず、膜材料の前駆体としての上記第1の実施の形態で説明したシクロブタン架橋組成物を溶解させたワニスを、シリコン窒化膜15の表面上に供給する。ワニスを供給する方法としては、本実施の形態においては、良質なシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜が成膜されるように、ワニスを略均一な厚さでむらなく供給することができる塗布法を採用する。このワニスの塗布作業は、具体的には、塗布装置として、例えば図示しないコーターを用いて、塗布法の一種であるスピンコート法によってワニスをシリコン窒化膜15の表面上に塗布するものである。
【0127】
工程2
第1層半導体基板16を、図16(c)に示されるように、そのワニスが塗布されたシリコン窒化膜5を上向きにした状態で、温度調節装置としてのホットプレート25(加熱装置)上に載置する。その後、ワニスの温度が約80℃に保持されるようにホットプレート25の温度を調節して、ワニスを第1層半導体基板16ごと加熱するとともに、この状態を約1分間保持する。これによりワニスに1回目の熱処理を施す。
【0128】
工程3
第1層半導体基板16をホットプレート25上に載置した状態のまま、ワニスの温度が200℃に保持されるようにホットプレート25の温度を調節して、ワニスを第1層半導体基板16ごと加熱するとともに、この状態を約1分間保持する。これによりワニスに2回目の熱処理を施す。上記工程2および3の熱処理によって、ワニスに含まれる溶媒は蒸発によって除去され、シリコン窒化膜15上にワニス(塗布膜)は固定(固着)される。
【0129】
本発明者等が行った実験によれば、工程2および3のように、ワニスの温度を段階的に昇温させるという加熱方法を採用することにより、ワニス中のシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜の主要成分であるシクロブタン架橋組成物以外の成分(例えば溶媒)を効率よく略完全に揮発させることができ、塗布膜を効果的に固定できることが明らかになった。
【0130】
工程4
第1層半導体基板16をホットプレート25上に載置した状態のまま、ワニスおよびこのワニスを基に成膜されるシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜が酸化されないように、約1.3×103Pa(10Torr)まで減圧した減圧雰囲気下に配置する。それとともに、第1層半導体基板16が配置される雰囲気を、還元性を有するH2ガスを主成分とするガスで満たす。上記H2ガスは、後述する電子線照射作業を行うときに、Cu配線14の表面をクリーニングし、該表面の酸化を抑制する。
【0131】
この状態において、ワニスの温度が約400℃に保持されるようにホットプレート25の温度を調節して、ワニスを第1層半導体基板16ごと加熱するとともに、図16(c)中の矢印で示すように、図示しない電子線照射装置からワニスに向けて、照射(加速)エネルギーが約10keV、全照射量が約500μC/cm2の電子線を照射する。
【0132】
このとき、加熱状態と電子線照射状態を約5分間保持する。これにより、シリコン窒化膜105の表面上に、言い換えれば第1層半導体基板16の最上層の上にシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜からなる層間絶縁膜17が形成される。
【0133】
以上説明したように、工程2ないし4のうち、それらの最終工程である工程4においてのみワニスに加熱処理を施しつつ、ワニスに向けて電子線を照射する。その理由は、シリコン窒化膜15上に固定されていない状態のワニスに電子線を照射することにより、ワニス中に含まれる溶媒などのシクロブタン架橋組成物以外の成分までもが変質し、この変質した成分により所望外の特性を有する低誘電率の層間絶縁膜が形成されるのを未然に防ぐためである。すなわち、所望の特性を有する低誘電率の層間絶縁膜を得るためである。
【0134】
工程4でワニスに電子線を照射する際において、半導体装置18が実用上適正な動作性能を発揮できるような、良質なシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜からなる層間絶縁膜17を形成できる条件を検討した結果、以下に列挙する条件があきらかになった。
【0135】
まず、ワニスの温度が、200℃以上500℃以下、好ましくは約380℃〜400℃程度の範囲内で略一定の温度、好ましくは400℃となるように熱処理を行うことである。
【0136】
あるいは、照射する電子線の全照射量を、300μC/cm2以上1000μC/cm2で略一定の値、好ましくは500μC/cm2となるように設定して電子線照射を行うことである。
【0137】
あるいは、照射する電子線の加速エネルギーを、1keV〜15keV程度の範囲内で略一定の値、好ましくは10keVとなるように設定して電子線照射を行うことである。
【0138】
さらに、この工程は上記塗布膜の過剰な酸化を抑制するため、および酸化されやすい金属配線が露出している場合の配線の酸化を抑制するため、ワニスを塗布された半導体基板を所定の還元性を有するガス中において、所定の範囲内の減圧雰囲気下に配置することである。特に、上記H2ガス中において、6.67Pa(0.05Torr)〜66.7Pa(0.5Torr)で略一定の値、好ましくは13.3Pa(0.1Torr)という減圧値に設定された雰囲気下にワニスを塗布された半導体基板を配置することである。
【0139】
以上の条件により、工程4までが終了した後においてもCu配線14の表面の酸化は認められず、比抵抗も層間絶縁膜17を形成する前と後で3%未満の増加に収まっていた。また、ここまでの工程において、下地絶縁膜12、バリアメタル13、Cu配線14、シリコン窒化膜15、および層間絶縁膜17の剥がれは一切生じなかった。
【0140】
以上説明したように、本実施の形態によれば、加熱処理工程と電子線照射処理工程とを同時に行うことにより、工程1〜4を合計僅か7分程度の短時間で終了することができる。すなわち、従来の技術に係るホットプレートを使った加熱処理のみによる絶縁膜の成膜工程では30分〜1時間程度要していた溶媒の揮発や前駆体の架橋反応が伴う成膜工程を大幅に短縮できる。
【0141】
また、本実施の形態によれば、加熱作業と電子線照射作業とを同時に行うことにより、工程1〜4における膜焼成温度を、例えば前述したように400℃、あるいは高くてもその上限を500℃以下に抑えることができる。すなわち、従来の技術に係るホットプレートを使った加熱処理のみによる絶縁膜の成膜工程おけるBEOL(Back End of Line)工程としては500℃以上の焼成温度を必要としていたので、本実施の形態によれば、膜焼成工程の焼成温度を低温化できる。
【0142】
したがって、本実施形態によれば、加熱作業と電子線照射作業とを同時に行うことにより、層間絶縁膜17や、あるいはCu配線14などへ、酸化やクラック等の過剰な劣化を殆ど与えることなく、層間絶縁膜17を成膜できる。これにより、成膜工程におけるCu配線14におけるCuの粒成長が抑制され、Cu配線14とシリコン窒化膜15との界面における剥がれを抑制することができる。
【0143】
また、ワニスへの電子線の照射を、減圧された還元性ガス雰囲気中で行うことにより、層間絶縁膜17を形成する際のCu配線14の表面の酸化を抑制して、Cu配線14の抵抗値を低い良好な状態に維持できる。還元性を有するガスはH2ガス以外のガスでも使用可能である。一般には、配線(ここではCu配線14)の酸化を防止でき、かつ成膜される膜(ここでは層間絶縁膜17)の品質を劣化させないものであれば使用可能である。
【0144】
本実施の形態によれば、半導体装置18の層間絶縁膜17を短時間で製造できる。その結果、半導体装置18の生産効率は高くなり歩留まりも向上する。
【0145】
また、本実施の形態によれば、層間絶縁膜17として、低誘電率の絶縁膜であるシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜を用いても、その機械的強度特性を損なわず良好な状態に保持できるように短時間で形成できるので、半導体装置18の層間絶縁膜17の比誘電率を低い良好な状態に維持することができる。したがって、半導体装置18の配線容量を低減させて、配線抵抗(R)と線間容量(C)との積、いわゆるRC遅延を小さくできる。これにより、半導体装置18、ひいてはこの半導体装置18を用いた各種半導体デバイスの動作速度を向上できる。
【0146】
さらに、複数の配線層が積層された半導体装置の場合には、第1層半導体基板16上に、前述した方法と同様の方法によって、下地絶縁膜12を介してバリアメタル13、Cu配線14、シリコン窒化膜15、層間絶縁膜17等の各層の形成を繰り返せば良い。これにより、複数の配線層を形成しても、配線抵抗や配線間容量等の電気的性能を劣化させることはない。したがって、処理能力の高い半導体装置、ひいてはこの半導体装置を用いた処理能力の高い各種半導体デバイスを生産できる。
【0147】
(第4の実施の形態)
以下、本発明の第4の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本実施の形態では、第1の実施の形態で説明した膜形成用組成物を用いて層間絶縁膜を形成する際の紫外線照射方法について説明する。そこで、本実施の形態の説明に先立ち、まず本実施の形態で用いた紫外線照射装置について説明する。図17(a)および(b)は第4の実施の形態で用いる紫外線照射装置の概略構成図である。なお、第3の実施の形態と重複する記載は、省略するものとする。
【0148】
図17(a)に示されるように、本実施の形態の紫外線照射装置の反応容器31上部には、紫外線導入部32が少なくとも1つ設置されている。なお、紫外線導入部32は図17(b)に示されるように複数あってもよい。紫外線導入部32は隔壁33により反応容器31と隔離され、紫外線導入部32から発せられた紫外線34は隔壁33を透過して反応容器31内に導入される。
【0149】
紫外線導入部32は、たとえば高圧水銀ランプ、Xeエキシマランプ等、波長が120nm〜400nm、好ましくは242nm以下の紫外線を発生することができ、かつ実用的な時間好ましくは1分間〜15分間において、1000mJ/cm2以上10000mJ/cm2以下のフルエンスで照射することが可能な装置である。ホットプレート35上には塗布膜が形成された半導体基板10が載置され、半導体基板1には紫外線34が所望の条件で照射される。
【0150】
紫外線照射装置は、紫外線源である紫外線導入部32と被照射物(塗布膜が形成された半導体基板10)の間に隔壁33が設けられ、紫外線34は隔壁33を介して被照射物を照射するようになっている。そのため、被照射物から発生するガスの紫外線導入部32への影響は隔壁33によって抑えられる。その結果、均一な紫外線34を被照射物に照射することが可能になり、紫外線照射を併用した焼成後の膜の特性のばらつきを無くすことが可能となる。
【0151】
次に、上記の紫外線照射装置を使用して半導体装置を製造する例について説明する。図18は第4の実施の形態に係る半導体装置の模式的な製造工程図である。
【0152】
まず、第3の実施の形態と同様の工程により第1層半導体基板16を作成するする。
【0153】
次いで、図18に示されるように、シリコン窒化膜15上に、第1の実施の形態で説明した膜形成用組成物を用いて、シクロブタン架橋有機シリコン酸化膜からなる低誘電率の層間絶縁膜17を形成する。上記シクロブタン架橋有機シリコン酸化膜を形成する工程は、第3の実施の形態における工程1ないし4と基本的には同じシーケンスである。第3の実施の形態と異なる点は、第3の実施の形態の工程4においては電子線照射装置からワニスに向けて電子線を照射したが、本実施の形態では電子線の代わりに紫外線を照射する点のみである。
【0154】
エネルギー線照射時の雰囲気、加熱条件等は第3の実施の形態と同様で構わない。紫外線の波長を120nm〜400nm、紫外線の全照射量を1000mJ/cm2以上10000mJ/cm2以下に設定することにより、紫外線の照射雰囲気中の残留酸素分子あるいは被照射体であるワニス中に溶存する酸素分子が、紫外線のエネルギーを吸収して酸素ラジカルやヒドロキシラジカルなどの活性酸素に効率的に変化する。この活性酸素は、ワニス中の有機基(たとえば、シクロブタン架橋組成物が有するアルキル基などの有機基)をシラノール基に変える。このとき、全ての有機基をシラノール基に変えることはなく、有機基が部分的に残存していることになる。その後、シラノール基同士が、脱水反応を起こし、シロキサン結合を形成して架橋する。このようにして有機シリコン酸化膜を形成することができる。また、この紫外線の照射により、有機シリコン酸化膜中に架橋構造を形成することができ、強度向上、界面密着性の向上、濡れ性の向上をも図ることができる。
【0155】
(第5の実施の形態)
以下、本発明の第5の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本実施の形態では、プラズマアシスト化学的気相成長法(プラズマCVD法)を用いてシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜を形成した例について説明する。
【0156】
まず、本実施形態の説明に先立ち、本実施の形態で用いたプラズマCVD装置について説明する。図19は本実施の形態で用いたヘリコン波を用いた高密度プラズマCVD装置の概略構成図である。
【0157】
図19に示されるように、このプラズマCVD装置は、絶縁材料からなる成膜チャンバ51(反応容器)を備えている。成膜チャンバ51の内部には、素子が形成された半導体基板41を載置するための基板支持台52が設けられている。基板支持台52には、内部ヒータである抵抗加熱ヒータ53および冷却剤を循環させるための冷却パイプ54が設けられている。また、基板支持台52には高周波電源55が接続されている。
【0158】
成膜チャンバ51の下部には排気装置56が設けられており、これにより、成膜チャンバ51の内部の圧力を好適に保持できるようになっている。成膜チャンバ51の上部には、原料ガスを成膜チャンバ51内に導入するためのノズル57が設けられている。成膜チェンバ51の側壁には高周波コイル58が巻き付けられ、この高周波コイル58には高周波電源59が接続されている。
【0159】
ノズル57には、原料ガスの流量を調整するゲートバルブ60が配管を介して接続されている。なお、ゲートバルブ等、原料ガスの導入部は簡単のため1系統しか図示していないが、原料ガス毎に用意されている。
【0160】
次にこのプラズマCVD装置を用いたシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜の形成方法について説明する。
【0161】
素子が形成された半導体基板41を基板支持台52上に載置し、抵抗加熱ヒータ53により、所定の基板温度(加熱温度)に設定する。基板温度は、予め行なった熱脱離スペクトル(TDS;Thermal Desorption Spectroscopy)測定において、SiO2に取り込まれうる構造水(Si−OH、HOH)の脱水縮合が顕著になる400℃以上(例えば、430℃)に設定する。
【0162】
次に、成膜チャンバ51内に原料ガスとして第1の実施の形態で説明したシクロブタン架橋組成物ガスを50cm3/min、O2ガスを500cm3/min、希釈用のArあるいはN2ガスを500cm3/min、の流量で同時に導入するとともに成膜チャンバ51内の圧力を133Paに保たれるようにしておく。
【0163】
次に、成膜チャンバ51の側壁の高周波コイル58に13.56MHzのRF電力を高周波電源59により印加して放電を開始し、同時に、基板支持台52に350kHzのRFバイアスを高周波電源55により500W印加する。これにより、半導体基板41上にシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜42が成膜される。なお、この成膜の際に、約12〜25eV以上のエネルギーを成膜中のシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜432の表面に与え得るエネルギーを持つ電子あるいはイオン(典型的にはO±、O2±イオン)を照射することが好ましい。このような電子またはイオンを照射することにより、シクロブタン架橋有機シリコン酸化膜42に取り込まれ得るSi−OH、H−OHのO−H結合を切断することができ、膜表面でのSi−OHの分解を促進してSiO2ネットワークを緻密化することができる。
【0164】
(第6の実施の形態)
以下、本発明の第6の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本実施の形態では、第5の実施の形態とは異なるプラズマCVD法を用いてシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜を形成した例について説明する。
【0165】
まず、本実施形態の説明に先立ち、本実施の形態で用いたプラズマCVD装置について説明する。図20は本実施の形態で用いる平行平板型プラズマCVD装置の概略構成図である。
【0166】
図20に示されるように、このプラズマCVD装置は、絶縁材料からなる成膜チャンバ81(反応容器)を備えている。成膜チャンバ81の内部には、素子が形成された半導体基板71を載置するための基板支持台82が設けられている。基板支持台82には、内部ヒータである抵抗加熱ヒータ83および冷却剤を循環させるための冷却パイプ84が設けられている。また、基板支持台82には高周波電源85が接続されている。
【0167】
成膜チャンバ81の側部には排気装置86が設けられており、これにより、成膜チャンバ81の内部を真空排気するとともに成膜チャンバ81内の圧力を好適に保持することができるようになっている。成膜チャンバ81の上部には、原料ガスを成膜チャンバ81内に導入するノズルとしても機能する電極87が設けられている。電極87には、高周波電源88が接続されている。
【0168】
電極87には、原料ガスの流量を調整するゲートバルブ89が配管を介して接続されている。なお、ゲートバルブ等、原料ガスの導入部は簡単のため1系統しか図示していないが、原料ガス毎に用意されている。
【0169】
次にこのプラズマCVD装置を用いたシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜の形成方法について説明する。
【0170】
