説明

自動車用内装品表皮の製造方法

【課題】テアラインの位置精度を、テアライン加工後の検査を行なうことなく保証する。
【解決手段】自動車用内装品表皮の製造方法は、表皮中間体形成工程、表皮中間体装着工程及びテアライン加工工程を備える。表皮中間体形成工程では、表皮部32と、位置決め部39を有する余剰部33とを備える表皮中間体31を形成する。表皮中間体装着工程では、上記表皮中間体31を、位置決め部39において、治具に設けられた被位置決め部に対し係合させた状態で同治具に装着する。テアライン加工工程では、表皮中間体31における表皮部32の裏面にテアラインを加工する。さらに、上記表皮中間体形成工程で表皮中間体31を形成する際に、表皮部32の裏面であって、テアラインが加工される予定のテアライン加工予定部34の近傍にマークを形成するとともに、マークの位置を確認したうえで上記テアライン加工工程を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグドアを備える自動車用内装品の外表面を構成し、かつエアバッグドアの開放時に開裂されるテアラインが裏面に設けられた表皮を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、助手席の乗員を保護するエアバッグ装置が装備されている。このエアバッグ装置は、自動車の前席の前方に組付けられたインストルメントパネルの内部に格納された状態で装備されている。インストルメントパネルの本体部には、上記エアバッグ装置に対応した箇所にエアバッグドアが設けられている。このエアバッグドアは、エアバッグ装置の作動時に膨張するエアバッグの内側からの押上げ力により助手席側へ開放されて、エアバッグの展開を許容する開口部を画成する。
【0003】
また、上記インストルメントパネルでは、主に質感向上、触感向上等を図る目的で、同インストルメントパネルの外表面を構成する表皮が上記本体部に被着される場合がある。この場合、表皮においては、本体部に被着された際にエアバッグドアに対応する箇所に、エアバッグドアの開放時に開裂を惹起させるためのテアライン(開裂予定線)を設けることで、エアバッグドアのスムーズな開放、及びエアバッグのスムーズな膨張展開を保証する対策が施されている。テアラインは、インストルメントパネルの質感低下回避を考慮して、表皮の裏面に設けられる。
【0004】
上記のように裏面にテアラインを有する表皮は、一般には、下記表皮中間体形成工程、表皮中間体装着工程及びテアライン加工工程を順に経て製造される(例えば、特許文献1における、発明が解決しようとする課題の項参照)。
【0005】
表皮中間体形成工程では、例えば樹脂シートを真空成形することにより、表皮として用いられる箇所である表皮部と、表皮部の周りに設けられ、かつ裏面に位置決め部を有する余剰部とを備える表皮中間体が形成される。
【0006】
表皮中間体装着工程では、上記表皮中間体形成工程で形成された表皮中間体が、余剰部における複数箇所の位置決め部において、治具の複数箇所に設けられた被位置決め部に対し係合させられることで、同治具に対し、位置決めされた状態で装着される。例えば、位置決め部として余剰部に凹部が設けられ、被位置決め部として治具に突部が設けられた場合には、位置決め部(凹部)が被位置決め部(突部)に嵌め込まれることで、表皮中間体が治具に対し、位置決めされた状態で装着される。
【0007】
テアライン加工工程では、上記表皮中間体装着工程で装着された表皮中間体における表皮部の裏面に刃体が押し付けられて、テアラインが加工される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−114122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、上記従来の表皮の製造方法では、表皮中間体装着工程において、治具に対する表皮中間体の装着精度を出し難い。これは、表皮中間体が薄いため、形状を適正に保持した状態で治具に装着することが難しいからである。例えば、表皮中間体が引っ張られて変形し、この状態で位置決め部が被位置決め部に係合されて治具に装着される場合がある。この場合には、表皮中間体の位置決め部が治具の被位置決め部に適正に係合させられているにも拘らず、テアラインが形成される予定のテアライン加工予定部が適正位置からずれるおそれがある。そして、このように位置ずれを起こした状態でテアライン加工工程が行なわれてテアラインが加工されると、表皮中間体に対するテアラインの形成位置の精度が低い表皮が形成される。従って、加工されたテアラインの位置ずれについて、精度保証ができているかどうかを検査する工程が必要となる。
【0010】
なお、上記の問題は、インストルメントパネルの表皮に限らず、エアバッグドアを備える自動車用内装品の外表面を構成し、かつエアバッグドアの開放時に開裂されるテアラインが裏面に設けられた表皮であれば、共通して起こり得る。
