説明

船外機の潤滑通路構造

【課題】簡単な構造でメンテナンス性の向上を図った船外機の潤滑通路構造を提供するにある。
【解決手段】オイルパンを兼ねたクランクケース18b内部にオイル貯留部56を形成し、このオイル貯留部56にオイルポンプ57を備えると共に、このオイルポンプ57に設けられる潤滑オイルの吸入口63と、潤滑オイルの抜き取り用に設けられるオイルドレン口68とを連通するオイル通路67を形成する一方、このオイル通路67の途中にオイル貯留部56に連通するオイル導入口70を形成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船外機の潤滑通路構造に関する。
【背景技術】
【0002】
小型の4サイクルエンジンを備えた船外機は、構造の簡素化および重量の軽減を図るため、従来からオイルポンプは備えずにストリンガー等で潤滑オイルを飛沫させてエンジン内各部を潤滑する潤滑構造を備えていたが、近年エンジンの高性能化に伴って高い潤滑性能やエンジンの耐久性が求められてきたため、オイルポンプを備えるようになってきた(例えば特許文献1参照)。
【0003】
一方、4サイクルエンジンは例えばオイルパン等のオイル貯留部内の劣化した潤滑オイルを定期的に抜き取って新しいものと交換する必要があり、例えばエンジンの側下部に潤滑オイル抜き取り用のドレン通路およびドレン口を備えている(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−339714号公報
【特許文献2】特開平11−79084号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、オイルポンプを備える場合、その耐久性を高めるためにもオイルフィルタの装備が必須であるが、上記特許文献1記載の構造はオイルポンプを収納したポンプ室内にオイルフィルタが配置されており、オイルポンプを取り外さなければオイルフィルタの交換ができないといった不具合がある。また、オイル貯留部からオイルポンプへのオイル通路構造も複雑であり、生産性が悪い。
【0005】
一方、上記特許文献2記載の船外機は潤滑オイル抜き取り用のドレン通路およびドレン口がステアリンググリップの取り付け基部直上に設けられているため、潤滑オイルの抜き取り作業は困難である。
【0006】
本発明は上述した事情を考慮してなされたもので、簡単な構造でメンテナンス性の向上を図った船外機の潤滑通路構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る船外機の潤滑通路構造は、上述した課題を解決するために、請求項1に記載したように、オイルパンを兼ねたクランクケース内部にオイル貯留部を形成し、このオイル貯留部にオイルポンプを備えると共に、このオイルポンプに設けられる潤滑オイルの吸入口と、潤滑オイルの抜き取り用に設けられるオイルドレン口とを連通するオイル通路を形成する一方、このオイル通路の途中に上記オイル貯留部に連通するオイル導入口を形成したものである。
【0008】
また、上述した課題を解決するために、請求項2に記載したように、上記オイル通路を後ろ下がりに形成し、このオイル通路の端部を上記クランクケースの後ろ側に開口させて上記オイルドレン口を形成すると共に、このオイルドレン口をオイルドレンプラグによって塞ぐように構成したものである。
【0009】
さらに、上述した課題を解決するために、請求項3に記載したように、上記オイル通路内の上記オイル導入口より上記吸入口側にオイルフィルタを配置したものである。
【0010】
そして、上述した課題を解決するために、請求項4に記載したように、上記オイルフィルタを上記オイルドレンプラグの先端に連結したものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る船外機の潤滑通路構造によれば、潤滑オイルの抜き取り作業が容易に、且つ確実に行えると共に、オイル通路構造が簡素化し、クランクケースの構造も簡素化して形成が容易になる。また、潤滑オイルの貯留容量を十分に確保できる。
【0012】
さらに、オイルフィルタの交換作業が容易になってメンテナンス性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る船外機の一例を示す左側面図である。図1に示すように、この船外機1は縦形(バーティカル型)エンジン2を有し、その周囲が箱状のエンジンカバー3で覆われる。エンジンカバー3は上下に分割可能に形成された例えば合成樹脂製のものであって、上側のアッパーカバー4と下側のロアーカバー5とから構成される。ロアーカバー5の下部にはドライブシャフトハウジング6が設けられ、このドライブシャフトハウジング6の下部にギヤケース7が設けられる。ギヤケース7の内部にはプロペラシャフト8が軸支され、その後端にプロペラ9が設けられる。
