説明

荷電粒子顕微鏡装置及びそれを用いた画像処理方法

【課題】
パターンの形状や試料特性に応じて,高速・高性能な画質改善処理を行う。
【解決手段】設計データや,設計データ上の各領域に対応する試料特性情報を用いて画質改善処理を行うことにより,画像上の個々の領域に対応する試料特性に応じて適切な画質改善処理を施し,画像上の領域分割を高速に行うといった処理を可能とする。さらに,設計データと対応する画像情報を保存したデータベースを利用することにより,類似した設計データにおいて過去に撮像した画像との差が大きい箇所を自動で強調する等の画質改善処理を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,荷電粒子を試料に照射して画像を取得する荷電粒子顕微鏡及びそれを用いた画像処理方法に係り,特に取得した画像に対して画像処理による画質改善処理を施す画質改善方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被観察対象の微細な構造を鮮明に観察するために,光学顕微鏡に比べて分解能が非常に高い荷電粒子顕微鏡が広く利用されている。荷電粒子顕微鏡では,荷電粒子ビームを対象試料に照射し,対象試料から放出される,または対象試料を透過する粒子(照射した荷電粒子と同種または別種の荷電粒子,または電磁波)を検出することで,対象試料の拡大画像を取得する。
【0003】
特に,半導体製造プロセスにおいては,半導体ウェハの検査,パターン計測などの用途として,走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)や走査型イオン顕微鏡(Scanning Ion Microscope:SIM),走査型透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope)などの荷電粒子顕微鏡が用いられている。これらの用途においては,撮像した画像を用いて,半導体パターンや欠陥の観察,欠陥の検出および発生要因解析,パターンの寸法計測などが行われる。
【0004】
荷電粒子顕微鏡において,高画質な画像を提供する機能は,最も重要な機能の一つである。荷電粒子光学系や検出系等のハードウェアの改良により,撮像画像の高分解能化・高S/N化をある程度実現することは可能であるが,限界がある。分解能に関しては,荷電粒子が波動の性質を持つことにより発生する回折収差や,荷電粒子レンズの特性に起因する色収差,球面収差の影響により,必ず分解能劣化が発生してしまう。また,S/Nに関しては,一般に照射する荷電粒子ビームの量を多くすることにより高S/N化を実現することが可能であるが,一方で試料にダメージを与えたり撮像時間が長くなるという問題があるため,実際には照射可能な荷電粒子ビームの量は限られてしまい,十分なS/Nを確保できない場合もある。
【0005】
ハードウェアの改良とは別の対策として,撮像画像に対して画像処理による画質改善処理を施すことにより,分解能向上やS/N向上を図る方法もある。分解能向上やS/N向上のための処理として,エッジ強調処理,画像復元処理,ノイズ除去処理などが,特許文献1,2で提案されている。また,上記以外の画質改善処理として,撮像画像に対してコントラスト補正処理を施すことにより,明度・コントラストを適切に調整し出力画像の高画質化を行う手法が,提案されている(例えば,非特許文献1)。
【0006】
また、特許文献3には、マッチング処理を用いて二つの画像の位置合わせを行うことが記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開昭63−211472号公報
【特許文献2】特開平3−44613号公報
【特許文献3】特開2002−328015号公報
【非特許文献1】Y.I.Gold and A.Goldenshtein: Proc. SPIE, 3332, pp.620-624 (1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1,2や非特許文献1で提案されている手法では,撮像画像のみを用いて画質改善処理が行われるか,もしくは,撮像画像および撮像条件(荷電粒子ビームの加速電圧,プローブ電流等)を用いて画質改善処理が行われていた。しかしながら,前記の手法では,設計データを用いた処理や,設計データおよび試料特性情報を用いた処理は行われていなかった。ここで,設計データとは,製造する半導体パターンの形状情報を示すデータのことを表し,多くの場合,輪郭に関する情報等により半導体パターンの形状が記述されている。
【0009】
