説明

自然エネルギー発電設備を用いた電力系統周波数制御装置

【課題】 内燃機関発電機と自然エネルギー発電機を組み合わせた電力系統において、電力系統の状態を反映した的確な周波数制御を行う電力系統周波数制御装置を提供する。
【解決手段】 外乱推定オブザーバ40と出力電力指令装置50を備え、内燃機関発電機制御装置21,23が電力系統周波数変動Δfをフィードバックして内燃機関発電機20の発電量Pdを制御すると共に、外乱推定オブザーバ40が負荷電力推定値^Plを生成し、出力電力指令装置50が負荷推定値における短周期信号と自然エネルギー可能発電電力の長周期信号を加算して得た指令信号を出力し、自然エネルギー発電機30の制御装置がこの指令信号を設定値Pgoとして自然エネルギー発電機30の出力電力Pgを制御することにより、電力系統の周波数fを調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自然エネルギー発電装置を利用して電力系統の周波数を調整する制御装置に関し、特に風力発電装置の特性を利用して系統周波数を安定させる電力系統周波数制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止や化石燃料資源枯渇の観点から、風力エネルギーや太陽光エネルギーを利用する自然エネルギー発電設備が電力系統に多数接続されるようになってきた。離島においても、主電源である重油ディーゼル発電に対して多数の風力発電設備が導入された独立型の電力系統が多数見られる。離島では年間を通して良風が得られて風力発電に適し、高い設備利用率で風力発電機の運転が行える地域が多く見られる。
【0003】
しかし、自然エネルギーは不規則に変動するため、多数の自然エネルギー発電設備を電力系統に導入すると、電力系統周波数や系統電圧が変動することになる。風力エネルギーは不規則であり、風力発電機出力電力は風速変動により大きく変動するため、系統周波数も乱れやすい。
需要者からは電力品質を保持する要求があるので、自然エネルギー発電設備を導入した電力系統も、系統周波数や系統電圧を一定に維持する必要がある。したがって、離島におけるような小規模電力系統で単機容量の大きい風力発電設備を導入した場合にも、これに適合する周波数変動対策が必要となる。
【0004】
これに対して、従来は、大容量のエネルギー貯蔵装置を導入して解決する方法が開発されてきた。自然エネルギー発電設備の変動電力分をエネルギー貯蔵装置で吸収し、一定にした電力を系統に注入する方法である。
しかし、このような蓄電設備を用いた周波数変動対策は、設備コストの増大を招き採算性が問題になる。蓄電池容量低減のため、可変速風車、ピッチ角制御、風車慣性を利用する方法など、風力発電機側の調整方法を用いて出力電力変動を抑制し系統周波数を安定化する方法が提案されている。また、変動が大きい成分だけをエネルギー貯蔵装置で補償することにより貯蔵装置の容量を低減する方法なども提案されている。
【0005】
たとえば、特許文献1には、流入風速から発電機出力までの伝達特性と、ピッチ角から発電機出力までの伝達特性をモデル化し、計測した流入風速に対し、発電機出力を定格出力に制御するために必要なピッチ角を算出してフィードフォワードすることにより風車の動特性を補償して、風車発電機出力の変動を抑制する、フィードフォワード制御を用いたピッチ角制御方法が開示されている。
しかし、開示手法では、風力発電システムにおけるパラメータ変化の影響や、風力発電設備で発生するウィンドシェアの効果を考慮していない。したがって、パラメータの変動やウィンドシェアの発生により制御特性が変化して効果的な出力調整ができず出力が不安定になったりする虞がある。
また、風力発電機は非線形性が強いため直接にモデル化すると、極めて高次の式が必要になり、オンライン制御を実行するためには演算負荷が過大となり実用性が未だ十分ではない。
【0006】
さらに、特許文献2は、ウインドファームにおける風力発電機について、定格出力以下の小出力動作領域を含む全動作領域に対してピッチ角制御を用いることにより出力電力の平準化を行うようにした発電電力平準化装置を開示している。