【0011】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、テアラインの位置精度を、テアライン加工後の検査を行なうことなく保証することのできる自動車用内装品表皮の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、エアバッグドアを備える自動車用内装品の外表面を構成し、かつ前記エアバッグドアの開放時に開裂されるテアラインが裏面に設けられた表皮に適用されるものであり、前記表皮として用いられる箇所である表皮部と、前記表皮部の周りに設けられ、かつ裏面に位置決め部を有する余剰部とを備える表皮中間体を形成する表皮中間体形成工程と、前記表皮中間体形成工程で形成された前記表皮中間体を、前記位置決め部において、治具に設けられた被位置決め部に対し係合させた状態で同治具に装着する表皮中間体装着工程と、前記表皮中間体装着工程で装着された前記表皮中間体における前記表皮部の裏面に前記テアラインを加工するテアライン加工工程とを備える自動車用内装品表皮の製造方法であって、前記表皮中間体形成工程で前記表皮中間体を形成する際に、前記表皮部の裏面であって、前記テアラインが加工される予定のテアライン加工予定部の近傍にマークを形成するとともに、前記マークの位置を確認したうえで前記テアライン加工工程を実施することを要旨とする。
【0013】
上記の製造方法によれば、まず表皮中間体形成工程において、表皮部及び余剰部を備える表皮中間体が形成される。この表皮中間体では、余剰部が表皮部の周りに位置する。余剰部は裏面に位置決め部を有する。また、この表皮中間体形成工程では、表皮部の裏面であって、テアラインが加工される予定のテアライン加工予定部の近傍にマークが形成される。
【0014】
次に、表皮中間体装着工程において、上記表皮中間体が、位置決め部において、治具に設けられた被位置決め部に対し係合させられた状態で同治具に装着される。
続いて、マークの位置が確認されたうえでテアライン加工工程が実施される。この際、マークはテアライン加工予定部の近傍に形成されているため、このマークによってテアライン加工予定部の位置を模擬しても支障がない。
【0015】
マークが適正位置にあれば、テアライン加工予定部が適正位置にあると判断することが可能であり、マークが適正位置から外れていれば、テアライン加工予定部が適正位置からずれていると判断することが可能である。そして、マークが適正位置にあることが確認された場合には、テアライン加工工程へ移行され、表皮中間体における表皮部の裏面の、適正位置にあるテアライン加工予定部にテアラインが加工される。従って、テアラインは、要求される位置精度が保証された状態で加工されることとなり、テアライン加工後に、位置ずれについて精度保証ができているかどうかを検査する必要がなくなる。
【0016】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記マークの形成に際し、前記表皮部の裏面であって前記テアライン加工予定部の近傍に、少なくとも周囲の箇所よりも窪んだ凹部を形成し、同凹部を前記マークとすることを要旨とする。
【0017】
上記の製造方法によれば、表皮中間体形成工程において、表皮部の裏面であってテアライン加工予定部の近傍に凹部が形成される。この凹部は、同凹部の少なくとも周囲の箇所よりも窪んでいて、同箇所に対し高低差を有している。そのため、この高低差に基づき、マークの位置を確認することが可能である。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記マークの形成に際し、内底面が内側壁面の近傍で深く、同内側壁面から遠ざかるに従い浅くなる凹部を形成することを要旨とする。
【0019】
ここで、表皮部の裏面に凹部が形成されると、もともと厚みの小さな表皮部の厚みがさらに小さくなり、表皮部の表面(意匠面)側に、ツヤムラを発生するおそれがある。
この点、請求項3に記載の発明では、表皮中間体形成工程において、内底面が内側壁面の近傍で深く、同内側壁面から遠ざかるに従い浅くなる凹部が形成される。形成された凹部は、同凹部の少なくとも周囲の箇所に対し高低差を有しているため、マークとしての機能を発揮し得る。また、凹部が形成された箇所での表皮部の厚みは、同凹部の内底面が平らであって深さが均一である場合よりも大きくなるため、表皮部の表面におけるツヤムラの発生が抑制される。
【0020】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記マークの形成に際し、前記凹部の前記内底面を凸状の球面に形成することを要旨とする。
上記の製造方法によれば、表皮中間体形成工程において、凹部の内底面が凸状の球面に形成される。形成された凹部では、内底面が内側壁面の近傍で深く、同内側壁面から遠ざかるに従い浅くなるため、上記請求項3に記載の発明の効果が得られる。