このため,従来の処理では,以下に列挙するように十分な画質改善性能が得られない場合がある。
撮像画像や撮像条件のみでは,画像上の各領域における試料特性情報が得られず,また画像上において空間的に離れた領域が,同様の試料特性(材質特性・電気特性・レイヤ特性等)を有しているか否かを判別することができない。このため,各領域に対して試料特性に応じて適切な画質改善処理を施したり,試料特性の差異を顕在化したり,特定の特性を持つ試料のみを強調したりといった処理を施すことができない。
従来手法において,異なる領域間のコントラストを強調したり,領域毎に処理パラメータを最適化するような処理を行うためには,画像の領域分割を行う必要がある。しかし,領域分割には長い処理時間を要するという問題があり,領域分割の精度と処理時間の両立が困難である。
ユーザが特に観察したい試料上の領域は,設計データとの差が大きい領域である場合が多い。このような領域を自動で強調するような画質改善処理は,従来手法では困難である。
【0010】
本発明の目的は、上記した従来技術の課題を解決して画質が改善された画像が取得できる荷電粒子顕微鏡装置及びそれを用いた画像処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明では,半導体ウェハの検査,観察、パターン計測などを行う荷電粒子顕微鏡で取得した画像を処理する場合において、以下のような画質改善方法を採用することにより前記課題を解決した。
【0012】
すなわち、本発明では,荷電粒子顕微鏡装置に、集束させた荷電粒子ビームをパターンが形成された試料の表面に照射して走査する荷電粒子ビーム照射部と、該荷電粒子照射部により荷電粒子ビームを照射して走査することにより前記試料から発生する二次荷電粒子を検出して前記試料表面の二次荷電粒子像を生成する二次荷電粒子像取得部とを備えた荷電粒子像取得手段と、該荷電粒子像取得手段で生成した前記試料表面の二次荷電粒子像を処理する画像処理手段と、該画像処理手段で処理した結果を出力する出力手段とを備え、前記画像処理手段は、前記試料上に形成したパターンの設計データを用いて前記荷電粒子像取得手段で生成した前記試料表面の二次荷電粒子像の画質を改善する画質改善部と、該画質改善部で画質を改善した画像を処理して前記試料の欠陥検出、欠陥画像の取得、または前記パターンの寸法計測の何れかの処理を行う画像処理部とを有することを特徴とする。
【0013】
また本発明では、集束させた荷電粒子ビームをパターンが形成された試料の表面に照射して走査することにより前記試料から発生する二次荷電粒子を検出して前記試料表面の二次荷電粒子像を生成し、該生成した前記試料表面の二次荷電粒子像を処理する荷電粒子顕微鏡装置を用いた画像処理方法において、試料上に形成したパターンの設計データを用いて前記生成した試料表面の二次荷電粒子像の画質を改善し、該画質を改善した画像を処理して前記試料の欠陥検出、欠陥画像の取得、または前記パターンの寸法計測の何れかの処理を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば,荷電粒子顕微鏡画像に対して,設計データや試料特性情報を用いて画質改善処理を行うことによって,試料特性の違いを反映した画質改善処理,領域分割などの処理における高精度化と高速化の両立,設計データと撮像画像との差が大きい領域の強調表示等が可能になり、画像処理による試料の欠陥検出、欠陥画像の取得、または前記パターンの寸法計測等が精度良く行えるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は,設計データの持つ情報を活用することによって,半導体パターンや欠陥の観察,欠陥の検出および発生要因解析,パターンの寸法計測などを行うために荷電粒子顕微鏡で取得した撮像画像に対して高性能な画質改善処理を行うものである。
【0016】
以下,本発明に係る実施の形態を、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を用いた欠陥観察装置(レビューSEM)またはパターン寸法計測装置(CD―SEM)に適用した場合について、図面を用いて説明する。
【0017】
図1は,SEMを用いたシステム(以下、SEMシステムという)で試料の画像を撮像して画質改善処理を行うシーケンスの一実施例を示す図である。まず,SEMを用いて101のステップで表面にパターンが形成された試料を撮像し,撮像画像(SEM画像)111を取得する。また,102のステップで前記試料の表面に形成されたパターンの設計データ(CADデータ)112を読み込み,撮像画像111に対応した設計データ112を取得する。撮像画像111と設計データ112の間には一般に位置ずれが発生するため,設計データ112は,少なくとも撮像画像111の視野よりも広い視野のデータを取得しておき,撮像画像111に対応する領域が含まれるようにしておく。 次に,ステップ103で撮像画像111を用いて設計データ112の位置合わせを行い,位置合わせ後の設計データ113を得る。
