説明

自動車のシート取付構造

【課題】 簡単な構成で乗員用シートのシートクッションを車体の前後方向へ移動可能に支持するスライドレールの支持剛性を効果的に向上させる。
【解決手段】 乗員用シート4のシートクッション2を車体の前後方向へ移動可能に支持するスライドレール6を、所定の仰角で前上がりに傾斜させて車室内に配設した自動車のシート取付構造であって、車室内のフロアパネル1から所定の前後幅をもって車体の上方に膨出する膨出部9を備えたクロスメンバ5を車幅方向に延設するとともに、このクロスメンバ5の上壁面を上記スライドレール6の仰角に対応した角度で傾斜させ、このスライドレール6を上記クロスメンバ5の上壁面に取り付けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員用シートのシートクッションを車体の前後方向へ移動可能に取り付ける自動車のシート取付構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1には、車室内のフロアパネル上に高さの異なる前後一対の直立脚を担持させるとともに、乗員用シートのシートクッションを車体の前後方向にスライド変位可能に支持するスライドレール(下側送り台)を上記直立脚上に取り付けることにより、このスライドレールを前上がりの傾斜状態で設置した自動車のシート移動装置が開示されている。このシート移動装置は、上記スライドレールに沿って乗員用シートのシートクッションを車体の前後方向にスライド変位させることにより、スライドレールの傾斜状態に対応させて乗員用シートの上下位置を自動的に調節するとともに、チルト機構によってシートクッションの傾動角度を調節するように構成されている。
【特許文献1】特開昭62−116324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1に開示されているように、車室内のフロアパネル上にスライドレールを前上がりの傾斜状態で設置した場合、その傾斜角度が例えば5°ないし10°程度の緩角度であれば、フロアパネル上に立設された前後一対の直立脚により上記スライドレールを安定して支持することが可能である。しかし、上記スライドレールの傾斜角度が例えば15°〜20°程度の急角度である場合には、前方側の直立脚と後方側の直立脚との高さが顕著に相違するため、乗員用シートからスライドレールの両直立脚部に作用する前後方向に荷重を安定して支持することが困難であり、自動車の正面衝突時に入力される衝撃荷重等に応じてスライドレールが曲げ変形し易い等の問題があった。
【0004】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、簡単な構成で乗員用シートのシートクッションを車体の前後方向へ移動可能に支持するスライドレールの支持剛性を効果的に向上させることができる自動車のシート取付構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、乗員用シートのシートクッションを車体の前後方向へ移動可能に支持するスライドレールを、所定の仰角で前上がりに傾斜させて車室内に配設した自動車のシート取付構造であって、車室内のフロアパネルから所定の前後幅をもって車体の上方に膨出する膨出部を備えたクロスメンバを車幅方向に延設するとともに、このクロスメンバの上壁面を上記スライドレールの仰角に対応した角度で傾斜させ、このスライドレールを上記クロスメンバの上壁面に取り付けたものである。
【0006】
請求項2に係る発明は、上記請求項1に記載の自動車のシート取付構造において、上記クロスメンバにより単独でスライドレールを支持し得るように構成したものである。
【0007】
請求項3に係る発明は、上記請求項1または2に記載の自動車のシート取付構造において、上記シートクッションをスライドレールに沿って車体の前後方向にスライド変位させるスライド手段と、このシートクッションのスライド変位に連動させてシートクッションの座面を予め設定された移動軌跡に沿って傾動変位させるチルト手段とを備えたものである。
【0008】
請求項4に係る発明は、上記請求項1〜3の何れか1項に記載の自動車のシート取付構造において、シートクッションの両側辺部下方に沿って左右一対のスライドレールが配設され、両スライドレールが取り付けられる左右一対のスライドレール取付部がクロスメンバに設けられるとともに、両スライドレール取付部の間に位置するクロスメンバの前壁面に、車体の後方側に凹入する凹入部が設けられたものである。
【0009】
