説明

薄膜の製造方法及びそれにより得られた薄膜

【課題】 膜厚の制御された三次元架橋高分子薄膜とその製造方法を提供する。
【解決手段】 基板を準備する工程、(A)反応性置換基を有するモノマーAを含むA溶液に基板を浸し,基板表面にモノマーAを反応させ固定する工程、(B)反応性置換基を有するモノマーBを含むB溶液に基板を浸し,基板表面にモノマーBを反応させ固定する工程を含む薄膜の製造方法であって、モノマーAの反応性置換基とモノマーBの反応性置換基はモノマーAとモノマーBが反応し共有結合を作る反応性置換基であり、かつ(A)工程及び(B)工程繰り返す薄膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
10nmから1μmの絶縁性薄膜はFETのゲート絶縁膜や高容量のコンデンサに用いられる。これらの用途では一般に無機材料が用いられており,熱酸化やCVDといった方法が用いられている。近年,有機FETのゲート絶縁膜やコンデンサに用いられる,10から300nmに膜厚制御され欠陥の無い有機の絶縁性薄膜の要求が高まっている。このような有機の超薄膜の成膜方法としては,Langmuir−Blodgett法,交互吸着法,気相重合法などが知られている。また、基板を二官能性低分子化合物の官能基と反応し得る官能基を側鎖に有するらせんポリマーの溶液に浸漬し、この二官能性低分子化合物の溶液への浸漬およびらせんポリマーの溶液への浸漬を繰り返す薄膜の製造方法が知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−49006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
Langmuir−Blodgett法は,液面に展開した単分子膜を基板に写し取っていく方法であり,清浄かつ動揺のない液面上から低速度で写し取る必要がある。このため,簡便さ大面積化,大量生産のうえで問題がある。交互吸着法は固体担体(基板)をそれと反対の電荷を有するポリマーイオンの溶液に逐次浸漬させることにより,該基板上にそれらのポリマーイオンが静電相互作用により吸着,積層して薄膜を形成するものである。交互吸着法では,その方法上必ず電荷を有するポリマーイオンを用いる必要があり,生成するポリマーはイオン性を有し絶縁材料として不十分である。さらに該基板上にポリマーが過剰に吸着し,膜厚の制御が困難であることも問題となる。
【0004】
気相重合法は減圧状態に置いた基板にモノマー蒸気を導き基板上で重合し該基板上にポリマー薄膜を作製する方法である。この方法では真空チャンバーを用いる必要があり,大面積への成膜性が困難,高コストであることが問題となる。本発明の目的は、膜厚の制御された三次元架橋高分子薄膜とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)基板を準備する工程、(A)反応性置換基を有するモノマーAを含むA溶液に基板を浸し,基板表面にモノマーAを反応させ固定する工程、(B)反応性置換基を有するモノマーBを含むB溶液に基板を浸し,基板表面にモノマーBを反応させ固定する工程を含む薄膜の製造方法であって、モノマーAの反応性置換基とモノマーBの反応性置換基はモノマーAとモノマーBが反応し共有結合を作る反応性置換基であり、かつ(A)工程及び(B)工程繰り返すことを特徴とする薄膜の製造方法。
(2)A溶液またはB溶液が触媒を含み、かつ(A)工程または(B)工程の前に洗浄工程を行う項(1)に記載の薄膜の製造方法。
(3)基板表面にモノマーAまたはモノマーBと反応する置換基を導入するための前処理工程を含む項(1)または(2)に記載の薄膜の製造方法。
(4)モノマーAの反応性置換基がSi−Hであり,かつモノマーBの反応性置換基がC=C,O−H,N−H,C=Oのいずれかである項(1)〜(3)いずれかに記載の薄膜の製造方法。
(5)触媒が、遷移金属錯体である項(2)〜(4)いずれかに記載の薄膜の製造方法。
(6)項(1)〜(5)いずれかに記載の薄膜の製造方法で製造された薄膜であって、薄膜が三次元架橋構造を有し、かつ薄膜の膜厚が1〜300nmであり、かつ薄膜の表面粗さ(Ra)が0.1から15nmである薄膜。
【発明の効果】
【0006】
