説明

自動車用ナトリウム硫黄電池

【課題】自動車に搭載可能な電流密度が大きく信頼性の高いナトリウム硫黄電池を提供する。
【解決手段】ナトリウム硫黄電池の固体電解質を薄膜化して固体電解質の電気抵抗を下げ、正極活物質の流路を改善して正極活物質の供給排出を効率化し、固体電解質と正極電極間の距離を縮めて正極電極抵抗値を下げ、ナトリウム硫黄電池を大電流で充放電可能にする。ナトリウム硫黄電池の内外を真空環境で動作させて、固体電解質や容器に掛かる応力を緩和する。衝突や電池が破損したときに、水で急冷して電池の機能を止めて安全性を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ナトリウム硫黄電池。
【背景技術】
【0002】
負極活物質にナトリウムを正極活物質に硫黄と硫化ナトリウムを用いるナトリウム硫黄電池は、正極と負極の隔壁にナトリウムイオンに透過性があるベータアルミナ固体電解質が用いられ、負極のナトリウムが固体電解質を透過して正極に移動し硫黄と結合して硫化ナトリウムになることで放電し、正極の硫化ナトリウムからナトリウムが分離して固体電解質を透過して負極にナトリウムが移動して充電される。
ナトリウム硫黄電池は両極の活物質が液化する300℃前後で運用される。
ナトリウム硫黄単電池の電圧は2V程度で、郡電池は複数の単電池を直列に接続して必要な電圧を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−197139号公報
【特許文献2】特開2008−192622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ナトリウム硫黄電池は電気容量は大きいが、自動車等の動力源とするには電流密度が不足している。また短時間で電池を充電するためにも高い電流密度と低い電気抵抗が要請される。
ナトリウム硫黄電池に使用するベータアルミナ固体電解質は衝撃等で破損しやすく、自動車に搭載して使用すると電池の故障の原因になる。
電池を大電流で使用したり電池が破損すると、大量の熱が発生して電池の温度が急激に上昇する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ナトリウム硫黄電池のベータアルミナ固体電解質を薄膜化して電解質の電気抵抗を下げ、硫黄の流路と硫化ナトリウムの流路を交互に配置して正極活物質の対流を容易にし、同時に正極集電体と固体電解質間の電気抵抗を下げる。
固体電解質の薄膜化で固体電解質の対衝撃性を獲得し、薄膜化した固体電解質を正極集電体や負極集電体や電池容器に固定し、正極集電体や負極集電体や電池容器の剛性で薄膜化した固体電解質の剛性不足を補う。
複数のナトリウム硫黄単電池を接続した郡電池において、真空環境に単電池を収容し単電池内も真空で運用し、薄膜の断熱材で多重に単電池を包んで郡電池の断熱性を改善し、単電池間の温度分布をヒートパイプで平準化し、ヒートパイプに加熱用のヒータと可変放熱機構を付加して単電池の温度を一定範囲に制御する。
郡電池が強い衝撃を受けたり単電池が破損して発熱した時に、冷却器に水を流し水の気化熱で単電池を急激に冷やして郡電池の機能を止める。
ナトリウム硫黄単電池の正負の電極に互いに咬合する凹凸を設け、複数の単電池を剛性の高い緩衝箱に収容し、複数の緩衝箱を繋いで郡電池とする。
【発明の効果】
【0006】
ナトリウム硫黄電池の内部電気抵抗が減少し正極活物質の対流が効率化され、高電流密度の電池が得られ、電池の耐衝撃性も改善される。
ナトリウム硫黄電池を内外とも真空環境で運用することで、固体電解質に掛かる圧力が削減され、薄膜の固体電解質でも隔壁としての強度を満足し、電池の封止構造も簡略化される。また電池の内圧が低いので、電池を角型にすることができ、丸型よりも電池の電気容量が増やせる。
郡電池内のナトリウム硫黄単電池の温度が平準化されかつ一定の範囲内に維持でき、断熱性の改善で郡電池の温度維持に要する電力を削減できる。