【0014】
エンジン2内にはクランクシャフト10がほぼ鉛直方向を向くよう縦置き(バーティカル)に設けられる。ドライブシャフトハウジング6内にはクランクシャフト10下端に連結されたドライブシャフト11が下方に向かって延び、ドライブシャフト11の下端がベベルギヤ12を介してプロペラシャフト8に連結される。エンジン2の出力、すなわちクランクシャフト10の回転はドライブシャフト11およびベベルギヤ12を経てプロペラシャフト8に伝達され、プロペラ9を回転させる。
【0015】
図2は、エンジン2部分の拡大縦断面図である。また、図3はエンジンカバー3を取り外した状態の船外機1の平面図であり、図4は図3のIV−IV線に沿う断面図である。そして、図5は図2のV−V線に沿う矢視図であり、図6は図2のVI−VI線に沿う矢視図である。
【0016】
エンジン2の左下部からはステアリングハンドル13が前方に向かって延び、その先端にエンジン2の出力調整用スロットルグリップ14が設けられる。また、ドライブシャフトハウジング6の上部はスイベルブラケット16の支持部16aに回動自在に支持されると共に、クランプブラケット15を介して船体17のトランサム17aに固定される。すなわち、船外機1は船体17に対しほぼ360°に亘って回転可能に設けられ、ステアリングハンドル13を水平方向に振ることにより船外機1全体の向きを変えて船体17の操船を行うことができるように構成される。
【0017】
本実施形態に用いられるエンジン2は例えばOHV形式の動弁機構を備えた4サイクル単気筒エンジンであり、主に船外機1の前後方向略中央部に配置される上下に分割可能なクランクケース18a,18bと、このクランクケース18a,18bの後側(図1、図2および3図における右側)に配置され、上側のクランクケース18aと一体に形成されるシリンダブロック19と、このシリンダブロック19の後側(図1、図2および3図における右側)に配置されるシリンダヘッド20とから構成される。
【0018】
ロアーカバー5の底面中央部分は開口部21が開口されており(図4参照)、エンジン2の下面、すなわち下側のクランクケース18bの底面とドライブシャフトハウジング6の上端部とが例えばボルト22(図1参照)で締着されて一体化される。
【0019】
シリンダブロック19は、船外機1の前後方向(図1、図2および図3における左右)に向かって側面視でクランクシャフト10に直交する方向に、平面視で一側方、本実施形態においては左舷側に傾斜して延びる筒状のシリンダ23を備えると共に、シリンダヘッド20後部の内部に前記動弁機構24を収納する動弁室25を形成し、シリンダヘッドカバー26によって塞がれる。また、シリンダヘッド20にはシリンダ23に整合する燃焼室27が形成される。なお、燃焼室27には外方から点火プラグ28が結合される。
【0020】
クランクシャフト10は、そのほぼ中間部に一対のクランクウェブ29が軸方向に離間して形成され、その間にクランクピン30が偏心して形成される。また、クランクシャフト10の、クランクピン30上方のジャーナル部31aは上側のクランクケース18aの上壁に設けられた例えばボールベアリング32によって回転自在に支持されると共に、下方のジャーナル部31bは下側のクランクケース18bに設けられた軸受け33によって回転自在に支持される。
【0021】
シリンダ23内にはピストン34が摺動自在に挿入され、このピストン34のピストンピン35とクランクシャフト10のクランクピン30とがコンロッド36によって連結されてシリンダ23内におけるピストン34の往復運動がクランクシャフト10の回転運動に変換される。
【0022】
さらに、クランクシャフト10の上端には発電用のフライホイール・マグネト装置37と、ロープ・リコイル型の手動式エンジン始動装置38が設けられる。
【0023】
シリンダヘッド20内には燃焼室27に繋がる吸気ポート39と排気ポート40とが形成される。両ポート39,40は、図5に示すように、シリンダヘッド20の側方に向かって延設される。また、シリンダヘッド20内には両ポート39,40を開閉する吸・排気バルブ41が取り付けられる。さらに、平面視で左舷側に傾斜して配置されたシリンダ23とは反対側の空間にはサイレンサ42やキャブレタ43等の吸気系機器44が配置されて吸気ポート39に接続されると共に、クランクケース18a,18bには排気ポート40に接続されて前方に延び、さらに下方に向かって延びる排気通路45が形成される。
【0024】