膜厚の制御された三次元架橋高分子薄膜とその製造方法を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明では,モノマーA,モノマーBの二種類のモノマーを用いる。それぞれのモノマーの特徴は,モノマーAはモノマーBと反応し共有結合を作る反応性置換基を有しており、二つ以上有することが好ましい。またモノマーBはモノマーAと反応し共有結合を作る反応性置換基を有しており、二つ以上有することが好ましい。ただしモノマーAあるいはモノマーBの一分子に含まれる反応性置換基の数はどちらかあるいは両方が3以上であり,かつモノマーA同士,モノマーB同士の反応性置換基とは反応しないものを用いることがより好ましい。
【0008】
本発明は、例えばモノマーAと反応する置換基を有する基板をモノマーAを含むA溶液に浸漬し基板表面にモノマーAを固定し,次に,溶媒で基板を洗浄し物理吸着したモノマーA(固定したモノマーA以外)を洗い流し,次いでモノマーBを含むB溶液に浸漬してモノマーBをモノマーAと反応させ基板上に固定し,次に,溶媒で基板を洗浄し物理吸着したモノマーB(固定したモノマーB以外)を洗い流し,この2溶液への浸漬と洗浄を繰り返すことにより,モノマーAとモノマーBからなる薄膜の製造方法を提供する。
【0009】
さらに,本発明は上記のごとき方法によって製造され,モノマーA,モノマーBの三次元架橋構造からなり,浸漬回数により膜厚が制御できることを特徴とする薄膜を提供する。
【0010】
本発明は,例えば図1に示したように片方のモノマーと反応する置換基(−OH)を有する基板表面に他方としか反応しない二種類のモノマー溶液(A溶液とB溶液)に交互に浸漬し反応させて,浸漬回数により膜厚の制御された薄膜(三次元架橋薄膜)を得るものである。すなわち,本発明では交互吸着法のような静電的な相互作用により吸着させ積層させるのではなく,反応性の二種のモノマーを交互に反応させ共有結合を形成することにより薄膜を得る。従って本発明に用いる基板は、片方のモノマーと反応する置換基を基板表面に有することが、好ましい。よって例えば最初に基板をモノマーA含むA溶液に浸漬するのであれば、モノマーAの反応性置換基とのみ反応する置換基を基板表面に有することが、より好ましい。
【0011】
膜厚の制御の面から,例えばエポキシやイソシアナートのように同一のモノマー同士で反応が進行するものは好ましくなく,また,各反応の間に該基板に物理吸着したモノマー(固定したモノマー以外)を除く洗浄工程を行なうことが望ましい。膜の均一性の点から,溶液(A溶液とB溶液)への基板の浸漬過程では,活性の高い置換基の組み合わせ、あるいは触媒による活性化や加熱による反応の加速,あるいは十分な反応時間をとり,該基板上に未反応の領域が生じないようにすることが望ましい。従ってA溶液またはB溶液が触媒を含むことが好ましく、触媒は遷移金属錯体であることがより好ましい。また洗浄工程に用いる溶媒等は、物理吸着したモノマー(固定したモノマー以外)を除くことが可能であれば特に限定しないが、トルエン,メチルエチルケトン等が挙げられる。
【0012】
本発明において用いられるモノマー(モノマーAとモノマーB)は,それぞれ他方と反応し、なおかつ同一置換基同士では反応しない反応性置換基を2つ以上有する化合物で,少なくとも一方は置換基を3つ以上有しており,この二つのモノマーの反応により三次元架橋構造を形成できる組み合わせから選ばれることが好ましい。
【0013】
2種のモノマー(モノマーAとモノマーB)の反応性置換基以外の骨格は特に制約は無く,この骨格部分の構造を浸漬・反応のある段階で変えることにより,多層構造や傾斜構造の薄膜を得ることも可能である。本発明の好ましい反応性置換基の組み合わせとしては,C=CとSi−H,C≡CとSi−H,−OHとSi−H,−NHとSi−H,−CMgBrと−X,−CMgBrと−OMs,−CMgBrと−OTs,RLiと−X,RLiと−OMs,RLiと−OTsなどが挙げられる。なお前記のRは、アルキル基あるいはフェニル基で,好ましくは直鎖アルキル基である。Xは、F,Cl,Br,Iなどのハロゲンであり、好ましくはCl,Brである。Tsは、トシル基(p−トルエンスルホニル基)であり、Msはメシチル基(2,4,6−トリメチルフェニル基)である。また例えば最初に基板をモノマーA含むA溶液に浸漬するのであれば、モノマーAの反応性置換基がSi−Hであり,かつモノマーBの反応性置換基がC=C,O−H,N−H,C=Oのいずれかであるのが、より好ましい。