開示された装置は、翼のピッチ角で回転調整する風車に繋がった発電機とピッチ角制御器とピッチ角制御器に設定値を供給するウインドファーム制御装置を備えて、ウインドファーム出力電力指令値に基づいて風力発電機ごとに出力電力指令値を算出して供給すると共に、ウインドファーム出力電力を差し引いてウィンドファーム出力電力偏差を求め、風力発電機ごとの出力電力補償値を算定し、これを出力電力指令値に加えた値を総出力電力指令値として各風力発電機のピッチ角制御器に供給する。開示された装置では、風の偏在によりある発電機の出力が急減しても、減少分を他の余裕のある発電機に分配して補償するので、ウィンドファーム全体の電力出力状態は平準化して滑らかになる。
【0007】
しかし、これらの各方法は主に風力発電機の出力電力を平準化することを目的とするもので、これら方法により出力電力平準化は達成されているが、出力電力制御の本質的目的である系統周波数変動の抑制については十分な解決策になっていない。
なお、電力系統周波数は、自然エネルギー発電設備の発電電力変動のみでなく、負荷電力の変動によっても変化するため、電力系統の状態を反映させながら系統周波数を制御することが求められる。
【特許文献1】特開2002−048050号公報
【特許文献2】特開2007−032488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、内燃機関発電機と自然エネルギー発電機を組み合わせた電力系統において、電力系統の状態を反映した的確な周波数制御を行う電力系統周波数制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の電力系統周波数制御装置は、内燃機関発電機と自然エネルギー発電機を組み合わせた電力系統において、外乱推定オブザーバと出力電力指令装置を備え、内燃機関発電機制御装置が電力系統周波数をフィードバックして内燃機関発電機の発電量を制御すると共に、外乱推定オブザーバが負荷電力推定値を生成し、出力電力指令装置が負荷推定値における短周期信号と自然エネルギーの可能発電電力の長周期信号を加算して得た指令信号を出力し、自然エネルギー発電機の制御装置がこの指令信号を設定値として自然エネルギー発電機の出力電力を制御することにより、電力系統の周波数を調整することを特徴とする。
外乱推定オブザーバは、電力系統の電力系統周波数偏差と内燃機関発電機制御装置の指令値を入力して、電力系統の負荷電力を推定する最小次元オブザーバであることが好ましい。
【0010】
特に、ディーゼル発電機と風力発電装置を組み合わせて成る電力系統において、負荷電力推定値に基づいて生成された指令信号にしたがって風力発電機のピッチ角制御を行うことにより、負荷周波数制御を行うことを特徴とする。
風力発電機のピッチ角制御システムに一般化予測制御器(GPC)を用いるものでは、高性能なピッチ角制御を達成して、良好な制御結果を得ることができる。
【0011】
本発明の電力系統周波数制御装置によると、内燃機関発電機と自然エネルギー発電機を組み合わせた電力系統において、外乱となる電力系統負荷電力の短周期信号成分と自然エネルギーから得られる発電電力の長期信号成分を応答性のよい自然エネルギー発電機の出力電力制御により補償し、残余の負荷電力を内燃機関発電機で供給するので、電力偏差を良く補償して、電力系統周波数の偏差を小さい値に維持することができる。
特に、離島などでよく利用される、ディーゼル発電機と風力発電機を組み合わせた小規模電力系統において、応答性のよい風力発電機のピッチ角制御を利用して負荷電力の短周期信号成分を補償することにより、系統周波数を目標値に近い値に維持管理することが容易に可能になる。
本発明の電力系統周波数制御装置は、従来多用されてきた高価な電力貯蔵装置を使用しないので、大きくコスト節減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を用い実施例に基づいて本発明の電力系統周波数制御装置を詳細に説明する。
図1は本実施例に係る小規模電力系統の概念図、図2は本実施例の電力系統モデルのブロック線図、図3は図2における風力発電システムの詳細図、図4は図3のピッチ角制御における全動作領域にわたるピッチ角制御則を説明する線図、図5は図2の外乱推定オブザーバの構成を表すブロック線図、図6は図2の出力電力指令システムを説明するブロック線図である。
【0013】
(小規模電力系統)