強い衝撃を受けたり単電池が故障で発熱した時に、郡電池は機能を停止して安全性を確保でき、単電池の連鎖的破損も防げる。
単電池の強度を必要最小限に留める事ができ、電池の組立ても簡単になる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】角型電池の断面図。 (実施例1)
【図2】角型電池の集電構造。 (実施例1)
【図3】平型電池の断面図。 (実施例2)
【図4】平型電池の内部構造。 (実施例2)
【図5】平型電池の集電構造。 (実施例2)
【図6】郡電池の構造。 (実施例3)
【図7】郡電池のヒートパイプ。 (実施例3)
【図8】放熱器と冷却器。 (実施例3)
【図9】別の対流層。 (実施例4)
【図10】別の集電板。 (実施例5)
【図11】別の流路。 (実施例6)
【図12】冷却管。 (実施例7)
【発明を実施するための形態】
【0008】
当発明の電池の構造や構成や有効性を実施例とともに説明する。
【実施例1】
【0009】
図1は角型のナトリウム硫黄電池の断面図である。
負極板1は角型の底のある容器で、負極板1の開口部は正極板2と集電板3が蓋となり封止材12で電気的に絶縁し内部を密閉する。正極板2には角型の筒状の集電板3が接続され、集電板3の反対側の開口部は隔壁8で塞いでいる、集電板3には外周に刻んだ流路4がある。
負極板1の底には外部に突き出した凸部があり、正極板2の凹部と咬合する、咬合部により電池9を直列に接続できる。咬合部には余裕があり、振動で電池が揺れても接続は維持され、高温で液化する金属や合金を電極の接触部に鍍金することでより信頼性の高い接続ができる。
集電板3の外周には対流層6電解質5緩衝材7の順に積層する。電池9の内部は封止材12と電解質5と隔壁8により正極室10と負極室11に分離される。
電解質5はベータアルミナ薄膜で、単独では応力に弱いので集電板3に対流層6と電解質5を黒鉛系接着剤やアルミナ系接着剤等で接着して固定し、集電板3と対流層6の剛性で応力に耐える。集電板3の角を別の絶縁体で塞ぐと、電解質5と対流層6は平板の薄板にでき、電解質5や対流層6の製造が容易になる。
【0010】
負極室11にはナトリウム23が収容され、電池9の放電でナトリウム23が消費されると空間27が広がる。正極室10には硫黄24が収容され、電池9の放電に伴いナトリウムが電解質5を透過して硫黄24と結合して硫化ナトリウム25に変化する、電池9の放電が進むと空間26は狭まる。空間26と27は真空とし、ナトリウム23や硫黄24や硫化ナトリウム25の蒸気が空間26と27を各々満たす。
電池9の充電時には硫化ナトリウム25からナトリウムが分離し、分離したナトリウムが電解質5を透過して負極室11に移動する、分離して生成した硫黄は電解質5を透過できないので正極室10に留まる。
負極板1や正極板2や集電板3には銅やアルミ等の導電率の高い素材を採用する。正極板2や集電板3はクロム鉄合金や黒鉛で表面を覆って腐食性の高い硫黄24や硫化ナトリウム25から素材を保護する。
【0011】
隔壁8はアルミ等を採用して表面にガラスやアルミナ等を被せて絶縁を確保するかもしくは絶縁性のアルミナ等を採用する。図1の電池9の外形を正6面体に近い形状として容積当りの電気容量を稼ぎ、電解質5の面積を最大限確保するために、隔壁8は負極板1の近くから正極板2に向かって大きく突き出して負極室11を確保している。
集電板3の周囲に刻んだ流路4と正極室10を繋ぐために、多数の流通口21が集電板3に開けられていて、電解質5の周辺で生成消費される硫黄や硫化ナトリウムの通路となる。
【0012】
全体の封止はガラス等を溶解して隔壁8と集電板3と電解質5と封止材12と負極板1の各々の間を塞ぐ。電池9を内外とも真空環境で運用すると、封止部には大きな圧力は掛からないため、ガラス等でも封止が可能になる。