【0014】
基板表面があらかじめモノマー(モノマーAまたはモノマーB)と反応する置換基を有する場合には必ずしも前処理を必要としないが,例えば基板表面にモノマー(モノマーAまたはモノマーB)と反応する置換基を導入する処理としては,基板の洗浄後に,SAM(自己組織化膜、Self Assembled Monolayer),プライマー,カップリング剤による表面処理や,酸化剤,還元剤,酸,アルカリによる置換基の導入により行なうことが好ましい。例えば基板表面の置換基としては−OH,C=C,O−H,N−H,C=O、Si−H,C≡C,CMgBr,OMs,OTs,X,RLが挙げられる。
【0015】
本発明に用いる基板としては特に制限はないが、例えば金属,ガラス,セラミック,石英,ポリマーフィルム、スライドグラスなどが挙げられる。まず,例えば基板をモノマーAが反応しうる置換基を有するように表面処理した後,吸着した余分な処理剤を洗浄しモノマーAを含むA溶液に浸漬する。例えば,石英基板をアルカリである水酸化ナトリウム水溶液で煮沸し、表面にシラノールを導入した後,基板を純水で洗浄する。モノマーAとしてテトラメチルシクロテトラシロキサンを用い,テトラメチルシクロテトラシロキサンと遷移金属触媒を含むA溶液に基板を浸漬してテトラメチルシクロテトラシロキサンを基板と反応させた後,物理吸着したモノマーAと触媒を溶媒により洗浄する。遷移金属触媒に用いられる中心金属としては白金族が好ましく,より好ましくは白金触媒が良い。
【0016】
次に,モノマーBとしてトリビニルシクロヘキサンを用い,トリビニルシクロヘキサンと遷移金属触媒を含むB溶液に基板を浸漬して基板表面のヒドロシリル基とトリビニルシクロヘキサンを反応し固定する。その後,物理吸着したモノマーBと触媒を溶媒により洗浄する。
【0017】
更にこの基板をテトラメチルシクロテトラシロキサン(モノマーA)と遷移金属触媒を含むA溶液に浸し,基板上のC=Cとテトラメチルシクロテトラシロキサン(モノマーA)を反応させた後,基板を溶媒で洗浄する。その後,トリビニルシクロヘキサン(モノマーB)と遷移金属触媒の溶液に基板を浸漬して基板上のヒドロシリル基とトリビニルシクロヘキサンを反応させる。基板を溶媒で洗浄して基板上の未反応のモノマーや触媒を除く。例えばこのような,二種類のモノマー溶液での反応と洗浄操作を所望回数繰り返し行なうことにより,浸漬回数に依存した膜厚の薄膜(三次元架橋薄膜)が得られる。
【0018】
上記,反応操作を行なうための溶液用,洗浄用の溶媒は,それぞれモノマー及び触媒の溶解性及びモノマーとの反応性,触媒の活性への影響を考慮して適宜選ばれる。例えばトルエン,メチルエチルケトンなどが用いられる。
【0019】
本発明の薄膜は、前記の薄膜の製造方法で製造された薄膜であって、薄膜が三次元架橋構造を有し、かつ薄膜の膜厚が1〜300nmであり、かつ薄膜の表面粗さ(Ra)が0.1から15nmである。本発明の製造方法では,溶液(A溶液とB溶液)の浸漬回数により、ナノメートルオーダーでの薄膜の膜厚の制御が可能である。また,生成した薄膜は、三次元に架橋された構造を持ち,耐溶媒性,耐熱性,耐電圧性に優れた薄膜となりうる。また,骨格部分の化学種の変更により,図2に示したような,層構造や傾斜構造を有する薄膜を作製できる。
【0020】
本発明の薄膜は、ゲート絶縁膜,反射防止膜,気体や液体の分離膜,界面整合のための傾斜層,表面処理膜,さらには,用いる分子の機能に応じた機能性薄膜としての応用が期待できる。
【実施例】
【0021】
以下に本発明の特徴をさらに明らかにするため実施例を示すが,本発明はこの実施例により制限されるものではない。
(実施例1)
基板としてスライドグラス,モノマーAとして反応性置換基Si−Hを有するメチルヒドロシクロシロキサン(GELEST社製),モノマーBとして反応性置換基−OHを有するフェノール化合物のベスモールCZ−256−A(大日本インキ株式会社製、商品名),触媒として1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン白金(0)錯体(Aldrich社製)を用いた。