【0021】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1つに記載の発明において、前記マークを互いに離間した複数箇所に形成することを要旨とする。
上記の製造方法によれば、表皮中間体形成工程において、表皮部の裏面であって、テアライン加工予定部の近傍であることを条件に、互いに離間した複数箇所にマークが形成される。従って、マークが1箇所に形成される場合に比べ、テアライン加工予定部が適正位置にあるかどうかをより精度よく判断することが可能となる。
【0022】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記マークを、前記テアライン加工予定部を挟んで相対向する2箇所に形成することを要旨とする。
上記の製造方法によれば、表皮中間体形成工程において、表皮部の裏面であって、テアライン加工予定部を挟んで相対向する2箇所にマークが形成される。従って、テアライン加工予定部が適正位置にあるかどうかを少ない数のマークによって精度よく判断することが可能となる。
【0023】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1つに記載の発明において、前記表皮中間体形成工程では、表皮素材を加熱して軟化させ、真空成形することにより前記表皮中間体に対応する形状に賦形するとともに、軟化した前記表皮素材にピンを押し付けることにより前記マークを形成することを要旨とする。
【0024】
上記の製造方法によれば、表皮中間体形成工程において、表皮素材が加熱されて軟化させられる。この軟化した表皮素材が真空成形されることにより、所望形状の表皮中間体に賦形される。また、表皮中間体形成工程では、軟化した表皮素材におけるテアライン加工予定部の近傍にピンが押し付けられてマークが形成される。このようにして、表皮中間体形成工程では、表皮中間体に加えマークが形成される。
【発明の効果】
【0025】
本発明の自動車用内装品表皮の製造方法によれば、テアライン加工予定部の近傍にマークを形成し、このマークの位置を確認したうえでテアライン加工を行なうようにしたため、テアラインの位置精度を、テアライン加工後の検査を行なうことなく保証することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明を具体化した一実施形態において、エアバッグ装置が搭載されたインストルメントパネルを示す斜視図。
【図2】一実施形態におけるインストルメントパネル及びエアバッグ装置の断面構造を示す断面図。
【図3】一実施形態における表皮中間体の部分平面図。
【図4】図3におけるX−X線に沿った表皮中間体の断面構造を拡大して示す部分断面図。
【図5】一実施形態の表皮中間体におけるマーク(凹部)の断面構造を拡大して示す部分断面図。
【図6】一実施形態における表皮の製造工程を示す図であり、表皮素材を加熱する状態を示す部分断面図。
【図7】一実施形態における表皮の製造工程を示す図であり、加熱により軟化した表皮素材を、型開きされた雌型及び雄型間へ移動させた状態を示す部分断面図。
【図8】一実施形態における表皮の製造工程(表皮中間体形成工程)を示す図であり、雌型及び雄型を型締めした状態を示す部分断面図。
【図9】一実施形態における表皮の製造工程(表皮中間体形成工程)を示す図であり、(A)はピンが上昇する前の状態を示す部分断面図、(B)はピンが上昇して表皮素材にマークを形成する状態を示す部分断面図。
【図10】一実施形態における表皮の製造工程(表皮中間体装着工程、テアライン加工工程)を示す図であり、表皮中間体を治具に装着し、テアラインを加工する状態を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を具体化した一実施形態について、図面を参照して説明する。
最初に、本実施形態の製造方法によって得られる表皮の適用箇所について説明する。
図1及び図2に示すように、自動車においては、助手席の乗員を保護する助手席用エアバッグ装置(以下、単に「エアバッグ装置」という)11が装備されている。このエアバッグ装置11は、自動車の前席の前方に組付けられたインストルメントパネル12の内部に格納された状態で装備されている。
【0028】
インストルメントパネル12の骨格部分は、合成樹脂製の基材13の上に発泡層(クッション層)14を積層してなる本体部15によって構成されている。この本体部15においてエアバッグ装置11に対応した箇所には、エアバッグドア16が設けられている。このエアバッグドア16は、エアバッグ装置11の作動時に膨張するエアバッグ17の内側からの押上げ力により助手席側へ開放されて、エアバッグ17の展開を許容する開口部(図示略)を画成する。
【0029】