請求項5に係る発明は、上記請求項1〜4の何れか1項に記載の自動車のシート取付構造において、シートクッションの両側辺部下方に沿って左右一対のスライドレールが配設され、両スライドレールが取り付けられる左右一対のスライドレール取付部がクロスメンバに設けられるとともに、クロスメンバの後方側にリヤ側の乗員用シートが配設され、上記両スライドレール取付部の間に位置するクロスメンバの後壁面に、車体の前方側に凹入する凹入部が設けられたものである。
【0010】
請求項6に係る発明は、上記請求項4または5に記載の自動車のシート取付構造において、上記クロスメンバの車幅方向の外方側端部に設けられたスライドレール取付部が、フロアパネルの左右両側辺部に沿って車体の前後方向に延びるサイドシルに接合されたものである。
【0011】
請求項7に係る発明は、上記請求項4〜6の何れか1項に記載の自動車のシート取付構造において、クロスメンバの車幅方向の内方側端部に設けられたスライドレール取付部が、フロアパネルの中央部に沿って車体の前後方向に延びるトンネル部に接合されたものである。
【0012】
請求項8に係る発明は、上記請求項1項に記載の自動車のシート取付構造において、上記クロスメンバの膨出部とその下方に位置するフロアパネルとにより車幅方向に延びる閉断面が形成されたものである。
【0013】
請求項9に係る発明は、上記請求項8に記載の自動車のシート取付構造において、上記クロスメンバの膨出部とフロアパネルとにより形成された閉断面内に車両装備品が配設されたものである。
【0014】
請求項10に係る発明は、上記請求項8に記載の自動車のシート取付構造において、上記クロスメンバの膨出部に対応して上方に膨出する膨出部が上記フロアパネルに設けられるとともに、この膨出部内に車両装備品が配設されたものである。
【0015】
請求項11に係る発明は、上記請求項1に記載の自動車のシート取付構造において、上記クロスメンバの膨出部内に車両装備品を設置するための開口部がクロスメンバの設置部の下方に位置するフロアパネルに形成されたものである。
【0016】
請求項12に係る発明は、上記請求項8〜11の何れか1項に記載の自動車のシート取付構造において、車室内に設置された左右一対の乗員用シートの下方に上記クロスメンバが配設されるとともに、上記両乗員用シートの下方部に跨るように車幅方向に延びる偏平形状のバッテリーユニットからなる車両装備品が、上記クロスメンバの膨出部の下方に配設されたものである。
【0017】
請求項13に係る発明は、上記請求項1に記載の自動車のシート取付構造において、上記クロスメンバの板厚がフロアパネルの板厚よりも大きな値に設定されたものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明によれば、車室内のフロアパネル上から所定の前後幅をもって車体の上方に膨出する膨出部を備えたクロスメンバの上壁部にスライドレールを取り付けるように構成したため、このスライドレールの設置部における車体剛性を充分に確保することができるとともに、自動車の正面衝突時等に、乗員用シートのシートクッションから上記スライドレールに作用する大きな衝撃荷重を上記クロスメンバの全体で安定して支持することができる。したがって、上記スライドレールの仰角が大きい場合においても、上記自動車の正面衝突時等に作用する大きな曲げ荷重に応じて上記スライドレールが変形するという事態の発生を効果的に防止できる等の利点がある。
【0019】
請求項2に係る発明によれば、車両の前後衝突時等に、スライドレールの前端取付部を荷重の作用点とするとともに後端取付部を支点として作用する曲げモーメント等の荷重をクロスメンバにより安定して支持し得るように構成したため、別体の支持部材を設けることなく簡単かつコンパクトな構成で上記スライドレールの支持剛性を充分に確保できるという利点がある。
【0020】
請求項3に係る発明によれば、スライド手段によりシートクッションをスライドレールに沿って車体の前後方向にスライド変位させるのに応じ、チルト手段によりシートクッションの座面を予め設定された移動軌跡に沿って傾動変位させることができるため、簡単かつコンパクトな構成で乗員用シートの前後位置とシートクッションの傾斜角度との両方を自動的に調節できるという利点がある。
【0021】
請求項4に係る発明によれば、左右のスライドレールが取り付けられる一対のスライドレール取付部をクロスメンバに設けるとともに、両スライドレール取付部の間に位置するクロスメンバの前壁面に、車体の後方側に凹入する凹入部を設けたため、上記スライドレール取付部の前後寸法を充分に確保してスライドレールの支持剛性を充分に維持しつつ、クロスメンバの中央部における前後寸法を小さくすることにより、上記乗員用シートに着座した乗員の足元スペースを充分に確保し、この乗員が足を車体の後方側に移動させる際に、クロスメンバが邪魔になるのを防止できるという利点がある。