本発明は特に小規模な電力系統に適する。本実施例では、図1に示したようにディーゼル発電機2と風力発電機3を組み合わせて自地域の負荷電力需要1を充足するようにした小規模電力系統4に適用する例を説明する。
たとえば離島では、マイクログリッドと異なり大規模電力系統に連系されておらず、常時独立して運用される小規模電力系統となる。離島では年間を通して良風が得られる場合が多く、離島における独立した電力系統では、主電源である重油ディーセル発電の環境負荷を低減するため環境に優しい風力発電が導入される例が多くなっている。
【0014】
図2は、従来技法を適用して作成した本実施例の小規模電力系統に関する伝達関数表現によるブロック線図である。
図2の小規模電力系統は、ディーゼル発電機20、風力発電機30および負荷電力システム10により構成されている。本実施例の小規模電力系統4では、負荷電力1の電力需要Plに対してディーゼル発電機20の出力電力Pdと風力発電機30の出力電力Pgを供給する。電力需給のアンバランスが電力偏差Peとなり、慣性係数Mと制動係数Dを持つ電力系統システム10に入力されて変成し、電力系統の周波数偏差Δfとなって現れる。
【0015】
電力系統の周波数制御方式としては、単独系統において多く採用される定周波数制御方式を用いている。定周波数制御方式は積分器27と比例器28の並列接続した制御器26をフィードバック路に配置した積分制御ループを有しており、周波数偏差Δfが零になるように操作関数uを算定してディーゼル発電機20のガバナー21に供給することにより、系統周波数を制御する。ガバナー21と直列に接続されたディーゼル発電機23の出力Pdは急激な変化をしないように出力リミッタ25を通した後で負荷電力需要1に供給される。
なお、ガバナー21とディーゼル発電機23の伝達関数はそれぞれ時定数TgとTdの1次遅れで近似することができる。
【0016】
外乱推定オブザーバ40は、電力系統システムにおいて外乱となる負荷電力Plを推定する。出力電力指令装置50は負荷電力推定値^Plと風速Vwを入力して、負荷電力の変化分と同等の変化を有する出力電力指令値Pgoを生成し、風力発電機(WTG)30に与える。
風力発電機(WTG)30は、出力電力指令値Pgoと風速Vwを入力して 供給電力偏差Peの変動分を零にするような風力発電機出力Pgを出力する。
【0017】
図3は、ピッチ角制御を受ける風力発電機システム30を表すブロック線図である。ピッチ角制御に一般化予測制御器(GPC:Generalized predictive controller)を用いている。
風車と風車に直結する発電機31にピッチ角制御器32と油圧サーボ系33を備えた制御系が組まれて出力電力の平準化を図る。ピッチ角制御器32に適応制御装置であるセルフチューニングレギュレータ(STR)を適用することによって、より高性能な制御を達成するようにしてある。STRは補償制御器である一般化予測制御器(GPC)34とパラメータ同定器35で構成される。
【0018】
出力電力指令値Pgoと出力電力Pgの偏差eを求め、ピッチ角制御器32およびGPC34によりピッチ角指令値βCMDを決定する。そして、ピッチ角指令値βCMDを油圧サーボ系33に供給すると油圧サーボ系33が風車の翼を操作してブレードのピッチ角βを変化させ、出力電力Pgの制御を行う。
油圧サーボ系は機械系の様々な動作や非線形要素によって非常に複雑であるが、時定数1.0秒の1次遅れ系で近似できる。また、風力発電機には、永久磁石同期発電機、巻線型誘導発電機、同期発電機なと、種々の形式のものがあるが、本実施例では構造が簡単で堅牢なかご形誘導発電機を採用している。
【0019】
風車の出力Pwは下式で表わされる。
Pw=d1+d2Vw2
ここで、d1,d2は係数である。
誘導発電機のエネルギ損失を無視すれば、定常状態において風車の回転エネルギ出力Pwは出力電力Pgと等しい。
STRは、出力偏差eのうちフィードバック制御では補償できない部分をGPC34で算出された制御補償指令値u2で補償する。
【0020】
GPC34は、出力偏差eを入力しパラメータを含む制御式に適用して制御補償指令値u2を算出する。制御補償指令値u2は、フィードバック制御系のピッチ角制御器32が算出する操作出力u1に加算して、油圧サーボ系33に与えるピッチ角指令値βCMDとする。
