説明

自動変速機の制御装置

【課題】登坂路走行、降坂走行、牽引走行などの走行抵抗が大きく変化しても最適な全開アップ変速が得られるように変速点の学習を行う、車両用自動変速機の変速制御装置を提供する。
【解決手段】基準エンジン回転加速度算出手段74により基準エンジン回転加速度A2が算出され、推定最大エンジン回転速度推定手段72により前記基準エンジン回転加速度A2と変速出力時点におけるエンジン回転加速度A1との関係に基づいて推定最大エンジン回転速度NEcが推定され、学習補正値算出手段80により、前記推定エンジン回転速度NEcと、変速出力時点における目標最大エンジン回転速度NEdとの差分ΔNEとに基づいた学習により、変速点の補正が行われるため、加速度が通常状態よりも異なる場合、すなわち、牽引(トーイング)時や登坂路走行時においても、加速度の大きさに関わらずその変速の際に学習および変速点の補正を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用自動変速機の変速制御装置に係り、特に、牽引時や登坂路走行時などの高負荷時におけるアップ変速時にイナーシャ相開始時点におけるエンジン回転速度が予め設定された目標最大回転速度に可及的に速やかに範囲内となるように変速出力時期を制御する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
変速指令に従って自動変速機のパワーオンアップ変速を実行させる車両において、例えば全開アップ変速時のイナーシャ相開始時点におけるエンジン回転速度が予め設定された範囲内となるように変速出力の時期を制御するための車両用自動変速機の変速制御装置が知られている。例えば、特許文献1に記載された装置がそれである。このような装置では、アクセル開度やスロットル開度が全開(100%)であるときのアップ変速時には、最大出力が得られるように、エンジン回転速度が予め設定されたレッドゾーン域やその上に設定された燃料遮断域内に入らない範囲で高い回転速度となるように設定された変速線(変速パターン)が用いられるとともに、車両の積載量に応じてその変速線が変更され、最適な時期に変速出力が行われるようになっている。
【0003】
一方、上記の変速制御装置を備えた車両が、たとえば登坂路走行、降坂路走行、牽引走行などの走行抵抗の変化の大きい走行状態となると、変速出力後のエンジン回転速度の上昇幅あるいは上昇速度がそれぞれ異なるので、上記のようなエンジン回転速度が予め設定されたレッドゾーン域やその上に設定された燃料遮断域内に入らない範囲で高い回転速度とする最適な全開アップ変速が得られなくなるという問題がある。かかる問題について、特許文献1においては、車両の走行状態に応じた区分を設け、該区分毎に変速点の学習、および補正を行うことで、登坂路走行時や牽引時などの加速度に影響を及ぼす走行状況においても変速点の学習を可能としている。
【0004】
【特許文献1】特開2003− 28284号公報
【特許文献2】特開2004−316845号公報
【0005】
しかしながら、学習区分を設けるにあたり、少ない区分数で学習区分を設けるとすると、区分内における幅広い大きさの加速度に対し、一律の変速点で変速が行われる為、変速精度が悪化するおそれがある。一方、多くの学習区分を設けるとすると、全ての区分における学習完了に多大な日数が掛かるだけでなく、制御装置のメモリ増大化を招くこととなり、変速制御装置のコストアップ等を招くおそれがあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、登坂路走行、降坂走行、牽引走行などのように走行抵抗が大きく変化しても最適なアップ変速が得られるように変速点の学習を行う、車両用自動変速機の変速制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、パワーオン走行時において車速が予め設定された変速点を通過することによってアップ変速出力をするとともに、該変速出力後においても所定期間上昇するエンジン回転速度の最大値が目標最大エンジン回転速度に接近するように求められた学習補正値に基づいて前記変速点を学習補正する形式の車両用自動変速機の制御装置であって、前記パワーオン走行時でのアップ変速出力後のエンジン回転速度の最大値を、車両の加速度に影響しない基準走行状態における値に置換した推定最大エンジン回転速度を推定し、該推定最大エンジン回転速度と前記目標最大エンジン回転速度との偏差に基づいて前記学習補正値を算出する学習制御手段を、含むことにある。
【発明の効果】
【0008】
このようにすれば、前記学習制御手段においては、前記パワーオン走行時でのアップ変速出力後のエンジン回転速度の最大値を、車両の加速度に影響しない基準走行状態における値に置換した推定最大エンジン回転速度を推定し、該推定最大エンジン回転速度と前記目標最大エンジン回転速度との偏差に基づいて前記学習補正値が算出されるので、牽引(トーイング)時や登坂路走行時のように車両の加速度が通常状態よりも異なる場合においても、加速度の大きさに関わらず変速点の学習を正確かつ容易に行うことができる。
【0009】
ここで、好適には、前記基準走行状態とは、車両の空車状態での平坦路走行である。このようにすれば、前記学習制御手段においては、前記パワーオン走行時でのアップ変速出力後のエンジン回転速度の最大値を、車両の空車状態での平坦路走行時における値に置換した推定最大エンジン回転速度を算出し、該推定最大エンジン回転速度と前記目標最大エンジン回転速度との偏差に基づいて前記学習補正値が算出されるので、すなわち、牽引(トーイング)時や登坂路走行時のように車両の加速度が通常状態と異なる場合においても、加速度の大きさに関わらず変速点の学習を行うことができる。
【0010】
また、好適には、前記パワーオン走行は、アクセルぺダルがエンジンに対する最大出力要求状態に操作されている最大加速走行である。このようにすれば、特に変速中の最大エンジン回転速度が目標最大エンジン回転速度に追従することが必要とされるWOT(Wide Open Throttle;全開)変速時において、エンジン回転速度が目標最大エンジン回転速度に到達することなくアップシフトが実行される現象や、エンジン回転速度が許容される最大のエンジン回転速度を超過した状態が継続したままアップシフトが行われる現象の発生を抑止することが可能となり、上記減少に伴う使用者の違和感を低減することができる。
【0011】
好適には、前記学習制御手段は、前記アップ変速出力時点のエンジン回転速度と前記目標最大エンジン回転速度との偏差に、前記基準走行状態における該アップ変速出力時点のエンジン回転加速度と該アップ変速出力時点のエンジン回転加速度との比の値を乗算し、該乗算の積に、前記アップ変速出力時点のエンジン回転速度を加算することにより、前記推定最大エンジン回転速度を算出する推定最大エンジン回転速度算出手段を含む。このようにすれば、前記学習制御手段に含まれる推定最大エンジン回転速度算出手段により、前記アップ変速出力時点のエンジン回転速度と前記目標最大エンジン回転速度との差に、前記基準走行状態における該アップ変速出力時点のエンジン回転加速度と該アップ変速出力時点のエンジン回転加速度との比の値を乗算し、該乗算の積に、前記アップ変速出力時点のエンジン回転速度を加算することにより、前記推定最大エンジン回転速度が算出される。
【0012】
また、好適には、前記学習制御手段は、前記アップ変速出力から該アップ変速のイナーシャ相開始までの時間と前記アップ変速出力時点のエンジン回転速度との積に、前記基準走行状態における該アップ変速出力時点のエンジン回転加速度と該アップ変速出力時点のエンジン回転加速度との比の値を乗算し、該乗算の結果にアップ変速出力時点のエンジン回転速度を加算することにより、前記推定最大エンジン回転速度を算出する推定最大エンジン回転速度算出手段を含む。このようにすれば、イナーシャ相開始までのエンジン回転速度を実際に測定することなく、推定最大エンジン回転速度算出手段により推定最大エンジン回転速度を算出し得る。
【0013】
好適には、前記学習制御手段は、予め記憶された関係から前記推定最大エンジン回転速度と前記目標最大エンジン回転速度との偏差に基づいて前記学習補正値を決定する学習補正値算出手段を含む。このようにすれば、前記学習補正値算出手段において決定される学習補正値は、前記パワーオン走行時でのアップ変速出力後のエンジン回転速度の最大値を、車両の加速度に影響しない基準走行状態における値に置換した推定最大エンジン回転速度と、前記目標最大エンジン回転速度の偏差に基づいて決定されることから、加速度が通常状態よりも異なる場合、すなわち、牽引(トーイング)時や登坂路走行時においても、加速度の大きさに関わらず変速点の学習を行うことができる。
