説明

自動二輪車の制動装置

【課題】前輪のブレーキ操作力に適切なアシスト力を加えることにより、フロントサスペンションの伸び上がりをコントロールし、旋回性を良好にする。
【解決手段】前輪ブレーキのキャリパシリンダ8に連通路11、液圧制御部12を介してマスタシリンダ6を接続し、液圧制御部12には弁13を備え、コントロールユニット14にて開閉制御する。コントロールユニット14は車速センサ17より車速及び減速度を算出し、マスタシリンダ6に設けたマスタシリンダ圧検出センサ19よりブレーキ操作量を検出する。操作レバー5を放すと、コントロールユニット14はマスタシリンダ圧検出センサ19の検出する液圧低下に基づきブレーキ操作量の変化率を算出し、所定の割合を超えると弁13で連通路11を絞り、急激なキャリパ圧の低下を防いでブレーキ制動力を維持させ、フロントサスペンションの急な伸びを抑制し、コーナリングを容易にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体にフロントサスペンションを介して前輪を支持した自動二輪車の制動装置に係り、特に、コーナリング走行時の制動時のフロントサスペンションの伸び上がりを制御することにより、走行性を改善する自動二輪車の制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平5−338577号には、ブレーキ操作部材と、該ブレーキ操作部材の操作に応じた制動力を車輪ブレーキに機械的に伝達可能な伝達系とを備える自動二輪車のブレーキ装置において、ブレーキ操作部材の操作入力に応じた出力変化が可能なストロークセンサの検知出力に応じてアクチュエータを作動させ、ブレーキ操作力に適切なアシスト力を加える機構が開示されている(特許文献1参照)。
この機構はブレーキ操作終了時にブレーキの引きずりが生じることを防止して良好なブレーキフィーリングを得ることを目的としている。
しかしながら、ブレーキ操作を伴ってコーナリングを行う際は、減速終了後即座にブレーキをリリースするのではなく、ブレーキの入力レベルを徐々に緩めていくことにより、フロントサスペンションの伸び上がり緩やかになるようにコントロールすることで旋回性が向上する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−338577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のようなフロントサスペンションの伸び上がりをコントロールするブレーキ操作は一般的なライダーにとってはスキルが要求される。
図3は制動時におけるフロントサスペンションのストロークの変化とキャリパにおけるキャリパシリンダの圧力変化の関係を示し、横軸はコーナリング走行における制動の開始タイミングと終了タイミングおよび制動時間を、縦軸はキャリパにおけるキャリパシリンダの圧力すなわちキャリパ圧及びフロントサスペンションのストローク量を示す。
【0005】
この図に示すように、コーナリングのため制動を開始すると、キャリパ圧はCP1→CP2と上昇し、CP2で高原状態となってほぼ同じ圧力を維持して最終時のCP3に至る。この間、フロントサスペンションのストローク量も同様に、ST1→ST2→ST3と変化する。ST2〜ST3の間はストローク量が最大、すなわち最も沈み込んだ状態である。
【0006】
なお、CP1とCP2はブレーキを2段操作したことにより現れたものであり、1段操作ならばCP1が生じず一様にCP2まで上昇することになる。また、フロントサスペンションのストローク量も同様にST1が生じず、ST2まで一様に上昇することになる。
【0007】
ライダーが減速操作を完了させ、コーナリングを開始する付近において、ライダーが握っていたブレーキ操作レバー5を解放する。
ブレーキ操作レバーを即座に解放すると、細い2点鎖線Aで示すように、キャリパ圧は開始時t1からその短時間後のt3までの間で急激に減少して0になる。ストローク量も細い1点鎖線Bで示すように、t1からt2(t2<t3)までの間で急激に減少して0になる。すなわちフロントサスペンションの沈み込みが急速に解消されることになる。