パラメータ同定器35は、発電機出力偏差eとGPC34の制御補償指令値u2を入力し、発電機出力偏差eと制御補償指令値u2の重み付け二乗積算値の和の期待値を評価関数JとしてJを最小とするようなパラメータベクトルを算出する。GPC34は、パラメータ同定器35が算出したパラメータベクトルに合うように演算式を調整する。
なお、本実施例における風力発電システムのモデル化およびGPCの制御則は、特許文献2に詳細に記載されたものと同じである。
【0021】
従来のピッチ角制御則では、起動風速以上定格風速以下でピッチ角は固定されるため、風力発電機の出力は定格風速以下では風速Vwの3乗に比例して変動する。したがって、本実施例における風力発電機を用いた負荷周波数制御では、ピッチ角制御領域を全動作領域に拡大するため、図4に示されるような制御則を採用する。
図4は風車出力特性の例を示す図面で、風速Vwに対して風車出力Pwとピッチ角βの調整範囲を示したものである。図4の例では、カットイン風速5m/s以下の領域ではピッチ角βを90°として出力を0に保持し、カットイン風速から定格風速まではピッチ角βを最も効率の良い例えば10°を下限とし、定格風速からカットアウト風速までの領域では安全を確保するため定格出力値以上にならないようにピッチ角βを90°以下に制限し、カットアウト風速24m/s以上ではピッチ角βを90°として発電機が作動しないようにして風車の破損を防止する。
【0022】
(外乱推定オブザーバ)
本実施例の周波数制御装置では、外乱推定オブザーバ40と出力電力指令装置50を用いて、負荷電力を推定して供給電力偏差Peを零にするような電力電力指令値Pgoを与えて風力発電機の出力電力Pgを制御するアクティブ出力電力制御を行う。
図5は、外乱推定オブザーバ40の構成を説明するブロック線図である。
外乱推定オブザーバ40は最小次元オブザーバ41で構成され、制御対象となる図2に示したディーゼル発電機と電力システムからなる電力系統周波数制御システム10の入力であるガバナー操作入力uと出力yである周波数偏差Δfとから、電力系統周波数制御システムにおける外乱である負荷電力Plを推定する。なお、負荷電力の状態変数dPl/dtは簡単のため零と仮定した。
【0023】
式(1)のプラント状態方程式で表される電力系統周波数制御システム10は図中の制御対象45として表される。
(1) dx/dt=Ax+Bu
y=Cx
(2)
【数1】

(3)
【数2】

(4) C=[1 0 0 0]
ここで、xは状態変数ベクトル(x1は周波数偏差Δf、x2はディーゼル発電機系の出力Pd、x3はガバナー出力、x4は負荷電力Pl)、uは制御入力ベクトルとしてのガバナー入力信号、yは出力変数ベクトルの系統周波数偏差Δfである。また、Aはシステム行列、Bは制御行列、Cは出力行列である。
【0024】
最小次元オブザーバ41は、基本的な教科書(たとえば、岩井善太他「オブザーバ」コロナ社、pp.206−221,1990、あるいは小郷寛他「システム制御理論入門」実教出版、pp.121−126,1999)に示す通り、式(5)にしたがって構成することができる。
(5) dω/dt=^Aω+Ky+^Bu
^x=Dω+Hy
ここで、^は推定値であることを示す。Kはゲイン行列、DおよびHはルーエンバーガのオブザーバとなるための条件を満足する係数行列である。式(5)の積分は積分器42で実行される。
【0025】
なお、オブザーバの条件から、^AM=MA−KC、In=DM+HCを満たす行列Mが存在し、このMをつかって、Bの推定値^B=MBとすることができる。また、ωはMxの推定値になっている。
オブザーバの極は^Aの固有値になるが、これらをγ1=−8,γ2=−0.2,γ3=−10と選択することにより、良好なシミュレーション結果が得られた。
得られた状態変数ベクトルxのx4が、負荷電力Plの推定値^Plである。
【0026】
(出力電力指令装置)
図6は、出力電力指令装置50の構成を示すブロック線図である。
出力電力指令装置50は、風力発電機30に供給電力偏差Peを零にするような出力電力Pgを発生させる出力電力指令値Pgoを供給する。電力偏差Peを零とするため、風力発電機の出力電力Pgは、外乱となる負荷電力Plの変動と同等の変動を有することが好ましい。また、風力発電機出力は風速状況により大きく変動するから、風速Vwも考慮する必要がある。