素子が形成された半導体基板71を基板支持台82上に載置し、抵抗加熱ヒータ83により、所定の基板温度(加熱温度)に設定する。基板温度は、SiO2に取り込まれうる構造水(Si−OH、HOH)の脱水縮合が顕著になる400℃以上(例えば、430℃)に設定する。
【0171】
次に、成膜チャンバ81内に原料ガスとして第1の実施の形態で説明したシクロブタン架橋組成物ガスを50cm3/min、O2ガスを500cm3/min、希釈用のArあるいはN2ガスを500cm3/min、の流量で同時に導入するとともに成膜チャンバ81内の圧力を133Paに保たれるようにしておく。
【0172】
次に、電極87に高周波電源88により13.56MHzのRF電力を1kW印加して放電を開始し、同時に、基板支持台82に350kHzのRFバイアスを高周波電源85により500W印加する。これにより、半導体基板71上にシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜72が成膜される。なお、この成膜の際に、約12eV以上のエネルギーを成膜中のシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜72の表面に与え得るエネルギーを持つ電子あるいはイオン(典型的にはO±、O2±イオン)を照射することが好ましい。このような電子またはイオンを照射することにより、シクロブタン架橋有機シリコン酸化膜72に取り込まれ得るSi−OH、H−OHのO−H結合を切断することができ、膜表面でのSi−OHの分解を促進してSiO2ネットワークを緻密化することができる。
【0173】
なお、上記第5および第6の実施の形態では、プラズマCVD装置として、ヘリコン波を用いたプラズマCVD装置および平行平板型プラズマCVD装置を用いた場合を例示したが、他のCVD装置を用いても良い。例えば、マイクロ波放電やマグネトロン放電など1×1011イオン/cm3以上の高密度プラズマを形成できるCVD装置、例えば、サイクロトロン共鳴を利用したプラズマCVD装置、誘導電流を用いたプラズマCVD装置、ダイポールリングマグネトロンプラズマCVD装置またはマグネトロン平行平板CVD装置などを用いても、絶縁膜形成時の条件を制御することにより、第5および第6の実施の形態と同様のシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜を形成できる。
【0174】
上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題を解決できる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々変形して実施できる。
【実施例】
【0175】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中の%は、特記しない限り、質量%であることを示している。
【0176】
本実施例においては、シクロブタン架橋組成物を用いて有機シリコン酸化膜を形成した場合の膜の比誘電率、ヤング率、クラック耐性、およびO2プラズマ処理耐性を評価する。なお、膜は、シクロブタン架橋組成物のみを使用したもののみならず、比較用組成物であるエチレン架橋組成物を加え、シクロブタン架橋組成物の組成比を変えたもの、エチレン架橋組成物のみを使用したものを作製する。
【0177】
(合成方法)
シクロブタン架橋組成物
下記式(A)の1,2−ビス(トリエトキシシリル)アセチレンに対し、1.2モル当量のジルコノセンジエチルを混合し室温で1時間攪拌し、次いで1.2モル当量のヨウ素を混合し0℃で2時間攪拌し、最後に1.2モル当量の塩化銅(I)を混合し室温で6時間攪拌し順次反応させた。次いで、反応液をろ過して塩を除いた後、減圧濃縮し、アルミナカラムで精製して置換位置異性体の混合物として、1,2−ビス(トリエトキシシリル)シクロブテンを収率6割で得る。塩化銅(I)を反応させる際は、0.1モル当量を混合し室温で24時間攪拌した場合、あるいは50℃で6時間攪拌した場合においても、同等の収率でビス(トリエトキシシリル)シクロブテンを得た。引き続き、水素付加反応を行い、1,2−ビス(トリエトキシシリル)シクロブタン(I−1)を得る。
【化15】
【0178】
エチレン架橋組成物
下記式(B)のビス(モノメチル・ジメトキシ)シロキサンエタンをプロピレングリコールモノプロピルエーテル7mlに溶解させ、0.4%硝酸水溶液200mgを加えて、12時間攪拌した後、液質量が6gになるまで減圧濃縮し、比較用組成物であるエチレン架橋組成物(B―1)を得る。
【化16】
【0179】
(膜作製方法)
シクロブタン架橋組成物(I−1)および/またはエチレン架橋組成物(B−1)をプロピレングリコールモノエチルエーテルに溶解して薬液を調整する。得られた薬液をスピンコート法で300mmシリコンウエハ上に塗布後、ホットプレート上において80℃で1分間、200℃で1分間、基板を乾燥し、さらに酸素濃度500ppm以下の乾燥窒素雰囲気のクリーンオーブン中で380℃で20分間加熱することにより、有機シリコン酸化膜を作製する。
【0180】
(評価方法)
上記により作製された有機シリコン酸化膜の比誘電率、ヤング率、クラック耐性、およびO2プラズマ処理耐性を評価する。比誘電率は、MISキャパシタを作成し、膜厚と容量−電圧特性とを測定し決定することができる。またヤング率(膜強度)は、MTSシステムズ社製Nano Indenter XPで測定することができる。測定に必要な膜厚は最低で300nm必要である。これ以上薄い場合、Si基板の影響を受けるので正確な値は求められないおそれがある。
【0181】
クラック耐性は、膜厚の異なる種々の有機シリコン酸化膜を大気中に1日放置した後、斜光法により表面に生じたクラックの有無を調べて、クラックが生じていない最大の膜厚で表わすことができる。また、O2プラズマ耐性は、形成された有機シリコン酸化膜をO2プラズマ雰囲気に1分間曝して表面を変質させた後、1質量%のフッ酸溶液に溶解した膜厚をO2プラズマ処理による変質層厚さとすることができる。変質層厚さは、プラズマ処理条件に大きく依存するが、変質層を薄くできるO2ガスによる反応性イオンエッチング(RIE)を用いることができる。
【0182】
(評価結果)
表2に比誘電率とヤング率の値を示す。
【表2】
【0183】
表2から、上記のシクロブタン架橋組成物(I−1)組成範囲において、比誘電率低減とヤング率の改善が確認できる。したがって、本発明のシクロブタン架橋組成物による有機シリコン酸化膜は、比誘電率が低く、強度が高く、優れた性能を有することが確認できる。
【0184】
また、シクロブタン架橋組成物(I−1)およびエチレン架橋組成物(B−1)の配合比(重量比)と、得られた有機シリコン酸化膜のクラック耐性、プラズマ処理による変質層厚さとの関係を図21のグラフに示す。図21のグラフ中、aはクラック耐性を表わし、bは変質層厚さを表わしている。シクロブタン架橋組成物(I−1)/エチレン架橋組成物(B−1)の配合比(重量比)が、30/70〜100/0の範囲内で、3μmというクラック耐性が得られる。さらに、配合比が40/60〜100/0の範囲内で、変質層の厚さを100Å以下に抑えることができる。なお、層間絶縁膜として作用するための有機シリコン酸化膜においては、クラック耐性は高いほどよく、変質層厚さは100Å以下であることが要求される。エチレン架橋組成物(B−1)のみを用いた場合には、500Åという厚さの変質層が形成される。これは、得られる有機シリコン酸化膜の空隙が大きいために均質でなく、O2プラズマに曝された際に、有機シリコン酸化膜中にOラジカルが侵入してCH3基やCH2基等と反応し、変質層が形成されたものと考えられる。本実施例のように、シクロブタン架橋組成物を用いることによって、空隙が小さいために膜が均質化されてOラジカルの侵入が防止され、変質層を薄くできると考えられる。O2プラズマ処理に代えてN/Hプラズマ処理を適用した場合も、両特性の劣化の程度は抑制されるものの、シクロブタン架橋組成物(I−1)によって同様の改善傾向が得られる。さらに、有機シリコン酸化膜のクラック耐性も、空隙が小さいために外部からの吸湿H2O量が抑制されることで向上していることが確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0185】
【図1】孤立シクロブタン分子の変形ポテンシャルエネルギー変化を、メチレン架橋ほか公知例の架橋のものと比較したグラフである。
【図2】孤立シクロブタン分子の変形ポテンシャルエネルギー変化を、エチレン架橋ほか公知例の架橋のものと比較したグラフである。
【図3】シクロブタン架橋有機シリコン酸化膜におけるオルト位置トランス型架橋の分子モデルである。
【図4】シクロブタン架橋有機シリコン酸化膜におけるパラ位置トランス型架橋の分子モデルである。
【図5】シクロブタン架橋の変形ポテンシャルエネルギー変化を、他の架橋のものと比較したグラフである。
【図6】シクロブタン架橋の変形ポテンシャルエネルギー変化を示したグラフである。
【図7】公知例のシロキサン骨格およびメチレン架橋における結合角変化および二面角変化に対するポテンシャルエネルギー変化を示したグラフである。
【図8】公知例の種々の架橋の変形ポテンシャルエネルギー変化を示したグラフである。
【図9】公知例のエチレン架橋の変形ポテンシャルエネルギー変化を示したグラフである。
【図10】公知例の種々の架橋におけるSi…Si距離を変化させた場合のポテンシャルエネルギー変化を示したグラフである。
【図11】応力腐食割れのメカニズムを示した模式図である。
【図12】種々の架橋構造に起因する空隙サイズと吸湿水分の大きさを比較した図である。
【図13】メチレン架橋とエチレン架橋での空隙サイズの違いによる作用を模式的に示した図である。
【図14】第2の実施の形態に係る半導体装置の模式的な製造工程図である。
【図15】第3の実施の形態で用いる電子線照射装置の概略構成図である。
【図16】第3の実施の形態に係る半導体装置の模式的な製造工程図である。
【図17】第4の実施の形態で用いる紫外線照射装置の概略構成図である。
【図18】第4の実施の形態に係る半導体装置の模式的な製造工程図である。
【図19】第5の実施の形態で用いるヘリコン波を用いた高密度プラズマCVD装置の概略構成図である。
【図20】第6の実施の形態で用いる平行平板型プラズマCVD装置の概略構成図である。
【図21】シクロブタン架橋組成物(I−1)およびエチレン架橋組成物(B−1)の配合比と、有機シリコン酸化膜のクラック耐性、プラズマ処理による変質層厚さとの関係を示したグラフである。
【符号の説明】
【0186】
1、10、11…半導体基板、3、17…層間絶縁膜。
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜形成用組成物、絶縁膜、半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体素子などにおける層間絶縁膜として、化学的気相成長(CVD)法などの真空プロセスで形成されたシリカ(SiO2)膜が多用されている。しかし、無機材料の膜の中で最も低い比誘電率を示すCVD−SiO2膜でも、比誘電率は約4程度である。また、低誘電率CVD膜として検討されていたSiOF膜の比誘電率は約3.3〜3.5であるが、この膜は吸湿性が高く、使用しているうちに比誘電率が上昇するという問題があった。
【0003】
近年、より均一な層間絶縁膜を形成することを目的として、SOG(Spin On Glass)膜と呼ばれるテトラアルコキシシランの加水分解脱水縮合生成物を主成分とする塗布型の絶縁膜も使用されつつある。
【0004】
また、半導体素子などの高集積化に伴い、有機SOGと呼ばれるポリオルガノシロキサンを主成分とする低誘電率の層間絶縁膜が開発されている。特に、MSQと呼ばれるポリメチルシルセスキオサン(Si8O12のサイコロ状シリカ同士が酸素によって架橋され、架橋の一部がメチル基に置換されている)を主成分とする低誘電率の層間絶縁膜も開発されている。
【0005】
このような有機シリコン酸化膜の構造上の特徴は2つある。1つは、架橋の一部がSi−CH3等の炭化水素終端に変化して架橋構造が途切れていることである。もう1つは、シリカにおけるSi−O−Si架橋構造の一部がSi−CH2−SiやSi−CH2−CH2−Si等の炭化水素架橋構造に置換されていることである。架橋構造が途切れることにより、絶縁膜中には架橋のない空隙、すなわち比誘電率1の空間、が形成されることになり、膜全体としての比誘電率は低減される。また、炭化水素架橋構造の割合が増えることによっても絶縁膜中の架橋のない空隙は増えていく。
【0006】
しかし、架橋のない空隙(空孔)が増えることは、半導体素子などの製造工程において外界から種々の物質、特に水分やエッチング用ガス、が吸収・保持されうるスペースが発生するという問題をもたらす。
【0007】
かかる状況下、絶縁性、耐熱性、耐久性に優れた絶縁膜材料として、オルガノポリシロキサンに高沸点溶剤や熱分解性化合物を添加して空孔を形成し、比誘電率を下げる方法が知られている。
【0008】
しかしながら、上記のような多孔質膜では、多孔質化することにより比誘電率が低下すると同時に機械的強度が低下してしまうこと、吸湿による比誘電率増加が起こることなどが問題になっていた。また、互いに連結した空孔が形成されるため、配線に用いられた銅が、絶縁膜中に拡散することなどが問題となっていた。つまり、比誘電率低減に有効な空孔ではあるが、個々の空孔容積は小さくかつ連結していないことが求められている。
【0009】
しかしながら、以上に示した有機シリコン酸化膜は、特に上層の層間絶縁膜のような厚膜(〜1μm厚)になると、膜自身のストレスによりクラックが発生したり、CMP(化学的機械的研磨)耐性が弱くなったりする問題がある。このクラックの発生と進行は、膜中に吸湿で取り込まれる水分によって加速されることが確認されている(応力腐食割れ)。しかしながら低誘電率絶縁膜形成後のすべての製造工程環境において外界の水分量を低く抑えるための管理を安価に行うことは非常に困難であるという問題があった。
【0010】
これらに鑑みて、低誘電率化と機械的強度向上を目的として、直鎖アルキル基でSi原子を架橋した化合物を用いて絶縁膜を製造する技術も開発されているが、これらの技術では、比誘電率、膜強度ならびに耐吸湿性への要求達成は不十分であった。
【0011】
また、芳香族等の脂環構造によって架橋した化合物を用いた有機シリコン酸化膜を用いる技術、あるいは架橋構造の一部に芳香族等の脂環構造を用いた有機シリコン酸化膜を用いる技術も開発されており(例えば特許文献1参照)、さらには架橋構造の一部にジシラシクロブタン構造(Si(−C−)2Si)を用いる技術も開発されているが(例えば特許文献2参照)、これらの技術であってもやはり、比誘電率、膜強度ならびに耐吸湿性への要求達成は不十分であった。
【0012】
これらの技術においては、Si…Si間の架橋構造部分に含まれる炭素数は、直鎖の場合には1ないし50個、環状の場合には5ないし40個(好ましくは5ないし13個)、と開示されている。このような炭素数の規定は、主に低誘電率化を目的としている。なぜなら、シリカ(SiO2)のシロキサン骨格に起因する比誘電率のほぼ2/3を担うのは酸素(酸素イオンの分極)であり、しかも酸素はSi間を架橋することにより膜密度をほぼSiO2結晶の多形と同程度に保持する作用をもっている。炭素(炭化水素)による架橋には、このような酸素を炭素で置換することにより、膜密度を減少させ、膜の分極率(電子分極率とイオン分極率の両方)を低下させる効果がある。
【0013】
しかしながら、炭素数1ないし50個程度の範囲から好適な炭素数、より詳しくはこれらの炭素原子の結合形態(すなわち架橋構造)を選択するための正当な理由に基づいた材料設計指針とそれによる材料限定は開示されていない。
【0014】
この点に関しては非特許文献1および2において報告がある。これらの文献では、直鎖アルキル基の炭素数1ないし4のポリメチレン基架橋、すなわちCH2架橋(メチレン架橋)、CH2CH2架橋(エチレン架橋)、CH2CH2CH2架橋(ノルマルプロピレン架橋)、CH2CH2CH2CH2架橋(ノルマルブタン架橋)の4つの場合について、架橋構造部分に掛かる外力に対する変形ポテンシャルの違いを計算シミュレーションによって調べている。その結果、比誘電率はCH2架橋数が多いほど低誘電率となるが、機械的強度(ヤング率)はCH2架橋が短いほど高い(硬い)ことを明らかにしている。その結果、CH2架橋数に対して両特性が相反することを理由に、CH2CH2架橋(エチレン架橋)が好適であるとしている。(CH2)n架橋が短いほど機械的強度が高い理由としては、架橋の両端のSiの位置関係を束縛する効果が高いとしている。つまり、(CH2)n架橋が短いほど外力に依存した変形に対して内部エネルギーが急激に増大する、すなわち硬いことを示した。しかしながら、非特許文献1および2で与えられる機械的強度改善に対する材料設計指針は膜の骨格強度向上(ヤング率の向上)という一方向の見方のみであった。
【0015】
以上をまとめると、従来の炭化水素基R(ポリメチレン基やフェニレン基等)による架橋は、Si−R−Si骨格を硬く(主鎖方向への引張り強度、主鎖垂直方向への曲げ強度、あるいは主鎖の周りのねじれ強度を増大)させることが主眼であった。その指導原理はSi−C−Si架橋がSi−O−Si架橋よりも硬いため、Si−(C)n−Siで炭素数を増やすか、またはベンゼン環の平面構造を利用する、というものであった。C架橋はCのsp3あるいはsp2で主鎖垂直方向への曲げあるいは主鎖の周りのねじれに対して固定され易い。一方、O架橋ではSi−O結合そのものは強い結合ではあるが、Oが2配位であるためにO周りの回転やねじれ変形の自由度が高くなり“しなやか”に見えるのである。
【0016】
さらに、既述したように炭化水素架橋構造の割合が増えると架橋のない空隙(空孔)が増え、耐吸湿性が劣化するという問題も生じる。加えて、炭化水素を多く含んだ有機シリコン酸化膜はある意味でレジスト材料にも類似しており、炭素含有量が増えるほど、レジスト加工やレジスト除去のための反応性イオンエッチング(RIE)やレジスト灰化処理(アッシング)に対する耐性も劣化するという問題もある。
【0017】
このため、従来のような酸素ガスを含んだRIEやアッシングに代わって、NやHを含んだガスを用いたプラズマ処理の適用も検討されている。この場合には、炭素はHCN等として除去される。このようなガスを用いた場合でも、炭素含有量が増えるほどプラズマ処理耐性が劣化することには変わりない。
【特許文献1】特開2006−241304号公報
【特許文献2】特開2006−111738号公報
【非特許文献1】IEEE International Interconnect Technology Conference,pp.122-124, 2006.