【0018】
位置合わせについて,図6を用いて説明する。図6において,撮像画像111と設計データ112の位置合わせを行う際,611のように,撮像画像と設計データとの位置が合うように,設計データをx方向,y方向にそれぞれ必要な分だけシフトする。具体的な位置合わせ処理の手法については様々な手法があるが,例えば,特許文献3に記載されているようなマッチング処理を用いても良い。次に,位置合わせ後の設計データ113を利用して,ステップ104で撮像画像の画質改善処理を行い,114の画質改善画像を生成する。
【0019】
更に、ステップ104で画質改善された画像を用いてステップ105において画像処理を行うことにより、半導体パターンや欠陥の観察,欠陥の検出および発生要因解析,パターンの寸法計測などを行ってもよい。
【0020】
本実施例により,設計データの持つ情報である,パターンの領域情報やエッジ位置,エッジ方向等の情報を用いて画質改善処理を行うことができ,例えば,パターンの領域情報に応じて処理パラメータを適切に変えることが可能となる。また,パターンのエッジまたはその近傍の領域とパターンのエッジを含まない領域でノイズ除去やエッジ強調の度合いを変えたり,パターンのエッジ方向に沿った平滑化処理を行うことでパターンのエッジを鈍化することなく高S/N化を行ったり等の処理を高速に行うことも可能である。尚,図面内での点線の矢印は,矢印の先にある処理において,矢印の元にあるデータや画像が補助的に用いられることを表している。
【0021】
図2は,本発明の一実施形態であるSEMシステムの基本構成を示す。本発明に係るSEMシステムは,撮像装置201,入出力部221,制御部222,画像生成部223、画像処理部224,記憶部225,および画質改善部226等を備えている。
【0022】
撮像装置201では,電子銃202から電子ビーム203を発生し,発生させた電子ビーム203をコンデンサレンズ204や対物レンズ205に通すことにより試料200の表面に集束させ、偏向電極206で電子ビーム203の軌道を偏向させることにより、電子ビーム203を試料206の表面に走査して照射する。
【0023】
次に,電子ビーム203を試料206の表面に走査して照射することにより試料200から発生する2次電子又は反射電子を検出器208で検出し,A/D変換器209により前記検出して得られたアナログ信号をディジタル信号に変換し画像生成部223に入力する。画像生成部223では、制御部222で偏向電極206を制御する信号やステージ207を制御する信号を用いて前記デジタル信号を処理することにより画像を生成し,撮像画像を取得する。この取得した撮像画像は,記憶部225に保存される。検出器208は複数個備わっていても良く,それらの検出器は異なる種類の粒子(2次電子と反射電子)を検出するような検出器であっても良い。また,1回の撮像で,撮像画像を複数枚取得するような構成であっても良い。
【0024】
試料200はステージ207に載置されており,制御部222で制御してステージ207を移動することにより,試料の任意の位置における画像の取得が可能である。撮像装置201、入出力部221、制御部222、画像生成部223、画像処理部224、記憶部225及び画質改善部226は、信号ライン220を介して互いに接続されている。
【0025】
入出力部221はディスプレイ2210を備え,画像撮像位置や撮像条件の入力,撮像画像や画質改善画像の出力などをディスプレイ2210に表示したGUI(Graphic User Interface)を介して行う。
【0026】
制御部222では,撮像装置の制御として,電子銃202等に印加する電圧や,コンデンサレンズ204および対物レンズ205の焦点位置の調整,偏向電極206(1対のX方向制御電極と1対のY方向偏向制御電極を備える)に印加する電圧、ステージ207の移動,A/D変換器209の動作タイミング等を制御する。また,制御部222は,入出力部221,画像生成部223、画像処理部224,記憶部225,画質改善部226の制御も行う。
【0027】
