説明

自律走行体移動システム

【課題】他の通信端末からの発呼があっても機能を維持可能な自律走行体移動システムを提供する。
【解決手段】自律走行体移動システムは、自律走行体と、エレベータ制御装置と、第1中継装置と、を備える。自律走行体は、エレベータが設置された建物において、エレベータ籠に乗降して目的階に移動可能である。エレベータ制御装置は、自律走行体から受信した信号に基づいてエレベータを制御可能である。第1中継装置は、自律走行体とエレベータ制御装置との間で送受信される信号を中継しており、通信端末との接続が確立された時点から予め設定した時間内に特定の信号を受信できない場合に、当該接続を切断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律走行体とエレベータとを連携して動作させるための自律走行体移動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自律して走行するロボット等の自律走行体の研究・開発が進められている。例えば、病院等でカルテ、薬品及び配膳品等を搬送する作業をこの種のロボットに担わせることによって、人的負担の軽減に寄与することができる。この種の自律走行体がエレベータを使用して異なる階に移動できるように、自律走行体とエレベータとを連携して運転させるシステムが知られている。特許文献1及び特許文献2は、この種のシステムを開示する。
【0003】
特許文献1の、エレベータによる自律走行車の移動システムでは、自律走行車がエレベータ籠の外部に位置する場合(エレベータ籠の呼出し処理が実行される場合)に、自律走行車と機械室の中継装置とがFOMA回線を介して信号を受け渡すように構成されている。一方、自律走行車がエレベータ籠の内部に位置する場合(エレベータ籠の行き先指定をする場合)に、自律走行車と機械室の中継装置とがSS無線により信号を受け渡すように構成されている。
【0004】
特許文献2の、エレベータによる自律走行車の移動システムでは、自律走行車と機械室の中継装置とがPHS回線を介して、信号を受け渡す構成を開示する。なお、PHS回線は、送信出力が低いため、病院及び空港等においても、このシステムを適用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−23959号公報
【特許文献2】特開2005−332059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び特許文献2の構成は、FOMA回線及びPHS回線を用いているため、自律走行車以外の通信端末から機械室の中継装置に発呼があった場合においても、当該通信端末と中継装置との接続が確立されてしまう。
【0007】
この場合、自律走行車と中継装置とが接続を行うことができず、システムを機能させることができなくなる。
【0008】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、自律走行体以外の他の通信端末からの発呼があっても機能を維持可能な自律走行体移動システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0010】
本発明の観点によれば、以下の構成の自律走行体移動システムが提供される。即ち、この自律走行体移動システムは、自律走行体と、エレベータ制御装置と、中継装置と、を備える。前記自律走行体は、エレベータが設置された建物において、エレベータ籠に乗降して目的階に移動可能である。前記エレベータ制御装置は、前記自律走行体から受信した信号に基づいてエレベータを制御可能である。前記中継装置は、前記自律走行体との接続を確立して前記エレベータ制御装置との間で送受信される信号を中継可能であり、通信端末との接続が確立された時点から予め設定した時間内に特定の信号を受信できない場合に、当該接続を切断する。
【0011】
これにより、想定外の通信端末から中継装置に誤って発呼があって接続が確立した場合においても、中継装置は予め設定した時間の経過後に当該接続を切断するため、中継装置の接続数に上限がある場合に利用可能な接続数が不必要に低減することを防止できる。また、中継装置と自律走行体とを1対1で接続したシステムであれば、想定外の通信端末による長期間の通信接続専有を防止できる。
【0012】