【非特許文献2】Jpn. J. Appl. Phys., Vol.46, No.9A,pp.5970-5974, 2007.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものである。すなわち、誘電特性および機械的強度に優れた有機シリコン酸化膜を形成することができる膜形成用組成物、およびこの膜形成用組成物を用いて形成された有機シリコン酸化膜からなる絶縁膜、この有機シリコン酸化膜を備えた半導体装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の一の態様によれば、下記一般式(I)で表される化合物またはその加水分解脱水縮合物を含むことを特徴とする、膜形成用組成物が提供される。
X13−mR1mSiR2SiR3nX23−n (I)
(式中、R1およびR3は水素原子または1価の置換基であり、R2は炭素数4の脂環構造を含む2価の基あるいはその誘導体であり、X1およびX2は加水分解性基であり、mおよびnは0〜2の整数であり、R2の2価の基は、シクロブタン、シクロフロロブタン(−C4H6−XFX−)、シクロポリメチルブタン(−C4H6−X(CH3)X−)、シクロポリメチルフロロブタン(−C4H6−Y−Z(FY(CH3)Z)−)、シクロクロロブタン(−C4H6−XClX−)、シクロポリメチルクロロブタン(−C4H6−Y−Z(ClY(CH3)Z)−)である(式中、Xは1〜6の整数であり、YおよびZは1〜5の整数であり、かつ2≦Y+Z≦6の関係を満たす)。
【0020】
本発明の他の態様によれば、前記膜形成用組成物を用いて製造された単独組成または混合組成の有機シリコン酸化膜からなることを特徴とする、絶縁膜が提供される。
【0021】
本発明の他の態様によれば、前記有機シリコン酸化膜を備えることを特徴とする、半導体装置が提供される。
【0022】
本発明の他の態様によれば、前記有機シリコン酸化膜を備えた半導体装置の製造方法であって、前記有機シリコン酸化膜の形成は、前記膜形成用組成物を用いて、塗布法またはプラズマ化学的気相成長法により膜を形成する工程と、形成された前記膜に酸化性雰囲気で熱処理を施す工程と、前記熱処理が施された膜に非酸化性雰囲気で熱処理を施す工程とを含む工程により行われることを特徴とする、半導体装置の製造方法が提供される。
【0023】
本発明の他の態様によれば、前記有機シリコン酸化膜を備えた半導体装置の製造方法であって、前記有機シリコン酸化膜の形成は、前記膜形成用組成物を用いて、塗布法またはプラズマ化学的気相成長法により膜を形成する工程と、形成された前記膜に減圧下において熱処理を施しつつ、形成された前記膜にエネルギー線を照射する工程とを含む工程により行われることを特徴とする、半導体装置の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明の一の態様によれば、誘電特性および機械的強度に優れた有機シリコン酸化膜を形成することができる膜形成用組成物を提供することができる。また、本発明の他の態様によれば、誘電特性および機械的強度に優れた絶縁膜を提供することができる。本発明の他の態様によれば、誘電特性および機械的強度に優れた有機シリコン酸化膜を備えた半導体装置およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の第1の実施の形態について説明する。本実施の形態の膜形成用組成物は、下記一般式(I)で表されるシラン化合物またはその加水分解脱水縮合物を含む。
【0026】
上記の「加水分解脱水縮合物」とは、化合物が加水分解の後に発生したシラノール基の脱水縮合生成物をいう。ただし、脱水縮合生成物において、前記シラノール基がすべて脱水縮合している必要はなく、一部が脱水縮合したもの、脱水縮合の程度が異なっているものの混合物などを包含した概念である。しかしながら、比誘電率低減の観点および耐吸湿性ならびに吸湿による応力腐食割れの観点からは、前記残留シラノール基は少ないほど好ましい。
【0027】
X13−mR1mSiR2SiR3nX23−n (I)
式中、R1およびR3は水素原子または1価の置換基であり、非加水分解性基である。R1およびR3は、水素原子、アルキル基またはアリール基が好ましく、水素原子、メチル基またはフェニル基がより好ましく、メチル基が最も好ましい。
【0028】
R2は炭素数4の脂環構造を含む2価の基あるいはその誘導体である。脂環の例としては、シクロブタン(−C4H6−)、シクロフロロブタン(−C4H6−XFX−)、シクロポリメチルブタン(−C4H6−X(CH3)X−)、シクロポリメチルフロロブタン(−C4H6−Y−Z(FY(CH3)Z)−)、シクロクロロブタン(−C4H6−XClX−)、シクロポリメチルクロロブタン(−C4H6−Y−Z(ClY(CH3)Z)−)が挙げられる。ここで、式中、Xは1〜6の整数であり、YおよびZは1〜5の整数であり、かつ2≦Y+Z≦6の関係を満たすものである。
【0029】
これらの脂環は、置換基を有していてもよく、その場合の置換基の例としては、アルキル基、フッ素原子などが挙げられ、置換基の炭素数は一般的には10以下である。
【0030】
R2としての脂環構造を含む2価の基は、脂環構造自体の2価の基であっても、脂環構造とともに、アルキレン基など他の2価の基を含有してもよい。R2としての脂環構造を含む2価の基の炭素数は、5〜20が好ましく、特に5〜8がより好ましい。なお、この炭素数は、脂環構造を構成する炭素数4を含んだ数である。ただし、脂環構造部分そのものが、例えばシクロブテン(−C4H4−)にように不飽和脂環になると、主骨格(−C4−)部分において、飽和脂環に特有のゼロでない二面角が、置換基にも依存するがほぼゼロになってしまうので、脂環構造部分そのものが不飽和脂環構造のものよりも飽和脂環構造のものの方が好ましい。
【0031】
X1およびX2は加水分解性基を表すが、好ましくはアルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基またはハロゲン原子であり、メトキシ基、エトキシ基またはフッ素原子、塩素原子がより好ましい。比誘電率の観点からは塩素原子よりもフッ素原子がより好ましい。臭素より重いハロゲン元素は、合成の観点からは好ましいものの、分極率を増大させるため比誘電率の観点から排除される。
【0032】
mおよびnは0〜2の整数であるが、m=n=0である場合、絶縁膜形成時に未縮合のシラノール基が残存しやすいので、m+n≧1であることが好ましく、m=n=1であることが最も好ましい。また、架橋基R2の個数とSiの個数の比であるR2/Siは、0.5以上2以下であることが好ましい。これは、1個のSi原子あたりの結合手4つのうち、少なくとも1つには架橋基R2が結合していることが好ましいためである。この条件は、架橋基が2個のSiを架橋することを考慮すると、R2に注目した示性式で表した場合、Si(R21/2)x(R´1/2)4−x、4≧x≧1と書ける。
【0033】
以下に、一般式(I)で表わされるシラン化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【0034】
本実施の形態の膜形成用組成物は、一般式(I)で表されるシラン化合物または加水分解物に加えて、下記一般式(II)で表されるシラン化合物またはその加水分解物を含んでいても良い。
【0035】
R4pSiX34−p (II)
式中、R4は水素原子または置換基であり、非加水分解性基であるが、メチル基、フェニル基またはシクロアルキル基が好ましい。
【0036】
X3は加水分解性基を表す。X3としては、アルコキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン原子、アシル基などを挙げることができる。塗布液安定性等の観点から、X3としてはアルコキシ基が好ましい。ここで、アルコキシキ基としては、好ましくは炭素数1〜5の低級アルコキシ基であり、これらのアルコキシ基は鎖状でも、分岐していてもよく、さらにアルコキシ基内の水素原子がフッ素原子などに置換されていてもよい。X3として最も好ましいのはメトキシ基およびエトキシ基である。pは0〜3の整数であるが、膜強度の観点から0〜2が好ましい。
【0037】
一般式(II)で表されるシラン化合物の具体例としては、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、テトラエトキシシランが挙げられる。
【0038】
一般式(II)で表されるシラン化合物の添加量は、一般式(I)で表されるシラン化合物に対して、1〜1000モル%が好ましく、5〜500モル%がより好ましい。
【0039】
一般式(I)または(II)で表されるシラン化合物を加水分解、脱水縮合させる際には、化合物1モル当たり0.5〜150モルの水を用いることが好ましく、1〜100モルの水を加えることが特に好ましい。添加する水の量が0.5モル未満であると膜の耐クラック性が劣る場合があり、150モルを越えると加水分解および脱水縮合反応中のポリマーの析出やゲル化が生じる場合があるからである。
【0040】
本実施の形態の膜形成用組成物は、さらに溶媒を含んでいてもよい。その際に使用できる溶媒としては、エチレンジクロライド、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2−ヘプタノン、メチルイソブチルケトン、γ−ブチロラクトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、ジメチルイミダゾリジノン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、2−メトキシエチルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、イソプロパノール、エチレンカーボネート、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸プロピル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等が好ましく、これらの溶剤を単独あるいは混合して使用する。
上記の中でも、好ましい溶媒としてはプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、2−ヘプタノン、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレンカーボネート、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、メチルイソブチルケトン、キシレン、メシチレン、ジイソプロピルベンゼンを挙げることができる。
【0041】
次に、この膜形成用組成物を用いた低誘電率絶縁膜の形成方法について説明する。ここで、「低誘電率絶縁膜」とは、ULSIの高集積化に伴う多層配線に起因する配線遅延を防止するために配線間に埋め込まれる絶縁膜を言い、具体的には、比誘電率が2.6以下である膜を言う。本実施の形態では、比誘電率が1.0以上2.6以下の有機シリコン酸化膜を得ることができる。なお、膜形成用組成物に熱分解性化合物等を添加すること等によって多孔質化することにより、さらに比誘電率を低下させることも可能である。
【0042】
まず、膜形成用組成物を用意する。具体的には、一般式(I)で表わされるシラン化合物および必要に応じて一般式(II)で表わされるシラン化合物を用意する。一般式(I)で表わされるシラン化合物は以下の方法により得ることができる。
【0043】
一般式(I)で表わされるシラン化合物は、例えばシクロアルキルジエン化合物とハイドライドシラン化合物によるハイドロシリレーション反応や、ジハロゲン化シクロアルカンから合成したグリニヤール試薬とアルコキシシラン化合物との反応などを用いて合成することができる。
【0044】
また、3個の炭素原子間を二重結合で直鎖連結したアレン(C=C=C)を熱的反応により二量化してジメチレンシクロブタンを得る方法は古くから知られているが、この合成方法は反応条件が厳しい上、生成物が様々な異性体の混合物となるため、合成上の有用性は低かった。この方法に限らず、炭素少員環構造の中では4員環構造は最も作りにくく、天然物質においてもテルペン類と呼ばれる化合物等わずかしか存在しない。
【0045】
これに関して、1つの方法として、いわゆるメタラサイクルと呼ばれる前周期遷移金属錯体(金属キレート化合物)を触媒に用いた選択的な炭素骨格変換反応を用いる合成法が開発されている。例えば、特許第3718709号公報においては、下記一般式(III)で表される新規なシクロブタン誘導体を緩和な条件下において高収率で合成出来る方法が開示されている。すなわち、前周期遷移金属錯体触媒存在下で、室温あるいはそれ以下の温度において、極めて短時間(好ましくは30分〜3時間)攪拌するだけで容易に合成出来ることが開示されている。
【0046】
【化7】
式中、Rは炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基(例えば、C6F13)、炭素数6〜20のパーフルオロアリール基(例えば、C6F5)、CON(CH3)C6H5、COC2H5、COC6H5、またはSO2C6H5を表す。2個あるRは同一でも異なっていてもよい。
【0047】
一般式(III)で表される新規なシクロブタン誘導体は、下記一般式(IV)で表されるアレン誘導体を二量化することによって合成することが可能である。
【0048】
【化8】
式中、Rは炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基(例えば、C6F13)、炭素数6〜20のパーフルオロアリール基(例えば、C6F5)、CON(CH3)C6H5、COC2H5、COC6H5、またはSO2C6H5を表す。
【0049】
また、J.Org.Chem.,Vol.64,pp8706−8708.,1999.においては、ジアリールアルキン(R−C≡C−R)に対し、ジルコノセンジエチル触媒とヨウ素および塩化銅(I)を順次反応させることにより二量化し、下記一般式(V)で表されるジアリールシクロブテンを合成する方法が開示されている。2個あるRは同一でも異なっていてもよい。この公知の合成法の段階では不飽和脂環が生成される。この不飽和脂環ジアリールシクロブテンの環構造部分は平面構造になっているため、後述する本発明の効果を有さない。そのため、この公知の合成法に引き続いて、水素付加反応あるいはハロゲン化水素付加反応等を適用して飽和脂環構造を得る必要がある。
【化9】
【0050】
一般式(I)または(II)で表される本発明の膜形成用組成物であるシラン化合物を製造するために加水分解、脱水縮合させる際には、塩基触媒、金属キレート化合物、酸触媒を使用することが好ましい。
【0051】
塩基触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、ピリジン、ピロール、ピペラジン、ピロリジン、ピペリジン、ピコリン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルモノエタノールアミン、モノメチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジアザビシクロオクタン、ジアザビシクロノナン、ジアザビシクロウンデセン、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラエチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラブチルアンモニウムハイドロオキサイド、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ペンチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、N,N−ジメチルアミン、N,N−ジエチルアミン、N,N−ジプロピルアミン、N,N−ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、シクロヘキシルアミン、トリメチルイミジン、1−アミノ−3−メチルブタン、ジメチルグリシン、3−アミノ−3−メチルアミンなどを挙げることができ、アミンあるいはアミン塩が好ましく、有機アミンあるいは有機アミン塩が特に好ましく、アルキルアミン、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイドが最も好ましい。これらのアルカリ触媒は1種あるいは2種以上を同時に使用しても良い。
【0052】
