説明

葉酸及び/又はビタミンB12−ラクトフェリン類複合物

【課 題】 飲食品及び医薬品の素材として有用な、葉酸及び/又はビタミンB12−ラクトフェリン類複合物の提供。
【解決手段】 葉酸及び/又はビタミンB12とラクトフェリン類とを混合することにより、葉酸及び/又はビタミンB12−ラクトフェリン類複合物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、葉酸及び/又はビタミンB12をラクトフェリン類に保持させた複合物とその製造方法、及びその利用に関する。本発明の葉酸及び/又はビタミンB12−ラクトフェリン類複合物は、葉酸が単独で存在しているときよりも光安定性、耐酸性及び溶解性が向上するという特徴を有し、また、ビタミンB12が単独で存在しているときよりも耐酸性が向上するという特徴を有するので、飲食品や医薬品の素材として有用である。
【背景技術】
【0002】
葉酸は、古く抗貧血性因子として発見された生体必須ビタミンの一つである。また、葉酸を補酵素とする酵素としてこれまでに様々なものが知られており、ヌクレオチド、グリシン、ヒスチジン等の代謝、タンパク質の生合成等に葉酸は広く関わっている。葉酸は、広義には pteroylglutamate や 7,8-dihydropteroylglutamate等とそれらのポリグルタミン体として知られており、これらは全て葉酸としての生理活性を有している。そして、葉酸が欠乏すると、造血機能異常(巨赤芽球性貧血)、神経障害、腸機能不全等を起こすことが知られている。近年、特に欧米で注目されていることとして、母体の妊娠時の栄養欠乏により、神経管異常の新生児が生まれる確率が増えるが、葉酸の投与によりこれを予防できることが判ってきた(Czeizel,A.E., J. Pediat. Gastroenterol. Nutr., vol.20, pp.4-16, 1995)。また、心臓病と関わりのあるホモシステインの増加は、血清中の葉酸が欠乏するのと同時に起こることが報告されており(Jacob.R.A., M.M.Wu, S.M.Henning & M.E.Swendseid, J. Nutr., vol.124, p.1072, 1994)、さらに、葉酸がガン、特に上皮性のガンに対して防御作用を示すとする報告もなされており(Glynn.S.A., D.Albanes, Nutr. Cancer, vol.22, p.101, 1994)、葉酸の重要性が再認識されつつある。
【0003】
一方、葉酸は、酸素が存在しない場合には熱に比較的安定であることが判っている。しかしながら、酸素が存在する場合には熱安定性や保存安定性が低く、牛乳では加熱殺菌や保存中に約60%が失われたという報告(Renner E., Japanese Journal of Dairy & Food Science, vol.35, p.A121-A135, 1996)、あるいは粉乳中で25%の損失が認められたという報告(Oamen E.E., Hansen,A.P.M. & Swartzel, K.R., J. Dairy Sci., vol.72, pp.614-619,1989)等がなされている。また、葉酸は光に対しても非常に敏感で、遮光下での取り扱いが必要であり、光の存在により速やかに分解されることも知られている(Henderson B.G., Annu. Rev. Nutr., vol.10, pp.319-335, 1990)。
【0004】