前記の自律走行体移動システムにおいては、前記特定の信号として、前記自律走行体が送信する、エレベータの制御に関する信号が用いられることが好ましい。
【0013】
これにより、自律走行体を識別するためのパスワード等を設定する必要がないため、中継装置が行う処理を単純にすることができる。
【0014】
前記の自律走行体移動システムにおいては、前記自律走行体は、前記中継装置との接続を開始する処理を行って当該処理が受け付けられなかった場合に、再度接続を開始する処理を行うことが好ましい。
【0015】
即ち、中継装置と想定外の通信端末との接続が確立している間に自律走行体が中継装置に接続を試みた場合、自律走行体の接続処理は失敗してしまう。しかし、中継装置と想定外の通信端末との接続は所定時間経過後に切断されるので、上記の構成のように自律走行体が再度接続処理を行うことにより、自律走行体と中継装置との接続を確立することができる。
【0016】
前記の自律走行体移動システムにおいては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記自律走行体と前記中継装置は、PHSモデムを備える。前記自律走行体と前記中継装置とはPHS回線を用いて無線による信号の送受信を行う。
【0017】
これにより、送信出力が高い無線が使用できない場所(病院及び空港等)であっても、本発明を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る自律走行体移動システムを概略的に示す説明図。
【図2】自律走行体がエレベータ籠の外部に位置しているときの信号の流れを示すブロック図。
【図3】自律走行体がエレベータ籠の内部に位置しているときの信号の流れを示すブロック図。
【図4】アンテナケーブルと通信ケーブルとの関係を示す説明図。
【図5】機械室レスタイプのエレベータにおけるアンテナケーブルと通信ケーブルとの関係を示す説明図。
【図6】自律走行体がエレベータに乗って目的階に移動する際にやり取りされる信号を示すシーケンス図。
【図7】自律走行体以外の通信端末から発呼があった場合に接続を切断する制御を示すフローチャート。
【図8】自律走行体に異常が発生したときに行う対応の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。初めに、本実施形態の自律走行体移動システム1の概略について図1を参照して説明する。図1は、自律走行体移動システム1を概略的に示す説明図である。
【0020】
自律走行体移動システム1とは、目的地へ自律的な移動が可能な自律走行体40を病院、空港、倉庫、及び企業等の建物10内に配置し、この自律走行体40と、建物10に設置されたエレベータ30と、を連携して動作させるためのシステムである。
【0021】
自律走行体40は、ワゴン等の被搬送部を備えており、この被搬送部を用いて書類等を運搬することができる。エレベータ30は、建物10の屋上等に設置された機械室20から駆動力が供給されており、昇降路(シャフト、エレベータダクト)35内を上下移動することができる。
【0022】
そして、自律走行体40は、エレベータ30と連携して動作することにより、エレベータ籠31に乗降して異なる階へ移動することができる。
【0023】
次に、自律走行体移動システム1の具体的な構成について図2から図5までを参照して説明する。図2は、自律走行体40がエレベータ籠31の外部に位置しているときの信号の流れを示すブロック図である。図3は、自律走行体40がエレベータ籠31の内部に位置しているときの信号の流れを示すブロック図である。図4は、アンテナケーブル51と通信ケーブル52との関係を示す説明図である。図5は、機械室レスタイプのエレベータ30におけるアンテナケーブル51と通信ケーブル52との関係を示す説明図である。
【0024】
図2及び図3に示すように、機械室20には、エレベータ制御装置21と、第1中継装置(中継装置)22と、モータ36と、が配置されている。
【0025】
エレベータ制御装置21はエレベータ30の制御を行っており、具体的には、エレベータ籠31の扉の開閉及びアナウンス等を行うことができる。また、エレベータ制御装置21は、モータ36を制御することにより、図略の巻上機を動作させてエレベータ籠31を吊るすロープの巻取り及び巻戻しを行わせて、エレベータ籠31を上下させることができる。
【0026】
