蒸気乾燥装置および蒸気乾燥方法
【課題】蒸気乾燥装置および蒸気乾燥方法において、被乾燥物に付着した水分中や溶剤中に不純物が含まれていても、シミが発生しにくくなるようにする。
【解決手段】溶剤蒸気4Aを供給する蒸気源3と、被乾燥物Wを搬入および搬出する開口部2aを有し開口部2aの下方に蒸気源3から供給された溶剤蒸気4Aを充満させて蒸気充満領域Vを形成する乾燥槽2と、被乾燥物Wを乾燥槽2の内外にわたる搬送路Mに沿って搬送する搬送機構7と、搬送機構7によって乾燥槽2に搬入された被乾燥物Wを、溶剤蒸気4Aの温度以上であって溶剤蒸気4Aとは異なる加熱源によって加熱する加熱部8と、を備える蒸気乾燥装置1を用いて乾燥を行う。
【解決手段】溶剤蒸気4Aを供給する蒸気源3と、被乾燥物Wを搬入および搬出する開口部2aを有し開口部2aの下方に蒸気源3から供給された溶剤蒸気4Aを充満させて蒸気充満領域Vを形成する乾燥槽2と、被乾燥物Wを乾燥槽2の内外にわたる搬送路Mに沿って搬送する搬送機構7と、搬送機構7によって乾燥槽2に搬入された被乾燥物Wを、溶剤蒸気4Aの温度以上であって溶剤蒸気4Aとは異なる加熱源によって加熱する加熱部8と、を備える蒸気乾燥装置1を用いて乾燥を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気乾燥装置および蒸気乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、ガラス基板、光学素子、半導体ウエハ等の製造工程において、洗浄を行う場合、ガラス基板、光学素子、半導体ウエハ等からなる被洗浄物を洗浄剤によって洗浄し、さらに純水等でリンスした後、リンスされた被洗浄物を被乾燥物として乾燥する乾燥工程を行っている。この乾燥工程には、多くの場合、例えば、イソプロピルアルコール(IPA)等の溶剤を使用した蒸気乾燥装置が用いられている。
このような蒸気乾燥装置では、被乾燥物を溶剤蒸気雰囲気に搬入し、溶剤を被乾燥物の表面に凝縮させ、この溶剤が被乾燥物に残存する水分とともに落下したり、水分とともに揮発したりすることを利用して被乾燥物の表面を乾燥している。このため、溶剤とともに揮発できない不純物が溶剤や被乾燥物に残存する水分中に含まれると、この不純物が被乾燥物の表面に付着した状態で乾燥し、被乾燥物の表面にシミなどの汚れが発生するという問題が起こる。
このような問題に対処するため、種々の蒸気乾燥装置および蒸気乾燥方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、フッ素系溶剤または、アルコールまたはグリコールエーテル系溶剤が混入されたフッ素系溶剤に対して空気中の水分が溶け込んだ水分含有溶剤から水分を除去する水分除去装置であって、上記水分含有溶剤を貯溜するタンクと、上記タンク内の水分含有溶剤を溶剤の沸点前後に加熱する加熱手段と、上記タンク上部に設けられて水分および溶剤の蒸気を冷却する冷却手段と、冷却液を受ける受け手段とを備えた水分除去装置が記載されている。
また、特許文献2には、水処理後の被処理物の表面で有機溶剤を主成分とする乾燥液の蒸気を凝縮させて乾燥を行う処理槽と、選択的に水を透過させる膜によって構成された分離膜モジュールユニットとから構成され、該処理槽の内部には、乾燥液の蒸気を発生させるための蒸気発生部と、被処理物を配置するための乾燥空間部と、乾燥液の蒸気が被処理物表面で凝縮して生じた凝縮液を該乾燥空間部の下方にて捕集する第1の受部と、前記乾燥空間部の上方にて乾燥液の蒸気を凝縮させる冷却部と、該冷却部による冷却によって生じた凝縮液を該冷却部の下方にて捕集する第2の受部とが設けられ、前記分離膜モジュールユニットには、前記第2の受部の凝縮液を導入するための第1の流路が配設され、前記第1の流路内に、該冷却部の凝縮液を一定時間だけ 捕集するための定期的に開閉する自動弁が配設され、分離膜モジュールユニットの出口側には、前記膜での非透過液を前記蒸気発生部に導入するための第2の流路が配設されている、ことを特徴とする蒸気乾燥装置が記載されている。
また、特許文献3には、(1)液体のイソプロピルアルコール(IPA)を収容するIPA槽、(2)該IPA槽の周囲に設けられた側壁、(3)該IPA槽から上方に所定の間隔をおいて且つ該側壁近傍に設けられた冷却管、(4)該IPA槽の少なくとも下部に設けられた加熱手段、(5)該IPA槽中の液体IPAに予備加熱された液体IPAを供給するための、予備加熱手段を含むIPA供給手段、(6)該IPA槽中のIPAの液面、該側壁及び該冷却管により規定される空間にシリコンウエハを出し入れするための搬送手段、及び(7)シリコンウエハ上のIPAと水分との混合物を回収し前記空間外に排出するための排出手段、を含むシリコンウエハのIPA蒸気乾燥装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−47802号公報
【特許文献2】特開平8−152268号公報
【特許文献3】特開2002−367950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来の蒸気乾燥装置および蒸気乾燥方法には、以下のような問題があった。
特許文献1、2に記載の技術は、蒸気源となる溶媒中に混入している水分や不純物の濃度を制御する技術であり、特許文献3に記載の技術は、蒸気濃度の減少を防ぎ、被乾燥物表面を十分な量の蒸気と接触させることにより、表面の液交換を進める技術である。
ところが、これらの技術を用いても、溶媒中に混入する不純物を完全に除去することは困難である。また、シミを発生させる不純物の濃度は、きわめて低濃度であるため、これらの技術のみによって、シミの発生を防止できる程度に乾燥工程おける被乾燥物表面の不純物を除去することは難しいという問題がある。
したがって、乾燥工程において被乾燥物に付着した水分中や溶剤中に不純物が含まれていてもシミの発生を抑制できる技術が強く求められている。
【0005】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、被乾燥物に付着した水分中や溶剤中に不純物が含まれていても、シミが発生しにくくなる蒸気乾燥装置および蒸気乾燥方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の蒸気乾燥装置は、溶剤蒸気を供給する蒸気源と、被乾燥物を搬入および搬出する開口部を有し、該開口部の下方に前記蒸気源から供給された前記溶剤蒸気を充満させて蒸気充満領域を形成する乾燥槽と、前記被乾燥物を前記乾燥槽の内外にわたる搬送路に沿って搬送する搬送機構と、該搬送機構によって前記乾燥槽に搬入された前記被乾燥物を、前記溶剤蒸気の温度以上であって前記溶剤蒸気とは異なる加熱源によって加熱する加熱部と、を備える構成とする。
【0007】
また、本発明の蒸気乾燥装置では、前記加熱部は、前記搬送機構に設けられることが可能である。
【0008】
また、本発明の蒸気乾燥装置では、前記加熱部は、加熱量を調整する加熱調整機構を有することが可能である。
【0009】
また、本発明の蒸気乾燥装置では、前記加熱部は、前記蒸気充満領域における前記搬送機構の搬送路の周囲に配置されることが可能である。
【0010】
また、本発明の加熱部が搬送機構の搬送路の周囲に配置された蒸気乾燥装置では、前記開口部は、前記被乾燥物を前記乾燥槽に搬入する搬入開口と、前記被乾燥物を前記乾燥槽から搬出する搬出開口とからなり、前記搬入開口および前記搬出開口の下方の前記蒸気充満領域が仕切られて、搬入領域と搬出領域とに区分され、前記加熱部は、前記搬出領域における前記搬送機構の搬送路の周囲に配置されることが可能である。
【0011】
また、本発明の蒸気乾燥装置では、前記加熱部は、前記蒸気充満領域内で前記溶剤蒸気の熱を蓄熱する蓄熱部材と、該蓄熱部材を、前記蒸気充満領域内において少なくとも前記搬送機構の搬送路に沿って移動させる蓄熱部材移動機構と、を備えることが可能である。
【0012】
本発明の蒸気乾燥方法は、溶剤蒸気を乾燥槽内に充満させて蒸気充満領域を形成する蒸気充満領域形成工程と、前記蒸気充満領域に被乾燥物を搬入する搬入工程と、前記蒸気充満領域に搬入された前記被乾燥物を前記溶剤蒸気に接触させて乾燥を行う第1の乾燥工程と、該第1の乾燥工程の開始後に、前記溶剤蒸気と異なる加熱源によって前記被乾燥物を前記溶剤蒸気の温度以上の温度で加熱して乾燥を行う第2の乾燥工程と、前記第1および第2の乾燥工程の終了後に、前記被乾燥物を前記乾燥槽から搬出する搬出工程と、を備える方法とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の蒸気乾燥装置および蒸気乾燥方法によれば、被乾燥物に溶剤蒸気が凝縮した後に、溶剤蒸気の温度以上の加熱源を用いて加熱して乾燥するため、表面に残留した乾燥前の液滴に不純物が含まれていても、シミが発生しにくくなるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る蒸気乾燥装置の概略構成を示す模式的な断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る蒸気乾燥装置に用いる被乾燥物保持治具の構成を示す模式的な斜視図、および平面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る蒸気乾燥装置の搬送機構の構成を示す模式的な斜視図、および平面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る蒸気乾燥装置の搬送機構に被乾燥物保持治具をセットしたときの断面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る蒸気乾燥装置の動作説明図である。
【図6】シミが発生する過程の模式説明図である。
【図7】本発明の第1の実施形態の変形例(第1変形例)に係る蒸気乾燥装置の概略構成を示す模式的な断面図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る蒸気乾燥装置の概略構成を示す模式的な断面図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る蒸気乾燥装置の動作説明図である。
【図10】本発明の第3の実施形態に係る蒸気乾燥装置の概略構成を示す模式的な断面図である。
【図11】本発明の第3の実施形態に係る蒸気乾燥装置に用いる蓄熱部材の模式的な平面図である。
【図12】本発明の第3の実施形態に係る蒸気乾燥装置の動作説明図である。
【図13】本発明の第4の実施形態に係る蒸気乾燥装置の概略構成を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。すべての図面において、実施形態が異なる場合であっても、同一または相当する部材には同一の符号を付し、共通する説明は省略する。
【0016】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る蒸気乾燥装置について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る蒸気乾燥装置の概略構成を示す模式的な断面図である。図2(a)、(b)は、それぞれ本発明の第1の実施形態に係る蒸気乾燥装置に用いる被乾燥物保持治具の構成を示す模式的な斜視図、および平面図である。図3(a)、(b)は、それぞれ本発明の第1の実施形態に係る蒸気乾燥装置の搬送機構の構成を示す模式的な斜視図、および平面図である。図4は、本発明の第1の実施形態に係る蒸気乾燥装置の搬送機構に被乾燥物保持治具をセットしたときの断面図である。
【0017】
本実施形態の蒸気乾燥装置1は、図1に示すように、適宜の洗浄工程によって洗浄された部材を被乾燥物Wとして、後述する溶剤蒸気4Aを用いて乾燥させる装置である。
被乾燥物Wとしては、例えば、ガラス基板や、レンズ、光学フィルターなどの光学素子や、半導体ウエハなどを挙げることができる。
以下では、被乾燥物Wの一例として、光学機器用レンズを乾燥させる場合の例で説明する。光学機器用レンズは、小型のものが多いため、複数個を被乾燥物保持治具9に収容して搬送し、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9の両方に対して洗浄工程および乾燥工程を行うことが多い。
洗浄工程は、一般に複数の工程からなるが、最終の洗浄工程では純水等によってリンスが行われる。蒸気乾燥装置1は、このようなリンスを行った後に、被乾燥物Wの表面に付着した水分を乾燥させて除去できるようにしたものである。
特に光学素子の製造工程では、例えば、研磨粒子や研磨されたガラス等の微粒子が複数の洗浄工程を経てもごくわずかに残る可能性があるが、光学特性に影響しない微粒子の残存は許容されている。
【0018】
ここで、以下の説明に用いる被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9の一例について、説明する。
被乾燥物Wは、図2(a)、(b)に示すように両凸レンズからなる。
このような被乾燥物Wを保持する被乾燥物保持治具9は、平面視矩形状のフレーム部9aと、このフレーム部9aの対向する1組の内側面の間においてこの対向方向に沿って延ばして設けられ、かつ対向方向に直交する水平方向に並列配置された複数の棒材からなる格子部9bとを備える。
格子部9bの棒材間の配列方向の隙間は、被乾燥物Wのレンズ外径より小さい寸法とされている。
このため、図2(b)に示すように、被乾燥物Wのレンズ側面を格子部9bの隣り合う棒材に当接させるように上方から載置して、被乾燥物Wを被乾燥物保持治具9に保持させることができる。このとき、各被乾燥物Wのレンズ面は、その光軸が棒材の延設方向に向いた状態になっている。
【0019】
蒸気乾燥装置1の概略構成は、図1に示すように、溶剤蒸気4Aを供給する蒸気源3と、被乾燥物Wを搬入および搬出する開口部2aを有し開口部2aの下方に蒸気源3から供給された溶剤蒸気4Aを充満させて蒸気充満領域Vを形成する乾燥槽2と、被乾燥物Wを乾燥槽2の内外にわたる搬送路Mに沿って搬送する搬送機構7と、搬送機構7によって乾燥槽2に搬入された被乾燥物Wを、溶剤蒸気4Aの温度以上であって溶剤蒸気4Aとは異なる加熱源によって加熱する加熱部8とを備える。
【0020】
本実施形態の乾燥槽2は、鉛直方向に沿って延ばされた有底筒状とされており、上部には乾燥槽側壁2cの上端部によって開口部2aが形成され、下部には蒸気源3が設けられている。
【0021】
乾燥槽2において、開口部2aと蒸気源3との間には、蒸気源3によって形成された溶剤蒸気4Aを冷却して、溶剤蒸気4Aを閉じ込める蒸気冷却管6が配置されている。
蒸気冷却管6は、本実施形態では、例えば水などの冷媒が循環される配管が環状またはコイル状に巻き回された金属パイプからなり、乾燥槽2の乾燥槽側壁2cの内面に沿って配置されている。また、特に図示しないが、蒸気冷却管6には、冷媒の温度を制御しながら循環させるチラー装置が接続されている。
また、蒸気冷却管6の内周部の大きさは、被乾燥物保持治具9を搭載した搬送機構7が鉛直方向に挿通可能な大きさに設定されている。
このため、乾燥槽2の中心部には、開口部2aの上端と蒸気源3との間に、被乾燥物保持治具9に保持された被乾燥物Wを昇降移動させることができる空間が確保されている。
蒸気冷却管6の表面温度は、表面に接触した溶剤蒸気4Aが凝縮するとともに、蒸気冷却管6の内周側に、溶剤蒸気4Aが蒸気冷却管6を通り抜けて上昇できない程度の低温層が形成できる温度に設定する。
なお、特に図示しないが、蒸気冷却管6の下方には、蒸気冷却管6の表面で熱交換した溶剤蒸気4Aによる凝縮液体を回収する溶剤回収機構が設けられている。
