説明

自律移動装置

【課題】実使用環境においてアレイ応答ベクトルをキャリブレーションすることにより、実使用環境での位置の検出精度を高めることができる自律移動装置を提供する。
【解決手段】電波発信器は絶対座標系における位置が既知であって電波を送信する。アンテナ21は3台以上の電波発信器からの電波を受信し、到来方位推定部23においてアレイ応答ベクトルに相当するパラメータをパラメータ格納部26に照合することにより電波の到来方位を推定する。測位処理部25は電波発信器の既知の位置と電波の到来方位とを用いて自己位置を求める。キャリブレーション動作では、アンテナ21が電波発信器に対して規定の位置関係である状態で、レーザレーダ5により実測した電波発信器の方位とアンテナ21から出力されているアレイ応答ベクトルに相当するパラメータとを対応付けてパラメータ格納部に書き込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象空間に設定した絶対座標系における位置が既知である電波発信器が発信した電波の到来方位を検出し、電波の到来方位と電波発信器の既知の位置とを用い、後方交会法により絶対座標系における自己位置を求め、求めた自己位置に応じて自律的に移動する自律移動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、移動体の位置を検出する技術として、移動体から電波を送信するとともに、定位置に設置された基地局において移動体からの電波の到来方位を検出し、3個以上の基地局において求めた電波の到来方位を用いて前方交会法により移動体の位置を検出する技術が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、ロランのように位置が既知である3個以上の電波標識からの電波を移動体において受信し、電波標識からの電波の到来方位を用いて後方交会法により移動体の位置を検出する技術も知られている。
【0004】
電波を用いて移動体の位置を検出する技術では、前方交会法を採用するか後方交会法を採用するかによらず、電波の到来方位を検出する必要がある。電波の到来方位を検出するために用いるアンテナとしては、特許文献1に記載されているように、多数個の素子アンテナをアレイ状に配列したアレイアンテナが知られている。また、素子アンテナを囲む形でリアクタンス素子を配列し、リアクタンス素子のリアクタンスを制御することによって指向性を変化させることができるESPERアンテナと称するアンテナも用いることができる。
【0005】
アレイアンテナを用いる場合には、各素子アンテナの受信強度の分布から電波の到来方位を推定し、またESPERアンテナを用いる場合には、指向性を変化させて得られた素子アンテナでの受信強度の分布から電波の到来方位を推定する。したがって、アレイアンテナを用いる場合とESPERアンテナを用いる場合とのどちらの場合も、電波の受信により得られたベクトル(アレイ応答ベクトルと呼ぶ)と電波の到来方位とが対応付けられている。
【特許文献1】特開平9−119970号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、電波の到来方位とアレイ応答ベクトルとの対応付けは、一般に、外来ノイズの影響を受けない電波暗室内での実測により行われる。このように、電波暗室において実測によりアレイ応答ベクトルを決定するのは、素子アンテナのアンテナ開口のばらつき、素子アンテナ同士あるいは素子アンテナとリアクタンス素子あるいはリアクタンス素子同士の結合によるばらつき、アンテナ出力を処理する回路特性のばらつき、アンテナに接続されたケーブルの長さや形状による伝送特性のばらつきなどが電波の到来方位の検出精度に影響するからである。
【0007】
しかしながら、実使用時の環境では遮蔽物や反射物が多く存在するから、電波暗室で求めたアレイ応答ベクトルを適用して電波の到来方位を検出しようとすると、推定結果に大きなずれを生じることがある。
【0008】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、実使用環境においてアレイ応答ベクトルのキャリブレーションを行うことにより、実使用環境において高精度に位置を検出することができる自律移動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、平面内で規定した絶対座標系における座標位置を既知位置に配置された3台以上の電波発信器からの電波の到来方位を用いて検出する位置検出器と、位置検出器に設定したローカル座標系において電波発信器の存在する方位を電波を用いずに実測する測角装置と、位置検出器および測角装置を前記平面内で移動させる駆動装置とを備え、位置検出器は、電波発信器からの電波を受信しアレイ応答ベクトルを出力するアンテナと、アレイ応答ベクトルを用いてローカル座標系における電波の到来方位を推定する到来方位推定部と、絶対座標系における電波発信器の位置を記憶した発信器座標記憶部と、到来方位推定部で推定した電波の到来方位と発信器座標記憶部が記憶している電波発信器の座標位置とを用いて絶対座標系における座標位置を求める測位処理部と、アレイ応答ベクトルに相当するパラメータが電波の到来方位に対応付けて格納され到来方位推定部からアレイ応答ベクトルに相当するパラメータが与えられると電波の到来方位を返す書換可能なパラメータ格納部と、電波の到来方位から絶対座標系における座標位置を求める通常動作と電波の到来方位とパラメータとをパラメータ格納部に書き込むキャリブレーション動作とを選択する動作制御部と、動作制御部がキャリブレーション動作を選択しアンテナが電波発信器に対して規定の位置関係である状態で、測角装置により実測した電波発信器の方位とアンテナから出力されているアレイ応答ベクトルに相当するパラメータとを対応付けてパラメータ格納部に書き込むキャリブレーション部とを備えることを特徴とする。