また、エレベータ制御装置21は、機械室20の内部から外部にかけて配置された通信ケーブル52を接続可能に構成されており、この通信ケーブル52及び電話回線等の公衆回線72を介してエレベータ監視センタ60と接続されている。このエレベータ監視センタ60はエレベータ30を監視しており、エレベータ籠31の内部の非常ボタンが押されて異常の発生が通知されたときに、修理等の対応を行うためのものである。
【0027】
第1中継装置22はPHSモデム23を備えており、このPHSモデム23にはアンテナ24が接続されている。機械室20はコンクリート又は金属等で囲まれており電波が遮蔽されるので、アンテナ24は、アンテナケーブル51を介して機械室20の外部に設置されている。また、第1中継装置22は、このアンテナ24が受信した信号を、必要に応じて適宜変換した後に、エレベータ制御装置21に送信するように構成されている。
【0028】
なお、このアンテナケーブル51及び前記通信ケーブル52が機械室20の内部から外部にかけて配置されている様子を図4に示す。図4に示すように機械室20には配線用孔25が形成されており、アンテナケーブル51及び通信ケーブル52は、同一の配線用孔25を通過している(図4(a)を参照)。
【0029】
この構成により、配線用孔25を複数形成する必要がないため、設置工事に掛かるコストを軽減することができる。特に、建物10に新しく自律走行体移動システム1を導入する場合は、アンテナケーブル51が既存の配線用孔25を通過するようになるため、新しく配線用孔25を形成する必要をなくすことができる。
【0030】
なお、図4(b)に示すように、アンテナケーブル51と通信ケーブル52とが配線を一部共有する構成にしても良い。一部共有とは、例えばアンテナケーブル51と通信ケーブル52とをまとめて1本の多芯伝送ケーブルとする構成である。この場合、用いるケーブルを少なくすることができるため、設置工事に掛かるコストを軽減することができる。特に、建物10に新しく自律走行体移動システム1を導入する場合は、既存の通信ケーブル52を用いることにより、アンテナケーブル51に配線用孔25を通過させる手間をなくすことができる。
【0031】
また、アンテナケーブル51及び通信ケーブル52に同一の配線用孔25を通過させる構成は、図5に示すように、機械室レスタイプのエレベータ30にも適用することができる。機械室レスタイプのエレベータ30では、エレベータ制御装置21及び第1中継装置22は、前記昇降路35の内壁及び最下部等に設置される。そして、アンテナケーブル51及び通信ケーブル52に、昇降路35の壁部に形成された同一の配線用孔25を通過させる(又は配線を一部共有させても良い)ことにより、上記の効果を得ることができる。
【0032】
また、エレベータ籠31に配置される第2中継装置32は、PHSモデム33とアンテナ34とを備えている。そして、図3に示すように、アンテナ34が受信した信号を第1中継装置22に送信するように構成されている。なお、エレベータ籠31は、金属等で囲まれており電波が遮蔽されるので、第2中継装置32と第1中継装置22とは、無線ではなく有線で信号の送受信を行うように構成されている。
【0033】
自律走行体40は、PHSモデム43とアンテナ44とを備えている。そして、アンテナ44を介して、第1中継装置22及び第2中継装置32と信号の送受信が可能に構成されている。
【0034】
次に、自律走行体40がエレベータ籠31の外部に位置しているときと、エレベータ籠31の内部に位置しているときと、における信号の流れについて説明する。なお、本実施形態では、自律走行体40が自らの位置を把握できるように、扉の前及びエレベータ籠31の内部に適当なレーザ信号を発生させている。そして、自律走行体40は、このレーザ信号によって、あるいはレーザ信号と予め記憶した建物の地図データとをマッチングすることによって、自機が扉の前に位置しているか、エレベータ籠31の内部に位置しているかを検出可能となっている。
【0035】
初めに図2を参照して、自律走行体40がエレベータ籠31の外部に位置しているときにおける信号の流れについて説明する。この場合、自律走行体40は、PHS公衆回線71を介して、第1中継装置22に対して信号の送信を行う。そして、第1中継装置22は、この信号をエレベータ制御装置21に送信する。一方、エレベータ制御装置21が送信した信号は、受信時と同様に第1中継装置22を介して、自律走行体40によって受信される。