【0022】
請求項5に係る発明によれば、左右のスライドレールが取り付けられる一対のスライドレール取付部をクロスメンバに設けるとともに、両スライドレール取付部の間に位置するクロスメンバの後壁面に、車体の前方側に凹入する凹入部を設けたため、上記スライドレール取付部によるスライドレールの支持剛性を充分に維持しつつ、上記リヤ側の乗員用シートに着座した乗員の足先スペースを充分に確保することができる。
【0023】
請求項6に係る発明によれば、クロスメンバの車幅方向の外方側端部に設けられたスライドレール取付部を、フロアパネルの左右両側辺部に沿って車体の前後方向に延びるサイドシルに接合したため、スライドレールが取り付けられるクロスメンバの外側端部を上記サイドシルに支持させることにより、これらを強固に連結することができ、上記乗員用シートに着座した乗員の足元スペースまたはリヤ側の乗員用シートに着座した乗員の足先スペースを充分に確保しつつ、自動車の側突時等に上記クロスメンバによってサイドシルを効果的に補強できるという利点がある。
【0024】
請求項7に係る発明によれば、クロスメンバの車幅方向の内方側端部に設けられたスライドレール取付部を、フロアパネルの中央部に沿って車体の前後方向に延びるトンネル部に接合したため、スライドレールが取り付けられるクロスメンバの内側端部を上記トンネル部に支持させることにより、これらを強固に連結することができ、上記乗員用シートに着座した乗員の足元スペースまたはリヤ側の乗員用シートに着座した乗員の足先スペースを充分に確保しつつ、上記クロスメンバによって乗員用シートの設置部における車体の剛性を効果的に向上させることができる。
【0025】
請求項8に係る発明によれば、所定の前後幅をもって車幅方向に延設された上記クロスメンバの膨出部とその下方に位置するフロアパネルとで構成された車幅方向に延びる閉断面により、上記スライドレールの設置部における車体剛性を効果的に向上させることができる。
【0026】
請求項9に係る発明によれば、クロスメンバの膨出部とフロアパネルとにより形成された閉断面を有効に活用して、車両装備品のレイアウト性を効果的に向上させることができるとともに、上記クロスメンバの膨出部とフロアパネルとにより閉断面を密閉状態とすることにより、この閉断面内に配設された耐水性の低いバッテリーユニット等からなる車両装備品を効果的に保護できるという利点がある。
【0027】
請求項10に係る発明によれば、クロスメンバの膨出部に対応してフロアパネルに形成された膨出部内に車両装備品を配設したため、フロアパネルを下方に膨出させる等の手段を講じることなく、上記クロスメンバの下方スペースを有効に利用して上記車両装備品を配設することができるという利点がある。
【0028】
請求項11に係る発明によれば、クロスメンバの設置部の下方に位置するフロアパネルに形成された開口部を介してクロスメンバの膨出部内に車両装備品を設置することができるため、この膨出部の下方スペースを最大限に利用して車両装備品をレイアウトできるという利点がある。
【0029】
請求項12に係る発明によれば、左右一対の乗員用シートの下方に配設されたクロスメンバを有効に利用することにより、長尺で均一に冷却することが可能なバッテリーユニットを上記クロスメンバの下方に配設することができる。
【0030】
請求項13に係る発明によれば、フロアパネルの板厚よりも大きな値に設定されたクロスメンバの上壁面にスライドレールを取り付けるように構成したため、上記フロアパネルの板厚を増大させたり、スライドレールの取付部を補強する補強部材を設けたりする等の手段を講じることなく、スライドレールの支持剛性を充分に確保することが可能であり、部品点数を低減して車体重量を効果的に軽量化できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1および図2は、本発明の実施形態に係る自動車のシート取付構造を備えた車室形成部の概略構成を示している。この車室形成部の床面を構成するフロアパネル1上には、シートクッション2とシートバック3とを備えた運転席および助手席からなる乗員用シート4が設置されるとともに、その下方に左右一対のクロスメンバ5が車幅方向に延設されている。上記シートクッション2の両側辺部下方には、乗員用シート4を車体の前後方向にスライド可能に支持する左右一対のスライドレール6が、所定の仰角(例えば15°〜20°程度の仰角)で前上がりに傾斜した状態で配設されている。
【0032】