画像処理部224では,画質改善処理以外の処理,例えば,電子ビーム203の焦点を試料200の表面に合わせるために必要な自動焦点合わせに関する処理や、画質改善部226で画質が改善された画像を用いて半導体パターンや欠陥の観察,欠陥の検出および発生要因解析,パターンの寸法計測などの処理を行う。半導体パターンや欠陥を観察する場合には、画質改善部226で画質が改善された半導体パターンや欠陥を含む画像を用いて、従来の技術と同様に参照画像と比較して半導体パターンや欠陥の画像を抽出する。この抽出した画像は画質が改善された画像であるため、半導体パターンや欠陥の画像特徴量をより高い信頼性で精度良く抽出することが出来るようになる。この結果、より微細な半導体パターンの形状評価や欠陥画像の分類及び欠陥発生要因の究明を、精度良く行うことが可能になる。また、パターンの寸法計測を行う場合には、画質が改善された画像を用いることにより、計測精度が向上すると共に、計測の再現性を向上させることが出来る。
【0028】
記憶部225では,撮像画像,設計データ,試料特性情報,画質改善画像,画質改善のための処理パラメータ等が保存される。設計データは、図示していない他の記憶手段に記憶されているデータの中から必要なデータを通信回線を介して読み出し、記憶部224に入力し記憶しておくようにしてもよい。
【0029】
画質改善部226では,図1に示した,撮像画像から画質改善画像を生成するための一連の処理を行う。画質改善部226の構成は図2に示すように,設計データ読込102を行う設計データ読込部231,位置合わせ103を行う位置合わせ部232,および画質改善処理104を行う画質改善処理部233を備えている。画質改善部226は更に,後述する形状情報修正301を行う形状情報修正部(図示せず)や,後述する試料特性読込401を行う試料特性読込部(図示せず)などを備えていても良い。
【0030】
図3(a)は,形状情報を修正した設計データを用いて画質改善処理を行うシーケンスの一実施例を示す図である。図1と同一の処理またはデータについては,図1と同じ番号で示してある。画像撮像101,設計データ読込102,位置合せ103の各処理の内容は、図1を用いて説明した処理と同じである。
【0031】
本実施例では,位置合わせ103により得られた位置合わせ後の設計データ113に対し,形状情報修正301を行うことにより,形状情報修正後の設計データ311を得る。形状情報の修正301は,リソシミュレーション(レジストパターンをマスクとしてエッチング処理することによりウェハ上にパターンを形成する工程をシミュレーションすることにより、ウェハ上に形成されるパターン形状を算出する)により行うことができる。もしくは,撮像画像の情報を使って修正しても良い。
【0032】
次に,前記形状情報修正後の設計データ311を用いて,撮像画像111に対して画質改善処理302を行うことにより,画質改善画像312を生成する。前記形状情報修正後の設計データ311を用いることで,パターンのエッジ位置やエッジ方向などのより正確な情報を取得できるため,より高性能な画質改善処理を施すことができる。
【0033】
図3(b)に本実施例における画質改善部226’の構成を示す。図2で説明した画質改善部226と同じ機能を有する部分は、同じ番号を付している。本実施例における画質改善部226’は、設計データ読込102を行う設計データ読込部231,位置合わせ103を行う位置合わせ部232,形状情報修正301を行う形状情報修正部234、および画質改善処理302を行う画質改善処理部233’を備えている。
【0034】
この画質改善処理302がなされた画質改善画像312を用いて画像処理部224で処理する画像処理105の内容は、図1を用いて説明した処理の内容と同じであるので説明を省略する。
【0035】
図4(a)は,設計データおよび試料特性情報を用いて画質改善処理を行うシーケンスの一実施例を示す図である。本実施例では,テーブル411に示すような各領域における試料特性(材質特性・電気特性・レイヤ特性等)の情報を予め記憶部225に記憶させておく。位置合わせ103により得られた位置合わせ後の設計データ113に対し,試料特性読込401により,設計データ112内の各領域に対応する試料特性412をテーブル411から読み込む。
【0036】
次に,画質改善処理402により,位置合わせ後の設計データ113および対応する試料特性412の両方を用いて,撮像画像111に対する画質改善処理402を行い,画質改善画像413を得る。この処理により,試料特性を反映した画質改善処理が可能であり,例えば,特定の材質からなる領域のみを強調表示したり,下層のレイヤにおける低コントラストな箇所のコントラスト差を付けたり,正に帯電しやすい領域を明るく表示したりといった処理を,自由に行うことができる。これらの処理のうち,どのような処理が適しているかは目的や状況などによって変化する場合が多いため,強調表示したい特性に関する情報等はユーザから指定できるような構成にしておき,ユーザからの入力に従って処理を行えるようにしても良い。