金属キレート化合物としては、例えば、ビス(シクロオクタジエン)・モノ(トリフェニルホスフィノ)ニッケル、ビス(トリフェニルホスフィノ)・ジクロロニッケル、ビス(トリフェニルホスフィノ)・ジブロモニッケル、[1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン]・ジクロロニッケル、[1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン]・ジブロモニッケル、[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]・ジクロロニッケル、[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]・ジブロモニッケル、などのニッケルキレート化合物;トリエトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−n−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−i−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−n−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−sec−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−t−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、ジエトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−n−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−n−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−sec−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−t−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、モノエトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−n−プロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−i−プロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−n−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−sec−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−t−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、テトラキス(アセチルアセトナート)チタン、トリエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−n−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−i−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−n−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−sec−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−t−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、ジエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−n−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−i−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−sec−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−t−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、モノエトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−n−プロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−i−プロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−n−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−sec−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−t−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、テトラキス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ(アセチルアセトナート)トリス(エチルアセトアセテート)チタン、ビス(アセチルアセトナート)ビス(エチルアセトアセテート)チタン、トリス(アセチルアセトナート)モノ(エチルアセトアセテート)チタンなどのチタンキレート化合物;トリエトキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリ−n−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリ−i−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリ−n−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリ−sec−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリ−t−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジエトキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジ−n−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジ−n−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジ−sec−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジ−t−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノエトキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノ−n−プロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノ−i−プロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノ−n−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノ−sec−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノ−t−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、テトラキス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリ−n−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリ−i−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリ−n−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリ−sec−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリ−t−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジ−n−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジ−sec−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジ−t−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノエトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ−n−プロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ−i−プロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ−n−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ−sec−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ−t−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ(アセチルアセトナート)トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ビス(アセチルアセトナート)ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリス(アセチルアセトナート)モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウムなどのジルコニウムキレート化合物;トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウムなどのアルミニウムキレート化合物などを挙げることができ、好ましくは前周期遷移金属錯体(金属キレート化合物)である、ニッケル錯体触媒、チタン錯体触媒、ジルコニウム錯体触媒が好適で、いわゆるジルコノセンジエチル等のジルコニウム錯体触媒がより好適である。これらの金属キレート化合物は、1種あるいは2種以上を同時に使用しても良い。
【0053】
酸触媒としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸、リン酸、ホウ酸、シュウ酸などの無機酸;酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、シュウ酸、マレイン酸、メチルマロン酸、アジピン酸、セバシン酸、没食子酸、酪酸、メリット酸、アラキドン酸、シキミ酸、2−エチルヘキサン酸、オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレイン酸、サリチル酸、安息香酸、p−アミノ安息香酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、ギ酸、マロン酸、スルホン酸、フタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、コハク酸、フマル酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、リンゴ酸、グルタル酸の加水分解物、無水マレイン酸の加水分解物、無水フタル酸の加水分解物などの有機酸を挙げることができ、有機カルボン酸をより好ましい例として挙げることができる。これらの酸触媒は、1種あるいは2種以上を同時に使用してもよい。
【0054】
上記触媒の使用量は、一般式(I)または(II)で表される化合物などのシラン化合物1モルに対して、通常、0.00001〜10モル、好ましくは0.00005〜5モルである。触媒の使用量が上記範囲内であれば、反応中のポリマーの析出やゲル化の恐れが少ない。また、本発明において、シラン化合物を加水分解、脱水縮合するときの温度は通常0〜100℃、好ましくは10〜90℃である。時間は通常5分〜40時間、好ましくは10分〜20時間である。
【0055】
また、上記のメタラサイクルと呼ばれる前周期遷移金属錯体触媒を用いた炭素骨格変換反応を用いる合成法とは別に、特開2007−119488号公報においては、エノールエーテル化合物もしくは2-シロキシジエン化合物と1位にカルボニル基が置換したアルケンもしくはアルキン化合物にブレンステッド酸を、無溶媒または非水溶媒中で作用させることにより、多置換シクロブタン化合物、多置換シクロブテン化合物を効率的、立体選択的且つエコロジカルに合成できることが開示されている。
【0056】
多置換シクロブタン化合物を合成する場合を例示すると、下記一般式(VI)で表されるエノールエーテル化合物と、下記一般式(VII)で表わされるアルケン化合物とを、非水溶媒で、ブレンステッド酸触媒を作用させて反応させることにより、下記一般式(VIII)で表わされる多置換シクロブタン化合物を合成することができる。
【0057】
【化10】
式中、R1は置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基またはシリル基を表し、R2、R3及びR4はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよいシリル基、または置換基を有していてもよいアルキルアルコキシ基を表し、同一でも異なってもよく、R1〜R4の置換基は相互に結合してもよい。
【0058】
【化11】
式中、Xはエステルカルボニル基、アミドカルボニル基、ケトカルボニル基、アルデヒド基、パーフルオロアルキル基(例えば、C6F13)、パーフルオロアリール基(例えば、C6F5)、CON(CH3)C6H5、COC2H5、COC6H5、またはSO2C6H5を表し、R5、R6およびR7はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいシリル基、または置換基を有していてもよい複素環基を表し、同一でも異なってもよく、XおよびR5〜R7の置換基は相互に結合してもよい。
【0059】
【化12】
式中、XおよびR1〜R7の置換基は上記一般式(VI)および(VII)のものと同様である。
【0060】
なお、上記製造方法においては、4員環上の置換基Xと酸素置換基がトランスの関係にある下記一般式(IX)で示される立体異性体を選択的に合成することができる。
【0061】
【化13】
式中、XおよびR1〜R7の置換基は上記一般式(VI)および(VII)のものと同様である。この場合、原料となるアルケン化合物の置換基Xはエステルカルボニル基であることが望ましく、例えばアルコキシカルボニル基、ポリハロアルコキシカルボニル基が挙げられる。また、原料となるエノールエーテル化合物はシリルエノールエーテルであることが望ましく、例えばトリイソプロピルシリル基やtert−ブチルジメチルシリル基が置換したエノールエーテルが挙げられる。
【0062】
本実施の形態では、R1〜R7のうち、4員環の相異なる2つの炭素に結合する置換基としてシリル基を選択し、Xとしてはパーフルオロアルキル基(例えば、C6F13)、パーフルオロアリール基(例えば、C6F5)、CON(CH 3)C6H5、COC2H5、COC6H5、またはSO2C6H5を選択するのが好適である。
【0063】
ブレンステッド酸としては、トリフルオロメタンスルホン酸イミド、ペンタフルオロベンゼンスルホン酸イミド、ビス(ペンタフルオロエチル)リン酸、もしくは下記一般式(X)で表されるポリフルオロアルキルスルホン酸基の置換したような強い酸が望ましい。
【0064】
【化14】
式中、Aは化学的に許容される未置換もしくは複数の置換基を有する窒素原子、酸素原子、炭素原子、硫黄原子又はリン原子を表し、Rfは2個以上のフッ素原子の置換したアルキル基、アリール基または複素環基を表す。
【0065】
具体的には、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)イミド、ビス(ペンタフルオロエタンスルホン酸)イミド、ビス(ペンタフルオロベンゼンスルホン酸)イミド、N-ペンタフルオロベンゼンスルホニル-N-トリフルオロメタンスルホン酸イミド、N-トリフルオロメタンスルホニル-N-トリフルオロメタンスルホン酸イミド、トリフルオロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタン、トリス(ペンタフルオロベンゼンスルホニル)メタン、ビス(ペンタフルオロベンゼンスルホニル)トルフルオロメタンスルホニルメタンなどが挙げられる。
【0066】
本実施の形態においてもこれらの合成方法を適宜適用し、炭素数4の脂環構造に結合するRとしてSiを含有した官能基を用いることにより、Si−Si間を炭素数4の脂環構造を含む2価の基あるいはその誘導体で架橋した膜形成用組成物を合成することが可能である。
【0067】
このようにして得られる膜形成用組成物の全固形分濃度は、好ましくは、2〜30質量%であり、塗布形成あるいはCVD形成等の使用目的に応じて適宜調整される。膜形成組成物の全固形分濃度が2〜30質量%である理由は次の通りである。シリコンウエハ、SiO2ウエハ、SiNウエハなどの基材に塗布形成する際には、塗布膜の膜厚が適当な範囲となり、塗布液の保存安定性もより優れるものとなる。また、非酸化性希釈ガスや酸化性ガスとともに膜形成用組成物を基材上に供給して、熱CVD法やプラズマCVD法などにより、基材上に堆積させることにより膜を形成することができる。この場合においても、シラン化合物を上記溶媒で希釈安定化させることにより液体原料として準備することができるので、加熱蒸発あるいは担体ガスによるバブリング蒸発等によりCVD原料ガスとして供給することができる。
【0068】
