説明

航空機の高度監視警報装置

【課題】有視界飛行を行う小型機(VFR機)に対し、高度監視警報を行う。
【解決手段】レーダ機器1で捕捉した航空機Aの現在位置における高度位置から、下方へ向けて設定したバイアス距離Bが、予め設定された最低安全高度に抵触すると判定器6が判定したとき、管制官は、通信機器7を介して、航空機Aに向けて警報を発するように構成したので、簡単な構成により、小型機に対する高度監視警報を適切かつ容易に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛行する航空機の高度位置を監視し、その飛行高度位置と地表面との間の間隔が予め設定された範囲以下となるときに、当該航空機に向けて警報を発する航空機の高度監視警報装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の高度監視警報装置では、航空機の現在高度を最低誘導高度(MVA:Minimum Vectoring Altitude )と比較して監視する監視と、一定時間後における航空機の予測高度と最低誘導高度とを比較して監視する予測監視とが行われる。(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このように、航空機の高度監視警報装置では、航空機の現在あるいは一定時間後の高度位置と最低安全高度との間の間隔を監視し、航空機の高度が最低安全高度以下になると予測された場合は、航空機の映像が表示された管制卓の表示器画面上に、当該航空機の識別番号等に沿うように警告表示が行われるので、管制官は、当該航空機に対し警報を発し、当該航空機の航行安全を図ることができる。
【0004】
管制官による高度監視の対象は、飛行計画(フライトプラン)を予め提出して計器飛行を行ういわゆるIFR機が主であり、それ以外のVFR機は管制対象外とされる。
【0005】
航空機の現在高度情報は、モードCトランスポンダを搭載した航空機からのモードC応答信号を解読して得られる。
【0006】
また、航空機の予測監視に必要な一定時間後の高度を含む位置のデータは、現在の高度位置データに加えて、レーダ観測による時々刻々の位置データに基づく飛行方向や飛行速度等のいわゆるレーダ観測データの平滑処理を経て算出される。
【0007】
航空機の安全航行上設定される最低安全高度は、例えば、レーダサイトを中心として方位方向及び距離方向への分割区分とによりメッシュ化され、格子状に形成された各区分領域内の地表面に基づき設定される。メッシュの大きさは、例えば概ね2NM×2NMに設定されている。
【0008】
航空機Aの飛行方向に向けて形成された格子状の各区分領域においては、それぞれの地表面の高さに対応した最低安全高度が設定されていることから、図6では、所定時間(t1,t2,t3)経過後の航空機Aの予測高度における最低安全高度との間の間隔H1,H2,H3を模式的に示している。
【0009】
航空機の高度監視警報装置において管制官は、航空機Aの現在高度は勿論のこと、一定時間後の予測位置における高度が最低安全高度に抵触し、最低誘導高度以下となると予測されるときには、当該航空機に対して無線通信により管制官から直ちに警報が発せられる。
【特許文献1】特開平3−161900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、従来の航空管制の高度監視警報装置では、管制官が行う航空機の高度監視警報は主としてIFR機が対象とされている。
【0011】
しかしながら、管制官による監視領域においては、IFR機のみでなくVFR機等も航行しているが、従来、これらVFR機に対し高度監視警報をなす手段がなかったので航行の安全上、対応が要望されていた。
【0012】
そこで管制官が、有視界飛行(VFR)を行う多くの小型機等に対しても、IFR機に対応するのと同様な高度監視を行おうとすると、レーダはVFR機に対する追尾と、将来位置の予測演算を行うこととなり、処理演算によるコンピュータの負担増は大となる欠点があった。
【0013】