一方、クランクシャフト10の後方、すなわちシリンダヘッド20側(図2における右側)のシリンダ23下部にはカムシャフト46がクランクシャフト10と平行に配置される。クランクシャフト10の、下側のクランクウェブ29下方にはタイミングドライブギヤ47がクランクシャフト10と一体または一体的に設けられる。また、カムシャフト46にはタイミングドリブンギヤ48がカムシャフト46と一体または一体的に設けられる。そして、両タイミングギヤ47,48が作動連結されることによりクランクシャフト10の回転力がカムシャフト46に伝達される。
【0025】
カムシャフト46上には一対の動弁用カム49が上下方向に並設されると共に、シリンダヘッド20内には動弁機構24を構成する一対のバルブロッカアーム50が揺動自在に支持される。そして、カムシャフト46が回転することにより動弁用カム49のプロフィールがカムシャフトロッカ51を介してプッシュロッド52をその軸方向に進退させ、バルブロッカアーム50を揺動運動させる。そして、このバルブロッカアーム50の揺動運動によってシリンダヘッド20内の吸・排気バルブ41が開閉操作される。
【0026】
また、エンジンカバー3内のエンジン2前方の空間には燃料タンク53が配置される。この燃料タンク53は給油口54が上方に向かって延び、エンジンカバー3上に突出してフューエルキャップ55により塞がれる。
【0027】
エンジン2は、その内部に多くの摺動部や回転部を有するため、潤滑装置を用いて各部に潤滑オイルを供給し、潤滑オイルの働きにより各部の摩擦抵抗を減らし、エンジン2の機能を充分に発揮させるように構成される。以下、潤滑装置について説明する。
【0028】
下側のクランクケース18bはオイルパンを兼ねており、その内部に形成されるオイル貯留部56に一定量の図示しない潤滑オイルが貯溜される。また、前述したカムシャフト46の下側にはオイルポンプ57が配置される。オイルポンプ57はカムシャフト46の下端部に直結され、カムシャフト46の回転により駆動される。
【0029】
さらに、下側クランクケース18bの一側面、本実施形態においては左舷側側面の略中央部分には前記ステアリングハンドル13の基部13aが取り付けられる取り付け座58が形成されると共に、この取り付け座58の上方にはオイル貯留部56内の潤滑オイルの量を目視点検可能な油量チェック窓59が、さらにその上方には潤滑オイルの注入口60が形成され、この注入口60は栓61によって塞がれる。
【0030】
図7は図2のVII−VII線に沿う矢視図、すなわち下側クランクケース18bの上面図であり、図8は図2のVIII矢視図、すなわち下側クランクケース18bの下面図である。さらに、図9は図7のIX−IX線に沿う断面図、すなわち下側クランクケース18bの縦断面図である。
【0031】
図2および図7〜図9に示すように、オイルパンを兼ねる下側クランクケース18bの底部には上記オイルポンプ57の収納部62が一体に形成され、その内部にオイルポンプ57が収納されると共に、カムシャフト46の下端部を軸支する。また、オイルポンプ57の収納部62内には、オイルポンプ57の吸入口63および吐出口64にそれぞれつながる潤滑オイルの吸入ポート65および吐出ポート66がそれぞれ形成される。
【0032】
潤滑オイルの吸入ポート65は収納部62の後側に配置され、この吸入ポート65から下側クランクケース18bの外部に向かってオイル通路67が後ろ下がりに穿設される。オイル通路67の一端は吸入ポート65に連通する一方、オイル通路67の他端は下側クランクケース18bの後ろ下面に開口してオイルドレン口68を形成し、このオイルドレン口68はオイルドレンプラグ69によって塞がれる。
【0033】
また、オイル通路67の途中、オイルドレンプラグ69の先端より吸入ポート65側には下側クランクケース18b内に形成された上記オイル貯留部56に連通するオイル導入口70が形成される。さらに、このオイル通路67内のオイル導入口70より吸入ポート65側には例えば円柱形状を有するオイルフィルタ71がオイルドレン口68から挿入配置される。そして、オイルフィルタ71はオイルドレンプラグ69の先端に連結される。なお、オイルフィルタ71はオイルドレンプラグ69の先端に必ずしも連結される必要はない。
【0034】
一方、クランクケース18a,18bの例えば左側壁内には上下方向に延びるメインギャラリ72が形成され、収納部62の吐出ポート66から延びる吐出通路73が接続される。また、吐出通路73の途中からは分岐通路74が分岐し、クランクシャフト10の軸受け33に向かって延びる。
【0035】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0036】
