説明

蓄電モジュール

【課題】蓄電セルの温度制御が容易で信頼性の高い蓄電モジュールを得ることを目的とする。
【解決手段】電極エレメント12が電解液とともに外装体19の内部に密閉収納され、正極17からの端子11Pおよび負極14からの端子11Nがそれぞれ外装体19の外部に引き出された複数の蓄電セル10と、端子11間の接合によって電気的に接合された複数の蓄電セル10を収納するモジュール容器2と、を備えた蓄電モジュール1であって、モジュール容器2の外表面には第1の放熱面HRと第2の放熱面HRとが設けられ、蓄電セル10の外装体19表面から第1の放熱面HRにかけて形成された伝熱経路HTと、端子11の接合部Jから第2の放熱面HRにかけて形成された伝熱経路HTと、を有し、伝熱経路HTと伝熱経路HTとは、容器2内で熱伝導率の低い部材により隔てられているように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的に接続された複数の蓄電セルを容器内に収納した蓄電モジュールの構造に関し、とくに温度制御の容易な構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタやリチウムイオン電池などの蓄電セルは、急速充電、短時間大容量放電が可能である。そして、このような蓄電セルの複数を直列接続や並列接続を組み合わせて電圧や電流の動作範囲を調整し、容器内に収納した蓄電モジュールが、電気自動車やハイブリッド自動車等でのエネルギー回生手段として搭載が検討されている。とくに自動車における回生動作では大きなエネルギーを出し入れするので、加速減速に応じて数百アンペアもの電流が蓄電モジュール内に流れる場合がある。1回の加速減速は短時間であるが、頻繁に繰り返されると、断続的に大電流が蓄電モジュール内の蓄電セルや電流端子等に流れることになり、その結果、電圧ロスによって生じる発熱により、蓄電モジュール内の温度が上昇する。
【0003】
そのため、蓄電モジュールの温度範囲を適正に保つため、効率よく放熱するための工夫がなされてきた。例えば、円筒型の蓄電セル(キャパシタ)の複数を端子部分が同じ面になるように並べ、バスバーでセル端子を接続するとともに、端子部分に熱伝導性の充填剤を充填したり、冷却フィンを直結したりしてセル端子部分とバスバーからの発熱をモジュール容器外まで導いた蓄電装置や、平板状の蓄電セルの複数を平面状に配置し、端子部やバスバーをモジュールケースのボスと共締め構造にすることで、外部へ熱を放出するモジュール電池が提案されている(例えば、特許文献1または特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−150014号公報(段落0019〜0031、0065〜0071、図1、図6)
【特許文献2】特開2004−39485号公報(段落0028〜0033、図2、図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、蓄電モジュール内での発熱部分は大きく二つに分けられる。一つは正極、負極、セパレータおよび電解液等から構成される各蓄電セル内での発熱であり、もう一つは各蓄電セル間を接続するセル端子部からの発熱である。いずれも電流と内部抵抗(電気化学的な反応抵抗分を含む)の値に依存する発熱で、充放電いずれの場合にも発生する。発熱の大部分は蓄電セル内で発生するが、熱容量の関係からセル端子部の方が蓄電セルよりも高温になる。そのため、上記のように端子部分でまとめて放熱する構成では、セル端子部分から逆に蓄電セル側に熱が流入して、蓄電セルの温度制御が困難となり、信頼性が低下する恐れがあった。
【0006】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、セル端子部からの蓄電セルへの熱の流入を抑制し、蓄電セルの温度制御が容易で信頼性の高い蓄電モジュールを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の蓄電モジュールは、正極と負極とがセパレータを介して対峙した状態で所定の形態をなす電極エレメントが電解液とともに外装体の内部に密閉収納され、前記正極からの端子および前記負極からの端子がそれぞれ前記外装体の外部に引き出された複数の蓄電セルと、前記端子間の接合によって電気的に接合された前記複数の蓄電セルを収納する容器と、を備えた蓄電モジュールであって