【0036】
次に、図3を参照して、自律走行体40がエレベータ籠31の内部に位置しているときにおける信号の流れについて説明する。この場合、自律走行体40は、PHSが有するトランシーバ機能によって端末同士の直接通話を行うことにより、第2中継装置32へ信号の送信を行う。信号を受信した第2中継装置32は、有線でこの信号を第1中継装置22へ送信する。そして、第1中継装置22は、この信号をエレベータ制御装置21に送信する。一方、エレベータ制御装置21が送信した信号は、受信時と同様に第1中継装置22及び第2中継装置32を介して、自律走行体40によって受信される。
【0037】
この構成により、自律走行体40がエレベータ籠31の外部に位置しているか内部に位置しているかを問わず、自律走行体40とエレベータ制御装置21とが信号の送受信を行うことができ、エレベータ30と自律走行体40との連携が可能になる。
【0038】
次に、自律走行体40がエレベータ籠31に乗降して異なる階へ移動するときに、エレベータ30及び自律走行体40が行う制御について図6及び図7を参照して説明する。図6は、自律走行体40がエレベータ30に乗って目的階に移動する際にやり取りされる信号を示すシーケンス図である。図7は、自律走行体40以外の通信端末から発呼があった場合に接続を切断する制御を示すフローチャートである。
【0039】
本実施形態のエレベータ30は、エレベータ籠31に人と自律走行体40とが同時に乗ることを防止するために、エレベータ籠31に人のみを乗せる通常運転と、エレベータ籠31に自律走行体40のみを乗せる連携運転と、の2つの運転モードを有している。
【0040】
そして、自律走行体40は、異なる階へ書類等を届けるように指示を受けた場合、エレベータ籠31の前まで自律走行を行う。そして、PHS公衆回線71を用いて、連携運転要求信号をエレベータ制御装置21に送信する(シーケンス番号10)。
【0041】
この連携運転要求信号は、前述のように第1中継装置22を介してエレベータ制御装置21に送信される。なお、第1中継装置22は、自律走行体40以外の通信端末から発呼があった場合に接続を切断する制御を行うが、この制御については後述する。
【0042】
そして、エレベータ制御装置21は、エレベータ籠31内の操作パネル又は開閉扉の前の操作盤から人による動作指示を受け付けた後であれば当該受け付けた処理を全て完了した後に、人を搬送しておらず上記動作指示も受け付けていなければ即座に、連携運転許可信号を自律走行体40に送信する(シーケンス番号11)。この連携運転許可信号の送信時又はその前後において、エレベータ30の運転モードが通常運転から連携運転へ移行する。連携運転に移行したエレベータ30は、人が上記操作盤のエレベータ呼出ボタンを押した場合でも、エレベータ呼出ボタンが押された階へ移動しない。
【0043】
そして、連携運転許可信号を受信した自律走行体40は、現在の自機の階を指定する信号である呼寄せ階指定信号をエレベータ制御装置21に送信する(シーケンス番号12)。この呼寄せ階指定信号を受信したエレベータ制御装置21は、自律走行体40の指定を受け付けたことを示す受付完了信号を自律走行体40に送信する(シーケンス番号13)。
【0044】
そして、エレベータ籠31が移動して、自律走行体40が指示した階に到着して扉が開いた後に、エレベータ制御装置21は、扉開完了信号を自律走行体40に送信する(シーケンス番号14)。この扉開完了信号を受信した自律走行体40は、エレベータ籠31の内部に移動する。前述のように、エレベータ籠31の内部に移動後の自律走行体40は、PHS公衆回線71ではなく端末同士の直接通話を用いて、更に第2中継装置32を介して信号の送受信を行う。
【0045】
そして、エレベータ籠31の内部に移動が完了した自律走行体40は、行先階(書類等の搬送先として指定された階)を指定する行先階指定信号をエレベータ制御装置21に送信する(シーケンス番号15)。そして、エレベータ制御装置21は、行先階を受け付けると、受け付けたことを示す受付完了信号を自律走行体40に送信する(シーケンス番号16)。
【0046】