【0008】
そこで、本願発明は、熟練を要さずに、コーナー立ち上がり時におけるフロントサスペンションの伸び上がりをコントロールして旋回性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に係る発明は、車速を検出する車速検出手段(17)と、検出された車速に基づいて車輪減速度を求める減速度算出手段(14)と、フロントサスペンション(1)に軸支される前輪のブレーキ操作量を検出するブレーキ操作量検出手段(19)と、ブレーキ操作量に応じて車輪に制動力を与えるブレーキ作動部(7)と、ブレーキ作動部(7)へ所定の液圧を付与する液圧制御手段(12)を備える自動二輪車のブレーキ装置において、
前記減速度算出手段(14)によって算出される減速度が0より大きく、
ブレーキの操作量変化率が所定の割合を上回ってブレーキ操作量が減じられたときに、
前記液圧制御手段(12)によってブレーキ作動部への液圧をブレーキ操作量による制動力よりも大きくするように液圧コントロールすることを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の発明は、車速を検出する車速検出手段(17)と、検出された車速に基づいて車輪減速度を求める減速度算出手段(14)と、フロントサスペンション(1)に軸支される前輪のブレーキ操作量を検出するブレーキ操作量検出手段(19)と、ブレーキ操作量に応じて車輪に制動力を与えるブレーキ作動部(7)と、ブレーキ作動部へ所定の液圧を付与する液圧制御手段(12)を備える自動二輪車のブレーキ装置において、
前記減速度算出手段(14)によって算出される減速度が所定値より大きいときに、
ブレーキ操作量が減じられたタイミングから所定時間、前記液圧制御手段(12)によってブレーキ作動部(7)への液圧を徐々に減少させるように液圧コントロールすることを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、ブレーキ操作手段(5)により液圧を発生するマスタシリンダ(6)と、このマスタシリンダ(6)と別に設けられて前記液圧制御手段(12)に接続された液圧モジュレータ(25)とを備え、前記ブレーキ操作量検出手段(19)により検出されるブレーキ操作量は、前記ブレーキ操作手段(5)により作動するマスタシリンダ(6)と前記液圧モジュレータ(25)間のマスタシリンダ圧であることを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれかに記載の発明において、スロットル開度が所定開度以上になったときに前記液圧コントロールを終了させることを特徴とする。
【0013】
請求項5記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記液圧モジュレータ(25)がアンチロックブレーキ制御用であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明によれば、コントロールユニットは、車速検出手段及び減速度算出手段が算出した車速及び減速度に基づき、車速が0か否かにより走行状態か否かを判定し、減速度が0より大きいとき制動状態と判断する。また、ブレーキ操作量検出手段に基づくブレーキ操作量の変化率が所定の割合を超えて減じられたとき、急激な制動解除と判断する。そこで、走行状態かつ制動状態であって、しかも、急激な制動解除がされたと判断したときは、液圧制御手段によってブレーキ作動部への液圧をブレーキ操作量による制動力よりも大きくするように液圧コントロールする。
これにより、例えば、コーナリング中にブレーキを即座に解放しても、液圧ブレーキの制動力が維持されるので、フロントサスペンションの伸長が緩やかになるようにコントロールすることができる。
【0015】