【0010】
請求項1の発明の構成によれば、パラメータ格納部に設定されるアレイ応答ベクトルに相当するパラメータを測角装置で実測した電波発信器の方位と対応付けるから、実使用環境において電波発信器からの電波がアンテナに到達する経路に反射や遮断が生じていても、アンテナでの電波の受信条件に合致するパラメータを生成することができ、実使用環境における電波の到来方位の検出精度を高めることができ、ひいては位置検出器による座標位置の検出精度が高くなる。
【0011】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、前記駆動装置は前記キャリブレーション動作において、前記電波発信器に対する位置が規定されている基準点に前記アンテナが位置している状態でアンテナが1回転するように位置検出器を移動させ、前記キャリブレーション部はアンテナが1回転する間に得られたアレイ応答ベクトルに相当するパラメータを、測角装置で実測した方位に対応付けてパラメータ格納部に書き込むことを特徴とする。
【0012】
請求項2の発明の構成によれば、パラメータ格納部に設定するすべてのデータを実使用環境において設定することができるから、パラメータ格納部の設定にあたって電波暗室などを用いる必要がなく、設備が軽減されるとともに実使用環境での座標位置の検出精度が高くなる。
【0013】
請求項3の発明では、請求項1または請求項2の発明において、前記位置検知器が前記電波発信器からの電波を受信可能な距離範囲は、前記測角装置が前記電波発信器の存在する方位を検出する距離範囲よりも大きく設定されており、前記位置検出器は前記アンテナの出力の減衰率を調節するアッテネータを備え、前記動作制御部は前記キャリブレーション動作において前記アンテナの出力の減衰率を前記通常動作時よりも大きくするようにアッテネータを制御することを特徴とする。
【0014】
請求項3の発明の構成によれば、キャリブレーション動作の際に、測角装置により電波発信器の方位を実測することができるように位置検出器と電波発信器との距離を小さくしても、アッテネータの減衰率を大きくすることによって位置検出器における内部回路の飽和を防止することができる。また、通常動作の際には電波発信器からの電波を遠方でも適正な強度で受信することができるから、電波発信器の台数の増加を抑制できる。つまり、位置検出器における電波の受信に関するダイナミックレンジを実質的に大きくしたことになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の構成によれば、パラメータ格納部に設定されるデータの少なくとも一部として実使用環境において実測したデータを用いるから、実使用環境における電波の到来方位の検出精度を高めることができるという利点があり、結果的に位置検出器による座標位置の検出精度が高くなるという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に説明する自律移動装置は、無人搬送車、無人清掃車などを想定しているが、本発明の技術思想の範囲内において他の装置に用いることを妨げるものではない。自律移動装置3の位置は、図4に示すように、自律移動装置3が移動する対象空間(対象平面)について規定した絶対座標系O−XYの座標位置として検出される。具体的には、絶対座標系O−XYにおける座標位置が既知である3台以上の電波発信器1から自律移動装置3に電波が到来する方位をそれぞれ検出し、各電波発信器1からの電波の到来方位と電波発信器1の座標位置とに基づいて、絶対座標系O−XYにおける自律移動装置3の座標位置を検出する。また、自律移動装置3は、絶対座標系O−XYにおける電波の到来方位を特定することはできないから、自律移動装置3について設定したローカル座標系o−xyにおいて電波の到来方位を検出する。ローカル座標系o−xyのxy平面は絶対座標系O−XYのXY平面と一致しているか平行であるものとする。したがって、ローカル座標系o−xyにおいて検出した各電波発信器1からの電波の到来方位の間の相対角度は、絶対座標系O−XYにおいても保存される。
【0017】
本実施形態の自律移動装置3は、図1に示すように、電波発信器1からの電波の到来方位を検出して絶対座標系O−XYにおける座標位置を検出する装置として位置検出器2を搭載し、また自律移動装置3を移動させるための駆動装置31を備える。駆動装置31の駆動源は、モータやエンジンのような回転型のものに限らず伸縮型のアクチュエータなどどのようなものを用いてもよいが、駆動装置31は自律移動装置3の移動方位を変えることができるように構成される。自律移動装置3は、位置検出器2により検出した自律移動装置3の座標位置を参照して、駆動装置31による自律移動装置3の移動方位を決定する運転制御装置32を備える。運転制御装置32は、自律移動装置3が移動する対象空間の地図情報を保持した地図情報格納部33を備えており、位置検出器2で検出した座標位置を地図情報格納部33に保持された地図情報と照合することにより、地図情報で示された障害物と自律移動装置3との衝突を回避したり、地図情報に含まれる目標物に自律移動装置3を到達させるように、駆動装置31による自律移動装置3の移動を制御する。
【0018】
以下では、位置検出器2の構成および位置検出器2による絶対座標系O−XYにおける座標位置の検出方法について説明する。
【0019】