【0022】
蒸気源3は、乾燥槽2の乾燥槽底面2b上に貯留された液体状の溶剤4と、溶剤4を加熱して溶剤4の沸点に略等しい温度T1の溶剤蒸気4Aを発生させる溶剤加熱部5とを備える。
なお、溶剤4は、蒸気冷却管6において凝縮する成分が回収されるなどして、減少していくため、不図示の供給機構によって、乾燥槽2の外部から適宜清浄な溶剤4が追加されるようになっている。
溶剤4の材質としては、蒸気乾燥処理に用いる適宜の有機溶剤、例えば、イソプロピルアルコール(IPA)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、ハイドロフルオロエーテル(HFE)等を採用することができる。本実施形態では、一例としてIPAを採用している。
【0023】
溶剤加熱部5の構成は、乾燥槽2の乾燥槽底面2b上に貯留された溶剤4を加熱して、蒸気乾燥処理に必要な温度の溶剤蒸気4Aを生成することができれば特に限定されない。例えば内部に加熱されたオイル等の熱媒を循環させて熱伝導を行う加熱体を採用することができる。
また、図1では、溶剤加熱部5は乾燥槽底面2bの下面側に設置されている場合の例が図示されているが、溶剤加熱部5の設置位置はこれには限定されない。例えば、乾燥槽2の内部において溶剤4に浸漬されていてもよい。
溶剤加熱部5の加熱温度の設定は、本実施形態では溶剤4としてIPAを採用しているため、溶剤加熱部5は、溶剤4をIPAの沸点である82.4℃の近傍の温度T1に加熱できるようになっている。
【0024】
搬送機構7の概略構成は、図3(a)、(b)に示すように、不図示の駆動ガイドに沿って鉛直方向に昇降する一対のアクチュエータ7aと、各アクチュエータ7aの端部からそれぞれ鉛直下方に延ばされた吊り下げアーム7bと、各吊り下げアーム7bの下端部に固定され被乾燥物保持治具9を上方から載置する載置フレーム7Aとを備える。
【0025】
載置フレーム7Aは、各吊り下げアーム7bの下端部を水平方向に連結する角柱状の連結部材7cと、連結部材7cから水平方向においてアクチュエータ7aと反対側に角柱部材が櫛歯状に延ばされた格子フレーム7eと、連結部材7cと対向する位置で各格子フレーム7eの各端部を固定する角柱状の連結部材7dとによって構成された平面視矩形状の外形を有するフレーム部材である。
載置フレーム7Aは、連結部材7c、7d、格子フレーム7eの各上面が同一平面に整列され、被乾燥物保持治具9の下面と密着して当接できるようになっている(図4参照)。
連結部材7c、7d、およびフレーム外形を構成する格子フレーム7eの上面には、上方から載置された被乾燥物保持治具9の側面を水平方向に係止する係止ピン7fが複数設けられている。
【0026】
連結部材7c、7d、および各格子フレーム7eは、熱伝導が良好な金属であり、かつ錆びや溶出による洗浄槽の汚染のない金属であることが望ましい。例えば、耐食性の高いステンレスと熱伝導の良いアルミニウムや銅またはこれらの合金とを層構造とした部材などで形成されている。そして、少なくとも連結部材7cおよび各格子フレーム7eの内部には、熱媒Hを循環させる1経路以上の循環路8aが設けられている。
熱媒Hの種類としては、水、オイル等の液体、もしくは加熱空気等の気体を採用することができる。
循環路8aの両端部は、各吊り下げアーム7b内に貫通して設けられた内部管路8bに連結されている。これら内部管路8bは、吊り下げアーム7bの上端部において外部配管8cに接続されている。これら外部配管8cには、熱媒Hの温度を制御しながら循環させる不図示のチラー装置が接続されている。
熱媒Hの温度T2は、本実施形態では、溶剤蒸気4Aの温度より約5℃程度高温に設定されている。
このため、循環路8aに熱媒Hが循環されると、連結部材7cおよび格子フレーム7eが昇温され、溶剤蒸気4Aより約5℃高温の加熱源となる。これにより、載置フレーム7A上に載置された被乾燥物保持治具9および被乾燥物Wを加熱できるようになっている。
このように本実施形態では、不図示のチラー装置によって熱媒Hが循環する循環路8aと、循環路8aが設けられた連結部材7cおよび格子フレーム7eとは、加熱部8を構成している。したがって、本実施形態は加熱部8が搬送機構7に設けられた場合の例になっている。
【0027】
次に、蒸気乾燥装置1の動作を本発明の実施形態に係る蒸気乾燥方法を中心として説明する。
図5は、本発明の第1の実施形態に係る蒸気乾燥装置の動作説明図である。図6は、シミが発生する過程の模式説明図である。(a1)、(b1)、(c1)、(d1)は、被乾燥物Wの側面視の模式図、(a2)、(b2)、(c2)、(d2)は、正面視の模式図である。
【0028】
本実施形態の蒸気乾燥方法は、蒸気乾燥装置1を用いて、被乾燥物Wに対して、蒸気充満領域形成工程、搬入工程、第1の乾燥工程、第2の乾燥工程、および搬出工程をこの順に沿って行うものである。
【0029】
蒸気充満領域形成工程は、温度T1の溶剤蒸気4Aを乾燥槽2の内部に充満させて、蒸気充満領域V(図5(a)参照)を形成する工程である。
本工程では、乾燥槽2内の乾燥槽底面2b上に溶剤4を満たしてから、蒸気冷却管6内に冷媒を流して、蒸気冷却管6で囲まれた乾燥槽2の内部に低温層を形成する。
次に、溶剤加熱部5によって溶剤4を加熱し、溶剤4の沸点に近い温度T1の溶剤蒸気4Aを発生させる。本実施形態では、約82℃の溶剤蒸気4Aが生成されるように溶剤加熱部5の加熱温度を制御している。
生成された溶剤蒸気4Aは、乾燥槽2内を上昇し、蒸気冷却管6によって形成された低温層で冷却されて下降し、対流を繰り返しながら、乾燥槽2内に充満されていく。
なお、溶剤蒸気4Aのうち、蒸気冷却管6の表面で熱交換して凝縮した液体は、不図示の溶剤回収機構によって回収される。
このように、溶剤蒸気4Aは蒸気冷却管6よりも上側には上昇することができないため、蒸気冷却管6の近傍に蒸気面S2を形成して、乾燥槽2内に閉じ込められた状態となる。この結果、溶剤4の溶剤液面S1と蒸気面S2との間に、蒸気充満領域Vが形成される。
以上で、蒸気充満領域形成工程が終了する。
【0030】
次に、搬入工程を行う。本工程は、蒸気充満領域Vに被乾燥物Wを搬入する工程である。
まず、被乾燥物Wは、洗浄工程を通じて被乾燥物保持治具9上に載置されている。以下の各工程でも同様である。
本工程では、搬送機構7は、載置フレーム7Aが乾燥槽2の開口部2aの中心部の上方に位置するように待機させておく。このとき、熱媒Hは、供給または循環を停止しておく。このため、加熱部8による加熱は、停止または抑制されており、少なくとも温度T1以上での加熱は行われていない。
洗浄工程が終了した被乾燥物Wは被乾燥物保持治具9とともに、不図示の移載ロボット等によって、載置フレーム7A上に移載する(図4参照)。
移載後、ただちに、搬送機構7のアクチュエータ7aを駆動し、図5(a)に示すように載置フレーム7Aを下降させ、図5(b)に示すように蒸気面S2を通して蒸気充満領域V内に搬送し、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を蒸気充満領域V内に搬入する。
以上で、搬入工程が終了する。
【0031】
被乾燥物Wが蒸気充満領域Vに搬入されるとともに、第1の乾燥工程が始まる。
本工程は、蒸気充満領域Vに搬入された被乾燥物Wを溶剤蒸気4Aに接触させて乾燥を行う工程である。
本実施形態における第1の乾燥工程では、被乾燥物Wが蒸気充満領域V内にあれば、特に位置は限定されない。このため、搬送機構7を一旦停止して、被乾燥物Wの位置を固定してもよいし、搬送機構7を駆動して被乾燥物Wを蒸気充満領域V内で移動させつつ本工程を行ってもよい。乾燥効率の点では、被乾燥物Wの表面に溶剤蒸気4Aが接しやすくなるように、蒸気充満領域V内を移動させながら本工程を行うことが好ましい。
本実施形態では、蒸気充満領域V内の移動経路は、図5(b)、(c)に示すように、搬送路Mに沿って、蒸気充満領域V内を蒸気面S2側から溶剤液面S1の近傍まで下降させた後、蒸気面S2の方に上昇して戻る鉛直方向の往復の移動経路を採用している。
【0032】
蒸気充満領域V内に搬入された被乾燥物Wは、溶剤蒸気4Aに比して低温であるため、被乾燥物Wの表面における溶剤蒸気4Aの凝縮量が多くなる。凝縮した溶剤蒸気4Aは、被乾燥物Wの表面の水分を取り込んで液化し、大きな液滴となると取り込んだ水分とともに落下する。
被乾燥物Wは、洗浄すべきレンズ面の光軸が水平方向を向くように被乾燥物保持治具9上に載置されているため、表面の液滴は、レンズ面に沿って下方に移動してレンズ面の下方側から、被乾燥物保持治具9の格子部9b間の隙間を通って落下する。
このような落下する液滴には、被乾燥物Wの表面の水分や、水分中および溶剤蒸気4A中に含まれる不純物粒子を含んだ状態で落下するため、本工程には、水分を除去する乾燥の作用と、不純物粒子を除去する洗浄の作用とがある。
【0033】
ただし、水分の乾燥、除去が進行し、被乾燥物Wと溶剤蒸気4Aとの熱交換が進むにつれて、被乾燥物Wの表面から落下する液滴は減少し、表面張力によって被乾燥物Wの表面に付着した液滴表面からの蒸発量が多くなる。
発明者は、このような液滴表面からの蒸発による乾燥過程を鋭意研究したところ、シミの発生がこの乾燥工程における不純物粒子の挙動と深く関係していることを見出し、本発明に到った。
以下では、発明者が見出したシミの発生の過程について、観察結果を単純化して説明する。
【0034】
図6(a1)に示すように、被乾燥物Wの下端部に、表面張力で液滴D1が付着しているとする。液滴D1は、水分のみであるか、水分を取り込んだ溶剤蒸気4Aの凝縮液滴であるかは問わない。
液滴D1を観察すると、図6(a2)に示すように、液滴D1に含まれる不純物粒子Pは、周囲の液滴D1の分子運動によって絶えず移動し、不純物粒子P間の間隔が開いていく傾向にある。このため、全体として、液滴D1と被乾燥物Wの表面との接触境界(曲線L1参照)に向かって移動していく。
接触境界L1に到達した不純物粒子Pは、一部が被乾燥物Wの表面に接触したり、他の不純物粒子Pと凝集したりすることで、液滴D1の分子運動の影響を受けにくくなり、接触境界L1に沿う位置で停止する。
このようにして、不純物粒子Pは、経時的に接触境界L1に集中していく傾向がある。
【0035】
一方、このような不純物粒子Pに移動と同時に、液滴D1の表面からは蒸発が続く結果、図6(b1)、(b2)に示すように、液滴D1は体積が減少して偏平化した液滴D2となる。このとき、接触境界L2は、接触境界L1と略同じ位置にある。
液滴D2は、表面張力によって縮径しようとしているため、ある程度、時間が経過すると、図6(c1)、(c2)に示すように、接触境界L2が曲線L3の位置に急峻に移動して、被乾燥物Wとの接触面積が減少した液滴D3に変化する。
これに伴って、接触境界L2から離間した位置に、液滴D3と被乾燥物Wとの接触境界L3が形成される。一方、接触境界L2上の不純物粒子Pは、被乾燥物Wの表面に取り残されるため、曲線L2の近傍に整列した状態で被乾燥物W上に固着し、略ライン状のシミ部PSを形成する。
液滴D3では、上記と同様な過程が繰り返されるため、液滴D3が乾燥すると、図6(d1)、(d2)に示すように、接触境界L3が形成された位置に、略ライン状のシミ部PSが形成される。
【0036】
このように、乾燥時のシミは、微細に見れば、被乾燥物Wと被乾燥物Wに付着した液滴との接触境界の近傍に液滴内の不純物粒子Pが移動し、不均一に集積したシミ部PSの集合体であると考えられる。
このため、不純物粒子Pの総量は微少であっても、不純物粒子Pが凝集した顕著な汚れ跡が形成されて、全体としてシミとなることが分かる。
【0037】
このようにして形成されるシミを抑制するため、本実施形態では、第1の乾燥工程の開始後に、一定時間経過したら、第1の乾燥工程と並行して第2の乾燥工程を行う。
本工程は、第1の乾燥工程の開始後に、溶剤蒸気4Aと異なる加熱源によって被乾燥物Wを溶剤蒸気4Aの温度以上の温度で加熱して乾燥を行う工程である。
本実施形態では、加熱部8の循環路8aに温度T2の熱媒Hを循環させることによって、格子フレーム7e等を温度T2に昇温する。これにより、格子フレーム7e等と接触した被乾燥物保持治具9に熱伝導して、被乾燥物Wが加熱されるとともに、被乾燥物Wの近傍の雰囲気温度も上昇する。
【0038】
この結果、被乾燥物W上に付着している液滴が加熱される。このため、液滴の分子運動が活発となるとともに、液滴の表面張力が低下する。液滴の表面積が大きい状態で、急速に蒸発が進行する。
したがって、乾燥後の液滴内の不純物粒子Pは、接触境界に十分集積することなく、互いに離間した位置で被乾燥物Wに固着した状態となる。また、液滴の表面張力が低下するため、乾燥過程において、図6(c2)に示すような接触境界の段階的な移動が起こりにくくなる。
このため、液滴中の不純物粒子Pは、被乾燥物W上に残っても、初期の液滴の面積内で分散されているため、シミになりにくい。
このように分散された不純物粒子Pは、外観不良とならないだけではなく、例えば、光学素子のように、不純物粒子Pよりも格段に大きな径を有する光束の透過あるいは反射特性が問題となる場合には、機能上の不良ともならない。
【0039】
本工程は、被乾燥物Wや被乾燥物保持治具9の熱容量などに応じて、シミが残りにくくなる適宜のタイミングで開始すればよい。
上述したように、被乾燥物Wの表面から落下する液滴には、乾燥作用とともに不純物粒子Pを除去する作用もあるため、被乾燥物Wの表面に被乾燥物Wが凝縮して液滴を形成して落下が起こりやすい期間は、第2の乾燥工程を行わず、液滴の落下によって、被乾燥物W上における不純物粒子Pの総量の変化が少なくなってから、開始することが好ましい。
ただし、被乾燥物Wや被乾燥物保持治具9の熱容量によっては、加熱部8が一定温度に到達するタイミングと、被乾燥物W上の液滴が昇温されるタイミングとには時間差が生じる。このため、例えば、実験を行うなどして適切な開始タイミングを設定することが好ましい。
【0040】
被乾燥物Wの表面の液体の置換が終了した後に、搬送機構7のアクチュエータ7aを駆動して、載置フレーム7Aを上昇させる。被乾燥物Wが蒸気面S2の上方に移動すると、加熱部8の熱媒Hの循環を停止または抑制して、温度T2による加熱を止める。
以上で、第1および第2の乾燥工程が終了する。
その後、搬出工程を行う。本工程では、アクチュエータ7aの駆動を続けて載置フレーム7Aを上昇させ、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を開口部2aから上方に搬出する。以上で、搬出工程が終了する。
【0041】
このように、蒸気乾燥装置1および蒸気乾燥装置1を用いた蒸気乾燥方法によれば、被乾燥物Wに溶剤蒸気4Aが凝縮した後に、加熱部8によって溶剤蒸気4Aの温度以上の温度で加熱して乾燥する。これにより、被乾燥物Wの表面に付着した液滴の表面張力が低下するとともに、液滴内の不純物粒子Pが被乾燥物Wとの接触境界への移動が進む前に急速に乾燥が進むため、洗浄工程で付着した水分や溶剤蒸気4Aに不純物が含まれていても、シミが発生しにくくなる。
【0042】
[第1変形例]
次に、上記第1の実施形態の変形例(第1変形例)について説明する。
図7は、本発明の第1の実施形態の変形例(第1変形例)に係る蒸気乾燥装置の概略構成を示す模式的な断面図である。
【0043】
本変形例の蒸気乾燥装置11は、図7に示すように、上記第1の実施形態の蒸気乾燥装置1の加熱部8に代えて、加熱部18を備える。以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