請求項2記載の発明によれば、減速度が大きいときは、ブレーキ操作量の減少開始時から所定時間、液圧制御手段を制御してブレーキ作動部への液圧を徐々に減少させるように液圧コントロールするので、ブレーキを即座に解放しても、制動力が徐々に減少するようになり、急激な制動力の低下を防ぐので、請求項1記載の発明と同様に、フロントサスペンションの伸び上がりを緩やかにすることができる。
【0016】
請求項3記載の発明によれば、マスタシリンダと液圧モジュレータ間のマスタシリンダ圧を検出するだけでブレーキ操作量を検出できるので、簡単な構成でブレーキ操作量を検出できようになる。
【0017】
請求項4記載の発明によれば、ブレーキ液圧制御手段はスロットル開度が所定開度以上で作動を終了するので、例えばコーナリング中における遠心力とフロントサスペンションの伸びが釣り合ったパーシャル状態あるいは加速状態にあるときに乗車フィーリングが悪化するのを防止することができる。
【0018】
請求項5記載の発明によれば、アンチロックブレーキ(ABS)装置の液圧制御機構をそのまま利用できるので、既存のABS装置を用いて簡単に構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態(図1〜10)に係るブレーキ制御装置の概略構成図
【図2】ブレーキ制御装置における制御プログラムのフローチャート
【図3】コーナリング中の制動時におけるキャリパ圧とストロークの関係を示す図
【図4】他の制御プログラムを示すフローチャート
【図5】圧力制御部として液圧モジュレータを設けた制動装置を示す概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る自動二輪車のブレーキ制御装置について説明する。
【実施例1】
【0021】
図1は本実施形態に係るブレーキ制御装置の概略構成図であり、図中、Wf、Wrは自動二輪車における前輪、後輪である。自動二輪車においては車体フレームの前部に前輪Wfがフロントサスペンション1を介して軸支されており、後輪Wrが、リヤサスペンションを介して車体フレーム後部に支持されている。
自動二輪車のブレーキ装置は、前輪Wfを制動する前輪制動部2と、後輪Wrを制動する後輪制動部3とから構成される。
【0022】
前輪制動部2、後輪制動部3は、作動液の圧力により制動する液圧ブレーキから構成されており、前輪制動部2は、主として、自動二輪車のハンドル4の一方の端部に取り付けられたブレーキ操作量入力部材としてのブレーキ操作レバー5により駆動されるマスタシリンダ6と、キャリパ7とから構成されている。キャリパ7は、キャリパシリンダ8と、キャリパ7に固定された摩擦パッド(図示せず)とを有し、キャリパシリンダ8に固定された一対の摩擦パッドによりブレーキディスク9の外周両側部を挟み込み、これら摩擦パッドとブレーキディスク9との間に発生する摩擦力によって機械的に制動する。キャリパ7は、例えば、前輪Wfを支持する車軸10の端部等に、図示しないブラケットを介して固設されている。
【0023】
前輪制動部2において、マスタシリンダ6とキャリパシリンダ8とは、連通路11を介して互いに連通しており、連通路11には圧力制御部としての圧力制御部12が連通される。
圧力制御部12には連通路11を開閉自在に絞る弁13が設けられる。弁13はコントロールユニット14に接続されており、コントロールユニット14は、キャリパシリンダ8に対する加圧状態にて、弁13を閉弁させることにより連通路11を絞るとキャリパシリンダ8における作動液の圧力降下を緩慢とし、弁13を開弁させることによってキャリパシリンダ8における作動液の圧力を減少させる。
【0024】
このため、制動終了をするためブレーキ操作レバー5を解放した後におけるキャリパシリンダ8の圧力低下を抑制することが可能となり、圧力低下の抑制によってコーナリング走行時におけるフロントサスペンション1の伸び上がりを穏やかにすることができる。
【0025】