電波発信器1は、図3に示すように、地上に立設された支柱11の上端部に取り付けられているものとする。また、この支柱11には電波発信器1の下方においてリフレクタ12が固定される。各電波発信器1は異なる周波数の電波を送信しており、周波数の相違によって電波発信器1が識別される。リフレクタ12は光を反射するものであれば、どのような構成でもよいが、回帰反射(プリズムのような光学要素を用い入射した光を同方位に出射させる反射)を生じるように構成したものが望ましい。リフレクタ12の機能については後述する。
【0020】
位置検出器2は、電波発信器1からの電波を受信するアンテナ21と、アンテナ21の出力から電波の到来方位を検出するための成分を取り出すとともに抽出した成分を以後の処理のためにデジタル信号に変換する機能を有した信号処理回路部22と、信号処理回路部22の出力を用いてローカル座標系o−xyにおける電波の到来方位を推定する到来方位推定部23とを備える。また、位置検出器2では、絶対座標系O−XYにおける座標位置を求めるために、電波発信器1の座標位置を知る必要があるから、絶対座標系O−XYにおける電波発信器1の座標をあらかじめ登録した発信器座標記憶部24が設けられ、さらに、到来方位推定部23で推定された到来方位と発信器座標記憶部24に登録された電波発信器1の座標位置とを用いて自律移動装置3の座標位置を求める測位処理部25が設けられる。
【0021】
自律移動装置3の座標位置は、自律移動装置3の代表点の座標位置であって、以下の説明では位置検出器2に設けたアンテナ21を基準として設定したローカル座標系o−xyの原点の座標位置を、絶対座標系O−XYにおける自律移動装置3の座標位置に用いるものとする。アンテナ21は、電波の到来方位を検出することができるように構成されたものを用い、本実施形態では、複数本(図示例では4本)の素子アンテナ21aを基台21bに立設した形状のアレイアンテナをアンテナ21として用いる。各素子アンテナ21aはモノポールであって、基台21bの一面に仮想的に設定した正方形の頂点に各素子アンテナ21aが位置するように配置される。ローカル座標系o−xyの原点は、素子アンテナ21aに囲まれた部位の中心、すなわち仮想的に設定した正方形の中心とする。
【0022】
アンテナ21の出力は信号処理回路部22に入力される。信号処理回路部22は、図2に示すように、各素子アンテナ21aごとのゲインを切り換えるアッテネータ22aと、素子アンテナ21aで受信した信号を一定周波数に周波数変換する混合回路22bと、混合回路22bに局発信号を与える局部発振回路22cとを備え、さらに、混合回路22bの出力をデジタル信号に変換するAD変換部22dを備える。
【0023】
アッテネータ22aおよび混合回路22bは素子アンテナ21aと同数個設けられる。混合回路22bはIQ分離(実数成分と虚数成分の分離)の機能も備える。混合回路22bではダウンコンバートを行っており、局部発振回路22cから出力する局発信号の周波数(局発周波数)を変化させることによって、混合回路22bでは一定周波数への周波数変換を行う。したがって、混合回路22bの出力に所定周波数を通過させる帯域フィルタを設けておくことにより、素子アンテナ21aで受信した信号のうち局発周波数に対応する成分のみが混合回路22bから出力されることになる。つまり、局発周波数を変化させることによって、各電波発信器1からの電波に対応した成分を混合回路22bから取り出すことができる。なお、混合回路22bの出力周波数は、AD変換部22dにおけるサンプリングに適した周波数(サンプリング周波数の2分の1以下の周波数)に設定される。
【0024】
AD変換部22dは、混合回路22bから出力された実数成分と虚数成分とをそれぞれデジタル値に変換する。AD変換部22dについて、サンプリング周波数、サンプリング点数、出力ビット数は、たとえば10MHz、1000点、12ビットとする。電波発信器1はそれぞれ異なる周波数の電波を送信しているから、AD変換部22dでは各周波数ごとにサンプリング点数分のサンプリングを行う。本実施形態では、4台の電波発信器1からの電波を受信するものとして、受信周波数を4回切り換える(図5参照)。なお、受信周波数は、自律移動装置3の現在位置に応じて、近距離に存在する電波発信器1からの電波を受信するように選択される。
【0025】
図5における期間Trは1台の電波発信器1からの電波を受信している期間であり、この期間Trには受信周波数が一定に保たれる。また、図5の期間Tsは受信周波数を切り換える間の期間である。AD変換部22dの出力は、到来方位推定部23の機能を実現するDSP(デジタルシグナルプロセッサ)20aに入力される。DSP20aは、素子アンテナ21aで受信した電波の実数成分と虚数成分とを用いて電波の到来方位を推定する。一方、絶対座標系O−XYにおける位置検出器2の座標位置を登録した発信器座標記憶部24は、DSP20aに付設された内部メモリ20bにより実現される。発信器座標記憶部24には、電波発信器1の座標位置のほか電波発信器1からの送信信号の周波数も記憶されており、自律移動装置3から近距離に存在する電波発信器1を4台選択し、当該電波発信器1の周波数に応じて局部発振回路22cの局発周波数を選択できる。
【0026】