また、インストルメントパネル12では、主に質感向上、触感向上等を図る目的で、本体部15に表皮21が被着されている。表皮21の表面(図2の上面)はインストルメントパネル12の外表面(意匠面)を構成している。この表皮21においては、本体部15に被着された際にエアバッグドア16に対応する箇所に、そのエアバッグドア16の開放時に開裂を惹起させるためのテアライン(開裂予定線)22が設けられることで、エアバッグドア16のスムーズな開放、及びエアバッグ17のスムーズな膨張展開を保証する対策が施されている。テアライン22は、インストルメントパネル12の質感低下回避を考慮して、表皮21の裏面(意匠面とは反対側の面:図2の下面)に設けられている。
【0030】
テアライン22は、車幅方向(図1の左右方向)に延びる1本の主ライン部23と、主ライン部23の両端から傾斜状態で車幅方向についての外方(車幅方向について主ライン部23から遠ざかる方向)へ延びる計4本の副ライン部24とによって構成されている(図3参照)。主ライン部23及び副ライン部24のそれぞれは、1本の長い溝部によって構成されてもよいし、1本の線状をなすように並べられた多数本の短い溝部によって構成されてもよい。
【0031】
次に、上記のように裏面にテアライン22を有する表皮21を製造する方法(実施形態の作用)について、図3〜図10を参照して説明する。
まず、図6に示すように、所定の大きさに裁断された表皮素材(原反)25が用意される。表皮素材25としては、オレフィン系、エステル系、アミド系、スチレン系、ウレタン系等の熱可塑性エラストマー(TPE)材料を用いて、カレンダー加工や押し出し成形により形成された樹脂シートが用いられる。
【0032】
この表皮素材25が吸盤(図示略)で吸着された状態で、上下に離間配置された一対のヒータ26,27間へ移動される。移動後の表皮素材25は、周囲をチャック28で把持される。続いて、表皮素材25は両ヒータ26,27によって上下から熱変形可能な温度まで加熱される。この加熱により、表皮素材25が軟化する。
【0033】
加熱が完了すると、表皮中間体形成工程において、表皮素材25が熱成形されることで、表皮21の中間体(表皮中間体31)が形成される。
ここで、表皮中間体31の構成について説明する。表皮中間体31は、上述した表皮21を形成する途中段階のものであり、図3に示すように、表皮21として用いられる箇所である表皮部32と、表皮部32の周りに設けられた余剰部33とを備える。表皮部32は、前述したテアライン22が加工される予定のテアライン加工予定部34を裏面に有する。また、表皮部32は、テアライン加工予定部34の近傍の複数箇所にマークMを有する。これらのマークMは、テアライン加工予定部34の位置を模擬するものである。本実施形態では、マークMはテアライン22における主ライン部23の延長線上であって、同主ライン部23の両端から車幅方向外方へ離れた2箇所に位置する。従って、両マークMは、テアライン加工予定部34を挟んで車幅方向に相対向することとなる。
【0034】
各マークMは、本実施形態では、主ライン部23の同一の端部から延びる2本の副ライン部24の端部同士を繋ぐ仮想の線(図示略)から、車幅方向外方へ僅かに離れた箇所に位置する。これは、上記テアライン22において開裂した表皮21の一部(両副ライン部24間の領域)は、2本の副ライン部24の端部同士を繋ぐ仮想の線をヒンジ部として助手席側へ開放するところ、この領域にマークMがあると、表皮21ひいてはエアバッグドア16の開放動作に影響を及ぼすおそれがあるからである。そこで、各マークMを上記の箇所に設けることで、各マークMが表皮21ひいてはエアバッグドア16の開放動作に及ぼす影響を小さくしている。
【0035】
各マークMは、少なくとも同マークMの周囲の箇所よりも窪んだ四角穴状の凹部35によって構成されている。凹部35の開口36は、一辺が4mm程度の正方形をなしている。図5に示すように、各凹部35の内底面37は凸状の球面に形成されており、開口36から内底面37までの距離(深さ)が内側壁面38の近傍で最も大きく(深く)、同内側壁面38から遠ざかるに従い小さく(浅く)なっている。
【0036】
図3及び図4に示すように、余剰部33は、裏面の複数箇所に凹状の位置決め部39を有している。本実施形態では、各位置決め部39は円形の開口を有している。
上記表皮素材25の熱成形は、通常の雄型のみを用いた真空成形によって行なわれてもよいが、ここでは、図7に示すように、雌型41及び雄型45を用いたプレス成形によって予備成形した後、型締めと略同時に行なわれる真空成形により最終的な賦形をする方法が行なわれる。
【0037】
雌型41は、その下面において開口する成形凹部42を有している。成形凹部42の壁面は、表皮部32の意匠面(表面)を形成する賦形面42Aとなっている。この賦形面42Aには、雌型41に形成された多数の真空吸引孔(図示略)が開口している。これらの真空吸引孔は、雌型41によって真空賦形(真空成形)、特に意匠面を賦形するためのものである。雌型41で真空賦形することから、真空賦形された表皮中間体31(熱成形品)の雌型41からの離型が容易となる。また、真空賦形により意匠面を賦形することから、意匠面の再現性が良好となる。なお、真空吸引孔が大きい場合は、真空吸引孔の跡が表皮21の表面(意匠面)に形成されるおそれがあるため、通常、賦形面42Aはエンボス加工面(しぼ付け加工面)とされる。