コントロールユニット14は、例えば、演算処理を行うCPU、データを記憶するメモリ、メモリ上のデータを保持するバックアップ電源を備えて構成されており、前輪Wfおよび後輪Wrを制動するためのブレーキディスク9と同心かつ一体に並設されたリング体15の複数の凸部16を、車輪速度センサ17、17aを介してパルス的に検出し、これら検出値から前輪Wfおよび後輪Wrの回転速度Vwを算出する。また、コントロールユニット14は、前輪Wfおよび後輪Wrの回転速度Vwから自動二輪車の車速Viを算出する。なお、凸部16は、リング体15の外周面に周方向に等間隔を隔てて設けられており、車輪速度センサ17,17aは、リング体15の凸部16から所定距離離れた位置で凸部16を検出しそのパルス信号をコントロールユニット14に入力する。
【0026】
また、コントロールユニット14には、検出系として、キャリパ7の圧力を検出するためのキャリパ圧センサ18、マスタシリンダ圧を検出するためのマスタシリンダ圧センサ19、エンジンのスロットル開度を検出するスロットル開度センサ20が接続されるとともに、横Gセンサ、ジャイロ等、コーナリング走行を検出するためセンサが接続されている。
また、連通路11におけるキャリパ圧センサ18及びマスタシリンダ圧センサ19で液圧を検出するので、マスタシリンダ6と液圧モジュレータ25間のマスタシリンダ圧を検出するだけでブレーキ操作量を検出できるようになり、簡単な構成でブレーキ操作量を検出できようになる。
【0027】
後輪制動部3は、前輪制動部2と同様に、キャリパ7a及びブレーキディスク9aを備える。キャリパ7aのキャリパシリンダ8aとブレーキペダル22aに連結されたマスタシリンダ6aとが接続され、ブレーキペダル22aを踏むことにより、マスタシリンダ6aから液圧をキャリパシリンダ8aへ与えて制動するようになっている。
【0028】
ここで、車輪速度センサ17、17aは本願発明における車速検出手段、コントロールユニット14は減速度算出手段、マスタシリンダ圧センサ19はブレーキ操作量検出手段、キャリパ7、7aはブレーキ作動部、液圧制御部12は液圧制御手段、にそれぞれ相当する。
【0029】
図2はコントロールユニット14のメモリに保持されている制御プログラムのフローチャートである。コントロールユニット14は、自動二輪車の車速、ブレーキ操作レバー5によるブレーキ操作量、アクセル開度等の走行条件、運転条件に基づいて制御を実行する。
また、横Gセンサ、車体角センサ、ジャイロセンサ、ハンドル操作角等のコーナリングを検出できるセンサにより、現在の走行状態がコーナリング走行であるか、それ以外の走行であるかを判別する。
【0030】
この制御プログラムを図1および図3を参照して説明すると、まず、ステップS1において、車輪速度センサ17により前輪Wfおよび後輪Wrの回転速度の検出が実行されるとともに、マスタシリンダ圧Pm、キャリパ圧力Pc、スロットル開度Thの検出が実行される。また、前輪Wfおよび後輪Wrの回転速度Vwが算出されるとともに、前輪Wfおよび後輪Wrの回転速度から自動二輪車の車速Viが算出される。
【0031】
ステップS2においては、コントロールユニット14がマスタシリンダ圧センサ19を介してブレーキ操作レバー5のブレーキ操作量を検出し、ブレーキ操作量の変化率からブレーキ操作量の変化率、すなわち、マスタシリンダ圧減少率ΔPmを算出する。また、前輪Wfの回転速度(車輪速度)Vwに基づいて減速度αを算出する。続いてステップS3に進む。
【0032】
ステップS3では、コントロールユニット14が、減速度αが0よりも大きいか否かを判定する。減速度αが0よりも大きいとき(Y)、コントロールユニット14は、減速中であると判定してステップS4に進む。減速度αが0以下のとき(N)、コントロールユニット14は、減速中でないと判定してステップS8に進む。
【0033】
ステップS4では、車速Vi、減速度α、キャリパ圧力Pc等、運転状態、制動状態を検出し、車速Vi、減速度α、キャリパ圧力Pc、横Gセンサの検出値等からマスタシリンダ圧許容減少率ΔPLを算出する。
【0034】
ステップS5では、コントロールユニット14にて、マスタシリンダ圧減少率ΔPmがマスタシリンダ圧許容減少率ΔPLよりも大きいか否かを判定し、マスタシリンダ圧減少率ΔPmがマスタシリンダ圧許容減少率ΔPLよりも大きいと判定されるとき、すなわち、マスタシリンダ圧が急激に減少したと判定されると、ステップS6に進む。