従来より、牛乳中には葉酸結合タンパク質の存在が明らかになっている(Ford.J.E., D.N.Salter & K.J.Scott, J. Dairy Res., vol.36, p.435, 1969) 。この葉酸結合タンパク質の分子量は 25kDa前後であり、葉酸を1分子結合し、腸管からの吸収を促進することが示唆されている(Said H.M., F.K.Ghishan & R.Redha,Am. J. Physiol, vol.252, p.G229, 1987) 。しかしながら、牛乳中における葉酸結合タンパク質の含有量は10mg/lと少ない(Parodi P.W., Diet & health newsfor New Zeal and health professionals, vol.27, pp.1-4, 1998) 。また、この葉酸結合タンパク質の光安定性については報告がなされていない。以上のように、葉酸には重要な生理機能があるため、近年注目されつつあり、葉酸を飲食品や医薬品の素材として利用することが望まれているが、光安定性が低いこと、溶解性が低いこと、場合によっては沈澱を起こすこと等から、特に飲料への応用は難しく、包装形態においても遮光する必要があること等、制限が多くあった。また、葉酸結合タンパク質については、牛乳中の含量も少なく、未だ工業化の目途は立っていない現状にある。
【0005】
一方、ビタミンB12は、赤血球の形成に必要なヘムの合成に関わることから、欠乏すると巨赤芽球が出現し、貧血となることが知られている。また、ビタミンB12は、細胞の新生や増殖に必須であることから、これが不足すると粘膜組織の炎症や下痢等が発生する。さらに、ビタミンB12は、生殖機能や神経系において重要な働きをすることも知られている(福井透、「 ビタミン・ミネラルの摂り方」、丸善、1997)。ビタミンB12欠乏症の原因としては、主に菜食主義、又は胃切除や腸管からの吸収異常によることが多い。ビタミンB12の吸収には2つの外分泌性タンパク質が関与しているといわれ、唾液腺から分泌されるHaptocorrin(Toyoshima S., H. Saido, F. Watanabe, K. miyatake and Y. Nakano, Abstracts of XV International Congress of Nutrition, 204, 1993) 及び胃から分泌されるintrinsic factor (Levine J. S., P. K. Nakane and R. H. Allen, Gastroenterology 79, 493, 1980) がそれぞれ知られているが、その吸収メカニズムは複雑である。日本におけるビタミンB12の成人1日当たりの栄養所要量は2.4 μg と少ないが、食品からビタミンB12を摂取する場合には、調理による損失等に気をつける必要がある。また、アメリカのODA(Optimal Dairy Allowance) におけるビタミンB12の1日当たりの摂取量は、10〜300 μg と設定されており、ビタミンB12のより積極的な摂取が重要になる可能性が大きい。
【0006】
牛乳中にはビタミンB12と結合するタンパク質が存在することが示唆されている(Peter W. P., Australian J. Dairy Tech., 53,37-47, 1998) が、牛乳中のビタミンB12と結合するタンパク質については、その全容は未だ解明されていない。この中で唯一、ビタミンB12結合ウシ血清アルブミン(BSA) が知られており(米国特許第4082738 号)、赤血球の定量に利用されている(特表昭57−5005281 号公報)。なお、ビタミンB12は、熱に比較的安定であることが知られているが、酸に対しては弱いことが判っている(Owen R. Fennema, Food Chemistry 3nd ed., Dekker, New York)。従って、有用な生理機能を有するビタミンB12の安定性、特に酸に対する安定性をより高める方法が望まれている。このように、葉酸及びビタミンB12は、ともに貧血改善等に有効な物質であるが、物質の安定性という点で問題があり、これまでは、限られた領域でのみ利用されていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明では、新たに、ラクトフェリン類が葉酸やビタミンB12と相互に作用して、葉酸及び/又はビタミンB12−ラクトフェリン類複合物を形成することを見出した。そして、単独の葉酸と比較して、光に対する安定性が高まり、溶解性が飛躍的に高まり、酸性においても安定であることを見出し、また、単独のビタミンB12と比較して、酸性において安定であることを見出して、本発明を完成するに至った。