【0037】
図4(b)に本実施例における画質改善部226”の構成を示す。図2で説明した画質改善部226と同じ機能を有する部分は、同じ番号を付している。本実施例における画質改善部226”は、設計データ読込102を行う設計データ読込部231,位置合わせ103を行う位置合わせ部232,記憶部225に記憶されているテーブル411から試料特性412の情報を読み込む試料特性読込部235、および画質改善処理402を行う画質改善処理部233”を備えている。
【0038】
この画質改善処理402がなされた画質改善画像413を用いて画像処理部224で処理する画像処理105の内容は、図1を用いて説明した処理の内容と同じであるので説明を省略する。
【0039】
図5(a)は,設計データをもとにセグメンテーションを行い,その結果を用いて画質改善処理を行うシーケンスの一実施例を示す図である。ここで,セグメンテーションとは,画像を幾つかの領域に細分化する処理を表す。この画像の細分化は、位置合せ後の設計データ113を用いて撮像画像111に対してパターンの領域ごとに分割、または、類似したパターンごとにグループ化して分割する。
【0040】
図5(a)に示した処理フローを説明する。先ず、画像撮像101のステップで撮像装置201を用いて表面にパターンが形成された試料を撮像して撮像画像111を取得する。また,102のステップで前記試料の表面に形成されたパターンの設計データ112を読み込み,撮像画像111に対応した設計データ112を取得する。次に、位置合わせ103のステップにおいて、撮像画像111と設計データ112との位置ずれを補正し、この位置合わせ103のステップで位置ずれが補正された設計データ113に対し,セグメンテーション501により,撮像画像111のセグメンテーションを行い,セグメンテーション結果511を得る。次に,前記セグメンテーション結果511を用いて,セグメンテーションにより分割された各領域ごとに画質改善処理502を行い,画質改善画像512を生成する。
【0041】
画質改善処理502では,位置合わせ後の設計データ113を用いても良い。また,セグメンテーション501は,撮像画像111に対して行う代わりに,画質改善処理502の途中の画像に対して行っても良い。本実施例により,領域分割された画像を用いた画質改善処理を行うことができるため,領域に応じて異なる画質改善処理を施したり,コントラスト強調度合いなどの処理パラメータを変えたりといった処理を容易に行える。
図5(b)に本実施例における画質改善部226’’’の構成を示す。図2で説明した画質改善部226と同じ機能を有する部分は、同じ番号を付している。本実施例における画質改善部226’’’は、設計データ読込102を行う設計データ読込部231,位置合わせ103を行う位置合わせ部232,撮像画像111のセグメンテーションを行うセグメンテーション部236、および画質改善処理502を行う画質改善処理部233’’’を備えている。
【0042】
この画質改善処理502がなされた画質改善画像512を用いて画像処理部224で処理する画像処理105の内容は、図1を用いて説明した処理の内容と同じであるので説明を省略する。
【0043】
図7(a)は,データベースに蓄えられたデータを用いて画質改善処理を行うシーケンスの一実施例を示す図である。図7に示した処理フローを説明する。先ず、画像撮像101のステップで撮像装置201を用いて表面にパターンが形成された試料を撮像して撮像画像111を取得する。また,102のステップで前記試料の表面に形成されたパターンの設計データ112を読み込み,撮像画像111に対応した設計データ112を取得する。次に、位置合わせ103ステップにおいて、撮像画像111と設計データ112との位置ずれを補正し、この位置ずれが補正された位置合わせ後の設計データ113を用いて,データベース711を参照するデータベース参照701を行う。データベース711には,設計データと,対応する画像情報が記憶されている。
【0044】
画像情報とは,撮像画像,または画質改善画像,またはそれらの画像から得られる情報や,それらの画像に関連する情報のことである。画像情報は,例えば,撮像画像に対してエッジ抽出処理を行うことによって得られるエッジ情報や,画質改善処理の処理パラメータ等を含んでいても良い。データベース参照701のステップにおいて,位置合わせ後の設計データ113に類似した設計データをデータベース711から探索し,対応する画像情報712を取得する。次に,画質改善処理702のステップにおいて,位置合わせ後の設計データ113および画像情報712を用いて撮像画像111に対する画質改善処理を行い,画質改善画像713を生成する。