【0014】
好適には、前記学習制御手段は、前記学習補正値算出手段により算出された学習補正値を、予め設定された上限値および下限値の間に制限する補正値制限手段を含む。このようにすれば、前記学習補正値算出手段により算出された学習補正値は、補正値制限手段によって予め設定された上限値および下限値の間に制限されるので、学習結果が大きく変動することがなく、誤学習を防止できる。
【0015】
また、好適には、前記学習補正値算出手段は、前記自動変速機の作動油温度に基づいて前記学習補正値を決定する。このようにすれば、自動変速機の作動油の油温を考慮した変速点の学習がされることから、変速点の補正がより的確なものとなる。
【0016】
さらに好適には、前記学習制御手段は、前記エンジンに対してフューエルカットが実行されたときは、該フューエルカットが実行されたアップ変速時の学習結果を用いないものである。このようにすれば、フューエルカットが行われるような特殊な場合の学習結果を含まなくなり、誤学習を回避し得る。
【0017】
また、好適には、前記学習制御手段は、前記推定最大エンジン回転速度と前記目標最大エンジン回転速度との偏差が大きくなるほど前記変速点が高車速側へずれるように該変速点の学習補正を実行するものである。このようにすれば、前記推定最大エンジン回転速度と前記目標最大エンジン回転速度との偏差が大きくなるほど高車速においてアップ変速出力がされることから、エンジン回転速度が目標最大エンジン回転速度に到達することなくアップシフトが実行される現象や、エンジン回転速度が許容される最大のエンジン回転速度を超過した状態が継続したままアップシフトが行われる現象の発生を抑止することが可能となり、上記減少に伴う使用者の違和感を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施例につき図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明の一実施例である変速制御装置が適用される車両の駆動力伝達装置10を説明する図である。この車両用動力伝達装置10は横置き型自動変速機16を有するものであって、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に採用されるものであり、走行用の駆動力源としてエンジン12を備えている。内燃機関にて構成されるエンジン12の出力は、トルクコンバータ14、自動変速機16、図示しない差動歯車装置、一対の車軸などを介して左右の駆動輪へ伝達されるようになっている。
【0020】
上記トルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車14p、自動変速機16の入力軸32に連結されたタービン翼車14t、および一方向クラッチを介して変速機ケース36に連結された固定翼車14sを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、それ等のポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tの間にはロックアップクラッチ38が設けられており、図示しない油圧制御回路の切換弁によって係合側油室および解放側油室に対する油圧供給が切り換えられることにより、係合状態、スリップ状態、或いは解放状態されるようになっており、完全係合状態とされることによってポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tが一体回転させられるようになっている。
【0021】
上記自動変速機16は、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置22を主体として構成されている第1変速部24と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置26およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置28を主体として構成されている第2変速部30とを同軸線上に有し、入力軸32の回転を変速して出力歯車34から出力する。入力軸32は入力部材に相当するもので、エンジン等の走行用駆動源によって回転駆動されるトルクコンバータのタービン軸などであり、出力歯車34は出力部材に相当するものであり、カウンタ軸を介して或いは直接的に差動歯車装置と噛み合い、左右の駆動輪を回転駆動する。なお、この車両用自動変速機16は中心線に対して略対称的に構成されており、図1では中心線の下半分が省略されている。以下の実施例についても同様である。
【0022】
上記第1変速部24を構成している第1遊星歯車装置22は、サンギヤS1、キャリアCA1、およびリングギヤR1の3つの回転要素を備えており、サンギヤS1が入力軸32に連結されて回転駆動されるとともにリングギヤR1が第3ブレーキB3を介して回転不能に変速機ケース(ハウジング)36に固定されることにより、キャリヤCA1が中間出力部材として入力軸32に対して減速回転させられて出力する。また、第2変速部30を構成している第2遊星歯車装置26および第3遊星歯車装置28は、一部が互いに連結されることによって4つの回転要素RM1〜RM4が構成されており、具体的には、第3遊星歯車装置28のサンギヤS3によって第1回転要素RM1が構成され、第2遊星歯車装置26のリングギヤR2および第3遊星歯車装置28のリングギヤR3が互いに連結されて第2回転要素RM2が構成され、第2遊星歯車装置26のキャリアCA2および第3遊星歯車装置28のキャリアCA3が互いに連結されて第3回転要素RM3が構成され、第2遊星歯車装置26のサンギヤS2によって第4回転要素RM4が構成されている。上記第2遊星歯車装置26および第3遊星歯車装置28は、キャリアCA2およびCA3が共通の部材にて構成されているとともに、リングギヤR2およびR3が共通の部材にて構成されており、且つ第2遊星歯車装置26のピニオンギヤが第3遊星歯車装置28の第2ピニオンギヤを兼ねているラビニヨ型の遊星歯車列とされている。
【0023】
上記第1回転要素RM1(サンギヤS3)は第1ブレーキB1によって選択的にケース36に連結されて回転停止させられ、第2回転要素RM2(リングギヤR2、R3)は第2ブレーキB2によって選択的にケース36に連結されて回転停止させられ、第4回転要素RM4(サンギヤS2)は第1クラッチC1を介して選択的に前記入力軸32に連結され、第2回転要素RM2(リングギヤR2、R3)は第2クラッチC2を介して選択的に入力軸32に連結され、第1回転要素RM1(サンギヤS3)は中間出力部材である第1遊星歯車装置22のキャリアCA1に一体的に連結され、第3回転要素RM3(キャリアCA2、CA3)は前記出力歯車34に一体的に連結されて回転を出力するようになっている。第1ブレーキB1〜第3ブレーキB3、第1クラッチC1、第2クラッチC2は、何れも油圧シリンダによって摩擦係合させられる多板式の油圧式摩擦係合装置である。
【0024】
図2の作動表は、上記各変速段とクラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3の作動状態との関係をまとめたもので、「○」は係合、「◎」はエンジンブレーキ時のみ係合を表している。各変速段の変速比は、第1遊星歯車装置22、第2遊星歯車装置26、および第3遊星歯車装置28の各ギヤ比ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められ、例えばρ1≒0.45、ρ2≒0.38、ρ3≒0.41とすれば、図2に示す変速比が得られ、ギヤ比ステップ(各変速段間の変速比の比)の値が略適切であるとともにトータルの変速比幅(=3.62/0.59)も6.1程度と大きく、後進変速段「Rev」の変速比も適当で、全体として適切な変速比特性が得られる。このように、本実施例の車両用自動変速機16においては、3組の遊星歯車装置22、26、28と2つのクラッチC1、C2および3つのブレーキB1〜B3を用いて前進6段の多段変速が達成されるため、3つのクラッチおよび2つのブレーキを用いる場合に比較して、クラッチが少なくなった分だけ重量やコスト、軸長が低減される。特に、第2変速部30を構成しているシングルピニオン型の第2遊星歯車装置26およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置28はラビニヨ型の遊星歯車列とされているため、部品点数や軸長が一層低減される。