緩衝材7は電解質5と負極板1との隙間に詰めてあり、ナトリウムに親和性の高い材料を選び、緩衝材7は空隙を多くして毛細管現象でナトリウム23を電解質5に運ぶ。緩衝材7や対流層6により電解質5を挟み、電解質5が破損した際に電解質5の離散を防いで事故の拡大を防止する。
【0013】
電解質5の一部が破損するとナトリウムと硫黄が直接反応して溶解温度が高く導電性の劣る二硫化ナトリウム等が生成される。電池9を真空環境で運用すると圧力が低いので反応は制限され、反応が収まると生成された二硫化ナトリウム等が破損箇所を塞いで自己修復される。
電池9内部にガスを封入しないので電池9内部の圧力は低く、高い応力が容器に掛からないので重量当りの電気容量の大きな角型の容器を採用できる。
硫化ナトリウム25の比重は硫黄24より重く、硫化ナトリウム25が底に溜まり上に硫黄24が分離して浮かぶ。図1の電池9は水平に寝かせて利用する前提であり、そのため流路4は正極板2と平行に刻まれている。電池9を立てて使用する場合には流路4は正極板2と垂直に刻む必要がある。
【0014】
緩衝材7の代わりに負極板1に多数の細い溝を刻み、溝の毛細管現象でナトリウム23を電解質5に運ぶ事もできる。
電解質5を緩衝材7を介して負極板1に接着し固定することも、負極板1に多数の細い溝を刻み緩衝材7無しで直接負極板1に接着し固定する事もできる。
【0015】
図2は図1の電池9の集電構造の断面図である。
図2の電解質5の上部は正極室10になり硫黄や硫化ナトリウムと接している、電解質5の下部は負極室11になりナトリウムと接している。
集電板3に刻んだ溝の流路4は一つ置きにガラス被覆44を施してあり、ガラス被覆44を施した流路4は硫化ナトリウムに親和性が高く硫化ナトリウム流路48になり、ガラス被覆44を施してない流路4は硫黄に親和性が高く硫黄流路47になる。ガラス被覆44は、ガラス粒子を含む溶液を溝に注入し、溶剤を乾かし、残ったガラス粒子を高温で溶解して作成する。ガラス被覆44の代わりにアルミナ等を被覆しても同様の効果がある。
集電板3は中空の押出材に機械加工で溝を刻む方法で流路4を作成できる。また、溝のある平板の押出材を切断したり平板にロール加工で溝を成型し、角型に曲げて切断箇所を溶接して中空の集電板3とすることもできる。電池9を立てて使用する場合には、集電板3は中空の溝付の押出材を採用できる。
【0016】
正極室10内の硫黄24と硫化ナトリウム25の境界面を越えて、流路4は硫黄や硫化ナトリウムを保持でき、流路4の幅や深さを電池9の大きさに応じて適切な値とすることで、硫黄と硫化ナトリウム各々を効率的に対流層6に供給もしくは対流層6から排出できる。
対流層6は電解質5に接する絶縁層43と集電板3に接する分離層42から構成されている。絶縁層43はアルミナ粒子41の層で、分離層42はアルミナ粒子41と黒鉛粒子40との混合層である。アルミナ粒子41と黒鉛粒子40を同一比率で混合し、空隙が多く残るように犠牲金属等を混合して焼結すると流動抵抗の低い分離層42が得られる。
絶縁層43は電解質5と分離層42の黒鉛粒子40とを絶縁するために設けてあり、絶縁が維持されれば絶縁層43の厚さは薄ければ薄いほど良い。電解質5の表面を研磨し対流層6も研磨して向き合わせ、焼結すると両者は強く結合して一体にできる、研磨しない場合にアルミ系接着剤等を使用し焼結して接合する。対流層6と集電板3とは低い電気抵抗になるように黒鉛系接着剤等を使用し焼結して接合する。
【0017】
硫黄が絶縁層43に浸透している領域では電解質5の周辺に硫黄が存在し、電池9の放電時には電解質5を透過してきたナトリウムイオンが電解質5周辺の硫黄と反応して硫化ナトリウムになり、生成した硫化ナトリウムは近辺の硫化ナトリウムに親和性の高いアルミナ粒子41を経由して硫化ナトリウム流路48に流出し流通口21を通って正極室10に溜まる。消費した硫黄は正極室10に溜まった硫黄24が流通口21を通り硫黄流路47から黒鉛粒子40経由で補充される。