、前記容器の外表面には第1の放熱面と第2の放熱面とが設けられ、前記蓄電セルの外装体表面から前記第1の放熱面にかけて形成された第1の伝熱経路と、前記端子間の接合部から前記第2の放熱面にかけて形成された第2の伝熱経路と、を有し、前記第1の伝熱経路と前記第2の伝熱経路とは、前記容器内で前記第1の伝熱経路を形成する部材および前記第2の伝熱経路を形成する部材よりも熱伝導率の低い部材により隔てられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の蓄電モジュールによれば、端子部分からの伝熱経路と蓄電セルからの伝熱経路とは、熱伝導率の低い材料で隔てられているので、端子部分から蓄電セル側への熱の流入を抑制し、蓄電セルの温度を適切に制御して信頼性の高い蓄電モジュールを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる平板形蓄電モジュールの構成を示す平面図である。
【図2】本発明の実施の形態1にかかる平板形蓄電モジュールの構成を示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1にかかる平板形蓄電モジュールに用いる平板型蓄電セルの構成を示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1にかかる平板形蓄電モジュールにおけるセル接合部および蓄電セルからの放熱経路を示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態1にかかる平板形蓄電モジュールにおける蓄電セルのシール部の折り曲げ角度と隣接セルの間隔の関係を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態1にかかる平板形蓄電モジュールにおける冷却方法を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態1の変形例にかかる蓄電モジュールの構成を示す平面図である。
【図8】本発明の実施の形態2にかかる蓄電モジュールの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1〜図6は、本発明の実施の形態1にかかる蓄電モジュールの構成を説明するためのもので、図1は蓄電モジュールを示す平面図で、図1(a)は蓄電モジュールの下側の容器に蓄電セルを配列し、電気接続した状態、図1(b)はさらに伝熱経路を形成するための導電剤を充填した状態(蓄電モジュールの容器上側をはずした状態でもある)、図1(c)は蓄電モジュールの外観(容器内に収納された状態)を示す図である。図2は図1(c)におけるA−A線による断面を示す図、図3は蓄電セルの構成を説明するための断面図、図4はモジュール内での熱の流れを説明するための図2と同じ断面部分の拡大図、図5は蓄電セルの端子部分の曲げ角度の隣接する蓄電セル間の間隔への影響を説明するための図、図6は、蓄電モジュールの冷却系統の構成を示す図である。以下、詳細に説明する。
【0011】
本発明の実施の形態1にかかる蓄電モジュール1は、図1と図2に示すように、平板状の蓄電セル10a、10b、・・・(まとめて蓄電セル10と称する)を平板の面の延在方向で配列した扁平形状の蓄電モジュールである。モジュール容器2は主たる構成材20を金属より熱伝導性が低く、100℃程度の耐熱性と比較的剛性があるポリプロピレン等の樹脂で構成され、表裏の蓋で分割(20a,20b)され、一端部から蓄電セルの接続体からの端子(モジュール端子)5P、5Nを外部へ導出した状態で、周囲をネジ等で接合し、収納した蓄電セル10を外部から密封する。そして、モジュール容器2には、後述する蓄電セル10および端子11(および接合部J)の配置に対応して高熱伝導性の部材21、22を配置している。
【0012】
蓄電モジュール1の構成としては、図1(a)に示すように、モジュール容器2内に平面状に並べられた複数の平板状の蓄電セル10を有し、並べられた蓄電セル10のそれぞれから導出された端子11どうしの接合JT、および端子11とバスバー4a〜4c(まとめてバスバー4と称する)との接合JTにより、各蓄電セル10a〜10fが電気的に直列になるように電気接続されている。さらに、図1(b)に示すように、各蓄電セル10とモジュール容器2との間には、高熱伝導性弾性充填剤9が充填され、端子11どうしの接合部JTと容器2との間(8a)、およびバスバー4と容器の間(8b、8c)には高熱伝導性絶縁充填剤8を充填している。