DSP20aは、測位処理部25としての機能も備えており、AD変換部22dから出力された実数成分および虚数成分により求めた電波の到来方位と、内部メモリ20bに登録された電波発信器1の座標位置とを用いて、絶対座標系O−XYにおける自律移動装置3の座標位置を演算により求める。この演算のために、図5に示す期間Ttにおいて、DSP20aでは、AD変換部22dに設けたバッファからAD変換部22dの出力を読み込み、期間Tuにおいて、電波の到来方位を推定する演算を行った後、電波発信器1の座標位置を用いて自律移動装置3の座標位置を求める演算を行う。演算結果は運転制御装置32に転送され、駆動装置31の制御に用いられる。図5では演算結果を運転制御装置32に転送する時間Tvも示してある。DSP20aからは、座標位置のほか、電波の到来方位と各素子アンテナ21aでの受信電力も出力される。
【0027】
電波発信器1からの電波をアンテナ21で受信してからDSP20aでの演算結果を運転制御装置32に転送するまでの時間は、たとえば250msであって、アンテナ21を用いて電波発信器1からの電波を受信する期間は、この期間の一部であるから、4台の電波発信器1からの電波を順に受信しても、その期間には自律移動装置3の座標位置には実質的に変化がないとみなすことができる。つまり、実質的に同時刻に受信した4台の電波発信器1からの電波を用いて自律移動装置3の座標位置を求めていることになる。
【0028】
また、位置検出器2では、電波発信器1ごとに局発周波数を変化させる必要があるが、1台の電波発信器1からの電波の到来方位を検出する間にはアンテナ21の受信条件を変化させる必要がないから、1台ずつの電波発信器1については電波の到来方位を短時間で推定することができる。つまり、自律移動装置3では、電波発信器1とアンテナ21との相対位置が比較的短時間で変動するが、各電波発信器1からの電波の到来方位を推定するのに必要なデータを収集する時間は短いから、電波の到来方位を正確に求めることができる。
【0029】
以下では、図6を用いて、測位処理部25においてアンテナ21の座標位置を求める技術についてさらに詳しく説明する。上述のように、ローカル座標系o−xyはアンテナ21の中心に原点(o)を設定してあり、測位処理部25では絶対座標系O−XYのXY平面内での原点(o)の座標位置(X,Y)を求める。原点(o)の座標位置(X,Y)を求めるために用いることができる情報は、3台以上の電波発信器1の絶対座標系O−XYでの座標位置と電波発信器1からの電波の到来方位である。ただし、ローカル座標系o−xyの原点(o)の周りでの回転、つまりX軸とx軸とがなす角度は不明であるから、電波到来方位について絶対座標系O−XYにおける方位は求めることができない。絶対座標系O−XYに関して求めることができる角度の情報は、2個の電波発信器1からの電波の到来方位の角度差になる。一方、絶対座標系O−XYでの電波発信器1の位置は発信器座標記憶部24に格納されているから、2個の電波発信器1からの電波の到来方位の角度差がわかると、2個の電波発信器1を結ぶ線分を弦とし、2個の電波発信器1からの電波の到来方位の角度差を前記弦に張る円周角とする1個の円周を設定することができる。この円周は、2個の電波発信器1とアンテナ21の原点(o)とを通る円周になる。
【0030】
すなわち、3個の電波発信器1からの電波についてローカル座標系o−xyでの到来方位を検出すれば、通常は2個の円周を設定することができ、両円周の交点にアンテナ21の原点(o)が位置すると推定することができる。2個の円周の交点は2個存在するが、一方の交点はアンテナ21の位置ではなく、2個の円周の設定に共用した電波発信器1の位置になる。言い換えると、2個の円周の2個の交点のうち電波発信器1の位置ではないほうがアンテナ21の位置になる。測位処理部25は、上述の原理によって絶対座標系O−XYにおけるアンテナ21の原点(o)の位置の座標(X,Y)を求める演算を行う。この演算は、カッシーニの解法として知られている。カッシーニの解法については既知であるから、演算式のみを示す。
【0031】
いま、3個の電波発信器1の設置位置の座標が既知であるとする。また、ローカル座標系o−xyにおける各電波発信器1からの電波の到来方位も既知であるとする。図6に従って3個の電波発信器1の位置をそれぞれ点P1〜P3で表し、XY平面における点P1〜P3の座標を、それぞれ(X1,Y1)(X2,Y2)(X3,Y3)とする。また、点P1,P2の位置の電波発信器1から受信した電波の到来方位の角度差(円周角)をA、点P2,P3の位置の電波発信器1から受信した電波の到来方位の角度差(円周角)をBとする。
【0032】
線分P1P2を弦としこの弦に張る円周角Aの円周と、線分P2P3を弦としこの弦に張る円周角Bの円周とを設定すると、両円周の交点P,P2のうち点P2ではないほうがアンテナ21の位置になる。つまり、座標(X1,Y1)(X2,Y2)(X3,Y3)と角度差A,Bとから、座標(X,Y)を求める。交点Pの座標(X,Y)を求めるには、線分P2Pに直交し点Pを通る補助線を設定する。この補助線と各円周との交点をPc,Pdとするとき、線分P2Pc,P2Pdはそれぞれ各円の直径になる。ここで、点Pc,Pdの座標をそれぞれ(Xc,Yc)(Xd,Yd)とする。以上の関係を用いることによって、座標(X,Y)は数1のように表すことができる。
【0033】
【数1】

【0034】
また、求めた座標(X,Y)を用いることにより、1つの電波発信器1に関して、ローカル座標系o−xyにおける電波の到来方位φと、絶対座標系O−XYにおける電波発信器1の位置の座標(X1,Y1)とから、次式によりXY平面内でのローカル座標系o−xyの回転角度θ(図4参照)、言い換えるとアンテナ21の絶対座標系O−XYにおける方位を求めることができる。
θ=tan−1{(Y1−Y)/(X1−X)}−φ
以上のように、3個の電波発信器1からの電波の到来方位と各電波発信器1の座標(X1,Y1)(X2,Y2)(X3,Y3)とを用いることにより、アンテナ21の位置の座標(X,Y)とアンテナ21の方位とを知ることができる。