以上に開示した合成方法で合成された本発明の膜形成用組成物を用意した後、例えば塗布法またはCVD法等により低誘電率絶縁膜を形成することができる。
【0069】
塗布法
塗布法により膜を形成するには、まず、膜形成用組成物を上記溶媒で希釈して、シリコンウエハ等の基材上に塗布する。塗布手段としては、スピンコート、浸漬法、ロールコート法、スプレー法などが用いられる。この際の膜厚は、乾燥後の膜厚として、1回塗りで厚さ0.05〜1.5μm程度、2回塗りでは厚さ0.1〜3μm程度の塗膜を形成することができる。その後、常温で残留溶媒を揮発乾燥するか、ホットプレート、オーブン、ファーネスなどを使用して加熱することによって、残留溶媒の乾燥と架橋反応を進行させることにより、ガラス質または巨大高分子、またはその混合物の膜を形成することができる。
【0070】
この際の加熱雰囲気としては、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、真空下、などで行うことができるが、熱処理温度の最高値が200℃以上600℃以下の条件で加熱処理することが好ましい。絶縁膜の収縮によるストレス発生とクラック発生抑制の観点から、熱処理温度の最高値が300℃以上430℃以下の条件で加熱処理することが特に好ましい。熱処理時間は通常1分〜20時間であるが、15分〜10時間が好ましい。
【0071】
この膜に追加の熱処理、紫外線照射、電子線照射等を施してもよい。なお、紫外線照射および電子線照射に関しては、これらエネルギー線によって直接的に不要な架橋構造の結合を励起し切断し再結合させる必要はない。溶存酸素あるいはOH基等の励起状態、溶剤あるいは溶存酸素あるいはOH基等を励起して生成された酸素原子、あるいはそれらの励起状態と溶存水素原子等との反応によって生成された酸素原子、などの活性酸素によって、不要な架橋構造の結合を酸化・切断し再結合させて所望の架橋構造を形成してもよい。
【0072】
具体的には、膜形成用組成物を、例えばスピンコート法により、基板(通常は金属配線を有する基板)上に塗布し、予備熱処理を行うことにより残留溶媒を揮発乾燥させるとともに、膜形成用組成物に含まれるシロキサンをある程度架橋させ、次いで300℃以上430℃以下の温度で熱処理(アニール)を行うことにより架橋を完結させることにより高強度の低誘電率絶縁膜を形成できる。
【0073】
CVD法
CVD法により膜を形成するには、まず、膜形成用組成物を上記溶媒で希釈安定化させることにより液体原料として準備する。この液体原料を加熱蒸発あるいは担体ガスによるバブリング蒸発等によりCVD原料ガスとして供給し、他の非酸化性希釈ガスや酸化性ガスとともに膜形成用組成物を基材上に供給し堆積させることにより、ガラス質または巨大高分子、またはその混合物である所望の低誘電率絶縁膜を形成することができる。
【0074】
この膜に追加の熱処理、紫外線照射、電子線照射等を施すことにより架橋反応の進行度を最適化すると、ガラス質または巨大高分子またはその混合物を膜に変成することができる。得られる膜は、低誘電率、高強度、低吸湿性、高プラズマ処理耐性の絶縁体を形成することができる。なお、紫外線照射および電子線照射に関しては、これらエネルギー線によって直接的に不要な架橋構造の結合を励起し切断し再結合させる必要はない。溶存酸素あるいはOH基等の励起状態、溶剤あるいは溶存酸素あるいはOH基等を励起して生成された酸素原子、あるいはそれらの励起状態と溶存水素原子等との反応によって生成された酸素原子、などの活性酸素によって、不要な架橋構造の結合を酸化・切断し再結合させて所望の架橋構造を形成してもよい。
【0075】
また、この際の加熱雰囲気としては、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、真空下、などで行うことができるが、熱処理温度の最高値が200℃以上600℃以下の条件で加熱処理することが好ましい。絶縁膜の収縮によるストレス発生とクラック発生抑制の観点から、熱処理温度の最高値が300℃以上430℃以下の条件で加熱処理することが特に好ましい。熱処理時間は通常1分〜20時間であるが、15分〜10時間が好ましいことは、塗布形成の場合と変わらない。
【0076】
このようにして得られる低誘電率絶縁膜は、絶縁性および誘電特性に優れるのみならず、耐吸湿性、耐クラック性、および塗布形成した際の膜厚ならびに膜質の均一性、表面硬度に優れることから、LSI、システムLSI、DRAM、SDRAM、RDRAM、D−RDRAMなどの半導体素子用層間絶縁膜のみならず、半導体素子の表面コート膜などの保護膜、多層配線基板の層間絶縁膜、液晶表示素子用の保護膜や絶縁防止膜などの用途に有用である。特に、半導体素子用層間絶縁膜においては、引っ張り応力の大きく掛かる箇所への適用が好適である。
【0077】
本発明の原理は、従来例の炭化水素基R(ポリメチレン基やフェニレン基等)による架橋との差別化の点において極めて重要であるので、以下で詳細に説明する。
【0078】
従来においては、機械的強度向上にために、Si−R−Si骨格を硬く(主鎖方向への引張り強度、主鎖垂直方向への曲げ強度、あるいは主鎖の周りのねじれ強度を増大)させることが主眼であった。その指導原理はSi−C−Si架橋がSi−O−Si架橋よりも硬いため、Si−(C)n−Siで炭素数を増やすか、ベンゼン環の平面構造を利用するものである。炭素(C)架橋はCのsp3混成軌道あるいはsp2混成軌道によって主鎖垂直方向への曲げあるいは主鎖の周りのねじれに対して固定されやすい。
【0079】
一方、酸素(O)架橋においては、Si−O結合そのものは強い結合ではあるが、Oが2配位であるためにO周りの回転やねじれ変形の自由度が高いため“しなやか”に見えるのである。このしなやかさは、CMP工程等で急激な応力の印加/開放が繰り返される場合の応力の逃げをもたらす。不十分に硬いだけでは応力の変化に耐えられず破壊に至ってしまうが、適度にしなやかであると応力を逃がすことが可能となる。しなやかさのためには炭化水素基による架橋部分は長い方が適する。
【0080】
しかしながら、ポリメチレン基やフェニレン基等のような比較的大きな架橋基を用いて炭化水素架橋構造の割合が増えると、架橋のない空隙(空孔)が増えてしまう。空隙が増えると吸湿性が増大する。吸湿は、引っ張り応力の大きく掛かった箇所において応力腐食割れを誘発し膜の破壊を招く。すなわち、架橋構造に要求される項目として、硬さ、しなやかさ、および空隙形成の抑制、の3点が重要であることは明らかである。この3点を満足する架橋構造として、炭素数4の脂環構造を含む2価の基あるいはその誘導体による架橋構造が最適であることを以下で説明する。
【0081】
図7(a)および(b)は上記した非特許文献1のFig.3で開示されている、Si−Si間がモノメチレン(−CH2−)架橋の場合と酸素架橋の場合における、外部歪みに対するポテンシャルエネルギー変化の計算値を示したグラフである。外部歪みとしては、架橋部分Si−X−Siの結合角あるいはSi−X−Si−Xの二面角(ねじれ角)を採っている。ここでX=CまたはOである。縦軸は計算に用いたモデル分子の量子化学的全エネルギーの変化量である。曲線の曲率が大きいほど(尖っているほど)、同じ外部歪みが掛かった場合に内部エネルギーが上昇(不安定化)することを示しており、すなわち“硬い構造”であることに対応する。この図から、結合角や二面角の変形に対しては、メチレン架橋の方が酸素架橋よりも硬いことがわかる。特に、メチレン架橋では酸素架橋にみられる結合角が180°近くまで押し広げられるような変形に対して特に硬いことがわかる。酸素架橋の場合には、上述の酸素周りの変形自由度の高さから、安定構造では144°近傍であるSi−O−Si結合が、まさに逆方向に折れ曲がるような変形が可能であるため、広角側のポテンシャルエネルギー変化が極めて緩やかになるが、Si−C−Siではそのような変形は非常に起こり難いことを示している。また、二面角(ねじれ角)の変化に対するエネルギー変化(歪みエネルギーの蓄積量)は、結合角変化に対するそれに対して1桁小さい値であり、実際の変形に対しては、その差の影響は小さいこともわかる。非特許文献1およびそれに関連する非特許文献2では、この硬さのみを追求することを目指して最適架橋構造を調べている。
【0082】
しかしながら、この違いを非経験的分子軌道計算より詳細に調べてみることにより、本発明における最適架橋構造の指導原理が初めて明らかになった。図2〜図13を用いてこの指導原理を説明する。なお、非経験的分子軌道計算の手順としては、検討したい架橋構造を含むモデル分子を作成し、B3LYP/6−31G(d’,p’)の計算レベルによって、考慮すべき外部歪みの印加の下で構造最適化を行い、全エネルギーの変化を計算した。結合エネルギー計算の場合を除き、特に断らない限りは簡単のため、注目する架橋部分(Si―R―Si)に連結するSi酸化膜部分は各Siに対して3個の−O−SiH3基で終端したモデル分子を採用した。結合エネルギー計算では第二近接原子の効果が大きいため、種々の終端を行ったモデル分子を採用した。
【0083】
図8は、図7(a)に相当する結合角変化に対するポテンシャルエネルギー変化の計算値を示したグラフである。Si−O−SiとSi−C−Siの結果は、横軸の結合角を最安定構造での結合角からの変化量で示した以外図7(a)と同じである。最安定構造での結合角はグラフの右側に示しておいた。図8にはSi周りの結合角変化(O−Si−O)の場合も示してある。SiとCは一重結合を形成する場合はともにsp3混成軌道を採るので、Si−C−SiとO−Si−Oは同様の傾向を示すことが予想される。計算結果もこれを支持し、O−Si−OはSi−C−Siと同等かむしろやや硬いことが判る。この結果からだけでは、一般の有機シリコン酸化膜のヤング率が10GPaにも満たないのに対して、CVDシリコン酸化膜のヤング率が70GPaにも達することはやや理解しがたい。
【0084】
これを説明するのが、図10および表1である。図10は、結合角変化のような曲げ方向の外力ではなく、結合長変化をももたらす方向の外力を受けてSi…Si距離を変化させた場合のポテンシャルエネルギー変化を示したグラフである。図10中で横軸に垂直な点線群は、図右に示した各架橋構造の矢印で示したX…X(X=SiあるいはC)距離(dとする)を伸張させた場合に、Si−O結合長あるいはC−C結合長(rとする)が変化しないと仮定して結合角が180°に広がり切る時に相当する臨界的なX…X距離の変化量(2r−dに等しい)を示している。
【0085】
図10に示されるように酸素架橋(Si−O−Si)の場合は臨界量0.125A近傍に明らかな変曲点があり、これを超えて伸張させようとすると急激にエネルギーを要する、すなわち硬くなる。一方、炭素架橋の場合には、Si−C−Si、C−C−Cいずれにおいても変曲点は顕著に見えない。この理由は各X…Xの時の架橋部の結合角を調べることで明らかになった。すなわち、酸素架橋では図8に示したようにSi−O−Si結合角が180°まで容易に広げられてしまうために、180°に達した後はSi−O結合そのものが伸張せざるを得ないのである。つまり、X…X距離の伸張は、変化が小さい間は実は結合角の弾性変形ポテンシャル面に乗ってエネルギー変化しており、変化が大きくなると結合角の弾性変形ポテンシャル面から結合長の弾性変形ポテンシャル面へと乗り変わってエネルギー変化しているのである。
【0086】
一方、炭素架橋では図10に示されたようにCのsp3混成軌道の変角は容易ではないので、見掛け上の臨界点まで伸張させても架橋部の結合角は相変わらず180°にははるかに達せず、おおよそ130°(C−C−Cの場合)〜150°(Si−C−Siの場合)でしかないため、見掛け上の臨界点を超えても依然として結合角の弾性変形ポテンシャル面に乗ったエネルギー変化をしているに過ぎないのである。
【0087】
酸素架橋(Si−O−Si)の場合に、Si−O−Si結合角の弾性変形ポテンシャル面からSi−O結合長の弾性変形ポテンシャル面に乗り移ることで急激に硬くなることは、表1から判る。表1はSi−O結合およびSi−C結合の解離エンタルピー(つまりこれらの一重結合の強さ)を種々のモデル分子について計算した結果である。これはG2レベルの計算結果であり、極めて正確(誤差1kcal/mol程度)である。
【表1】
表1の注)数値は今回得られたG2レベルの解離エンタルピー、()内の数値はJ. Phys.Chem.,vol.97,p.8207(1993)に記載のG2レベルの解離エンタルピーである。
【0088】
これをみると、Si−O結合はSiのバックボンドの酸化が進んでいるほど強くなり、完全酸化ではほぼ6.6eV/Si−Oに達する。一方、Si−C結合はSi−O結合ほどにはSiのバックボンド酸化の影響を受けず、バックボンドが完全酸化されていてもせいぜい4.7eV/Si−Cと、Si−O結合に比べて2eV近くも弱いのである。つまり、図10に示した結果は、Si−O−Si変角のしなやかさとSi−O伸張の硬さで決まる酸素架橋構造の特性と、X−C−X変角の硬さとX−C伸張のやわらかさ(X=SiあるいはC)で決まる炭素架橋構造の特性の違いを示しているのである。比較のために、図8には最も硬いダイヤモンドに類似のC−C−Cのsp3混成一重結合の変角ポテンシャルの結果を示した。弾性変形範囲において最も尖ったポテンシャル面になっていることが分かる。
【0089】
図9は非特許文献2にも開示されているエチレン架橋(Si−CH2−CH2−Si)の変形ポテンシャルエネルギー変化を比較した結果を示すグラフである。エチレン架橋においては、Si…Si間の2つの等価な結合角Si−C−CおよびC−C−Siの両方を、メチレン架橋Si−C−Siと同じだけ変角するにはもちろん2倍近いエネルギーが必要であるが、実際には2つの結合角で全変角量を分配すれば良いので、変形ポテンシャルは広角側においてメチレン架橋よりもわずかに硬くなるに過ぎない。
【0090】
エチレン架橋の硬さはメチレン架橋と大差ないことが明らかになったが、一方で吸湿とそれに起因する応力腐食割れに係わる空隙には大きな差が生じる。図11(a)および(b)に、吸湿した水分が応力腐食割れ(クラックの進行)を促進するメカニズムを示す。
【0091】
一般に有機シリコン酸化膜には、成膜方法に依らず未架橋箇所が残存しているため、架橋反応を起こして自分自身を小さくしよう(収縮しよう)とする引っ張りストレスが作用している。大気中の水分は、有機シリコン酸化膜中のクラック先端に存在する歪んだSi−O−Si結合と加水分解反応を起こす(図11a)。Siは超原子価を採り易い元素であり、吸湿水分(H2O)のOが引っ張りストレスで歪んだSi−O結合になっている箇所のSiに選択的に求核反応を起こすためである。その結果、2つのSi−OH結合を形成し、元のSi−O−Si結合が2つに分断される(図11b)。この分断反応は大気中の水分によってクラック先端において連鎖的に進行する。そして、クラックが進行すると、有機シリコン酸化膜は細かく破壊され、この分断された有機シリコン酸化膜は局所的に縮み、膜自体に作用している引っ張りストレスを緩和する。形成されたSi−OH基は架橋構造の破壊のみならず、更なるH2O分子の水素結合吸着を促進するとともに配向分極成分を発生する極性基でもあるので比誘電率の上昇を招いてしまう。したがって、応力腐食割れを抑制するためには、元々のストレス緩和は勿論であるが、吸湿水分を抑制することが重要である。
【0092】
図12は、種々の架橋構造に起因する空隙サイズと吸湿水分の大きさを比較した図である。図12の(a)がメチレン架橋、(b)がエチレン架橋、(c)がフェニレン架橋、(d)および(e)が本実施の形態のシクロブタン架橋、(f)がH2Oモノマー、(g)がH2Oダイマーである。図12中の矢印と数値は、空隙サイズに関係する原子間の距離を示している。
【0093】
図12からメチレン架橋箇所ではH2Oダイマーほど大きな空隙は生じていないが、エチレン架橋箇所やフェニレン架橋箇所ではH2Oダイマーよりも大きな空隙を生じてしまうことが理解できる。すなわち、歪んだSi−X結合部分に少なくとも2個以上のH2O分子が作用しうる状況をもたらしうる。
【0094】
図13は、上述のメチレン架橋とエチレン架橋での空隙サイズの違いによる作用を模式的に示した図である。架橋を終端してしまうメチル基等では勿論のこと、空隙の大きなエチレン架橋においても空隙に吸湿水分が到達すると、この部分に引っ張りストレスが掛かっている場合にはクラック発生をもたらす。一方、メチレン架橋では元々空隙が小さいため吸湿自体が起こり難い。それに対して、本実施の形態のシクロブタン架橋を用いた場合、特に好適な1,2位置異性体(オルト異性体)を用いた場合にはエチレン架橋箇所よりも空隙が小さくできる。シクロブタン架橋部に疎水性のフッ素置換誘導体等を用いれば、吸湿をさらに抑制できる。
【0095】
では、次に本発明に含まれるシクロブタン架橋の変形ポテンシャルを調べた結果と比較してみる。まず最初に、シクロブタン架橋の効果を明快にするため、シクロブタン架橋のプロトタイプである孤立シクロブタン分子(c−C4H8)そのものの変形ポテンシャルエネルギー変化について、メチレン架橋と比較した結果を図1に、エチレン架橋と比較した結果を図2に示した。シクロブタンを構成するC原子はsp3型なので本来は109.5°あたりのC−C−C結合角が安定であるが、4員環を形成するには90°あたりにならざるを得ない。この歪みを少しでも緩和するため、シクロブタンは平面構造ではなく4員環のC…C対角線でくの字に折れ曲がった構造をとる。この折れ曲がり角を二面角で表すと約26°程度となる。シクロブタンの変角ポテンシャルの変数としては、この二面角の変化を採った。なお、図1、図2および図5において、二面角の変化量はSi−O−Siとの比較を容易にするため符号を変えてプロットしている。つまり、二面角が平衡値(例えば26°)より大きく(4員環の折れ曲がりが強くなる)なる場合を負、より小さくなる(4員環が平面に近づく方向)場合を正にとっている。