【0038】
雌型41の下面であって、成形凹部42の周りには、余剰部33を形成するための平面部43が形成されている。この平面部43の複数箇所には、余剰部33に上記位置決め部39を形成するための突部44が設けられている。
【0039】
雄型45は、その上部に成形突部46を有している。成形突部46の壁面は、表皮部32の裏面を形成する賦形面46Aとなっている。
雄型45の上面であって、成形突部46の周りには、上記平面部43とともに余剰部33を形成するための平面部47が形成されている。この平面部47の複数箇所には、より正確には上記雌型41の突部44の下方となる複数箇所には、それらの突部44とともに余剰部33に上記位置決め部39を形成するための凹部48が設けられている。さらに、成形突部46の2箇所には、上記表皮部32の裏面にマークMを形成するためのピン49が昇降可能に設けられている。各ピン49は上下方向に延びる四角柱状をなしており、油圧等により昇降させられる。各ピン49の上端面49Aは、図9(A)に示すように、下方へ凹んだ曲面状に形成されている。
【0040】
上記雌型41及び雄型45を用いた表皮素材25の熱成形に際しては、図7に示すように、表皮素材25がチャック28で把持されたまま、型開きされた雌型41及び雄型45間へ移動させられる。この移動に連動して、雌型41が下降させられるとともに雄型45が上昇させられる。このときには、両ピン49は下降させられていて、成形突部46内に没入している。
【0041】
そして、図8に示すように型締め直前となった時点で、すなわち、表皮素材25が予備賦形させられた状態で真空吸引が開始される。雌型41及び雄型45が型締めされることにより、成形凹部42及び成形突部46間で表皮中間体31の表皮部32が形成される。この際、表皮素材25が雌型41の賦形面42A(意匠型面)に真空吸着されて意匠型面が良好に再現される。
【0042】
雌型41の平面部43及び雄型45の平面部47間で表皮中間体31の余剰部33が形成される。雌型41の突部44及び雄型45の凹部48間で余剰部33に位置決め部39が形成される。このように、表皮中間体形成工程では、表皮部32及び余剰部33を備える表皮中間体31が形成される。このようにして形成された表皮中間体31では、余剰部33が表皮部32の周りに位置する。余剰部33は、その裏面に位置決め部39を有する。
【0043】
また、このときには、図9(B)に示すように両ピン49が上昇させられ、軟化した表皮素材25に押し付けられる。この上昇する2本のピン49によって、テアライン加工予定部34の近傍であって互いに離間した複数箇所、ここでは、テアライン加工予定部34を挟んで相対向する2箇所に、凹部35からなるマークMが形成される。
【0044】
ここで、表皮部32の裏面に凹部35が形成されると、もともと厚みの小さな表皮部32の厚みがさらに小さくなり、表皮部32の表面(意匠面)側に、ツヤムラを発生するおそれがある。
【0045】
この点、本実施形態では、各ピン49の上端面49Aが上述したように下方へ凹んだ曲面状をなしている(図9(A)参照)ことから、凹部35の内底面37が凸状の球面に形成される(図9(B)参照)。形成された凹部35では、内底面37が内側壁面38の近傍で深く、同内側壁面38から遠ざかるに従い浅くなる。形成された凹部35は、同凹部35の少なくとも周囲の箇所に対し高低差を有しているため、マークMとしての機能を発揮し得る。また、凹部35が形成された箇所での表皮部32の厚みは、内底面37が平らであって深さが均一である場合よりも大きくなるため、表皮部32の表面におけるツヤムラの発生が抑制される。
【0046】
そして、真空吸引後、所定時間の冷却時間(放置時間)をおいて、熱成形が完了される。すなわち、型閉じ完了後、所定時間経過後に雌型41が上昇させられ、雄型45が下降させられたうえで、表皮中間体31が雌型41及び雄型45間から取出される。取出された表皮中間体31は、表皮中間体装着工程及びテアライン加工工程に供される。
【0047】
これらの表皮中間体装着工程及びテアライン加工工程の実施に際しては、図10に示すテアライン加工機51が用いられる。このテアライン加工機51は、治具52、加工刃56、同加工刃56の駆動装置57、一対のレーザ照射装置58及び制御装置61を備えている。
【0048】
治具52は、その上面において開口する凹部53を有している。また、治具52の上面であって凹部53の周りには、平面部54が形成されている。この平面部54の複数箇所には、上記位置決め部39が係合される(嵌め込まれる)凸状の被位置決め部55が形成されている。