そこで本発明は、管制対象の航空機以外の航空機に対しても、簡単な構成により、コンピュータの処理演算量を格別増大させることなく、管制官は適切な警報を容易に発し得る航空機の高度監視警報装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の航空機の高度監視警報装置は、計器飛行を行うIFR機と、有視界飛行により、比較的低い高度を低速で航行するVFR機とでは、飛行高度や飛行速度が大きく異なることに着目してなされたもので、飛行する航空機を捕捉するとともに当該航空機の高度情報を取得するレーダ機器と、このレーダ機器で捉えた前記航空機の位置を表示する表示手段と、前記レーダ機器で捕捉した航空機の高度位置から鉛直下方ないしは航空機の飛行方向に傾斜させた直線に沿って設定したバイアス距離が、予め設定された航空機の最低安全高度に抵触するか否かを判定する判定手段と、この判定手段により前記バイアス距離が前記最低安全高度に抵触すると判定されたとき、当該航空機に向けて警報を発する警報手段とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の航空機の高度監視警報装置は、上記のように、航空機の高度位置から鉛直下方ないしは航空機の飛行方向に傾斜させた直線に沿って設定したバイアス距離が、予め設定された航空機の最低安全高度に抵触するか否かを判定し、バイアス距離が最低安全高度に抵触すると判定されたとき航空機に向けて警報を発するので、簡単な構成により、小型機に対しても適切かつ容易な高度監視が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明による航空機の高度監視警報装置の一実施例を図1ないし図5を参照して詳細に説明する。
【0017】
本発明に係る航空機の高度監視警報装置は、レーダ機器から供給される航空機の現在位置及び現在高度に基づき、当該航空機の現在の高度位置での鉛直下方ないし飛行方向への直線上に設定したバイアス距離Bが、最低安全高度に抵触し、少なくともバイアス距離Bの先端部が最低安全高度以下となったときに、その旨を表示器に表示するので、簡単な構成により、管制官は、計器飛行を行わない小型機(VFR機)に対しても、適切かつ容易に高度監視を行うことができる。
【0018】
図1は、一実施例に係る航空機の高度監視警報装置の構成図で、飛行する航空機Aの現在位置情報を周期的に捜索して取得するレーダ機器1と、このレーダ機器1で捕捉した航空機Aの映像を表示する表示器2と、レーダ機器1で取得した航空機Aの現在位置の例えば鉛直下方へ向けた直線上にバイアス距離Bを設定するバイアス距離設定器3と、航空機Aの高度監視に必要な地形データを予め収納したメモリ4と、このメモリ4に収納された地形データを読み出し、最低安全高度を設定する最低安全高度設定器5と、最低安全高度設定器5に設定された最低安全高度のデータと、レーダ機器1で捕捉された航空機の高度位置に基づきバイアス距離設定器3で設定されたバイアス距離Bのデータとを導入し、バイアス距離Bが最低安全高度に抵触するか否か判定して、その判定結果を表示器2に供給する判定器6と、表示器2に表示された前記判定結果を監視した管制官が、航空機Aに向けて警報を発し得る通信機器7とで構成されている。
【0019】
図2は、図1に示した航空機の高度監視警報装置の動作説明図である。なお、レーダサイトを中心として方位方向に広がり形成される格子では扇状となるが、図2以下では、説明の便宜上、メッシュ化されて形成された各区分領域は縦横が同一の矩形状に形成されたものとして示している。
【0020】
そこで図2において、航空機Aは図示矢印X方向に水平方向に直線飛行しているものとする。また図1に示したメモリ4には、地形や建造物等の地表面の高さ位置データが地形データが記憶されていて、最低安全高度設定器5には、その記憶された地形データに基づき、航空機Aの安全航行上要求される高さ位置が最低安全高度として予め設定されている。
【0021】
すなわち、最低安全高度設定器5に設定された最低安全高度は、図2に示したように、矢印X方向に一辺が例えば250mの比較的短い長さでメッシュ(区分)化された格子上における高さ位置として設定されている。また、航空機Aにおけるバイアス距離Bは、図2に示したように、航空機Aの高さ位置から鉛直下方に向けた距離として表され、この実施例においては、例えば3分割に区分されている。