【0025】
図3は、上記自動変速機16の変速を制御するための自動変速制御装置として機能する電子制御装置40の入出力を示す図である。図3において、イグニションスイッチからのスイッチオン信号、エンジン回転センサからのエンジン回転速度NEを示す信号、エンジン水温センサからのエンジン水温Twを示す信号、エンジン吸気温度センサからのエンジン吸気温度Taを示す信号、スロットル開度センサからのスロットル開度θthを示す信号、アクセル開度センサからのアクセル開度θaccを示す信号、ブレーキスイッチからのブレーキ操作を示す信号、車速センサからの車速Vを示す信号、シフトレバー位置センサからのシフトレバーの前後位置を示す信号、シフトレバー位置センサからのシフトレバーの左右位置を示す信号、タービン回転センサからのタービン翼車14tの回転速度Ntを示す信号、自動変速機16の出力歯車(出力軸)の回転速度Noutを示す信号、自動変速機16の油温Toilを示す信号、変速パターン切換スイッチの操作位置を示す信号、ABS用電子制御装置からの信号、VSC/TRCの用電子制御装置からの信号、A/C用電子制御装置からの信号などが電子制御装置40に入力される。
【0026】
上記電子制御装置40は、たとえばCPU、ROM、RAM、インターフェースなどを含む所謂マイクロコンピュータであって、予めROMに記憶されたプログラムに従って入力信号を処理し、スタータへの駆動信号、燃料噴射弁への燃料噴射信号、自動変速機16の変速制御用オンオフ弁のソレノイドへの信号、自動変速機16の油圧制御用リニヤソレノイド弁のソレノイドへの信号、シフトポジション表示器への表示信号、ABS用電子制御装置への信号、VSC/TRC用電子制御装置への信号、A/C用電子制御装置への信号などをそれぞれ出力する。
【0027】
上記電子制御装置40は、たとえば、たとえば図4に一部を示す予め記憶された変速線図から実際の車速Vとアクセル開度θaccまたはスロットル開度θthとに基づいて変速判断し、判断された変速を実行させるための変速制御用オンオフ弁を駆動するための変速出力を行う。たとえば図4の1→2変速線の最大アクセル開度θaccmax側は、平坦値走行においてアクセル開度θaccまたはスロットル開度θthが100%またはその付近である全開スロットル時のアップ変速である全開アップ変速に際しては、車両の最大駆動力(出力)が得られるように設定されている。また、電子制御装置40は、たとえば登坂路走行、降坂走行、牽引走行などの走行抵抗が大きく変化した走行状態における全開アップ変速に際しても、車両の最大駆動力(出力)を得るため、エンジン回転速度NEが予め設定されたレッドゾーン域またはその上に設定された燃料遮断域内に入らない範囲で高い回転速度となるように、最適な時期に変速出力を行うか、或いは予め設定された変速線(変速パターン)を変更し、以後の全開アップ変速において最適な時期に変速出力が行われるようする。すなわち、実行された変速の結果に基づいて、最適な変速出力の時期を学習制御する。
【0028】
図5は、上記電子制御装置40の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図5において、電子制御装置40は、その機能面から、変速制御手段50と、学習制御手段70に大きく分けられる。変速制御手段50は、変速線図を予め記憶する変速線図記憶手段52と、その変速線図記憶手段52に記憶された変速線図から車両走行状態たとえば実際の車速Vとアクセル開度θaccまたはスロットル開度θthとに基づいて変速判断する変速判断手段54とを備え、その判断された変速を実行させるための変速制御用オンオフ弁を駆動するための変速出力を行う。
【0029】
学習制御手段70は、後述する推定最大エンジン回転速度算出手段72、基準エンジン回転加速度算出手段74、エンジン回転加速度算出手段76、学習補正値算出手段80、補正値制限手段82等を備え、これらの手段により、実際の走行における変速により学習を行い、その結果に応じて前記変速線図記憶手段52に記憶された変速線図を補正する。すなわち、学習制御手段70は、パワーオン走行時でのアップ変速出力後のエンジン回転速度の最大値を、車両の加速度に影響しない基準走行状態における値に置換した推定最大エンジン回転速度を推定し、該推定最大エンジン回転速度と前記目標最大エンジン回転速度との偏差に基づいて前記学習補正値を算出する。
【0030】
基準エンジン回転加速度算出手段74は、予め実験的に求められ且つ記憶された関係から、車両の走行状態たとえば車速V、スロットル開度θth、自動変速機16の入力トルクTinの少なくとも1つに基づいて、基準走行状態におけるアップ変速出力時点のエンジン回転加速度(以下、「基準エンジン回転加速度」ともいう。)A2の変速出力時点における値が算出される。ここで、基準エンジン回転加速度とは、車両が車両の加速度に影響を及ぼさない基準走行状態、たとえば、人および貨物を搭載していない空車であって0%の勾配の路面を走行している状態におけるエンジン12の加速度であって、本実施例においては、上記変速出力時点の走行状態にから算出される基準走行状態におけるエンジン回転加速度A2である。
【0031】
エンジン回転加速度算出手段76は、変速出力時点における、エンジン12の回転加速度Aを算出する。本実施例においては、エンジン回転加速度Aの値はエンジン12に設けられたエンジン回転速度センサ46によって検出されたエンジン回転速度NEの微小単位時間あたりの変化量dNE/dtを逐次算出することによって得られる。なお、通常、エンジン回転速度NEは変動(ノイズ)が大きいので、この際、図示しない平滑化フィルタなどにより、その移動平均などのフィルタ処理がされた後のエンジン回転速度NEが用いられる。
【0032】
推定最大エンジン回転速度算出手段72は、前記基準エンジン回転加速度算出手段74によって算出された基準エンジン回転加速度A2における推定最大エンジン回転速度NEcを算出する。具体的には、推定最大エンジン回転速度算出手段72は、前記基準エンジン回転加速度算出手段74によって算出された基準エンジン回転加速度A2および、前記エンジン回転加速度算出手段76によって算出されたアップ変速出力時点のエンジン回転加速度A1、エンジン回転速度センサ46により検出されたアップ変速出力時点におけるエンジン12の回転速度NE1、および前記アップ変速実行中のイナーシャ相開始時点におけるエンジン12の回転速度NE2から、次の式(1)により求められる。(図12参照)
NEc=NE1+(NE2−NE1)×A2/A1 ・・・(1)
【0033】
補正値制限手段82は、後述する学習補正値算出手段80の実行中に適宜実行されるものであって、学習補正値算出手段80において用いられる1回あたりの変速点学習値ΔG、および/または、学習後の全体学習量G(N)の値が、予め定められた範囲を超えていないかが判定され、前記範囲を超えている場合には、それらの値を前記範囲を満たすような制限を加える。例えば、前記ΔGについて考えると、後述する学習補正値算出手段80において算出される1回あたりの変速点学習値ΔGは、算出された後、実際の学習に用いられる前に本補正値制限手段82に渡される。そして、ΔGが、予め定められた2つの定数ΔGmin、ΔGmaxによって、ΔGmin≦ΔG≦ΔGmaxのように定められた前記範囲を超えているか否かを判定し、ΔGが前記範囲の上限ΔGmaxを上回っている場合にはΔG=ΔGmaxとし、ΔGが前記範囲の下限ΔGminを下回っている場合にはΔG=ΔGminとする、いわゆるガード処理を行う。一方、ΔGが前記範囲を満たす場合には、特別な処理を行わない。以上の処理が行われたΔGが学習値補正手段80に戻され、実際の学習が行われることとなる。また、学習後の全体学習量G(N)の場合は、後述する学習補正値算出手段80によって算出された全体学習量G(N)算出された後、変速点の補正に用いられる前に本補正値制限手段82に渡される。そして、G(N)が、予め定められた2つの定数Gmin、Gmaxによって、Gmin≦G(N)≦Gmaxのように定められた前記範囲を超えているか否かを判定し、G(N)が前記範囲の上限Gmaxを上回っている場合にはG(N)=Gmaxとし、G(N)が前記範囲の下限Gminを下回っている場合にはG(N)=Gminとする、ガード処理を行う。一方、G(N)が前記範囲を満たす場合には、特別な処理を行わない。以上の処理が行われたG(N)が学習値補正手段80に戻され、その後変速点の補正が行われる。