【0049】
加工刃56は、治具52に装着された上記表皮中間体31におけるテアライン加工予定部34にテアライン22を加工するためのものであり、治具52の凹部53の壁面から上方へ離れた箇所に配置されている。加工刃56には、これを表皮中間体31のテアライン加工予定部34に対し接近・離間させるための駆動装置57が動力伝達可能に接続されている。
【0050】
各レーザ照射装置58は、治具52の凹部53において予め定められた照射箇所(表皮中間体31、特にテアライン加工予定部34が治具52の適正箇所に装着されたときに上記マークMの中心が位置する箇所)にレーザ光Lを照射する。
【0051】
制御装置61は、レーザ照射装置58からのレーザ光Lが上記マークMに照射されていることを条件に、上記加工刃56によるテアライン加工のための上記駆動装置57の作動を許可する。レーザ光LがマークMに照射されていない場合には、制御装置61は、テアライン加工のための駆動装置57の作動を禁止する。この場合には、加工刃56よるテアライン加工が行なわれない。
【0052】
なお、上述したようにマークMが凹部35からなり、同凹部35が少なくとも周囲の箇所よりも窪んでいて、同箇所に対し高低差を有している。このことに着目し、レーザ光LがマークMに照射されているかどうかの確認は、各レーザ照射装置58からのレーザ光Lの照射により、各マークMを構成する凹部35とその周辺箇所との間の高低差を検出することで可能である。所定の高低差が検出される場合には、レーザ光LがマークMに照射されていると判断し、検出されない場合には、レーザ光LがマークMに照射されていないと判断することが可能である。
【0053】
本実施形態では、レーザ光Lが照射されるマークMが、互いに離間した複数箇所に設けられていることから、マークMが1箇所に形成される場合に比べ、テアライン加工予定部34が適正位置にあるかどうかをより高い精度で判断することが可能である。
【0054】
また、上記複数のマークMは、テアライン加工予定部34を挟んで相対向する2箇所、すなわち、主ライン部23の延長線上であって、同主ライン部23の両端から互いに反対方向へ所定距ずつ離離れた2箇所に形成されている。このことから、テアライン加工予定部34が適正位置にあるかどうかの判断を少ない数のマークMによって精度よく判断することが可能である。
【0055】
表皮中間体装着工程では、上記表皮中間体31が治具52に装着(セット)される。この装着に際しては、表皮中間体31の表皮部32が治具52の凹部53上に載置される。また、表皮中間体31の余剰部33が治具52の平面部54上に載置される。さらに、表皮中間体31における複数箇所の凹状の位置決め部39が、治具52における複数箇所の凸状の被位置決め部55に被せられる(嵌め込まれる)ことで、位置決め部39が被位置決め部55に係合される。複数箇所での上記係合により、表皮中間体31が治具52に対し、位置決めされた状態で装着される。
【0056】
テアライン加工工程では、制御装置61によって駆動装置57の作動が制御される。レーザ照射装置58から、凹部53の予め設定された照射箇所に向けてレーザ光Lが照射される。マークMを構成する凹部35と、その周辺箇所との間で所定の高低差が検出された場合には、制御装置61において、レーザ光LがマークMに照射されていると判定される。この場合には、マークMが適正位置にあり、テアライン加工予定部34が適正位置にある(適正位置からずれていない、又はずれ量が許容範囲に収まっている)といえる。このことから、加工刃56をテアライン加工予定部34に接近させるための駆動装置57の作動が、制御装置61によって許可される。その結果、駆動装置57が作動させられ、加工刃56が加熱された状態で表皮中間体31のテアライン加工予定部34に接近させられる。加工刃56がテアライン加工予定部34に所定時間押し付けられることで、適正位置にあるテアライン加工予定部34にテアライン22が加工される。このように、マークMの位置が確認されたうえでテアライン加工工程が実施される。
【0057】
従って、テアライン22は、要求される位置精度が保証された状態で加工されることとなり、テアライン22の加工後に、位置ずれについて精度保証できているかどうかを検査する必要がなくなる。
【0058】
上記テアライン22の加工が完了すると、制御装置61により、駆動装置57が作動させられ、加工刃56がテアライン加工予定部34から離間させられる。
これに対し、凹部35とその周辺箇所との間で所定の高低差が検出されない場合には、制御装置61において、レーザ光LがマークMに照射されていないと判定される。この場合には、マークMが適正位置から外れており、テアライン加工予定部34が適正位置からずれている、又はずれ量が許容範囲を越えているといえる。このことから、加工刃56をテアライン加工予定部34に接近させるための駆動装置57の作動が制御装置61によって禁止される。この作動禁止により、駆動装置57が停止させられ続ける。そのため、適正位置からずれたテアライン加工予定部34に加工刃56が押し付けられて、適正位置からずれた箇所にテアライン22が加工されることがない。