電池9の充電時には、電解質5の近辺で硫化ナトリウムからナトリウムが分離され、電解質5を透過して負極室11にナトリウムイオンが移動する。ナトリウムを失って生成された硫黄は電解質5の周囲に溜まり、溜まった硫黄が絶縁層43を越すと硫黄に親和性の高い黒鉛粒子40を経由して硫黄流路47に排出され流通口21を通って正極室10に溜まる。
電池9の充電で消費された硫化ナトリウムは、硫化ナトリウム25が正極室10から流通口21を通り硫化ナトリウム流路48からアルミナ粒子41経由で電解質5の近辺に供給される。
電池9の充放電の電流経路は、硫黄の電気抵抗が高いので硫黄を迂回し、電解質5を起点に周囲の硫化ナトリウムに繋がり、硫化ナトリウムから直近のアルミナ粒子41と黒鉛粒子40との接点近辺へと繋がり、導電性の黒鉛粒子40を介して集電板3に繋がる。絶縁層43の電気抵抗は硫化ナトリウムの抵抗値と黒鉛粒子40と電解質5との距離に比例し、絶縁層43を薄くするか無くし、黒鉛粒子40やアルミナ粒子41を細かくすると低い電気抵抗に抑えられる。
【0018】
対流層6の絶縁層43や分離層42の表面のアルミナ粒子41や黒鉛粒子40は細かな粒子とし、分離層42の内部のアルミナ粒子41や黒鉛粒子40は大きな粒子にすると、分離層42と電解質5や集電板3との電気抵抗が減少し、なおかつ分離層42の硫黄や硫化ナトリウムの流動抵抗が減少する。
論理的には電解質5の厚さは数nmの厚さでも機能し、現実的には電解質5の厚さは耐久性と強度や製造可能性から決まる。電解質5に必要な剛性を集電板3や対流層6にも担保させることで、従来の電解質5の厚さから大幅に削減でき、厚さに比例する電解質5のナトリウムイオン伝導抵抗が大幅に減少する。
【0019】
対流層6で硫化ナトリウムはアルミナ粒子41に沿って硫化ナトリウム流路48と電解質5の間で電解質5に垂直方向に流れ、対流層6での硫化ナトリウムの移動距離は短くなる。硫化ナトリウムは硫化ナトリウム流路48では電解質5と平行に流れ、流路4には流れる方向には障害物がないので低い粘性で効率的に硫化ナトリウムが流れる。
対流層6で硫黄は黒鉛粒子40に沿って硫黄流路47と電解質5の間で電解質5に垂直方向に流れ、対流層6での硫黄の移動距離は短くなる。硫黄は硫黄流路47では電解質5と平行に流れ、流路4には流れる方向には障害物がないので低い粘性で効率的に硫黄が流れる。
絶縁層43は純粋に絶縁のみに機能が限定されるので薄くでき、分離層42の黒鉛粒子40が実質的な正極電極となり、電解質5と分離層42との距離は短く電解質5と正極電極間の電気抵抗は少なくなる。
【0020】
正極活物質の効率的な流動と正極電極の電気抵抗の低減と電解質5のナトリウムイオン伝導抵抗の低減により、低い電圧降下で大電流が流せるナトリウム硫黄電池が得られる。
負極板1から集電板3までを結合して一体とすることで、自動車等の強い振動が継続する環境でも使用可能な電池9が得られる。
【実施例2】
【0021】
図3は平型のナトリウム硫黄電池の断面図である。
図4は図3の平型のナトリウム硫黄電池の正極板2を取り外した状態の内部構造の図である。
浅い角型の容器の正極板2に負極板1が蓋となり、両者を薄い絶縁層を介してガラス等で封止する。負極板1と平行に多数の薄板を等間隔に並べた集電板3があり、集電板3を複数の接続板28により正極板2に接続してしている。
負極板1の凹みは正極板2の底に咬合し、電池9を直列に接続できる。
負極板1から緩衝材7電解質5対流層6集電板3の順に積層していて、電池9の内部は電解質5と隔壁8により正極室10と負極室11に分離される。
負極板1や正極板2や集電板3や接続板28には銅やアルミ等の導電率の高い素材を採用する。正極板2や集電板3や接続板28はクロム鉄合金や黒鉛で表面を覆って腐食性の高い硫黄24や硫化ナトリウム25から素材を保護する。
【0022】
隔壁8はアルミ等を採用して表面にガラスやアルミナ等を被せて絶縁を確保するか絶縁性のアルミナ等を採用する。隔壁8は凹型で対流層6と電解質5に開けた穴を貫通している。隔壁8には開口部に内側に向いたアングル部を設け、隔壁8のアングル部をガラス等を接着剤に負極板1に固定する。