次に、自律走行体40は、扉閉要求信号をエレベータ制御装置21に送信する(シーケンス番号17)。なお、エレベータ制御装置21は、この扉閉要求信号が受信できずに又は自律走行体40が扉に挟まる等の異常が発生して、扉が所定時間以上開いたままとなったときは、異常が発生したと判断して、その旨を自律走行体移動システム1の管理者又はエレベータ監視センタ60に送信する。
【0047】
なお、扉を閉める前に行先階を指定する上記の構成を、扉を閉めた後に(シーケンス番号17の処理を行った後に)行先階を指定する(シーケンス番号15及び16の処理を行う)構成に変更しても良い。
【0048】
そして、エレベータ籠31が移動して行先階に到着して扉が開いた後に、エレベータ制御装置21は、扉開完了信号を自律走行体40に送信する(シーケンス番号18)。この扉開完了信号を受信した自律走行体40は、エレベータ籠31の外部に移動する。エレベータ籠31の外部に移動後の自律走行体40は、端末同士の直接通話ではなく、PHS公衆回線71を介して信号の送受信を行う。
【0049】
そして、自律走行体40は、エレベータ籠31の外部に移動完了後に、扉閉要求信号をエレベータ制御装置21に送信し(シーケンス番号19)、連携運転解除信号をエレベータ制御装置21に送信する(シーケンス番号20)。この連携運転解除信号により、エレベータ30の運転モードを連携運転から通常運転へ戻すことができる。自律走行体40は、以上の信号を送受信することにより、異なった階層へ移動することができる。
【0050】
次に、自律走行体40以外の通信端末から発呼があった場合に接続を切断する制御について図7を参照して説明する。本実施形態の第1中継装置22はPHS公衆回線71を用いているため、間違い電話又はいたずら電話等によって、自律走行体40以外の端末から第1中継装置22に発呼が行われることがある。この場合、第1中継装置22が他の端末と接続されてしまい、この接続が解除されるまでは自律走行体40が第1中継装置22と接続できなくなってしまう。
【0051】
そのため、本実施形態では、第1中継装置22と接続している端末が自律走行体40であることを示す特定の信号と、接続が切断されるまでの時間を示す所定時間とを設定して以下の制御を行っている。即ち、第1中継装置22は、通信端末からの着信があったときは(S101)、特定の信号を受信できたか否かを判断しており(S102)、特定の信号を受信できたときに当該信号の中継処理を行う。一方、特定の信号が受信できないまま、所定時間が経過してしまうと(S103)、当該通信の切断処理を行う。
【0052】
なお、特定の信号としてはパスワードのような特別な信号を採用しても良いが、本実施形態では、図6に示す、エレベータを制御するための信号を特定の信号として採用している。即ち、相手から例えば連携運転要求信号が送られてきた場合は、第1中継装置22は自律走行体40と正常に通信できているとみなすのである。なお、この特定の信号として、自律走行体40から送られる最初のエレベータ制御信号(本実施形態では連携運転要求信号)を採用することが好ましい。以上の構成により、パスワードのような特別な取り決めを作る必要をなくすことができる。
【0053】
この特定の信号及び所定時間は、自律走行体移動システム1の構成及び接続される機器に応じて、変化させることができる。また、第1中継装置22と想定外の通信端末との接続が確立している間に自律走行体40が第1中継装置22に接続を試みた場合(又は第2中継装置32を介して接続を試みた場合)、自律走行体40の接続処理は失敗してしまう。しかし、本実施形態の自律走行体40は、設定された時間の経過後、又は他の通信端末との接続が切断された旨を第1中継装置22から受信した後に、再度接続処理を行うように構成されている。これにより、自律走行体40が第1中継装置22と接続を確立することができる。
【0054】
次に、自律走行体40が自機に異常があると検出したときに行われる対応について、図8を参照して説明する。図8は、自律走行体40に異常が発生したときに行う対応の流れを示すフローチャートである。
【0055】
自律走行体40がエレベータ籠31による移動中又は扉の前でエレベータ籠31の到着を待つ間に、自律走行体40に異常が発生して図6に示す信号の送受信ができなくなると、運転モードが連携運転のままになるため、エレベータ30の運行に影響を与えてしまう。従って、本実施形態では、以下のように対応を行うことにより早期にエレベータ30を復旧させている。
【0056】