本願発明に係る船外機1に搭載されるエンジン2はシリンダヘッド20内に形成された吸気ポート39と排気ポート40とがシリンダヘッド20の側方に向かって延設されているため、シリンダヘッド20下方のスペースに、オイルドレン口68を備えたオイル通路67を配置することが可能となる。
【0037】
そこで、オイルポンプ57の収納部62後側に配置された潤滑オイルの吸入ポート65から下側クランクケース18bの外部に向かってオイル通路67を後ろ下がりに形成し、オイル通路67の端部を下側クランクケース18bの後ろ下面に開口させてオイルドレン口68を形成し、このオイルドレン口68をオイルドレンプラグ69によって塞ぐようにしたことにより、潤滑オイルの抜き取り作業が容易に、且つ確実に行える。
【0038】
また、潤滑オイルの吸入ポート65とオイルドレン口68とを連通するオイル通路67の途中に下側クランクケース18b内に形成されたオイル貯留部56に連通するオイル導入口70を形成したことにより、オイル貯留部56内の潤滑オイルをオイルポンプ57に導く通路とオイル貯留部56内の潤滑オイルを外部に排出する通路(ドレン通路)とを一体に形成できる。その結果、オイル通路67構造が簡素化し、クランクケース18a,18bの構造も簡素化して形成が容易になると共に、潤滑オイルの貯留容量を十分に確保できる。
【0039】
さらに、オイルポンプ57及びオイル導入口70をクランクシャフト10の後方、すなわちシリンダヘッド20側に配置したことにより、例えば、加速時等に船外機1が大きく後方に傾斜した場合でも潤滑オイルを供給することができる。通常の走行時においても、シリンダヘッド10内の動弁機構24を潤滑した後の潤滑オイルも速やかに回収し、再びオイルポンプ57へ導くことができる。その結果、潤滑オイル量を従来よりも低減することが可能となる。
【0040】
さらにまた、オイル通路67内にオイルフィルタ71を配置すると共に、このオイルフィルタ71を、オイルドレン口68を塞ぐオイルドレンプラグ69の先端に連結したことにより、オイルフィルタ71の交換作業が容易になってメンテナンス性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る船外機の潤滑通路構造の一実施形態を示す船外機の左側面図。
【図2】エンジン部分の拡大縦断面図。
【図3】エンジンカバーを取り外した状態の船外機の平面図。
【図4】図3のIV−IV線に沿う断面図。
【図5】図2のV−V線に沿う矢視図。
【図6】図2のVI−VI線に沿う矢視図。
【図7】図2のVII−VII線に沿う矢視図(下側クランクケースの上面図)。
【図8】図2のVIII矢視図(下側クランクケースの下面図)。
【図9】図7のIX−IX線に沿う断面図(下側クランクケースの縦断面図)。
【符号の説明】
【0042】
1 船外機
2 エンジン
18a 上側クランクケース
18b 下側クランクケース
56 オイル貯留部
57 オイルポンプ
62 オイルポンプの収納部
63 オイルポンプの吸入口
65 吸入ポート
67 オイル通路
68 オイルドレン口
69 オイルドレンプラグ
70 オイル導入口
71 オイルフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルパンを兼ねたクランクケース内部にオイル貯留部を形成し、このオイル貯留部にオイルポンプを備えると共に、このオイルポンプに設けられる潤滑オイルの吸入口と、潤滑オイルの抜き取り用に設けられるオイルドレン口とを連通するオイル通路を形成する一方、このオイル通路の途中に上記オイル貯留部に連通するオイル導入口を形成したことを特徴とする船外機の潤滑通路構造。
【請求項2】
上記オイル通路を後ろ下がりに形成し、このオイル通路の端部を上記クランクケースの後ろ側に開口させて上記オイルドレン口を形成すると共に、このオイルドレン口をオイルドレンプラグによって塞ぐように構成した請求項1記載の船外機の潤滑通路構造。
【請求項3】
上記オイル通路内の上記オイル導入口より上記吸入口側にオイルフィルタを配置した請求項1または2記載の船外機の潤滑通路構造。
【請求項4】
上記オイルフィルタを上記オイルドレンプラグの先端に連結した請求項3記載の船外機の潤滑通路構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−177252(P2006−177252A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−371738(P2004−371738)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】