緩衝材7は電解質5および隔壁8と負極板1との隙間に詰めてあり、ナトリウムに親和性の高い材料を選び、空隙を多くし毛細管現象で負極室11のナトリウム23を電解質5に運ぶ。
緩衝材7の代わりに負極板1に多数の細い溝を刻み、溝の毛細管現象で負極室11のナトリウム23を電解質5に運ぶ事もできる。
電解質5はベータアルミナ薄膜で単独では応力に弱いので、集電板3に対流層6と電解質5を固定し、集電板3と対流層6の剛性で応力に耐える。集電板3と対流層6とは黒鉛系接着剤等で接着して電気的にも接続している。電解質5を緩衝材7に固定し、緩衝材7を負極板1に固定して応力に耐えることもできる。また負極板1に溝を刻み、緩衝材7を無くし、電解質5を直接負極板1に接着して応力に耐えることもできる。
【0023】
全体の封止はガラス等を溶解して隔壁8と電解質5と負極板1と正極板2の各々の間を塞ぐ。電池9を内外とも真空環境で運用すると、封止部には大きな圧力は掛からないため、ガラス等でも封止が可能になる。
図3では隔壁8は正極板2で覆われているが、正極板2と隔壁8の両者を並置する構造も可能である。
【0024】
図5は図3の平型電池の集電構造の断面図である。
集電板3は薄板で等間隔に並べて間を流路4としている。集電板3には接続板28が接続されている。集電板3の片面には硫化ナトリウムに親和性の高いガラス被覆44を被せ、隣り合った板でガラス被覆44を対向させて硫化ナトリウム流路48としている、ガラス被覆44の無い集電板3の対向面は硫黄に親和性が高く硫黄流路47になる。
対流層6から絶縁層43を無くして分離層42のみとし、電解質5と分離層42とを研磨するか高い平坦度で製造し、電解質5と接する分離層42の黒鉛粒子40を電解エッチング等で表面より凹ませ、電解質5と黒鉛粒子40との絶縁を確保している。絶縁層43を無くす事で電解質5と分離層42との距離が減少して対流層6の電気抵抗が減少する。電解質5が硫化ナトリウムに浸った領域でも、硫黄流路47から黒鉛粒子40に沿って硫黄が電解質5の近辺に供給され、電解質5の放電時の活動領域が増えて電池9の電気抵抗が下がる。
【実施例3】
【0025】
図6は多数のナトリウム硫黄単電池61を真空容器60に収容した郡電池65の図である。
図6は単電池61を4列構成で収容した郡電池65で、単電池61は緩衝箱64に詰めている。緩衝箱64の周囲を断熱材62で包み真空容器60に収めている。真空容器60内の空間は真空とし断熱効果を高めている。真空容器60内に収容する単電池61の内部も真空状態で動作させる。
真空容器60の外側には放熱板68を装着して外気への熱抵抗を下げている。
断熱材62は、アルミ箔とガラス繊維等を重ねそれを多重に積層して高い断熱効果を発揮している。
【0026】
図7は図6の郡電池65の列ヒートパイプ70とその周辺の図である。
列ヒートパイプ70は単電池61とは電気的には絶縁され熱的には接続している。郡ヒートパイプ71は単電池61の列毎の列ヒートパイプ70と接続して全電池の温度を平準化する。郡ヒートパイプ71には温度計75とヒータ73と放熱器74と冷却器80を装着している。単電池61の温度が低下したとき、ヒータ73に電流を流して郡ヒートパイプ71を暖め、その熱を列ヒートパイプ70に配分し、列ヒートパイプ70に接続している単電池61を暖める。
3個の単電池61を収容した緩衝箱64を列毎に複数接続して郡電池65としていて、剛性の高い緩衝箱64に単電池61を収めることで、単電池61の強度を必要最小限に留めることができ、単電池61の正負電極は咬合して単電池61は直列に接続され、郡電池65の組み立てが容易になる。
電圧600Vの郡電池には300個のナトリウム硫黄単電池が必要で、緩衝箱に3行2列2段に単電池を収容すると、5行5列の25個の緩衝箱で郡電池が構成できる。
【0027】
図8は図7の放熱器74と冷却器80の図である。