【0045】
図7(b)に本実施例における画質改善部226””の構成を示す。図2で説明した画質改善部226と同じ機能を有する部分は、同じ番号を付している。本実施例における画質改善部226””は、設計データ読込102を行う設計データ読込部231,位置合わせ103を行う位置合わせ部232,設計データ113を用いてデータベース711を参照するデータベース参照部237、および画質改善処理702を行う画質改善処理部233””を備えている。
【0046】
この画質改善処理702がなされた画質改善画像713を用いて画像処理部224で処理する画像処理105の内容は、図1を用いて説明した処理の内容と同じであるので説明を省略する。
【0047】
また,必要に応じて,データベース保存703により,位置合わせ後の設計データ113,撮像画像111,画質改善画像713等をデータベース711に保存する。図7における一点鎖線の矢印は,データベース保存703の処理フローにおいてデータベース711に保存されるデータのフローを示している。本実施例により,類似した回路パターンにおける過去に取得した画像に関する情報を用いて,画質改善処理を行うことができる。したがって,過去に取得した画像との加算平均を行うことにより,更なる高S/N化を実現したり,類似した回路パターンを持つ他の画質改善画像と同様の処理パラメータを用いることによりコントラスト等が大きく異なることを抑制したりといった処理を行うことができる。
【0048】
図8は,設計データを用いた画質改善処理における処理パラメータを設定するためのGUI画面800の一実施例を示す図である。このGUI画面は、図2に示した装置構成における入出力部221に接続しているディスプレイ2210の画面上に表示される。本実施例では、このGUI画面を、表示強度801に関する設定項目,明度およびコントラスト802に関する設定項目,データベース利用803に関する設定項目をそれぞれ表示する領域を備えて構成した例を示す。
【0049】
表示強度に関する設定項目801では,例えば,パターンのエッジ部811や下層レイヤにおける表示強度812に関する設定項目がある。明度およびコントラストに関する設定項目802では,例えば,試料上における穴が空いている領域における穴底の明度に関する設定項目821,同一の領域内におけるコントラストに関する設定項目822,異なる領域間におけるコントラストに関する設定項目823などがある。また,特定の試料特性を持つ領域と表示度合いを関連付けるような設定項目824があっても良い。データベースの利用に関する設定項目803では,例えば,データベースを利用するか否かを指定するための設定項目806や,類似した設計データに対応する撮像画像との加算平均を行うための設定項目807などがある。さらに,画質改善結果に関するプレビュー画面804があっても良い。
【0050】
プレビュー画面804では,例えば,設計データの例812,撮像画像の例813と,表示強度に関する設定項目801、明度およびコントラストに関する設定項目802、データベースの利用に関する設定項目803等で指定された処理パラメータを用いて画質改善処理を行うことにより得られる画質改善画像の例814が表示される。このようなGUI画面800を備えることにより,個々のユーザの画質評価基準に応じた,ユーザにとって適した画像を提供することができる。
【0051】
図9は,図7の実施例で示したような,データベース711に蓄えられたデータを用いて画質改善処理702を行うことの必要性を表す一実施例図である。撮像画像901および撮像画像902は,同一のパターンを撮像して得られた画像の例である。撮像画像902には,異物903がパターンの上に乗っている。この場合,設計データの情報を用いずに各撮像画像に対して画質改善処理を施すと,異物903の影響を受け,撮像画像901,902の間で大きくコントラスト等が異なる場合がある。一方,それぞれの設計データ112上には異物が存在しないことを考慮すると,設計データ112の情報を利用することにより,撮像画像901と撮像画像902のコントラスト等を揃えることができる。さらに,データベース711に蓄えられたデータを用いることにより,安定した処理が可能となる。例えば,撮像画像902に対して画質改善処理を施す際に,類似した設計データを持つ撮像画像をデータベース711から検索することにより撮像画像901のような画像を検索することができれば,撮像画像901に対する画質改善処理の処理パラメータを用いて撮像画像902の画質改善処理を行うことが可能である。
【0052】