上記クロスメンバ5は、図3および図4に示すように、車幅方向に延びる前後一対のフランジ部7,8と、所定の前後幅をもって車体の上方側に膨出する膨出部9とを備え、フロアパネル1よりも板厚が大きな値に設定されたパネル材により形成されている。上記クロスメンバ5の膨出部9は、前方フランジ部7の後端から上方に起立する前壁面10と、後方フランジ部8の前端から上方に起立する後壁面11と、前壁面10および後壁面11の上端部間に架け渡された上壁面12とによって断面コ字状に形成されている。また、上記前壁面10の全高が後壁面11よりも所定量だけ大きな値に設定されることにより、上記クロスメンバ5の上壁面12がスライドレール6の仰角に対応した角度で前上がりに傾斜した状態となるように形成されている。
【0033】
上記クロスメンバ5の車幅方向の外方側部および内方側部には、前後寸法が上記スライドレール6の全長に略対応した値、つまりスライドレール6の前後寸法と略同等、あるいはスライドレール6の支持剛性を充分に確保できる範囲内においてその前後寸法よりもやや短い値に設定されたスライドレール取付部13,14が設けられている。そして、シートクッション3の両側辺部下方に配設されたスライドレール6が上記スライドレール取付部13,14にボルト止めされる等により、このスライドレール取付部13,14が単独でスライドレール6を支持するように構成されている。
【0034】
また、図5に示すように、上記クロスメンバ5の車幅方向の外方側に配設されたスライドレール取付部13の端部が、フロアパネル1の左右両側辺部に沿って車体の前後方向に延びるサイドシル15の側壁部等に接合されるとともに、上記クロスメンバ5の車幅方向の内方側に配設されたスライドレール取付部14の端部が、フロアパネル1の中央部に沿って車体の前後方向に延びるトンネル部16の側壁部に接合されている。
【0035】
上記両スライドレール取付部13,14の間に位置するクロスメンバ5の前壁面10には、図3および図4に示すように、車体の後方側に凹入する凹入部17が形成されるとともに、両スライドレール取付部13,14の間に位置するクロスメンバ5の後壁面11には、車体の前方側に凹入する凹入部18が形成されている。これにより、上記スライドレール取付部13,14に比べて前後寸法Lの小さい細幅部19がクロスメンバ5の中央部に形成されている。
【0036】
そして、上記クロスメンバ5の膨出部9とその下方に位置するフロアパネル1とにより車幅方向に延びる閉断面20が形成され、この閉断面20内には、車幅方向に延びる偏平形状の車両装備品21が配設されている。この車両装備品21は、偏平形状のバッテリー本体22と、その前方側に配設されたファン・ダクト23と、バッテリー本体22の後方側に配設された整流器24とを有するバッテリーユニットからなっている。また、上記クロスメンバ5の上壁面12には、上記バッテリーユニットからなる車両装備品21を上記閉断面20内に設置するための開口部25が形成されるとともに、この開口部25を閉止するための蓋体26が着脱可能に取り付けられている。
【0037】
上記乗員用シート4には、図6および図7に示すように、シートクッション2の下面に取り付けられた左右一対のスライド部材27がスライドレール6に沿ってスライド自在に支持されるとともに、上記シートクッション2をスライドレール6に沿って車体の前後方向にスライド変位させるスライド手段28と、このシートクッション2のスライド変位に連動させてシートクッション2の座面を予め設定された移動軌跡に沿って傾動変位させるチルト手段29とが設けられている。
【0038】
上記スライド手段28は、スライドレール6の側壁面に固定されたラックギア30と、上記スライド部材27に回転自在に支持されるとともにラックギア30上を転動する転動ギア31と、この転動ギア31に歯合する駆動ギア32とを有している。そして、図外の駆動モータからトルクケーブル33を介して上記駆動ギア32に入力される回転力に応じ、上記転動ギア31を駆動してラックギア30上を転動させることにより、シートクッション2およびスライド部材27を、図6の実線で示す前方位置から仮想線で示す後方位置にスライド変位させて乗員用シート4の前後位置を調節するように構成されている。なお、図外の駆動モータからの回転力を伝達するトルクケーブルを上記転動ギア31に接続することにより、この転動ギア31を直接、駆動するように構成してもよく、あるいは手動操作に応じた回転駆動力を上記転動ギア31または駆動ギア32に入力するように構成してもよい。
【0039】