放熱器74の放熱ベローズ72は郡ヒートパイプ71に接続されていて、放熱ベローズ72の内部には炭化水素等の蒸発材を封入している。単電池61の温度が高まり郡ヒートパイプ71が温まって放熱ベローズ72内の蒸発材が蒸発すると、放熱ベローズ72の内圧が高くなり放熱ベローズ72が伸びる。
放熱ベローズ72が伸びると、真空容器60に装着された容器ヒートパイプ77と郡ヒートパイプ71に接続された放熱ヒートパイプ76の間に、放熱ベローズ72の先に絶縁材79を介して取付けられたテーパのある接片78がテーパのある郡ヒートパイプ71と容器ヒートパイプ77に挟まり熱を逃す、逃した熱は真空容器60を経由して外気に放熱されて、単電池61の温度が温度上限を超えないよう制御する。
放熱ベローズ72と接片78とは絶縁材79で熱的に絶縁し、接片78の温度変化が放熱ベローズ72に影響しないよう熱を遮断する。
放熱ベローズ72により単電池61の上限温度が制御されるので単電池61が過熱せず、断熱性の高い構造を郡電池65に採用でき、少ない電力で単電池61の温度を維持できる。放熱ベローズ72の代わりにバイメタル等も採用できる。
【0028】
強い衝撃を受けた時や単電池61が故障して発熱した時に非常弁81を開き、水容器85内の水をホース84経由で非常弁81に流し、非常弁81に接続した導入管82により冷却器80に水が流れ、冷却器80で水が蒸発して郡ヒートパイプ71から熱を奪い、冷却器80で発生した蒸気は排出管83で郡電池65の外部に排出して、郡電池65の真空は維持される。非常弁81が開いた時に水が冷却器80に流れるように水容器85の水は加圧しておく。
非常時には冷却器80によりヒートパイプに接続された単電池61が冷やされ、単電池61は電池の機能を停止し安全性が確保される、正常な単電池61を事故時に保護して単電池61の連鎖的な破損を防げる。導入管82や排出管83は熱伝導率の低い素材で作成し曲げて蛇行させて高い断熱性を維持している。
【実施例4】
【0029】
図9はナトリウム硫黄電池の別の対流層の図である。
図9の対流層6bでは長繊維を用いた織布を使用している。図9の対流層6cでは短繊維を用いた不織布を使用している。実施例1や実施例2の対流層6を対流層6bや対流層6cで置き換えることができる。
実施例1や実施例2や当実施例ではアルミナと黒鉛を対流層6の素材に用いているが、クロム鉄合金等の硫黄に親和性が高く導電性の素材とシリカ等の硫化ナトリウムに親和性の高い素材を用いることもできる。
【実施例5】
【0030】
図10はナトリウム硫黄電池の別の集電板の図である。
図10の集電板3bでは薄板を等間隔に並べて流路4とし、薄板を貫通する複数の集電体46を接続して集電している。図10の集電板3cでは一枚の薄板に流通口21になる穴を開け薄板を交互に折り曲げて流路4とし、集電板3cに複数の集電体46を接続して集電している。実施例1の集電板3を封止構造と電極構造は変化するが図10の集電板3bや集電板3cで置き換えることができる。実施例2の集電板3を図10の集電板3cに置き換えることができる。
【実施例6】
【0031】
図11はナトリウム硫黄電池の別の流路の図である。
流路4bは対流層6と比べて大きな黒鉛粒子40とアルミナ粒子41を用いて焼結して流路としている。同一材質の粒子の接触面近辺が流路になる。
流路4cは細めの黒鉛長繊維50とアルミナ長繊維51を縦糸に、太めの黒鉛長繊維50とアルミナ長繊維51を横糸に用い、横糸は2本の繊維を並置した織布で、横糸2本の接触面近辺が流路になる。長繊維ではなく短繊維を用いた不織布を流路4cとすることもできる。
流路4bや流路4cを採用して実施例1や実施例2の流路4を置き換えることができ、集電板3に流路を作らないため集電板3は簡略化されて流通口21を開けるだけで済む。流路4bは対流層6と一緒に焼結して製造できる。
黒鉛とアルミナを流路4bと流路4cに用いているが、クロム鉄合金等の硫黄に親和性が高く導電性の素材とシリカ等の硫化ナトリウムに親和性の高い素材を用いることもできる。
【実施例7】