【0035】
マスタシリンダ圧減少率ΔPmがマスタシリンダ圧許容減少率ΔPLよりも小さいときは、フロントサスペンションの急激な伸び上がりは発生しないため、ブレーキ液圧制御は行われず、ステップS8へ進む。
【0036】
ステップS6では、ブレーキ液圧制御をONとするブレーキ液圧制御を実行する。
このブレーキ液圧制御では、連通路11と圧力制御部12との接続部を開閉する弁13を閉又は開度を小さくする。これにより、連通路11の通路面積が絞られるため、
ブレーキの操作量変化率が所定の割合を上回ってブレーキ操作量が減じられたときに、
前記液圧制御手段によってブレーキ作動部への液圧をブレーキ操作量による制動力よりも大きくするように液圧コントロールすることによってキャリパシリンダ8の圧力降下を緩慢にする。
【0037】
ステップS6でブレーキ液圧制御をONすると、ステップS7に進んでスロットル開度がThが所定値TAよりも大きいか否かを判定する。この判定においてスロットル開度Thが所定値TAよりも大きいとき(Y)、コントロールユニットは、自動二輪車がコーナリングの出口に付近に到達し、コーナリング走行から直線走行のための加速操作に移行したものと判定してステップS8へ進む。スロットル開度Thが所定値TA以下の場合(N)は、スロットル開度Thが所定値TAよりも大きくなるまでこの判定を反復する。
【0038】
このように、ブレーキ液圧制御手段はスロットル開度Thが所定開度以上で作動を終了するので、例えばコーナリング中における遠心力とフロントサスペンションの伸びが釣り合ったパーシャル状態あるいは加速状態にあるときに乗車フィーリングが悪化するのを防止することができる。
【0039】
ステップS3、ステップS5及びステップS6のいずれかにおける判定結果がN(NO)のときは、コントロールユニットは、ステップS8に進み、ブレーキ液圧制御をOFFする。このブレーキ液圧制御OFF場合、コントロールユニット14は、前記弁13に開弁信号を出力し、弁13の開作動により連通路11と圧力制御部12とを連通する。マスタシリンダ6の圧力、キャリパシリンダ8を含めた連通路11の圧力は連通路11と圧力制御部12との連通により低下するので、ブレーキの引きずりが防止され違和感のない加速が行われる。また、弁13を開とすることにより、ブレーキ操作レバー5を握れば、マスタシリンダ6からキャリパシリンダ8へ液圧を加える通常のブレーキ操作が可能になる。
【0040】
図3に示すように、本実施形態に係るキャリパ圧の変化は、直線C→Dに沿い、ストローク量の変化は直線E→F→Gに沿うものとなる。
すなわち、時間t1にて、ライダーがブレーキ操作レバー5を解放して制動を停止すると、同時にブレーキ液圧制御が開始される。このとき、キャリパ圧はまずCP3からCP4まで急降下するが、これは制御開始条件を検知するまでのタイムラグによるものであり、この圧力降下は僅かであるため、フロントサスペンションのストローク量変化にあまり影響しない。
【0041】
CP4にて緩傾斜の直線Cに移行し、その後の時間t4(t4>t3)まで緩慢に降下してCP5になる。CP5からは再び急角度の直線Dとなって急降下し、時間t4の若干後のt5にて0になる。このCP4からCP5へ降下するまでに時間t3からt4まで比較的長い時間が経過するため、この間でストローク量は直線EのようにST3からST4へとゆっくり変化してフロントサスペンションの伸びを抑制する。直線Dによる急降下は後述するパーシャル状態にあるため、ストローク量の変化に影響しない。
【0042】
ST4はt4の段階であり、ここまでフロントサスペンションが伸びると、以後t6までのしばらくの間はほぼ水平の直線Fとなる。この状態は、旋回時の遠心力とフロントサスペンションの長さ状態が釣り合ったパーシャル状態であるため、フロントサスペンションのストローク量が変化しない。
【0043】