【0034】
学習補正値算出手段80は、1回の変速が行われる毎に、前記推定最大エンジン回転速度算出手段72により算出された推定最大エンジン回転速度NEcと、目標最大エンジン回転速度NEdとの偏差ΔNEを算出し、その偏差ΔNEの大きさに応じた学習を行い、前記変速線図記憶手段52に記憶された変速点を補正する。ここで、目標最大エンジン回転速度NEdは、変速に伴うイナーシャ相の開始時点前後において、エンジン12の回転速度がその値を超えることがなく、かつできる限りその値に近づくように、予め設定された回転速度であり、たとえば、エンジン12の耐久性が損なわれないように設定されている燃料遮断回転速度NEfcutよりも低い側、好適にはそれよりも低く設定されているエンジン12のレッドゾーンの下限値NEredよりも所定値だけ低い側においてそれに近い値となるように設定されている。
【0035】
具体的にはまず、前記算出された偏差ΔNEに基づき、1回あたりの変速点学習値ΔG(=K×ΔNE、但しKは学習の重みを決定する学習補正係数であって、予め与えられる。)を決定する。そして、このようにして算出され、必要に応じて前記補正値制限手段82によってガード処理のされたΔGを前回の変速時までの全体学習量G(N−1)に加える事により、今回の変速における学習を加えた全体学習量G(N)(=G(N−1)+ΔG)とする。そして、算出された全体学習量G(N)に対し、必要に応じて前記補正値制限手段82によってガード処理がされる。
【0036】
変速点補正手段84は、前記学習補正値算出手段80によって算出され、必要に応じて前記補正値制限手段82によってガード処理がされた全体学習量G(N)に基づいて、変速線図記憶手段52に記憶された変速線図の補正を行う。すなわち、前記学習された全体学習量G(N)により、たとえば図4の変速線を実線から破線へ修正してアップ変速点たとえば1→2アップ変速点を学習によって補正し、これにより判断される全開アップ変速において登坂路走行、降坂走行、牽引走行などの走行抵抗が大きく変化した走行状態に拘わらず最大出力が得られるようにする。
【0037】
このとき、変速点の補正は、前記推定最大エンジン回転速度NEcと前記目標最大エンジン回転速度NEdとの偏差ΔNEが大きくなるほど、高車速側へ大きくずれるようにされるものである。すなわち、図4における補正は、ΔNEが負の値となった場合であって、元の変速点から低車速側へ補正された場合を示している。また、学習に際し、学習補正値算出手段80に与えられるのはΔNEはエンジン回転速度の偏差である一方、学習補正値算出手段80が実際に学習を行う値である1回あたりの学習量ΔG、および学習補正値算出手段80によって算出され、変速点補正手段84によって変速点の補正を行う際に用いられる値である全体学習量G(N)は図4に示されるように車速であるから、これらの次元は異なるものであるが、前記学習補正係数Kによって学習の重みの決定がされるのと同時に、あるいは特に示されない方法によって別途、変換されればよい。
【0038】
図7は、前記電子制御装置40の制御作動の要部すなわち全開アップ変速点補正制御を説明するフローチャートである。図7において、ステップ(以下、ステップを省略する)SA1では、本ルーチンの実行条件が成立したか否かが判断される。この実行条件とは、たとえば、スロットル開度θthが全開(たとえば100%またはその近傍の値)であり、油温Toilが所定値以上の自動変速機暖機状態であり、エンジン水温Twが所定値以上のエンジン暖機状態であり、エンジン回転速度センサなどが正常であり、全開アップ変速に関与する油圧式摩擦係合装置が正常であることである。上記SA1の判断が否定される場合はその状況において変速が実行されても、その際の変速点の学習については実行されず、本フローチャートは終了する。正常な状態における変速ではなく、誤学習となるためである。一方、SA1の判断が肯定される場合は、続くSA2以降が実行される。
【0039】
前記基準エンジン回転加速度算出手段74に対応するSA2においては、基準エンジン回転加速度A2が算出される。すなわち、SA2では、変速出力時点における車両の走行状態、たとえば車速V、スロットル開度θth、自動変速機16の入力トルクTinの少なくとも1つに基づいて、予め実験的に求められ、かつ記憶された関係から、基準エンジン回転加速度A2が算出される。
【0040】
推定最大エンジン回転速度算出手段72に対応するSA3においては、推定最大エンジン回転速度NEcの値が推定される。すなわち、SA3においては、SA2において算出された基準エンジン回転加速度A2、エンジン回転速度センサ46により検出された変速出力時点におけるエンジン12の回転速度NE1、イナーシャ相開始時点におけるエンジン12の回転速度NE2、および検出されたエンジン回転速度NEからエンジン回転加速度算出手段76により逐次算出されるエンジン回転加速度のうち変速出力時点のエンジン回転加速度A1を、前述の式(1)に適用することにより推定最大エンジン回転速度NEcの値が推定される。なお、上述の通り、通常、エンジン回転速度NEは変動(ノイズ)が大きいので、その移動平均などの平滑化フィルタ処理後のエンジン回転速度NEが用いられる。
【0041】
続くSA4は、学習補正値算出手段80に対応する。SA4においては、図7に示す学習ルーチンが実行される。図7において、SB1では、SA3で推定された推定最大エンジン回転速度NEcと、予め設定された目標最大エンジン回転速度NEdとの偏差ΔNEが算出される。続いて、SB2では、SB1で算出された偏差ΔNEに基づき、1回あたりの変速点学習量ΔGが決定される。ここでΔGは、ΔG=K×ΔNEなる関係によって求められる。但しKは学習の重みを決定する学習補正係数であって、予め与えられている。
【0042】
続くSB3及びSB4は、補正値制限手段82に対応する。まず、SB3においては、SB2で決定された1回あたりの学習量ΔGが予め定められた範囲(ΔGmin≦ΔG≦ΔGmax)を超えていないか否かが判定され、前記範囲を超えている場合には、ΔGの値を制限すべく、SB4が実行される。一方、SB3の判定が肯定される場合は決定されたΔGをそのまま学習に用いるものとして、ΔG’=ΔGとして、SB6に移る。SB4においては、ΔGが前記範囲の上限ΔGmaxを上回っている場合にはΔG=ΔGmaxとし、ΔGが前記範囲の下限ΔGminを下回っている場合にはΔG=ΔGminとする、ガード処理を行う。
【0043】
SB5では、このようにして算出されたΔG’を前回の変速時までの全体学習量G(N−1)に加える事により、今回の変速における学習を加えた全体学習量G(N)とする。すなわち、今回の学習後の全体学習量G(N)は、G(N)=G(N−1)+ΔG’で表される。
【0044】
続くSB6及びSB7は、補正値制限手段82に対応する。すなわち、SB6では、算出された全体学習量G(N)について、予め定められた範囲(Gmin≦G(N)≦Gmax)を超えていないかを判定し、SB6の判断が否定された場合、すなわち前記範囲を超えている場合には、SB7へ進む一方、SB6の判断が肯定された場合には、SB6において算出された全体学習量G(N)を学習結果として、本ルーチンは終了する。SB7においては、G(N)が前記範囲の上限Gmaxを上回っている場合にはG(N)=Gmaxとし、G(N)が前記範囲の下限Gminを下回っている場合にはG(N)=Gminとする、ガード処理を行い、それぞれの処理後のG(N)を学習結果として、本ルーチンは終了する。
【0045】
図6に戻って、変速点補正手段84に対応するSA5においては、SA4(図7)の学習ルーチンの終了に伴って得られた学習後の全体学習量G(N)にもとづいて、変速線図記憶手段52に記憶された変速線図が補正され、本フローチャートは終了する。
【0046】