【0013】
ここで、平板状の蓄電セル10の構成について説明する。蓄電セル10は、図3に示すように正極17、負極14及びセパレータ18を合わせて巻回し、略平板状をなす電極エレメント12が、電解液を含んだ状態でアルミラミネートシートによる外装体19に内包されている。そして、正極17の集電箔17cに接続された板状(またはシート状)の集電端子11Pと負極14の集電箔14cに接続された板状(またはシート状)の集電端子11N(まとめて端子11と称する)が外装体19であるアルミラミネートシートの外縁部分のシール部19sから外部へ導出している。
【0014】
なお、電極エレメント12の構成は、正極17とセパレータ18と負極14の積層を繰り返して略平板状をなすようにしてもよく、あるいは、正極17と負極14とがセパレータ18を介して対峙した状態で折りたたんで略平板状をなすようにしてもよい。また、電極エレメント12の形状も略平板状に限らず円筒状になってもよい。つまり、蓄電セル10は、正極17と負極14とがセパレータ18を介して対峙した状態で所定の形態をなす電極エレメント12が、電解液を含んだ状態でアルミラミネートシートによる外装体19に内包されていればよい。
【0015】
負極14は、負極集電箔14cの両面に一部を残して負極電極層14eが塗布されたもので、負極集電箔4cのうち、負極電極層4eが塗布されていない部分が側面で束ねられ、アルミ製の集電端子11Nで固定されるとともに電気的に接続されている。集電端子11Nはアルミラミネートシート製の外装体19と共に熱融着され、シール部19sから外側が外部へ露出している。同様に、正極17は、正極集電箔17cの両面に一部を残して正極電極層7eが塗布されたもので、正極集電箔7cのうち、正極電極層7eが塗布されていない部分が負極14とは反対側の側面で束ねられ、アルミ製の集電端子11Pで固定されるとともに電気的に接続されている。集電端子11Pもアルミラミネートシート製の外装体19と共に熱融着され、シール部19sから外側が外部へ露出している。これにより、蓄電セル10の内部にある電極エレメント12および電解液は外部から密閉され、電気接続用の端子11のみが外部に露出することになる。
【0016】
ここで、正極集電端子11Pと負極集電端子11Nが、それぞれ蓄電セル10の面の延在方向で反対側に取り付けているのは、蓄電セル10を扁平な蓄電モジュール1内で直列接続するのに適した配置にするためである。蓄電セル10が電気二重層キャパシタの場合は、集電端子11Pも11Nも同じ材料のものを使用することができるが、リチウムイオンキャパシタの場合には、負極側の集電端子11Nには銅製の集電端子を使用する。
【0017】
蓄電セル10の外装体19に用いるアルミラミネートシートは、アルミニウム金属箔の一方の面にナイロン層が重ねられ、他方の面にポリプロピレン層が重ねられており、ナイロン層が重ねられた面が、電極エレメント12を包んだ際に外側となり、ポリプロピレン層が重ねられた面が内側となる。アルミラミネートシートの外面用の層材料としては、ナイロンなどのポリアミド層の代わりに、ポリエチレンテレフタレート、ポロエチレンナフタレート等のポリエステル類やポリプロピレン等の樹脂の層としてもよく、異なる樹脂を複数層積層してもよい。また、内面用の層材料としては、ポリプロピレン層の代わりに、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂等の熱可塑性樹脂の層としてもよい。また、中間層としてフッ化水素保護層や水分トラップ層を設けたアルミラミネートシートを外装材として使用しても良い。いずれにせよ、蓄電セル10の外装体19部分は電極エレメント12や端子11とは電気的に絶縁されているとともに、端子11とともに熱融着した部分19sを含め、周縁部は容易に屈曲させることができる。
【0018】