【0096】
図1および図2から、シクロブタンの変形ポテンシャルエネルギーは、メチレン架橋(Si−C−Si)やエチレン架橋(Si−C−C−Si)よりもむしろ酸素架橋(Si−O−Si)のそれに似ていることがわかる。酸素架橋においては、Si−O−Si結合角を180°あるいはそれ以上に変形させようとすると逆方向へ折れ曲がりうることに対応して、広角側のポテンシャル面がほとんどエネルギー損を示さない。これと同様に、シクロブタンでは二面角の26°だけ曲がってほぼ平面に達すれば、今度は逆方向に曲がり始めるだけに過ぎない。これを反映して、変形ポテンシャル面は26°あたりを対称軸にした変化を示す。二面角を大きくする方向の変化も考慮すれば(26°+10°)×2=72°程度の二面角変化の範囲において、ポテンシャルエネルギー変化は十分に小さい、すなわち容易に変形することが可能であり十分にしなやかな構造といえる。
【0097】
次に、シクロブタン架橋においても孤立シクロブタン分子そのものの変形ポテンシャルでの結果が保持されていることを示す。図3および図4は、計算に用いたシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜のモデル分子であり、構造緩和をさせた最安定構造を示してある。図3がオルト位置トランス型架橋であり、図4がパラ位置トランス型架橋である。図5から、これらはシクロブタン架橋部分のC−C−C結合角や二面角がほぼ等しく、かつ孤立シクロブタン分子自体ともほぼ等しいことがわかる。なお、図12(d)および(e)の空隙サイズの比較から、パラ位置トランス型架橋よりも空隙サイズが小さいオルト位置トランス型架橋の方が好ましい。
【0098】
図5は、エチレン架橋と本実施の形態のシクロブタン架橋との変形ポテンシャルエネルギー変化を比較したグラフであり、図6は本実施の形態のシクロブタン架橋の変形ポテンシャルエネルギー変化を、架橋部分の変形模式図とともに示したグラフである。シクロブタン架橋においても、孤立シクロブタン分子と同様に、二面角で26°(オルト位置トランス型架橋)ないし21°(パラ位置トランス型架橋)だけ曲がってほぼ平面に達すれば、今度は逆方向に曲がり始めるだけに過ぎない。これを反映して、変形ポテンシャル面も上記の変角量あたりを対称軸にした変化を示す(図6)。二面角を大きくする方向の変化も考慮すれば(26°+10°)×2=72°(オルト位置トランス型架橋)ないし(21°+10°)×2=62°(パラ位置トランス型架橋)程度の二面角変化の範囲において、ポテンシャルエネルギー変化は十分に小さい、すなわち、シクロブタン架橋においても容易に変形することが可能であり、十分にしなやかな構造が達成されている。図5に示されるようにこのしなやかさはエチレン架橋では全く見られない。
【0099】
以上のことから、本実施の形態の膜形成用組成物を用いれば、機械的強度に優れた、しかも比誘電率特性にも優れた有機シリコン酸化膜からなる低誘電率絶縁膜を形成することができると言える。
【0100】
(第2の実施の形態)
以下、本発明の第2の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本実施の形態では、第1の実施の形態で説明した膜形成用組成物を用いて半導体装置の層間絶縁膜を形成した例について説明する。図14(a)〜図14(c)は第2の実施の形態に係る半導体装置の模式的な製造工程図である。
【0101】
まず、図14(a)に示されるように、素子が集積形成された半導体基板1の表面に下地絶縁膜2を形成し、次に、加熱および電子線照射を用いて、下地絶縁膜2上に層間絶縁膜3を形成する。層間絶縁膜3の具体的な形成方法は後で詳説する。
【0102】
次に、図14(b)に示されるように、層間絶縁膜3の所定の箇所に、所望する大きさおよび形状からなる配線溝を形成し、配線溝内にバリアメタル4および金属配線5を形成するとともに、周知のCMPプロセスにより層間絶縁膜3、バリアメタル4および金属配線5の表面を平坦にする。ここでは、金属配線5として、Cuを主成分とするCu配線を使用する。
【0103】
その後、図14(c)に示されるように、表面が平坦にされた層間絶縁膜3、バリアメタル4および金属配線5の表面上に、SiNまたはSiCからなるバリア絶縁膜6を形成する。
【0104】
以下、層間絶縁膜3を形成する方法について具体的に説明する。層間絶縁膜3は以下の工程1〜工程4で形成される。
【0105】
工程1
まず、スピンコート法にてワニスを半導体基板1上に塗布する。詳細には、半導体基板1上の下地絶縁膜2の表面上に、溶媒に膜材料の前駆体としてのシクロブタン架橋組成物を溶解させたワニスと呼ばれる液状原料を、コーターを用いてスピンコート法により塗布し、塗布膜を形成する。溶媒としては、例えばPGPE(プロピレングリコールモノプロピルエーテル)を用いることができる。
【0106】
工程2
半導体基板1上に塗布膜を形成した後、半導体基板1に80℃で1分間熱処理を施す。詳細には、電子線照射処理を行う反応容器内に設置され、かつ80℃に保持されているホットプレート上に、塗布膜が形成された半導体基板1を載置する。この状態を1分間保持することにより、80℃、1分間の熱処理が上記塗布膜に施される。これにより塗布膜中の溶媒が除去される。
【0107】
工程3
上記熱処理を施した後、半導体基板1に200℃以上350℃以下で1分間熱処理を施す。詳細には、上記ホットプレート上に、半導体基板1を載置したまま、ホットプレートの温度を200℃に保持する。この状態を1分間保持することにより、電子線照射処理を行う反応容器内で、200℃、1分間の熱処理が上記塗布膜に施される。これにより塗布膜中の化合物が架橋するとともに塗布膜が半導体基板1上に固定される。この工程は、酸化されやすい金属配線が露出していない限り、酸化性雰囲気であることが好ましい。
【0108】
工程4
熱処理を施した後、減圧された雰囲気中で、半導体基板1を400℃以上600℃以下で加熱しつつ、電子線照射処理を行い、層間絶縁膜3を形成する。詳細には、反応容器内に窒素約20slmを導入し、減圧された窒素雰囲気中で半導体基板1を400℃に保持されたホットプレート上に載置した状態で、上記塗布膜に電子線を照射し、層間絶縁膜3を形成する。電子線が塗布膜に照射されると、塗布膜中の酸素分子、水分子、およびヒドロキシル基の結合が切断され、これにより生成された酸素原子で塗布膜が自動的かつ適度に酸化される。この工程は上記塗布膜の過剰な酸化を抑制するため、非酸化性雰囲気であることが好ましい。
【0109】
工程4における電子線照射の際、本実施の形態では、反応容器内の圧力を約5.5×103Pa(40Torr)と約8.0×103Pa(60Torr)の2段階に変動させることが好ましい。すなわち、電子線照射開始から約90秒間は、反応容器内の圧力を5.5×103Paとし、単位時間あたりの入射電子の量(以下、照射量という。)を約5μC/cm2・secとして電子線照射を行い、それ以降から電子線照射終了までの約30秒間は、反応容器内の圧力を8.0×103Paとし、照射量を約4μC/cm2・secとして電子線照射を行うことが好ましい。電子線のエネルギーは例えば1〜15keVとすることが好ましい。また、半導体基板に入射する電子の総量(以下、全照射量あるいはフルエンスという)は500μC/cm2とした。全照射量は上記値に限定されるものではなく、シクロブタン架橋有機シリコン酸化膜が変質しない値であれば良い。
【0110】
特記すべき点は、半導体基板1を加熱しながら、層間絶縁膜3に電子線を照射している間に、反応容器内の圧力等のパラメータを変動させることである。これによって、比誘電率が低く、かつ十分な機械的強度を有する層間絶縁膜3が得られる。
【0111】
なお、本実施形態では、工程4において圧力と照射量を変動させたが、どちらか一方だけを変動させても、機械的強度が高く、かつ比誘電率が低い絶縁膜を実現することも可能である。
【0112】
さらに、圧力、照射量以外のパラメータを一つだけ変動させても、機械的強度が高く、かつ比誘電率が低い絶縁膜を実現することは可能である。圧力、照射量以外のパラメータとは、半導体基板1の温度、半導体基板1が曝露されるガス種、前記反応容器内に導入される上記ガスの流量、半導体基板1の位置である。例えば、工程4において、温度を400℃から200℃に変化、ガス種を窒素からアルゴンに変化、ガス流量を25slmから3slmに変化、あるいは半導体基板1の位置を50mmから120mmに変化させても同様の効果が得られる。
【0113】
ただし、この場合、要求される機械的強度や比誘電率などによっては、実現できない場合もある。したがって、一般には、複数のパラメータを変動させることが好ましい。圧力と照射量以外の複数のパラメータを変動させても、あるいは圧力と照射量の一方と、圧力と照射量以外の少なくとも一つ以上のパラメータを変動させても、本実施形態と同様な効果を得ることは可能である。
【0114】
すなわち、反応容器内の圧力、半導体基板1の温度、半導体基板1が曝露されるガス種、反応容器内に導入される該ガスの流量、半導体基板1の位置および照射量のうちの少なくとも一つを変動させることにより、本実施の形態で示したような効果を得ることができる。
【0115】
(第3の実施の形態)
以下、本発明の第3の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本実施の形態では、第1の実施の形態で説明した膜形成用組成物を用いて半導体装置の層間絶縁膜を形成する際の電子線照射方法について説明する。本実施の形態は、第2の実施の形態で用いた電子線照射方法とは異なる電子線照射工程に特徴がある。そこで、本実施の形態の説明に先立ち、まず本実施の形態で用いた電子線照射装置について説明する。図15(a)および(b)は第3の実施の形態で用いる電子線照射装置の概略構成図である。
【0116】
図15(a)に示されるように、本実施の形態の電子線照射装置の反応容器21上部には、電子線発生部22が少なくとも1つ設置されている。なお、電子線照射部22は図15(b)に示されるように複数あってもよい。
【0117】
電子線発生部22は隔壁23により反応容器21と隔離され、電子線発生部22から発せられた電子線24は隔壁23を透過して反応容器21内に導入される。反応容器21内の下方には、電子線発生部22の下部と対向するようにホットプレート25が設置されている。
【0118】
ホットプレート25上には、塗布膜が形成された半導体基板10が載置されている。半導体基板10には電子線24が所望の条件で照射される。ここで、ホットプレート25は制御装置に接続され、その制御装置によって、ホットプレート25は所望な温度に維持される。ホットプレート25を使用することにより、その上に載置される半導体基板10は略均一な温度に保持され、処理の均一性が図られる。
【0119】
電子線照射装置としては、電子線源にプラズマが使用されているものが一般的である。プラズマ中で発生した電子はメッシュを介して反応容器内へ引き出され、電子線発生部と反応容器は常に同一雰囲気にある。そのため、電子線照射処理により被処理膜から有機成分を含有したガスが発生すると、放電領域の圧力が急変する。放電領域の圧力が急変すると、プラズマ放電が不安定となる結果電子線源が不安定になる。その結果、均一な電子線の照射が不可能となる。したがって、この装置を用いると、電子線照射を併用した焼成後の膜の特性、例えば、比誘電率、機械的強度等にばらつきが生じる等の問題が生ずるおそれがある。
【0120】
これに対して、本実施の形態で使用する電子線照射装置は、電子線源である電子線発生部22と被照射物(塗布膜が形成された半導体基板10)の間に隔壁23が設けられ、電子線24は隔壁23を介して被照射物を照射するようになっている。そのため、被照射物から発生するガスの電子線発生部22への影響は隔壁23によって抑えられる。その結果、空間的にも経時変化的にも均一な電子線24を被照射物に照射することが可能になり、電子線照射を併用した焼成後の膜の特性のばらつきを低減することができる。
【0121】
次に、上記の電子線照射装置を使用して半導体装置を製造する例について説明する。図16(a)〜図16(c)は第3の実施の形態に係る半導体装置の模式的な製造工程図である。
【0122】
まず、図16(a)に示されるように、半導体基板11の表面上に、下地絶縁膜12を形成する。ここでは、下地絶縁膜12としてTEOS膜あるいは第1の実施の形態の膜形成用組成物を用いて形成された有機シリコン酸化膜を用いる。続けて、下地絶縁膜12の表面側の所定の箇所に、所望する大きさおよび形状の配線溝を形成し、その後、周知のCMPプロセスにより、配線溝の内部にバリアメタル13およびCuを主成分とするCu配線14を形成するとともに、下地絶縁膜12、バリアメタル13およびCu配線14の表面を平坦にする。
【0123】
次に、図16(b)に示されるように、平坦化された下地絶縁膜12、バリアメタル13およびCu配線14の表面上に、バリア絶縁膜としてのシリコン窒化膜15を形成する。なお、以下、半導体基板11上にシリコン窒化膜15までを形成したものを、第1層半導体基板16と称することとする。
【0124】
シリコン窒化膜15を形成した後、図16(c)に示されるように、シリコン窒化膜15上に、第1の実施の形態で説明した膜形成用組成物を用いて、シクロブタン架橋有機シリコン酸化膜からなる低誘電率の層間絶縁膜17を形成する。
【0125】
以下、層間絶縁膜17を形成する方法について具体的に説明する。層間絶縁膜17は以下の工程1〜工程4で形成される。
【0126】
工程1
まず、膜材料の前駆体としての上記第1の実施の形態で説明したシクロブタン架橋組成物を溶解させたワニスを、シリコン窒化膜15の表面上に供給する。ワニスを供給する方法としては、本実施の形態においては、良質なシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜が成膜されるように、ワニスを略均一な厚さでむらなく供給することができる塗布法を採用する。このワニスの塗布作業は、具体的には、塗布装置として、例えば図示しないコーターを用いて、塗布法の一種であるスピンコート法によってワニスをシリコン窒化膜15の表面上に塗布するものである。
【0127】
工程2
第1層半導体基板16を、図16(c)に示されるように、そのワニスが塗布されたシリコン窒化膜5を上向きにした状態で、温度調節装置としてのホットプレート25(加熱装置)上に載置する。その後、ワニスの温度が約80℃に保持されるようにホットプレート25の温度を調節して、ワニスを第1層半導体基板16ごと加熱するとともに、この状態を約1分間保持する。これによりワニスに1回目の熱処理を施す。
【0128】
工程3
第1層半導体基板16をホットプレート25上に載置した状態のまま、ワニスの温度が200℃に保持されるようにホットプレート25の温度を調節して、ワニスを第1層半導体基板16ごと加熱するとともに、この状態を約1分間保持する。これによりワニスに2回目の熱処理を施す。上記工程2および3の熱処理によって、ワニスに含まれる溶媒は蒸発によって除去され、シリコン窒化膜15上にワニス(塗布膜)は固定(固着)される。
【0129】
本発明者等が行った実験によれば、工程2および3のように、ワニスの温度を段階的に昇温させるという加熱方法を採用することにより、ワニス中のシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜の主要成分であるシクロブタン架橋組成物以外の成分(例えば溶媒)を効率よく略完全に揮発させることができ、塗布膜を効果的に固定できることが明らかになった。
【0130】
工程4
第1層半導体基板16をホットプレート25上に載置した状態のまま、ワニスおよびこのワニスを基に成膜されるシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜が酸化されないように、約1.3×103Pa(10Torr)まで減圧した減圧雰囲気下に配置する。それとともに、第1層半導体基板16が配置される雰囲気を、還元性を有するH2ガスを主成分とするガスで満たす。上記H2ガスは、後述する電子線照射作業を行うときに、Cu配線14の表面をクリーニングし、該表面の酸化を抑制する。
【0131】
この状態において、ワニスの温度が約400℃に保持されるようにホットプレート25の温度を調節して、ワニスを第1層半導体基板16ごと加熱するとともに、図16(c)中の矢印で示すように、図示しない電子線照射装置からワニスに向けて、照射(加速)エネルギーが約10keV、全照射量が約500μC/cm2の電子線を照射する。
【0132】
このとき、加熱状態と電子線照射状態を約5分間保持する。これにより、シリコン窒化膜105の表面上に、言い換えれば第1層半導体基板16の最上層の上にシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜からなる層間絶縁膜17が形成される。
【0133】
以上説明したように、工程2ないし4のうち、それらの最終工程である工程4においてのみワニスに加熱処理を施しつつ、ワニスに向けて電子線を照射する。その理由は、シリコン窒化膜15上に固定されていない状態のワニスに電子線を照射することにより、ワニス中に含まれる溶媒などのシクロブタン架橋組成物以外の成分までもが変質し、この変質した成分により所望外の特性を有する低誘電率の層間絶縁膜が形成されるのを未然に防ぐためである。すなわち、所望の特性を有する低誘電率の層間絶縁膜を得るためである。