その後、時間t6になると、ストローク量はST4とほぼ同じST5であるが、ここからコーナー脱出時の加速状態となって、直線Gとなり、その後の時間t7にて0となる。
【0044】
このように、本実施形態の液圧制御によれば、ブレーキ操作レバー5を即座に放しても、キャリパ圧が急激に減少することはなく、ブレーキ操作による直線Aのようなキャリパ圧の急降下は生じず、ストローク量も直線Bのような急降下を生じず、フロントサスペンションの急激な伸び上がりを抑制できる。
【実施例2】
【0045】
図4は実施形態2における制御プログラムのフローチャートである。この実施形態は前実施形態と同じブレーキシステムにおいてコントロールユニットの制御プログラムのみを変更したものである。したがって、実施形態1に引き続いて説明する。
【0046】
ステップS10では、コントロールユニット14が、車輪速度センサ17により前輪Wfおよび後輪Wrの回転速度をパルス的に検出し、マスタシリンダ圧Pm、キャリパ圧力Pc、スロットル開度Thを検出する。また、前輪Wfおよび後輪Wrの回転速度Vwを算出するとともに、前輪Wfおよび後輪Wrの回転速度Vwから自動二輪車の車速Viを算出する。算出を終了すると、ステップS11に進む。
【0047】
ステップS11では、コントロールユニット14がブレーキ操作レバー5のブレーキ操作よるブレーキ操作量をマスタシリンダ圧センサ19により検出し、ブレーキ操作量の変化率からブレーキ操作量の変化率、すなわち、マスタシリンダ圧減少率ΔPmを算出する。また、前輪Wfの回転速度(車輪速度)Vwに基づいて減速度αを算出する。
【0048】
続くステップS12では、減速度αが所定値Aよりも大きいか否かを判定する。
減速度αが所定値Aよりも大きいとき、コントロールユニット14は、減速中であると判定し、ステップS13に進んで上述の液圧ブレーキ制御をONとし、ブレーキ液圧制御を実行する。つまり、この制御では、ライダーのブレーキ操作量の変化率、すなわちマスタシリンダ圧減少率ΔPmと、マスタシリンダ圧許容減少率ΔPLとの関係を考慮せず、減速度が所定値Aを超える場合はステップS13に進んでブレーキ液圧制御を一律に実行する。
【0049】
ブレーキ液圧制御では、上述したように、連通路11と圧力制御部12との接続部を開閉する弁13を閉作動し、接続部の開度を小から全閉の間で制御する。
キャリパシリンダ8、マスタシリンダ6を含めた連通路11の容積を実質的に減少させ、容積の減少により、連通路11の圧力の保持ないし連通路の圧力低下を抑制する。
【0050】
この結果、図3に示すように、キャリパ圧は実施形態1におけるようなタイムラグがなく直線Hに沿ってCP3からCP5へ緩慢降下する。CP5からは実施形態1と同じ直線Dに沿う。また、ストローク量は実施形態1と同様に直線E・F・Gに沿って変化する。
したがって、実施形態2の場合も旋回半径が小さなままでコーナリングを行うことができる。しかも、実施形態1の場合と異なり、液圧制御を一律に開始するので、タイムラグの発生を防止できる。
【0051】
ステップS13を終了すると、コントロールユニット14は、ステップS14に進む。
ステップS14では、コントロールユニット14がによって、スロットル開度Thが所定値TAよりも大きいか否かを判定する。判定の結果、所定値TAよりもスロットル開度が大きいときは、コントロールユニット14は、コーナーの立ち上がりとなり加速に移行したものと判定して、ブレーキ液圧制御をOFFとし、弁13の開弁により圧力制御部12と連通路11とを連通する。その結果、加速走行の際のブレーキの引きずりが防止される。
【実施例3】
【0052】
次に、本発明に係る自動二輪車の制動装置の他の実施形態を説明する。なお、本実施形態の説明において、実施形態1と同一の構成については同一符号を付す。
図5は、圧力制御部として液圧モジュレータを設けた自動二輪車の制動装置を示す概略構成図である。ブレーキ制御装置は、コントロールユニット14に接続された液圧モジュレータ25が制御されることにより最適な制動力を得る。液圧モジュレータ25はアンチロックブレーキシステム(ABS)をなしている。