そのため、モジュール容器2内に、各蓄電セル10を平面状に配列する際、セル端子部11は図2、図4に示すように厚み方向でそれぞれ反対側(例えば、図において、端子11Pは一度シール部19sとともに下向きに曲げてそこから上向きへ、一方、端子11Nは一度シール部19sとともに上向きに曲げてそこから下向きへ)に折り曲げるようにする。すると、隣接する蓄電セル10aと10b間の端子11Pと11Nの端部同士が平行な状態で接するので、その部分を面接合することで接合部JTを形成し、接合部JTを蓄電セル10の厚み方向に覆うように高熱伝導性絶縁充填剤8を充填する。高熱伝導性絶縁充填剤8と直接接触するモジュール容器2の部分には、アルミ等の素材で構成されたセル端子部用高熱伝導性部材22が配置してある。高熱伝導性絶縁充填剤8はモジュール容器2の内側面より0.5〜2.0mm程度はみ出すように充填する。また、モジュール容器2内の配列で端部に位置する蓄電セル10の端子11(10aと10dの11N、10cと10fの11P)は、接合先がバスバー4になるだけで、その接合部分JTを含めバスバー4部分には、蓄電セル10同士の接合部JTと同様に高熱伝導性絶縁充填剤8b、8cを充填する。
【0019】
ここで端子11部分におけるシール部19sの折り曲げ角度ATと、隣接する蓄電セル10間の間隔DCの関係について図5を用いて説明する。図において、端子接合部JTは、隣接する蓄電セル10aの端子11Pと蓄電セル10bの端子11Nを面接合し、高熱伝導性絶縁充填剤8を充填し、上側のモジュール容器2bをかぶせる前の断面図である。そして、図5(a)と図5(b)では、端子11とともにシール部19sを厚み方向に向けて折り曲げた場合の状態を示すもので、図5(c)では、シール部19sを折り曲げずに直線的に延ばし、端子11のみを曲げた場合の状態を示す。図において、シール部19sの各折り曲げ角AT〜ATの関係は、AT>AT>AT=0となっている。図から明らかなように隣接する蓄電セル10間の間隔DC〜DCの関係は、DC>DC>DCとなっており、シール部19sを厚み方向に向けて大きく折り曲げるほど隣接蓄電セル10間の間隔DCが短くなることが分かる。つまり、シール部19sを折り曲げるほどモジュール1のサイズをコンパクトにできる。一方、間隔を近づけすぎると、高熱伝導性絶縁充填剤8と蓄電セル10の外装体19または高熱伝導性弾性充填剤9とを分離(間隔を取る)することが困難となるので、折り曲げ角は90°以下に抑えるのが望ましい。
【0020】
各蓄電セル10とモジュール容器2の間(厚み方向の空間)に充填する高熱伝導性弾性充填剤9(この場合シート状のもの)は、蓄電セル10をモジュール容器2内に収納したときにセル接合部JTの高熱伝導性絶縁充填剤8のはみ出し高さより小さくなる程度の0〜0.5mmはみ出させている。そのため、蓄電セル10がモジュール容器2に収納された時には、その部分が圧縮され、対面するモジュール容器2の蓄電部用高熱伝導性部材21に密着する。なお、高熱伝導性弾性充填剤9は蓄電セル10の外装材19表面およびモジュール容器2内壁の凹凸を吸収し、各蓄電セル10に均等に面圧が印加する作用があるが、各蓄電セル10の厚みとモジュール容器2の内側の寸法関係により、蓄電セル10がモジュール容器2の蓄電部用高熱伝導性部材21に所定の面圧で直接接することができれば、高熱伝導性弾性充填剤9を配置しなくても蓄電セル10から外部への伝熱経路を確保することができる。
【0021】
ここで用いられる高熱伝導性絶縁充填剤8は、端子接合部JTに塗布して使用できるペースト状のものがよく、電気絶縁性を有するとともに、充放電時に発生する熱を可及的に放散させる観点から、高熱伝導性であるのがいい。また、圧縮して用いるため、粘弾性をも有するのがよい。表1に主要物質の熱伝導率の一般的な値を示す。
【0022】
【表1】

【0023】
本発明の実施の形態1にかかる蓄電モジュールで使用可能な高熱伝導性絶縁充填剤8としては、熱伝導率が1W/m・k以上の高熱伝導性のものとして、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、PET、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ABS樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂などの樹脂類や樹脂類より高電導性を有しかつ絶縁性を有する窒化物、酸化物などのセラミックスの混合物が適している。
【0024】
また、蓄電セル10の外装体19とモジュール容器2間に充填する高熱伝導性弾性充填剤9は、上記高熱伝導性絶縁充填剤8と同様の熱伝導性を持つものがいいが、電気絶縁性はなくてもいいため、上記高熱伝導性絶縁充填剤8にカーボンなどを混合し熱伝導性を更に向上させたものも用いると放熱の効果が更に向上する。また、高熱伝導性弾性充填剤9は、所定厚みの弾性体シートに予め成形し、蓄電セル10の電極エレメント12の大きさとほぼ同等の大きさのものを用いることで組み立てが容易になる。