扉の前又はエレベータ籠31の内部に位置している自律走行体40は、自機の異常を検知した場合(S201)、異常が発生した旨を第1中継装置22に送信する(S202)。なお、このときに自機の位置も第1中継装置22に送信しても構わない。
【0057】
自律走行体40は、第1中継装置22との通信が正常に行えたか否かを判断しており(S203)、第1中継装置22との通信が正常に行えた場合は、自機の位置に応じて異なる動作をするように構成されている(S204)。
【0058】
自機が扉の前に位置している場合、自律走行体40は、エレベータ制御装置21に前述した連携運転解除信号又はこの連携運転解除信号とは異なるキャンセル信号を送信することにより連携運転を解除する(S205)。これにより、エレベータ30を通常運転に戻すことができる。
【0059】
また、自機がエレベータ籠31の内部に位置している場合、自律走行体40は、自律走行体移動システム1の管理者がいる階にエレベータ30を移動させる(S206)。そして、自律走行体移動システム1の管理者は、自律走行体40をエレベータ籠31から出した後に、管理者又は自律走行体40の通信端末を用いて、エレベータ制御装置21に連携運転解除信号を送信することにより連携運転を解除する(S207)。これにより、自律走行体40をエレベータ籠31から出した後に、エレベータ30を通常運転に戻すことができる。
【0060】
また、自律走行体40は、第1中継装置22と通信が正常に行えなかった場合は、そのまま待機する。しかし、本実施形態では、自律走行体40との通信が一定時間以上途絶えた場合、その旨を管理者に通知するように構成されている(S208)。従って、この通知を受けた管理者は、自律走行体40の通信ログ等を考慮して位置を特定し、自律走行体40がエレベータ籠31の内部に位置しているか否かを判断する(S209)。
【0061】
自律走行体40がエレベータ籠31の内部に位置している場合は、自らの通信端末を用いて、自らがいる階にエレベータ30を移動させる(S206)。そして、先ほどと同様に自律走行体40をエレベータ籠31から出した後に、連携運転を解除する(S207)。
【0062】
また、自律走行体40が扉の前に位置している場合は、自律走行体移動システム1の管理者の通信端末又は自律走行体40からエレベータ制御装置21に連携運転解除信号又は前述のキャンセル信号を送信することにより連携運転を解除する(S210)。その後、管理者は、自律走行体40を回収する。なお、管理者の持つ通信端末からの信号のみならず、エレベータ制御装置21がタイムアウトを検知して、自ら連携運転を解除することもできる。
【0063】
以上のように対応することにより、エレベータ30を素早く通常運転に戻すことができる。
【0064】
以上に説明したように、本実施形態の自律走行体移動システム1は、自律走行体40と、エレベータ制御装置21と、第1中継装置22と、を備える。自律走行体40は、エレベータ30が設置された建物10において、エレベータ籠31に乗降して目的階に移動可能である。エレベータ制御装置21は、自律走行体40から受信した信号に基づいてエレベータ30を制御可能である。第1中継装置22は、自律走行体40とエレベータ制御装置21との間で送受信される信号を中継しており、通信端末との接続が確立された時点から予め設定した時間内に特定の信号を受信できない場合に、当該接続を切断する。
【0065】
これにより、想定外の通信端末から第1中継装置22に誤って発呼があって接続が確立した場合においても、第1中継装置22は予め設定した時間の経過後に当該接続を切断する。そのため、第1中継装置22の接続数に上限がある場合に利用可能な接続数が不必要に低減することを防止できる。また、第1中継装置22と自律走行体40とを1対1で接続したシステムであれば、想定外の通信端末による長期間の通信接続専有を防止できる。
【0066】
また、本実施形態の自律走行体移動システム1においては、特定の信号として、自律走行体40が送信する、エレベータ30の制御に関する信号が用いられる。
【0067】
これにより、自律走行体40を識別するためのパスワード等を設定する必要がないため、第1中継装置22が行う処理を単純にすることができる。
【0068】
また、本実施形態の自律走行体移動システム1においては、自律走行体40は、第1中継装置22との接続を開始する処理を行って当該処理が受け付けられなかった場合に、再度接続を開始する処理を行う。