加熱部18は、格子フレーム7eおよび連結部材7cの内部に加熱部8の循環路8aに並行して、例えば、水等の冷媒を温度制御して循環させるチラー装置に接続された冷却管10を設けたものである。
【0044】
蒸気乾燥装置11によれば、上記第1の実施形態の蒸気乾燥方法を略同様にして、被乾燥物Wを乾燥させることができる。
本変形例では、第2の乾燥工程を開始するまでは、冷却管10を循環する冷媒の流量を増やすことで循環路8aからの伝熱を抑制する。このように、冷却管10は、加熱部18において加熱量を調整する加熱調整機構の一例となっている。
これにより、上記第1の実施形態に比べて、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9の温度上昇を低減することができる。
この結果、第1の乾燥工程において、上記第1の実施形態に比べて、溶剤蒸気4Aと被乾燥物Wとの温度差をより大きくすることができため、溶剤蒸気4Aが被乾燥物Wの表面に凝縮しやすくなる。したがって、第2の乾燥工程に先立って、被乾燥物W上の水分や不純物粒子Pをより効率よく除去しておくことができる。
次に第2の乾燥工程では、冷却管10における冷媒の循環を停止して、加熱部18の温度を熱媒Hの温度まで急上昇させる。これにより、被乾燥物Wの急速な加熱が可能となる。このため、被乾燥物W上の液滴の乾燥も急速に進むため、よりシミが形成されにくくなる。
【0045】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
図8は、本発明の第2の実施形態に係る蒸気乾燥装置の概略構成を示す模式的な断面図である。図9(a)、(b)、(c)は、本発明の第2の実施形態に係る蒸気乾燥装置の動作説明図である。
【0046】
本実施形態の蒸気乾燥装置21は、図8に示すように、上記第1の実施形態の蒸気乾燥装置1の搬送機構7、加熱部8に代えて、搬送機構27、加熱部28を備える。以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0047】
搬送機構27は、搬送機構7において循環路8a、内部管路8b、外部配管8cを削除したものである。
加熱部28は、被乾燥物Wを温度T2で加熱する加熱源であり、本実施形態では、環状の放熱体28aの内部に熱媒Hが循環される環状またはコイル状に形成された加熱管28bが設けられた構成を採用している。
加熱部28は、蒸気冷却管6の下側において、乾燥槽2の乾燥槽側壁2cの内面に沿うように設置されている。ただし、加熱部28の下面と溶剤液面S1との間は、少なくとも被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を配置できる距離だけ離間されている。
また、特に図示しないが、加熱管28bには、熱媒Hの温度を制御しながら循環させるチラー装置が接続されている。
放熱体28aの内側の開口の大きさは、被乾燥物保持治具9を搭載した搬送機構7が鉛直方向に挿通可能な大きさに設定されている。
このため、乾燥槽2の中心部には、上端の開口部2aと蒸気源3との間に、被乾燥物保持治具9に保持された被乾燥物Wを昇降移動させることができる空間が確保されている。
また、特に図示しないが、加熱部28と乾燥槽2の乾燥槽側壁2cとの間には、蒸気冷却管6によって冷却された溶剤蒸気4Aが下降して容易に下層の領域に戻ることができるように、鉛直方向に沿う流路が確保されている。
【0048】
蒸気乾燥装置21によれば、上記第1の実施形態の蒸気乾燥方法を略同様にして、被乾燥物Wを乾燥させることができる。
本実施形態では、蒸気充満領域形成工程において、蒸気充満領域Vが形成された後に、加熱管28bに温度T2の熱媒Hを循環させ、放熱体28aの近傍の溶剤蒸気4Aを温度T2に加熱する。熱媒Hの温度T2は、蒸気源3によって形成される溶剤蒸気4Aの温度T1より高温であるため、加熱部28の近傍の溶剤蒸気4Aの温度が上昇し、加熱部28の内周側の領域に相対的な高温となる層領域が形成される。
このため、図8に示すように、蒸気充満領域Vは、溶剤液面S1から加熱部28の下部近傍までの間で温度T1とされた下層領域V1、加熱部28の近傍において温度T2とされた中層領域V2、および加熱部28の上部近傍から蒸気面S2までの間で温度がT2〜T1まで変動する上層領域V3に分かれる。
【0049】
本実施形態の搬入工程では、図9(a)に示すように、上記第1の実施形態の搬入工程と同様に被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を蒸気充満領域Vに搬入する際、搬送機構27の移動速度制御を行い、上層領域V3、中層領域V2の通過時には、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9の昇温が抑制されるように例えば、速度v1で迅速に移動する。
そして、下層領域V1に到達したら、図9(b)に示すように、速度v1よりも低速である速度v2による移動に切り替える。ただし、速度v2は、停止および方向転換を含み、|v1|>|v2|≧0である。
以上で、搬入工程が終了する。
【0050】
被乾燥物Wが下層領域V1に到達すると、被乾燥物Wが下層領域V1における温度T1の溶剤蒸気4Aとの熱交換が起こり、第1の乾燥工程が始まる。
【0051】
本実施形態では、上記第1の実施形態と同様の第2の乾燥工程を開始するタイミングが来ると、図9(c)に示すように、搬送機構27によって、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を上昇させて中層領域V2に移動する。そして、中層領域V2において一旦停止する。この移動により、第1の乾燥工程が終了するとともに、第2の乾燥工程が始まる。
本実施形態の第2の乾燥工程では、加熱部28の熱が被乾燥物Wに伝達されることにより、被乾燥物Wが加熱される。伝達される熱には加熱部28からの輻射熱も含まれるが、中層領域V2において温度T2に昇温された溶剤蒸気4Aとの接触による熱交換の寄与が大きいと考えられる。
【0052】
被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9と熱交換して温度が下がった溶剤蒸気4Aは、下層領域V1に下降するため、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9の周囲には、放熱体28aとの熱交換により温度T2に昇温された溶剤蒸気4Aが被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9の近傍に順次供給されて、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9が中層領域V2に位置する間、このような温度T2による乾燥が継続する。これにより、第1の乾燥工程において被乾燥物Wの表面に付着した液滴が迅速に乾燥され、シミの発生が抑制される。
上記第1の実施形態と同様に、被乾燥物Wの表面の液滴が乾燥したら、第2の乾燥工程を終了する。
【0053】
次に、搬出工程では、上記第1の実施形態と同様にして、搬送機構27を駆動して、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を上昇させ、上層領域V3に移動してから、蒸気面S2を通過して、開口部2aから乾燥槽2の外部に搬出する。
【0054】
このように、蒸気乾燥装置21および蒸気乾燥装置21を用いた蒸気乾燥方法によれば、上記第1の実施形態と同様に、被乾燥物Wに溶剤蒸気4Aが凝縮した後に、加熱部28によって溶剤蒸気4Aの温度以上の温度で加熱して乾燥するため、洗浄工程で付着した水分や溶剤蒸気4Aに不純物が含まれていても、シミが発生しにくくなる。
【0055】
[第3の実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
図10は、本発明の第3の実施形態に係る蒸気乾燥装置の概略構成を示す模式的な断面図である。図11は、本発明の第3の実施形態に係る蒸気乾燥装置に用いる蓄熱部材の模式的な平面図である。図12(a)、(b)、(c)、(d)は、本発明の第3の実施形態に係る蒸気乾燥装置の動作説明図である。
【0056】
本実施形態の蒸気乾燥装置31は、図10に示すように、上記第1の実施形態の蒸気乾燥装置1の搬送機構7に代えて、上記第2の実施形態の搬送機構27を備える。また、上記第1の実施形態の蒸気乾燥装置1の加熱部8に代えて、蓄熱プレート38(蓄熱部材)を備える。以下、上記第1および第2の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0057】
蓄熱プレート38は、蒸気充満領域Vの内部において溶剤蒸気4Aの熱を蓄熱するための部材である。本実施形態では、図10、図11に示すように、被乾燥物保持治具9を載置可能な面積を有する金属製のブロック部材である。蓄熱プレート38の上面は、平面に整列されており、載置フレーム7Aの下面と密着して当接できるようになっている。
蓄熱プレート38の厚さ方向には、溶剤蒸気4Aが上下に流通できるとともに、被乾燥物W等から落下する液滴を下方に導くための多数の貫通孔38aが格子状に配列して設けられている。また、これら貫通孔38aは、蓄熱プレート38の表面積を増大させる機能も有している。
蓄熱プレート38の外形状、および材質は、蒸気充満領域V内において、第2の乾燥工程を行う間、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を温度T1で加熱できるような熱容量となるように設定される。
【0058】
また、蓄熱プレート38には、蓄熱プレート38を、蒸気充満領域V内において少なくとも搬送機構27の搬送路Mに沿って移動させる蓄熱部材移動機構30が接続されている。
本実施形態の蓄熱部材移動機構30は、不図示の駆動ガイドに沿って鉛直方向に昇降する一対のアクチュエータ30aと、各アクチュエータ30aの端部からそれぞれ鉛直下方に延ばされた吊り下げアーム30bとを備え、各吊り下げアーム30bの下端部が蓄熱プレート38の上面に固定されている。
【0059】
蒸気乾燥装置31によれば、上記第1の実施形態の蒸気乾燥方法を略同様にして、被乾燥物Wを乾燥させることができる。
本実施形態の蒸気充満領域形成工程では、図12(a)に示すように、蓄熱プレート38は、蓄熱部材移動機構30によって、蒸気源3に近い位置に配置される。
これにより、蒸気充満領域Vが形成される間に蓄熱プレート38と溶剤蒸気4Aとが熱交換し、蓄熱プレート38の温度が温度T1まで上昇する。なお、蓄熱プレート38は、貫通孔38aを多数有するため、溶剤蒸気4Aは貫通孔38aと通して対流可能である。また、溶剤蒸気4Aが対流する際に貫通孔38aを通過していくことで、蓄熱プレート38と溶剤蒸気4Aとの熱交換が促進される。
蓄熱プレート38が蒸気充満領域Vの溶剤蒸気4Aと熱平衡に達したら、蒸気充満領域形成工程を終了し、搬入工程を行う。
【0060】
本実施形態の搬入工程では、搬送機構27を用いて、上記第1の実施形態と同様にして、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9の蒸気充満領域Vへの搬入を行う。
第1の実施形態と同様に、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9が蒸気充満領域V内に搬入されると、第1の乾燥工程が始まる。
【0061】
本実施形態の第1の乾燥工程では、第1の実施形態と同様に、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9は、蒸気充満領域V内で移動していてもよいし、停止していてもよい。ただし、図12(b)に示すように、蓄熱プレート38から上方に離間した領域で、移動または停止させる。これは、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9と、蓄熱プレート38との接触を避けることで、互いに熱的な影響を受けにくくするためである。
したがって、第1の乾燥工程では、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9の近傍では、搬入時の被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9と、溶剤蒸気4Aとの温度差に応じて、温度T1よりわずかに温度が低下した温度低下領域が形成される。
【0062】
次に、本実施形態では、上記第1の実施形態と同様の第2の乾燥工程を開始するタイミングが来ると、図12(c)に示すように、蓄熱部材移動機構30または搬送機構27によって、載置フレーム7Aと蓄熱プレート38との鉛直方向の相対位置を調整して、蓄熱プレート38の上面を載置フレーム7Aの下面と当接させる。
これにより、温度T1の蓄熱プレート38から乾燥槽2の外部から搬入されたため温度T1よりも低温の載置フレーム7Aに熱伝導が起こり、載置フレーム7Aに当接した被乾燥物保持治具9を介して被乾燥物保持治具9が加熱される。
上述したように、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9の近傍の溶剤蒸気4Aは、熱交換により、温度低下領域を形成しているため、蓄熱されて温度T1を保っている蓄熱プレート38は、被乾燥物Wの周囲の溶剤蒸気4Aに比べると、より高温の加熱源になっている。
したがって、蓄熱プレート38は、搬送機構27によって乾燥槽2内に搬入された被乾燥物Wを、一定温度T1を有し蒸気源3から離間して配置された加熱源になっており、蓄熱プレート38を載置フレーム7Aと当接させる蓄熱部材移動機構30とともに、第2の乾燥工程を行う加熱部を構成している。
このようにして、本実施形態の第2の乾燥工程が開始される。
【0063】
本実施形態の第2の乾燥工程において、蓄熱部材移動機構30および搬送機構27は、このような接触状態を保ちつつ、蒸気面S2に向かう移動を行う。
そして、図12(d)に示すように、上記第1の実施形態と同様な第2の乾燥工程の終了するタイミングに合わせて蒸気充満領域Vから被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を搬出させる。以上で、第2の乾燥工程が終了する。
【0064】
次に、本実施形態の搬出工程を行う。本工程では、搬送機構27は上昇を継続することによって、上記第1および第2の実施形態と同様に、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を乾燥槽2の外部に搬出する。
一方、蓄熱部材移動機構30は、蓄熱プレート38を下降させて、載置フレーム7Aとの接触を解除する。これにより、蓄熱プレート38からの熱伝導が停止するため、蓄熱プレート38の蓄熱が再開される。
そして、さらに下降を続けて、蓄熱プレート38を蒸気充満領域形成工程における下降位置に位置付ける。これにより、上記の搬入工程以下を繰り返すことにより、他の被乾燥物Wの乾燥を引き続いて行うことができる。
【0065】
このように、蒸気乾燥装置31および蒸気乾燥装置31を用いた蒸気乾燥方法によれば、上記第1の実施形態と同様に、被乾燥物Wに溶剤蒸気4Aが凝縮した後に、蓄熱プレート38によって温度T1で加熱して乾燥するため、洗浄工程で付着した水分や溶剤蒸気4Aに不純物が含まれていても、シミが発生しにくくなる。
【0066】
[第4の実施形態]
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。
図13は、本発明の第4の実施形態に係る蒸気乾燥装置の概略構成を示す模式的な断面図である。
【0067】