【0025】
このような構成で表裏のモジュール容器2a、2bを接合して、図1(c)および図2のような状態にパッケージ化すると、高熱伝導性絶縁充填剤8は、端子部用高熱伝導性部材22に圧接され、また、蓄電セル10は蓄電部用高熱伝導性部材21、高熱伝導性弾性充填剤9を介して適度な面圧が印加されることになり、熱伝導性が促進される。
【0026】
つぎに、動作について説明する。
蓄電モジュール1に対して充放電を実施すると、各蓄電セル10に電流が流れ、その時の抵抗に応じた部材内の電圧降下による電力損失が熱となって各部材の温度が上昇する。このとき、端子接合部J11からの1秒当りの発熱量(Q)は式(1)によって決まる。なお、蓄電セル10内での発熱は、反応抵抗による電圧ロス分も含まれる。
Q=I×R×t・・・(1)
ただし、Iは電流値、Rは内部抵抗、tは時間を示す。
そのときの上昇温度(ΔT)は式(2)に示す値となり、発熱量は電流値の二乗に比例するため、急速充放電が連続的に繰り返される場合は、セル端子部分の温度は100℃を越える場合がある。
ΔT=(Q−Q)/C・・・(2)
ただし、Cは熱容量、Qは発熱量、Qは周囲への放熱量を示す。
【0027】
たとえば、アルミニウム製の端子11の寸法が長さ30mm、幅:20mm、厚み0.3mmとすると、アルミニウムの物性値は、電気抵抗率ρ=2.75μΩ・cm、比熱c=0.905kJ/kg/K、密度ρ=2688kg/m(伝熱工学資料、温度300K)なので、端子11の内部抵抗R=2.75×10−6×3/2/0.03=1.375×10−4Ω、熱容量C=0.905×10×(0.03×0.02×0.0003×2688)=0.438J/Kとなる。ここで、端子11に流れる電流値I=250A、通電時間t=1秒の場合、端子11での電圧降下は34mVとなり、式(1)から求められる発熱量Q=8.594Jとなり、放熱がない(Q=0)とすると式(2)から求められる温度上昇ΔT=19.6℃となる。
【0028】
したがって、断熱状態で5秒連続して充放電が繰り返されると、端子11が容易に100℃以上の温度上昇を起こすことになる。このような状況は車載用としては普通に起こるものと考えられるが、アルミニウムの融点は660℃であり、アルミ同士の接続ならば、接合部JTの耐熱温度も融点と同程度となり、適度に冷却していれば、接合部が溶断するような事態が起こる可能性は低い。また、アルミニウムの電気抵抗率ρの温度係数αは、4.2×10−3/Kであり、250℃温度が上昇すると、抵抗Rがほぼ倍程度に増加するので、温度を低く保つ必要はあるが、融点以下の温度であれば劇的に抵抗が増加するわけではなく、電気接続としての信頼性が保てる程度に冷却できればよい。
【0029】
一方、上記のような大電流時の蓄電セル10内(厳密には電極エレメント12内)での内部抵抗および反応抵抗による電圧ロスは、100mV以上で、端子11での電圧降下の数倍にもなり、端子接合部分JTよりも発熱量が圧倒的に大きい。しかし、電極エレメント12の熱容量は端子の数十倍にもなるので、実際には、端子よりも温度が高くなることはない。しかし、蓄電セル10内には、電極エレメント12がキャパシタや電池として機能するために有機電解液が封入されている。そのため、高温では電解液の分解や副反応でセル性能の劣化が早くなり、更に可燃性ガスが発生する場合もあるため安全性の低下が懸念される。したがって、高温にさらされる時間は短い方が望ましく、一般的に定常使用温度としての上限は端子部の上限よりもはるかに低い40℃〜60℃である。
【0030】
このように、異なる熱の発生原がそれぞれ異なる温度特性を持っているにもかかわらず、従来は温度が高く放熱が容易な端子部分に放熱機構を集約していた。そのため、高温になりやすい端子部分の熱が蓄電セル内に流れ込んで蓄電セルの温度を上昇させ、蓄電セルの信頼性を低下させる恐れがあった。
【0031】