【0053】
前輪制動部2は、主として、自動二輪車のハンドル4の一方の端部に取り付けられたブレーキ操作レバー5により駆動されるマスタシリンダ6と、前輪Wfを制動するキャリパシリンダ8とを備えて構成される。マスタシリンダ6とキャリパシリンダ8とは、液圧モジュレータ25を介して互いに接続される。
【0054】
マスタシリンダ6は、ブレーキ操作レバー5の作用下に油圧の調節を行って後述するカットバルブ13aに伝達するように構成されており、カットバルブ13aを通して制御された油圧をキャリパシリンダ8へ加えて、ABS制御並びに立ち上がり制御をおこなうようになっている。カットバルブ13aは、実施形態1及び2の弁13に対応する。
【0055】
コントロールユニット14は、車輪速度センサ17,17aがリング体15の凸部16を検出する出力信号に基づいて車輪の回転速度及び減速度を算出し、さらに減速度に基づいて目標スリップ率を算出し、この目標スリップ率に収束させるよう、カットバルブ13aを制御して液圧を断続的にキャリパシリンダ8へ加えて断続的に制動するようになっている。
【0056】
カットバルブ13aは、カットバルブ収納部38に対して上下変位自在に配置されており、カットバルブ13aの上面にマスタシリンダ6とキャリパシリンダ8とを連通する連通路11のマスタシリンダ側に入力ポート39が設けられ、カットバルブ収納部38とエキスパンダピストン37との連設部位に、連通路11のキャリパシリンダ8側に連通する出力ポート40が設けられる。
【0057】
カットバルブ13aの入力ポート39と出力ポート40とは、カットバルブ13aの外周面に画成された連通孔41を介して連通されている。
通常時には、リターンスプリング36の弾発力によってクランクピン32は予め設定された上限位置に保持され、このクランクピン32に装着されたカムベアリング35がエキスパンダピストン37を押し上げた状態で維持されている。これにより、カットバルブ13aがエキスパンダピストン37によって押し上げられ、入力ポート39と出力ポート40とが連通される。
【0058】
そこで、ブレーキ操作レバー5が把持されることによりマスタシリンダ6が付勢され、マスタシリンダ6によって発生したブレーキ油圧は、入力ポート39および出力ポート40を介してキャリパシリンダ8に伝達され、ブレーキディスク9に制動力が付与される。
【0059】
後輪制動部3において、後輪Wrの液圧モジュレータ25aは、後輪Wrのブレーキペダル22aに連結されたマスタシリンダ6aと後輪Wrのディスクプレート9aに連結されたキャリパシリンダ8aとが連通される。なお、液圧モジュレータ25aは上述した液圧モジュレータ25と同じ構成なので、ここではその詳細な説明を割愛する。
【0060】
この制動装置においても図2、図4を参照して説明した本制御プログラムをコントロールユニット14が実行し、減速後、ブレーキ操作レバー解放時のフロントサスペンション1の急激な伸び上がりを抑制し、旋回時の自動二輪車の旋回半径の増加を防止する。すなわち、コントロールユニット14は、コーナリング走行以外の他の走行においては、ABS制御を実行するが、同時に本制御も実行するようになっている。
減速操作を伴ったコーナリング走行の場合、コントロールユニット14は、ABS制御に代わり本制御を実行する。コーナリング走行か否かの判定は、前述したように、横Gセンサ等により判定する。
【0061】
エキスパンダピストン37が所定量上昇すると、カットバルブ13aが弁座から離脱し、これによって入力ポート39と出力ポート40との間が連通される。エキスパンダピストン37を上昇させると、出力ポート40が絞られる。この結果、ブレーキ操作レバー5を即座に解放したときのキャリパシリンダ8側の連通路11における急激な圧力低下が抑制され、フロントサスペンション1の伸び上がり(伸長)をゆるやかにすることができる。
【0062】