図10は,SEMシステムにおいて,設計データを用いてエッジ強調処理を行うことの効果を表す一実施例図である。設計データ1001に対応する箇所を撮像すると,撮像画像1002のような画像が得られる。ここで,矢印1013は,画像撮像時における荷電粒子ビームのスキャン方向を表す。本実施例では,横方向に荷電粒子ビームをスキャンしており,この場合,スキャン方向に直交している縦方向のエッジ1011は,撮像画像1002において鮮明に表示されるが,スキャン方向と平行である横方向のエッジ1012は,低コントラストになってしまうことがある。しかし,設計データ1001の情報を利用することにより,横方向のエッジ1012が存在することがわかるため,本エッジを強調して表示し,画質改善画像1003のように縦方向と横方向のエッジが同程度のコントラストであるような画像を生成することが可能である。
【0053】
図11は,設計データ(CADデータ)を用いて下層レイヤを強調表示することの効果を表す一実施例を示す図である。設計データ1101に対応する箇所を撮像すると,撮像画像1102のように下層レイヤ1112で十分なコントラストが得られない場合が起こりうる。一方,下層レイヤを観察したい場合においては,下層レイヤを強調するような画質改善処理を施すことが望ましい。また,例えば,上層レイヤのうち,領域1111のような下層レイヤの真上に位置するような領域において,パターンの幅を計測したい場合などもある。この場合,下層レイヤが十分に強調表示されていないと,1111の箇所を見つけることが困難になることもある。このような場合においても,画質改善画像1103のように下層レイヤを強調して表示することができれば,前記のような要求を満たすことが可能である。
【0054】
上記した実施例は、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を用いたシステムの例として欠陥観察装置(レビューSEM)またはパターン寸法計測装置(CD―SEM)の場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を用いたパターン欠陥検査装置にも適用することが可能である。
【0055】
さらに本発明は、走査型イオン顕微鏡(Scanning Ion Microscope:SIM)、または、走査型透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope)を用いたシステムに応用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】画像を撮像して画質改善処理を行うシーケンスの一実施例図である。
【図2】本発明の一実施形態である荷電粒子顕微鏡の基本構成である。
【図3】形状情報を修正した設計データを用いて画質改善処理を行うシーケンスの一実施例図である。
【図4】設計データおよび試料特性情報を用いて画質改善処理を行うシーケンスの一実施例図である。
【図5】設計データをもとにセグメンテーションを行い,本セグメンテーションの結果を用いて画質改善処理を行うシーケンスの一実施例図である。
【図6】撮像画像を用いて設計データの位置合わせを表す一実施例図である。
【図7】データベースに蓄えられたデータを用いて画質改善処理を行うシーケンスの一実施例図である。
【図8】設計データを用いた画質改善処理における処理パラメータを設定するためのGUI画面の一実施例図である。
【図9】データベースに蓄えられたデータを用いて画質改善処理を行うことの必要性を表す一実施例図である。
【図10】走査型荷電粒子顕微鏡において,設計データを用いてエッジ強調処理を行うことの効果を表す一実施例図である。
【図11】設計データを用いて下層レイヤを強調表示する例を表す一実施例図である。
【符号の説明】
【0057】
101…画像撮像処理、102…設計データ読込処理,103…位置合わせ処理,104…画質改善処理,111…撮像画像,112…設計データ,113…位置合わせ後の設計データ,114…画質改善画像,201…撮像装置,202…荷電粒子銃,203…荷電粒子ビーム,204…コンデンサレンズ,205…対物レンズ,206…試料,207…ステージ,208…検出器,209…画像生成器,221…入出力部,222…制御部,223…処理部,224…記憶部,225…画質改善部,231…設計データ読込部,232…位置合わせ部,233…画質改善処理部,301…形状情報修正処理,302…画質改善処理,311…形状情報修正後の設計データ,312…画質改善画像,401…試料特性読込処理,402…画質改善処理,411…テーブル,412…試料特性,413…画質改善画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集束させた荷電粒子ビームをパターンが形成された試料の表面に照射して走査する荷電粒子ビーム照射部と、該荷電粒子照射部により荷電粒子ビームを照射して走査することにより前記試料から発生する二次荷電粒子を検出して前記試料表面の二次荷電粒子像を生成する二次荷電粒子像取得部とを備えた荷電粒子像取得手段と、