本実施形態の蒸気乾燥装置41は、被乾燥物Wを複数の被乾燥物保持治具9に保持して、連続的に乾燥させるのに好適となる装置であり、図13に示すように、上記第1の実施形態の蒸気乾燥装置1の乾燥槽2、搬送機構7、加熱部8に代えて、乾燥槽42、搬送機構47、加熱部48を備える。以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0068】
乾燥槽42は、鉛直方向に沿って延ばされた有底筒状とされており、乾燥槽側壁42cの内側の上部に隔壁42aが架設され、上部に、乾燥槽側壁42cと隔壁42aとによって囲繞された2つの開口部42A、42Bが形成されている。
開口部42A、42Bの下方には、それぞれ乾燥槽側壁42cと隔壁42aとによって隔壁42aの下端部まで囲繞された鉛直方向に延びる筒状部40A、40Bが形成されている。
開口部42A、42Bおよび筒状部40A、40Bの内部の広さは、被乾燥物Wを保持した被乾燥物保持治具9の平面視の大きさよりも広く、被乾燥物Wを保持した被乾燥物保持治具9を水平方向に搬送することができる空間を形成している。
このため、乾燥槽2の内部には、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を、鉛直上方から開口部42A内に導入し、鉛直下方に移動した後、隔壁42aと乾燥槽底面42bとの間を水平方向に抜けて、開口部42Bの下方から鉛直上方に向かって移動させることができる略U字状の空間が形成されている。
【0069】
また、乾燥槽42の下部には、上記第1の実施形態と同様の蒸気源3が設けられている。蒸気源3の配置位置は、乾燥槽42の乾燥槽底面42bに対して、上記第1の実施形態における乾燥槽底面2bに対するのと同様な位置関係とされている。
【0070】
本実施形態の開口部42Aは、被乾燥物Wを乾燥槽42に搬入する搬入開口を構成しており、開口部42Bは、被乾燥物Wを乾燥槽42から搬出する搬出開口を構成している。
筒状部40A(40B)において、開口部42A(42B)の下方には、蒸気源3によって形成された溶剤蒸気4Aを冷却して、溶剤蒸気4Aを閉じ込める蒸気冷却管46A(46B)が配置されている。
蒸気冷却管46A、46Bは、上記第1の実施形態の蒸気冷却管6と同様に、例えば水などの冷媒が循環される配管が環状またはコイル状に巻き回された金属パイプからなり、それぞれ筒状部40A、40Bの内面に沿って配置されている。また、特に図示しないが、蒸気冷却管46A、46Bには、冷媒の温度を制御しながら循環させるチラー装置が接続されている。
蒸気冷却管46A、46Bの内側に形成された開口は、後述する搬送機構47の上下搬送機構47A、47Bによって、被乾燥物Wが保持された被乾燥物保持治具9を把持した状態で、鉛直方向に進退可能な大きさに設けられている。
蒸気冷却管46A、46Bの表面温度は、上記第1の実施形態の蒸気冷却管6と同様に設定されている。また、蒸気冷却管46A、46Bの下方に不図示の溶剤回収機構が設けられていることも第1の実施形態と同様である。
また、本実施形態では、蒸気冷却管46Bの設置高さは、蒸気冷却管46Aの設置高さよりも高い設定とされている。
【0071】
搬送機構47は、被乾燥物保持治具9を着脱可能に把持して、開口部42Aおよび蒸気冷却管6Aの内側と通って鉛直方向に延びる搬送路MAに沿って昇降する上下搬送機構47Aと、被乾燥物保持治具9を移動ベルト状に載置し水平方向に沿って、開口部42Aの下方の一定位置から隔壁42aの下方を通り開口部42Bの下方の一定位置に向かって延びる搬送路MCに沿って搬送するベルト搬送機構47Cと、被乾燥物保持治具9を着脱可能に把持して、開口部42Aおよび蒸気冷却管6Aの内側を通って鉛直方向に延びる搬送路MBに沿って昇降する上下搬送機構47Bとを備える。
上下搬送機構47A、47Bは、例えば、下端部に被乾燥物保持治具9を把持および把持解除するハンド部を備える搬送アームを上記第1の実施形態におけるアクチュエータ7aと同様のアクチュエータによって昇降させる構成を採用することができる。
【0072】
このような構成により、筒状部40A、40Bの中心部には、開口部42A、42Bとベルト搬送機構47Cとの間に、被乾燥物保持治具9に保持された被乾燥物Wを昇降移動させることができる空間が上下搬送機構47A、47による搬送路MA、MBの周囲に確保されている。
【0073】
加熱部48は、上記第2の実施形態の加熱部28と同様にして、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を温度T2の加熱源で加熱するものであり、筒状部40Bにおいて、蒸気冷却管46Bとベルト搬送機構47Cとの間に設けられている。
加熱部48の構成は、本実施形態では、蒸気冷却管46Bと同様の構成の金属パイプを放熱体として、この金属パイプの内部に不図示のチラー装置によって、温度T2に温度制御された熱媒Hを循環させる構成としている。
【0074】
蒸気乾燥装置41によれば、上記第1の実施形態の蒸気乾燥方法を略同様にして、被乾燥物Wを乾燥させることができる。
本実施形態の蒸気充満領域形成工程では、まず、蒸気充満領域Vを形成するが、本実施形態では、蒸気冷却管46A、46Bによって、それぞれ高さが異なる蒸気面SA、SBが形成される点が異なる。
そして、蒸気充満領域Vが形成された後に、加熱管48に温度T2の熱媒Hを循環させ、放熱体である金属パイプの近傍の溶剤蒸気4Aを温度T2に加熱する。これにより、上記第2の実施形態と同様にして、加熱部48の内周側の領域に相対的な高温となる層領域が形成される。
このため、図13に示すように、筒状部40Bにおける蒸気充満領域Vは、筒状部40Bの下端部から加熱部48の下部近傍までの間で温度T1とされた下層領域V1、加熱部48の近傍において温度T2とされた中層領域V2、および加熱部48の上部近傍から蒸気面SAまでの間で温度がT2〜T1まで変動する上層領域V3に分かれる。
【0075】
本実施形態の搬入工程では、上下搬送機構47Aによって、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を把持して、開口部42Aの上方から被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を搬入する。
被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9が蒸気充満領域V内に搬入されると、第1の乾燥工程が始まる。
【0076】
本実施形態の第1の乾燥工程では、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を蒸気充満領域V内で移動させながら、温度T1の溶剤蒸気4Aによる乾燥を行う。この際の乾燥過程は、上記第1の実施形態に説明したのと同様である。
本工程での移動経路について説明する。被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を上下搬送機構47Aによって蒸気面SAからベルト搬送機構47C上に移動し、ベルト搬送機構47C上で被乾燥物保持治具9の把持解除を行って、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9をベルト搬送機構47C上に移載する。
ベルト搬送機構47Cは、移載された被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を筒状部40Bの下方位置まで搬送する。筒状部40Bの下方位置では、予め上下搬送機構47Bが下降されており、被乾燥物保持治具9を把持できるようになっている。
被乾燥物保持治具9を把持した上下搬送機構47Bは、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を鉛直上方に移動する。この移動において、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9が下層領域V1を移動する間は、第1の乾燥工程が行われる。
【0077】
被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9が、中層領域V2に到達すると、上下搬送機構47Bを停止し、第2の乾燥工程を開始する。すなわち、上記第2の実施形態における中層領域V2における第2の乾燥工程と同様にして乾燥を行う。
上記第1の実施形態と同様に、被乾燥物Wの表面の液滴が乾燥したら、第2の乾燥工程を終了する。
【0078】
次に、搬出工程では、上下搬送機構47Bを駆動して、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を上昇させ、上層領域V3に移動してから、蒸気面SBを通過して、開口部42Bから乾燥槽42の外部に搬出する。
【0079】
なお、以上では、1つの被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9の動作について説明したが、把持解除した上下搬送機構47Aを上方に引き上げ、乾燥槽2の外部に移動した上下搬送機構47Bを再び下降させることにより、引き続いて他の被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を投入して、上記各工程を繰り返すことができる。このため、蒸気乾燥装置41によれば、1つの乾燥槽42内に、複数の被乾燥物保持治具9に載置された被乾燥物Wを間欠的に搬送して、連続的に蒸気乾燥を行うことができる。
【0080】
このように、蒸気乾燥装置41および蒸気乾燥装置41を用いた蒸気乾燥方法によれば、上記第1の実施形態と同様に、被乾燥物Wに溶剤蒸気4Aが凝縮した後に、加熱部48によって溶剤蒸気4Aの温度以上の温度で加熱して乾燥するため、洗浄工程で付着した水分や溶剤蒸気4Aに不純物が含まれていても、シミが発生しにくくなる。
本実施形態は、上記第2の実施形態と同様に、蒸気充満領域V内に温度T2の相対的な高温となる層領域が形成する加熱部を設けた場合の例になっているが、本実施形態では、加熱部48は、隔壁42によって搬入経路がある筒状部40Aから離間された筒状部40B内の搬出経路のみに配置されている。このため、搬入経路では、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9が加熱部の影響を受けて昇温されることがなく、溶剤蒸気4Aの凝縮が効率的に行われる。この結果、水分や不純物粒子Pを溶剤蒸気4Aの凝縮した液滴とともに除去しやすくなる。
【0081】
上記の説明では、乾燥槽において、被乾燥物Wを被乾燥物保持治具9に保持して搬送する場合の例で説明したが、例えば、被乾燥物が大型の場合など、被乾燥物保持治具を用いることなく適宜の搬送機構で直接把持して搬送できる場合には、被乾燥物保持治具は必須ではない。
【0082】
また、上記の第3の実施形態の説明における図12(d)では、蓄熱プレート38が、蒸気面S2の上方にまで移動するように描いているが、これは一例であって、第2の乾燥工程を終了するには、被乾燥物Wが蒸気充満領域Vの上方に移動するだけで十分である。
したがって、蓄熱プレート38は、第2の乾燥工程の終了時に、蒸気充満領域Vにとどまっていてもよい。この場合、蓄熱プレート38が蒸気充満領域V内のみを移動するため、蒸気充満領域Vの外部に搬出される場合に比べて放熱量が少なくなり、引き続いて他の被乾燥物Wを乾燥するために、再度蓄熱する時間を短縮することができる。
【0083】
また、上記第1および第3の実施形態では、各加熱部の熱が載置フレーム7Aを熱伝導することによって、被乾燥物保持治具9および被乾燥物保持治具9に保持された被乾燥物Wが加熱される場合の例で説明したが、加熱部は、載置フレーム7Aの各格子フレーム7e間の隙間を貫通して被乾燥物保持治具9上の被乾燥物Wの近傍まで延出された櫛歯状の放熱フィンなどを備えていてもよい。
【0084】
また、上記の各実施形態、変形例で説明した構成要素は、本発明の技術的思想の範囲で適宜組み合わせたり、削除したりして実施することができる。
例えば、上記第4の実施形態の加熱部48は、上記第1の実施形態および第1変形例と同様にして上下搬送機構47Bに設けた加熱部に置換することが可能である。
また、上記第2の実施形態の加熱部において、上記第1の実施形態の第1変形例のように、加熱部28に加熱量を調整する加熱温度調整機構を設けてもよい。この場合、被乾燥物Wが蒸気充満領域Vに搬入される際には、加熱部28の加熱を停止または抑制することで、被乾燥物Wの温度上昇を低減できるため、第1の乾燥工程において効率的に溶剤蒸気4Aの凝縮させることができる。
【符号の説明】
【0085】
1、11、21、31、41 蒸気乾燥装置
2、42 乾燥槽
2a 開口部
3 蒸気源
4 溶剤
4A 溶剤蒸気
5 溶剤加熱部
6、46A、46B 蒸気冷却管
7、27、47 搬送機構
7A 載置フレーム
7a アクチュエータ
7e 格子フレーム
8、18、28、48 加熱部
8a 循環路
9 被乾燥物保持治具
10 冷却管
28a 放熱体
28b 加熱管
30 蓄熱部材移動機構
38 蓄熱プレート(蓄熱部材)
42A 開口部(搬入開口)
42B 開口部(搬出開口)
47 搬送機構
47A、47B 上下搬送機構
47C ベルト搬送機構
H 熱媒
M、MA、MB、MC 搬送路
P 不純物粒子
S1 溶剤液面
S2 蒸気面
V 蒸気充満領域
V1 下層領域
V2 中層領域
V3 上層領域
W 被乾燥物
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気乾燥装置および蒸気乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、ガラス基板、光学素子、半導体ウエハ等の製造工程において、洗浄を行う場合、ガラス基板、光学素子、半導体ウエハ等からなる被洗浄物を洗浄剤によって洗浄し、さらに純水等でリンスした後、リンスされた被洗浄物を被乾燥物として乾燥する乾燥工程を行っている。この乾燥工程には、多くの場合、例えば、イソプロピルアルコール(IPA)等の溶剤を使用した蒸気乾燥装置が用いられている。
このような蒸気乾燥装置では、被乾燥物を溶剤蒸気雰囲気に搬入し、溶剤を被乾燥物の表面に凝縮させ、この溶剤が被乾燥物に残存する水分とともに落下したり、水分とともに揮発したりすることを利用して被乾燥物の表面を乾燥している。このため、溶剤とともに揮発できない不純物が溶剤や被乾燥物に残存する水分中に含まれると、この不純物が被乾燥物の表面に付着した状態で乾燥し、被乾燥物の表面にシミなどの汚れが発生するという問題が起こる。
このような問題に対処するため、種々の蒸気乾燥装置および蒸気乾燥方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、フッ素系溶剤または、アルコールまたはグリコールエーテル系溶剤が混入されたフッ素系溶剤に対して空気中の水分が溶け込んだ水分含有溶剤から水分を除去する水分除去装置であって、上記水分含有溶剤を貯溜するタンクと、上記タンク内の水分含有溶剤を溶剤の沸点前後に加熱する加熱手段と、上記タンク上部に設けられて水分および溶剤の蒸気を冷却する冷却手段と、冷却液を受ける受け手段とを備えた水分除去装置が記載されている。