上述のように、本実施例によれば、少なくとも基準エンジン回転加速度算出手段74(SA2)により算出された基準エンジン回転加速度A2とエンジン回転加速度算出手段76により算出されたアップ変速出力時点におけるエンジン回転加速度A1との関係に基づいて、推定最大エンジン回転速度算出手段72により、推定最大エンジン回転速度NEcが推定され、学習補正値算出手段80および補正値制限手段82(SA4)により、推定された推定最大エンジン回転速度NEcとアップ変速出力時点における目標最大エンジン回転速度NEdとの差分ΔNEとにより学習補正値である全体学習量の学習制御が行われ、前記学習補正値に基づいて変速点が補正されるので、その変速点に基づいて全開アップ変速の変速出力が実行されてその変速出力が行われれば、登坂路走行、降坂走行、牽引走行などにおいて走行抵抗が大きく変化したとしても最適な全開アップ変速が得られる。因みに、図8〜図10は1→2全開アップ変速時のエンジン回転速度NEを示す図であって、図8は平坦路(平地)での従来の作動を、図9は降坂路での従来の作動を、図10はその降坂路での本実施例の作動をそれぞれ示している。降坂走行時には、エンジン回転速度NEの上昇勾配が平坦路走行時よりも増加して変速時間が短縮されるので、図9に示すように全開アップ変速のイナーシャ相開始時点のエンジン回転速度NEが目標最大エンジン回転速度NEd、更にはレッドゾーンの下限値であるNEredを超えてしまうという問題があったが、本実施例によれば、前記基準走行状態におけるエンジン回転速度である推定最大エンジン回転速度NEcと目標最大エンジン回転速度NEdとの偏差ΔNEに基づいた変速点の学習が行われ、その学習結果に基づいて変速点が補正される結果、降坂走行路においては、前記学習結果に基づいた変速点の補正に対応する時間tkだけ繰り上がって1→2変速判断が行われるので、図10に示すように、イナーシャ相開始時点におけるエンジン回転速度NEが目標最大エンジン回転速度NEdを超えることがない。
【0047】
図11及び図12は、車両に搭載された自動変速機16においてアクセル開度が全開若しくは略全開でアップシフト変速が行われた場合の、時刻tとエンジン回転速度NEの関係を示した図であって、それぞれ従来手法と本実施例の手法による変速点の学習が行われる概要を説明するものである。これらの図において、実線は登坂路走行時や牽引時等の車両負荷が高い時の変速時を表しており、破線は降坂路等における変速時を表している。図11は、従来手法による場合であって、例えば特許文献2に示されている方法を適用したものである。すなわち、図11においては、まず、アップ変速出力時点t11からイナーシャ相開始時点t12までのエンジン回転加速度の設計値A3と、前記エンジン回転加速度の設計値A3と予め実験的に得られた関係からイナーシャ相開始点t12までの時間T(t21−t11)を算出する。そして、前記エンジン回転加速度の設計値A3、および前記変速出力時点t11におけるエンジン回転速度NE1から、イナーシャ相開始時点t12におけるエンジン回転速度NEcを、NEc=T×A3+NE1なる関係式から推定する。その結果推定されたNEcと予め設定された目標最大エンジン回転速度NEdとの偏差ΔNEを基に変速点の学習を行う。このように、図11の方法によれば、イナーシャ相開始時点t12におけるエンジン回転速度NE2を推定するのに、変速出力時点t11におけるエンジン回転加速度の設計値A3を用いている。
【0048】
ところで、車両負荷が高い状況における走行では、同じエンジン回転加速度であった場合、基準走行状態のエンジン回転速度にくらべて、エンジン回転速度の上昇は低くなる。例えば図11において実線で表された登坂時におけるNEのようになり得る。また、降坂路における走行では、同じエンジン回転加速度であった場合、基準走行状態のエンジン回転速度にくらべて、エンジン回転速度の上昇は高くなる。例えば図11において破線で表された降坂時におけるNEのようになり得る。このような場合においては、推定されたエンジン回転速度NEcと実際のエンジン回転速度NE2の開きが生じ、また、この開きは、前記車両負荷が高いほど、あるいは道路の勾配が大きくなるほど、大きくなる。このようにして行われた変速の結果を学習すれば、学習の精度が落ち、以降の変速判断を誤るおそれが生ずる。
【0049】
一方、本実施例に係る図12は、変速出力点t21における車両のスロットル開度θth等から、基準走行状態における基準エンジン回転加速度A2を算出し、算出されたA2と変速出力点t21における実際のエンジン回転加速度A1との関係などに基づいて、イナーシャ相開始時点t22における基準車両加速度A2における推定最大エンジン回転速度NEcを推定する。そして、目標最大エンジン回転速度NEdとNEcとの偏差ΔNEに基づいて変速点の学習を行う。すなわち、このようにすれば、基準エンジン回転加速度A2が同じであれば、推定最大エンジン回転速度が路面の勾配や車両の負荷によって図12における実線や破線のように様々な値を取った場合であっても、変換された基準走行状態における推定最大エンジン回転速度NEcは同じ値となることから、前記車両が登坂路を走行していたり、牽引走行をしているような車両の走行負荷が高い状況における変速であっても、あるいは降坂路を走行している状況での変速であっても、変速結果についても学習することにより、学習の精度を向上することができ、目標最大エンジン回転速度への収束精度を向上させ、エンジン回転速度が目標最大エンジン回転速度NEdを超えることを回避することができる。
【0050】
また、本実施例によれば、推定最大エンジン回転速度推定手段72によって推定されるのは、エンジン12の回転速度NEであり、また、基準エンジン回転加速度算出手段74によって算出され、あるいはエンジン回転加速度算出手段76によって算出されるエンジン回転加速度Aはエンジン12の回転加速度Aであって、これは前記エンジン12の回転速度NEの微小時間単位の増加量であるから、エンジン回転速度センサ46等によりこれらの値を容易に検出および算出することができる。
【0051】
さらに、本実施例によれば、前記変速は、原動機12の最大出力要求時におけるアップシフトである全開アップシフトであるので、特に変速中の最大エンジン回転速度NE2が目標最大エンジン回転速度NEdに追従することが必要とされるWOT(スロットル全開)変速時において、変速中の最大エンジン回転速度NE2が目標最大エンジン回転速度NEdに到達することなくアップシフトが実行される現象や、エンジン回転速度NEが許容される最大値を超過した状態が継続したままアップシフトが行われる現象の発生を抑止することが可能となり、上記減少に伴う使用者の違和感を低減することができる。
【実施例2】
【0052】
次に、本発明の他の実施例について説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には、同一の符号を付して説明を省略する。
【0053】
図13は、前記電子制御装置40の他の実施例の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図であり、図5に対応する図である。図5と図13を比較すると、図13は、イナーシャ相開始時間算出手段58を含む点において、図5と異なる。また、推定最大エンジン回転速度推定手段72の内容が先の実施例1とは異なる。
【0054】
イナーシャ相開始時間算出手段58は、予め実験的に求められ且つ記憶された関係から車両走行状態たとえば車速V、スロットル開度θth、自動変速機16の入力トルクTinの少なくとも1つに基づいて、現時刻からアップ変速たとえば1→2アップ変速が開始されたとするとそのアップ変速の変速出力時点からイナーシャ相開始時点までに要する時間であるイナーシャ相開始時間Tを逐次算出する。上記関係は、函数或いはマップの形態で予め記憶されており、たとえばT=f(μ,V,θth,Tin) として示される。すなわち、アップ変速のイナーシャ相とは、アップ変速の進行に従ってエンジン回転速度NEの変化が発生する区間であり、イナーシャ相開始時間Tは、アップ変速に関与する油圧式摩擦係合装置たとえば1→2アップ変速ではブレーキB1の摩擦係数μ、車速V、スロットル開度θth、自動変速機16の入力トルクTinが大きい程、短くなる。摩擦係数μは、一定値であってもよいし、油温Toilの函数であってもよい。また、車速V、スロットル開度θth、自動変速機16の入力トルクTinは、油圧式摩擦係合装置に加えられる伝達トルクに関連するものであるから、それらのうちの少なくとも1つが変数として用いられてもよい。