したがって、本発明は、ラクトフェリン類に葉酸及び/又はビタミンB12を保持させた葉酸及び/又はビタミンB12‐ラクトフェリン類複合物及びその製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、葉酸及び/又はビタミンB12−ラクトフェリン類複合物を使用して調製した医薬品又は飲食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明で使用するラクトフェリン類は、乳や血液等に由来するものが使用でき、特に原料は限定されず、ヒト、ウシ、ブタ等に由来するものを使用できる。また、遺伝子組み替えによって得られたラクトフェリン類でも構わない。これらのラクトフェリン類は、精製されたもの、部分精製されたもの、WPCや脱脂粉乳のような純度の低い状態の素材等も使用できる。これらのラクトフェリン類については、加熱殺菌等による熱処理の有無や、鉄の結合状態に関わりなく、いずれも使用が可能である。さらに、鉄を2分子以上保持したラクトフェリン類(特開平6-239900号公報及び特開平7-304798号公報)も使用可能である。また、ラクトフェリン類をペプシンやトリプシン等の酵素、又は酸やアルカリにより加水分解して得られるペプチドを使用することも可能である。なお、本発明においては、ラクトフェリン類にトランスフェリンやオボトランスフェリンをも含んでおり、本発明において使用するラクトフェリン類とは、以上のようなラクトフェリン関連物質を含んだものを意味する。以下では、まず葉酸−ラクトフェリン類複合物について述べる。
【0009】
本発明で使用する葉酸は、医薬品レベルのものから食品添加物として使用されるものまで、特に限定されない。葉酸−ラクトフェリン類複合物は、葉酸水溶液とラクトフェリン類水溶液とを混合するか、又は葉酸とラクトフェリン類とを混合した粉末を溶解することで調製できる。また、アルカリ条件下で、ラクトフェリン類により大量の葉酸を保持させることができるので、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム等を混合した水溶液を用いることがより有効である。なお、葉酸保持量は、ラクトフェリン類1分子当たり最大200 分子程度である。
【0010】
〔試験例1〕
ラクトフェリン類を50mM炭酸水素ナトリウム水溶液(pH 8.5)に溶解して調製したラクトフェリン類溶液1μmol/20mlに、葉酸を10〜300 μmol /20ml となるように添加した後、限外濾過(UF)膜(分画分子量5kDa、ミリポア社製)処理により、パーミエートとリテンテートとに分離した。さらに、リテンテートの残りに50mM炭酸水素ナトリウム水溶液(pH 8.5)を添加してパーミエートを回収し、これを4回繰り返して16万倍に希釈し、全ての遊離の葉酸をパーミエート中に回収した。回収したパーミエート中に含まれる遊離の葉酸を 362nmにおける吸光度測定の値から、リテンテートに残存した結合型の葉酸の量を算出した。その結果を表1に示す。なお、葉酸の吸光度測定においては、パーミエートにタンパク質が溶出していないことと、タンパク質由来の阻害物質が存在していないことを確認した。また、タンパク質を含まない葉酸水溶液を同時にUF膜処理し、対照として用いた。これらの操作及び測定は、遮光下で行い、葉酸の光劣化を抑制し、また、測定期間中に葉酸の劣化がないことを、吸光度測定から確認した。
【0011】
【表1】

【0012】
葉酸−ラクトフェリン複合物は、UF膜処理やゲル濾過、透析等により、低分子画分を除去して濃縮液とすることができる。また、常法に従って乾燥することで容易に粉末とすることができる。なお、得られた粉末の溶解性は非常に良好であった。
【0013】
〔試験例2〕