【0035】
ところで、本実施形態の到来方位推定部23では、アンテナ21の出力を用いて各電波発信器1からの電波の到来方位を推定するために、以下に説明する相関行列Rxxを生成する。すなわち、到来方位推定部23では、電波発信器1から送信される電波の各周波数ごとに時刻t(実質的に同時刻とみなす)における4種類の受信出力x(t)(i=1,2,3,4)が得られるから、受信出力x(t)を成分に持つ数2のようなアレイ応答ベクトル[x(t)]を用いて数3に示す相関行列Rxxを生成することができる。ここに、各受信出力x(t)は実数成分と虚数成分とを有している。また、[x]はxがベクトルであることを示す。なお、本実施形態のアンテナ21はアレイアンテナであるから、受信出力x(t)は、各素子アンテナ21aで同時刻に受信した出力の組合せであり、受信する位置が異なる複数個の出力を組み合わせたアレイ応答ベクトルで表される。
【0036】
【数2】

【0037】
【数3】

【0038】
ただし、E[[x]]はアンサンブル平均(期待値)を表す。また、Tは転置を表す。
【0039】
相関行列Rxxを評価してローカル座標系o−xyにおける電波の到来方位を求める方法には、さまざまな方法が知られているが、本実施形態ではMUSIC(Multiple Signal lassification)法を採用している。MUSIC法では、アンテナ21の指向性を変化させて電界強度のもっとも大きくなる方位を探し出す方法(誤差が数十度)に比較すると、電波の到来方位を検出する精度が大幅に高くなる(誤差が1〜2度)。
【0040】
MUSIC法では、相関行列Rxxの固有値の数から到来する電波の波数Lを推定する。また、相関行列Rxxの固有ベクトルにより到来方位φをパラメータとするMUSICスペクトラムPMU(φ)という数4で表される評価関数を求め、MUSICスペクトラムPMU(φ)が極大になる到来方位について受信電界強度を評価することにより、電波発信器1からの電波の到来方位を求める。数4は熱雑音電力に等しい固有値に対応する固有ベクトル{eL+1,…,e}を用いており、MUSICスペクトラムPMU(φ)によりφに関するスペクトラムのL個のピークを探し{φ,…,φ}を求める。数4においてEは固有ベクトル行列であり、a(φ)はアンテナ21のアレイマニホールド、Hは共役転置を表す。
【0041】
【数4】

【0042】
ただし、電波の到来方位は上述のような演算式による演算を行うのではなく、アンテナ21への電波の入射方位に対する各素子アンテナ21aの出力の組合せであるアレイ応答ベクトル[x(t)](AD変換部22dからDSP20aに入力される信号値の組)を規格化したパラメータと、電波の到来方位とを対応付けて格納したデータテーブルa(φ)(アレイ応答ベクトルに相当するデータの集合であるから、アレイマニホールドと呼ぶ)であるパラメータ格納部26を設けておき、到来方位推定部23では、AD変換部22dからアレイ応答ベクトル[x(t)]が入力されると、パラメータ格納部26のアレイマニホールドa(φ)に照合することによって、電波の到来方位を推定する。
【0043】
アンテナ21を構成する個々の素子アンテナ21aの出力は、電波発信器1からの電波の到来方位だけではなく、電波発信器1との距離によっても変化するから、4個の素子アンテナ21aのうちの1個の素子アンテナ21aの出力を基準値とし、他の3個の素子アンテナ21aの出力を基準値で除算した値を規格化したパラメータとして用いる。したがって、パラメータ格納部26では、1方位について6個(実数成分と虚数成分とが各3個)のパラメータを持つ。たとえば1度刻みで0〜360度の範囲のパラメータを対応付ける。パラメータ格納部26におけるパラメータの設定方法については後述する。
【0044】
上述のようにして電波発信器1からの電波を受信することによって自律移動装置3の絶対座標を求めることができるが、電波の多重反射やノイズの存在によって、求めた絶対座標に異常値を生じることがある。そこで、自律移動装置3は、電波を用いずにセンサを用いて位置を求めるデッドレコニング4を搭載している。デッドレコニング4には、自律移動装置3で移動した移動距離を求めるための速度センサ41と、自律移動装置3で移動したときの移動方位を求めるためのジャイロセンサ42とを設けてある。速度センサ41とジャイロセンサ42との出力は、マイクロコンピュータからなる走行演算部43に与えられ、走行演算部43では、速度センサ41の出力を積分して距離に換算し、ジャイロセンサ42で検出した移動方位の変化に対応付ける。
【0045】
ただし、デッドレコニング4は規定した基準位置に対する相対位置しか検出することができないから、基準位置において補正することが必要である。また、走行距離が長くなれば測定した位置の誤差が大きくなるから、基準位置を適宜に再設定する必要がある。基準位置の再設定については後述する。なお、自律移動装置3が左右の車輪を持つ構成であるときには、デッドレコニング4にジャイロセンサ42を設ける代わりに左右の車輪の回転数差を用いて移動方位を検出してもよい。
【0046】
デッドレコニング4で求めた座標位置は測位処理部25に与えられる。測位処理部25では、電波発信器1からの電波を用いて求めた座標位置について短期間の履歴を記憶しており、履歴との比較によって位置検出器2で求めた座標位置が異常と判断されるときには、デッドレコニング4で求めた座標位置で置き換える。
【0047】