しかしながら、本発明の実施の形態1にかかる蓄電モジュール1では、上記構成によって蓄電セル10からの放熱経路と端子接合部JTやJT及びバスバー4といった電気接続系統からの放熱経路を別系統としたので、蓄電セル10への端子11からの熱の流れこみを抑制し、蓄電セルの10の温度を最適に調整することができる。この伝熱経路について図4を用いて説明する。図4は、蓄電モジュール1のセル端子部11(特に接合部JT)で発生した熱HGと蓄電セル部10で発生した熱HGのそれぞれの熱伝導の主経路を示す。図において、端子接合部JT(図示しないがJTも同様)で発生した熱HGは、端子11自身を伝熱経路として、蓄電セル10に伝わるものと、高熱伝導性絶縁充填剤8を通ってモジュール容器2に組み込まれているセル端子部高熱伝導部材22に伝熱される熱流線HTがあるが、端子11の断面積は小さいので、ほとんどが高熱伝導性絶縁充填材8を介して熱流線HTとしてセル端子部高熱伝導部材22に伝わる。このとき、セル端子部高熱伝導部材22に伝わった熱の一部は、モジュール容器2面内でも伝熱するが、モジュール容器2の主構成材20はセル端子部高熱伝導部材22よりも熱伝導性が低い、比較的熱伝導性の小さい樹脂で出来ているため、主たる熱はセル端子部高熱伝導部材22表面に設けられた放熱面HRから外部へ放熱される。
【0032】
一方、蓄電セル10内で発生した熱HGは、高熱伝導性弾性充填剤9を通って熱流線HTとして蓄電部高熱伝導部材21に伝わる。このとき、蓄電部高熱伝導部材21に伝わった熱の一部は、モジュール容器2面内でも伝熱するが、モジュール容器2の主構成材20は蓄電部高熱伝導部材21よりも熱伝導性が低い、比較的熱伝導性の小さい樹脂で出来ているため、主たる熱は蓄電部高熱伝導部材21の表面に設けられた放熱面HRから外部へ放熱される。
【0033】
蓄電部高熱伝導性部材21、およびセル端子部高熱伝導性部材22の外表面は、溝を刻むなどで表面積を大きくすると放熱を促進する効果が上がる。また、この2つの部材は、直接接触していないため、一方の温度が他方の温度より高い場合でも、互いに熱が伝わらないため、端子接合部JTやJTが高温になっても、蓄電セル10側への熱流入を抑制し、蓄電セル10の温度上昇を防止できる。つまり、蓄電セル10からの伝熱経路HTと端子接合部Jからの伝熱経路HTとは、容器内2で伝熱経路HTを形成する材料(高熱伝導性弾性充填剤9と蓄電部高熱伝導部材21)および伝熱経路HTを形成する材料(高熱伝導性絶縁充填剤8とセル端子部高熱伝導部材22)よりも熱伝導率の低い材料(容器2の主構成材20または空気)により隔てられているので、蓄電セル10と端子接合部J(JTおよびJT)は、それぞれが独立した放熱機構(熱経路)を有することになる。そのため、端子接合部JT、JTと蓄電セル10を個別に温度制御することができ、効率的な冷却と最適な温度管理が可能となる。
【0034】
そこで、本実施の形態1にかかる蓄電モジュール1に対しては、図6に示すように、冷却媒体である冷却風FRが蓄電部高熱伝導性部材21上を流れた後にセル端子部高熱伝導性部材22上を流れるような図示しない冷却機構(例えば、ファンや冷却風の誘導壁、温度センサーなど)を設けた。これにより、厳密な温度管理を必要とする蓄電セルの温度を60℃以下に適切に調節できるともに、余った冷風によって、比較的温度の高い端子の冷却に使用することができ、効率よく冷却することができる。
【0035】
また、図示しないが、厳密な温度制御(40〜60℃以下)を必要とし、放熱部の温度が低い蓄電部高熱伝導性部材21は水冷(液体の冷却媒体)で、それほど厳密な管理を必要としないセル端子部高熱伝導性部材22は空冷(気体の冷却媒体)というようにそれぞれ独立した放熱機構を備えてもよい。
【0036】
また、セル端子11は電気抵抗の小さい銅やアルミニウムなどを用いるが、これらの材料は常温から100℃程度の温度でも大気中で比較的酸化されやすい、しかし、高熱伝導性絶縁充填剤8でセル端子接合部JT、JTを覆うことで、端子接合部JTやJTが大気に露出しないため、長期間の使用によっても酸化されにくい。
【0037】
以上のように、本発明の実施の形態1にかかる蓄電モジュール1によれば、正極17と負極14とがセパレータ18を介して対峙した状態で所定の形態をなす電極エレメント12が電解液とともに外装体19の内部に密閉収納され、正極17からの端子11Pおよび負極14からの端子11Nがそれぞれ外装体19の外部に引き出された複数の蓄電セル10と、端子11およびバスバー4間の接合によって電気的に接合された複数の蓄電セル10を収納するモジュール容器2と、を備えた蓄電モジュール1であって、モジュール容器2の外表面には第1の放熱面HRと第2の放熱面HRとが設けられ、蓄電セル10の外装体19表面から第1の放熱面HRにかけて形成された第1の伝熱経路である伝熱経路HTと、端子11間や端子11とバスバー4間の接合部Jから第2の放熱面HRにかけて形成された第2の伝熱経路である伝熱経路HTと、を有し、第1の伝熱経路HTと第2の伝熱経路HTとは、容器2内で第1の伝熱経路HTを形成する部材(高熱伝導性弾性充填剤9と蓄電部高熱伝導部材21)および第2の伝熱経路HTを形成する部材(高熱伝導性絶縁充填剤8とセル端子部高熱伝導部材22)よりも熱伝導率の低い部材(容器2の主構成材20または空気)により隔てられているように構成したので、セル端子部11(接合部J)からの蓄電セル10への熱の流入を抑制し、蓄電セル10の温度制御が容易で信頼性の高い蓄電モジュールを得ることができる。
【0038】
とくに、モジュール容器2は、平板状の蓄電セル10が当該蓄電セル10の面の延在方向に配列できるように面の延在方向に沿った扁平形状をなし、接合部Jはモジュール容器2内に配列された蓄電セル10に対して面の延在方向において異なる位置に形成され、第1の放熱面HRおよび第2の放熱面HRは、それぞれモジュール容器2の扁平な面の延在方向における蓄電セル10a〜10fおよび接合部Jのそれぞれの位置に対応した領域に設けられ、第1の伝熱経路HTは、外装体19の表面のうち蓄電セル10の厚み方向の両面からそれぞれ厚み方向に沿って当該蓄電セル10に対応した第1の放熱面HRに向かって形成され、第2の伝熱経路HTは、接合部Jから厚み方向に沿って当該接合部Jに対応した第2の放熱面HRに向かって形成されるようにしたので、蓄電セル10から放熱面HRにかけての伝熱経路HTと、セル端子11(接合部J)から放熱面HRにかけての伝熱経路HTと、を平面内で容易に区分けして形成することができる。そのため、冷却媒体である例えば冷却風などの流れ(パターン)を面内で制御するだけで、温度制御を容易に行うことができる。
【0039】
また、モジュール容器2の前記容器の内と外とを隔てる壁材のうち、第1の放熱面HRおよび第2の放熱面HRに対応する部分の壁材は、当該容器の主構成材料20よりも熱伝導率の高い伝熱部材21、22で構成されているので、モジュール容器内で第1の伝熱経路HTと第2の伝熱経路HTとを効果的に断熱することができ、蓄電セル10の温度制御が容易となる。
【0040】
さらに、伝熱部材21、22は金属であり、第2の伝熱経路HTを構成する部材のうち、接合部Jと伝熱部材22との間は、絶縁性の熱伝導性充填剤8を充填して構成されているので、電気的な信頼性が高くなる。
【0041】
また、第1の放熱面HR上に冷媒を流した後に第2の放熱面HR上を流れるように制御する冷却機構を備えるようにしたので、蓄電セルの温度を適切に制御できるとともに効率的に端子部の冷却をおこなうこともできる。
【0042】
なお、モジュール容器2の一部であるセル端子部高熱伝導性部材22、および蓄電部高熱伝導性部材21のそれぞれの周縁部には、図2および図4に示すように、厚み方向にテーパが設けられている。さらに、モジュール容器2の主構成材20にも、モジュール容器2の内側から外側にむかって狭くなるようなテーパ状の開口部が設けられており、セル端子部高熱伝導性部材22、および蓄電部高熱伝導性部材21をモジュール容器2の内側から開口部にはめ込むことで、高熱伝導性絶縁充填剤8および高熱伝導性弾性充填剤9から外向きに力を受けた場合に、モジュール容器2内に固定され、面圧を維持することが可能となる。
【0043】
また、本実施の形態においては、接合部JTすべてに絶縁性の熱伝導性充填剤8を充填して、伝熱経路を形成したが、伝熱経路を形成する対象を適宜絞り込んでも良く、例えば発熱の少ないバスバー本体部分については、被覆しないようにしてもよい。
【0044】
実施の形態1の変形例.
図7は本実施の形態3にかかる蓄電モジュールの平面図であり、実施の形態1における図1(c)と同じ部分を示す図である。本変形例では、蓄電部高熱伝導性部材の形状を変更したものであり、他の構成は実施の形態1と同様であるので説明を省略する。実施の形態1においては、蓄電部高熱伝導性部材21は、蓄電セル10毎に独立して設けたが、本変形例では、図に示すように蓄電部高熱伝導性部材221は、各蓄電セル10a〜10f間で共通の部材となっている。これにより、各蓄電セル10間の熱伝導が促進されるので、各蓄電セル10間の温度差を抑制し、蓄電セル10毎の性能を揃えることができるようになる。
【0045】
実施の形態2.