【0134】
工程4でワニスに電子線を照射する際において、半導体装置18が実用上適正な動作性能を発揮できるような、良質なシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜からなる層間絶縁膜17を形成できる条件を検討した結果、以下に列挙する条件があきらかになった。
【0135】
まず、ワニスの温度が、200℃以上500℃以下、好ましくは約380℃〜400℃程度の範囲内で略一定の温度、好ましくは400℃となるように熱処理を行うことである。
【0136】
あるいは、照射する電子線の全照射量を、300μC/cm2以上1000μC/cm2で略一定の値、好ましくは500μC/cm2となるように設定して電子線照射を行うことである。
【0137】
あるいは、照射する電子線の加速エネルギーを、1keV〜15keV程度の範囲内で略一定の値、好ましくは10keVとなるように設定して電子線照射を行うことである。
【0138】
さらに、この工程は上記塗布膜の過剰な酸化を抑制するため、および酸化されやすい金属配線が露出している場合の配線の酸化を抑制するため、ワニスを塗布された半導体基板を所定の還元性を有するガス中において、所定の範囲内の減圧雰囲気下に配置することである。特に、上記H2ガス中において、6.67Pa(0.05Torr)〜66.7Pa(0.5Torr)で略一定の値、好ましくは13.3Pa(0.1Torr)という減圧値に設定された雰囲気下にワニスを塗布された半導体基板を配置することである。
【0139】
以上の条件により、工程4までが終了した後においてもCu配線14の表面の酸化は認められず、比抵抗も層間絶縁膜17を形成する前と後で3%未満の増加に収まっていた。また、ここまでの工程において、下地絶縁膜12、バリアメタル13、Cu配線14、シリコン窒化膜15、および層間絶縁膜17の剥がれは一切生じなかった。
【0140】
以上説明したように、本実施の形態によれば、加熱処理工程と電子線照射処理工程とを同時に行うことにより、工程1〜4を合計僅か7分程度の短時間で終了することができる。すなわち、従来の技術に係るホットプレートを使った加熱処理のみによる絶縁膜の成膜工程では30分〜1時間程度要していた溶媒の揮発や前駆体の架橋反応が伴う成膜工程を大幅に短縮できる。
【0141】
また、本実施の形態によれば、加熱作業と電子線照射作業とを同時に行うことにより、工程1〜4における膜焼成温度を、例えば前述したように400℃、あるいは高くてもその上限を500℃以下に抑えることができる。すなわち、従来の技術に係るホットプレートを使った加熱処理のみによる絶縁膜の成膜工程おけるBEOL(Back End of Line)工程としては500℃以上の焼成温度を必要としていたので、本実施の形態によれば、膜焼成工程の焼成温度を低温化できる。
【0142】
したがって、本実施形態によれば、加熱作業と電子線照射作業とを同時に行うことにより、層間絶縁膜17や、あるいはCu配線14などへ、酸化やクラック等の過剰な劣化を殆ど与えることなく、層間絶縁膜17を成膜できる。これにより、成膜工程におけるCu配線14におけるCuの粒成長が抑制され、Cu配線14とシリコン窒化膜15との界面における剥がれを抑制することができる。
【0143】
また、ワニスへの電子線の照射を、減圧された還元性ガス雰囲気中で行うことにより、層間絶縁膜17を形成する際のCu配線14の表面の酸化を抑制して、Cu配線14の抵抗値を低い良好な状態に維持できる。還元性を有するガスはH2ガス以外のガスでも使用可能である。一般には、配線(ここではCu配線14)の酸化を防止でき、かつ成膜される膜(ここでは層間絶縁膜17)の品質を劣化させないものであれば使用可能である。
【0144】
本実施の形態によれば、半導体装置18の層間絶縁膜17を短時間で製造できる。その結果、半導体装置18の生産効率は高くなり歩留まりも向上する。
【0145】
また、本実施の形態によれば、層間絶縁膜17として、低誘電率の絶縁膜であるシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜を用いても、その機械的強度特性を損なわず良好な状態に保持できるように短時間で形成できるので、半導体装置18の層間絶縁膜17の比誘電率を低い良好な状態に維持することができる。したがって、半導体装置18の配線容量を低減させて、配線抵抗(R)と線間容量(C)との積、いわゆるRC遅延を小さくできる。これにより、半導体装置18、ひいてはこの半導体装置18を用いた各種半導体デバイスの動作速度を向上できる。
【0146】
さらに、複数の配線層が積層された半導体装置の場合には、第1層半導体基板16上に、前述した方法と同様の方法によって、下地絶縁膜12を介してバリアメタル13、Cu配線14、シリコン窒化膜15、層間絶縁膜17等の各層の形成を繰り返せば良い。これにより、複数の配線層を形成しても、配線抵抗や配線間容量等の電気的性能を劣化させることはない。したがって、処理能力の高い半導体装置、ひいてはこの半導体装置を用いた処理能力の高い各種半導体デバイスを生産できる。
【0147】
(第4の実施の形態)
以下、本発明の第4の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本実施の形態では、第1の実施の形態で説明した膜形成用組成物を用いて層間絶縁膜を形成する際の紫外線照射方法について説明する。そこで、本実施の形態の説明に先立ち、まず本実施の形態で用いた紫外線照射装置について説明する。図17(a)および(b)は第4の実施の形態で用いる紫外線照射装置の概略構成図である。なお、第3の実施の形態と重複する記載は、省略するものとする。
【0148】
図17(a)に示されるように、本実施の形態の紫外線照射装置の反応容器31上部には、紫外線導入部32が少なくとも1つ設置されている。なお、紫外線導入部32は図17(b)に示されるように複数あってもよい。紫外線導入部32は隔壁33により反応容器31と隔離され、紫外線導入部32から発せられた紫外線34は隔壁33を透過して反応容器31内に導入される。
【0149】
紫外線導入部32は、たとえば高圧水銀ランプ、Xeエキシマランプ等、波長が120nm〜400nm、好ましくは242nm以下の紫外線を発生することができ、かつ実用的な時間好ましくは1分間〜15分間において、1000mJ/cm2以上10000mJ/cm2以下のフルエンスで照射することが可能な装置である。ホットプレート35上には塗布膜が形成された半導体基板10が載置され、半導体基板1には紫外線34が所望の条件で照射される。
【0150】
紫外線照射装置は、紫外線源である紫外線導入部32と被照射物(塗布膜が形成された半導体基板10)の間に隔壁33が設けられ、紫外線34は隔壁33を介して被照射物を照射するようになっている。そのため、被照射物から発生するガスの紫外線導入部32への影響は隔壁33によって抑えられる。その結果、均一な紫外線34を被照射物に照射することが可能になり、紫外線照射を併用した焼成後の膜の特性のばらつきを無くすことが可能となる。
【0151】
次に、上記の紫外線照射装置を使用して半導体装置を製造する例について説明する。図18は第4の実施の形態に係る半導体装置の模式的な製造工程図である。
【0152】
まず、第3の実施の形態と同様の工程により第1層半導体基板16を作成するする。
【0153】
次いで、図18に示されるように、シリコン窒化膜15上に、第1の実施の形態で説明した膜形成用組成物を用いて、シクロブタン架橋有機シリコン酸化膜からなる低誘電率の層間絶縁膜17を形成する。上記シクロブタン架橋有機シリコン酸化膜を形成する工程は、第3の実施の形態における工程1ないし4と基本的には同じシーケンスである。第3の実施の形態と異なる点は、第3の実施の形態の工程4においては電子線照射装置からワニスに向けて電子線を照射したが、本実施の形態では電子線の代わりに紫外線を照射する点のみである。
【0154】
エネルギー線照射時の雰囲気、加熱条件等は第3の実施の形態と同様で構わない。紫外線の波長を120nm〜400nm、紫外線の全照射量を1000mJ/cm2以上10000mJ/cm2以下に設定することにより、紫外線の照射雰囲気中の残留酸素分子あるいは被照射体であるワニス中に溶存する酸素分子が、紫外線のエネルギーを吸収して酸素ラジカルやヒドロキシラジカルなどの活性酸素に効率的に変化する。この活性酸素は、ワニス中の有機基(たとえば、シクロブタン架橋組成物が有するアルキル基などの有機基)をシラノール基に変える。このとき、全ての有機基をシラノール基に変えることはなく、有機基が部分的に残存していることになる。その後、シラノール基同士が、脱水反応を起こし、シロキサン結合を形成して架橋する。このようにして有機シリコン酸化膜を形成することができる。また、この紫外線の照射により、有機シリコン酸化膜中に架橋構造を形成することができ、強度向上、界面密着性の向上、濡れ性の向上をも図ることができる。
【0155】
(第5の実施の形態)
以下、本発明の第5の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本実施の形態では、プラズマアシスト化学的気相成長法(プラズマCVD法)を用いてシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜を形成した例について説明する。
【0156】
まず、本実施形態の説明に先立ち、本実施の形態で用いたプラズマCVD装置について説明する。図19は本実施の形態で用いたヘリコン波を用いた高密度プラズマCVD装置の概略構成図である。
【0157】
図19に示されるように、このプラズマCVD装置は、絶縁材料からなる成膜チャンバ51(反応容器)を備えている。成膜チャンバ51の内部には、素子が形成された半導体基板41を載置するための基板支持台52が設けられている。基板支持台52には、内部ヒータである抵抗加熱ヒータ53および冷却剤を循環させるための冷却パイプ54が設けられている。また、基板支持台52には高周波電源55が接続されている。
【0158】
成膜チャンバ51の下部には排気装置56が設けられており、これにより、成膜チャンバ51の内部の圧力を好適に保持できるようになっている。成膜チャンバ51の上部には、原料ガスを成膜チャンバ51内に導入するためのノズル57が設けられている。成膜チェンバ51の側壁には高周波コイル58が巻き付けられ、この高周波コイル58には高周波電源59が接続されている。
【0159】
ノズル57には、原料ガスの流量を調整するゲートバルブ60が配管を介して接続されている。なお、ゲートバルブ等、原料ガスの導入部は簡単のため1系統しか図示していないが、原料ガス毎に用意されている。
【0160】
次にこのプラズマCVD装置を用いたシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜の形成方法について説明する。
【0161】
素子が形成された半導体基板41を基板支持台52上に載置し、抵抗加熱ヒータ53により、所定の基板温度(加熱温度)に設定する。基板温度は、予め行なった熱脱離スペクトル(TDS;Thermal Desorption Spectroscopy)測定において、SiO2に取り込まれうる構造水(Si−OH、HOH)の脱水縮合が顕著になる400℃以上(例えば、430℃)に設定する。
【0162】
次に、成膜チャンバ51内に原料ガスとして第1の実施の形態で説明したシクロブタン架橋組成物ガスを50cm3/min、O2ガスを500cm3/min、希釈用のArあるいはN2ガスを500cm3/min、の流量で同時に導入するとともに成膜チャンバ51内の圧力を133Paに保たれるようにしておく。
【0163】
次に、成膜チャンバ51の側壁の高周波コイル58に13.56MHzのRF電力を高周波電源59により印加して放電を開始し、同時に、基板支持台52に350kHzのRFバイアスを高周波電源55により500W印加する。これにより、半導体基板41上にシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜42が成膜される。なお、この成膜の際に、約12〜25eV以上のエネルギーを成膜中のシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜432の表面に与え得るエネルギーを持つ電子あるいはイオン(典型的にはO±、O2±イオン)を照射することが好ましい。このような電子またはイオンを照射することにより、シクロブタン架橋有機シリコン酸化膜42に取り込まれ得るSi−OH、H−OHのO−H結合を切断することができ、膜表面でのSi−OHの分解を促進してSiO2ネットワークを緻密化することができる。
【0164】
(第6の実施の形態)
以下、本発明の第6の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本実施の形態では、第5の実施の形態とは異なるプラズマCVD法を用いてシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜を形成した例について説明する。
【0165】
まず、本実施形態の説明に先立ち、本実施の形態で用いたプラズマCVD装置について説明する。図20は本実施の形態で用いる平行平板型プラズマCVD装置の概略構成図である。
【0166】
図20に示されるように、このプラズマCVD装置は、絶縁材料からなる成膜チャンバ81(反応容器)を備えている。成膜チャンバ81の内部には、素子が形成された半導体基板71を載置するための基板支持台82が設けられている。基板支持台82には、内部ヒータである抵抗加熱ヒータ83および冷却剤を循環させるための冷却パイプ84が設けられている。また、基板支持台82には高周波電源85が接続されている。
【0167】
成膜チャンバ81の側部には排気装置86が設けられており、これにより、成膜チャンバ81の内部を真空排気するとともに成膜チャンバ81内の圧力を好適に保持することができるようになっている。成膜チャンバ81の上部には、原料ガスを成膜チャンバ81内に導入するノズルとしても機能する電極87が設けられている。電極87には、高周波電源88が接続されている。
【0168】
電極87には、原料ガスの流量を調整するゲートバルブ89が配管を介して接続されている。なお、ゲートバルブ等、原料ガスの導入部は簡単のため1系統しか図示していないが、原料ガス毎に用意されている。
【0169】
次にこのプラズマCVD装置を用いたシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜の形成方法について説明する。
【0170】
素子が形成された半導体基板71を基板支持台82上に載置し、抵抗加熱ヒータ83により、所定の基板温度(加熱温度)に設定する。基板温度は、SiO2に取り込まれうる構造水(Si−OH、HOH)の脱水縮合が顕著になる400℃以上(例えば、430℃)に設定する。
【0171】
次に、成膜チャンバ81内に原料ガスとして第1の実施の形態で説明したシクロブタン架橋組成物ガスを50cm3/min、O2ガスを500cm3/min、希釈用のArあるいはN2ガスを500cm3/min、の流量で同時に導入するとともに成膜チャンバ81内の圧力を133Paに保たれるようにしておく。
【0172】
次に、電極87に高周波電源88により13.56MHzのRF電力を1kW印加して放電を開始し、同時に、基板支持台82に350kHzのRFバイアスを高周波電源85により500W印加する。これにより、半導体基板71上にシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜72が成膜される。なお、この成膜の際に、約12eV以上のエネルギーを成膜中のシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜72の表面に与え得るエネルギーを持つ電子あるいはイオン(典型的にはO±、O2±イオン)を照射することが好ましい。このような電子またはイオンを照射することにより、シクロブタン架橋有機シリコン酸化膜72に取り込まれ得るSi−OH、H−OHのO−H結合を切断することができ、膜表面でのSi−OHの分解を促進してSiO2ネットワークを緻密化することができる。
【0173】
なお、上記第5および第6の実施の形態では、プラズマCVD装置として、ヘリコン波を用いたプラズマCVD装置および平行平板型プラズマCVD装置を用いた場合を例示したが、他のCVD装置を用いても良い。例えば、マイクロ波放電やマグネトロン放電など1×1011イオン/cm3以上の高密度プラズマを形成できるCVD装置、例えば、サイクロトロン共鳴を利用したプラズマCVD装置、誘導電流を用いたプラズマCVD装置、ダイポールリングマグネトロンプラズマCVD装置またはマグネトロン平行平板CVD装置などを用いても、絶縁膜形成時の条件を制御することにより、第5および第6の実施の形態と同様のシクロブタン架橋有機シリコン酸化膜を形成できる。
【0174】
上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題を解決できる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々変形して実施できる。
【実施例】