【0059】
なお、テアライン22が加工された場合には、表皮中間体31から余剰部33がトリミングされ、残った部分(表皮部32)が、インストルメントパネル12の表皮21として使用される。
【0060】
以上詳述した本実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)表皮中間体形成工程で表皮中間体31を形成する際に、表皮部32の裏面であって、テアライン22が加工される予定のテアライン加工予定部34の近傍にマークMを形成する(図8)。そして、マークMの位置を確認したうえでテアライン加工工程を実施するようにしている(図10)。
【0061】
そのため、テアライン22の位置精度を、テアライン22の加工後の検査を行なうことなく保証することができる。
(2)上記(1)に関連するが、表皮中間体形成工程でマークMを形成している(図8)。
【0062】
そのため、表皮中間体31の形成後に、別の工程で、すなわち表皮中間体31を別の箇所に移し替えてマークMを形成する場合に比べ、テアライン加工予定部34近傍の所望の箇所にマークMを正確に形成することができる。
【0063】
(3)マークMの形成に際し、表皮部32の裏面であってテアライン加工予定部34の近傍に、少なくとも周囲の箇所よりも窪んだ凹部35を形成し、この凹部35をマークMとしている(図9(B))。
【0064】
そのため、凹部35と、少なくともその周囲の箇所との高低差により、マークMの位置を確認することができる。
(4)マークMの形成に際し、内底面37が内側壁面38の近傍で深く、内側壁面38から遠ざかるに従い浅くなる凹部35を形成するようにしている(図9(B))。
【0065】
そのため、マークMとしての機能を確保しつつ、表皮部32の表面にツヤムラが発生するのを抑制することができる。
(5)マークMの形成に際し、凹部35の内底面37を凸状の球面に形成している(図9(B))。
【0066】
このように、凹部35の内底面37を球面に形成することで、内底面37が内側壁面38の近傍で深く、その同内側壁面38から遠ざかるに従い浅くなる凹部35を実現することができ、上記(4)の効果を得ることができる。
【0067】
(6)マークMを互いに離間した複数箇所に形成している(図3)。
そのため、テアライン加工予定部34が適正位置にあるかどうかをより精度よく判断することができる。
【0068】
(7)マークMを、テアライン加工予定部34を挟んで相対向する2箇所、より詳しくは、主ライン部23の延長線上であって、同主ライン部23の両端から所定距離ずつ離れた2箇所、に形成している(図3)。
【0069】
そのため、テアライン加工予定部34が適正位置にあるかどうかを少ない数のマークMによって精度よく判断することができる。
(8)各マークMを、主ライン部23の同一の端部から延びる2本の副ライン部24の端部同士を繋ぐ仮想の線から、車幅方向外方へ離れた箇所に形成している(図3)。
【0070】
そのため、各マークMが表皮21、ひいてはエアバッグドア16の開放動作に及ぼす影響を小さくすることができる。
(9)表皮中間体形成工程において、表皮素材25を加熱して軟化させ、真空成形することにより表皮中間体31に対応した形状に賦形するとともに、軟化した表皮素材25にピン49を押し付けることによりマークMを形成している(図7、図8)。
【0071】
そのため、表皮中間体形成工程で、表皮中間体31に加えマークMを形成することができる。
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
【0072】
<マークMについて>
・マークMが2つである場合、両マークMは上記実施形態とは異なる箇所に形成されてもよい。例えば、両マークMは、テアライン加工予定部34を挟んで車両前後方向に相対向する2箇所に形成されてもよい。また、両マークMは、テアライン加工予定部34を挟んで相対向しない箇所に形成されてもよい。
【0073】
・マークMの形成箇所が3箇所以上に変更されてもよい。ただし、この場合にも、マークMの形成箇所は、表皮部32の裏面であり、かつテアライン加工予定部34の近傍であることが必要である。
【0074】
・上記実施形態において、マークMを構成する凹部35の形状は、同凹部35の少なくとも周囲の箇所よりも窪んでいることを条件に変更されてもよい。
例えば、表皮部32の表面(意匠面)におけるツヤムラがさほど目立たなく、問題とならない程度である場合には、凹部35は、内底面37が平らで、深さが均一である形状であってもよい。
【0075】
・マークMは、そのマークMの位置を確認できるものであることを条件に、凹部35とは異なる形状に変更されてもよい。