【0055】
推定最大エンジン回転速度推定手段72は、基準エンジン回転加速度算出手段74によって算出された基準エンジン回転加速度A2における推定最大エンジン回転速度NEcを推定する。具体的には、推定最大エンジン回転速度推定手段72は、基準エンジン回転加速度算出手段74によって算出された基準エンジン回転加速度A2および、イナーシャ相開始時間算出手段58によって算出された変速出力時点からイナーシャ相開始時点までに要する時間T、変速出力時点からイナーシャ相開始時点までのエンジン回転加速度の設計値A3、エンジン回転加速度算出手段76によって算出された変速出力時点のエンジン回転加速度A1、およびエンジン回転速度センサ46により検出された変速出力時点におけるエンジン12の回転速度NE1から、次の式(2)により求められる。
NEc=NE1+(T×A3)×(A2/A1) ・・・(2)
【0056】
また、本実施例においては、電子制御装置40は、先に図6及び図7に示したフローチャートと同様の作動をするが、その機能の差異から、SA3における作動は図6のものとは異なり、次のようなものとなる。
【0057】
イナーシャ相開始時間算出手段58および推定最大エンジン回転速度推定手段72に対応するSA3においては、変速出力時点からイナーシャ相開始時点までに要する時間Tが算出され、算出された時間T等に基づいて、推定最大エンジン回転速度NEcの値が推定される。すなわち、SA3においては、まず、変速出力時点からイナーシャ相開始時点までに要する時間Tが算出され、その時間Tと、SA2において算出された基準エンジン回転加速度A2と、エンジン回転速度センサ46により検出された変速出力時点におけるエンジン12の回転速度NE1と、変速出力時点からイナーシャ相開始時点までのエンジン回転加速度の設計値A3と、および検出されたエンジン回転速度NEからエンジン回転加速度算出手段76により逐次算出されるエンジン回転加速度のうち変速出力時点のエンジン回転加速度A1とを、前述の式(2)に適用することにより推定最大エンジン回転速度NEcの値が推定される。なお、実施例1同様、通常、エンジン回転速度NEは変動(ノイズ)が大きいので、その移動平均などの平滑化フィルタ処理後のエンジン回転速度NEが用いられる。
【0058】
なお、図13における電子制御装置40を構成するイナーシャ相開始時間算出手段58以外の手段、および図6及び図7に示すフローチャートにおけるSA3以外のステップについては、実施例1と同様であるので説明を省略する。
【0059】
以上の実施例によれば、推定最大エンジン回転速度推定手段72(SA3)における、前記変速出力時点からイナーシャ相開始までのエンジン回転速度の増分(NE2−NE1)は、少なくとも前記変速出力時点からイナーシャ相開始までに要した時間Tと、前記基準走行状態における基準エンジン回転加速度A2に基づいて算出されるものであるので、イナーシャ相開始までのエンジン回転速度NE2を実際に測定することなく、推定最大エンジン回転速度推定手段72(SA3)により推定最大エンジン回転速度である推定最大エンジン回転速度NEcを推定し得る。
【実施例3】
【0060】
図14は、前記電子制御装置40の他の実施例の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図であり、図5に対応する図である。また、図15は、その電子制御装置40の他の実施例の制御作動の要部を説明するフローチャートである。
【0061】
図14の機能ブロック線図においては、図5の機能ブロック線図において、学習補正値算出手段80に、AT油温センサ44から自動変速機16の潤滑油温度(以下「AT油温」とも記す。)Toilが供給される点において相違する。この学習補正値算出手段80は、1回の変速が行われる毎に、前記推定最大エンジン回転速度推定手段72により推定された推定最大エンジン回転速度NEcと、予め設定された目標最大エンジン回転速度NEdとの偏差ΔNEを算出し、その偏差ΔNEの大きさおよび変速の際たとえば変速出力時点に測定された自動変速機16の作動油温Toilに応じて変速点を補正すべく学習を行い、その結果に基づいて、変速線図記憶手段52に記憶された変速線図を補正する。
【0062】
具体的にはまず、前記算出された偏差ΔNEに基づき、1回あたりの変速点学習値ΔG(=K×ΔNE、但しKは学習の重みを決定する学習補正係数であって、予め与えられる。)を決定する。そして、このようにして算出され、必要に応じて前記補正値制限手段82によってガード処理のされたたΔGを前回の変速時までの全体学習量に加える事により、今回の変速における学習を加えた全体学習量とする。この点においては、学習補正値算出手段80の作動は実施例1におけるそれと共通する。一方、本実施例における学習補正値算出手段80には、AT油温Toilによって区分された複数の全体学習量が準備される。例えば、AT油温Toilが予め定められた温度T1,T2(T1<T2)に対し、Toil<T1のときにおけるGlow(N)、T1≦Toil<T2のときにおけるGmid(N)、T2≦ToilのときにおけるGhigh(N)の3つの全体学習量が用意される。そして、変速出力時点もしくは略同時にAT油温センサ44によって計測されたAT油温Toilの値に応じた全体学習量である、Glow(N)、Gmid(N)、Ghigh(N)のいずれか(以下本段落において単に「G(N)」という。)に対して、前記算出されたΔG’を前回の変速時までの全体学習量G(N−1)に加える事により、今回の変速における学習を加えた全体学習量G(N)(=G(N−1)+ΔG’)とする。そして、算出された全体学習量G(N)に対し、必要に応じて前記補正値制限手段82によってガード処理がされる。続いて、前記学習補正値算出手段80は、前記算出され、必要に応じて前記補正値制限手段82によってガード処理がされた全体学習量G(N)に基づいて、変速線図記憶手段52に記憶された変速線図の補正を行う。すなわち、前記学習された全体学習量G(N)により、たとえば図4の変速線を実線から破線へ修正してアップ変速点たとえば1→2アップ変速点を学習によって補正し、これにより判断される全開アップ変速において登坂路走行、降坂走行、牽引走行などの走行抵抗が大きく変化した走行状態に拘わらず最大出力が得られるようにする。
【0063】
図15のフローチャートでは、図6のフローチャートのSA1に対応するSC1と、SA2に対応するSC3との間に、SC2が設けられている点で相違する。このSC2においては、本実施例における学習補正値算出手段80に対応するSC5において自動変速機16の作動油の油温Toilが必要となるため、その自動変速機16の作動油の油温Toilがたとえば、変速出力開始時において計測される。
【0064】
学習補正値算出手段80に対応するSC5においては、図16に示す学習ルーチンが実行される。図16のフローチャートは図7のフローチャートに対応するものであり、図7のSB1〜SB44はそれぞれ図16のSD1〜SD4に対応するするものであり、説明を省略する。また、図7のSB5は図16のSD5〜SD8に対応し、図7のSB6、SB7はそれぞれ図16のSD9、SD10に対応する。
【0065】
SD5においては、図15のSC2において測定されたAT作動油温Toilが、予め定められた温度区分の何れに属するかが判断される。たとえば、例えば、AT油温Toilが予め定められた温度T1,T2(T1<T2)に対し、Toil<T1、T1≦Toil<T2、T2≦Toilの何れを満たすかが判断され、Toil<T1のときはSD6、T1≦Toil<T2のときはSD7、T2≦ToilのときはSD8のいずれかが実行される。
【0066】
Toil<T1のときに実行されるSD6においては、かかるAT油温Toilにおいてされた変速の学習のための全体学習値Glow(N)に対して、前記算出されたΔG’を前回の変速時までの全体学習量Glow(N−1)が加えられる事により、今回の変速における学習を加えた全体学習量Glow(N)(=Glow(N−1)+ΔG’)が算出される。また、T1≦Toil<T2のときに実行されるSD7においては、全体学習量Gmid(N)に対して、T2≦Toilのときに実行されるSD8においては、全体学習量Ghigh(N)に対して、それぞれSD6と同様に学習が行われる。
【0067】