また、特許文献2には、水処理後の被処理物の表面で有機溶剤を主成分とする乾燥液の蒸気を凝縮させて乾燥を行う処理槽と、選択的に水を透過させる膜によって構成された分離膜モジュールユニットとから構成され、該処理槽の内部には、乾燥液の蒸気を発生させるための蒸気発生部と、被処理物を配置するための乾燥空間部と、乾燥液の蒸気が被処理物表面で凝縮して生じた凝縮液を該乾燥空間部の下方にて捕集する第1の受部と、前記乾燥空間部の上方にて乾燥液の蒸気を凝縮させる冷却部と、該冷却部による冷却によって生じた凝縮液を該冷却部の下方にて捕集する第2の受部とが設けられ、前記分離膜モジュールユニットには、前記第2の受部の凝縮液を導入するための第1の流路が配設され、前記第1の流路内に、該冷却部の凝縮液を一定時間だけ 捕集するための定期的に開閉する自動弁が配設され、分離膜モジュールユニットの出口側には、前記膜での非透過液を前記蒸気発生部に導入するための第2の流路が配設されている、ことを特徴とする蒸気乾燥装置が記載されている。
また、特許文献3には、(1)液体のイソプロピルアルコール(IPA)を収容するIPA槽、(2)該IPA槽の周囲に設けられた側壁、(3)該IPA槽から上方に所定の間隔をおいて且つ該側壁近傍に設けられた冷却管、(4)該IPA槽の少なくとも下部に設けられた加熱手段、(5)該IPA槽中の液体IPAに予備加熱された液体IPAを供給するための、予備加熱手段を含むIPA供給手段、(6)該IPA槽中のIPAの液面、該側壁及び該冷却管により規定される空間にシリコンウエハを出し入れするための搬送手段、及び(7)シリコンウエハ上のIPAと水分との混合物を回収し前記空間外に排出するための排出手段、を含むシリコンウエハのIPA蒸気乾燥装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−47802号公報
【特許文献2】特開平8−152268号公報
【特許文献3】特開2002−367950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来の蒸気乾燥装置および蒸気乾燥方法には、以下のような問題があった。
特許文献1、2に記載の技術は、蒸気源となる溶媒中に混入している水分や不純物の濃度を制御する技術であり、特許文献3に記載の技術は、蒸気濃度の減少を防ぎ、被乾燥物表面を十分な量の蒸気と接触させることにより、表面の液交換を進める技術である。
ところが、これらの技術を用いても、溶媒中に混入する不純物を完全に除去することは困難である。また、シミを発生させる不純物の濃度は、きわめて低濃度であるため、これらの技術のみによって、シミの発生を防止できる程度に乾燥工程おける被乾燥物表面の不純物を除去することは難しいという問題がある。
したがって、乾燥工程において被乾燥物に付着した水分中や溶剤中に不純物が含まれていてもシミの発生を抑制できる技術が強く求められている。
【0005】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、被乾燥物に付着した水分中や溶剤中に不純物が含まれていても、シミが発生しにくくなる蒸気乾燥装置および蒸気乾燥方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の蒸気乾燥装置は、溶剤蒸気を供給する蒸気源と、被乾燥物を搬入および搬出する開口部を有し、該開口部の下方に前記蒸気源から供給された前記溶剤蒸気を充満させて蒸気充満領域を形成する乾燥槽と、前記被乾燥物を前記乾燥槽の内外にわたる搬送路に沿って搬送する搬送機構と、該搬送機構によって前記乾燥槽に搬入された前記被乾燥物を、前記溶剤蒸気の温度以上であって前記溶剤蒸気とは異なる加熱源によって加熱する加熱部と、を備える構成とする。
【0007】
また、本発明の蒸気乾燥装置では、前記加熱部は、前記搬送機構に設けられることが可能である。
【0008】
また、本発明の蒸気乾燥装置では、前記加熱部は、加熱量を調整する加熱調整機構を有することが可能である。
【0009】
また、本発明の蒸気乾燥装置では、前記加熱部は、前記蒸気充満領域における前記搬送機構の搬送路の周囲に配置されることが可能である。
【0010】
また、本発明の加熱部が搬送機構の搬送路の周囲に配置された蒸気乾燥装置では、前記開口部は、前記被乾燥物を前記乾燥槽に搬入する搬入開口と、前記被乾燥物を前記乾燥槽から搬出する搬出開口とからなり、前記搬入開口および前記搬出開口の下方の前記蒸気充満領域が仕切られて、搬入領域と搬出領域とに区分され、前記加熱部は、前記搬出領域における前記搬送機構の搬送路の周囲に配置されることが可能である。
【0011】
また、本発明の蒸気乾燥装置では、前記加熱部は、前記蒸気充満領域内で前記溶剤蒸気の熱を蓄熱する蓄熱部材と、該蓄熱部材を、前記蒸気充満領域内において少なくとも前記搬送機構の搬送路に沿って移動させる蓄熱部材移動機構と、を備えることが可能である。
【0012】
本発明の蒸気乾燥方法は、溶剤蒸気を乾燥槽内に充満させて蒸気充満領域を形成する蒸気充満領域形成工程と、前記蒸気充満領域に被乾燥物を搬入する搬入工程と、前記蒸気充満領域に搬入された前記被乾燥物を前記溶剤蒸気に接触させて乾燥を行う第1の乾燥工程と、該第1の乾燥工程の開始後に、前記溶剤蒸気と異なる加熱源によって前記被乾燥物を前記溶剤蒸気の温度以上の温度で加熱して乾燥を行う第2の乾燥工程と、前記第1および第2の乾燥工程の終了後に、前記被乾燥物を前記乾燥槽から搬出する搬出工程と、を備える方法とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の蒸気乾燥装置および蒸気乾燥方法によれば、被乾燥物に溶剤蒸気が凝縮した後に、溶剤蒸気の温度以上の加熱源を用いて加熱して乾燥するため、表面に残留した乾燥前の液滴に不純物が含まれていても、シミが発生しにくくなるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る蒸気乾燥装置の概略構成を示す模式的な断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る蒸気乾燥装置に用いる被乾燥物保持治具の構成を示す模式的な斜視図、および平面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る蒸気乾燥装置の搬送機構の構成を示す模式的な斜視図、および平面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る蒸気乾燥装置の搬送機構に被乾燥物保持治具をセットしたときの断面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る蒸気乾燥装置の動作説明図である。
【図6】シミが発生する過程の模式説明図である。
【図7】本発明の第1の実施形態の変形例(第1変形例)に係る蒸気乾燥装置の概略構成を示す模式的な断面図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る蒸気乾燥装置の概略構成を示す模式的な断面図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る蒸気乾燥装置の動作説明図である。
【図10】本発明の第3の実施形態に係る蒸気乾燥装置の概略構成を示す模式的な断面図である。
【図11】本発明の第3の実施形態に係る蒸気乾燥装置に用いる蓄熱部材の模式的な平面図である。
【図12】本発明の第3の実施形態に係る蒸気乾燥装置の動作説明図である。
【図13】本発明の第4の実施形態に係る蒸気乾燥装置の概略構成を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。すべての図面において、実施形態が異なる場合であっても、同一または相当する部材には同一の符号を付し、共通する説明は省略する。
【0016】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る蒸気乾燥装置について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る蒸気乾燥装置の概略構成を示す模式的な断面図である。図2(a)、(b)は、それぞれ本発明の第1の実施形態に係る蒸気乾燥装置に用いる被乾燥物保持治具の構成を示す模式的な斜視図、および平面図である。図3(a)、(b)は、それぞれ本発明の第1の実施形態に係る蒸気乾燥装置の搬送機構の構成を示す模式的な斜視図、および平面図である。図4は、本発明の第1の実施形態に係る蒸気乾燥装置の搬送機構に被乾燥物保持治具をセットしたときの断面図である。
【0017】
本実施形態の蒸気乾燥装置1は、図1に示すように、適宜の洗浄工程によって洗浄された部材を被乾燥物Wとして、後述する溶剤蒸気4Aを用いて乾燥させる装置である。
被乾燥物Wとしては、例えば、ガラス基板や、レンズ、光学フィルターなどの光学素子や、半導体ウエハなどを挙げることができる。
以下では、被乾燥物Wの一例として、光学機器用レンズを乾燥させる場合の例で説明する。光学機器用レンズは、小型のものが多いため、複数個を被乾燥物保持治具9に収容して搬送し、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9の両方に対して洗浄工程および乾燥工程を行うことが多い。
洗浄工程は、一般に複数の工程からなるが、最終の洗浄工程では純水等によってリンスが行われる。蒸気乾燥装置1は、このようなリンスを行った後に、被乾燥物Wの表面に付着した水分を乾燥させて除去できるようにしたものである。
特に光学素子の製造工程では、例えば、研磨粒子や研磨されたガラス等の微粒子が複数の洗浄工程を経てもごくわずかに残る可能性があるが、光学特性に影響しない微粒子の残存は許容されている。
【0018】
ここで、以下の説明に用いる被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9の一例について、説明する。
被乾燥物Wは、図2(a)、(b)に示すように両凸レンズからなる。
このような被乾燥物Wを保持する被乾燥物保持治具9は、平面視矩形状のフレーム部9aと、このフレーム部9aの対向する1組の内側面の間においてこの対向方向に沿って延ばして設けられ、かつ対向方向に直交する水平方向に並列配置された複数の棒材からなる格子部9bとを備える。
格子部9bの棒材間の配列方向の隙間は、被乾燥物Wのレンズ外径より小さい寸法とされている。
このため、図2(b)に示すように、被乾燥物Wのレンズ側面を格子部9bの隣り合う棒材に当接させるように上方から載置して、被乾燥物Wを被乾燥物保持治具9に保持させることができる。このとき、各被乾燥物Wのレンズ面は、その光軸が棒材の延設方向に向いた状態になっている。
【0019】
蒸気乾燥装置1の概略構成は、図1に示すように、溶剤蒸気4Aを供給する蒸気源3と、被乾燥物Wを搬入および搬出する開口部2aを有し開口部2aの下方に蒸気源3から供給された溶剤蒸気4Aを充満させて蒸気充満領域Vを形成する乾燥槽2と、被乾燥物Wを乾燥槽2の内外にわたる搬送路Mに沿って搬送する搬送機構7と、搬送機構7によって乾燥槽2に搬入された被乾燥物Wを、溶剤蒸気4Aの温度以上であって溶剤蒸気4Aとは異なる加熱源によって加熱する加熱部8とを備える。
【0020】
本実施形態の乾燥槽2は、鉛直方向に沿って延ばされた有底筒状とされており、上部には乾燥槽側壁2cの上端部によって開口部2aが形成され、下部には蒸気源3が設けられている。
【0021】
乾燥槽2において、開口部2aと蒸気源3との間には、蒸気源3によって形成された溶剤蒸気4Aを冷却して、溶剤蒸気4Aを閉じ込める蒸気冷却管6が配置されている。
蒸気冷却管6は、本実施形態では、例えば水などの冷媒が循環される配管が環状またはコイル状に巻き回された金属パイプからなり、乾燥槽2の乾燥槽側壁2cの内面に沿って配置されている。また、特に図示しないが、蒸気冷却管6には、冷媒の温度を制御しながら循環させるチラー装置が接続されている。
また、蒸気冷却管6の内周部の大きさは、被乾燥物保持治具9を搭載した搬送機構7が鉛直方向に挿通可能な大きさに設定されている。
このため、乾燥槽2の中心部には、開口部2aの上端と蒸気源3との間に、被乾燥物保持治具9に保持された被乾燥物Wを昇降移動させることができる空間が確保されている。
蒸気冷却管6の表面温度は、表面に接触した溶剤蒸気4Aが凝縮するとともに、蒸気冷却管6の内周側に、溶剤蒸気4Aが蒸気冷却管6を通り抜けて上昇できない程度の低温層が形成できる温度に設定する。
なお、特に図示しないが、蒸気冷却管6の下方には、蒸気冷却管6の表面で熱交換した溶剤蒸気4Aによる凝縮液体を回収する溶剤回収機構が設けられている。
【0022】
蒸気源3は、乾燥槽2の乾燥槽底面2b上に貯留された液体状の溶剤4と、溶剤4を加熱して溶剤4の沸点に略等しい温度T1の溶剤蒸気4Aを発生させる溶剤加熱部5とを備える。
なお、溶剤4は、蒸気冷却管6において凝縮する成分が回収されるなどして、減少していくため、不図示の供給機構によって、乾燥槽2の外部から適宜清浄な溶剤4が追加されるようになっている。
溶剤4の材質としては、蒸気乾燥処理に用いる適宜の有機溶剤、例えば、イソプロピルアルコール(IPA)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、ハイドロフルオロエーテル(HFE)等を採用することができる。本実施形態では、一例としてIPAを採用している。
【0023】
溶剤加熱部5の構成は、乾燥槽2の乾燥槽底面2b上に貯留された溶剤4を加熱して、蒸気乾燥処理に必要な温度の溶剤蒸気4Aを生成することができれば特に限定されない。例えば内部に加熱されたオイル等の熱媒を循環させて熱伝導を行う加熱体を採用することができる。
また、図1では、溶剤加熱部5は乾燥槽底面2bの下面側に設置されている場合の例が図示されているが、溶剤加熱部5の設置位置はこれには限定されない。例えば、乾燥槽2の内部において溶剤4に浸漬されていてもよい。
溶剤加熱部5の加熱温度の設定は、本実施形態では溶剤4としてIPAを採用しているため、溶剤加熱部5は、溶剤4をIPAの沸点である82.4℃の近傍の温度T1に加熱できるようになっている。
【0024】
搬送機構7の概略構成は、図3(a)、(b)に示すように、不図示の駆動ガイドに沿って鉛直方向に昇降する一対のアクチュエータ7aと、各アクチュエータ7aの端部からそれぞれ鉛直下方に延ばされた吊り下げアーム7bと、各吊り下げアーム7bの下端部に固定され被乾燥物保持治具9を上方から載置する載置フレーム7Aとを備える。
【0025】
載置フレーム7Aは、各吊り下げアーム7bの下端部を水平方向に連結する角柱状の連結部材7cと、連結部材7cから水平方向においてアクチュエータ7aと反対側に角柱部材が櫛歯状に延ばされた格子フレーム7eと、連結部材7cと対向する位置で各格子フレーム7eの各端部を固定する角柱状の連結部材7dとによって構成された平面視矩形状の外形を有するフレーム部材である。
載置フレーム7Aは、連結部材7c、7d、格子フレーム7eの各上面が同一平面に整列され、被乾燥物保持治具9の下面と密着して当接できるようになっている(図4参照)。
連結部材7c、7d、およびフレーム外形を構成する格子フレーム7eの上面には、上方から載置された被乾燥物保持治具9の側面を水平方向に係止する係止ピン7fが複数設けられている。
【0026】
連結部材7c、7d、および各格子フレーム7eは、熱伝導が良好な金属であり、かつ錆びや溶出による洗浄槽の汚染のない金属であることが望ましい。例えば、耐食性の高いステンレスと熱伝導の良いアルミニウムや銅またはこれらの合金とを層構造とした部材などで形成されている。そして、少なくとも連結部材7cおよび各格子フレーム7eの内部には、熱媒Hを循環させる1経路以上の循環路8aが設けられている。
熱媒Hの種類としては、水、オイル等の液体、もしくは加熱空気等の気体を採用することができる。
循環路8aの両端部は、各吊り下げアーム7b内に貫通して設けられた内部管路8bに連結されている。これら内部管路8bは、吊り下げアーム7bの上端部において外部配管8cに接続されている。これら外部配管8cには、熱媒Hの温度を制御しながら循環させる不図示のチラー装置が接続されている。