葉酸−ラクトフェリン複合物の光照射試験を行った。すなわち、ラクトフェリン類を50mM炭酸水素ナトリウム水溶液(pH8.5) 50ml に溶解して調製した1μmol の溶液に、100 μmol となるように葉酸を添加した後、透析膜(分画分子量10kDa)で5mMリン酸緩衝液(pH6.5)に対して透析を行い、凍結乾燥して、葉酸−ラクトフェリン複合物を得た。そして、この葉酸−ラクトフェリン複合物の粉末を3mg/100mlになるように50mMリン酸緩衝液(pH6.5)に溶解した。一方、葉酸(シグマ社製)を0.8 mg/100mlとなるように50mMリン酸緩衝液(pH6.5 )に溶解した。各試料溶液5mlをポリスチレン製の透明容器に入れ、水層の厚さが5mmとなるようにし、30mmの上部から40ワットの蛍光灯を照射した。そして、微生物を用いた方法により葉酸量を測定した。すなわち、葉酸−ラクトフェリン複合物の試料については、 pHを2.0 とし、試料1ml当たり2mgのペプシン(シグマ社製) を添加して、37℃で 120分間の反応でタンパク質を分解した後、さらに pHを 7.5とし、試料1ml当たり2mgのトリプシン(シグマ社製) を添加して、37℃で 120分間の反応でタンパク質を分解し、脱気後、5分間加熱し、15,000G により遠心分離して上清を回収し、微生物を用いた方法により葉酸量を測定した(Davis,R.E., D.J.Nicol & A.Kelly, J. Clin. path., vol.23, pp.47-53, 1970) 。また、葉酸(シグマ社製)を用いて検量線を作成した。これらの操作及び測定は、蛍光灯照射時以外遮光下で行った。その結果を表2に示す。
【0014】
【表2】

【0015】
同モル数の葉酸のみを溶解した水溶液と葉酸−ラクトフェリン複合物を溶解した水溶液とを比較すると、葉酸−ラクトフェリン複合物では光による劣化が著しく遅くなることが明らかである。
【0016】
〔試験例3〕
葉酸及び試験例2で用いた葉酸−ラクトフェリン複合物を、それぞれ葉酸のモル換算で0.1〜10μmol/10mlとなるように脱イオン水に添加し、濁度を測定した。濁度は660nm で測定した。その結果を表3に示す。
【0017】
【表3】

【0018】
脱イオン水への溶解性は葉酸が 0.1μmol /10ml 以下であるのに対して、葉酸−ラクトフェリン複合物では10μmol/10ml以上であった。以上のことから、葉酸−ラクトフェリン複合物においては、葉酸の光安定性が著しく向上しており、また、溶解性も優れたものになっていることが明らかになった。
【0019】
〔試験例4〕
葉酸及び試験例2で用いた葉酸−ラクトフェリン複合物を、それぞれ葉酸のモル換算で0.25μmol/10mlとなるように10mMクエン酸緩衝液(pH2.5)に溶解した。次に、50mlずつ褐色ビンに詰め、90℃で30分間加熱殺菌した後、37℃で保存した。そして、試験例2と同様の方法で葉酸量を測定した。
【0020】
【表4】

【0021】
以上の結果から、葉酸−ラクトフェリン複合物においては、葉酸の酸性下での安定性が向上していることが明らかになった。次に、ビタミンB12−ラクトフェリン類複合物について述べる。ビタミンB12は、医薬品レベルのものから食品添加物として使用されるものまで、特に限定されない。ビタミンB12−ラクトフェリン類複合物は、ビタミンB12水溶液とラクトフェリン類水溶液とを混合するか、又はビタミンB12とラクトフェリン類とを混合した粉末を溶解することで調製できる。なお、ビタミンB12保持量は、ラクトフェリン類1分子当たり最大100 分子程度である。
【0022】
〔試験例5〕
ラクトフェリン類を50mMイミダゾール緩衝液(pH6.5) に溶解して調製したラクトフェリン類溶液0.1 μmol/20mlにビタミンB12を1〜50μmol/20mlとなるように添加した後、UF膜(分画分子量5kDa、ミリポア社製)処理により、パーミエートとリテンテートとに分離した。さらに、リテンテートの残りに50mMイミダゾール緩衝液(pH6.5) を添加して、パーミエートを回収し、これを4回繰り返して、16万倍に希釈し、全ての遊離のビタミンB12をパーミエート中に回収した。また、リテンテート中のビタミンB12−ラクトフェリン複合物の試料については、pHを2.0 とし、試科1ml 当たり2mg のペブシン(シグマ社製)を添加して、37℃で60分間の反応でタンパク質を分解し、さらにpHを7.5 とし、試料1ml 当たり2mg のトリプシン(シグマ社製)を添加して、37℃で120 分間の反応でタンパク質を分解し、加熱後、15,000G より遠心分離して上清を回収し、微生物を用いた方法によりビタミンB12量を測定した(ビタミンの事典、日本ビタミン学会編、朝倉書店、p.501、1996)。また、シアノコバラミン(シグマ社製)を用いて検量線を作成した。その結果を表5に示す。