SD9およびSD10は補正値制限手段82に対応する。まず、SD9においては、SD6乃至SD8のいずれかのステップにおいて学習がなされた全体学習量であるGlow(N)、Gmid(N)、Ghigh(N)のいずれか(以下、本実施例において単に「G(N)」という。)について、予め定められた範囲(Gmin≦G(N)≦Gmax)を超えていないかが判定される。そしてこの判断が肯定される、すなわち、予め定められた範囲を超えていない場合には、SD6乃至SD8の結果算出されたG(N)を学習結果として、本フローチャートは終了し、一方、本判断が否定される場合、すなわち、予め定められた範囲を超えている場合にはSD10が実行される。
【0068】
SD10においては、G(N)が前記範囲の上限Gmaxを上回っている場合にはG(N)=Gmaxとし、G(N)が前記範囲の下限Gminを下回っている場合にはG(N)=Gminとする、ガード処理が行われ、その処理後の結果であるG(N)を学習結果として本ルーチンは終了させられる。
【0069】
図15に戻って、変速点補正手段84に対応するSC6においては、SC5の学習ルーチンの終了に伴って得られた自動変速機16の作動油温Toilに応じた学習後の全体学習量G(N)にもとづいて、変速線図記憶手段52に記憶された変速線図が補正され、本フローチャートは終了する。なお、SC1、SC3、およびSC4は、先の実施例において説明したSA1、SA2、およびSA3とそれぞれ共通するものであり、説明を省略する。
【0070】
以上の実施例によれば、学習補正値算出手段80(SC5)は、前記自動変速機16の作動油の油温Toilをも考慮した学習を行い、変速点補正手段84(SC6)によって自動変速機16の作動油の油温Toilに応じた変速点が補正されることができる。
【実施例4】
【0071】
図18は、前記電子制御装置40のさらに別の実施例の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図であり図5に対応する図である。また、図19は、その電子制御装置40のさらに別の実施例の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、図6に対応する図である。
【0072】
図18の機能ブロック線図においては、図5の機能ブロック線図において、フューエルカット検出手段78が設けられている点において相違する。このフューエルカット検出手段78は、車両のスロットル弁開度θthが全閉の惰性走行時であって所定のフューエルカット条件を満足する場合に、図示しない燃料噴射装置による燃料供給を停止して燃費を向上させるフューエルカットが行われた場合、これを検出する。
【0073】
図19のフローチャートでは、図6のフローチャートのSA1〜SA4に対応するSF1〜SF4の後にSF5、SF6が設けられている、およびSA5に対応するSF7がSF5による場合分けによって実行される点において相違する。すなわち、SF1からSF4までは、図6と同様の作動を行った後、SF5および,SF6またはSF7のいずれかが実行される。尚、SF1〜SF4の作動はSA1〜SA4における作動と同様であるため、説明を省略する。また、SF4において実行される学習ルーチンは、例えば図7に示すフローチャートのものが実行されればよいので、説明を省略する。
【0074】
フューエルカット検出手段78に対応するSF5においては、変速実行中に車両においてフューエルカットが実行されたか否かが判断される。そして、本判断が肯定された場合、すなわち、変速実行中にフューエルカットが実行された場合は、SF6が実行される。一方、本判断が否定される場合、すなわち、変速実行中にフューエルカットが実行されなかった場合には、SF7が実行される。
【0075】
変速点補正手段84に対応するSF7においては、SF4の学習ルーチンの終了に伴って得られた学習後の全体学習量G(N)に基づいて、変速線図記憶手段52に記憶された変速線図が補正され、本フローチャートは終了する。
【0076】
学習補正値算出手段80に対応するSF6においては、それまで学習されてきた全体学習量G(N)がクリアされ、その値が0とされる。これは、SF6が実行されるのは、SF5の判断が肯定された場合、すなわち、変速実行中にフューエルカットが実行された場合であり、変速実行中にフューエルカットが実行されるのは、正常な状況における変速であったとはいえないためである。
【0077】
以上の実施例によれば、前記学習補正値算出手段80(SF6)は、前記原動機12においてフューエルカットが行われた際に、該フューエルカットの生じた変速における学習結果G(N)をクリアするものであって、また、フューエルカットが行われるような特殊な場合においては、かかる変速に基づく学習によって変速点補正手段84(SF7)は変速点の補正を行わないことから、誤学習を回避し得る。
【0078】
なお、前述の実施例2乃至実施例4の装置の複数を、共通の装置である実施例1の装置に対して同時に適用されることが可能である。例えば、実施例1の装置に対し、実施例2および実施例3を同時に適用することが可能である。
【0079】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0080】
例えば、上述の実施例においては、エンジン12の回転速度NEおよびその回転加速度Aが用いられていたが、これに限られず、例えば、トルクコンバータ14のタービン翼車14tの回転速度Ntおよび回転加速度dNt/dtが用いられてもよいし、自動変速機16の出力軸回転速度Noutおよび回転加速度dNout/dtが用いられてもよく、また、車速Vおよび車両の加速度dV/dtが用いられてもよい。すなわち、エンジン回転速度NEおよび回転加速度Aと1対1に対応する事によって定量的に同一視できる変数であればよく、車両に設けられたセンサから直接計測可能、あるいは計測可能な値から算出可能な値であればよい。
【0081】
また、上述の実施例においては、変速はスロットル開度θthが全開もしくは略全開時に行われる場合に適用されたが、これに限られず、スロットル開度θthの全開状態よりも低い開度での変速状態であっても適用可能である。
【0082】
また、本発明は、スロットル弁のないディーゼルエンジンや、筒内噴射エンジンにも適用される。このような場合には、スロットル開度θthに替えて、アクセル開度θaccや燃料噴射量、吸入空気量などが用いられ得る。
【0083】
また、上述の実施例3においては、図16の学習ルーチンに示すように、学習補正値算出手段80は自動変速機16の作動油の油温Toilに応じて区分された3つの全体学習値Glow(N)、Gmid(N)、Ghigh(N)を有しており、変速の際の油温Toilに応じた1の全体学習値に対して学習がされたが、これに限られず、図17に示すような学習が行われてもよい。
【0084】
図17は図16に代えて用いられる学習ルーチンを示すフローチャートであり、図7に対応する図である。図17のSE1〜SE4は図7のSB1〜SB4にそれぞれ相当し、図17のSE6〜SE8は図7のSB5〜SB7にそれぞれ相当し、同様の作動がされる一方、図17のSE4とSE6の間には、図7にはないSE5が含まれている点において相違する。そのSE5においては、SE2で算出され、SE3およびSE4において必要に応じてガード処理のされた1回あたりの学習量ΔGに対し、SC2で測定された油温Toilの値に応じた補正がなされる。この補正の方法は、例えば予め実験的に求められたマップ或いは函数であって、電子制御手段40に記憶されている。このように、1回あたりの学習量ΔGが変速の際の油温Toilに応じて変速されるので、図16の学習ルーチンによってその制御作動が記述される学習補正値算出手段80においては、全体学習値G(N)は1つあればよい。
【0085】
また、上述の実施例4において、フューエルカットがされた場合には、全体学習値G(N)をクリアするようにされたが、これに限られず、例えば、学習(SF4)がされる前にフューエルカットがされた変速についての1回あたりの学習量ΔG(N)をクリアすることにより、その変速についての学習をしないようにされてもよい。
【0086】
また、上述の実施例において、補正値制限手段82は、ガード処理を行うにあたり、予め与えられた定数に基づいて範囲を設定していたが、これに限られず、動的に範囲を変更してもよい。
【0087】