熱媒Hの温度T2は、本実施形態では、溶剤蒸気4Aの温度より約5℃程度高温に設定されている。
このため、循環路8aに熱媒Hが循環されると、連結部材7cおよび格子フレーム7eが昇温され、溶剤蒸気4Aより約5℃高温の加熱源となる。これにより、載置フレーム7A上に載置された被乾燥物保持治具9および被乾燥物Wを加熱できるようになっている。
このように本実施形態では、不図示のチラー装置によって熱媒Hが循環する循環路8aと、循環路8aが設けられた連結部材7cおよび格子フレーム7eとは、加熱部8を構成している。したがって、本実施形態は加熱部8が搬送機構7に設けられた場合の例になっている。
【0027】
次に、蒸気乾燥装置1の動作を本発明の実施形態に係る蒸気乾燥方法を中心として説明する。
図5は、本発明の第1の実施形態に係る蒸気乾燥装置の動作説明図である。図6は、シミが発生する過程の模式説明図である。(a1)、(b1)、(c1)、(d1)は、被乾燥物Wの側面視の模式図、(a2)、(b2)、(c2)、(d2)は、正面視の模式図である。
【0028】
本実施形態の蒸気乾燥方法は、蒸気乾燥装置1を用いて、被乾燥物Wに対して、蒸気充満領域形成工程、搬入工程、第1の乾燥工程、第2の乾燥工程、および搬出工程をこの順に沿って行うものである。
【0029】
蒸気充満領域形成工程は、温度T1の溶剤蒸気4Aを乾燥槽2の内部に充満させて、蒸気充満領域V(図5(a)参照)を形成する工程である。
本工程では、乾燥槽2内の乾燥槽底面2b上に溶剤4を満たしてから、蒸気冷却管6内に冷媒を流して、蒸気冷却管6で囲まれた乾燥槽2の内部に低温層を形成する。
次に、溶剤加熱部5によって溶剤4を加熱し、溶剤4の沸点に近い温度T1の溶剤蒸気4Aを発生させる。本実施形態では、約82℃の溶剤蒸気4Aが生成されるように溶剤加熱部5の加熱温度を制御している。
生成された溶剤蒸気4Aは、乾燥槽2内を上昇し、蒸気冷却管6によって形成された低温層で冷却されて下降し、対流を繰り返しながら、乾燥槽2内に充満されていく。
なお、溶剤蒸気4Aのうち、蒸気冷却管6の表面で熱交換して凝縮した液体は、不図示の溶剤回収機構によって回収される。
このように、溶剤蒸気4Aは蒸気冷却管6よりも上側には上昇することができないため、蒸気冷却管6の近傍に蒸気面S2を形成して、乾燥槽2内に閉じ込められた状態となる。この結果、溶剤4の溶剤液面S1と蒸気面S2との間に、蒸気充満領域Vが形成される。
以上で、蒸気充満領域形成工程が終了する。
【0030】
次に、搬入工程を行う。本工程は、蒸気充満領域Vに被乾燥物Wを搬入する工程である。
まず、被乾燥物Wは、洗浄工程を通じて被乾燥物保持治具9上に載置されている。以下の各工程でも同様である。
本工程では、搬送機構7は、載置フレーム7Aが乾燥槽2の開口部2aの中心部の上方に位置するように待機させておく。このとき、熱媒Hは、供給または循環を停止しておく。このため、加熱部8による加熱は、停止または抑制されており、少なくとも温度T1以上での加熱は行われていない。
洗浄工程が終了した被乾燥物Wは被乾燥物保持治具9とともに、不図示の移載ロボット等によって、載置フレーム7A上に移載する(図4参照)。
移載後、ただちに、搬送機構7のアクチュエータ7aを駆動し、図5(a)に示すように載置フレーム7Aを下降させ、図5(b)に示すように蒸気面S2を通して蒸気充満領域V内に搬送し、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を蒸気充満領域V内に搬入する。
以上で、搬入工程が終了する。
【0031】
被乾燥物Wが蒸気充満領域Vに搬入されるとともに、第1の乾燥工程が始まる。
本工程は、蒸気充満領域Vに搬入された被乾燥物Wを溶剤蒸気4Aに接触させて乾燥を行う工程である。
本実施形態における第1の乾燥工程では、被乾燥物Wが蒸気充満領域V内にあれば、特に位置は限定されない。このため、搬送機構7を一旦停止して、被乾燥物Wの位置を固定してもよいし、搬送機構7を駆動して被乾燥物Wを蒸気充満領域V内で移動させつつ本工程を行ってもよい。乾燥効率の点では、被乾燥物Wの表面に溶剤蒸気4Aが接しやすくなるように、蒸気充満領域V内を移動させながら本工程を行うことが好ましい。
本実施形態では、蒸気充満領域V内の移動経路は、図5(b)、(c)に示すように、搬送路Mに沿って、蒸気充満領域V内を蒸気面S2側から溶剤液面S1の近傍まで下降させた後、蒸気面S2の方に上昇して戻る鉛直方向の往復の移動経路を採用している。
【0032】
蒸気充満領域V内に搬入された被乾燥物Wは、溶剤蒸気4Aに比して低温であるため、被乾燥物Wの表面における溶剤蒸気4Aの凝縮量が多くなる。凝縮した溶剤蒸気4Aは、被乾燥物Wの表面の水分を取り込んで液化し、大きな液滴となると取り込んだ水分とともに落下する。
被乾燥物Wは、洗浄すべきレンズ面の光軸が水平方向を向くように被乾燥物保持治具9上に載置されているため、表面の液滴は、レンズ面に沿って下方に移動してレンズ面の下方側から、被乾燥物保持治具9の格子部9b間の隙間を通って落下する。
このような落下する液滴には、被乾燥物Wの表面の水分や、水分中および溶剤蒸気4A中に含まれる不純物粒子を含んだ状態で落下するため、本工程には、水分を除去する乾燥の作用と、不純物粒子を除去する洗浄の作用とがある。
【0033】
ただし、水分の乾燥、除去が進行し、被乾燥物Wと溶剤蒸気4Aとの熱交換が進むにつれて、被乾燥物Wの表面から落下する液滴は減少し、表面張力によって被乾燥物Wの表面に付着した液滴表面からの蒸発量が多くなる。
発明者は、このような液滴表面からの蒸発による乾燥過程を鋭意研究したところ、シミの発生がこの乾燥工程における不純物粒子の挙動と深く関係していることを見出し、本発明に到った。
以下では、発明者が見出したシミの発生の過程について、観察結果を単純化して説明する。
【0034】
図6(a1)に示すように、被乾燥物Wの下端部に、表面張力で液滴D1が付着しているとする。液滴D1は、水分のみであるか、水分を取り込んだ溶剤蒸気4Aの凝縮液滴であるかは問わない。
液滴D1を観察すると、図6(a2)に示すように、液滴D1に含まれる不純物粒子Pは、周囲の液滴D1の分子運動によって絶えず移動し、不純物粒子P間の間隔が開いていく傾向にある。このため、全体として、液滴D1と被乾燥物Wの表面との接触境界(曲線L1参照)に向かって移動していく。
接触境界L1に到達した不純物粒子Pは、一部が被乾燥物Wの表面に接触したり、他の不純物粒子Pと凝集したりすることで、液滴D1の分子運動の影響を受けにくくなり、接触境界L1に沿う位置で停止する。
このようにして、不純物粒子Pは、経時的に接触境界L1に集中していく傾向がある。
【0035】
一方、このような不純物粒子Pに移動と同時に、液滴D1の表面からは蒸発が続く結果、図6(b1)、(b2)に示すように、液滴D1は体積が減少して偏平化した液滴D2となる。このとき、接触境界L2は、接触境界L1と略同じ位置にある。
液滴D2は、表面張力によって縮径しようとしているため、ある程度、時間が経過すると、図6(c1)、(c2)に示すように、接触境界L2が曲線L3の位置に急峻に移動して、被乾燥物Wとの接触面積が減少した液滴D3に変化する。
これに伴って、接触境界L2から離間した位置に、液滴D3と被乾燥物Wとの接触境界L3が形成される。一方、接触境界L2上の不純物粒子Pは、被乾燥物Wの表面に取り残されるため、曲線L2の近傍に整列した状態で被乾燥物W上に固着し、略ライン状のシミ部PSを形成する。
液滴D3では、上記と同様な過程が繰り返されるため、液滴D3が乾燥すると、図6(d1)、(d2)に示すように、接触境界L3が形成された位置に、略ライン状のシミ部PSが形成される。
【0036】
このように、乾燥時のシミは、微細に見れば、被乾燥物Wと被乾燥物Wに付着した液滴との接触境界の近傍に液滴内の不純物粒子Pが移動し、不均一に集積したシミ部PSの集合体であると考えられる。
このため、不純物粒子Pの総量は微少であっても、不純物粒子Pが凝集した顕著な汚れ跡が形成されて、全体としてシミとなることが分かる。
【0037】
このようにして形成されるシミを抑制するため、本実施形態では、第1の乾燥工程の開始後に、一定時間経過したら、第1の乾燥工程と並行して第2の乾燥工程を行う。
本工程は、第1の乾燥工程の開始後に、溶剤蒸気4Aと異なる加熱源によって被乾燥物Wを溶剤蒸気4Aの温度以上の温度で加熱して乾燥を行う工程である。
本実施形態では、加熱部8の循環路8aに温度T2の熱媒Hを循環させることによって、格子フレーム7e等を温度T2に昇温する。これにより、格子フレーム7e等と接触した被乾燥物保持治具9に熱伝導して、被乾燥物Wが加熱されるとともに、被乾燥物Wの近傍の雰囲気温度も上昇する。
【0038】
この結果、被乾燥物W上に付着している液滴が加熱される。このため、液滴の分子運動が活発となるとともに、液滴の表面張力が低下する。液滴の表面積が大きい状態で、急速に蒸発が進行する。
したがって、乾燥後の液滴内の不純物粒子Pは、接触境界に十分集積することなく、互いに離間した位置で被乾燥物Wに固着した状態となる。また、液滴の表面張力が低下するため、乾燥過程において、図6(c2)に示すような接触境界の段階的な移動が起こりにくくなる。
このため、液滴中の不純物粒子Pは、被乾燥物W上に残っても、初期の液滴の面積内で分散されているため、シミになりにくい。
このように分散された不純物粒子Pは、外観不良とならないだけではなく、例えば、光学素子のように、不純物粒子Pよりも格段に大きな径を有する光束の透過あるいは反射特性が問題となる場合には、機能上の不良ともならない。
【0039】
本工程は、被乾燥物Wや被乾燥物保持治具9の熱容量などに応じて、シミが残りにくくなる適宜のタイミングで開始すればよい。
上述したように、被乾燥物Wの表面から落下する液滴には、乾燥作用とともに不純物粒子Pを除去する作用もあるため、被乾燥物Wの表面に被乾燥物Wが凝縮して液滴を形成して落下が起こりやすい期間は、第2の乾燥工程を行わず、液滴の落下によって、被乾燥物W上における不純物粒子Pの総量の変化が少なくなってから、開始することが好ましい。
ただし、被乾燥物Wや被乾燥物保持治具9の熱容量によっては、加熱部8が一定温度に到達するタイミングと、被乾燥物W上の液滴が昇温されるタイミングとには時間差が生じる。このため、例えば、実験を行うなどして適切な開始タイミングを設定することが好ましい。
【0040】
被乾燥物Wの表面の液体の置換が終了した後に、搬送機構7のアクチュエータ7aを駆動して、載置フレーム7Aを上昇させる。被乾燥物Wが蒸気面S2の上方に移動すると、加熱部8の熱媒Hの循環を停止または抑制して、温度T2による加熱を止める。
以上で、第1および第2の乾燥工程が終了する。
その後、搬出工程を行う。本工程では、アクチュエータ7aの駆動を続けて載置フレーム7Aを上昇させ、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を開口部2aから上方に搬出する。以上で、搬出工程が終了する。
【0041】
このように、蒸気乾燥装置1および蒸気乾燥装置1を用いた蒸気乾燥方法によれば、被乾燥物Wに溶剤蒸気4Aが凝縮した後に、加熱部8によって溶剤蒸気4Aの温度以上の温度で加熱して乾燥する。これにより、被乾燥物Wの表面に付着した液滴の表面張力が低下するとともに、液滴内の不純物粒子Pが被乾燥物Wとの接触境界への移動が進む前に急速に乾燥が進むため、洗浄工程で付着した水分や溶剤蒸気4Aに不純物が含まれていても、シミが発生しにくくなる。
【0042】
[第1変形例]
次に、上記第1の実施形態の変形例(第1変形例)について説明する。
図7は、本発明の第1の実施形態の変形例(第1変形例)に係る蒸気乾燥装置の概略構成を示す模式的な断面図である。
【0043】
本変形例の蒸気乾燥装置11は、図7に示すように、上記第1の実施形態の蒸気乾燥装置1の加熱部8に代えて、加熱部18を備える。以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
加熱部18は、格子フレーム7eおよび連結部材7cの内部に加熱部8の循環路8aに並行して、例えば、水等の冷媒を温度制御して循環させるチラー装置に接続された冷却管10を設けたものである。
【0044】
蒸気乾燥装置11によれば、上記第1の実施形態の蒸気乾燥方法を略同様にして、被乾燥物Wを乾燥させることができる。
本変形例では、第2の乾燥工程を開始するまでは、冷却管10を循環する冷媒の流量を増やすことで循環路8aからの伝熱を抑制する。このように、冷却管10は、加熱部18において加熱量を調整する加熱調整機構の一例となっている。
これにより、上記第1の実施形態に比べて、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9の温度上昇を低減することができる。
この結果、第1の乾燥工程において、上記第1の実施形態に比べて、溶剤蒸気4Aと被乾燥物Wとの温度差をより大きくすることができため、溶剤蒸気4Aが被乾燥物Wの表面に凝縮しやすくなる。したがって、第2の乾燥工程に先立って、被乾燥物W上の水分や不純物粒子Pをより効率よく除去しておくことができる。
次に第2の乾燥工程では、冷却管10における冷媒の循環を停止して、加熱部18の温度を熱媒Hの温度まで急上昇させる。これにより、被乾燥物Wの急速な加熱が可能となる。このため、被乾燥物W上の液滴の乾燥も急速に進むため、よりシミが形成されにくくなる。
【0045】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
図8は、本発明の第2の実施形態に係る蒸気乾燥装置の概略構成を示す模式的な断面図である。図9(a)、(b)、(c)は、本発明の第2の実施形態に係る蒸気乾燥装置の動作説明図である。
【0046】
本実施形態の蒸気乾燥装置21は、図8に示すように、上記第1の実施形態の蒸気乾燥装置1の搬送機構7、加熱部8に代えて、搬送機構27、加熱部28を備える。以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0047】
搬送機構27は、搬送機構7において循環路8a、内部管路8b、外部配管8cを削除したものである。
加熱部28は、被乾燥物Wを温度T2で加熱する加熱源であり、本実施形態では、環状の放熱体28aの内部に熱媒Hが循環される環状またはコイル状に形成された加熱管28bが設けられた構成を採用している。
加熱部28は、蒸気冷却管6の下側において、乾燥槽2の乾燥槽側壁2cの内面に沿うように設置されている。ただし、加熱部28の下面と溶剤液面S1との間は、少なくとも被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を配置できる距離だけ離間されている。
また、特に図示しないが、加熱管28bには、熱媒Hの温度を制御しながら循環させるチラー装置が接続されている。
放熱体28aの内側の開口の大きさは、被乾燥物保持治具9を搭載した搬送機構7が鉛直方向に挿通可能な大きさに設定されている。
このため、乾燥槽2の中心部には、上端の開口部2aと蒸気源3との間に、被乾燥物保持治具9に保持された被乾燥物Wを昇降移動させることができる空間が確保されている。
また、特に図示しないが、加熱部28と乾燥槽2の乾燥槽側壁2cとの間には、蒸気冷却管6によって冷却された溶剤蒸気4Aが下降して容易に下層の領域に戻ることができるように、鉛直方向に沿う流路が確保されている。
【0048】
蒸気乾燥装置21によれば、上記第1の実施形態の蒸気乾燥方法を略同様にして、被乾燥物Wを乾燥させることができる。