【0023】
【表5】

【0024】
ビタミンB12−ラクトフェリン複合物は、UF膜処理やゲル濾過、透析等により、低分子画分を除去して濃縮液とすることができる。また、常法に従って乾燥することで容易に粉末とすることができる。なお、得られた粉末の溶解性は非常に良好であった。
【0025】
〔試験例6〕
ラクトフェリン類を50mMイミダゾール緩衝液(pH6.5)50ml に溶解して調製した0.1 μmol のラクトフェリン類溶液に20μmol となるようにビタミンB12を添加した後、透析膜(分画分子量5kDa)で脱イオン水に対して透析を行い、凍結乾燥して、ラクトフェリン類1分子当たり57分子のビタミンB12を保持したビタミンB12−ラクトフェリン複合物を調製した。そして、14μg/100ml となるようにビタミンB12−ラクトフェリン複合物をそれぞれ50mMイミダゾール緩衝液(pH 6.5)又は50mMクエン酸緩衝液(pH3.0) に溶解した。一方、対照として、ビタミンB12(シグマ社製)を用い、5.6 μg/100ml となるようにビタミンB12を、それぞれ50mMイミダゾール緩衝液(pH6.5) 又は50mMクエン酸緩衝液(pH3.0) に溶解した。各試料溶液5ml を耐熱性ガラス瓶に密封し、90℃で30分間加熱殺菌した後、35℃で2ケ月保存して、ビタミンB12の減少量を測定した。なお、ビタミンB12量は、試験例5の方法により測定した。
【0026】
【表6】

【0027】
以上のことから、ビタミンB12−ラクトフェリン複合物においてはビタミンB12の耐酸性が著しく向上していることが明らかになった。
【発明の効果】
【0028】
本発明の葉酸及び/又はビタミンB12−ラクトフェリン類複合物においては、葉酸が単独で存在しているときよりも光安定性、耐熱性及び溶解性が向上しているという特徴を有し、また、ビタミンB12が単独で存在しているときよりも耐酸性が向上するという特徴を有するので、飲食品や医薬品の素材として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明では、葉酸及び/又はビタミンB12とラクトフェリン類とを混合して、ラクトフェリン類が葉酸及び/又はビタミンB12を保持した葉酸及び/又はビタミンB12−ラクトフェリン複合物を製造する。この葉酸及び/又はビタミンB12−ラクトフェリン複合物は、医薬品や飲食品、あるいは動物飼料等における栄養強化の目的で使用することができる。また、光安定性が高いことから、溶液、粉末、ペースト、錠剤等、特に制限せずに使用することができる。次に実施例を示し、本発明をさらに詳しく説明する。
【0030】
〔実施例1〕
葉酸(日本ロシュ社製)6mmol 及びラクトフェリン(TATUA社製) 1.2mmol を混合し、 100 lの脱イオン水に溶解した。一晩10℃で反応させた後、UF膜(分画分子量 50kDa)処理により濃縮した。得られた 2 lの溶液を凍結乾燥して、葉酸−ラクトフェリン類複合物の粉末 81gを得た。この粉末について、試験例2の方法で葉酸量を測定したところ、ラクトフェリン1分子当たり葉酸2分子が保持されていることが判った。
【0031】
〔実施例2〕
葉酸(日本ロシュ社製)870mmol を2%炭酸水素ナトリウム水溶液 100 lに溶解し、さらにラクトフェリン(TATUA社製) 2mmol を混合した後、UF膜(分画分子量50kDa )処理により濃縮、脱塩した。得られた 2 lの溶液を試験用噴霧乾燥機で噴霧乾燥して、葉酸−ラクトフェリン類複合物の粉末240gを得た。この粉末について、試験例2の方法で葉酸量を測定したところ、ラクトフェリン1分子当たり葉酸 210分子が保持されていることが判った。