そこで、出力電力指令装置50は、外乱推定オブザーバ40から出力された負荷電力推定値^Plと風車近傍で測定された風速Vwを入力して、風速Vwに基づく出力電力指令値の基準値Pbaseに負荷電力推定値の変動分Δ^Plを加えて、出力電力指令値Pgoを得る。
【0027】
推定される負荷電力Plは、通常風力発電機の定格出力より大きい。また、負荷電力Plの全周波数領域における変動成分を全て風力発電機出力電力Pgにより補償することは、負荷周波数制御のために必要とされる風力発電機出力電力の変化幅を増加させるので好ましくない。また、風車出力には風速状況によって制限があることから、制御が困難となる可能性もある。
【0028】
そこで、風力発電機で補償する負荷電力Plの成分は、式(6)に示すように、負荷電力推定値^Plの移動平均値からの偏差分Δ^Plだけとする。
(6) Δ^Pl=^Pl−∫(t=t-T〜t)^Pldt/T
ここで、tは現在の時刻、Tは積分区間、∫(t=t-T〜t)[F]dtは関数Fのt−Tからtまでの積分を表わす。なお、ディーゼル発電機出力Pdが負荷電力Plの長周期成分に対応するので、ディーゼル発電機の出力変動が小さくなるように積分時間Tを長めにとって100秒とした。この演算は、式(6)の演算器51で実行する。
【0029】
次に、風力発電機の出力電力指令値Pgを下の式にしたがって決定する。
(7) Pgo=Pbase+Δ^Pl
(8) Pbase=Pg-max×0.5/(10s+1)
(9) Pg-max=d1+d2Vw2
ここで、Pbaseは出力電力指令値の基準値、Pg-maxは風速Vwのときの風力エネルギーから取得可能な電力(0〜1pu)である。Pg-maxは式(9)の演算器52により算出される。
【0030】
出力電力指令値の基準値Pbaseは出力可能電力Pg-maxを1次遅れフィルタ53に通すことにより決定している。
フィルタ時定数を10秒に選んで、風力発電機出力電力Pgの長周期成分の変化に対して、ディーゼル発電機系が周波数変動を零とするため緩やかに動作するようにした。フィルタゲインは、取得可能な電力Pg-maxの中心値を選んで、0.5とした。これにより、出力電力指令値Pgoが変動分Δ^Plにしたがって下方に振れて0puを下回ることを避け、風速の急激な減少により上方に振れて取得可能電力Pg-maxを上回らないようにすることができる。
出力電力指令装置50は、加算器54で、風速Vwに基づく出力電力指令値の基準値Pbaseと負荷電力推定値の変動分Δ^Plを加算して、出力電力指令値Pgoとして出力する。
【0031】
本実施例の電力系統周波数制御装置は、ディーゼル発電機制御系によって、積分制御ループを用いた周波数制御を行うと共に、外乱推定オブザーバ40により周波数偏差Δfと制御変数uを使って負荷電力推定値^Plを算出し、負荷電力推定値の変動分Δ^Plと風速Vwにより決定した風力発電機出力電力指令値Pgoを使って供給電力偏差Peの変動分を零にするように風力発電機のピッチ角制御を行う。
【0032】
本実施例の電力系統周波数制御装置では、外乱推定オブザーバで推定した負荷電力推定値^Plを用いることにより風力発電機制御系で供給電力偏差Peの短周期の変動分を補償することを可能にすると共に、長周期の変動はディーゼル発電機制御系で補償する。
風力発電機制御系で使用するピッチ角制御は応答性がよいので、供給電力偏差Peの短周期変動を効果的に抑制して電力系統周波数の変動を抑制することができる。
【0033】
(シミュレーション結果)
本実施例の電力系統周波数制御装置の性能を確認するため、シミュレーションを行った。シミュレーションでは、低風速領域において最大出力を発生するためピッチ角βを10°に固定する従来手法と、本実施例の手法を比較して性能を確認した。なお、シミュレーションは定格出力275kWの風力発電機を模擬することにより実行し、定格出力275kWを0.4puとして規格化したが、大型機でも同様の結論が適用できることはいうまでもない。
【0034】
シミュレーションで用いた電力系統、風車、誘導発電機、GPCのパラメータを図7の表に示す。なお、積分区間Tは100秒、GPCのサンプリング周期は1msとし、GPCの設計パラメータΛ2、最大予測区間N、制御区間NU、次数m、n等の値は、シミュレーション結果に基づき良好な制御が達成できた値に決定した。