【0022】
バイアス距離Bは、飛行する航空機Aに対し、その飛行高さ位置(高度)と設定された最低安全高度との間の間隔における危険性の尺度を示したものであり、例えば3つに区分されたこの実施例では、バイアス距離B内の分割区分に応じて、より安全な方向から順次、レベル1の危険警報領域、レベル2の危険警報領域、そしてレベル3の危険警報領域とし、これらのいずれかが最低安全高度と抵触したときに、その旨表示器2に表示するように構成されている。但し、最低安全高度との抵触では、当然ながら、レベル1よりもレベル2が、またレベル2よりもレベル3が優先して判定され表示される。
【0023】
すなわち、バイアス距離Bにおける分割区分(レベル1〜3)のいずれかと最低安全高度と抵触したとき、その抵触した分割区分(レベル1〜3)のデータは対応する当該航空機Aの識別番号とともに表示器2に供給表示される。
【0024】
従って管制官は、表示器2に供給表示された航空機Aに関するいずれか1の危険警報有無を監視することで、通信機器7を介して当該航空機Aに対する警報を発することができる。
【0025】
なお、表示器2における危険警報の表示に際しては、管制官が危険度の程度を容易に識別できるように、危険度に応じて、レベル1は黄色、レベル2は橙色、そして危険度の最も大であるレベル3は赤色表示することができる。また、表示器2では、危険度に応じて異なる警報音を発するようにしても良い。
【0026】
なお、航行する航空機Aが最低安全高度に近づくことなく、航空機Aのバイアス距離Bが最低安全高度に抵触しない状態では、表示器2に警報表示されないので、管制官が当該航空機Aに対し高度警報を発することはない。
【0027】
そこで、図3は、図2に示した水平方向に飛行する航空機Aと最低安全高度との関係を示した図で、図3(a)に示した航空機Aの現在位置では、バイアス距離Bは最低安全高度に抵触せず安全飛行状態であるのに対し、図3(b)に示した航空機Aの現在位置では、バイアス距離Bはレベル1で最低安全高度に抵触して危険警報表示がなされることを示し、図3(c)に示した航空機Aの現在位置では、バイアス距離Bはレベル2で最低安全高度に抵触して、より危険度が大であるとの危険警報表示がなされることを示したものである。
【0028】
表示器2画面を監視している管制官は、表示器2に表示されたランク1〜3のいずれかの危険警報に基づき、当該航空機Aに対する警報を通信機器7を介して行うので、その警報を受信した航空機Aのパイロットは操縦桿を操作し、機首を上げる等の操作により危険を回避し、航行の安全を図ることができる。
【0029】
上記説明では、航空機Aにおける飛行高度監視の趣旨から、尺度であるバイアス距離Bは、航空機Aの位置から単に鉛直下方に、一次元上にで引きを行うように設定したが、バイアス距離Bを鉛直下方に限らず、鉛直下方から飛行方向に広げて偏倚させ、二次元上で、あるいはさらに航空機Aを通る鉛直軸を回転中心とした回転により形成される三次元上でバイアス距離Bを設定することで、IFR機に対する予測監視に近い高度監視を行うことができる。
【0030】
図4は、バイアス距離Bの方向を、航空機Aの鉛直方向から飛行方向へ偏倚させ、さらに航空機Aを中心とする鉛直方向を回転軸として回転させて形成された立体状に設定定した図である。
【0031】
すなわち、航空機Aの高度監視は、航空機Aが飛行しようとしている方向での危険性を予測しようとするものであるから、たとえ小型機対象とはいえ、IFR機を対象とするような予測監視が行われるのが望ましい。
【0032】
VFRで飛行する小型機は、IFR機とは異なり低空を低速飛行するものであって、単位時間当たりの移動距離は比較的短いので、コンピュータによる複雑な演算処理を施すまでもなく、逐次捕捉する現在高度位置から高度監視上安全を確保するのに必要な予測監視が可能である。
【0033】
すなわち、図4に示したように、バイアス距離Bを、航空機Aの鉛直下方から飛行方向へと偏倚させるとともに、航空機Aを中心に周回させた例えば円柱体の範囲内に設定し、その円柱体のバイアス距離Bが最低安全高度に抵触するか否かの判定を行うことで、図5の側面図に示したように、現在の高さ位置での監視と同時に、航空機Aの飛行方向での予測監視も行われる。