また、位置検出器2では、4台の電波発信器1からの電波を順に受信した後に座標位置を演算しているから、電波発信器1からの電波を受信した後に座標位置が算出されるまでの時間に自律移動装置3が移動し、検出した座標位置と実際の座標位置にずれを生じることがある。そこで、到来方位推定部23でアンテナ21の出力を取得した時刻から測位処理部24で測位結果が得られた時刻までの時間の位置変位をデッドレコニング4により検出し、測位処理部24において、デッドレコニング4で検出した位置変位を測位結果に加えて補正することにより現在位置を正確に求める。
【0048】
本実施形態の自律移動装置3は、位置検出器2とデッドレコニング4とのほかに、ローカル座標系o−xyにおける角度を計測することができる測角装置としてのレーザレーダ5を備える。レーザレーダ5は、自律移動装置3の前方においてxy平面内の所定の角度範囲で光ビームを走査するとともに、光ビームを出射した方位からの反射光を受光し、受光強度の変化によって自律移動装置3の前方に存在する物体を検出する。したがって、光ビームを走査した方位における物体の存在を検出することができる。
【0049】
先に説明したように、電波発信器1にはリフレクタ12が付設されているから、電波発信器1が自律移動装置3の前方であってレーザレーダ5の検知範囲内に存在するようになると、リフレクタ12で光ビームが反射されることによりリフレクタ12の存在する方位が検出される。ここで、リフレクタ12はxy平面内では電波発信器1と同位置であるから、ローカル座標系o−xyの原点(o)を電波発信器1から既知の距離に配置した状態では、レーザレーダ5により検出される方位とローカル座標系o−xyの原点(o)から電波発信器1を見込む方位との間には一定の関係が得られる。
【0050】
いま、図7に示すように、レーザレーダ5に関して設定した原点がローカル座標系o−xyのy軸上に存在するものとし、電波発信器1と原点(o)との距離をr、ローカル座標系o−xyの原点(o)とレーザレーダ5に関して設定した原点p0との距離をd、y軸の方位を0度としたときの角度を用いて、レーザレーダ5により検出されるリフレクタ12の存在方位をψ′、原点(o)から見込む電波発信器1の存在方位をψとすると、次の関係が成立する。
cosψ=cosψ′+(d/r)
したがって、電波発信器1の距離が既知である適宜の基準点を設定しておき、この基準点に自律移動装置3を位置させれば、レーザレーダ5で検出した方位ψ′と既知の長さr,dとを用いることにより、その位置からの電波発信器1の正しい方位ψを知ることができる。
【0051】
上述のようにレーザレーダ5で求められる方位ψ′から電波発信器1の方位を正確に知ることができるから、レーザレーダ5でリフレクタ12を検出している状態において、アンテナ21の各素子アンテナ21aの出力を求め、このときのアレイ応答ベクトルを規格化したパラメータを、レーザレーダ5で実測した電波発信器1の角度に対応付けてパラメータ格納部26に格納すれば、実使用時の環境に応じたパラメータをパラメータ格納部26に設定することが可能になる。したがって、電波発信器1から既知の距離rに自律移動装置3を位置させ、電波発信器1に対して自律移動装置3の向きを相対的に変化させれば、パラメータ格納部26のパラメータを実使用環境に合わせて設定することが可能になる。
【0052】
たとえば、電波暗室などにおいてパラメータ格納部26をあらかじめ設定しているときに、基準点においてレーザレーダ5でリフレクタ12の存在する方位ψ′を求めた場合には、その方位ψ′に相当する電波発信器1の方位ψにおけるパラメータを、実測で求めたパラメータに書き換えるようにする。この動作は、位置検出器2の常時の動作とは異なるから、位置検出器2において通常動作とは異なるキャリブレーション動作を可能としておき、パラメータを書き換えるときには、スイッチなどを用いてキャリブレーション動作を行うように指示する。あるいは、自律移動装置3が基準点を通過するときに自動的にキャリブレーション動作に切り替わり、一つの方位についてパラメータを設定した後に自動的にキャリブレーション動作から通常動作に復帰するようにしてもよい。
【0053】
また、距離rが既知であればキャリブレーション動作を行うことができるから、スイッチなどを用いてキャリブレーション動作を行うように指示する場合には、キャリブレーション動作を開始する際の自律移動装置3の位置と既知の電波発信器1の位置との関係から距離rを求め、この距離rを用いてキャリブレーション動作を行うようにしてもよい。
【0054】
キャリブレーション動作と通常動作とは動作制御部27が選択し、キャリブレーション動作はキャリブレーション部28が行う。つまり、スイッチによる指示または電波発信器1との位置関係によりキャリブレーション動作を行う条件になると、動作制御部27は測位制御部25およびキャリブレーション部28にキャリブレーション動作を行うように指示する。キャリブレーション部28がキャリブレーション動作を完了した後に、復帰条件が成立すると動作制御部27はキャリブレーション部28の動作を終了し、測位処理部25を通常動作に復帰させる。
【0055】
上述した動作は、パラメータ格納部26にあらかじめパラメータが設定されており、自律移動装置3が通常動作で移動することが可能であることを想定しているが、パラメータ格納部26にパラメータを設定していない状態において、自律移動装置3を基準点に位置させ、ローカル座標系o−xyの原点(o)の周りで自律移動装置3を回転させることにより(つまり、電波発信器1に対する自律移動装置3の向きを変化させることにより)、各方位に関するパラメータを実測により求めてパラメータ格納部26に設定してもよい。
【0056】