【0069】
これにより、自律走行体40が接続処理を行ったときに第1中継装置22が他の端末と接続中であった場合でも、自律走行体40と第1中継装置22との接続を確立することができる。
【0070】
また、本実施形態の自律走行体移動システム1において、自律走行体40と第1中継装置22は、それぞれPHSモデム43,23を備える。そして、自律走行体40と第1中継装置22とは公衆回線72を用いて無線による信号の送受信を行う。
【0071】
これにより、送信出力が高い無線が使用できない場所(病院及び空港等)であっても、本発明を問題なく用いることができる。
【0072】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0073】
上記実施形態では、自律走行体40と第1中継装置22とがPHS公衆回線71によって通信を行う構成であるが、PHS公衆回線71に代えて、例えば携帯電話回線(FOMA等)を用いても良い。
【0074】
上記実施形態では、自律走行体40とPHSモデム23とが端末同士の直接通話によって通信を行う構成であるが、これに代えて、例えば産業用無線等を用いても良い。
【0075】
第2中継装置32は、装置全体がエレベータ籠31の内部に配置される構成に限られず、アンテナ34のみがエレベータ籠31に配置される構成にすることができる。
【0076】
図2及び図3で示したブロック図は、一例であり、他の機器を追加しても良い。例えば、第1中継装置22と第2中継装置32との間に変換装置を配置し、この変換装置によって長距離の伝送に適した形式に信号を変換してから送信しても良い。
【0077】
自律走行体移動システム1は、機械室タイプのエレベータが設置された建物のみならず、機械室レスタイプのエレベータを備えた建物に対しても適用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 自律走行体移動システム
21 エレベータ制御装置
22 第1中継装置(中継装置)
30 エレベータ
31 エレベータ籠
32 第2中継装置
40 自律走行体
71 PHS公衆回線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータが設置された建物において、エレベータ籠に乗降して目的階に移動可能な自律走行体と、
前記自律走行体から受信した信号に基づいてエレベータを制御可能なエレベータ制御装置と、
前記自律走行体との接続を確立して前記エレベータ制御装置との間で送受信される信号を中継可能であり、通信端末との接続が確立された時点から予め設定した時間内に特定の信号を受信できない場合に、当該接続を切断する中継装置と、
を備えることを特徴とする自律走行体移動システム。
【請求項2】
請求項1に記載の自律走行体移動システムであって、
前記特定の信号として、前記自律走行体が送信する、エレベータの制御に関する信号が用いられることを特徴とする自律走行体移動システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の自律走行体移動システムであって、
前記自律走行体は、前記中継装置との接続を開始する処理を行って当該処理が受け付けられなかった場合に、再度接続を開始する処理を行うことを特徴とする自律走行体移動システム。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の自律走行体移動システムであって、
前記自律走行体と前記中継装置は、PHSモデムを備え、
前記自律走行体と前記中継装置とはPHS回線を用いて無線による信号の送受信を行うことを特徴とする自律走行体移動システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−18646(P2012−18646A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157232(P2010−157232)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト、ロボット搬送システム(サービスロボット分野)、全方向移動自律搬送ロボット開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】