【0034】
なお、図4及び図5において、航空機Aの飛行方向へのバイアス距離Bの偏倚量をどの程度にするかは、安全係数や航空機Aの飛行速度、及びレーダ機器1におけるアンテナの回転周期に基づく。
【0035】
なお、上記説明では、VFR機に対する最低安全高度を250m×250mとしたが、より細かに、例えば、50m×50mとしても良い。
【0036】
また、航空機AがVFR機の場合でも、IFR機と同様に、モードCトランスポンダを搭載していて、地上の二次監視レーダであるレーダ機器1が、その搭載されたモードCトランスポンダから当該航空機の高度データを取得して、表示器2及びバイアス距離設定器3に供給しても良い。なお、モードCトランスポンダからの応答による高度情報は、QNH(高度計規正値)による補正後のデータとすることができる。
【0037】
なお、空港近くに設置された管制塔にあっては、空港内で離着陸する航空機に対する監視と混同した高度監視を行うことで、無用な混乱を引き起こしかねないので、従来行われているように、空港の滑走路に近い近距離エリアにおける高度監視警報発令を禁止するのが良い。
【0038】
以上説明のように、本実施例に係る航空機の高度監視警報装置は、バイアス距離Bを設定し、捕捉した航空機の現在位置での高度に基づいた監視を行うので、簡単な構成により、小型機に対してもその高度を監視し警報することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明による航空機の高度監視警報装置の一実施例を示した構成図である。
【図2】図1における装置の動作説明図である。
【図3】図2に示した動作説明の分解図である。
【図4】図1に示した装置の他のバイアス距離B設定図である。
【図5】図4に示した他のバイアス距離設定による図1に示した装置の動作説明図である。
【図6】従来の航空機の高度監視警報装置の動作説明図である。
【符号の説明】
【0040】
1 レーダ機器
2 表示器(表示手段)
3 バイアス距離設定器
4 メモリ(地形データベース)
5 最低安全高度設定器
6 判定器(判定手段)
7 通信機器(警報手段)
A 航空機
B バイアス距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛行する航空機を捕捉するとともに当該航空機の高度情報を取得するレーダ機器と、
このレーダ機器で捉えた前記航空機の位置を表示する表示手段と、
前記レーダ機器で捕捉した航空機の高度位置から鉛直下方ないしは航空機の飛行方向に傾斜させた直線に沿って設定したバイアス距離が、予め設定された航空機の最低安全高度に抵触するか否かを判定する判定手段と、
この判定手段により前記バイアス距離が前記最低安全高度に抵触すると判定されたとき、当該航空機に向けて警報を発する警報手段と
を具備することを特徴とする航空機の高度監視警報装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記バイアス距離が前記最低安全高度に抵触すると判定したとき、
その判定結果を前記表示手段に供給し、
前記表示手段は、前記判定手段から供給された判定結果を、当該航空機の位置表示に沿って表示する
ことを特徴とする請求項1に記載の航空機の高度監視警報装置。
【請求項3】
前記バイアス距離は、長手方向に複数に分割構成され、
前記判定手段は、前記複数に分割構成された領域のうち、前記最低安全高度と抵触した領域に対応した判定結果を出力し、
前記表示手段は、前記最低安全高度と抵触した領域に対応した判定結果を表示する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の航空機の高度監視警報装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−102588(P2008−102588A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−282483(P2006−282483)
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】