本実施形態では、蒸気充満領域形成工程において、蒸気充満領域Vが形成された後に、加熱管28bに温度T2の熱媒Hを循環させ、放熱体28aの近傍の溶剤蒸気4Aを温度T2に加熱する。熱媒Hの温度T2は、蒸気源3によって形成される溶剤蒸気4Aの温度T1より高温であるため、加熱部28の近傍の溶剤蒸気4Aの温度が上昇し、加熱部28の内周側の領域に相対的な高温となる層領域が形成される。
このため、図8に示すように、蒸気充満領域Vは、溶剤液面S1から加熱部28の下部近傍までの間で温度T1とされた下層領域V1、加熱部28の近傍において温度T2とされた中層領域V2、および加熱部28の上部近傍から蒸気面S2までの間で温度がT2〜T1まで変動する上層領域V3に分かれる。
【0049】
本実施形態の搬入工程では、図9(a)に示すように、上記第1の実施形態の搬入工程と同様に被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を蒸気充満領域Vに搬入する際、搬送機構27の移動速度制御を行い、上層領域V3、中層領域V2の通過時には、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9の昇温が抑制されるように例えば、速度v1で迅速に移動する。
そして、下層領域V1に到達したら、図9(b)に示すように、速度v1よりも低速である速度v2による移動に切り替える。ただし、速度v2は、停止および方向転換を含み、|v1|>|v2|≧0である。
以上で、搬入工程が終了する。
【0050】
被乾燥物Wが下層領域V1に到達すると、被乾燥物Wが下層領域V1における温度T1の溶剤蒸気4Aとの熱交換が起こり、第1の乾燥工程が始まる。
【0051】
本実施形態では、上記第1の実施形態と同様の第2の乾燥工程を開始するタイミングが来ると、図9(c)に示すように、搬送機構27によって、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を上昇させて中層領域V2に移動する。そして、中層領域V2において一旦停止する。この移動により、第1の乾燥工程が終了するとともに、第2の乾燥工程が始まる。
本実施形態の第2の乾燥工程では、加熱部28の熱が被乾燥物Wに伝達されることにより、被乾燥物Wが加熱される。伝達される熱には加熱部28からの輻射熱も含まれるが、中層領域V2において温度T2に昇温された溶剤蒸気4Aとの接触による熱交換の寄与が大きいと考えられる。
【0052】
被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9と熱交換して温度が下がった溶剤蒸気4Aは、下層領域V1に下降するため、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9の周囲には、放熱体28aとの熱交換により温度T2に昇温された溶剤蒸気4Aが被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9の近傍に順次供給されて、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9が中層領域V2に位置する間、このような温度T2による乾燥が継続する。これにより、第1の乾燥工程において被乾燥物Wの表面に付着した液滴が迅速に乾燥され、シミの発生が抑制される。
上記第1の実施形態と同様に、被乾燥物Wの表面の液滴が乾燥したら、第2の乾燥工程を終了する。
【0053】
次に、搬出工程では、上記第1の実施形態と同様にして、搬送機構27を駆動して、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を上昇させ、上層領域V3に移動してから、蒸気面S2を通過して、開口部2aから乾燥槽2の外部に搬出する。
【0054】
このように、蒸気乾燥装置21および蒸気乾燥装置21を用いた蒸気乾燥方法によれば、上記第1の実施形態と同様に、被乾燥物Wに溶剤蒸気4Aが凝縮した後に、加熱部28によって溶剤蒸気4Aの温度以上の温度で加熱して乾燥するため、洗浄工程で付着した水分や溶剤蒸気4Aに不純物が含まれていても、シミが発生しにくくなる。
【0055】
[第3の実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
図10は、本発明の第3の実施形態に係る蒸気乾燥装置の概略構成を示す模式的な断面図である。図11は、本発明の第3の実施形態に係る蒸気乾燥装置に用いる蓄熱部材の模式的な平面図である。図12(a)、(b)、(c)、(d)は、本発明の第3の実施形態に係る蒸気乾燥装置の動作説明図である。
【0056】
本実施形態の蒸気乾燥装置31は、図10に示すように、上記第1の実施形態の蒸気乾燥装置1の搬送機構7に代えて、上記第2の実施形態の搬送機構27を備える。また、上記第1の実施形態の蒸気乾燥装置1の加熱部8に代えて、蓄熱プレート38(蓄熱部材)を備える。以下、上記第1および第2の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0057】
蓄熱プレート38は、蒸気充満領域Vの内部において溶剤蒸気4Aの熱を蓄熱するための部材である。本実施形態では、図10、図11に示すように、被乾燥物保持治具9を載置可能な面積を有する金属製のブロック部材である。蓄熱プレート38の上面は、平面に整列されており、載置フレーム7Aの下面と密着して当接できるようになっている。
蓄熱プレート38の厚さ方向には、溶剤蒸気4Aが上下に流通できるとともに、被乾燥物W等から落下する液滴を下方に導くための多数の貫通孔38aが格子状に配列して設けられている。また、これら貫通孔38aは、蓄熱プレート38の表面積を増大させる機能も有している。
蓄熱プレート38の外形状、および材質は、蒸気充満領域V内において、第2の乾燥工程を行う間、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を温度T1で加熱できるような熱容量となるように設定される。
【0058】
また、蓄熱プレート38には、蓄熱プレート38を、蒸気充満領域V内において少なくとも搬送機構27の搬送路Mに沿って移動させる蓄熱部材移動機構30が接続されている。
本実施形態の蓄熱部材移動機構30は、不図示の駆動ガイドに沿って鉛直方向に昇降する一対のアクチュエータ30aと、各アクチュエータ30aの端部からそれぞれ鉛直下方に延ばされた吊り下げアーム30bとを備え、各吊り下げアーム30bの下端部が蓄熱プレート38の上面に固定されている。
【0059】
蒸気乾燥装置31によれば、上記第1の実施形態の蒸気乾燥方法を略同様にして、被乾燥物Wを乾燥させることができる。
本実施形態の蒸気充満領域形成工程では、図12(a)に示すように、蓄熱プレート38は、蓄熱部材移動機構30によって、蒸気源3に近い位置に配置される。
これにより、蒸気充満領域Vが形成される間に蓄熱プレート38と溶剤蒸気4Aとが熱交換し、蓄熱プレート38の温度が温度T1まで上昇する。なお、蓄熱プレート38は、貫通孔38aを多数有するため、溶剤蒸気4Aは貫通孔38aと通して対流可能である。また、溶剤蒸気4Aが対流する際に貫通孔38aを通過していくことで、蓄熱プレート38と溶剤蒸気4Aとの熱交換が促進される。
蓄熱プレート38が蒸気充満領域Vの溶剤蒸気4Aと熱平衡に達したら、蒸気充満領域形成工程を終了し、搬入工程を行う。
【0060】
本実施形態の搬入工程では、搬送機構27を用いて、上記第1の実施形態と同様にして、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9の蒸気充満領域Vへの搬入を行う。
第1の実施形態と同様に、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9が蒸気充満領域V内に搬入されると、第1の乾燥工程が始まる。
【0061】
本実施形態の第1の乾燥工程では、第1の実施形態と同様に、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9は、蒸気充満領域V内で移動していてもよいし、停止していてもよい。ただし、図12(b)に示すように、蓄熱プレート38から上方に離間した領域で、移動または停止させる。これは、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9と、蓄熱プレート38との接触を避けることで、互いに熱的な影響を受けにくくするためである。
したがって、第1の乾燥工程では、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9の近傍では、搬入時の被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9と、溶剤蒸気4Aとの温度差に応じて、温度T1よりわずかに温度が低下した温度低下領域が形成される。
【0062】
次に、本実施形態では、上記第1の実施形態と同様の第2の乾燥工程を開始するタイミングが来ると、図12(c)に示すように、蓄熱部材移動機構30または搬送機構27によって、載置フレーム7Aと蓄熱プレート38との鉛直方向の相対位置を調整して、蓄熱プレート38の上面を載置フレーム7Aの下面と当接させる。
これにより、温度T1の蓄熱プレート38から乾燥槽2の外部から搬入されたため温度T1よりも低温の載置フレーム7Aに熱伝導が起こり、載置フレーム7Aに当接した被乾燥物保持治具9を介して被乾燥物保持治具9が加熱される。
上述したように、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9の近傍の溶剤蒸気4Aは、熱交換により、温度低下領域を形成しているため、蓄熱されて温度T1を保っている蓄熱プレート38は、被乾燥物Wの周囲の溶剤蒸気4Aに比べると、より高温の加熱源になっている。
したがって、蓄熱プレート38は、搬送機構27によって乾燥槽2内に搬入された被乾燥物Wを、一定温度T1を有し蒸気源3から離間して配置された加熱源になっており、蓄熱プレート38を載置フレーム7Aと当接させる蓄熱部材移動機構30とともに、第2の乾燥工程を行う加熱部を構成している。
このようにして、本実施形態の第2の乾燥工程が開始される。
【0063】
本実施形態の第2の乾燥工程において、蓄熱部材移動機構30および搬送機構27は、このような接触状態を保ちつつ、蒸気面S2に向かう移動を行う。
そして、図12(d)に示すように、上記第1の実施形態と同様な第2の乾燥工程の終了するタイミングに合わせて蒸気充満領域Vから被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を搬出させる。以上で、第2の乾燥工程が終了する。
【0064】
次に、本実施形態の搬出工程を行う。本工程では、搬送機構27は上昇を継続することによって、上記第1および第2の実施形態と同様に、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を乾燥槽2の外部に搬出する。
一方、蓄熱部材移動機構30は、蓄熱プレート38を下降させて、載置フレーム7Aとの接触を解除する。これにより、蓄熱プレート38からの熱伝導が停止するため、蓄熱プレート38の蓄熱が再開される。
そして、さらに下降を続けて、蓄熱プレート38を蒸気充満領域形成工程における下降位置に位置付ける。これにより、上記の搬入工程以下を繰り返すことにより、他の被乾燥物Wの乾燥を引き続いて行うことができる。
【0065】
このように、蒸気乾燥装置31および蒸気乾燥装置31を用いた蒸気乾燥方法によれば、上記第1の実施形態と同様に、被乾燥物Wに溶剤蒸気4Aが凝縮した後に、蓄熱プレート38によって温度T1で加熱して乾燥するため、洗浄工程で付着した水分や溶剤蒸気4Aに不純物が含まれていても、シミが発生しにくくなる。
【0066】
[第4の実施形態]
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。
図13は、本発明の第4の実施形態に係る蒸気乾燥装置の概略構成を示す模式的な断面図である。
【0067】
本実施形態の蒸気乾燥装置41は、被乾燥物Wを複数の被乾燥物保持治具9に保持して、連続的に乾燥させるのに好適となる装置であり、図13に示すように、上記第1の実施形態の蒸気乾燥装置1の乾燥槽2、搬送機構7、加熱部8に代えて、乾燥槽42、搬送機構47、加熱部48を備える。以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0068】
乾燥槽42は、鉛直方向に沿って延ばされた有底筒状とされており、乾燥槽側壁42cの内側の上部に隔壁42aが架設され、上部に、乾燥槽側壁42cと隔壁42aとによって囲繞された2つの開口部42A、42Bが形成されている。
開口部42A、42Bの下方には、それぞれ乾燥槽側壁42cと隔壁42aとによって隔壁42aの下端部まで囲繞された鉛直方向に延びる筒状部40A、40Bが形成されている。
開口部42A、42Bおよび筒状部40A、40Bの内部の広さは、被乾燥物Wを保持した被乾燥物保持治具9の平面視の大きさよりも広く、被乾燥物Wを保持した被乾燥物保持治具9を水平方向に搬送することができる空間を形成している。
このため、乾燥槽2の内部には、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を、鉛直上方から開口部42A内に導入し、鉛直下方に移動した後、隔壁42aと乾燥槽底面42bとの間を水平方向に抜けて、開口部42Bの下方から鉛直上方に向かって移動させることができる略U字状の空間が形成されている。
【0069】
また、乾燥槽42の下部には、上記第1の実施形態と同様の蒸気源3が設けられている。蒸気源3の配置位置は、乾燥槽42の乾燥槽底面42bに対して、上記第1の実施形態における乾燥槽底面2bに対するのと同様な位置関係とされている。
【0070】
本実施形態の開口部42Aは、被乾燥物Wを乾燥槽42に搬入する搬入開口を構成しており、開口部42Bは、被乾燥物Wを乾燥槽42から搬出する搬出開口を構成している。
筒状部40A(40B)において、開口部42A(42B)の下方には、蒸気源3によって形成された溶剤蒸気4Aを冷却して、溶剤蒸気4Aを閉じ込める蒸気冷却管46A(46B)が配置されている。
蒸気冷却管46A、46Bは、上記第1の実施形態の蒸気冷却管6と同様に、例えば水などの冷媒が循環される配管が環状またはコイル状に巻き回された金属パイプからなり、それぞれ筒状部40A、40Bの内面に沿って配置されている。また、特に図示しないが、蒸気冷却管46A、46Bには、冷媒の温度を制御しながら循環させるチラー装置が接続されている。
蒸気冷却管46A、46Bの内側に形成された開口は、後述する搬送機構47の上下搬送機構47A、47Bによって、被乾燥物Wが保持された被乾燥物保持治具9を把持した状態で、鉛直方向に進退可能な大きさに設けられている。
蒸気冷却管46A、46Bの表面温度は、上記第1の実施形態の蒸気冷却管6と同様に設定されている。また、蒸気冷却管46A、46Bの下方に不図示の溶剤回収機構が設けられていることも第1の実施形態と同様である。
また、本実施形態では、蒸気冷却管46Bの設置高さは、蒸気冷却管46Aの設置高さよりも高い設定とされている。
【0071】
搬送機構47は、被乾燥物保持治具9を着脱可能に把持して、開口部42Aおよび蒸気冷却管6Aの内側と通って鉛直方向に延びる搬送路MAに沿って昇降する上下搬送機構47Aと、被乾燥物保持治具9を移動ベルト状に載置し水平方向に沿って、開口部42Aの下方の一定位置から隔壁42aの下方を通り開口部42Bの下方の一定位置に向かって延びる搬送路MCに沿って搬送するベルト搬送機構47Cと、被乾燥物保持治具9を着脱可能に把持して、開口部42Aおよび蒸気冷却管6Aの内側を通って鉛直方向に延びる搬送路MBに沿って昇降する上下搬送機構47Bとを備える。