<表皮中間体形成工程について>
・表皮中間体形成工程では、真空成形とは異なる方法によって表皮中間体31が形成されてもよい。
【0076】
<マークMの位置確認について>
・マークMの位置確認は、上記実施形態とは異なる方法で行なわれてもよい。
例えば、レーザ光Lが照射されている箇所を目視することで確認が行なわれてもよい。
【0077】
また、レーザ光Lが照射されている箇所をカメラで撮影し、その撮影した画像を画像処理することで、マークMの位置が確認されてもよい。
さらに、レーザ光Lを、照射位置を時間とともに連続して変えながら照射し、レーザ照射装置58から照射位置までの距離を演算し、その距離の変化に基づいて、マークMの位置が確認されてもよい。
【0078】
<テアライン22について>
・上記実施形態では、テアライン加工工程において、加熱された加工刃56を表皮中間体31の表皮部32(テアライン加工予定部34)に押し付けることでテアライン22を加工したが、これ以外の手段、例えばコールドナイフ、超音波カッター、ウェルダー等が用いられてテアライン22が加工されてもよい。また、レーザ加工、超音波加工等によってテアライン22が加工されてもよい。
【0079】
・テアライン22は、両開きドアを想定したH字形であってもよいし、型開きドアを想定したU字形であってもよい。
<その他>
・本発明の製造方法は、エアバッグドアを備える自動車用内装品の外表面を構成し、かつエアバッグドアの開放時に開裂されるテアラインが裏面に設けられた表皮に広く適用可能である。この場合のエアバッグドアを備える自動車用内装品としては、インストルメントパネルのほかにも、サイドドア(ドアトリム)、ピラー(ピラーガーニッシュ)、フロントシート、バックシート等が挙げられる。
【符号の説明】
【0080】
12…インストルメントパネル(自動車用内装品)、16…エアバッグドア、21…表皮、22…テアライン、25…表皮素材、31…表皮中間体、32…表皮部、33…余剰部、34…テアライン加工予定部、35…凹部、37…内底面、38…内側壁面、39…位置決め部、49…ピン、52…治具、55…被位置決め部、M…マーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアバッグドアを備える自動車用内装品の外表面を構成し、かつ前記エアバッグドアの開放時に開裂されるテアラインが裏面に設けられた表皮に適用されるものであり、
前記表皮として用いられる箇所である表皮部と、前記表皮部の周りに設けられ、かつ裏面に位置決め部を有する余剰部とを備える表皮中間体を形成する表皮中間体形成工程と、
前記表皮中間体形成工程で形成された前記表皮中間体を、前記位置決め部において、治具に設けられた被位置決め部に対し係合させた状態で同治具に装着する表皮中間体装着工程と、
前記表皮中間体装着工程で装着された前記表皮中間体における前記表皮部の裏面に前記テアラインを加工するテアライン加工工程と
を備える自動車用内装品表皮の製造方法であって、
前記表皮中間体形成工程で前記表皮中間体を形成する際に、前記表皮部の裏面であって、前記テアラインが加工される予定のテアライン加工予定部の近傍にマークを形成するとともに、前記マークの位置を確認したうえで前記テアライン加工工程を実施することを特徴とする自動車用内装品表皮の製造方法。
【請求項2】
前記マークの形成に際し、前記表皮部の裏面であって前記テアライン加工予定部の近傍に、少なくとも周囲の箇所よりも窪んだ凹部を形成し、同凹部を前記マークとする請求項1に記載の自動車用内装品表皮の製造方法。
【請求項3】
前記マークの形成に際し、内底面が内側壁面の近傍で深く、同内側壁面から遠ざかるに従い浅くなる凹部を形成する請求項2に記載の自動車用内装品表皮の製造方法。
【請求項4】
前記マークの形成に際し、前記凹部の前記内底面を凸状の球面に形成する請求項3に記載の自動車用内装品表皮の製造方法。
【請求項5】
前記マークを互いに離間した複数箇所に形成する請求項1〜4のいずれか1つに記載の自動車用内装品表皮の製造方法。
【請求項6】
前記マークを、前記テアライン加工予定部を挟んで相対向する2箇所に形成する請求項5に記載の自動車用内装品表皮の製造方法。
【請求項7】
前記表皮中間体形成工程では、表皮素材を加熱して軟化させ、真空成形することにより前記表皮中間体に対応する形状に賦形するとともに、軟化した前記表皮素材にピンを押し付けることにより前記マークを形成する請求項1〜6のいずれか1つに記載の自動車用内装品表皮の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−95344(P2013−95344A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241991(P2011−241991)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】