なお、上記実施の形態では、平板型の蓄電セル10を面内に並べた扁平型蓄電モジュール1について示したが、蓄電セルが円筒型の場合でも本発明の技術思想を適用することは可能である。例えば、図8に示すように、円筒形の蓄電セル310を端子311が上面になるように並べた場合、端子部311やバスバー304はモジュールの上側に集約され、蓄電セル310部分は下側に集約される。この場合、蓄電セル310に対しては、冷却フィン331を装着して冷却風FRにより冷却し、上側の端子311部分は、冷却フィン331とは熱的に絶縁した図示しない熱伝導経路を形成し、冷却風FRとは別の冷却風FRで冷却するようにする。すると、蓄電セル310の伝熱経路と端子部331の伝熱経路とは冷却フィン331や端子の伝熱経路の材料よりも熱伝導率の低い空気により隔てられることになり、端子311部から蓄電セル310部への熱流入を抑制し、蓄電セル310部の温度制御を容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0046】
1 蓄電モジュール、 2 モジュール容器(20:主構成材、21:蓄電部高熱伝導性部材、22:セル端子部高熱伝導性部材)、 4 バスバー、 5 モジュール端子(5P,5N)、 8 高熱伝導性絶縁充填剤、 、9:高熱伝導性弾性充填剤、
10 蓄電セル、 11:セル端子部(11P,11N)、 12 電極エレメント、
14 負極(14c 負極集電箔、14e 負極電極層)、 17 正極(17c 正極集電箔、17e 正極電極層)、 18:セパレータ、 19 外装体(19s シール部)
JT 接合部(JT:セル端子同士、JT:セル端子とバスバー)、
HG 発熱(HG:蓄電セル内発熱 HG:端子部発熱)
HT 伝熱(経路)(HT:蓄電セルからの伝熱経路(第1の伝熱経路)、HT:端子部からの伝熱経路(第2の伝熱経路))、
HR 放熱面(HR:蓄電セルからの放熱面(第1の放熱面)、HR:端子部からの放熱面(第2の放熱面))
百位の数字の違いは、実施の形態ごとの変形例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極とがセパレータを介して対峙した状態で所定の形態をなす電極エレメントが電解液とともに外装体の内部に密閉収納され、前記正極からの端子および前記負極からの端子がそれぞれ前記外装体の外部に引き出された複数の蓄電セルと、前記端子間の接合によって電気的に接合された前記複数の蓄電セルを収納する容器と、を備えた蓄電モジュールであって、
前記容器の外表面には第1の放熱面と第2の放熱面とが設けられ、
前記蓄電セルの外装体表面から前記第1の放熱面にかけて形成された第1の伝熱経路と、
前記端子間の接合部から前記第2の放熱面にかけて形成された第2の伝熱経路と、を有し、
前記第1の伝熱経路と前記第2の伝熱経路とは、前記容器内で前記第1の伝熱経路を形成する部材および前記第2の伝熱経路を形成する部材よりも熱伝導率の低い部材により隔てられていることを特徴とする蓄電モジュール。
【請求項2】
前記容器は、平板状の蓄電セルが当該蓄電セルの面の延在方向に配列できるように前記面の延在方向に沿った扁平形状をなし、
前記接合部は前記容器内に配列された蓄電セルに対して前記面の延在方向において異なる位置に形成され、
前記第1の放熱面および前記第2の放熱面は、それぞれ前記容器の扁平な面の延在方向における前記蓄電セルおよび前記接合部のそれぞれの位置に対応した領域に設けられ、
前記第1の伝熱経路は、前記外装体の表面のうち前記蓄電セルの厚み方向の両面からそれぞれ前記厚み方向に沿って当該蓄電セルに対応した第1の放熱面に向かって形成され、
前記第2の伝熱経路は、前記接合部から前記厚み方向に沿って当該接合部に対応した第2の放熱面に向かって形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の蓄電モジュール。
【請求項3】
前記容器の内と外とを隔てる壁材のうち、前記第1の放熱面および前記第2の放熱面が設けられた部分の壁材は、当該容器の主構成材料よりも熱伝導率の高い伝熱部材で構成されていることを特徴とする請求項2に記載の蓄電モジュール。
【請求項4】
前記伝熱部材は金属であり、前記第2の伝熱経路を構成する部材のうち、前記接合部と前記伝熱部材との間は、絶縁性の熱伝導性充填剤を充填して構成されていることを特徴とする請求項3に記載の蓄電モジュール。
【請求項5】
前記第1の放熱面上に冷媒を流した後に前記第2の放熱面上を流れるように制御する冷却機構を備えたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の蓄電モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−181574(P2011−181574A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41972(P2010−41972)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】