【0032】
図12は冷却管86を設置し多数のナトリウム硫黄単電池61を収容した郡電池65の図である。
郡電池65に収容した単電池61には電気的に絶縁し熱的に接続した冷却管86が設置されている。水容器85からホース84と非常弁81と導入管82を経由して冷却管86に水を流す、冷却管86で水が蒸発して単電池61を冷やす、冷却管86で発生した蒸気を排出管83で郡電池外に排出して、郡電池65の真空は維持される。
水容器85の水は加圧しておき、強い衝撃や単電池61の過熱を検出して非常弁81を開き、単電池61を冷却して電池の機能を緊急に停止させる。
図12では冷却管86は単電池61に並置されているが、単電池61に冷却管86を巻きつけたり、単電池61毎に分けて冷却管86を設けると、より急激な冷却が可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
当発明のナトリウム硫黄電池は電流密度が高く衝撃にも耐え、自動車等の動力源として実用になる。
【符号の説明】
【0034】
1 負極板、2 正極板、3 集電板、3b 集電板、3c 集電板
4 流路、4b 流路、4c 流路、5 電解質、6 対流層
6b 対流層、6c 対流層、7 緩衝材、8 隔壁、9 電池
10 正極室、11 負極室、12 封止材、21 流通口
23 ナトリウム、24 硫黄、25 硫化ナトリウム
26 空間、27 空間、28 接続板、40 黒鉛粒子、41 アルミナ粒子
42 分離層、43 絶縁層、44 ガラス被覆、46 集電体、47 硫黄流路
48 硫化ナトリウム流路、50 黒鉛長繊維、51 アルミナ長繊維
52 黒鉛短繊維、53 アルミナ短繊維、60 真空容器
61 単電池、62 断熱材、64 緩衝箱、65 郡電池、68 放熱板
70 列ヒートパイプ、71 郡ヒートパイプ、72 放熱ベローズ
73 ヒータ、74 放熱器、75 温度計、76 放熱ヒートパイプ
77 容器ヒートパイプ、78 接片、79 絶縁材、80 冷却器
81 非常弁、82 導入管、83 排出管、84 ホース、85 水容器
86 冷却管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質にナトリウムを正極活物質に硫黄と硫化ナトリウムを用いるナトリウム硫黄電池において、正極と負極の隔壁にナトリウムイオンに透過性のある薄膜の固体電解質を用い、該固体電解質を直接又は介在物を介して負極集電体や正極集電体や電池容器に固定する事を特徴とするナトリウム硫黄電池。
【請求項2】
負極活物質にナトリウムを正極活物質に硫黄と硫化ナトリウムを用いるナトリウム硫黄電池において、正極と負極の隔壁にナトリウムイオンに透過性のある薄膜の固体電解質を用い、正極室と負極室ともにガスを封入することなく真空とし、該活物質の蒸気で残りの空間を満たす事を特徴とするナトリウム硫黄電池。
【請求項3】
請求項1と請求項2の固体電解質に、ベーターアルミナ薄膜を採用する事を特徴とするナトリウム硫黄電池。
【請求項4】
負極活物質にナトリウムを正極活物質に硫黄と硫化ナトリウムを用いるナトリウム硫黄電池において、正極集電体に複数の溝や空隙を設け、硫化ナトリウムに親和性の高い素材で該正極集電体の溝や空隙の表面を覆って溝や空隙を硫化ナトリウムの流路とし、表面を該素材で覆っていない該正極集電体の溝や空隙を硫黄の流路とし、硫化ナトリウムの流路と硫黄の流路を交互に正極集電体に配置する事を特徴とするナトリウム硫黄電池。
【請求項5】
負極活物質にナトリウムを正極活物質に硫黄と硫化ナトリウムを用いるナトリウム硫黄電池において、硫化ナトリウムに親和性の高い素材と硫黄に親和性が高く導電性の素材とで作成した透過性の焼結体や布を、正極集電体付近の硫黄と硫化ナトリウムの流路とする事を特徴とするナトリウム硫黄電池。
【請求項6】