上下搬送機構47A、47Bは、例えば、下端部に被乾燥物保持治具9を把持および把持解除するハンド部を備える搬送アームを上記第1の実施形態におけるアクチュエータ7aと同様のアクチュエータによって昇降させる構成を採用することができる。
【0072】
このような構成により、筒状部40A、40Bの中心部には、開口部42A、42Bとベルト搬送機構47Cとの間に、被乾燥物保持治具9に保持された被乾燥物Wを昇降移動させることができる空間が上下搬送機構47A、47による搬送路MA、MBの周囲に確保されている。
【0073】
加熱部48は、上記第2の実施形態の加熱部28と同様にして、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を温度T2の加熱源で加熱するものであり、筒状部40Bにおいて、蒸気冷却管46Bとベルト搬送機構47Cとの間に設けられている。
加熱部48の構成は、本実施形態では、蒸気冷却管46Bと同様の構成の金属パイプを放熱体として、この金属パイプの内部に不図示のチラー装置によって、温度T2に温度制御された熱媒Hを循環させる構成としている。
【0074】
蒸気乾燥装置41によれば、上記第1の実施形態の蒸気乾燥方法を略同様にして、被乾燥物Wを乾燥させることができる。
本実施形態の蒸気充満領域形成工程では、まず、蒸気充満領域Vを形成するが、本実施形態では、蒸気冷却管46A、46Bによって、それぞれ高さが異なる蒸気面SA、SBが形成される点が異なる。
そして、蒸気充満領域Vが形成された後に、加熱管48に温度T2の熱媒Hを循環させ、放熱体である金属パイプの近傍の溶剤蒸気4Aを温度T2に加熱する。これにより、上記第2の実施形態と同様にして、加熱部48の内周側の領域に相対的な高温となる層領域が形成される。
このため、図13に示すように、筒状部40Bにおける蒸気充満領域Vは、筒状部40Bの下端部から加熱部48の下部近傍までの間で温度T1とされた下層領域V1、加熱部48の近傍において温度T2とされた中層領域V2、および加熱部48の上部近傍から蒸気面SAまでの間で温度がT2〜T1まで変動する上層領域V3に分かれる。
【0075】
本実施形態の搬入工程では、上下搬送機構47Aによって、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を把持して、開口部42Aの上方から被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を搬入する。
被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9が蒸気充満領域V内に搬入されると、第1の乾燥工程が始まる。
【0076】
本実施形態の第1の乾燥工程では、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を蒸気充満領域V内で移動させながら、温度T1の溶剤蒸気4Aによる乾燥を行う。この際の乾燥過程は、上記第1の実施形態に説明したのと同様である。
本工程での移動経路について説明する。被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を上下搬送機構47Aによって蒸気面SAからベルト搬送機構47C上に移動し、ベルト搬送機構47C上で被乾燥物保持治具9の把持解除を行って、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9をベルト搬送機構47C上に移載する。
ベルト搬送機構47Cは、移載された被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を筒状部40Bの下方位置まで搬送する。筒状部40Bの下方位置では、予め上下搬送機構47Bが下降されており、被乾燥物保持治具9を把持できるようになっている。
被乾燥物保持治具9を把持した上下搬送機構47Bは、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を鉛直上方に移動する。この移動において、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9が下層領域V1を移動する間は、第1の乾燥工程が行われる。
【0077】
被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9が、中層領域V2に到達すると、上下搬送機構47Bを停止し、第2の乾燥工程を開始する。すなわち、上記第2の実施形態における中層領域V2における第2の乾燥工程と同様にして乾燥を行う。
上記第1の実施形態と同様に、被乾燥物Wの表面の液滴が乾燥したら、第2の乾燥工程を終了する。
【0078】
次に、搬出工程では、上下搬送機構47Bを駆動して、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を上昇させ、上層領域V3に移動してから、蒸気面SBを通過して、開口部42Bから乾燥槽42の外部に搬出する。
【0079】
なお、以上では、1つの被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9の動作について説明したが、把持解除した上下搬送機構47Aを上方に引き上げ、乾燥槽2の外部に移動した上下搬送機構47Bを再び下降させることにより、引き続いて他の被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9を投入して、上記各工程を繰り返すことができる。このため、蒸気乾燥装置41によれば、1つの乾燥槽42内に、複数の被乾燥物保持治具9に載置された被乾燥物Wを間欠的に搬送して、連続的に蒸気乾燥を行うことができる。
【0080】
このように、蒸気乾燥装置41および蒸気乾燥装置41を用いた蒸気乾燥方法によれば、上記第1の実施形態と同様に、被乾燥物Wに溶剤蒸気4Aが凝縮した後に、加熱部48によって溶剤蒸気4Aの温度以上の温度で加熱して乾燥するため、洗浄工程で付着した水分や溶剤蒸気4Aに不純物が含まれていても、シミが発生しにくくなる。
本実施形態は、上記第2の実施形態と同様に、蒸気充満領域V内に温度T2の相対的な高温となる層領域が形成する加熱部を設けた場合の例になっているが、本実施形態では、加熱部48は、隔壁42によって搬入経路がある筒状部40Aから離間された筒状部40B内の搬出経路のみに配置されている。このため、搬入経路では、被乾燥物Wおよび被乾燥物保持治具9が加熱部の影響を受けて昇温されることがなく、溶剤蒸気4Aの凝縮が効率的に行われる。この結果、水分や不純物粒子Pを溶剤蒸気4Aの凝縮した液滴とともに除去しやすくなる。
【0081】
上記の説明では、乾燥槽において、被乾燥物Wを被乾燥物保持治具9に保持して搬送する場合の例で説明したが、例えば、被乾燥物が大型の場合など、被乾燥物保持治具を用いることなく適宜の搬送機構で直接把持して搬送できる場合には、被乾燥物保持治具は必須ではない。
【0082】
また、上記の第3の実施形態の説明における図12(d)では、蓄熱プレート38が、蒸気面S2の上方にまで移動するように描いているが、これは一例であって、第2の乾燥工程を終了するには、被乾燥物Wが蒸気充満領域Vの上方に移動するだけで十分である。
したがって、蓄熱プレート38は、第2の乾燥工程の終了時に、蒸気充満領域Vにとどまっていてもよい。この場合、蓄熱プレート38が蒸気充満領域V内のみを移動するため、蒸気充満領域Vの外部に搬出される場合に比べて放熱量が少なくなり、引き続いて他の被乾燥物Wを乾燥するために、再度蓄熱する時間を短縮することができる。
【0083】
また、上記第1および第3の実施形態では、各加熱部の熱が載置フレーム7Aを熱伝導することによって、被乾燥物保持治具9および被乾燥物保持治具9に保持された被乾燥物Wが加熱される場合の例で説明したが、加熱部は、載置フレーム7Aの各格子フレーム7e間の隙間を貫通して被乾燥物保持治具9上の被乾燥物Wの近傍まで延出された櫛歯状の放熱フィンなどを備えていてもよい。
【0084】
また、上記の各実施形態、変形例で説明した構成要素は、本発明の技術的思想の範囲で適宜組み合わせたり、削除したりして実施することができる。
例えば、上記第4の実施形態の加熱部48は、上記第1の実施形態および第1変形例と同様にして上下搬送機構47Bに設けた加熱部に置換することが可能である。
また、上記第2の実施形態の加熱部において、上記第1の実施形態の第1変形例のように、加熱部28に加熱量を調整する加熱温度調整機構を設けてもよい。この場合、被乾燥物Wが蒸気充満領域Vに搬入される際には、加熱部28の加熱を停止または抑制することで、被乾燥物Wの温度上昇を低減できるため、第1の乾燥工程において効率的に溶剤蒸気4Aの凝縮させることができる。
【符号の説明】
【0085】
1、11、21、31、41 蒸気乾燥装置
2、42 乾燥槽
2a 開口部
3 蒸気源
4 溶剤
4A 溶剤蒸気
5 溶剤加熱部
6、46A、46B 蒸気冷却管
7、27、47 搬送機構
7A 載置フレーム
7a アクチュエータ
7e 格子フレーム
8、18、28、48 加熱部
8a 循環路
9 被乾燥物保持治具
10 冷却管
28a 放熱体
28b 加熱管
30 蓄熱部材移動機構
38 蓄熱プレート(蓄熱部材)
42A 開口部(搬入開口)
42B 開口部(搬出開口)
47 搬送機構
47A、47B 上下搬送機構
47C ベルト搬送機構
H 熱媒
M、MA、MB、MC 搬送路
P 不純物粒子
S1 溶剤液面
S2 蒸気面
V 蒸気充満領域
V1 下層領域
V2 中層領域
V3 上層領域
W 被乾燥物
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定温度に温度調整された溶剤蒸気を供給する蒸気源と、
被乾燥物を搬入および搬出する開口部を有し、該開口部の下方に前記蒸気源から供給された前記溶剤蒸気を充満させて蒸気充満領域を形成する乾燥槽と、
前記被乾燥物を前記乾燥槽の内外にわたる搬送路に沿って搬送する搬送機構と、
該搬送機構によって前記乾燥槽内に搬入された前記被乾燥物を、前記一定温度以上の温度を有し前記蒸気源から離間して配置された加熱源によって加熱する加熱部と、
を備えることを特徴とする蒸気乾燥装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸気乾燥装置において、
前記加熱部は、前記搬送機構に設けられた
ことを特徴とする、蒸気乾燥装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の蒸気乾燥装置において、
前記加熱部は、加熱量を調整する加熱調整機構を有する
ことを特徴とする、蒸気乾燥装置。
【請求項4】
請求項1に記載の蒸気乾燥装置において、
前記加熱部は、前記蒸気充満領域における前記搬送機構の搬送路の周囲に配置された
ことを特徴とする、蒸気乾燥装置。
【請求項5】
請求項4に記載の蒸気乾燥装置において、
前記開口部は、前記被乾燥物を前記乾燥槽に搬入する搬入開口と、前記被乾燥物を前記乾燥槽から搬出する搬出開口とからなり、
前記搬入開口および前記搬出開口の下方の前記蒸気充満領域が仕切られて、搬入領域と搬出領域とに区分され、
前記加熱部は、前記搬出領域における前記搬送機構の搬送路の周囲に配置された
ことを特徴とする、蒸気乾燥装置。
【請求項6】
請求項1に記載の蒸気乾燥装置において、
前記加熱部は、
前記蒸気充満領域内で前記溶剤蒸気の熱を蓄熱する蓄熱部材と、
該蓄熱部材を、前記蒸気充満領域内において少なくとも前記搬送機構の搬送路に沿って移動させる蓄熱部材移動機構と、
を備えることを特徴とする、蒸気乾燥装置。
【請求項7】
一定温度に温度調整された溶剤蒸気を乾燥槽内に充満させて蒸気充満領域を形成する蒸気充満領域形成工程と、
前記蒸気充満領域に被乾燥物を搬入する搬入工程と、
前記蒸気充満領域に搬入された前記被乾燥物を前記溶剤蒸気に接触させて乾燥を行う第1の乾燥工程と、
該第1の乾燥工程の開始後に、前記蒸気源から離間して配置された加熱源によって前記被乾燥物を前記一定温度以上の温度で加熱して乾燥を行う第2の乾燥工程と、
前記第1および第2の乾燥工程の終了後に、前記被乾燥物を前記蒸気充満領域から搬出する搬出工程と、
を備えることを特徴とする蒸気乾燥方法。
【請求項1】
一定温度に温度調整された溶剤蒸気を供給する蒸気源と、
被乾燥物を搬入および搬出する開口部を有し、該開口部の下方に前記蒸気源から供給された前記溶剤蒸気を充満させて蒸気充満領域を形成する乾燥槽と、
前記被乾燥物を前記乾燥槽の内外にわたる搬送路に沿って搬送する搬送機構と、
該搬送機構によって前記乾燥槽内に搬入された前記被乾燥物を、前記一定温度以上の温度を有し前記蒸気源から離間して配置された加熱源によって加熱する加熱部と、
を備えることを特徴とする蒸気乾燥装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸気乾燥装置において、
前記加熱部は、前記搬送機構に設けられた
ことを特徴とする、蒸気乾燥装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の蒸気乾燥装置において、
前記加熱部は、加熱量を調整する加熱調整機構を有する
ことを特徴とする、蒸気乾燥装置。
【請求項4】
請求項1に記載の蒸気乾燥装置において、
前記加熱部は、前記蒸気充満領域における前記搬送機構の搬送路の周囲に配置された
ことを特徴とする、蒸気乾燥装置。
【請求項5】
請求項4に記載の蒸気乾燥装置において、
前記開口部は、前記被乾燥物を前記乾燥槽に搬入する搬入開口と、前記被乾燥物を前記乾燥槽から搬出する搬出開口とからなり、
前記搬入開口および前記搬出開口の下方の前記蒸気充満領域が仕切られて、搬入領域と搬出領域とに区分され、
前記加熱部は、前記搬出領域における前記搬送機構の搬送路の周囲に配置された
ことを特徴とする、蒸気乾燥装置。
【請求項6】
請求項1に記載の蒸気乾燥装置において、
前記加熱部は、
前記蒸気充満領域内で前記溶剤蒸気の熱を蓄熱する蓄熱部材と、
該蓄熱部材を、前記蒸気充満領域内において少なくとも前記搬送機構の搬送路に沿って移動させる蓄熱部材移動機構と、
を備えることを特徴とする、蒸気乾燥装置。
【請求項7】
一定温度に温度調整された溶剤蒸気を乾燥槽内に充満させて蒸気充満領域を形成する蒸気充満領域形成工程と、
前記蒸気充満領域に被乾燥物を搬入する搬入工程と、
前記蒸気充満領域に搬入された前記被乾燥物を前記溶剤蒸気に接触させて乾燥を行う第1の乾燥工程と、
該第1の乾燥工程の開始後に、前記蒸気源から離間して配置された加熱源によって前記被乾燥物を前記一定温度以上の温度で加熱して乾燥を行う第2の乾燥工程と、
前記第1および第2の乾燥工程の終了後に、前記被乾燥物を前記蒸気充満領域から搬出する搬出工程と、
を備えることを特徴とする蒸気乾燥方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−122631(P2012−122631A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271592(P2010−271592)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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