【0032】
〔実施例3〕
葉酸(日本ロシュ社製)110mmol を、1N水酸化ナトリウム水溶液でpH9に調整しながら、水道水80 l中へ溶解し、さらにラクトフェリン(TATUA社製) 0.6mmol混合した。1時間放置後、UF膜(分画分子量 50kDa)処理により濃縮、脱塩した。得られた 2 lの溶液を−40℃にて凍結し、葉酸−ラクトフェリン類複合物の凍結濃縮液として保存した。この凍結濃縮液について、試験例2の方法で葉酸量を測定したところ、ラクトフェリン1分子当たり葉酸 82 分子が保持されていることが判った。また、常温において凍結濃縮液を融解したところ、沈澱等は観察されなかった。
【0033】
〔実施例4〕
重炭酸ナトリウム1.2 mol とラクトフェリン(DMV社製)10μmol及び葉酸0.5 mmolを含む溶液1l(A液)、及び硫酸第二鉄を鉄イオンとして1.5 mmol含む溶液1 l(B溶液)を調製した。A溶液にB溶液を加えて、鉄と葉酸を保持したラクトフェリン複合物を調製し、UF膜(分画分子量5kDa)処理により、濃縮、脱塩した。この複合物について、試験例2の方法で葉酸量を測定したところ、ラクトフェリン1分子当たり葉酸27分子が保持されており、また、鉄量を原子吸光分析により測定したところ、ラクトフェリン1分子当たり鉄148 分子が保持されていることが判った。
【0034】
〔実施例5〕
ビタミンB12(日本ロッシュ社製)300gを脱イオン水300 l に溶解し、さらにラクトフェリン(TATUA社製) 100gを混合して、20℃で8時間反応させた後、遊離のビタミンB12を除去するため、UF膜(分画分子量50kDa )処理により分画し、さらに濃縮した。得られた1 l の溶液を試験用噴霧乾燥機で噴霧乾燥し、ビタミンB12−ラクトフェリン類複合物の粉末を220g得た。この粉末について、試験例5の方法でビタミンB12量を測定したところ、ラクトフェリン1分子当たりビタミンB1283分子が保持されていることが判った。また、この粉末の溶解性は良好であった。
【0035】
〔実施例6〕
炭酸カルシウム0.05molと重炭酸アンモニウム1.2molを含む溶液1 l を塩酸でpH7.8 に調製し、(A溶液)硫酸第二鉄を鉄イオンとして1.5mol含む溶液O.2 l(B1溶液)及びトランスフェリン(アポ型、高純度、牛血漿由来、和光純薬工業社製)10μmol とビタミンB121mmolを含む溶液0.8 l(B2溶液)を調製した。B1とB2溶液を混合後、A溶液に加え、鉄とビタミンB12を保持したトランスフェリン複合物を調製し、UF膜(分画分子量5kDa)処理により濃縮、脱塩し、複合物の濃縮液100ml を調製した。この複合物について、試験例5の方法でビタミンB12量を測定したところ、トランスフェリン1分子当たりビタミンB1232分子が保持されており、また、鉄量を原子吸光分析により測定したところ、ラクトフェリン1分子当たり鉄139 分子が保持されていることが判った。
【0036】
〔実施例7〕
葉酸50mmolを2%炭酸水素ナトリウム水溶液10 lに溶解した。一方、ラクトフェリン(DMV社製)0.38mmol及びビタミンB12(日本ロシュ社製)20mmolを脱イオン水30 lに溶解した。そして、これらの溶液を混合し、室温下で2時間撹拌した後、UF膜(分画分子量5kDa)処理により濃縮、脱塩して葉酸及びビタミンB12−ラクトフェリン類複合物を調製し、凍結乾燥して粉末とした。この粉末について、試験例2及び試験例5の方法で葉酸量及びビタミンB12量を測定したところ、ラクトフェリン類1分子当たり葉酸79分子及びビタミンB1224分子が保持されていることが判った。
【0037】
〔実施例8〕