請求項4と請求項5のナトリウム硫黄電池において、固体電解質の正極側に透過性の絶縁層を配置し、硫黄に親和性が高く導電性の素材と硫化ナトリウムに親和性の高い素材を焼結した透過性の分離層を該絶縁層の次に配置し、該分離層と正極集電体や流路を電気的物理的に接続して、固体電解質近辺の正極活物質の対流構造と固体電解質近辺の電気接続を改善する事を特徴とするナトリウム硫黄電池。
【請求項7】
請求項6の分離層に、硫黄に親和性が高く導電性の繊維と硫化ナトリウムに親和性の高い繊維との混紡で作成した布を使用する事を特徴とするナトリウム硫黄電池。
【請求項8】
請求項6の絶縁層を省略し、代わりに固体電解質の表面と分離層の表面の凹凸を少なくし、該分離層の表面の導電体を凹ませて、絶縁層なしで固体電解質と分離層との絶縁を確保する事を特徴とするナトリウム硫黄電池。
【請求項9】
負極活物質にナトリウムを正極活物質に硫黄と硫化ナトリウムを用いるナトリウム硫黄単電池を複数接続した郡電池において、郡電池の容器を真空容器とし単電池内も真空環境とし、郡電池内の単電池の内部外部共に真空環境で運用する事を特徴とするナトリウム硫黄電池。
【請求項10】
請求項9の郡電池で、アルミ薄膜にガラスやセラミックの繊維や粒子を重ねて断熱幕とし、該断熱幕を多重に積層して真空容器内を覆い、郡電池内を断熱する事を特徴とするナトリウム硫黄電池。
【請求項11】
負極活物質にナトリウムを正極活物質に硫黄と硫化ナトリウムを用いるナトリウム硫黄単電池を複数接続した郡電池において、単電池と電気的には絶縁し熱的には接続されたヒートパイプを設置し、郡電池に収容した該単電池を互いに熱的に接続する事を特徴とするナトリウム硫黄電池。
【請求項12】
請求項11の郡電池のヒートパイプにヒータを設置し、ヒートパイプの温度が規定温度を下回ると該ヒータに電流を流して、ヒートパイプを加熱する事を特徴とするナトリウム硫黄電池。
【請求項13】
請求項11の郡電池のヒートパイプに熱流量可変の放熱器を設置し、ヒートパイプの温度が規定温度を上回るとヒートパイプから熱を郡電池の外部に逃がして、郡電池内の過剰な熱を放熱する事を特徴とするナトリウム硫黄電池。
【請求項14】
請求項13の可変機構に、蒸発材を封入し温度で蒸発材の蒸気圧が変化して伸縮するベローズを可変機構に用いる事を特徴とするナトリウム硫黄電池。
【請求項15】
負極活物質にナトリウムを正極活物質に硫黄と硫化ナトリウムを用いるナトリウム硫黄単電池を複数接続した郡電池において、単電池と電気的には絶縁し熱的には接続された冷却管を設置し、強い衝撃や単電池の過熱を検出して弁を開いて該冷却管に水を流し、単電池を水の気化熱で冷却し、冷却後の水と蒸気は郡電池外に排出して、緊急時に郡電池の真空を維持しながら郡電池を冷却する事を特徴とするナトリウム硫黄電池。
【請求項16】
請求項11のヒートパイプに冷却器を設置し、強い衝撃や単電池の過熱を検出して弁を開いて該冷却器に水を流し、該ヒートパイプを水の気化熱で冷却し、冷却後の水と蒸気は郡電池外に排出して、緊急時に郡電池の真空を維持しながら郡電池を冷却する事を特徴とするナトリウム硫黄電池。
【請求項17】
負極活物質にナトリウムを正極活物質に硫黄と硫化ナトリウムを用いるナトリウム硫黄電池において、電池の正極と負極に互いに咬合する凹凸を設け、電池の正極と負極を直接柔軟に接続できる事を特徴とするナトリウム硫黄電池。
【請求項18】
負極活物質にナトリウムを正極活物質に硫黄と硫化ナトリウムを用いるナトリウム硫黄単電池を複数接続した郡電池において、剛性の高い緩衝箱に複数の単電池を連結して収容し、複数の該緩衝箱を連結して郡電池に収容する事を特徴とするナトリウム硫黄電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−4053(P2012−4053A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140029(P2010−140029)
【出願日】平成22年6月19日(2010.6.19)
【出願人】(391049781)
【Fターム(参考)】