また、上記チルト手段29は、シートクッション2の前部下面に設けられた前部ブラケット34の枢支部を貫通するとともに上記スライド部材27に支持された支持軸35と、上記駆動ギア32と一体に回転する従動ギア36と、この従動ギア36に歯合するセクタギア37aが基端部に形成された駆動レバー37と、その先端部をシートクッション2の後部下面に設けられた後部ブラケット38に連結するリンクプレート39とを有している。そして、上記トルクケーブル33から駆動ギア32に伝達された回転力に応じて従動ギア36が回転駆動されるとともに、この従動ギア36により上記駆動レバー37が駆動されて揺動変位し、これに対応して上記前部ブラケット34に枢支された支持軸35を支点にシートクッション2の後端部が昇降駆動されるように構成されている。
【0040】
具体的には、上記転動ギア31を図7の矢印aに示すように、乗員用シート4を車体の前方側に移動させる方向に回転駆動した場合には、この転動ギア31の回転方向aと逆方向bにチルト手段29の駆動ギア32および従動ギア36が回転駆動され、この従動ギア36によりセクタギア37aが矢印cに示すように回転駆動されることにより、上記駆動レバー37の先端部が上昇する方向dに揺動変位してシートクッション2が水平状態に近い状態となる。一方、上記乗員用シート4を車体の後方側に移動させる場合には、転動ギア31、駆動ギア32および従動ギア36が、それぞれ上記前方移動時と逆方向に回転駆動することにより、上記駆動レバー37の先端部が下降する方向に揺動変位してシートクッション2が後下がりの傾斜状態となるように構成されている。
【0041】
上記のように乗員用シート4のシートクッション2を車体の前後方向へ移動可能に支持するスライドレール6を、所定の仰角で前上がりに傾斜させて車室内に配設した自動車のシート取付構造において、車室内のフロアパネル1上から所定の前後幅をもって車体の上方に膨出する膨出部9を備えたクロスメンバ5を車幅方向に延設するとともに、このクロスメンバ5の上壁面12を上記スライドレール6の仰角に対応した角度で傾斜させ、このスライドレール6を上記クロスメンバ5の上壁面12に取り付けたため、乗員用シートのシートクッション4を車体の前後方向へ移動可能に支持する上記スライドレール6を所定の仰角で前上がりに傾斜させたにも拘わらず、その支持剛性を充分に確保できるという利点がある。
【0042】
すなわち、上記スライドレール6の設置部に、車室内のフロアパネル1上から所定の前後幅をもって車体の上方に膨出する膨出部9を備えたクロスメンバ5を車幅方向に延設したため、上記スライドレール6の設置部における車体剛性を充分に確保することができる。そして、上記膨出部9の上壁面12を上記スライドレール6の仰角に対応した角度で傾斜させ、このスライドレール6を上壁面12に取り付けたため、自動車の正面衝突時等に、乗員用シート4のシートクッション2から上記スライドレール6に作用する大きな衝撃荷重を上記クロスメンバ5の全体で安定して支持することができる。
【0043】
したがって、上記スライドレール6の仰角が15°〜20°程度の急角度である場合においても、図6に示すように、自動車の正面衝突時等に作用する水平方向の衝撃荷重αに対応した大きな曲げ荷重、つまり上記スライドレール6の前端取付部を荷重の作用点とするとともに、後端取付部を支点にスライドレール6の前端部を浮き上がらせる方向に曲げ変形させようとするモーメント荷重βを、安定して支持することことにより、上記スライドレール6が変形するという事態の発生を効果的に防止できるという利点がある。
【0044】
また、自動車の側突時等に、乗員用シート4の設置部に作用する大きな衝撃荷重等を上記クロスメンバ5により支持することにより、車体の変形を効果的に防止することができる。しかも、上記のようにスライドレール6の仰角を急角度に設定した場合には、図4に示すように、スライドレール6の前後寸法(水平面上における車体前後方向の寸法)Mが、その全長Nに比べて小さな値に値となるため、上記膨出部9の前後幅をそれ程大きな値に設定することなく、上記スライドレール6に作用する荷重をクロスメンバ5により安定して支持することができる。
【0045】
特に、上記実施形態に示すように、クロスメンバ5により単独でスライドレール6を支持し得るように構成した場合、具体的には、水平面上における車体前後方向の寸法がスライドレール6の前後寸法Mに対応した値に設定されたスライドレール取付部13,14を上記クロスメンバ5に設けるとともに、このスライドレール取付部13,14の板厚を所定値に設定する等により、上記クロスメンバ5だけでスライドレール6を安定して支持し得るように構成した場合には、別体の取付部材を設けることなく簡単かつコンパクトな構成でスライドレール6の支持剛性を充分に確保し、上記のようにスライドレール6の前端取付部を荷重の作用点とするとともに、後端取付部を支点にしたモーメント荷重等に応じてスライドレール6が曲げ変形する等の事態の発生を効果的に防止できるという利点がある。