【0175】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中の%は、特記しない限り、質量%であることを示している。
【0176】
本実施例においては、シクロブタン架橋組成物を用いて有機シリコン酸化膜を形成した場合の膜の比誘電率、ヤング率、クラック耐性、およびO2プラズマ処理耐性を評価する。なお、膜は、シクロブタン架橋組成物のみを使用したもののみならず、比較用組成物であるエチレン架橋組成物を加え、シクロブタン架橋組成物の組成比を変えたもの、エチレン架橋組成物のみを使用したものを作製する。
【0177】
(合成方法)
シクロブタン架橋組成物
下記式(A)の1,2−ビス(トリエトキシシリル)アセチレンに対し、1.2モル当量のジルコノセンジエチルを混合し室温で1時間攪拌し、次いで1.2モル当量のヨウ素を混合し0℃で2時間攪拌し、最後に1.2モル当量の塩化銅(I)を混合し室温で6時間攪拌し順次反応させた。次いで、反応液をろ過して塩を除いた後、減圧濃縮し、アルミナカラムで精製して置換位置異性体の混合物として、1,2−ビス(トリエトキシシリル)シクロブテンを収率6割で得る。塩化銅(I)を反応させる際は、0.1モル当量を混合し室温で24時間攪拌した場合、あるいは50℃で6時間攪拌した場合においても、同等の収率でビス(トリエトキシシリル)シクロブテンを得た。引き続き、水素付加反応を行い、1,2−ビス(トリエトキシシリル)シクロブタン(I−1)を得る。
【化15】
【0178】
エチレン架橋組成物
下記式(B)のビス(モノメチル・ジメトキシ)シロキサンエタンをプロピレングリコールモノプロピルエーテル7mlに溶解させ、0.4%硝酸水溶液200mgを加えて、12時間攪拌した後、液質量が6gになるまで減圧濃縮し、比較用組成物であるエチレン架橋組成物(B―1)を得る。
【化16】
【0179】
(膜作製方法)
シクロブタン架橋組成物(I−1)および/またはエチレン架橋組成物(B−1)をプロピレングリコールモノエチルエーテルに溶解して薬液を調整する。得られた薬液をスピンコート法で300mmシリコンウエハ上に塗布後、ホットプレート上において80℃で1分間、200℃で1分間、基板を乾燥し、さらに酸素濃度500ppm以下の乾燥窒素雰囲気のクリーンオーブン中で380℃で20分間加熱することにより、有機シリコン酸化膜を作製する。
【0180】
(評価方法)
上記により作製された有機シリコン酸化膜の比誘電率、ヤング率、クラック耐性、およびO2プラズマ処理耐性を評価する。比誘電率は、MISキャパシタを作成し、膜厚と容量−電圧特性とを測定し決定することができる。またヤング率(膜強度)は、MTSシステムズ社製Nano Indenter XPで測定することができる。測定に必要な膜厚は最低で300nm必要である。これ以上薄い場合、Si基板の影響を受けるので正確な値は求められないおそれがある。
【0181】
クラック耐性は、膜厚の異なる種々の有機シリコン酸化膜を大気中に1日放置した後、斜光法により表面に生じたクラックの有無を調べて、クラックが生じていない最大の膜厚で表わすことができる。また、O2プラズマ耐性は、形成された有機シリコン酸化膜をO2プラズマ雰囲気に1分間曝して表面を変質させた後、1質量%のフッ酸溶液に溶解した膜厚をO2プラズマ処理による変質層厚さとすることができる。変質層厚さは、プラズマ処理条件に大きく依存するが、変質層を薄くできるO2ガスによる反応性イオンエッチング(RIE)を用いることができる。
【0182】
(評価結果)
表2に比誘電率とヤング率の値を示す。
【表2】
【0183】
表2から、上記のシクロブタン架橋組成物(I−1)組成範囲において、比誘電率低減とヤング率の改善が確認できる。したがって、本発明のシクロブタン架橋組成物による有機シリコン酸化膜は、比誘電率が低く、強度が高く、優れた性能を有することが確認できる。
【0184】
また、シクロブタン架橋組成物(I−1)およびエチレン架橋組成物(B−1)の配合比(重量比)と、得られた有機シリコン酸化膜のクラック耐性、プラズマ処理による変質層厚さとの関係を図21のグラフに示す。図21のグラフ中、aはクラック耐性を表わし、bは変質層厚さを表わしている。シクロブタン架橋組成物(I−1)/エチレン架橋組成物(B−1)の配合比(重量比)が、30/70〜100/0の範囲内で、3μmというクラック耐性が得られる。さらに、配合比が40/60〜100/0の範囲内で、変質層の厚さを100Å以下に抑えることができる。なお、層間絶縁膜として作用するための有機シリコン酸化膜においては、クラック耐性は高いほどよく、変質層厚さは100Å以下であることが要求される。エチレン架橋組成物(B−1)のみを用いた場合には、500Åという厚さの変質層が形成される。これは、得られる有機シリコン酸化膜の空隙が大きいために均質でなく、O2プラズマに曝された際に、有機シリコン酸化膜中にOラジカルが侵入してCH3基やCH2基等と反応し、変質層が形成されたものと考えられる。本実施例のように、シクロブタン架橋組成物を用いることによって、空隙が小さいために膜が均質化されてOラジカルの侵入が防止され、変質層を薄くできると考えられる。O2プラズマ処理に代えてN/Hプラズマ処理を適用した場合も、両特性の劣化の程度は抑制されるものの、シクロブタン架橋組成物(I−1)によって同様の改善傾向が得られる。さらに、有機シリコン酸化膜のクラック耐性も、空隙が小さいために外部からの吸湿H2O量が抑制されることで向上していることが確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0185】
【図1】孤立シクロブタン分子の変形ポテンシャルエネルギー変化を、メチレン架橋ほか公知例の架橋のものと比較したグラフである。
【図2】孤立シクロブタン分子の変形ポテンシャルエネルギー変化を、エチレン架橋ほか公知例の架橋のものと比較したグラフである。
【図3】シクロブタン架橋有機シリコン酸化膜におけるオルト位置トランス型架橋の分子モデルである。
【図4】シクロブタン架橋有機シリコン酸化膜におけるパラ位置トランス型架橋の分子モデルである。
【図5】シクロブタン架橋の変形ポテンシャルエネルギー変化を、他の架橋のものと比較したグラフである。
【図6】シクロブタン架橋の変形ポテンシャルエネルギー変化を示したグラフである。
【図7】公知例のシロキサン骨格およびメチレン架橋における結合角変化および二面角変化に対するポテンシャルエネルギー変化を示したグラフである。
【図8】公知例の種々の架橋の変形ポテンシャルエネルギー変化を示したグラフである。
【図9】公知例のエチレン架橋の変形ポテンシャルエネルギー変化を示したグラフである。
【図10】公知例の種々の架橋におけるSi…Si距離を変化させた場合のポテンシャルエネルギー変化を示したグラフである。
【図11】応力腐食割れのメカニズムを示した模式図である。
【図12】種々の架橋構造に起因する空隙サイズと吸湿水分の大きさを比較した図である。
【図13】メチレン架橋とエチレン架橋での空隙サイズの違いによる作用を模式的に示した図である。
【図14】第2の実施の形態に係る半導体装置の模式的な製造工程図である。
【図15】第3の実施の形態で用いる電子線照射装置の概略構成図である。
【図16】第3の実施の形態に係る半導体装置の模式的な製造工程図である。
【図17】第4の実施の形態で用いる紫外線照射装置の概略構成図である。
【図18】第4の実施の形態に係る半導体装置の模式的な製造工程図である。
【図19】第5の実施の形態で用いるヘリコン波を用いた高密度プラズマCVD装置の概略構成図である。
【図20】第6の実施の形態で用いる平行平板型プラズマCVD装置の概略構成図である。
【図21】シクロブタン架橋組成物(I−1)およびエチレン架橋組成物(B−1)の配合比と、有機シリコン酸化膜のクラック耐性、プラズマ処理による変質層厚さとの関係を示したグラフである。
【符号の説明】
【0186】
1、10、11…半導体基板、3、17…層間絶縁膜。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物またはその加水分解脱水縮合物を含むことを特徴とする、膜形成用組成物。
X13−mR1mSiR2SiR3nX23−n (I)
(式中、R1およびR3は水素原子または1価の置換基であり、R2は炭素数4の脂環構造を含む2価の基あるいはその誘導体であり、X1およびX2は加水分解性基であり、mおよびnは0〜2の整数である。)
【請求項2】
前記一般式(I)におけるR2の2価の基が、シクロブタン(−C4H6−)、シクロフロロブタン(−C4H6−XFX−)、シクロポリメチルブタン(−C4H6−X(CH3)X−)、シクロポリメチルフロロブタン(−C4H6−Y−Z(FY(CH3)Z)−)、シクロクロロブタン(−C4H6−XClX−)、シクロポリメチルクロロブタン(−C4H6−Y−Z(ClY(CH3)Z)−)である(式中、Xは1〜6の整数であり、YおよびZは1〜5の整数であり、かつ2≦Y+Z≦6の関係を満たす)、請求項1に記載の膜形成用組成物。
【請求項3】
前記一般式(I)におけるR2の2価の基が、炭素数4の脂環構造(−C4X6−)骨格を有し、Xがオルト位置またはパラ位置にありかつトランスまたはゴーシュ(gauche)位置に結合している、請求項2に記載の膜形成用組成物。
【請求項4】
前記一般式(I)におけるmおよびnが、m+n≧1を満たしている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の膜形成用組成物。
【請求項5】
前記一般式(I)におけるmおよびnが1である、請求項4に記載の膜形成用組成物。
【請求項6】
下記一般式(II)で表される化合物またはその加水分解脱水縮合物をさらに含む、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の膜形成用組成物。
R4pSiX34−p (II)
(式中、R4は水素原子または置換基であり、X3は加水分解性基であり、pは0〜3の整数である。)
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに1項に記載の膜形成用組成物を用いて製造された単独組成または混合組成の有機シリコン酸化膜からなることを特徴とする、絶縁膜。
【請求項8】
前記一般式(I)における架橋基R2の個数とSiの個数の比であるR2/Siが、0.5以上2以下である、請求項7に記載の絶縁膜。
【請求項9】
請求項7または8に記載の前記有機シリコン酸化膜を備えることを特徴とする、半導体装置。
【請求項10】
請求項7または8に記載の前記有機シリコン酸化膜を備えた半導体装置の製造方法であって、
前記有機シリコン酸化膜の形成は、
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の膜形成用組成物を用いて、塗布法またはプラズマ化学的気相成長法により膜を形成する工程と、
形成された前記膜に酸化性雰囲気で熱処理を施す工程と、
前記熱処理が施された膜に非酸化性雰囲気で熱処理を施す工程と
を含む工程により行われることを特徴とする、半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記酸化性雰囲気での熱処理が200℃以上350℃以下で行われ、かつ前記非酸化性雰囲気での熱処理が400℃以上600℃以下で行われる、請求項10に記載の半導体装置。
【請求項12】
請求項7または8に記載の前記有機シリコン酸化膜を備えた半導体装置の製造方法であって、
前記有機シリコン酸化膜の形成は、
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の膜形成用組成物を用いて、塗布法またはプラズマ化学的気相成長法により膜を形成する工程と、
形成された前記膜に、減圧下において熱処理を施しつつエネルギー線を照射する工程と
を含む工程により行われることを特徴とする、半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記熱処理が、0Pa以上5.5×104Pa以下の圧力下で、200℃以上500℃以下で行われる、請求項12に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記エネルギー線が、電子線あるいは紫外線である、請求項12または13に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物またはその加水分解脱水縮合物を含むことを特徴とする、膜形成用組成物。
X13−mR1mSiR2SiR3nX23−n (I)
(式中、R1およびR3は水素原子または1価の置換基であり、R2は炭素数4の脂環構造を含む2価の基あるいはその誘導体であり、X1およびX2は加水分解性基であり、mおよびnは0〜2の整数である。)
【請求項2】
前記一般式(I)におけるR2の2価の基が、シクロブタン(−C4H6−)、シクロフロロブタン(−C4H6−XFX−)、シクロポリメチルブタン(−C4H6−X(CH3)X−)、シクロポリメチルフロロブタン(−C4H6−Y−Z(FY(CH3)Z)−)、シクロクロロブタン(−C4H6−XClX−)、シクロポリメチルクロロブタン(−C4H6−Y−Z(ClY(CH3)Z)−)である(式中、Xは1〜6の整数であり、YおよびZは1〜5の整数であり、かつ2≦Y+Z≦6の関係を満たす)、請求項1に記載の膜形成用組成物。
【請求項3】
前記一般式(I)におけるR2の2価の基が、炭素数4の脂環構造(−C4X6−)骨格を有し、Xがオルト位置またはパラ位置にありかつトランスまたはゴーシュ(gauche)位置に結合している、請求項2に記載の膜形成用組成物。
【請求項4】
前記一般式(I)におけるmおよびnが、m+n≧1を満たしている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の膜形成用組成物。
【請求項5】
前記一般式(I)におけるmおよびnが1である、請求項4に記載の膜形成用組成物。
【請求項6】
下記一般式(II)で表される化合物またはその加水分解脱水縮合物をさらに含む、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の膜形成用組成物。
R4pSiX34−p (II)
(式中、R4は水素原子または置換基であり、X3は加水分解性基であり、pは0〜3の整数である。)
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに1項に記載の膜形成用組成物を用いて製造された単独組成または混合組成の有機シリコン酸化膜からなることを特徴とする、絶縁膜。
【請求項8】
前記一般式(I)における架橋基R2の個数とSiの個数の比であるR2/Siが、0.5以上2以下である、請求項7に記載の絶縁膜。
【請求項9】
請求項7または8に記載の前記有機シリコン酸化膜を備えることを特徴とする、半導体装置。
【請求項10】
請求項7または8に記載の前記有機シリコン酸化膜を備えた半導体装置の製造方法であって、
前記有機シリコン酸化膜の形成は、
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の膜形成用組成物を用いて、塗布法またはプラズマ化学的気相成長法により膜を形成する工程と、
形成された前記膜に酸化性雰囲気で熱処理を施す工程と、
前記熱処理が施された膜に非酸化性雰囲気で熱処理を施す工程と
を含む工程により行われることを特徴とする、半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記酸化性雰囲気での熱処理が200℃以上350℃以下で行われ、かつ前記非酸化性雰囲気での熱処理が400℃以上600℃以下で行われる、請求項10に記載の半導体装置。
【請求項12】
請求項7または8に記載の前記有機シリコン酸化膜を備えた半導体装置の製造方法であって、
前記有機シリコン酸化膜の形成は、
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の膜形成用組成物を用いて、塗布法またはプラズマ化学的気相成長法により膜を形成する工程と、
形成された前記膜に、減圧下において熱処理を施しつつエネルギー線を照射する工程と
を含む工程により行われることを特徴とする、半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記熱処理が、0Pa以上5.5×104Pa以下の圧力下で、200℃以上500℃以下で行われる、請求項12に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記エネルギー線が、電子線あるいは紫外線である、請求項12または13に記載の半導体装置の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
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【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2010−80658(P2010−80658A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−246845(P2008−246845)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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