また、上述の実施例3においては、自動変速機16の作動油温Toilは、変速出力時点または略同時に測定されたものが用いられたが、これに限られず、例えば、イナーシャ相開始時点のToilでもよく、また、変速出力時点からイナーシャ相開始時点までのToilの最高値や最低値、あるいは平均値が用いられても良い。また、上述の実施例3においては、自動変速機の作動油温Toilが用いられたが、これに代えて、例えば、油温によって変化する自動変速機16の作動油の粘度等が用いられても良い。この場合、自動変速機16の作動油の粘度は別途設けられる粘度センサなどによって計測される値を用いることができる。
【0088】
また、上述の各実施例においては、第1速段から第2速段へのアップ変速が例示されたが、これを自動変速機16の有する各変速段の、全ての隣接する変速段間の変速毎に学習し、変速点の補正がされることもでき、また、特定の変速段間の変速についてのみ学習し、変速点の補正がされるものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の一実施例である車両用自動変速機の変速制御装置が適用される車両用自動変速機を説明する骨子図である。
【図2】図1の自動変速機の変速作動を説明する作動図表である。
【図3】図1の実施例に用いられる電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図4】図3の電子制御装置による変速制御に用いられる変速線図の一部を示す図である。
【図5】図3の電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図6】図3の電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートである。
【図7】図6のステップSA4の学習ルーチンを説明するフローチャートである。
【図8】図3の電子制御装置の制御作動の要部を説明するタイムチャートである。
【図9】図3の電子制御装置の制御作動の要部を説明するタイムチャートである。
【図10】図3の電子制御装置の制御作動の要部を説明するタイムチャートである。
【図11】図3の電子制御装置の制御作動の要部を説明するタイムチャートである。
【図12】図3の電子制御装置の制御作動の要部を説明するタイムチャートである。
【図13】本発明の他の実施例における電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図であって、図5に相当する図である。
【図14】本発明の他の実施例における電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図であって、図5に相当する図である。
【図15】図14の実施例の電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、図7に相当する図である。
【図16】図15のステップSC5の学習ルーチンを説明するフローチャートであって、図7に相当する図である。
【図17】図16の学習ルーチンの他の実施例を説明するフローチャートである。
【図18】本発明の他の実施例における電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図であって、図5に相当する図である。
【図19】図18の実施例の電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、図7に相当する図である。
【符号の説明】
【0090】
12:原動機(エンジン)
70:学習制御手段
72:推定最大エンジン回転速度推定手段
74:基準エンジン回転加速度算出手段
80:学習補正値算出手段
A:原動機(エンジン12)の回転加速度
A2:基準走行状態における原動機(エンジン12)の回転加速度
NE:原動機(エンジン12)の回転速度
T:変速出力時点からイナーシャ相開始までに要した時間
Toil:自動変速機の作動油の油温

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワーオン走行時において車速が予め設定された変速点を通過することによってアップ変速出力をするとともに、該変速出力後においても所定期間上昇するエンジン回転速度の最大値が目標最大エンジン回転速度に接近するように求められた学習補正値に基づいて前記変速点を学習補正する形式の車両用自動変速機の制御装置であって、
前記パワーオン走行時でのアップ変速出力後のエンジン回転速度の最大値を、車両の加速度に影響しない基準走行状態における値に置換した推定最大エンジン回転速度を推定し、該推定最大エンジン回転速度と前記目標最大エンジン回転速度との偏差に基づいて前記学習補正値を算出する学習制御手段を、含む
ことを特徴とする車両用自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記基準走行状態は、車両の空車状態での平坦路走行である
請求項1の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記パワーオン走行は、アクセルぺダルがエンジンに対する最大出力要求状態に操作されている最大加速走行である
請求項1または2の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項4】
前記学習制御手段は、前記アップ変速出力時点のエンジン回転速度と前記目標最大エンジン回転速度との偏差に、前記基準走行状態における該アップ変速出力時点のエンジン回転加速度と該アップ変速出力時点のエンジン回転加速度との比の値を乗算し、該乗算の積に、前記アップ変速出力時点のエンジン回転速度を加算することにより、前記推定最大エンジン回転速度を算出する推定最大エンジン回転速度算出手段を含むものである
請求項1乃至3のいずれかの車両用自動変速機の制御装置。
【請求項5】
前記学習制御手段は、前記アップ変速出力から該アップ変速のイナーシャ相開始までの時間と前記アップ変速出力時点のエンジン回転速度との積に、前記基準走行状態における該アップ変速出力時点のエンジン回転加速度と該アップ変速出力時点のエンジン回転加速度との比の値を乗算し、該乗算の結果にアップ変速出力時点のエンジン回転速度を加算することにより、前記推定最大エンジン回転速度を算出する推定最大エンジン回転速度算出手段を含むものである
請求項1乃至3のいずれかの車両用自動変速機の制御装置。
【請求項6】
前記学習制御手段は、予め記憶された関係から前記推定最大エンジン回転速度と前記目標最大エンジン回転速度との偏差に基づいて前記学習補正値を決定する学習補正値算出手段を含むものである
請求項1乃至5のいずれかに記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項7】
前記学習制御手段は、前記学習補正値算出手段により算出された学習補正値を、予め設定された上限値および下限値の間に制限する補正値制限手段を含むものである
請求項1乃至6のいずれかに記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項8】
前記学習補正値算出手段は、前記自動変速機の作動油温度に基づいて前記学習補正値を決定するものである
請求項6または7に記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項9】
前記学習制御手段は、前記エンジンに対してフューエルカットが実行されたときは、該フューエルカットが実行されたアップ変速時の学習結果を用いないものである
請求項1乃至8のいずれかに記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項10】
前記学習制御手段は、前記推定最大エンジン回転速度と前記目標最大エンジン回転速度との偏差が大きくなるほど前記変速点が高車速側へずれるように該変速点の学習補正を実行するものである
請求項1乃至9のいずれかに記載の車両用自動変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2008−57720(P2008−57720A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−237506(P2006−237506)
【出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】