【0046】
また、上記実施形態に示すように、乗員用シート4のシートクッション2をスライドレール6に沿って車体の前後方向にスライド変位させるスライド手段28と、このシートクッション2のスライド変位に連動させてシートクッション2の座面を予め設定された移動軌跡に沿って傾動変位させるチルト手段29とを設けた場合には、簡単かつコンパクトな構成で乗員用シート4の前後位置を調節する操作に応じてシートクッション2の傾斜角度を自動的に調節することができるという利点がある。
【0047】
また、上記実施形態に示すように、シートクッション2の両側辺部下方に沿って左右一対のスライドレール6が配設されたシート取付構造において、両スライドレール6が取り付けられる左右一対のスライドレール取付部13,14を上記クロスメンバ5の上壁部12に設けるとともに、両スライドレール取付部13,14の間に位置するクロスメンバ5の前壁面10に、車体の後方側に凹入する凹入部18を設けた場合には、上記スライドレール取付部13,14の前後寸法を充分に確保してスライドレール6の支持剛性を充分に維持しつつ、クロスメンバ5の中央部における前後寸法Lを小さくすることができる。したがって、運転席および助手席からなる上記乗員用シート4に着座した乗員Bの足元スペースを充分に確保し、上記クロスメンバ5に邪魔されることなく、乗員Bが足を車体の後方側に移動させることができるという利点がある。
【0048】
さらに、上記実施形態では、上記クロスメンバ5の後方側にリヤ側の乗員用シート40が配設された自動車において、上記両スライドレール取付部13,14の間に位置するクロスメンバ5の後壁面11に、車体の前方側に凹入する凹入部19設けたため、上記スライドレール取付部13,14によるスライドレール6の支持剛性を充分に維持しつつ、図1に示すように、リヤ側の乗員用シート40に着座した乗員Rの足先スペースを充分に確保し、クロスメンバ5に邪魔されることなく、上記乗員Rが足を車体の前方側に移動させることができる。
【0049】
また、上記実施形態に示すようにクロスメンバ5の車幅方向の外方側端部に設けられたスライドレール取付部13を、フロアパネル1の左右両側辺部に沿って車体の前後方向に延びるサイドシル15に接合した場合には、スライドレール6に対応した前後寸法を有するクロスメンバ5の外側端部を上記サイドシル15に支持させることにより、これらを強固に連結することができる。したがって、上記乗員用シート4に着座した乗員Bの足元スペースまたはリヤ側の乗員用シート40に着座した乗員Rの足先スペースを充分に確保しつつ、上記クロスメンバ5によりサイドシル15を効果的に補強し、このサイドシル15が自動車の側突時等に変形するのを抑制できるという利点がある。
【0050】
さらに、上記実施形態に示すように、クロスメンバ5の車幅方向の内方側端部に設けられたスライドレール取付部14を、フロアパネル1の中央部に沿って車体の前後方向に延びるトンネル部16に接合した場合には、スライドレール6に対応した前後寸法を有するクロスメンバ5の内側端部を上記トンネル部16に支持させることにより、これらを強固に連結することができる。したがって、上記乗員用シート4に着座した乗員Bの足元スペースまたはリヤ側の乗員用シート40に着座した乗員Rの足先スペースを充分に確保しつつ、上記クロスメンバ5により乗員用シート4の設置部における車体の剛性を、より効果的に向上させることができる。
【0051】
上記実施形態では、所定の前後幅をもって車幅方向に延設された上記クロスメンバ5の膨出部9とその下方に位置するフロアパネル1とにより車幅方向に延びる閉断面20を形成したため、上記スライドレール6の設置部における車体剛性を効果的に向上させることができる。特に、上記実施形態に示すように、クロスメンバ5の膨出部9とフロアパネル1とにより形成された閉断面20内に車両装備品21を配設した場合には、上記膨出部9の下方スペースを有効に活用して、上記車両装備品21のレイアウト性を効果的に向上させることができる。しかも、上記クロスメンバ5の膨出部9とフロアパネル1とにより閉断面20を密閉状態とすることにより、この閉断面20内に配設された耐水性の低いバッテリーユニットからなる車両装備品21を効果的に保護できるという利点がある。
【0052】