重炭酸ナトリウム1.0mol及び葉酸(日本ロシュ社製)2mmolを含む溶液1l(A溶液)、塩化第二鉄を鉄イオンとして1mmol を含む溶液0.2 l(B1溶液)及びウシラクトフェリン(ULN杜製)10μmol とビタミンB12(日本ロシュ社製)400μmol を含む溶液0.8 l(B2溶液)を調製した。B1溶液とB2溶液を混合後、A溶液に加え、溶液のpHを8.5 に維持するために、適宜、重炭酸ナトリウムを添加し、葉酸及びビタミンB12−ラクトフェリン類複合物を調製し、UF膜(分画分子量5kDa)処理により濃縮、脱塩し、凍結乾燥して粉末とした。この粉末について、試験例2及び試験例5の方法並びに原子吸光分析で葉酸量、ビタミンB12量及び鉄量を測定したところ、ラクトフェリン類1分子当たり葉酸90分子、ビタミンB124分子、及び鉄96分子が保持されていることが判った。
【0038】
〔実施例9〕
ラクトフェリン20gを脱イオン水100gに溶解し、塩酸でpHを2.0 とした。これに、ペプシン(シグマ社製)100mg を添加し、37℃で2時間反応させ、ラクトフェリン加水分解物を調製した。反応後、pHを7.0 とし、凍結乾燥した。葉酸20mmolを10%炭酸ナトリウム水溶液100 l に溶解した。一方、先に調製したラクトフェリン加水分解物10g 及びビタミンB12(日本ロシュ社製)15mmolを脱イオン水30 lに溶解した。そして、これらの溶液を混合し、室温下で2時間撹拌した後、UF膜(分画分子量5kDa)処理により濃縮、脱塩して、葉酸及びビタミンB12−ラクトフェリン類複合物を調製し、凍結乾燥して葉酸及びビタミンB12−ラクトフェリン類複合物の粉末23gを得た。この粉末について、試験例2及び試験例5の方法で葉酸量及びビタミンB12量を測定したところ、ラクトフェリン1分子当たり、葉酸130 分子及びビタミンB1253分子が保持されていることが判った。
【0039】
〔実施例10〕
実施例2で製造した葉酸−ラクトフェリン類複合物を用いて、ドリンク剤を製造した。すなわち、イオン交換水10kgに、葉酸−ラクトフェリン類複合物48g を溶解し、さらにイオン交換水 2,200kgに加えて撹拌した後、さらにトレハロース(林原社製)300kg とステビア(丸善製薬社製)1.2kg を加えて撹拌し、溶解した。次に、クエン酸(和光純薬工業社製)15kgを加えて撹拌した後、フレーバー6kgを加え、さらに、全量が 3,000kgとなるように脱イオン水を加えて調整した。これをプレート式加熱殺菌機で加熱殺菌(85℃、15秒)した後、透明瓶に充填し、さらに85℃の熱水中に15分間保持した後、冷却してドリンク剤を製造した。このドリンク剤は、冷蔵下、蛍光灯で約1ヶ月間照射テストを行った後においても、色調は変化せず、沈澱等も発生していなかった。一方、対照として、複合物の代わりに葉酸(日本ロシュ社製)2.0gを添加し、同様にしてドリンク剤を製造した。このドリンク剤は、製造直後でやや濁りが認められ、さらに、冷蔵下、蛍光灯で約1ヶ月間照射テストを行った結果、黄色い変色が認められ、沈澱も認められた。なお、分析の結果、葉酸−ラクトフェリン類複合物を用いたドリンク剤では葉酸量の減少率が8%であったのに対して、葉酸を用いたドリンク剤では葉酸量の減少率は64%であった。
【0040】
〔実施例11〕
実施例2で製造した葉酸−ラクトフェリン類複合物160mg 、マルチトール64.3kg、パラチニット25.5kg、アスパルテーム 0.2kg、クエン酸 3.0kg、乳化剤 3.0kg、フレーバー 4.0kgを混合し、常法に従ってチュアブルタブレットを製造した。得られたチュアブルタブレットについては、風味等、特に問題はなかった。また、透明プラスチック容器内で、50℃、蛍光灯照射条件において、4週間保存した後、葉酸量を測定したところ、製造直後と殆ど変化はなかった。
【0041】
〔実施例12〕