コントロールユニット14は、ブレーキ液圧制御を終了すると、図2のステップS7、図4のステップS6で説明したように、スロットル開度センサ20によりスロットル開度Thを検出し、スロットル開度Thが所定値TAよりも大きいか否かを判定する。判定の結果、スロットル開度Thが所定値TAよりも大きいときは、前述したように、減速操作が終了し加速操作に移行したものとしてブレーキ液圧制御をOFFとする。続いて、横Gセンサ等、コーナリング走行を検出するセンサの検出値により、この制御を繰り返すか、ABS制御を実行するかを判定し、対応する制御を実行する。
【0063】
このように、本実施形態では、ABS装置である液圧モジュレータ25をそのまま液圧制御手段に利用できるので、既存のABS装置を用いて液圧制御手段を簡単に構成できる。
【符号の説明】
【0064】
1:フロントサスペンション、6:マスタシリンダ、7:キャリパ、8:キャリパシリンダ、9、9a:ディスクブレーキ、12:圧力制御部、13:弁、13a:カットバルブ、14:コントロールユニット(速度算出手段)、17、17a:車輪速度センサ(車速検出手段)、19:マスタシリンダ圧センサ(ブレーキ操作量検出手段)、25:液圧モジュレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車速を検出する車速検出手段(17)と、検出された車速に基づいて車輪減速度を求める減速度算出手段(14)と、フロントサスペンション(1)に軸支される前輪のブレーキ操作量を検出するブレーキ操作量検出手段(19)と、ブレーキ操作量に応じて車輪に制動力を与えるブレーキ作動部(7)と、ブレーキ作動部(7)へ所定の液圧を付与する液圧制御手段(12)を備える自動二輪車のブレーキ装置において、
前記減速度算出手段(14)によって算出される減速度が0より大きく、
ブレーキの操作量変化率が所定の割合を上回ってブレーキ操作量が減じられたときに、
前記液圧制御手段(12)によってブレーキ作動部への液圧をブレーキ操作量による制動力よりも大きくするように液圧コントロールすることを特徴とする自動二輪車のブレーキ装置。
【請求項2】
車速を検出する車速検出手段(17)と、検出された車速に基づいて車輪減速度を求める減速度算出手段(14)と、フロントサスペンション(1)に軸支される前輪のブレーキ操作量を検出するブレーキ操作量検出手段(19)と、ブレーキ操作量に応じて車輪に制動力を与えるブレーキ作動部(7)と、ブレーキ作動部へ所定の液圧を付与する液圧制御手段(12)を備える自動二輪車のブレーキ装置において、
前記減速度算出手段(14)によって算出される減速度が所定値より大きいときに、
ブレーキ操作量が減じられたタイミングから所定時間、前記液圧制御手段(12)によってブレーキ作動部(7)への液圧を徐々に減少させるように液圧コントロールすることを特徴とする自動二輪車のブレーキ装置。
【請求項3】
ブレーキ操作手段(5)により液圧を発生するマスタシリンダ(6)と、このマスタシリンダ(6)と別に設けられて前記液圧制御手段(12)に接続された液圧モジュレータ(25)とを備え、前記ブレーキ操作量検出手段(19)により検出されるブレーキ操作量は、前記ブレーキ操作手段(5)により作動するマスタシリンダ(6)と前記液圧モジュレータ(25)間のマスタシリンダ圧であることを特徴とする請求項1又は2に記載した自動二輪車のブレーキ装置。
【請求項4】
スロットル開度が所定開度以上になったときに前記液圧コントロールを終了させることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載した自動二輪車のブレーキ装置。
【請求項5】
前記液圧モジュレータ(25)がアンチロックブレーキ制御用であることを特徴とする請求項3に記載した自動二輪車のブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−194994(P2011−194994A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63125(P2010−63125)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】