この場合、自律移動装置3には電波発信器1についても絶対座標系O−XYにおける座標位置を登録し、また絶対座標系O−XYにおける座標位置が既知である基準点に自律移動装置3を位置させる。パラメータ格納部26にパラメータが設定されていない状態では、自律移動装置3を移動させることができないが、キャリブレーション動作として、ローカル座標系o−xyの原点(o)の周りに回転するように駆動装置31を制御するとともに、各回転位置でパラメータ格納部26にパラメータを書き込む動作を可能にしておけば、パラメータ格納部26に設定されるパラメータを実使用環境に合わせて自動的に設定することができる。つまり、電波暗室などにおいてパラメータ格納部26にパラメータを設定する作業が不要になる。
【0057】
なお、パラメータ格納部26において全方位のパラメータを上述の処理で設定する場合には、レーザレーダ5についても全方位における物体の検出が可能になる構成のものを採用する必要がある。また、距離rが変化すれば電波の到達経路に変化を生じることがあり、電波発信器1が存在する方位が同じであっても距離rの変化によってパラメータが変化することがある。したがって、自律移動装置3が移動する領域内で基準点を設定するのが望ましい。あるいはまた、複数の基準点において求めた同方位に関する複数個のパラメータの平均値を当該方位のパラメータに用いるようにしてもよい。
【0058】
ところで、位置検出器2では電波発信器1からの電波の受信電力が過小であると、S/N比が低下し、また受信電力が過大であると内部回路(とくに、AD変換部22d)が飽和するから、電波の到来方位を正確に反映した適正なアレイ応答ベクトルを生成することができない。位置検出器2では、絶対座標系O−XYにおける座標位置を決定するために、3台以上の電波発信器1からの電波を同時に受信する必要があるから、自律移動装置3が移動する対象平面には、位置検出器2での受信電力が適正範囲になるような位置関係で3台以上の電波発信器1が配置される。言い換えると、図8に示すように、出力する電波の電界強度が規定値以上である領域D1が3台以上の電波発信器1において重複するように電波発信器1が配置される。
【0059】
一方、レーザレーダ5は近距離に存在する物体を検出するものであるから、リフレクタ12の存在する方位をレーザレーダ5が検出できる距離は、位置検出器2が適正範囲の受信電力で電波発信器1からの電波を受信できる範囲の半径よりも短い(たとえば、図8の領域D2でレーザレーダ5が有効になる)。キャリブレーション動作の際にはレーザレーダ5によってリフレクタ12を検出する必要があるから、位置検出器2で検出する電波の電界強度は大きく増加することになる。したがって、キャリブレーション動作の際には位置検出器2の内部回路が飽和する可能性が生じる。位置検出器2の内部回路の飽和を防止するには、電波発信器1の出力を低下させることが考えられるが、その場合には、通常動作時において位置検出器2で電波を受信可能な領域が狭くなるから、電波発信器1の設置台数が増加してコスト高になる。
【0060】
そこで、本実施形態では、位置検出器2に設けたアッテネータ22aの減衰率を、通常動作時とキャリブレーション動作時とで変更している。つまり、キャリブレーション動作時において通常動作時よりもアッテネータ22aによる減衰率を大きくすることにより、電波発信器1から出力する電波の電界強度を比較的大きくとって電波発信器1の台数の増加を抑制しながらも、キャリブレーション動作の際には自律移動装置3を電波発信器1に接近させてレーザレーダ5によるリフレクタの検出範囲内で電波の到来方位を検出することが可能になる。アッテネータ22aの減衰率の切換のために、位置検出器2を構成するDSP20aに受信強度を検出する機能を設けておき、キャリブレーション動作の際には、受信強度が規定の範囲内に収まるようにアッテネータ22aの減衰率を制御する。アッテネータ22aは素子アンテナ21aごとに設けられているが、減衰率は一定にし、各素子アンテナ21aの出力の振幅が変化する割合を等しくする。
【0061】
なお、自律移動装置3の移動中に、通常動作からキャリブレーション動作に移行させたときには、発信器座標記憶部24を参照することにより、キャリブレーション動作に移行した時点の自律移動装置3の位置に近い3台の電波発信器1を検出し、各電波発信器1に順に近付くことにより、各電波発信器1からの電波の到来方位に関するキャリブレーションを行う。キャリブレーション動作へは適宜の指示を与えることにより移行させ、3台の電波発信器1に対するキャリブレーション動作を行った後には、3台の電波発信器1からの電波を同時に受信できる位置に戻り、自動的に通常動作に復帰する。
【0062】
図8の例では、キャリブレーション動作に移行すると、上の電波発信器1の周囲に設定した基準点Acの周りで回転し、次に左下の電波発信器1の周囲に設定した基準点Acの周りで回転し、最後に右下の電波発信器1の周囲に設定した基準点Acの周りで回転した後に、3台の電波発信器1に囲まれた領域に戻るのである。
【0063】
上述の例では、キャリブレーション動作の際にアッテネータ22aにより素子アンテナ21aの出力を減衰させる例を示したが、レーザレーダ5によるリフレクタの検出が可能な領域D2の中で受信電力が過大になったり過小になったりしない領域(領域D2の外縁部付近)が存在する場合には、アッテネータ22aを用いずに自律移動装置3を当該領域に移動させてキャリブレーション動作を行うようにしてもよい。
【0064】
なお、上述の構成例ではデッドレコニング4を設けているが、デッドレコニング4は必ずしも必要ではなく、また速度センサ41やジャイロセンサ42からなるデッドレコニング4に代えて赤外線や超音波を利用して測位する構成を採用することも可能である。
【0065】