実施例5で調製したビタミンB12−ラクトフェリン類複合物を用いて、ドリンク剤を製造した。すなわち、イオン交換水10kgにビタミンB12−ラクトフェリン類複合物900mg を溶解し、さらにイオン交換水2,200kg を加えて撹拌した後、さらにトレハロース(林原社製)300kg とステビア(丸善製薬社製)1.2kg を加えて撹拌し、溶解した。次に、クエン酸(和光純薬工業社製)15kgを加えて撹拌した後、フレーバー6kg を加え、さらに、全量が3,000kg となるように脱イオン水を加えて調整した。これをプレート式加熱殺菌機で加熱殺菌(85℃、15秒)した後、透明瓶に充填し、さらに85℃の熱水中に15分間保持した後、冷却してドリンク剤を製造した。一方、対照として、複合物の代わりにビタミンB12(日本ロシュ社製)630mg を添加し、同様にしてドリンク剤を製造した。そして、これらのドリンク剤を37℃で4ヶ月間保存した後、ビタミンB12量を測定したところ、ビタミンB12−ラクトフェリン類複合物を用いたドリンク剤ではビタミンB12量の減少率が11%であったのに対して、ビタミンB12を用いたドリンク剤ではビタミンB12量の減少率は58%であった。
【0042】
〔実施例13〕
水10kgに実施例7で調製した葉酸及びビタミンB12−ラクトフェリン類複合物1.8kg を溶解し、さらに水200kg を添加後、安定剤(太陽化学社製)5.8kg を添加した。さらに水780kg を添加後、砂糖140kg 、梅果肉100kg 、クエン酸1.6kg、クエン酸3ナトリウム0.4kg 、香科(長谷川香料社製)0.18kgを添加し、溶解後、レトルト容器に充填した。これを120 ℃、12分間加熱し、レトルト殺菌してゼリーを製造した。一方、対照として、複合物の代わりに葉酸410 μg/l 及びビタミンB12320 μg/l を添加し、同様にしてゼリーを製造した。そして、これらのゼリーを20℃で3ヶ月間保存した後、葉酸量及びビタミンB12量を測定したところ、葉酸及びビタミンB12−ラクトフェリン類複合物を用いたゼリーでは葉酸量の減少率が6%及びビタミンB12量の減少率が7%であったのに対して、葉酸及びビタミンB12を用いたゼリーでは、葉酸量の減少率が28%、ビタミンB12量の減少率は35%であった。
【0043】
〔実施例14〕
水10kgに実施例8で調製した葉酸及びビタミンB12−ラクトフェリン類複合物10g を溶解し、さらに水200kg を添加後、安定剤(太陽化学社製)5.8kg を添加した。さらに水780kg を添加後、砂糖140kg 、梅果肉100kg 、クエン酸1.6kg 、クエン酸3ナトリウム0.4kg 、香料(長谷川香料社製)0.18kgを添加し、溶解後、レトルト容器に充填した。これを120 ℃、12分間加熱し、レトルト殺菌してゼリ−を製造した。一方、対照として、複合物の代わりに葉酸310 μg/100ml 及びビタミンB1225μg/100ml を添加し、同様にしてゼリーを調製した。そして、これらのゼリーを20℃で3ヶ月間保存した後、葉酸量及びビタミンB12量を測定したところ、葉酸及びビタミンB12−ラクトフェリン類複合物を用いたゼリーでは葉酸量の減少率が5%及びビタミンB12量の減少率が7%であったのに対して、葉酸及びビタミンB12を用いたゼリーでは葉酸量の減少率が24%及びビタミンB12量の減少率が30%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
葉酸及び/又はビタミンB12をラクトフェリン類に保持させることを特徴とする葉酸及び/又はビタミンB12− ラクトフェリン類複合物。
【請求項2】
葉酸及び/又はビタミンB12とラクトフェリン類とを混合することを特徴とする請求項1記載の葉酸及び/又はビタミンB12−ラクトフェリン類複合物の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の葉酸及び/又はビタミンB12−ラクトフェリン類複合物を使用し調製した飲食品又は医薬品。

【公開番号】特開2008−208146(P2008−208146A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137115(P2008−137115)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【分割の表示】特願2000−51807(P2000−51807)の分割
【原出願日】平成12年2月28日(2000.2.28)
【出願人】(000006699)雪印乳業株式会社 (155)
【Fターム(参考)】