なお、上記のようにクロスメンバ5の膨出部9とフロアパネル1とにより形成された閉断面20内に車両装備品21を配設するように構成した上記実施形態に代え、図8に示すように、クロスメンバ5の膨出部9に対応して上方に膨出する膨出部41を上記フロアパネル1に設けるとともに、この膨出部9内に車両装備品21を配設した構造としてもよい。このように構成した場合には、フロアパネル1を下方に膨出させる等の手段を講じることなく、上記クロスメンバ5の下方スペースを有効に利用して上記車両装備品21を配設することができるため、フロアパネル1の地上高を充分に確保し、あるいは低床化を図ることができるという利点がある。
【0053】
さらに、図9に示すように、上記クロスメンバ5の膨出部9内に車両装備品21を設置するための開口部42をクロスメンバ5の設置部の下方に位置するフロアパネル1に形成してもよく、この場合には、上記膨出部9の下方スペースを最大限に利用して上記車両装備品21をレイアウトすることができる。なお、図8および図9において、43は車両装備品21を車体の保持させるためのストラップ部材である。また、上記クロスメンバ5の膨出部9内、またはフロアパネル1の膨出部41内に配設される車両装備品は、上記バッテリーユニットに限定されることなく、排気通路に配設された消音器(マフラー)または排気ガス浄化用の触媒コンバータ等が考えられる。
【0054】
なお、上記実施形態では、フロアパネル1の中央部に沿って車体の前後方向に延びるトンネル部16が設けられた自動車について本発明を適用した例について説明したが、上記トンネル部16がない自動車についても本発明を適用可能である。この場合には、図10(底面図)に示すように、車室内の車幅方向に延びる一体のクロスメンバ5aをフロアパネル1上に配設し、上記クロスメンバ5aの左右両端部に設けられたスライドレール取付部13aを、フロアパネル1の左右両側辺部に沿って車体の前後方向に延びる左右のサイドシル15にそれぞれ接合するとともに、上記クロスメンバ5aの車幅方向中央部に一体に設けられたスライドレール取付部14aに、車体の内方側に位置するスライドレールを取り付けられるように構成することが望ましい。
【0055】
また、図10に示すように、車室内に設置された左右一対の乗員用シート4,4の下方に上記クロスメンバ5aを配設するとともに、上記両乗員用シート4,4の下方部に跨るように車幅方向に延びる長尺かつ偏平形状のバッテリーユニットからなる車両装備品21を、上記クロスメンバ5aの下方に配設した構造としてもよい。このように偏平形状に形成されたバッテリーユニットは、所定の高さを有する通常のバッテリーに比べてバッテリー全体を均一に冷却可能であるとともに、上記クロスメンバ5aの下方に形成された空間部を有効に利用して配設することができるという利点がある。なお、いわゆるコンデンサー機能を利用して充電されるバッテリーユニット(キャパシター)を上記車両装備品21として、クロスメンバ5aの下方部等に配設するように構成してもよい。
【0056】
さらに、上記実施形態に示すように、クロスメンバ5の板厚をフロアパネル1の板厚よりも大きな値に設定し、このクロスメンバ5の上壁面12にスライドレール6を取り付けるように構成した場合には、上記フロアパネル12の板厚を増大させたり、スライドレールの取付部を補強する補強部材を設けたりする等の手段を講じることなく、スライドレール5の支持剛性を充分に確保することが可能であり、部品点数を低減して車体重量を効果的に軽量化できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る自動車のシート取付構造の実施形態を示す側面断面図である。
【図2】本発明に係る自動車のシート取付構造の実施形態を示す平面図である。
【図3】クロスメンバおよびスライドレールの具体的構成を示す平面図である。
【図4】クロスメンバおよびスライドレールの具体的構成を示す側面断面図である。
【図5】クロスメンバの取付状態を示す正面断面図である。
【図6】乗員用シートの位置調節機能を示す説明図である。
【図7】乗員用シートのスライド手段およびチルト手段の具体的構成を示す斜視図である。
【図8】本発明に係る自動車のシート取付構造の別の実施形態を示す側面断面図である。
【図9】本発明に係る自動車のシート取付構造のさらに実施形態を示す側面断面図である。
【図10】本発明に係る自動車のシート取付構造のさらに実施形態を示す底面図である。
【符号の説明】
【0058】
1 フロアパネル
2 シートクッション
4 乗員用シート
5 クロスメンバ
6 スライドレール
9 膨出部
12 上壁部
13,14 スライドレール取付部
15 サイドシル
16 トンネル部
20 閉断面
21 車両装備品
28 スライド手段