図8は、シミュレーションに適用した負荷電力Plと外乱推定オブザーバによる負荷電力推定値^Plの変化を示す。図から分かるように、負荷電力推定値^Plは負荷電力Plと殆ど一致している。
図9は、シミュレーションに適用した風速Vwの変化を表す。風速の長周期成分は定格風速を挟んだ範囲を緩やかに変動し、短周期成分は急峻に大きく変化している。
【0035】
図10は従来手法を用いたときのシミュレーション結果、図11は本実施例の電力系統周波数制御装置を用いたときのシミュレーション結果である。
図10と図11の(a)図は、風力発電機出力電力Pg、出力電力指令値Pgo、および風力エネルギーから得られる出力可能電力Pg-maxの変化を示している。(b)図はピッチ角βの変化を示し、(c)図はディーゼル発電機出力電力Pdの変化を示す。また、(d)図は供給電力偏差Peの変化を示している。
【0036】
従来手法では、図10(a)に示されたように、風力発電機には常に定格出力とする指令値Pgoが与えられるため、例えば100〜230秒の区間のように定格風速以上の風速があって出力可能電力Pg-maxが大きい場合にも風力発電機出力電力Pgは定格出力を維持する。また、定格風速以上の領域では、図10(b)に見るように、ピッチ角βを10°より大きくして入力エネルギーを減少させて定格出力を維持している。また、定格風速以下の領域では、最大出力電力を得るため、ピッチ角βを10°に固定するので、風力発電機出力電力Pgは図10(a)に現れたように、図9に表示した風速変動に追従して変動する。
【0037】
一方、ディーゼル発電機出力電力Pdは、図10(c)に示したように、風力発電機出力電力Pgと負荷電力Plの差分を補償する方向に変動する。100〜230秒の期間を観察すると、ディーゼル発電機出力電力Pdの変化は、図8に示された負荷電力Plの変化分に対応することが分かる。これは、風力発電機出力電力Pgが定格出力を維持しているためである。
図10(d)を見ると、供給電力偏差Peはほぼ±0.05puの範囲で激しく変動していることが分かる。この結果、電力系統には大きな周波数変動が生じる。なお、100秒近辺の風力エネルギーの減少に対して風力発電機出力電力Pgが急減しているが、ディーゼル発電機系の時定数が大きいため出力増加動作が遅れて、大きな電力偏差Peが生じている。
【0038】
これに対して、図11に示す本実施例の電力系統周波数制御装置を使用する場合は、(a)図に示すように、風力発電機出力電力指令値Pgoは出力電力指令装置50で決定されるため、風速変動に基づき変動する出力可能電力Pg-maxをフィルタに通して得た遅い周期成分Pbaseと負荷電力変化推定値から移動平均分を差し引いて得た比較的早い周期成分Δ^Plの合成信号として決定される。風力発電機出力電力Pgは出力電力指令値Pgoに良く追従している。これは、(b)図から分かるように、ピッチ角制御領域が15°から25°の範囲に収まり、ピッチ角βが全動作領域において良好に制御されるためである。
【0039】
ディーゼル発電機出力Pdは、(c)図に示されるように、負荷電力Plの長周期成分に対応するように緩やかな波形を描く。一方、負荷電力の短期的な変動は、早い応答が可能な風力発電機が主として対応している。
このため、図11(d)に示された供給電力偏差Peは、図10の従来手法によるものと比較すると、著しく小さくなっていることが分かる。
【0040】
図12は、従来手法と本実施例の制御装置により得られた系統周波数偏差Δfを比較して示したグラフである。
従来手法では、たとえば100秒付近において約0.4Hzの周波数変動が観察されるように、風力発電機の急激な出力電力変動があると大きな周波数変動が生じる。また、100〜200秒の期間では、風力発電機の出力電力Pgはほぼ定格出力で運転しているため、負荷電力の変動に対応して約±0.2Hzの周波数偏差が生じている。
これに対して、本実施例の系統周波数制御装置を用いたものでは、周波数偏差は±0.06Hz以内に収まっており、本発明の有効性が確認できた。
【0041】