該荷電粒子像取得手段で生成した前記試料表面の二次荷電粒子像を処理する画質改善手段と、
該画像処理手段で処理した結果を出力する出力手段と
を備えた荷電粒子顕微鏡装置であって、
前記画質改善手段は、前記試料上に形成したパターンの設計データと前記荷電粒子像取得手段で生成した前記試料表面の二次荷電粒子像との位置を合わせた後,前記試料上に形成したパターンの設計データを用いて前記荷電粒子像取得手段で生成した前記試料表面の二次荷電粒子像の画質を改善することを特徴とする荷電粒子顕微鏡装置。
【請求項2】
前記荷電粒子像取得手段は走査型電子顕微鏡(SEM)であって、前記画質改善手段は、前記走査型電子顕微鏡(SEM)で取得した試料のSEM画像の画質を改善することを特徴とする請求項1記載の荷電粒子顕微鏡装置。
【請求項3】
前記荷電粒子顕微鏡装置は,さらに前記画質改善手段で画質を改善した画像を処理して前記試料の欠陥検出、欠陥画像の取得、または前記パターンの寸法計測の何れかの処理を行う画像処理手段と有することを特徴とする請求項1記載の荷電粒子顕微鏡装置
【請求項4】
前記画質改善手段は、前記試料上に形成したパターンの設計データと前記荷電粒子像取得手段で生成した前記試料表面の二次荷電粒子像との位置を合わせた後に、前記設計データのパターン形状情報を修正し、該形状情報を修正した設計データを用いて前記二次荷電粒子像の画質を改善することを特徴とする請求項1記載の荷電粒子顕微鏡装置。
【請求項5】
前記画質改善手段は、前記試料上に形成したパターンの設計データと前記荷電粒子像取得手段で生成した前記試料表面の二次荷電粒子像との位置を合わせた後に、設計情報を用いて前記二次荷電粒子像を領域分割し、前記設計データを用いて該領域分割した前記二次荷電粒子像の画質を改善することを特徴とする請求項1記載の荷電粒子顕微鏡装置。
【請求項6】
集束させた荷電粒子ビームをパターンが形成された試料の表面に照射して走査することにより前記試料から発生する二次荷電粒子を検出して前記試料表面の二次荷電粒子像を生成し、該生成した前記試料表面の二次荷電粒子像を処理する荷電粒子顕微鏡装置を用いた画像処理方法であって、
前記試料上に形成したパターンの設計データと前記荷電粒子像取得手段で生成した前記試料表面の二次荷電粒子像との位置を合わせた後,前記試料上に形成したパターンの設計データを用いて前記生成した試料表面の二次荷電粒子像の画質を改善することを特徴とする荷電粒子顕微鏡装置を用いた画像処理方法。
【請求項7】
前記集束させた荷電粒子ビームが電子ビームであって前記試料表面の二次荷電粒子像はSEM画像であり、前記試料表面のSEM画像の画質を前記設計データを用いて改善することを特徴とする請求項6記載の荷電粒子顕微鏡装置を用いた画像処理方法。
【請求項8】
前記画質を改善することを、前記試料上に形成したパターンの設計データと前記試料表面の二次荷電粒子像との位置を合わせた後に、設計情報または試料特性情報を用いて前記二次荷電粒子像の画質を改善することを特徴とする請求項6記載の荷電粒子顕微鏡装置を用いた画像処理方法。
【請求項9】
前記画質を改善することを、前記試料上に形成したパターンの設計データと前記試料表面の二次荷電粒子像との位置を合わせた後に、前記設計データのパターン形状情報を修正し、該形状情報を修正した設計データを用いて前記二次荷電粒子像の画質を改善することを特徴とする請求項6記載の荷電粒子顕微鏡装置を用いた画像処理方法。
【請求項10】
前記画質を改善することを、前記試料上に形成したパターンの設計データと前記試料表面の二次荷電粒子像との位置を合わせた後に、設計情報を用いて前記二次荷電粒子像を領域分割し、前記設計データを用いて該領域分割した前記二次荷電粒子像の画質を改善することを特徴とする請求項6記載の荷電粒子顕微鏡装置を用いた画像処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−245674(P2009−245674A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89133(P2008−89133)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】