29 チルト手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員用シートのシートクッションを車体の前後方向へ移動可能に支持するスライドレールを、所定の仰角で前上がりに傾斜させて車室内に配設した自動車のシート取付構造であって、車室内のフロアパネルから所定の前後幅をもって車体の上方に膨出する膨出部を備えたクロスメンバを車幅方向に延設するとともに、このクロスメンバの上壁面を上記スライドレールの仰角に対応した角度で傾斜させ、このスライドレールを上記クロスメンバの上壁面に取り付けたことを特徴とする自動車のシート取付構造。
【請求項2】
上記クロスメンバは単独でスライドレールを支持し得るように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の自動車のシート取付構造。
【請求項3】
上記シートクッションをスライドレールに沿って車体の前後方向にスライド変位させるスライド手段と、このシートクッションのスライド変位に連動させてシートクッションの座面を予め設定された移動軌跡に沿って傾動変位させるチルト手段とを備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の自動車のシート取付構造。
【請求項4】
シートクッションの両側辺部下方に沿って左右一対のスライドレールが配設され、両スライドレールが取り付けられる左右一対のスライドレール取付部がクロスメンバに設けられるとともに、両スライドレール取付部の間に位置するクロスメンバの前壁面に、車体の後方側に凹入する凹入部が設けられたことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の自動車のシート取付構造。
【請求項5】
シートクッションの両側辺部下方に沿って左右一対のスライドレールが配設され、両スライドレールが取り付けられる左右一対のスライドレール取付部がクロスメンバに設けられるとともに、クロスメンバの後方側にリヤ側の乗員用シートが配設され、上記両スライドレール取付部の間に位置するクロスメンバの後壁面に、車体の前方側に凹入する凹入部が設けられたことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の自動車のシート取付構造。
【請求項6】
上記クロスメンバの車幅方向の外方側端部に設けられたスライドレール取付部が、フロアパネルの左右両側辺部に沿って車体の前後方向に延びるサイドシルに接合されたことを特徴とする請求項4または5に記載の自動車のシート取付構造。
【請求項7】
上記クロスメンバの車幅方向の内方側端部に設けられたスライドレール取付部が、フロアパネルの中央部に沿って車体の前後方向に延びるトンネル部に接合されたことを特徴とする請求項4〜6の何れか1項に記載の自動車のシート取付構造。
【請求項8】
上記クロスメンバの膨出部とその下方に位置するフロアパネルとにより車幅方向に延びる閉断面が形成されたことを特徴とする請求項1項に記載の自動車のシート取付構造。
【請求項9】
上記クロスメンバの膨出部とフロアパネルとにより形成された閉断面内に車両装備品が配設されたことを特徴とする請求項8に記載の自動車のシート取付構造。
【請求項10】
上記クロスメンバの膨出部に対応して上方に膨出する膨出部が上記フロアパネルに設けられるとともに、この膨出部内に車両装備品が配設されたことを特徴とする請求項8に記載の自動車のシート取付構造。
【請求項11】
上記クロスメンバの膨出部内に車両装備品を設置するための開口部がクロスメンバの設置部の下方に位置するフロアパネルに形成されたことを特徴とする請求項1に記載の自動車のシート取付構造。
【請求項12】
車室内に設置された左右一対の乗員用シートの下方に上記クロスメンバが配設されるとともに、上記両乗員用シートの下方部に跨るように車幅方向に延びる偏平形状のバッテリーユニットからなる車両装備品が、上記クロスメンバの膨出部の下方に配設されたことを特徴とする請求項8〜11の何れか1項に記載の自動車のシート取付構造。
【請求項13】
上記クロスメンバの板厚がフロアパネルの板厚よりも大きな値に設定されたことを特徴とする請求項1に記載の自動車のシート取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−248448(P2006−248448A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−70115(P2005−70115)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】