風力発電機は、応答性のよいピッチ角制御や可変速風車などを利用することにより容易に発電電力を制御することができるため、負荷電力の変動を効果的に補填して系統周波数を安定させることができる。また、太陽光発電装置においても、動作電圧の制御により簡単に発電電力を制御することができる。このように、自然エネルギー発電装置は、動作点の変更により容易に発電電力を制御可能であり、ディーゼル発電機などの応答性が十分でない発電装置を併用することにより、電力系統周波数変動を大幅に低減することが可能である。
【0042】
本発明の系統周波数制御装置を用いることにより、高価なエネルギー貯蔵装置を用いることなく電力系統周波数を制御することができ、システムコストを低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の1実施例に係る小規模電力系統の概念図である。
【図2】本実施例の電力系統モデルのブロック線図である。
【図3】図2における風力発電システムの詳細図である。
【図4】図3のピッチ角制御における全動作領域にわたるピッチ角制御則を説明する線図である。
【図5】本実施例の外乱推定オブザーバの構成を表すブロック線図である。
【図6】本実施例の出力電力指令システムを説明するブロック線図である。
【図7】シミュレーションで用いた電力系統、風車、誘導発電機、GPCのパラメータを示す表である。
【図8】シミュレーションに適用した負荷電力と外乱推定オブザーバによる負荷電力推定値の変化を表すグラフである。
【図9】シミュレーションに適用した風速変化のグラフである。
【図10】従来手法を用いたときのシミュレーション結果を表すグラフである。
【図11】本実施例の電力系統周波数制御装置を用いたときのシミュレーション結果を示すグラフである。
【図12】従来手法と本実施例の制御装置により得られた系統周波数偏差を比較するグラフである。
【符号の説明】
【0044】
1 負荷電力需要
2 ディーゼル発電機
3 風力発電機
4 小規模電力系統
10 負荷
20 ディ−ゼル発電機
21 ガバナー
23 ディーゼル発電機
25 出力リミッタ
26 ディーゼル発電機制御装置
27 積分器
28 比例器
30 風力発電機
40 外乱推定オブザーバ
41 最小次元オブザーバ
42 積分器
45 制御対象
50 出力電力指令装置
51 演算器
52 演算器
53 フィルタ
54 加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関発電機と自然エネルギー発電機を組み合わせた電力系統において、外乱推定オブザーバと出力電力指令装置を備え、内燃機関発電機制御装置が電力系統周波数をフィードバックして該内燃機関発電機の発電量を制御すると共に、該外乱推定オブザーバが負荷電力推定値を生成し、該出力電力指令装置が該負荷電力推定値における短周期信号成分と該自然エネルギー発電機が自然エネルギーから取得可能な電力の長周期信号成分を加えて得た指令信号を出力し、該自然エネルギー発電機の制御装置が該指令信号を設定値として該自然エネルギー発電機の出力電力を制御することにより、該電力系統の周波数を調整することを特徴とする電力系統周波数制御装置。
【請求項2】
前記外乱推定オブザーバが最小次元オブザーバであって、前記電力系統の電力系統周波数偏差と前記内燃機関発電機制御装置の指令値を入力して、該電力系統の負荷電力を推定するものであることを特徴とする請求項1記載の電力系統周波数制御装置。
【請求項3】
前記内燃機関発電機がディーゼル発電機であり、前記自然エネルギー発電機が風力発電機であって、該風力発電機の制御装置が前記指令信号を設定値として該自然エネルギー発電機のピッチ角を調整して出力電力制御を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の電力系統周波数制御装置。
【請求項4】
前記風力発電機制御装置が一般化予測制御器(GPC)を用いることを特徴とする請求項3記載の電力系統周波数制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−174329(P2009−174329A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−10881(P2008−10881)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(504145308)国立大学法人 琉球大学 (100)
【Fターム(参考)】