アンテナ21としては、素子アンテナ21aが4素子であるアレイアンテナを用いているが、モノポールである励振素子(素子アンテナ)の周囲に複数本の非励振素子(パラサイト素子)を等角度間隔で配置したパラサイト負荷切替型アンテナ(いわゆるESPERアンテナ)を用いてもよい。パラサイト負荷切替型アンテナはパラサイト素子のリアクタンスを切り換えて異なる時刻に受信した出力をアンテナの応答ベクトルに用いるから、応答ベクトルの成分は時間のずれを持つことになるが、この時間は短時間であるから同時刻に得た成分とみなすことができる。パラサイト負荷切替型アンテナをアンテナ21に用いる場合には、パラサイト素子のリアクタンスを切り替えるためのリアクタンス切替部を位置検出器2に設ける必要がある。もっとも、自律移動装置3ではアンテナ21の位置が時々刻々変化するから、パラサイト負荷切替型アンテナのように各パラサイト素子のリアクタンスを順次切り換えることによってアレイ応答ベクトルを求めるアンテナよりも、上述したアレイアンテナのほうが現在位置の測定誤差を少なくすることができるので、アレイアンテナを用いるほうが望ましい。
【0066】
上述した実施形態では、混合回路22bにおいてIQ分離を行っているが、AD変換部22dによるAD変換後にIQ分離を行うようにしてもよい。この場合、DSP20aにおいてソフトウェアを用いてIQ分離を行うから、AD変換部22dにおいて実数成分と虚数成分とを個別に扱う必要がなく、ハードウェアの構成は簡単になる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施形態を示すブロック図である。
【図2】同上における位置検出器の一部の構成例を示すブロック図である。
【図3】同上に用いる電波発信器を示す斜視図である。
【図4】同上の原理説明図である。
【図5】同上の動作説明図である。
【図6】同上における位置の求め方を示す原理説明図である。
【図7】同上におけるキャリブレーション動作の原理説明図である。
【図8】同上の動作説明図である。
【符号の説明】
【0068】
1 電波発信器
2 位置検出器
3 自律移動装置
4 デッドレコニング
5 レーザレーダ
20a DSP
20b 内部メモリ
21 アンテナ
22 信号処理回路部
22a アッテネータ
22b 混合回路
22c 局部発振回路
22d AD変換部
23 到来方位推定部
24 発信器座標記憶部
25 測位処理部
26 パラメータ格納部
27 動作制御部
28 キャリブレーション部
31 駆動装置
32 運転制御装置
41 速度センサ
42 ジャイロセンサ
43 走行演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面内で規定した絶対座標系における座標位置を既知位置に配置された3台以上の電波発信器からの電波の到来方位を用いて検出する位置検出器と、位置検出器に設定したローカル座標系において電波発信器の存在する方位を電波を用いずに実測する測角装置と、位置検出器および測角装置を前記平面内で移動させる駆動装置とを備え、位置検出器は、電波発信器からの電波を受信しアレイ応答ベクトルを出力するアンテナと、アレイ応答ベクトルを用いてローカル座標系における電波の到来方位を推定する到来方位推定部と、絶対座標系における電波発信器の位置を記憶した発信器座標記憶部と、到来方位推定部で推定した電波の到来方位と発信器座標記憶部が記憶している電波発信器の座標位置とを用いて絶対座標系における座標位置を求める測位処理部と、アレイ応答ベクトルに相当するパラメータが電波の到来方位に対応付けて格納され到来方位推定部からアレイ応答ベクトルに相当するパラメータが与えられると電波の到来方位を返す書換可能なパラメータ格納部と、電波の到来方位から絶対座標系における座標位置を求める通常動作と電波の到来方位とパラメータとをパラメータ格納部に書き込むキャリブレーション動作とを選択する動作制御部と、動作制御部がキャリブレーション動作を選択しアンテナが電波発信器に対して規定の位置関係である状態で、測角装置により実測した電波発信器の方位とアンテナから出力されているアレイ応答ベクトルに相当するパラメータとを対応付けてパラメータ格納部に書き込むキャリブレーション部とを備えることを特徴とする自律移動装置。
【請求項2】
前記駆動装置は前記キャリブレーション動作において、前記電波発信器に対する位置が規定されている基準点に前記アンテナが位置している状態でアンテナが1回転するように位置検出器を移動させ、前記キャリブレーション部はアンテナが1回転する間に得られたアレイ応答ベクトルに相当するパラメータを、測角装置で実測した方位に対応付けてパラメータ格納部に書き込むことを特徴とする請求項1記載の自律移動装置。
【請求項3】
前記位置検知器が前記電波発信器からの電波を受信可能な距離範囲は、前記測角装置が前記電波発信器の存在する方位を検出する距離範囲よりも大きく設定されており、前記位置検出器は前記アンテナの出力の減衰率を調節するアッテネータを備え、前記動作制御部は前記キャリブレーション動作において前記アンテナの出力の減衰率を前記通常動作時よりも大きくするようにアッテネータを制御することを特徴とする請求項1または請求項2記載の自律移動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−200045(P2007−200045A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−18211(P2006−18211)
【出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】