【0022】
基板は、40重量%水酸化ナトリウム水溶液で20℃,1時間浸漬したのち,純水(和光純薬工業製)に20℃5分さらした後,クリーンオーブンにて160℃60分乾燥し、基板表面にモノマーAと反応する置換基(−OH)を導入した。メチルヒドロシクロシロキサン溶液(A溶液)は、トルエン(インフィニティピュア,和光純薬工業製)で1mol/Lに希釈し,1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン白金(0)錯体を0.01重量%添加して調整した。使用前に孔径0.2μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)メンブレンフィルターによりろ過した。CZ−256−A溶液(B溶液)は、トルエンで1mol/Lに希釈し,1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン白金(0)錯体を0.01重量%添加して調整した。使用前に孔径0.2μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)メンブレンフィルターによりろ過した。
【0023】
(1)基板をメチルヒドロシクロシロキサン溶液(A溶液)に、25℃、20秒間浸漬した後,トルエン中に浸して洗浄した。
(2)(1)で処理した基板をCZ−256−A溶液(B溶液)に、25℃、20秒間浸漬した後,トルエン中に浸して洗浄した。
(3)上記(1)および(2)の操作を所定回数(100回)繰り返した後,クリーンオーブンにて105℃、20分乾燥して薄膜を得た。
【0024】
赤外スペクトルにより共有結合を有する薄膜(有機層)が出来ていることを確認した。また,AFM(原子間力顕微鏡)により膜厚を測定した。100回の繰り返しにより作製した薄膜の膜厚は30nmであった。また、薄膜の表面粗さ(Ra)は、11nmであった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明においてモノマーA,モノマーBを交互に反応して三次元に架橋した薄膜が調整される工程を例示する模式図である。
【図2】本発明のモノマー骨格を多層構造とした薄膜の模式図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を準備する工程、(A)反応性置換基を有するモノマーAを含むA溶液に基板を浸し,基板表面にモノマーAを反応させ固定する工程、(B)反応性置換基を有するモノマーBを含むB溶液に基板を浸し,基板表面にモノマーBを反応させ固定する工程を含む薄膜の製造方法であって、モノマーAの反応性置換基とモノマーBの反応性置換基はモノマーAとモノマーBが反応し共有結合を作る反応性置換基であり、かつ(A)工程及び(B)工程を繰り返すことを特徴とする薄膜の製造方法。
【請求項2】
A溶液またはB溶液が触媒を含み、かつ(A)工程または(B)工程の前に洗浄工程を行う請求項1に記載の薄膜の製造方法。
【請求項3】
基板表面にモノマーAまたはモノマーBと反応する置換基を導入するための前処理工程を含む請求項1または2に記載の薄膜の製造方法。
【請求項4】
モノマーAの反応性置換基がSi−Hであり,かつモノマーBの反応性置換基がC=C,O−H,N−H,C=Oのいずれかである請求項1〜3いずれかに記載の薄膜の製造方法。
【請求項5】
触媒が、遷移金属錯体である請求項2〜4いずれかに記載の薄膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載の薄膜の製造方法で製造された薄膜であって、薄膜が三次元架橋構造を有し、かつ薄膜の膜厚が1〜300nmであり、かつ薄膜の表面粗さ(Ra)が0.1から15nmである薄膜。





【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−307027(P2006−307027A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−131764(P2005−131764)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】